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特許7475340スペクトル分析と超音波治療介入の安全性を確保することを可能にするマーカーの決定とのための方法及びシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】スペクトル分析と超音波治療介入の安全性を確保することを可能にするマーカーの決定とのための方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   A61N 7/00 20060101AFI20240419BHJP
【FI】
A61N7/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021522487
(86)(22)【出願日】2019-10-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-14
(86)【国際出願番号】 EP2019078098
(87)【国際公開番号】W WO2020083725
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-10-12
(31)【優先権主張番号】1859826
(32)【優先日】2018-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】311015001
【氏名又は名称】コミサリヤ・ア・レネルジ・アトミク・エ・オ・エネルジ・アルテルナテイブ
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ノベル,アンソニー
(72)【発明者】
【氏名】サーレス・カミムラ,エルメス
(72)【発明者】
【氏名】ララット,ブノワ
【審査官】滝沢 和雄
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0006106(US,A1)
【文献】特開2016-221302(JP,A)
【文献】特開2003-033365(JP,A)
【文献】特開平05-076539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スペクトル分析を実施し、軟血管新生した生体組織(6)の領域(4)内に含まれる微小気泡(8)の不安定化状態を表す安全性マーカーを決定するためのシステムであって、前記微小気泡(8)は、前記領域(4)において生物学的バリアの局所的で可逆の開口を誘起するために、所定の放射周波数fで超音波励起信号にさらされ、前記微小気泡(8)の前記不安定化状態は前記生体組織(6)にとって有害であり、
前記超音波励起信号は、「ショット」と呼ばれる、1以上の所定の整数Nbの波列から構成される超音波シーケンスによって形成され、
スペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するための前記システムは、各ショットBbがトリガーされた後で、ここで、bは1~Nbの間に含まれており、
-前記ショットBb中に、一連の時刻taにおいて、前記微小気泡の受信音響応答信号の低調波及び/又はウルトラハーモニック周波数に対応するスペクトルラインの時間の関数としての変動量を定期的に測定し(106、108)、なお、前記受信音響応答信号は、所定の検出通過帯域を有する受動キャビテーション検出器によって検出され、
-数MDDによって各時刻taにおいて定義される安全性マーカーの、複数の時刻taに渡る時間の関数としての変動量を決定および定量化し(110、112)、なお前記数MDDは、前記時刻taで測定される、前記微小気泡の前記受信音響応答信号の前記低調波及び/又はウルトラハーモニック周波数に対応する、前記スペクトルラインの面積の合計と、第1の時刻t1で測定された、初期状態での前記微小気泡の前記受信音響応答信号の前記低調波及び/又はウルトラハーモニック周波数に対応する、前記スペクトルラインの面積の合計との比率に等しい、
ように構成されることを特徴とする、スペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するためのシステム。
【請求項2】
前記微小気泡の前記受信音響応答信号の前記低調波及び/又はウルトラハーモニック周波数に対応する前記スペクトルラインの各時刻taにおける前記測定は、時間ウィンドウwa内で受信された前記受信音響応答信号を利用しており、前記時間ウィンドウwaは前記時刻taを含み、且つ、前記ショットBbに対応する受信時間間隔内に含まれている、請求項1に記載のスペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するためのシステム。
【請求項3】
一連の時刻taにおける測定は、複数の時間ウィンドウwa内で受信された前記受信音響応答信号を利用しており、各時間ウィンドウwaは、対応する前記時刻taを含み、2つの時間ウィンドウwaごとに、隣接しているか、又は分離しているか、又は部分的に重なっている、請求項2に記載のスペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するためのシステム。
【請求項4】
所与のショットBbについて、bは1~Nbの間に含まれており、
第1の測定及びセグメント化ステップ(104)において、ショットBbに対する前記微小気泡の前記受信音響応答信号を、等しい持続時間の所定の整数k、の時間ウィンドウwaに分割するように構成され、kは2以上であり、aは1からkまで変化し、なお、前記時間ウィンドウwaにより、前記ショットBb中の周波数成分の変動量が決定可能になり、前記受信音響応答信号は、前記受動キャビテーション検出器によって受信され測定される、請求項1~3の何れか一項に記載のスペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するためのシステム。
【請求項5】
ウィンドウの数k及びそれらのサイズtwは、前記ショットBbの持続時間及び前記放射周波数fに直接的に依存し、
前記ショットBbの前記持続時間は、マイクロ秒~百ミリ秒のオーダーである、請求項4に記載のスペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するためのシステム。
【請求項6】
前記時間ウィンドウwaの前記持続時間は、前記超音波励起信号の8サイクル分の持続時間と1回のショットの前記持続時間の半分との間に含まれ、且つ/又は、
時間ウィンドウwaの数kは、2以上であり、且つ、1回のショットの持続時間Tに前記放射周波数fをかけた積の8分の1以下である、請求項4又は5に記載のスペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するためのシステム。
【請求項7】
ショットBbは、bが1~Nbの間に含まれる状態で与えられ、
前記第1の測定及びセグメント化ステップ(104)の後で実行されるスペクトル計算の第2のステップ(106)では、前記ショットBbの時間ウィンドウwa毎に、ここで、aは1からkまで変化し、前記時間ウィンドウwaに含まれる、前記ショットBbに対する前記微小気泡の前記受信音響応答信号の部分の周波数スペクトルを計算する、ように構成される、請求項4~6の何れか一項に記載のスペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するためのシステム。
【請求項8】
前記周波数スペクトルの前記計算は、フーリエ変換を使用する、請求項7に記載のスペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するためのシステム。
【請求項9】
ショットBbは、bが1~Nbの間に含まれる状態で与えられ、
前記第2のステップ(106)の後で実行される、キャビテーション信号s(a)の前記ショットBb中の変動量を計算する第3のステップ(108)では、時間ウィンドウwa毎に、ここで、aは1からkまで変化し、前記キャビテーション信号s(a)を、前記時刻taで測定された、前記微小気泡の前記受信音響応答信号の前記低調波及び/又はウルトラハーモニック周波数に対応する、前記スペクトルラインの面積の合計になるように、計算する、ように構成される、請求項7~8の何れか一項に記載のスペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するためのシステム。
【請求項10】
前記キャビテーション信号s(a)の前記計算で考慮されるウルトラハーモニック及び/又は低調波成分の数は、キャビテーションを検出するために使用され、且つ前記受動キャビテーション検出器を形成する1つ又は複数のトランスデューサの通過帯域に依存する、請求項9に記載のスペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するためのシステム。
【請求項11】
前記受動キャビテーション検出器の前記通過帯域内に含まれる前記ウルトラハーモニック及び/又は低調波成分の測定されたピークの振幅は、前記計算の際に、前記キャビテーション信号s(a)に加えて又は前記キャビテーション信号s(a)の代わりに使用される、請求項10に記載のスペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するためのシステム。
【請求項12】
ショットBbは、bが1~Nbの間に含まれる状態で与えられ、
前記第3のステップ(108)の後で実行される、キャビテーション信号s(a)の前記ショットBb中の変動量を計算する第4のステップ(110)では、前記ショットBbの時間ウィンドウwa毎に、ここで、aは1からkまで変化し、「キャビテーション線量MDD」と呼ばれる安全性マーカーを計算するように構成され、この安全性マーカーは、a番目の時間ウィンドウwa内の前記キャビテーション信号s(a)と、第1の時間ウィンドウw1のキャビテーション信号s(1)との比率に等しい数MDDによって定義され、前記キャビテーション線量MDDは、線形又は対数尺度で表現される、請求項9~11の何れか一項に記載のスペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するためのシステム。
【請求項13】
所与のショットBbについて、bは1~Nbの間に含まれており、
前記第4のステップ(110)の後で実行される、第1の警告パラメータAl1(a)及び/又は第2の警告パラメータAl2(a)の前記ショットBb中の変動量を計算する第5のステップ(112)では、
前記安全性マーカーが第1の所定の安全性閾値Th1を超えたときに、前記第1の警告パラメータAl1をアクティブ状態におき、
前記安全性マーカーが前記第1の所定の安全性閾値Th1を超えた回数nfが第2の所定の閾値Th2を超えたときに、前記第2の警告パラメータAl2をアクティブ状態におく、ように構成される、請求項12に記載のスペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するためのシステム。
【請求項14】
ショットBbは、bが1~Nbの間に含まれる状態で与えられ、
前記第4(110)又は前記第5のステップ(112)の後で実行される第6のステップ(114)では、ショットパラメータを制御するフィードバックループ内に介在する命令及び制御デバイスに、
-前記第4のステップで提供された前記キャビテーション線量MDDであって、前記キャビテーション線量MDDは、前記ショット中に変化する前記キャビテーション線量MDD、並びに/又は、
-前記第5のステップで決定された、前記第1の警告パラメータAl1(a)及び/若しくは前記第2の警告パラメータAl2(a)の状態Al1(a)、Al2(a)、
を送信するように構成される、請求項13に記載のスペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するためのシステム。
【請求項15】
微小気泡(8)を含む軟血管新生した生体組織(6)の領域(4)を標的とした治療に超音波支援を提供するためのシステムであって、
-所定の放射周波数fで1つ又は複数の励起ショットの治療シーケンスを励起及び放射するための超音波励起デバイス(12)であって、前記励起ショットは、前記生体組織(6)の治療対象の前記領域(4)に焦点を合わせているデバイス(12)と、
-前記治療シーケンスの前記励起ショットに応答して、前記領域(4)内に含まれる前記微小気泡(8)の応答を検出し測定するための受動キャビテーションセンサ(14)と、
-請求項1~14の何れか一項に記載の、スペクトル分析を実施し、前記微小気泡(8)の不安定化状態を表す安全性マーカーを決定するためのシステム(16)と、
-前記超音波励起デバイス(12)の前記1つ又は複数の励起ショットのパラメータを制御するための、命令及び制御デバイス(18)と、を含み
前記受動キャビテーションセンサ(14)、スペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するための前記システム(16)、前記命令及び制御デバイス(18)、及び前記超音波励起デバイス(12)は、安全フィードバックループ(20)を形成するように、鎖状に直列に配置される、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織の音響応答のスペクトル分析を実施するため、及び超音波治療介入の安全性の確保を可能にする安全性マーカーを決定するための方法に関する。
【0002】
本発明は、生体組織の音響応答のスペクトル分析を実施するため、及び超音波治療介入の安全性の確保を可能にする安全性マーカーを決定するための対応するシステムにも関する。
【背景技術】
【0003】
生体組織は、任意の軟血管新生した生体組織であり、例えば、脳、肝臓、心臓、筋肉、乳房、腎臓、眼、甲状腺、前立腺、子宮、腱、膵臓、及び皮膚の組織の組の中に含まれる組織、好ましくは脳組織である。
【0004】
腫瘍学において活性薬剤の数が増加し、標的療法が出現したにも関わらず、脳の疾患(癌を含む)に関してなされた治療上の進展は、依然として僅かなままである。主な障害の1つは、治療用分子を、限定され制御された態様で組織に送達することができないことにある。具体的には、脳の血管の壁が、血液脳関門と呼ばれる非常に効果的な内皮バリアを形成する。このバリアは、血液から治療対象の細胞への分子の通過を制限する。治療薬を投与するための現在の方法は、侵襲的であるか、局在化していないか、又は患者に高いリスクを課すものである。更に、治療物質が生物体を通って自由に循環すると、健康な組織に対して望ましくない効果を及ぼす。従って、治療用分子の効率的で特定的で局所的な送達が、主要な課題である。2000年以降、多くの研究が、このタスクを実現するために集束超音波を使用できることを実証してきた。静脈内への気体微小気泡の注入と組み合わせて、超音波を使用して、生物学的バリアの局所的で可逆の開口を誘起することができる。具体的には、泡-超音波相互作用(キャビテーション)から生じる機械的な力(即ち、マイクロ流及び振動)が、このバリアを弱め、一般に脳組織への、特に疾患領域への分子の通過を促進し、この疾患領域は、超音波ビームによって正確に標的にされている場合に、治療しようと務められる領域である。治療は場合によっては数時間続き、大きな分子の通過の観点から、どの位効果的にバリアが開き続けられているのか、並びに技術の安全性については、超音波パラメータを調整することによって制御することができる。
【0005】
提供される「キャビテーション線量」が、この技術の有効性及び安全性において重要な役割を果たす。治療される組織内部の音圧は、微小気泡の制御された振動(安定したキャビテーションレジーム)を引き起こすように、且つ、血管の壁の可逆的で非損傷性の透過化を生み出すように、十分でなければならない。
【0006】
対照的に、過剰に高い音圧に曝されると、微小気泡は慣性キャビテーションレジームに入り、この慣性キャビテーションレジームは、組織の劣化及び深刻な副作用(例えば、炎症、出血)の発生をもたらすことがある、局所的な激しい物理的効果(即ち、衝撃波、マイクロジェット、気泡の局所的内破)を伴う。
【0007】
効果的な線量と損傷性の線量との差はわずかであり、従って、新規の正確な生体内原位置での線量測定方法を開発する必要がある。この技術は臨床試験を開始しようとしていることから、キャビテーション線量をリアルタイムで制御できることが非常に望ましい。
【0008】
超音波によって血液脳関門を開口するという文脈では、目的は、治療中に高度に安定したキャビテーション(有効性)を維持しながら、慣性キャビテーションを低レベルに維持する(安全性)ことである。頭蓋骨を貫く超音波治療では、頭蓋骨の不均一性がこの技術の有効性及び安全性に対して望ましくない影響を及ぼすことがある。
【0009】
具体的には、頭蓋骨の厚さは領域に応じて変化するので、超音波ビームの減衰は呼応して変更される。超音波の振幅は、人間のある地点から別の地点にかけて2倍容易に変化することがある。大型の動物、より具体的には人間以外の霊長類の場合、皮膚と頭蓋骨との間の組織(例えば、筋肉)の存在も、超音波ビームに影響を及ぼすことがある。
【0010】
従って、超音波が予想されるよりも厚い領域を通過する場合、関心領域における超音波の振幅はより小さくなり、治療は潜在的に効果的ではなくなる(即ち、音圧が、微小気泡の目に見えて分かる振動を実現可能にするには不十分になる)。
【0011】
対照的に、領域がより薄い場合、超音波の振幅が実際より小さく見積もられ、気泡の慣性キャビテーションから生じる安全性の問題が持ち上がることがある。
【0012】
治療される領域の周囲に配置された超音波トランスデューサを使用して、キャビテーションを受動的に検出することができる。Int.J.Hyperthermia、2007年3月、23(2)、pp.105~120に掲載された、「Role of acoustic cavitation in the delivery and monitoring of cancer treatment by high-intensity focused ultrasound(HIFU)」と題されたCoussiosら著の論文中に記載されるように、これらのセンサにより、微小気泡の周波数応答を測定することが可能になり、従って、誘起されたキャビテーションレジームをリアルタイムで決定することが可能になる。
【0013】
現在の課題の1つは、微小気泡の応答と周囲組織の応答とをどう区別するか、その後、この応答が安定したキャビテーションに対応することをどう確認するか、ということである。Curr.Pharma.Biotechnol.、13(7)、pp.1332~1345に掲載され、「Ultrasound-Induced Blood-Brain Barrier Opening」と題されたKonofagouら著の論文(2012年)中に記載されるように、従来、キャビテーション線量の安定成分は、微小気泡の高調波信号:(n+1)f(但し、
【数1】
、fは超音波の放射周波数)を介して決定され、一方、キャビテーション線量の慣性成分は、全ての周波数で放射された信号(広帯域信号)の測定値に対応する。
【0014】
しかしながら、これらのキャビテーションマーカーは、堅牢性及び感度が不足している。予防策が取られたとしても、望ましくない事象(例えば、浮腫)が発生することがある。従って、他のより信頼性が高く再現性のある指標が必要である。
【0015】
知られているように、微小気泡は、血液中での溶解の速度を低減するために、従って、超音波検査の長さ(数分間に達することがある)をのばすために、一般に、重い気体(ペルフルオロカーボン、六フッ化硫黄)から構成される。この気体はシェルによって囲まれており、シェルの機能は気泡を保護することである。壁の厚さは、数nm~数百nmまで変化する。一般に、それはタンパク質、リン脂質、界面活性剤、又はポリマーから構成される。
【0016】
Ultrasound in Med.&Biol.、40(4)、pp.727~738に掲載され、「The delayed onset of subharmonic and ultraharmonic emissions from a phospholipid contrast agent」と題されたShekarら著の論文(2014年)中に記載されているように、近年の生体外の研究では、微小気泡が特定の条件にかけられた際に微小気泡の特定の振動が出現することが実証されている。具体的には、時間の経過と共に、気泡中に含まれる気体は周囲の媒体に拡散し、その外被をゆがませる(例えば、気泡の外被上の過剰な脂質)。この状態は、特定の周波数(即ち、低調波及びウルトラハーモニック周波数:
【数2】
、但し
【数3】
、fは超音波の放射周波数)の出現と関係しており、微小気泡の消滅につながることがある。
【0017】
この効果は、J.Acoust.Soc.Am.、134、1416~27に掲載された「Surfactant shedding and gas diffusion during pulsed ultrasound through a microbubble contrast agent suspension」と題されたO’Brienら著の論文(2013年)に記載されているように、気体の拡散、及びPLoS ONE12(7):e0180747に掲載された「Focal areas of increased lipid concentration on the coating of microbubbles during short tone-burst ultrasound insonification」と題されたKooimanら著の論文(2017年)に記載されているように、微小気泡の外被のゆがみを促進する長い超音波シーケンスを適用することによって、強調される。
【0018】
微小気泡のこの不安定化状態は、超音波励起中に出現し、また現在までのところ、気体の微小気泡によって支援される超音波治療中の望ましくない効果の危険性を示すマーカーとしては使用されてこなかった。
【0019】
従って、実際のところ、微小気泡の活動の3つのレジームを定義することが可能であるように思われる。3つのレジームとは即ち、安定したキャビテーション(高調波放射のみ)、慣性キャビテーション(高調波、低調波、ウルトラハーモニック、及び広帯域放射)、及び微小気泡のシェルの不安定化に対応する中間レジーム(高調波、低調波、及びウルトラハーモニック放射)である。
【0020】
キャビテーション活動の測定に関して現在実施されている研究は主に、高調波成分及び広帯域スペクトルに焦点をあてている。
【0021】
現在のところ、the Journal of Physics、doi:10.1088/1742-6596/581/1/012004に掲載され「Multi-resolution analysis of passive cavitation detector signals」と題されたHaqshenasら著の論文(2015年)によって実証されているように、安定した活動又は慣性キャビテーションのマーカーとして低調波/ウルトラハーモニック成分を使用することに関しては、科学コミュニティによるコンセンサスは得られていない。
【0022】
過度に高い音圧の使用に関連した悪影響を回避するために、現在の研究では、「許容可能な」キャビテーション閾値が、広帯域信号の利用に基づいて、又は1つ若しくは複数の特定周波数成分(例えば、高調波、低調波、ウルトラハーモニック)の分析に基づいて、決定されている。この現在の研究の中で、以下の文書に記載されている研究について、言及することができる。
-Radiology、263(1)、pp.96~106に掲載され、「Blood-Brain Barrier:Real-time Feedback-controlled Focused Ultrasound Disruption by Using an Acoustic Emissions-based Controller」と題されたO’Reillyら著の論文(2012年)
-Phys.Med.Biol.、61、pp.2926~2946に掲載され、「Real-time monitoring of focused ultrasound bloodbrain barrier opening via subharmonic acoustic emission detection:implementation of confocal dual-frequency piezoelectric transducers」と題されたTsaiら著の論文(2016年)
-J.Cereb.Blood Flow Metab.1:271678X17753514に掲載され、「Feedback control of microbubble cavitation for ultrasound-mediated blood-brain barrier disruption in non human primates under magnetic resonance guidance」と題されたKamimuraら著の論文(2018年)
-国際公開第2012042423A1号パンフレット
-国際公開第2008062342A3号パンフレット
【0023】
情報がリアルタイムに処理されるか否かに関わらず、フィードバックが現在の超音波ショットに提供されるか否かに関わらず、且つ、絶対的又は相対的放射スペクトルが測定されるか否かに関わらず、この現在の研究の全てにおいて、キャビテーション線量はショット毎に、各ショットに対して1つの値が計算される。これらの安全性マーカーは感度が不足しており、場合によっては、悪影響が出るのを防止しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【文献】国際公開第2012/042423号
【文献】国際公開第2008/062342号
【非特許文献】
【0025】
【文献】Coussios et al.,“Role of acoustic cavitation in the delivery and monitoring of cancer treatment by high-intensity focused ultrasound(HIFU)”,Int.J.Hyperthermia,March 2007,23(2),pp.105-120.
【文献】Konofagou et al.(2012),“Ultrasound-Induced Blood-Brain Barrier Opening”,Curr.Pharma.Biotechnol.;13(7),pp.1332-1345
【文献】Shekar et al.(2014),“The delayed onset of subharmonic and ultraharmonic emissions from a phospholipid contrast agent”,Ultrasound in Med.&Biol.,40(4),pp.727-738
【文献】O’Brien et al.(2013),“Surfactant shedding and gas diffusion during pulsed ultrasound through a microbubble contrast agent suspension”,J.Acoust.Soc.Am.,134,1416-27
【文献】Kooiman et al.(2017),“Focal areas of increased lipid concentration on the coating of microbubbles during short tone-burst ultrasound insonification”,PLoS ONE 12(7):e0180747
【文献】Haqshenas et al.(2015),“Multi-resolution analysis of passive cavitation detector signals”,the Journal of Physics,doi:10.1088/1742-6596/581/1/012004
【文献】O’Reilly et al.(2012),“Blood-Brain Barrier:Real-time Feedback-controlled Focused Ultrasound Disruption by Using an Acoustic Emissions-based Controller”,Radiology,263(1),pp.96-106
【文献】Tsai et al.(2016),“Real-time monitoring of focused ultrasound bloodbrain barrier opening via subharmonic acoustic emission detection:implementation of confocal dual-frequency piezoelectric transducers”,Phys.Med.Biol.,61,pp.2926-2946
【文献】Kamimura et al.(2018),“Feedback control of microbubble cavitation for ultrasound-mediated blood-brain barrier disruption in non human primates under magnetic resonance guidance”,J.Cereb.Blood Flow Metab.1:271678X17753514
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
技術的な課題は、治療用超音波への露出を受ける組織での悪影響の出現を回避することを可能にする、より感度が高く、より堅牢で、より信頼性の高い安全性マーカーを提供すること、及び、この治療用マーカーの決定を可能にする方法を提供すること、である。
【課題を解決するための手段】
【0027】
この目的のために、本発明の1つの主題は、スペクトル分析を実施し、軟血管新生した生体組織の領域内に含まれる微小気泡の不安定化状態を表す安全性マーカーを決定するための方法であり、前述の微小気泡は、前述の領域において生物学的バリアの局所的で可逆の開口を誘起するために、所定の放射周波数fで超音波励起信号にさらされ、微小気泡の前述の不安定化状態は生体組織にとって有害であり、前述の超音波励起信号は、「ショット」と呼ばれる、1以上の所定の整数Nbの波列から構成される超音波シーケンスによって形成される。安全性マーカーを検出し決定するための方法は、各ショットBbがトリガーされた後で(bは1~Nbの間に含まれる)、スペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するためのシステムが、以下を行うことを、特徴とする。
-ショットBb中に、一連の時刻taにおいて、微小気泡の受信音響応答信号の低調波及びウルトラハーモニック周波数に対応するスペクトルラインの時間の関数としての変動量を定期的に測定する。受信応答信号は、所定の検出通過帯域を有する受動キャビテーション検出器によって検出される。
-それを定量化することによって、数MDDによって各時刻taにおいて定義される安全性マーカーの、時間taに渡る時間の関数としての変動量を決定する。この数MDDは、時刻taで測定される、微小気泡の受信音響応答信号の低調波及び/又はウルトラハーモニック周波数に対応する、スペクトルラインの面積の合計と、第1の時刻t1で測定された、初期状態での微小気泡の音響応答信号の低調波及び/又はウルトラハーモニック周波数に対応する、スペクトルラインの面積の合計との比率に等しい。
【0028】
特定の実施形態によれば、スペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するための方法は、以下の特徴のうちの1つ又は複数を含む。
-微小気泡の受信音響応答信号の低調波及び/又はウルトラハーモニック周波数に対応するスペクトルラインの各時刻taにおける測定は、観察ウィンドウwa内で受信された応答信号を利用しており、この観察ウィンドウwaは時刻taを含み、且つ、くだんのショットに対応する受信時間間隔内に含まれている。
-観察又は分析ウィンドウwaは、隣接しているか、又は分離しているか、又はペアごとに部分的に重なっている。
-上述したスペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するための方法は、所与のショットBbについて(bは1~Nbの間に含まれる)、第1の測定及びセグメント化ステップを含み、このステップでは、波列Bbに対する微小気泡の音響応答信号は、等しい持続時間の所定の整数k(kは2以上)の時間ウィンドウwa(aは1からkまで変化する)に分割され、これらの時間ウィンドウwaにより、超音波波列Bbの間の周波数成分の変動が決定可能になり、前述の信号は、受動キャビテーション検出器によって受信され測定される。
-ウィンドウの数k及びそれらのサイズtwは、超音波ショットBbの持続時間及び励起周波数fに直接的に依存する。超音波ショットの持続時間は、数マイクロ秒~数百ミリ秒の間に含まれる。
-ウィンドウwaの持続時間は、励起信号の8サイクル分の持続時間と、1つのショットの持続時間の半分との間に含まれ、且つ/又は、ウィンドウwaの数kは2以上であり、1つのショットの持続時間Tに超音波励起周波数fをかけた積の8分の1以下である。
-上述したスペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するための方法は、所与のショットBbについて(bは1~Nbの間に含まれる)、スペクトル計算の第2のステップを含み、この第2のステップは第1のステップの後で実行され、この第2のステップでは、ショットBbのウィンドウwa(aは1からkまで変化する)毎に、スペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するためのシステムは、前述のウィンドウwaに含まれる、波列Bbに対する微小気泡の音響応答信号の部分の周波数スペクトルを計算する。
-周波数スペクトルを計算するための方法は、フーリエ変換を使用する。
-上記で定義した、スペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するための方法は、所与のショットBbについて(bは1~Nbの間に含まれる)、キャビテーション信号s(a)の、そのショット中の変動量を計算する第3のステップを含み、このステップは第2のステップの後に実行され、この第3のステップでは、時間ウィンドウwa(aは1からkまで変化する)毎に、スペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するためのシステムは、キャビテーション信号s(a)が、時刻taで測定される、微小気泡の音響応答信号の低調波及び/又はウルトラハーモニック周波数に対応する、スペクトルラインの面積の合計になるように、計算する。
-キャビテーション信号s(a)の計算で考慮されるウルトラハーモニック及び/又は低調波の成分の数は、キャビテーションを検出するために使用され且つ受動キャビテーション検出器を形成する、1つ又は複数のトランスデューサの通過帯域に依存する。
-受動キャビテーション検出器の通過帯域内に含まれるウルトラハーモニック及び/又は低調波成分の測定されたピークの振幅は、計算の際に、キャビテーション信号s(a)に加えて又はキャビテーション信号s(a)の代わりに使用される。
-上述した、スペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するための方法は、所与のショットBbについて(bは1~Nbの間に含まれる)、キャビテーションマーカーs(a)の、そのショット中の変動量を計算する第4のステップを含み、このステップは第3のステップ(108)の後に実行され、この第4のステップでは、ショットBbの時間ウィンドウwa(aは1からkまで変化する)毎に、スペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するためのシステムは、「キャビテーション線量MDD」と呼ばれる安全性マーカーを計算し、この安全性マーカーは、a番目のウィンドウwa内のキャビテーション信号s(a)と、第1の時間ウィンドウw1のキャビテーション信号s(1)との比率に等しい数MDDによって定義され、キャビテーション線量MDDは、線形又は対数尺度で表現される。
-上述した、スペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するための方法は、所与のショットBbについて(bは1~Nbの間に含まれる)、第1の警告パラメータAl1(a)及び/又は第2の警告パラメータAl2(a)の、そのショット中の変動量を計算する第5のステップを含み、このステップは第4のステップの後に実行され、この第5のステップでは、第1の警告パラメータAl1は、安全性マーカーMDDが第1の所定の安全性閾値Th1を超えたときにアクティブ状態におかれ、第2の警告パラメータAl2は、安全性マーカーMDDが第1の閾値Th1を超えた回数nfが第2の所定の閾値Th2を超えたときに、アクティブ状態におかれる。
-上述した、スペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するための方法は、所与のショットBbについて(bは1~Nbの間に含まれる)、第6のステップを含み、このステップは第4又は第5のステップの後に実行され、この第6のステップでは、スペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するためのシステムは、ショットパラメータを制御するフィードバックループ中に介在する命令及び制御デバイスに向けて、第4のステップで提供されたキャビテーション線量MDDであって、前述の線量はショット中に変化するキャビテーション線量MDD、並びに/又は、第5のステップで決定された第1の警告パラメータ及び/若しくは第2の警告パラメータの状態Al1(a)、Al2(a)を送信する。
【0029】
本発明の別の主題は、スペクトル分析を実施し、生体組織の領域内に含まれる微小気泡の不安定化状態を表す安全性マーカーを決定するためのシステムであり、前述の気泡は、組織の前述の領域において生物学的バリアの局所的で可逆の開口を誘起するために、所定の放射周波数fで放射された超音波励起信号にさらされ、微小気泡の前述の不安定化状態は生体組織にとって有害であり、前述の超音波励起信号は、「ショット」と呼ばれる、1以上の所定の整数Nbの波列から構成される超音波シーケンスによって形成される。スペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するためのシステムは、各ショットBbがトリガーされた後で(bは1~Nbの間に含まれる)、以下を行うように構成されることを特徴とする。
-ショットBb中に、一連の時刻taにおいて、微小気泡の受信音響応答信号の低調波及び/又はウルトラハーモニック周波数に対応するスペクトルラインの時間の関数としての変動量を定期的に測定する。受信応答信号は、所定の検出通過帯域を有する受動キャビテーション検出器によって検出される。
-それを定量化することによって、数MDDaによって各時刻taにおいて定義される安全性マーカーの、その時系列の時間taに渡る時間の関数としての変動量を決定する。この数MDDaは、時刻taで測定される、微小気泡の受信音響応答信号の低調波及び/又はウルトラハーモニック周波数に対応する、スペクトルラインの面積の合計と、第1の時刻t1で測定された、微小気泡の音響応答信号の低調波及び/又はウルトラハーモニック周波数に対応する、スペクトルラインの面積の合計との比率に等しい。
【0030】
特定の実施形態によれば、スペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するためのシステムは、以下の特徴のうちの1つ又は複数を含む。
-各時刻taにおける、微小気泡の受信音響応答信号の低調波及び/又はウルトラハーモニック周波数に対応するスペクトルラインの測定は、観察ウィンドウwa内で受信された応答信号を利用しており、この観察ウィンドウwaは時刻taを含み、且つ、くだんのショットに対応する受信時間間隔内に含まれている。
-観察又は分析ウィンドウwaは、隣接しているか、又は分離しているか、又はペアごとに縁部が僅かに部分的に重なっている。
【0031】
本発明の別の主題は、コンピュータプログラム又は製品であり、このコンピュータプログラム又は製品は、上記で定義したスペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するためのシステム内に実装される1つ又は複数のコンピュータ中にロードされ、そのコンピュータによって実行されたときに、上記で定義したスペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するための方法を実行するように構成された一組の命令を含む。
【0032】
本発明の別の主題は、微小気泡を含む軟血管新生した生体組織の領域を標的とした治療に超音波支援を提供するためのシステムであり、このシステムは、以下を含む。
-所定の放射周波数fで1つ又は複数の励起ショットの治療シーケンスを励起及び放射するためのデバイス。前述のショットは、生体組織の治療対象領域に焦点を合わせている。
-シーケンスのショットに応答して、当該領域内に含まれる微小気泡の応答を検出し測定するための受動キャビテーションセンサ、
-上述したように、スペクトル分析を実施し、微小気泡の不安定化状態を表す安全性マーカーを決定するためのシステム、
-超音波励起デバイスの1つ又は複数のショットのパラメータを制御するための、命令及び制御デバイス、
受動キャビテーションセンサ、スペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するためのシステム、命令及び制御デバイス、及び超音波励起デバイスは、安全フィードバックループを形成するように、鎖状に直列に配置される。
【0033】
本発明は、幾つかの実施形態についての以下の説明を読むと、よりよく理解されるであろう。これらの実施形態の説明は、単に例として、図面を参照して与えられる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】微小気泡を含む生体組織の領域を標的とした治療に超音波支援を提供するためのシステムの概略図であり、スペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するためのシステムは、前述の超音波支援を提供ためのシステムに統合されている。
図2】気体の微小気泡を用いた治療(例えば、血液脳関門の開口、音透過処理)のための超音波シーケンスの図である。
図3】超音波ショットのシーケンスの適用に応答した微小気泡の応答の周波数コンテンツの図である。
図4】スペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するための方法の図である。前述の方法は、シーケンスの各ショット中に実行される。
図5】1回の超音波ショット中に微小気泡から発生した受信キャビテーション信号の、複数の時間ウィンドウw(aは1からkまで変化する)への分割を表す図である。
図6】霊長類の脳への、0.5MHzで送信された超音波励起ショット中の微小気泡の不安定化の前後のスペクトル応答の一例の図である。
図7】霊長類の脳に適用された500kHzで10msのショット中の、微小気泡(SonoVue)の信号から得られたウルトラハーモニック成分(1.5f、2.5f、3.5f)の線量の変動量を表す図である。第1の例は出血の出現につながり、第2の例は出血に至らない。
図8A】出血しない場合(図8A)及び出血した場合(図8B)での、霊長類に適用された超音波シーケンス中のウルトラハーモニック信号の測定値の図である。
図8B】出血しない場合(図8A)及び出血した場合(図8B)での、霊長類に適用された超音波シーケンス中のウルトラハーモニック信号の測定値の図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1では、微小気泡8を含む生体組織6の領域4を標的とした治療に超音波支援を提供するためのシステム2は、以下を含む。
-所定の放射周波数fで1つ又は複数の励起波列の治療シーケンスを励起及び放射するためのデバイス12。前述の列は「ショット」と呼ばれ、生体組織6の治療対象の領域4に焦点を合わせている。
-シーケンスのショットに応答して、領域4内に含まれる微小気泡の応答を検出し測定するための、1つ又は複数の受信トランスデューサを使用して形成される、受動キャビテーションセンサ14。
-スペクトル分析を実施し、微小気泡8の不安定化状態を表す安全性マーカーを決定するための、本発明によるシステム16。
-励起デバイス12の1つ又は複数のショットのパラメータを制御するための、命令及び制御デバイス18。
【0036】
励起周波数fは、生物学的バリアの局所的で可逆の開口が、組織8の治療領域4内で誘起されることを可能にするように、選択される。
【0037】
受動キャビテーションセンサ14は、受信電気音響トランスデューサの通過帯域に依存する受信通過帯域を有する。
【0038】
スペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するための本発明によるシステム16は、例えば、1つ又は複数の電子コンピュータから構成される。
【0039】
スペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するための本発明によるシステム16は、所定の数Nbのショットのシーケンスの各ショットBbがトリガーされた後で(Nbは1以上の整数、bは1~Nbの間に含まれ、シーケンス中の順序を示すインデックスである)、以下を行うように構成される。
-ショットBb中に、一連の時刻taにおいて、微小気泡の受信音響応答信号の低調波及びウルトラハーモニック周波数に対応するスペクトルラインの時間の関数としての変動量を定期的に測定する。受信応答信号は、所定の検出通過帯域を有する受動キャビテーション検出器によって検出される。
-それを定量化することによって、数MDDによって各時刻taにおいて定義される安全性マーカーの、その時系列の時間taに渡る時間の関数としての変動量を決定する。この数MDDは、時刻taで測定される、微小気泡の受信音響応答信号の低調波及び/又はウルトラハーモニック周波数に対応する、スペクトルラインの面積の合計と、第1の時刻t1で測定された、微小気泡の音響応答信号の低調波及び/又はウルトラハーモニック周波数に対応する、スペクトルラインの面積の合計との比率に等しい。
【0040】
励起デバイス12の1つ又は複数のショットのパラメータを制御するための命令及び制御デバイス18は、安全性マーカー及び/又は警告情報からリアルタイムで情報を受け取り、また、この情報に基づいて、組織の安全性のために必要な場合には、励起デバイスを抑制する(ショットを停止する、ショットシーケンスのパラメータを調整する)ように構成される。
【0041】
自動安全フィードバックループ20は、鎖を形成するように、図1に示されるような、キャビテーションセンサ14、スペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するためのシステム16、1つ又は複数のショットのパラメータを制御するための命令及び制御デバイス18、及び1つ又は複数の超音波ショットの治療シーケンスを励起し放射するためのデバイス12を直列に配置することにより、形成することができる。
【0042】
超音波励起信号は、「ショット」と呼ばれる、1以上の所定の整数Nbの波列から構成される超音波シーケンスによって形成される。
【0043】
図2では、治療用超音波シーケンス52は、複数の波列54(又は「バースト」)から構成され、これらの複数の波列54は、以下では「ショット」と呼ばれ、繰り返され、休止時間によって分離される。通常、3~10msの間に含まれる持続時間のショットが、30秒~10分のシーケンス持続時間又は露出時間の間、通常5~10Hzの間に含まれる繰り返し周波数値で、繰り返される。
【0044】
序文で既に説明したように、現在、(安定又は慣性)キャビテーションは、波列に対する微小気泡の全体的な音響応答、即ち、各ショットの総持続時間に渡る平均、に対してスペクトル分析を実施することにより、検出される。上述したように、微小気泡は、不安定化に関係した特定の(低調波及びウルトラハーモニック)周波数を放射することがある。
【0045】
図3には、あるショットの全スペクトルコンテンツ62における、低調波及びウルトラハーモニック周波数でのラインの外観が示されている。ここでは、1つの低調波ライン64が0.5fにおいて見られ、3つのウルトラハーモニックライン66、68、70が、それぞれ1.5f、2.5f、及び3.5fにおいて見られる。低調波及びウルトラハーモニックラインの外観は、長い持続時間のショット、即ち、fでの複数の波サイクルのショットが送信されたときに、強調される。
【0046】
本発明では、キャビテーション信号は、超音波治療の安全性マーカーをリアルタイムで決定するために使用され利用される。
【0047】
本発明は、治療シーケンスの安全性を確保するために、超音波ショット(放射された励起波列)中の低調波及びウルトラハーモニック周波数の変動量の測定に基づいている。本発明につながったデータは、スペクトルコンテンツにおける低調波及びウルトラハーモニック周波数でのラインの出現は、超音波ショット中に発生し、且つその後ショットの持続時間の間続く、突然の現象であることを示している。この現象の検出は、一旦、新しい無傷の気泡がショット体積中に入った後で新しいショットを再開する前に、超音波ショットを停止するために、直ちに使用されることがある。シーケンスも、この現象の繰り返しを回避するために、超音波振幅及び/又はショットの持続時間の点で、動的に調節されることがある。
【0048】
従って、ショット中のこの現象の出現を観察するというアイデアにより、前述の現象が発生する時刻を正確に定義することが可能になり、従って、超音波シーケンスの以後のショットの持続時間を呼応して、即ち、設定済みの態様で又は好ましくは動的に、調節することが可能になる。
【0049】
本発明の方法による、ショット中のこの現象の測定は、ショット全体の周波数分析に基づく従来の検出ツールよりも、感度が高い。
【0050】
キャビテーションセンサにより測定されたデータの従来の分析の場合には、これらの突然の出現の現象は、検出されることなく発生することがある。具体的には、従来の分析は、結果的にショット全体に渡る周波数コンテンツの平均を取ることになる。明らかに、たとえこの現象がショットの最後に現れたとしても、この平均化により、低調波及びウルトラハーモニック成分がマスクされることになり、従って、それらは周波数分析の間、観察されない(又は、本来あるべきように適切には観察されない)ことになる。
【0051】
平均化による有用なパラメータのこの希釈効果に加えて、この種のショット毎の追跡は、各ショットが異なる気泡のクラウドに発射されるならば、独立した事象を観察するということに、留意されたい。ショット全体に対する応答信号を分析する、これまでに提案されている従来の方法は、微小気泡を注入する前に取得された信号を参照として使用する。この取得により、とりわけ、骨によって反射された信号及び媒体中の超音波の非線形の伝搬を考慮に入れることが可能になる。しかしながら、この取得は、治療の数秒から数分前に行われる。この取得には制約がある、というのも、微小気泡の注入中に潜在的に評価されることになる全ての超音波振幅について、且つ、治療中のトランスデューサの全ての位置について、繰り返されなければならないからである。このことは、超音波システム及び患者が、治療全体を通じて、完全に不動のままであることを必要とする。
【0052】
対照的に、本発明によれば、気泡をショットの開始時の気泡と比較することにより観察されるのは、ショット中の同じ気泡の信号の変動量、即ち、超音波の下での不安定化のダイナミクスである。事前の数サイクルと同じ気泡を参照するので、また超音波への最近の露出が唯一の変数であるので、そのような分析により、より物理的に関連のあるパラメータが戻されることは、理にかなっている。本発明の方法を用いると、従来の方法で直面した前述の困難は解消される、というのも、参照信号は、治療及び超音波の適用中のショットの第1のウィンドウw1において測定されるからである。その結果として、時間が節約され、歪みの原因が回避される。
【0053】
一般的に、本発明によるスペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するための方法は、スペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するためのシステム16によって実施される。
【0054】
本発明による安全性マーカーは、生体組織6の領域4内に含まれる微小気泡の不安定化状態を表しており、前述の微小気泡8は、前述の領域4において生物学的バリアの局所的で可逆の開口を誘起するために、所定の放射周波数fで超音波励起信号にさらされ、微小気泡8の前述の不安定化状態は生体組織6にとって有害である。
【0055】
超音波励起信号は、1以上の所定の整数Nbのショットから構成される超音波シーケンスによって形成される。
【0056】
スペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するための方法は、各ショットBbがトリガーされた後で(bは1~Nbの間に含まれる)、スペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するためのシステムが、以下を行うことを、特徴とする。
-ショットBb中に、一連の所定の整数kの時刻taにおいて(aは1からkまで変化する)、微小気泡の受信音響応答信号の低調波及びウルトラハーモニック周波数に対応するスペクトルラインの時間の関数としての変動量を定期的に測定する。受信応答信号は、所定の検出通過帯域を有する受動キャビテーション検出器によって検出される。
-それを定量化することによって、数MDDaによって各時刻taにおいて定義される安全性マーカーの、時間taに渡る時間の関数としての変動量を決定する。この数MDDaは、時刻taで測定される、微小気泡の受信音響応答信号の低調波及び/又はウルトラハーモニック周波数に対応する、スペクトルラインの面積の合計と、第1の時刻t1で測定された、微小気泡の音響応答信号の低調波及び/又はウルトラハーモニック周波数に対応する、スペクトルラインの面積の合計との比率に等しい。
【0057】
微小気泡の受信音響応答信号の低調波及びウルトラハーモニック周波数に対応するスペクトルラインの各時刻taにおける測定は、観察ウィンドウwa内で受信された応答信号を利用しており、この観察ウィンドウwaは時刻taを含み、且つ、くだんのショットに対応する受信時間間隔内に含まれている。
【0058】
観察又は分析ウィンドウwaは、隣接しているか、又は分離しているか、又はペアごとに縁部が僅かに部分的に重なっている。
【0059】
一方では、参照として働く第1のウィンドウw1は、信号に安定化する時間を与えるように、ショットの開始に対して僅かにオフセットされることがあり、他方では、参照スペクトルが計算されるウィンドウw1の持続時間は、連続した個々の観測ウィンドウの持続時間よりも長いか、又は複数の連続したウィンドウの合計の持続時間よりも長いことがあることに、留意されたい。これにより、より雑音の少ない参照スペクトルが得られる。
【0060】
図4では、本発明によるスペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するための方法102が、一組のステップ106、108、110、112、114、及び116を含み、この方法は、シーケンスの各ショットBb中に実行され、bは1~Nbの間に含まれる。
【0061】
第1の測定及びセグメント化ステップ106では、超音波ショットBbに対する微小気泡8の時間応答信号は、等しい持続時間の所定の整数k(kは2以上)の時間ウィンドウwa(aは1からkまで変化する)に分割され、これらの時間ウィンドウwaにより、超音波波列Bb中の周波数成分の変動量が決定可能になり、前述の信号は、受動キャビテーション検出器14によって前もって受信され検出される。
【0062】
ウィンドウwaの数k及びそれらのサイズtwは、治療に使用される超音波ショットの長さT及び周波数fに直接的に依存する。
【0063】
通常、現在の研究では、バリアの可逆の開口は、ショットの長さが数マイクロ秒から数十ミリ秒まで変化する超音波ショットを用いて得られる。理論的な見地からは、この方法を実施するには、等しいサイズの2つの時間ウィンドウで十分である。このとき、第1の時間ウィンドウw1は参照として使用され、第2のウィンドウw2は微小気泡から受信した信号の変動量を観測することを可能にする。
【0064】
しかしながら、ウィンドウの数kが十分に多くない場合、低調波及びウルトラハーモニック周波数が出現する時刻を正確に(この正確さは、ウィンドウの数及びサイズに依存する)決定すること、従って、シーケンス中の超音波ショットの時刻及び振幅を効果的に調節することは不可能である。それはそれとして、長すぎる時間ウィンドウを使用すると、受信信号の周波数コンテンツの平均化につながり、低調波及びウルトラハーモニック周波数を検出するのが困難になる。従って、この方法の感度を高めるために、収集された信号を、多数のk個の連続した(可能であれば、数十回の超音波サイクルの)比較的に短い時間ウィンドウに細分することが推奨される。
【0065】
第1のステップ106の後で実行されるスペクトル計算の第2のステップ108では、時間ウィンドウwa(a、1<a<k)毎に、前述のウィンドウwaに含まれる、波列Bbに対する微小気泡の音響応答信号の部分の周波数スペクトルが、その信号の分析を周波数ドメインにおいて実施できるようにするために、計算される。
【0066】
周波数スペクトルを計算するための方法は、フーリエ変換を使用することが好ましい。
【0067】
検討される時間信号内のサイクルの数nは、スペクトル分析中の周波数成分の重複を避けるために、十分に高くなければならない(n>8超音波サイクル)。
【0068】
要約すると、第1のステップ106及び第2のステップ108の要件を考慮に入れると、ウィンドウwaの持続時間は、8サイクル~ショットの持続時間Tの半分の間に含まれる。ウィンドウwaの数kは、2以上であり、且つ、1回のショットの持続時間Tに超音波励起周波数fをかけた積の8分の1以下である。
【0069】
第2のステップ108の後で実行される、ショットBd中の、キャビテーション信号s(a)の変動量を計算する第3のステップ110では、時間ウィンドウwa(aは1からkまで変化する)毎に、キャビテーション信号s(a)が、第2のステップ108で提供された、周波数ドメインでの信号の表現から、時刻taで測定された、微小気泡の音響応答信号の低調波及び/又はウルトラハーモニック周波数に対応するスペクトルラインの面積の合計になるように、計算される。
【0070】
考慮されるべきウルトラハーモニック成分の数は、デバイス、及びキャビテーション検出のために使用される1つ又は複数のトランスデューサの通過帯域に応じて、変化することがある。これは、様々な成分の検出の信号対雑音比の問題である。分析は、1つの成分に対して(好ましくは、f/2又は3f/2。これらは、気泡によって最も強く放射される)、又は複数の成分に対して(例えば、f/2、3f/2、5f/2、及び7f/2、又は受動キャビテーションセンサ14が許すなら、それ以上)実行されることがある。
【0071】
スペクトル帯域の曲線下のスペクトルラインの面積に加えて又はその代わりに、これらのウルトラハーモニック及び/又は低調波成分に起因するピークの振幅も、キャビテーション信号のこの計算において考慮されることがあることに、留意されたい。これらの周波数成分を計算するために使用されるスペクトル帯域Δfは、放射周波数f、及び測定デバイスのサンプリング周波数、及び時間ウィンドウwaの持続時間に依存する。本発明に関して実施された研究では、この方法は、0.04*fから0.5*fの範囲の、好ましくは約0.1*fのスペクトル帯域Δfに、効果的に適用することができることが実証されている。スペクトル帯域の幅は、測定ノイズを最小限に抑えるために、時間ウィンドウのサイクルの数にあわせて調整されなければならない。サイクルの数nが多い場合、スペクトル帯域Δfは狭くなければならず、逆に、サイクルの数nが少ない場合、スペクトル帯域Δfは広くなければならない。
【0072】
変形例として、キャビテーション信号は、ウルトラハーモニック及び/又は低調波成分毎に別々に計算されることがあり、関連した態様で、より複雑なフィードバック方法の決定木が用いられることがあることに、留意されたい。例えば、キャビテーションセンサの通過帯域及び周囲の電子ノイズ(低周波数においてより大きくなる)に応じて、f/2での成分の振幅が「爆発する」、即ち、過大になるものの、3f/2での成分の振幅が許容可能なままである場合、フィードバックを適用する試みにおいて、ビームを短く切り詰めることなく、ビームの振幅が低減され、3f/2での成分の振幅がしまいには同様に「爆発」する場合には、ショットは最終的に短く切り詰められる。
【0073】
第3のステップ110の後で実行される、キャビテーションマーカーs(a)の、ショットBb中の変動量を計算する第4のステップ112では、ショットBbの時間ウィンドウwa(aは1からkまで変化する)毎に、スペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するためのシステムは、「キャビテーション線量MDD」と呼ばれる安全性マーカーMDDを計算し(MDDは微小気泡不安定化線量(Microbubble Destabilization Dose)を表す)、この安全性マーカーは、a番目のウィンドウwa内のキャビテーション信号s(a)と、第1の時間ウィンドウw1のキャビテーション信号s(1)との比率に等しい数MDDによって定義され、即ち、
【数4】
であり、キャビテーション線量MDDaは、線形又は対数尺度で表現される。
【0074】
一般的に、観察又は分析ウィンドウwaは、隣接しているか、又は分離しているか、又はペアごとに部分的に重なっている。
【0075】
第1、第2、第3、及び第4のステップの実行は、シリアルモード又はパイプラインモードで順に行われることがある。
【0076】
例えば、第1の実施形態では、時間応答信号の分析は、連続した隣接する時間ウィンドウ内で実施される。
【0077】
第2の実施形態では、時間応答信号の分析は、スライドする時間ウィンドウで実施され、常に第1のウィンドウのキャビテーション信号s(1)に対する正規化を伴う。
【0078】
第4のステップ112の後で、スペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するためのシステムによって実行されるステップである、第1の警告パラメータAl1及び/又は第2の警告パラメータAl2の、ショットBb中の変動量を計算する第5のステップ114では、第1の警告パラメータAl1は、安全性マーカーMDDaが第1の所定の安全性閾値Th1を超えたときにアクティブ状態におかれ、第2の警告パラメータAl2は、安全性マーカーMDDaが第1の閾値Th1を超えた回数nfが第2の所定の閾値Th2を超えたときに、アクティブ状態におかれる。この回数nfは、連続したショットの間、又は代替的に必ずしも連続していないショットの間、カウントされることがある。
【0079】
第4のステップ112又は第5のステップ115の後で実行される第6のステップ116では、スペクトル分析を実施し安全性マーカーを決定するためのシステムは、以下のデータを、ショットパラメータを制御するフィードバックループ内に介在する命令及び制御デバイスに送信する。
-第4のステップで提供されたキャビテーション線量MDDであって、前述の線量はショット中に変化するキャビテーション線量MDD、並びに/又は、
-第5のステップで決定された、第1の警告パラメータ及び/若しくは第2の警告パラメータの状態Al1(a)、Al2(a)。
【0080】
例えば、キャビテーション線量MDDが第1の安全性閾値Th1を超えた場合、なおTh1はデータ及びデータ後処理に応じて、6~22dBの間で変化することがあり、好ましい値は約8dBであるが、このとき、ショットの超音波シーケンスは、フィードバックループを介してリアルタイムに調節されるか、なお制御パラメータは音圧の減少、ショットの持続時間の減少、及び任意選択的にショット間の間隔の中に含まれ、又は、望ましくない超音波関連の影響を回避するために停止されることがある。第2の安全性閾値Th2によって、閾値MDD、即ち第1の安全性閾値Th1を超えることがある(連続した又は連続していない)許容最大ショット回数を定義することも可能である。
【0081】
今日まで、超音波治療シーケンスの安全性を確保するために、本発明のマーカーMDDを使用して治療に対して超音波支援を提供するための方法及びシステムは、世の中に知られていなかった。現在、キャビテーション信号の周波数分析は、各ショットに応答して微小気泡により放射される応答信号の全体に対して、実行されている。
【0082】
1回のショットに応答して受信される信号を少なくとも2つの時間ウィンドウに分割することにより、そのショット中に、低調波及び/又はウルトラハーモニック成分に対応するラインの出現を観測することが可能になる。この出現現象は、受信したキャビテーション信号を少なくとも2つの時間ウィンドウに分割しないと、観測することも正確に定量化することもできない。
【0083】
有利にも、本発明による安全性バイオマーカーMDD、その計算方法、及び、フィードバックループの文脈での、ショットビームの音響特性を制御するためのMDDの使用により、気泡の不安定化を回避することが可能になる。気泡の不安定化は、気泡の外被の変更により、及び気泡に初めに含まれていた気体の拡散により生じるものであり、有害な生物学的影響の原因となり得る局所的で激しい物理的効果につながることがある。
【0084】
やはり有利にも、本発明の背景にある主な動機は治療プロトコルの安全性を向上させることであったが、微小気泡の不安定化を回避すると、微小気泡を血流の中でより長くアクティブに保つことが可能になり、従って、血液脳関門(BBB)を開き続けるために前述の微小気泡を使用することができる合計時間が長くなり、従って、治療の有効性を高めることができる。
【0085】
本発明によるMDD安全性マーカーを使用すると、確立された危害閾値、例えば8dBの閾値にショット中に達していないならば、ショットの長さを長くすることができ、ビームの振幅を大きくすることができ、又はショットのデューティサイクルを増加させることができることがある。微小気泡の不安定化をより少なくすることを保証することにより、微小気泡が血液中を循環するのに費やされる時間が長くなり、従って、血管壁との相互作用が可能な合計時間が長くなる。従って、本発明によるMDD安全性マーカーは効率最適化ツールとしてはたらくことができ、このツールは、高調波キャビテーション線量などの他のより従来式のツールと組み合わせることが可能である。
【0086】
図5には、0.5MHzの周波数fで霊長類に送信された10msの波列、即ちショットに対する、微小気泡、骨組織、及び軟組織から形成される媒体の音響応答信号202の一例が示されている。超音波ショットに対する微小気泡の応答202は、128μsの持続時間の、75個の等しい時間ウィンドウwa(図では参照番号208)(aは1から75まで変化する)に分割されている。
【0087】
第1のウィンドウw1は、必ずしも取得された応答信号の開始時刻で開始するわけではないことに留意されたい。この図5では、160μsの遅延が持ち込まれている。これにより、電子測定信号が安定化することができ、他のウィンドウとの比較が可能になる。
【0088】
図6は、微小気泡の不安定化前の第1のスペクトル応答222(黒線)と、微小気泡の不安定化後の第2のスペクトル応答224(灰色線)との間の、周波数1.5f、2.5f、3.5fにおけるそれぞれのウルトラハーモニック成分214、216、218の線量の変動量212の一例を示す。第1及び第2のスペクトル応答222、224は、受動キャビテーションセンサによって受信された微小気泡応答信号に基づいて、血液脳関門を開口する目的で、霊長類の脳に適用された500kHzでの10ミリ秒ショット中に2つの連続した観察時間ウィンドウで測定された。受信応答信号は、キャビテーションセンサを形成する音響トランスデューサを用いて測定され、その受信通過帯域は、1.5MHzを中心としていた。
【0089】
第1のスペクトル応答の測定と第2のスペクトル応答の測定とを分離する時間間隔は、1つの観察時間ウィンドウの持続時間、即ち128μsに等しかった。
【0090】
微小気泡の不安定化に対応したウルトラハーモニック周波数1.5f、2.5f、3.5fでのウルトラハーモニック信号は、第1のスペクトルと比較して、第2のスペクトルにおいて明確に現れており、関連するキャビテーション信号s(a)の明確な増加を伴っている。
【0091】
従って、ショット応答信号の各時間ウィンドウにおいて実行されるスペクトル分析に基づいて、微小気泡の不安定化を検出することができる。
【0092】
図7では、霊長類の脳に適用された500kHzでの10msのショット中の、微小気泡(SonoVue)の信号から得られたウルトラハーモニック成分(1.5f、2.5f、3,5f)の線量の変動量252が示されており、出血の出現につながった第1の例は、第1の曲線254(黒線)によって表現されており、出血に至らなかった第2の例は、第2の曲線256(灰色線)によって表現されている。
【0093】
第1及び第2の変動曲線254、256は、ウルトラハーモニック成分の出現が、適用される超音波パラメータ、患者、及び超音波にさらされる環境に応じて、一定の時間の後に発生する突然の現象であることを、示している。具体的には、励起が長いと気泡の繰り返しの振動を引き起こし、数回の励起サイクルの後で、気泡の潜在的な不安定化をもたらす。現在の超音波条件、即ち、霊長類で500kHz、ラットで650kHzでの10msの波列の下では、本発明に関する研究結果は、この現象が出現する平均時間は、霊長類の脳で5.4ミリ秒、ラットの脳で3.2ミリ秒であることを示している。実際には、微小気泡の不安定化事象のマーカーとして、8dBのMDD閾値が使用された。
【0094】
図8A及び図8Bは、有害な影響が見られなかった場合(図8A)と、霊長類の脳内に出血が観測された場合(図8B)の例を示す。
【0095】
超音波シーケンスによって誘起された微小気泡の不安定化は、超音波ショット中のウルトラハーモニック周波数の出現(図8Bでの明るい色)によって特徴付けられる。この特定の現象の観測は、磁気共鳴画像法(MRI)によって確かめられるように、霊長類の出血の観測と関連している。
【0096】
これらの例の場合、30秒間の超音波励起の期間に渡って、この現象の出現頻度は、出血の場合には73.8%であり、出血していない場合には0.7%であった。この現象の繰り返しの出現、即ち、連続したショット中の3つ以上の事象は、動物における望ましくない効果(浮腫及び出血)の存在と関連している。
【0097】
この例は、ウルトラハーモニック周波数(最初の3つのウルトラハーモニック)の研究に限定される、というのも、超音波キャビテーションセンサの限られた受信通過帯域により、この例では、低調波成分の信頼性の高い測定を行うことができなかったからである、ということに留意されたい。しかしながら、低調波信号を測定するのに適したキャビテーション検出トランスデューサを使用すると、低調波成分に対して、同様の研究を実施することが可能になる。
【0098】
図8Bでは、2つの異なる時間を識別することが可能である。即ち、垂直方向に、ショット中に気泡がウルトラハーモニックの放射を開始するまでのショット数である。次いで、この時間から水平方向に、ショットの開始から、気泡が前述のウルトラハーモニックの放射を開始するまでの時間である。これらの2つの時間は重要であり、媒体中の気泡の品質に関する情報を提供する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B