(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】シフトフォーク用ブシュに用いられる摺動部材、シフトフォーク用ブシュ、シフトフォーク用ブシュに用いられる摺動部材の製造方法およびシフトフォーク用ブシュの製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 33/20 20060101AFI20240419BHJP
C08L 27/18 20060101ALI20240419BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20240419BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240419BHJP
C08K 3/105 20180101ALI20240419BHJP
【FI】
F16C33/20 A
C08L27/18
C08K3/08
C08K3/22
C08K3/105
(21)【出願番号】P 2021068034
(22)【出願日】2021-04-13
【審査請求日】2023-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000207791
【氏名又は名称】大豊工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 範之
(72)【発明者】
【氏名】堀部 直樹
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-162741(JP,A)
【文献】特開2020-200909(JP,A)
【文献】特開昭50-043006(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
F16C33/00-33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に設けられ、ポリテトラフルオロエチレン樹脂と、前記ポリテトラフルオロエチレン樹脂中に分散された亜鉛粒子と、前記ポリテトラフルオロエチレン樹脂と前記亜鉛粒子との間に介在されたフッ化亜鉛と、
を含むシフトフォーク用ブシュに用いられる摺動部材。
【請求項2】
前記フッ化亜鉛は、前記亜鉛粒子の全周に渡って存在する、
請求項1に記載の
シフトフォーク用ブシュに用いられる摺動部材。
【請求項3】
5重量%以上15重量%以下の前記亜鉛粒子と、
前記ポリテトラフルオロエチレン樹脂中に分散された2重量%以上4重量%以下の酸化アルミニウムと、
を含む請求項1または請求項2に記載の
シフトフォーク用ブシュに用いられる摺動部材。
【請求項4】
基材上に、請求項1~請求項3の何れか1項に記載の
シフトフォーク用ブシュに用いられる摺動部材を備えたシフトフォーク用ブシュ。
【請求項5】
亜鉛粒子とポリテトラフルオロエチレン樹脂との混合物を390℃以上500℃以下で焼成する焼成工程、
を含む
、基材上に設けられた、シフトフォーク用ブシュに用いられる摺動部材の製造方法。
【請求項6】
基材上に供給された、亜鉛粒子とポリテトラフルオロエチレン樹脂との混合物を、390℃以上500℃以下で焼成する焼成工程、
を含むシフトフォーク用ブシュの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シフトフォーク用ブシュに用いられる摺動部材、シフトフォーク用ブシュ、シフトフォーク用ブシュに用いられる摺動部材の製造方法およびシフトフォーク用ブシュの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
摺動部材に用いられる材料として、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(以降「PTFE」と略称する)と、亜鉛と、酸化アルミニウムと、からなる軸受材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら従来技術では、耐摩耗性の向上を図ることは困難であった。
【0005】
本発明は、耐摩擦性の向上を図ることが可能な、シフトフォーク用ブシュに用いられる摺動部材、シフトフォーク用ブシュ、シフトフォーク用ブシュに用いられる摺動部材の製造方法およびシフトフォーク用ブシュの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明のシフトフォーク用ブシュに用いられる摺動部材は、基材上に設けられ、ポリテトラフルオロエチレン樹脂と、前記ポリテトラフルオロエチレン樹脂中に分散された亜鉛粒子と、前記ポリテトラフルオロエチレン樹脂と前記亜鉛粒子との間に介在されたフッ化亜鉛と、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐摩擦性を向上させたシフトフォーク用ブシュに用いられる摺動部材、シフトフォーク用ブシュ、摺動部材の製造方法およびシフトフォーク用ブシュの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3A】
図3Aは、摺動部材のX線回析調査結果を示すグラフである。
【
図3B】
図3Bは、摺動部材のX線回析調査結果を示すグラフである。
【
図3C】
図3Cは、摺動部材のX線回析調査結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、マニュアルトランスミッションの内部構造を示す図である。
【
図5】
図5は、シフトフォークの構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係る摺動部材の実施の形態を詳細に説明する。
【0010】
本実施の形態の摺動部材は、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(以下、PTFEと略称する場合がある)と、PTFE中に分散された亜鉛(Zn)粒子と、PTFEと亜鉛粒子との間に介在されたフッ化亜鉛(ZnF2)と、からなる。
【0011】
このため、本実施形態の摺動部材は、耐摩耗性の向上を図ることができる。また、本実施形態の摺動部材は、グリス潤滑、貧潤滑の往復摺動で使用される状況で、特に、低摩擦性および耐摩耗性の向上を図ることができる。
【0012】
上記効果が奏される理由は以下のように推測される。しかしながら下記推測によって本発明は限定されない。
【0013】
PTFEと亜鉛粒子との間にフッ化亜鉛が介在されることによって、PTFEと亜鉛粒子との間の隙間の少なくとも一部がフッ化亜鉛で埋められた状態となる。このため、PTFEと亜鉛粒子との結合が強固となると考えられる。結合が強固となることで、摺動時に亜鉛粒子の脱落が抑制される。亜鉛粒子の脱落が抑制されることで、摺動部材の耐摩耗性が向上すると考えられる。
【0014】
以下、本実施の形態の摺動部材について、詳細に説明する。
【0015】
図1は、本実施の形態の摺動部材41の一例を示す模式図である。本実施形態では、摺動部材41をシフトフォーク用ブシュに適用した形態を一例として説明する。
図1には、摺動部材41を備えたシフトフォーク用ブシュの断面構造の一例を示した。以下、シフトフォーク用ブシュを、ブシュ19と称して説明する。また、適用形態の詳細は後述する。
【0016】
ブシュ19は、基材8と、摺動部材41と、を備える。
【0017】
基材8は、例えば、鋼板2と、焼結層3と、有する。
【0018】
鋼板2は、ブシュ19に機械的強度を与えるための層である。鋼板2は、裏金、または、裏金層と称される場合がある。鋼板2は、例えば、Fe合金、Cu、Cu合金などの金属板を用いることができる。
【0019】
焼結層3は、焼結によって作製された多孔質の層である。焼結層3は、鋼板2上に、銅合金、例えば銅錫、銅鉛錫、リン青銅または鉄、銅、錫等の混合粉末を散布して焼結させることで作製される。鋼板2上に焼結層3を備えた構成とすることで、摺動部材41と鋼板2との密着性向上の向上を図ることができる。なお、ブシュ19は、焼結層3を備えた構成に限定されない。
【0020】
次に、摺動部材41について説明する。摺動部材41は、基材8上に設けられている。
【0021】
図2は、摺動部材41の断面を示す模式図である。摺動部材41は、PTFE5と、PTFE5中に分散された亜鉛粒子61と、PTFE5と亜鉛粒子61との間に介在されたフッ化亜鉛62と、からなる。
【0022】
摺動部材41は、樹脂材料としてPTFE5を用いればよいが、PTFE5を主成分とし、更に、以下の合成樹脂を含んでいてもよい。例えば、PFA(四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体)、FEP(パーフルオロエチレンプロペンコポリマー)、低分子PTFE、PI(ポリイミド)、PAI(ポリアミドイミド)、PBI(ポリベンザイミダゾール)、PA(ポリアミド)、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、POM(ポリアセタール)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PE(ポリエチレン)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)およびPEI(ポリエーテルイミド)のうちから選ばれる1種および2種以上を更に含んでいてもよい。
【0023】
亜鉛粒子61は、PTFE5に分散されてなる。亜鉛粒子61の形状およびサイズは限定されない。
【0024】
亜鉛粒子61の含有量は、PTFE5を100重量%に対して、5重量%以上15重量%以下であることが好ましい。亜鉛粒子61の含有量を上記範囲とすることで、摺動部材41の耐摩耗性向上を図ることができる。
【0025】
フッ化亜鉛62は、PTFE5と亜鉛粒子61との間に介在されている。介在されているとは、PTFE5と亜鉛粒子61との間の少なくとも一部の領域に、フッ化亜鉛62が存在することを意味する。フッ化亜鉛62は、後述する製造方法によって亜鉛粒子61の周囲に生成される。このため、フッ化亜鉛62は、PTFE5と亜鉛粒子61との間に介在された状態となる。
【0026】
なお、フッ化亜鉛62は、亜鉛粒子61の周囲の少なくとも一部の領域に設けられていればよいが、亜鉛粒子61の全周に渡って存在することが好ましい。亜鉛粒子61の全周に渡って存在する、とは、フッ化亜鉛62が亜鉛粒子61の周囲に亜鉛粒子61の全周に渡って存在することを意味する。言い換えると、亜鉛粒子61の外周面の全領域を囲むようにフッ化亜鉛62が生成された状態であることを意味する。なお、この場合、フッ化亜鉛62は、亜鉛粒子61の全周に渡って存在していればよく、少なくとも一部が亜鉛粒子61に接触していてもよいし、少なくとも一部が亜鉛粒子61に非接触であってもよい。すなわち、亜鉛粒子61は、周囲の全周に渡ってフッ化亜鉛62で被覆された状態であることが好ましい。
【0027】
フッ化亜鉛62が、亜鉛粒子61の全周に渡って存在することで、亜鉛粒子61の周囲の全周に渡ってPTFE5との間にフッ化亜鉛62が介在された状態となる。このため、亜鉛粒子61とPTFE5との間の隙間が亜鉛粒子61の全周に渡ってフッ化亜鉛62で埋められた状態となる。よって、摺動部材41の耐摩耗性を更に向上させることが出来る。
【0028】
摺動部材41には、更なる耐摩耗性向上の観点から、酸化アルミニウム(Al
2O
3)7を更に含むことが好ましい。
図2に示すように、PTFE5中には、酸化アルミニウム7がさらに分散されてなることが好ましい。酸化アルミニウム7の形状およびサイズは限定されない。
【0029】
酸化アルミニウム7の含有量は、PTFE5を100重量%に対して、2重量%以上4重量%以下であることが好ましい。
【0030】
摺動部材41には、更に他の添加材が添加されていてもよい。例えば、BaSO4、CaSO4、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウムなどの塩、芳香族ポリエステル、ポリイミド、PEEKなどの樹脂、酸化アルミニウム(Al2O3)、FeO3、TiO2などの酸化物、ZnSなどの硫化物、TiCなどの炭化物、ガラス繊維、カーボン繊維、カーボンなどのうちから選ばれる1種類または2種類以上の添加材を加えることが出来る。
【0031】
摺動部材41の厚みは限定されない。例えば、摺動部材41の厚みは、80μm以上400μm以下である。なお、摺動部材41の厚みは、具体的には、
図1中、Lの長さを意味する。Lは、摺動部材41の厚みを表す。
【0032】
次に、摺動部材41の製造方法について説明する。
【0033】
本実施形態の摺動部材41は、例えば、下記工程によって作製される。
【0034】
摺動部材41の製造方法は、原料であるPTFE5の粉末と、亜鉛粒子61および酸化アルミニウム7などの添加材と、の混合物を、390℃以上500℃以下で焼成する焼成工程、を含む。
【0035】
PTFE5の粉末と少なくとも亜鉛粒子61との混合物を上記温度範囲で焼成することで、PTFE5とZnとの反応により、亜鉛粒子61の周囲にフッ化亜鉛62が生成される。すなわち、PTFE5と亜鉛粒子61との間にフッ化亜鉛62が介在された状態となる。
【0036】
なお、焼成温度は、400℃以上500℃以下であってもよい。焼成温度を400℃以上とすることで、亜鉛粒子61の周囲に亜鉛粒子61の全周に渡ってフッ化亜鉛62が生成される。
【0037】
なお、焼成温度が500℃を超えると、PTFE5の分解が始まることから、焼成温度は500℃以下であることが好ましい。
【0038】
PTFE5と亜鉛粒子61との混合物を370℃、380℃、390℃、400℃、410℃、420℃、430℃、の各々の焼成温度で焼成することで製造された摺動部材41について、X線回折調査を行った。X線回折法(XRD)では、試料にX線を照射したとき、X線が原子の周囲にある電子によって散乱又は干渉した結果として生じる回折を解析する。この回折を解析することにより、試料の構成成分の同定および定量が可能となる。
【0039】
図3A~
図3Cは、摺動部材41のX線回折調査結果を示す図である。
図3A~
図3C中、横軸は、X線を照射する角度を表し、縦軸は、各成分の結びつきの強さ(ピークの強度)を表す。
【0040】
図3Aは、PTFE5と亜鉛粒子61と酸化アルミニウム7との混合物を370℃で焼成することで製造された摺動部材41のX線回析調査結果である。
図3Bは、上記混合物を400℃で焼成することで製造された摺動部材41のX線回析調査結果である。
図3Cは、上記混合物を430℃で焼成することで製造された摺動部材41のX線回析調査結果である。
【0041】
上記混合物を370℃または380℃で焼成した場合には、フッ化亜鉛62は生成されなかった。具体的には、
図3Aに示すように、PTFE5をはじめ、添加材である亜鉛粒子61の亜鉛、酸化アルミニウム7、および焼結層3の成分である銅、は検出されているが、フッ化亜鉛62は検出されなかった。
【0042】
一方、上記混合物を390℃、400℃、410℃、420℃、または430℃で焼成した場合には、フッ化亜鉛62が生成された。具体的には、
図3Bおよび
図3Cに示すように、PTFE5、添加材である亜鉛粒子61の亜鉛、酸化アルミニウム7、および焼結層3の成分である銅、に加え、フッ化亜鉛62が検出された。
【0043】
これらの調査結果から、PTFE5と少なくとも亜鉛粒子61との混合物を、390℃以上500℃以下で焼成することで、亜鉛粒子61の表面にフッ化亜鉛62が生成されるといえる。
【0044】
また、上記混合物を370℃で焼成することで製造された摺動部材の断面と、該混合物を430℃で焼成することで製造された摺動部材41の断面と、を電子顕微鏡で観察した。
【0045】
その結果、370℃で焼成された摺動部材にはフッ化亜鉛62が生成されておらず、亜鉛粒子61とPTFE5との間に空隙が観察された。一方、430℃で焼成された摺動部材41にはフッ化亜鉛62が生成されており、亜鉛粒子61とPTFE5との間に空隙は確認されなかった。これは、亜鉛粒子61とPTFE5との間にフッ化亜鉛62(ZnF2)が介在したためである。このフッ化亜鉛62の介在によって、亜鉛粒子61とPTFE5との結合が強固となり、摺動部材41の耐摩耗性向上を図ることが出来る。
【0046】
次に、摺動部材41に含まれるフッ化亜鉛62の特定について説明する。摺動部材41に含まれるフッ化亜鉛62は、例えば、SEM(走査電子顕微鏡)による点分析によって特定される。
【0047】
図2に示す摺動部材41における、位置A、位置B、位置Cの各々について、点分析を行った。位置Aは、PTFE5のみが存在する位置である。位置Bは、亜鉛粒子61が存在する位置である。位置Cは、亜鉛粒子61の外周の位置である。表1には、位置A、位置B、位置C、の各々における元素成分の重量%を示した。
【0048】
【0049】
表1に示すように、位置Aでは、PTFE5の成分である炭素(C)およびフッ素(F)が検出された。位置Bでは、亜鉛粒子61のZnが検出された。位置Cでは、フッ素(F)および亜鉛(Zn)が検出された。このことから、位置Cでは、PTFE5の脱フッ素により、フッ化亜鉛62が生成されていることが分析できた。
【0050】
次に、摺動部材41の適用形態の一例を説明する。
【0051】
摺動部材41は、高い耐摩耗性を要求される各種部材に適用される。例えば、摺動部材41は、自動車用マニュアルトランスミッションのシフトフォーク用ブシュ、各種の軸受け、またはコンプレッサーなどに適用される。
【0052】
本実施形態では、摺動部材41をシフトフォーク用ブシュ(ブシュ19)に適用した形態を一例として説明する。また、本実施形態では、グリス潤滑、貧潤滑の往復摺動で使用される状況に適用された形態を一例として説明する。具体的には、自動車のマニュアルトランスミッションにおける、ギアを変速するシフトフォークに、ブシュ19を設けた例を説明する。
【0053】
図4は、マニュアルトランスミッションの内部構造の一例を示す図である。
【0054】
マニュアルトランスミッション1は、レバー12、フォークシャフト13、シフトフォーク14、変速用の歯車17、を備える。フォークシャフト13は、円柱状の支軸である。
【0055】
シフトフォーク14は、フォークシャフト13の外周面13aにスライド可能に取り付けられている。レバー12は、シフトフォーク14をフォークシャフト13の軸方向にスライドさせるためのレバーであり、自動車の運転手が操作する。歯車17は、シフトフォーク14がスライドすると、噛み合う歯車が変更され、マニュアルトランスミッション1が変速される。
【0056】
次に、シフトフォーク14について説明する。
【0057】
図5は、シフトフォーク14の構成を示す斜視図である。シフトフォーク14は、円筒状の孔部15と作用部18を備える。孔部15には、フォークシャフト13が貫通する。作用部18は、歯車17を軸に沿ってスライドさせる。
【0058】
孔部15の内周面16には、中空の円筒形状のブシュ19(シフトフォーク用ブシュ)が取り付けられている。なお、説明の都合上、
図1ではブシュ19を平面状に示したが、実際のブシュ19は、
図5に示すように内周面4aを内側とした筒状形状である。このため、フォークシャフト13の外周面13aは、ブシュ19の内周面4a(
図4参照)と接触する。シフトフォーク14をフォークシャフト13に対してスライドさせると、フォークシャフト13の外周面13aに対してとブシュ19が摺動する。そのため、シフトフォーク14がフォークシャフト13に対して滑らかにスライドするかは、フォークシャフト13の外周面13aとブシュ19の内周面4a(
図4参照)間の摩擦力による。
【0059】
図1を用いて説明したように、本実施形態では、ブシュ19は、基材8と、摺動部材41と、を備える。このため、本実施形態のブシュ19は、耐摩耗性の向上を図ることができる。また、本実施形態のブシュ19は、グリス潤滑、貧潤滑の往復摺動で使用される状況で、低摩擦性、耐摩耗性を効果的に発揮することができる。
【0060】
なお、ブシュ19は、基材8上に、上述した製造方法により摺動部材41を形成することで製造すればよい。
【0061】
例えば、鋼板2上に焼結層3を形成する。焼結層3は、鋼板2上に焼結層3の構成粒子(例えば、銅合金粉末など)を散布して焼結させることで、形成される。そして、PTFE5と、亜鉛粒子61および酸化アルミニウム7などの添加材と、の混合物を、焼結層3へ供給して含侵させ、上述した焼成条件にて焼成すればよい。
【0062】
なお、上述したように、ブシュ19は、焼結層3を備えた構成に限定されない。すなわち、基材8は、鋼板2上に焼結層3が設けられた構成に限定されず、鋼板2のみによって構成してもよい。
【0063】
この場合、例えば鋼板2上へショットブラスト等の粗面化処理を行い、その粗面化部分へ直接、PTFE5の粉末と、亜鉛粒子61および酸化アルミニウム7などの添加材と、の混合物を供給してもよい。混合物の供給方法は限定されない。そして、上述した焼成条件にて混合物を焼成すればよい。
【0064】
また、鋼板2に替えて、金網を使用してもよい。金網を用いる場合には、基本的に上記多孔質焼成層へ含浸する方法と同様である。
【実施例】
【0065】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0066】
表面をサンディング処理した後に脱脂した鋼板2を用意した。この鋼板2上にりん青銅粉末を散布し、その後、920℃以上950℃以下で焼結を行い、厚さ0.2mm~0.25mmの焼結層3を形成した。これらの工程によって、基材8を作製した。
【0067】
作製した基材8上に、500μm以下のPTFE5の粉末と、平均粒径75μm以下の亜鉛粒子61と、平均粒径35μm以下の酸化アルミニウム7と、の混合物を上記基材8上にロールで供給することで、含浸被覆させた。次に、この混合物を焼成し(焼成工程)、基材8上に摺動部材41を生成した。摺動部材41の厚みは、0.08mm~0.40mmであった。
【0068】
(実施例1)
実施例1では、上記混合物における亜鉛粒子61と酸化アルミニウム7の含有量を、亜鉛粒子61を10重量%、酸化アルミニウム7を3重量%とした。また、混合物の焼成温度を、390℃とし、摺動部材41を生成した。
【0069】
(実施例2-実施例6)
実施例2-実施例6では、混合物の焼成温度を400℃、420℃、450℃、450℃、480℃、420℃、420℃、の各々とした以外は、実施例1と同様にして摺動部材41を生成した。
【0070】
(実施例7-実施例8)
実施例7-実施例8では、上記混合物における亜鉛粒子61と酸化アルミニウム7の含有量を、亜鉛粒子61を15重量%、酸化アルミニウム7を4重量%とした。また、混合物の焼成温度を、420℃とし、摺動部材41を生成した。
【0071】
(実施例9-実施例10)
実施例9-実施例10では、混合物の焼成温度を510℃とした以外は、実施例1と同様にして摺動部材41を生成した。
【0072】
(比較例1-比較例2)
比較例1-比較例2では、混合物の焼成温度を370℃とした以外は、実施例1と同様にして比較摺動部材を生成した。
【0073】
上記実施例および比較例で作製した摺動部材41および比較摺動部材について、耐摩耗性を評価した。耐摩耗性の評価は、
図6に示す摩耗試験機を用いて行った。
【0074】
図6は、摩耗試験の説明図である。摺動部材41に相当する供試品にフォークシャフト13に相当する相手材を接触させ、荷重をかけながら回転させることで、耐摩耗性の評価として、摩耗量および摩擦係数を測定した。評価は、以下の条件で行った。
【0075】
・試験機:スラスト摩擦、摩耗試験機(
図6参照)
・荷重:5MPa
・すべり速度:0.3m/s
・試験時間:3時間
・試験温度(雰囲気温度):40℃
・潤滑油:無
・相手材の軸材質:SCM415(Hv500以上)
・軸粗さ:0.8~1.0μmRzJIS
【0076】
なお、摩擦係数は、上記耐摩耗試験中の摩擦力を測定し、摩擦力が安定してからの平均的な摩擦力によって算出した。評価結果を表2に示した。
【0077】
【0078】
表2に示すように、フッ化亜鉛62が生成された実施例1-実施例10では、比較例1-比較例2に比べて、摩耗量が少なく且つ摩擦係数が低い、という評価結果が得られた。
【0079】
このため、実施例1-実施例10で作製した摺動部材41は、比較例1-比較例2で作製した比較摺動部材に比べて、耐摩耗性の向上を図ることができた。
【0080】
なお、焼成温度を510℃とした実施例9-実施例10では、耐摩耗性の向上は実現できたものの、PTFE5の分解が確認された。一方、焼成温度を390℃以上500℃以下とした実施例1-実施例7では、PTFE5の分解は確認されなかった。このため、焼成温度は、390℃以上500℃以下が好ましいことが確認できた。
【0081】
なお、上述の実施例において使用した各種の材料およびその組成はあくまで例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。本実施形態にかかる摺動部材41は、不可避不純物を含んでもよい。また、摺動部材41の具体的構造は、
図1および
図2に例示したものに限定されない。
【0082】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態および変形例は例示であり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態および変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態および変形例、およびこれらの変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0083】
5 PTFE
7 酸化アルミニウム
41 摺動部材
61 亜鉛粒子
62 フッ化亜鉛