(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】水硬性組成物用分散剤
(51)【国際特許分類】
C04B 24/26 20060101AFI20240419BHJP
C04B 24/16 20060101ALI20240419BHJP
C04B 24/12 20060101ALI20240419BHJP
C08F 290/06 20060101ALI20240419BHJP
C04B 103/40 20060101ALN20240419BHJP
【FI】
C04B24/26 B
C04B24/26 F
C04B24/26 E
C04B24/16
C04B24/12 A
C08F290/06
C04B103:40
(21)【出願番号】P 2023074969
(22)【出願日】2023-04-28
(62)【分割の表示】P 2019049141の分割
【原出願日】2019-03-15
【審査請求日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2018056148
(32)【優先日】2018-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 明彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】佐土原 志奈
(72)【発明者】
【氏名】田村 純夫
(72)【発明者】
【氏名】兼中 翼
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-174774(JP,A)
【文献】国際公開第2013/039044(WO,A1)
【文献】特開2016-145127(JP,A)
【文献】特開2013-139351(JP,A)
【文献】特開2018-030769(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00-28/36
C08F 290/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)に下記成分(B)を添加することを含む、下記成分(A)及び下記成分(B)を少なくとも含む水硬性組成物用分散剤
の製造方法。
成分(A):下記一般式(1)で表される単量体(I)1~97重量%、下記一般式(2)で表される単量体(II)1~97重量%、不飽和モノカルボン酸系単量体(III)0.1~50重量%、及び単量体(I)~(III)と共重合可能なその他の単量体(IV)0~50重量%の共重合体であるポリカルボン酸系共重合体又はその塩。
成分(B):チオール基を有する化合物。
【化1】
(前記一般式(1)中、R
1は、炭素原子数2~5のアルケニル基を示す。A
1Oは、同一若しくは異なっていてもよい、炭素原子数2~18のオキシアルキレン基を示す。n1は、オキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、1~200の数を示す。R
2は、水素原子又は炭素原子数1~30の炭化水素基を示す。)
【化2】
(前記一般式(2)中、R
3、R
4及びR
5は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を示す。mは、0~2の整数を示す。A
2Oは、同一若しくは異なっていてもよい、炭素原子数2~18のオキシアルキレン基を示す。n2は、オキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、1~200の数を表す。Xは、水素原子又は炭素原子数1~30の炭化水素基を表す。)
【請求項2】
前記水硬性組成物用分散剤中の前記成分(B)の含有量が、500~10,000ppmである請求項1に記載の
製造方法。
【請求項3】
前記水硬性組成物用分散剤中の前記成分(A)の重量平均分子量が、5,000~40,000である請求項1又は2に記載の
製造方法。
【請求項4】
前記成分(B)が、アルカンチオール化合物、アミノアルカンチオール化合物、チオグリコール化合物、及びチオカルボン酸化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含む請求項1~3のいずれか1項に記載の
製造方法。
【請求項5】
前記成分(B)が、チオカルボン酸化合物及びアミノアルカンチオール化合物の少なくともいずれかを含む請求項4に記載の
製造方法。
【請求項6】
前記成分(B)が、3-メルカプトプロピオン酸、2-アミノエタンチオール、及びステアリル-3-メルカプトプロピオネートからなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項5に記載の
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物用分散剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートの施工性及び耐久性を向上させるために、コンクリート中の単位水量を減らすことが有効である。しかしながら、単位水量を減少させると、コンクリートの流動性が低下し、作業性を損なうことが知られている。そのため、単位水量を減少した際にも、コンクリートの効率的な作業性を確保するために、セメント粒子を分散させる働きを持つ分散剤が使用されている。
【0003】
本出願人は、斯かる分散剤の1つとして、セメント混和剤を提案している(例えば、特許文献1参照)。当該セメント混和剤は、所定の単量体を共重合させて得られるポリカルボン酸系共重合体又はその塩を含有する。
ポリカルボン酸系共重合体又はその塩は、優れたセメント分散性、スランプ保持性を有し、セメント組成物の粘性を低く抑え施工性(ワーカビリティ)を向上させることができ、かつ、環境負荷を低減し得るというセメント混和剤の効果に資する。
【0004】
本出願人はまた、上記のポリカルボン酸系共重合体又はその塩を利用した技術を種々提案している(例えば、特許文献2~3参照)。その有用性から、ポリカルボン酸系共重合体又はその塩は、更なる利用が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-94875号公報
【文献】特開2015-36362号公報
【文献】特開2016-145127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のポリカルボン酸系共重合体又はその塩は、加水分解型の単量体を構成単位に含むので、日光照射下や高温条件下で高分子量化し、性能が低下してしまう等、貯蔵安定性に課題がある。
【0007】
本発明の課題は、構成単位に加水分解型の単量体を含むポリカルボン酸系共重合体を含む分散剤に対して、分散性能を阻害することなく、光・温度に対する安定性を向上し得る水硬性組成物用分散剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、チオール基を有する化合物を含ませることにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明者らは、下記の〔1〕~〔6〕を提供する。
〔1〕下記成分(A)及び下記成分(B)を、少なくとも含む水硬性組成物用分散剤。
成分(A):下記一般式(1)で表される単量体(I)1~97重量%、下記一般式(2)で表される単量体(II)1~97重量%、不飽和モノカルボン酸系単量体(III)0.1~50重量%、及び単量体(I)~(III)と共重合可能なその他の単量体(IV)0~50重量%の共重合体であるポリカルボン酸系共重合体又はその塩。
成分(B):チオール基を有する化合物。
【化1】
(前記一般式(1)中、R
1は、炭素原子数2~5のアルケニル基を示す。A
1Oは、同一若しくは異なっていてもよい、炭素原子数2~18のオキシアルキレン基を示す。n1は、オキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、1~200の数を示す。R
2は、水素原子又は炭素原子数1~30の炭化水素基を示す。)
【化2】
(前記一般式(2)中、R
3、R
4及びR
5は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を示す。mは、0~2の整数を示す。A
2Oは、同一若しくは異なっていてもよい、炭素原子数2~18のオキシアルキレン基を示す。n2は、オキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、1~200の数を表す。Xは、水素原子又は炭素原子数1~30の炭化水素基を表す。)
〔2〕前記成分(B)の含有量が、500~10,000ppmである上記〔1〕に記載の水硬性組成物用分散剤。
〔3〕前記成分(A)の重量平均分子量が、5,000~40,000である上記〔1〕又は〔2〕に記載の水硬性組成物用分散剤。
〔4〕前記成分(B)が、アルカンチオール化合物、アミノアルカンチオール化合物、チオグリコール化合物、及びチオカルボン酸化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含む上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の水硬性組成物用分散剤。
〔5〕前記成分(B)が、チオカルボン酸化合物及びアミノアルカンチオール化合物の少なくともいずれかを含む上記〔4〕に記載の水硬性組成物用分散剤。
〔6〕前記成分(B)が、3-メルカプトプロピオン酸、2-アミノエタンチオール、及びステアリル-3-メルカプトプロピオネートからなる群から選択される少なくとも1種を含む上記〔5〕に記載の水硬性組成物用分散剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、構成単位に加水分解型の単量体を含むポリカルボン酸系共重合体を含む分散剤に対して、分散性能を阻害することなく、光・温度に対する安定性を向上し得る水硬性組成物用分散剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
なお、本明細書中に使用される用語の定義を下記に記載する。
「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート又はメタアクリレートを意味する。
「オキシアルキレン基の平均付加モル数」とは、単量体1モルに付加しているアルキレングリコール単位のモル数の平均値を意味する。
「(ポリ)」とは、その直後に記載される構成要素又は原料が、1個又は2個以上結合していることを意味する。
【0011】
[1.水硬性組成物用分散剤]
本発明の水硬性組成物用分散剤は、成分(A)であるポリカルボン酸系共重合体又はその塩、及び成分(B)であるチオール基を有する化合物、を少なくとも含む。
成分(A)を含むことで、所望の分散性能を奏する水硬性組成物用分散剤を提供し得る。また、成分(B)を含むことで、構成単位に加水分解型の単量体を含むポリカルボン酸系共重合体を含む分散剤であっても、分散性能を阻害することなく、光・温度に対する安定性を向上し得る水硬性組成物用分散剤を提供し得る。
【0012】
成分(B)であるチオール基を有する化合物は、ポリマー分野において、連鎖移動剤として使用される。当業者は、日光照射下や高温条件下で高分子量化を抑制する場合、連鎖移動剤ではなく、重合禁止剤や重合抑制剤を使用する。
重合禁止剤や重合抑制剤は、系中にラジカルが生じた際、重合禁止剤や重合抑制剤がラジカルと反応して安定なラジカル化合物となる。この安定なラジカル化合物は、系中に生じる別のラジカルと反応して安定な化合物となる。そのため、重合禁止剤や重合抑制剤は、日光照射下や高温条件下で高分子量化を抑制し得るものである。
これに対して、連鎖移動剤は、系中にラジカルが生じた際、連鎖移動剤がラジカルと反応してラジカル化合物となる。該ラジカル化合物は、重合禁止剤や重合抑制剤から生じる安定なラジカル化合物とは異なり、新たな重合開始ラジカルとなる。従って、光や熱に対して不安定な成分(A)に成分(B)を添加すると、光照射下や熱により高分子量化をもたらすことが懸念される。
しかしながら、本発明の水硬性組成物用分散剤は、上記の懸念とは異なり、成分(A)が光や熱に対して安定となるという、予想に反する顕著な効果を奏する。
【0013】
[1-1.成分(A)]
成分(A)は、上記一般式(1)で表される単量体(I)1~97重量%、上記一般式(2)で表される単量体(II)1~97重量%、不飽和モノカルボン酸系単量体(III)0.1~50重量%、及び単量体(I)~(III)と共重合可能なその他の単量体(IV)0~50重量%の共重合体である。
即ち、成分(A)は、単量体(I)に由来する構成単位、単量体(II)に由来する構成単位、及び単量体(III)に由来する構成単位を必須の構成単位として有し、単量体(IV)に由来する構成単位をさらに有することが好ましい。
【0014】
成分(A)を得る際の、各単量体の配合率は、下記の通りである。但し、単量体(I)~単量体(IV)の配合率の合計を100重量%とする。
単量体(I)の配合率は、1~97重量%であり、好ましくは5~97重量%であり、より好ましくは5~90重量%である。
単量体(II)の配合率は、1~97重量%であり、好ましくは5~97重量%であり、より好ましくは5~90重量%である。
単量体(III)の配合率は、0.1~50重量%であり、好ましくは1~40重量%であり、より好ましくは1~30重量%である。
単量体(IV)の配合率は、0~50重量%であり、好ましくは0~40重量%である。
【0015】
成分(A)において、単量体(I)の配合量に対する単量体(II)~単量体(IV)の配合量の比率は、下記の通りである。
単量体(I)の配合量に対する単量体(II)の配合量の比率は、好ましくは1~97重量%である。
単量体(I)の配合量に対する単量体(III)の配合量の比率は、好ましくは0.001~50重量%である。
単量体(I)の配合量に対する単量体(IV)の配合量の比率は、好ましくは0重量%~30重量%であり、より好ましくは0重量%~20重量%である。
以下、各単量体の詳細を説明する。
【0016】
(単量体(I))
単量体(I)は、一般式(1)で表されるポリアルキレングリコールモノアルケニルエーテルである。
【0017】
【化3】
(一般式(1)中、R
1は、炭素原子数2~5のアルケニル基を示す。A
1Oは、同一若しくは異なっていてもよい、炭素原子数2~18のオキシアルキレン基を示す。n1は、オキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、1~200の数を示す。R
2は、水素原子又は炭素原子数1~30の炭化水素基を示す。)
【0018】
一般式(1)中のR1は、炭素原子数2~5のアルケニル基を示す。該アルケニル基の炭素原子数は、好ましくは3~5である。R1としては、アリル基、メタリル基、3-メチル-3-ブテン-1-オールの残基を例示し得る。但し、R1は、これらの基に限定されるものではない。
【0019】
一般式(1)中のA1Oは、同一若しくは異なっていてもよい、炭素原子数2~18のオキシアルキレン基を示す。該オキシアルキレン基としては、例えば、オキシエチレン基(エチレングリコール)、オキシプロピレン基(プロピレングリコール)、オキシブチレン基(ブチレングリコール)が挙げられる。これらの中でも、該オキシアルキレン基は、オキシエチレン基(エチレングリコール)、オキシプロピレン基(プロピレングリコール)が好ましい。
【0020】
上記「同一若しくは異なっていてもよい」とは、一般式(1)中にA1Oが複数含まれる場合(n1が2以上の場合)、複数のA1Oが同一のオキシアルキレン基であってもよいし、異なる(2種類以上の)オキシアルキレン基であってもよい、ことを意味する。
一般式(1)中にA1Oが複数含まれる場合の態様としては、オキシエチレン基(エチレングリコール単位)、オキシプロピレン基(プロピレングリコール単位)及びオキシブチレン基(ブチレングリコール単位)からなる群から選ばれる2以上のオキシアルキレン基が混在する態様が挙げられる。これらの中でも、好ましくはオキシエチレン基(エチレングリコール単位)とオキシプロピレン基(プロピレングリコール単位)が混在する態様又はオキシエチレン基(エチレングリコール単位)とオキシブチレン基(ブチレングリコール単位)とが混在する態様であり、より好ましくはオキシエチレン基(エチレングリコール単位)とオキシプロピレン基(プロピレングリコール単位)とが混在する態様である。
オキシエチレン基とオキシプロピレン基が混在する態様である場合、オキシエチレン基とオキシプロピレン基の平均付加モル数の比率((オキシエチレン基の平均付加モル数)/(オキシプロピレン基の平均付加モル数))は、(50~99.9)%/(0.1~50)%が好ましい。
なお、異なるオキシアルキレン基が混在する態様において、2種類以上のオキシアルキレン基の付加は、ブロック状の付加であってもよく、ランダム状の付加であってもよい。
【0021】
一般式(1)中のn1は、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1~200の数を示す。n1は、1~70が好ましく、5~70がより好ましく、8~70がさらに好ましい。
【0022】
一般式(1)中のR2は、水素原子又は炭素原子数1~30の炭化水素基を示す。炭素原子数が多くなると、水硬性組成物用分散剤の分散性が十分発揮されない場合がある。そのため、R2は、水素原子又は炭素原子数1~10の炭化水素基が好ましく、水素原子又は炭素原子数1~5の炭化水素基がより好ましく、水素原子又はメチル基がさらに好ましい。
【0023】
単量体(I)の製造方法は、例えば、アリルアルコール、メタリルアルコール、3-メチル-3-ブテン-1-オール等の不飽和アルコールにアルキレンオキサイドを1~200モル付加する方法が挙げられる。
【0024】
単量体(I)としては、例えば、(ポリ)エチレングリコールアリルエーテル、(ポリ)エチレングリコールメタリルエーテル、(ポリ)エチレングリコール3-メチル-3-ブテニルエーテル、(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコールアリルエーテル、(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコールメタリルエーテル、(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコール3-メチル-3-ブテニルエーテル、(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコールアリルエーテル、(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコールメタリルエーテル、(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコール3-メチル-3-ブテニルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレングリコールアリルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレングリコールメタリルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレングリコール3-メチル-3-ブテニルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコールアリルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコールメタリルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコール3-メチル-3-ブテニルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコールアリルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコールメタリルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコール3-メチル-3-ブテニルエーテル、(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコールモノアリルエーテル、3-メチル-3-ブテン-1-オールのエチレンオキサイド付加物、及び3-メチル-3-ブテン-1-オールのエチレンオキサイドプロピレンオキサイド付加物が挙げられる。
【0025】
親水性及び疎水性のバランスがよいという理由で、単量体(I)は、好ましくは(ポリ)エチレングリコール(メタ)アリルエーテル、(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコールモノアリルエーテル、3-メチル-3-ブテン-1-オールのエチレンオキサイド付加物、及び3-メチル-3-ブテン-1-オールのエチレンオキサイドプロピレンオキサイド付加物からなる群から選択される少なくとも1種を含み、より好ましくはこれらのいずれかであり、さらに好ましくはポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノアリルエーテル、及び3-メチル-3-ブテン-1-オールのエチレンオキサイドプロピレンオキサイド付加物の少なくともいずれかである。
上記した通り、単量体(I)のオキシアルキレン基(ポリアルキレングリコール単位)の平均付加モル数は、1~70が好ましく、5~70がより好ましく、8~70がさらに好ましい。
【0026】
単量体(I)は、一般式(1)で表される単量体1種類であってもよいし、2種類以上の組み合わせであってもよい。
【0027】
(単量体(II))
単量体(II)は、下記一般式(2)で表される加水分解型の単量体である。
【0028】
【化4】
(一般式(2)中、R
3、R
4及びR
5は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を示す。mは、0~2の整数を示す。A
2Oは、同一若しくは異なっていてもよい、炭素原子数2~18のオキシアルキレン基を示す。n2は、オキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、1~200の数を表す。Xは、水素原子又は炭素原子数1~30の炭化水素基を表す。)
【0029】
一般式(2)中のR3、R4及びR5は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を示す。
【0030】
一般式(2)中のA2Oは、同一若しくは異なっていてもよい、炭素原子数2~18のオキシアルキレン基を示す。該オキシアルキレン基としては、例えば、オキシエチレン基(エチレングリコール単位)、オキシプロピレン基(プロピレングリコール単位)、オキシブチレン基(ブチレングリコール単位)が挙げられる。中でも、オキシアルキレン基は、オキシエチレン基(エチレングリコール単位)、オキシプロピレン基(プロピレングリコール単位)が好ましい。
【0031】
上記「同一若しくは異なっていてもよい」とは、一般式(2)中にA2Oが複数含まれる場合(n2が2以上の場合)、複数のA2Oが同一のオキシアルキレン基であってもよいし、異なる(2種類以上の)オキシアルキレン基であってもよい、ことを意味する。
一般式(2)中にA2Oが複数含まれる場合の態様としては、オキシエチレン基(エチレングリコール単位)、オキシプロピレン基(プロピレングリコール単位)及びオキシブチレン基(ブチレングリコール単位)からなる群から選ばれる2以上のオキシアルキレン基が混在する態様が挙げられる。これらの中でも、好ましくはオキシエチレン基(エチレングリコール単位)とオキシプロピレン基(プロピレングリコール単位)とが混在する態様又はオキシエチレン基(エチレングリコール単位)とオキシブチレン基(ブチレングリコール単位)とが混在する態様であり、より好ましくはオキシエチレン基(エチレングリコール単位)とオキシプロピレン基(プロピレングリコール単位)とが混在する態様である。
なお、異なるオキシアルキレン基が混在する態様において、2種類以上のオキシアルキレン基の付加は、ブロック状の付加であってもよく、ランダム状の付加であってもよい。
【0032】
一般式(2)中のn2は、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1~200の数を示す。n2は、1~70が好ましく、5~70がより好ましく、8~70がさらに好ましい。
【0033】
単量体(II)は、オキシアルキレン基の平均付加モル数が異なる2種の単量体(IIa)及び(IIb)(但し、オキシアルキレン基の平均付加モル数をそれぞれn2a、n2bとした場合、n2a<n2bとする。)の組み合わせを含むことが好ましく、当該組み合わせであることが好ましい。単量体(II)が当該組合せであると、セメント組成物に添加した際に、長時間経過しても優れた流動性を発揮し得る。
単量体(IIa)と単量体(IIb)とは、互いに、オキシアルキレン基の平均付加モル数n2のみが異なり、R3、R4、R5、m、及びXが同一の単量体であってもよいし、n2に加えて、R3、R4、R5、m、及びXの少なくとも一つが異なる単量体であってもよい。
単量体(IIa)の平均付加モル数n2a(一般式(2)中のn2)は、1~5が好ましく、1~3がより好ましい。
単量体(IIb)の平均付加モル数n2b(一般式(2)中のn2)は、6~200が好ましく、6~100がより好ましく、6~70がさらに好ましい。
【0034】
単量体(II)が単量体(IIa)及び(IIb)の組合せである場合、それぞれの重量比率((IIa)/(IIb))は、下記の通りである。但し、単量体(IIa)及び(IIb)の合計を100重量%とする。
重量比率((IIa)/(IIb))は、好ましくは(0.1~99.9)%/(99.9~0.1)%であり、より好ましくは(1~99)%/(99~1)%であり、さらに好ましくは(10~90)%/(90~10)%であり、さらにより好ましくは(25~75)%/(75~25)%である。
【0035】
一般式(2)中のXは、水素原子又は炭素原子数1~30の炭化水素基を示す。炭素原子数が多くなると、水硬性組成物用分散剤の分散性が十分発揮されない場合がある。そのため、Xは、水素原子又は炭素原子数1~10の炭化水素基が好ましく、水素原子又は炭素原子数1~5の炭化水素基がより好ましく、水素原子又はメチル基がさらに好ましい。
【0036】
単量体(II)としては、例えば、(メタ)アクリレート等の不飽和モノカルボン酸と、(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコール、(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコール、メトキシ(ポリ)エチレングリコール、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコール、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコール等の(ポリ)アルキレングリコールと、のエステル化物;(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコール(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコール(メタ)アクリレート等の、(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0037】
単量体(II)は、好ましくは(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレートであり、より好ましくはヒドロキシエチルアクリレート等の(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート等の(ポリ)プロピレングリコール(メタ)アクリレート及びメトキシ(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレートのうち少なくとも1種である。
(ポリ)アルキレングリコールの平均付加モル数は1~50が好ましい。
単量体(IIa)が(ポリ)アルキレングリコールである場合、単量体(IIa)としての(ポリ)アルキレングリコールの付加モル数は、1~5が好ましく、1~3がより好ましい。
単量体(IIb)が(ポリ)アルキレングリコールである場合、単量体(IIb)としての(ポリ)アルキレングリコールの付加モル数は、6~200が好ましく、6~100がより好ましく、6~70がさらに好ましい。
【0038】
単量体(II)は、一般式(2)で表される単量体1種類であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0039】
(単量体(III))
単量体(III)は、不飽和カルボン酸系単量体である。単量体(III)は、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸類、及びこれらの塩(例えば、一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩);マレイン酸、フマル酸等のジカルボン酸類、及びこれらの塩(例えば、一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩)が挙げられる。
単量体(III)は、これらの1種又は2種以上であればよく、これらの2種以上が好ましく、これらの2種がより好ましい。より詳細には、単量体(III)は、好ましくはアクリル酸又はその塩、メタクリル酸又はその塩、マレイン酸又はその塩からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは2種であり、さらに好ましくはアクリル酸又はその塩、及びメタクリル酸又はその塩からなる群から選ばれる2種である。
【0040】
単量体(III)を2種(以下、便宜上、「(III-1)」、「(III-2)」と記載する)併用する場合、単量体(III-1)と単量体(III-2)を用いる際の重量比率((III-1)/(III-2))は、下記の通りである。但し、(III-1)及び(III-2)の合計を100重量%とする。
重量比率((III-1)/(III-2))は、好ましくは(0.1~99.9)%/(99.9~0.1)%であり、より好ましくは(1~99)%/(99~1)%である。
単量体(III)を3種(以下、便宜上、「(III-1)」、「(III-2)」、「(III-3)」と記載する)併用する場合、単量体(III-1)と単量体(III-2)と単量体(III-3)を用いる際の重量比率((III-1)/(III-2)/(III-3))は、下記の通りである。但し、(III-1)~(III-3)の合計を100重量%とする。
重量比率((III-1)/(III-2)/(III-3))は、好ましくは(0.1~99.8)%/(0.1~99.8)%/(0.1~99.8)%であり、より好ましくは(1~98)%/(1~98)%/(1~98)%である。
【0041】
単量体(III)としてアクリル酸を用いる場合、アクリル酸ダイマーに対するアクリル酸モノマーの重量比率(アクリル酸モノマー/アクリル酸ダイマー)は、下記の通りである。但し、アクリル酸ダイマーとアクリル酸モノマーの合計を100重量%とする。
重量比率(アクリル酸モノマー/アクリル酸ダイマー)は、(90~100)重量%/(0~10)重量%が好ましい。
【0042】
(単量体(IV))
単量体(IV)は、単量体(I)~(III)と共重合可能な単量体であれば特に限定されない。但し、単量体(IV)は、単量体(I)~(III)に該当するものを除く。
【0043】
単量体(IV)としては、下記の単量体を例示し得る。なお、単量体(IV)は、下記の単量体を、1種単独で又は2種以上を用い得る。
【0044】
4,4’-ジヒドロキシジフェニルプロパン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホンの3及び3’位アリル置換物等の下記一般式(IV-1)で示されるジアリルビスフェノール類;
【0045】
【0046】
4,4’-ジヒドロキシジフェニルプロパン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホンの3位アリル置換物等の下記一般式(IV-2)で示されるモノアリルビスフェノール類;
【0047】
【0048】
下記一般式(IV-3)で示されるアリルフェノール;
【0049】
【0050】
マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等の不飽和ジカルボン酸類と炭素原子数1~30のアルコールとのハーフエステル、ジエステル類;
上記不飽和ジカルボン酸類と炭素原子数1~30のアミンとのハーフアミド、ジアミド類;
上記アルコール又はアミンに、炭素原子数2~18のアルキレンオキシドを1~500モル付加させたアルキル(ポリ)アルキレングリコールと、上記不飽和ジカルボン酸類との、ハーフエステル、ジエステル類;
上記不飽和ジカルボン酸類と炭素原子数2~18のグリコール又はこれらのグリコールの付加モル数2~500のポリアルキレングリコールとのハーフエステル、ジエステル類;
マレアミド酸と炭素原子数2~18のグリコール又はこれらのグリコールの付加モル数2~500のポリアルキレングリコールとのハーフアミド類;
【0051】
トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(ポリ)アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類;
ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート類;
トリエチレングリコールジマレート、ポリエチレングリコールジマレート等の(ポリ)アルキレングリコールジマレート類;
ビニルスルホネート、(メタ)アリルスルホネート、2-(メタ)アクリロキシエチルスルホネート、3-(メタ)アクリロキシプロピルスルホネート、3-(メタ)アクリロキシ-2-ヒドロキシプロピルスルホネート、3-(メタ)アクリロキシ-2-ヒドロキシプロピルスルホフェニルエーテル、3-(メタ)アクリロキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシスルホベンゾエート、4-(メタ)アクリロキシブチルスルホネート、(メタ)アクリルアミドメチルスルホン酸、(メタ)アクリルアミドエチルスルホン酸、2-メチルプロパンスルホン酸(メタ)アクリルアミド、スチレンスルホン酸等の不飽和スルホン酸類、並びに、それらの一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩及び有機アミン塩;
メチル(メタ)アクリルアミド等の不飽和モノカルボン酸類と炭素原子数1~30のアミンとのアミド類;
スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、p-メチルスチレン等のビニル芳香族類;
1,4-ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,5-ペンタンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート等のアルカンジオールモノ(メタ)アクリレート類;
ブタジエン、イソプレン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2-クロル-1,3-ブタジエン等のジエン類;
【0052】
(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアルキルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド等の不飽和アミド類;
(メタ)アクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル等の不飽和シアン類;
酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の不飽和エステル類;
(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸メチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸ジブチルアミノエチル、ビニルピリジン等の不飽和アミン類;
ジビニルベンゼン等のジビニル芳香族類;
トリアリルシアヌレート等のシアヌレート類;
(メタ)アリルアルコール、グリシジル(メタ)アリルエーテル等のアリル類;
メトキシポリエチレングリコールモノビニルエーテル、ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル等のビニルエーテル或いはアリルエーテル類;
ポリジメチルシロキサンプロピルアミノマレインアミド酸、ポリジメチルシロキサンアミノプロピレンアミノマレインアミド酸、ポリジメチルシロキサン-ビス-(プロピルアミノマレインアミド酸)、ポリジメチルシロキサン-ビス-(ジプロピレンアミノマレインアミド酸)、ポリジメチルシロキサン-(1-プロピル-3-アクリレート)、ポリジメチルシロキサン-(1-プロピル-3-メタクリレート)、ポリジメチルシロキサン-ビス-(1-プロピル-3-アクリレート)、ポリジメチルシロキサン-ビス-(1-プロピル-3-メタクリレート)等のシロキサン誘導体。
【0053】
単量体(IV)は、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホンの3及び3’位アリル置換物を含むことが好ましく、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホンの3及び3’位アリル置換物がより好ましい。
【0054】
成分(A)は、その調製の際に、必要に応じて、単量体(I)~(IV)以外の他の単量体を用いてもよい。他の単量体としては、(メタ)アリルスルホン酸(塩)系単量体が挙げられる。
【0055】
(調製方法)
成分(A)は、上記それぞれの単量体を、公知の方法によって共重合させて調製し得る。該方法としては、例えば、溶媒中での重合、塊状重合等の重合方法が挙げられる。
【0056】
溶媒中での重合で使用される溶媒としては、例えば、水;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;シクロヘキサン、n-ヘキサン等の脂肪族炭化水素;酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類が挙げられる。
原料単量体及び得られる共重合体の溶解性の面から、水及び低級アルコールの少なくともいずれかが好ましく、水がより好ましい。
【0057】
溶媒中で共重合を行う場合は、各単量体と重合開始剤を各々反応容器に連続滴下してもよいし、各単量体の混合物と重合開始剤を各々反応容器に連続滴下してもよい。
また、反応容器に溶媒を仕込み、単量体と溶媒の混合物と、重合開始剤溶液を各々反応容器に連続滴下してもよいし、単量体の一部又は全部を反応容器に仕込み、重合開始剤を連続滴下してもよい。
【0058】
溶媒中で共重合を行う場合は、各単量体を予め反応を行う容器の前段に設置された、前記反応容器とは異なる容器で混合してから、反応容器に連続滴下することが好ましい。
【0059】
水溶媒中で共重合を行う場合、共重合に使用し得る重合開始剤は、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;t-ブチルハイドロパーオキサイド等の水溶性有機過酸化物が挙げられる。この際、亜硫酸水素ナトリウム、モール塩等の促進剤を併用し得る。
また、低級アルコール、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、エステル類或いはケトン類等の有機溶媒中で共重合を行う場合、共重合に使用し得る重合開始剤は、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド等のパーオキサイド;クメンパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド;アゾビスイソブチロニトリル等の芳香族アゾ化合物が挙げられる。この際、アミン化合物等の促進剤を併用し得る。
さらに、水-低級アルコール混合溶剤中で共重合を行う場合、共重合に使用し得る重合開始剤は、前述の重合開始剤或いは重合開始剤と促進剤との組合せの中から適宜選択して使用し得る。
【0060】
重合温度は、用いる溶媒、重合開始剤の種類等の重合条件によって適宜異なるが、通常50~120℃の範囲で行われる。
【0061】
また、共重合においては、必要に応じて連鎖移動剤を用いて分子量を調整し得る。連鎖移動剤としては、例えば、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、チオグリコール酸オクチル、2-メルカプトエタンスルホン酸等の既知のチオール系化合物:亜リン酸、次亜リン酸、及びその塩(次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム等)、亜硫酸、亜硫酸水素、亜二チオン酸、メタ重亜硫酸、及びその塩(亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜二チオン酸ナトリウム、亜二チオン酸カリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸カリウム等)の低級酸化物およびその塩が挙げられる。
なお、連鎖移動剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
さらに、成分(A)の分子量調整の目的で、他の単量体として連鎖移動性の高い単量体(V)を用いることも有効である。連鎖移動性の高い単量体(V)としては、例えば(メタ)アリルスルホン酸(塩)系単量体が挙げられる。単量体(V)の配合率は、成分(A)において、通常、20重量%以下であり、10重量%以下が好ましい。なお、当該配合率は、単量体(I)~単量体(IV)の配合率の合計を100重量%としたときの配合率である。
【0063】
成分(A)の調製を水溶媒中で共重合して行う場合、重合時のpHは通常不飽和結合を有する単量体の影響で強酸性となる。そのため、適当なpHに調整して調製を行い得る。重合の際にpHの調整が必要な場合、リン酸、硫酸、硝酸、アルキルリン酸、アルキル硫酸、アルキルスルホン酸、(アルキル)ベンゼンスルホン酸等の酸性物質を用いてpHの調整を行い得る。これら酸性物質の中では、pH緩衝作用がある点等から、リン酸を用いることが好ましい。
pH値としては、エステル系の単量体が有するエステル結合の不安定さを解消する点から、2~7が好ましい。また、pHの調整に用い得るアルカリ性物質に特に限定はないが、NaOH、Ca(OH)2等のアルカリ性物質が一般的である。pH調整は、重合前の単量体に対して行ってもよいし、重合後の共重合体溶液に対して行ってもよい。また、これらは重合前に一部のアルカリ性物質を添加して重合を行った後、さらに共重合体に対してpH調整を行ってもよい。
【0064】
成分(A)は、共重合反応終了後、反応溶媒等を含んだそのままの状態で水硬性組成物用分散剤に含まれてもよいし、さらになんらかの処理を行った状態で含まれてもよい。処理として、例えば、反応溶媒の除去、濃縮又は希釈等による濃度の調整、精製、pH調整が挙げられる。反応終了後は、反応容器の後段に設置された容器にて濃度調整及びpH調整の少なくともいずれかの処理を行うことが好ましい。濃度調整の方法に特に限定はない。例えば、濃縮や、加水による希釈を行い得る。pH調整については後述する。
【0065】
(物性値)
成分(A)の重量平均分子量の下限は、5,000以上が好ましく、10,000以上がより好ましく、14,000以上がさらに好ましい。これにより、水硬性組成物用分散剤の分散性が十分発揮され、リグニンスルホン酸系またはオキシカルボン酸系等のAE減水剤を上回る減水率を得ることができ、流動性又は作業性が改善され、水硬性組成物用分散剤としての目的の効果を十分に発現し得る。一方、その上限は、40,000以下が好ましく、35,000以下がより好ましく、32,000以下がさらに好ましい。これにより、セメント粒子の凝集作用が抑制され、作業性を良好にし得る。
成分(A)の重量平均分子量は、5,000~40,000が好ましく、10,000~35,000がより好ましく、14,000~32,000がさらに好ましい。
【0066】
成分(A)の分子量分布(Mw/Mn)の下限は、1.20以上が好ましく、1.25以上がより好ましい。一方、その上限は、3.00以下が好ましく、2.90以下がより好ましい。
成分(A)の分子量分布は、1.20~3.00が好ましく、1.25~2.90がより好ましい。
【0067】
なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)にてポリエチレングリコール換算する公知の方法にて測定し得る。
【0068】
GPCの測定条件の例として以下の条件が挙げられる。なお、後段の実施例における重量平均分子量は、この条件で測定した値である。
測定装置;東ソー製
使用カラム;Shodex Column OH-pak SB-806HQ、SB-804HQ、SB-802.5HQ
溶離液;0.05mM硝酸ナトリウム/アセトニトリル 8/2(v/v)
標準物質;ポリエチレングリコール(東ソー製、GLサイエンス製)
検出器;示差屈折計(東ソー製)
検量線;ポリエチレングリコール基準
【0069】
成分(A)は、1種単独のポリカルボン酸系共重合体又はその塩であってもよいし、2種類以上のポリカルボン酸系共重合体又はその塩の組み合わせであってもよい。
【0070】
[1-2.成分(B)]
成分(B)は、チオール基を有する化合物である。成分(B)は、好ましくはアルカンチオール化合物、アミノアルカンチオール化合物、チオグリコール化合物、及びチオカルボン酸化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物であり、より好ましくはチオカルボン酸化合物を少なくとも含み、さらに好ましくは3-メルカプトプロピオン酸を少なくとも含む。
以下、チオール基を有する化合物を例示して説明する。
【0071】
メタンチオール、エタンチオール等のアルカンチオール化合物;
アミノメタンチオール、2-アミノエタンチオール等のアミノアルカンチオール化合物;
2-メルカプトエタノール、チオグリコール酸、チオグリコール酸アンモニウム、チオグリコール酸モノエタノールアミン等のチオグリコール化合物;
β-メルカプトプロピオン酸、メチル-3-メルカプトプロピオネート、2-エチルヘキシル-3-メルカプトプロピオネート、n-オクチル-3-メルカプトプロピオネート、メトキシブチル-3-メルカプトプロピオネート、ステアリル-3-メルカプトプロピオネート、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、トリス-[(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル]-イソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、テトラエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)等のチオカルボン酸化合物。
【0072】
チオール基を有する化合物は、チオール以外の官能基を有する化合物が好ましく、チオカルボン酸化合物がより好ましい。
【0073】
成分(B)の含有量の下限は、500ppm以上が好ましく、1,000ppm以上がより好ましく、1,500ppm以上がさらに好ましい。500ppm以上であると、水硬性組成物用分散剤の光・温度に対する安定性を向上し得る。一方、その上限は、10,000ppm以下が好ましく、7,000ppm以下がより好ましく、5,000ppm以下がさらに好ましい。10,000ppm以下であると、水硬性組成物用分散剤の分散性能を阻害しない。
成分(B)の含有量は、500~10,000ppmが好ましく、1,000~7,000ppmがより好ましく、1,500~5,000ppmがさらに好ましい。
【0074】
[1-3.他の成分]
本発明の水硬性組成物用分散剤は、成分(A)及び成分(B)以外の他の成分を含んでもよい。他の成分としては、例えば、(ポリ)アルキレングリコールアルケニルエーテル系単量体(以下、「成分(C)」ともいう)、両末端基が水素原子である水溶性ポリアルキレングリコール(以下、「成分(D)」ともいう)、ポリカルボン酸系共重合体又はその塩(以下、「成分(E)」ともいう)及びポリカルボン酸系共重合体又はその塩(以下、「成分(F)」ともいう)が挙げられる。
【0075】
(成分(C))
本発明の水硬性組成物用分散剤が成分(C)を含有する場合、得られる水硬性組成物用分散剤は、水硬性組成物の粘性を低下させ、ワーカビリティを向上し得るので好ましい。
【0076】
本発明の水硬性組成物用分散剤における成分(C)の配合量の比率は、成分(A)に対して、90重量%以下が好ましく、80重量%以下がより好ましく、60重量%以下がさらに好ましい。90重量%以下であると、本発明の水硬性組成物用分散剤の分散性を十分発揮し得る。また、下限は、成分(C)によるワーカビリティの向上効果を得るため、通常、1重量%以上である。
【0077】
成分(C)の具体例及び好ましい例は、前記単量体(I)としての一般式(1)で表される化合物の具体例及び好ましい例と同様である。成分(C)は、前記単量体(I)と同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、成分(C)は、1種単独で、又は2種以上を併用してもよい。
【0078】
成分(C)は、成分(A)とは別個に配合してもよく、別個に配合せずに、例えば、下記の如く、成分(A)の調製時において共重合されなかった残留物として存在していてもよい。
成分(A)を調製する際に、原料として用いる単量体(I)が、成分(A)に対して残留している時点で重合反応を停止することによって、成分(C)と成分(A)とを含有する組成物を得ることができる。重合反応を停止する時点は、成分(C)の、成分(A)に対する配合量の比率に応じて定めることができる。すなわち、成分(C)の、成分(A)に対する配合量の比率が、好ましくは90重量%以下、より好ましくは80重量%以下、さらに好ましくは60重量%以下の時点で、重合反応を停止する。但し、配合量の比率の下限が、通常、1重量%以上の時点で、重合反応を停止する。
【0079】
(成分(D))
本発明の水硬性組成物用分散剤は、成分(D)をさらに含んでもよい。
「両末端基が水素原子である」とは、主鎖の末端が水素原子であること、すなわち主鎖の末端が水素原子以外の置換基で置換されていないことをいう。「水溶性」とは、水に可溶なことをいう。
成分(D)は、成分(A)とは別個に配合してもよい。また、原料である単量体(I)を用いた成分(A)の調製時に、副生成物として、成分(D)が生成することがあるので、これを使用してもよい。別個に配合する場合、成分(D)の配合量の比率は、成分(A)に対して、通常、0.01~5重量%である。副生成物として使用する場合、成分(D)の成分(A)に占める割合は、通常、0.02~10重量%程度である。
成分(D)の重量平均分子量は、300~5,000が好ましい。
【0080】
成分(D)としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンポリプロピレングリコール、ポリエチレンポリブチレングリコールが挙げられる。中でも、ポリエチレングリコールが好ましい。成分(D)は、1種単独で、又は2種以上を併用し得る。
【0081】
(成分(E))
成分(E)は、上記単量体(I)、上記単量体(III)、並びに単量体(I)及び単量体(III)と共重合可能なその他の単量体(VI)を共重合させることにより得られるポリカルボン酸系共重合体又はその塩である。成分(E)は、単量体(II)を共重合させない点で成分(A)及び成分(F)と異なる。
成分(E)において、単量体(I)、単量体(III)のそれぞれの具体例及び好ましい例は、成分(A)の単量体(I)、単量体(III)の具体例及び好ましい例と同じである。単量体(VI)は、単量体(I)及び単量体(III)と共重合可能であればよく、単量体(II)と共重合可能でも良いし、単量体(I)~単量体(III)以外の単量体と共重合可能でもよい。単量体(VI)の具体例及び好ましい例は、成分(A)の単量体(IV)の具体例及び好ましい例と同様である。
成分(E)の調製方法についても、成分(A)に記載した通りである。
【0082】
成分(E)を得る際の各単量体の配合率は下記の通りである。
単量体(I)の配合率は、好ましくは40~97重量%であり、より好ましくは50~97重量%であり、さらに好ましくは60~97重量%である。
単量体(III)の配合率は、好ましくは1~60重量%であり、より好ましくは1~50重量%であり、さらに好ましくは1~40重量%である。
単量体(VI)の配合率は、好ましくは0~50重量%であり、より好ましくは0~40重量%であり、さらに好ましくは0~30重量%である。
【0083】
成分(E)において、単量体(I)の配合量に対する単量体(III)の配合量の比率は、好ましくは1~70重量%であり、より好ましくは5~70重量%であり、さらに好ましくは5~60重量%である。
単量体(I)の配合量に対する単量体(VI)の配合量の比率は、好ましくは0~50重量%であり、より好ましくは0~40重量%であり、さらに好ましくは0~30重量%である。
【0084】
成分(E)を配合することにより、より良好なスランプ保持性を得ることができる。成分(E)を配合する場合、その配合量の比率は、成分(A)に対して、1~99重量%が好ましく、5~95重量%がより好ましく、10~90重量%がさらに好ましい。
【0085】
(成分(F))
成分(F)は、上記単量体(II)、上記単量体(III)、並びに単量体(II)及び単量体(III)と共重合可能なその他の単量体(VII)を共重合させることにより得られるポリカルボン酸系共重合体又はその塩である。成分(F)は、単量体(I)を共重合させない点で成分(A)及び成分(E)と異なる。
成分(F)において、単量体(II)、単量体(III)のそれぞれの具体例及び好ましい例は、成分(A)の単量体(II)、単量体(III)の具体例及び好ましい例と同じである。単量体(VII)は、単量体(II)及び単量体(III)と共重合可能であればよく、単量体(I)と共重合可能でも良いし、単量体(I)~単量体(III)以外の単量体と共重合可能でもよい。単量体(VII)の具体例及び好ましい例は、成分(A)の単量体(IV)の具体例及び好ましい例と同様である。
成分(F)の調製方法についても、成分(A)に記載した通りである。
【0086】
成分(F)を得る際の各単量体の配合率は下記の通りである。
単量体(II)の配合率は、好ましくは40~97重量%であり、より好ましくは50~97重量%であり、さらに好ましくは60~97重量%である。
単量体(III)の配合率は、好ましくは1~60重量%であり、より好ましくは1~50重量%であり、さらに好ましくは1~40重量%である。
単量体(VII)の配合率は、好ましくは0~50重量%であり、より好ましくは0~40重量%であり、さらに好ましくは0~30重量%である。
【0087】
成分(F)において、単量体(II)の配合量に対する単量体(III)の配合量の比率は、好ましくは1~70重量%であり、より好ましくは5~70重量%であり、さらに好ましくは5~60重量%である。
単量体(II)の配合量に対する単量体(VII)の配合量の比率は、好ましくは0~50重量%であり、より好ましくは0~40重量%であり、さらに好ましくは0~30重量%である。
【0088】
成分(F)を配合することにより、より良好なスランプ保持性を得ることができる。成分(F)を配合する場合、その配合量の比率は、成分(A)に対して、1~99重量%が好ましく、5~95重量%がより好ましく、10~90重量%がさらに好ましい。
【0089】
[1-4.形態]
本発明の水硬性組成物用分散剤において、成分(A)及び成分(B)の含有形態に制限はなく、成分(A)及び成分(B)をそのまま含んでもよいし、成分(A)及び成分(B)のそれぞれを又は両者を、溶媒に溶解させた溶液、分散させた分散液、懸濁させた懸濁液としてもよい。
また、他の成分を含む場合、他の成分は、成分(A)及び/又は成分(B)の溶液、分散液又は懸濁液に含まれてもよい。分散液は、市販の分散剤を併せて含んでいてもよい。
本発明の水硬性組成物用分散剤が他の成分を含む場合、成分(A)及び成分(B)の溶液、分散液又は懸濁液と、他の成分を、溶媒に溶解させた溶液、分散させた分散液、懸濁させた懸濁液とを別途に調製し、これらを配合して調製してもよい。
【0090】
本発明の水硬性組成物用分散剤は、水溶液の形態、あるいは乾燥させて粉体化した形態で使用し得る。なお、水硬性組成物用分散剤をセメント組成物等の水硬性組成物に添加する時期は、水硬性組成物の使用時であってもよい。また、セメント粉末、ドライモルタルのような、水硬性組成物を構成する水以外の成分に、粉体化した形態の本発明の水硬性組成物用分散剤を予め混合しておいて、左官、床仕上げ、グラウト等の際に水を添加して用いるプレミックス製品としても用い得る。
【0091】
[2.用途]
本発明の水硬性組成物用分散剤は、セメント組成物等の水硬性組成物に添加して、セメントペースト、モルタル、コンクリート、プラスター等のセメント組成物等の水硬性組成物として利用し得る。
【0092】
水硬性組成物は、水硬性組成物用分散剤を含有すればよく、組み合わせる水硬性材料は特に限定されない。水硬性材料としては、例えば、セメント、石膏(半水石膏、二水石膏等)、ドロマイトが挙げられる。最も一般的な水硬性材料は、セメントである。
以下、水硬性組成物がセメント組成物である形態を説明する。
【0093】
セメントは、特に限定されない。セメントは、例えば、ポルトランドセメント(普通、早強、超早強、中庸熱、耐硫酸塩及びそれぞれの低アルカリ形)、各種混合セメント(高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント)、白色ポルトランドセメント、アルミナセメント、超速硬セメント(1クリンカー速硬性セメント、2クリンカー速硬性セメント、リン酸マグネシウムセメント)、グラウト用セメント、油井セメント、低発熱セメント(低発熱型高炉セメント、フライアッシュ混合低発熱型高炉セメント、ビーライト高含有セメント)、超高強度セメント、セメント系固化材、エコセメント(都市ごみ焼却灰、下水汚泥焼却灰の1種以上を原料として製造されたセメント)が挙げられる。
セメントは、高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、石灰石粉末等の微粉体、石膏等が添加されてもよい。
【0094】
セメント組成物は、骨材を含んでもよい。骨材は、細骨材及び粗骨材のいずれでもよい。骨材としては、例えば、砂、砂利、砕石;水砕スラグ;再生骨材等;珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質等の耐火骨材が挙げられる。
【0095】
セメント組成物における水硬性組成物用分散剤の配合割合は、特に限定されない。例えば、セメント組成物が、モルタル又はコンクリートである場合、水硬性組成物用分散剤に含まれる成分(A)の添加量(配合量)は、セメントの全重量に対して、通常、0.01~5.0重量%であり、好ましくは0.02~2.0重量%であり、より好ましくは0.05~1.0重量%である。この添加量とすることにより、得られるセメント組成物に、単位水量の低減、強度の増大、耐久性の向上等の各種の好ましい諸効果がもたらされる。
【0096】
セメント組成物は、例えば、レディーミクストコンクリート、コンクリート2次製品(プレキャストコンクリート)用のコンクリート、遠心成形用コンクリート、振動締め固め用コンクリート、蒸気養生コンクリート、吹付けコンクリート等のコンクリートとして有効である。また、セメント組成物は、中流動コンクリート(スランプ値が22~25cmの範囲のコンクリート)、高流動コンクリート(スランプ値が25cm以上で、スランプフロー値が50~70cmの範囲のコンクリート)、自己充填性コンクリート、セルフレベリング材等の高い流動性が要求されるモルタル又はコンクリート、としても有効である。
【0097】
本発明の水硬性組成物用分散剤は、そのままセメントの分散剤としても使用できる。本発明の水硬性組成物用分散剤は、他のセメント分散剤、水溶性高分子、高分子エマルジョン、空気連行剤、セメント湿潤剤、膨張剤、防水剤、遅延剤、増粘剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、硬化促進剤、消泡剤、AE剤、その他の界面活性剤等の公知のコンクリート用添加剤との併用も可能である。
公知のコンクリート用添加剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を用いてもよい。
【0098】
他のセメント分散剤としては、例えば、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、リグニンスルホン酸塩等のスルホン酸系分散剤(S)が挙げられる。スルホン酸系分散剤(S)の含有率は、本発明の水硬性組成物用分散剤に対して、0.01~50重量%が好ましい。
【0099】
水溶性高分子としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンポリプロピレングリコール、ポリエチレンポリブチレングリコール等のポリアルキレングリコールが挙げられる。水溶性高分子の含有率は、本発明の水硬性組成物用分散剤に対して、0.01~50重量%が好ましい。
【0100】
遅延剤としては、例えば、グルコン酸(塩)、クエン酸(塩)等のオキシカルボン酸類;グルコース等の糖類;ソルビトール等の糖アルコール類が挙げられる。糖アルコール類の含有率は、本発明の水硬性組成物用分散剤に対して、0.01~50重量%が好ましい。
【0101】
硬化促進剤としては、例えば、塩化カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム等の可溶性カルシウム塩類;塩化鉄、塩化マグネシウム等の塩化物類;チオ硫酸塩、ギ酸及びギ酸カルシウム等のギ酸塩類が挙げられる。硬化促進剤の含有率は、本発明の水硬性組成物用分散剤に対して、0.01~50重量%が好ましい。
【0102】
増粘剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、公知のセルロースナノファイバー、公知のセルロースナノクリスタル(Z)が挙げられる。増粘剤の含有率は、本発明の水硬性組成物用分散剤に対して、0.01~50重量%が好ましい。
【実施例】
【0103】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。以下の実施例は、本発明を好適に説明するためのものであって、本発明を限定するものではない。なお、「部」は、質量基準である。
【0104】
[重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)]
下記の条件で、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)にてポリエチレングリコール換算した値である。
測定装置;東ソー製
使用カラム;Shodex Column OH-pak SB-806HQ、SB-804HQ、SB-802.5HQ
溶離液;0.05mM硝酸ナトリウム/アセトニトリル 8/2(v/v)
標準物質;ポリエチレングリコール(東ソー製、GLサイエンス製)
検出器;示差屈折計(東ソー製)
検量線;ポリエチレングリコール基準
【0105】
[分散度(Mw/Mn)]
重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)の測定値から算出した。
【0106】
[モルタルフロー値(mm)]
調製したモルタルについて、「JIS A 1171(ポリマーセメントモルタルの試験方法)」のフロー試験に準拠して、混練直後と混練30分後、60分後、90分後、120分後のそれぞれのモルタルフローを測定した。
【0107】
(製造例1:共重合体(A-1)の調製)
温度計、攪拌装置、還流装置、窒素導入管及び滴下装置を備えたガラス反応容器に、水703部、及びポリエチレングリコールモノアリルエーテル(エチレンオキサイドの平均付加モル数10個)18部を投入し、攪拌しながら反応容器を窒素置換した。窒素雰囲気下で80℃に昇温した後、メタクリル酸10部、アクリル酸0.1部、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(エチレンオキサイドの平均付加モル数25個)64部、2-ヒドロキシエチルアクリレート75部、及び水82部を混合したモノマー水溶液と、過硫酸アンモニウム3部、及び水42部の混合液とを、各々2時間で、80℃に保持した反応容器に連続滴下した。滴下終了後、温度を100℃に保持した状態でさらに1時間反応させることにより共重合体の水溶液を得た。この液を30%NaOH水溶液でpH5に調整した。液中の共重合体は、共重合体(A-1)(重量平均分子量14,200、Mw/Mn1.56)であった。
【0108】
(製造例2:共重合体(A-2)の調製)
温度計、攪拌装置、還流装置、窒素導入管及び滴下装置を備えたガラス反応容器に、水611部、及びポリエチレングリコールモノアリルエーテル(エチレンオキサイドの平均付加モル数35個)36部を投入し、攪拌しながら反応容器を窒素置換した。窒素雰囲気下で80℃に昇温した後、メタクリル酸14部、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(エチレンオキサイドの平均付加モル数20個)95部、2-ヒドロキシエチルアクリレート115部、3-メルカプトプロピオン酸2部、及び水76部を混合したモノマー水溶液と、過硫酸アンモニウム3部及び水42部の混合液とを、各々2時間で、80℃に保持した反応容器に連続滴下した。滴下終了後、温度を100℃に保持した状態でさらに1時間反応させることにより共重合体の水溶液を得た。この液を30%NaOH水溶液でpH4に調整した。液中の共重合体は、共重合体(A-2)(重量平均分子量32,000、Mw/Mn2.90)であった。
【0109】
(製造例3:共重合体(A-3)の調製)
温度計、攪拌装置、還流装置、窒素導入管及び滴下装置を備えたガラス反応容器に、水654部、及びポリエチレングリコールモノアリルエーテル(エチレンオキサイドの平均付加モル数10個)17部を投入し、攪拌しながら反応容器を窒素置換した。窒素雰囲気下で80℃に昇温した後、メタクリル酸9部、アクリル酸0.1部、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(エチレンオキサイドの平均付加モル数25個)59部、2-ヒドロキシプロピルアクリレート81部、及び水131部を混合したモノマー水溶液と、過硫酸アンモニウム3部、及び水43部の混合液とを、各々2時間で、80℃に保持した反応容器に連続滴下した。滴下終了後、温度を100℃に保持した状態でさらに1時間反応させることにより共重合体の水溶液を得た。この液を30%NaOH水溶液でpH4に調整した。液中の共重合体は、共重合体(A-3)(重量平均分子量22,000、Mw/Mn2.10)であった。
【0110】
(製造例4:共重合体(A-4)の調製)
温度計、攪拌装置、還流装置、窒素導入管及び滴下装置を備えたガラス反応容器に、水304部、及びポリエチレングリコールモノアリルエーテル(エチレンオキサイドの平均付加モル数10個)22部を投入し、攪拌しながら反応容器を窒素置換した。窒素雰囲気下で80℃に昇温した後、メタクリル酸25部、アクリル酸0.4部、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(エチレンオキサイドの平均付加モル数18個)170部、2-ヒドロキシプロピルアクリレート230部、3-メルカプトプロピオン酸4部、及び水176部を混合したモノマー水溶液と、過硫酸アンモニウム5部、及び水45部の混合液とを、各々2時間で、80℃に保持した反応容器に連続滴下した。滴下終了後、温度を100℃に保持した状態でさらに1時間反応させることにより共重合体の水溶液を得た。この液を30%NaOH水溶液でpH4に調整した。液中の共重合体は、共重合体(A-4)(重量平均分子量18,000、Mw/Mn1.73)であった。
【0111】
(製造例5:共重合体(A-5)の調製)
温度計、攪拌装置、還流装置、窒素導入管及び滴下装置を備えたガラス反応容器に、水620部、及びポリエチレングリコールモノアリルエーテル(エチレンオキサイドの平均付加モル数10個)16部を投入し、攪拌下で反応容器を窒素置換した。窒素雰囲気下で80℃に昇温した後、メタクリル酸8部、アクリル酸0.1部、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(エチレンオキサイドの平均付加モル数25個)57部、4-ヒドロキシブチルアクリレート85部、及び水166部を混合したモノマー水溶液と、過硫酸アンモニウム2.6部、及び水42部の混合液とを、各々2時間で、80℃に保持した反応容器に連続滴下した。滴下終了後、温度を100℃に保持した状態でさらに1時間反応させることにより共重合体の水溶液を得た。この液を30%NaOH水溶液でpH4に調整した。液中の共重合体は共重合体(A-5)(重量平均分子量17,300、Mw/Mn1.64)であった。
【0112】
(製造例6:共重合体(A-6)の調製)
温度計、攪拌装置、還流装置、窒素導入管及び滴下装置を備えたガラス反応容器に、水364部、及びポリエチレングリコールモノアリルエーテル(エチレンオキサイドの平均付加モル数10個)22部を投入し、攪拌しながら反応容器を窒素置換した。窒素雰囲気下で80℃に昇温した後、メタクリル酸25部、アクリル酸0.4部、メトキシポリエチレングリコールメタアクリレート(エチレンオキサイドの平均付加モル数13個)165部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート230部、3-メルカプトプロピオン酸4部、及び水130部を混合したモノマー水溶液と、過硫酸アンモニウム5部、及び水40部の混合液とを、各々2時間で、80℃に保持した反応容器に連続滴下した。滴下終了後、温度を100℃に保持した状態でさらに1時間反応させることにより共重合体の水溶液を得た。この液を30%NaOH水溶液でpH4に調整した。液中の共重合体は、共重合体(A-6)(重量平均分子量20,000、Mw/Mn2.03)であった。
【0113】
(製造例7:共重合体(A-7)の調製)
温度計、攪拌装置、還流装置、窒素導入管及び滴下装置を備えたガラス反応容器に、水383部、メタリルアルコールのエチレンオキサイド付加物(エチレンオキサイドの平均付加モル数53個)384部、及び過酸化水素1部を投入し、攪拌しながら反応容器を窒素置換した。窒素雰囲気下で40℃に昇温した後、アクリル酸40.3部、2-ヒドロキシエチルアクリレート5部、及び水161部を混合したモノマー水溶液と、L-アスコルビン酸3部、3-メルカプトプロピオン酸2部、及び水47部の混合液とを、各々2時間で、40℃に保持した反応容器に連続滴下した。滴下終了後、温度を保持した状態でさらに1時間反応させることにより共重合体の水溶液を得た。この液を30%NaOH水溶液でpH4に調整した。液中の共重合体は、共重合体(A-7)(重量平均分子量36,000、Mw/Mn2.42)であった。
【0114】
(製造例8:共重合体(A-8)の調製)
温度計、攪拌装置、還流装置、窒素導入管及び滴下装置を備えたガラス反応容器に、水375部、メタリルアルコールのエチレンオキサイド付加物(エチレンオキサイドの平均付加モル数53個)362部、メトキシポリエチレングリコールメタアクリレート(エチレンオキサイドの平均付加モル数14)11部、及び過酸化水素1部を投入し、攪拌しながら反応容器を窒素置換した。窒素雰囲気下で40℃に昇温した後、メタクリル酸4部、アクリル酸38部、及び水164部を混合したモノマー水溶液と、L-アスコルビン酸3部、3-メルカプトプロピオン酸2部、及び水47部の混合液とを、各々2時間で、40℃に保持した反応容器に連続滴下した。滴下終了後、温度を保持した状態でさらに1時間反応させることにより共重合体の水溶液を得た。この液を30%NaOH水溶液でpH4に調整した。液中の共重合体は、共重合体(A-8)(重量平均分子量37,500、Mw/Mn2.53)であった。
【0115】
(製造例9:共重合体(A-9)の調製)
温度計、攪拌装置、還流装置、窒素導入管及び滴下装置を備えたガラス反応容器に水100部、及び3-メチル-3-ブテン-1-オールのエチレンオキサイド付加物(エチレンオキサイドの平均付加モル数67)143部を仕込み、攪拌下で反応容器を窒素置換した。窒素雰囲気下で60℃に昇温した後、メタクリル酸15部、アクリル酸(モノマー/ダイマー=99重量%/1重量%)15部、メトキシポリエチレングリコールメタアクリレート(エチレンオキサイドの平均付加モル数25)34部、2-ヒドロキシプロピルアクリレート42部、3-メルカプトプロピオン酸6部、アスコルビン酸5部、及び水138部を混合したモノマー水溶液と、過酸化水素4部及び水46部の混合液とを、各々2時間で、80℃に保持した反応容器に連続滴下した。さらに、温度を60℃に保持した状態で1時間反応させることにより共重合体の水溶液を得た。液中の共重合体は、共重合体(A-9)(重量平均分子量20,200、Mw/Mn1.63)であった。
【0116】
(製造例10:共重合体(A-10)の調製)
温度計、攪拌装置、還流装置、窒素導入管及び滴下装置を備えたガラス反応容器に、水180部、メタリルアルコールのエチレンオキサイド付加物(エチレンオキサイドの平均付加モル数53個)179部、2-ヒドロキシプロピルアクリレート1部、及び過酸化水素0.6部を投入し、攪拌しながら反応容器を窒素置換した。窒素雰囲気下で40℃に昇温した後、アクリル酸19部、及び水76部を混合したモノマー水溶液と、L-アスコルビン酸1部、3-メルカプトプロピオン酸1部、及び水22部の混合液とを、各々2時間で、40℃に保持した反応容器に連続滴下した。滴下終了後、温度を保持した状態でさらに1時間反応させることにより共重合体の水溶液を得た。液中の共重合体は、共重合体(A-10)(重量平均分子量24,000、Mw/Mn1.55)であった。
【0117】
(製造例11:共重合体(A-11)の調製)
温度計、攪拌装置、還流装置、窒素導入管及び滴下装置を備えたガラス反応容器に、水198部、メタリルアルコールのエチレンオキサイド付加物(エチレンオキサイドの平均付加モル数53個)197部、2-ヒドロキシプロピルアクリレート1部、及び過酸化水素0.6部を投入し、攪拌しながら反応容器を窒素置換した。窒素雰囲気下で40℃に昇温した後、アクリル酸7部、及び水38部を混合したモノマー水溶液と、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム1部、3-メルカプトプロピオン酸0.2部、及び水49部の混合液とを、各々2時間で、40℃に保持した反応容器に連続滴下した。滴下終了後、温度を保持した状態でさらに1時間反応させることにより共重合体の水溶液を得た。液中の共重合体は、共重合体(A-11)(重量平均分子量53,000、Mw/Mn2.09)であった。
【0118】
(実施例1~23及び比較例1~9)
表1に記す配合処方の細骨材、セメント、水からなるセメント組成物、並びに表2~5に示す調製直後又は光照射下、室温で6ヶ月保存後の水硬性組成物用分散剤及びチオール基を有する化合物を、消泡剤(「プロナール753」、フローリック社製)0.7部とともに投入して強制二軸ミキサによる機械練りにより練混ぜて、水硬性組成物を調製した。
調製した水硬性組成物を用いて、モルタルフロー値の測定を行った。調製直後及び保存後の共重合体の重量平均分子量の値とともに、測定結果を併せて表2-1~5-2に記す。
【0119】
【0120】
表1中の詳細を以下に記す。
C:普通ポルトランドセメント(宇部三菱セメント株式会社製、比重3.16)と普通ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製、比重3.16)の等量混合物
W:水道水
S:静岡県掛川産陸砂(細骨材、比重2.66)
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
表2-1~5-2中の詳細を以下に記す。
成分(B):
(B-1):3-メルカプトプロピオン酸(BMPA)(SC有機化学社製)
(B-2):2-アミノエタンチオール
(B-3):ステアリル-3-メルカプトプロピオネート
保存:光照射下、室温で6ヶ月水硬性組成物用分散剤を保存した。
添加率:細骨材、セメント、水からなるセメント組成物に対する水硬性組成物用分散剤の割合である。
【0129】
表2-1~5-2からわかるように、成分(B)を含む水硬性組成物用分散剤は、光照射下、室温で6ヶ月保存しても重量平均分子量の変化が少ないことがわかる。一方、成分(B)を含まない水硬性組成物用分散剤は、保存により重量平均分子量の増加が認められる。従来品である比較例の水硬性組成物用分散剤は、このような重量平均分子量の変化により、モルタルフローの経時変化が劣るものの、本発明の水硬性組成物用分散剤は、重量平均分子量の変化がわずかなため、モルタルフローの経時変化がほとんど認められないものであった。