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▶ キエシ・フアルマチエウテイチ・ソチエタ・ペル・アチオニの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】加圧定量吸入器のためのステンレス鋼缶
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/40 20060101AFI20240419BHJP
   A61K 31/167 20060101ALI20240419BHJP
   A61K 31/573 20060101ALI20240419BHJP
   A61K 47/06 20060101ALI20240419BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20240419BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240419BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20240419BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20240419BHJP
   A61P 11/08 20060101ALI20240419BHJP
   A61M 13/00 20060101ALI20240419BHJP
   A61M 15/00 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
A61K31/40
A61K31/167
A61K31/573
A61K47/06
A61K47/04
A61K47/10
A61K9/12
A61P11/06
A61P11/08
A61M13/00
A61M15/00 Z
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2022532870
(86)(22)【出願日】2019-12-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-09
(86)【国際出願番号】 EP2019083347
(87)【国際公開番号】W WO2021110239
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】591095465
【氏名又は名称】キエシ・フアルマチエウテイチ・ソチエタ・ペル・アチオニ
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(74)【代理人】
【識別番号】100221534
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 志穂
(72)【発明者】
【氏名】ザンベッリ,エンリコ
(72)【発明者】
【氏名】ボネッリ,サウロ
(72)【発明者】
【氏名】コペッリ,ディエゴ
(72)【発明者】
【氏名】ダリ アルベリ,マッシミリアーノ
(72)【発明者】
【氏名】ウズベルティ,フランチェスカ
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-515696(JP,A)
【文献】特表2019-528316(JP,A)
【文献】特表2019-529432(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
47/00-47/69
9/00-9/72
A61P 1/00-43/00
A61M 13/00-15/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記:
(a)作動当たり5~26μgの範囲の投与量のグリコピロニウム臭化物;
(b)作動当たり1~25μgの範囲の投与量のフォルモテロールまたはその塩もしくは溶媒和物;
(c)HFA噴射剤;
(d)共溶媒;
(e)無機酸;および所望により
(f)吸入コルチコステロイド
を含む、加圧定量吸入器における使用のための医薬エアゾール溶液製剤であって、該製剤が、ステンレス鋼製のエアゾール缶中に含まれ
ステンレス鋼のグレードが、904L、316、316L、305、304、304L、6Moおよび2205より選択される、製剤。
【請求項2】
ステンレス鋼のグレードが、904Lおよび316Lより選択される、請求項1に記載の医薬エアゾール溶液製剤。
【請求項3】
グリコピロニウム臭化物が、作動当たり6~25μgの量で存在する、請求項1または2に記載の医薬エアゾール溶液製剤。
【請求項4】
フォルモテロールまたはその塩もしくは溶媒和物が、作動当たり6~12μgの量で存在する、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬エアゾール溶液製剤。
【請求項5】
HFA噴射剤が、HFA 134a、HFA 227、HFA 152aまたはそれらの混合物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬エアゾール溶液製剤。
【請求項6】
共溶媒が、(C1-C4)アルキルアルコールである、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬エアゾール溶液製剤。
【請求項7】
共溶媒が、活性成分を製剤中に完全に溶解させるのに適した濃度のエタノールである、請求項6に記載の医薬エアゾール溶液製剤。
【請求項8】
エタノールが、製剤の総重量に対して5~30%w/wに含まれる濃度の無水エタノールである、請求項7に記載の医薬エアゾール溶液製剤。
【請求項9】
無機酸が、医薬的に許容される一塩基酸または多塩基酸である、請求項1~8のいずれか一項に記載の医薬エアゾール溶液製剤。
【請求項10】
無機酸が、塩酸である、請求項9に記載の医薬エアゾール溶液製剤。
【請求項11】
無機酸が、製剤1μl当たり0.1~0.3μgの範囲の量の1M塩酸である、請求項10に記載の医薬エアゾール溶液製剤。
【請求項12】
フォルモテロール塩が、フォルモテロールフマル酸塩である、請求項1~11のいずれか一項に記載の医薬エアゾール溶液製剤。
【請求項13】
フォルモテロール塩の溶媒和物形態が、フォルモテロールフマル酸塩二水和物である、請求項1~12のいずれか一項に記載の医薬エアゾール溶液製剤。
【請求項14】
吸入コルチコステロイドが、ベクロメタゾンプロピオン酸エステル、ブデソニドまたはその22R-エピマー、シクレソニド、フルニソリド、フルチカゾンプロピオン酸エステル、フルチカゾンフランカルボン酸エステル、モメタゾンフランカルボン酸エステル、ブチキソコート、トリアムシノロンアセトニド、トリアムシノロン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾン、ロテプレドノールおよびロフレポニドの群より選択される、請求項1~13のいずれか一項に記載の医薬エアゾール溶液製剤。
【請求項15】
吸入コルチコステロイドが、ベクロメタゾンプロピオン酸エステルである、請求項14に記載の医薬エアゾール溶液製剤。
【請求項16】
ベクロメタゾンプロピオン酸エステルが、作動当たり50~250μgの量で存在する、請求項15に記載の医薬エアゾール溶液製剤。
【請求項17】
ベクロメタゾンプロピオン酸エステルが、作動当たり100または200μgの量で存在する、請求項16に記載の医薬エアゾール溶液製剤。
【請求項18】
加圧定量吸入器における使用のための請求項1~17のいずれか一項に記載の医薬エアゾール溶液製剤を含む、904L、316、316L、305、304、304L、6Moおよび2205より選択されるグレードのステンレス鋼製のエアゾール缶。
【請求項19】
請求項18に記載の缶を含む、加圧定量吸入器。
【請求項20】
加圧定量吸入器における使用のための請求項1~17のいずれか一項に記載の医薬エアゾール溶液製剤の保存期間中の、分解生成物N-(3-ブロモ)-[2-ヒドロキシ-5-[1-ヒドロキシ-2-[1-(4-メトキシフェニル)プロパン-2-イルアミノ]エチル]フェニル]ホルムアミド(DP3)の量を減少させる方法であって、該方法が、ステンレス鋼製のエアゾール缶中に該エアゾール溶液製剤を含むことを特徴とする、方法。
【請求項21】
請求項1~17のいずれか一項に記載の医薬エアゾール溶液製剤の保存期間中の、分解生成物N-(3-ブロモ)-[2-ヒドロキシ-5-[1-ヒドロキシ-2-[1-(4-メトキシフェニル)プロパン-2-イルアミノ]エチル]フェニル]ホルムアミド(DP3)の量を減少させるためのステンレス鋼缶の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリコピロニウム臭化物およびフォルモテロールまたはその塩または該塩の溶媒和物を所望により吸入コルチコステロイド(ICS)と組み合わせて含む、加圧定量吸入器(pMDI)で使用することを意図したエアゾール溶液製剤であって、選択された量の無機酸により安定化され、該製剤が、ステンレス鋼製の缶中に含まれる、エアゾール溶液製剤に関する。
【0002】
本発明はまた、気道疾患の予防および治療における、ステンレス鋼缶中に該製剤を含むこのような加圧定量吸入器の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
グリコピロニウム臭化物(グリコピロレートとしても知られる)は、特定の麻酔薬の投与に関連する唾液分泌を減らすために、および消化性潰瘍の補助療法として使用されるムスカリン性M3抗コリン薬である。また、喘息症状の処置に有効であると報告されている(Hansel et al., Chest 2005; 128:1974-1979)。
【0004】
WO2005/107873は、小児喘息の処置のためのグリコピロレートの使用に関する。
【0005】
WO01/76755は、呼吸器疾患、特に慢性閉塞性肺疾患(COPD)の処置における使用を意図した、グリコピロレートの肺送達のための制御放出製剤を開示する。WO01/76755は、本質的に、乾燥粉末吸入器(DPI)による送達に適した乾燥粉末製剤に焦点を当てている。
【0006】
WO2005/074918は、グリコピロレートと糖質コルチコイド薬との組合せ、および気道の疾患を処置するためのそれらの使用を開示する。
【0007】
WO2005/110402は、炎症性または閉塞性気道疾患の処置のための、インダン類またはベンゾチアゾール-2-オン誘導体のベータ-2アゴニストとのグリコピロレートとの組合せに関する。
【0008】
WO2006/105401は、呼吸器、炎症性または閉塞性気道疾患の予防および処置のための、抗コリン薬、コルチコステロイドおよび長時間作用型ベータ2アゴニストの組合せに関するものであり;グリコピロレートは、抗コリン薬の選択肢の1つである。
【0009】
WO2007/057223およびWO2007/057222によれば、グリコピロニウム臭化物と抗炎症ステロイド、特にモメタゾンフランカルボン酸エステルとの組合せは、炎症性および閉塞性気道疾患の処置において治療上の利益を提供すると報告されている。
【0010】
WO2007/057221およびWO2007/057219はそれぞれ、グリコピロニウム塩とインダニル誘導体ベータ-2アゴニスト(または類似体)または抗炎症ステロイド、特にモメタゾンフランカルボン酸エステルとの組合せに関する。
【0011】
WO00/07567は、実施例4において、微粉化された活性物質、すなわち、フォルモテロールフマル酸塩、グリコピロニウム臭化物およびクロモグリク酸二ナトリウムの混合物に対して、HFAおよび一酸化二窒素の噴射剤混合物と2重量%のエタノールを加えた懸濁液エアゾール製剤を開示する。
【0012】
「Martindale. The complete drug reference」、2002年1月、グリコピロニウム臭化物に関するモノグラフ(第467頁)は、注射用注入水溶液および添加物とこの物質の適合性に関する研究において、グリコピロニウム臭化物の安定性が、エステル加水分解のためpH6超で疑わしいことを示している。
【0013】
US2002/025299は、フォルモテロール、またはそれとベクロメタゾンプロピオン酸エステルなどのステロイド、またはイプラトロピウム臭化物、オキシトロピウム臭化物、チオトロピウム臭化物などの抗コリン作動性アトロピン様誘導体との組合せであり、さらにHClにより酸性化され、ステンレス鋼または陽極酸化アルミニウムなどの、または不活性有機コーティングでさらに裏打ちされた所定の缶中に保存する、様々な活性成分の加圧エアゾール溶液製剤を開示する。
【0014】
WO2005/074900は、炎症性または閉塞性呼吸器疾患の処置のための抗コリン薬とベータ-2模倣薬との吸入可能な組合せを開示し、実施例は、DPI製剤またはpMDI懸濁液のいずれかとしての、フォルモテロールと組み合わせたグリコピロニウム臭化物の(R,R)-エナンチオマーの製剤を示す。
【0015】
US2006/0257324は、実質的に同じ粒子径分布を有し、したがって同じ肺領域でのそれらの共沈着を可能にする、HFA噴射剤-共溶媒システムにおける2つ以上の溶解薬物の組合せの送達を開示する。当該明細書に記載の製剤は、ベータ-2アゴニスト(フォルモテロールまたはカルモテロールが例示されている)およびコルチコステロイド(ベクロメタゾンプロピオン酸エステルが例示されている)、またはイプラトロピウム、オキシトロピウム、チオトロピウムまたはグリコピロニウム臭化物などの抗コリン薬を含み、後者は説明において一般的に引用されているのみである。
【0016】
フォルモテロールは、気管支の平滑筋を弛緩させ、気道を開いて喘鳴状態を軽減できるベータ2アドレナリン作動薬である。喘息および他の呼吸器疾患の管理において、フォルモテロールフマル酸塩として一般的に用いられている。フォルモテロールフマル酸塩のエアゾール溶液は比較的不安定であり、最適ではない条件下で保存したときの保存期間が短いことが知られている。
【0017】
WO2011/076843において、出願人は、フォルモテロールまたはその塩と組み合わせたグリコピロニウム臭化物を含み、所望によりBDPまたはブデソニドなどの吸入コルチコステロイドを含み、適切な量の無機酸を加えて、最終製剤の適切な安定化を達成する、pMDIエアゾール溶液製剤をさらに開示した。また、上記の製剤は、その中でDP3と呼ばれる分解生成物の量を低レベルに維持することを可能にした。
【0018】
フォルモテロールおよびグリコピロニウムの両方成分の安定化補助剤として比較的大量の酸を用いるとき、例えば25℃および相対湿度60%にて3か月保管した際に測定可能となるDP3の量がより高いレベルに増加し得ることに留意されたい。
【0019】
したがって、例えばWO2011/076843に開示されているように、例えばエアゾールキャニスターを充填するプロセスに真空圧着による酸素パージ工程を組み込むことによる、エアゾールキャニスターヘッドスペースからの酸素の除去を含む更なる工程は、DPC含有量を制御するのに有用であり得る。
【0020】
製剤開発中に、分解生成物DP3は、N-(3-ブロモ)-[2-ヒドロキシ-5-[1-ヒドロキシ-2-[1-(4-メトキシフェニル)プロパン-2-イルアミノ]エチル]フェニル]ホルムアミドであると同定された(実験セクションの分析の詳細を参照)。
【0021】
このDP3分解生成物の形成が、同定/認定閾値(6μg/作動のフォルモテロールフマル酸塩の理論含有量に対して≧1.0%w/w[[ICHガイドラインQ3B(R2)で定義])を著しく超えて定量したとき、これらのpMDI組合せ製剤の潜在的な問題を表す可能性があるので、製造中のエアゾールキャニスターの充填において酸素除去を含み、専用のパージ工程を必要とする公知のもの以外の、DP3含有量を許容可能な閾値未満に減少させる手段は特に有利であり得る。
【0022】
したがって、フォルモテロールまたはその塩または該塩の溶媒和物塩およびグリコピロニウム臭化物の治療上の利点を、所望により更なる活性成分、例えば吸入コルチコステロイド、特にベクロメタゾンプロピオン酸エステルまたはブデソニドと共に、組み合わせた臨床的に有用なエアゾール組合せ製剤であって、これにより、各医薬活性成分が、延長された製剤の保存期間にわって、かつ、理想的にはDP3などの分解生成物の低レベルを維持するのに他の方法では必要とされ得る温度または湿度の特定の保存条件を必要とせずに、有効かつ安定した用量で肺に適切に送達される、製剤を提供することが望まれる。
【0023】
出願人によるWO2015/101576およびWO2015/101575では、フォルモテロールおよびグリコピロニウム臭化物を含むHFA 134a-エタノール溶液製剤中のDP3の量は、フッ素化エチレンプロピレン(FEP)ポリマーを含む樹脂により内部コーティングされたアルミニウム缶中または少なくともブチルゴムガスソケットを含むバルブを備えた缶中に、それぞれ25℃および60%相対湿度(RH)の加速条件で、少なくとも3か月保存したとき、検出限界未満(すなわちフォルモテロールフマル酸塩の理論含有量に対して0.10%w/w)に保たれている。
【0024】
我々は予想外にも、例えば温度および湿度の苛酷条件下で保存後に決定される、検出閾値未満にさえ、保存期間中の分解生成物、特にDPCの量を最小限にすることに加えて、グリコピロニウム臭化物とフォルモテロールまたはその塩または該塩の溶媒和物と所望によりICSの組合せを含む上記製剤のステンレス鋼エアゾール缶中での適切な保存がまた、無駄なエネルギー消費、資源の浪費を避け、より環境に配慮した「クリーン」な製品を提供する、製品の環境持続可能性を改善し得ることを見出した。
【0025】
缶内部の表面をコーティングするために(懸濁液製剤について缶壁への粒子の付着または沈着を排除するため、または溶液製剤の化学的安定性を改善するために)一般的に使用されるフルオロカーボンポリマーは、好ましくは純粋なパーフルオロアルコキシアルキレン(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素化エチレンプロピレン(FEP)ポリマー、および例えばこれらとポリエーテルスルホン(PES)との混合物より選択される。
【0026】
通常使用されるコーティング技術は、予め成形された缶の内側へのスプレー、浸漬または静電乾燥粉末コーティング、その後の硬化を含む。これらのプロセスの多くは、その後除去さるべきである溶媒の使用、高温の使用(硬化が必要な場合、最大400℃)、およびいずれの場合も高いエネルギー消費を必要とする。
【0027】
したがって、ステンレス鋼缶の使用は、商品を缶の製造者からコーティングプロセスを専門とする会社(多くの場合、製造受託機関(CMO))へ、その後最終加圧エアゾール製剤の製造者へ輸送することを含む、ポリマーコーティングを金属エアゾール缶に適用する更なる工程を回避する。さらに、サイクルおよび溶融による回収中に、コーティング材料の燃焼によって、空気および環境に有害な可能性のある煙および蒸気が発生する可能性があるポリマーでコーティングされたアルミ缶より、ステンレス鋼製の缶は容易にリサイクルできる。
【発明の概要】
【0028】
したがって、本発明は、下記:
(a)作動当たり約5μg~約26μgの範囲の投与量のグリコピロニウム臭化物;
(b)作動当たり約1μg~約25μgの範囲の投与量のフォルモテロールまたはその塩もしくは溶媒和物;
(c)HFA噴射剤;
(d)共溶媒;
(e)安定化量の無機酸;および所望により
(f)吸入コルチコステロイド
を含む、加圧定量吸入器における使用を意図した医薬エアゾール溶液製剤であって、該製剤が、ステンレス鋼製のエアゾール缶中に含まれる、製剤を提供する。
【0029】
本発明によれば、分解生成物N-(3-ブロモ)-[2-ヒドロキシ-5-[1-ヒドロキシ-2-[1-(4-メトキシフェニル)プロパン-2-イルアミノ]エチル]フェニル]ホルムアミド(以下略してDP3と称する)の量は、25℃および60%相対湿度(RH)の加速条件で少なくとも3か月保存したとき、6μg/作動のフォルモテロールフマル酸塩の理論含有量に対して0.10%w/w(これが定量限界である)未満である。
【0030】
所望により、製剤は、ベクロメタゾンプロピオン酸エステル、モメタゾンフランカルボン酸エステル、ブデソニド、フルニソリド、フルチカゾンプロピオン酸エステル、フルチカゾンフランカルボン酸エステル、シクレソニド、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、メチルプレドニゾロンおよびプレドニゾンからなる群より選択される吸入コルチコステロイドをさらに含み、ベクロメタゾンプロピオン酸エステルが特に好ましい。
【0031】
別の態様において、本発明は、医薬溶液製剤を含むステンレス鋼製のエアゾール缶であって、該エアゾール缶が、加圧定量吸入器における使用を意図されており、該溶液が、下記:
(a)好ましくは作動当たり約5μg~約26μgの範囲の投与量の、グリコピロニウム臭化物;
(b)好ましくは作動当たり約1μg~約25μgの範囲の投与量の、フォルモテロールまたはその塩もしくは溶媒和物;
(c)HFA噴射剤;
(d)共溶媒;
(e)安定化量の無機酸;および、所望により、
(f)上記の吸入コルチコステロイド、好ましくはベクロメタゾンプロピオン酸エステル
を含む、エアゾール缶を提供する。
【0032】
さらに別の態様において、本発明は、下記:
(a)好ましくは作動当たり約5μg~約26μgの範囲の投与量の、グリコピロニウム臭化物;
(b)好ましくは作動当たり約1μg~約25μgの範囲の投与量の、フォルモテロールまたはその塩もしくは溶媒和物;
(c)HFA噴射剤;
(d)共溶媒;
(e)安定化量の無機酸;および、所望により、
(f)上記の吸入コルチコステロイド、好ましくはベクロメタゾンプロピオン酸エステル
を含む、加圧定量吸入器における使用を意図した医薬エアゾール溶液製剤の保存期間中の、分解生成物N-(3-ブロモ)-[2-ヒドロキシ-5-[1-ヒドロキシ-2-[1-(4-メトキシフェニル)プロパン-2-イルアミノ]エチル]フェニル]ホルムアミド(本明細書においてDP3として示す)の量を減少させる方法であって、該方法が、ステンレス鋼製のエアゾール缶中に上記製剤を含むことを特徴とする、方法を提供する。
【0033】
さらに別の態様において、本発明は、下記:
(a)好ましくは作動当たり約5μg~約26μgの範囲の投与量の、グリコピロニウム臭化物;
(b)好ましくは作動当たり約1μg~約25μgの範囲の投与量の、フォルモテロールまたはその塩もしくは溶媒和物;
(c)HFA噴射剤;
(d)共溶媒;
(e)安定化量の無機酸;および、所望により、
(f)上記の吸入コルチコステロイド、好ましくはベクロメタゾンプロピオン酸エステル
を含む、医薬溶液製剤のための容器としてステンレス鋼製のエアゾール缶を含む、加圧定量吸入器を提供する。
【0034】
さらに別の態様において、本発明は、加圧定量吸入器における使用を意図した医薬溶液製剤のための容器として、ステンレス鋼製のエアゾール缶であって、該溶液が、下記:
(a)好ましくは作動当たり約5μg~約26μgの範囲の投与量の、グリコピロニウム臭化物;
(b)好ましくは作動当たり約1μg~約25μgの範囲の投与量の、フォルモテロールまたはその塩もしくは溶媒和物;
(c)HFA噴射剤;
(d)共溶媒;
(e)安定化量の無機酸;および、所望により、
(f)上記の吸入コルチコステロイド、好ましくはベクロメタゾンプロピオン酸エステル
を含む、エアゾール缶を提供する。
【0035】
更なる態様において、本発明は、喘息およびCOPDを含む閉塞性呼吸器障害の予防および/または処置のための、ステンレス鋼缶中に含まれる、上記のエアゾール製剤の使用を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0036】
上記のように、一態様における本発明は、フォルモテロールフマル酸塩、グリコピロニウム臭化物、および所望によりコルチコステロイドを含むpMDI製剤であって、ステンレス鋼缶中に保存したとき、例えば分解生成物、特にN-(3-ブロモ)-[2-ヒドロキシ-5-[1-ヒドロキシ-2-[1-(4-メトキシフェニル)プロパン-2-イルアミノ]エチル]フェニル]ホルムアミド(本明細書中DP3と示される)の量を評価することにより測定可能な、改善された安定性を示す、製剤に関する。これに関して、フォルモテロールフマル酸塩、グリコピロニウム臭化物、および所望によりコルチコステロイドを含む本明細書で詳細する溶液製剤をステンレス鋼製の缶中に保存するとき、DP3分解生成物の量は定量限界をはるかに下回ることが驚くべきことに見出される。言い換えると、これは、該溶液製剤を本発明によるステンレス鋼缶中に保存するときに検出されるDP3の量が、以下に詳細に説明するように、6μg/作動のフォルモテロールフマル酸塩の理論含有量に対して0.10%w/w未満であることを意味する。
【0037】
実際、ステンレス鋼製のエアゾール缶を用いることにより、本明細書で詳細に説明する医薬エアゾール溶液製剤は、呼吸器分野での適切な使用に有用であるだけでなく、25℃および60%相対湿度(RH)にて少なくとも3か月の保管などの苛酷条件下でも、長期間にわたって便利な安定性を示す、分解プロファイルを示すことが予想外に見出された。本発明によるステンレス鋼における、すべての好ましい実施態様に本明細書に記載される溶液製剤の含有および保存は、実際、DP3分解生成物N-(3-ブロモ)-[2-ヒドロキシ-5-[1-ヒドロキシ-2-[1-(4-メトキシフェニル)プロパン-2-イルアミノ]エチル]フェニル]ホルムアミドのレベルを、0.10%w/wの閾値限界(6μg/作動のフォルモテロールフマル酸塩の理論含有量に対して)よりはるかに下回って維持することを可能にする。該DP3分解生成物は、一般的に、例えば製剤を長期間または25℃および60%相対湿度(RH)の加速条件下で少なくとも3か月保存するとき、用いる定量バルブのタイプに関係なく、測定可能な、フォルモテロールとグリコピロニウム臭化物との相互作用によって形成される。
【0038】
さらに、驚くべきことに、本発明によるステンレス鋼缶中に含まれる加圧エアゾール溶液製剤は、特定のキャニスターを用いて製造されるとき、25℃および60%RHにて少なくとも3か月の保存後、0.10%w/w(6μg/作動のフォルモテロールフマル酸塩の理論含有量に対して)の定量限界未満の低い分解生成物DP3レベルに加えて、10%w/w未満(6μg/作動のフォルモテロールフマル酸塩の理論含有量に対して)、好ましくは3%w/w未満、最も好ましくは2%w/w未満の許容限界内の全フォルモテロール分解生成物レベルを示すことが見出された。
【0039】
有利には、フォルモテロールフマル酸塩の残存レベルの維持が、溶液が本発明によるステンレス鋼缶中に含まれるとき、初期含有量に対して90%w/w超、好ましくは92%w/w超、最も好ましくは95%w/w超であることもまた見出された。上記の利点に加えて、ステンレス鋼の使用は、グリコピロニウム臭化物および任意選択の吸入コルチコステロイドのレベルをそれぞれの初期レベルと実質的に同じに維持することを可能にする。
【0040】
グリコピロニウム臭化物は、3-[(シクロペンチルヒドロキシフェニルアセチル)オキシ]-1,1-ジメチルピロリジニウムブロミドと定義され、配置(3R,2'R)-、(3S,2'R)-、(3R,2'S)-および(3S,2'S)-を持つ4つの潜在的な異なる立体異性体に対応する2つの不斉中心を有する。これらの純粋なエナンチオマーまたはジアステレオマーのいずれかまたはそれらの任意の組合せの形態のグリコピロニウム臭化物が、本発明の実施に用いられ得る。本発明の好ましい一実施態様において、一般的に治療で用いられ、グリコピロレートとしても知られており、以下でグリコピロニウム臭化物と定義される(3S,2'R)-および(3R,2'S)-3-[(シクロペンチルヒドロキシフェニルアセチル)オキシ]-1,1-ジメチルピロリジニウムブロミドで構成されるラセミ(トレオ)混合物が用いられる。グリコピロニウム臭化物の投与量は、作動当たり5~26μgの範囲、好ましくは作動当たり6~25μg、最も好ましくは作動当たり12.5または25μgで含まれる。本発明のステンレス鋼缶中に含まれる製剤中のグリコピロニウム臭化物は、缶が作動当たり50~100μlの範囲の製剤の量を送達するバルブを備えるとき、好ましくは、0.004~0.12%w/w、好ましくは0.005~0.090%w/w、より好ましくは0.06~0.045%w/wの範囲の量で存在し、ここで、%w/wは、成分の重量による量を意味し、組成物の総重量に対するパーセントとして表される。グリコピロニウム臭化物の最も好ましい量は、作動当たり63μlの製剤の量を送達するバルブと共に用いるとき、0.007~0.035%w/wである。
【0041】
グリコピロニウム臭化物は市販されているか、または当技術分野で知られている製造方法に従って合成してもよい(例えばUS2,956,062またはFranko BV and Lunsford CD, J Med Pharm Chem 2(5), 523-540, 1960参照)。
【0042】
フォルモテロールは、ラセミ混合物(R,R)、(S,S)として通常治療で用いられ、(±),(R*,R*)-N-[2-ヒドロキシ-5-[1-ヒドロキシ-2-[1-(4-メトキシフェニル)プロパン-2-イルアミノ]エチル]フェニル]ホルムアミドと化学的に定義される。フォルモテロールは、遊離塩基の形態であってもよく、またはその塩または溶媒和物であってもよい。本発明の好ましい一実施態様において、フォルモテロールは、そのフマル酸塩の形態で提供され、より好ましくは、フォルモテロール塩の溶媒和物形態は、フォルモテロールフマル酸塩二水和物である。フォルモテロールフマル酸塩二水和物の投与量は、作動当たり1~24μg、より好ましくは作動当たり6~12μgでの範囲で含まれ、特に6μgまたは12μgが好ましい。フォルモテロールフマル酸塩二水和物は、本発明のステンレス鋼缶中に含まれる製剤中、缶が50~100μlの範囲の製剤の量を送達するバルブを備えるとき、0.001~0.11%w/w、好ましくは0.001~0.053%w/wの範囲の量で存在し、フォルモテロールフマル酸塩二水和物の最も好ましい量は、作動当たり63μlの製剤の量を送達するバルブと共に用いるとき、0.001~0.032%w/wである。
【0043】
一実施態様において、本発明は、フォルモテロール、グリコピロニウム臭化物、HFA噴射剤、共溶媒、好ましくはエタノール、無機酸、好ましくは1M HClおよび吸入コルチコステロイドを含む製剤に関する。
【0044】
これに関して、好ましい吸入コルチコステロイドは、ベクロメタゾンプロピオン酸エステル、ブデソニドまたはその22R-エピマー、シクレソニド、フルニソリド、フルチカゾンプロピオン酸エステル、フルチカゾンフランカルボン酸エステル、モメタゾンフランカルボン酸エステル、ブチキソコート、トリアムシノロンアセトニド、トリアムシノロン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾン、ロテプレドノールおよびロフレポニドの群より選択される。好ましくは、該吸入コルチコステロイドは、ベクロメタゾンプロピオン酸エステル(BDP)またはブデソニドである。より好ましい一実施態様において、該吸入コルチコステロイドは、ベクロメタゾンプロピオン酸エステル(BDP)である。
【0045】
吸入コルチコステロイドは、作動当たり20~1000μgの範囲、好ましくは作動当たり50~250μの範囲の投与量で存在する。好ましい実施態様において、ベクロメタゾンプロピオン酸エステル(BDP)は、作動当たり50、100、200または250μg、より好ましくは作動当たり100または200μgの投与量で存在する。BDPは、好ましくは、本発明のステンレス鋼缶中に含まれる製剤中、缶が50~100μlの範囲の製剤の量を送達するバルブを備えるとき、0.04~1.1%w/w、より好ましくは0.066~0.556%の量で存在し、BDPの最も好ましい量は、作動当たり63μlの製剤の量を送達するバルブと共に用いるとき、0.07~0.331%w/wである。
【0046】
本発明による製剤の医薬活性成分はすべて、噴射剤と共溶媒の混合物中に実質的に完全かつ均一に溶解することが好ましい。これは、本発明の製剤が好ましくは溶液製剤であることを意味する。
【0047】
本明細書で意図される「実質的に完全かつ均一に溶解する」は、最終製剤が、沈殿物または不溶性残留物を実質的に含まない液体形態を有することを意味する。
【0048】
本発明は、好ましくは活性成分が製剤中に完全に溶解する溶液製剤に関し、記載がフォルモテロールフマル酸塩を一般的に引用するとき、フォルモテロールフマル酸塩およびフォルモテロールフマル酸塩二水和物(市場で入手可能である溶媒和物の形である)の両方の形態が意図される。
【0049】
本発明によるステンレス鋼缶中に含まれる製剤に含まれる共溶媒は、好ましくは、噴射剤より高い極性を有することを特徴とし、医薬的に許容されるアルコールおよび/またはポリオールなどの1つ以上の物質を含み得て、主に、選択した噴射剤中で、組成物の医薬活性成分、好ましくはフォルモテロールフマル酸塩、グリコピロニウム臭化物、および所望により吸入コルチコステロイドを安定化させることが意図される。
【0050】
好ましくは、共溶媒は、低級分岐鎖または直鎖アルキル(C1-C4)アルコールであり、より好ましくはイソプロピルアルコールおよびエタノールより選択され、エタノールがさらにより好ましい。特に好ましい一実施態様において、共溶媒は、無水エタノールである。
【0051】
ポリオール共溶媒は、存在する場合、好ましくは、グリセロール、プロピレングリコールおよびポリエチレングリコールより選択される。
【0052】
共溶媒の濃度は、一般的に、例えば製剤中の活性成分の最終濃度または噴射剤のタイプに応じて変化する。一実施態様において、共溶媒は、好ましくは、活性成分を製剤中に完全に溶解させるのに適し、5~30%w/w、好ましくは7~25%w/w、より好ましくは10~15%w/wに含まれるおよび最も好ましくは12%w/wの濃度の、無水エタノールである。
【0053】
本発明によるステンレス鋼缶中に含まれる製剤に含まれる噴射剤成分は、適切な加圧液化噴射剤であり、好ましくは、ヒドロフルオロアルカン(HFA)または様々なHFAの混合物である。一実施態様において、噴射剤は、HFA 134a(1,1,1,2-テトラフルオロエタン)、HFA 227(1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン)、HFA 152a(1,1-ジフルオロエタン)およびそれらの混合物からなる群より選択される。好ましい一実施態様において、噴射剤は、HFA 134aまたはHFA 152aである。HFAは、70~95%w/w、好ましくは80~93%w/wの範囲の量で製剤中に存在し得る。
【0054】
無機酸は、あらゆる医薬的に許容される一塩基酸または多塩基酸であり得て、例えば、ハロゲン化水素、例えば塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸およびフッ化水素酸、リン酸、硝酸、硫酸、およびハロゲンオキソ酸が挙げられるがこれらに限定されない。酸は、グリコピロニウム臭化物およびフォルモテロールを実質的に完全かつ均一に安定化させるのに十分な量で存在する。これに関して、好ましい無機酸の量は、1M塩酸(HCl)に相当する酸の量であり、好ましくは0.1~0.3μg/μl製剤、より好ましくは0.15~0.28μg/μl、さらにより好ましくは0.18~0.26μg/μlの範囲である。本発明のステンレス鋼缶中に含まれる製剤中に存在するこれら1M HClの量は、缶が50~100μlの範囲の製剤の量を送達するバルブを備えるとき、0.011~0.033%w/w、より好ましくは0.016~0.031%w/wの量に対応し、1M HClの最も好ましい量は、作動当たり63μlの製剤の量を送達するバルブと共に用いるとき、0.017~0.029%w/wである。
【0055】
好ましくは、無機酸は1M HClであり、1Mとは異なるモル濃度または別の無機酸が、本発明の製剤において1M HClの代わりになり得る。所望により、本発明で意図されるエアゾール溶液製剤は、当技術分野で知られている他の医薬添加剤(excipient)または添加物(additive)を含み得る。特に、本発明による製剤は、1以上の低揮発性成分を含み得る。低揮発性成分は、例えば、吸入器の作動時のエアゾール粒子の空気動力学的中央粒子径(MMAD)を増加させるため、および/または噴射剤/共溶媒混合物中の活性成分の溶解度を改善するために有用であり得る。
【0056】
低揮発性成分は、存在する場合、好ましくは25℃にて、0.1kPa未満、さらにより好ましくは0.05kPa未満の蒸気圧を有する。適切な低揮発性成分の例は、好ましくはミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸アスコルビルおよびトコフェロールエステルより選択されるエステル;好ましくはプロピレングリコール、ポリエチレングリコールおよびグリセロールより選択されるグリコール;および、好ましくは飽和有機カルボン酸より選択され、好ましくはラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸および不飽和カルボン酸より選択され、好ましくはオレイン酸またはアスコルビン酸である界面活性剤である。
【0057】
低揮発性成分の量は、0.1~10%w/w、好ましくは0.5~5%w/w、より好ましくは1~2%w/wで変化し得る。
【0058】
製剤の個々の医薬活性成分の望ましい投与量は、成分の特性ならびに疾患状態のタイプおよび重症度に依存するが、好ましくは、治療量の活性成分が1回または2回の作動で送達されるようなものである。一般的に、活性成分の投与量は、作動当たり約0.5~1000μg、好ましくは約1~300μg/作動、または約5~150μg/作動の範囲である。
【0059】
本発明の医薬製剤は、当技術分野で知られているpMDIデバイスでの使用に適したステンレス鋼缶中に含まれる。
【0060】
本発明によれば、エアゾール缶はステンレス鋼で作られている。製薬用途に適した好ましいグレードのステンレス鋼は、グレード904L、316、316L、305、304、304L、6Moおよび2205より選択される。
【0061】
好ましい実施態様において、本発明は、下記:
(a)作動当たり5~26μgの範囲、好ましくは作動当たり6~25μg、最も好ましくは作動当たり12.5または25μgの投与量のグリコピロニウム臭化物;
(b)作動当たり1~24μg、より好ましくは作動当たり6~12μgでの範囲、特に好ましくは6μgまたは12μgの投与量のフォルモテロールまたはその塩または該塩の溶媒和物;
(c)70~95%w/w、好ましくは80~93%w/wの範囲の量のHFA噴射剤;
(d)5~30%w/w、好ましくは7~25%w/w、より好ましくは10~15%w/w、最も好ましくは12%w/wに含まれる濃度のエタノールからなる共溶媒;
(e)安定化量の無機酸;および、所望により
(f)作動当たり50、100、200または250μg、好ましくは100または200μgの投与量の、ベクロメタゾンプロピオン酸エステルより選択される吸入コルチコステロイド
を含む、加圧定量吸入器における使用を意図した医薬エアゾール溶液製剤であって、該製剤が、ステンレス鋼製のエアゾール缶中に含まれる、製剤を提供する。
【0062】
缶は、典型的には、当技術分野で知られる方法に従って、治療上有効な用量の活性成分を送達するための計量バルブで密封される。一般的に、計量バルブアセンブリは、その中に形成された開口を有するフェルール、計量チャンバーを収容するフェルールに取り付けられた本体成形品、コアおよびコア延長部からなるステム、計量チャンバーの周囲の内側および外側シール、コアの周囲のスプリング、およびバルブからの噴射剤の漏れを防ぐためのガスケットを含む。
【0063】
ガスケットシールおよび計量バルブの周りのシールは、EPDM(エチレンプロピレンジエンモノマー)、ネオプレンおよびブチルゴムより選択されるエラストマー材料を含み得る。ブチルゴムのうち、クロロブチルゴムおよびブロモブチルゴムが好ましくは選択される。EPDMゴムが特に好ましい。
【0064】
計量チャンバー、コアおよびコア延長部は、ステンレス鋼、ポリエステル(例えばポリブチレンテレフタレート(PBT))またはアセタールなどの適切な材料を用いて製造される。スプリングは、最終的にチタンを含むステンレス鋼で製造される。フェルールは、金属、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼または陽極酸化アルミニウムで作られ得る。適切なバルブは、Valois-Aptar、Bespak plc、V.A.R.I、3M-Neotechnic Ltd、Rexam、Costerなどのメーカーから入手できる。
【0065】
pMDIは、25~150μlの範囲、好ましくは50~100μlの範囲の容量を送達できる計量バルブによって作動される。
【0066】
充填された各キャニスターは、好都合には、使用前に適切なチャネリングデバイスに取り付けられて、患者の肺に医薬を投与するための定量吸入器を形成する。適切なチャネリングデバイスは、例えば、弁アクチュエータと、医薬が、充填されたキャニスターから計量バルブを介して患者の口、例えばマウスピースアクチュエータに送達され得る円筒形または円錐状の通路とを含む。
【0067】
典型的な配置では、バルブステムは、膨張チャンバーにつながるオリフィスを有するノズルブロック内へのバルブステムレセプタクルに着座する。膨張チャンバーには、マウスピース内に延びる出口オリフィスがある。直径が0.10~0.45mmの範囲で長さが0.30~1.7mmのアクチュエータ出口オリフィスが、一般的に適切である。
【0068】
本発明の好ましい実施態様において、直径が0.12~0.30mmの範囲のアクチュエータオリフィスを利用することが有用であり得る。該微細なオリフィスの使用はまた、クラウド発生の持続時間を増加させ得て、それ故に、患者のゆっくりとした吸気とクラウド発生の調整を容易にし得る。
【0069】
所望により、本発明の製剤を含むステンレス鋼缶を有するpMDIデバイスを、吸入器の正しい使用に有利な適切な補助デバイスと一緒に利用してもよい。該補助デバイスは市販されており、それらの形状およびサイズに応じて、「スペーサー」、「リザーバー」または「膨張チャンバー」として知られている。また、本発明の製剤は、当技術分野で知られている機械的または電子的な投与量カウンターまたは投与量インジケーターを備えたアクチュエータを介して投与されてもよい。このような投与量カウンターまたは投与量インジケーターは、それぞれ、投与された投与量の数または範囲、および/または缶にまだ残っている投与量の数または範囲を示し得る。
【0070】
本発明の更なる態様によれば、エアゾール吸入器に本発明の製剤を充填する方法が提供される。医薬エアゾール製造の分野で周知である従来のバルク製造方法および機械を、充填キャニスターの商業生産のための大規模バッチの製造に使用できる。
【0071】
本発明の包装された製剤は、温度および湿度の通常の条件下で保存したとき、長期間安定である。好ましい実施態様において、包装された製剤は、25℃および60%RHにて3か月以上、より好ましくは少なくとも6か月安定である。安定性は、残存活性成分の含有量と不純物/分解生成物の含有量を測定することにより評価される。本明細書で定義される「安定な」製剤は、HPLC/UV-VISで測定される、特定の時点における残存活性成分の含有量が少なくとも約90%w/w(これは、時間0でのその初期含有量に対する含有量の重量パーセントである)、好ましくは少なくとも約95%w/wであること、および分解生成物の総含有量が、時間0での活性成分の初期含有量に対して約10重量%以下、好ましくは約5重量%以下であることを意味する。
【0072】
最適化された安定な製剤は、医薬品登録を目的とした医薬品安定性試験に関連するICHガイドラインQ1A(R2)で要求される規格を満たす。
【実施例
【0073】
実施例1
(25℃および60%相対湿度(RH)にて保存した3つの組合せのエアゾール製剤の安定性)
表1に示すとおり、エアゾール溶液製剤中のフォルモテロールフマル酸塩(FF)、グリコピロニウム臭化物(GLY)およびベクロメタゾンプロピオン酸エステル(BDP)の3つの組合せの安定性を調べるために、様々な種類のバルブで圧着した様々な種類の缶中で25℃および60%相対湿度(RH)にて3か月保存した試験を実施した。
【表1】
【0074】
試料バッチを倒置で保存して、それ故に医薬品の安定性に関する最悪の場合の条件をシミュレートした。
【0075】
各バッチの3つのキャニスターを、3か月のチェックポイントにて、活性成分および総フォルモテロール分解生成物(そのうちDP3:N-(3-ブロモ)-[2-ヒドロキシ-5-[1-ヒドロキシ-2-[1-(4-メトキシフェニル)プロパン-2-イルアミノ]エチル]フェニル]ホルムアミドに対応する)の残存含有量について分析した。
【0076】
DP3構造を、エアゾール溶液製剤中のフォルモテロールフマル酸塩、グリコピロニウム臭化物およびベクロメタゾンプロピオン酸エステルの3つの組合せの分解した試料に対して実施したHPLC/MS/MS実験により特定した。
【0077】
置換臭素原子の位置を特定するために、重水素化フォルモテロールフマル酸塩(N-(3-ジュウテロ)-[2-ヒドロキシ-5-[1-ヒドロキシ-2-[1-(4-メトキシフェニル)プロパン-2-イルアミノ]エチル]フェニル]ホルムアミド)、グリコピロニウム臭化物およびベクロメタゾンプロピオン酸エステルの3つの組合せを、プレーンアルミニウム缶で製造し、PDM(エチレンプロピレンジエンモノマー)ゴムシール(RB700、Bespak)を備えたバルブで圧着し、40℃および75%RHにて1か月保存した。分解生成物の分析は、重水素化フォルモテロールフマル酸塩の重水素原子が、臭素原子によって置換され、分解生成物DP3が生成したことを示した。さらに、N-(3-ブロモ)-[2-ヒドロキシ-5-[1-ヒドロキシ-2-[1-(4-メトキシフェニル)プロパン-2-イルアミノ]エチル]フェニル]ホルムアミド標準を合成し、1H-NMRおよびMS/MS分析により特性評価した。N-(3-ブロモ)-[2-ヒドロキシ-5-[1-ヒドロキシ-2-[1-(4-メトキシフェニル)プロパン-2-イルアミノ]エチル]フェニル]ホルムアミド標準のMS/MSスペクトルは、DP3のフラグメントパターンに匹敵するフラグメントパターンを示した。
【0078】
各活性成分、DPCの残存含有量およびフォルモテロール分解生成物の総量を測定した。質量スペクトル検出器を用いて、各缶で検出された分解生成物の分子量を確認した。
【0079】
下記表2に要約した結果は、25℃/60%相対湿度(RH)にて3か月後、活性成分含有量(特にグリコピロニウム臭化物およびフォルモテロール)がより高く、総フォルモテロール分解生成物(6μg/作動のフォルモテロールフマル酸塩の理論含有量に対して)のレベルが最も低い点、および予想外にも、分解生成物DP3が定量限界の0.10%w/w(6μg/作動のフォルモテロールフマル酸塩の理論含有量に対して)より低い点で最高の結果をもたらす構成が、製剤を本発明によるステンレス鋼製の缶中に保存したものであることを示す。
【0080】
理解できるように、ステンレス鋼缶中に包装された本発明の製剤では、分解生成物DP3が、定量限界の0.10%w/w(開始時のフォルモテロールフマル酸塩含有量に対して)よりさらに低いレベルであり、総フォルモテロール分解生成物レベルが2%w/w(開始時のフォルモテロールフマル酸塩含有量に対して)より低く、組成物の最も不安定な成分であるフォルモテロールフマル酸塩が維持され、残存レベルが本条件における保存後に95%w/wを超えることを示した。
【表2】
【0081】
各バルブまたは缶の定義の近くにある異なる番号は、以下に示すとおり同一または異なるサプライヤーからの異なる種類の缶またはバルブを定義する:バルブ:EPDM2および3は、それぞれBespak:BK700、BK701を表す;EPDM4から6は、それぞれAptar 808、810、および820を表す;缶:ステンレス鋼1は、Pressteckのステンレス鋼904Lを表す;ステンレス鋼2は、Presspartのステンレス鋼316Lを表す;陽極酸化アルミニウム、プラズマコーティングアルミニウム、およびフッ素不動態化アルミニウム表面の缶は、Presspartからのものであった。
本発明は、以下の態様および実施態様を含む。
[1] 下記:
(a)作動当たり5~26μgの範囲の投与量のグリコピロニウム臭化物;
(b)作動当たり1~25μgの範囲の投与量のフォルモテロールまたはその塩もしくは溶媒和物;
(c)HFA噴射剤;
(d)共溶媒;
(e)無機酸;および所望により
(f)吸入コルチコステロイド
を含む、加圧定量吸入器における使用のための医薬エアゾール溶液製剤であって、該製剤が、ステンレス鋼製のエアゾール缶中に含まれる、製剤。
[2] グリコピロニウム臭化物が、作動当たり6~25μgの量で存在する、[1]に記載の医薬エアゾール溶液製剤。
[3] フォルモテロールまたはその塩もしくは溶媒和物が、作動当たり6~12μgの量で存在する、[1]または[2]に記載の医薬エアゾール溶液製剤。
[4] HFA噴射剤が、HFA 134a、HFA 227、HFA 152aまたはそれらの混合物である、[1]~[3]のいずれかに記載の医薬エアゾール溶液製剤。
[5] 共溶媒が、(C 1 -C 4 )アルキルアルコールである、[1]~[4]のいずれかに記載の医薬エアゾール溶液製剤。
[6] 共溶媒が、活性成分を製剤中に完全に溶解させるのに適した濃度のエタノールである、[5]に記載の医薬エアゾール溶液製剤。
[7] エタノールが、製剤の総重量に対して5~30%w/wに含まれる濃度の無水エタノールである、[6]に記載の医薬エアゾール溶液製剤。
[8] 無機酸が、医薬的に許容される一塩基酸または多塩基酸である、[1]~[7]のいずれかに記載の医薬エアゾール溶液製剤。
[9] 無機酸が、塩酸である、[8]に記載の医薬エアゾール溶液製剤。
[10] 無機酸が、製剤1μl当たり0.1~0.3μgの範囲の量の1M塩酸である、[9]に記載の医薬エアゾール溶液製剤。
[11] 分解生成物N-(3-ブロモ)-[2-ヒドロキシ-5-[1-ヒドロキシ-2-[1-(4-メトキシフェニル)プロパン-2-イルアミノ]エチル]フェニル]ホルムアミドの量が、25℃および60%相対湿度(RH)の加速条件で少なくとも3か月保存したとき6μg/作動のフォルモテロールフマル酸塩の理論含有量に対して0.10%w/w未満である、[1]~[10]のいずれかに記載の医薬エアゾール溶液製剤。
[12] フォルモテロール塩が、フォルモテロールフマル酸塩である、[1]~[11]のいずれかに記載の医薬エアゾール溶液製剤。
[13] フォルモテロール塩の溶媒和物形態が、フォルモテロールフマル酸塩二水和物である、[1]~[12]のいずれかに記載の医薬エアゾール溶液製剤。
[14] 吸入コルチコステロイドが、ベクロメタゾンプロピオン酸エステル、ブデソニドまたはその22R-エピマー、シクレソニド、フルニソリド、フルチカゾンプロピオン酸エステル、フルチカゾンフランカルボン酸エステル、モメタゾンフランカルボン酸エステル、ブチキソコート、トリアムシノロンアセトニド、トリアムシノロン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾン、ロテプレドノールおよびロフレポニドの群より選択される、[1]~[13]のいずれかに記載の医薬エアゾール溶液製剤。
[15] 吸入コルチコステロイドが、ベクロメタゾンプロピオン酸エステルである、[14]に記載の医薬エアゾール溶液製剤。
[16] ベクロメタゾンプロピオン酸エステルが、作動当たり50~250μgの量で存在する、[15]に記載の医薬エアゾール溶液製剤。
[17] ベクロメタゾンプロピオン酸エステルが、作動当たり100または200μgの量で存在する、[16]に記載の医薬エアゾール溶液製剤。
[18] フォルモテロール分解生成物の全体レベルが、6μg/作動のフォルモテロールフマル酸塩の理論含有量に対して10%w/w未満であり、フォルモテロールフマル酸塩の残存レベルが、初期含有量に対して90%w/w超である、[1]~[17]のいずれかに記載の医薬エアゾール溶液製剤。
[19] フォルモテロール分解生成物の全体レベルが、6μg/作動のフォルモテロールフマル酸塩の理論含有量に対して2%w/w未満であり、フォルモテロールフマル酸塩の残存レベルが、初期含有量に対して95%w/w超である、[1]~[18]のいずれかに記載の医薬エアゾール溶液製剤。
[20] 加圧定量吸入器における使用のための[1]に記載の医薬エアゾール溶液製剤を含む、ステンレス鋼製のエアゾール缶。
[21] [20]に記載の缶を含む、加圧定量吸入器。
[22] 加圧定量吸入器における使用のための[1]に記載の医薬エアゾール溶液製剤の保存期間中の、分解生成物N-(3-ブロモ)-[2-ヒドロキシ-5-[1-ヒドロキシ-2-[1-(4-メトキシフェニル)プロパン-2-イルアミノ]エチル]フェニル]ホルムアミド(DP3)の量を減少させる方法であって、該方法が、ステンレス鋼製のエアゾール缶中に該エアゾール溶液製剤を含むことを特徴とする、方法。