(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】液体塗布用クロス、液体塗布キット、液体塗布シート、および液体塗布用具
(51)【国際特許分類】
D04H 1/492 20120101AFI20240419BHJP
A47L 13/17 20060101ALI20240419BHJP
B05C 17/10 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
D04H1/492
A47L13/17 A
B05C17/10
(21)【出願番号】P 2021546574
(86)(22)【出願日】2020-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2020032567
(87)【国際公開番号】W WO2021054084
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2023-03-20
(31)【優先権主張番号】P 2019171234
(32)【優先日】2019-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】307046545
【氏名又は名称】クラレクラフレックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】成松 絢葉
(72)【発明者】
【氏名】落合 徹
(72)【発明者】
【氏名】小畑 創一
(72)【発明者】
【氏名】新井田 康朗
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-040025(JP,A)
【文献】特開2004-041677(JP,A)
【文献】特開2003-081709(JP,A)
【文献】特開2012-040730(JP,A)
【文献】特開平11-217757(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00-18/04
B05C 7/00-21/00
A47L 13/00-13/62
A01N 1/00-65/48
A01P 1/00-23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾式スパンレース不織布(以下、単に不織布と称する)からなる液体塗布用クロスであって、
前記不織布の厚さ均一性を示す厚さの比(A)が40%以上であり、
前記不織布の上面および下面の少なくとも一方の面における表面の平坦性を示すバラつき(B)が60%未満である、液体塗布用クロス。
ここで、前記厚さの比(A)は、前記不織布のMD方向に対して45°の方向で前記不織布を厚み方向に切断した切断面の走査型顕微鏡による撮像において、前記不織布の面方向に100μm間隔で100箇所に設けられた各測定点において測定された、前記不織布の厚さa
1~a
100の中で、最も大きい順に10点選んだ測定値の平均値(a
max)に対する最も小さい順に10点選んだ測定値の平均値(a
min)の比(a
min/a
max)をパーセントで表示した値であり、
前記表面の平坦性を示すバラつき(B)は、前記厚さの測定点a
1~a
100について、前記不織布の厚さの平均値をa
avgとして算出するとともに、前記不織布の中心から上方向の大きさu
1~u
100、および中心から下方向の大きさb
1~b
100について、それぞれ最も大きい順に10点選んだ測定値の平均値(u
max、b
max)と最も小さい順に10点選んだ測定値の平均値(u
min、b
min)について、
B
1=(u
max-u
min)/0.5a
avg
B
2=(b
max-b
min)/0.5a
avg
をパーセントで表示した値であり、ここで、B
1は上面、B
2は下面の平坦性を示すバラつきの値である。なお、前記不織布の厚さを測定する際には、各測定点では、前記不織布の厚さの方向に直線を引き、この直線と交わる繊維のうち、最も外側に存在する繊維は測定の対象から外している。
【請求項2】
請求項1に記載の液体塗布用クロスであって、双方の面における表面の平坦性を示すバラつき(B)が60%未満である、液体塗布用クロス。
【請求項3】
請求項1または2に記載の液体塗布用クロスであって、前記不織布の厚さの比(A)に対する、より平坦な面のバラつき(B)の比(B)/(A)が、1.0以下である、液体塗布用クロス。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の液体塗布用クロスであって、前記不織布は、ポリエステル系繊維およびレーヨン繊維からなる群から選択される少なくとも1種の繊維を、70質量%以上含む、液体塗布用クロス。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の液体塗布用クロスであって、前記液体塗布用クロスの押さえ圧12g/cm
2に対する押さえ圧14g/cm
2における一次圧縮時体積維持率と、押さえ圧12g/cm
2に対する押さえ圧16g/cm
2における二次圧縮時体積維持率との差が、3.3~5.5%である、液体塗布用クロス。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の液体塗布用クロスであって、前記液体塗布用クロスに対して液体を350質量%含浸した状態における、一次圧縮時表面保液率に対する二次圧縮時表面保液率の比が1.00~1.40である、液体塗布用クロス。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の液体塗布用クロスであって、前記液体塗布用クロスに対して液体を150質量%含浸した状態における表面保液率が20~60%である、液体塗布用クロス。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の液体塗布用クロスであって、前記不織布の密度が0.05~0.20g/cm
3である、液体塗布用クロス。
【請求項9】
請求項1~8いずれか一項に記載の液体塗布用クロスであって、前記不織布の目付が10~100g/m
2である、液体塗布用クロス。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の液体塗布用クロスであって、主体繊維に対するバインダー繊維の質量比(バインダ―繊維/主体繊維)が0.55以下である、液体塗布用クロス。
【請求項11】
塗布液と、請求項1~10のいずれか一項に記載された液体塗布用クロスとで構成された液体塗布キット。
【請求項12】
請求項11に記載された塗布液が消毒液である、液体塗布キット。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか一項に記載された液体塗布用クロスと、塗布液とで構成され、前記塗布液が、前記液体塗布用クロスに含浸している液体塗布シート。
【請求項14】
請求項13に記載された液体塗布シートを使用する、液体塗布用具。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本願は、日本国で2019年9月20日に出願した特願2019-171234の優先権を主張するものであり、その全体を参照により本出願の一部をなすものとして引用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、塗布液を被塗工面に塗布するための液体塗布シート、液体塗布用クロス、液体塗布キット、および液体塗布用具に関する。
【背景技術】
【0003】
塗布液を含浸させたシートは、様々な被塗布面に対して塗布液を塗工するために有用に用いられている。しかしながら、シートに含浸された塗布液が速やかに放出されると、シートによって塗布液をむらなく広域に塗工できないため、塗布液の放出持続性を長くする性能が求められている。
【0004】
例えば、特許文献1(特開2018-68806)には、清掃液の放出持続性の長い湿式清掃用シートの構造が開示されている。この湿式清掃用シートは、不織布シートの片面に、液不透過性フィルムを積層させ、前記不織布シートは、網状シートの両面に不織の繊維集合体が配されてなり、前記不織布シートと前記液不透過性フィルムとが部分的に融着しており、融着部が線状に構成され、該融着部が前記不織布シートの周縁部および内側の少なくも一方に存在し、該融着部の面積が、前記不織布シートの片面の面積の5%以上20%以下であり、前記不織布シートが清掃液を担持している湿式清掃用シートである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、熱融着によって圧縮された不織布に凹凸が生じるため、不織布から放出された液体がスジ状に塗工され、被塗工面のすべてをむらなく塗工することが困難である。また、シートの凸部から液体がスジ状に優先的に放出されてしまうため、シート内部から液体を均一に放出させることができず、シートの一部では液体が残っていながらも、液体の枯渇部分が大きくなると、全体としてはシートの利用効率が低減する。
【0007】
本発明の目的は、塗布液を均一に広域にわたって塗工できる液体塗布シート、液体塗布用クロス、液体塗布キット、および液体塗布用具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、(i)不織布について、繊維レベルで観察されるミクロなレベルにおいて、不織布の厚みの均一性を制御するとともに、表面の平坦性についてもバラつきを抑制するように制御すると、(ii)液体が含浸された不織布から、液体が一気に放出されることを抑制しつつ、幅広い網目状に放出できること、(iii)不織布から液体が放出される際の放出むらを低減することができること、(iv)そして、被塗工面をむらなく塗工できるだけでなく、広範囲にわたって塗工可能であることを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の態様で構成されうる。
〔態様1〕
乾式スパンレース不織布(以下、単に不織布と称する)からなる液体塗布用クロスであって、
前記不織布の厚さ均一性を示す厚さの比(A)が40%以上(好ましくは48%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは55%以上)であり、
前記不織布の上面および下面の少なくとも一方の面における表面の平坦性を示すバラつき(B)が60%未満(好ましく58%以下、より好ましくは50%以下)である、液体塗布用クロス。
ここで、前記厚さの比(A)は、前記不織布のMD方向に対して45°の方向で前記不織布を厚み方向に切断した切断面の走査型顕微鏡による撮像において、前記不織布の面方向に100μm間隔で100箇所に設けられた各測定点において測定された、前記不織布の厚さa1~a100の中で、最も大きい順に10点選んだ測定値の平均値(amax)に対する最も小さい順に10点選んだ測定値の平均値(amin)の比(amin/amax)をパーセントで表示した値であり、
前記表面の平坦性を示すバラつき(B)は、前記厚さの測定点a1~a100
前記表面の平坦性を示すバラつき(B)は、前記厚さの測定点a1~a100について、前記不織布の厚さの平均値をaavgとして算出するとともに、前記不織布の中心から上方向の大きさu1~u100、および中心から下方向の大きさb1~b100について、それぞれ最も大きい順に10点選んだ測定値の平均値(umax、bmax)と最も小さい順に10点選んだ測定値の平均値(umin、bmin)について、
B1=(umax-umin)/0.5aavg
B2=(bmax-bmin)/0.5aavg
をパーセントで表示した値であり、ここで、B1は上面、B2は下面の平坦性を示すバラつきの値である。なお、前記不織布の厚さを測定する際には、各測定点では、前記不織布の厚さの方向に直線を引き、この直線と交わる繊維のうち、最も外側に存在する繊維は測定の対象から外している。
〔態様2〕
態様1に記載の液体塗布用クロスであって、双方の面における表面の平坦性を示すバラつき(B)が60%未満(好ましく58%以下、より好ましくは50%以下)である、液体塗布用クロス。
〔態様3〕
態様1または2に記載の液体塗布用クロスであって、前記不織布の厚さの比(A)に対する、より平坦な面の平坦性を示すバラつき(B)の比(B)/(A)が、1.0以下(好ましくは、0.9以下、より好ましくは0.8以下)である、液体塗布用クロス。
〔態様4〕
態様1~3のいずれか一態様に記載の液体塗布用クロスであって、前記不織布は、ポリエステル系繊維およびレーヨン繊維からなる群から選択される少なくとも1種の繊維を、70質量%以上含む、液体塗布用クロス。
〔態様5〕
態様1~4のいずれか一態様に記載の液体塗布用クロスであって、前記液体塗布用クロスの押さえ圧12g/cm2に対する押さえ圧14g/cm2における一次圧縮時体積維持率と、押さえ圧12g/cm2に対する押さえ圧16g/cm2における二次圧縮時体積維持率との差が、3.3~5.5%(好ましくは3.5~5.3%)である、液体塗布用クロス。
〔態様6〕
態様1~5のいずれか一態様に記載の液体塗布用クロスであって、前記液体塗布用クロスに対して液体を350質量%含浸した状態における、一次圧縮時表面保液率に対する二次圧縮時表面保液率の比が1.00~1.40(好ましくは1.00~1.39、より好ましくは1.00~1.30)である、液体塗布用クロス。
〔態様7〕
態様1~6のいずれか一態様に記載の液体塗布用クロスであって、前記液体塗布用クロスに対して液体を150質量%含浸した状態における表面保液率が20~60%(好ましくは21~50%、より好ましくは22~45%)である、液体塗布用クロス。
〔態様8〕
態様1~7のいずれか一態様に記載の液体塗布用クロスであって、前記不織布の密度が0.05~0.20g/cm3(好ましくは0.07~0.15g/cm3)である、液体塗布用クロス。
〔態様9〕
態様1~8いずれか一態様に記載の液体塗布用クロスであって、前記不織布の目付が10~100g/m2(好ましくは20~100g/m2の範囲内、より好ましくは25~50g/m2)である、液体塗布用クロス。
〔態様10〕
態様1~9のいずれか一態様に記載の液体塗布用クロスであって、主体繊維に対するバインダー繊維の質量比(バインダ―繊維/主体繊維)が0.55以下(好ましくは0.50以下、より好ましくは0.45以下)である、液体塗布用クロス。
〔態様11〕
塗布液と、態様1~10のいずれか一態様に記載された液体塗布用クロスとで構成された液体塗布キット。
〔態様12〕
態様11に記載された塗布液が消毒液である、液体塗布キット。
〔態様13〕
態様1~10のいずれか一態様に記載された液体塗布用クロスと、塗布液とで構成され、前記塗布液が、前記液体塗布用クロスに含浸している液体塗布シート。
〔態様14〕
態様13に記載された液体塗布シートを使用する、液体塗布用具。
【0010】
なお、請求の範囲および/または明細書および/または図面に開示された少なくとも2つの構成要素のどのような組み合わせも、本発明に含まれる。特に、請求の範囲に記載された請求項の2つ以上のどのような組み合わせも本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、不織布の厚みの均一性を制御するとともに、表面の平坦性についてもバラつきを抑制しているため、液体が含浸された不織布から、液体が一気に放出されることを抑制しつつ、不織布から液体を網目状の線幅を広げた状態で放出することができ、塗布液を被塗布面に対して均一に塗工できる。そして、シート内部の液体の放出むらを低減することができ、良好な放出性を持続でき均一に塗工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
この発明は、添付の図面を参考にした以下の好適な実施例の説明から、より明瞭に理解されるであろう。しかしながら、実施例および図面は単なる図示および説明のためのものであり、この発明の範囲を定めるために利用されるべきものではない。この発明の範囲は添付の請求の範囲によって定まる。添付図面において、複数の図面における同一の部品番号は、同一部分を示す。
【
図1】本発明の一実施形態に係る不織布の厚さの測定方法を説明するための、走査電子顕微鏡による不織布切断面の拡大写真である。
【
図2】表面保液率を算出するために用いられる、実施例1において撮像されたアクリル板表面の走査電子顕微鏡による拡大写真である。
【
図3】表面保液率を算出するために用いられる、比較例1において撮像されたアクリル板表面の走査電子顕微鏡による拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、一実施形態として、液体塗布用クロスを包含し、前記液体塗布用クロスは、乾式スパンレース不織布からなり、前記不織布の厚さ均一性を示す厚さの比(A)が40%以上であり、前記不織布の少なくとも一方の面における表面の平坦性を示すバラつき(B)が60%未満である。
【0014】
(液体塗布用クロス)
本発明の液体塗布用クロスを構成する乾式スパンレース不織布(以下、単に不織布と称する場合がある)は、不織布中の繊維が特定の構造を有しているため、前記厚さ均一性を示す厚さの比(A)と、表面の平坦性を示すバラつき(B)とを達成することができる。不織布は、少なくとも主体繊維から構成されている。
【0015】
主体繊維としては、不織布として加工できる限り特に限定されず、例えば、動物性繊維(羊毛など);セルロース系繊維;トリアセテート繊維、ジアセテート繊維などの半合成繊維;ポリエステル系繊維、ポリオレフィン系繊維、アクリル系繊維(ポリアクリロニトリル、モダクリルなど)、ポリアミド系繊維(ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン12など)、ポリビニル系繊維(ポリビニルアルコール繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、ポリ塩化ビニル繊維など)、ウレタン繊維などの合成繊維が挙げられる。これらの繊維は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0016】
これらのうち、入手の容易さ、取扱いの容易さ、混綿の容易さなどから、セルロース系繊維、ポリエステル系繊維、ポリオレフィン系繊維などが好ましい。
【0017】
セルロース系繊維としては、綿花、麻、パルプなどの植物性繊維、レーヨン、キュプラなどの再生繊維、リヨセル(テンセル)などの精製セルロース繊維などが挙げられる。これらのうち特に指定はされないが、入手の容易さ、取扱いの容易さから、レーヨン繊維が好ましい。
【0018】
ポリエステル系繊維は、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、これらの変性ポリマー、ブレンド、共重合体などのポリエステル系ポリマーからなるポリエステル系繊維が挙げられる。これらのうち、入手の容易さ、取扱いの容易さ、混綿の容易さなどから、ポリエチレンテレフタレート繊維が好ましい。
【0019】
ポリオレフィン系繊維としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、これらの変性ポリマー、ブレンド、共重合体などのポリオレフィン系ポリマーからなるポリオレフィン系繊維が挙げられる。これらのうち、入手の容易さ、取扱いの容易さ、混綿の容易さなどから、芯成分がポリプロピレン、鞘成分がポリエチレンで構成される芯鞘型複合繊維が好ましい。
【0020】
また主体繊維の断面形状については特に制限されず、例えば、丸形断面、異形断面(扁平状、楕円状断面など)、多角形断面、多葉形断面(3~14葉状断面)、中空断面、V字形断面、T字形断面、H字形断面、I字形(ドッグボーン形)断面、アレイ形断面などの各種断面形状などが挙げられる。液体が放出されやすいことから、丸形断面、楕円状断面などが好ましい。主体繊維は、非複合繊維であっても複合繊維であってもよい。
【0021】
また、主体繊維の繊度は、例えば、0.5~10.0dtexであってもよく、好ましくは1.0~5.0dtex、より好ましくは1.4~2.2dtexであってもよい。主体繊維の繊度が小さすぎる場合には、汎用の乾式不織布製造工程においては、繊維塊が発生しやすくなり結果的に不織布の表面平坦性が低下する可能性がある。また、主体繊維の繊度が大きすぎる場合には、得られる不織布に毛羽が多くなり表面平坦性が低下する可能性がある。
【0022】
本発明で用いられる不織布は、主体繊維とバインダー繊維とを組み合わせてもよい。バインダー繊維は、不織布において熱融着繊維などとして利用されることが好ましい。例えば、熱融着繊維では、一部または全部を熱により溶融させて接着点を形成させることで、シートの形態安定性を向上できる。
【0023】
前記バインダー繊維の繊度は、例えば、0.5~10.0dtexであってもよく、好ましくは1.0~5.0dtex、より好ましくは1.7~2.2dtexであってもよい。バインダー繊維の繊度が小さすぎる場合には、カード機内で繊維塊が発生しやすくなり結果的に表面平坦性が低下する傾向にある。また、バインダー繊維の繊度が大きすぎる場合には、接着交点の減少により形態安定性が低下し、またはシートに毛羽が多くなり表面平坦性が低下する傾向にある。
【0024】
またバインダー繊維の断面形状についても特に制限されず、例えば、丸形断面、異形断面(扁平状、楕円状断面など)、多角形断面、多葉形断面(3~14葉状断面)、中空断面、V字形断面、T字形断面、H字形断面、I字形(ドッグボーン形)断面、アレイ形断面などの各種断面形状が挙げられる。バインダー繊維は、非複合繊維であってもよいが、芯鞘繊維(コアシースタイプ)、並列繊維(サイドバイサイドタイプ)などの複合繊維であるのが好ましい。
【0025】
特に、芯鞘繊維は、繊維表面で接着点を形成しやすく、シートの物理的強度を向上させると共に拭き取り時の繊維脱落を防止することができるため好ましい。複合繊維の場合、高融点成分と低融点成分で形成されてもよく、高融点成分は低融点成分の融点より30℃以上高い融点のものであることが好ましい。なお、複合繊維の融点は、低融点成分の融点により判断してもよい。該複合繊維の断面形状は特に制限はなく、丸型芯鞘、偏芯型芯鞘、異形断面型芯鞘など、どのような形態でもよい。鞘部となる低融点成分が少なくとも芯成分の周囲を40%以上、特に60%以上覆うものが好ましい。また、芯成分と鞘成分の比率は重量比で80/20~20/80が好ましく、70/30~30/70であることがより好ましい。
【0026】
取り扱い性、入手性の観点から、バインダー繊維としては、ポリオレフィン系繊維が好ましい。ポリオレフィン系繊維としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、これらの変性ポリマー、ブレンド、共重合体などのポリオレフィン系ポリマーを含んでいればよく、非複合繊維であってもよいし、芯鞘繊維(コアシースタイプ)、並列繊維(サイドバイサイドタイプ)などの複合繊維であってもよい。
【0027】
ポリオレフィン系繊維が複合繊維の場合、芯鞘型複合繊維横断面の具体例としては、少なくとも鞘成分がポリオレフィン系ポリマーであればよく、例えば芯成分/鞘成分が、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン、ポリプロピレン/ポリエチレン、ポリプロピレン/変性ポリプロピレンなどの組み合わせが好適である。なかでも安価で、不織布に一般的に用いられるポリプロピレン/ポリエチレンの組み合わせが好ましい。
【0028】
不織布中の主体繊維の割合は、例えば、70質量%以上であってもよく、好ましくは75質量%以上であってもよい。主体繊維の割合は、バインダー繊維の割合に応じて適宜調整することが可能であるが、例えば、98質量%以下、好ましくは95質量%以下であってもよい。
【0029】
不織布中のバインダー繊維の割合は、不織布の形態安定性と被塗工面への均一な塗工性とを向上させる観点から、例えば、主体繊維に対する質量比(バインダ―繊維/主体繊維)は0.55以下であってもよく、好ましくは0.50以下、より好ましくは0.45以下であってもよい。
【0030】
前記不織布を構成する繊維の平均繊維長は、製造作業性、不織布の機械的特性などの点から、20~80mmの範囲にあることが好ましい。より好ましくは30~70mmであり、さらに好ましくは35~60mmである。このような短繊維を用いることにより、水流交絡処理による繊維の移動性や交絡度を高めつつ、不織布の強力や伸度などの機械的特性を改善することができる。
【0031】
スパンレース法では、通常、繊維でウエブを作製し、次いで、得られたウエブを水流交絡処理することにより繊維を固定化する。本発明においては、厚さの均一性と表面の平坦性が高い構造の不織布を得るために、水流交絡工程、ニップ工程、乾燥工程、(必要に応じて熱処理工程、冷却工程)を設けて各工程の製造条件を調節してもよい。
【0032】
具体的には、まず、主体繊維(および必要に応じてバインダー繊維)を混綿し、次いでカード機によるカーディングにて解繊してウエブを作製する。かかるウエブはカード機の進行方向に繊維が配列したパラレルウエブ、パラレルウエブがクロスレイドされたクロスウエブ、ランダムに配列したランダムウエブ、あるいは両者の中程度に配列したセミランダムウエブのいずれであってもよいが、シート使用時にあらゆる方向への添い性が高くなることを考慮すると、ランダムウエブが好ましく、生産性の高さを考慮するとセミランダムウエブが好ましい。
【0033】
次いで得られたウエブに水流交絡処理を行う(水流交絡工程)。水流交絡処理は、例えば径が0.05~0.20mm、間隔0.30~1.50mmの噴射孔を1~2列に配列したノズルプレートから高圧で柱状に噴射される水流を多孔性支持部材上に載置したウエブに衝突させるものであり、ウエブの構成繊維相互を緻密に三次元交絡せしめ一体化させるものである。
【0034】
ウエブに三次元交絡を施すに際しては、移動する多孔性支持部材上にウエブを載置して、水圧0.5~15MPa、の水流で1回または複数回処理する方法が好適に挙げられる。噴射孔はウエブの進行方向と直交する方向にノズルプレートを列状に配列し、ウエブに対して水流を均一に衝突させるのが好ましい。ウエブの厚さの均一性を高めるためには、水圧は特に1.5~12MPaの範囲であること、さらに水流交絡処理をウエブの両面に対して、少なくともそれぞれ2回以上、かつ合計5回以上行うことが好ましい。ウエブに対する交絡を均一にする観点から、噴射孔とウエブとの距離は1~10cmであることが好ましい。
【0035】
ウエブを載置する多孔性支持部材は、例えば金属や樹脂などのメッシュスクリーンや有孔板などが用いられる。上述した不織布表面の平坦性を高めるためには、水流交絡処理の少なくとも最後の処理において、細い繊維の織り構造体(例えば平織り構造体)上で水流交絡されることが好ましい。
【0036】
多孔性支持部材として用いる織り構造体の経糸及び緯糸は、それぞれ線径0.01~1mmが好ましく、より好ましくは0.02~0.5mmのモノフィラメントであってもよい。また、織り構造体の厚さが0.1~1mmであるものを使用するのが好ましい。モノフィラメントの線径が大きすぎると、経糸が緯糸の上に存在する箇所において、繊維が周囲に移動して、ウエブ表面に孔が開いてしまい表面の平坦性が低下するため好ましくない。また、織り構造体の開口率は、例えば、10~35%程度、好ましくは15~30%であってもよい。特に、織り構造体の開口率を前記範囲とする場合、水流がウエブを水平方向に貫通する際に水が細かく分散して移動することで、水流による繊維の移動が多点で起きるためウエブの交絡が平面方向に均一になり、結果として、ミクロなレベルにおいてウエブの厚さの均一性を向上できる。
【0037】
さらに、ウエブの表面平坦性を高めるためには、前記多孔性支持部材上での水流交絡処理において使用するノズルプレートのうち、最終段に使用するノズルプレートは、孔径が0.05~0.10mm、間隔0.30~1.00mmの噴射孔を1~2列に配列したものとすることが好ましい。
【0038】
次にニップ処理を行う(ニップ工程)。この工程では、ウエブを圧縮することで厚さの均一性を高めることができる。例えば、水流交絡されたウエブを平滑な金属ロールとクラウン形状のゴムロール(例えば、EPDMゴムロール、硬度70~90度)の間を圧縮しながら通過させることで、厚さの均一性を高めることができる。さらには、ウエブを平滑な金属ロールに押し付けることで、表面平坦性を向上できる。ウエブの圧縮を効果的に行う観点から、この時のニップ線圧は20~60kg/cmが好ましい。
【0039】
なお、ニップ工程において、金属ロールは加熱してもよく、熱融着性のバインダー繊維が含まれる場合には、加熱温度は、50℃~バインダー繊維の融点より低い温度としてもよい。また、具体的には、加熱温度は、50℃~150℃としてもよく、50℃~100℃であってもよい。
【0040】
ニップ処理後のウエブの水分率は、ウエブを構成する主体繊維の種類やその配合率によって適宜選択することができる。例えば、主体繊維中、レーヨン繊維などの公定水分率が8%以上の繊維の割合が40%以上である場合、ニップ処理後のウエブの水分率は、100~500%程度であってもよく、好ましくは150~400%、より好ましくは200~300%程度であってもよい。
【0041】
主体繊維中、公定水分率が8%以上の繊維の割合が10%以上40%未満である場合、ニップ処理後のウエブの水分率は、100~400%程度であってもよく、好ましくは110~300%、より好ましくは120~250%程度であってもよい。
【0042】
主体繊維中、公定水分率が8%以上の繊維の割合が10%未満である場合、ニップ処理後のウエブの水分率は、100~150%程度であってもよく、好ましくは105~140%、より好ましくは105~130%程度であってもよい。
【0043】
特に、水分率を前記上限以下とする場合、理由は定かではないが、結果として、ミクロなレベルにおいてウエブの厚さの均一性を向上できる。なお、ウエブの水分率を上記範囲に調整するために、ニップ工程の前に脱水工程を設けてもよい。脱水方法は特に限定されないが、例えば、水流交絡工程の最終段階で多孔性支持部材を介して吸引する方法が挙げられる。
【0044】
乾燥工程前に、ウエブの水分量を調節することにより、表面平坦性が良好なウエブ構造を保って乾燥を行うことが可能となる。乾燥工程では、前述の工程によって得られた厚さの均一性が高く、表面平坦性が高いウエブ構造の状態を保って乾燥を行うために、シリンダー乾燥機を用いることが好ましい。シリンダー乾燥機としては、公知のものを利用することができる。表面がフラットなテフロン(登録商標)加工を施したロールを用いて、所定の間隔をもって配設された複数本のロールに対して、あらかじめ水分率が調節されたウエブ各面を交互に押し付けることで高い平坦性を保ったままウエブを乾燥させることができる。なお、乾燥工程では、ウエブの持つ水分が乾燥するように、熱量を調節すればよい。
【0045】
次に、必要に応じて熱処理工程を行ってもよい。熱処理工程では、前述の乾燥工程で使用したシリンダー乾燥機と同様の装置を利用することができる。乾燥工程と熱処理工程とを、同一の装置において加熱温度を変化させて連続して行うことにより、生産効率を上げることができる。例えば、ポリオレフィン系繊維などの熱融着性のバインダー繊維を用いる場合は、加熱によりバインダー繊維が溶融接着して、特に最表面で繊維間結合を多く形成することで、ウエブ最表面の平坦性を高めることができるため好ましい。 なお、熱処理工程ではウエブの温度がウエブ中に含まれるバインダー繊維の融点よりも高い温度になるように熱量を調整すればよい。例えば、繊維に応じて適宜設定することができるが、例えば、ポリオレフィン系繊維の場合、加熱温度は、105~160℃程度であってもよく、好ましくは110~150℃程度であってもよい。
【0046】
次いで冷却工程では、ウエブをバインダー繊維の融点温度以下に冷却することで、溶融したバインダー繊維を固化させる。冷却工程は、熱処理工程後の巻き取りまでの時間を適宜調節して、ウエブから熱を放出することにより行ってもよいし、冷却手段を用いて冷却を行ってもよい。バインダー繊維によって形成した接着点を固定し、ウエブの形態安定性を向上させるために、ウエブがバインダー繊維の融点温度以下となってから、巻き取るのが好ましい。これによって厚さの均一性を維持した状態で不織布を得ることができると同時に、高い表面平坦性を保ったままの状態で巻き取りが可能になる。
【0047】
なお、乾式スパンレース不織布の製造工程は、生産性の観点から、連続処理で行われてもよい。連続処理の速度は、例えば、MD方向において1~100m/分の範囲から、適宜選択すればよい。
【0048】
本発明の液体塗布用クロスは、本発明の効果を阻害しない範囲で、慣用の添加剤、例えば、安定剤(銅化合物などの熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤など)、微粒子、着色剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、難燃剤、消臭剤、可塑剤、潤滑剤、結晶化速度遅延剤などを含有していてもよい。これらの添加剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの添加剤は、不織布を構成する繊維中に含まれていてもよく、不織布の表面に担持されていてもよい。
【0049】
(液体塗布用クロスの構造)
本発明の液体塗布用クロスは、乾式スパンレース不織布であるという性質上、繊維同士がランダムに絡み合うため、不織布の各構成繊維は、ランダムに不織布表面に存在する。本発明では、繊維レベルでのミクロな条件での不織布の構成に着目し、後述する不織布の厚さの比(A)および表面の平坦性を示すバラつき(B)というパラメータを制御することにより、塗布液の均一かつ広域にわたる塗工性を向上している。
【0050】
液体塗布用クロスを構成する不織布の厚さの比(A)は、不織布のMD方向に対して45°の方向で前記不織布を厚み方向において切断した切断面を走査型顕微鏡により画像解析することにより測定される。不織布の厚さの比(A)は、後述する実施例に記載された方法により測定される。所定の方法で選択した所定の方法で選択した100点において不織布の厚さをa1~a100として測定する。これらの中で、最も厚い点における測定値(amax)に対する最も薄い点における測定値(amin)の比(amin/amax)をパーセントとして算出する。なお、繊維の毛羽立ちを排除するために、厚さを算出する際には、厚さの方向の直線と交わる繊維について、最も外側に存在する繊維は測定の対象から外し、外側から2番目に存在する繊維間の距離を、各点における厚さとして測定する。
【0051】
厚さの比(A)が大きいほど、不織布は最も厚い箇所と最も薄い箇所の差が小さく、平坦であることを示している。本発明の液体塗布用クロスは、厚さ均一性を示す厚さの比(A)が40%以上であり、好ましくは48%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは55%以上であってもよい。また、厚さ比は高いほど好ましいが、乾式スパンレース不織布中で繊維が交絡して存在することを考慮すると、厚さの比(A)の最大値は、通常、80%程度であってもよい。
【0052】
また、不織布の表面の平坦性を示すバラつき(B)では、まず、前記厚さの比(A)を測定する際に測定された不織布の厚さをa1~a100の平均値をaavgとして算出する。そして、前記選択した100点について、不織布のそれぞれの表面において外側から2番目に存在する繊維と中心との距離を、それぞれ上方向および下方向に測定する。不織布の中心からの上方向の大きさu1~u100、および中心から下方向の大きさb1~b100について、最も大きい順に10点選んだ測定値の平均値(umax、bmax)と最も小さい順に10点選んだ測定値の平均値(umin、bmin)を求める。
【0053】
表面のバラつき(B)は、不織布の厚さの平均値(aavg)と凹凸部の中心からの距離(umax、bmax、umin、bmin)から以下の式によって求めて、パーセント表示した値である。
B1=(umax-umin)/0.5aavg
B2=(bmax-bmin)/0.5aavg
【0054】
表面の平坦性を示すバラつき(B)が小さいほど、不織布の表面は平坦であるといえる。不織布の両面における表面の平坦性を示すバラつき(B)は、それぞれ60%未満である。好ましく58%以下であってもよく、より好ましくは50%以下であってもよい。また、表面の平坦性を示すバラつき(B)が小さい方の面において、バラつき(B)は、58%以下であってもよく、50%以下であってもよい。また、バラつき(B)は小さいほど好ましいが、乾式スパンレース不織布であり、繊維がランダムに存在することを考慮すると、10%以上、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上であってもよい。
【0055】
本発明の液体塗布用クロスでは、特定の厚さの比と表面バラつきを有するため、不織布全体における厚さの均一性を向上できるだけでなく、不織布表面の平滑性を向上させることができる。その結果、塗布液が含浸した液体塗布シートでは、塗布液が放出される際のスジ状などの塗布むらを抑制できるとともに、良好な放出性を持続でき、均一な塗工を行うことが可能となる。さらに、シートと被塗工面との間での摩擦抵抗が大きくなることを抑制することができ、塗布時の取り扱い性(または塗工性)が向上する。
【0056】
さらに、より均一な厚さに対して、より平坦な表面を有する不織布が好ましいため、前記不織布の厚さの比(A)に対する、より平坦な面の平坦性を示すバラつき(B)の比(B)/(A)が、例えば、1.0以下であってもよく、好ましくは、0.9以下、より好ましくは0.8以下であってもよい。
【0057】
不織布中で高い割合を占める主体繊維の繊維径が小さい場合、小さい繊維径の繊維が互いに入り込み、表面の平坦性を向上することができるため、主体繊維の平均繊維径は、例えば、5~18μmであってもよく、好ましくは10~15μm、より好ましくは11~13μmであってもよい。ここで、平均繊維径は後述する実施例に記載された方法により測定される値であってもよい。
【0058】
バインダー繊維間で接着して不織布の構造を固定化する観点から、バインダー繊維の平均繊維径は、例えば、5~23μmであってもよく、好ましくは14~20μmであってもよい。ここで、平均繊維径は後述する実施例に記載された方法により測定される値であってもよい。
【0059】
表面平坦性と接着性とを高める観点から、主体繊維に対するバインダー繊維の平均繊維径の比(主体繊維)/(バインダー繊維)は、例えば0.60~1.00であってもよく、好ましくは0.65~0.95程度であってもよい。
【0060】
不織布の保液性などの観点から、不織布の密度は、例えば、0.05~0.20g/cm3の範囲内であってもよく、好ましくは0.07~0.15g/cm3の範囲内であってもよい。ここで、密度は、不織布の目付を厚さで割った値である。不織布の密度が低すぎる場合には、形態安定性が低下する傾向にあり、また、不織布の密度が高すぎる場合には、保液量が低下する傾向にある。本発明のシートを構成する不織布の密度は、目付量(g/m2)と厚さ(mm)より計算して求めることができる(不織布の密度(g/cm3)=目付量(g/m2)/厚さ(mm)/1000)。なお、不織布の厚さは、JIS L 1913「一般不織布試験方法」の6.1に準じて測定する。
【0061】
不織布の目付は、例えば、10~100g/m2の範囲内であってもよく、好ましくは20~100g/m2の範囲内、より好ましくは25~50g/m2の範囲内であってもよい。不織布の目付量が低すぎる場合には、形態安定性が低下し、液体塗布シートとして使用する際の丸まりなどが発生しやすくなる傾向にあり、また、不織布の目付量が大きすぎる場合には、シート一枚あたりに使用する繊維量、含浸液の量が多くなりコスト面で不利となる傾向にある。
【0062】
不織布の目付量は、以下のように算出される。不織布(100g)に対し、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度0.34%)を350mL注ぎ込み、5分間静置することで液体を不織布に全体的になじませた後取り出し、不織布同士が重ならない状態にして気温25℃湿度60%の環境下で3日静置乾燥させ、乾燥後の不織布を幅方向10cm×長さ方向10cmのサイズに切り出し、サンプルとした。このサンプルをJIS L1906に準じ、天秤を用いて重量(g)を測定した値から目付量が算出される。
【0063】
本発明の液体塗布用クロスの厚さも特に制限されないが、例えば、0.05~10mmの範囲内であってもよく、好ましくは0.10~8mmの範囲内、より好ましくは0.20~5mmの範囲内であってもよい。厚みが薄すぎる場合には、不織布の形態を維持することが難しくなる傾向にあり、厚みが厚すぎる場合には、シート状の繊維集合体が厚くなり過ぎて、繊維間の絡合が不十分になる傾向にある。
【0064】
本発明の液体塗布用クロスでは、液体が徐々に放出される観点から、初期厚み(押さえ圧12g/cm2)に対する一次圧縮時体積維持率が、例えば、一次圧縮(押さえ圧が14g/cm2)の場合、90.0~97.5%であってもよく、好ましくは91.0~97.0%、より好ましくは92.0~95.0%であってもよい。また、初期厚み(押さえ圧12g/cm2)に対する二次圧縮(押さえ圧が16g/cm2)の二次圧縮時体積維持率は、88.0~93.0%であってもよく、好ましくは89.0~92.5%、より好ましくは89.5~92.0%であってもよい。
そして、一次圧縮時体積維持率と二次圧縮時体積維持率との差は、例えば、3.3~5.5%であってもよく、好ましくは3.5~5.3%であってもよい。なお、圧縮時体積維持率は、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0065】
なお、本発明の液体塗布用クロス(または液体塗布シート)は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、その層構成に特に制限はない。すなわち、単層構造からなる不織布であってもよいし、2層、3層といった多層構造である不織布であっても構わない。多層構造とした場合、各層の繊維配合は同じでも変更しても構わない。また、各層は単に重ね合わせた状態であっても、発明の効果を阻害しない範囲でバインダーなどを用いて各層を接合させていてもよい。
【0066】
本発明の液体塗布用クロスの保液率は、例えば、300~2000質量%程度、好ましくは350~1800質量%程度、より好ましくは400~1500質量%程度であってもよい。具体的には、保液率は、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0067】
本発明の液体塗布用クロスでは、不織布の被接触面に対して塗布液を均一に塗工する観点から、例えば、本発明の液体塗布用クロスは、不織布に対して塗布液を350質量%含浸させたときの表面保液率が30~60%であってもよく、より好ましくは32~50%であってもよい。
【0068】
例えば、
図2および3に示すように、後述する実施例1および比較例1で対比を行うと、実施例1では、白色部分で示されるように、不織布表面から放出される液体の割合が高く、被塗工面の接触する箇所において幅広い網目状に液体を放出することができる。その結果、被塗工面を均一にむらなく塗工することが可能となる。一方、比較例1では、不織布表面から放出される液体が細い網目状にしかならないため、被塗工面に対して液体を十分に塗工することが困難である。
【0069】
すなわち、表面保液率が低すぎる場合には、清拭した際に被塗工面に対して液体が細いスジ状にしか放出されないため、不織布が通過したにもかかわらず塗布液が塗工されず、むらなく塗工できない可能性がある。一方、表面保液率が高すぎる場合には、不織布全体における液体保持能力が不十分であり、液だれが起き、広範囲の塗工が困難となる可能性がある。なお、表面保液率は、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0070】
本発明の液体塗布用クロスでは、塗工中、クロスに与える力に係わらず、同程度に液膜が不織布表面に形成されるのが好ましいため、不織布に対して液体を350質量%含浸した状態における、一次圧縮時表面保液率に対する二次圧縮時表面保液率の比が、例えば1.00~1.40であってもよく、好ましくは1.00~1.39、より好ましくは1.00~1.30であってもよい。
【0071】
本発明の液体塗布用クロスでは、液が少なくなった状態であっても、不織布表面における液膜形成が良好であるのが好ましく、前記不織布に対して液体を150質量%含浸した状態における表面保液率が、例えば、20~60%であってもよく、好ましくは21~50%、より好ましくは22~45%であってもよい。
【0072】
(塗布液)
本発明の液体塗布用クロスと組み合わせて、各種塗布液が用いられる。前記塗布液としては、用途に応じて様々な種類の液体を用いることができる。例えば、むらなく塗工する用途に使用される液体を好適に塗布することが可能であり、そのような液体としては、例えば、消毒液、コーティング剤の他に、各種塗料、仕上げ剤(例えば、ワニスなど)などが挙げられる。不織布に対する塗布液の含浸量は特に制限されないが、前記不織布100質量部に対して、100~1000質量部であってもよく、好ましくは150~800質量部であってもよい。
【0073】
これらの液体は、液体塗布用クロスからの放出性の観点から、例えば、使用温度(例えば室温)での粘度が0.1~500mPa・sであってもよく、好ましくは0.5~100mPa・s、より好ましくは1~10mPa・sであってもよい。
【0074】
また、液体は、液体塗布用クロスから均一に放出できる限り特に限定されず、純液であっても、溶液であっても、エマルジョンであってもよい。
【0075】
溶液およびエマルジョンの場合、溶媒または分散媒は、用途に応じて選択することができるが、環境への影響を考慮すると、水やアルコール類が好ましい。
【0076】
消毒液は、公知または慣用の液体を用いることができ、次亜塩素酸ナトリウム、クロラミンTなどの塩素系消毒剤;過酢酸などの酸性消毒剤;フェノール、クレゾールなどのフェノール系消毒剤;グルタルアルデヒド、オルトフタルアルデヒドなどのアルデヒド系消毒剤;エタノール、イソプロパノール、クレゾールなどのアルコール系消毒剤;クロルヘキシジングルコン酸塩、ベンザルコニウム塩酸塩、ベンゼトニウム塩酸塩、アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩などの界面活性剤系消毒剤などが挙げられる。
【0077】
アルコール類(例えばエタノール)を消毒液として用いる場合、塗布液中のアルコール類の含有量は、塗布液100質量%に対して、30~90質量%が好ましく、より好ましくは35~85質量%、さらに好ましくは40~70質量%である。また、上記塗布液中の水の含有量は、塗布液100質量%に対して、30~70質量%が好ましく、より好ましくは35~65質量%、さらに好ましくは40~60質量%である。このような塗布液としては、水70~30質量%、及び30~70質量%のエタノールを含む含浸液である。
【0078】
コーティング剤としては、例えば、プラスチック用コーティング剤(防カビ剤など)、木材用コーティング剤(ワックス剤、木材保存剤など)、金属用コーティング剤(防さび剤など)、ガラス用コーティング剤(撥水剤など)などの各種材料に対するコーティング剤が挙げられる。これらのコーティング剤は、公知または慣用の材料を用いることができる。
【0079】
(液体塗布キット)
本発明は、塗布液と、液体塗布用クロスとで構成された液体塗布キットも包含する。液体塗布キットには、必要に応じて容器が含まれていてもよく、例えば、前記容器は、液体塗布用クロスをあらかじめ封入していてもよいし、前記塗布液を封入していてもよい。
【0080】
前記液体塗布キットでは、使用前は液体塗布用クロスと塗布液とが別々に用意され、使用する段階において、液体塗布用クロスと塗布液とを接触させて使用することができる。
【0081】
液体塗布用クロスと塗布液との接触にあたっては、液体塗布用クロスに対して、所定量の塗布液を含浸できればよい。例えば、塗布液を封入している容器に対して液体塗布用クロスを入れて、液体塗布用クロスに対して塗布液を含浸してもよいし、液体塗布用クロスを封入している容器に対して塗布液を入れて、液体塗布用クロスに対して塗布液を含浸してもよい。または、液体塗布用クロスおよび塗布液のそれぞれを所定の容器に入れて、液体塗布用クロスに対して塗布液を含浸してもよい。これらの場合、液体塗布用クロスは、塗布液を封入している容器とは別の容器に封入されている。
【0082】
前記容器としては、液体を保持できる形状であれば特に限定されず、例えば、ボトル形状、ピロー包装などのパック形状などであってもよい。また、容器の材質も、塗布液を保持することが限り特に限定されず、例えば、ガラス、プラスチック、陶器などの各種材質で形成された容器であってもよい。
【0083】
また、液体塗布用クロスの形状も、液体が含浸可能である限り特に限定されないが、液体を含浸した後の使いやすさを考慮した場合、Z折形状のシート集合体や、ロール状に巻き取られたロール体であってもよい。
【0084】
なお、ロール体は、例えば、以下に示す製造方法により製造することができる。不織布の原反を巻取り機にかけて不織布の帯を繰り出し、巻き取り方向と垂直に一定間隔でミシン目加工しながら、例えば、直径20mmから40mmのステンレス製の芯に巻き取る。ここで、巻き取り機には製品の不織布の幅の整数倍の幅を有する不織布の原反をセットし、スリッターで所定の幅に切断してもよい。
【0085】
巻き取られたロールをステンレス製の芯から抜き取ったあと機械でバケットに移し、巻取り品を多層フィルムで包装してもよいし、ボトルなどの容器中に封入してもよい。
【0086】
なお、液体塗布キットには、液体および液体塗布用クロスのそれぞれを、単体で詰め替え用製品とする場合も包含することができる。
【0087】
好ましい含浸方法としては、例えば、液体塗布キットにおいて、ロール状の液体塗布用クロスを用いる場合、略円柱の側面部分と、上面の中心部分の2箇所に塗布液をかけて含浸させて使用することができる。
【0088】
液体塗布キットは、一態様として、塩素系消毒剤を塗布するために有用に用いることができ、例えば、液体塗布用クロスが、70質量%以上の非セルロース系繊維(例えば、ポリエステル系繊維やポリオレフィン系繊維など)で構成されている場合、塗布液が塩素系消毒剤であっても、消毒剤の失活を低減し、その結果、液体塗布用クロスがウィルスを不活性にするための有効濃度を有する期間を延長することができる。
【0089】
そのような場合、本発明の液体塗布キットでは、例えば、下記式(1)で表される塩素系消毒液の有効塩素濃度維持率が80%以上であってもよい。
有効塩素維持率(%)=(接触後30日目の有効塩素濃度)/(接触前の有効塩素濃度)×100 (1)
ここで、接触とは、液体塗布用クロスが塩素系消毒剤を含む塗布液と接触したことを意味する。
【0090】
(液体塗布シート)
本発明は、液体塗布シートも包含する。液体塗布シートは、前記液体塗布用クロスと、前記塗布液とで構成され、液体塗布用クロスに塗布液が含浸された液体塗布シートである。
【0091】
本発明の液体塗布シートの厚さの比(A)とバラつき(B)などの物性を評価する場合、含浸状態のシートを広げ、自然乾燥した後に、液体塗布用クロスの場合と同様にして物性を評価してもよい。なお、塗布液の粘度が高い場合などは、繊維構造を変化させないように留意しつつ、塗布液の成分を洗い落として自然乾燥したものを用いてもよい。
自然乾燥後の液体塗布シートについても、液体塗布用クロスと同様の各種物性(目付、表面平坦性、圧縮時体積維持率、表面保液率など)を有しているのが好ましい。
【0092】
本発明の液体塗布シートの形態は、特に限定されないが、具体的には、例えば、前記不織布をシート状に裁断し、Z折をして重ねて、塗布液を含浸させピロー包装したものや、前記不織布をロール状に巻き、塗布液を含浸させたボトル仕様のものが挙げられ、使い勝手の観点から、前記不織布がロール状に巻き取られた形態のものが好ましい。
【0093】
本発明の液体塗布シートは、対物用の液体塗布シートとしての用途に好適であり、中でも、塗布液を被塗工面に塗工するためのシートであることが特に好適である。
なお、本発明の液体塗布シートは、含浸された塗布液を自然乾燥した後に、サンプルとしてその物性を測定してもよい。
【0094】
(液体塗布用具)
さらに、本発明は、液体塗布用具を包含する。液体塗布用具としては、液体塗布シートまたは液体塗布用クロスを装着できる限り特に限定されず、公知または慣用の装着支持体を、前記液体塗布シートまたは液体塗布用クロスと組み合わせて用いることができる。本発明の液体塗布用具では、本発明の液体塗布シートまたは液体塗布用クロスを用いるため、塗布液を均一に広域にわたって塗工できる。
【0095】
前記装着支持体は、塗布部と、前記塗布部から持ち手側に延出する持ち手部とを少なくとも備えている。前記塗布部は、前記液体塗布シートまたは液体塗布用クロスを装着するための装着部を有しているのが好ましい。装着部としては、前記液体塗布シートまたは液体塗布用クロスの端部を挟み込み、塗布部に対して、液体塗布シートまたは液体塗布用クロスを面状に取り付けることができる限り、特に限定されず、公知または慣用の形状を用いることができる。
【0096】
本発明の液体塗布シートまたは液体塗布用クロスは、面方向において均一な塗布を行うことが可能であるため、前記塗布部は、液体塗布シートまたは液体塗布用クロスが被塗工面に接する側において略平坦面を有するのが好ましい。
【0097】
例えば、面方向における塗布部の中心から持ち手部が延出する場合、塗布する際に、持ち手部から伝達される力は、塗布面において持ち手部を中心として伝達される。そのため、従来から利用されている液体塗布用具では、平坦面において前記中心から離れる端部では塗布性が低減し、中心部分と比較すると塗工性が低減してしまう。一方、本発明の液体塗布シートまたは液体塗布用クロスを利用すると、面方向において均一な塗布を行うことができるため、中心から離れる端部の塗布性についても向上することができる。
【実施例】
【0098】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は本実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例においては、下記の方法により各種物性を測定した。
【0099】
[繊度]
JIS L 1015「化学繊維ステープル試験方法」に準じて、繊維の繊度を測定した。
【0100】
[繊維の平均繊維径]
走査型電子顕微鏡を用いて不織繊維構造を観察した。電子顕微鏡写真より無作為に選択した100本の繊維径を測定し、数平均繊維径を求め、繊維の平均繊維径とした。
【0101】
[目付量]
(1)サンプル作製
不織布ロール(100g)に対し、70%エタノール水溶液を350mL注ぎ込み、24時間静置することで液体を不織布に全体的になじませた後取り出し、不織布同士が重ならない状態にして気温25℃湿度60%の環境下で3日間静置して乾燥した。乾燥後の不織布を、幅方向10cm×長さ方向10cmのサイズに切り出し、サンプルとした。
(2)目付測定
前記サンプルを用いて、JIS L1906A法に準じてサンプルの重量(g)を測定した。得られたサンプルの重量(g)から、単位面積当たりの重量に換算して、目付を算出した。
【0102】
[厚さ]
(1)サンプル作製
目付量を測定する場合と同様の方法で作製した。
(2)測定
JIS L 1913「一般不織布試験方法」の6.2に準じて、剃刀(「フェザー剃刀S片刃」、フェザー安全剃刀(株)社製)を用い、上述の(1)で得られたサンプルの厚さを求めた。
【0103】
[密度]
目付(g/m2)と厚さ(mm)より算出した
不織布の密度(g/cm3)=目付(g/m2)/厚さ(mm)/1000
【0104】
[厚さの比(A)および表面の平坦性を示すバラつき(B)]
(1)サンプル作製
目付量を測定する場合と同様の方法で作製した。
【0105】
(2)厚さの測定
剃刀(フェザー安全剃刀(株)製「フェザー剃刃S片刃」)を用いて、サンプルの面に対して垂直に、サンプルのMD方向に対して45度に切断した。このサンプルを走査型電子顕微鏡S-3400N型(日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて断面を100倍の倍率で10か所撮影した。撮影時には断面が横方向に続くように視野に収めた。測定にはパソコンソフトAdobe Photoshop CS6 Extendedの「計測ツール」を用いた。
図1に示すように、各画像内において、画像内の左端から10μmの位置に第1線を引き、右端から10μmの位置に第2線を引いた。続いて繊維の毛羽立ちを排除するために、第1線と繊維の交点のうち、最も上側にある繊維を対象から外し、二本目の繊維と第1線との交点を1-Uとした。下側も同様に、最も下側にある繊維を対象から外し、二本目の繊維と第2線との交点を1-Bとし、1-Uと1-Bの中間点を1-Mとした。第2線についても同様に、2-U、2-B、2-Mを決めた。1-Mと2-Mを直線で結び、これを第3線とした。1-Mから第3線上に100μm右側に移動した点をα
1とし、さらに100μm右側に移動した点をα
2と繰り返し、α
10まで決定した。α
1から第3線に対する垂線A
1を引き、同様に垂線A
2~A
10を決めた。垂線A
1と交わる繊維について最も上側に存在する繊維は測定の対象から外し、上側から2番目に存在する繊維との交点をA
1-U、下側も同様にA
1-Bをとった。A
1-Uからα
1までの距離をu
1、A
1-Bからα
1までの距離をb
1とした。こうして決定したu
1とb
1の和を厚さa
1として、A
2~A
10でも同様に測定して10か所の厚さa
1~a
10を得た。
前述の撮影から測定までの作業を10箇所について同様に実施して、二か所目の画像からはa
11~a
20の厚さというように求め、合計100点の厚さa
1~a
100、上下方向におけるそれぞれの大きさu
1~u
100、およびb
1~b
100を得た。
【0106】
(3)厚さの比(A)の算出
前記不織布の厚さa1~a100のうち、最も大きい順に10点選んだ測定値の平均値(amax)に対する最も小さい順に10点選んだ測定値の平均値(amin)の比(amin/amax)をパーセントとして算出し、不織布の厚さの比(A)とした。
【0107】
(4)表面の平坦性を示すバラつき(B)の算出
前記不織布の厚さa1~a100の平均値をaavgとして算出し、前記不織布の凹凸の大きさu1~u100、およびb1~b100について、最も大きい順10点に選んだ測定値の平均値(umax、bmax)と最も小さい順に10点選んだ測定値の平均値(umin、bmin)を求めた。
【0108】
表面の平坦性を示すバラつき(B)は、以下の式で求めた。
B1=(umax-umin)/0.5aavg
B2=(bmax-bmin)/0.5aavg
【0109】
[保液率]
(1)サンプル作製
目付量を測定する場合と同様の方法で作製した。
(2)測定
JIS L1907 7.2吸水率に準じて測定した。サンプルを5cm角に切り出して重量をX(g)として測定した。次いで、前記サンプルを、水に30秒浸し、浸漬後、その一辺をつまんで水から取り出し、自然に水切りを行い1分後の重量をY(g)として測定した。保液率(%)は下記式にて算出した。
保液率(%)=[(Y-X)/X]×100
【0110】
[表面保液率]
(1)サンプルの作製
不織布を、縦(不織布の長手方向)10cm×横(不織布の幅方向)20cmの長方形に切り出し、(ポリエチレンテレフタレート/アルミニウム/ポリプロピレン積層シート)製の袋に入れた。次いで、下記の含浸液を、不織布100重量部に対して含浸液150重量部または350重量部となるように、上記袋に入れて、不織布に含浸させた。上記袋を密閉して、25℃の雰囲気下に3日間静置して、液体塗布シート(含浸液が含浸された不織布)のサンプルを作製した。
【0111】
<含浸液>
95%エタノール 50.0質量%
精製水 50.0質量%
合計 100.0質量%
【0112】
得られたサンプルを、5cm四方のサイズが存在するように四つ折りにし、折られた状態で、サンプルを黒色のアクリル板(コモグラス502K(株)株式会社クラレ製)の上に載置した。アクリル板は、超純水による対水接触角が80度であった。測定にはDМo-501(協和界面化学株式会社製)を使用した。次いで、折られた状態のサンプルの上に5cm×5cmのステンレス板と分銅を置き、14g/cm2の荷重を付加し、消毒液をアクリル板上に放出させた。5秒後に荷重を取り除いた後、サンプルをアクリル板から静かに引きあげた。
また、荷重を16g/cm2とする以外は同様にして、液体が付着したアクリル板を別途用意した(二次圧縮)。
【0113】
アクリル板上に残った液体を室温で蒸発させ、液体が蒸発したアクリル板の表面を、デジタル顕微鏡[(株)キーエンス(KEYENCE)製デジタルマイクロスコープ(DIGITALMICROSCOPE)VHX-900]を用いて30倍の倍率で撮影した。この画像を、パソコンソフトillustratorで2階調化(閾値15)することで、アクリル板に対して液体が付着した箇所は白色部、液体が付着しなかった箇所は黒色部に視認できるようにした。白色部と黒色部の面積比から液体付着部の面積比を算出した。この値は、不織布がアクリル板に消毒液が転写させた箇所の面積比に相当することから、不織布の表面保液率とした。
【0114】
[圧縮時体積維持率]
(1)サンプル作製
不織布ロール(100g)に対し、次亜塩素酸ナトリウム70%エタノール水溶液を350mL注ぎ込み、24時間静置することで液体を不織布に全体的になじませた後、前記不織布ロールから幅方向10cm×長さ方向10cmの濡れた状態の不織布を取り出し、サンプルとした。
(2)圧縮時厚さの測定
JIS 一般不織布試験方法(JIS L 1913:2010)に記載されている厚さ測定方法のA法に準拠して、φ1inch(2.54cm)の平面測定子に対して押さえ圧12g/cm2として測定した厚さを初期厚さとする。φ1inchの平面測定子は同様に、押さえ圧14g/cm2としたときの厚さを一次圧縮厚さ、押さえ圧16g/cm2としたときの厚さを二次圧縮厚さとする。一次圧縮厚さ、二次圧縮厚さをそれぞれ初期厚さで割ったときの割合を圧縮時体積維持率とした。
【0115】
[連続放出性]
(1)サンプルの作製
上記[表面保液率]の(1)と同様の方法でサンプルを作製した。
(2)評価
上記[表面保液率]の(2)と同様の方法で、アクリル板上に液体を付着させた。これを繰り返し実施してアクリル板上の液体付着状態を観察し、初期の濡れ面積の50%未満になるまでの回数を測定した。
【0116】
[塗布むら]
6人の専門評価パネルの総意により評価を行なった。上記[表面保液率]の(1)と同様の方法で得られたサンプルを二つ折りにして、実験台の上に設けた50cm四方の区画を塗工(清拭)し、その際の感触を以下の判定基準で評価した。
【0117】
<判定基準>
◎ :拭きスジも少なく塗工できた。
〇 :途中から細い拭きスジが発生した。
× :使用直後または途中から目立った拭きスジが発生した。
【0118】
[塗工感触]
6人の専門評価パネルの総意により評価を行なった。上記[表面保液率]の(1)と同様の方法で得られたサンプルを二つ折りにして、実験台の上に設けた50cm四方の区画を塗工(清拭)し、その際の感触を以下の判定基準で評価した。
【0119】
<判定基準>
◎ :塗工開始時と比べ、塗工終了時の際に必要な押圧力に大きな変化はなかった。
〇 :塗工開始時と比べ、塗工終了時の際には、やや強い押圧力が必要であった。
× :塗工開始時と比べ、塗工終了時の際には、強い押圧力が必要であった。
【0120】
[有効塩素維持率]
(1)サンプルの作製
不織布ロール(100g)に対し、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度0.34%)を350mL注ぎ込んだ。30日後に前記不織布ロールから幅方向14cm×長さ方向24cmの濡れた状態の不織布を取り出し、不織布から液体を絞って取り出した。
(2)評価
有効塩素濃度の測定には有効塩素濃度測定キット「AQ-202P」(柴田科学株式会社製)を用いた。
不織布から絞って取り出した液体の有効塩素濃度を測定し、ロールに対して接触させる前の塩素系消毒液の有効塩素濃度との割合を下記式(1)で算出し、除菌キットの有効塩素維持率とした。
有効塩素維持率(%)=(接触後30日目の有効塩素濃度)/(接触前の消毒液の有効塩素濃度)×100 (1)
【0121】
[実施例1]
繊度1.6dtex、繊維長51mmのポリエステル繊維「T471(東レ株式会社製)」を80質量%、繊度1.7dtex、繊維長51mmのポリプロピレンを芯部、ポリエチレンを鞘部としたポリオレフィン系複合繊維「HR―NTW(宇部エクシモ株式会社製)」を20質量%の割合で均一に混綿し、セミランダムカードウェブを常法により作製した。
【0122】
次いで、水流交絡処理として、このカードウエブを開口率25%、穴径0.3mmのパンチングドラム支持体上に載置して長手方向に連続的に移送すると同時に、上方から高圧水流を噴射して交絡処理を行なって、交絡したウエブを製造した。この交絡処理に当たっては、穴径0.10mmのオリフィスをウエブの幅方向に沿って0.6mmの間隔で設けてあるノズル2本を使用し(隣接するノズル間の距離20cm)、1列目のノズルから噴射した高圧水流の水圧を2.0MPa、2列目のノズルから噴射した高圧水流の水圧を3.0MPaとして行なった。
【0123】
更にウエブの表裏を搬送コンベアで反転させ、ネット支持体(開口20.5%)に積載して先ほどとは逆の面から連続的に移送すると共に高圧水流を噴射して交絡処理を行なってネットの凹凸をウエブの表面に転写した。なお、ネット支持体としては日本フィルコン社製平織ネットOP76(繊維径:経糸0.175mm、緯糸0.22mm、本数:経糸82本/inch、緯糸61本/inch、開口率20.5%)を用いた。この交絡処理は、穴径0.10mmのオリフィスをウエブの幅方向に沿って0.6mmの間隔で設けてあるノズル3本を使用して、高圧水流の水圧を1.5MPa、1.5MPa、3.0MPaとして水流交絡を行なった。
【0124】
その後、ウエブの表面平坦化加工(ニップ工程)を行った。水流交絡されたウエブを、鉄ロール(材質SМ490A)と表面がゴム(EPDM 硬度80度)であるクラウンロールの間をニップ線圧36kg/cmで圧縮しながら通過させた。フラットなロール間を圧縮させながら通過させることで、ウエブ表面を平滑化させるとともに過剰の水分を除去させて水分率を114%にした。
【0125】
乾燥ロールは表面がフラットなテフロン加工を施したロールとし、複数本のロールに水分率が調節されたウエブの両面を交互に押し付けることで平滑性を保ったまま乾燥させた。ウエブの温度が138℃になるように熱処理を行い、そのままポリオレフィン系繊維の融点温度以下に冷却させてから巻き取った。なお、ウエブ形成から巻き取りまでの一連の処理は、5m/分の速度で行なった。
【0126】
得られた不織布は、単一層のスパンレース不織布で、目付量が33g/m2、厚さが0.381mm、湿潤時厚さが1.017mm、見かけ密度が0.087g/cm3であった。また、不織布を構成するポリオレフィン系繊維の一部が溶融しポリオレフィン系繊維間で接着点を形成していた。
【0127】
[実施例2]
実施例1で用いたポリエステル繊維を、繊度1.45dtex、繊維長51mmのポリエステル繊維「T403(東レ株式会社製)」に代えてウエブを形成する以外は、実施例1と同様にして不織布を作製した。
得られた不織布は、単一層のスパンレース不織布で、目付量が29g/m2、厚さが0.332mm、湿潤時厚さが0.998mm、見かけ密度が0.087g/cm3であった。また、不織布を構成するポリオレフィン系繊維の一部が溶融しポリオレフィン系繊維間で接着点を形成していた。
【0128】
[実施例3]
ウエブ形成から乾燥処理までの一連の処理速度を70m/分とする以外は、実施例1と同様にして不織布を作製した。
得られた不織布は、単一層のスパンレース不織布で、目付量が31g/m2、厚さが0.339mm、湿潤時厚さが1.106mm、見かけ密度が0.090g/cm3であった。また、不織布を構成するポリオレフィン系繊維の一部が溶融しポリオレフィン系繊維間で接着点を形成していた。
【0129】
[実施例4]
実施例1で用いたポリエステル繊維とポリオレフィン系バインダー繊維の割合を、それぞれ90質量%および10質量%に変更し、ウエブ形成から乾燥処理までの一連の処理速度を35m/分とする以外は、実施例1と同様にして不織布を作製した。
得られた不織布は、単一層のスパンレース不織布で、目付量が32g/m2、厚さが0.326mm、湿潤時厚さが1.189mm、見かけ密度が0.098g/cm3であった。また、不織布を構成するポリオレフィン系繊維の一部が溶融しポリオレフィン系繊維間で接着点を形成していた。
【0130】
[実施例5]
繊度1.7dtex、繊維長38mmの再生セルロース繊維「テンセル(レンチング社製)」10質量%、繊度1.7dtex、繊維長51mmのポリプロピレンを芯部、ポリエチレンを鞘部としたポリオレフィン系複合繊維「HR―NTW(宇部エクシモ株式会社製)」を20質量%、繊度1.45dtex、繊維長38mmのポリエステル繊維「T403(東レ株式会社製)」を70質量%の割合で均一に混綿すること、ネット支持体として(繊維径:経糸0.6mm、緯糸0.75mm、本数:経糸25.5本/inch、緯糸17本/inch、開口率19.8%)を用いること、ネットでの交絡処理に、穴径0.10mmのオリフィスをウエブの幅方向に沿って0.6mmの間隔で設けてあるノズル2本と、穴径0.08mmのオリフィスをウエブの幅方向に沿って0.6mmの間隔で設けてあるノズル1本使用して、高圧水流の水圧を5.0MPa、6.0MPa、3.0MPaとして水流交絡を行なったこと、一連の処理速度を60m/分にする以外は、実施例1と同様にして不織布を作製した。
【0131】
得られた不織布は、単一層のスパンレース不織布で、目付量が40g/m2、厚さが0.370mm見かけ密度が0.106g/cm3であった。また、不織布を構成するポリオレフィン系繊維の一部が溶融しポリオレフィン系繊維間で接着点を形成していた。
【0132】
[実施例6]
繊度1.7dtex、繊維長40mmのレーヨン繊維「コロナ(ダイワボウレーヨン株式会社製)」80質量%、繊度1.7dtex、繊維長51mmのポリプロピレンを芯部、ポリエチレンを鞘部としたポリオレフィン系複合繊維「HR―NTW(宇部エクシモ株式会社製)」を20質量%とすること、交絡処理に、穴径0.10mmのオリフィスをウエブの幅方向に沿って0.6mmの間隔で設けてあるノズル3本を使用して、高圧水流の水圧を2.0MPa、3.0MPa、3.0MPaとして水流交絡を行なうこと以外は、実施例1と同様にして不織布を作製した。
【0133】
得られた不織布は、単一層のスパンレース不織布で、目付量が38.6g/m2、厚さが0.340mm、湿潤時厚さがmm、見かけ密度が0.114g/cm3であった。また、不織布を構成するポリオレフィン系繊維の一部が溶融しポリオレフィン系繊維間で接着点を形成していた。
【0134】
[比較例1]
スパンボンド不織布である「ジアクロス」(サラヤ株式会社製)からサンプルを作製した。得られた不織布は、ポリプロピレン系繊維からなる単一層のスパンボンド不織布で、目付量が30g/m2、厚みが0.248mm、湿潤時厚みが0.954mm、見かけ密度が0.120g/cm3であった。
【0135】
[比較例2]
医療施設用 「セイフキープ次亜シート」(花王プロフェッショナル・サービス株式会社製)からサンプルを作製した。得られた不織布は、ポリエステル系繊維からなる単一層のスパンレース不織布で、目付量が41g/m2、厚みが0.382mm、湿潤時厚みが1.300mm、見かけ密度が0.107g/cm3であった。
【0136】
[比較例3]
ウエブ形成から乾燥処理までの一連の処理速度を70m/分とし、表面平坦化加工(ニップ工程)を行わず、水流交絡処理後に熱処理をして製造したこと以外は実施例4と同様にして不織布を作製した。この時、乾燥前の水分率は160%であった。
得られた不織布は、単一層のスパンレース不織布で、目付量が31g/m2、厚さが0.410mm、湿潤時厚さが1.320mm、見かけ密度が0.075g/cm3であった。
【0137】
[比較例4]
不織布の製造工程において、繊度1.7dtex、繊維長40mmのレーヨン繊維「コロナ(ダイワボウレーヨン株式会社製)」100質量%を用いてセミランダムウエブを常法により作製した。
【0138】
次いで、水流交絡処理として、このカードウエブを開口率25%、穴径0.3mmのパンチングドラム支持体上に載置して長手方向に連続的に移送すると同時に、上方から高圧水流を噴射して交絡処理を行なって、交絡したウエブを製造した。この交絡処理に当たっては、穴径0.10mmのオリフィスをウエブの幅方向に沿って0.6mmの間隔で設けてあるノズル2本を使用し(隣接するノズル間の距離20cm)、1列目のノズルから噴射した高圧水流の水圧を1.5MPa、2列目のノズルから噴射した高圧水流の水圧を2.0MPaとして行なった。
【0139】
更にウエブの表裏を搬送コンベアで反転させ、ネット支持体に積載して先ほどとは逆の面から連続的に移送すると共に高圧水流を噴射して交絡処理を行なってネットの凹凸をウエブの表面に転写した。なお、ネット支持体としては日本フィルコン社製OP10(繊維径:経糸0.9mm、緯糸0.9mm、本数:経糸11本/inch、緯糸10本/inch、開口率39.4%)を用いた。この交絡処理は、穴径0.10mmのオリフィスをウエブの幅方向に沿って0.6mmの間隔で設けてあるノズル3本を使用して、高圧水流の水圧を3.0MPa、4.0MPa、5.0MPaとして水流交絡を行なった。その後、表面平坦化加工(ニップ工程)を行わず、水流交絡処理後に実施例1と同様の方法で熱処理を行い、不織布を作製した。
得られた不織布は、単一層のスパンレース不織布で、目付量が34g/m2、厚さが0.351mm、湿潤時厚さが1.178mm、見かけ密度が0.104g/cm3であった。
【0140】
[比較例5]
原料を繊度1.6dtex、繊維長51mmのポリエステル繊維「T471(東レ株式会社製)」を100質量%とすること、不織布の製造工程において、第1絡合処理での水圧を1.5-2.0MPaとすること、第2絡合処理のネット支持体として下記に示す開口率39.4%のものを用いること、高圧水流の水圧を2.0MPa、3.0MPa、5.0MPaとすること以外は、比較例3と同様にして不織布を作製した。なお、ネット支持体としては日本フィルコン社製OP10(繊維径:経糸0.9mm、緯糸0.9mm、本数:経糸11本/inch、緯糸10本/inch、開口率39.4%)を用いた。
得られた不織布は、単一層のスパンレース不織布で、目付量が32g/m2、厚さが0.391mm、湿潤時厚さが1.178mm、見かけ密度が0.083g/cm3であった。
【0141】
[比較例6]
繊度1.7dtex、繊維長38mmの溶融紡糸セルロース繊維「テンセル(レンチング社製)」90質量%、繊度2.2dtex、繊維長51mmのポリプロピレン/ポリエチレン分割繊維「HS-260(大和紡績(株)製)」10質量%の割合で均一に混綿し、セミランダムカードウェブを作製した。次いで、水流交絡処理では、ネット支持体として(繊維径:経糸0.132mm、緯糸0.132mm、開口率28.3%)を用いること、ネットでの交絡処理に、穴径0.12mmのオリフィスをウエブの幅方向に沿って0.6mmの間隔で設けてあるノズル2本を使用して、高圧水流の水圧を2.0MPa、4.0MPaとし、裏面は4.0MPaとする以外は、実施例1と同様にして水流交絡を行なった。
その後、ニップ工程は省略し、140℃で乾燥処理を行い、水分量が5.0%になった後に、表面温度が90℃、線圧400N/cmのスチール/コットンのフラット熱ロール加工機を用いて熱処理を行った。得られた不織布は、単一層のスパンレース不織布で、目付量が59g/m2、厚さが0.574mm、見かけ密度が0.103g/cm3であった。
【0142】
得られた不織布について得られた各種物性を表1に示す。
【0143】
【0144】
表1に示すように、実施例1~6では、いずれも厚さの比(A)および表面の平坦性を示すバラつき(B)が所定の範囲内に存在するため、連続的な液体放出性を大きく向上することができるだけでなく、塗布むらの発生も少なく、均一な塗布を行うことができる。さらにまた、塗工中の感触が、塗工の経過により大きく変化せず、塗工液の放出が進むにつれて、塗工中に強い押圧が必要となるのを抑制することができる。
また、これらの実施例では、塗布を行う上で十分な保液率を示し、一次圧縮時および二次圧縮時に圧縮した際の体積変化率の差も、所定の範囲に存在するため、一気に液体が放出されることを抑制することができ、適切な範囲の液体を長時間にわたり放出し、その結果塗布面積を拡大することができる。
【0145】
さらに、いずれの実施例についても、少ない液体含浸量(150質量%)である場合であっても表面保液率が高いため、液体がすでに所定量放出された後でも、液体をムラなく被塗布面に塗布できる。また、実施例1~5では、非セルロース系繊維で形成されているため、有効塩素維持率が80%以上である。
【0146】
一方、比較例1では厚さの比(A)および表面の平坦性を示すバラつき(B)が、特定の範囲に存在していないため、連続的な液体放出性が低く、速やかに濡れ面積が低下してしまうだけでなく、スジ状物の発生により塗工むらを起こしている。その結果、連続的な塗工操作の終盤には液体を放出させるためにより大きな力が必要になる。
【0147】
ポリエステル系繊維を主体繊維として含む比較例2および3でも、厚さの比(A)および/または表面の平坦性を示すバラつき(B)が、特定の範囲に存在していないため、連続的な液体放出性が実施例と比べて半分程度である。また塗工むらについても、途中からスジ状の塗工むらが発生してしまう。さらに、連続的な塗工操作の終盤には液体を放出させるためにより大きな力が必要になる。
【0148】
ニップ工程を行わず、レーヨン繊維のみからなる比較例4では、表面平坦性が不良であり、塗工途中で細かい拭きスジが発生してしまう。また、レーヨン繊維自体が液体を吸収することで、150質量%含浸時の表面保液率が低く、連続的な塗工操作の終盤には液体を放出させるためにより大きな力が必要になる。
【0149】
比較例5でも、厚さの比(A)および表面の平坦性を示すバラつき(B)が、特定の範囲に存在していないため、連続的な液体放出性が低いだけでなく、塗工むらが存在する。さらに、バラつき(B)が大きいため、初期に液体が放出されやすく、連続的な塗工操作の終盤には液体を放出させるためにより大きな力が必要になる。
【0150】
目付が高く厚さが大きい比較例6では、目付と厚さが大きいことにより塗工感触を向上させることができるものの、表面の平坦性を示すバラつき(B)が特定の範囲に存在していないため、塗工むらが存在する。さらに、バラつき(B)が大きいため、初期に液体が放出されやすく、連続的な塗工操作の終盤には液体を放出させるためにより大きな力が必要になる。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明の液体塗布キットや液体塗布シートでは、各種塗布液を被塗工面に対して均一に広域にわたって塗工することができ、塗布液の種類に応じて、様々な被塗布面に対して、塗布液を塗工することができる。例えば、液体塗布キットや液体塗布シートは、消毒液、コーティング剤、各種塗料、仕上げ剤(例えば、ワニスなど)などを塗工するために有用に用いることができる。
【0152】
以上のとおり、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の追加、変更または削除が可能であり、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。