(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池のコバルトフリー正極材料及びその製造方法並びにリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240419BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240419BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20240419BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240419BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
C01G53/00 A
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2022537256
(86)(22)【出願日】2020-11-30
(86)【国際出願番号】 CN2020132909
(87)【国際公開番号】W WO2021143376
(87)【国際公開日】2021-07-22
【審査請求日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】202010054679.8
(32)【優先日】2020-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522057847
【氏名又は名称】蜂巣能源科技股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100142365
【氏名又は名称】白井 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】喬斉斉
(72)【発明者】
【氏名】江衛軍
(72)【発明者】
【氏名】許▲しん▼培
(72)【発明者】
【氏名】施澤涛
(72)【発明者】
【氏名】馬加力
(72)【発明者】
【氏名】陳思賢
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-223122(JP,A)
【文献】特許第4556377(JP,B2)
【文献】特開2013-131437(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105870408(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103456946(CN,A)
【文献】国際公開第2018/132903(WO,A1)
【文献】Bin Zhang et al.,Structural and electrochemical properties of LiNi0.5Mn0.5-xAlxO2(x=0, 0.02, 0.05, 0.08, and 0.1) cathode materials for lithium-ion batteries,Solid State Ionics,2009年,180,pp.398-404
【文献】Bin Zhang et al.,Effect of equivalent and non-equivalent Al substitutions on the structure and electrochemical properties of LiNi0.5Mn0.5O2,Journal of power sources,2008年,176,pp.325-331
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/505-4/525
C01G 53/00
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池のコバルトフリー正極材料であって、前記コバルトフリー正極材料の一般式は、Li
xNi
aMn
bR
cO
2であり、ここで、1≦x≦1.15、0.5≦a≦0.95、0.02≦b≦0.48、0<c≦0.05、Rはタングステンであり、前記コバルトフリー正極材料の
XRDスペクトルにおいて、I(003)/I(104)ピーク値比が1.2以上であることを特徴とするコバルトフリー正極材料。
【請求項2】
0.03≦b≦0.48、0<c≦0.02であることを特徴とする請求項1に記載のコバルトフリー正極材料。
【請求項3】
前記コバルトフリー正極材料は、
結晶体が層状構造であること、
六方晶系であること、
空間点群であること、
形態が単結晶又は多結晶であること、及び
結晶粒径が1~15μmであることのうちの少なくとも1つの条件を満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載のコバルトフリー正極材料。
【請求項4】
前記コバルトフリー正極材料は、
比表面積が0.15~1.5m
2/gであること、
残留アルカリ含有量が0.05wt%~0.7wt%であること、
タップ密度が1.3g/cm
3以上であること、
嵩密度が0.9g/cm
3以上であること、及び
水分含有量が1000ppm以下であること
のうちの少なくとも1つの条件を満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載のコバルトフリー正極材料。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のコバルトフリー正極材料を製造する方法であって、
水酸化リチウムと前駆体Ni
aMn
bR
c(OH)
2(ここで、0.5≦a≦0.95、0.02≦b≦0.48、0<c≦0.05、Rはタングステンである)を均一に混合し、予備混合物を得るステップと、
酸素含有雰囲気では、前記予備混合物を所定の温度で反応させ、前記コバルトフリー正極材料を得るステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
前記所定の温度は700℃~1000℃であり、反応時間は10~20時間であることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記所定の温度は、温度を徐々に上昇させることによって達成され、ただし、温度上昇速度は1~5℃/minであることを特徴とする請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記酸素含有雰囲気では、酸素濃度は90%以上であることを特徴とする請求項5又は6に記載の方法。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか一項に記載のコバルトフリー正極材料を含むことを特徴とするリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電池技術の分野に関し、具体的には、リチウムイオン電池のコバルトフリー正極材料及びその製造方法並びにリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、リチウムイオン電池に広く用いられる三元正極材料はいずれもNi、Co、Mnという3種類の金属元素を含み、これら3種類の金属元素のうち、Coが最も高価であり、資源が最も少なく、そのため、従来の三元正極材料は比較的高価である。
そのため、リチウムイオン電池の正極材料に関する研究は進められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は関連技術における技術的問題の1つを少なくともある程度で解決することを目的とする。そのため、本発明の1つの目的は、製造コストが比較的低い又は電池性能に優れた新型のコバルトフリー三元正極材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の一態様では、本発明はリチウムイオン電池のコバルトフリー正極材料を提供する。本発明の実施例によれば、前記コバルトフリー正極材料の一般式は、LixNiaMnbRcO2であり、ここで、1≦x≦1.15、0.5≦a≦0.95、0.02≦b≦0.48、0<c≦0.05、Rはアルミニウム又はタングステンである。これにより、上記コバルトフリー正極材料には金属コバルトが含有されないため、正極材料のコストを効果的に削減でき、また、コバルトフリー正極材料におけるアルミニウム又はタングステンは正極材料の結晶構造をよりよく安定化することができ、さらにリチウムイオン電池は優れたレート性能及びサイクル性能を有し、また高温高圧の試験条件でもリチウムイオン電池の良好なサイクル安定性を維持することができる。
【0005】
本発明の実施例によれば、Rは前記タングステンの場合、0.03≦b≦0.48、0<c≦0.02であり、Rは前記アルミニウムの場合、0.02≦b≦0.45、1≦x≦1.10である。
【0006】
本発明の実施例によれば、前記コバルトフリー正極材料は、結晶体が層状構造であること、六方晶系であること、
空間点群であること、形態が単結晶又は多結晶であること、及び結晶粒径が1~15μmであることのうちの少なくとも1つの条件を満たす。
【0007】
本発明の実施例によれば、前記コバルトフリー正極材料のRXDスペクトルにおいて、I(003)/I(104)ピーク値比が1.2以上である。
【0008】
本発明の実施例によれば、前記コバルトフリー正極材料は、比表面積が0.15~1.5m2/gであること、pHが12以下であること、残留アルカリ含有量が0.05wt%~0.7wt%であること、タップ密度が1.3g/cm3以上であること、嵩密度が0.9g/cm3以上であること、水分含有量が1000ppm以下であること、及び磁性物質不純物が300ppb以下であることのうちの少なくとも1つの条件を満たす。
【0009】
本発明のもう1つの態様では、本発明は、上記コバルトフリー正極材料を製造する方法を提供する。本発明の実施例によれば、コバルトフリー正極材料を製造する方法は、水酸化リチウムと前駆体NiaMnbRc(OH)2を均一に混合し、予備混合物を得るステップであって、ここで、0.5≦a≦0.95、0.02≦b≦0.48、0<c≦0.05、Rはアルミニウム又はタングステンであるステップと、酸素含有雰囲気では、前記予備混合物を所定の温度で反応させ、前記コバルトフリー正極材料を得るステップとを含む。これにより、上記方法で製造されたコバルトフリー正極材料には金属コバルトが含有されないため、正極材料のコストを効果的に削減でき、また、コバルトフリー正極材料におけるアルミニウム又はタングステンは正極材料の結晶構造をよりよく安定化することができ、さらにリチウムイオン電池は優れたレート性能及びサイクル性能を有し、また高温高圧の試験条件でもリチウムイオン電池の良好なサイクル安定性を維持することができる。
【0010】
本発明の実施例によれば、前記所定の温度は700℃~1000℃であり、反応時間は10~20時間である。
【0011】
本発明の実施例によれば、前記所定の温度は、温度を徐々に上昇させることによって達成され、ただし、温度上昇速度は1~5℃/minである。
【0012】
本発明の実施例によれば、前記酸素含有雰囲気では、酸素濃度は90%以上である。
【0013】
本発明のさらに1つの態様では、本発明はリチウムイオン電池を提供する。本発明の実施例によれば、前記リチウムイオン電池は上記コバルトフリー正極材料を含む。これにより、リチウムイオン電池は、コストが低くなり、且つ優れたレート性能及びサイクル性能を有し、高温高圧の試験条件でもリチウムイオン電池の良好なサイクル安定性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本願の一部を構成する添付図面は、本発明のさらなる理解を提供するためのものであり、本発明の例示的な実施例及びその説明は、本発明を解釈するためのものであり、本発明を不当に限定するものではない。
【0015】
【
図1】実施例1におけるコバルトフリー正極材料LiNi
0.92Mn
0.06Al
0.02O
2の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図2】実施例1におけるコバルトフリー正極材料LiNi
0.92Mn
0.06Al
0.02O
2のXRDスペクトルである。
【
図3】実施例1におけるコバルトフリー正極材料LiNi
0.92Mn
0.06Al
0.02O
2のEDSスペクトルである。
【
図4】実施例1におけるリチウムイオン電池の初回充放電曲線である。
【
図5】実施例1におけるリチウムイオン電池のサイクル曲線である。
【
図6】実施例2におけるコバルトフリー正極材料LiNi
0.92Mn
0.07W
0.01O
2の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図7】実施例2におけるコバルトフリー正極材料LiNi
0.92Mn
0.07W
0.01O
2のXRDスペクトルである。
【
図8】実施例2におけるコバルトフリー正極材料LiNi
0.92Mn
0.07W
0.01O
2のEDSスペクトルである。
【
図9】実施例2におけるリチウムイオン電池の初回充放電曲線である。
【
図10】実施例2におけるリチウムイオン電池のサイクル曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。なお、以下に記載される実施例は例示的なものであり、本発明を説明するためのみに用いられるが、本発明を限定するものとして理解することはできない。実施例では具体的な技術又は条件を明記しない限り、本分野における文献に記載された技術又は条件に基づいて又は製品明細書に基づいて行われる。メーカーの指示なしに使用される試薬又は機器はすべて、市場で購入できる従来の製品である。
【0017】
本発明の一態様では、本発明はリチウムイオン電池のコバルトフリー正極材料を提供する。本発明の実施例によれば、前記コバルトフリー正極材料の一般式は、LixNiaMnbRcO2であり、ここで、1≦x≦1.15(例えば、xは1、1.05、1.08、1.10、1.12、1.15である)、0.5≦a≦0.95(例えば、aは0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、0.95である)、0.02≦b≦0.48(例えば、bは0.02、0.03、0.05、0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、0.4、0.48である)、0<c≦0.05(例えば、cは0.01、0.02、0.03、0.04、0.05である)、Rはアルミニウム又はタングステンである。これにより、上記コバルトフリー正極材料には金属コバルトが含有されないため、正極材料のコストを効果的に削減でき、また、コバルトフリー正極材料におけるアルミニウム又はタングステンは正極材料の結晶構造をよりよく安定化することができ、さらにリチウムイオン電池は優れたレート性能及びサイクル性能を有し、また高温高圧の試験条件でもリチウムイオン電池の良好なサイクル安定性を維持することができる。
【0018】
本発明の実施例によれば、Rは前記タングステンの場合、0.03≦b≦0.48、0<c≦0.02であり、Rは前記アルミニウムの場合、0.02≦b≦0.45、1≦x≦1.10である。これにより、製造時に、LixNiaMnbWcO2とLixNiaMnbAlcO2を容易に製造することができる。
【0019】
本発明の実施例によれば、コバルトフリー正極材料は、結晶体が層状構造であること、六方晶系であること、
空間点群であること、形態が単結晶又は多結晶であること、及び結晶粒径が1~15μm(例えば、1μm、2μm、3μm、5μm、7μm、9μm、10μm、11μm、13μm又は15μmである)であることのうちの少なくとも1つの条件を満たす。これにより、上記結晶型及び結晶構造は、コバルトフリー正極材料に優れた電気的性能を持たせることができ、それによりリチウムイオン電池に優れたサイクル性能、充放電性能及び容量維持率などの電池性能を持たせ、上記サイズの結晶粒は、コバルトフリー正極材料に優れた活性と比容量を持たせることができるだけでなく、コバルトフリー正極材料の比表面積は小さいため、さらに電解液がコバルトフリー正極材料と接触して副反応を起こすことを防止することができ、結晶粒径が15μmを超える場合、コバルトフリー正極材料の一次粒子のサイズが大きすぎるため、コバルトフリー正極材料の比容量とレート性能が相対的に低下し、結晶粒径が1μm未満の場合、コバルトフリー正極材料の比表面積は比較的大きく、さらに電解液との副反応確率が大きくなる。なお、上記粒径は平均粒径である。
【0020】
本発明の実施例によれば、コバルトフリー正極材料のRXDスペクトルにおいて、I(003)/I(104)ピーク値比が1.2以上であり、例えば、I(003)/I(104)ピーク値が1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0である。これにより、コバルトフリー正極材料におけるリチウム元素とニッケル元素の混合配列程度は低く(ピーク値比が大きいほど、ニッケル元素とリチウム元素の混合配列程度は低くなる)、それによってコバルトフリー正極材料の優れた電気的性能が確保される。
【0021】
本発明の実施例によれば、前記コバルトフリー正極材料は以下の条件の少なくとも1つを満たす。
【0022】
比表面積は0.15~1.5m2/g(例えば、0.15m2/g、0.2m2/g、0.3m2/g、0.5m2/g、0.7m2/g、0.9m2/g、1.0m2/g、1.1m2/g、1.3m2/g、1.5m2/g)。このように、コバルトフリー正極材料は良好な活性を有し、且つ電解液と接触して副反応を起こす確率が比較的小さく、比表面積が0.15m2/g未満である場合、コバルトフリー正極材料の活性が相対的に小さく、さらにリチウムイオン電池の充放電性能に影響を及ぼし、コバルトフリー正極材料の比表面積が0.15m2/gを超える場合、コバルトフリー正極材料は電解液と反応するリスクが大きく、さらにリチウムイオン電池の電気性能に影響を及ぼす。
【0023】
pHが12以下(例えば、pHが12、11、10である)であり、このように、コバルトフリー正極材料の構造安定性が優れている。
【0024】
残留アルカリ含有量は0.05wt%~0.7wt%であり、例えば0.05wt%、0.1wt%、0.2wt%、0.3wt%、0.4wt%、0.5wt%、0.6wt%、0.7wt%である。このように、コバルトフリー正極材料の残留アルカリ(水酸化リチウムと炭酸リチウム)含有量が低く、さらにリチウムイオン電池の良好なレート、比容量及びサイクル性能を効果的に確保する。
【0025】
タップ密度は1.3g/cm3以上であり、例えば1.3g/cm3、1.4g/cm3、1.5g/cm3、1.7g/cm3、1.9g/cm3、2.0g/cm3、2.3g/cm3、2.5g/cm3、2.8g/cm3であり、嵩密度は0.9g/cm3以上であり、例えば、0.9g/cm3、1.0g/cm3、1.1g/cm3、1.2g/cm3、1.4g/cm3、1.5g/cm3、1.7g/cm3、1.9g/cm3、2.0g/cm3、2.3g/cm3、2.5g/cm3である。このように、リチウムイオン電池は優れた比容量を持っており、タップ密度が1.3g/cm3未満又は嵩密度が0.9g/cm3未満である場合、セル使用時の締固め密度が低く、さらに、リチウムイオン電池のエネルギー密度が相対的に低くなりやすい。
【0026】
水分含有量が1000ppm以下であり、このように、コバルトフリー正極材料の電気性能をさらに向上させ、リチウムイオン電池の比容量、レート及びサイクル性能をさらに向上させることができる。
【0027】
磁性物質不純物が300ppb以下であり、磁性物質の存在はコバルトフリー正極材料の電気性能に影響を及ぼし、さらにリチウムイオン電池の電池性能に影響を及ぼすが、コバルトフリー正極材料の製造プロセスで磁性物質不純物の導入を回避しにくく、本願のコバルトフリー正極材料の磁性物質の含有量は300ppb未満であり、このように磁性物質がリチウムイオン電池の自己放電に対する影響をできるだけ低減することができる。
【0028】
本発明のもう1つの態様では、本発明は上記コバルトフリー正極材料を製造する方法を提供する。本発明の実施例によれば、コバルトフリー正極材料を製造する方法はステップS100~S200を含む。
【0029】
S100において、水酸化リチウムと前駆体NiaMnbRc(OH)2を均一に混合し、予備混合物を得、ここで、0.5≦a≦0.95、0.02≦b≦0.48、0<c≦0.05、Rはアルミニウム又はタングステンである。
【0030】
本発明の実施例によれば、前駆体NiaMnbRc(OH)2の具体的な製造方法に特殊な要求がなく、当業者は実際の状況に応じて柔軟に選択することができる。いくつかの実施例では、前駆体NiaMnbRc(OH)2の具体的な製造方法は、NiSO4・6H2O、MnSO4・H2O、Al2(SO4)3・6H2O(又は(NH4)10W12O4・10H2O)を化学量論比に従って秤量し、混合して2mol/Lの金属塩溶液に調製し、4mol/Lの水酸化ナトリウム溶液に調製し、N2雰囲気で保護された反応器に金属塩溶液、NaOH溶液、アンモニア水を加え、反応器内のシステムの温度は55℃であり、pHは約11.3に制御され、撹拌速度は500rpm/分であり、前駆体NiaMnbRc(OH)2沈殿を生成し、乾燥後にNiaMnbRc(OH)2を得る。
【0031】
さらに、水酸化リチウムと前駆体NiaMnbRc(OH)2との混合質量比率については、当業者であれば必要なLixNiaMnbRcO2におけるx、a、b及びcの具体的な値に基づいて決定することができ、それにより、リチウム、ニッケル、マンガン及びR(アルミニウム又はタングステン)のモル比がx:a:b:cのコバルトフリー正極材料LixNiaMnbRcO2を得る。
【0032】
本発明の実施例によれば、水酸化リチウムと前駆体NiaMnbRc(OH)2の混合は高速混合機器で行い、ここで、混合機器の回転速度は800~900rpmであり、混合時間は5~20分であり、混合機器における材料充填率は40%~80%である。これにより、水酸化リチウムと前駆体NiaMnbRc(OH)2とをより均一に混合することができ、水酸化リチウムと前駆体NiaMnbRc(OH)2との後続の反応の均一性と十分性を向上させることができる。
【0033】
S200において、酸素含有雰囲気では、混合物を所定の温度で反応させ、コバルトフリー正極材料を得る。反応プロセスにおいて、水酸化リチウムが溶融して酸化リチウムを生成し、前駆体は水分を失って金属酸化物を生成し、酸素含有環境では、酸化リチウムと溶合して一体になり、単一相のコバルトフリー正極材料LixNiaMnbRcO2を得る。
【0034】
本発明の実施例によれば、所定の温度は700℃~1000℃(例えば、700℃、750℃、800℃、850℃、900℃、950℃、1000℃)であり、反応時間は10~20時間である。このように、上記条件下で、所望の結晶構造、結晶型、及び適切な結晶粒径を有するコバルトフリー正極材料LixNiaMnbRcO2を得ることができ、温度が700℃未満の場合、反応が不十分になり、さらにコバルトフリー正極材料の結晶成長が不完全になり、コバルトフリー正極材料の電気性能に影響を及ぼし、温度が1000℃を超える場合、結晶粒子が大きくなりすぎ(つまり、結晶粒径が大きくなりすぎる)、さらにリチウムイオン電池の比容量とレート性能を相対的に低下させる。
【0035】
本発明の実施例によれば、所定の温度は、温度を徐々に上昇させることによって達成され、ただし、温度上昇速度は1~5℃/minであり、例えば、1℃/min、2℃/min、3℃/min、4℃/min、5℃/minである。このように、温度上昇速度が緩やかであり、温度上昇速度が速くなりすぎて所望の結晶型及び結晶構造のコバルトフリー正極材料が得られないことを避けることができる。
【0036】
本発明の実施例によれば、前記酸素含有雰囲気では、酸素濃度は90%以上であり、例えば90%、92%、94%、95%、98%、100%である。このように、コバルトフリー正極材料の生成を効果的に確保し、コバルトフリー正極材料における不安定なNi3+から安定したNi2+への変換を抑制し、コバルトフリー正極材料の安定性を確保することができる。
【0037】
本発明の実施例によれば、ステップS200の反応が終了した後、自然に降温し、その後、コバルトフリー正極材料をさらに粉砕し、且つ300~400メッシュのふるいにかけて、適切な粒子サイズを有するコバルトフリー正極材料を得ることができる。
【0038】
本発明の実施例によれば、上記方法で製造されたコバルトフリー正極材料には金属コバルトが含有されないため、正極材料のコストを効果的に削減でき、また、コバルトフリー正極材料におけるアルミニウム又はタングステンは正極材料の結晶構造をよりよく安定化することができ、さらにリチウムイオン電池は優れたレート性能及びサイクル性能を有し、また高温高圧の試験条件でもリチウムイオン電池の良好なサイクル安定性を維持することができる。
【0039】
本発明のさらに1つの態様では、本発明はリチウムイオン電池を提供する。本発明の実施例によれば、前記リチウムイオン電池は上記コバルトフリー正極材料を含む。これにより、リチウムイオン電池は、コストが低くなり、且つ優れたレート性能及びサイクル性能を有し、高温高圧の試験条件でもリチウムイオン電池の良好なサイクル安定性を維持することができる。
【0040】
本発明の実施例によれば、当該リチウムイオン電池における負極及び電解液の具体的な材料は特に要求されず、当業者は実際の状況に応じて従来技術におけるいずれかの材料の負極及び電解液を柔軟に選択することができる。
【0041】
実施例
(実施例1)
コバルトフリー正極材料LiNi0.92Mn0.06Al0.02O2の製造方法は、ステップ1~3を含む。
【0042】
ステップ1において、前駆体Ni0.92Mn0.06Al0.02(OH)2の具体的な製造方法は、NiSO4・6H2O、MnSO4・H2O、Al2(SO4)3・6H2O(ニッケル、マンガン、アルミニウムのモル比は0.92:0.06:0.02である)を化学量論比に従って秤量し、上記硫酸塩を混合して2mol/Lの金属塩溶液に調製し、4mol/Lの水酸化ナトリウム溶液に調製し、N2雰囲気で保護された反応器に金属塩溶液、NaOH溶液、アンモニア水を加え、反応器内のシステムの温度は55℃であり、pHは約11.3に制御され、撹拌速度は500rpm/分であり、前駆体Ni0.92Mn0.06Al0.02(OH)2沈殿を生成し、乾燥後にNi0.92Mn0.06Al0.02(OH)2を得ることである。
【0043】
ステップ2において、前駆体Ni0.92Mn0.06Al0.02(OH)2とLiOHの混合ステップは、LiOHとNi0.92Mn0.06Al0.02(OH)2を化学量論比に従ってそれぞれ秤量し、両者を高速混合機器で均一に混合して予備混合物を得ることであり、ここで、リチウム、ニッケル、マンガン、アルミニウムのモル比は1:0.92:0.06:0.02であり、高速混合機器の回転速度は850rpmであり、混合時間は10分であり、混合機器内の材料充填率は55%である。
【0044】
ステップ3において、コバルトフリー正極材料LiNi0.92Mn0.06Al0.02O2の反応ステップは、予備混合物を酸素雰囲気(酸素濃度は95%である)に置き、750℃(温度上昇速度は1~5℃/minである)で10時間の高温反応を行い、コバルトフリー正極材料LiNi0.92Mn0.06Al0.02O2を合成した後、自然に降温し、粉砕し、400メッシュのふるいにかけて、適切な粒子サイズを有するコバルトフリー正極材料LiNi0.92Mn0.06Al0.02O2を得ることである。
【0045】
試験分析
(1)得られたコバルトフリー正極材料LiNi
0.92Mn
0.06Al
0.02O
2を電子顕微鏡で走査し、走査型電子顕微鏡写真は
図1を参照し、走査型電子顕微鏡写真から分かるように、製造されたコバルトフリー正極材料は単結晶形態であり、平均粒子サイズは3~4μmである。
【0046】
(2)得られたコバルトフリー正極材料LiNi
0.92Mn
0.06Al
0.02O
2についてXRD試験を行い、試験スペクトルは
図2を参照し、
図2から分かるように、製造されたコバルトフリー正極材料は層状構造で、六方晶系で、
空間点群であり、且つI(003)/I(104)の比率は1.8であり、これから分かるように、コバルトフリー正極材料におけるニッケルとリチウムの混合配列程度が低い。
【0047】
(3)得られたコバルトフリー正極材料LiNi
0.92Mn
0.06Al
0.02O
2についてEDS試験を行い、試験スペクトルは
図3を参照し、
図3から分かるように、製造されたコバルトフリー正極材料にはNi、Mn及びAlの3種類の金属元素が含有される(ICP試験により、さらにリチウム元素の存在を確認することができる)。
【0048】
(4)得られたコバルトフリー正極材料、負極(リチウムシート)、電解液(電解液成分はLiPF6/(ヘキサフルオロリン酸リチウム)EC(エチレンカーボネート)-DMC(炭酸ジメチル)である)などをリチウムイオン電池に組み付け、リチウムイオン電池に対して充放電性能試験を行い、充放電性能試験(電圧範囲は3.0~4.3Vである)の結果は
図4(初回充放電曲線)を参照する。
図4に示すように、0.1C放電速度で、リチウムイオン電池の初回充放電比容量はそれぞれ233.3mAh/g及び212.2mAh/gであり、初回効率は91%である。
【0049】
(5)(4)で得られたリチウムイオン電池について25℃(試験電圧は3.0~4.3Vである)でサイクル性能試験を行い、0.5C/1Cでのサイクル曲線は
図5を参照し、
図5から分かるように、50週間のサイクル後のリチウムイオン電池の容量維持率は98.7%である。ただし、コバルトフリー正極材料のサイクル性能が優れている理由は、より多くのMn及びAl元素がコバルトフリー正極材料の結晶構造を安定化させるためである。
【0050】
(実施例2)
コバルトフリー正極材料LiNi0.92Mn0.06Al0.02O2は、高温反応温度が800℃であることを除いて、実施例1と同じ方法及びステップで製造される。
【0051】
実施例1と同じ条件を用い、製造されたコバルトフリー正極材料を正極とし、リチウムイオン電池を製造し、リチウムイオン電池の初回充放電性能及びサイクル性能を試験し(試験条件は実施例1と同じである)、0.1C放電速度で、リチウムイオン電池の初回充放電比容量はそれぞれ230.8mAh/g及び207.5mAh/gであり、初回効率は89.9%であり、0.5C/1Cで50週間のサイクル後のリチウムイオン電池の容量維持率は97.2%である。
【0052】
(実施例3)
コバルトフリー正極材料LiNi0.92Mn0.06Al0.02O2は、高温反応温度が850℃であることを除いて、実施例1と同じ方法及びステップで製造される。
【0053】
実施例1と同じ条件を用い、製造されたコバルトフリー正極材料を正極とし、リチウムイオン電池を製造し、リチウムイオン電池の初回充放電性能及びサイクル性能を試験し(試験条件は実施例1と同じである)、0.1C放電速度で、リチウムイオン電池の初回充放電比容量はそれぞれ228.4mAh/g及び203.5mAh/gであり、初回効率は89.1%であり、0.5C/1Cで50週間のサイクル後のリチウムイオン電池の容量維持率は95.6%である。
【0054】
(実施例4)
コバルトフリー正極材料LiNi0.92Mn0.06Al0.02O2は、高温反応温度が900℃であることを除いて、実施例1と同じ方法及びステップで製造される。
【0055】
実施例1と同じ条件を用い、製造されたコバルトフリー正極材料を正極とし、リチウムイオン電池を製造し、リチウムイオン電池の初回充放電性能及びサイクル性能を試験し(試験条件は実施例1と同じである)、0.1C放電速度で、リチウムイオン電池の初回充放電比容量はそれぞれ215.9mAh/g及び190.4mAh/gであり、初回効率は88.2%であり、0.5C/1Cで50週間のサイクル後のリチウムイオン電池の容量維持率は93.8%である。
【0056】
(実施例5)
コバルトフリー正極材料LiNi0.92Mn0.06Al0.02O2は、高温反応温度が1000℃であることを除いて、実施例1と同じ方法及びステップで製造される。
【0057】
実施例1と同じ条件を用い、製造されたコバルトフリー正極材料を正極とし、リチウムイオン電池を製造し、リチウムイオン電池の初回充放電性能及びサイクル性能を試験し(試験条件は実施例1と同じである)、0.1C放電速度で、リチウムイオン電池の初回充放電比容量はそれぞれ205.8mAh/g及び180.1mAh/gであり、初回効率は87.5%であり、0.5C/1Cで50週間のサイクル後のリチウムイオン電池の容量維持率は90.5%である。
【0058】
(実施例6)
コバルトフリー正極材料LiNi0.50Mn0.45Al0.05O2の製造方法は、ステップ1~3を含む。
【0059】
ステップ1において、前駆体Ni0.50Mn0.45Al0.05(OH)2の具体的な製造方法は、NiSO4・6H2O、MnSO4・H2O、Al2(SO4)3・6H2O(ニッケル、マンガン、アルミニウムのモル比は0.50:0.45:0.05である)を化学量論比に従って秤量し、上記硫酸塩を混合して2mol/Lの金属塩溶液に調製し、4mol/Lの水酸化ナトリウム溶液に調製し、N2雰囲気で保護された反応器に金属塩溶液、NaOH溶液、アンモニア水を加え、反応器内のシステムの温度は55℃であり、pHは約11.0に制御され、撹拌速度は600rpm/分であり、前駆体Ni0.50Mn0.45Al0.05(OH)2沈殿を生成し、乾燥後にNi0.50Mn0.45Al0.05(OH)2を得ることである。
【0060】
ステップ2において、前駆体がNi0.50Mn0.45Al0.05(OH)2であることを除いて、実施例1と同じ方法で混合した。
【0061】
ステップ3において、高温反応温度が1000℃であることを除いて、実施例1と同じ方法及びステップでコバルトフリー正極材料LiNi0.50Mn0.45Al0.05O2を製造した。
【0062】
実施例1と同じ条件を用い、製造されたコバルトフリー正極材料を正極とし、リチウムイオン電池を製造し、リチウムイオン電池の初回充放電性能及びサイクル性能を試験し(試験条件は実施例1と同じである)、0.1C放電速度で、リチウムイオン電池の初回充放電比容量はそれぞれ198.8mAh/g及び171.0mAh/gであり、初回効率は86.0%であり、0.5C/1Cで50週間のサイクル後のリチウムイオン電池の容量維持率は98.9%である。
【0063】
(実施例7)
ステップ1において、前駆体Ni0.95Mn0.02Al0.03(OH)2の具体的な製造方法は、NiSO4・6H2O、MnSO4・H2O、Al2(SO4)3・6H2O(ニッケル、マンガン、アルミニウムのモル比は0.95:0.02:0.03である)を化学量論比に従って秤量し、上記硫酸塩を混合して2mol/Lの金属塩溶液に調製し、4mol/Lの水酸化ナトリウム溶液に調製し、N2雰囲気で保護された反応器に金属塩溶液、NaOH溶液、アンモニア水を加え、反応器内のシステムの温度は55℃であり、pHは約11.5に制御され、撹拌速度は400rpm/分であり、前駆体Ni0.95Mn0.02Al0.03(OH)2沈殿を生成し、乾燥後にNi0.95Mn0.02Al0.03(OH)2を得ることである。
【0064】
ステップ2において、前駆体がNi0.95Mn0.02Al0.03(OH)2であることを除いて、実施例1と同じ方法で混合した。
【0065】
ステップ3において、高温反応温度が720℃であることを除いて、実施例1と同じ方法及びステップでコバルトフリー正極材料LiNi0.95Mn0.02Al0.03O2を製造した。
【0066】
実施例1と同じ条件を用い、製造されたコバルトフリー正極材料を正極とし、リチウムイオン電池を製造し、リチウムイオン電池の初回充放電性能及びサイクル性能を試験し(試験条件は実施例1と同じである)、0.1C放電速度で、リチウムイオン電池の初回充放電比容量はそれぞれ235.2mAh/g及び215.4mAh/gであり、初回効率は91.6%であり、0.5C/1Cで50週間のサイクル後のリチウムイオン電池の容量維持率は97.6%である。
【0067】
(実施例8)
ステップ1において、実施例1と同じである。
【0068】
ステップ2において、前駆体Ni0.92Mn0.06Al0.02(OH)2とLiOHの混合ステップは、LiOHとNi0.92Mn0.06Al0.02(OH)2を化学量論比に従ってそれぞれ秤量し、両者を高速混合機器で均一に混合して予備混合物を得ることであり、ここで、リチウム、ニッケル、マンガン、アルミニウムのモル比は1.2:0.92:0.06:0.02であり、高速混合機器の回転速度は850rpmであり、混合時間は10分であり、混合機器内の材料充填率は55%である。
【0069】
ステップ3において、コバルトフリー正極材料LiNi0.92Mn0.06Al0.02O2の反応ステップは、予備混合物を酸素雰囲気(酸素濃度は95%である)に置き、760℃(温度上昇速度は1~5℃/minである)で10時間の高温反応を行い、コバルトフリー正極材料LiNi0.92Mn0.06Al0.02O2を合成した後、自然に降温し、粉砕し、400メッシュのふるいにかけて、適切な粒子サイズを有するコバルトフリー正極材料LiNi0.92Mn0.06Al0.02O2を得ることである。
【0070】
実施例1と同じ条件を用い、製造されたコバルトフリー正極材料を正極とし、リチウムイオン電池を製造し、リチウムイオン電池の初回充放電性能及びサイクル性能を試験し(試験条件は実施例1と同じである)、0.1C放電速度で、リチウムイオン電池の初回充放電比容量はそれぞれ225.7mAh/g及び201.3mAh/gであり、初回効率は89.2%であり、0.5C/1Cで50週間のサイクル後のリチウムイオン電池の容量維持率は97.2%である。
【0071】
(実施例9)
コバルトフリー正極材料LiNi0.92Mn0.07W0.01O2の製造方法は、ステップ1~3を含む。
【0072】
ステップ1において、前駆体Ni0.92Mn0.07W0.01(OH)2の具体的な製造方法は、NiSO4・6H2O、MnSO4・H2O及び(NH4)10W12O4・1~xH2O(ニッケル、マンガン、及びタングステンのモル比は0.92:0.07:0.01である)を化学量論比に従って秤量し、ここで、xは10である。上記塩を混合して2mol/Lの金属塩溶液に調製し、4mol/Lの水酸化ナトリウム溶液に調製し、N2雰囲気で保護された反応器に金属塩溶液、NaOH溶液、アンモニア水を加え、反応器内のシステムの温度は55℃であり、pHは約11.3に制御され、撹拌速度は500rpm/分であり、前駆体Ni0.92Mn0.07W0.01(OH)2沈殿を生成し、乾燥後にNi0.92Mn0.07W0.01(OH)2を得ることである。
【0073】
ステップ2において、前駆体Ni0.92Mn0.07W0.01(OH)2とLiOHの混合ステップは、LiOHとNi0.92Mn0.07W0.01(OH)2を化学量論比に従ってそれぞれ秤量し、両者を高速混合機器で均一に混合して予備混合物を得ることであり、ここで、リチウム、ニッケル、マンガン、アルミニウムのモル比は1:0.92:0.07:0.01であり、高速混合機器の回転速度は900rpmであり、混合時間は10分であり、混合機器内の材料充填率は60%である。
【0074】
ステップ3において、コバルトフリー正極材料LiNi0.92Mn0.07W0.01O2の反応ステップは、予備混合物を酸素雰囲気(酸素濃度は95%である)に置き、740℃(温度上昇速度は1~5℃/minである)で12時間の高温反応を行い、コバルトフリー正極材料LiNi0.92Mn0.07W0.01O2を合成した後、自然に降温し、粉砕し、400メッシュのふるいにかけて、適切な粒子サイズを有するコバルトフリー正極材料LiNi0.92Mn0.07W0.01O2を得ることである。
【0075】
試験分析
(1)得られたコバルトフリー正極材料LiNi
0.92Mn
0.07W
0.01O
2を電子顕微鏡で走査し、走査型電子顕微鏡写真は
図6を参照し、走査型電子顕微鏡写真から分かるように、製造されたコバルトフリー正極材料は単結晶形態であり、平均粒子サイズは2~4μmである。
【0076】
(2)得られたコバルトフリー正極材料LiNi
0.92Mn
0.07W
0.01O
2についてXRD試験を行い、試験スペクトルは
図7を参照し、
図7から分かるように、製造されたコバルトフリー正極材料は層状構造で、六方晶系で、
空間点群であり、且つI(003)/I(104)の比率は1.9であり、これから分かるように、コバルトフリー正極材料におけるニッケルとリチウムの混合配列程度が低い。
【0077】
(3)得られたコバルトフリー正極材料LiNi
0.92Mn
0.07W
0.01O
2についてEDS試験を行い、試験スペクトルは
図8を参照し、
図8から分かるように、製造されたコバルトフリー正極材料にはNi、Mn及びWの3種類の金属元素が含有される。
【0078】
(4)得られたコバルトフリー正極材料、負極(リチウムシート)、電解液(電解液成分はLiPF6/(ヘキサフルオロリン酸リチウム)EC(エチレンカーボネート)-DMC(炭酸ジメチル)である)などをリチウムイオン電池に組み付け、リチウムイオン電池に対して充放電性能試験を行い、充放電性能試験(電圧範囲は3.0~4.3Vである)の結果は
図9(初回充放電曲線)を参照する。
図9から分かるように、0.1C放電速度で、リチウムイオン電池の初回充放電比容量はそれぞれ246.1mAh/g及び213.8mAh/gであり、初回効率は86.8%である。
【0079】
(5)(4)で得られたリチウムイオン電池について25℃(試験電圧は3.0~4.3Vである)でサイクル性能試験を行い、0.5C/1Cでのサイクル曲線は
図10を参照し、
図10から分かるように、50週間のサイクル後のリチウムイオン電池の容量維持率は98.5%である。ただし、コバルトフリー正極材料のサイクル性能が優れている理由は、より多くのMn及びW元素がコバルトフリー正極材料の結晶構造を安定化させるためである。
【0080】
(実施例10)
コバルトフリー正極材料LiNi0.92Mn0.07W0.01O2は、高温反応温度が800℃であることを除いて、実施例1と同じ方法及びステップで製造される。
【0081】
実施例1と同じ条件を用い、製造されたコバルトフリー正極材料を正極とし、リチウムイオン電池を製造し、リチウムイオン電池の初回充放電性能及びサイクル性能を試験し(試験条件は実施例1と同じである)、0.1C放電速度で、リチウムイオン電池の初回充放電比容量はそれぞれ242.6mAh/g及び208.7mAh/gであり、初回効率は86.0%であり、0.5C/1Cで50週間のサイクル後のリチウムイオン電池の容量維持率は98.5%である。
【0082】
(実施例11)
コバルトフリー正極材料LiNi0.92Mn0.07W0.01O2は、高温反応温度が850℃であることを除いて、実施例1と同じ方法及びステップで製造される。
【0083】
実施例1と同じ条件を用い、製造されたコバルトフリー正極材料を正極とし、リチウムイオン電池を製造し、リチウムイオン電池の初回充放電性能及びサイクル性能を試験し(試験条件は実施例1と同じである)、0.1C放電速度で、リチウムイオン電池の初回充放電比容量はそれぞれ235.6mAh/g及び201.7mAh/gであり、初回効率は85.6%であり、0.5C/1Cで50週間のサイクル後のリチウムイオン電池の容量維持率は96.4%である。
【0084】
(実施例12)
コバルトフリー正極材料LiNi0.92Mn0.07W0.01O2は、高温反応温度が900℃であることを除いて、実施例1と同じ方法及びステップで製造される。
【0085】
実施例1と同じ条件を用い、製造されたコバルトフリー正極材料を正極とし、リチウムイオン電池を製造し、リチウムイオン電池の初回充放電性能及びサイクル性能を試験し(試験条件は実施例1と同じである)、0.1C放電速度で、リチウムイオン電池の初回充放電比容量はそれぞれ219.9mAh/g及び186.4mAh/gであり、初回効率は84.8%であり、0.5C/1Cで50週間のサイクル後のリチウムイオン電池の容量維持率は94.2%である。
【0086】
(実施例13)
コバルトフリー正極材料LiNi0.92Mn0.07W0.01O2は、高温反応温度が1000℃であることを除いて、実施例1と同じ方法及びステップで製造される。
【0087】
実施例1と同じ条件を用い、製造されたコバルトフリー正極材料を正極とし、リチウムイオン電池を製造し、リチウムイオン電池の初回充放電性能及びサイクル性能を試験し(試験条件は実施例1と同じである)、0.1C放電速度で、リチウムイオン電池の初回充放電比容量はそれぞれ210.4mAh/g及び175.5mAh/gであり、初回効率は83.4%であり、0.5C/1Cで50週間のサイクル後のリチウムイオン電池の容量維持率は92.3%である。
【0088】
(実施例14)
コバルトフリー正極材料LiNi0.50Mn0.48W0.02O2の製造方法は、ステップ1~3を含む。
【0089】
ステップ1において、前駆体Ni0.50Mn0.48W0.02(OH)2の具体的な製造方法は、NiSO4・6H2O、MnSO4・H2O、(NH4)10W12O4・1~xH2O(ニッケル、マンガン、及びタングステンのモル比は0.50:0.48:0.02である)を化学量論比に従って秤量し、ここで、xは10である。上記塩を混合して2mol/Lの金属塩溶液に調製し、4mol/Lの水酸化ナトリウム溶液に調製し、N2雰囲気で保護された反応器に金属塩溶液、NaOH溶液、アンモニア水を加え、反応器内のシステムの温度は55℃であり、pHは約11.0に制御され、撹拌速度は600rpm/分であり、前駆体Ni0.50Mn0.48W0.01(OH)2沈殿を生成し、乾燥後にNi0.50Mn0.48W0.02(OH)2を得ることである。
【0090】
ステップ2において、前駆体がNi0.50Mn0.45Al0.05(OH)2であることを除いて、実施例1と同じ方法で混合した。
【0091】
ステップ3において、高温反応温度が980℃であることを除いて、実施例1と同じ方法及びステップでコバルトフリー正極材料LiNi0.50Mn0.48W0.02O2を製造した。I(003)/I(104)ピーク値比が1.2以上である。
【0092】
実施例1と同じ条件を用い、製造されたコバルトフリー正極材料を正極とし、リチウムイオン電池を製造し、リチウムイオン電池の初回充放電性能及びサイクル性能を試験し(試験条件は実施例1と同じである)、0.1C放電速度で、リチウムイオン電池の初回充放電比容量はそれぞれ203.6mAh/g及び175.9mAh/gであり、初回効率は86.4%であり、0.5C/1Cで50週間のサイクル後のリチウムイオン電池の容量維持率は99.4%である。
【0093】
(実施例15)
ステップ1及び2は実施例9と同じであり、ステップ3は高温温度が750℃であることを除いて、実施例9と同じ方法を用いる。I(003)/I(104)ピーク値比が1.2に等しい。
【0094】
実施例1と同じ条件を用い、製造されたコバルトフリー正極材料を正極とし、リチウムイオン電池を製造し、リチウムイオン電池の初回充放電性能及びサイクル性能を試験し(試験条件は実施例1と同じである)、0.1C放電速度で、リチウムイオン電池の初回充放電比容量はそれぞれ243.6mAh/g及び210.0mAh/gであり、初回効率は86.2%であり、0.5C/1Cで50週間のサイクル後のリチウムイオン電池の容量維持率は97.8%である。
【0095】
(実施例16)
ステップ1及び2は実施例9と同じであり、ステップ3は、高温温度が720℃であることを除いて、実施例9と同じ方法を用いる。I(003)/I(104)ピーク値比が1.2未満である。
【0096】
実施例1と同じ条件を用い、製造されたコバルトフリー正極材料を正極とし、リチウムイオン電池を製造し、リチウムイオン電池の初回充放電性能及びサイクル性能を試験し(試験条件は実施例1と同じである)、0.1C放電速度で、リチウムイオン電池の初回充放電比容量はそれぞれ239.8mAh/g及び205.3mAh/gであり、初回効率は85.6%であり、0.5C/1Cで50週間のサイクル後のリチウムイオン電池の容量維持率は97.1%である。
【0097】
(比較例1)
コバルトフリー正極材料LiNi0.40Mn0.50Al0.10O2の製造方法は、ステップ1~3を含む。
【0098】
ステップ1において、前駆体Ni0.40Mn0.50Al0.10(OH)2の具体的な製造方法は、NiSO4・6H2O、MnSO4・H2O、Al2(SO4)3・6H2O(ニッケル、マンガン、アルミニウムのモル比は0.40:0.50:0.10である)を化学量論比に従って秤量し、上記硫酸塩を混合して2mol/Lの金属塩溶液に調製し、4mol/Lの水酸化ナトリウム溶液に調製し、N2雰囲気で保護された反応器に金属塩溶液、NaOH溶液、アンモニア水を加え、反応器内のシステムの温度は55℃であり、pHは約10.5に制御され、撹拌速度は300rpm/分であり、前駆体Ni0.40Mn0.50Al0.10(OH)2沈殿を生成し、乾燥後にNi0.40Mn0.50Al0.10(OH)2を得ることである。
【0099】
ステップ2において、前駆体Ni0.40Mn0.50Al0.10(OH)2とLiOHの混合ステップは、LiOHとNi0.40Mn0.50Al0.10(OH)2を化学量論比に従ってそれぞれ秤量し、両者を高速混合機器で均一に混合して予備混合物を得ることであり、ここで、リチウム、ニッケル、マンガン、アルミニウムのモル比は1.2:0.40:0.50:0.1であり、高速混合機器の回転速度は850rpmであり、混合時間は10分であり、混合機器内の材料充填率は55%である。
【0100】
ステップ3において、コバルトフリー正極材料LiNi0.40Mn0.50Al0.10O2の反応ステップは、予備混合物を酸素雰囲気(酸素濃度は95%である)に置き、1050℃(温度上昇速度は1~5℃/minである)で10時間の高温反応を行い、コバルトフリー正極材料LiNi0.40Mn0.50Al0.10O2を合成した後、自然に降温し、粉砕し、400メッシュのふるいにかけて、適切な粒子サイズを有するコバルトフリー正極材料LiNi0.40Mn0.50Al0.10O2を得ることである。
【0101】
実施例1と同じ条件を用い、製造されたコバルトフリー正極材料を正極とし、リチウムイオン電池を製造し、リチウムイオン電池の初回充放電性能及びサイクル性能を試験し(試験条件は実施例1と同じである)、0.1C放電速度で、リチウムイオン電池の初回充放電比容量はそれぞれ193.0mAh/g及び162.7mAh/gであり、初回効率は84.3%であり、0.5C/1Cで50週間のサイクル後のリチウムイオン電池の容量維持率は99.6%である。
【0102】
(比較例2)
コバルト含有正極材料LiNi0.92Mn0.03Co0.03Al0.02O2の製造方法は、ステップ1~3を含む。
【0103】
ステップ1において、前駆体Ni0.92Mn0.03Co0.03Al0.02(OH)2の具体的な製造方法は、NiSO4・6H2O、MnSO4・H2O、CoSO4・7H2O、Al2(SO4)3・6H2O(ニッケル、マンガン、コバルト、アルミニウムのモル比は0.92:0.03:0.03:0.02である)を化学量論比に従って秤量し、上記硫酸塩を混合して2mol/Lの金属塩溶液に調製し、4mol/Lの水酸化ナトリウム溶液に調製し、N2雰囲気で保護された反応器に金属塩溶液、NaOH溶液、アンモニア水を加え、反応器内のシステムの温度は55℃であり、pHは約11.1に制御され、撹拌速度は500rpm/分であり、前駆体Ni0.92Mn0.03Co0.03Al0.02(OH)2沈殿を生成し、乾燥後にNi0.92Mn0.03Co0.03Al0.02(OH)2を得ることである。
【0104】
ステップ2において、前駆体Ni0.92Mn0.03Co0.03Al0.02(OH)2とLiOHの混合ステップは、LiOHとNi0.92Mn0.03Co0.03Al0.02(OH)2を化学量論比に従ってそれぞれ秤量し、両者を高速混合機器で均一に混合して予備混合物を得ることであり、ここで、リチウム、ニッケル、マンガン、コバルト、アルミニウムのモル比は1:0.92:0.03:0.03:0.02であり、高速混合機器の回転速度は850rpmであり、混合時間は10分であり、混合機器内の材料充填率は55%である。
【0105】
ステップ3において、コバルトフリー正極材料LiNi0.92Mn0.03Co0.03Al0.02O2の反応ステップは、予備混合物を酸素雰囲気(酸素濃度は95%である)に置き、730℃(温度上昇速度は1~5℃/minである)で10時間の高温反応を行い、コバルトフリー正極材料LiNi0.92Mn0.03Co0.03Al0.02O2を合成した後、自然に降温し、粉砕し、400メッシュのふるいにかけて、適切な粒子サイズを有するコバルトフリー正極材料LiNi0.92Mn0.03Co0.03Al0.02O2を得ることである。
【0106】
実施例1と同じ条件を用い、製造されたコバルトフリー正極材料を正極とし、リチウムイオン電池を製造し、リチウムイオン電池の初回充放電性能及びサイクル性能を試験し(試験条件は実施例1と同じである)、0.1C放電速度で、リチウムイオン電池の初回充放電比容量はそれぞれ235.8mAh/g及び217.9mAh/gであり、初回効率は92.4%であり、0.5C/1Cで50週間のサイクル後のリチウムイオン電池の容量維持率は97.2%である。
【0107】
実施例1~8及び実施例9~16の試験データから分かるように、反応温度の上昇に伴い、リチウムイオン電池の放電比容量、初回効率及び容量維持率が徐々に低下し、これは主に、反応温度の上昇に伴い、コバルトフリー正極材料の結晶粒子が大きくなり(つまり、結晶粒径が大きくなる)、さらにリチウムイオン電池の上記性能が徐々に低下するためである。しかしながら、上記実施例の試験結果から分かるように、反応温度が700~1000℃の範囲内にある場合、製造されたコバルトフリー正極材料は良好な電気性能を有し、それによりリチウムイオン電池は優れた放電比容量、初回効率及び容量維持率を有する。
【0108】
本明細書の説明において、「一実施例」、「いくつかの実施例」、「例」、「具体的な例」、又は「いくつかの例」などの用語を参照する説明は、当該実施例や例を組み合わせて説明された具体的な特徴、構造、材料又は性能が、本発明の少なくとも1つの実施例や例に含まれることを意味する。本明細書では、上記用語に対する概略的な説明は、必ずしも同じ実施例や例を指すとは限らない。また、説明された具体的な特徴、構造、材料又は性能は、いずれか1つ又は複数の実施例や例において適切な方式で組み合わせることができる。さらに、当業者は、互いに矛盾することなく、本明細書に記載されている異なる実施例や例及び異なる実施例や例の特徴に対して結び合わせと組み合わせを行うことができる。
【0109】
以上、本発明の実施例について示し、説明したが、上記実施例は例示的であり、本発明を限定するものとして理解されるべきではなく、当業者は、本発明の範囲内で、上記実施例に対して変更、修正、置換及び変形を行うことができることを理解されたい。