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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】地盤強化用締固め材の品質予測方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20240419BHJP
   G01N 11/00 20060101ALI20240419BHJP
   G01N 33/38 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
E02D3/12 102
G01N11/00 E
G01N33/38
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021051016
(22)【出願日】2021-03-25
(65)【公開番号】P2021169757
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2023-08-14
(31)【優先権主張番号】P 2020072088
(32)【優先日】2020-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物等による公開第73回セメント技術大会講演要旨2019、発行日:平成31年4月30日第73回セメント技術大会、開催日:令和元年5月8日~令和元年5月10日土木学会第74回年次学術講演会講演概要集、発行日:令和元年8月1日土木学会第74回年次学術講演会、開催日:令和元年9月3日~令和元年9月5日日本建築学会2019年度大会(北陸)学術講演梗概集、発行日:令和元年7月20日日本建築学会2019年度大会(北陸)、開催日:令和元年9月3日~令和元年9月6日画像ラボ2020年4月号、発行日:令和2年4月10日CEM’S、No.85、発行日:令和2年4月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早野 博幸
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-319866(JP,A)
【文献】特開2019-124650(JP,A)
【文献】特開2017-087716(JP,A)
【文献】実開平04-007351(JP,U)
【文献】特開2019-211247(JP,A)
【文献】特開2020-041290(JP,A)
【文献】特開2016-142532(JP,A)
【文献】特開昭59-154257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
G01N 11/00
G01N 33/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予測モデルを用いて、地盤強化用締固め材のまだ固まらない状態の品質を予測するための方法であって、上記予測モデルは、まだ固まらない状態の締固め材の画像データを含む学習用入力データとまだ固まらない状態の締固め材の品質に関する学習用出力データの組み合わせである学習データを複数用いた機械学習によって作成されたものであり、まだ固まらない状態の締固め材の画像データを含む予測用入力データを、上記予測モデルに入力し、上記予測モデルからまだ固まらない状態の締固め材の品質に関する予測用出力データを出力して、該予測用出力データを用いてまだ固まらない状態の締固め材の品質を予測することを特徴とする地盤強化用締固め材の品質予測方法。
【請求項2】
前記まだ固まらない状態の締固め材の画像データが、前記締固め材の材料を練り混ぜるためのミキサ内を、水または水が含まれている材料とそれ以外の締固め材の材料の練り混ぜについて撮影したものである請求項1に記載の地盤強化用締固め材の品質予測方法。
【請求項3】
前記まだ固まらない状態の締固め材の画像データが、前記締固め材の材料を練り混ぜるためのミキサ内を、水と水以外の締固め材の材料を練り混ぜている状態で、連続的に撮影した複数の画像の各々から得られる複数の画像データであって、上記複数の画像データの各々について、当該画像データを含む予測用入力データを前記予測モデルに入力し、前記予測モデルからまだ固まらない状態の締固め材の品質に関する予測用出力データを出力した後、出力された複数の予測用出力データの平均値を用いてまだ固まらない状態の締固め材の品質を予測する請求項1又は2に記載の地盤強化用締固め材の品質予測方法。
【請求項4】
前記まだ固まらない状態の締固め材の画像データが、前記ミキサ内を撮影した画像から、前記ミキサの回転軸に固着してなる撹拌羽根の近傍に位置するまだ固まらない締固め材が映りこむ可能性のある範囲を切り取ったものである請求項2又は3に記載の地盤強化用締固め材の品質予測方法。
【請求項5】
前記まだ固まらない状態の締固め材の画像データが、前記ミキサ内を撮影した画像から、前記ミキサの回転軸と該回転軸に固着してなる撹拌羽根からなる混練用部材の、以下の(1)~(3)の少なくともいずれか一つの部分についてその近傍に位置するまだ固まらない締固め材が映りこむ可能性のある範囲を切り取ったものである請求項2~4のいずれか1項に記載の地盤強化用締固め材の品質予測方法。
(1)上記回転軸の少なくとも一部分
(2)上記撹拌羽根の先端部分
(3)上記回転軸と上記撹拌羽根の固着部分
【請求項6】
前記まだ固まらない状態の締固め材の画像データが、前記締固め材の材料を練り混ぜるためのミキサ内で練り混ぜされた後に前記ミキサから排出されて地盤に圧入されるまでの間の前記締固め材について撮影したものである請求項1に記載の地盤強化用締固め材の品質予測方法。
【請求項7】
前記まだ固まらない状態の締固め材の画像データが、前記ミキサから排出されている締固め材、シュートを流れ落ちる締固め材、ホッパ内に滞留された締固め材、および配管内を移送される締め固め材のいずれか1つ以上について撮影したものである請求項6に記載の地盤強化用締固め材の品質予測方法。
【請求項8】
前記まだ固まらない状態の締固め材の画像データが、練り混ぜされた後に前記ミキサから排出されて地盤に圧入されるまでの間の前記締固め材について撮影した複数の画像の各々から得られる複数の画像データであって、上記複数の画像データの各々について、当該画像データを含む予測用入力データを前記予測モデルに入力し、前記予測モデルからまだ固まらない状態の締固め材の品質に関する予測用出力データを出力した後、出力された複数の予測用出力データの平均値を用いてまだ固まらない状態の締固め材の品質を予測する請求項6又は7に記載の地盤強化用締固め材の品質予測方法。
【請求項9】
前記学習用入力データ及び前記予測用入力データが、さらに、前記締固め材の材料の練り混ぜ時におけるミキサの電力負荷値に関するデータを含む請求項1~8のいずれか1項に記載の地盤強化用締固め材の品質予測方法。
【請求項10】
前記機械学習が、畳み込みニューラルネットワークを用いた学習である請求項1~9のいずれか1項に記載の地盤強化用締固め材の品質予測方法。
【請求項11】
前記学習用出力データ及び前記予測用出力データが、まだ固まらない締固め材のスランプ、スランプフロー、モルタルフローの少なくともいずれか一つに関するデータである、請求項1~10のいずれか1項に記載の地盤強化用締固め材の品質予測方法。
【請求項12】
前記学習用入力データ及び前記予測用入力データが、さらに、締固め材の配合条件に関するデータ、目標とする締固め材の品質に関するデータ、締固め材の材料である固化材またはセメントに関するデータ、固化材またはセメント以外の締固め材の材料に関するデータ、締固め材の練り混ぜの手段及び方法に関するデータ、締固め材の練り混ぜ時の環境に関するデータ、及び締固め材の運搬に関するデータの中から選ばれる1種以上のデータを含む請求項1~11のいずれか1項に記載の地盤強化用締固め材の品質予測方法。
【請求項13】
前記まだ固まらない状態の締固め材の画像データが、前記締固め材の材料の練り混ぜ時におけるミキサの電力負荷値の変化量が小さくなって安定した時点の後に撮影されたものである請求項1~12のいずれか1項に記載の地盤強化用締固め材の品質予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固化材またはセメント、骨材および水を混合してなる地盤強化用締固め材のフレッシュ性状についての機械学習を用いた品質予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤の液状化対策等の地盤強化工法として、スランプが5cm以下のきわめて流動性の低いモルタルを振動や衝撃を加えずに地盤中に圧入して、地盤内に均質な固結体を連続的に造成することによって、当該固結体による締固め効果で周辺地盤の密度を増大させて地盤を強化する静的圧入締固め工法等がある。
【0003】
静的圧入締固め工法に代表される地盤強化工法に用いる地盤強化用締固め材(以後、単に「締固め材」と称する場合がある)は、対象とする地盤の特性や目的とする改良地盤の品質に合わせて調整された配合に基づいて、ミキサ内で固化材またはセメント、骨材および水などを所定の時間練り混ぜることで製造される。
【0004】
ここで、締固め材の製造(混練)のほとんどが工事現場での移動式プラントでなされるために、締固め材の配合や練り混ぜ時間が同じであっても、骨材の表面水率や含水率等が外気温等で変動を生じ、製造されたまだ固まらない状態の締固め材の品質特性(以後、この品質特性を「フレッシュ性状」と称する場合がある)が安定しないという課題がある。このため、フレッシュ性状の汎用的な評価試験であるスランプ試験においては、良品範囲を大きく設定して対応している。
そして、この締固め材の配合の決定は、個々の工事現場環境に応じて、感覚と経験に基づいて現場作業者が個々に対応する必要があり、安定した品質の締固め材の提供には熟練作業員が求められる。
【0005】
上記締固め材と同様の、水硬性組成物と骨材を水で混練する技術であるコンクリートについては、熟練者ではなくてもコンクリートの品質管理を行うことが可能なシステムとして、例えば、特許文献1には、高流動コンクリートを混練中にミキサから発生する振動や音を計測する計測手段と、前記計測した振動や音をスペクトル解析するスペクトル解析手段と、前記スペクトル解析した結果から高流動コンクリートに関する品質を推定する品質推定手段と、を備えた高流動コンクリート品質管理システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-177115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、地盤強化用締固め材のまだ固まらない状態の品質について、熟練者に因らずとも短時間でかつ高い精度で予測することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、まだ固まらない状態の締固め材の画像データを含む入力データとまだ固まらない状態の締固め材の品質に関する出力データの組み合わせを複数用いた機械学習によって作成された予測モデルに、まだ固まらない状態の締固め材の画像データを含む入力データを入力して得られた出力データを用いて、まだ固まらない状態の締固め材の品質を予測する方法によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[12]を提供するものである。
[1]予測モデルを用いて、地盤強化用締固め材のまだ固まらない状態の品質を予測するための方法であって、上記予測モデルは、まだ固まらない状態の締固め材の画像データを含む学習用入力データとまだ固まらない状態の締固め材の品質に関する学習用出力データの組み合わせである学習データを複数用いた機械学習によって作成されたものであり、まだ固まらない状態の締固め材の画像データを含む予測用入力データを、上記予測モデルに入力し、上記予測モデルからまだ固まらない状態の締固め材の品質に関する予測用出力データを出力して、該予測用出力データを用いてまだ固まらない状態の締固め材の品質を予測することを特徴とする地盤強化用締固め材の品質予測方法。
[2]前記まだ固まらない状態の締固め材の画像データが、前記締固め材の材料を練り混ぜるためのミキサ内を、水または水が含まれている材料とそれ以外の締固め材の材料の練り混ぜについて撮影したものである前記[1]に記載の地盤強化用締固め材の品質予測方法。
[3]前記まだ固まらない状態の締固め材の画像データが、上記締固め材の材料を練り混ぜるためのミキサ内を、水と水以外の締固め材の材料を練り混ぜている状態で、連続的に撮影した複数の画像の各々から得られる複数の画像データであって、上記複数の画像データの各々について、当該画像データを含む予測用入力データを前記予測モデルに入力し、前記予測モデルからまだ固まらない状態の締固め材の品質に関する予測用出力データを出力した後、出力された複数の予測用出力データの平均値を用いてまだ固まらない状態の締固め材の品質を予測する前記[1]又は[2]に記載の地盤強化用締固め材の品質予測方法。
[4]前記まだ固まらない状態の締固め材の画像データが、前記ミキサ内を撮影した画像から、上記ミキサの回転軸に固着してなる撹拌羽根の近傍に位置するまだ固まらない締固め材が映りこむ可能性のある範囲を切り取ったものである前記[2]又は[3]に記載の地盤強化用締固め材の品質予測方法。
[5]上記まだ固まらない状態の締固め材の画像データが、上記ミキサ内を撮影した画像から、前記ミキサの回転軸と該回転軸に固着してなる撹拌羽根からなる混練用部材の、以下の(1)~(3)の少なくともいずれか一つの部分についてその近傍に位置するまだ固まらない締固め材が映りこむ可能性のある範囲を切り取ったものである前記[2]~[4]のいずれかに記載の地盤強化用締固め材の品質予測方法。
(1)上記回転軸の少なくとも一部分
(2)上記撹拌羽根の先端部分
(3)上記回転軸と上記撹拌羽根の固着部分
【0009】
[6]前記まだ固まらない状態の締固め材の画像データが、練り混ぜされた後に前記ミキサから排出されて地盤に圧入されるまでの間の前記締固め材について撮影したものである前記[1]に記載の地盤強化用締固め材の品質予測方法。
[7]前記まだ固まらない状態の締固め材の画像データが、前記ミキサから排出されている締固め材、シュートを流れ落ちる締固め材、ホッパ内に滞留された締固め材、および配管内を移送される締め固め材のいずれか1つ以上について撮影したものである前記[6]に記載の地盤強化用締固め材の品質予測方法。
[8]前記まだ固まらない状態の締固め材の画像データが、練り混ぜされた後に前記ミキサから排出されて地盤に圧入されるまでの間の前記締固め材について撮影した複数の画像の各々から得られる複数の画像データであって、上記複数の画像データの各々について、当該画像データを含む予測用入力データを前記予測モデルに入力し、前記予測モデルからまだ固まらない状態の締固め材の品質に関する予測用出力データを出力した後、出力された複数の予測用出力データの平均値を用いてまだ固まらない状態の締固め材の品質を予測する前記[6]又は[7]に記載の地盤強化用締固め材の品質予測方法。
【0010】
[9]前記学習用入力データ及び前記予測用入力データが、さらに、前記締固め材の材料の練り混ぜ時における前記ミキサの電力負荷値に関するデータを含む前記[1]~[8]のいずれかに記載の地盤強化用締固め材の品質予測方法。
【0011】
[10]前記機械学習が、畳み込みニューラルネットワークを用いた学習である前記[1]~[9]のいずれかに記載の地盤強化用締固め材の品質予測方法。
[11]前記学習用出力データ及び前記予測用出力データが、まだ固まらない締固め材のスランプ、スランプフロー、モルタルフローの少なくともいずれか一つに関するデータである、前記[1]~[10]のいずれかに記載の地盤強化用締固め材の品質予測方法。
[12]前記学習用入力データ及び前記予測用入力データが、さらに、締固め材の配合条件に関するデータ、目標とする締固め材の品質に関するデータ、締固め材の材料である固化材またはセメントに関するデータ、固化材またはセメント以外の締固め材の材料に関するデータ、締固め材の練り混ぜの手段及び方法に関するデータ、締固め材の練り混ぜ時の環境に関するデータ、及び締固め材の運搬に関するデータの中から選ばれる1種以上のデータを含む前記[1]~[11]のいずれか1項に記載の地盤強化用締固め材の品質予測方法。
[13]前記まだ固まらない状態の締固め材の画像データが、前記締固め材の材料の練り混ぜ時におけるミキサの電力負荷値の変化量が小さくなって安定した時点の後に撮影されたものである前記[1]~[12]のいずれか1項に記載の地盤強化用締固め材の品質予測方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の地盤強化用締固め材の品質予測方法を用いれば、短時間でかつ高い精度でまだ固まらない地盤強化用締固め材の品質を予測することができ、目的とする品質の地盤強化用締固め材を熟練者に因らずとも効率的かつ安定的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の地盤強化用締固め材の品質予測方法は、予測モデルを用いて、まだ固まらない締固め材の品質を予測するための方法であって、予測モデルは、まだ固まらない状態の締固め材の画像データを含む学習用入力データとまだ固まらない締固め材の品質に関する学習用出力データの組み合わせである学習データを複数用いた機械学習によって作成されたものであり、まだ固まらない状態の締固め材の画像データを含む予測用入力データを予測モデルに入力し、予測モデルからまだ固まらない締固め材の品質に関する予測用出力データを出力して、該予測用出力データを用いて地盤強化用締固め材の品質を予測するものである。
以下、詳しく説明する。
【0014】
予測モデルは、機械学習によって作成されたものである。
機械学習に用いられる学習方法の例としては、ニューラルネットワーク、線形回帰、決定木、サポートベクター回帰、アンサンブル法、サポートベクターマシン、判別分析、単純ベイズ法、最近傍法等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、より高い精度で品質を予測することができる観点から、ニューラルネットワークが好ましい。
【0015】
ニューラルネットワークは、より高い精度で品質を予測することができる観点から、入力層と出力層の間に一つ以上の中間層を有する階層型のニューラルネットワークが好適である。
【0016】
ニューラルネットワークの例としては、2および3次元畳み込みニューラルネットワーク(2、3DCNN:2D、3DConvolutional Neural Network)等の畳み込みニューラルネットワーク(CNN:ConvolutionalNeuralNetwork)や、再帰型ニューラルネットワーク(RNN:Recurrent Neural Network)や、長期・短期記憶(LSTM:LongShort-Termmemory)ニューラルネットワーク(LSTMを用いて再帰型ニューラルネットワークを改良したもの)等が挙げられる。中でも、画像認識の分野において優れた性能を有する、畳み込みニューラルネットワーク(中間層として、畳み込み層やプーリング層等を有するニューラルネットワーク)がより好適である。畳み込みニューラルネットワークによれば、画像データから特徴量を検出し、該特徴量を用いて、分類または回帰を行うことが可能な予測モデルを作成することができる。
【0017】
畳み込みニューラルネットワークにおける、畳み込み層とプーリング層の組み合わせからなる層の数は、より高い精度で予測をすることができる観点から、好ましくは2つ以上、より好ましくは3つ以上である。
【0018】
機械学習は、例えば、Google社が開発したソフトウェアライブラリである「TensorFlow」(「TENSORFLOW」は、登録商標である。)や、IBM社が開発したシステムである「IBMWatson」(「IBM WATSON」は、登録商標である。)等を用いて行うことができる。
【0019】
予測モデルは、画像データを含む学習用入力データとまだ固まらない締固め材の品質に関する学習用出力データの組み合わせである学習データを複数用いた機械学習によって作成される。
【0020】
学習用入力データとして用いられる画像データとしては、まだ固まらない状態の締固め材に関する画像データが挙げられる。具体的には、締固め材の材料を練り混ぜるためのミキサ(以下、単に「ミキサ」とも称する場合がある。)内で各材料を練り混ぜる様子を撮影した画像データや、ミキサ内で各材料を練り混ぜて締固め材を得た後、該まだ固まらない状態の締固め材をミキサからホッパに投入する様子を撮影した画像データや、まだ固まらない状態の締固め材をポンプ圧送機器へ搬送する(流し込む)ときの画像データや、トラックアジテータのドラム内で攪拌されているまだ固まらない状態の締固め材の様子を撮影した画像データ(例えば、トラックアジテータの締固め材投入口付近からライト等を用いて光を当てて、ドラム内を撮影したもの)、締固め材の材料の練り混ぜ時におけるミキサの電力負荷値の履歴を表示しているモニタ(電力負荷値の経時変化等のグラフ等を用いて視覚的にわかるように表示したもの)を撮影した画像データ等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
ミキサの練り混ぜ方法は、バッチ式、連続式どちらでもよい。
中でも、より高い精度で品質を予測することができる観点から、ミキサ内で各材料を練り混ぜる様子を撮影した画像データが好ましい。該画像データは、各材料の練り混ぜ直後から練り混ぜ終了時までのどの時点の画像データでもよいが、早期に品質を予測する観点から、電力負荷値の減少の程度が緩やかになったときに撮影したものが好ましい。
【0022】
学習用入力データとして用いられる画像データの数は、より高い精度で品質を予測することができる観点から、好ましくは100以上、より好ましくは1,000以上、さらに好ましくは1万以上、さらに好ましくは5万以上、特に好ましくは10万以上である。
画像データは、動画像のデータであっても静止画像のデータであってもよい。また、画像は2次元画像であってもよく3次元画像であってもよい。
【0023】
画像データの撮影は、ミキサ内やミキサ周辺等に適宜設置されたカメラによって行ってもよい。例えば、ミキサ内の上部に、練り混ぜられている各材料が良く映るように、カメラを設置する。
また、練り混ぜられている各材料の凹凸が良く見えるようにする目的で、練り混ぜられている各材料の側面あるいは斜め上方からライト等を用いて光を当てて、影がより濃く生じるようにしてもよい。
【0024】
ミキサ内の画像データの撮影は、より高い精度で品質を予測することができる観点から、ミキサ内において回転している撹拌羽根(ミキサ羽根)が、ミキサ内の任意に定めた特定の場所に位置した際に行うことが好ましい。任意に定めた特定の場所は、一か所であっても二か所以上であってもよい。
【0025】
ミキサ内の画像データは、ミキサ内を撮影した画像(例えば、ミキサ内の全体が映るように撮影されたもの)から、特定の範囲の画像を切り出したものであってもよい。
上記特定の範囲として、例えば、より高い精度で予測をすることができる観点からは、練り混ぜ時の材料の挙動が表れやすい部分を含む範囲が挙げられる。
上記範囲の例として、ミキサの回転軸に固着してなる撹拌羽根の近傍に位置する締固め材の材料が映りこむ範囲が挙げられる。この範囲は、締固め材の材料を練り混ぜる際の画像(経時的に連続する複数の静止画像または動画像)に映りこむ締固め材の材料の表面の動き(変化)が大きい。
【0026】
また、締固め材の材料の練り混ぜ量が多い場合等において、画像に映りこむ締固め材の材料の表面の動きが大きい画像データを得る観点からは、回転時の撹拌羽根が表面側に回ったときに切り出されたものが好適である。
【0027】
さらに、材料の挙動が表れやすい部分が映りこむ範囲の例としては、ミキサの回転軸と回転軸に固着してなる撹拌羽根からなる混練用部材の、以下の(1)~(3)の少なくともいずれか一つの部分についてその近傍に位置する締固め材の材料が映りこむ可能性のある範囲が挙げられる。
(1)回転軸の少なくとも一部分
(2)撹拌羽根の先端部分
(3)回転軸と撹拌羽根の固着部分
なお、撹拌羽根が複数ある場合は、少なくとも1つの攪拌羽根の、上記先端部分及び上記固着部分が映りこめばよい。
また、上記ミキサが二軸ミキサである場合、一方の回転軸と他方の回転軸の間であって、両方の回転軸の一部分の近傍に位置する締固め材の材料が映りこむ可能性のある範囲が好ましい。
【0028】
ミキサ内を撮影した画像から、特定の範囲の画像データを学習用入力データとして切り出す場合において、ミキサ内を撮影した一つの画像から複数の画像データを切り出してもよい。そして、複数の画像データは、その切り出された範囲が、各々、一部重複したものであってもよく、例えば、最初に画像データを切り出した位置を基準として、縦方向及び横方向の少なくとも一つの方向に1~10ピクセル単位ずらした位置から、別の画像データを切り出してもよい。
【0029】
ミキサ内を撮影した画像は、畳み込みニューラルネットワークなどの機械学習により適した画像データにする観点から、1ピクセルを0から255の256階調の数値で表すグレースケール画像、または、1ピクセルをR(赤)G(緑)、B(青)をそれぞれ0から255の256階調の数値で表すカラー画像に変換してもよい。
【0030】
撮影された二つ以上の画像データから任意に選択された二つの画像データから得られる差分データを、学習用入力データとして用いられる画像データとして用いてもよい。例えば、ミキサ内の任意に定めた二か所の場所にミキサ羽根が位置した際に撮影された二つの画像データの差分データを、学習用入力データとして用いられる画像データとして用いてもよい。なお、本明細書中、差分データとは、二つの画像データを比較して、異なる部分のみを抽出した画像データをいう。
【0031】
また、経時的に連続する複数の静止画像を重ね合わせて合成したものを画像データとして用いてもよい。このような画像データは、例えば、市販の画像ソフトを用いて、複数の静止画像の各々の不透明度または透明度を30~70%程度にしたうえで、重ね合わせることで得ることができる。重ね合わせる静止画像の枚数は、作業の効率性等の観点から、好ましくは2~20枚である。
【0032】
次に、学習用入力データとして用いられる画像データとして挙げられた、ミキサ内で各材料を練り混ぜて締固め材を得た後、該まだ固まらない状態の締固め材をミキサからホッパに投入する様子を撮影した画像データや、まだ固まらない状態の締固め材をポンプ圧送機器へ搬送する(流し込む)ときの画像データについて説明する。
【0033】
締固め材の製造(混練)のほとんどが工事現場での移動式プラントでなされるが、その移動式プラントの基本的な設備構成は、固化材またはセメント用ホッパ、骨材ホッパ、水容器、締固め材の材料を各ホッパまたは容器からミキサに搬送するための搬送設備および送水ポンプ、ミキサ、混練後の締固め材を収容するホッパ、かかる締固め材収容ホッパに混練後の締固め材を搬送するためのシュートまたは搬送設備、上記締固め材収容ホッパから圧入用注入管にまだ固まらない状態の締固め材を圧送するための圧送管および締固め材用ポンプ、ならびに流量圧力監視装置からなる。
【0034】
混練後のまだ固まらない状態の締固め材は、前記設備間を搬送されることになるが、その搬送状態には搬送されている当該締固め材が有するフレッシュ性状が大きく影響している。したがって、練り混ぜされた後に前記ミキサから排出されて地盤に圧入されるまでの間の前記まだ固まらない状態の締固め材について撮影した画像データは、学習用入力データとして用いられる画像データに有効に用いることができる。
【0035】
具体的には、前記ミキサから排出されている時点のまだ固まらない状態の締固め材を撮影した画像データ、シュートを流れ落ちている時点の上記締固め材を撮影した画像データ、ホッパ内に滞留されている時点の上記締固め材を撮影した画像データ、および配管内を移送されている時点の上記締固め材を撮影した画像データのうちの少なくともいずれか1つ以上の画像データを用いればよい。これら画像データは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
より高い精度で品質を予測することができる観点から、学習用入力データとして、さらに、練り混ぜ時におけるミキサの電力負荷値(以下、単に「電力負荷値」とも称する場合がある。)に関するデータを用いてもよい。
電力負荷値に関するデータの例としては、各材料の練り混ぜ直後から練り混ぜ終了時までの特定の時点における電力負荷値及びその絶対値や、練り混ぜ時における電力負荷値の最大値または最小値や、電力負荷値の変化量や、電力負荷値の変化パターン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、電力負荷値に関するデータの数は1つであってもよいが、より高い精度で品質を予測することができる観点から、好ましくは2以上、より好ましくは5以上である。
【0037】
また、電力負荷値に関するデータに基づいて、学習用入力データとして使用する画像データを定めてもよい。例えば、より高い精度でかつ早い段階で品質を予測することができる観点からは、水と水以外の締固め材の材料の練り混ぜを開始して、ミキサの電力負荷値の変化量が小さくなって安定した時点の後に撮影した画像データを用いることが好ましい。
【0038】
締固め材の材料の練り混ぜにおいて、ミキサの電力負荷値が安定する時期の判断は、締固め材の水/(固化材・セメント)比等によっても異なるが、例えば、以下の(1)~(3)のいずれかの条件を満たした後であれば、ミキサの電力負荷値が安定したと判断してもよい。
(1)電力負荷値が、練り混ぜ終了時の電力負荷値から±20%程度の値となった後
(2)締固め材の水/(固化材・セメント)比が250~400%程度であれば、水と水以外の締固め材の材料の練り混ぜの開始時(例えば、水以外の締固め材の材料をミキサ内に投入して空練りした後、ミキサに水を投入して練り混ぜを開始した時)から、30秒間程度経過した後
(3)強度発現性の観点から水/(固化材・セメント)比を小さく(250%未満に)した場合、水と水以外の締固め材の材料の混練の開始時から1~10分間程度経過した後
【0039】
また、電力負荷値に関するデータに基づいて、二つ以上の画像データを撮影し、撮影された二つ以上の画像データから任意に選択された二つの画像データから得られる差分データを、学習用入力データとして用いられる画像データとして用いてもよい。具体的には、例えば、電力負荷値が安定した時点から、任意の時間の連続的な撮影を行い、得られた複数の画像データから任意に選択された二つの画像データから得られる差分データを画像データとして用いる。
【0040】
また、より高い精度で品質を予測する観点から、学習用入力データとして、さらに他のデータを用いてもよい。
他のデータとしては、締固め材の配合条件に関するデータ、目的とするまだ固まらない状態の締固め材の品質に関するデータ、締固め材の材料である固化材またはセメントに関するデータ、固化材またはセメント以外の締固め材の材料に関するデータ、締固め材の練り混ぜの手段及び方法に関するデータ、締固め材の練り混ぜ時の環境に関するデータ、及び締固め材の運搬に関するデータ等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいが、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの各種データには、数値に関するデータ、及び、分類に関するデータが含まれる。
【0041】
ここで、本明細書中、数値に関するデータとは、具体的な数値として表すことのできるデータを意味し、分類に関するデータとは、特定の配合設計や、特定の種類や、特定の性質や、特定の数値範囲等の基準に従って区分されたデータを意味している。
【0042】
地盤改良材の配合条件に関するデータの例としては、締固め材に配合される、固化材、セメント、骨材、水、各種混和剤(減水剤、AE減水剤、流動化剤、凝結遅延剤等)、及び配合割合(例えば、固化材またはセメント100質量%に対する混和剤の量(質量%))や、水/(固化材・セメント)比、単位水量、単位固化材量、単位セメント量、単位骨材量、および単位混和剤量等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
目的とするまだ固まらない状態の締固め材の品質に関するデータの例としては、目的とするまだ固まらない状態の締固め材の設計上の、スランプやスランプフロー、モルタルフロー等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
スランプフローは、「JIS A 1150:2007(コンクリートのスランプフロー試験方法)」に準拠する方法で計測された値としてもよい。
モルタルフローは、「JIS R 5201:2015(セメントの物理試験方法)」に準拠する方法で計測された値としてもよい。
【0044】
固化材またはセメントに関するデータの例としては、種類、化学組成、鉱物組成、フリーライム量、強熱減量、ブレーン比表面積、粒度分布や、含まれる各種セメントクリンカ鉱物等の結晶学的性質や、含まれる石膏の半水化率等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
骨材に関するデータの例としては、種類、密度、吸水率、含水率、表面水率、粒度分布、最大寸法、及び粒形等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
混和剤に関するデータの例としては、種類が挙げられる。
【0047】
練り混ぜの手段及び方法に関するデータの例としては、ミキサの種類、形式、容量や、材料の練り混ぜ量や、練り混ぜ時間等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
練り混ぜ時の環境に関するデータの例としては、温度(外気温、ミキサ内の温度、まだ固まらない状態の締固め材の温度)や、練り混ぜ水、固化材またはセメント、骨材等の使用材料の温度や、保管する場所や容器内の温度及び湿度等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
締固め材の運搬に関するデータの例としては、トラックアジテータのドラム内の電力負荷値、運搬時の外気温度や、運搬時間、運搬距離等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
まだ固まらない状態の締固め材の品質に関する学習用出力データの例としては、ミキサによる練り混ぜ直後の、スランプ、スランプフロー、モルタルフロー、締固め材を構成する各材料の分離状況、流動性、レオロジーに関する値(塑性粘度、降伏値など)等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
本発明における機械学習は、画像データを含む学習用入力データとまだ固まらない状態の締固め材の品質に関する学習用出力データの組み合わせである学習データを複数用いて、機械学習の従来知られている一般的な方法に従って行われる。
なお、学習データとして用いられる学習用入力データ及び学習用出力データは、実際に学習データ用のサンプルとして、締固め材を製造した際に得られる画像や実測値等のデータである。
学習データ用のサンプルの数は、必要とされる学習用入力データ及び学習用出力データの種類によっても異なるが、より高い精度で品質を予測することができる観点から、好ましくは4以上、より好ましくは6以上、特に好ましくは8以上である。
【0052】
一つのサンプルから得られる画像データの数は、より高い精度で品質を予測することができる観点から、好ましくは1,000枚以上、より好ましくは2,000枚以上、特に好ましくは2,500枚以上である。
また、学習回数は、より高い精度で品質を予測することができる観点から、好ましくは1,000回以上、より好ましくは8,000回以上、特に好ましくは1万回以上である。一回の学習において、サンプルから得られた学習データの全てを使用する必要はなく、全ての学習データから選択された複数の学習データを使用してもよい。
そして、一回の学習で使用される学習データの選択は、特に限定されるものではなく、特定の条件(例えば、撮影した順序)によって並べられた学習データを上から順番に選択してもよく、ランダムに選択してもよい。また、学習データ用のサンプルが複数ある場合には、各サンプルの学習データが少なくとも一つ入るように選択してもよい。
また、本明細書中、「機械学習」とは、人間による思考を介さずに、コンピュータ等の機械のみによって学習するこという。
【0053】
また、学習用入力データと学習用出力データの組み合わせである学習データの一部については、機械学習において用いずに、機械学習によって作成された予測モデルの信頼性を確認するためのテストデータとして用いてもよい。
【0054】
機械学習によって作成された予測モデルに、画像データを含む予測用入力データを入力し、予測モデルからまだ固まらない状態の締固め材の品質に関する予測用出力データを出力した後、該予測用出力データを用いてまだ固まらない状態の締固め材の品質を予測することができる。
【0055】
より高い精度で品質を予測することができる観点から、予測用入力データとして、さらに、練り混ぜ時におけるミキサの電力負荷値に関するデータ、締固め材の配合条件に関するデータ、目的とする締固め材の品質に関するデータ、固化材またはセメントに関するデータ、固化材またはセメント以外の締固め材の材料に関するデータ、練り混ぜの手段及び方法に関するデータ、練り混ぜ時の環境に関するデータ、及び締固め材の運搬に関するデータ等を用いてもよい。これらは1種を単独で用いてもよいが、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのデータは、締固め材の製造において、リアルタイムに得られるデータである。
【0056】
予測用入力データとして用いられる画像データ等の詳細は、上述した学習用入力データ
として用いられる画像データ等と同じである。また、まだ固まらない状態の締固め材の品質に関する予測用出力データの詳細は、上述したまだ固まらない状態の締固め材の品質に関する学習用出力データと同じである。
【0057】
本発明の地盤強化用締固め材の品質予測方法によれば、締固め材の製造において、予め作成した予測モデルに、製造中の締固め材の画像データ等を入力することで、得られるまだ固まらない状態の締固め材の品質を、熟練者に因らずに高い精度で迅速に予測することができる。
まだ固まらない状態の締固め材の品質の予測は、製造時に取得された複数の画像データ毎に行われるので、複数の画像データから、複数の出力データ(例えば、スランプ等の予測値)を得ることができる。また、得られた複数の出力データから算出された平均値を、予測用出力データとしてもよい。
【0058】
例えば、学習用入力データとして用いられる画像データが、締固め材の材料を練り混ぜるためのミキサ内を、水と水以外の締固め材の材料を練り混ぜている状態で、連続的に撮影した複数の画像の各々から得られる、複数の画像データであり、上記複数の画像データの各々について、画像データを含む予測用入力データを、予測モデルに入力し、予測モデルからまだ固まらない状態の締固め材の品質に関する予測用出力データを出力した後、出力された複数の予測用出力データの移動平均値を用いてまだ固まらない状態の締固め材の品質を予測してもよい。
【0059】
移動平均値は、連続的に撮影した複数の画像の各々から得られる、複数の画像データを用いて得られた全ての予測用出力データの平均値であってもよく、連続的に撮影した複数の画像の各々から得られる複数の画像データのうち、まだ固まらない状態の締固め材の品質の予測を行う時から直近に得られた任意の数の画像データを用いて得られた、複数の予測用出力データの平均値であってもよい。
【0060】
また、練り混ぜ中に連続的に撮影することで得られた複数の画像データの各々について予測値を出力した場合等において、得られた複数の出力データのうち、明らかに他の出力データと異なる出力データが得られた場合は該データを予測用出力データから排除してもよい。
得られた出力データを予測用出力データから排除する方法の例としては、データ集合の標準偏差σを算出し、そのデータ集合の平均値から±σまたは±2σである数値範囲から外れる出力データを明らかに他の出力データと異なる出力データと判断して、排除する方法等が挙げられる。
得られるまだ固まらない状態の締固め材の品質が、目的とするまだ固まらない状態の締固め材の品質を満たさないと予測される場合には、締固め材の製造条件を変える等の対応を適宜行うことによって、効率的かつ安定的に締固め材を製造することができる。
【0061】
例えば、予測モデルから得られたスランプの予測値がスランプの目標値と大きく異なる場合には、締固め材の材料として使用した、固化材またはセメント、骨材、混和剤等の品質の異常や、これらの材料の計量値が誤っていた可能性が考えられるため、直ちに製造工程を見直す必要がある。また、骨材の表面水率や含水率等の設定値が実際の値と異なることが想定される場合には、ミキサから排出される前に算出した補正値に基づいて適切な量の追加の水をミキサ内に注水することもできる。
また、定期的にスランプの予測を行って得られたスランプの予測値が、目標値と少しずつずれていく場合には、骨材の表面水率や含水率の変動が考えられるため、例えば、骨材表面水の設定値を見直す等の対応を行えばよい。
【0062】
また、締固め材の製造を制御するコンピュータと、本発明の地盤強化用締固め材の品質予測方法を実施するために用いられるコンピュータを連携することによって、制御システムの自動化を図ることができる。例えば、まだ固まらない状態の締固め材のスランプの予測値と目標値の差の変動から、骨材表面水の設定を自動制御で行う方法が挙げられる。
さらに、複数の工事現場における締固め材の製造における各種データを、インターネットを用いて一か所の管理拠点において本発明の地盤強化用締固め材の品質予測方法を用いてリアルタイムで集中管理、集中制御してもよい。
また、実際の静的圧入締固め工事において締固め材を製造する際に、本発明の地盤強化用締固め材の品質予測方法を用いてまだ固まらない状態の締固め材の品質を予測する場合、リアルタイムの画像を用いて予測してもよい。具体的には、カメラとコンピュータを接続し、締固め材製造中の練り混ぜ画像をリアルタイムで抽出しながら、予め作成した学習モデルを組み込んだコンピュータでリアルタイムに予測する方法等が挙げられる。
また、実際の静的圧入締固め工事において締固め材を製造する際に得られた、締固め材の練り混ぜ画像を学習用入力データとし、練り混ぜ後に測定したスランプ等を学習用出力データとし、上記学習用入力データと学習用出力データの組み合わせである学習データを用いて、予め作成した学習モデルを、随時、再学習させて、最新の学習モデルを得ることによって、予測値の精度をより高めることができる。
本明細書の地盤強化用締固め材の品質予測方法は、1又は複数のプロセッサが実行する方法である、としてもよい。
また、本明細書の地盤強化用締固め材の品質予測方法を構成する各ステップを実行する1又は複数のプロセッサを備えた、地盤強化用締固め材の品質予測システム(装置)を採用してもよい。
また、本明細書の地盤強化用締固め材の品質予測方法を構成する各ステップを、1又は複数のプロセッサに実行させるプログラムを採用してもよい。
【実施例
【0063】
以下、実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施し得る。
【0064】
[実施例1]
はじめに、学習用入力データと学習用出力データを採取する。
表1に示す10配合で、セメント(太平洋セメント株式会社製高炉セメントB種)と骨材を二軸ミキサに投入して空練りした後、水とAE減水剤(BASF社製ポゾリスNo.70)を投入して90秒間練り混ぜて、モルタル状の締固め材を作製した。
なお、詳しくは、表1には同一の配合が2つずつある、5配合が示されている。これは、工事現場での移動プラントでは製造環境が一定しないために、材料のキャラクター、特に骨材の表面水率等には容易に変化が生じてしまう。このために、締固め材の配合がまったく同じでも、まだ固まらない状態の締固め材の品質が安定しない場合が生じる。
そこで、かかる品質のばらつきをも学習データ内に取り込むために、使用後は無管理状態とした骨材を用いて、1時間以上の間隔を空けて同一配合を繰り返した。
【0065】
練り混ぜ後、まだ固まらない状態の締固め材をミキサ排出口から連結させたシュート(幅30cm×150cm)上を流して練り舟に排出した後、JIS A 1101:2020「コンクリートのスランプ試験方法」に準拠してスランプを測定した。スランプの測定結果を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
全10配合について、二軸ミキサの上方および二軸ミキサの排出口に連結したシュートの上方にビデオカメラを設置し、各配合の締固め材を練り混ぜる様子とシュート上を流れる様子の動画像を撮影した。
具体的には、練り混ぜる様子については、締固め材を二軸ミキサから排出する10秒前の混練時から混練を継続しながら排出するまでの10秒間を撮影した。この撮影により、動画像の一秒あたりのフレーム数30から、二軸ミキサの内部全体が映っている300(30×10)枚の静止画像を得た。得られた各静止画像から、二軸ミキサ内の回転軸に固着してなる撹拌羽根の近傍に位置する範囲の画像データ(512×512ピクセル)を切り出した。
なお、上記範囲は、動画像の確認から、画像に映りこむ締固め材の動きが大きいと判断された箇所である。
【0068】
また、上記画像データを切り出した位置を基準として、縦方向(上下の方向)及び横方向(左右の方向)に5ピクセル単位でずらしながら512×512ピクセルの画像データを合計で24枚切り出した。すなわち、1つの静止画像から25枚の画像データを切り出し、1配合について7,500(30×10×25)枚、全10配合では75,000(7,500×10)枚の画像データを収集した。なお、これらの画像データの全ては、二軸ミキサ内の回転軸に固着してなる撹拌羽根の近傍の画像データであって、画像に映りこむ締固め材の動きが大きいと判断された箇所の画像である。
【0069】
次いで、得られた全75,000枚の画像データを64×64ピクセルの画像サイズに縮小し、各1ピクセルを256階調に変換したグレースケール画像に変換して学習用入力データとした。
【0070】
学習用入力データとしての上記画像データと、学習用出力データとしての表1のスランプの組み合わせからなる学習データを使用して、予測モデルの機械学習を行って予測モデルを得た。
具体的には、機械学習にはTensorFlowによる7層の畳み込みニューラルネットワークを、誤差関数には最小二乗法を採用して、一回の学習で入力される学習用入力データとしての画像データ数は任意に選択された50枚とした50万回の学習回数を行って、予測モデルを作成した。
【0071】
次に、得られた予想モデルの精度を検証するための検証データを採取する。
検証データ用として、表2の10配合を準備した。
学習用データの採取と同様にして、各配合で300枚の静止画像を得た後に、二軸ミキサ内の回転軸に固着してなる撹拌羽根の近傍に位置する範囲の画像データ(512×512ピクセル)を切り出した。
これら画像データについて、切り出した位置を基準として、縦方向(上下の方向)及び横方向(左右の方向)に10ピクセル単位でずらしながら512×512ピクセルの画像データを合計で8枚切り出した。すなわち、1つの静止画像から合計で9枚の画像データを切り出し、1配合につき2,700(30×10×9)枚の画像データを得た。なお、得られた画像データは、以下に示す前記(1)~(3)のいずれか一つの部分に関する画像データであった。
(1)回転軸の少なくとも一部分
(2)撹拌羽根の先端部分
(3)回転軸と撹拌羽根の固着部分
【0072】
【表2】
【0073】
次いで、学習用データの処理と同様に、得られた全27,000枚の画像データを64×64ピクセルの画像サイズに縮小し、各1ピクセルを256階調に変換したグレースケール画像に変換して検証用データとした。
【0074】
得られた検証用データを前記予測モデルに入力して、スランプの予測値を出力させた。
その結果、得られたスランプの予測値が、表2に示す実測値の±0.5cm以内であった割合は87%であり、実測値の±1.0cm以内であった割合は95%であった。
【0075】
[実施例2]
前記の、シュート上を流れる様子の動画像を用いた実施例を以下に示す。
まだ固まらない状態の締固め材がシュート上を流れる様子については、全10配合について5秒間の撮影を行った。実施例1と同様に、動画像の一秒あたりのフレーム数30から、シュート全体が映っている150(30×5)枚の静止画像を得た。得られた各静止画像から、締固め材の画像データ(512×512ピクセル)を切り出した。
【0076】
また、上記画像データを切り出した位置を基準として、実施例1と同様に、縦方向(上下の方向)及び横方向(左右の方向)に5ピクセル単位でずらしながら512×512ピクセルの画像データを合計で24枚切り出した。すなわち、1つの静止画像から25枚の画像データを切り出し、1配合について3,750(30×5×25)枚、全10配合では37,500(3,750×10)枚の画像データを収集した。
【0077】
次いで、実施例1と同様に、得られた全37,500枚の画像データを64×64ピクセルの画像サイズに縮小し、各1ピクセルを256階調に変換したグレースケール画像に変換して学習用入力データを採取した。
【0078】
学習用入力データとしての上記画像データと、学習用出力データとしての表1のスランプの組み合わせからなる学習データを使用して、予測モデルの機械学習を行って予測モデルを得た。機械学習には実施例1と同じ方法を用いた。
【0079】
表2に示す10配合について、前記学習用入力データと同様に切り出した画像データについて、実施例1の検証データの採取方法と同様にして13,500枚の検証用の画像データを得た。
【0080】
得られた検証用データを前記予測モデルに入力して、スランプの予測値を出力させた。
その結果、得られたスランプの予測値が、表2に示す実測値の±0.5cm以内であった割合は86%であり、実測値の±1.0cm以内であった割合は93%であった。
【0081】
以上より、本発明の地盤強化用締固め材の品質予測方法を用いれば、地盤強化用締固め材のまだ固まらない状態の品質について、熟練者に因らずとも短時間でかつ高い精度で予測することができることが分かる。