(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】すぐに使用可能な消毒剤
(51)【国際特許分類】
A01N 59/00 20060101AFI20240419BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20240419BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20240419BHJP
A01N 37/06 20060101ALI20240419BHJP
A01N 37/10 20060101ALI20240419BHJP
A01N 37/02 20060101ALI20240419BHJP
A01N 31/04 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
A01N59/00 A
A01P1/00
A01P3/00
A01N37/06
A01N37/10
A01N37/02
A01N31/04
(21)【出願番号】P 2022500534
(86)(22)【出願日】2020-06-30
(86)【国際出願番号】 EP2020068409
(87)【国際公開番号】W WO2021001373
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】102019117861.4
(32)【優先日】2019-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】521009186
【氏名又は名称】ヒラルトレード アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】ライヒヴァーゲン,スヴェン
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-517484(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02020180(EP,A1)
【文献】特表2010-526816(JP,A)
【文献】特開2015-040209(JP,A)
【文献】Chemical Inactivation of Protein Toxins on Food Contact Surfaces,J Agric Food Chem,2012年06月22日,Vol, 60, No.26,pp.6627-6640
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N、A01P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
すぐに使用可能な消毒剤であって、該消毒剤は、
エタノールまたはイソプロパノールを1.0質量%の濃度で含有し、
1つ以上の過カルボン酸を0.1~5質量%の濃度で含有し、
1つ以上のカルボン酸を0.1~5質量%の濃度で含有し、かつ
過酸化水素
を5質量%
以下の濃度で含有し、ヨウ素を含まず、
前記過カルボン酸とカルボン酸は、合計濃度で5質量%を超えず、かつ安息香酸および/もしくはソルビン酸ならびに/またはそのペルオキシ形態を含有し、
前記濃度データは、前記すぐに使用可能な消毒剤に対するものである、消毒剤。
【請求項2】
過酢酸を含有する、請求項
1に記載の消毒剤。
【請求項3】
過酢酸を0.1~1.0質量%含有する、請求項
2記載の消毒剤。
【請求項4】
安定剤および/または界面活性剤を含有する、請求項1から
3までのいずれか1項記載の消毒剤。
【請求項5】
ソルビタンエステルを含有する、請求項
4記載の消毒剤。
【請求項6】
ポリビニルピロリドンを含有する、請求項
4または
5記載の消毒剤。
【請求項7】
毒素を解毒するため
に使用される、請求項1から
6までのいずれか1項記載の
消毒剤。
【請求項8】
タウメトポエア・プロセシオネア(Thaumetopoea processionea)の毒素を解毒するため
に使用される、請求項
7記載の
消毒剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性過カルボン酸系のすぐに使用可能な消毒剤に関する。本発明による薬剤は、殺菌活性、殺ウイルス活性および殺真菌活性を有し、さらに毒素の解毒に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
消毒目的での過カルボン酸の使用は、例えば特許文献1から原則的に知られている。特に、該刊行物には過酢酸の使用が記載されている。この消毒剤は、特に医療用装備品、例えば内視鏡の処理に適している。
【0003】
過カルボン酸溶液は、触媒、通常はリン酸または硫酸の存在下で、水性媒体中でカルボン酸と過酸化水素とを反応させることにより製造される。反応中、一方では反応生成物としての過カルボン酸と、他方では出発材料、すなわちカルボン酸および過酸化水素との間で平衡が形成される。通常は、所望の低過カルボン酸濃度に設定するために、過カルボン酸を含む反応混合物が溶媒でさらに希釈される。通常は、希釈には水が使用される。溶液には、過酸化物の分解を遅延または防止するための安定剤が含まれている場合がある。
【0004】
過カルボン酸の濃縮平衡溶液を水で希釈すると、系の平衡点が元の反応物の再生に有利に変化し、その際、この平衡調整にもより長い時間を要することがある。したがって、希釈過カルボン酸溶液は、過酸化水素の分解によりその効果がより一層失われていく、組成の変化した溶液となる。
【0005】
特許文献2からは、過カルボン酸がソルビタンエステル、特にTween 20の添加によって安定化されている水性の消毒および滅菌剤が知られており、ここで、該刊行物の内容を参照により本明細書に援用するものとする。この方法は基本的に成功することが実証され、特に界面活性剤としてのソルビタンエステルが物体の濡れ性を向上させる。特許文献3には、過カルボン酸の安定化のためのポリビニルピロリドン(PVP)の使用およびソルビタンエステルとの組み合わせが記載されており、ここで、該刊行物の内容も参照により本明細書に援用するものとする。
【0006】
特許文献4から、表面消毒用の33%の1-プロパノールと0.2%の過酢酸との混合物が知られている。この混合物は、ポリオウイルスに対して極めて速効性を示す。特許文献5には、アルコール、有機酸、過酢酸、過酸化水素および増粘剤をベースとする洗浄および消毒剤の処方が記載されている。この処方は、表面への密着性が良好であり、かつ長時間効果が持続することを目指している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】欧州特許第0677990号明細書
【文献】国際公開第2006/125657号
【文献】国際公開第2017/137546号
【文献】旧東ドイツ国経済特許第41981号明細書
【文献】独国実用新案第202012006847号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、殺菌活性、殺真菌活性および殺ウイルス活性を有し、速効性を示し、濡れた表面を攻撃せず、身体への適合性が良好であり、したがって食品産業、医療分野および介護分野で使用できる、すぐに使用可能な消毒剤を提供するという課題に基づいている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、冒頭に述べたタイプの薬剤であって、該薬剤は、炭素原子数2~4の低級アルコールを0.5~2.0質量%の濃度で含有し、1つ以上の過カルボン酸を0.1~5質量%の濃度で含有し、1つ以上のカルボン酸を0.1~5質量%の濃度で含有し、かつ過酸化水素を0~8質量%の濃度で含有し、過カルボン酸とカルボン酸との合計濃度は5質量%を超えず、濃度データは、すぐに使用可能な消毒剤に対するものである、薬剤により解決される。
【0010】
驚くべきことに、0.5~2.0質量%の範囲の低いアルコール含有量は、水性媒体中に溶解させた過酸化物の作用を促進する効果があることが判明した。この作用の促進は、アルコールが、低濃度でも微生物のエンベロープタンパク質の三次構造およびフォールディングに影響を与え、これらが酸化的な攻撃を受け易くすることに起因している可能性がある。ジスルフィド架橋は酸化により容易に崩壊可能であり、チオール基はスルホン基へと酸化され得る。そのため、タンパク質エンベロープが存在することを前提としているが、セルロース系エンベロープを有する糸状菌胞子は、それに対して抵抗性が強いことがわかっている。
【0011】
本発明による消毒剤は、アルコールとして、特にエチルアルコール、イソプロパノールまたはn-プロパノールを含有する。好ましいアルコール含有量は、0.5~1.5質量%、特に約1.0質量%である。
【0012】
アルコールおよび水に加えて、本発明による消毒剤は、1つ以上の有機過酸を0.1~5質量%、特に0.1~2.0質量%の濃度で含有する。通常は、過カルボン酸に加えてさらに、1つ以上の有機カルボン酸が0.1~5質量%、特に0.1~2.0質量%の濃度で存在する。さらに、過酸化水素が0~5質量%の量で存在することができる。
【0013】
ここで、有機カルボン酸と過カルボン酸との合計量は、5質量%の合計含有量を超えてはならない。
【0014】
当然のことながら、すべての質量パーセントデータおよび濃度は、消毒剤の合計量に対するものである。
【0015】
原則として、水溶液にすることができるすべてのカルボン酸およびそのペルオキシ形態が本発明による目的に合致している。これには例えば、炭素原子数が12までの飽和および不飽和脂肪族および芳香族カルボン酸、炭素原子数が8までのジカルボン酸およびヒドロキシカルボン酸であって、その単独および混合物の状態のもの、ならびに対応するペルオキシカルボン酸が挙げられる。安息香酸、ソルビン酸、酢酸およびそれらのペルオキシ形態が好ましい。安息香酸およびソルビン酸、ならびにそのペルオキシ形態も、殺菌作用を有する。
【0016】
多官能性の過カルボン酸およびそのペルオキシ形態、特に乳酸およびクエン酸のようなヒドロキシカルボン酸もまた、有利に使用することができる。
【0017】
当然のことながら、本発明による消毒剤では、各有機酸およびそのペルオキシ形態と過酸化水素との間には平衡が存在する。本明細書に示す組成は、この平衡設定に関するものではなく、消毒剤の製造に使用される出発物質に関するものである。
【0018】
本発明による薬剤はさらに、安定剤および湿潤助剤を除いて、基本的にはさらなる添加剤を必要としない。
【0019】
安定剤として、例えばソルビタンエステル、特にTween 20が挙げられる。これらは、過カルボン酸および過酸化水素の双方に対して有効な安定剤であることが実証されている。また、ソルビタンエステルは湿潤助剤(界面活性剤)としても作用する。通常は、0.5~2.0質量%の濃度で完全に十分である。
【0020】
安定剤として、さらにポリビニルピロリドンが挙げられる。好ましいのは、平均分子量が10,000~360,000ダルトン(10,000~360,000×約1.66×10-27kg)の範囲にあるものである。平均分子量(重量平均)が15,000ダルトン(15,000×約1.66×10-27kg)、特に40,000ダルトン(40,000×約1.66×10-27kg)のPVP(Povidon K 30)が非常に適していることが判明している。通常は、1.0~5.0質量%の濃度で十分である。
【0021】
また、上記に示したソルビタンエステルおよびポリビニルピロリドンを併用することも可能である。
【0022】
本発明によれば、低濃度のアルコール、特にエタノールを使用することで、過カルボン酸の供給量を少なくすることができる。大半の用途では、1質量%前後の濃度で十分である。通常は、まず過カルボン酸濃度が10~20質量%である濃縮液を製造し、次いで、水での希釈によりこの濃度を下げる。
【0023】
本発明による薬剤は、その強力な殺菌効果に加えて、タンパク質を含む毒素に対しても良好な効果を有する。こうした毒素は、薬剤の活性酸素によって変性され、解毒される。これは、例えばタウメトポエア・プロセシオネア(Thaumetopoea processionea)の毒素に対して該当する。一方で、過カルボン酸の濃度が十分であれば、幼虫も死滅する。
【0024】
微生物は異なる感受性を有するため、2つ以上の過カルボン酸を使用することが有利であることが判明している。目的によって、適した過カルボン酸は異なる。例えば、アルデヒドまたはケト基を有する一連の毒素、すなわちマイコトキシン、エキソトキシンのみならずエンドトキシンもが、過安息香酸によってバイヤー・ビリガー酸化を経て効果的に破壊される。過安息香酸はアフラトキシンに対して使用することができ、カタラーゼ阻害剤として作用する。一方で、過酢酸は細菌のポアタンパク質を効果的に攻撃するのに適しており、過クエン酸は特にバイオフィルムの分解に適していることが判明している。驚くべきことに、少量のアルコールの存在は、この反応を著しく促進させるのに適している。なぜならば、それにより微生物のエンベロープタンパク質が酸化され易くなるためである。
【0025】
さらに驚くべきことに、30質量%という高いアルコール濃度を用いても、過カルボン酸溶液の作用を向上または促進することはできない。したがって、本発明による消毒剤における少量のアルコールの使用は、アルコール不含の変化形態に対しても、アルコールに富む変化形態に対しても、明らかな利点を提供する。
【0026】
必要に応じて、本発明による薬剤は、慣用の添加物質、特にさらなる溶媒、キレート剤、pH調整剤、腐食防止剤、錯化剤、消泡剤、着色剤および香料を含有することができる。当然のことながら、これらの添加物質はいずれも、過カルボン酸に対して安定でなければならず、また過カルボン酸の分解を促進してはならない。
【0027】
本発明による薬剤のpH値は、酸性範囲、例えば3.5~6.0の範囲にあることが好ましい。過カルボン酸のみならず過酸化水素も、アルカリ性範囲で分解される傾向にある。
【0028】
本発明による薬剤は、家庭内、医療分野、介護分野のみならず農業でも使用することができる。適用分野の1つには傷口の消毒があり、さらなる適用分野は、人、動物および植物の真菌症の治療である。
【実施例】
【0029】
以下の実施例により、本発明をより詳細に説明する。
【0030】
例1
100mlあたり以下の組成で、濃縮液からすぐに使用可能な消毒液を製造した:
0.10g 安息香酸
0.10g ソルビン酸
4.49g 過酸化水素
0.50g 過酢酸
1.00g エタノール
残部 水
この消毒液のpH値は、3.66であった。
【0031】
例2(比較)
同じ濃縮液から、アルコール含有量が30質量%の消毒液を製造した。pH値を測定したところ、4.12であった。
【0032】
例3(比較)
例1の濃縮液から、アルコール不含の消毒液を製造した。
【0033】
例1~例3で得られた消毒液について、微生物に対する試験を行った。このため、消毒液を未希釈のまま、微生物を水に懸濁させた各種希釈液に添加した。所定の作用時間後、残存する過酸化物をチオ硫酸塩溶液で分解し、その溶液のアリコートをマイクロタイタープレートに置いた。ゼロ値に対する微生物の対数減少を調べた。結果を別表に示す。
【0034】
意想外にも、1質量%のエタノールを含有する本発明による溶液は、低濃度であっても、比較溶液よりも明らかにE.ヒラエ(E. hirae)に対して速効性を示す。酵母C.アルビカンス(C. albicans)の場合には、アルコールに富む溶液と比較して同等の減少が見られ、アルコール不含の溶液と比較して明らかな促進が見られる。A.ブラジリエンシス(ニゲル)(A. brasiliensis (niger))の糸状菌胞子の場合には、アルコールに富む溶液が、そのアルコール含有量に基づきより速効性を示すが、アルコール不含の溶液は、ここでもさほど速効性を示さないことが判明した。
【0035】