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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】正極片及びその製造方法と使用
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20240419BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20240419BHJP
   H01M 4/1391 20100101ALI20240419BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240419BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240419BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/131
H01M4/1391
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/66 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022521170
(86)(22)【出願日】2020-11-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-19
(86)【国際出願番号】 CN2020129682
(87)【国際公開番号】W WO2021238100
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-04-06
(31)【優先権主張番号】202010474733.4
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522354388
【氏名又は名称】蜂巣能源科技股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100177220
【弁理士】
【氏名又は名称】小木 智彦
(72)【発明者】
【氏名】吉 星
(72)【発明者】
【氏名】張 氷
(72)【発明者】
【氏名】劉 静
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2022-536304(JP,A)
【文献】国際公開第2017/002361(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/021891(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/056488(WO,A1)
【文献】特開2018-160421(JP,A)
【文献】特表2018-530113(JP,A)
【文献】特開2003-132893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、前記集電体に形成された活物質層とを含み、
前記活物質層は正極活物質、導電剤及び粘着剤を含み、前記粘着剤は式Iに示される構造式のポリマーを含み、前記ポリマーはaセグメント、bセグメント及びcセグメントを含む、正極片であって、
前記ポリマーにおけるaセグメントの含有量は30~35wt%であり、
前記ポリマーの重量平均分子量は10万~100万であり、
前記活物質層を形成するための正極スラリーにおいて、前記ポリマーの添加量は1~2wt%であり、
前記正極スラリーにおいて、前記正極活物質、前記粘着剤、前記導電剤及び溶媒の質量比は(70~80):(1~2):(1~2):(20~30)であり、前記粘着剤は前記ポリマーであり、
前記正極活物質は、LiCoO 、LiNi 1-α-β Co α Mn β 、LiMn 、LiMnO 、Li MnO 、Li Mn 1-α 、LiCo 1-α α 及びLiMn 2-β β から選ばれる少なくとも一種であり、ただし、MはNi、Co、Mn、Al、Cr、Mg、Zr、Mo、V、Ti、B、F及びYから選ばれる少なくとも一種であり、αの取り得る値の範囲は0<α<1であり、βの取り得る値の範囲は0<β<1であり、
前記正極活物質におけるコバルト含有量は0~20wt%である、正極片。
【請求項2】
前記ポリマーは、アクリロニトリル、1,3-ブタジエン及び1-ブテンセグメントを含むアルカンにより重合して得られる、請求項に記載の正極片。
【請求項3】
前記導電剤は、黒鉛、グラフェン、導電性カーボンブラック及びカーボンナノチューブから選ばれる少なくとも一種である、請求項又はに記載の正極片。
【請求項4】
前記溶媒はN-メチルピロリドン及び/又はN,N-ジメチルホルムアミドである、請求項のいずれか一項に記載の正極片。
【請求項5】
前記集電体はアルミニウム箔であり、前記集電体の厚みは10~13μmである、請求項のいずれか一項に記載の正極片。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の正極片の製造方法であって、
正極スラリーを得るように前記正極活物質、前記ポリマー、前記導電剤及び溶媒を混合することと、
前記正極片を得るように前記正極スラリーを集電体に塗工することとを含む、方法。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の正極片又は請求項に記載の製造方法を用いて得られた正極片を含む、リチウム電池。
【請求項8】
請求項に記載のリチウム電池を含む、エネルギー貯蔵デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はリチウム電池の分野に関し、例えば、正極片及びその製造方法と使用に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、エネルギー密度が高く、倍率性能がよく、サイクル寿命が長いという利点を有し、携帯電話、ラップトップ、新エネルギー自動車などの分野で広く使用されている。リチウム電池の正極材料に、例えば、LiCoO、LiNi1-x-yCoMn(三元材料)及び他の低コバルト又はコバルトフリー材料に遷移金属が含まれ、電池の使用過程に、特に高温環境で正極から溶出しやすく、電解液で移動して負極に堆積し、さらにリチウム電池の性能の低下を引き起こす。リチウム電池の正極片は、通常、正極材料、粘着剤、導電剤及び集電体を含み、現在、正極の金属溶出を抑制する一般的な対策は正極材料を変性することであり、1つのタイプの方法は表面被覆であるが、電解液は表面被覆層への一定の腐食作用があり、被覆層の失効につながり、もう1つのタイプの方法は材料勾配設計であるが、プロセス過程は複雑でコストが高い。したがって、高温環境での正極の金属溶出を改善する方法は、さらに改善される必要がある。
【発明の概要】
【0003】
以下、本明細書で詳細に説明される課題の概要である。本概要は特許請求の保護範囲を限定するためのものではない。
【0004】
本開示は正極片及びその製造方法と使用を提供する。
【0005】
本開示は一実施例において正極片を提供しており、前記正極片は集電体と、前記集電体に形成された活物質層とを含み、前記活物質層は正極活物質、導電剤及び粘着剤を含み、前記粘着剤は式Iに示される構造式のポリマーを含み、前記ポリマーはaセグメント、bセグメント及びcセグメントを含む、正極片であって、
前記ポリマーにおけるaセグメントの含有量は30~35wt%であり、
前記ポリマーの重量平均分子量は10万~100万であり、
前記活物質層を形成するための正極スラリーにおいて、前記ポリマーの添加量は1~2wt%であり、
前記正極スラリーにおいて、前記正極活物質、前記粘着剤、前記導電剤及び溶媒の質量比は(70~80):(1~2):(1~2):(20~30)であり、前記粘着剤は前記ポリマーであり、
前記正極活物質は、LiCoO 、LiNi 1-α-β Co α Mn β 、LiMn 、LiMnO 、Li MnO 、Li Mn 1-α 、LiCo 1-α α 及びLiMn 2-β β から選ばれる少なくとも一種であり、ただし、MはNi、Co、Mn、Al、Cr、Mg、Zr、Mo、V、Ti、B、F及びYから選ばれる少なくとも一種であり、αの取り得る値の範囲は0<α<1であり、βの取り得る値の範囲は0<β<1であり、前記正極活物質におけるコバルト含有量は0~20wt%である。
【0006】
本開示に係る一実施例において、正極片は、高温貯蔵及び高温サイクル過程中の正極界面での副反応の発生を遅らせることにより、リチウムイオン電池の高温貯蔵及び高温サイクル性能を向上させることができる。
【0007】
一実施例において、前記ポリマーにおけるaセグメントの含有量は15~50wt%であり、例えば、15wt%、18wt%、20wt%、25wt%、30wt%、35wt%、40wt%又は50wt%などである。
【0008】
一実施例において、前記ポリマーにおけるaセグメントの含有量は25~40wt%であり、例えば、25wt%、30wt%、35wt%、38wt%又は40wt%などである。
【0009】
一実施例において、前記ポリマーにおけるaセグメントの含有量は30~35wt%であり、例えば、25wt%、30wt%、32wt%、33wt%又は35wt%などである。
【0010】
一実施例において、前記ポリマーの重量平均分子量は10万~100万であり、例えば、10万、20万、30万、40万、50万、65万、80万又は100万などである。
【0011】
一実施例において、前記ポリマーは、アクリロニトリル、1,3-ブタジエン及び1-ブテンセグメントを含むアルカンにより重合して得られる。
【0013】
一実施例において、前記正極スラリーにおいて、前記正極活物質、前記粘着剤、前記導電剤及び溶媒の質量比は(70~80):(1~2):(1~2):(20~30)であり、例えば、70:1:1:28、72:2:2:24、75:2:1:22又は77:1:1:21などであり、前記粘着剤は前記ポリマーである。
【0015】
一実施例において、前記正極活物質におけるコバルト含有量は0~20wt%であり、例えば、0、0.1wt%、0.5wt%、1wt%、1.5wt%、2wt%、5wt%、8wt%、10wt%、15wt%又は20wt%などである。
【0016】
一実施例において、前記導電剤は、黒鉛、グラフェン、導電性カーボンブラック及びカーボンナノチューブから選ばれる少なくとも一種である。
【0017】
一実施例において、前記溶媒はN-メチルピロリドン及び/又はN,N-ジメチルホルムアミドである。
【0018】
一実施例において、前記集電体はアルミニウム箔であり、前記集電体の厚みは10~13μmであり、例えば、10μm、10.5μm、11μm、12μm又は13μmなどである。
【0019】
本開示に係る一実施例において、正極片は少なくとも以下の利点を有する。シアノ-CN含有ポリマーを粘着剤として正極片に使用すると、シアノ-CN含有ポリマーを正極活物質の表面に被覆し、さらに正極活物質と電解液の接触面積を減少し、電解液での正極活物質における遷移金属の溶解を抑制し、電解液での遷移金属の溶出量を著しく低減することができ、一方、ポリマーにおけるシアノ-CNは、電解液に溶解した遷移金属イオンを錯形成して固定し、負極での析出及びそれに伴って発生するインピーダンスの増加などの問題を回避することができる。従来の技術と比べて、該正極片は、製造コストが低いだけでなく、効果的に、電極材料の表面での電解液の反応を抑制し、高温環境での正極材料の金属溶出量を低減し、高温貯蔵及び高温サイクル過程中の正極界面での副反応の発生を遅らせることにより、リチウムイオン電池の高温貯蔵及び高温サイクル性能を著しく向上させることができ、粘着剤を交換するだけで正極の金属溶出の問題を解決し、低コバルト又はコバルトフリーの正極活物質によりよく適用可能である。
【0020】
本開示は、一実施例において前記正極片を製造する方法を提供しており、前記方法は、
前記正極活物質、前記ポリマー、前記導電剤及び溶媒を混合して正極スラリーを得ることと、
前記正極スラリーを集電体に塗工して前記正極片を得ることとを含む。
【0021】
本開示に係る一実施例において、正極片を製造する方法は、電池の高温貯蔵及び高温サイクル性能を改善する操作上の困難を軽減することができる。
【0022】
本開示に係る一実施例において、正極片を製造する方法は少なくとも以下の利点を有する。プロセスが簡単でコストが低く、粘着剤を交換するだけで効果的に電極材料の表面での電解液の反応を抑制し、高温環境での正極材料の金属溶出量を低減し、高温貯蔵及び高温サイクル過程中の正極界面での副反応の発生を遅らせることにより、リチウムイオン電池の高温貯蔵及び高温サイクル性能を著しく向上させることができる。
【0023】
本開示は、一実施例においてリチウム電池を提供しており、前記リチウム電池は一実施例に係る正極片又は一実施例に係る製造方法を用いて得られた正極片を有する。
【0024】
本開示に係る一実施例において、リチウム電池の高温性能が向上する。
【0025】
本開示に係る一実施例において、リチウム電池は少なくとも以下の利点を有する。高温環境で正極材料の金属溶出量が低く、高温貯蔵及びサイクル過程中の正極界面での副反応が少なく、容量保持率が高く、高温貯蔵及び高温サイクル性能がよく、安全性が高く、且つ耐用年数が長いという利点を有する。
【0026】
本開示は、一実施例においてエネルギー貯蔵デバイスを提供しており、前記エネルギー貯蔵デバイスは一実施例に係るリチウム電池を含む。
【0027】
本開示に係る一実施例において、エネルギー貯蔵デバイスの高温貯蔵及びサイクル安定性、安全性能及び耐用年数が向上して改善する。高温での性能が安定である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、具体的実施形態によって本開示の技術案をさらに説明する。
【0029】
本開示は、一実施例において正極片を提供しており、該正極片は集電体と、集電体に形成された活物質層とを含み、活物質層は正極活物質、導電剤及び粘着剤を含み、粘着剤は式Iに示される構造式のポリマーを含み、ポリマーはaセグメント、bセグメント及びcセグメントを含み、ただし、x、y、zの取り得る値は該ポリマーの重合度により決定される。
【0030】
発明者は、シアノ-CN含有ポリマーを粘着剤として正極片に使用すると、シアノ-CN含有ポリマーを正極活物質の表面に被覆し、さらに正極活物質と電解液の接触面積を減少し、電解液での正極活物質における遷移金属の溶解を抑制し、電解液での遷移金属の溶出量を著しく低減することができ、一方、ポリマーにおけるシアノ-CNは、電解液に溶解した遷移金属イオンを錯形成して固定し、負極での析出及びそれに伴って発生するインピーダンスの増加などの問題を回避することができ、これにより正極の金属溶出の問題を効果的に解決できることを発見した。
【0031】
一実施例において、正極片の粘着剤を式Iに示される構造式のポリマーに完全に置き換えてもよい。
【0032】
本開示に係る一実施例において、正極片は、製造コストが低いだけでなく、効果的に、電極材料の表面での電解液の反応を抑制し、高温環境での正極材料の金属溶出量を低減し、高温貯蔵及び高温サイクル過程中の正極界面での副反応の発生を遅らせることにより、リチウムイオン電池の高温貯蔵及び高温サイクル性能を著しく向上させることができ、粘着剤を交換するだけで正極の金属溶出の問題を解決し、低コバルト又はコバルトフリーの正極活物質によりよく適用可能である。
【0033】
一実施例において、式Iに示される構造式を有するポリマーは、アクリロニトリル、1,3-ブタジエン及び1-ブテンセグメントを含むアルカンにより重合して得られてもよく、例えば、アクリロニトリル、1,3-ブタジエン及び1-ブテンにより重合して得られ、aセグメント部分はアクリロニトリルにより形成され、bセグメント部分は1,3-ブタジエンにより形成され、cセグメントは1-ブテンセグメントを含むアルカンにより形成されてもよい。なお、本開示において、式Iに示される構造式のポリマーは、異なる重合度を有するさまざまな付加反応生成物を含んでもよい。
【0034】
一実施例において、ポリマーにおけるaセグメントの含有量は15~50wt%であってもよく、例えば、5wt%、10wt%、15wt%、20wt%、25wt%、30wt%、35wt%、40wt%、45wt%又は50wt%などであってもよく、発明者は、ポリマーにおけるaセグメントの含有量が高すぎると、ポリマーのインピーダンスが大きく、電池の電気化学的性能に影響を与えることにつながり、aセグメントの含有量が低すぎると、シアノ-CN含有量が不足になり、正極活物質をマスキングして電解液に対する分解効果を低減できないだけでなく、溶出された金属を効果的に固定できず、負極表面で還元し、インピーダンスが増加することにつながることを発見した。本開示では、ポリマーにおけるaセグメントを上記含有量の範囲に制御することにより、効果的に、電極材料の表面での電解液の反応を抑制し、高温環境での正極材料の金属溶出量を低減し、高温貯蔵及び高温サイクル過程中の正極界面での副反応の発生を遅らせることにより、リチウムイオン電池の高温貯蔵及び高温サイクル性能を著しく向上させることができる。
【0035】
一実施例において、ポリマーにおけるaセグメントの含有量は25~40wt%であってもよい。
【0036】
一実施例において、ポリマーにおけるaセグメントの含有量は30~35wt%であってもよく、これによりリチウムイオン電池の高温貯蔵及び高温サイクル性能をさらに向上させることができる。
【0037】
一実施例において、ポリマーの重量平均分子量は10万~100万であってもよく、例えば、10万、15万、20万、30万、40万、50万、60万、70万、80万、90万又は100万などであってもよい。発明者は、ポリマーの重量平均分子量が大きすぎると、溶解後の粘度が高く、正極スラリーを作製するときに各成分の均一な分散に不利であり、ポリマーの重量平均分子量が小さすぎると、正極活物質間及び正極活物質と集電体の間の接着を確保できないことを発見し、本開示では、ポリマーの重量平均分子量を上記範囲に制御することにより、均一で安定した正極スラリーを取得することに寄与するだけでなく、正極片がよい粘着力を有することにより、正極片の均一性及び安定性をさらに向上させ、正極片及びそれで組み立てられた電池の品質を確保することがきる。
【0038】
一実施例において、活物質層を形成するための正極スラリーにおいて、ポリマーの添加量は1~2wt%であってもよく、例えば、1.1wt%、1.2wt%、1.3wt%、1.4wt%、1.5wt%、1.6wt%、1.7wt%、1.8wt%、1.9wt%又は2wt%などであってもよく、発明者は、ポリマーの添加量が少なすぎると、シアノ-CN含有量が不足になり、正極活物質をマスキングして電解液に対する分解効果を低減できないだけでなく、溶出された金属を効果的に固定できず、負極表面で還元し、インピーダンスが増加することにつながり、一方、正極活物質間及び正極活物質と集電体の間の接着性を低減し、ポリマーの添加量が多すぎると、正極スラリーの粘度が大すぎて各成分の均一な混合に不利であり、且つ電池のインピーダンスが大きく、電池の電気化学的性能に影響を与えることにつながる。本開示では、ポリマーを上記添加量に制御することにより、電池がよい高温貯蔵及び高温サイクル性能を有することをさらに確保することができる。
【0039】
一実施例において、正極スラリーにおいて、正極活物質、粘着剤、導電剤及び溶媒の質量比は(70~80):(1~2):(1~2):(20~30)であってもよく、粘着剤は式Iに示される構造式を有するポリマーであり、発明者は、正極スラリーを上記成分及び配合比に制御することにより、正極片の品質をさらに向上させ、インピーダンスを著しく低減し、高温環境での正極の金属溶出を低減することにより、電池の高温貯蔵及び高温サイクルなどの総合性能をさらに向上させることができる。
【0040】
一実施例において、正極活物質は、LiNi1-α-βCoαMnβ、LiCoO、LiMn、LiMnO、LiMnO、LiMn1-α、LiCo1-αα及びLiMn2-ββから選ばれる少なくとも一種であってもよく、ただし、MはNi、Co、Mn、Al、Cr、Mg、Zr、Mo、V、Ti、B、F及びYから選ばれる少なくとも一種であってもよく、αの取り得る値の範囲は0~1であってもよく、βの取り得る値の範囲は0~1であってもよい。これにより電池の電気化学的性能及びサイクル性能などをさらに確保することができる。
【0041】
一実施例において、正極活物質は低コバルト又はコバルトフリー正極材料であってもよく、例えば、正極活物質におけるコバルト含有量は0~20wt%であってもよい。
【0042】
一実施例において、正極活物質はコバルトフリー正極材料であることにより、正極材料が優れた倍率性能、サイクル安定性などの総合性能を有することを確保する上で従来の希少金属であるコバルトの供給源による正極片の制限を解除することができる。
【0043】
一実施例において、本開示の導電剤のタイプには特に限定されず、当業者は、実際の必要に応じて選択可能であり、例えば、導電剤は、黒鉛、グラフェン、導電性カーボンブラック及びカーボンナノチューブから選ばれる少なくとも一種であってもよい。
【0044】
一実施例において、正極スラリーを調製するときに使用される溶媒はN-メチルピロリドン及び/又はN,N-ジメチルホルムアミドなどであってもよい。
【0045】
一実施例において、正極片に使用される集電体はアルミニウム箔であってもよく、集電体の厚みは10~13μmである。
【0046】
本開示に係る一実施例において、正極片は少なくとも以下の利点を有する。シアノ-CN含有ポリマーを粘着剤として正極片に使用すると、シアノ-CN含有ポリマーを正極活物質の表面に被覆し、さらに正極活物質と電解液の接触面積を減少し、電解液での正極活物質における遷移金属の溶解を抑制し、電解液での遷移金属の溶出量を著しく低減することができ、一方、ポリマーにおけるシアノ-CNは、電解液に溶解した遷移金属イオンを錯形成して固定し、負極での析出及びそれに伴って発生するインピーダンスの増加などの問題を回避することができる。従来の技術と比べて、該正極片は、製造コストが低いだけでなく、効果的に、電極材料の表面での電解液の反応を抑制し、高温環境での正極材料の金属溶出量を低減し、高温貯蔵及び高温サイクル過程中の正極界面での副反応の発生を遅らせることにより、リチウムイオン電池の高温貯蔵及び高温サイクル性能を著しく向上させることができ、粘着剤を交換するだけで正極の金属溶出の問題を解決し、低コバルト又はコバルトフリーの正極活物質によりよく適用可能である。
【0047】
本開示は、一実施例において上記正極片を製造する方法を提供しており、該方法は、正極スラリーを得るように正極活物質、ポリマー、導電剤及び溶媒を混合することと、正極片を得るように正極スラリーを集電体に塗工することとを含む。
【0048】
本開示に係る一実施例において、正極片を製造する方法は少なくとも以下の利点を有する。プロセスが簡単でコストが低く、粘着剤を交換するだけで効果的に電極材料の表面での電解液の反応を抑制し、高温環境での正極材料の金属溶出量を低減し、高温貯蔵及び高温サイクル過程中の正極界面での副反応の発生を遅らせることにより、リチウムイオン電池の高温貯蔵及び高温サイクル性能を著しく向上させることができる。
【0049】
一実施例において、正極スラリーを集電体に塗工した後に、乾燥、ロールカットによって、必要な仕様の正極片を得ることができる。
【0050】
本開示は、一実施例においてリチウム電池を提供しており、該リチウム電池は上記正極片又は上記製造方法を用いて得られた正極片を有する。
【0051】
本開示に係る一実施例において、リチウム電池は少なくとも以下の利点を有する。高温環境で正極材料の金属溶出量が低く、高温貯蔵及びサイクル過程中の正極界面での副反応が少なく、容量保持率が高く、高温貯蔵及び高温サイクル性能がよく、安全性が高く、且つ耐用年数が長いという利点を有する。
【0052】
なお、本開示のリチウム電池のタイプには特に限定されず、例えば、正極コバルト含有又はコバルトフリーリチウムイオン電池などであってもよい。
【0053】
本開示は、一実施例においてエネルギー貯蔵デバイスを提供しており、該エネルギー貯蔵デバイスは上記リチウム電池を含む。
【0054】
本開示に係る一実施例において、エネルギー貯蔵デバイスは高温での性能が安定であり、安全性が高く、且つ耐用年数がより長い。
【0055】
なお、本開示のエネルギー貯蔵デバイスのタイプには特に限定されず、当業者は実際の必要に応じて選択可能であり、例えば、エネルギー貯蔵デバイスは、電池パックなどであってもよく、電池パックを有する車両などのデバイスであってもよい。
【0056】
以下は、本開示の典型的であるが非限定的な実施例である。
【0057】
実施例1
(1)正極片の製造
正極片は集電体と、集電体に形成された活物質層とを含み、活物質層は正極活物質、粘着剤及び導電剤を含んだ。前記正極活物質はLiNiCoMnO(NCM811)であり、前記導電剤はカーボンブラックとカーボンチューブの組合せを用い、前記粘着剤は下記構造のポリマーであり、ポリマーにおけるaセグメントの含有量は30wt%であり、ポリマー重量平均分子量は80万であった。
【0058】
正極片作製方法は、まず正極スラリーを作製し、スラリーにおける正極活物質、粘着剤、導電剤及び溶媒の質量比は75.5:1.2:1.3:22であり、そのうち、溶媒はN-メチルピロリドンであることであった。正極スラリーをアルミニウム箔に塗工して乾燥、ロールカットによって正極片を得た。
【0059】
(2)負極片の製造
黒鉛、導電剤SP(超電導カーボンブラック)、CMC(カルボキシメチルセルロース)ガム液(水及びCMCから調製された)、及び水を混合してから、SBR(スチレンブタジエンゴム)粘着剤を加えて混合した後に負極スラリーを作成した。負極スラリーを銅箔に塗工して乾燥、ロールカットによって負極片を得た。
【0060】
(3)リチウム電池の製造
上記正極極片、負極極片とセパレータを積層してベアセルを作成し、AlタブとNiタブをそれぞれ超音波溶接で溶接した後、アルミプラスチックフィルムに入れ、液体注入して一定時間静置した後に封口した。高温及び常温で静置して熟成した後、電池セルを化成してリチウムイオン電池を得ることができった。
【0061】
実施例2
実施例1との区別は、ステップ(1)において、正極片における正極活物質がLiNiCoMn(NCM622)であることにあった。
【0062】
実施例3
実施例1との区別は、ステップ(1)において、ポリマーにおけるaセグメントの含有量が35wt%であることにあった。
【0063】
実施例4
実施例1との区別は、ステップ(1)において、ポリマー重量平均分子量が10万であることにあった。
【0064】
実施例5
実施例1との区別は、ステップ(1)において、正極スラリーにおいて正極活物質、粘着剤、導電剤及び溶媒の質量比が70.5:1.8:1.7:26であることにあった。
【0065】
比較例1
実施例1との区別は、ステップ(1)において、粘着剤がPVDF(ポリフッ化ビニリデン)であることにあった。
【0066】
比較例2
実施例1との区別は、ステップ(1)において、ポリマーにおけるaセグメントの含有量が60wt%であることにあった。
【0067】
比較例3
実施例1との区別は、ステップ(1)において、ポリマーにおけるaセグメントの含有量が10wt%であることにあった。
【0068】
比較例4
実施例1との区別は、ステップ(1)において、ポリマー重量平均分子量が5万であることにあった。
【0069】
比較例5
実施例1との区別は、ステップ(1)において、正極スラリーにおいて正極活物質、粘着剤、導電剤及び溶媒の質量比が70.5:3:1.7:24.8であることにあった。
【0070】
実施例1~5及び比較例1~5で製造された正極片及びリチウム電池を評価した。
【0071】
1、実施例1、4及び比較例4で製造された正極片に対する粘着力テスト
テスト結果を表2に示し、データから、ポリマーの重量平均分子量が小さすぎると、正極スラリーを集電体に塗工した後に正極片の粘着力が悪く、粘着剤の重量平均分子量が10~100万であると、正極活物質と集電体の間の効果的な接着を確保できることが分かった。
【0072】
2、実施例1及び比較例2、5で製造されたリチウムイオン電池に対するDCRテスト
テスト温度は25℃であり、充放電倍率は1C/1Cであり、テスト結果を表3に示した。表3のデータから、ポリマーにおけるaセグメント含有量が多すぎるか、又は使用量が大きすぎると、いずれも電池のインピーダンスの増加につながり、つまり、ポリマーにおけるaセグメントの含有量及び粘着剤の使用量はいずれも適切にする必要があり、そうしないと、インピーダンスが大きく、電池の直流充放電過程に測定された抵抗が高いことが分かった。
【0073】
3、実施例1、2、3、5及び比較例1、2、3、5で製造された容量選別した新鮮な電池及び1200サイクルの高温サイクル後の電池に対する金属溶出量テスト
金属溶出量テストの方法は、電池を空になるまで放電し、負極片を取り外し、銅箔上の負極材料を掻き取り、ICPテストを行った。
高温サイクルの条件は、サイクル温度が45℃であり、充放電倍率が1C/1Cであり、サイクルカットオフ電圧が2.5~4.3Vであることであった。
【0074】
テスト結果を表4に示し、表1及び表4を総合的に比較すると、1)正極活物質におけるコバルト含有量が低いと、正極の金属溶出量が大きく、2)粘着剤におけるaセグメントの含有量が低いと、正極材料における遷移金属の溶出量が高く、3)従来のPVDF粘着剤と比べて、本開示に係るシアノ-CN含有粘着剤を選択すると、正極材料における遷移金属の溶出量を著しく低減することができ、4)正極片を作製するときにシアノ-CN含有粘着剤を使用し、且つ適切なaセグメントの含有量及び粘着剤の使用量を選択すると、負極で測定した金属含有量が小さく、且つ同じ条件で1200サイクルの高温サイクルをしたとき、電池の容量保持率も高いことが分かった。
【0075】
以上により、本開示に係る実施例の方案を採用すると、正極材料における遷移金属の溶出量を効果的に抑制し、リチウムイオン電池の高温サイクル性能を著しく向上させることができることを説明した。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
【表4】