(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】ハロゲン化キサンテンの経口投与による固形癌性腫瘍の治療
(51)【国際特許分類】
A61K 31/352 20060101AFI20240419BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240419BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20240419BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20240419BHJP
A61K 9/24 20060101ALI20240419BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
A61K31/352
A61P35/00
A61K9/20
A61K9/16
A61K9/24
A61P1/00
(21)【出願番号】P 2022558584
(86)(22)【出願日】2021-03-26
(86)【国際出願番号】 US2021024499
(87)【国際公開番号】W WO2021195573
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-11-01
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510293969
【氏名又は名称】プロヴェクタス ファーマテック,インク.
(73)【特許権者】
【識別番号】507132329
【氏名又は名称】ユーティーアイ リミテッド パートナーシップ
(74)【代理人】
【識別番号】100086368
【氏名又は名称】萩原 誠
(72)【発明者】
【氏名】エリック エー. ワクター
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク ロドリゲス
(72)【発明者】
【氏名】エドワード ブイ. パーシング
(72)【発明者】
【氏名】ブルース ホロヴィッツ
(72)【発明者】
【氏名】ティモシー シー. スコット
(72)【発明者】
【氏名】エイチ. クレイグ ディーズ
(72)【発明者】
【氏名】アル ナレンドラン
【審査官】愛清 哲
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-505261(JP,A)
【文献】特表2004-503592(JP,A)
【文献】特表2014-510728(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0022032(US,A1)
【文献】A review on recent advances of enteric coating,Journal of Pharmacy,2012年,Volume 2 Issue 6,pp.5-11,e-ISSN: 2250-3013, p-ISSN: 2319-4219
【文献】JIANZHONG QIN; ET AL,COLON CANCER CELL TREATMENT WITH ROSE BENGAL GENERATES A PROTECTIVE IMMUNE RESPONSE 以下備考,CELL DEATH & DISEASE,2017年02月02日,VOL:8,PAGE(S):E2584(1-9),https://www.nature.com/articles/cddis2016473,VIA IMMUNOGENIC CELL DEATH
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 9/00- 9/72
A61P 1/00- 1/18
A61P 35/00-35/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形腫瘍治療有効量の
ローズベンガルジナトリウム化合物をその被覆が5以上の生物学的pH値で溶解又は崩壊する
腸溶解性被覆された固体希釈剤マトリックス内に含有する経口送達用の医薬組成物。
【請求項2】
前記腸溶性被覆された固体希釈剤マトリックスが、錠剤、トローチ剤、又は複数の概ね球状の糖顆粒の形態をとる、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記
ローズベンガルジナトリウム化合物が、固体希釈剤マトリックス中に溶解若しくは分散されるか又は固体希釈剤マトリックス上に分散される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
固体希釈剤マトリックスが、前記
ローズベンガルジナトリウム化合物の1つ又は複数の層で被覆された糖球体から構成される、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記腸溶性コーティングが、5.5から7.0の公表pH値で溶解又は崩壊する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
哺乳類の被験体内の固形癌性腫瘍の治療に使用するための医薬組成物であって、前記医薬組成物は、
前記固形癌性腫瘍治療有効量のローズベンガルジナトリウム化合物を含み、
胃のpH値を上回るpH値で溶解又は分散するポリマー膜で被覆され前記哺乳類の被験体に経口投与される、医薬組成物。
【請求項7】
前記投与が、少なくとも前記固形癌性腫瘍の体積が少なくとも30パーセント減少するまで複数回繰り返される、請求項
6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記
ローズベンガルジナトリウム化合物が固体医薬組成物の一部として投与される、請求項
6に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記固体医薬組成物が錠剤又は複数の概ね球状の顆粒の形態をとる、請求項
8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
哺乳類の被験体内の消化管の癌の治療、又は癌の形成の抑制に使用するための
固形薬剤の医薬組成物であって、前記医薬組成物は、癌形成抑制又は癌治療有効量の
ローズベンガルジナトリウム化合物を含み、前記哺乳類の被験体に経口投与され
、前記投与が、前記哺乳類の被験体の消化管の癌を治療し、前記固形薬剤が、前記消化管の前記癌が位置する部分のpH値で、前記ローズベンガルジナトリウム化合物を放出する、医薬組成物。
【請求項11】
前記投与が繰り返される、請求項
10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記癌が胃にある、請求項
10に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記癌が小腸にある、請求項
10に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記癌が結腸にある、請求項
10に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記固形薬剤が錠剤である、請求項
10に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記固形薬剤が、前記
ローズベンガルジナトリウム化合物を含有する複数の被覆された粒子を含むカプセルである、請求項
10に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記被覆された粒子のコーティングが、前記HX化合物を放出するために、
5.5から7.0の公表pH値で溶解又は崩壊する、請求項
16に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化キサンテンを用いた経口治療によって固形癌性腫瘍を治療するための方法及び組成物を意図する。
【背景技術】
【0002】
癌は2つの方法で、つまり、癌が由来する組織の種類(組織型)と、原発部位、すなわち癌が最初に発生した体内の場所とによって分類される。以下の考察は組織型に基づいた癌分類を対象とする。
【0003】
組織型の分類及び命名の国際基準は、国際疾病分類、腫瘍学、第3版(ICD‐O‐3)、世界保健機関、ジュネーブ、スイスである。組織学的観点から見れば、何百種類もの癌が存在し、上皮性悪性腫瘍、非上皮性悪性腫瘍、骨髄腫、白血病、リンパ腫、及び混合タイプの6つの主要カテゴリに分類される。
【0004】
それらの6つのグループはまた、固形腫瘍と血液癌とに更に細分化される。固形腫瘍には上皮性悪性腫瘍、非上皮性悪性腫瘍、リンパ腫及び混合型が含まれるのに対し、骨髄腫及び白血病は血液癌である。この発明は固形腫瘍を対象とする。
【0005】
非上皮性悪性腫瘍は、体の骨、又は軟骨、脂肪、筋肉、血管、繊維組織、他の結合組織若しくは支持組織を含む軟組織から始まる癌の一種である。異なる種類の非上皮性悪性腫瘍は、その癌がどこで生じるかに基づく。
【0006】
リンパ腫は免疫系の細胞から始まる癌である。リンパ腫には2つの基本カテゴリがある。1つはホジキンリンパ腫であり、リードシュテルンベルグ細胞と呼ばれる種類の細胞の存在を特徴とする。もう1つのカテゴリは非ホジキンリンパ腫であり、大きくて多様な免疫細胞の癌のグループを含む。非ホジキンリンパ腫は更に、緩慢な経過をたどる(進行が遅い)癌と急速な経過をたどる(急激に成長する)癌とに分けられる。
【0007】
混合型の癌は、少なくとも2つの異なる種類の胚細胞腫瘍(精子又は卵子を形成する細胞から始まる腫瘍)から構成される珍しい種類の癌である。これらには絨毛種、胎児性癌、卵黄嚢腫瘍、奇形腫、及び精上皮種が含まれる可能性がある。混合胚細胞腫瘍はほとんどの場合、卵巣又は精巣で発生するが、胸部、腹部、又は脳で発生することもある。
【0008】
上皮性悪性腫瘍、上皮組織の悪性腫瘍は、全ての固形腫瘍癌症例の80~90パーセントを占める。「上皮性悪性腫瘍」という言葉は、上皮由来の悪性新生物又は体の内外層の癌を指す。
【0009】
上皮組織は全身に見られる。上皮組織は、皮膚だけでなく、臓器及び消化(GI)管などの内部通路の外膜及び内膜にも存在する。大抵の上皮性悪性腫瘍は、乳汁を産生する乳房、粘液を分泌する肺、結腸、前立腺又は膀胱などの分泌能力がある臓器又は腺に影響を及ぼす。
【0010】
上皮性悪性腫瘍は2つの主要なサブタイプ、すなわち臓器又は腺で増殖する腺癌と、扁平上皮から発生する扁平上皮癌とに分けられる。腺癌は一般に粘膜で発生し、初めは肥厚したプラーク様の白色粘膜に見える。腺癌は発生した軟組織を介して容易に広がることが多い。扁平上皮癌は体の多くの領域で発生する。
【0011】
上皮性悪性腫瘍のうち、本発明が特に関心があるのは消化管の上皮性悪性腫瘍である。消化管は、食べ物や飲み物が飲み込まれ、消化吸収され、ふん便として体から出て行く際に通過する器官からなる。これらの器官には、口、咽頭(咽喉)、食道、胃、小腸、大腸、直腸、及び肛門が含まれる。GI管は消化管とも呼ばれる。
【0012】
上皮性悪性腫瘍を取り扱いながら組織学的命名型から切り替えると、以上で命名された器官のそれぞれが、食道癌、胃癌、結腸癌など、より一般的に参照される器官名の付いた上皮性悪性腫瘍を有する可能性がある。消化管の一部であると見なされる又は時に見なされ得る膵臓、胆嚢、及び虫垂などの器官は本明細書には含まれない。それらの器官は口から肛門までの経路に接合されているが、口に進入するもののほとんどがそれらの3つの器官に進入することはない。むしろ流れは、各器官から肛門への経路への概ね一方向である。
【0013】
口から始めると、口(口腔)及び周辺領域のいくつかの上皮性悪性腫瘍が存在する。口腔癌は、頭頸部癌と呼ばれるカテゴリに分類されるいくつかの種類の癌のうちの1つである。口腔癌及びその他の頭頸部癌は同様に治療されることが多い。
【0014】
口腔癌は、唇及び口の内側を埋め尽くす扁平な薄い細胞(扁平上皮細胞)から始まることが最も多い。ほとんどの口腔癌が扁平上皮癌である。
【0015】
鼻及び咽喉の上皮性悪性腫瘍も比較的よく見られる。これらの癌は鼻咽頭(上咽喉)、中咽頭(中咽喉)、及び下咽頭(下咽喉)に発生する可能性がある。これらは通常、口及び咽喉を埋め尽くす扁平上皮細胞から発生する。
【0016】
食道の近位(上)3分の2における最も一般的な食道腫瘍は扁平上皮癌であり、遠位(下)3分の1では腺癌が最も一般的である。ほとんどの腺癌は、バレット食道から発生し、慢性の胃食道逆流症及び逆流性食道炎に起因する。バレット食道では、急性食道炎が治癒する過程で、治癒が胃酸の持続的存在下に起こる場合、食道下部の正常な重層扁平上皮が、刷子縁及び杯細胞を伴う化生性、円柱状、腺性の、腸様の粘膜に置き換わる。
【0017】
胃癌は何年もかけてゆっくりと進行する傾向がある。本物の癌が進行する前に、前癌変化が胃の内壁(粘膜)に起こることがよくある。これらの初期変化はめったに症状を引き起こさないため、発見されないことがよくある。
【0018】
胃の様々な部分から始まる癌が様々な症状を引き起こす可能性があり、様々な結果をもたらす傾向がある。癌の場所はまた治療選択肢に影響を及ぼす可能性がある。例えば胃食道(GE)接合部から始まる又は胃食道(GE)接合部に向かって成長する癌は通常、食道の癌と同様に段階分けされ治療される。
【0019】
胃のほとんどの癌(約90%~95%)は腺癌である。これらの癌は、胃(粘膜)の最も内側の層の腺細胞から発生する。
【0020】
胃腺癌には2つの主要な種類がある。腸型はわずかに予後が良い傾向がある。癌細胞は、標的薬剤治療による治療を可能にし得る一定の遺伝子変化が起きる可能性が高い。びまん型はより急速に成長し広がる傾向がある。びまん型は腸型より一般的でなく、治療がより困難な傾向がある。
【0021】
小腸で発見される癌の種類は、腺癌、非上皮性悪性腫瘍、カルチノイド腫瘍、消化管間質腫瘍、及びリンパ腫である。腺癌は小腸の内層の腺細胞から始まるものであり、小腸癌の最も一般的な種類である。これらの腫瘍のほとんどは小腸の胃に近い部分に発生する。
【0022】
結腸直腸癌は、米国において男女ともに3番目に多い癌で年間の新規発生数が約150,000件であり、2番目に多い癌の死亡原因であり、約53,000人が死に至る[Cancer Facts & Figures 2021、米国癌協会、アトランタ、ジョージア州、2021年]。発生率は2013~2017年で1年に約1%低下し、死亡率は2014~2018年で1年に約2%低下しているが、50歳未満の成人の発生率は一般集団の2倍で上昇しており、若い成人によりもたれされる死亡率の向上の反転の可能性の前兆となる。これらの統計のそれぞれは、発見、治療及び予防における更なる改善の切迫した必要性を強調する。
【0023】
結腸直腸悪性腫瘍の90%超は腺腫性ポリープから腺癌へと進展する。これらは、無制御な腺窩細胞の分裂によって境界の明瞭な上皮異形成塊と定義される可能性がある。いくつかのエビデンスは上皮性悪性腫瘍が通常は既存の腺腫から発生することを示しているが、これは全てのポリープが悪性変化を来すことを意味するのではなく、「デノボ」発癌を排除するものではない[Ponz et al., Digest Liver Dis 33(4):372‐388(2001年5月)]。発生率及び疫学、病因、発症機序、及び検証推奨事項は結腸癌及び直腸癌の両方に共通である。
【0024】
特定の非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)が結腸直腸発癌を抑制する可能性があり、化学予防的であることを示す臨床研究[Chan et al., Ann. Intern. Med., 140:157‐166(2004年)]は、これらの傾向が改善し得るという希望を与える。追加の前臨床研究及び早期の臨床研究は、NSAIDの有益性が抗血管新生効果及びアポトーシス促進効果を介してCOX‐2阻害剤に及び得ることを示唆している[Gasparini et al., Lancet Oncol., 4:605‐615(2003年);Chen et al., Cancer Sci., 94:253-258(2003年);Rahme et al., Gastroenterology, 125:404-412(2003年);Evans et al., Am. J. Clin. Oncol., 26:S62-65(2003年);及びRao et al., Curr. Cancer Drug Targets, 4: 29-42(2004年)]。しかし残念ながら、最も有効なNSAID投与量は、長期療法に一般的に使用される量を優に上回る場合があり、予防的使用に伴う潜在的なリスクを示し[Chan et al., Ann. Intern. Med., 140:157‐166(2004年);Rao et al., Curr. Cancer Drug Targets, 4: 29-42(2004年);Mamdani et al., Lancet, 363:1751-1756(2004年);Mukherjee et al., J Amer Med Assoc, 286:954-959(2001年);及びFitzgerald, N. Engl. J, Med., 351:1709-1711(2004年)]、更なる臨床開発及び創薬の必要性を強調する。
【0025】
肛門癌は肛門管で発生するまれな種類の癌である。肛門管は、直腸の端にある、ふん便が体から出る肛門縁までの短い管(約3~5cm)である。肛門縁は、肛門管が肛門で外側の皮膚に接合する場所である。この肛門縁の周りの皮膚は肛門周囲皮膚と呼ばれる。
【0026】
肛門縁において、肛門管下部の扁平上皮細胞は、肛門のすぐ外側の皮膚と一体化する。この肛門縁の周りの皮膚は肛門周囲皮膚と呼ばれ、同様に扁平上皮細胞から構成されているが、肛門管下部の内壁には見られない汗腺及び毛包も含む。肛門管の内層は粘膜である。殆どの肛門癌は粘膜の細胞から発生し、米国における肛門癌の約90パーセントは扁平上皮癌である。
【0027】
ローズベンガル(4,5,6,7-テトラクロロ-2’,4’,5’,7’-テトラヨードフルオレセイン;RB)は、およそ90年間にわたるヒトへの広範で安全な使用履歴を有する非毒性の小分子である。RBの新規な治療上の使用の皮膚科学及び腫瘍学的な評価は文献で入手可能である[A. Periasamy及びP.T. So, P.T. (Eds), Multiphoton Microscopy in the Biomedical Sciences II. SPIE,ベリンガム,ワシントン州, vol. 4620, pp.143-147(2002年)のWachter et al., Lasers Surg. Med., 32:101-110(2003年);Wachter et al., “Functional Imaging of Photosensitizers Using Multiphoton Microscopy”及びD.L. Farkas及びR.C. Leif, R.C. (Eds) Optical Diagnostics of Living Cells V. SPIE,ベリンガム,ワシントン州, vol. 4622, pp. 112-118(2002年)のWacter et al.,(2002年)“Imaging Photosensitizer Distribution and Pharmacology Using Multiphoton Microscopy”]。長期の毒物学データの徹底的な見直しも公開されている[Ito et al., J Natl Cancer I, 77:277-281(1986年)]。
【0028】
これらの出版物を検討して、我々は印象的だが明らかに認識されていない傾向、すなわち、B6C3F1マウスへのRB(飲用水中に0.1~0.5%の濃度)の持続的な経口投与によって、無治療対照群より82週齢における生存率が大幅に高くなった(すなわち、雄の対照群については94%対52%、雌の対照群については90%対64%)ことに気が付いた。このマウス株は、自発的腫瘍形成、特に肝腺腫及び肝癌に対する著しい傾向を示すため[Haseman et al., Toxicol. Pathol., 26:428-441(1998年)]、これらのデータは、RBの持続的投与が一部の腫瘍に対して予防、治療、化学的予防又は化学的治療効果をもたらし得ることを我々に示唆した。
【発明の概要】
【0029】
本発明は、哺乳類の被験体内の固形癌性腫瘍を、有効量のハロゲン化キサンテン(HX)、そのラクトン、薬学的に受容可能な塩、又はC1‐C4アルキル若しくはその芳香族エステルを哺乳類の被験体に経口投与することによって治療する方法を意図する。好ましくは、上記HX、薬学的に受容可能な塩、又はC1‐C4アルキル若しくはその芳香族エステルはローズベンガルジナトリウムである。具体的には、意図される薬学的に受容可能な塩、C1‐C4アルキル及び芳香族エステルは以下で詳細に考察される。意図されるハロゲン化キサンテン、その薬学的に受容可能な塩、及びC1‐C4アルキル又はその芳香族エステルは、以下において表現の効率化のために「HX化合物」という用語の下にまとめられる。
【0030】
固形癌性腫瘍の治療の一態様は、治療される腫瘍が上皮性悪性腫瘍、非上皮性悪性腫瘍、リンパ腫、及び混合型腫瘍である。好適な態様では、治療される固形腫瘍は上皮性悪性腫瘍である。更に好適な態様では、上皮性悪性腫瘍は消化(GI)管に存在している。
【0031】
固形腫瘍組織の暴露は、消化(GI)管内での投与されたHX化合物の直接相互作用(接触)によって、並びに/又は投与されたHX化合物のGI管から血流への吸収及び結果として生じる投与されたHX化合物の一部の血流を介したGI管内の腫瘍部位又はGI管を越えた体内の他の場所への分配及び送達によって行われる可能性がある。
【0032】
本明細書で意図される経口治療固形腫瘍の我々の研究の一部として発生した例示的な態様は、意図されるHX化合物の哺乳類の被験体への経口投与が、既に形成された結腸直腸癌を治療するだけでなく、結腸直腸癌などの消化管(GI)の上皮性悪性腫瘍の形成を抑制することができることである。
【0033】
好適なHX化合物はローズベンガル、そのジナトリウム(RBジナトリウム)塩、又はローズベンガルラクトンである。方法は一般的に、特に消化管癌の形成を抑制することが意図される場合に数回繰り返される。
【0034】
好適な態様では、HX化合物は、哺乳類の被験体に投与される場合に水性希釈剤に溶解又は分散される。水性希釈剤が糖及び/又はフラボラントとして存在する緩衝剤を除いて等張化剤を含まないことがより好ましい。
【0035】
別の好適な態様では、HX化合物は、哺乳類被験体に投与される場合に固体医薬組成物の一部である固体希釈剤マトリックス内にある。好ましくは、組成物は、GI管の上皮性悪性腫瘍が位置する部分の又は体内吸収が最適化されるpH値でHX化合物を放出する。例示的な癌の位置は、胃、小腸又は結腸内である。最適な体内吸収のための例示的な放出位置は、十二指腸及び小腸である。
【0036】
一態様では、固体医薬組成物は錠剤である。別の態様では、固体医薬組成物は、HX化合物を含有する複数の被覆粒子を含むカプセルである。好ましくは、かかる被覆粒子のコーティングは、HX化合物を放出するために予め選択されたpH値で溶解又は崩壊する。
【0037】
各実施形態及び上記の本発明の態様では、HX化合物の活性成分は、体内に入ると塩又はエステルとして存在し得るローズベンガル(RB)であることが好ましい。ジナトリウムローズベンガル(RBジナトリウム)が水媒体への溶解度の点で特に有用である。更に、ラクトン型のローズベンガルも、極めて純粋な形で調製することができ、約pH5より大きい管腔内pH値で吸収可能な塩形態に転換するために好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】経口投与されたローズベンガルで治療されたApc
Minマウス対無治療対照群の雌マウスの生存期間を示すグラフ(両群ともn=8匹)。治療が約5週齢(症状の発現前)で始まり、マウスは飲用水として不断に連続投与される殺菌された水道水で4mg/mLのRBジナトリウムを摂取した(治療群)又は殺菌された水道水を摂取した(対照群)。治療群マウスは(30週齢まで)無症状であったのに対し、対照群は16週で症状を示し始めた。対照群の平均生存期間=19.6±0.6週(SE);治療群マウスの平均生存期間は定まらない。対照群は黒いひし形で示され、ローズベンガルで治療されたマウスは黒丸で示されている。
【
図2】腸内出血が発生するまで殺菌された水道水に6週間戻された
図1のように治療されたApc
Minマウスの生存期間を示すグラフ。次いで1mg/mLのRBジナトリウムを飲用水で摂取する(治療群)又は標準飲用水を摂取する(対照群)8匹のマウスが無作為に選ばれた(両群ともn=4匹)。症状が発現したときに治療を開始した。対照群の平均生存期間=8.9±0.8週;RB治療群=12.3±0.5週。対照群は黒いひし形で示され、ローズベンガルで治療されたマウスは黒丸で示されている。
【
図3】投与されたローズベンガル濃度(モル濃度)の対数対固形腫瘍治療を評価するときまでのHX化合物の被験体内における持続時間の対数をプロットした、いくつかの異なる研究からのデータの両対数グラフ。「病巣内投与」は、Thompson et al, Melanoma Res 18:405‐411(2008年)に存在するデータを表し;「Swift 2018, 2019」は、Swift et al. Oncotargets Ther 12:1293-1307(2019年)及びSwift et al., J Clin Oncol 36:Suppl;abstr 10557(2018年)からのものであり;「経口Apc
Min」は本研究からのデータである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明は、哺乳類の被験体内の固形癌性腫瘍を、有効量のハロゲン化キサンテン(HX)、そのラクトン、薬学的に受容可能な塩、又はC1‐C4アルキル若しくはその芳香族エステル(HX化合物)を上記哺乳類の被験体に経口投与することによって治療する方法を意図する。
【0040】
結腸直腸癌のようなGI管の固形癌性腫瘍などの固形癌性腫瘍はもちろん、あらゆる癌が何らかの形で経口投与されたHX化合物の影響を受けることは、HX化合物の低いバイオアベイラビリティ、薬剤の最初の減衰のため、更に他の文脈でローズベンガル(RB)などのHX化合物について既に報告された半減期が比較的短い(約30分)ため全く予想外であった。したがって、ローズベンガルジナトリウム、薬学的に受容可能な塩形態の例示的なHX化合物の経口投与が、治療が行われない場合に結腸直腸腫瘍を増殖させるように特別に飼育された動物における結腸直腸腫瘍増殖の進行を遅らせることができたことは予想外であった。経口送達された意図されたHX化合物がかかる特別に飼育された動物における結腸直腸癌性腫瘍の形成を抑制できたことは更に一層予想外であった。
【0041】
使用対象動物の提供者であるジャクソン研究所が発行した電子ニュース(2015年4月8日)によれば、高脂肪食で育った(C57BL/6J‐Min/+(ヘテロ接合)マウス(Apc
Min)の100パーセント(100%)が腸管中に30個を超える腺腫を発症し、ほとんどが120日齢までに死亡した[Moser et al., Science 247:322-324(1990年)]。
図1のデータは、全ての対照マウスが約22週(154日)までに死亡していたのに対し、治療マウスは全て疾患発症の兆候なく約30週(210日)間生きたことを示している。
【0042】
腫瘍量の変化の評価は、癌治療の臨床評価の重要な特徴である。つまり、腫瘍縮小(客観的反応)、腫瘍停滞(疾患管理)、及び疾患進行が臨床試験の有益な指標である。腫瘍量の変化の評価基準は、Eisenhauer et al., Eur J Cancer 45:228‐247(2009年)によって公開された。それらの改訂ガイドラインは、改訂RECISTガイドライン(バージョン1.1)と呼ばれ、以下に記載される。
【0043】
4.3.1 標的病変の評価
【0044】
完全奏効(CR):全ての標的病変の消失。あらゆる病的リンパ節(標的又は非標的にかかわらず)は、短径で10mm未満に縮小しなくてはならない。
【0045】
部分奏効(PR):ベースライン径和に比して、標的病変の径和が少なくとも30%減少。
【0046】
疾患進行(PD):経過中の最小の径和(ベースライン径和が経過中の最小値である場合、これを最小の径和とする)に比して、標的病変の径和が少なくとも20%増加、かつ、径和が絶対値でも少なくとも5mm増加。(注:1つ以上の新しい病変の出現も進行と見なされる。)
【0047】
疾患安定(SD):経過中の最小の径和に比して、PRに相当する縮小がなくPDに相当する増大がない。
【0048】
上記の基準を使用して、HX化合物を含有する組成物を少なくとも疾患安定が得られるまで投与する(疾患管理)。より好ましくは、かかる投与は部分奏効が得られるまで継続される。最も好ましくは、完全奏効が得られるまで治療が継続する。
【0049】
したがって、投与は好ましくは複数回繰り返され、予防が意図される一部の場合には、哺乳類被験体の寿命の残りの期間繰り返される。治療は治療医の命令で毎日1回以上の頻度又は少ない頻度で行われる可能性がある。
【0050】
ジナトリウムRBなどのHX化合物を含有する医薬組成物が投与される、治療を必要としている固形癌性腫瘍を有する哺乳類被験体は、ヒトなどの霊長類;チンパンジーやゴリラなどの類人猿;カニクイザル若しくはマカクなどのサル;ラット、マウス、又はうさぎなどの実験動物;犬、猫、馬などのコンパニオンアニマル;又は雌牛若しくは去勢雄牛、羊、子羊、豚、山羊、ラマなどの食用動物などである可能性がある。
【0051】
一態様では、本発明は、固形腫瘍癌を有する哺乳類被験体を、癌治療有効量のハロゲン化キサンテン(HX)、そのラクトン、薬学的に受容可能な塩、C1‐C4アルキル又はその芳香族エステル、すなわちまとめて「HX化合物」をかかる哺乳類被験体に経口投与することによって治療することを意図する。
【0052】
上記の態様の特定の態様が、哺乳類被験体の消化管癌を治療する又はその形成を抑制する方法を意図する。かかる方法は、そのGI管において(a)癌が生じることが抑制される又は(b)治療すべき癌が存在している哺乳類被験体に、癌形成抑制又は癌治療有効量のハロゲン化キサンテン(HX)、そのラクトン、薬学的に受容可能な塩、又はC1‐C4アルキル若しくはその芳香族エステルを経口投与することを含む。
【0053】
ハロゲン化キサンテンの経口投与
【0054】
固形癌性腫瘍治療有効量のハロゲン化キサンテン、そのラクトン、薬学的に受容可能な塩、又はC1‐C4アルキル若しくはその芳香族エステルを、固体又は液体の状態で経口投与することができる。ハロゲン化キサンテンは、好ましくはローズベンガルであり、より好ましくはジナトリウム又はジカリウム塩などのローズベンガルの薬学的に受容可能な塩である。
【0055】
意図されるHX化合物には、特に好適なローズベンガル(4,5,6,7‐テトラクロロ‐2’,4’,5’,7’‐テトラヨードフルオレセイン;RB)、エリトロシンB、フロキシンB、4,5,6,7‐テトラブロモ‐2’,4’,5’,7’‐テトラヨードフルオレセイン、2’,4,5,6,7‐ペンタクロロ‐4’,5’,7’‐トリヨードフルオレセイン、4,4’,5,6,7‐ペンタクロロ‐2’,5’,7’‐トリヨードフルオレセイン、2’,4,5,6,7,7’‐ヘキサクロロ‐4’,5’‐ジヨードフルオレセイン、4,4’,5,5’,6,7‐ヘキサクロロ‐2’,7’‐ジヨードフルオレセイン、2’,4,5,5’,6,7‐ヘキサクロロ‐4’,7’‐ジヨードフルオレセイン、4,5,6,7‐テトラクロロ‐2’,4’,5’‐トリヨードフルオレセイン、4,5,6,7‐テトラクロロ‐2’,4’,7’‐トリヨードフルオレセイン、4,5,6,7‐テトラブロモ‐2’,4’,5’‐トリヨードフルオレセイン、及び4,5,6,7‐テトラブロモ‐2’,4’,7’‐トリヨードフルオレセインが含まれる。
【0056】
読者は、上記のハロゲン化キサンテンなどの医薬組成物とともに薬学的に受容可能な塩を形成する一般的に使用される薬学的に受容可能な酸及び塩基のリストについて、Berge, J. Pharm. Sci. 1977 68(1):1‐19に向けられる。例示的な陽イオンには、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属と、アンモニウム塩並びにマグネシウム及びカルシウムなどのアルカリ土類塩が含まれる。ローズベンガルのジナトリウム塩は特に好ましい。
【0057】
上記ハロゲン化キサンテン化合物のうちの1つのC1‐C4アルキルエステルが使用される可能性もあり、C2、すなわちエチルエステルが好ましい。RB、エチルレッド 3(エリトロシンエチルエステル;2’,4’,5’,7’‐テトラヨード‐フルオレセインエチルエステル)、4,5,6,7‐テトラブロモ‐2’,4’,5’,7’‐テトラヨードフルオレセイン及びエチル‐フロキシンB(4,5,6,7‐テトラクロロ‐2’,4’,5’,7’‐テトラブロモ‐フルオレセインエチルエステル)のそれぞれを使用したin vitro試験は、CCL‐142腎臓腺癌に対して同様の抗腫瘍活性を示した。
【0058】
意図される芳香族エステルが、HX化合物と、5若しくは6員の芳香環、又は独立して窒素、酸素又は硫黄である0個、1個若しくは2個のヘテロ環原子を含む5,6若しくは6,6縮合芳香環系を有する芳香族アルコールとの反応によって形成される。芳香族エステルが使用される場合、好ましくはベンジル、フェニル又は2‐、3‐、若しくは4‐ピリジル(ピリジル)エステルであり、以下で考察されるように他の芳香族単環及び縮合環含有エステルも意図される。ベンジルエステルは「アラルキルエステル」と考えられることが多いが、この発明の目的のために芳香族エステルと見なされることが理解されるべきである。
【0059】
かかる芳香族アルコールのエステル部位の実例が以下に名前付きで示されている。ここでOは酸素原子であり、線Oは、環酸素が環の利用可能な炭素からのものであり得ることを示し、波線が交差したO線は、描かれたアルコキシ基が別の分子、エステル化されたHX分子の一部分であることを示す。
【0060】
【0061】
ローズベンガルは好適なHX化合物であり、そのジナトリウム塩、ローズベンガルジナトリウムが最も好ましい。ローズベンガルジナトリウムの構造式を以下に示す:
【0062】
【0063】
上記のHX化合物を含有する医薬組成物の医学的用途の更なる詳細は、その開示内容が参照によって本明細書に全体として組み込まれる米国特許第5,998,587号、第6,331,286号、第6,493,570号、第7,390,688号、第7,648,695号、第8,974,363号、第9,107,887号、第9,808,524号、第9,839,688号、第10,130,658号及び第10,471,144号に記載されている。
【0064】
【0065】
腫瘍細胞がHX化合物に暴露されるとき、HX化合物の不可逆的な蓄積が腫瘍リソソームで起こり、リソソームの完全性を不安定にするのに十分な濃度が達成されると腫瘍の自己分解を誘発する[Wachter et al., SPIE 4620:143‐147(2002年)]。これは、この細胞死の免疫原性メカニズムが、細胞毒性が2つのパラメータの積に比例する(すなわち、細胞毒性=f([HX]・t))、濃度・時間関数に基づいた暴露条件の範囲にわたって引き起こされ得ることを示唆している。
【0066】
例えば、RBが様々な固形腫瘍(例えば、黒色腫、肝細胞癌、乳癌)への病巣内注射によってin vivoで投与されるとき、腫瘍組織(25‐50mM)における約25‐50mg/gの腫瘍内RB濃度について約30分以内の急性腫瘍細胞毒性が明らかである[Thompson et al, Melanoma Res 18:405‐411(2008年)]。
【0067】
Swift et al.[Oncotargets Ther 12:1293‐1307(2019年)]は、約50~100μMの濃度での96時間のRBへのin vitro暴露の際に難治性小児固形腫瘍(神経芽細胞腫及び神経上皮腫)の細胞毒性を示した。また、Swift et al., J Clin Oncol 36:Supple; abstr 10557(2018年)は、同等の暴露の下で追加の難治性小児固形腫瘍(ユーイング肉腫、骨肉腫及び横紋筋肉腫)に細胞毒性を示した。
【0068】
持続的経口投与によるRBへの長期間の暴露は、マウスApcMin結腸直腸腫瘍モデルにおいて結腸癌の形成を防ぐこと(予防活性)及び結腸癌の進行を止めること(治療活性)が示されている。治療的使用について、1mg/mLの濃度のRBを飲用水で不断に摂取した症状のあるマウスは、未治療のマウスに比べて平均生存期間が約38%延びた(12.3±0.5週対9.8±0.8週)。1日当たりの飲用水消費率を体重10g当たり約2mLと仮定すると、これは10g当たり約2mg(200mg/kg)のRBの消費量に相当する。経口経路を介して水溶液で投与されたRBジナトリウムのバイオアベイラビリティは、発明者らが行ったマスバランス試験に基づいて制限されていると思われ、0.2~2mg/kgの一日全身暴露量に相当する0.1~1%と推定される可能性がある。この量が血流を通じて分配され、血液量が体重の約10%であると仮定すると、これはRBの血中推定濃度2~20μMに等しい。
【0069】
これらのデータをプロットすると、仮説的な関係(すなわち細胞毒性=f([HX]・t))が、
図3に示すように実験結果によって裏付けられることが確かめられる。
【0070】
より重要なことは、この関数関係は、全身投与の際に抗腫瘍予防結果又は抗腫瘍治療結果を得るのに適切な投与量及びスケジュールの予測を可能にすることである。ApcMinモデルで調査されたものと同等の延長された治療スケジュールでは、循環するHX化合物の低いマイクロモル濃度(すなわち約10μM)が、約3カ月間にわたってリソソーム蓄積及び腫瘍細胞破壊を達成するのに十分である一方、マイクロモルからマイクロモル以下の濃度(すなわち約1μM)が、約12カ月間にわたって腫瘍細胞破壊を達成するのに十分である。
【0071】
本明細書のApcMinデータは、RBのジナトリウム塩の単純な剤形が治療効果のあるRBの量を送達するのに十分であることを示すが、これはバイオアベイラビリティに関して理想的な効率性に満たないことがある。したがって、経口送達されたHX化合物の効率的な遊離及び吸収を達成するのに適当な剤形を決定することが、当業者によく知られている標準的な医薬開発の問題であり、剤形の特性を、溶解したHX化合物の血流への吸収を最大化するために、GI管内の適切な箇所での遊離(崩壊、解離及び溶解)の制御によって所望のバイオアベイラビリティを達成するために変化させることができる。
【0072】
処方の最適化は、投与量及び剤形が所望の投与スケジュールどおりに必要な全身暴露を達成するために調整されるように(例えば、数日ほどの短期間の暴露の場合は血流に約100μM、数カ月ほどの中期間の暴露の場合は約1~約10μM、1年以上の長期暴露の場合は約1μM以下)、吸収の標準的な薬物動態学的試験によって導かれる可能性がある。
【0073】
HX化合物の二塩基塩形態は約5より大きいpHを有する溶液に存在するのに対し、pH<5ではHX化合物は自発的にそのラクトン型に変換する。二塩基塩形態は水媒体に極めて溶解しやすいのに対し、ラクトン型は水媒体に溶解しにくいため、前者は後者と比較してGI管においてより高いバイオアベイラビリティを示す。したがって、GI管のpH値を適切に補償するために剤形を最適化することは、おそらくバイオアベイラビリティに影響を及ぼす最も重要なパラメータである。例えば胃は、pH<4の場合、溶解したHX化合物が不溶性のラクトン型に急速に変換される。ラクトン型になると、HX化合物はヒステリシス及び吸収性塩形態への再鹸化の障害を示し、下流でのバイオアベイラビリティを遅延又は抑制する。
【0074】
しかしながら、管腔内pH値は胃での強酸性から十二指腸での約pH6に急速に増加し、更に小腸でのpH6から回腸末端での約pH7.4に増加し、pHが盲腸で5.7に下がった後、徐々に増加して直腸でpH6.7になる。[pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10421978/.]したがって、好ましいpH値が溶解可能な吸収性二塩基塩形態でのHX化合物の遊離を促進する腸内遊離を達成するために、製剤処方の分野における標準的な手段を適用することによって、バイオアベイラビリティを最適化することができる。
【0075】
12カ月の治療計画の場合、これらのデータは、約1μM(1mg/L)の目標濃度が血流中で達成されなければならないことを示す。70kgの成人の場合、血液量が体重の約10%を占める(すなわち約7L)が、これは1日当たり7mgのHX化合物の吸収を意味する。バイオアベイラビリティが投与されるHX化合物の1%に制限される場合、この目標血中濃度を達成するために経口で(PO)700mgのHX化合物が1日に必要になる。
【0076】
しかしながら、吸収を投与量の50%に最適化することによって、必要なPO投与量は1日当たり約15mgに減る。短期の治療計画(すなわち3カ月)の場合、これらのデータは、約10μM(10mg/L)の目標血中濃度が達成されなければならないことを示す。バイオアベイラビリティを1%と仮定すると、POで7gのHX化合物が1日当たり必要となるのに対し、50%のバイオアベイラビリティでは必要な投与量が1日当たり約150mgに減る。
【0077】
本発明の一態様では、意図される経口投与用のHX化合物は通常、無菌水性医薬組成物に溶解又は分散させて使用される。滅菌水道水又は別のソースからの滅菌水を使用することができる。
【0078】
HX化合物は通常、意図される水性医薬組成物に約0.1~約20%(w/v)で存在する。より好ましくは、かかる濃度は約0.2~約10%(w/v)であり、最も好ましくは、濃度は約0.2~約5%(w/v)である。したがって、例えば上記の1日当たり150mgの投与量は、5%(w/v)水溶液を3mL使用することによって容易に達成される可能性がある。
【0079】
ジナトリウムローズベンガルなどの様々なHX化合物のバイオアベイラビリティはよく特徴付けられていない。譲受人の1人により委託された研究は、ジナトリウムローズベンガルのバイオアベイラビリティが1%未満であると、14C‐RB水溶液を経口でマウスに与えた放射性標識試験に基づいて結論付けた。胃ではpH値が<4であり、HX化合物がラクトン型になる可能性が高い。胃でのラクトンへの変換はHX化合物を破壊しないが、かかるラクトン型への変換は腸での吸収に必要な可溶性塩形態への再変換に対する速度論的及び/又は熱力学的障壁となる可能性がある。
【0080】
以下で考察されるApcMinマウスの研究は、4mg/mLを飲用水で不断に消費したマウスが疾患の発症を阻止したことを示した。したがって、それらのApcMinマウスは、8mg/10g/日=800mg/kg/日を消費したことがわかる。かかる量は、そのような投与量に耐性があることを示す毒物学データと一致する。したがって、ローズベンガルを食品着色料(食品赤第105号)として研究しているIto et al., J Natl Cancer I, 77:277-281(1986年)は、C57BL6Nマウスに970mg/kg/日の投与量で2年間持続的に不断給餌されたローズベンガルが良好な耐容性を示すことがわかった。以前使用された静脈注射(IV)肝臓診断薬は、標準的な60kgの成人の場合の1.9mg/kgに等しい、112mgのローズベンガルをボーラスとして送達したところ、これが病的状態をもたらすという報告はされていない。
【0081】
意図される医薬組成物の一般的特性
【0082】
組成物は、マンニトール及びブドウ糖のような糖などの等張化剤(又は張性調整剤)、プロピレングリコール、グリセロール及びソルビトールなどのC3‐C6ポリヒドロキシ化合物、塩化ナトリウムや塩化カリウムなどの等張塩、並びに/又はクエン酸、リンゴ酸、酢酸、その他の食品酸及びフレーバー及び軽度の緩衝(5mmol未満の緩衝剤)のために提供され得るそれらの塩以外の緩衝剤を含んでいないことが好ましい。胃及び下部GI管は、更なる塩及び/又は緩衝剤が必要とされないように中を流れる物質に適切な張性を与えるようにうまく適合されている。1つ以上のよく知られている薬学的に受容可能な矯味剤又はフラボラントが、組成物の飲用性を高めるために最大約5重量%で存在する可能性がある。
【0083】
液体医薬組成物
【0084】
GI管内又は体の他の部分にある固形癌性腫瘍を治療するために、固形癌性腫瘍治療量のHX化合物を含有する水性液体医薬組成物を、飲むことによって又は強制経口で投与することができる。治療対象の腫瘍が口腔内にある場合、かかる水性液体医薬組成物でうがいをし、口腔内に保持した後、吐き出すことができる。鼻咽喉癌などの腫瘍の場合、ネティポットを使用して液体を鼻腔に投与し、ネティポット装置の説明書に従って除去する。
【0085】
固形薬剤組成物により送達されるHX化合物の量は、水性組成物からのものと実質的に同じである。これは、特にHX化合物放出が十二指腸で又は直腸側にこれを過ぎた辺りで行われ、pH値に敏感な放出コーティングが、胃におけるHX化合物のラクトン型の制御されない形成を回避できるように、十二指腸又は腸の管腔内pH値で固形薬剤に利用される場合である。
【0086】
HX化合物の水性媒体への最大溶解度をもたらし、生体組織との適合性を保証するために、薬学的に受容可能な水性希釈剤のpH値が約5~約9であることが好ましい。特に好適なpH値は約5~約8であり、より好ましくは約6~約7.5である。これらのpH値において、ハロゲン化キサンテンは一般に、低いpH値で生じるラクトンではなく二塩基形態のままである。
【0087】
ローズベンガルなどのHX化合物は、pKa値が2.52及び1.81である二塩基である。いくつかの意図されるハロゲン化キサンテンのためのpKa値決定が、Batsitela et al., Spectrochim Acta Part A 79(5):889-897(2011年9月)に見られる。
【0088】
ローズベンガルジナトリウムなどのHX化合物の経口送達のための液体医薬組成物は、口、喉頭及び食道の固形癌性腫瘍を治療又は予防するのに特に有用である可能性があるが、かかる使用は、HX化合物が一般に接触したあらゆる組織を染色するため見苦しい可能性がある。結果として、固形のHX化合物含有医薬組成物も本発明の別の態様として意図される。
【0089】
固体医薬組成物
【0090】
RB若しくはジナトリウムRBなどのHX化合物、又はRBラクトンなどのHX化合物ラクトンが、腫瘍の部位の背側の組織に結合する無駄なHX化合物を少なくし、組織染色を見えにくくするように、胃を通過し(口より近い)癌の部位の比較的近くでHX化合物を放出するために腸溶性被覆されている、経口投与用の固体医薬組成物で投与されることが更に意図される。HX化合物は一般に、固体希釈剤マトリックス中に溶解若しくは分散されるか、又は固体希釈剤マトリックス上に分散される。
【0091】
哺乳類の体内における経口投与された固体医薬品の溶解に作用するいくつかの要因がある。それらの要因は、GI管に沿った様々な場所における薬剤の滞留時間、粒子サイズ、口から肛門にかけて遭遇する可能性がある体液への薬剤の個々の成分の溶解度、様々なコーティング層がある場合に薬剤に施される順序、及び特定のコーティング層が溶解できるpH値である。
【0092】
例えば強酸性の胃環境(絶食状態でpH1.5~2;摂食状態でpH3~6)は、十二指腸で約pH6に急速に上昇し、小腸に沿って増加して回腸末端でpH7.4になる。盲腸におけるpH値はpH6よりやや下落し、結腸で再度上昇して直腸でpH6.7に達する[Hua, Front Pharmacol 11:Article 524(2020年4月)]。ヒトの胃のpH値を有する水溶液に混入されたジナトリウムRBの溶液の観察によって、混合剤の急速な混濁及び以前の可溶性ジナトリウムRBの恐らくはラクトン型への凝集が明らかになった。
【0093】
胃通過は、絶食状態で0から2時間に及ぶ可能性があり、摂食状態で6時間まで延びる可能性がある。一般に、小腸の通過時間は比較的一定で約3~4時間と考えられるが、健常人で2~6時間に及ぶ可能性がある。結腸通過時間は非常にばらつきがある可能性があり、6~70時間の範囲が報告されている[Hua, Front Pharmacol 11:Article 524(2020年4月)]。
【0094】
GI管内の特定の場所への薬剤の予測可能な放出に有用な1つのアプローチは、上記のような予め選択されたGI管pH値で溶解又は崩壊するpH特異的なコーティング及びマトリックスに依存する。結腸内又はその付近での放出に特に好ましい中性又は弱アルカリ性のpH値を使用して、小腸の遠位部分又は結腸において薬物を放出する。
【0095】
下の表は、結腸ターゲティング(局所治療)のために単独又は組み合わせて使用されてきたpH依存ポリマーコーティングの一部の例を示しており、一部のメタクリル樹脂(Eudragit(登録商標)としてドイツのエッセンにあるEvonik Industries, AGから市販されている)、及びヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC;Methocel(登録商標)としてデラウェア州ウィルミントンにあるDuPont及びBenecel(登録商標)としてデラウェア州ウィルミントンにあるAshland, Inc.から入手可能)誘導体を含んでいる。また、特定のpH値範囲での放出をトリガすることに加えて、腸溶性コーティングは、過酷なGI管環境(例えば、胃液、胆汁酸、及び微生物分解)から取り込まれた活性薬剤を保護することができるとともに、治療効率を高めるために薬物の持続及び遅延放出特性を生み出すことができる。
【0096】
下の表は、いくつかの市販の腸溶性コーティングポリマー及びそれらのメーカーの「公表pH放出」値を示している。「公表pH放出」値は、全ての組成物又は環境に対して絶対的というわけではなく、溶解又は崩壊のための本明細書に記載のpH値はそれらの公表値に基づいている。
【0097】
【0098】
結腸癌の局所治療については、従来の非標的療法は望ましくない副作用があり、標的部位に到達する前の薬物の体内吸収により有効性が低いため、結腸標的薬物送達システムが積極的に追及されてきている。Liu et al., Eur. J. Pharm. Biopharm. 74:311-315(2010年)は、緩衝剤を含むEudragit(登録商標)Sのアルカリ性水溶液を内層に、Eudragit(登録商標)Sの有機溶液を外層に使用することによる二重コーティングアプローチを採用し、7より大きいpH値での薬物溶解を加速させた。その後、Varum et al., Eur. J. Pharm. Biopharm. 84:573-577(2013年)は、この二重被覆システムのヒトにおけるin vivoパフォーマンスを評価し、主に下部腸管で二重被覆錠剤のより着実な崩壊を示した。
【0099】
Hashem et al., Br. J. Pharm. Res. 3:420-434(2013年)は、プレドニソロンの結腸送達のための時間依存システム及びpH依存システムを組み合わせたマイクロスフィアを開発した。Eudragit(登録商標)Sとエチルセルロースを組み合わせて使用することによって、腸上部での早過ぎる薬物放出を防ぎながらより優れた結腸薬物送達を達成した。
【0100】
Eudracol(登録商標)は、薬物放出が遅延して均一な、結腸への標的薬物送達を行うマルチユニット技術の別の例である。このシステムは、ペレットをEudragit(登録商標)RL/RS及びEudragit(登録商標)FS30Dで被覆することに基づいており、pH及び時間依存的に結腸特異的な薬物放出を行う[Patel, Expert Opin. Drug Deliv. 8:1247-1258(2011年)]。
【0101】
小腸を標的にする1つの組成物は、約60~約95重量%のアクリル酸又はメタクリル酸のフリーラジカル重合されたC1‐C4アルキルエステル、及び約5~約40重量%の酸性基をアルキルラジカルに含む(メタ)アクリル酸モノマーから構成される1又は複数の(メタ)アクリル酸コポリマー層で被覆されている微粒子ローズベンガル(RB)で被覆された糖/スクロースビーズの希釈剤マトリックスを含む。
【0102】
特に適している(メタ)アクリル酸コポリマーは、約10~約30重量%のメタクリル酸メチル、約50~約70重量%のアクリル酸メチル、及び約5~約15重量%のメタクリル酸を含む(Eudragit(登録商標)FSタイプ)。同様に適しているのは、約20~約40重量%のメタクリル酸及び約80~約60重量%のメタクリル酸メチルの(メタ)アクリル酸コポリマーである(Eudragit(登録商標)Sタイプ)。「(メタ)アクリル酸」という語は、アクリル酸モノマー及びメタクリル酸モノマーの一方又は両方を使用できることを意味するのに使用されている。
【0103】
これらのコーティングポリマーは、粒子が胃から出る前のHX化合物放出をほとんど許可しない。十二指腸内の流体のpH値は一般に約6であり、回腸に向かって約7.4に上昇する。したがって、癌性腫瘍が胃に近い場合、より多量の遊離カルボン酸基を有するコーティングポリマーが使用されるのに対し、腫瘍が回腸寄りにある場合、より少量の酸性基を有するポリマーを使用することができる。
【0104】
通常の錠剤又はトローチ剤を、ラクトース(20%)及び活性成分(80%;HX化合物)を高速混合器(ドイツのオスナブリュックにあるDIOSNA社のタイプP10)で混合した混合物によって調製することができる。ポビドン(Sigma-Aldrich International GmbH、ブフス、スイス)などの賦形剤ポリビニルピロリドン(PVP)を含有する水溶液を、均一な組成物が得られるまで少しずつ添加する。湿潤粉体混合物をスクリーニングする。その後、よく知られているようにこれから錠剤を作り、乾燥させる。
【0105】
その後、結果として生じた錠剤又はトローチ剤は、好ましくはしばしば流動床装置を使用して保護ポリマーフィルムで被覆される。フィルム形成ポリマーが通常、可塑剤と混合され、適切なプロセスによって薬剤を放出する。フィルム形成剤はこの場合、溶液又は懸濁液の形態である可能性がある。フィルム形成のための賦形剤は、同様に溶解又は懸濁される可能性がある。有機溶媒若しくは水性溶媒、又は分散剤を使用することができる。分散を安定させるために安定剤を使用することもできる(例えば、Tween(登録商標)80又はその他の適当な乳化剤若しくは安定剤)。
【0106】
離型剤の例は、グリセロールモノステアレート又は他の適当な脂肪酸誘導体、ケイ酸誘導体若しくはタルクである。可塑剤の例は、プロピレングリコール、フタル酸塩、ポリエチレングリコール、セバシン酸塩又はクエン酸塩、及び前述し文献に記載されたその他の物質である。
【0107】
別の好適な薬剤の種類は、水溶性のカプセル又はブリスターであり、カプセルの水又は体液への溶解又は崩壊の際にHX化合物を素早く放出する1つ以上のポリマー樹脂層で覆われる、ローズベンガルジナトリウム又はローズベンガルラクトンなどのHX化合物の複数の粒子を含有する。カプセルは通常、ゼラチンから作られており、ジェルキャップと呼ばれることが多い。ゼラチンは動物製品である。ベジタリアンカプセルは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)で作られることが多い。
【0108】
一部の実施形態では、HX化合物は、形が概ね球状の粒子を形成するために1つ以上のポリマーのコートが直接積層される。そのような粒子はビーズと呼ばれることが多い。好ましい態様では、粒子(ビーズ)は、約90重量パーセントが20メッシュの篩(開口=850μm)スクリーンを通過し、約90重量%が80メッシュの篩(開口=180μm)スクリーン上に保持される大きさとされる。
【0109】
例示的なpH値に敏感なコーティングポリマー樹脂を以上で考察した。例示的なpH値に鈍感なコーティングポリマー樹脂を以上で考察した。コーティングポリマー樹脂のpH値感度は、以上で考察したようなGI管に沿って生理学的に存在するpH値という観点から理解されるべきである。
【0110】
他の実施形態では、小さい概ね球状のコアである、糖/デンプン種子などの小さいペレット、ノンパレイユ又は顆粒が、HX化合物の1つ又は複数の層及びポリマーコーティングの1つ以上の層で被覆される。例示的な糖/デンプンコアは、約40メッシュの篩(425μm開口)スクリーンから約50メッシュの篩(300μm開口)スクリーンを通過し、無水ベースで計算して62.5パーセント以上91.5パーセント以下のスクロースを含有し、残りが主としてデンプンから構成される糖球体NFである。(USP NF 1995 2313)。
【0111】
具体例では、100キログラム(kg)量のジナトリウムローズベンガル、7.1kg量の架橋カルボキシメチルセルロース(好ましくはクロスカルメロースナトリウムNF)、及び11.9kg量のデンプンNFをそれぞれ二分し、2つの同じバッチを形成するために3つの成分を混合する。バッチのそれぞれをフィッツパトリックミルなどのミルを使用して80メッシュスクリーンを通して粉砕する。次いで2つの粉砕したバッチを、混合物を形成するために混ぜ合わせ、当業者によく知られている認められた品質保証検査法に従って混合物の組成を検査する。
【0112】
その後、ジナトリウムローズベンガル混合物を3つの等しい部分に分け、第1の部分を全体のままとし、第2及び第3の部分をそれぞれ50パーセント、30パーセント及び20パーセントのロットに分割する。25.6kg量の40~50メッシュ糖/デンプン種子(例えば糖球体NF)をステンレス鋼コーティングパンに入れる。80リットル(L)量の5パーセントのポビドン/IPA溶液を粒子に噴霧するために用意する。
【0113】
コーティングパンは糖球体から始まり、その上にポビドンのアルコール溶液の塗装(1回につき約0.173kg)を噴霧し、またその上に第1の部分(全体のままの部分)からジナトリウムローズベンガル混合物の塗装(約0.32kg)を振りかける。振りかけは標準的な振りかけ器を使用して行う。噴霧及び振りかけステップは、混合物の第1の部分が糖球体に塗装されて一群の部分的に被覆された球体を形成するまで継続される。
【0114】
次いで部分的に被覆された球体を2つの同一のロットに分け、各ロットをコーティングパンに入れる。2つのロットのそれぞれに別々に、ポビドン/IPA溶液の噴霧及び50パーセントロットに分割されているジナトリウムローズベンガル混合物の振りかけを、50パーセントロットが球体に塗装されるまで継続する。50パーセントロットの塗装の後に、球体を必要であれば25メッシュスクリーンを使用してスクリーニングすることができる。
【0115】
ポビドン/IPA溶液の噴霧及び30パーセントロットに分割されているジナトリウムローズベンガル混合物の振りかけを開始し、30パーセントロットが球体に塗装されるまで継続する。被覆された球体を25メッシュスクリーンを使用して再度スクリーニングすることができる。
【0116】
ポビドン/IPA溶液の噴霧及びジナトリウムローズベンガル混合物の振りかけを、20パーセントロットに分割されている混合物を使用して、20パーセントロットが球体に塗装されるまで継続する。プロセスのこの時点で、ジナトリウムローズベンガル混合物の全量が球体に塗装され、約50kgの5パーセントのポビドン/IPA溶液が球体に塗装されている。
【0117】
7.5パーセントのポビドン/IPA溶液を用意し、密封剤として球体に塗装する。密封した球体を約1時間乾燥機で乾燥させ、重さを量り、約122°F(50℃)のオーブンに24時間入れる。乾燥後、球体を20メッシュスクリーン及び38メッシュスクリーンでスクリーニングして即時(遅延と比較して急速又は高速)放出粒子を形成する。
【0118】
以上で考察したHX化合物含有球体又はそのカプセル(若しくはブリスター)はまた、GI管に放出されると、pH値が所望のGI管位置のものでない限り球体がその活性成分であるHX化合物をその周囲に提供しないように、既に考察したpH値に敏感な腸溶性コーティングポリマーで被覆される可能性がある。
【0119】
HX化合物の放出位置を制御する別の方法は、以上で考察した球体(HX被覆粒子)を、HX化合物の球体からの放出が制御され6~10時間にわたって放出されるように、球体の表面に塗装されたポリマー樹脂の溶出制御被膜で更に被覆することである。この目的で使用される物質は、これらに限定されるわけではないが、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロース、カルボキシメチルセルロース、並びにエタクリル酸及びメタクリル酸のコポリマー(Eudragit(登録商標))、又は任意の他のアクリル酸誘導体(Carbopol(登録商標)など)である可能性がある。
【0120】
また、腸溶性コーティング剤が、単独で、又は上記のpHに鈍感なコーティングと組み合わせて使用される可能性もある。これらの材料には、これらに限定されるわけではないが、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び全てのセルロースエーテルのフタル酸エステルが含まれる。また、アクリル酸誘導体(Eudragit(登録商標))のフタル酸エステル、又は酢酸フタル酸セルロース。
【0121】
これらのコーティング剤は、コーティング面に約1.0%(W/W)~約25%(W/W)の量で用いられる可能性がある。好ましくは、これらのコーティング剤は約8.0~約12.0パーセント(W/W)で存在する。
【0122】
賦形剤
【0123】
薬学において慣習的な賦形剤を、剤型の製造においてそれ自体が知られている方法で使用することができる。これらの賦形剤は、コア又はコーティング剤中に存在する可能性がある。
【0124】
ポリマー
【0125】
HX化合物を糖顆粒又は球体に付着させるのに役立つ接着剤として使用される高分子材料は、HX化合物のコーティング層が使用される場合に賦形剤と見なされる。そのようなポリマーの例は、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、及びヒドロキシプロピルセルロースなどの他の水溶性の薬学的に受容可能なフィルム形成ポリマーである。
【0126】
乾燥剤(非粘着剤)
【0127】
乾燥剤は次のような特性を有する:比表面積が大きいこと、化学的に不活性であること、流動性があること、及び微粒子を含むこと。これらの特性によって、乾燥剤は、極性コモノマーを官能基として含有するポリマーの粘着性を低下させる。乾燥剤の例は、アルミナ、酸化マグネシウム、カオリン、タルク、微粒子シリカ、硫酸バリウム及びセルロースである。
【0128】
崩壊剤
【0129】
経口固形製剤にその分解を助けるために崩壊剤を添加する。崩壊剤は、水分と接触したときに固形製剤の急速な崩壊を引き起こすように処方される。崩壊は通常、溶出プロセスの第1のステップと見なされる。例示的な崩壊剤は、クロスカルメロースナトリウム、内部架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン(クロスポビドン)及びデンプングリコール酸ナトリウムを含む。
【0130】
離型剤
【0131】
離型剤の例は、脂肪酸又は脂肪アミドのエステル、脂肪族長鎖カルボン酸、脂肪アルコール及びそのエステル、モンタンワックス又はパラフィンワックス及び金属石鹸;特に言及すべきはグリセロールモノステアレート、ステアリルアルコール、グリセロールベヘン酸エステル、セチルアルコール、パルミチン酸、カルナウバワックス、密ろうなど。通常の量の割合は、コポリマーに対して0.05~5重量%、好ましくは0.1~3重量%の範囲である。
【0132】
製薬的に常用の他の賦形剤
【0133】
ここで言及すべきは、例えば安定剤、着色剤、抗酸化剤、湿潤剤、顔料、光沢剤などである。賦形剤は通常、加工助剤として使用され、確実で再現可能な製造プロセスと良好かつ長期の保存安定性とを保証することが意図される。製薬的に常用される別の賦形剤は、ポリマーコーティングに対して0.001~10重量%、好ましくは0.1~10重量%の量で存在することがある。
【0134】
可塑剤
【0135】
可塑剤として適当な物質は一般的に100~20,000の分子量を有し、分子中に1個以上の親水基、例えばヒドロキシル、エステル又はアミノ基を有する。クエン酸塩、フタル酸塩、セバシン酸塩、ヒマシ油が適当である。更なる適当な可塑剤の例は、クエン酸アルキル、グリセロールエステル、フタル酸アルキル、セバシン酸アルキル、スクロースエステル、ソルビタンエステル、セバシン酸ジブチル及びポリエチレングリコール4000~20,000である。好ましい可塑剤はクエン酸トリブチル、クエン酸トリエチル、クエン酸アセチルトリエチル、セバシン酸ジブチル及びセバシン酸ジエチルである。使用量は(メタ)クリル酸コポリマーに対して1~35重量%、好ましくは2~10重量%である。
【0136】
全身バイオアベイラビリティを最適化すること
【0137】
本明細書に記載の固体医薬組成物はGI管内の病変組織への直接送達を最適化することに関連して考察されているが、送達部位及び送達速度を制御するこれらのアプローチは、送達部位及び速度を制御することに基づいて全身摂取のバイオアベイラビリティを最適化することに同様に適用可能である。
【0138】
併用治療
【0139】
腫瘍症状におけるHX化合物との併用治療に有用な第2の治療薬は、特別な全身抗癌剤とも見なされ得る免疫チェックポイント阻害剤である。免疫チェックポイント阻害剤は、T細胞などの免疫細胞及び一部の癌細胞により作られる特定のチェックポイントタンパク質に結合しこれを遮断する薬剤である。遮断されない場合、それらのタンパク質は免疫反応を阻害し、免疫反応を抑制するのを助けT細胞が癌細胞を殺さないようにする。それらの免疫チェックポイントタンパク質を遮断することは、免疫系に対する「ブレーキ」を解除してT細胞が活性化し癌細胞を殺すことを可能にする。
【0140】
このような免疫チェックポイント阻害剤は、適応免疫系への各作用を介してHX化合物と相加的又は相乗的に機能することができ、HX化合物は、癌細胞の死骸により開始される下流シグナル伝達及びSTING活性化によって適応免疫系の抗腫瘍機能を活性化する働きをするのに対し、免疫チェックポイント阻害剤は、同じ適応免疫系成分でかかる成分のダウンレギュレーションの抑制を介して機能する働きをする。
【0141】
有用な免疫チェックポイント阻害剤は、好ましくはその投与がかかる自己認識T細胞の作用を遮断するヒト又はヒト化モノクローナル抗体又はその結合部分である。かかる遮断によって免疫系は癌細胞を異物として認識し、かかる癌細胞を体内から除去するのを助けることができる。
【0142】
例示的な免疫チェックポイント阻害剤は、CTLA‐4活性を遮断することによって免疫系のダウンレギュレーションに対抗し、これによって癌に対するT細胞応答を増強するように設計されている抗CTLA‐4(細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4)モノクローナル抗体であるイピリムマブ及びトレメリムマブを含む。同様に、ピディリズマブ、ニボルマブ、及びペムブロリズマブなどのモノクローナル抗体は、免疫系のダウンレギュレーションに対抗し、癌性細胞に対するT細胞応答を増強するためにPD-1(プログラム細胞死1)受容体に結合する。PD-1受容体用の免疫チェックポイントタンパク質リガンド(PD-L1)を標的にする3つの抗体は、アテゾリズマブ、アベルマブ及びデュルバルマブである。PD-L1に対するBMS‐936559及びMEDI4736(デュルバルマブ)などの、PD-1受容体リガンドPD-L1及びPD-L2に対する抗体に関する最初の研究もまた、免疫系のダウンレギュレーションの抑制及び癌に対する増強されたT細胞応答を示す。
【0143】
チェックポイント阻害剤のような活性を有する抗体の別のグループは、メモリー及びエフェクターTリンパ球の増殖を刺激することによって、癌性細胞に対するT細胞媒介性免疫反応を刺激するために、細胞表面受容体OX40(CD134)と免疫反応する。かかる例示的なヒト化抗OX40モノクローナル抗体は、現在上記文献においてgsk3174998(IgG1)、ポガリズマブ(MOXR0916)、タボリキシズマブ(MED10562)、及びPF-04518600(PF-8600)と表されるヒト抗OX40 IgG2抗体と呼ばれているものを含む。抗OX40抗体の活性が上記の免疫チェックポイント阻害剤により示されたものと非常に似ているため、抗OX40モノクローナル抗体は、この発明の目的のために免疫チェックポイント阻害剤と見なされる。
【0144】
無傷モノクローナル抗体、Fab、Fab’、F(ab’)2及びFv領域などのそれらのパラトープ含有部分(結合部位含有部分)、並びに一本鎖ペプチドの抗体結合配列は、免疫チェックポイントタンパク質阻害剤として有用である可能性がある。
【0145】
免疫チェックポイント阻害剤は、個々のラベルの指示に従って投与される。無傷のチェックポイント阻害モノクローナル抗体は人体における半減期が約1~3週間である[例えば、Yervoy(登録商標)(イピリムマブ)終末相t1/2=15.4日;添付文書12/2013;Keytruda(登録商標)(ペムブロリズマブ)終末相t1/2=23日;添付文書03/2017、Tecentriq(アテゾリズマブ)終末相t1/2=27日;添付文書05/2020、そして一本鎖オリゴ又はポリペプチドは、in vivo半減期がより短い傾向がある。
【0146】
RBジナトリウムなどのHX化合物の第1の抗癌剤が経口投与され、チェックポイント阻害剤などの第2の抗癌剤が非経口的に、一般的にはIV注射によって投与されるため、2つの薬剤は別々の組成物中にある。両タイプの抗癌剤を互いに数分から約8時間以内に投与することが好ましい。より好ましくは、両者は他方の1時間未満に投与される。
【0147】
本明細書で使用するとき、「投与」は治療計画の始まりを意味するのに使用される。したがって、液体、錠剤又はその他の経口製剤を飲み込むことは、IVフローが始まるのと同様、治療計画の始まりである。
【0148】
第2の抗癌剤がモノクローナル抗体などの免疫チェックポイント阻害剤である場合、両抗癌剤は以上で考察したように投与されることが好ましいが、HX化合物及び第2の抗癌剤免疫チェックポイント阻害剤は、ほぼ同時に投与されるか、又は第2の抗癌剤免疫チェックポイント阻害剤の投与がHX化合物を投与する前後約1カ月以内に始まるなど前後して投与される可能性がある。より好ましくは、2つの抗癌剤は同時に投与されるか、又は第2の抗癌剤免疫チェックポイント阻害剤がHX化合物の前後数日以内に投与される。
【0149】
研究
【0150】
薬学的に受容可能なキャリア又は希釈剤である殺菌した水道水(オートクレーブ滅菌した後に0.2μmフィルタに通された)に溶解した、例示的なHX化合物であるRBの化学予防効果及び化学治療効果を、ApcMinマウスモデルを用いて評価した。このモデルは、自然発生多発性腸腫瘍(Min)を引き起こし得るマウス大腸腺腫用ポリポーシス(Apc)遺伝子における第18番染色体の常染色体優性突然変異を有する[Su et al., Science, 256:668-670(1992年)]。この遺伝子はヒトApc遺伝子と相同であり、このモデルはヒト結腸直腸癌(腺癌)の散発型及び遺伝型の両方にとって有用な代用となる。
【0151】
Apc
Minマウスは、経口投与される(不断に)ローズベンガルジナトリウム水溶液で治療されたのに対し、対照群の雌マウスは無治療(殺菌した水道水)とした(両群ともn=8)。治療は約5週齢(症状の発現前)から始め、治療マウスには殺菌した水道水で4mg/mLのRBを経口摂取させ、対照群には殺菌した水道水を添加物なしで摂取させた。治療群マウスは(30週齢まで)無症状であったのに対し、対照群は16週で症状を示し始めた。対照群の平均生存期間=19.6±0.6週(SE);治療群マウスの平均生存期間は定まらない。これらのデータは
図1に示されている。
【0152】
8匹の治療されたApc
Minマウスは、殺菌した水道水に6週間戻され、腸内出血を起こした。次いで8匹のマウスを無作為に選び4匹ずつ2つの群に分けた。1つの群は1mg/mLのRBジナトリウム水溶液を経口投与して治療したのに対し、無治療対照群マウス(両群ともn=4)は水道水のみで処置した。症状が発現したときに治療を開始した。対照群の平均生存期間=8.9±0.8週に対し、RBジナトリウム治療群の生存期間=12.3±0.5週。これらのデータは
図2に示されている。
【0153】
生存期間
【0154】
この研究の化学予防段階における対照群マウスは、平均生存期間が19.6±0.6週齢(16.4~20.4週の範囲)であった。これに対し、経口でのRBジナトリウムによる継続的な治療を受けた全てのマウスは、この研究段階の期間(30週齢まで)を生き延びた。これらの結果を
図1に示す。これらのデータのログランク統計値(15.8)は、2つの群の生存期間の差が非常に有意である(P<0.001)ことを示す。
【0155】
この研究の後続の化学治療段階の対照群マウスは、疾患発症後の平均生存期間が8.9±0.8週(8.1~11.3週の範囲)であった。これに対し、経口でのRBジナトリウムによる継続的な治療を受けたマウスは、12.3±0.6週(11.3~13.4週の範囲)の平均生存期間を示した。これらの結果を
図2に示す。ログランク統計値(5.7)は、これらの生存期間の差が有意である(P=0.017)ことを示す。
【0156】
罹患及び死亡
【0157】
この研究の化学予防段階では、全ての対照群マウスは約100日齢までに便潜血(FEOB)が陽性であったのに対し、RB治療群マウスはいずれもFEOB結果が陽性であること(FEOB陽性)を示さなかった。対照群のマウスは約100日齢後に体重が不変であったのに対し、治療群のマウスは研究の間中ずっと体重が増え続けた。
【0158】
3匹の対照群マウスが約115日齢で病気のように見えたとき最初の明らかな罹患が観察され、この群の1匹の重症のマウスはこの時点で安楽死された(以下の表A)。次の数週間で対照群マウスの残りは発病し、安楽死されたり死んでいるのが見つかったりした。研究のこの段階(30週齢に対する25週の全期間)のどの時点でも、RBを摂取したどのマウスも病気のように見えずまた死ななかった。
【0159】
以下の表Aは、化学予防研究の罹患及び死亡の概要を提供する。対象動物の日齢(d)が示されている。研究中の対照及び治療群マウスについて平均体重及び標準偏差が示されている。「Sym」と表示された欄は、症状のある(すなわち貧血症や衰弱を示している)動物の数を各群の示された日齢に示す一方、「Dec」は死んだ動物の累積数を示し、「Sur」は生存しているマウスの数である。100日齢までに、全ての対照群マウスはFEOB陽性であったのに対し、治療群マウスはいずれも陽性結果を示さなかった。RBジナトリウム治療は約5週齢(症状の発現前)から始めた。
【0160】
【0161】
この研究の化学治療段階の初期に、(合わせて8匹のうち)7匹のマウスがFEOB陽性であった。対照群の3匹のマウスは8.1週で死んでいるのが見つかり、この群の最後のマウスは11.3週で安楽死された。治療群マウスは、治療の11.3、11.9、12.6及び13.4週後に重症化したときに安楽死された。
【0162】
レトロスペクティブ分析
【0163】
比較のため、B6C3F1マウスへの0.125又は0.5%のRBジナトリウムの飲用水による長期の経口投与研究において報告された生存期間データを、フィッシャーの直接確率検定を使用して分析した[オリジナルデータはIto et al., J Natl Cancer I, 77:277-281(1986年)に示されている]。B6C3F1マウスは、雄CH3マウスと雌C57BL/6マウスとの交配種として生産される交雑株である。B6C3F1マウスは、自然発生新生物、特に肝腺腫及び癌の際立った傾向を示し[Haseman et al., Toxicol Pathol 26:428-441(1998年)]、国家毒性プログラム(NTP)バイオアッセイプログラムについて行われたマウス発癌性評価に長年にわたり使用されてきた。これらの研究は、このマウスモードにおける自然発生腫瘍の背景発生率の非常に大きい歴史的対照群データベースを作成している。
【0164】
82週間に及ぶ0.5%RBの継続的投与後の生存期間は、対照群と比べて治療群マウスについて統計的に有意な生存期間の延長を示した(雄についてP<0.001、94%対52%の生存期間;雌についてP=0.004、90%対64%)。0.125%RBの場合の同様のデータ分析は、雄のマウスについて統計的に有意な生存期間の延長を示した(P<0.001、92%対52%の生存期間)が、雌のマウスについては示さなかった(P=0.4、74%対64%)。2年間の試験の終わりの公表生存率と体重増加パターンは、長期研究においてこれらの同じ動物を使用する研究者を導くための対照群として用いられることがよくある[Cameron et al., Fundam Appl Toxicol 5(3):526-538(1985年6月)]。
【0165】
考察
【0166】
ApcMinモデルは、これらのマウスが異常な細胞増殖及び癌への転換を継続的に促進するApc遺伝子の常染色体優性欠陥を有するがために、薬剤の化学予防又は化学治療特性の特に厳しい試験を意味する。Apc腫瘍抑制遺伝子に誘起欠陥を有するヘテロ接合マウスは、自発的な腸腺腫形成(一般的に30個を超える腸腺腫を発症する)を非常に起こしやすく、平均余命が約120日(すなわち17週)である。これらのマウスは一般に貧血症になり、最終的に病変が増殖するとともに衰弱に苦しむ。このモデルには治癒の可能性がなく、孤発型の自然発生腫瘍と闘うというタスクが特に困難になる。
【0167】
化学予防効果
【0168】
この研究の化学予防段階におけるナイーブな対照群Apc
Minマウスの生存期間(すなわち平均生存時間19.6±0.6週齢)は平均余命と一致する。経口によるRBジナトリウムを用いた継続的治療を受けた全てのApc
Minマウスが研究のこの段階の期間を(30週齢まで;
図1)生き延びたため、この群の生存時間を決定することは不可能である。ただし、ログランク検定を用いた統計分析は、2つの群の生存期間の差が非常に有意であることを示した。
【0169】
これらの結果の差は、対照群マウスが14週齢以内の腸内出血の発現及び約16週齢から始まる明確な臨床疾患を示した罹患データによって裏付けられる。これに対し、治療群マウスは、研究期間の間中臨床症状を示さなかった。
【0170】
体重増加の傾向は対照群における疾患発症を反映し、FEOB陽性反応の発現と同時に治療群から逸れていく。治療群動物の体重の継続的な増加は更に、これらの動物の健康全般の維持を示す。生存期間データと照らし合わせると、これらの結果は、RBジナトリウム治療が疾患の発症と、腸内出血及び成長遅延を含むその症状とを抑制することに成功したことを示す。
【0171】
この明らかな化学予防効果は、B6C3F1マウスの長期経口投与研究からのデータのレトロスペクティブ分析で明らかなものと一致し[Ito et al., J Natl Cancer I, 77:277-281(1986年)]、ほぼ2年に及ぶ0.5%RBの継続的投与後の報告された生存期間データは、治療群マウスについて統計的に有意な生存期間の延長を示した。より低い投与量(すなわち0.125%RB)では効果が小さいことは明らかであるが、雄及び雌はいずれも対照群に対して延長した生存期間を示した。これは、これらのマウスにおける化学予防効果の存在を示唆している。ただし、甲状腺腫瘍を除いて、この腫瘍が発生しやすいことで有名なモデルにおいて、腫瘍発生の有意な傾向は顕著でなく[Haseman et al., Toxicol. Pathol., 26:428-441(1998年)]、したがって、これらの生存期間の差の下地となる根拠を断定的に特定することは不可能である。
【0172】
RBジナトリウムの長期の経口投与は、3,5,3’‐トリヨードチロニン(T3)のチロキシン(T4)への変換の見かけの阻害及び甲状腺ペルオキシダーゼの潜在的阻害によってB6C3F1マウスのコロイド甲状腺腫と関連性がある[Kurebayashi et al., J. Toxicol. Sci., 13:61-70(1988年)]が、RBジナトリウムの雄のウィスター系ラットへの投与は甲状腺腫瘍形成や異常なホルモンレベルと関連性がなかった[Hiasa et al., Jpn. J. Cancer Res., 79:314-319(1988年);及びKanno et al., Toxicology, 99:107-111(1995年)]。したがって、Ito et al.[J Natl Cancer I,77:277-281(1986年)]により観察された甲状腺腫の発生率の上昇は発見的であるが、他の種の重大な甲状腺リスクよりはむしろB6C3F1モデルの独自の特徴を示すことがある。
【0173】
化学治療効果
【0174】
疾患の進行は、症候性疾患の発現の後に治療を始めた場合、治療群動物と対照群動物とで質的に同様であった。
【0175】
しかしながら、治療群マウスの生存期間は、対照群マウスの生存期間より大幅に改善した(約38%の平均生存期間の延長を含む)。この効果の大きさは化学予防で観察されたものほど劇的ではないが、かかる反応は、両現象の根底にある共通の抗腫瘍メカニズムを示唆する。また、RB投与量は予防研究において投与された量の4分の1であった。
【0176】
メカニズム
【0177】
RBのいくつかの腫瘍株との相互作用についての追加研究は、ApcMinモデルにおけるRBの化学予防効果及び化学治療効果の根底にあるメカニズムについての可能性のある洞察を提供する。例えば、マウス肝細胞癌細胞[A. Periasamy及びP.T.So, P.T.(Eds), Multiphoton Microscopy in the Biomedical Sciences II. SPIE,ベリンガム,ワシントン州,vol.4620,pp.143-147(2002年)のWachter et al., “Functional Imaging of Photosensitizers Using Multiphoton Microscopy”及びD.L.Farkas及びR.C.Leif,R.C.(Eds) Optical Diagnostics of Living Cells V. SPIE,ベリンガム,ワシントン州,vol.4622,pp.112-118(2002年)のWachter et al.,(2002年)“Imaging Photosensitizer Distribution and Pharmacology Using Multiphoton Microscopy”]は、RBの高選択的取り込み(in vitro及び腫瘍同種移植片を用いた全身送達による)を示し、最終的に酸性のリソソームへの両性分子の不可逆的な蓄積をもたらす。本発明者らによる追加の組織培養研究は、ヒト乳癌(HTB-133)及び多剤耐性小細胞肺癌(H69AR)の細胞株への同様のリソソーム蓄積を示した。
【0178】
いずれの場合にも、この蓄積は、RB媒介のリソソーム破裂が起こるとこれらの細胞の自己分解をもたらす。これに対し、正常細胞からRBを排除することは、同様の細胞内蓄積及び細胞毒性を防ぐように思われる。
【0179】
同様のプロセスが、腸管内の初期の異形成又は新生物のリソソームへのRBジナトリウムの蓄積時にそれらの組織を選択的に破壊することによって、本研究において指摘した化学予防効果をもたらし得ると考えられる。これは特に、血流中の循環RB及び肝臓により継続的に排出され腸の異常組織に局所的に送達される高濃度の無傷のRBへのかかる病変の二重暴露を考慮する可能性が高いと思われる。
【0180】
結論
【0181】
この研究の肯定的な結果に基づくと、全身性RBジナトリウムは、GI管の癌、結腸直腸癌に対する実質的な化学予防及び化学治療的有用性を示すように思われる。RBジナトリウムの静脈注射肝臓診断薬[Delprat et al., Arch. Intern. Med., 34:533-541(1924年)]としての、局所的眼科用診断薬[Sjogren, Acta Ophthalmol.(suppl.2),11:1-151(1933年)]としての、及び食用色素[Tanaka et al., Jpn J. Hyg., 30:574-578(1975年);及びSako et al., Tox. Appl. Pharma., 54:285-292(1980年)]としての安全な使用の長く多様な歴史を考慮すると、この新規の用途は効果的であることに加えて安全であることが予想される。
【0182】
材料及び方法
【0183】
結腸直腸癌
【0184】
ローズベンガル
【0185】
1mg/mL(0.1%w/v)又は4mg/mL(0.4%w/v)のローズベンガルジナトリウム(Sigma-Aldrich,セントルイス,ミズーリ州)を、オートクレーブ滅菌した後にろ過滅菌した水道水(0.2μm)に溶解することによって、投与のための溶液を調製した。
【0186】
動物
【0187】
約4週齢の16匹の雌ApcMinマウス(C57BL/6J-Ap-min/J, Jackson Laboratory,バーハーバー,メイン州)を研究に使用した。動物の住環境及び世話は、国際実験動物ケア評価認証協会により確立された基準及び米国保健福祉省公衆衛生局の実験動物の人道的管理と使用に関する規範に記載された指針に基づいた。全ての動物はマイクロアイソレータケージに収容され、標準的な放射線滅菌飼料(7912,Harlan Teklad,マジソン、ワイオミング州、19%のタンパク質、5%の脂肪及び5%の食物繊維を含む栄養強化穀物飼料)が与えられた。
【0188】
群割り当て
【0189】
化学的予防の評価のためにマウスを無作為に2つの治療群(1群当たりn=8)に分けた。治療は、順化直後(約5週齢に)、症候性疾患(すなわちポリープに特有の貧血症や新成形の兆候である衰弱)の発症の特色を示す週齢よりかなり前に開始した。
【0190】
治療群動物(開始時の平均体重16.0±1.1g)にはRB溶液(4μg/mL)を不断に継続的に飲むことを許可し、対照群動物(16.8±0.7g)には殺菌した水道水を不断に与えた。
【0191】
研究の化学予防的段階の終わりに、RB治療群の生き残っているマウスを、疾患発症を許すために6週間水道水に戻し、この時点で8匹のマウスのうちの7匹が腸腫瘍の症状がはっきりと現れ、FEOB陽性結果を示した。これらのマウスを、化学治療的可能性の評価のために治療群と対照群(1群当たりn=4)に再び無作為に分けた。治療群動物は1mg/mLのRB溶液を継続的に不断に摂取したのに対し、対照群動物には殺菌した水道水を不断に与えた。研究の両段階において、RB及び水道水供給量を毎週変更した。
【0192】
臨床観察
【0193】
マウスを重篤な疾患の発症を示す行動変化又は身体的変化(すなわち、不活発な行動、貧血又は衰弱)について毎日観察した。重症疾患の発症と一致する症状を示すマウスを二酸化炭素吸入によって直ちに安楽死させた。定期に全てのマウスについて市販の検査キット(Hemoccult Fecal Occult Blood Test, Beckman Coulter, Inc.,フラートン、カリフォルニア州)を使用して便潜血を調べた。FEOB検査の直前に、RB(鮮やかな赤色で、代謝されずに便中に排泄される)とFEOB比色試験との干渉の可能性を最小限に抑えるために、治療群マウスに3日間オートクレーブ滅菌した水道水を与えた。これらの動物について便サンプリングの直後にRB治療を再開した。
【0194】
統計分析
【0195】
マウスの生存期間を治療群と対照群とで比較した。治療群と対照群との間で経験した生存期間の差の統計的有意性を判断するためにログランク検定を用いてデータを解析した。文献データのレトロスペクティブ分析はフィッシャーの直接確率検定を用いて行われた。SigmatStat 3.0(Systat Software, Inc., ポイントリッチモンド、カリフォルニア州)を全ての統計分析に使用した。
【0196】
冠詞「a」及び「an」(「1つの」)は、冠詞の文法的目的語の1又は複数(すなわち、少なくとも1つ)を指すのに本明細書において使用される。例として、「1つの要素」は1つの要素又は1つより多い要素を意味する。本明細書で引用した特許、特許出願及び論文は、それぞれ参照によって本明細書に組み込まれる。