(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】軟磁性粉末およびその製造方法、軟磁性粉末を用いたコイル部品ならびに軟磁性粉末を用いた磁性体材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 1/24 20060101AFI20240419BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240419BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20240419BHJP
B22F 1/16 20220101ALI20240419BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20240419BHJP
B22F 9/00 20060101ALI20240419BHJP
H01F 1/33 20060101ALI20240419BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
H01F1/24
B22F1/00 W
B22F1/102 100
B22F1/16 100
B22F3/00 B
B22F9/00 B
H01F1/33 ZNM
H01F27/255
(21)【出願番号】P 2021535363
(86)(22)【出願日】2020-07-28
(86)【国際出願番号】 JP2020028927
(87)【国際公開番号】W WO2021020402
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-01-27
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2019139065
(32)【優先日】2019-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】石田 祐也
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】須原 宏光
【審判官】渡辺 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-128663(JP,A)
【文献】国際公開第2016/056351(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/131536(WO,A1)
【文献】特開2011-243830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-12/90
C22C 1/04-1/05
C22C 33/02
H01F 1/12-1/44
H01F 41/00-41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性金属材料で構成されるコアと、
前記コアの表面を被覆する絶縁膜と
を有してなる軟磁性粉末であって、
前記絶縁膜は絶縁性金属酸化物および鉄成分を含有し、該鉄成分は前記絶縁膜中に埋没しているものを含み、前記絶縁膜は前記鉄成分の粒子を含有
し、
前記絶縁膜が、磁性体である鉄成分を内包し、前記鉄成分の粒子が前記絶縁膜中で分散して存在する、軟磁性粉末。
【請求項2】
前記鉄成分は酸化鉄である、請求項1に記載の軟磁性粉末。
【請求項3】
前記鉄成分の粒子の平均粒径が5nm以上20nm以下である、請求項1又は2に記載の軟磁性粉末。
【請求項4】
前記絶縁性金属酸化物は金属アルコキシドの加水分解物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の軟磁性粉末。
【請求項5】
前記絶縁膜は有機物を更に含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の軟磁性粉末。
【請求項6】
前記有機物は、水溶性高分子および界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項5に記載の軟磁性粉末。
【請求項7】
前記絶縁膜は、C、NおよびPからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の軟磁性粉末。
【請求項8】
前記絶縁性金属酸化物は、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~7のいずれか1項に記載の軟磁性粉末。
【請求項9】
前記コアはFe系、Ni系またはCo系の軟磁性金属材料で構成される、請求項1~8のいずれか1項に記載の軟磁性粉末。
【請求項10】
前記絶縁膜の表面に前記鉄成分が存在しない、請求項1~9のいずれか1項に記載の軟磁性粉末。
【請求項11】
鉄を含有する酸化物の膜を更に含み、
前記鉄を含有する前記酸化物の膜が前記絶縁膜と前記コアの境界近傍に形成されている、請求項1~10のいずれか1項に記載の軟磁性粉末。
【請求項12】
軟磁性金属材料で構成されるコア、鉄塩、金属アルコキシド、ならびに水溶性高分子および界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種を溶媒中で混合してスラリーを得ることと、
前記スラリーを乾燥させて、前記コアおよび該コアの表面を被覆する絶縁膜を有してなる軟磁性粉末を得ることと
を含
み、
前記スラリーを得ることは、前記金属アルコキシドが加水分解されることを含む、軟磁性粉末の製造方法。
【請求項13】
前記鉄塩はアルコールに対して可溶性である、請求項
12に記載の軟磁性粉末の製造方法。
【請求項14】
前記鉄塩は、塩化鉄および硝酸鉄ならびにこれらの水和物からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1
3に記載の軟磁性粉末の製造方法。
【請求項15】
前記水溶性高分子および前記界面活性剤は、Feイオンと錯体を形成可能な配位子を有する、請求項12~1
4のいずれか1項に記載の軟磁性粉末の製造方法。
【請求項16】
前記水溶性高分子は、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸およびカルボキシメチルセルロースからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1
5に記載の軟磁性粉末の製造方法。
【請求項17】
前記界面活性剤は、ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテルリン酸ナトリウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムおよびラウリン酸ジエタノールアミドからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1
5または1
6に記載の軟磁性粉末の製造方法。
【請求項18】
前記金属アルコキシドがSi、Al、TiおよびZrからなる群から選択される少なくとも1種のアルコキシドである、請求項12~1
7のいずれか1項に記載の軟磁性粉末の製造方法。
【請求項19】
前記溶媒はアルコールを含む、請求項12~1
8のいずれか1項に記載の軟磁性粉末の製造方法。
【請求項20】
請求項1~11のいずれか1項に記載の軟磁性粉末および結着剤を含む磁心と、
コイル導体と
を含む、コイル部品。
【請求項21】
請求項1~11のいずれか1項に記載の軟磁性粉末を成形して成形体を得ることと、
前記成形体を熱処理して磁性体材料を得ることと
を含む、磁性体材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性粉末およびこれの製造方法、軟磁性粉末を含むコイル部品ならびに軟磁性粉末を用いた磁性体材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コイル部品等の磁性部品に用いられる磁性材料として、電気抵抗の大きい磁性材料が求められている。例えば、特許文献1には、少なくとも1種類以上からなる金属アルコキシドを含む溶液に金属粉末を加え、均一に分散させ、溶液に蒸留水を加えて、金属アルコキシドを加水分解させ、金属粉末の表面に水酸化物を吸着させ、濾過、乾燥、加熱して作られることを特徴とする磁性材料粉末が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気機器の小型化が進むにしたがって、電子部品の小型化も求められている。金属磁性体は、フェライトと比較して直流重畳特性が優れていることから、電子部品の小型化に有用である。金属磁性体をコイル部品等の電子部品に用いる場合、絶縁性の確保および磁気損失(コアロス)の低減を目的として、金属磁性体の表面に絶縁処理を施すことがある。しかしながら、本発明者は、金属磁性体の表面に絶縁処理を施した場合、透磁率を高くすることが困難であることを見出した。本発明者の検討によると、高周波磁気特性が求められる用途において、この問題は特に顕著なものとなる傾向にある。
【0005】
本発明の目的は、高い透磁率および高い電気抵抗を有する軟磁性粉末およびその製造方法、当該軟磁性粉末を用いたコイル部品、ならびに当該軟磁性粉末を用いた磁性体材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記問題を解決すべく鋭意検討した結果、軟磁性金属材料で構成されるコアの表面を被覆する絶縁膜中に鉄成分を導入することにより、より高い透磁率およびより高い電気抵抗を有する軟磁性粉末が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明の一態様によれば、軟磁性金属材料で構成されるコアと、
コアの表面を被覆する絶縁膜と
を有してなる軟磁性粉末であって、
絶縁膜は絶縁性金属酸化物および鉄成分を含有し、鉄成分は絶縁膜中に埋没している、軟磁性粉末が提供される。
【0008】
本発明の一態様によれば、軟磁性金属材料で構成されるコア、鉄塩、金属アルコキシド、ならびに水溶性高分子および界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種を溶媒中で混合してスラリーを得ることと、
スラリーを乾燥させて、コアおよびコアの表面を被覆する絶縁膜を有してなる軟磁性粉末を得ることと
を含む、軟磁性粉末の製造方法が提供される。
【0009】
本発明の一態様によれば、上述の軟磁性粉末および結着剤を含む磁心と、
コイル導体と
を含む、コイル部品が提供される。
【0010】
本発明の一態様によれば、上述の軟磁性粉末を成形して成形体を得ることと、
成形体を熱処理して磁性体材料を得ることと
を含む、磁性体材料の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る軟磁性粉末によれば、高い透磁率および高い電気抵抗を達成することができる。また、本発明に係る軟磁性粉末の製造方法によれば、高い透磁率および高い電気抵抗を有する軟磁性粉末を製造することができる。また、本発明に係るコイル部品によれば、高い透磁率および高い電気抵抗を有する磁性体材料で構成することができる。また、本発明に係る磁性体材料の製造方法によれば、高い透磁率および高い電気抵抗を有する磁性体材料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1a】本発明の実施形態に係る軟磁性粉末の断面のSTEM-EDX分析結果(C(炭素)元素のマッピング結果)である。
【
図1b】本発明の実施形態に係る軟磁性粉末の断面のSTEM-EDX分析結果(O(酸素)元素のマッピング結果)である。
【
図1c】本発明の実施形態に係る軟磁性粉末の断面のSTEM-EDX分析結果(Si(ケイ素)元素のマッピング結果)である。
【
図1d】本発明の実施形態に係る軟磁性粉末の断面のSTEM-EDX分析結果(Fe(鉄)元素のマッピング結果)である。
【
図2a】本発明の第1実施形態に係る軟磁性粉末の断面のTEM画像である。
【
図2b】本発明の第1実施形態に係る軟磁性粉末の断面のTEM画像である。
【
図3】本発明の第2実施形態に係るコイル部品を模式的に示す図である。
【
図4a】本発明の第3実施形態に係るコイル部品を模式的に示す斜視図である。
【
図4b】本発明の第3実施形態に係るコイル部品を構成する素体を模式的に示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係る軟磁性粉末について以下に説明する。本実施形態に係る軟磁性粉末は、軟磁性金属材料で構成されるコアと、コアの表面を被覆する絶縁膜とを有してなる。なお、本明細書において、膜が「絶縁膜」であるか否かは、体積抵抗率を基準として判定することができる。例えば、粉体抵抗測定器として三菱ケミカルアナリテック社製の高抵抗抵抗率計(ハイレスタ(登録商標)-UX MCP-HT800)を用いて、絶縁膜を有する軟磁性粉末のサンプル量を10gとして、荷重20kNにおいて測定した体積抵抗率が106Ωcm以上である場合、膜が「絶縁膜」であると判定することができる。同様に、本明細書において、「絶縁性」とは、体積抵抗率が106Ωcm以上であることを意味する。
【0014】
(コア)
コアを構成する軟磁性金属材料の種類は特に限定されるものではなく、用途等に応じて適宜選択することができる。コアは、Fe系、Ni系またはCo系の軟磁性金属材料で構成されることが好ましい。より具体的には、コアを構成する軟磁性金属材料は、例えば、Fe、Fe-Ni合金、Fe-Co合金、Fe-Si合金、Fe-Si-Cr合金、Fe-Si-Al合金またはFe-Si-B-Cr合金等であってよい。コアの平均粒径は、好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。コアの平均粒径を20μm以下の小粒径にすることで、小粒径の軟磁性粉末を得ることができる。軟磁性粉末が小粒径であると、後述するように高周波におけるコアロスを低減することができる。コアの平均粒径は、軟磁性粉末の断面を研磨により得て、この断面の電子顕微鏡画像を取得し、取得した画像を画像解析ソフトウェアで解析することにより求めることができる。
【0015】
(絶縁膜)
絶縁膜は、コアの表面を被覆している。絶縁膜は絶縁性金属酸化物および鉄成分を含有し、鉄成分は絶縁膜中に埋没している。ここで、絶縁性金属酸化物と鉄成分は異なる物質である。また、「埋没」とは、鉄成分の表面全体が絶縁膜中に埋まっていることを意味するが、一部の鉄成分が絶縁膜の表面に存在していてもよい。鉄成分が粒子状である場合、「埋没」とは、鉄成分の粒子表面全体が、絶縁膜を構成する成分(絶縁性金属酸化物および有機物)で覆われていることを意味するが、一部の鉄成分の粒子において、その表面の一部が絶縁膜の表面で露出していてもよい。
【0016】
絶縁膜の平均厚みは、好ましくは10nm以上100nm以下、より好ましくは20nm以上40nm以下である。絶縁膜の平均厚みが10nm以上、より好ましくは20nm以上であると、磁気特性の向上に寄与する鉄成分をその内部に埋没させることがより容易になる。絶縁膜の平均厚みが100nm以下、より好ましくは40nm以下であると、軟磁性粉末の透磁率をより一層高くすることができる。絶縁膜の平均厚みは、以下の手順で測定することができる。まず、測定する軟磁性粉末を樹脂埋めして研磨し、FIB(集束イオンビーム)加工によりSTEM-EDX観察用サンプルを作製する。このサンプルを用いて、STEM-EDXにより軟磁性粉末の断面を、1個の粒子につき3視野分撮影し、それぞれのEDX画像について、絶縁膜の厚みを等間隔の任意の4点において設定して測定する。3個の粒子について上述の測定を行い、全ての点(3視野×4点×3個=36点)で測定した絶縁膜の厚みから求めた平均値を「平均厚み」と定義する。
【0017】
本実施形態に係る軟磁性粉末は、軟磁性金属材料で構成されるコアの表面が絶縁膜で被覆されており、かつ絶縁膜中に磁性体である鉄成分が埋没しているので、より高い透磁率およびより高い電気抵抗を有する。換言すると、本実施形態に係る軟磁性粉末によれば、絶縁膜が磁性体である鉄成分を内包しているので、磁気特性の低下を抑制しつつ軟磁性粉末に絶縁性を付与することができる。さらに、本実施形態に係る軟磁性粉末は、コアの表面が絶縁膜で被覆されているので、本実施形態に係る軟磁性粉末を成形して磁性体材料を得た場合、軟磁性粉末のコア同士の接触が阻害され、磁性体材料の磁気損失をより低減することができる。
【0018】
上述した磁気特性の向上および電気抵抗の増大の効果は、高周波磁気特性が求められる用途において特に有用である。DC/DCコンバータなどのスイッチング周波数の高周波化が進むにしたがって、高周波スイッチングによるコアロスが低減したインダクタが求められている。磁性体材料として粒径の小さい軟磁性粉末を用いることにより、高周波におけるコアロスを低減することができる。しかしながら、軟磁性粉末は、粒径が小さくなるほど透磁率が小さくなってしまう傾向にある。そのため、高周波におけるコアロスの低減と高い透磁率とを両立することが困難であった。これに対し、本実施形態の軟磁性粉末は、軟磁性金属材料で構成されるコアの表面を被覆する絶縁膜が磁性を有する鉄成分を含んでいるので、軟磁性粉末の粒径が小さい場合であっても、より高い透磁率を実現することができる。
【0019】
絶縁膜中に鉄成分が埋没しているか否かは、STEM-EDX(走査型透過電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析)により以下の手順で確認することができる。まず、測定する軟磁性粉末を樹脂埋めして研磨し、FIB加工によりSTEM-EDX観察用サンプルを作製する。このサンプルを用いて、STEM-EDX装置により絶縁膜の断面の元素マッピングを行う。元素マッピング結果の一例を
図1a~
図1dに示す。コアはFe:Si=93.5:6.5(重量比)のFeSi合金を用いた。
図1aはC(炭素)元素のマッピング結果であり、
図1bはO(酸素)元素のマッピング結果であり、
図1cはSi(ケイ素)元素のマッピング結果であり、
図1dはFe(鉄)元素のマッピング結果である。
図1a~
図1dの元素マッピング結果から、図中の2本の破線で挟まれた領域が絶縁膜であり、絶縁膜の下方の領域がコアであることがわかる。
図1dから、絶縁膜中に鉄成分が存在していることがわかる。
図1dに示すように絶縁膜中に鉄元素が検出された場合、絶縁膜中に鉄成分が埋没しているといえる。なお、
図1d、後述する
図2aおよび
図2bに示されるように、鉄成分は絶縁膜の表面近傍よりもコアの近傍により多く分布し得る。なお、電子部品に含まれる軟磁性粉末について絶縁膜中の鉄成分を分析する場合には、電子部品の断面について上述の分析を行うことにより、鉄成分が埋没しているか否かを確認することができる。
図1bと
図1cから、ケイ素元素と酸素元素とがほぼ同じ位置で検出されているので、絶縁膜が絶縁性金属酸化物としてケイ素の酸化物を含有していることが確認できる。
【0020】
絶縁膜の形成後、絶縁膜の表面に別途鉄成分を付与するなどにより、絶縁膜の表面に鉄成分を存在させることも可能であるが、絶縁膜の表面には、鉄成分が存在しないことが好ましい。すなわち、絶縁膜の表面には、鉄成分以外の成分のみ(例えば、絶縁性金属酸化物および有機物のみ)が存在することが好ましい。絶縁膜の表面に鉄成分が存在していると、軟磁性粉末の電気抵抗が低下してしまうおそれがあり、また、耐湿性が低下してしまうおそれがある。絶縁膜の表面に鉄成分が存在しているか否かは、XPS(X線光電子分光法)により確認することができる。絶縁膜のXPS分析によりFeに由来するピークが検出されなかった場合、絶縁膜の表面に鉄成分は存在していないと判断することができる。
【0021】
鉄成分は、鉄元素を含む成分である。鉄成分は鉄を含む酸化物であることが好ましく、酸化鉄であることがより好ましい。この場合、酸化鉄の組成(鉄の酸化数)は特に限定されない。鉄成分は、マグヘマイト、ヘマタイト、マグネタイトのような磁性を持つ酸化物であり得る。酸化鉄は金属鉄よりも抵抗率が高いので、鉄成分が酸化鉄であると、絶縁膜の絶縁性がより一層向上し得る。鉄成分が酸化鉄であるか否かは、上述した元素マッピングにより確認することができる。
図1bおよび
図1dに示すように鉄元素と酸素元素とがほぼ同じ位置で検出される場合、鉄成分は酸化鉄であると考えられる。
【0022】
絶縁膜は鉄成分の粒子を含有することが好ましい。換言すると、絶縁膜中において鉄成分は粒子の形態で存在することが好ましい。鉄成分の粒子は、その表面全体が絶縁膜を構成する成分(絶縁性金属酸化物および有機物)で覆われており、絶縁膜中で分散して存在する。鉄成分が粒子の形態で存在しているか否かは、上述の元素マッピングおよび絶縁膜の断面の透過電子顕微鏡(TEM)画像により確認することができる。絶縁膜の断面のTEM画像の一例を
図2aおよび
図2bに示す。
図2bに示すように、TEM画像において、格子縞が観察される領域が鉄成分の粒子に対応する。TEM画像における格子縞は、結晶質の存在を示している。
【0023】
鉄成分の粒子の平均粒径は、5nm以上20nm以下であることが好ましい。平均粒径が5nm以上であれば、軟磁性粉末の比透磁率をより一層高くすることができる。平均粒径が20nm以下であれば、鉄成分の粒子を磁区のサイズよりも小さくすることができ、磁気損失をより一層低減することができる。すなわち、絶縁膜は、鉄成分のナノ粒子(粒径がナノメートルオーダーの結晶)を含むことが好ましい。鉄成分の粒子の平均粒径は、TEM画像に基づいて以下の手順で求めることができる。TEM画像において、10個の鉄成分の粒子それぞれについて、長径(最も長い径)および短径(最も短い径)を測定し、長径および短径の平均値をその粒子の粒径とする。このようにして求めた10個の粒子の粒径の平均値を平均粒径と定義する。
【0024】
絶縁膜中の鉄成分の含有量は、コアの重量に対する絶縁膜中のFeの重量の割合から算出した場合、例えば、0.3重量%以上5重量%以下、好ましくは0.5重量%以上3重量%以下である。鉄成分の含有量が0.5重量%以上であると、軟磁性粉末の透磁率をより一層高くすることができる。鉄成分の含有量が3重量%以下であると、電気抵抗をより一層高くすることができる。絶縁膜中の鉄成分の含有量は、鉄成分の原料である鉄塩の仕込み量から推測することができる。
【0025】
絶縁膜を構成する絶縁性金属酸化物は、金属アルコキシドの加水分解物であることが好ましい。絶縁膜は後述するように有機物を含み得る。融点の高い絶縁性金属酸化物と融点の低い有機物とがハイブリッド化した絶縁膜は、低温プロセスで絶縁性金属酸化物を生成することが可能な金属アルコキシドの加水分解反応を利用することにより形成することができる。金属アルコキシドの詳細については後述する。絶縁性金属酸化物は、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。また、絶縁性金属酸化物は非晶質であることが好ましい。
【0026】
絶縁膜は有機物を更に含有することが好ましい。有機物は、水溶性高分子および界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。水溶性高分子および界面活性剤は、後述するように、コアの表面に絶縁膜を形成する際に、鉄成分の絶縁膜中への導入を助けるはたらきをする。水溶性高分子および界面活性剤の詳細は後述する。
【0027】
絶縁膜は、C、NおよびPからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有することが好ましい。これらの元素は、水溶性高分子および/または界面活性剤に由来するものである。
【0028】
絶縁膜中において、絶縁性金属酸化物と有機物(水溶性高分子および/または界面活性剤)とは、ハイブリッド化した状態(分子レベルで均一に混合した状態)で存在している。絶縁性金属酸化物と有機物とがハイブリッド化しているか否か、および有機物の構成元素については、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用いて絶縁膜の分析を行い、得られたIRスペクトルにおけるOH基のピークシフトに基づいて確認することができる。有機物の構成元素については、ガスクロマトグラフィ-質量分析法(GC-MS)により軟磁性粉末の分析を行い、検出された有機成分に基づいて確認することもできる。
【0029】
軟磁性粉末の表面において、コアの一部が絶縁膜に覆われずに露出していてもよいが、コアの表面全体が絶縁膜に覆われていることが好ましい。軟磁性粉末における絶縁膜による平均被覆率は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%以上、特に好ましくは100%である。
【0030】
(軟磁性粉末の製造方法)
次に、第1実施形態に係る軟磁性粉末の製造方法について説明する。第1実施形態に係る軟磁性粉末の製造方法は、軟磁性金属材料で構成されるコア、鉄塩、金属アルコキシド、ならびに水溶性高分子および界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種を溶媒中で混合してスラリーを得ることと、
スラリーを乾燥させて、コアおよびコアの表面を被覆する絶縁膜を有してなる軟磁性粉末を得ることと
を含む。
【0031】
(スラリーの調製)
まず、軟磁性金属材料で構成されるコア、鉄塩、金属アルコキシド、ならびに水溶性高分子および界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種を溶媒中で混合してスラリーを得る。
【0032】
コアを構成する軟磁性金属材料の種類および平均粒径は上述したとおりである。なお、原料のコアの平均粒径と、得られる軟磁性粉末中のコアの平均粒径とは、実質的に同じであると考えて差し支えない。原料のコアの平均粒径は、レーザー回折式の粒度分布測定装置等を用いることにより測定することができる。また、原料のコアの平均粒径は体積基準のメジアン径で表すことができる。
【0033】
(鉄塩)
鉄塩は、絶縁膜に含まれる鉄成分の原料となる。鉄塩は、例えば、塩化鉄、硫酸鉄、硝酸鉄、リン酸鉄および亜硝酸鉄等の無機塩ならびにその水和物、シュウ酸鉄、酢酸鉄、コハク酸鉄およびリンゴ酸鉄等の有機塩、ならびに錯塩等、任意の鉄塩を選択することができる。溶媒としてアルコールを用いる場合、鉄塩は、アルコールに対して可溶性であることが好ましい。具体的には、鉄塩は、塩化鉄および硝酸鉄ならびにこれらの水和物からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。鉄塩として、1種類の鉄塩を単独で用いてよく、あるいは2種類以上の鉄塩を組み合わせて用いてもよい。鉄塩は、コアの重量に対して0.1重量%以上20重量%以下の割合で添加することが好ましい。
【0034】
(金属アルコキシド)
金属アルコキシドは、絶縁膜に含まれる絶縁性金属酸化物の原料となる。スラリー中で金属アルコキシドが加水分解することにより、コアの表面に絶縁性金属酸化物を含む絶縁膜が形成される。金属アルコキシドの加水分解反応を利用することにより、絶縁性金属酸化物と有機物(水溶性高分子および/または界面活性剤)とがハイブリッド化した絶縁膜を形成することができる。
【0035】
金属アルコキシドは化学式M(OR)x(M:金属元素、OR:アルコキシ基)で表される。金属アルコキシドを構成する金属種Mは、Li、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Ti、Cu、Sr、Y、Zr、Ba、Ce、TaおよびBiからなる群から選択される少なくとも1種であってよい。なかでも、金属アルコキシドは、Si、Ti、AlおよびZrからなる群から選択される少なくとも1種のアルコキシドであることが好ましく、Siであることがより好ましい。金属アルコキシドがSi、Ti、AlおよびZrからなる群から選択される少なくとも1種のアルコキシドであると、より高い強度およびより高い比抵抗を有する絶縁性金属酸化物を形成することができる。さらに、金属種MがSiであると、金属アルコキシド(Si(OR)4)が化学的により安定になるので、製造時の取り扱いがより容易である。
【0036】
金属アルコキシドを構成するアルコキシ基ORは特に限定されるものではなく、例えば炭素数が10以下、特に5以下、より特には3以下のアルコキシ基であってよい。炭素数が小さいほど、加水分解反応をより容易に進行させることができる。アルコキシ基は、例えばメトキシ基、エトキシ基およびプロポキシ基からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。具体的には、金属アルコキシドは、テトラエチルオルソシリケート、チタンテトライソプロポキシド、ジルコニウム-n-ブトキシドおよびアルミニウムイソプロポキシドからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0037】
本実施形態に係る製造方法において、1種類の金属アルコキシドを用いてよく、2種類以上の金属アルコキシドを組み合わせて用いてもよい。金属アルコキシドは、コアの重量に対して、得られる絶縁性金属酸化物に換算して0.1重量%以上5重量%以下の割合で添加することが好ましい。
【0038】
(水溶性高分子および界面活性剤)
水溶性高分子および界面活性剤は、鉄成分の絶縁膜中への導入を助けるはたらきをする。水溶性高分子および界面活性剤は、Feイオンと錯体を形成可能な配位子と、金属アルコキシドの加水分解物と水素結合を形成し得るプロトン受容基および/またはプロトン供与基とを有する。そのため、Feイオンと配位結合した水溶性高分子および/または界面活性剤が金属アルコキシドの加水分解物と水素結合を形成することにより、鉄成分が絶縁膜中に取り込まれることになる。Feイオンと錯体を形成可能な配位子として、例えば、Feイオンの空のd軌道に電子を与えることのできる孤立電子対を備える官能基等を有する化合物等を用いることができる。
【0039】
水溶性高分子は、アニオン性、カチオン性およびノニオン性のいずれであってもよく、例えば、ポリエチレンイミン、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)、ポリビニルアルコールおよびゼラチンからなる群から選択される少なくとも1種を用いることができる。なかでも、水溶性高分子は、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸およびカルボキシメチルセルロースからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0040】
界面活性剤は、アニオン性、カチオン性、ノニオン性および両性のいずれであってもよく、例えば、脂肪酸塩、α-スルホ脂肪酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキル硫酸トリエタノールアミン、脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウムクロリド、アルキルピリジニウムクロリド、アルキルカルボキシベタインからなる群から選択される少なくとも1種を用いることができる。なかでも、界面活性剤は、ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテルリン酸ナトリウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムおよびラウリン酸ジエタノールアミドからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0041】
Feイオンと錯体を形成する有機物として、1種類の水溶性高分子を単独で用いてよく、2種類以上の水溶性高分子を組み合わせて用いてもよい。あるいは、Feイオンと錯体を形成する有機物として、1種類の界面活性剤を単独で用いてよく、2種類以上の界面活性剤を組み合わせて用いてもよい。あるいは、Feイオンと錯体を形成する有機物として、1種類以上の水溶性高分子と、1種類以上の界面活性剤とを組み合わせて用いてもよい。Feイオンと錯体を形成する有機物は、コアの重量に対して0.1重量%以上1重量%以下の割合で添加することが好ましい。
【0042】
(溶媒)
溶媒として、ゾルゲル法に一般に用いられている溶媒を適宜用いることができる。溶媒はアルコールを含むことが好ましい。溶媒がアルコールを含む場合、アルコールとして、例えば、メタノールおよびエタノール等を用いることができる。
【0043】
(触媒)
金属アルコキシドの加水分解速度を促進させるために、必要に応じて触媒を添加してよい。触媒として、例えば、塩酸、酢酸およびリン酸等の酸性触媒、アンモニア、水酸化ナトリウムおよびピペリジン等の塩基性触媒、または炭酸アンモニウムおよび酢酸アンモニウム等の塩触媒を用いることができる。なかでも、アンモニアは、コアとの反応性が低く、かつ絶縁膜中に残存した場合であっても絶縁膜の抵抗値に悪影響を与えないので、好ましい。
【0044】
上述した各原料を混合することにより、スラリーを得る。このようにスラリーを得ることは、金属アルコキシドが加水分解されることを含み得る。混合は室温で行ってよいが、加熱しながら行ってもよい。得られたスラリーは、後述する乾燥の前に、濾過および/または洗浄等の処理を施してよい。濾過は、例えばフィルタープレスのような加圧ろ過機、ヌッチェのような真空ろ過機、遠心ろ過機等を用いて行ってよい。洗浄は、例えばアセトン等を用いて行ってよい。
【0045】
(乾燥)
次に、スラリーを乾燥させて、コアおよびコアの表面を被覆する絶縁膜を有してなる軟磁性粉末を得る。乾燥は室温で行ってよいが、加熱しながら行ってもよい。
【0046】
上述した方法により、絶縁膜として、絶縁性金属酸化物および鉄成分を含有し、鉄成分が絶縁膜中に埋没している絶縁膜を形成することができる。上述の方法で得られた軟磁性粉末は、このような絶縁膜を備えることにより、より高い透磁率およびより高い電気抵抗を有する。
【0047】
絶縁性金属酸化物は、Si、Al、TiおよびZrからなる群から選択される少なくとも1種の酸化物であることが好ましい。絶縁性金属酸化物がSi、Al、TiおよびZrからなる群から選択される少なくとも1種の酸化物であると、絶縁膜の強度および比抵抗がより一層向上し得る。
【0048】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係る磁性体材料およびコイル部品について以下に説明する。
【0049】
本実施形態に係る磁性体材料は、本発明の実施形態に係る軟磁性粉末と、結着剤とを含む。結着剤として、エポキシ樹脂、フェノール樹脂およびシリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂ならびに低融点ガラスからなる群から選択される少なくとも1種を用いることができる。本実施形態に係る磁性体材料は、軟磁性粉末に結着剤を添加し、所定形状に成形し、必要に応じて加熱して硬化させることにより製造することができる。成形は、例えば、金型を用いることにより、または被注入部に充填することにより行うことができる。加熱温度は、使用する結着剤の硬化温度に応じて適宜設定することができる。例えば、結着剤としてエポキシ樹脂を用いる場合、150℃以上200℃以下の温度で加熱することでエポキシ樹脂を硬化させることができる。本実施形態に係る磁性体材料は、より高い透磁率およびより高い電気抵抗を有する。
【0050】
図3に、第2実施形態に係るコイル部品を模式的に示す。
図3に示すコイル部品1は、本発明の実施形態に係る軟磁性粉末および結着剤を含む磁心12と、コイル導体11とを含む。磁心12は、本発明の実施形態に係る軟磁性粉末および結着剤を含む磁性体材料で構成される。コイル導体11は、コイル状に形成された導体であり、例えば、アルファ巻きコイル状に巻回された導線であってよい。導線として、例えば、銅線または銀線等を用いることができる。また、コイル導体11は、導体ペーストを基板上にコイル状に塗布して形成したものであってもよい。また、コイル導体11は、金属膜をエッチング等により基板上にコイル状にパターニングすることにより形成したものであってもよい。本実施形態に係るコイル部品1において、コイル導体11は、
図3に示すように磁心12内に配置されてよいが、コイル導体11は磁心12に巻回されていてもよい。本実施形態に係るコイル部品1は、より高い透磁率およびより高い電気抵抗を有する。
【0051】
図3に示すコイル部品1において、コイル導体11は、軟磁性粉末および結着剤を含む磁心(素体)12中に埋め込まれている。コイル導体11の巻き端11Aおよび11Bはそれぞれ、磁心12の両端部にそれぞれ形成された端子電極13と電気的に接続している。端子電極13は、例えば、AgペーストまたはCuペースト等の導体ペーストを磁心に塗布することにより形成してよい。あるいは、端子電極13は、Niスパッタ、Tiスパッタ、NiCrスパッタ等により形成してもよい。あるいは、端子電極13として、例えばキャップ形状の金属導体を用いることができる。この場合、素体12の両端部それぞれにキャップ形状の金属導体(端子電極)13を嵌め込み、導電性接着剤等を用いて、端子電極13と素体12ならびに巻き端11Aおよび11Bとの接続および固定を行うことができる。端子電極13は、単層であってもよいが、複数の層を積層したものであってもよい。
【0052】
本実施形態に係るコイル部品1の製造方法の一例を以下に説明する。まず、軟磁性粉末と結着剤とを混合して混合物を得る。この混合物をシート状に成形して磁性体シートを得る。この磁性体シートにコイル導体11を埋め込んだ後、所定の寸法に切断し、所定温度に加熱して結着剤を硬化させることで、コイル導体11が内部に配置された磁心12を得る。この磁心12に端子電極13を形成することで、コイル部品1を得ることができる。別法として、コイル導体11が内部に配置された磁心12は、以下の方法で作製することもできる。まず、コイル軟磁性粉末と結着剤との混合物を成形して得られる磁性体シート上に、コイル導体パターンを形成する。コイル導体パターンを形成した磁性体シートを所定枚数積層して積層体を得る。積層体を所定寸法に切断した後、所定温度に加熱して結着剤を硬化させることで、コイル導体11が内部に配置された磁心12を得る。この磁心12に端子電極13を形成することで、コイル部品1を得ることができる。
【0053】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態に係る磁性体材料およびコイル部品について以下に説明する。
【0054】
本実施形態に係る磁性体材料の製造方法は、本発明の実施形態に係る軟磁性粉末を成形して成形体を得ることと、成形体を熱処理して磁性体材料を得ることとを含む。まず、軟磁性粉末にPVA(ポリビニルアルコール)等のバインダーを加えて混合し、磁性体ペーストを得る。この磁性体ペーストをドクターブレード法等で成形して、成形体を得ることができる。この成形体を大気雰囲気中において所定の温度で熱処理(焼成)することにより、磁性体材料を得ることができる。熱処理の温度は、例えば、200℃以上850℃以下程度であることが好ましい。本実施形態に係る磁性体材料中のコア同士は、各コアの表面を被覆する酸化物膜同士で結合されていることが好ましい。このようにして得られる磁性体材料は、より高い透磁率およびより高い電気抵抗を有する。
【0055】
図4aおよび
図4bに、本実施形態に係る磁性体材料で構成されるコイル部品の一例を示す。
図4aはコイル部品2の斜視図であり、
図4bはコイル部品2を構成する素体22の分解斜視図である。
図4aに示すコイル部品2は、素体22と、素体22の内部に配置されたコイル導体とを含む。素体22は、本発明の実施形態に係る軟磁性粉末を用いて製造される磁性体材料で構成される。
図4bに示すように、コイル導体はコイル導体パターン21A~21Cで構成されてよく、素体22は磁性体層22A~22Dで構成されてよい。コイル部品2は、端子電極23を更に含んでよい。本実施形態に係るコイル部品2は、より高い透磁率およびより高い電気抵抗を有する。
【0056】
本実施形態に係るコイル部品2の製造方法の一例を以下に説明する。まず、軟磁性粉末にPVA等のバインダーを添加して混合し、磁性体層22A~22Dを形成するための磁性体ペーストを得る。また、コイル導体パターン21A~21Cを形成するためのAgペースト等の導体ペーストを別途準備する。この磁性体ペーストと導体ペーストとを交互に層状に印刷することにより、成形体を得る。この成形体を大気中で所定温度にて脱バインダー処理し、次いで所定温度で熱処理することで、素体22を得る。得られた素体22の両端に端子電極23を形成する。端子電極23は、例えば、素体22の両端に端子電極13用のAgペースト等の導体ペーストを塗布し、焼き付け処理を行った後、めっきを施すことによって形成することができる。
【実施例】
【0057】
(実施例1)
実施例1の軟磁性粉末を以下に説明する手順で作製した。実施例1において、コアとして水アトマイズ法で作製した平均粒径(体積基準のメジアン径)5μmのFeSi合金粉(Fe:Si=93.5:6.5(重量比))、鉄塩として塩化鉄四水和物、金属アルコキシドとしてテトラエチルオルソシリケート、水溶性高分子としてポリビニルピロリドンK30、溶媒としてエタノール、塩基性触媒としてアンモニアを用いた。14.2gのエタノールに、9重量%アンモニア水溶液を10g、FeSi合金粉を50g、それぞれ加えた。アンモニア水溶液およびFeSi合金粉を加えたエタノールに、ポリビニルピロリドンK30をFeSi合金粉の重量に対して0.5重量%になるように、塩化鉄四水和物をFeSi合金粉の重量に対して3.5重量%になるように、それぞれ加えて撹拌し、混合液を得た。テトラエチルオルソシリケートをFeSi合金粉の重量に対してSiO2換算で3重量%になるように秤量し、混合液に滴下した。滴下後の混合液を60分間撹拌および混合して、スラリーを得た。このスラリーを濾過し、アセトンで洗浄した後、60℃で乾燥させることで、実施例1の軟磁性粉末を得た。濾過後の濾液や洗浄後の洗浄液中には、鉄はほとんど検出されなかった。
【0058】
(実施例2)
ポリビニルピロリドンK30をFeSi合金粉(Fe:Si=93.5:6.5(重量比))の重量に対して0.25重量%になるように加えた以外は実施例1と同様の手順で、実施例2の軟磁性粉末を調製した。
【0059】
(実施例3)
塩化鉄四水和物をFeSi合金粉の重量に対して1.7重量%になるように加えた以外は実施例1と同様の手順で、実施例3の軟磁性粉末を調製した。
【0060】
(実施例4~6)
金属アルコキシドとして、テトラエチルオルソシリケートの代わりに、チタンテトライソプロポキシド、ジルコニウム-n-ブトキシドおよびアルミニウムイソプロポキシドをそれぞれ用いた以外は実施例1と同様の手順で、実施例4~6の軟磁性粉末を調製した。
【0061】
(実施例7~12)
ポリビニルピロリドンK30の代わりに、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)、ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテルリン酸ナトリウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムおよびラウリン酸ジエタノールアミドをそれぞれ用いた以外は実施例1と同様の手順で、実施例7~12の軟磁性粉末を調製した。
【0062】
(実施例13)
鉄塩として、塩化鉄四水和物の代わりに硝酸鉄九水和物にしたこと以外は実施例1と同様の手順で、実施例13の軟磁性粉末を作製した。
【0063】
(比較例1)
水溶性高分子を添加しなかった以外は実施例1と同様の手順で、比較例1の軟磁性粉末を調製した。
【0064】
(比較例2)
鉄塩を添加しなかった以外は実施例1と同様の手順で、比較例2の軟磁性粉末を調製した。
【0065】
(比較例3)
金属アルコキシドを添加しなかった以外は実施例1と同様の手順で、比較例3の軟磁性粉末を調製した。
【0066】
(鉄成分の分析)
実施例1~13および比較例1~3の軟磁性粉末それぞれについて、絶縁膜中に存在する鉄成分の平均粒径、および絶縁膜表面における鉄成分の有無を以下に説明する手順で測定した。まず、測定する軟磁性粉末を樹脂埋めして研磨し、FIB(集束イオンビーム)加工によりSTEM-EDX観察用サンプルを作製した。このサンプルを用いて、STEM-EDX装置により絶縁膜の断面の元素マッピングを行った。STEMは日本電子株式会社製のJEM-2000FSを使用し、EDX装置はNoranSystem7を使用した。元素マッピングの結果、実施例1~13の軟磁性粉末については、絶縁膜中に鉄成分が埋没しているのが確認された。代表例として、実施例1の元素マッピング結果を
図1a~
図1dに示す。
図1bおよび
図1dに示すように、鉄元素と酸素元素とがほぼ同じ位置で検出されているので、鉄成分は酸化鉄であると推測できる。一方、比較例1~3の軟磁性粉末については、絶縁膜中に埋没した鉄成分は観察されなかった。
図1aでは、有機物に起因するC(炭素)元素が絶縁膜中に検出されている。また、
図1dでは絶縁膜とコアの境界近傍に鉄を含有する酸化物の膜が検出された。これは、コアとしてのFeSi合金粉(Fe:Si=93.5:6.5(重量比))を水アトマイズ法で作製する過程で当該粉表面に形成された酸化物膜に由来すると推測される。
【0067】
絶縁膜中に埋没した鉄成分の存在が確認された実施例1~13の軟磁性粉末について、TEMを用いて絶縁膜の断面の画像を撮影した。代表例として、実施例1の絶縁膜の断面のTEM画像を
図2aおよび
図2bに示す。
図2aおよび
図2bにおいて、鉄成分の粒子に対応する格子縞が観察された。得られたTEM画像に基づいて、絶縁膜中に埋没した鉄成分の粒子の平均粒径を以下の手順で求めた。10個の鉄成分の粒子それぞれについて、長径(最も長い径)および短径(最も短い径)を測定し、長径および短径の平均値をその粒子の粒径とした。
10個の粒子の粒径の平均値を平均粒径とした。結果を表1に示す。また、絶縁膜中に埋没した鉄成分の含有量(絶縁膜表面の鉄成分は除く)を表1に示す。当該鉄成分の含有量(重量%)については、コアの重量に対する絶縁膜中のFeの重量の割合から算出した。表1に記載の数値は、鉄成分の原料である鉄塩の仕込み量から、鉄塩中の鉄が全て絶縁膜中に取り込まれたとして推測した値である。なお、STEM-EDX装置による絶縁膜の断面の元素マッピングにて絶縁膜中に埋没した鉄成分が観察されなかった比較例1~3の軟磁性粉末については、表1の鉄成分の含有量を0重量%とした。
【0068】
実施例1~13および比較例1~3の軟磁性粉末それぞれについて、XPS分析により絶縁膜の表面に鉄成分が存在するか否かを確認した。XPS分析は、アルバック・ファイ株式会社製のVersaProbeを用いて行った。XPS分析の結果、Feピークが検出されたものは、絶縁膜の表面に鉄成分が存在していると判定し、表1において「有」で示した。Feピークが検出されなかったものは、絶縁膜の表面に鉄成分が存在していないと判定し、表1において「無」で示した。
【0069】
(トロイダルリングの作製)
実施例1~13および比較例1~3の軟磁性粉末をそれぞれ用いて、以下の手順でトロイダルリングを作製した。軟磁性粉末と、軟磁性粉末の重量に対して3重量%のシリコーン樹脂とを混合して造粒物を得た。金型を用いてこの造粒物を加温成形した後、硬化することでトロイダルリングを得た。
【0070】
(比抵抗の測定)
実施例1~13および比較例1~3の軟磁性粉末を用いて作製したトロイダルリングそれぞれについて、10Vの電圧を5秒間印加してトロイダルリングの比抵抗を測定した。比抵抗は、Advantest社製のデジタルエレクトロメーター(Advantest R8340A ULTRA HIGH RESISTANCE METER)を用いて行った。結果を表1に示す。
【0071】
(比透磁率の測定)
実施例1~13および比較例1~3の軟磁性粉末を用いて作製したトロイダルリングそれぞれについて、1MHzにおける比透磁率を測定した。比透磁率は、Agilent Technologys社製のインピーダンスアナライザー(Agilent E4991A RF)を用いて行った。結果を表1に示す。
【0072】
【0073】
表1に示すように、実施例1~13の軟磁性粉末においては、絶縁膜中に埋没した鉄成分のナノ粒子が検出された。また、実施例1~13の軟磁性粉末においては、絶縁膜の表面に成分は検出されなかった。これに対し、水溶性高分子および界面活性剤を添加しなかった比較例1の軟磁性粉末においては、絶縁膜中に埋没した鉄成分は検出されなかった。また、比較例1の軟磁性粉末においては、絶縁膜の表面で鉄成分が検出された。鉄塩を添加しなかった比較例2の軟磁性粉末においては、絶縁膜中に埋没した鉄成分は検出されなかった。金属アルコキシドを添加しなかった比較例3の軟磁性粉末においては、絶縁膜中に埋没した鉄成分は検出されなかった。また、比較例1の軟磁性粉末においては、絶縁膜の表面で鉄成分が検出された。
【0074】
また、表1に示すように、実施例1~13の軟磁性粉末は、9.80×1011以上の高い比抵抗および9以上の高い比透磁率を示した。これに対し、水溶性高分子および界面活性剤を添加しなかった比較例1の軟磁性粉末は、実施例1~13の軟磁性粉末と比較して低い比抵抗および低い比透磁率を示した。鉄塩を添加しなかった比較例2の軟磁性粉末は、実施例1~13の軟磁性粉末と比較して低い比透磁率を示した。金属アルコキシドを添加しなかった比較例3の軟磁性粉末は、実施例1~13の軟磁性粉末と比較して低い比抵抗および低い比透磁率を示した。
【0075】
本発明は以下の態様を含むが、これらの態様に限定されるものではない。
(態様1)
軟磁性金属材料で構成されるコアと、
コアの表面を被覆する絶縁膜と
を有してなる軟磁性粉末であって、
絶縁膜は絶縁性金属酸化物および鉄成分を含有し、鉄成分は絶縁膜中に埋没している、軟磁性粉末。
(態様2)
鉄成分は酸化鉄である、態様1に記載の軟磁性粉末。
(態様3)
絶縁膜は鉄成分の粒子を含有する、態様1または2に記載の軟磁性粉末。
(態様4)
鉄成分の粒子の平均粒径が5nm以上20nm以下である、態様1~3のいずれか1つに記載の軟磁性粉末。
(態様5)
絶縁性金属酸化物は金属アルコキシドの加水分解物である、態様1~4のいずれか1つに記載の軟磁性粉末。
(態様6)
絶縁膜は有機物を更に含有する、態様1~5のいずれか1つに記載の軟磁性粉末。
(態様7)
有機物は、水溶性高分子および界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種である、態様6に記載の軟磁性粉末。
(態様8)
絶縁膜は、C、NおよびPからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有する、態様1~7のいずれか1つに記載の軟磁性粉末。
(態様9)
絶縁性金属酸化物は、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムからなる群から選択される少なくとも1種である、態様1~8のいずれか1つに記載の軟磁性粉末。
(態様10)
コアはFe系、Ni系またはCo系の軟磁性金属材料で構成される、態様1~9のいずれか1つに記載の軟磁性粉末。
(態様11)
絶縁膜の表面に鉄成分が存在しない、態様1~10のいずれか1つに記載の軟磁性粉末。
(態様12)
鉄を含有する酸化物の膜を更に含み、
前記鉄を含有する前記酸化物の膜が前記絶縁膜と前記コアの境界近傍に形成されている、態様1~11のいずれか1項に記載の軟磁性粉末。
(態様13)
軟磁性金属材料で構成されるコア、鉄塩、金属アルコキシド、ならびに水溶性高分子および界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種を溶媒中で混合してスラリーを得ることと、
スラリーを乾燥させて、コアおよびコアの表面を被覆する絶縁膜を有してなる軟磁性粉末を得ることと
を含む、軟磁性粉末の製造方法。
(態様14)
スラリーを得ることは、金属アルコキシドが加水分解されることを含む、態様13に記載の軟磁性粉末の製造方法。
(態様15)
鉄塩はアルコールに対して可溶性である、態様13または14に記載の軟磁性粉末の製造方法。
(態様16)
鉄塩は、塩化鉄および硝酸鉄ならびにこれらの水和物からなる群から選択される少なくとも1種である、態様15に記載の軟磁性粉末の製造方法。
(態様17)
水溶性高分子および界面活性剤は、Feイオンと錯体を形成可能な配位子を有する、態様13~16のいずれか1つに記載の軟磁性粉末の製造方法。
(態様18)
水溶性高分子は、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸およびカルボキシメチルセルロースからなる群から選択される少なくとも1種である、態様17に記載の軟磁性粉末の製造方法。
(態様19)
界面活性剤は、ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテルリン酸ナトリウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムおよびラウリン酸ジエタノールアミドからなる群から選択される少なくとも1種である、態様17または18に記載の軟磁性粉末の製造方法。
(態様20)
金属アルコキシドがSi、Al、TiおよびZrからなる群から選択される少なくとも1種のアルコキシドである、態様13~19のいずれか1つに記載の軟磁性粉末の製造方法。
(態様21)
溶媒はアルコールを含む、態様13~20のいずれか1つに記載の軟磁性粉末の製造方法。
(態様22)
態様1~12のいずれか1つに記載の軟磁性粉末と、樹脂とを含む磁心と、
素体の内部に配置されたコイル導体と
を含む、コイル部品。
(態様23)
態様1~12のいずれか1つに記載の軟磁性粉末を成形して成形体を得ることと、
成形体を熱処理して磁性体材料を得ることと
を含む、磁性体材料の製造方法。
【0076】
以上、本発明の一実施形態について説明してきたが、本発明の適用範囲のうちの典型例を例示したに過ぎない。従って、本発明はこれに限定されず、種々の改変がなされ得ることを当業者は容易に理解されよう。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明に係る軟磁性粉末およびその製造方法、軟磁性粉末を用いたコイル部品、ならびに軟磁性粉末を用いた磁性体材料は、より高い透磁率およびより高い電気抵抗を実現することができるので、高周波用途等の幅広い用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0078】
1、2 コイル部品
11 コイル導体
11A、11B 巻き端
12、22 素体(磁心)
13、23 端子電極
21A、21B、21C コイル導体パターン
22A、22B、22C、22D 磁性体層