(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】時計ムーブメント用ゼンマイおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
G04B 17/06 20060101AFI20240419BHJP
【FI】
G04B17/06 Z
(21)【出願番号】P 2022531415
(86)(22)【出願日】2020-11-27
(86)【国際出願番号】 EP2020083622
(87)【国際公開番号】W WO2021105352
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-06-21
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599040492
【氏名又は名称】ニヴァロックス-ファー ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ミシュレ,リオネル
(72)【発明者】
【氏名】シャルボン,クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ヴェラルド,マルコ
【審査官】細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-113544(JP,A)
【文献】特開2019-113549(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計ムーブメントのテンワを装備することが意図されるゼンマイを製造するための方法であって、前記方法は、
a)合金からなるNb-Tiコアを有するブランクを提供するステップであって、前記
合金は、
-ニオブ:100重量%にするための残部、
-チタン:5重量%から95重量%の範囲、
-O、H、C、Fe、Ta、N、Ni、Si、Cu、およびAlからなる群から選択される1または複数の微量の元素であり、前記各元素は0から1600重量ppmの範囲の量で存在し、前記元素のすべてにより構成される合計量は0から0.3重量%の範囲である微量の元素、
を含むステップと、
b)前記ブランクを、前記合金のチタンがベータ相ニオブを有する固溶体形態となるようにベータクエンチングするステップと、
c)前記ブランクを複数の手順で変形するステップと、
d)前記ゼンマイを形成するための巻線ステップと、
e)前記ゼンマイに最終熱処理を施すステップと、
を含み、
前記方法は、
-前記ステップa)のブランクは、前記Nb-Tiコアの周りにX層を備え、材料XはCu、Sn、Fe、Pt、Pd、Rh、Al、Au、Ni、Ag、CoおよびCrまたはこれらの元素の1つの合金から選択され、または、前記方法は、前記材料Xを前記Nb-Tiコアの周りに供給して、前記X層を形成するステップを含み、前記ステップはステップa)とステップc)との間で実施されることを特徴とし、
-前記方法は、前記X層をNb-Tiコアの周りのX、Ti金属間化合物の層に部分的に変換するために、200℃から900℃の範囲で15分から100時間実施される熱処理ステップを含み、前記ブランクはしたがって、連続してNb-Tiコア、X、Ti金属間化合物の層およびX層の一部を備え、前記ステップはステップb)とステップc)との間、または2つの連続する変形ステップc)の間で実施されることを特徴とし、
-前記方法は、前記X層の一部を除去するステップを含み、前記ステップは、ステップb)とステップc)との間、2つの連続する変形ステップc)の間、またはステップc)とステップd)との間で実施されることを特徴とし、
-金属間化合物の層の厚さは20nmから10μmの範囲であることを特徴とする、方
法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法であって、前記変形ステップc)は、少なくとも連続して第1の伸線手順と、第2の校正伸線手順と、第3の圧延手順とを含むことを特徴とする、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の製造方法であって、前記熱処理ステップは、前記変形ステップc)の2つの手順の間で実施されることを特徴とする、方法。
【請求項4】
請求項2に記載の製造方法であって、前記熱処理ステップは、前記第1の
伸線手順と前記第2の
校正伸線手順との間で実施されることを特徴とする、方法。
【請求項5】
請求項2に記載の製造方法であって、前記X層の一部を除去する前記ステップは、前記第1の
伸線手順と前記第2の
校正伸線手順との間で実施されることを特徴とする、方法。
【請求項6】
請求項2に記載の製造方法であって、前記X層の一部を除去する前記ステップは、前記第2の
校正伸線手順と前記第3の
圧延手順との間で実施されることを特徴とする、方法。
【請求項7】
請求項2に記載の製造方法であって、前記X層の一部を除去する前記ステップは、ステップc)とステップd)との間で実施されることを特徴とする、方法。
【請求項8】
請求項1に記載の製造方法であって、前記X層の一部を除去する前記ステップは、シアン化物または酸に基づく溶液において化学的浸食によって実施されることを特徴とする、方法。
【請求項9】
請求項1に記載の製造方法であって、ベータクエンチングの前記ステップは溶解熱処理であり、5分から2時間までの期間で700℃から1000℃までの温度で、真空下で実施され、その後ガス冷却されることを特徴とする、方法。
【請求項10】
請求項1に記載の製造方法であって、ステップe)の前記最終熱処理は、アルファ相チタンを析出する処理であり、1時間から80時間までの期間で350℃から700℃までの温度で実施されることを特徴とする、方法。
【請求項11】
請求項1に記載の製造方法であって、前記方法は、各手順間、または前記変形ステップc)の所定の手順間に、アルファ相チタンを析出する中間熱処理を含み、1時間から80時間までの期間で350℃から700℃までの温度で実施されることを特徴とする、方法。
【請求項12】
請求項1に記載の製造方法であって、前記X層の厚さは1から500μmの範囲であることを特徴とする、方法。
【請求項13】
請求項1に記載の製造方法であって、各手順は1から5の範囲の変形率で実施され、前記手順のすべてにわたる変形の累積合計は、1から13の範囲の総変形率となることを特徴とする、方法。
【請求項14】
請求項1に記載の製造方法であって、前記Ti含有量は40重量%から55重量%の範囲であることを特徴とする、方法。
【請求項15】
請求項1に記載の製造方法であって、前記Ti含有量は5%以上および40%未満であることを特徴とする、方法。
【請求項16】
時計ムーブメントのテンワを装備することが意図される、合金からなるNb-Tiコアを備えるゼンマイであって、前記合金は、
-ニオブ:100重量%にするための残部、
-チタン:5重量%から95重量%の範囲、
-O、H、C、Fe、Ta、N、Ni、Si、Cu、Alからなる群から選択される微量の元素であり、前記各元素は0から1600重量ppmの範囲の量で存在し、前記元素のすべてにより構成される合計量は0から0.3重量%の範囲である微量の元素、
を含み、
-前記Nb-TiコアはX、Ti金属間化合物の層を備え、材料XはCu、Sn、Fe、Pt、Pd、Rh、Al、Au、Ni、Ag、CoおよびCrまたはこれらの元素の1つの合金から選択され、前記金属間化合物の厚さは、20nmから10μmの範囲であることを特徴とする、ゼンマイ。
【請求項17】
請求項16に記載のゼンマイであって、前記金属間化合物の層の厚さは、300nmから1.5μmの範囲であることを特徴とする、ゼンマイ。
【請求項18】
請求項16に記載のゼンマイであって、前記金属間化合物の層の厚さは400nmから800nmの範囲であることを特徴とする、ゼンマイ。
【請求項19】
請求項16に記載のゼンマイであって、XはCuであり、前記金属間化合物の層はCu2Tiと、CuTiと、Cu3Ti2と、CuTi2とを含むことを特徴とする、ゼンマイ。
【請求項20】
請求項16に記載のゼンマイであって、前記Ti含有量は40重量%から55重量%の範囲であることを特徴とする、ゼンマイ。
【請求項21】
請求項16に記載のゼンマイであって、前記Ti含有量は5%以上および40%未満であることを特徴とする、ゼンマイ。
【請求項22】
請求項21に記載のゼンマイであって、前記Ti含有量は5%から35%の範囲で含まれることを特徴とする、ゼンマイ。
【請求項23】
請求項16に記載のゼンマイであって、前記Nb-Tiコアは、ベータ相ニオブおよびアルファ相チタンを含む二相マイクロ構造を有することを特徴とする、ゼンマイ。
【請求項24】
請求項16に記載のゼンマイであって、前記ゼンマイは、500MPa以上の弾性限界、および120GPa以下の弾性係数を有することを特徴とする、ゼンマイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計ムーブメントのテンワを装備することが意図されるゼンマイを製造するための方法と、本方法から得られるゼンマイに関する。
【背景技術】
【0002】
腕時計製作のためのゼンマイの製造では、一見したところ両立しないことが多い以下のような制約に直面せざるを得ない。
-高弾性限界を得ることが必要であること、
-製造、特に伸線および圧延が容易であること、
-疲労抵抗が優れていること、
-経時的に性能が安定していること、
-断面が小さいこと。
【0003】
ゼンマイの製造はまた、規則正しい計時性能を保証するため、熱補償に関する懸念にも焦点を当てている。これには、熱弾性係数がゼロに近いことが必要となる。磁場の影響を受けにくいゼンマイを製造することも求められる。
【0004】
ニオブとチタン合金を用いて新規のヒゲゼンマイが開発されている。ただし、これらの合金は、延伸または伸線金型および圧延ローラに接着し、固着するという問題を引き起こす。そのため、例えば鋼に使用される標準的な方法を用いて、これらの合金を細いワイヤに変形させることが事実上不可能となる。
【0005】
この欠点を克服するため、金型および圧延装置で成形する前に、延性材料の層、具体的には銅層をNb-Tiブランクに堆積させることが提案された。特許文献1は、したがって、40重量%から60重量%のチタンを含むニオブとチタン合金の製造方法を開示する。同製造方法は、変形ステップの前に、延性材料の表面層を堆積するステップを含む。
【0006】
この銅層をワイヤに堆積させることには不利な点がある。この方法では、ワイヤの校正および圧延中に、ワイヤの幾何学形状を細かく制御することができない。ワイヤのNb-Tiコアの寸法が変動することによって、ヒゲゼンマイのトルクに顕著な変動が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【0008】
前述の不利点を克服するために、本発明は、銅に関連する不利点を回避しながら、変形による成形を容易にするゼンマイの製造方法を提案する。
【0009】
そのため、本発明によるゼンマイを製造するための方法は熱処理ステップを含む。熱処理ステップは、Nb-Tiコアを被覆するCu層の一部を、銅、Ti金属間化合物の層に変換し、Cu層の残部を除去することを目的とする。この金属間化合物の層はここで、金型および圧延ローラと接触する外側の層を形成する。金属間化合物は化学的に不活性であり、延性があり、らせん状のワイヤの伸線および圧延が容易にできる。この金属間化合物の別の有利点は、巻線に続く固定ステップ後に、ヒゲゼンマイ間を容易に分離できることである。
【0010】
金属間化合物の層は、本製造方法後にヒゲゼンマイ上に保持される。金属間化合物の層の厚さは、20nmから10ミクロンの範囲、好ましくは300nmから1.5μmの範囲でありヒゲゼンマイの熱弾性係数(TEC)を大幅に変更しないように十分薄い。さらに、金属間化合物の層は完全にNb-Tiコアに接着する。
【0011】
本発明は、より具体的には、部分的に銅、Ti金属間化合物の層に変換される銅層について記載する。ただし、本発明は、Tiと金属間化合物を形成可能であるSn、Fe、Pt、Pd、Rh、Al、Au、Ni、Ag、CoおよびCrなどの他の元素にも適用可能である。本発明はまた、これらの元素の1つの合金にも適用される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】銅層で被覆されたNbTi
47合金製のコアを有するブランクの顕微鏡画像を示す。銅層は本発明の方法による熱処理を受けて部分的に金属間化合物に変換される。
【
図2】従来技術による、本発明の方法による熱処理を受けない銅層を有するNbTi
47合金のX線回析スペクトルを示す。
【
図3】本発明の方法による熱処理を受けた銅層を有する同一のNbTi
47合金のX線回析スペクトルを示す。
【
図4】金属間化合物に関するピークを示す、
図3のX線回析スペクトルの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、時計ムーブメントのテンワを装備することが意図されるゼンマイを製造するための方法に関する。本ゼンマイはニオブおよびチタンを含む二元合金からなる。本発明はまた、本方法から得られるゼンマイに関する。
【0014】
本発明によれば、本製造方法は以下のステップを含む。
a)合金からなるNb-Tiコアを有するブランクを提供するステップであって、上記合金は、
-ニオブ:100重量%にするための残部、
-チタン:5重量%から95重量%の範囲、
-O、H、C、Fe、Ta、N、Ni、Si、Cu、およびAlからなる群から選択される1または複数の微量の元素であり、上記各元素は0から1600重量ppmの範囲の量で存在し、上記元素のすべてにより構成される合計量は0から0.3重量%である、微量の元素を含むステップと、
b)上記ブランクを、上記合金のチタンが本質的にベータ相ニオブを有する固溶体形態となるように、ベータクエンチングするステップと、
c)上記ブランクを複数の手順で変形するステップと、
d)上記ゼンマイを形成するための巻線ステップと、
e)上記ゼンマイに最終熱処理を行うステップ。
【0015】
本発明の変形によれば、ステップa)のブランクは、Nb-Tiコアの周りに、Cu、Sn、Fe、Pt、Pd、Rh、Al、Au、Ni、Ag、CoおよびCrまたはこれらの元素の1つの合金から選択される材料Xの層を含む。例えば、材料XはCu、Cu-Sn、Cu-Ni、などであってもよい。別の変形によれば、本方法は、上記の材料XをNb-Tiコアの周りに提供して、X層を形成するステップを含む。このステップはステップa)と変形ステップc)との間で実施される。
【0016】
本製造方法はまた、X層の一部をNb-Tiコアの周りでX、Ti金属間化合物の層に変換するための熱処理ステップを含む。熱処理は、200℃から900℃の範囲で15分から100時間実施される。ブランクはしたがって、連続してNb-Tiコア、X、Ti金属間化合物の層およびX層の残部を備える。上記ステップはステップb)とステップc)との間、または変形ステップc)の2つの手順の間で実施される。
【0017】
本製造方法は次に、X層の残部を除去するステップを含む。本ステップはステップb)とステップc)との間、2つの連続する変形ステップc)の間、またはステップc)とステップd)との間で実施される。
【0018】
本方法を以下に詳細に説明する。
【0019】
ステップa)では、コアは、5重量%から95重量%の範囲のチタンを含むNb-Ti合金からなる。好ましい変形では、本発明で使用される合金は、40重量%から60重量%の範囲のチタンを備える。好ましくは、本発明で使用される合金は、40重量%から49重量%の範囲のチタンを含み、より好ましくは46重量%から48重量%の範囲のチタンを含む。チタンの割合は、マルテンサイト相を形成しないように低減されながらも、アルファ相の形態でTi析出を最大限の比率で得るために十分である。マルテンサイト相が形成されると、使用中に合金の脆性という問題が生じる。別の変形によれば、チタン含有量は、これらの硬質相が形成されないように、さらに大きく低減される。この場合チタン含有量は40重量%未満となる。チタンは5重量%から40重量%の範囲で含まれる(上限は含まれない)。より具体的には、チタンは5%から35%の範囲、好ましくは15%から35%の範囲、より好ましくは27%から33%の範囲で含まれる。
【0020】
特に有利な様式では、本発明で用いられるNb-Ti合金は、想定される不可避な微量物を除いて、いかなる他の元素も含まない。これにより、脆性相の形成が回避される。
【0021】
より具体的には、酸素含有量は、全体の0.10重量%以下、またはさらに全体の0.085重量%以下である。
【0022】
より具体的には、タンタル含有量は、全体の0.10重量%以下である。
【0023】
より具体的には、炭素含有量は、全体の0.04重量%以下、具体的には全体の0.020重量%以下、またはさらに全体の0.0175重量%以下である。
【0024】
より具体的には、鉄含有量は、全体の0.03重量%以下、具体的には全体の0.025重量%以下、またはさらに全体の0.020重量%以下である。
【0025】
より具体的には、窒素含有量は、全体の0.02重量%以下、具体的には全体の0.015重量%以下、またはさらに全体の0.0075重量%以下である。
【0026】
より具体的には、水素含有量は、全体の0.01重量%以下、具体的には全体の0.0035重量%以下、またはさらに全体の0.0005重量%以下である。
【0027】
より具体的には、ケイ素含有量は、全体の0.01重量%以下である。
【0028】
より具体的には、ニッケル含有量は、全体の0.01重量%以下、具体的には全体の0.16重量%以下である。
【0029】
より具体的には、合金中の銅などの延性材料の含有量は、全体の0.01重量%以下、具体的には全体の0.005重量%以下である。
【0030】
より具体的には、アルミニウム含有量は、全体の0.01重量%以下である。
【0031】
本発明によれば、ステップa)において、ブランクのNb-Tiコアは上記に挙げた材料X層で被覆される。X層をコアの周りに供給することは、ガルバニックプロセス、PVD、CVDまたは機械的方法によって実施されてもよい。機械的方法の場合は、材料Xの管は、Nb-Ti合金バーに嵌合される。アセンブリは、バーを薄化し、ステップa)で提供されるブランクを形成するために鍛金、伸張および/または伸線によって変形される。本発明は、ゼンマイの製造方法中、ステップa)と変形ステップc)との間でX層を供給することを除外するものではない。X層の厚さは、ワイヤの所与の断面において、Nb-Tiコアの表面に対する材料Xの面積比が1未満、好ましくは0.5未満、より好ましくは0.01から0.4の範囲になるように選択される。例えば、厚さは、好ましくは、0.2ミリメートルから1ミリメートルの総直径を有するワイヤ上で、1マイクロメートルから500マイクロメートルの範囲である。
【0032】
ステップb)のベータクエンチングは溶解処理である。好ましくは、ベータクエンチングは、5分から2時間の期間、700℃から1000℃で、真空下で実施され、その後ガス冷却される。より具体的には、このベータクエンチングは、後でガス冷却される、800℃で5分から1時間の期間にわたって真空下で実施される溶解処理である。
【0033】
変形ステップc)は、複数の手順で実施される。変形手段は、伸線および/または圧延による変形である。有利には、変形ステップは、少なくとも連続して第1の伸線手順と、第2の校正伸線手順と、第3の圧延手順とを含み、好ましくは巻真の進入部分と適合する長方形の外形を有する。各手順は1から5の範囲の所与の変形率で実施される。この変形率は、標準的な数式2ln(d0/d)から得られる。式中、d0は最後のベータクエンチングの直径であり、dは硬化ワイヤの直径である。連続した上記手順のすべてにわたる変形の累積合計は、1から14の範囲の総変形率となる。
【0034】
本発明によれば、本製造方法は、X層をNb-Tiコアの周りのX、Ti金属間化合物へと部分的に変換する熱処理ステップを含む。本ステップは、15分から100時間にわたって、200℃から900℃の範囲の温度で実施される。好ましくは、本ステップは、5時間から20時間にわたって、400℃から500℃の範囲で実施される。本熱処理ステップは、アルファ相チタンを析出するために用いられてもよい。
【0035】
本ステップの終わりに、金属間化合物の層の厚さは、20nmから10μmの範囲、好ましくは300nmから1.5μmの範囲、さらにより好ましくは400nmから800nmの範囲、さらにより好ましくは400nmから600nmの範囲となる。X層の残部の厚さは、1から25μmの範囲となる。Cuの場合は、金属間化合物の層は、例えば、Cu
4Ti、Cu
2Ti、CuTi、Cu
3Ti
2およびCuTi
2を含む。例として、
図1の顕微鏡画像は、450°Cの熱処理を受けた、47重量%のチタンを含み、銅層で被覆されたニオブ-チタン合金のブランクの構造を表す。NbTi
47コア、厚さ約700nmの銅、Ti金属間化合物の層、厚さ約5μmの銅層の残部が連続して観察できる。
図3は、Cu層除去後であって、巻線および固定ステップ後の本発明によるゼンマイの同一の合金のX線回析スペクトルを示す。比較のために、
図2には、銅層を有するが、熱処理を受けていない同一の合金のX線回析スペクトルを示す。Nbピークに隣接して観察される一連の小さいピークを
図4に拡大する。これらのピークは、Cu
4Ti、Cu
2Ti、CuTi、Cu
3Ti
2およびCuTi
2のピークである。
【0036】
金属間化合物を形成することを目的とするこの熱処理は、変形ステップc)の前、またはステップc)中の2つの変形手順の間に実施されてもよい。有利には、熱処理はステップc)において、第1の伸線手順と第2の校正伸線手順との間で実施される。
【0037】
次に、金属間化合物の層が外側の層となるように、X層の残部が除去される。本ステップは、シアン化物または酸に基づく溶液、例えば硝酸を用いた化学的浸食によって実施されてもよい。本発明は、所定の金属間化合物も酸に溶解するということを除外するものではないことが記載される。例えばCu4Tiの場合は硝酸溶液に溶解する。
【0038】
X層は所望する効果にしたがって、本方法の異なる時期に除去されてもよい。好ましくは、X層はステップc)において、らせん状のワイヤの最終寸法を精密に制御するように、校正伸線前に除去される。金属間化合物は外側の層にあるため、固定中に、ワイヤが金型、圧延ローラに接着するのを防止し、ヒゲゼンマイ間で接着するのを防止する。より好ましくは、X層は、第1の伸線手順と第2の校正伸線手順との間で除去される。あまり有利ではない変形によれば、X層は、校正伸線後であって圧延前に除去され、それによって、ワイヤが固定中に圧延ローラに接着するのを防止し、ヒゲゼンマイ間で接着するのを防止する。同様にあまり有利ではない変形によれば、X層は、変形ステップc)の終わりであって巻線ステップの前に除去される。本事例では、金属間化合物の外側の層は、固定中にヒゲゼンマイ間で接着するのを防止するのみである。
【0039】
ゼンマイを形成するための巻線ステップd)の後に、ゼンマイに最終熱処理を行うステップe)が続く。この最終熱処理は、1時間から80時間、好ましくは5時間から30時間の期間にわたって、350℃から700℃の範囲、好ましくは400℃から600℃の範囲の温度で、アルファ相Tiを析出する処理である。
【0040】
最終的に、本方法は、上記と同一の時間および温度の範囲で、変形手順の間に中間熱処理を含んでいてもよいことが記載される。
【0041】
本法によって製造されるゼンマイは、500MPa以上の弾性限界、好ましくは600MPaを超える弾性限界、より具体的には、500MPaから1000MPaの範囲の弾性限界を有する。有利には、ゼンマイは120GPa以下の弾性係数、好ましくは100GPa以下の弾性係数を有する。
【0042】
ゼンマイは、X、Ti金属間化合物の層で被覆されたNb-Tiコアを含む。Xは、Cu、Sn、Fe、Pt、Pd、Rh、Al、Au、Ni、Ag、CoおよびCrまたはこれらの元素のうち1つの合金の群から選択される。この金属間化合物の層の厚さは、20nmから10μmの範囲、好ましくは300nmから1.5μmの範囲、より好ましくは400nmから800nmの範囲、またはさらに400nmから600nの範囲となる。好ましくは、金属間化合物の層はCu、Ti層である。
【0043】
ゼンマイコアは、ベータ相ニオブおよびアルファ相チタンを含む二相マイクロ構造を有する。
【0044】
さらに、本発明によって製造されるゼンマイは、そのようなゼンマイが組み込まれた時計の使用温度が変動しても計時性能が維持されることを保証するTECともよばれる熱弾性係数を有する。
【0045】
本発明の方法によって、典型的には47重量%のチタン(40から60%)を有するNi-Ti合金からなるテンワ用のゼンマイを製造すること、より具体的には、成形することが可能となる。この合金は600MPaを超える非常に高い弾性限界、および約60GPaから80GPaの非常に低い弾性係数が組み合わさった、高い機械的特性を有する。この特性の組み合わせはゼンマイにとって非常に好適である。さらに、このような合金は常磁性である。