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特許7475434L-トリプトファン産生効率を向上させるトランスポーター遺伝子の大腸菌における使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】L-トリプトファン産生効率を向上させるトランスポーター遺伝子の大腸菌における使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/31 20060101AFI20240419BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240419BHJP
   C12P 13/22 20060101ALI20240419BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20240419BHJP
   C12N 15/90 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
C12N15/31
C12N1/21 ZNA
C12P13/22 A
C12N15/09 110
C12N15/90 100Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022513521
(86)(22)【出願日】2019-10-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-14
(86)【国際出願番号】 CN2019112848
(87)【国際公開番号】W WO2021042460
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-04-07
(31)【優先権主張番号】201910828913.5
(32)【優先日】2019-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】517403123
【氏名又は名称】寧夏伊品生物科技股▲ふん▼有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】513148853
【氏名又は名称】天津科技大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】謝希賢
(72)【発明者】
【氏名】熊博
(72)【発明者】
【氏名】趙春光
(72)【発明者】
【氏名】郭小▲うぃ▼
(72)【発明者】
【氏名】門佳軒
(72)【発明者】
【氏名】魏愛英
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-278405(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108753860(CN,A)
【文献】Biotechnology Letters,2017年,Vol.39,p.289-295
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/31
C12N 1/21
C12P 13/04
C12N 15/09
C12N 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
L-トリプトファン産生遺伝子組換え菌であって、
ywkB遺伝子で宿主菌を修飾して得た遺伝子組換え菌は、より高い産生量のL-トリプトファンを産生する活性を有し、
ここで、前記ywkB遺伝子は、枯草菌由来であり、前記修飾は、yeep偽遺伝子座へのywkB遺伝子の修飾であり、
ここで、前記宿主菌は、L-トリプトファンを産生する能力を有する大腸菌であり、
ここで、前記ywkB遺伝子は、配列表SEQ ID NO:2で示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列である、ことを特徴とする遺伝子組換え菌。
【請求項2】
前記大腸菌は、大腸菌W3110を出発菌として遺伝子改変を行ったトリプトファン産生菌である、ことを特徴とする、請求項1に記載の遺伝子組換え菌。
【請求項3】
前記ywkB遺伝子は、相同組換え、発現ベクター又はゲノム編集の手段により、宿主菌に導入される、請求項1または2に記載の遺伝子組換え菌。
【請求項4】
前記発現ベクターは、プラスミドである、請求項に記載の遺伝子組換え菌。
【請求項5】
前記ゲノム編集の手段は、CRISPR/Cas9法を用いて前記アミノ酸配列遺伝子を宿主菌の染色体に導入することである、請求項に記載の遺伝子組換え菌。
【請求項6】
前記ywkB遺伝子は強力なプロモーターの制御下にある、請求項1からのいずれか1項に記載の遺伝子組換え菌。
【請求項7】
前記強力なプロモーターは、BBa_j23101プロモーター又はBBa_j23106プロモーターである、請求項に記載の遺伝子組換え菌。
【請求項8】
前記BBa_j23106プロモーターのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:3で示される、請求項に記載の遺伝子組換え菌。
【請求項9】
宿主菌にywkB遺伝子を組み込み、宿主菌よりも高い産生量のL-トリプトファンを産生する活性を有する遺伝子組換え菌を得る、ことを特徴とするL-トリプトファン産生遺伝子組換え菌の構築方法であって
前記組み込みは、ywkB遺伝子をyeep偽遺伝子座に修飾することであり、
前記宿主菌は、L-トリプトファンを産生する能力を有する大腸菌であり、
前記ywkB遺伝子は、配列表SEQ ID NO:2で示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列である、方法
【請求項10】
前記宿主菌は、大腸菌W3110を出発菌として遺伝子改変を行ったトリプトファン産生菌である、ことを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記組み込みは、CRISPR-Cas9ゲノム編集の手段によって行われる、請求項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1からのいずれか1項に記載の遺伝子組換え菌又は請求項から11のいずれか1項に記載の方法で得られた遺伝子組換え細菌を用いて発酵して、L-トリプトファンを産生するステップを含む、L-トリプトファンの生産方法。
【請求項13】
菌種を活性化するステップ1)と、種子液を製造するステップ2)と、発酵培養のステップ3)とを含む、請求項12に記載のL-トリプトファンの生産方法。
【請求項14】
ステップ1)において、斜面培養を採用し、すなわち、-80℃保存菌種を活性化斜面にストリーク播種し、37℃で12h培養して、1回継代し、
ステップ2)において、振とうフラスコ種子培養を採用し、すなわち、播種ループで斜面種子を掻き取って30mL種子培地を入れた500mL三角フラスコに播種し、9層ガーゼで口を密封し、37℃、200rpmで8~10h培養し、
ステップ3)において、振とうフラスコ発酵培養を採用し、すなわち、10~15%(v/v)の播種量で発酵培地を容れた500mL三角フラスコに播種し(最終体積は30mL)、9層ガーゼで口を密封し、37℃、200r/minで振とう培養し、発酵過程でアンモニア水を補充することでpHを7.0~7.2に維持し、60%(m/v)ブドウ糖溶液を補充することで発酵を進行させ(フェノールレッドを指示薬とし、発酵液の色が変化しない時に糖不足とみなし、糖不足時に60%(m/v)ブドウ糖溶液を1~2mL補充して、発酵液中のブドウ糖濃度が初期値の20~40g/Lになるようにする)、
発酵周期は22~26hである、請求項13に記載のL-トリプトファンの生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、2019年09月03日に中国国家知識産権局に提出された、特許出願番号201910828913.5であり、発明の名称が「L-トリプトファンの産生効率を向上させるトランスポーター遺伝子の大腸菌への使用」である先願の優先権を主張しており、当該先願の全文は引用により本願に組み込まれる。
【0002】
本発明は、代謝工学及びバイオテクノロジーに関し、具体的には、大腸菌のL-トリプトファン組み換え菌(工学菌)のアミノ酸産生効率を効果的に向上させる枯草菌由来の代謝物トランスポーター遺伝子に関する。
【背景技術】
【0003】
トリプトファンは、生物体の成長や発育に重要な調節作用があり、また、良好な抗うつ、睡眠促進などの薬理学的な効果があるアミノ酸として、食品、医薬、動物飼料などの分野において重要な作用を発揮している。このアミノ酸に対する研究がさらに行われるにつれて、その応用分野は更に広くなり、これは、トリプトファンの市場の需要量を急激に増加させ、そのため、より効率的で安価なトリプトファンの生産プロセスの開発は注目を集めている。現在、トリプトファンの生産方法には、化学合成法、酵素反応法及び微生物直接発酵法があり、直接発酵法は、ブドウ糖などの低価な原料を基質として発酵するによりL-トリプトファンを直接生産する方法であり、この方法は、操作しやすく、コストが低く、収率が高く、周期が短く、環境汚染が小さいなどの利点があるが、微生物内の環境及び各代謝経路間の平衡に対する研究はまだ不十分であり、これにより、微生物発酵法の収率が低い。また、L-トリプトファン合成に関しては、その合成経路が長く、必要な前駆物質が多いため、生産量のさらなる向上を実現するには、代謝工学的手段を用いて微生物代謝のネットワークを系統的に変更する必要がある。
【0004】
現在、代謝工学技術は、工業菌株の改良に広く応用されている。代謝工学は、主にDNA組換え、CRISPR/Cas9を介した遺伝子編集などの技術を利用してアミノ酸合成に直接関与する経路酵素、重要な律速酵素及びアミノ酸合成に直接関与しない調節因子に対して最適化を行うことであり、これらの策に加えて、菌株の目的産物の運搬能力を向上させることもアミノ酸の生産効率を効果的に高めることができる。
【0005】
現在、多種のアミノ酸分泌タンパク質のコード遺伝子が報告されており、これらはいずれも菌株の生産能力を有効に高めることができる。例えば、リジン分泌遺伝子であるlysEの発現を増加させることにより、コリネバクテリウム属のリジン産生菌の産生能を向上させることができる(WO9723597A2)。rhtB遺伝子を増強することにより、細菌のL-ホモセリン耐性を向上させることができる(欧州特許出願EP994190A2)。rhtC遺伝子の追加コピーは、L-ホモセリン、L-トレオニン及びL-ロイシンの産生量を増加させることができる(欧州特許出願EP1013765A1)。yahN、yeaS、yfiK及びyggA遺伝子の追加コピーは、L-グルタミン酸、L-リジン、L-スレオニン、L-アラニンなどの産生量を増加させることができる(欧州特許出願EP 1016710A2)。
【0006】
芳香族アミノ酸産生菌の中で最も広く報告されている輸送タンパク質は、大腸菌自身の遺伝子yddGによってコードされている。その中でも、Vera Doroshenkoらは大腸菌MG1655を出発菌株とし、それぞれプラスミド又はゲノム組み込みにより異なる強度のyddG遺伝子を発現させた。試験管発酵実験により、L-トリプトファンの蓄積量は0.6μg/mL、L-フェニルアラニンの蓄積量は30000μg/mLであることを確認した。劉双平らは、遺伝子工学手段によりyddG遺伝子をプラスミドの形式で宿主大腸菌に導入した。発酵実験により、yddG遺伝子を含有する菌株のL-フェニルアラニンの細胞外運搬能力は向上し、最終的にL-フェニルアラニンの産生量は62g/Lに達することを確認した。また、大腸菌のトリプトファン産生菌株SV164(pGH5)を親株とし、強力なプロモーターで制御されたyddG遺伝子を細胞に導入し、SV164PL-yddG(pGH5)株を得る研究も行われている。この菌株を20×200mm試験管にて37℃で48h(時間)振とう培養した結果、L-トリプトファンの産生量は4.17g/Lであり、出発菌より12%程度向上した。
【0007】
上記の記載からわかるように、yddG遺伝子の過剰発現は、組み換え菌株の芳香族アミノ酸に対する耐性を向上させることができるが、この遺伝子によってコードされる膜タンパク質は、異なる芳香族アミノ酸に対する親和性の差が大きく、運搬効果が劣り、しかも、この遺伝子は大腸菌から由来しているため、菌体自己による制御を受けやすく、効率的な運搬機能を発揮できず、このため、工業的生産の要件を満たすのが困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、L-トリプトファン産生菌株の産生効率を向上させ、該菌株を用いてL-トリプトファンを産生することを目的とする。上記目的を達成するために、本発明は、枯草菌(Bacillus subtilis subsp)由来の代謝物トランスポーターのコード遺伝子ywkB(Gene ID:936875)を宿主菌に導入することで、宿主菌のL-トリプトファン収率を向上させる。ywkBは、膜タンパク質をコードする遺伝子であり、そのコード産物は想定代謝物運搬体であり、オーキシン排出キャリアファミリー(TC2.A.69)に属し、この遺伝子は、L-トリプトファンの合成に直接関与しないが、L-トリプトファン産生菌株に導入されると、細胞内の最終産物の濃度を効果的に低下させ、代謝経路酵素に対する最終産物のフィードバック抑制を解除し、これによって、より多くの炭素が目的のアミノ酸合成経路に供給され、最終的に製品の生産量を向上させる。
【0009】
本発明による技術的解決手段1は、ywkB遺伝子で宿主菌を修飾するL-トリプトファン産生遺伝子組換え菌であって、前記遺伝子組換え菌は宿主菌よりも高いL-トリプトファン産生活性を有する遺伝子組換え菌である。
【0010】
本発明に係る遺伝子組換え菌では、前記ywkB遺伝子は枯草菌由来であり、前記修飾は、yeep偽遺伝子座へのywkB遺伝子の修飾である。
【0011】
本発明に係る遺伝子組換え菌では、前記宿主細菌はL-トリプトファンを産生することができる宿主細菌であり、細菌の種類について、L-トリプトファンを産生する能力を有するか又はそのような能力を獲得することができる限り、特に限定されるものではなく、例示的には、前記宿主細菌は、L-トリプトファン産生能を有するグラム陰性細菌など、L-トリプトファン産生能を有する原核細菌であってもよく、さらに、前記宿主菌は、L-トリプトファン産生能を有する大腸菌であり、例えば、前記宿主菌とは、L-トリプトファン産生菌E.coli TRP 03(この菌株は、大腸菌W3110を出発菌として遺伝子改変を行ったものであり、E.coli TRP 03(中国特許CN108753860A)と同一の菌株である)を指す。
【0012】
本発明にかかる遺伝子組換え細菌では、前記ywkB遺伝子は、以下のポリペプチド配列をコードするヌクレオチド配列である:
(A)配列表SEQ ID NO:2で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質、
(B)配列表SEQ ID NO:2で示されるアミノ酸配列に対して1つ又は複数のアミノ酸を欠失、置換又は挿入して修飾した配列を含むタンパク質であって、菌株によるL-トリプトファン及びL-トリプトファン構造類似体(例えば、5-ヒドロキシトリプトファンなど)の産生量を増加させる機能を有するタンパク質、
(C)SEQ ID NO:2で示されるアミノ酸配列と少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも96%、97%、98%、99%の相同性を有し、代謝物トランスポーターの機能を有する、枯草菌由来のタンパク質(metabolite transporter)。
【0013】
本発明にかかる遺伝子組換え細菌では、本発明では、ywkB遺伝子で宿主菌を修飾することは、ywkB遺伝子を宿主菌に導入することである。
【0014】
コード遺伝子を宿主菌に導入する方法としては、相同組換えを利用して目的遺伝子を宿主菌に導入するか、具体的には当業者に公知の、原核宿主菌において発現し得る一般的なプラスミドであってもよい核酸発現構築体を用いて目的遺伝子を宿主菌に導入するか、遺伝子編集の手段を用いて目的遺伝子を宿主のクロマチンに挿入するなど、当業者によく知られた遺伝子工学手段が含まれるが、これに限定されない。
【0015】
本発明にかかる遺伝子組換え細菌では、前記ywkB遺伝子は強力なプロモーターの制御下にあり、例示的には、前記強力なプロモーターは、BBa_j23101プロモーター又はBBa_j23106プロモーターである。
【0016】
具体的には、本発明における修飾は、大腸菌CRISPR/Cas9遺伝子編集技術を用いてトランスポーターのコード遺伝子ywkBをE.coli TRP 03に導入し、さらにBBa_j23106プロモーターで制御されたこの遺伝子をyeep偽遺伝子座に組み込むことである。
【0017】
前記ywkB遺伝子のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:1で示される。
【0018】
前記ywkB遺伝子のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:No:2で示される。
【0019】
前記BBa_j23106プロモーターのヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:3で示される。
【0020】
本発明の技術的解決手段2は、宿主菌にywkB遺伝子を組み込み、宿主菌よりも高い産生量のL-トリプトファンの産生活性を有する遺伝子組換え菌を得ることを含むL-トリプトファン産生遺伝子組換え菌の構築方法である。
【0021】
本発明にかかる構築方法では、前記組み込みは、ywkB遺伝子をyeep偽遺伝子座に修飾することであり、例示的には、前記組み込みは、CRISPR-Cas9遺伝子編集の手段によって行われる。
【0022】
本発明にかかる構築方法では、天津科技大学実験室に保存されているE.coli TRP 03トリプトファン産生菌を出発菌とし、以下のようにywkB遺伝子を組み込む:
(1)ywkB組み込み遺伝子断片の合成
yeep偽遺伝子の上下流相同アーム断片、ywkB遺伝子断片、及びBBa_j23106プロモーター配列を構築し、前記ywkB組み込み遺伝子断片は、yeep遺伝子上流相同アーム、yeep遺伝子下流相同アーム、BBa_j23106プロモーター断片、ywkB遺伝子断片を含む。
(2)CRISPR/Cas9技術を用いて、ywkB組み込み遺伝子断片をE.coli TRP 03に発現させる。
【0023】
本発明に係る構築方法では、前記ywkB遺伝子配列は、以下のポリペプチド配列をコードするヌクレオチド配列である:
(A)配列表SEQ ID NO:2で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質、
(B)配列表SEQ ID NO:2で示されるアミノ酸配列に対して1つ又は複数のアミノ酸を欠失、置換又は挿入して修飾した配列を含むタンパク質であって、菌株によるL-トリプトファン及びL-トリプトファン構造類似体(例えば、5-ヒドロキシトリプトファンなど)の産量を増加させる機能を有するタンパク質、
(C)SEQ ID NO:2で示されるアミノ酸配列と少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも96%、97%、98%、99%の相同性を有する代謝物トランスポーターの機能を有する枯草菌由来のタンパク質(metabolite transporter)。
【0024】
本発明の技術的解決手段3は、上記のようなL-トリプトファン産生遺伝子組換え細菌の構築方法で得られた遺伝子組換え細菌である。
【0025】
本発明の技術的解決手段4は、上記の本発明の技術的解決手段1に記載の遺伝子組換え細菌又は技術的解決手段2に記載の方法で得られた遺伝子組換え細菌を用いて発酵して、L-トリプトファンを産生するステップを含む、L-トリプトファンの生産方法である。
【0026】
本発明に係るL-トリプトファンの生産方法では、以下のステップを含む:
1)菌種活性化
2)種子液調整
3)発酵培養。
【0027】
例示的には、
ステップ1)において、斜面培養を採用し、すなわち、-80℃保存菌種を活性化斜面にストリーク播種し、37℃で12h培養して、1回継代し、
ステップ2)において、振とうフラスコによる種子培養を採用し、すなわち、播種ループで斜面種子を掻き取って30mL種子培地を入れた500mL三角フラスコに播種し、9層ガーゼで口を密封し、37℃、200rpmで8~10h培養し、
ステップ3)において、振とうフラスコによる発酵培養を採用し、すなわち、10~15%(v/v)の播種量で発酵培地を容れた500mL三角フラスコに播種し(最終体積は30mL)、9層ガーゼで口を密封し、37℃、200r/min(分)で振とう培養し、発酵過程でアンモニア水を補充することでpHを7.0~7.2に維持し、60%(m/v)ブドウ糖溶液を補充することで発酵を進行させ(フェノールレッドを指示薬とし、発酵液の色が変化しない時に糖不足とみなし、糖不足時に60%(m/v)ブドウ糖溶液を1~2mL補充して、発酵液中のブドウ糖濃度が初期値の20~40g/Lになるようにする)、発酵期間は22~26hである。
【0028】
[発明の効果]
本発明は、以下のような利点及び有益な効果を有する。
本発明は、枯草菌由来のトランスポーターのコード遺伝子ywkBをL-トリプトファン組換え菌株に導入することにより、目的産物の産生量を大幅に増加させ、そして、この遺伝子ywkBは枯草菌由来の遺伝子であるため、組換え菌に制御されることがなく、より機能を発揮しやすく、応用の将来性が期待できる。本発明により提供されるywkB遺伝子を含有するL-トリプトファン組換え菌株は、24hフラスコ発酵後に15.2g/LのL-トリプトファンを蓄積することができ、出発株よりも35%向上し、L-トリプトファンの工業的産生への適用の潜在力を示す。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】(a)pREDCas9プラスミドマップ、(b)pGRBプラスミドマップ。
図2】BBa_j23106-ywkB遺伝子断片の構築及び検証の電気泳動図。M:1kb DNA marker;1:上流相同アーム;、2:ywkB;3:下流同源アーム;4:オーバーラップ断片、5:陽性菌同定断片;6:元の菌対照。
図3】HPLCによるL-トリプトファン検量線。
図4】振とうフラスコ発酵によるL-トリプトファンの産生量。
【発明を実施するための形態】
【0030】
実施例1:E.coli TRP 05菌株の構築
1.遺伝子編集の方法
本発明で使用される遺伝子編集の方法は、文献(Li Y,Lin Z,Huang C,et al.Metabolic engineering of Escherichia coli using CRISPR-Cas9 meditated genome editing.Metabolic engineering,2015,31:13-21.)を参照して行われ、この方法で使用される2つのプラスミドマップは図1に示される。ここで、pREDCas9は、gRNA発現プラスミドpGRBの除去系、λファージのRed組換え系、及びCas9タンパク質発現系を持っており、スペクチノマイシン耐性(作動濃度:100mg/L)であり、32℃で培養したものであり、pGRBはpUC18を骨格とし、プロモーターJ23100、gRNA-Cas9結合領域配列とターミネーター配列を含み、アンピシリン耐性(作動濃度:100mg/L)であり、37℃で培養した。
【0031】
この方法の具体的なステップは以下のとおりである。
1.1 pGRBプラスミドの構築
プラスミドpGRBを構築する目的は、対応するgRNAを転写し、Cas9タンパク質と複合体を形成し、そして塩基ペアリングとPAMによって目的遺伝子の標的部位を識別し、目的DNAの二本鎖切断を実現することである。pGRBプラスミドは、標的配列を含むDNA断片と、線状化ベクター断片との組換えの方法を用いて構築された。
【0032】
1.1.1 標的配列の設計
CRISPR RGEN Toolsを用いて標的配列(PAM:5’-NGG-3’)を設計した。
【0033】
1.1.2 標的配列を含むDNA断片の製造
プライマー設計:5’-線状化ベクター末端配列(15bp)-酵素切断部位-標的配列(PAM配列を除く)-線状化ベクター末端配列(15bp)-3’及びその相補的リバースプライマーを用いて、一本鎖DNAのアニーリングにより標的配列を含むDNA断片を製造した。反応条件:予備変性95℃、5min、30~50℃アニーリング、1min。アニーリング系は以下の通りであった。
【0034】
【0035】
1.1.3 線状化ベクターの製造
ベクターの線状化にはインバースPCR増幅法を用いた。
【0036】
1.1.4 組換え反応
組換え系は下表のとおりであった。使用される組換え酵素はいずれもClonExpress(R) II One Step Cloning Kitシリーズの酵素であり、組換え条件は、37℃、30minであった。
【0037】
【0038】
1.1.5 プラスミドの形質転換
反応液10μLをDH5α化学的形質転換コンピテント細胞100mLに加え、軽く均一に混合した後、20min氷浴処理し、42℃で45~90s熱ショックした直後、2~3min氷浴処理し、SOCを900μL加え、37℃で1h蘇生した。8000rpmで2min遠心分離し、上澄みの一部を捨て、200μL程度残して菌体を再懸濁させた後、100mg/Lアンピシリンを含有する平板(シャーレ)に塗布し、平板を逆さまにし、37℃で一晩培養した。平板に単コロニーができた後、PCRによりコロニーを同定し、陽性組換え体を選別した。
【0039】
1.1.6 クローン同定
PCR陽性コロニーを100mg/Lアンピシリンを含有するLB培地に播種して一晩培養した後、菌を保存し、プラスミドを抽出し、酵素切断して同定した。
【0040】
1.2 組換えDNA断片の製造
ノックアウト用組換え断片は、ノックアウトすべき遺伝子の上下流相同アーム(上流相同アーム-下流相同アーム)から構成され、組み込み用組換え断片は、組み込み部位の上下流相同アームと、組み込むべき遺伝子断片(上流相同アーム-目的遺伝子-下流相同アーム)とから構成される。プライマー設計ソフトprimer5を用いて、ノックアウトすべき遺伝子又は組み込むべき部位の上下流配列を鋳型として、上下流相同アームプライマー(増幅長約400~500bp)を設計し、組み込むべき遺伝子をテンプレートとし、組み込み遺伝子の増幅プライマーを設計した。PCR方法により、上下流相同アームと目的遺伝子断片をそれぞれ増幅した後、オーバーラップPCRによって組換え断片を製造した。PCRに使用されるDNAポリメラーゼはTaKaRa社から購入し、高忠実度のPrimeSTAR HS DNA PolymeraseとPCR産物に粘着末端を持つEx.taq DNA Polymeraseを含み、そのPCR系及び方法は以下の表の通りであった。
【0041】
【0042】
コロニーPCRの系は次の表のとおりである。
【0043】
オーバーラップPCRの系は以下の表のとおりである。
【0044】
【0045】
PCR反応条件:予備変性(95℃)5min;その後、変性(98℃)10s(秒)、アニーリング((Tm-3/5)℃)15s、72℃伸長(この酵素活性では1min 約1kb伸長);72℃でさらに10min伸長、(4℃)保持のように30回のサイクルを行った。
【0046】
1.3 プラスミド及び組換えDNA断片の形質転換
1.3.1 pREDCas9の形質転換
エレクトロポレーション法を利用してpREDCas9プラスミドをW3110のエレクトロコンピテント細胞にエレクトロポレーションにより形質転換し、菌体を蘇生して培養した後、スペクチノマイシンを含有するLB平板に塗布し、32℃で一晩培養した。耐性平板上に成長させた単コロニーについて、同定プライマーを用いてコロニーPCRを行い、陽性組換え体をスクリーニングした。
【0047】
1.3.2 pREDCas9を含む目的菌株のエレクトロコンピテント細胞の製造
OD600=0.1~0.2まで32℃で培養したときに、0.1M IPTGを(最終濃度0.1mM)加え、OD600=0.6~0.7まで培養を持続すると、コンピテント細胞を製造した。IPTGを加える目的は、pREDCas9プラスミド上のリコンビナーゼの発現を誘導することである。コンピテント細胞の製造に必要な培地及び製造プロセスは、従来の標準を参照したものである。
【0048】
1.3.3 pGRB及び組換えDNA断片の形質転換
pGRBとドナーDNA断片を同時にpREDCas9を含有するエレクトロコンピテント細胞にエレクトロポレーションにより形質転換した。エレクトロポレーション後に蘇生して培養した菌体を、アンピシリンとスペクチノマイシンを含有するLB平板に塗布し、32℃で一晩培養した。上流相同アームの上流プライマー及び下流相同アームの下流プライマーを用いて、又は特定の同定プライマーを設計して、コロニーPCR検証を行い、陽性組換え体をスクリーニングし、菌を保存した。
【0049】
1.4 プラスミドの除去
1.4.1 pGRBの除去
陽性組換え体を0.2%アラビノースを含有するLB培地に入れて一晩培養し、適切に希釈してスペクチノマイシン耐性を有するLB平板に塗布し、32℃で一晩培養した。アンピシリンとスペクチノマイシン耐性を有するLB平板を比較し、アンピシリン平板では成長せず、スペクチノマイシン耐性平板では成長した単コロニーを選別し、菌を保存した。
【0050】
1.4.2 pREDCas9プラスミドの除去
陽性組換え体を耐性のないLB液体培地に移し、42℃で一晩培養し、適切に希釈して耐性のないLB平板に塗布し、37℃で一晩培養した。スペクチノマイシン耐性を有するLB平板と耐性のないLB平板を比較し、スペクチノマイシン耐性平板では成長せず、非耐性平板では成長した単コロニーを選別し、菌を保存した。
【0051】
2.L-トリプトファン組換え菌株E.coliTRP 05の構築
2.1 ywkB遺伝子合成
(1)PCR技術を用いてE.coli W3110ゲノムを鋳型とし、yeep偽遺伝子配列に基づき、遺伝子の両端に上流相同アームプライマー(yeep-up-S、yeep-up-A)と下流相同アームプライマー(yeep-down-S、yeep-down-A)を設計し、増幅してyeep上下流相同アームを得た。
(2)GENBANKにて公開されている枯草菌(Bacillus subtilis subsp.subtilis str.168)の想定代謝物トランスポーターywkBの遺伝子配列に基づいて、PCRプライマー(ywkB-S、ywkB-A)を設計し、ywkB遺伝子の上流プライマーにBBa j23106プロモーター配列を設計し、HS酵素によりその断片を増幅した。
(3)ステップ(1)、(2)で得られた増幅断片を鋳型とし、オーバーラップPCRにより、yeep遺伝子上流相同アーム、yeep遺伝子下流相同アーム、BBa j23106プロモーター断片、ywkB遺伝子断片からなるBBa j23106-ywkB遺伝子の組み込み断片を得た。
【0052】
2.2 ywkB遺伝子の組み込み
(1)pGRB-yeepの構築
1.1に記載の方法により標的配列を含むpGRBプラスミドを製造し、具体的には、1.1.2の方法によりプライマーpGRB-yeep-S及びpGRB-yeep-Aを設計し、その後、アニールして標的配列を含むDNA断片を得て、1.1.3の方法によりプラスミドpGRBを線状化し、次に、1.1.4の方法により標的配列を含むプラスミドpGRB-yeepを製造した。
(2)E.coli TRP 03のコンピテント細胞を製造した。
(3)菌株E.coli TRP 05の取得
1.3に記載の方法に従って、すなわち、それぞれpREDCas9プラスミドをE.coli TRP 03に形質転換した後、陽性クローンをスクリーニングし、その後、pREDCas9プラスミドを含有するE.coli TRP 03のコンピテント細胞を製造し、pGRB-yeepと2.1節のステップ(3)で製造した組換えDNA断片にエレクトロポレーションにより形質転換し、平板で12~16h培養した後、コロニーPCR検証を行い、陽性組換え体をスクリーニングし、菌を保存し、1.4節に記載の方法によって、それぞれプラスミドpGRB-yeepとpREDCas9を除去し、最終的にPCR同定を行い、菌株E.coli TRP 05を得て、-80℃で保存した。
【0053】
ここで、BBa_j23106 ywkB遺伝子組み込み断片の構築、及び陽性菌株のPCR検証の電気泳動図は図2に示されている。ここで、上流相同アームの長さは512bp、下流相同アームの長さは513bp、BBa_j23106ywkB遺伝子断片の長さは1040bp、BBa_j23106ywkB遺伝子組み込み断片の全長は2065bpであり、PCR検証の時に、陽性菌PCR増幅断片の長さは2065bp、元の菌PCR増幅断片の長さは1396bpであった。
【0054】
3.菌株の改変過程で関連するプライマーは次の表のとおりである。
【0055】
実施例2:大腸菌遺伝子組換え菌の振とうフラスコ発酵によるL―トリプトファン産生
大腸菌遺伝子組換え菌を用いてフラスコ発酵してL―トリプトファンを産生する具体的な操作は、以下の通りである。
斜面培養:―80℃の保存菌種を採取し、活性化斜面にストリーク播種し、37℃で12h培養し、1回継代した。
振とうフラスコ種子培養:播種ループで斜面種子を掻き取って30mL種子培地を入れた500mL三角フラスコに播種し、9層ガーゼで口を密封し、37℃、200rpmで8~10h培養した。
振とうフラスコ発酵培養:10~15%(v/v)の播種量で発酵培地を容れた500mL三角フラスコに播種し(最終体積30mL)、9層ガーゼで口を密封し、37℃、200r/minで振とう培養し、発酵過程でアンモニア水を補充することでpHを7.0~7.2に維持し、60%(m/v)ブドウ糖溶液を補充することで発酵を進行させ(フェノールレッドを指示薬とし、発酵液の色が変化しない時に糖不足とみなし、糖不足時に60%(m/v)ブドウ糖溶液を1~2mL補充して、発酵液中のブドウ糖濃度が初期値の20~40g/Lになるようにする)、発酵周期は22~26hとした。
【0056】
発酵液中のL-トリプトファン濃度の測定:発酵液1mLを収集し、13000rpmで1min遠心分離し、上澄み液を収集した。脱イオン水を使用して、収集した上澄み液を一定の倍数(0.1~0.5g/L)に希釈し、0.22μmの精密ろ過後、L-トリプトファンの含有量を液相で測定し、そのクロマトグラフィー条件として、カラムKromasil C18カラム(250mm×460mm,5μm)、移動相10%アセトニトリル溶液、流速1.0mL/min、カラム温度40℃、検出波長278nm、試料注入量20μL、ピーク発生時間約3.5minとし、そのピーク面積に基づいてプロットした検量線により発酵液中のL-トリプトファンの濃度を算出した。
L-トリプトファン検量線のプロット:L-トリプトファン濃度0.1g/L、0.3g/L、0.5g/L、0.6g/L、1g/Lの溶液をそれぞれ準備し、上記のクロマトグラフィー条件で、対応する濃度のL-トリプトファンに対応するピーク面積を液相で測定し、L-トリプトファン濃度とピーク面積に関する検量線をプロットし、図3に示した。
【0057】
活性化斜面培地の成分:ブドウ糖1~3g/L、トリプトン5~10g/L、牛肉エキス5~10g/L、酵母エキス2~5g/L、NaCl 2~5g/L、寒天15~30g/L、水:残量、pH 7.0~7.2、121℃のオートクレーブで20min滅菌;
種子培地の成分:ブドウ糖20~40g/L、(NHSO1~5g/L、KHPO1~5g/L、MgSO・7HO 0.5~2g/L、酵母エキス2~5g/L、FeSO・7HO 1~3mg/L、MnSO・HO 1~3mg/L、V0.1~0.5mg/L、VB1 0.5~1.0mg/L、微量元素混合液1~3ml/L、フェノールレッド15~30g/L、水:残量、pH 7.0~7.2、115℃のオートクレーブで15min滅菌;
発酵培地の成分:ブドウ糖20~40g/L、(NHSO2~6g/L、KHPO1~5g/L、MgSO・7HO 0.5~2g/L、酵母エキス1~5g/L、FeSO・7HO 30~60mg/L、MnSO・7HO 1~5mg/L、V0.1~0.5mg/L、VB1 0.5~1.0mg/L、微量元素混合液1~3ml/L、フェノールレッド15~30g/L、水:残量、pH 7.0~7.2、115℃のオートクレーブで15min滅菌;
微量元素混合液の成分:NaMoO・2HO 2.5g/L、AlCl・6HO 2.5g/L、NiSO・6HO 2.5g/L、CoCl・6HO 1.75g/L、CaCl・2HO 10g/L、ZnSO・7HO 0.5g/L、CuCl・2HO 0.25g/L、HBO0.125g/L。
【0058】
以上のように構築したL-トリプトファン組換え菌株E.coli TRP 05を利用して、振とうフラスコ発酵を行い、天津科学技術大学代謝工学実験室に保存されているL-トリプトファン組換え菌株E.coli TRP 03と同等条件の発酵を対照とし、図4に示すその実験結果から、L-トリプトファン組換え菌株E.coli TRP 03の場合、L-トリプトファンは11.2g/Lまで蓄積され、E.coli TRP 05の場合は、L-トリプトファンは15.2g/Lまで蓄積され、対照菌より35%向上した。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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