(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】ポリエステル重合触媒及びこれを用いたポリエステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 63/85 20060101AFI20240419BHJP
【FI】
C08G63/85
(21)【出願番号】P 2021559219
(86)(22)【出願日】2020-04-02
(86)【国際出願番号】 KR2020004498
(87)【国際公開番号】W WO2020204620
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-10-04
(31)【優先権主張番号】10-2019-0040024
(32)【優先日】2019-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0088118
(32)【優先日】2019-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0036752
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】319001455
【氏名又は名称】ヒョスン ティエヌシー コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,チョンキ
(72)【発明者】
【氏名】パク,ミソ
(72)【発明者】
【氏名】キム,モソン
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特開昭47-011848(JP,A)
【文献】特公昭46-006596(JP,B1)
【文献】特開昭62-297318(JP,A)
【文献】特開2018-090673(JP,A)
【文献】米国特許第03706774(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/85
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分とグリコール成分のエステル化物からなる重合出発原料を重縮合して糸、飲料容器、医療用品、包装材、シート、フィルム、タイヤコード用ポリエステルを製造する方法であって、酸化第一スズ、ピロリン酸第一スズ、リン酸第一スズ、酒石酸第一スズ、酢酸第一スズ、シュウ酸第一スズ、ステアリン酸第一スズ、オレイン酸第一スズ、グルコン酸第一スズ、クエン酸第一スズ、2-ヘキサン酸エチル第一スズ、エトキシド第一スズ、アセチルアセトネート第一スズ及びグリコール酸第一スズからなる群から選択されるものを含むポリエステル重合触媒、を重縮合触媒として使
い、
ここで、最終的に生産されるポリエステルの重量に対して
、無機スズ第一化合物触媒に含まれたスズ元素含量は10ppm~100ppmであり、
無機スズ第一化合物を含むポリエステル重合触媒をエチレングリコール溶液に調製して投入する段階を含み、
この段階はエチレングリコール溶液と前記無機スズ第一化合物を反応させてグリコール酸第一スズの形態に調製して投入する段階であることを特徴とするポリエステルの製造方法。
【請求項2】
前記ポリエステルはホモポリエステルであることを特徴とする、請求項1に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項3】
前記ポリエステル重合触媒をエステル化反応前のスラリー調製の際に投入するか、エステル化反応に投入するか、またはエステル化反応後の重縮合段階に投入することを特徴とする、請求項1に記載のポリエステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル重合触媒及びこれを用いたポリエステルの製造方法に関し、より詳しくはポリエステルの製造の際、アンチモンのような環境問題を引き起こす触媒の代わりに、環境に優しく少ない含量でも重合を進めることができる新規のポリエステル重合触媒及びこれを用いたポリエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は機械的特性及び化学的特性に優れ、従来から飲料容器、医療用品、包装材、シート、フィルム、タイヤコード、自動車成形品などの多様な分野に広範囲に活用されている。
【0003】
このようなポリエステル樹脂の製造には、樹脂の品質や生産効率を向上させるために触媒を使う。ポリエステル樹脂の重合触媒は樹脂の品質及び生産効率を左右する物質であり、ポリエステル樹脂の製造技術のうち熾烈な開発競争が行われている分野である。現在、価格及び効率性を考慮するとき、ポリエステル重合触媒として商業的に一番成功した触媒はアンチモン系触媒である。
【0004】
しかし、アンチモン系触媒から製造された製品の場合、重合過程で多量のアンチモンを使わなければならなく、金属自体の毒性があるから、長期間の使用の際にアンチモンが流出して生体内に流入する場合、胎児成長の阻害、発癌性などの疾病及び環境問題を引き起こしている(Anal.Bioanal.Chem.2006,385,821)。最近の研究結果によれば、アンチモン触媒を使って製造した飲用水瓶、食品包装材からも生体内毒性を引き起こすアンチモンが多量で検出されると知られた(Environ.Sci.Technol.,2007,41,1560)。
【0005】
また、アンチモン触媒は、実用的な水準に重合するようにする量を使われれば、アンチモン金属が沈殿し、投入量に対して約10~15%の水準に触媒還元物が発生するか灰色に変色するような問題を引き起こして製品カラーのL値を低め、口金汚染、与圧上昇、糸切れなどの工程上の問題を引き起こすこともある。よって、先進国ではアンチモン系触媒の使用に対する規制または禁止を段々推進しており、アンチモンのような毒性を引き起こす金属を代替することができる環境に優しいポリエステル重合触媒の開発を急に推進している。
【0006】
よって、毒性の強いアンチモン系触媒を代替することができる、生体内毒性が少なく環境に優しい物質として知られたチタン金属化合物とゲルマニウム化合物をポリエステル重合触媒として用いる方法が提案された。例えば、米国公開特許第2010-0184916号には、環境に優しい代表的な金属であるチタンを使ってポリエステルを製造することについての内容が開示されている。しかし、チタン触媒は樹脂の黄変程度が高くて樹脂の色合いが優れなく、熱安定性に優れなく、オリゴマー含量が多いという問題点があった。このような欠点のため、チタン触媒は金属自体の活性が優れているにもかかわらず、ポリエステルの製造に商業的に適用しにくい限界がある。
【0007】
一方、米国登録特許第6,365,659号には、環境に優しい金属であるゲルマニウム、アルミニウム、ジルコニウムを混合使用してポリエステルを製造することについての内容が開示されている。しかし、ゲルマニウム化合物触媒自体は高い活性を有しているが、ゲルマニウム触媒は、重合に使われる量が多い場合、触媒の高い価格のため商業化に適用しにくい問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述したような従来技術の問題点を解決するためのものであり、本発明の1つの目的は、人体及び環境に有害なアンチモンのような重金属触媒を代替することができる環境に優しい触媒で、高い触媒活性を有するので、少量のみでも十分な重合活性を現し、少ない含量でも高い粘度水準を確保することができるポリエステル重合触媒を提供することである。
【0009】
本発明の他の目的は、本発明の触媒を用いてポリエステルを製造する方法を提供することである。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、実質的にアンチモン系化合物を重縮合触媒として使わずに実用に提供することができ、異物が少なく耐熱性及び色相(Color L)に優れたポリエステルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した技術的課題を解決するための本発明の一様相は、無機スズ第一化合物(stannous tin compound)を含むポリエステル重合触媒に関するものである。
【0012】
本発明の他の様相は、ジカルボン酸成分とグリコール成分のエステル化物からなる重合出発原料を重縮合してポリエステルを製造する方法であって、重縮合触媒として無機スズ第一化合物(stannous tin compound)を含むポリエステル重合触媒を使うことを特徴とするポリエステルの製造方法に関するものである。
【0013】
本発明のさらに他の様相は、本発明のポリエステル重合触媒を用いて製造したポリエステルに関するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、人体及び環境に有害な重金属を含まない触媒を使うことにより、環境汚染を引き起こすかまたは人体に有害である成分を含まないポリエステル樹脂を製造することができる。
【0015】
本発明の無機スズ第一化合物(stannous tin compound)からなるポリエステル重合触媒は無機スズ第一化合物から構成されるので、環境に優しいだけでなく、触媒活性が高くて既存のアンチモン触媒に比べて触媒投入量を1/5水準以下に低めることができ、ポリエステルの熱分解物を50%以上改善することができる。
【0016】
本発明のポリエステル重合触媒の適用の際、ポリエステルの耐熱性を改善し、ポリエステル分解物から発生するアセトアルデヒドの含量を低めることができ、低い重合温度で重縮合反応を進めて環状オリゴマーの含量も改善することができる。
【0017】
本発明の新規のポリエステル重合触媒が適用された製品の場合、アンチモン触媒を適用する製品と同様な押出し工程によっても製品化が可能であり、触媒異物が少なく耐熱性が改善された物性を現す。
【0018】
また、本発明のポリエステル重合触媒の存在下で重縮合させて得るポリエステルは、従来品に比べて飛躍的にポリマーの熱安定性及び色相(Color L)が向上し、工程性も改善する効果を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のポリエステル重合触媒組成物及びポリエステルの製造方法をより詳細に説明する。
【0020】
本発明の説明において、関連した公知の技術についての具体的な説明が本発明の要旨をあいまいにする可能性があると判断される場合、その詳細な説明を省略する。本明細書で、ある部分がある構成要素(成分)を“含む”と言うとき、これは特に反対の記載がない限り、他の構成要素(成分)を排除するものではなく、他の構成要素をさらに含むことができることを意味する。
【0021】
ポリエステル重合触媒
本発明によるポリエステル重合触媒は無機スズ第一化合物(Tin(II),stannous tin compound)を含む。無機スズ第一化合物はSn-C結合を有しない2価の無機スズ化合物であり、塩タイプ(salt type)から構成された金属塩の形態が好ましい。このような無機スズ第一化合物は単独で使うこともでき、または2種以上を組み合わせて使うこともできる。
【0022】
有機スズ化合物は、本発明で使っている無機スズ化合物に比べ、力強い環境規制対象物質であるので、本発明では除く。また、無機スズ化合物のうち無機スズ第二化合物(stannic compound)の場合、安全性は高いが触媒としての活性が低い限界がある。
【0023】
本発明で使用される無機スズ第一化合物の場合、従来に使われるアンチモン(Sb)触媒または無機スズ第二化合物触媒(stannic compound)と比較して、標準還元電位(redox potential energy)の値が低いので、ポリエステル重合反応及び押出し(紡糸、製膜)工程の際に容易に還元しない著しい利点がある。本発明で使用された無機スズ第一化合物触媒は、重合反応中に容易に還元して活性が低下するか還元物によって重合反応器内の触媒残渣物が発生する問題がなく、押出し(紡糸、製膜)工程の際の紡糸パック及びノズル異物などの発生が少なくて工程性が向上する結果を得ることができる。
【0024】
【0025】
標準還元電位は、その値が大きいほど還元性が高く、小さいほど還元性が低くなることを意味する。従来、ポリエステル重合に主に使われたアンチモン(Sb)は触媒活性を有している酸化数3または5の状態で標準還元電位が正(+)値の還元力を有している。これに対して、本発明に使用される無機スズ第一化合物(stannous tin compound)は酸化数2の状態で標準還元電位がOV未満の値を有するから、還元することが非自発的状態になって触媒活性を維持し、ポリエステル重合及び押出し工程の際に発生する還元物(触媒残渣物)を減らすことができる。
【0026】
前記無機スズ第一化合物は、2価の酸化スズ、2価のスズのカルボン酸塩、2価のスズのアルコキシドであってもよい。前記無機スズ第一化合物の非制限的例は、酸化第一スズ、ピロリン酸第一スズ、リン酸第一スズ、酒石酸第一スズ、酢酸第一スズ、シュウ酸第一スズ、ステアリン酸第一スズ、オレイン酸第一スズ、グルコン酸第一スズ、クエン酸第一スズ、2-ヘキサン酸エチル第一スズ(tin(II)2-ethylhexanoate)、エトキシド第一スズ、アセチルアセトネート第一スズ及びグリコール酸第一スズを含む。特に、シュウ酸第一スズ、酢酸第一スズまたはグリコール酸第一スズが好ましい。
【0027】
本発明のポリエステル重合触媒は、ポリエステル重合時のどの段階でも投入可能である。例えば、エステル化反応段階前のスラリー調製の際(EG/TPA混合物)にのみ投入するか、エステル化反応段階にのみ投入するか、エステル化反応物の重縮合段階にのみ投入するか、エステル化反応段階前のスラリー調製の際、エステル化反応段階及び重縮合段階に共に投入することが可能である。ただ、ジカルボン酸成分及びグリコール成分をエステル化反応させた後、反応物を重縮合させてポリエステルを製造する場合、前記無機スズ第一化合物触媒はエステル化反応物の重縮合段階に添加することが好ましい。
【0028】
本発明の無機スズ第一化合物触媒はホモポリエステルまたはコポリエステル重合に使うことができる。特に、ホモポリエステル重合に使うとき、高融点、非常に高い分子量のホモポリエステルを生成することができる。
【0029】
前記無機スズ第一化合物触媒は、触媒自体をポリエステル工程に粉末として添加するかまたは触媒溶液の状態で投入する方式と、触媒をエチレングリコール溶液に調製して投入する方式との両者が使用可能である。ただ、触媒をエチレングリコール溶液に調製して投入するとき、好ましくはエチレングリコール溶液と前記無機スズ第一化合物を反応させてグリコール酸第一スズの形態に調製して投入することができる。
【0030】
通常のポリエステル重合触媒として使われるアンチモン系触媒は触媒活性が低いので、ポリエステルを基準に50ppm~500ppm(Sb元素量基準)を使っている。これに対して、本発明で新規に適用する無機スズ第一化合物触媒の場合、10ppm~200ppm、好ましくは10ppm~100ppm(Sn元素量基準)の少量でも同等な重縮合反応性を充分に確保することができる。このような低い触媒含量によってポリエステルの触媒異物を改善し、触媒還元物による押出し工程(紡糸及び製膜)での異物発生が減少してダイ異物を改善する効果を収得することができる。
【0031】
また、触媒を高濃度に使用する場合、ポリエステル樹脂の黒化(greyish)現象が現れることがあるが、本発明では低い触媒含量によってポリエステル重合物及び製品の色相(Color L)を改善する著しい効果を得ることができる。
【0032】
また、本発明の触媒を適用するとき、ポリエステルの耐熱性を改善し、ポリエステル分解物で発生するアセトアルデヒド含量を低めることができ、低い重合温度で重縮合反応を進めて環状オリゴマーの含量も改善することができる。
【0033】
本発明の触媒は、アンチモン系触媒とは違い、金属自体の毒性が相対的に少なくて人間及び環境に問題を引き起こす可能性が低く、少量でも短い反応時間内に高活性を現す。また、本発明の触媒を用いて製造するポリエステルは、粘度、色相のような物理的性質に優れる。したがって、ポリエステルの大量生産、特にポリエチレンテレフタレートの製造に商業的に有用に適用することができる。
【0034】
本発明の他の様相は、上述した+2原子価を有し、標準還元電位0V以下のスズ金属を含む無機スズ第一化合物(stannous tin compound)を重合触媒として含むポリエステル組成物に関するものである。好ましくは、本発明のポリエステル組成物はホモポリエステル組成物である。本発明のポリエステル組成物は融点が高く分子量が非常に高く、メルトフローインデックスが低いホモポリエステル重合に有利に用いることができる。
前記組成物は、無機第一スズ化合物を10ppm~200ppmの含量で含むことができる。
【0035】
本発明によるポリエステル組成物は、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線遮断剤、帯電防止剤、難燃剤、界面活性剤などをさらに含むことができる。
【0036】
本発明によるポリエステル組成物の製造方法は特に制限されず、本発明が属する技術分野で通常的に用いられる方法で製造することができる。例えば、バッチ式または連続式で遂行することもでき、特に制限されるものではない。
【0037】
ポリエステルの製造方法
本発明の他の様相は、ポリエステルの製造方法に関するものである。ポリエステルの製造方法は、無機スズ第一化合物を含む触媒組成物の存在下でジカルボン酸成分及びグリコール成分を重合する段階を含む。本発明で、重合という用語はホモ重合と共重合の両方を意味し、共重合という用語は三つ以上の単量体の三元重合または共重合を含む。
【0038】
本発明の無機スズ第一化合物触媒はホモポリエステルまたはコポリエステル重合に使うことができる。特に、ホモポリエステル重合に使うとき、高融点、非常に高い分子量のホモポリエステルを生成することができる。また、本発明の無機スズ第一化合物触媒は触媒の活性及び生産性が非常に優れる。
【0039】
本発明の一実施例によれば、ジカルボン酸成分及びグリコール成分を重合させる段階は、前記ジカルボン酸成分とグリコール成分をエステル化反応させる段階、及び前記エステル化反応の反応物を重縮合させる段階を含むことができる。前記エステル化反応段階では、エステル交換反応によって低重合体を得た後、有機高分子粒子、及び各種の添加物を添加した後、重縮合触媒として無機スズ第一化合物を添加して重縮合反応を実施し、高分子量のポリエステルを得ることができる。
【0040】
より具体的には、まず、ジカルボン酸成分及びグリコール成分をエステル反応させる。本発明の一実施例によれば、前記ジカルボン酸成分としては、例えばテレフタル酸、シュウ酸、マロン酸、アゼライン酸(Azelaic acid)、フマル酸、ピメリン酸(Pimelic acid)、スベリン酸(Suberic acid)、イソフタル酸、ドデカンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,2-ノルボルナンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロブタンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-カリウムスルホイソフタル酸、5-リチウムスルホイソフタル酸、または2-ナトリウムスルホテレフタル酸などを例として挙げることができるが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0041】
上述したジカルボン酸以外に本発明の目的を阻害しない範囲内で、前記で例示しなかった他のジカルボン酸も使うことができる。本発明の一実施例によれば、好ましくは前記ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を使うことができる。
【0042】
本発明の一実施例によれば、前記グリコール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,2-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、2,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3-プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、プロパンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、テトラメチルシクロブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジエタノール、1,10-デカメチレングリコール、1,12-ドデカンジオール、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシメチレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、またはグリセロールなどを例として挙げることができるが、必ずしもこれに限定されるものではなく、その他に本発明の目的を阻害しない範囲内で他のグリコールを使うことができる。好ましくは、前記グリコール成分としてエチレングリコールを使うことができる。
【0043】
本発明の一実施例によれば、前記ジカルボン酸成分及びグリコール成分をエステル化反応させる段階は、約200℃~約300℃、好ましくは約230℃~約280℃の温度で約1~約6時間、好ましくは約2時間~約5時間反応させることによって遂行することができる。
【0044】
次いで、前記エステル化反応の反応物を重縮合させる。前記エステル化反応の反応物を重縮合する段階は約200℃~約300℃、好ましくは約260℃~約290℃の温度及び約0.1torr~約1torrの減圧の条件で約1~約3時間、好ましくは約1時間30分~約2時間30分間反応させることによって遂行することができる。
【0045】
本発明の無機スズ第一化合物触媒は、エステル化反応前のスラリー調製の際、またはエステル化反応の際かつエステル化反応後の重縮合段階以前に投入することができる。ただ、本発明の無機スズ第一化合物触媒をエステル化反応に投入する場合、エステル化反応を改善する効果があるが、重縮合時間の改善効果が少なく、エステル化反応中の副反応物であるジエチレングリコール(DEG)含量が多少増加する問題が発生することがあるので、本発明では前記エステル化反応の後に反応物を重縮合する段階に投入することが好ましい。このようにすることにより、従来の触媒を使った場合より重縮合時間を大幅縮めて生産性を向上させることができる。
【0046】
本発明のポリエステルの製造方法において、前記無機スズ第一化合物触媒の場合、最終的に生産されるポリエステルの重量に対して、前記無機スズ第一化合物触媒に含まれたスズ元素含量を基準に約200ppm以下、例えば約10ppm~約200ppm、好ましくは約10ppm~約100ppmを使うことができる。
【0047】
本発明の無機スズ第一化合物触媒は、最終ポリエステルに対するスズ元素含量を基準に10ppm未満を使用して重縮合を試みる場合、活性が低下して反応時間が長くなり、低粘度のポリエステルが製造される問題が発生することがあり、200ppmを超える場合には、不用沈殿物による異物化または金属イオンの残存による色合い低下を引き起こすことがある。
【0048】
本発明によれば、無機スズ第一化合物を使うことにより、少量の触媒を使っても重縮合反応を遂行することができる。また、短い反応時間で高粘度の生成物を収得することができる。このように触媒の使用量を減らすことができるので、重合後に生成されるポリエステル樹脂の黒化(greyish)現象を減らして色合いを改善し、既存の低粘度を高めることができ、産業的に非常に有利である。
【0049】
一般に、ポリエステルは軟化点(softening point)が高いから、ポリエステル樹脂を用いた加工品の製造の際、高温の加工過程でポリエステル樹脂が分解してアセトアルデヒドを生成する傾向がある。アセトアルデヒドは独特な味を有するから、食品関連製品に使用するときに食品の風味及び香に悪影響を及ぼす。本発明のポリエステル重合触媒の適用の際、ポリエステルの耐熱性を改善し、ポリエステル製造の際にアセトアルデヒドの生成を減少させることができる。
【0050】
本発明のポリエステルの製造方法によれば、前記ポリエステルは液状重合によって形成することができる。このときに形成されたポリエステルは固有粘度約0.50~約0.70dl/gの範囲を有することができる。一方、本発明のポリエステルの製造方法によれば、前記ポリエステルは固相重合によって形成することができる。このときに形成されたポリエステルは固有粘度約0.70~約1.3dl/gの範囲を有することができる。
【0051】
ポリエステル製品
本発明のさらに他の様相は、本発明のポリエステル重合触媒を用いて本発明の製造方法で製造したポリエステルである。このようなポリエステルとして、具体的には、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート、ポリエチレン-1,2-ビス(2-クロロフェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボキシレートなどを挙げることができる。
【0052】
以下で、本発明の実施例を参照して本発明をより詳細に説明する。ただ、このような実施例は発明の例として提示したものに過ぎなく、これによって本発明の権利範囲が限定されるものではない。
【0053】
実施例
製造例1
無機スズ第一化合物(Tin(II),stannous tin compound)触媒5gを総重量2kgになるようにエチレングリコールルに希釈させ、撹拌速度400rpmで撹拌することで無機スズ第一化合物触媒をエチレングリコールルに0.25%濃度に調製した。次いで、還流可能な反応器で反応温度160~180℃で2時間反応させることによって無機スズ第一化合物触媒溶液を生成した。
【0054】
比較製造例1
アンチモン40gを総重量2kgになるようにエチレングリコールルに溶解し、400rpmで撹拌することで触媒溶液を製造した。還流可能な反応器で反応温度180~190℃で2時間反応させることにより、アンチモングリコレート溶液を生成した。
【0055】
実施例1
テレフタル酸(TPA)7.8kg及びエチレングリコール(EG)3.3kgをスラリー調製(EG/TPAモルの比=1.13)し、エステル化反応器にセミバッチ式で投入し、窒素雰囲気の常圧反応によって反応温度が265℃になるまで反応させることにより、ポリエステルオリゴマーを製造した。ここで、エステル化反応温度は、スラリー投入温度は253℃、最終エステル化反応終了温度は265℃であり、反応時間は3時間30分程度である。
【0056】
エステル化反応器で製造されたポリエチレンテレフタレートオリゴマーを重縮合反応器に移送し、酸化第一スズ触媒を、最終に収得されるポリエチレンテレフタレートを基準に200ppm入れ、約2時間30分にわたって高真空減圧の下で反応温度が288℃になるまで縮重合を実施した。
【0057】
重縮合反応終了の後、冷却水を用いて固体化させることで、固有粘度(IV)0.60~0.65dl/g水準のポリエチレンテレフタレート重合物を収得した。
【0058】
実施例2~70
触媒として下記の表1に示す無機スズ第一化合物を10~200ppm使用したことを除き、実施例1と同様に実施してポリエステル重合物を製造した。
【0059】
比較例1
触媒を使わないことを除き、実施例1と同様に実施してポリエステル重合物を製造した。
【0060】
比較例2
触媒として比較製造例1で製造されたアンチモン触媒溶液を使ったことを除き、実施例1と同様に実施してポリエステル重合物を製造した。
【0061】
比較例3~7
触媒として下記の表1に示すアンチモン触媒溶液を使ったことを除き、実施例1と同様に実施してポリエステル重合物を製造した。
【0062】
比較例8~43
触媒として下記の表1に示す無機スズ第二化合物(Tin(IV),Stannic Tin compound)を使ったことを除き、実施例1と同様に実施してポリエステル重合物を製造した。
【0063】
比較例44~85
触媒として下記の表1に示す無機スズ第一化合物を1ppmまたは500ppm使用したことを除き、実施例1と同様に実施してポリエステル重合物を製造した。
【0064】
実験例
前記実施例1~70及び比較例44~85によって製造されたポリエステル重合物に対する物性を以下の方法で評価し、その結果を下記の表1に示した。比較例1~43によって製造されたポリエステル重合物に対する物性を同様な方法で評価し、その結果を下記の表1に示した。下記の表で触媒の含量は金属を基準に示したものである。
【0065】
(1)固有粘度
ASTM D4603にしたがってフェノールと1,1,2,2-テトラクロロエタンを6:4の重量比で混合した試薬(Raw Chip 90℃、SSP130℃)に試料0.1gを濃度が0.4g/100mlになるように90分間溶解させた後、ウベローデ(Ubbelohde)粘度計に移し、30℃恒温槽で10分間維持させ、粘度計と吸引装置(aspirator)を用いて溶液の落下秒数を求めた。溶媒の落下秒数も同様な方法で求めた後、式1及び式2によってR.V.(相対粘度)値及びI.V.(固有粘度)値を計算した。
【0066】
(数学式1)
R.V.=試料の落下秒数/溶媒の落下秒数
【0067】
(数学式2)
I.V.=1/4×[(R.V.-1)/C]+3/4×(lnR.V./C)
前記式で、Cは溶液中の試料の濃度(g/100ml)を示す。
【0068】
(2)カルボキシル末端基(CEG)濃度
ASTM D7409にしたがって試料をO-cresolで溶解した後、酸塩基中和滴定を用いて分析した。具体的に、0.2g内外の試料を取り、これにベンジルアルコール10mlを加えた。200℃のヒーティングブロック(heating block)で10分間加熱して溶解した後、水槽で1分間冷却させた。これにクロロホルム10mlとフェノールレッド、フェノール指示薬を数滴滴加し、0.02N KOH(またはNaOH)を用いて滴定した。滴定量から式3によってカルボキシル末端基(CEG)濃度を計算する。カルボキシル基の数はカルボキシル基ミリ当量/重合体kg(meq/kg)で表示する。
【0069】
(数学式3)
CEG=(A-B)×0.02×1000/W
A:試料に消費されたml、B:ブランク、W:試料重量
【0070】
(3)ジエチレングリコール(DEG)濃度
モノエタノールアミンを用いてアミン分解(aminolysis)させた後、ガスクロマトグラフィーで分析した。具体的に、PET試料1gを取り、これにモノエタノールアミン3mlを加え、冷却器を装着した後、ホットプレートで完全に加熱分解させた。冷却の後、内部標準(1,6-ヘキサンジオール)を含むMeOH20ml、テレフタル酸(TPA)10gを加えた後、ガスクロマトグラフィーで分析した。DEG標準定量曲線は同じ内部標準を含み、DEG含量がそれぞれ0、0.5、1.0、1.5%のMeOH溶液を用いて作成した。
【0071】
(4)ポリマーのアセトアルデヒド含有量
ASTM F2013にしたがって冷凍破砕したポリエステル試料をヘッドスペースサンプラーバイアルに入れて密封した後、160℃で2時間熱抽出し、ガスクロマトグラフィーGC(Agilent 7890)で分析した。
【0072】
(5)色相測定(Color L)
色差計(BYK Gardner製品Color view-9000)を用いてD65光源、10°の条件でのColor L値を測定した。分光光度計によって測定されるL値は、試料の反射率を測定した後、CIE 1976 CIE Lab色差式によって計算される測色値である。
【0073】
【0074】
前記表1を参照すると、実施例1~70の場合に生成されたポリエチレンテレフタレートの物理的性質(Color色、CEG濃度、DEG濃度、耐熱性)がアンチモン触媒を使った比較例2~7と比較して同等な水準以上に優れることを確認することができる。また、無機スズ第二化合物(Stannic)を使った比較例8~43の場合、実施例1~70の触媒組成物に比べて重縮合時間が長くかかり、アセトアルデヒドを多く含んでいた。したがって、本発明の無機スズ第一化合物触媒はポリエステル重合触媒であり、高活性なので重合時間を大幅縮めることができ、高い固有粘度を示すことが分かる。
【0075】
以上で、本発明はたとえ限定された実施例に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されず、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者によって本発明の技術思想の多様な修正及び変形が可能であるというのは言うまでもない。したがって、本発明の真正な保護範囲は以下に記載する特許請求の範囲及びそれと均等な範囲で決定されなければならないであろう。