IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ デサン・コーポレイションの特許一覧

特許7475408L-アルギニンまたはL-シトルリン生産能が向上したコリネバクテリウム属微生物およびこれを用いたL-アルギニンまたはL-シトルリンの生産方法
<>
  • 特許-L-アルギニンまたはL-シトルリン生産能が向上したコリネバクテリウム属微生物およびこれを用いたL-アルギニンまたはL-シトルリンの生産方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】L-アルギニンまたはL-シトルリン生産能が向上したコリネバクテリウム属微生物およびこれを用いたL-アルギニンまたはL-シトルリンの生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20240419BHJP
   C12P 13/10 20060101ALI20240419BHJP
   C12N 9/10 20060101ALN20240419BHJP
【FI】
C12N1/20 A ZNA
C12P13/10 A
C12P13/10 B
C12N9/10
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022162571
(22)【出願日】2022-10-07
(65)【公開番号】P2024014656
(43)【公開日】2024-02-01
【審査請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】10-2022-0090641
(32)【優先日】2022-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【微生物の受託番号】KCCM  KCCM 13219P
【微生物の受託番号】KCCM  KCCM 13220P
(73)【特許権者】
【識別番号】518431347
【氏名又は名称】デサン・コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ミ・リュ
(72)【発明者】
【氏名】スン・ジュン・ユン
(72)【発明者】
【氏名】イン・ピョ・ホン
(72)【発明者】
【氏名】ソク・ヒョン・パク
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-523989(JP,A)
【文献】国際公開第2022/008280(WO,A1)
【文献】特開2017-079705(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2004-0073176(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第113736719(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
SwissProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2のアミノ酸配列のうち、131番目のアミノ酸においてアラニンからトレオニンへの置換を有するアセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼを発現することで親株と比べてL-アルギニンまたはL-シトルリン生産能が向上したコリネバクテリウム グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)変異株。
【請求項2】
請求項1に記載のコリネバクテリウム グルタミカム変異株を培地で培養するステップと、
前記培養された変異株または変異株が培養された培地からL-アルギニンまたはL-シトルリンを回収するステップとを含むL-アルギニンまたはL-シトルリンの生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L-アルギニンまたはL-シトルリン生産能が向上したコリネバクテリウム属微生物およびこれを用いたL-アルギニンまたはL-シトルリンの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルギニン(Arginine)は植物などに遊離状態で含有されていることが知られている。アルギニンは非必須アミノ酸の一つであるが、成長期の子供およびストレス状態、外傷、癌などの特異状態の場合には供給することが必須である準必須アミノ酸(semi-essential amino acid)であり、アミノ酸類強化剤、医薬品、食品などの成分として広く用いられている。医薬用としては、肝機能促進剤、脳機能促進剤、男性不妊治療剤、総合アミノ酸製剤などに使用されており、食品用としては、かまぼこ添加剤、健康飲料添加剤、高血圧患者の食塩代替用に使用されている。
【0003】
シトルリン(Citrulline)は非必須アミノ酸の一つで、シトルリンにはアンモニア代謝促進や血管拡張による血流改善、血圧低下、神経伝達、免疫力増進、活性酸素消去などの有用な作用があることが知られている。腎臓でシトルリンはアルギニンに代謝され、NO(nitric oxide)を生成させる。すなわち、シトルリンは生体内のタンパク質を構成するアミノ酸ではないが、尿素サイクルの中間体の一つで、アルギニンから血管拡張作用を有する物質として知られたNOと共に生成され、追加的にアスパラギン酸と縮合してアルギニンに再生される。
【0004】
このようなアルギニンおよびシトルリンの生産は、自然状態で得られた野生型菌株や、そのアルギニンまたはシトルリン生産能が向上するように変形された変異株を用いることができる。最近は、アルギニンまたはシトルリンの生産効率を改善させるために、大膓菌、コリネバクテリウムなどの微生物を対象に遺伝子組換え技術が活用されている。微生物におけるL-アルギニンの生合成は、L-グルタメート(L-glutamate)を出発物質として、N-アセチルグルタメート(N-acetylglutamate)、N-アセチルグルタミル-P(N-acetylglutamyl-P)、N-アセチルグルタメート5-セミアルデヒド(N-acetylglutamate5-semialdehyde)、N-アセチルオルニチン(N-acetylornithine)、L-オルニチン(L-ornithine)、L-シトルリン(L-citrulline)、そしてアルギニノスクシネート(argininosuccinate)を経て合成され、このような段階的な合成過程には酵素、転写因子、輸送タンパク質などの多様なタンパク質が関与する。したがって、遺伝子組換え技術によりL-アルギニンまたはL-シトルリンの生合成に関与する様々なタンパク質の活性を調節することにより、L-アルギニンまたはL-シトルリンの生産性を増大させることができ、優れたL-アルギニンまたはL-シトルリン生産能を有する組換え菌株または変異株を開発するためには多くの研究が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】韓国登録特許第10-2269637号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、L-アルギニンまたはL-シトルリン生産能が向上したコリネバクテリウム属変異株を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、前記変異株を用いたL-アルギニンまたはL-シトルリンの生産方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼの活性が強化されてL-アルギニンまたはL-シトルリン生産能が向上したコリネバクテリウム属変異株を提供する。
【0009】
本発明で使われた「アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼ(acetylornithine aminotransferase)」は、L-アルギニンの生合成経路においてN-アセチルグルタメート5-セミアルデヒドをN-アセチルオルニチンに変換する反応を触媒する役割を果たす。前記N-アセチルオルニチンは、様々な酵素によって順次に変換されて、結果として、L-アルギニンまたはL-シトルリンに合成される。
【0010】
本発明の一具体例によれば、前記アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼは、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属微生物に由来するものであってもよい。
【0011】
より具体的には、前記コリネバクテリウム属微生物は、コリネバクテリウムグルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウムクルディラクティス(Corynebacterium crudilactis)、コリネバクテリウムデザーティ(Corynebacterium deserti)、コリネバクテリウムカルナエ(Corynebacterium callunae)、コリネバクテリウムスラナレアエ(Corynebacterium suranareeae)、コリネバクテリウムルブリカンティス(Corynebacterium lubricantis)、コリネバクテリウムドサネンス(Corynebacterium doosanense)、コリネバクテリウムエフィシエンス(Corynebacterium efficiens)、コリネバクテリウムウテレキー(Corynebacterium uterequi)、コリネバクテリウムスタチオニス(Corynebacterium stationis)、コリネバクテリウムパカエンス(Corynebacterium pacaense)、コリネバクテリウムシングレア(Corynebacterium singulare)、コリネバクテリウムフミリドゥセンス(Corynebacterium humireducens)、コリネバクテリウムマリヌム(Corynebacterium marinum)、コリネバクテリウムハロトレランス(Corynebacterium halotolerans)、コリネバクテリウムスフェニスコルム(Corynebacterium spheniscorum)、コリネバクテリウムフレイブルゲンス(Corynebacterium freiburgense)、コリネバクテリウムストリアタム(Corynebacterium striatum)、コリネバクテリウムカニス(Corynebacterium canis)、コリネバクテリウムアンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、コリネバクテリウムレナーレ(Corynebacterium renale)、コリネバクテリウムポルティソリ(Corynebacterium pollutisoli)、コリネバクテリウムイミタンス(Cor
ynebacterium imitans)、コリネバクテリウムカスピウム(Corynebacterium caspium)、コリネバクテリウムテスツディノリス(Corynebacterium testudinoris)、コリネバクテリウムシュードペラルギ(Corynebacaterium pseudopelargi)またはコリネバクテリウムフラベセンス(Corynebacterium flavescens)であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0012】
本発明で使われた「活性が強化」は、目的とする酵素、転写因子、輸送タンパク質などのタンパク質を暗号化する遺伝子の発現が新たに導入されるか増大して、野生型菌株または変形前の菌株に比べて発現量が増加することを意味する。このような活性の強化は、遺伝子を暗号化するヌクレオチド置換、挿入、欠失、またはこれらの組み合わせによりタンパク質自体の活性が本来微生物の持っているタンパク質の活性に比べて増加した場合と、これを暗号化する遺伝子の発現増加または翻訳増加などで細胞内で全体的な酵素活性の程度が野生型菌株または変形前の菌株に比べて高い場合、これらの組み合わせも含む。
【0013】
本発明の一具体例によれば、前記アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼの活性の強化は、アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼを暗号化する遺伝子に位置特異的変異によるものであってもよい。
【0014】
本発明の一具体例によれば、前記アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼを暗号化する遺伝子は、配列番号1の塩基配列で表示されるか、または配列番号2のアミノ酸配列から構成されるものであってもよい。
【0015】
本発明の一具体例によれば、前記位置特異的変異は、配列番号1の塩基配列のうち1つ以上の塩基が置換されたものであってもよい。
【0016】
本発明の一具体例によれば、前記位置特異的変異は、配列番号2のアミノ酸配列のうち1つ以上のアミノ酸が置換されたものであってもよい。
【0017】
より具体的には、前記位置特異的変異は、配列番号2のアミノ酸配列のうち50~200番目、または100~150番目において1個、2個、3個、4個、または5個のアミノ酸が連続的にまたは非連続的に置換されていてもよい。
【0018】
本発明の一具体例によれば、前記位置特異的変異は、配列番号2のアミノ酸配列のうち131番目のアミノ酸がアラニンからトレオニンに置換されたものであってもよい。
【0019】
本発明で使われた「生産能が向上した」は、親菌株に比べてL-アルギニンまたはL-シトルリンの生産性が増加したことを意味する。前記親菌株は、変異の対象となる野生型または変異株を意味し、直接変異の対象になるか、組換えられたベクターなどで形質転換される対象を含む。本発明において、親菌株は、野生型コリネバクテリウム属微生物、または野生型から変異された微生物または菌株であってもよい。
【0020】
このように本発明のL-アルギニンまたはL-シトルリン生産能が向上したコリネバクテリウム属変異株は、アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼを暗号化する遺伝子の変異塩基配列またはアミノ酸配列を含むことにより、親菌株に比べて増加したL-アルギニンまたはL-シトルリン生産能を示し、特に親菌株に比べてL-アルギニンまたはL-シトルリンの生産量が5%以上、具体的には5~80%、10~70%、20~60%、または30~50%増加したものであってもよい。
【0021】
本発明の一具体例によれば、前記コリネバクテリウム属変異株は、コリネバクテリウムグルタミカム(Corynebacterium glutamicum)であってもよい。
【0022】
本発明の一具体例によるコリネバクテリウム属変異株は、親菌株においてアセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼの配列の一部が置換された変異体を含む組換えベクターにより実現できる。
本発明で使われた「一部」は、塩基配列またはポリヌクレオチド、またはアミノ酸配列の全部ではないものを意味し、1~300個、好ましくは1~100個、より好ましくは1~50個であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0023】
本発明で使われた「変異体」は、特定遺伝子のアミノ酸配列のうちN-末端、C-末端および/または内部で1つ以上のアミノ酸が保存的置換(conservative substitution)、欠失(deletion)、変形(modification)または付加されて、前記変異体の変異前のアミノ酸配列と異なるものの、機能(functions)または特性(properties)が維持されるポリペプチドを意味する。ここで、「保存的置換」とは、1つのアミノ酸を構造的および/または化学的性質が類似する他のアミノ酸に置換させることを意味し、タンパク質またはポリペプチドの活性にほとんど影響を及ぼさないか、または全く影響を及ぼさない。また、変異体は、N-末端リーダー配列または膜転移ドメイン(transmembrane domain)のような1つ以上の部分が除去されるか、または成熟タンパク質(mature protein)のN-および/またはC-末端から一部分が除去されたものを含む。このような変異体は、その能力が変異前のポリペプチドに比べて増加したり、変化しなかったり、または減少しうる。本発明では、変異体が変異型、変形、変異型ポリペプチド、変異したタンパク質、変異などと混用される。
【0024】
本発明の一具体例によれば、前記アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼ変異体は、配列番号4のアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0025】
本発明で使われた「ベクター」は、適当な宿主細胞において目的タンパク質を発現できる発現ベクターであって、遺伝子挿入物が発現するように作動可能に連結された(operably linked)必須の調節要素を含む遺伝子製造物を意味する。ここで、「作動可能に連結された」は、発現が必要な遺伝子とその調節配列が互いに機能的に結合して遺伝子発現を可能にする方式で連結されたことを意味し、「調節要素」は、転写を行うためのプロモーター、転写を調節するための任意のオペレーター配列、適したmRNAリボソーム結合部位を暗号化する配列、および転写および解読の終結を調節する配列を含む。このようなベクターは、プラスミドベクター、コスミドベクター、バクテリオファージベクター、ウイルスベクターなどを含むが、これらに限定されるものではない。例えば、ファージベクターまたはコスミドベクターとして、pWE15、M13、λEMBL3、λEMBL4、λFIXII、λDASHII、λZAPII、λgt10、λgt11、Charon4AおよびCharon21Aなどを使用することができ、プラスミドベクターとして、pDZベクター、pBR系、pUC系、pBluescriptII系、pGEM系、pTZ系、pCL系およびpET系などを使用することができる。使用可能なベクターは特に制限されるものではなく、公知の発現ベクターを使用することができるが、これに限定されない。
【0026】
本発明で使われた「組換えベクター」は、適した宿主細胞内に形質転換された後、宿主細胞のゲノムと無関係に複製可能であるか、ゲノムそのものに縫い込まれる。この時、前記「適した宿主細胞」は、ベクターが複製可能なものであって、複製が開始される特定の塩基配列である複製原点を含むことができる。
【0027】
前記形質転換は、宿主細胞によって適したベクター導入技術が選択されて、目的とする遺伝子を宿主細胞内で発現させることができる。例えば、ベクターの導入は、電気穿孔法(electroporation)、熱衝撃(heat-shock)、リン酸カルシウム(CaPO4)沈殿、塩化カルシウム(CaCl2)沈殿、微細注入法(microinjection)、ポリエチレングリコール(PEG)法、DEAE-デキストラン法、陽イオンリポソーム法、酢酸リチウム-DMSO法、またはこれらの組み合わせによって行われる。形質転換された遺伝子は、宿主細胞内で発現できれば宿主細胞の染色体内挿入または染色体外に位置しているものでも制限なく含まれる。
【0028】
前記宿主細胞は、生体内または試験管内で本発明の組換えベクターまたはポリヌクレオチドで形質感染、形質転換、または感染した細胞を含む。本発明の組換えベクターを含む宿主細胞は、組換え宿主細胞、組換え細胞または組換え微生物である。
【0029】
また、本発明による組換えベクターは、選択マーカー(selection marker)を含むことができるが、前記選択マーカーは、ベクターで形質転換された形質転換体(宿主細胞)を選別するためのものであって、前記選択マーカーが処理された培地で選択マーカーを発現する細胞のみ生存できるため、形質転換された細胞の選別が可能である。前記選択マーカーは、代表例として、カナマイシン、ストレプトマイシン、クロラムフェニコールなどがあるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
本発明の形質転換用組換えベクター内に挿入された遺伝子は、相同組換え交差によってコリネバクテリウム属微生物のような宿主細胞内に置換されていてもよい。
【0031】
本発明の一具体例によれば、前記宿主細胞は、コリネバクテリウム属菌株であってもよいし、例えば、コリネバクテリウムグルタミカム(Corynebacterium glutamicum)菌株であってもよい。
【0032】
また、本発明の他の態様は、前記コリネバクテリウムグルタミカム変異株を培地で培養するステップと、前記変異株または変異株が培養された培地からL-アルギニンまたはL-シトルリンを回収するステップとを含むL-アルギニンまたはL-シトルリンの生産方法を提供する。
【0033】
前記培養は、当業界にて知られた適切な培地と培養条件によって行われてもよいし、通常の技術者であれば培地および培養条件を容易に調整して使用可能である。具体的には、前記培地は、液体培地であってもよいが、これに限定されるものではない。培養方法は、例えば、回分式培養(batch culture)、連続式培養(continuous culture)、流加式培養(fed-batch culture)、またはこれらの組み合わせ培養を含むことができるが、これに限定されるものではない。
【0034】
本発明の一具体例によれば、前記培地は、適切な方式で特定菌株の要件を満たさなければならず、通常の技術者によって適宜変形可能である。コリネバクテリウム属微生物に対する培養培地は、公知の文献(Manual of Methods for General Bacteriology.American Society for Bacteriology.Washington D.C.、USA、1981)を参照することができるが、これに限定されるものではない。
【0035】
本発明の一具体例によれば、培地に多様な炭素源、窒素源および微量元素成分を含むことができる。使用可能な炭素源としては、グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、デンプン、セルロースのような糖および炭水化物、大豆油、ヒマワリ油、ヒマシ油、ココナッツ油などのようなオイルおよび脂肪、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸のような脂肪酸、グリセロール、エタノールのようなアルコール、酢酸のような有機酸が含まれる。これらの物質は、個別的にまたは混合物として使用できるが、これに限定されるものではない。使用可能な窒素源としては、ペプトン、酵母抽出物、肉汁、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、大豆小麦および尿素または無機化合物、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウムおよび硝酸アンモニウムが含まれる。窒素源も、個別的にまたは混合物として使用することができるが、これに限定されるものではない。使用可能なリンの供給源としては、リン酸二水素カリウムまたはリン酸水素二カリウムまたは相応するナトリウム-含有塩が含まれてもよいし、これに限定されるものではない。また、培養培地は、成長に必要な硫酸マグネシウムまたは硫酸鉄のような金属塩を含有することができ、これに限定されるものではない。その他、アミノ酸およびビタミンのような必須成長物質が含まれる。また、培養培地に適切な前駆体が使用できる。前記培地または個別成分は、培養過程で培養液に適切な方式によって回分式または連続式で添加可能であるが、これに限定されるものではない。
【0036】
本発明の一具体例によれば、培養中に水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸および硫酸のような化合物を微生物培養液に適切な方式で添加して培養液のpHを調整することができる。また、培養中に脂肪酸ポリグリコールエステルのような消泡剤を用いて気泡の生成を抑制することができる。追加的に、培養液の好気状態を維持するために、培養液中に酸素または酸素-含有気体(例、空気)を注入することができる。培養液の温度は、通常20~45℃、例えば、25~40℃であってもよい。培養期間は、有用物質が所望する生産量で得られるまで継続可能であり、例えば、10~160時間であってもよい。
【0037】
本発明の一具体例によれば、前記培養された変異株および変異株が培養された培地からL-アルギニンまたはL-シトルリンを回収するステップは、培養方法により当該分野にて公知の適した方法を用いて培地から生産されたL-アルギニンまたはL-シトルリンを収集または回収することができる。例えば、遠心分離、濾過、抽出、噴霧、乾燥、蒸発、沈殿、結晶化、電気泳動、分別溶解(例えば、アンモニウムスルフェート沈殿)、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、親和性、疎水性およびサイズ排除)などの方法を使用することができるが、これに限定されるものではない。
【0038】
本発明の一具体例によれば、前記L-アルギニンまたはL-シトルリンを回収するステップは、培養培地を低速遠心分離してバイオマスを除去して得られた上澄液をイオン交換クロマトグラフィーにより分離することができる。
【0039】
本発明の一具体例によれば、前記L-アルギニンまたはL-シトルリンを回収するステップは、L-アルギニンまたはL-シトルリンを精製する工程を含むことができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明によるコリネバクテリウム属変異株は、L-アルギニンの生合成経路に関与するアセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼの活性を強化することにより、親菌株に比べてL-アルギニンまたはL-シトルリン生産能の生産収率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明の一実施例により131番目のアミノ酸がアラニンからトレオニンに置換された、アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼ遺伝子を含むpk19msb+argD(A131T)ベクターの構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明をより詳細に説明する。しかし、このような説明は本発明の理解のために例として提示されたものに過ぎず、本発明の範囲がこのような例示的な説明によって制限されるものではない。
【0043】
実施例1.コリネバクテリウムグルタミカム変異株の作製
アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼの活性が強化されたコリネバクテリウムグルタミカム変異株を製造するために、L-アルギニン生産菌株であるコリネバクテリウムグルタミカム14GR(KCCM13219P)菌株およびE.coli DH5a(HIT Competent cellsTM、Cat No.RH618)を使用した。
【0044】
前記コリネバクテリウムグルタミカム14GR菌株は、蒸留水1Lに98%Glucose10.5g、Beef extract1g、Yeast extract4g、Polypeptone2g、NaCl2g、(NHSO 40gの組成のARG-broth培地(pH7.2)で30℃の温度で培養した。
【0045】
前記E.coli DH5aは、蒸留水1Lにトリプトン10.0g、NaCl10.0gおよび酵母抽出物5.0gの組成のLB培地上で37℃の温度で培養した。
【0046】
抗生剤カナマイシン(kanamycin)は、シグマ(Sigma)社の製品を使用した。
【0047】
DNAシーケンシング分析はマクロジェン(株)に依頼して分析した。
【0048】
1-1.組換えベクター
菌株に生合成経路を強化させるためにアセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼに変異を誘導した。本実施例で用いた方法は、アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼを暗号化しているargD遺伝子の発現を増加するために、当該遺伝子の特定位置に変異を誘発した。argD遺伝子の131番目のアミノ酸をアラニンからトレオニンに置換し、コリネバクテリウムグルタミカムゲノム上でargD遺伝子の真ん中を中心に左アーム529bp部分と右アーム525bp部分をPCRで増幅して、オーバーラップPCR(overlap PCR)方法で連結した後、pk19msbベクターにクローニングした。前記プラスミドをpk19msb+argD(A131T)と名付けた(図1参照)。前記プラスミドを作製するためにそれぞれの遺伝子断片を増幅するのに下記表1のプライマーを使用した。
【0049】
【表1】
【0050】
以上のプライマーを用いて、下記の条件下でPCRを行った。Thermocycler(TP600、TAKARA BIO Inc.、日本)を用いて、それぞれのデオキシヌクレオチドトリホスフェート(dATP、dCTP、dGTP、dTTP)100μMが添加された反応液にオリゴヌクレオチド1pM、コリネバクテリウムグルタミカムATCC13032の染色体DNA10ngを鋳型(template)として用いて、pfu-X DNAポリメラーゼ混合物(Solgent)1ユニットの存在下、25~30周期(cycle)を行った。PCRの実施条件は、(i)変性(denaturation)ステップ:94℃で30秒、(ii)結合(annealing)ステップ:58℃で30秒、および(iii)拡張(extension)ステップ:72℃で1~2分(1kbあたり2分の重合時間付与)の条件で実施した。
【0051】
このように製造された遺伝子断片を、self-assembly cloningを用いて、pk19msbベクターにクローニングした。前記ベクターをE.coli DH5aに形質転換させ、50μg/mlのカナマイシンを含有するLB-寒天プレート上に塗抹して、37℃で24時間培養した。最終形成されるコロニーを分離して挿入物(insert)が正確にベクターに存在するかを確認した後、このベクターを分離してコリネバクテリウムグルタミカム菌株の組換えに使用した。
【0052】
前記方法で共通して行われた過程として、当該遺伝子の増幅は、コリネバクテリウムグルタミカムATCC13032のgenomic DNAからPCR方法で増幅して、戦略によってself-assembled cloning方法でpk19msbベクターに挿入してE.coli DH5aから選別した。染色体の遺伝子塩基置換(Chromosomal base substitution)は、それぞれ断片の遺伝子を個別増幅してオーバーラップPCRで目的DNA断片を製造した。遺伝子組換えの際、PCR増幅酵素としては、Ex Taq重合酵素(Takara)、Pfu重合酵素(Solgent)を用い、各種制限酵素およびDNA modifying酵素はNEB製品を使用し、供給されたバッファーおよびプロトコルに従って使用した。
【0053】
1-2.コリネバクテリウムグルタミカム変異株AD1
クローニングベクターを用いて、変異菌株であるAD1菌株を製造した。クローニングベクターの最終濃度が1μg/μl以上となるように用意して、コリネバクテリウムグルタミカム14GR菌株に電気穿孔法(文献[Tauch et al.、FEMS Microbiology letters123(1994)343-347]参照)を用いて1次組換えを誘導した。この時、電気穿孔した菌株をカナマイシンが50μg/μl含まれる寒天培地に塗抹してコロニーを分離した後、ゲノム上の誘導した位置に適切に挿入されたかを、PCRおよび塩基配列分析により確認した。このように分離された菌株を再度2次組換えを誘導するために液体培地に接種し、一晩以上培養して10%sucroseを含有した寒天培地に塗抹してコロニーを分離した。最終分離したコロニー中でカナマイシンに対する耐性の有無を確認した後、抗生剤耐性のない菌株のうちアセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼに変異が導入したかを、塩基配列分析により確認した(文献[Schafer et al.、Gene145(1994)69-73]参照)。最終的に、アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼのアミノ酸配列(配列番号2)のうち131番目に位置したアラニンがトレオニンに置換された、L-アルギニンの生産が可能なコリネバクテリウムグルタミカム変異株AD1を作製した。
【0054】
実験例1.コリネバクテリウムグルタミカム変異株のL-アルギニン生産能評価
親菌株と比較して、実施例1で作製されたコリネバクテリウムグルタミカム変異株AD1のL-アルギニン生産能を評価した。
【0055】
各菌株をフラスコ種培地の固体培地にパッチング(patching)して、30℃で24時間培養した。培養されたコロニーを10mlのフラスコ力価培地に接種して、32℃、200rpm、30時間培養した。ここで使用された培地の組成は下記表2に示した。培養終了後、培養液を蒸留水で100倍希釈し、0.45μmのフィルタで濾過した後、カラム(DionexIonPacTM CS12A)と紫外線検出器(195mm)が装着された高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)(agilent technologies 1260 infinity、agilent technologies)を用いてL-アルギニンの生産量を分析し、その結果を下記表3に示した。表3のL-アルギニン(%)は、各菌株によって生産されたアルギニンの生産量の百分率を意味し、発酵収率(Yp/s)(%)は、消耗した糖対比で生産されたL-アルギニンの量を示す。
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
前記表3に示したように、コリネバクテリウムグルタミカム変異株AD1は、アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼのアミノ酸配列のうち131番目のアミノ酸がアラニンからトレオニンに置換されることにより、親菌株に比べてL-アルギニンの生産性が著しく向上したことが確認された。
【0059】
実施例2.コリネバクテリウムグルタミカム変異株の作製
実施例1-1のpk19msb+argD(A131T)クローニングベクターを、コリネバクテリウムグルタミカム14GRの代わりに、コリネバクテリウムグルタミカム15GD(KCCM13220P)に導入したことを除けば、実施例1と同様の方法でアセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼのアミノ酸配列(配列番号2)のうち131番目に位置したアラニンがトレオニンに置換された、L-シトルリンの生産が可能なコリネバクテリウムグルタミカム変異株CD1を作製した。
【0060】
実験例2.コリネバクテリウムグルタミカム変異株のL-シトルリン生産能評価
親菌株と比較して、実施例2で作製されたコリネバクテリウムグルタミカム変異株CD1のL-シトルリン生産能を評価した。
【0061】
各菌株をフラスコ種培地の固体培地にパッチング(patching)して、30℃で24時間培養した。培養されたコロニーを10mlのフラスコ力価培地に接種して、32℃、200rpm、30時間培養した。ここで使用された培地の組成は下記表4に示した。培養終了後、培養液を蒸留水で100倍希釈し、0.45μmのフィルタで濾過した後、カラム(DionexIonPacTM CS12A)と紫外線検出器(195mm)が装着された高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)(agilent technologies 1260 infinity、agilent technologies)を用いてL-シトルリンの生産量を分析し、その結果を下記表5に示した。表5のL-シトルリン(%)は、各菌株によって生産されたシトルリンの生産量の百分率を意味し、発酵収率(Yp/s)(%)は、消耗した糖対比で生産されたL-シトルリンの量を示す。
【0062】
【表4】
【0063】
【表5】
【0064】
前記表5に示したように、コリネバクテリウムグルタミカム変異株CD1は、アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼのアミノ酸配列のうち131番目のアミノ酸がアラニンからトレオニンに置換されることにより、親菌株に比べてL-シトルリンの生産性が著しく向上したことが確認された。
【0065】
このような結果は、L-アルギニンの生合成経路に関与するアセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼの核酸配列またはアミノ酸配列内の位置特異的変異により酵素活性が強化されることにより、L-アルギニンおよびL-シトルリンの生産性が増加することを示唆する。
【0066】
以上、本発明についてその好ましい実施例を中心に説明した。本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明が本発明の本質的な特性を逸脱しない範囲で変形された形態で実現できることを理解するであろう。そのため、開示された実施例は、限定的な観点ではなく、説明的な観点で考慮されなければならない。本発明の範囲は、上述した説明ではなく、特許請求の範囲に示されており、それと同等範囲内にあるすべての差異は本発明に含まれていると解釈されなければならない。
【0067】
[受託番号]
寄託機関名:韓国微生物保存センター(KCCM)
受託番号:KCCM13219P
受託日付:20220629
寄託機関名:韓国微生物保存センター(KCCM)
受託番号:KCCM13220P
受託日付:20220629
図1
【配列表】
0007475408000001.xml