(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】細工を施した缶胴材及び缶蓋材ならびにその作製方法及び使用方法
(51)【国際特許分類】
B65D 65/40 20060101AFI20240419BHJP
C22C 21/06 20060101ALI20240419BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20240419BHJP
B21D 51/26 20060101ALI20240419BHJP
B21D 22/28 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
B65D65/40 D
C22C21/06
C22C21/00 L
B21D51/26 X
B21D22/28 L
(21)【出願番号】P 2022541955
(86)(22)【出願日】2021-01-14
(86)【国際出願番号】 US2021013347
(87)【国際公開番号】W WO2021150412
(87)【国際公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-07-07
(32)【優先日】2020-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506110243
【氏名又は名称】ノベリス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】NOVELIS INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジェソク
(72)【発明者】
【氏名】ジュー,デウェイ
(72)【発明者】
【氏名】ノブレガ,カルロス
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-526228(JP,A)
【文献】国際公開第2019/066049(WO,A1)
【文献】特表2019-529698(JP,A)
【文献】特表2018-520008(JP,A)
【文献】特表2018-517569(JP,A)
【文献】特表2018-510967(JP,A)
【文献】特開2007-275947(JP,A)
【文献】特開昭61-212428(JP,A)
【文献】特開2004-154783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 65/40
C22C 21/06
C22C 21/00
B21D 51/26
B21D 22/28
B65D 6/00-13/02
B65D 17/00-17/52
B65D 23/00-25/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金製品であって、
第1の平均表面粗さを有する第1の表面と
第2の平均表面粗さを有する第2の表面とを含み、表面形状測定装置によって測定すると、前記第1の平均表面粗さは前記第2の平均表面粗さよりも少なくとも20%小さく、
前記第1の平均表面粗さが0.22μm未満であり、
前記第2の平均表面粗さが0.6μm以上である、
前記アルミニウム合金製品。
【請求項2】
前記第1の平均表面粗さが前記第2の平均表面粗さよりも少なくとも30%小さい、請求項1に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項3】
前記アルミニウム合金製品が3xxxシリーズのアルミニウム合金を含む、請求項1~2のいずれかに記載のアルミニウム合金製品。
【請求項4】
前記3xxxシリーズのアルミニウム合金がAA3104アルミニウム合金を含む、請求項3に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項5】
前記アルミニウム合金製品が0.05~0.25重量%のCu、最大0.8重量%のFe、0.8~1.3重量%のMg、0.8~1.4重量%のMn、最大0.6重量%のSi、最大0.1重量%のTi、最大0.25重量%のZn、最大0.05重量%の不純物、及びAlを含む、請求項1~4のいずれかに記載のアルミニウム合金製品。
【請求項6】
前記アルミニウム合金製品が4mm未満の厚さを含む、請求項1~5のいずれかに記載のアルミニウム合金製品。
【請求項7】
前記アルミニウム合金製品がアルミ缶胴である、請求項1~6のいずれかに記載のアルミニウム合金製品。
【請求項8】
アルミニウム缶胴を作製する方法であって、
請求項1~7のいずれかに記載のアルミニウム合金製品をカッピングプレスと接触させて、第2の表面に相当し、且つカップ内面平均表面粗さを有するカップ内面と、第1の表面に相当し、且つカップ外面平均表面粗さを有するカップ外面とを含むカップを形成することであって、その際、前記カップ内面平均表面粗さが前記カップ外面平均表面粗さよりも大きい、前記形成することと;
前記カップ内面をパンチスリーブと接触させ、且つ前記カップ外面をアイアニングダイと接触させることと;
前記カップを所望の高さまでアイアニングすることとを含み、
前記カップ外面平均表面粗さが0.22μm未満であり、
前記カップ内面平均表面粗さが0.6μm以上である、
前記方法。
【請求項9】
前記カップが壁を有し、前記方法がさらに、前記壁をトリミングして前記缶胴を形成することを含み、前記缶胴が缶胴内面及び缶胴外面を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記アルミニウム缶胴が、缶胴内面平均表面粗さを有する内面と、缶胴外面平均表面粗さを有する外面とを含み、前記缶胴内面平均表面粗さが、前記缶胴外面平均表面粗さよりも少なくとも20%大きい、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
アルミニウム缶胴およびアルミニウム缶蓋を含むアルミニウム合金製品であって、
前記アルミニウム缶胴は、
第1の平均表面粗さを有する第1の表面と
第2の平均表面粗さを有する第2の表面とを含み、表面形状測定装置によって測定すると、前記第1の平均表面粗さは前記第2の平均表面粗さよりも少なくとも20%小さく、
前記アルミニウム缶蓋は、
共焦点顕微鏡で測定すると80%を超える表面等方性パーセントを含み、且つ10%未満の成形性の歪みを含む、アルミニウム合金製品。
【請求項12】
前記アルミニウム合金製品が95%を超える等方性を含む、請求項11に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項13】
前記アルミニウム合金製品が5xxxシリーズのアルミニウム合金を含む、請求項11または12に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項14】
前記5xxxシリーズのアルミニウム合金が5182アルミニウム合金を含む、請求項13に記載のアルミニウム合金製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年1月23日に出願された米国仮出願第62/964,741号の優先権及び出願利益を主張する。
【0002】
分野
本開示はアルミニウム合金製品及びそれらの特性を対象とする。本開示はさらに、缶胴材、缶蓋材、ならびにそれらを製造する及び加工する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
金属缶は周知であり、飲料容器として広く使用されている。飲料缶胴は高い生産率で製造されており、銅プレスでの金属関連の詰まり、と同様に胴製造機での引き剥がれやスプリットドームを排除することによって、飲料缶の生産率をさらに高めることがますます求められている。しかしながら、既存のアルミニウム缶胴材は、缶胴の製造プロセスの間に張力と摩擦力のバランスが取れていない場合、缶胴の生産の生産率の低下を引き起こし得る。加えて、既存の異方性アルミニウム缶蓋材の固有の成形性特性は不均一な摩擦力のせいでドローオフを引き起こし得る。
【発明の概要】
【0004】
包含される本発明の実施形態は、この発明の概要ではなく、特許請求の範囲によって定義される。この発明の概要は、本発明の様々な態様の高次の概要であり、以下の発明を実施するための形態のセクションでさらに説明されるいくつかの概念を紹介している。この発明の概要は、特許請求される主題の重要なまたは本質的な特徴を特定することを意図しておらず、特許請求される主題の範囲を決定するために単独で使用されることも意図していない。主題は、明細書全体、図面の一部またはすべて、及び各請求項の適切な部分を参照することによって理解されるべきである。
【0005】
一態様では、缶胴シートとして使用するための2つの異なる表面粗さを有するアルミニウム合金製品が本明細書で開示されている。アルミニウム合金製品は、少なくとも2つの表面を有することができ、それぞれが独立して、Raと略されてもよい平均表面粗さを有する。これらの例のアルミニウム合金製品は、第1の平均表面粗さを有する第1の表面と、第2の平均表面粗さを有する第2の表面とを含み、第1の平均表面粗さは表面形状測定装置によって測定すると第2の平均表面粗さよりも少なくとも20%小さい。いくつかの例では、第1の平均表面粗さは0.4μm未満である。いくつかの例では、第2の平均表面粗さは0.4μm以上である。
【0006】
場合によっては、アルミニウム合金はAA3104アルミニウム合金のような3xxxシリーズのアルミニウム合金である。いくつかの例では、アルミニウム合金は約0.05~0.25重量%のCu、最大約0.8重量%のFe、約0.8~1.3重量%のMg、約0.8~1.4重量%のMn、最大約0.6重量%のSi、最大約0.1重量%のTi、最大約0.25重量%のZn、最大約0.05重量%の不純物,及びAlを含む。
【0007】
いくつかの例では、アルミニウム合金製品は約4ミリメートル(mm)未満の厚さを有する。
【0008】
第2の態様では、上記に記載されている缶胴シートから缶胴を作製する方法が本明細書で開示されている。缶胴の作製方法は、シート状アルミニウム合金製品をカッピングプレスと接触させてカップを形成することを含む。カップは、カップ内面平均表面粗さを有するカップ内面と、カップ外面平均表面粗さを有するカップ外面とを含み、カップ内面平均表面粗さはカップ外面平均表面粗さよりも大きい。製作方法はまた、カップの内面をパンチスリーブと接触させる工程と、カップの外面をアイアニングダイと接触させる工程と、カップを所望の高さまでアイアニングする工程とを含む。いくつかの例では、方法はさらに、缶胴を形成するために壁をトリミングすることを含む。
【0009】
いくつかの例では、カップは0.4μm未満である外面平均表面粗さRa(本明細書ではカップ外面平均表面粗さと呼ばれる)を有する。いくつかの例では、カップは0.4μm以上の内面平均表面粗さRa(本明細書ではカップ内面平均表面粗さと呼ばれる)を有する。場合によっては、缶胴は、缶胴内面平均表面粗さを有する内面と、缶胴外面平均表面粗さを有する外面とを有し、缶胴内面平均表面粗さは缶胴の外面の平均表面粗さよりも少なくとも10%大きい。
【0010】
第3の態様では、缶蓋シートとして使用するためのアルミニウム合金製品が本明細書で開示されている。いくつかの例では、缶蓋シートは、共焦点顕微鏡によって測定すると80%を超える表面等方性パーセントを有し、10%未満の成形性の歪みを有する。場合によっては、アルミニウム合金製品の95%を超える等方性を有する
【0011】
いくつかの例では、アルミニウム合金は5xxxシリーズのアルミニウム合金、例えば、5182アルミニウム合金である。いくつかの例では、アルミニウム合金製品はISO25178に準じて0.7を超えるテクスチャーアスペクト比(Str)の値を有する。
【0012】
本発明の他の目的及び利点は、以下の非限定的な例の詳細な説明及び図面から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】いくつかの例に準じたアルミニウム合金カップの概略図である。
【
図2】いくつかの例に準じたアルミニウム合金製品の断面の概略図である。
【
図3】いくつかの例に準じた打ち抜かれた缶蓋の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書に記載されているのは、成形性が改善されたアルミニウム合金、アルミニウム合金製品及び製品の作製方法である。本明細書に記載されているアルミニウム合金の組成物及び方法は、例えば、2つの異なる表面粗さを有するアルミニウム缶胴及び異方性が低下した缶蓋のようなアルミニウム合金製品の効率的な製造のための改良されたアルミニウム合金シートを提供する。
【0015】
定義及び説明:
本明細書で使用される「発明(invention)」、「本発明(the invention)」、「本発明(this invention)」及び「本発明(the present invention)」という用語は、本特許出願の主題のすべて及び以下の特許請求の範囲を広く指すことを意図している。これらの用語を含有する記述は、本明細書に記載されている主題を限定しない、または以下の特許請求の範囲の意味または範囲を限定しないと理解されるべきである。
【0016】
本明細書で使用されるとき、「a」、「an」、または「the」の意味は、別段文脈により明確に指示されない限り、単数形及び複数形の言及を含む。
【0017】
この説明では、「シリーズ」または「3xxx」のようなアルミニウム業界の呼称で識別される合金を参照している。アルミニウム及びその合金の命名及び特定において最も一般的に使用されている番号指定システムの理解のために、双方ともアルミニウム協会によって発行されている”International Alloy Designations and Chemical Composition Limits for Wrought Aluminum and Wrought Aluminum Alloys”または”Registration Record of Aluminum Association Alloy Designations and Chemical Compositions Limits for Aluminum Alloys in the Form of Castings and Ingot”を参照のこと。
【0018】
本明細書で使用されるとき、平板は一般に約15mmを超える厚さを有する。例えば、平板は、約15mmを超える、約20mmを超える、約25mmを超える、約30mmを超える、約35mmを超える、約40mmを超える、約45mmを超える、約50mmを超える、または約100mmを超える厚さを有するアルミニウム製品を指してもよい。
【0019】
本明細書で使用されるとき、(シート平板とも称される)シェット(shate)は一般に約4mm~約15mmの厚さを有する。例えば、シェットは、約4mm、約5mm、約6mm、約7mm、約8mm、約9mm、約10mm、約11mm、約12mm、約13mm、約14mm、または約15mmの厚さを有してもよい。
【0020】
本明細書で使用されるとき、シートは一般に約4mm未満の厚さを有するアルミニウム製品を指す。例えば、シートは、約4mm未満、約3mm未満、約2mm未満、約1mm未満、約0.5mm未満、約0.3mm未満、または約0.1mm未満の厚さを有してもよい。
【0021】
本明細書で使用されるとき、「箔」という用語は、最大約0.2mm(すなわち、200ミクロン(μm))の範囲の合金の厚さを示す。例えば、箔は最大10μm、20μm、30μm、40μm、50μm、60μm、70μm、80μm、90μm、100μm、110μm、120μm、130μm、140μm、150μm、160μm、170μm、180μm、190μm、または200μmの厚さを有してもよい。
【0022】
本明細書で開示されている範囲はすべて、それらに包含される任意及びあらゆる部分範囲を包含すると理解されるべきである。例えば、「1~10」の記載された範囲は、最小値1及び最大値10(これらを含む)の間の、任意の及びあらゆる部分範囲を含むと考えられるべきであり、すなわち、すべての部分範囲は1以上の最小値で始まり(例えば、1~6.1)、且つ10以下の最大値で終わる(例えば、5.5~10)。
【0023】
アルミニウム合金は本明細書では、合金の総重量に基づいた重量パーセント(重量%)での元素組成の観点から記載されている。各合金の特定の例では、残部はアルミニウムであり、不純物の合計の最大重量%は0.15%である。
【0024】
アルミニウム缶胴及びその作製方法
本明細書に記載されているのは、例えば、アルミニウム缶胴として使用するためのアルミニウム合金製品である。アルミニウム合金製品は、上面と下面のような少なくとも2つの表面を備えた実質的に平面の形状を有するシートであることができる。本出願の目的での「実質的に」平面とは、x軸またはy軸のいずれかの測定値の50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または1%以下であるz軸の測定値を有することを意味する。たとえば、実質的であるシートは、x軸で1メートル、y軸で1000メートル、z軸で1ミリメートルの測定値を有してもよい。
【0025】
いくつかの例では、アルミニウム合金製品は缶胴シートである。シートの両面の表面粗さの差異は、表面粗さの実質的な差異がない従来の缶胴シートと比較して、加工品質の向上につながる。他の例では、それぞれ、シェットまたは箔のようなさらに厚いまたはさらに薄いアルミニウム合金製品は異なる表面粗さを有することができ、加工特性の改善につながる。
【0026】
アルミニウム合金製品の上面及び下面は、第1の平均表面粗さを有する第1の表面及び第2の平均表面粗さを有する第2の表面のように、異なる表面粗さRaを有することができる。場合によっては、第1の平均表面粗さは第2の平均表面粗さよりも少なくとも20%小さい。他の場合では、第1の平均表面粗さは第2の平均表面粗さよりも少なくとも21%小さく、少なくとも22%小さく、少なくとも23%小さく、少なくとも24%小さく、少なくとも25%小さく、少なくとも26%小さく、少なくとも27%小さく、少なくとも28%小さく、少なくとも29%小さく、少なくとも30%小さく、少なくとも35%小さく、少なくとも40%小さく、少なくとも45%小さく、少なくとも50%小さく、少なくとも55%小さく、少なくとも50%小さく、少なくとも65%小さく、少なくとも70%小さく、少なくとも75%小さく、少なくとも80%小さく、少なくとも85%小さく、少なくとも90%小さく、または少なくとも95%小さい。例えば、第1の表面粗さを測定してRa値として報告するならば、第2の側面のRa値が1.0μmの場合、第1の平均表面粗さが第2の平均表面粗さよりも少なくとも20%小さいとき第1の表面の最大表面粗さRa値は0.80μmとなる。
【0027】
表面粗さは、当技術分野で知られている任意の方法によって測定されてもよい。一般に、表面形状測定装置を使用して「平均表面粗さ」として報告される表面の特徴を測定し、記載する。平均表面粗さという用語は本明細書の目的では、表面の特徴が卵パックの表面の特徴のように規則的で一貫した方法で繰り返される、または山岳地帯の表面のように不規則で一貫した方法で繰り返されないことを伝えるのに使用される。一般に、「平均表面粗さ」は平面からの平均距離を測定して報告する。例えば、2次元(2D)または3次元(3D)の表面形状測定装置を使用して平均表面粗さを決定してもよい。場合によっては、表面形状測定装置はスタイラスを採用して平均表面粗さを測定し;他の場合には、光学的方法が使用されてもよい。当業者は、1つの特定の方法が指定されてもよいけれども、2つの異なる表面の平均粗さの差異を検出することができる任意の方法が使用されてもよく、2つの測定値の間の差異が割合で表わされてもよいことを理解するであろう。いくつかの例では、平均表面粗さは共焦点顕微鏡によって測定される。表面は、マイクロメートル(ミクロン)で測定され、当業者に知られているRa及びRzを含む様々なパラメータによって本明細書で特徴付けられる。任意で、MountainsMap(登録商標)Surface Imaging and Metrologyソフトウェア(Digital Surf;Besancon、France)を使用してパラメータを測定することができる。粗さの値はすべて標準のスタイラスで機械的に測定することができる。他の例では、平均表面粗さが測定され、ISO25178[2019]に準じてStrとして報告される。Str値は、圧延方向に対して任意の方向で測定される最短波長の最長波長に対する比率である。
【0028】
飲料缶胴のような缶胴の製造中に、缶胴シートはツーピースの延伸及び壁アイアニングに供される。缶胴シートを先ずカッピングプレスと接触させてカップを形成し、次にカップをパンチスリーブに移して延伸とアイアニングを行う。
図1に示すように、カップ10は内面11及び外面12を有する。
【0029】
延伸とアイアニングの間に、パンチスリーブとカップの内面との間の摩擦と、アイアニングダイとカップの外面との間の張力とのバランスをとる必要がある。理論に縛られることを意図せず、張力と摩擦のバランスが取れていると、裂け目が減る。張力と摩擦のバランスをとる従来の方法には、アイアニングダイに接触する外面に潤滑剤を加えることが関与する。本明細書で開示されている材料及びプロセスでは、カップの外面とアイアニングダイとの間の張力を低減する(例えば、追加の潤滑剤を使用することによって)よりはむしろ、パンチスリーブと接触するさらに粗い表面を有することによってパンチスリーブとカップの内面との間の摩擦が増加し、さらに滑らかな外面がアイアニングダイと接触する。したがって、本明細書で開示されている材料及び方法は、缶胴の破壊を低減し、また潤滑剤の量を低減するという利点を有する。材料及び方法は、缶胴シートに関して記載されている場合があるが、機械部品とアルミニウム合金製品の表面との間の摩擦を増加させることが有益である場合、当業者は、材料及び方法が穴開け、打ち抜き、引き抜き、及び/またはアイアニングされる任意のアルミニウム合金製品に適用可能であることを理解するであろう。したがって、アルミニウム合金製品は、シェット、シート、または箔であることができる。さらに、当業者は、張力と摩擦のバランスをとるために必要な平均表面粗さ、と同様に必要とされる2つの平均表面粗さの差異が、パンチスリーブ及びアイアニングダイの特定の設計及び特定のアルミニウム合金製品に従って変化してもよいことを理解するであろう。
【0030】
いくつかの例では、カップ10の外面12に対応してもよい第1の表面はカップ10の内面11に対応してもよい第2の表面よりも滑らかである。このように、第1の表面の第1の平均表面粗さRaは第2の表面の第2の平均表面粗さRaよりも小さい。さらに滑らかな表面は、さらに粗い表面よりも、隆起、尾根、線、及び/または突起のようなさらに少ない及び/またはさらに小さな地形的特徴を有するであろう。いくつかの例では、第1の平均表面粗さRaは0.4μm未満である。他の例では、第1の平均表面粗さRaは0.38μm未満、0.36μm未満、0.34μm未満、0.32μm未満、0.28μm未満、0.26μm未満、0.24μm未満、0.22μm未満、0.2μm未満、0.18μm未満、0.16μm未満、0.14μm未満、0.12μm未満、0.1μm未満、0.08μm未満、0.06μm未満、0.04μm未満、0.02μm未満、または0.01μm未満である。
【0031】
いくつかの例では、第2の平均表面粗さRaは0.4μm以上である。他の例では、第2の平均表面粗さRaは、0.6μm以上、0.8μm以上、1.0μm以上、1.5μm以上、2μm以上、2.5μm以上、3μm以上、3.5μm以上、4μm以上、4.5μm以上、5μm以上、5.5μm以上、6μm以上、6.5μm以上、7μm以上、7.5μm以上、8μm以上、または8.5μm以上、9μm以上、9.5μm以上、10μm以上、または15μm以上である。
【0032】
別の態様では、アルミ缶胴を作製する方法が本明細書に記載されている。缶胴を作製する方法は、2つの異なる表面粗さを有するアルミニウム合金製品をカッピングプレスと接触させて、カップ内面平均表面粗さを有するカップ内面とカップ外面平均表面粗さを有するカップ外面とを含むカップを形成する工程と、その際、内面平均表面粗さは外面平均表面粗さよりも大きく;カップの内面をパンチスリーブと接触させ、且つカップの外面をアイアニングダイと接触させる工程と、カップを所望の高さまでアイアニングする工程とを含む。アルミニウム合金製品のさらに粗い表面がパンチスリーブと接触しているので、パンチスリーブとさらに粗い表面の間の摩擦はアイアニングダイとさらに滑らかな表面の間の張力と釣り合う。いくつかの例では、方法はさらに、缶胴を形成するために壁をトリミングする工程を含む。
【0033】
アルミニウム合金製品は2つのその側面の粗さに差異を有する限り、上記に記載されているアルミニウム合金製品(例えば、シェット、シート、または箔)のいずれかが使用されてもよい。いくつかの例では、カップの外面平均表面粗さRaは0.4μm未満である。他の例では、外面平均表面粗さRaは0.38μm未満、0.36μm未満、0.34μm未満、0.32μm未満、0.3μm未満、0.28μm未満、0.26μm未満、0.24μm未満、0.22μm未満、0.2μm未満、0.18μm未満、0.16μm未満、0.14μm未満、0.12μm未満、0.1μm未満、0.08μm未満、0.06μm未満、0.04μm未満、0.02μm未満、または0.01μm未満である。
【0034】
いくつかの例では、カップの内面平均表面粗さRaは0.4μm以上である。他の例では、内面平均表面粗さRaは、0.45μm以上、0.5μm以上、0.6μm以上、0.8μm以上、1.0μm以上、1.5μm以上、2μm以上、2.5μm以上、3μm以上、3.5μm以上、4μm以上、4.5μm以上、5μm以上、5.5μm以上、6μm以上、6.5μm以上、7μm以上、7.5μm以上、8μm以上、または8.5μm以上、9μm以上、9.5μm以上、10μm以上、または15μm以上である。
【0035】
本明細書に記載されている製品及び方法を使用して製造される缶胴は、缶胴の内面の少なくとも一部が缶胴の外面の平均表面粗さよりも大きい平均表面粗さを有するという点で、従来の缶胴とは異なる。したがって、いくつかの例では、缶胴は、缶胴内面平均表面粗さを有する内面と、缶胴外面平均表面粗さを有する外面とを有し、その際、缶胴内面平均表面粗さは缶胴外面平均表面粗さよりも少なくとも20%大きい。その他の場合、缶胴の内面平均表面粗さは、缶胴の外面平均表面粗さよりも少なくとも22%大きい、少なくとも24%大きい、少なくとも25%大きい、少なくとも26%大きい、少なくとも28%大きい、少なくとも30%大きい、少なくとも35%大きい、少なくとも40%大きい、少なくとも45%大きい、少なくとも50%大きい、少なくとも55%大きい、少なくとも60%大きい、少なくとも65%大きい、少なくとも70%大きい、少なくとも75%大きい、少なくとも80%大きい、少なくとも85%大きい、少なくとも90%大きい、または少なくとも95%大きい。
【0036】
本明細書に記載されているアルミニウム合金製品及び方法は、飲料缶、食品容器、または他の任意の所望の用途を調製するために使用することができる。いくつかの例では、アルミニウム合金製造物は飲料缶胴を調製するのに使用することができる。
【0037】
本明細書に記載されている製品及び方法にて使用するためのアルミニウム合金には3xxxシリーズのアルミニウム合金が含まれる。好適な3xxxシリーズのアルミニウム合金には、例えば、AA3002、AA3102、AA3003、AA3103、AA3103A、AA3103B、AA3203、AA3403、AA3004、AA3004A、AA3104、AA3204、AA3304、AA3005、AA3005A、AA3105、AA3105A、AA3105B、AA3007、AA3107、AA3207、AA3207A、AA3307、AA3009、AA3010、AA3110、AA3011、AA3012、AA3012A、AA3013、AA3014、AA3015、AA3016、AA3017、AA3019、AA3020、AA3021、AA3025、AA3026、AA3030、AA3130、及びAA3065が挙げられる。いくつかの例では、アルミニウム合金はAA3104である。
【0038】
いくつかの例では、本明細書に記載されている製品及び方法で使用するための合金は表1に提供されるような以下の元素組成を有することができる。
【表1】
【0039】
いくつかの例では、合金は表2に提供されるような以下の元素組成を有することができる。
【表2】
【0040】
いくつかの例では、アルミニウム合金は0.05~0.4重量%のCu、最大約0.9重量%のFe、約0.8~3.0重量%のMg、約0.8~2.0重量%のMn、最大約0.7重量%のSi、最大約0.1重量%のTi、最大約0.25重量%のZn、最大約0.15重量%の不純物,及びAlを含む。
【0041】
いくつかの例では、アルミニウム合金は、0.05~0.25重量%のCu、最大約0.8重量%のFe、約0.8~2.8重量%のMg、約0.8~1.4重量%のMn、最大約0.6重量%のSi、最大約0.1重量%のTi、最大約0.25重量%のZn、最大約0.15重量%の不純物,及びAlを含む。
【0042】
いくつかの例では、アルミニウム合金は0.05~0.3重量%のCu、約0.4~薬0.8重量%のFe、約0.8~2.8重量%のMg、約0.1~1.5重量%のMn、約0.25~0.6重量%のSi、最大約0.1重量%のTi、約0.1~0.25重量%のZn、最大約0.35重量%のCr、最大約0.15重量%の不純物,及びAlを含む。
【0043】
いくつかの例では、本明細書に記載されている合金は合金の総重量を基にして約0.05重量%~約0.40重量%(例えば、約0.05重量%~約0.35重量%または約0.10重量%~約0.30重量%)の量で銅(Cu)を含む。例えば、合金は0.05%、0.06%、0.07%、0.08%、0.09%、0.10%、0.11%、0.12%、0.13%、0.14%、0.15%、0.16%、0.17%、0.18%、0.19%、0.20%、0.21%、0.22%、0.23%、0.24%、0.25%、0.26%、0.27%、0.28%、0.29%、0.30%、0.31%、0.32%、0.33%、0.34%、0.35%、0.36%、0.37%、0.38%、0.39%、または0.40%のCuを含むことができる。すべては重量%で表される。
【0044】
いくつかの例では、本明細書に記載されている合金は、合金の総重量を基にして最大約0.9%(例えば、約0.3%~約0.85%、または約0.4%~約0.8%)の量で鉄(Fe)を含む。例えば、合金は0%、0.05%、0.10%、0.15%、0.20%、0.25%、0.26%、0.27%、0.28%、0.29%、0.30%、0.31%、0.32%、0.33%、0.34%、0.35%、0.36%、0.37%、0.38%、0.39%、0.40%、0.41%、0.42%、0.43%、0.44%、0.45%、0.46%、0.47%、0.48%、0.49%、0.5%、0.51%、0.52%、0.53%、0.54%、0.55%、0.56%、0.57%、0.58%、0.59%、0.6%、0.61%、0.62%、0.63%、0.64%、0.65%、0.66%、0.67%、0.68%、0.69%、0.7%、0.71%、0.72%、0.73%、0.74%、0.75%、0.76%、0.77%、0.78%、0.79%、0.8%、0.81%、0.82%、0.83%、0.84%、0.85%、0.86%、0.87%、0.88%、0.89%、または0.9%のFeを含むことができる。場合によっては、Feは合金に存在しない(すなわち、0%である)。すべては重量%で表される。
【0045】
いくつかの例では、本明細書に記載されている合金は合金の総重量を基にして約0.8%~約3.0%(例えば、約0.8%~約2.8%、または約1.0%~約2.5%)の量でマグネシウム(Mg)を含む。例えば、合金は0.8%、0.81%、0.82%、0.83%、0.84%、0.85%、0.86%、0.87%、0.88%、0.89%、0.9%、0.91%、0.92%、0.93%、0.94%、0.95%、0.96%、0.97%、0.98%、0.99%、1.0%、1.1%、1.2%、1.3%、1.4%、1.5%、1.6%、1.7%、1.8%、1.9%、2.0%、2.1%、2.2%、2.3%、2.4%、2.5%、2.6%、2.7%、2.8%、2.9%、または3.0%のMgを含むことができる。すべては重量%で表される。
【0046】
いくつかの例では、本明細書に記載されている合金は合金の総重量を基にして約0.1%~約2.0%(例えば、約0.1%~約1.5%、または約0.5%~約1.5%)の量でマンガン(Mn)を含む。例えば、合金は0.1%、0.11%、0.12%、0.13%、0.14%、0.15%、0.16%、0.17%、0.18%、0.19%、0.2%、0.21%、0.22%、0.23%、0.24%、0.25%、0.26%、0.27%、0.28%、0.29%、0.3%、0.31%、0.32%、033%、0.34%、0.35%、0.36%、0.37%、0.38%、0.39%、0.4%、0.41%、0.42%、0.43%、0.44%、0.45%、0.46%、0.47%、0.48%、0.49%、0.5%、0.51%、0.52%、0.53%、0.54%、0.55%、0.56%、0.57%、0.58%、0.59%、0.6%、0.61%、0.62%、0.63%、0.64%、0.65%、0.66%、0.67%、0.68%、0.69%、0.7%、0.71%、0.72%、0.73%、0.74%、0.75%、0.76%、0.77%、0.78%、0.79%、0.8%、0.81%、0.82%、0.83%、0.84%、0.85%、0.86%、0.87%、0.88%、0.89%、0.9%、0.91%、0.92%、0.93%、0.94%、0.95%、0.96%、0.97%、0.98%、0.99%、1.0%、1.1%、1.2%、1.3%、1.4%、1.5%、1.6%、1.7%、1.8%、1.9%、or2.0%のMnを含むことができる。すべては重量%で表される。
【0047】
いくつかの例では、本明細書に記載されている合金は合金の総重量を基にして最大約0.7%(例えば、約0.25%~約0.6%、または約0.3%~約0.55%)の量でケイ素(Si)を含む。例えば、合金は0%、0.01%、0.02%、0.03%、0.04%、0.05%、0.06%、0.07%、0.08%、0.09%、0.1%、0.2%、0.21%、0.22%、0.23%、0.24%、0.25%、0.26%、0.27%、0.28%、0.29%、0.3%、0.31%、0.32%、0.33%、0.34%、0.35%、0.36%、0.37%、0.38%、0.39%、0.4%、0.41%、0.42%、0.43%、0.44%、0.45%、0.46%、0.47%、0.48%、0.49%、0.5%、0.51%、0.52%、0.53%、0.54%、0.55%、0.56%、0.57%、0.58%、0.59%、0.6%、0.61%、0.62%、0.63%、0.64%、0.65%、0.66%、0.67%、0.68%、0.69%、or0.7%のSiを含むことができる。場合によっては、Siは合金に存在しない(すなわち、0%)。すべては重量%で表される。
【0048】
いくつかの例では、本明細書に記載されている合金は合金の総重量を基にして最大約0.1%(例えば、約0.01~約0.08%、または約0.02%~約0.05%)の量でチタン(Ti)を含む。例えば、合金は0.01%、0.02%、0.03%、0.04%、0.05%、0.06%、0.07%、0.08%、0.09%、または0.1%のTiを含むことができる。場合によっては、Tiは合金に存在しない(すなわち、0%)。すべては重量%で表される。
【0049】
いくつかの例では、本明細書に記載されている合金は合金の総重量を基にして最大約0.25%(例えば、約0.01%~約0.25%または約0.1%~約0.2%)の量で亜鉛(Zn)を含む。例えば、合金は0.01%、0.02%、0.03%、0.04%、0.05%、0.06%、0.07%、0.08%、0.09%、0.1%、0.11%、0.12%、0.13%、0.14%、0.15%、0.16%、0.17%、0.18%、0.19%、0.2%、0.21%、0.22%、0.23%、0.24%、or0.25%のZnを含むことができる。場合によっては、Znは合金に存在しない(すなわち、0%)。すべては重量%で表される。
【0050】
いくつかの例では、本明細書に記載されている合金は合金の総重量を基にして約0.4%(例えば、約0.01%~約0.35%または約0.05%~約0.3%)の量でクロム(Cr)を含む。例えば、合金は0.01%、0.02%、0.03%、0.04%、0.05%、0.06%、0.07%、0.08%、0.09%、0.1%、0.11%、0.12%、0.13%、0.14%、0.15%、0.16%、0.17%、0.18%、0.19%、0.2%、0.21%、0.22%、0.23%、0.24%、0.25%、0.26%、0.27%、0.28%、0.29%、0.3%、0.31%、0.32%、0.33%、0.34%、0.35%、0.36%、0.37%、0.38%、0.39%、または0.4%のCrを含むことができる。場合によっては、Crは合金に存在しない(すなわち、0%)。すべては重量%で表される。
【0051】
任意で、本明細書に記載されている合金組成物はさらに、0.05%以下、0.04%以下、0.03%以下、0.02%以下、または0.01%以下の量で不純物と呼ばれることがある他の微量元素を含むことができる。これらの不純物にはZr、Sn、Ga、Ca、Bi、Na、Pbまたはこれらの組み合わせが挙げられてもよいが、これらに限定されない。したがって、Zr、Sn、Ga、Ca、Bi、Na、またはPbは0.05%以下、0.04%以下、0.03%以下、0.02%以下、または0.01%以下の量で合金に存在してもよい。場合によっては、全不純物の合計は0.15%(例えば0.10%)を超えない。すべては重量%で表される。合金の残りの割合はアルミニウムである。
【0052】
アルミニウム缶蓋及びその作製方法
また、本明細書に記載されているのは、例えば、缶蓋材として使用するためのアルミニウム合金製品である。本明細書に記載されている缶蓋材は、実質的に等方性である表面を有し、本明細書で標準指向性材料と呼ばれる異方性の「指向性」表面を有する標準缶蓋材よりも改善された成形性を示す。本明細書に記載されている缶蓋材の成形性の増加は、少なくとも部分的には、標準指向性材料と比較してその増加した表面等方性に起因する。この用途の目的のための「実質的に」等方性は、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、または少なくとも95%の等方性を有することを意味する。
【0053】
本明細書に記載されているアルミニウム合金製品は、特にシェルプレスでの穴開け操作中に、製品の亀裂のような小さい成形性に起因する問題を起こしにくい。理論に束縛されることなく、これは、一部には、標準指向性材料では圧延方向に対して90°の方向の摩擦が最も高いという事実に起因する。標準指向性材料では、標準の回転基底面で作り出された地形的ピークからの直接の衝突により、成形荷重が増加する。しかしながら、本明細書に記載されている製品では、ピークの数は、標準指向性材料と比べて少なくとも10%減少している。例えば、ピークの数は、標準指向性材料と比べて少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%減らすことができる。場合によっては、ピークは存在しない。したがって、摩擦はすべての方向でバランスが取れており、90°成分での摩擦による極端な負荷は低減される。さらに、缶蓋のような円形の製品が標準指向性材料から形成される場合、結果として得られる形状は真円ではなく、90°方向に最大径がある微妙な楕円形に「オフドロー」される。これは、90°方向の摩擦が大きい(したがって成形荷重が大きい)直接的な結果である。成形のための操作ウィンドウは、「オフドロー」現象を管理するために本明細書に記載されている表面で広げることができる。
【0054】
アルミニウム合金製品の表面等方性は、ナノ秒レーザーマイクロテクスチャーリング、放電テクスチャーリング、または修正されたワークロールを使用したローリングまたはクロス方向へのローリングのような既知の方法によって増やされてもよい。圧延製造プロセスから生じるアルミニウム合金製品の中央部分の冶金学的特性(方向性または異方性を含む)を変更する必要はなく;むしろ、外面の等方性が増加すると利点が存在する。
【0055】
缶蓋材の上面と下面の間の中央部分に残留異方性が残っているかどうかに関係なく、缶蓋材の少なくとも上面と下面で異方性を低減することにより、加工が改善される。したがって、いくつかの例では、アルミニウム合金製品は上部、中央部分、及び下部を有する厚さを含む。いくつかの例では、上部及び下部はアルミニウム合金製品の厚さの0.1%を構成する。たとえば、アルミニウム合金製品の200μmの厚さを有してもよく;上部と下部が厚さの1%を構成する場合、それらは合わせて2μmであり、198μmの中央部分の測定値を残す。いくつかの例では、上部及び下部は、厚さの0.5%、厚さの1%、厚さの5%、厚さの10%、厚さの15%、厚さの20%、または厚さの25%を構成する。いくつかの例では、上部と下部は同じ測定値であり;その他の場合、上部と下部の測定値は等しくない。
図2に示すように、アルミニウム合金製品20の断面は上部21、中央部22、及び下部23を含む。
【0056】
いくつかの例では、アルミニウム合金製品は、共焦点顕微鏡によって測定すると80%を超える表面等方性パーセントを有し、10%未満の成形性の歪みを有する。この適用の目的で「表面等方性パーセント」とは、アルミニウム合金製品の等方性がアルミニウム合金製品の厚さを介して変化する場合でも、アルミニウム合金製品の表面(上面及び/または下面)で測定される等方性を指す。いくつかの例では、アルミニウム合金製品は85%を超える、90%を超える、95%を超える、97%を超える、98%を超える、99%を超える、または100%の表面等方性パーセントを含む。
【0057】
この適用の目的での「成形性の歪み」とは、アルミニウム合金製品が、例えば、砲撃プレスにて円形ダイで打ち抜かれたときの最大オフドローを指し、円の半径のパーセントとして表される。たとえば、直径2.5cmのダイを使用して円が打ち抜かれ、打ち抜かれた製品が完全な直径2.5cmの円である場合、成形性の歪みはゼロである。しかしながら、打ち抜かれた製品の半径が1以上のポイントで、意図した直径2.5cmを超える場合、成形性の歪みはゼロではない。この例にて最大半径が2.75cmである場合、成形性の歪みは10パーセントである。((2.75-2.50/2.5)=0.10、または10%)。いくつかの例では、成形性の歪みは9%未満、8%未満、7%未満、6%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満、またはゼロである。
図3に示されるように、打ち抜かれた缶蓋30は点線で示される真円からオフドローされてもよい。最大半径31は円の半径32よりも大きい。
【0058】
本明細書に記載されている缶蓋材に有用なアルミニウム合金製品は任意の好適なゲージを有することができる。いくつかの例では、アルミニウム合金製品はシートであることができる。シートは缶蓋材として使用することができる。
【0059】
いくつかの例では、アルミニウム合金製品は缶蓋シートのようなシートである。いくつかの例では、アルミニウム合金は5xxxシリーズのアルミニウム合金である。好適な5xxxシリーズのアルミニウム合金には、例えば、AA5005、AA5005A、AA5205、AA5305、AA5505、AA5605、AA5006、AA5106、AA5010、AA5110、AA5110A、AA5210、AA5310、AA5016、AA5017、AA5018、AA5018A、AA5019、AA5019A、AA5119、AA5119A、AA5021、AA5022、AA5023、AA5024、AA5026、AA5027、AA5028、AA5040、AA5140、AA5041、AA5042、AA5043、AA5049、AA5149、AA5249、AA5349、AA5449、AA5449A、AA5050、AA5050A、AA5050C、AA5150、AA5051、AA5051A、AA5151、AA5251、AA5251A、AA5351、AA5451、AA5052、AA5252、AA5352、AA5154、AA5154A、AA5154B、AA5154C、AA5254、AA5354、AA5454、AA5554、AA5654、AA5654A、AA5754、AA5854、AA5954、AA5056、AA5356、AA5356A、AA5456、AA5456A、AA5456B、AA5556、AA5556A、AA5556B、AA5556C、AA5257、AA5457、AA5557、AA5657、AA5058、AA5059、AA5070、AA5180、AA5180A、AA5082、AA5182、AA5083、AA5183、AA5183A、AA5283、AA5283A、AA5283B、AA5383、AA5483、AA5086、AA5186、AA5087、AA5187、及びAA5088が挙げられる。いくつかの例では、アルミニウム合金は5182アルミニウム合金を含む。
【0060】
表面の異方性は、上記に記載されているようにISO25178に準じてテクスチャーアスペクト比(Str)によって測定することができる。Str値は、圧延方向に対して任意の方向で測定された最短波長の最長波長に対する比率である。いくつかの例では、本明細書に記載されている合金シートの表面のStr値は約0.7より大きい。たとえば、Str値は0.71、0.75、0.8、0.85、0.9、0.95、0.96、0.97、0.98、0.99、または1.0であることができる。しかしながら、缶蓋材を調製するのに使用される従来のアルミニウム合金シートは通常、異方性の表面テクスチャーを有する。従来の合金シートの表面のStr値は0.1未満である。従来の缶蓋材の異方性は、分割ドームや引き剥がれのような成形性の問題を引き起こすことができる。本明細書に記載されている缶蓋材に有用なアルミニウム合金製品は有意な異方性を含まない。
【0061】
好適な合金、製品及び方法の実例
実例1は、第1の平均表面粗さを有する第1の表面と、第2の平均表面粗さを有する第2の表面とを含み、前記第1の平均表面粗さは表面形状測定装置によって測定すると前記第2の平均表面粗さよりも少なくとも20%小さい、アルミニウム合金製品である。
【0062】
実例2は、前記第1の平均表面粗さが前記第2の平均表面粗さよりも少なくとも30%小さい、先行または後続の任意の実例のアルミニウム合金である。
【0063】
実例3は、前記第1の平均表面粗さが0.4μm未満である、先行または後続の任意の実例のアルミニウム合金である。
【0064】
実例4は、前記第2の平均表面粗さが0.4μm以上である、先行または後続の任意の実例のアルミニウム合金である。
【0065】
実例5は、前記アルミニウム合金製品が3xxxシリーズのアルミニウム合金を含む、先行または後続の任意の実例のアルミニウム合金である。
【0066】
実例6は、前記3xxxシリーズのアルミニウム合金がAA3104アルミニウム合金を含む、先行または後続の任意の実例のアルミニウム合金である。
【0067】
実例7は、前記アルミニウム合金製品が、約0.05~0.25重量%のCu、最大約0.8重量%のFe、約0.8~1.3重量%のMg、約0.8~1.4重量%のMn、最大約0.6重量%のSi、最大約0.1重量%のTi、最大約0.25重量%のZn、最大約0.05重量%の不純物,及びAlを含む、先行または後続の任意の実例のアルミニウム合金である。
【0068】
実例8は、前記アルミニウム合金製品が約4mm未満の厚さを含む、先行または後続の任意の実例のアルミニウム合金である。
【0069】
実例9は、前記アルミニウム合金製品がアルミニウム缶胴である、先行または後続の任意の実例のアルミニウム合金である。
【0070】
実例10は、アルミニウム缶胴を作製する方法であって、請求項1のアルミニウム合金製品をカッピングプレスと接触させて、前記第2の表面に相当し、且つカップ内面平均表面粗さを有するカップ内面と前記第1の表面に相当し、且つカップ外面平均表面粗さを有するカップ外面とを含むカップを形成することと、その際、前記内面平均表面粗さは前記外面平均表面粗さよりも大きく;前記カップの内面をパンチスリーブと接触させ、且つ前記カップの外面をアイアニングダイと接触させることと、前記カップを所望の高さまでアイアニングすることとを含む、前記方法である。
【0071】
実例11は、前記カップが壁を有し、前記方法がさらに、前記壁をトリミングして前記缶胴を形成することをさらに含み、その際、前記缶胴が缶胴内面及び缶胴外面を有する、先行または後続の任意の実例の方法である。
【0072】
実例12は、前記カップの外面平均表面粗さが0.4μm未満である、先行または後続の任意の実例の方法である。
【0073】
実例13は、前記カップ内面平均表面粗さが0.4μm以上である、先行または後続の任意の実例の方法である。
【0074】
実例14は、前記アルミニウム缶胴が、缶胴内面平均表面粗さを有する内面と、缶胴外面平均表面粗さを有する外面とを含み、前記缶胴内面平均表面粗さが前記缶胴外面平均表面粗さよりも少なくとも20%大きい、先行または後続の任意の実例の方法である。
【0075】
実例15は、共焦点顕微鏡で測定すると80%を超える表面等方性パーセントを含み、10%未満の成形性の歪みを含むアルミニウム合金製品である。
【0076】
実例16は、前記アルミニウム合金製品が95%を超える等方性を含む、先行または後続の任意の実例のアルミニウム合金である。
【0077】
実例17は、前記アルミニウム合金製品が5xxxシリーズのアルミニウム合金を含む、先行または後続の任意の実例のアルミニウム合金である。
【0078】
実例18は、前記5xxxシリーズのアルミニウム合金が5182アルミニウム合金を含む、先行または後続の任意の実例のアルミニウム合金である。
【0079】
実例19は、前記アルミニウム合金製品がアルミニウム缶蓋である、先行または後続に任意の実例のアルミニウム合金である。
【0080】
実例20は、前記アルミニウム合金製品がISO25178に準じて0.7を超えるテクスチャーアスペクト比(Str)の値を含む、先行または後続の任意の実例のアルミニウム合金である。
【0081】
上で引用されている特許、出版物、及び要約はすべて、参照によってそれらの全体が本明細書に組み込まれる。本発明の様々な実施形態は、本発明の様々な目的の達成において記載されている。これらの実施形態は、本発明の原理の単なる例示であることが認識されるべきである。以下の特許請求の範囲で定義される本発明の趣旨及び範囲から逸脱することがなく、多数の改変及び適応が当業者に容易に明らかになる。