(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】SSA阻害活性を有する化合物の試験方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6897 20180101AFI20240422BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20240422BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20240422BHJP
G01N 33/58 20060101ALI20240422BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20240422BHJP
【FI】
C12Q1/6897 Z
C12Q1/06
G01N33/15 Z
G01N33/58 Z
C12N15/62 Z ZNA
(21)【出願番号】P 2020031591
(22)【出願日】2020-02-27
【審査請求日】2023-02-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェブサイトの掲載日:令和元年(2019年)9月8日 ウェブサイトのアドレス:https://doi.org/10.1002/ijc.32670 公開者名:香■正宙、大津山彰、孫略、盛武敬、岡■龍史 RECQL4欠損細胞におけるRAD52による誤りがち一本鎖DNA修復機構に関する研究について公開した
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 開催日:令和元年(2019年)12月20日 集会名:名古屋大学環境医学研究所2019年度カンファレンス 開催場所:名古屋大学環境医学研究所 (〒464-0805愛知県名古屋市千種区不老町) 公開者名:香■正宙 RECQL4欠損細胞におけるRAD52による誤りがち一本鎖DNA修復機構に関する研究について発表した
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェブサイトの掲載日:令和元年(2019年)11月20日 ウェブサイトのアドレス:https://confit.atlas.jp/guide/event/mbsj2019/top 公開者名:香■正宙 RECQL4欠損細胞におけるRAD52による誤りがち一本鎖DNA修復機構に関する研究について4P-0118として公開した
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 開催日:令和元年(2019年)12月6日 集会名:第42回分子生物学会 開催場所:マリンメッセ福岡(〒812-0031福岡県福岡市博多区沖浜町7-1) 公開者名:香■正宙 RECQL4欠損細胞におけるRAD52による誤りがち一本鎖DNA修復機構に関する研究について発表した
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェブサイトの掲載日:令和元年(2019年)9月 ウェブサイトのアドレス:https://home.hiroshima-u.ac.jp/housai/topics_pdf/ReserchReportFY2018.pdf 公開者名:香■正宙 RECQL4欠損細胞におけるRAD52による誤りがち一本鎖DNA修復機構に関する研究について公開した
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェブサイトの掲載日:令和元年(2019年)11月 ウェブサイトのアドレス:http://www.rbc.kyoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/2019/11/%E6%94%BE%E7%94%9F%E5%86%8A%E5%AD%90.pdf 公開者名:香■正宙 RECQL4欠損細胞におけるRAD52による誤りがち一本鎖DNA修復機構に関する研究について公開した
(73)【特許権者】
【識別番号】506087705
【氏名又は名称】学校法人産業医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】519413704
【氏名又は名称】公益財団法人ふじのくに医療城下町推進機構
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】香▲崎▼ 正宙
(72)【発明者】
【氏名】安藤 隆幸
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-19082(JP,A)
【文献】国際公開第2019/131961(WO,A1)
【文献】Molecular and Cellular Biology,2004, Vol.24, pp.9305-9316
【文献】Nucleic Acids Research,2016, Vol.44, pp.4189-4199
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検化合物が一本鎖アニーリング(SSA)によるDNA修復経路を阻害するか否かを試験する方法であって、
二本鎖切断の修復を評価するレポーター系が導入されたRECQL4欠損細胞内の当該レポーター系にDNAの二本鎖切断を誘導し、SSAによるDNA修復を誘発することと、
ここで、当該レポーター系は、マーカー遺伝子を有し、マーカー遺伝子は、第一の部分と第二の部分とに分断されており、第一の部分は、制御配列に作動可能に連結し、第一の部分と第二の部分の間には、DNA配列が介在し、これにより、少なくとも第二の部分は転写または翻訳がなされず、介在するDNA配列は、制限酵素の切断部位を有し、当該制限酵素による切断により、細胞内でSSAによるDNA修復を誘発し、当該SSAによるDNA修復によって分断された第一の部分と第二の部分とがインフレームで再連結されると、インフレームで連結された第一の部分と第二の部分が発現し、これによって、当該第一の部分と第二の部分とを含むマーカー遺伝子を検出することができる系であり、
SSAによるDNA修復の前または修復中に前記細胞と被検化合物とを接触させることと、
マーカー遺伝子の発現量を測定すること
を含み、
マーカー遺伝子の発現量の減少が、被検化合物によるSSAによるDNA修復経路の阻害強度を示す、
方法。
【請求項2】
マーカー遺伝子が、蛍光タンパク質、および薬剤選択マーカーから選択されるタンパク質をコードする遺伝子である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
マーカー遺伝子が、緑色蛍光タンパク質GFPである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
介在するDNA配列が、マーカー遺伝子とは異なる薬剤選択マーカーをコードする遺伝子を発現可能に含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
制限酵素が、I-SceIである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
被検化合物で処理した細胞においてRAD52の活性が非処理と比較して抑制されていることをさらに評価することを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
RAD52の活性の抑制を、RAD52の核内でのフォーカス形成を指標として評価する、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SSA阻害活性を有する化合物の試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1によれば、RECQL4のC末端ドメインの欠損(RECQL4ΔC)を有する細胞株が、誤りがちな一本鎖アニーリング(SSA)活性を向上させ、代替末端結合(Alt-EJ)の活性を低下させること、およびRECQL4が二本鎖切断におけるDNA修復経路を制御しているであろうと示唆されることが報告されている。また、RECQL4ΔCを有するがん細胞は、電離放射線照射やシスプラチン処置などのがん治療後にSSAに関与する因子であるRPA2/RAD52のフォーカスを増加させ、DNA損傷部位にRPA2/RAD52を集積させる。そして、RAD52に対するノックダウンやRAD52阻害剤である、5-アミノイミダゾール-4-カルボキサミド-1-β-D-リボフラノシド(AICAR)、エピガロカテキン(EGC)、およびRAD52フェニルアラニン79アプタマーが、RECQL4ΔCを有する大腸がん細胞株(HCT116細胞)の増殖を抑制することをインビトロおよびインビボグラフトモデルを用いて示している。
【0003】
特許文献1によれば、RAD52の阻害剤であるエピガロカテキン(EGC)およびAICARがRECQL4欠損細胞でのSSA活性を阻害する可能性が明らかにされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Kohzaki M. et al., International Journal of Cancer, DOI: 10.1002/ijc.32670
【発明の概要】
【0006】
DNAが損傷された後のDNA修復において、一本鎖アニーリング(SSA)によるDNA修復経路が働き、これにより細胞は生存確率を高める。腫瘍に対してDNA損傷(特にDNAの二本鎖切断)を誘発する治療(例えば、電離放射線照射やシスプラチン処置)でRAD52を増加および活性化させSSAが生じる。これに対して、RAD52によるSSA経路を阻害すると抗腫瘍効果が奏されると考えられる。SSA阻害活性を有する化合物は、抗がん剤候補ととなり得る。また、RAD52の増加および活性化を阻害する化合物は、抗がん剤候補となり得る。本発明では、SSA阻害活性を有する化合物およびRAD52の増加および活性化を阻害する化合物を試験する方法を提供する。
【0007】
本発明では、以下の発明が提供される。
[1]被検化合物が一本鎖アニーリング(SSA)によるDNA修復経路を阻害するか否かを試験する方法であって、
二本鎖切断の修復を評価するレポーター系が導入されたRECQL4欠損細胞内の当該レポーター系にDNAの二本鎖切断を誘導し、SSAによるDNA修復を誘発することと、
ここで、当該レポーター系は、マーカー遺伝子を有し、マーカー遺伝子は、第一の部分と第二の部分とに分断されており、第一の部分は、制御配列に作動可能に連結し、第一の部分と第二の部分の間には、DNA配列が介在し、これにより、少なくとも第二の部分は転写または翻訳がなされず、介在するDNA配列は、制限酵素の切断部位を有し、当該制限酵素による切断により、細胞内でSSAによるDNA修復を誘発し、当該SSAによるDNA修復によって分断された第一の部分と第二の部分とがインフレームで再連結されると、インフレームで連結された第一の部分と第二の部分が発現し、これによって、当該第一の部分と第二の部分とを含むマーカー遺伝子を検出することができる系であり、
SSAによるDNA修復の前または修復中に前記細胞と被検化合物とを接触させることと、
マーカー遺伝子の発現量を測定すること
を含み、
マーカー遺伝子の発現量の減少が、被検化合物によるSSAによるDNA修復経路の阻害強度を示す、
方法。
[2]マーカー遺伝子が、蛍光タンパク質、および薬剤選択マーカーから選択されるタンパク質をコードする遺伝子である、上記[1]に記載の方法。
[3]マーカー遺伝子が、緑色蛍光タンパク質GFPである、上記[1]または[2]に記載の方法。
[4]介在するDNA配列が、マーカー遺伝子とは異なる薬剤選択マーカーをコードする遺伝子を発現可能に含む、上記[1]または[2]に記載の方法。
[5]制限酵素が、I-SceIである、上記[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]被検化合物で処理した細胞においてRAD52の活性が非処理と比較して抑制されていることをさらに評価することを含む、上記[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]RAD52の活性の抑制を、RAD52の核内でのフォーカス形成を指標として評価する、上記[6]に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、二本鎖切断の修復を評価するレポーター系の一例としてSAGFPを用いたSSAによるDNA修復の測定原理を説明する。
【
図2】
図2は、RECQL4ΔC細胞では、I-SceIによって二本鎖切断を誘発させたときのSSAによるDNA修復を、二本鎖切断の修復を評価するレポーター系の一例としてSAGFPを用いて測定したGFP陽性細胞数が、野生型細胞(WT)の約2~3倍であったことを示す。
【
図3】
図3は、33種類の被検化合物を用いてSSAによるDNA修復の阻害をGFP陽性細胞の率に基づいて確認した結果である。
【
図4】
図4は、シスプラチン処理によって誘発されるSSA修復の過程においてRAD52が核内でフォーカスを形成する様子を示す。
【
図5】
図5は、SSA修復を阻害する化合物で処理した細胞において、RAD52の核内で形成するフォーカスの数を示す。細胞のシスプラチン処理により細胞内でDNA損傷が誘発され、当該DNA損傷部位にはRAD52が集積して
図4に示されるような輝点を形成する。当該輝点数/細胞を減少させる化合物は、RAD52のDNA損傷部位への集積を阻害する化合物である。
【
図6】
図6は、実施例で用いたレポーター系においてGFP発現を駆動するために用いたプロモーターに作動可能に連結させたGFPレポーターによるGPF発現に対する、表示された化合物の影響を示す。テアフラビンは、プロモーター自体に影響する、もしくはトランスフェクション自体に影響するアーティファクトを生じていた。
【
図7】
図7は、RECQL4ΔCを有するHCT116細胞における、SSA経路、Alt-EJ経路、およびHR経路それぞれへのRAD52のノックダウンの影響を示す。siRAD52は、RAD52に対するsiRNA処理をしたことを示す。
【
図8】
図8は、ヒトRECQL4のドメイン構造の模式図(上パネル)と、ヒトRECQL4をコードする遺伝子の破壊スキームを示す。この破壊スキームでは、核移行シグナル(NLS)のC末端側にストップコドンおよび制御配列に作動可能に連結したブラスチシジンS耐性遺伝子(Bsr)とを含む挿入が行われた。
【発明の具体的な説明】
【0009】
本明細書では、細胞は、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ハムスター、サル、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ラマ、およびロバ)、例えば、ヒトの細胞であり得る。細胞は、細胞株であり得る。細胞株は、様々な細胞株を用いることができる。初代体細胞を株化する方法は当業者に周知である。
【0010】
本明細書では、「RECQL4」は、RecQヘリカーゼファミリーの一員であり、ゲノムの安定性維持に必要とされる。
図8で示す通り、RECQL4は、N末端側から、Sld2様ドメイン、核移行シグナル(NLS)、ヘリカーゼドメイン、およびHrq1ドメインをこの順番で有する。RECQL4のC末端側の領域(ヘリカーゼドメインを含む領域)を欠損した場合に、ロスムンド・トムソン症候群(RTS)が誘発されることが知られている。RECQL4変異は、バラー・ゲロルド症候群(BGS)およびラパジリノ症候群とも関連している。RECQL4は、いくつものDNA修復機構に関連しており、PARP-1と相互作用し、BERを制御して、一本鎖切断(SSB)を修復する。発明者らの既報(Kohzaki M. et al., International Journal of Cancer, DOI: 10.1002/ijc.32670)によれば、RECQL4のC末端ドメインの欠損(RECQL4ΔC)を有する細胞株が、誤りがちな一本鎖アニーリング(SSA)活性を向上させ、代替末端結合(Alt-EJ)の活性を低下させること、およびRECQL4が二本鎖切断におけるDNA修復経路を制御しているであろうと示唆されることが報告されている。また、RECQL4ΔCを有するがん細胞は、電離放射線照射や白金製剤処置(例えば、シスプラチン処置)などのがん治療後にRPA2/RAD52のフォーカスを増加させる。そして、RAD52に対するノックダウンやRAD52阻害剤である、5-アミノイミダゾール-4-カルボキサミド-1-β-D-リボフラノシド(AICAR)、エピガロカテキン(EGC)、およびRAD52フェニルアラニン79アプタマーが、RECQL4ΔCを有する大腸がん細胞株(HCT116細胞)の増殖を抑制することをインビトロおよびインビボグラフトモデルを用いて示している。ヒトRECQL4は、GenBank登録番号:AAH13277.2で登録されたアミノ酸配列を有するRECQL4または当該アミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有するヒトRECQL4であり得る。C末端ドメインは、GenBank登録番号:AAH13277.2で登録されたアミノ酸配列において、490~1208番目のアミノ酸配列の領域であり得る。ヒト以外の細胞においても、ヒトRECQL4のオーソログがゲノム上に存在し、当該オーソログが発現している。
【0011】
本明細書では、「RECQL4ΔC細胞」とは、RECQL4ΔCを発現する細胞を意味する。RECQL4ΔCは、RECQL4のうち、少なくともN末端側のSld2様ドメイン(すなわち、GenBank登録番号:AAH13277.2で登録されたアミノ酸配列において1~490番目のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有するRECQL4の領域)を含む。RECQL4ΔCは、例えば、Sld2様ドメインを含み得る。RECQL4ΔCは、例えば、Sld2様ドメインと核移行シグナル(NLS)とを含み得る。RECQL4ΔCは、例えば、Sld2様ドメインと核移行シグナル(NLS)とからなり得る。RECQL4ΔCは、例えば、C末端側の領域(GenBank登録番号:AAH13277.2で登録されたアミノ酸配列において490~1208番目のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有するRECQL4の領域)の一部または全部を欠失している。RECQL4ΔCを発現する細胞とは、ゲノム上に存在する内在性RECQL4をコードする遺伝子についてRECQL4ΔCとなる改変がなされた細胞であり得る。改変は、例えば、フレームシフト変異またはナンセンス変異の導入、例えば、ストップコドンの導入により行うことができる。また、遺伝子の改変は、当業者であれば、特に限定されないが例えば、ゲノム編集技術などの当業者に周知の方法を用いて適宜行うことができる。
【0012】
本明細書では、「RECQL4欠損細胞」とは、内在性のRECQL4のヘリカーゼの機能および/または構造が欠失または阻害された細胞を意味する。RECQL4欠損細胞においては、内在性のRECQL4が、遺伝子改変によってヘリカーゼ活性を低減または欠失している。RECQL4欠損細胞としては、例えば、RECQL4のヘリカーゼドメインが欠失した細胞、およびヘリカーゼドメインおよびHrq1ドメインが欠失した細胞、例えば、RECQL4ΔCを有する細胞が挙げられる。RECQL4欠損細胞は、Sld2様ドメインを有する内在性のRECQL4を有し得る。
【0013】
本明細書では、「RAD52」は、DNA修復に関与するタンパク質である。ヒトRAD52は、GenBank登録番号:AAA85793.1で登録されたアミノ酸配列を有するRAD52または当該アミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有するヒトRAD52であり得る。用いる細胞種が由来する動物種にRAD52のオーソログが存在する。
【0014】
本明細書では、「処置」は、治療的処置および予防的処置を意味する。
【0015】
本明細書では、「白金製剤」は、抗腫瘍活性を有する抗がん剤であり、例えば、シスプラチンが挙げられる。
【0016】
本明細書では、「電離放射線照射」は、対象の悪性腫瘍の処置を目的として対象に当該悪性腫瘍に対して行われる放射線療法である。電離放射線照射は、X線、γ線、または粒子線の照射によりなされ得る。電離放射線照射は、照射した細胞内のDNAに二本鎖切断を誘発させる。
【0017】
(1次アッセイ系)
本発明によれば、
被検化合物が一本鎖アニーリング(SSA)によるDNA修復経路を阻害するか否かを試験する方法であって、
RECQL4欠損細胞を用いて、被検化合物がSSAによるDNA修復経路を阻害するかを評価することを含む方法が提供される。
【0018】
本発明によれば、RECQL4欠損細胞は、RECQL4のノックアウト細胞であり得る。本発明によれば、RECQL4欠損細胞は、RECQL4ΔCを発現する細胞であり得る。本発明によれば、RECQL4欠損細胞は、内在性のRECQL4が、RECQL4ΔCとなる改変がなされた細胞であり得る。
【0019】
より具体的には、本発明によれば、
被検化合物が一本鎖アニーリング(SSA)によるDNA修復経路を阻害するか否かを試験する方法であって、
RECQL4欠損細胞に対して、二本鎖切断の修復を評価するレポーター系を導入することと、
ここで、当該レポーター系は、マーカー遺伝子を有し、マーカー遺伝子は、第一の部分と第二の部分とに分断されており、第一の部分は、制御配列に作動可能に連結し、第一の部分と第二の部分の間には、DNA配列が介在し、これにより、少なくとも第二の部分は転写または翻訳がなされず、介在するDNA配列は、16塩基以上の配列特異性を有する制限酵素の切断部位を有し、当該制限酵素による切断により、細胞内でSSAによるDNA修復を誘発し、当該SSAによるDNA修復によって分断された第一の部分と第二の部分とがインフレームで再連結されると、インフレームで連結された第一の部分と第二の部分が発現し、これによって、当該第一の部分と第二の部分とを含むマーカー遺伝子を検出することができるベクター系であり、
上記RECQL4欠損細胞に対して、前記16塩基以上の配列特異性を有する制限酵素を導入して、DNAの二本鎖切断を誘導し、SSAによるDNA修復を誘発することと、
SSAによるDNA修復の前または修復中に前記細胞と被検化合物とを接触させることと、
マーカー遺伝子の発現量を測定すること
を含み、
マーカー遺伝子の発現量の減少が、被検化合物によるSSAによるDNA修復経路の阻害強度を示す、
方法
が提供される。
【0020】
本発明によればまた、
被検化合物が一本鎖アニーリング(SSA)によるDNA修復経路を阻害するか否かを試験する方法であって、
二本鎖切断の修復を評価するレポーター系が導入されたRECQL4欠損細胞内の当該レポーター系にDNAの二本鎖切断を誘導し、SSAによるDNA修復を誘発することと、
ここで、当該レポーター系は、マーカー遺伝子を有し、マーカー遺伝子は、第一の部分と第二の部分とに分断されており、第一の部分は、制御配列に作動可能に連結し、第一の部分と第二の部分の間には、DNA配列が介在し、これにより、少なくとも第二の部分は転写または翻訳がなされず、介在するDNA配列は、制限酵素の切断部位を有し、当該制限酵素による切断により、細胞内でSSAによるDNA修復を誘発し、当該SSAによるDNA修復によって分断された第一の部分と第二の部分とがインフレームで再連結されると、インフレームで連結された第一の部分と第二の部分が発現し、これによって、当該第一の部分と第二の部分とを含むマーカー遺伝子を検出することができる系であり、
SSAによるDNA修復の前または修復中に前記細胞と被検化合物とを接触させることと、
マーカー遺伝子の発現量を測定すること
を含み、
マーカー遺伝子の発現量の減少が、被検化合物によるSSAによるDNA修復経路の阻害強度を示す、
方法
が提供される。
【0021】
用いる細胞は、上記の通りである。細胞としては、例えば、がんではない細胞(非がん細胞)を用いることができ、または、例えば、がん細胞株を用いることができる。がん細胞株としては、例えば、大腸がん細胞株(例えば、HCT116細胞)、ヒト肺がん細胞株(例えば、A549細胞)、およびヒト乳がん細胞株(例えば、MCF7細胞)を用いることができる。細胞は、哺乳動物細胞であり得、好ましくは、マウス細胞およびヒト細胞であり得、好ましくは、ヒト細胞である。
【0022】
本発明では、RECQL4欠損細胞に対して二本鎖切断の修復を評価するレポーター系を導入することができる。二本鎖切断の修復を評価するレポーター系は、ベクター系であり得る。二本鎖切断の修復を評価するレポーター系は、マーカー遺伝子の発現の有無によってDNA修復経路の活性を評価することができる系であり得る。RECQL4欠損細胞では、Alt-EJおよびHRに対してSSAが亢進していることから、SSAによるDNA修復の評価を好適に行いうることを本発明では利用する。すなわち、二本鎖切断の修復を評価するレポーター系は、RECQL4欠損細胞では、SSAによるDNA修復の活性を評価することに適している。
【0023】
二本鎖切断の修復を評価するレポーター系は、DNA修復によって破壊されたマーカー遺伝子が回復する仕組みを利用する。例えば、マーカー遺伝子を第一の部分と第二の部分とに分けることができる。第一の部分と第二の部分の間には、DNA配列を介在させることができる。介在するDNA配列には、制限酵素の切断部位(すなわち二本鎖切断の誘導部位)を含めておくことができる。これにより、人為的に介在するDNA配列に二本鎖切断を誘導することができる。系は、細胞内に導入することから、制限酵素は、細胞のゲノムを切断しないことが好ましい。このことから、制限酵素の切断部位は、細胞のゲノムDNAには存在しないことが好ましい。但し、評価系を著しく破壊しない程度の二本鎖切断を細胞のゲノムDNAに誘発することは許容される。例えば、ヒトゲノムは、30億塩基対であることから、16塩基以上の特異性を有する制限酵素の切断部位は、理論上3箇所程度存在し得、18塩基以上の特異性を有する制限酵素の切断部位は、理論上0.2箇所未満程度存在し得る。当業者であれば、これらを参考として、例えば、16塩基以上の特異性を有する制限酵素、17塩基以上の特異性を有する制限酵素、および18塩基以上の特異性を有する制限酵素、ならびにその切断部位(または認識部位)を用いる系を用いることができる。本発明のある態様では、制限酵素およびその切断部位(または認識部位)としては、例えば、I-SceI、I-SceII、I-SceIII、I-SceIV、I-SceV、I-SceVI、I-SceVII、I-CeuI、I-CeuAIIP、I-CreI、I-CrepsbIP、I-CrepsbIIP、I-CrepsbIIIP、I-CrepsbIVP、I-TliI、I-PpoI、PI-PspI、F-SceI、F-SceII、F-SuvI、F-TevI、F-TevII、I-AmaI、I-AniI、I-ChuI、I-CmoeI、I-CpaI、I-CpaII、I-CsmI、I-CvuI、I-CvuAIP、I-DdiI、I-DdiII、I-DirI、I-DmoI、I-HmuI、I-HmuII、I-HsNIP、I-LlaI、I-MsoI、I-NaaI、I-NanI、I-NclIP、I-NgrIP、I-NitI、I-NjaI、I-Nsp236IP、I-PakI、I-PboIP、I-PcuIP、I-PcuAI、I-PcuVI、I-PgrIP、I-PobIP、I-PorI、I-PorIIP、I-PbpIP、I-SpBetaIP、I-ScaI、I-SexIP、I-SneIP、I-SpomI、I-SpomCP、I-SpomIP、I-SpomIIP、I-SquIP、I-Ssp68031、I-SthPhiJP、I-SthPhiST3P、I-SthPhiSTe3bP、I-TdeIP、I-TevI、I-TevII、I-TevIII、I-UarAP、I-UarHGPAIP、I-UarHGPA13P、I-VinIP、I-ZbiIP、PI-Mtul、PI-MtuHIP PI-MtuHIIP、PI-PfuI、PI-PfuII、PI-PkoI、PI-PkoII、PI-Rma43812IP、PI-SpBetaIP、PI-SceI、PI-TfuI、PI-TfuII、PI-ThyI、PI-TliI、およびPI-TliII、並びにこれらの機能的な誘導体制限酵素からなる群から選択されるメガヌクレアーゼおよびその切断部位(または認識部位)、好ましくは、18塩基以上の配列特異性を有する制限酵素であるメガヌクレアーゼおよびその切断部位(または認識部位)、特に細胞のゲノムを1箇所または複数箇所以上切断しないメガヌクレアーゼおよびその切断部位、例えば、I-SceIおよびその切断部位(または認識部位)を用いることができる。レポーター系は、細胞のゲノムに外来的に挿入されていてもよい。レポーター系は、細胞のゲノム外に存在していてもよい。
【0024】
ある態様では、介在する配列は、制御配列に作動可能に連結された薬剤選択マーカーをコードする遺伝子を有していてもよい。
【0025】
制限酵素によってDNAの二本鎖切断(切断部は、ブラントエンドでもコヒーシブエンドでもよい)を生じさせると、細胞内では亢進したSSAによるDNA修復が生じる。当該DNA修復では、損傷した部位を除去するようにDNA修復が生じ得る。DNA修復では、例えば、第一の部分と第二の部分の間に介在するDNA配列の全部または一部をレポーター系から消失させ得る。この消失によって、第一の部分と第二の部分とに分けられたマーカー遺伝子が、インフレームで連結されると、少なくともマーカー遺伝子の第二の部分が転写および翻訳される。インフレームで連結されるかどうかは確率現象であると考えられるが、しかし一定の割合で連結されると想定でき、少なくともマーカー遺伝子の第二の部分が翻訳されたことを検出することによって、第一の部分と第二の部分とを含むマーカー遺伝子を検出することができ、これにより、SSAによるDNA修復の活性を推定することができる。少なくともマーカー遺伝子の第二の部分が翻訳されたことを検出することによって、SSAによるDNA修復の活性を推定するため、レポーター系は、切断前およびDNA修復前には、マーカー遺伝子の少なくとも第二の部分を転写または翻訳しない。
【0026】
マーカー遺伝子としては、膜貫通タンパク質、薬剤選択マーカーおよび蛍光タンパク質からなる群から選択されるタンパク質をコードする遺伝子を用いることができる。薬剤選択マーカーとしては、細胞の薬剤選択に用いることができる薬剤選択マーカーが挙げられ、例えば、ピューロマイシン、ジェネティシン(G418)、ハイグロマイシン、およびブラストシジンから選択される抗生物質に対する薬剤選択マーカーを用いることができる。蛍光タンパク質としては、検出に適するものであれば特に限定されないが、可視光域に蛍光波長を有する蛍光タンパク質を用いることができる。可視光域に蛍光波長を有する蛍光タンパク質は、数多くの蛍光タンパク質が開発されており、当業者であれば、適宜選択して用いることができる。可視光域に蛍光波長を有する蛍光タンパク質としては、特に限定されないが、例えば、superfolder GFP (sfGFP)、EGFP、Citrine、Venus、mVenus、YFP、mApple、mOrange、mCherry、BFP、TagBFP、mTurquoise、およびCerulean、mHoneydew、mBanana、tdTomato、mTangerine、mStrawberry、mPlum、mScarlet、mNeonGreen、mNeptuneおよびNirFPなどのGFP様蛍光タンパク質、並びにこれらの改変体蛍光タンパク質の円順列変異体が挙げられる。
【0027】
本発明のある態様では、レポーター系としては、SSAにより修復されると、GFP陽性細胞を生み出すレポーター系(例えば、SA-GFPの系)を用いることができる。SA-GFPの系としては、hprtSAGFPベクター(Addgene_41594, Addgene)を用いることができる。
【0028】
細胞に対して制限酵素を導入することは、例えば、制御配列に作動可能に連結された制限酵素をコードする核酸を発現可能に含む遺伝子発現ベクターを細胞に導入することによってなされ得る。制御配列に作動可能に連結された制限酵素をコードする核酸は、細胞のゲノムに組込まれていてもよいし、細胞のゲノム外に存在してもよい。
【0029】
マーカー遺伝子および制限酵素を発現させるための制御配列としては、導入する細胞で恒常的にまたは一過性に遺伝子を発現させるプロモーターおよび誘導性プロモーターが挙げられ、いずれも本発明で用いることができる。制御配列に作動可能に連結された制限酵素をコードする核酸が細胞のゲノムに組込まれている場合には、制限酵素を駆動する制御配列は、誘導性プロモーターとすることができる。そして、制限酵素によるレポーター系の切断を誘発させる場合に、当該誘導性プロモーターに対して誘導因子を作用させて制限酵素を発現させることができる。
【0030】
本発明では、恒常的に発現を促進するプロモーターとしては、本発明のレポーター系の効果を著しく低減しない限り、様々なプロモーターを用いることができるが、例えば、CMV(サイトメガロウイルス)、RSV(respiratory syncytial virus)、SV40(simian virus 40)等のウイルス由来プロモーター、アクチンプロモーター、EF(伸長因子)1αプロモーター、CAGプロモーター(CMV初期エンハンサ、チキンβ-アクチン遺伝子の第一エキソンおよびイントロンのプロモーター、およびウサギβ-グロビン遺伝子のスプライスアクセプターを含む)等が挙げられる。
【0031】
誘導性プロモーターとしては、テトラサイクリン応答因子(例えば、TRE3Gプロモーター)、Cumateオペレーター配列、λオペレーター配列(例えば、12×λOp)、ヒートショックプロモーター等が挙げられる。
【0032】
本発明ではまた、マーカー遺伝子および制限酵素を発現させるための制御配列としては、誘導性プロモーターが挙げられ、本発明で用いることができる。テトラサイクリン応答因子は、誘導因子であるテトラサイクリン又はその誘導体(例えば、ドキシサイクリン等)及びリバーステトラサイクリン制御性トランス活性化因子(rtTA)の存在下において、該因子に作動可能に連結された遺伝子の発現を誘導する。Cumateオペレーター配列は、CymRリプレッサー存在下において不活性であるが、誘導因子であるCumateの存在下において、CymRリプレッサーと解離して、該プロモーターに作動可能に連結された遺伝子の発現を誘導する。λオペレーター配列は、二量体化により転写活性化能を有するアクチベーター(λRep-GyrB-AD)を二量体化する誘導因子(例えば、クメルマイシン)の存在下において、該プロモーターに作動可能に連結された遺伝子の発現を誘導する。ヒートショックプロモーターは、誘導因子である熱ショックの存在下において、該プロモーターに作動可能に連結された遺伝子の発現を誘導する。
【0033】
第一の部分と第二の部分の間に介在するDNA配列がマーカー遺伝子を有する場合には、このマーカー遺伝子と、第一の部分と第二の部分の由来するマーカー遺伝子とは異なるマーカー遺伝子とすることができる。
【0034】
マーカー遺伝子の発現量の測定は、マーカー遺伝子が薬剤選択マーカーをコードする遺伝子である場合には、対応する選択用抗生物質中で細胞を培養して、生存する細胞の数や割合に基づいて行うことができる。この細胞数や割合は、SSAによるDNA修復の活性と正または負に相関する。
【0035】
マーカー遺伝子の発現量の測定は、マーカー遺伝子が膜貫通タンパク質である場合には、細胞膜表面の当該膜貫通タンパク質をフローサイトメトリーで検出することによって行うことができる。当業者であれば、膜貫通タンパク質を検出するフローサイトメトリーの系を選択することができ、本発明に用いることができる。この蛍光強度は、SSAによるDNA修復の活性と正に相関する。
【0036】
マーカー遺伝子の発現量の測定は、マーカー遺伝子が蛍光タンパク質である場合には、細胞に対して励起光を照射したときの蛍光の強度に基づいて行うことができる。蛍光の強度は、様々な当業者に周知の方法で測定することができる。例えば、当業者であれば、フローサイトメトリーを用いて蛍光強度を測定することができ、または、一定以上の蛍光強度を有する細胞の数を測定することができる。これらの蛍光強度および細胞数は、SSAによるDNA修復の活性と正に相関する。
【0037】
本発明によれば、SSAによるDNA修復の前または修復中に細胞と被検化合物とを接触させることができる。当該接触は、培養系において行うことができる。被検化合物が、SSAによるDNA修復を阻害する場合には、修復の結果としてのマーカー遺伝子の少なくとも第二の部分の転写および/または翻訳の量が低減し得る。従って、被検化合物がSSAによるDNA修復を阻害するか否かは、マーカー遺伝子の発現量を測定することによって推定することができる。
【0038】
本発明による被検化合物が一本鎖アニーリング(SSA)によるDNA修復経路を阻害するか否かを試験する方法は、化合物のスクリーニングに用いることができる。従って、本発明によれば、一本鎖アニーリング(SSA)によるDNA修復経路を阻害する化合物のスクリーニング方法であって、
二本鎖切断の修復を評価するレポーター系が導入されたRECQL4欠損細胞内の当該レポーター系にDNAの二本鎖切断を誘導し、SSAによるDNA修復を誘発することと、
ここで、当該レポーター系は、マーカー遺伝子を有し、マーカー遺伝子は、第一の部分と第二の部分とに分断されており、第一の部分は、制御配列に作動可能に連結し、第一の部分と第二の部分の間には、DNA配列が介在し、これにより、少なくとも第二の部分は転写または翻訳がなされず、介在するDNA配列は、制限酵素の切断部位を有し、当該制限酵素による切断により、細胞内でSSAによるDNA修復を誘発し、当該SSAによるDNA修復によって分断された第一の部分と第二の部分とがインフレームで再連結されると、インフレームで連結された第一の部分と第二の部分が発現し、これによって、当該第一の部分と第二の部分とを含むマーカー遺伝子を検出することができる系であり、
SSAによるDNA修復の前または修復中に前記細胞と被検化合物とを接触させることと、
マーカー遺伝子の発現量を測定すること
マーカー遺伝子の発現量を減少させる化合物を選択すること
を含む、
方法
が提供される。
【0039】
ある態様では、本発明の試験方法またはスクリーニング方法では、例えば、ピロガロール構造を有する化合物、およびAICAR誘導体ならびにエピガロカテキンの誘導体からなる群から選択される化合物を被検化合物として試験またはスクリーニングすることができる。ある態様では、本発明の試験方法またはスクリーニング方法では、被検化合物は、EGC、AICAR、およびF79アプタマー(例えば、Ac-VINLANEMFGYNG-GGG-YARAAARQARA-C(O)NH2またはF79Aアプタマー(例えば、Ac-VINLANEMAGYNG-GGG-YARAAARQARA-C(O)NH2)ではない。
【0040】
(2次アッセイ系)
被検化合物が、一本鎖アニーリング(SSA)によるDNA修復経路を阻害する場合には、2次アッセイ系によって被検化合物がRAD52に作用するか否かを試験することができる。
【0041】
具体的には、2次アッセイ系は、被検化合物で処理した細胞においてRAD52の活性が抑制されていることをさらに評価することを含む方法であり得る。RAD52の活性の亢進および抑制は、RAD52が核内においてフォーカス形成をしているか否か、または形成されたフォーカスの数を測定することによって評価できる。RAD52は、活性が亢進しているときには、核内においてフォーカスを形成し、およびフォーカスの数は増加する。また、RAD52の活性の抑制は、形成されるフォーカスの数の減少により評価することができる。
【0042】
RAD52が核内においてフォーカスを形成するか否か、およびそのフォーカスの数は、当業者に周知の方法によって決定することができる。当業者に周知の方法としては、例えば、RAD52に対する細胞免疫化学染色が挙げられる。具体的には、細胞を固定し、細胞膜と核膜を破壊し、その後、RAD52に結合する抗体(1次抗体)と細胞とを接触させ、当該抗体を認識する2次抗体(通常は標識されている)と1次抗体を反応させ、標識を検出することによってなされ得る。細胞免疫化学染色でも値いられる標識は、当業者に周知である。標識としては、例えば、蛍光色素(特に限定されないが、例えば、Alexa Fluor 488)やアルカリフォスファターゼを用いることができる。標識の検出も、当業者であれば適宜行うことができる。
【0043】
本発明のある態様では、被検化合物で処理した細胞においてRAD52の活性が、当該被検化合物で非処理の細胞と比較して抑制されていることをさらに評価することができる。抑制されている場合には、当該被検化合物は、RAD52の活性を抑制していることが示唆される。また、RAD52の核内でのフォーカス形成を指標とすることによって、被検化合物が、RAD52に対して作用しているのかを決定することができる。フォーカス数が減少している場合には、当該被検化合物は、RAD52の活性を抑制していることが示唆される。
【0044】
(得られた化合物)
被検化合物のうち、一本鎖アニーリング(SSA)によるDNA修復経路を阻害する化合物は、電離放射線照射や白金製剤処置(例えば、シスプラチン処置)などのDNA損傷を与える処置後の腫瘍細胞に対して抗腫瘍活性を奏し得る。従って、当該化合物は、電離放射線照射や白金製剤処置(例えば、シスプラチン処置)などのDNA損傷を与える処置(すなわち、DNAに損傷を与えるがん療法)後の腫瘍を有する対象に対して投与され得る。対象は、RAD52を高発現した対象であり得る。対象は、RAD52の高い活性を有する対象であり得る。
【0045】
従って、上記アッセイ系は、電離放射線照射や白金製剤処置(例えば、シスプラチン処置)などのDNA損傷を与える処置後の腫瘍細胞に対して抗腫瘍活性を奏するか否かを試験する方法であり得、または、電離放射線照射や白金製剤処置(例えば、シスプラチン処置)などのDNA損傷を与える処置後のRAD52を高発現した腫瘍細胞または高活性のRAD52を有する腫瘍細胞に対して抗腫瘍活性を奏するか否かを試験する方法であり得る。また、上記アッセイ系は、RAD52を高発現する腫瘍または高活性のRAD52を有する腫瘍を処置する化合物をスクリーニングする方法であり得る。
【0046】
腫瘍は、例えば、悪性腫瘍であり得る。腫瘍は、RAD52を発現し、SSA活性が亢進した腫瘍であり得る。ある態様では、悪性腫瘍は、ブルーム症候群、ワーナー症候群、およびロスムンド・トムソン症候群(RTS)における悪性腫瘍であり得る。ある態様では、悪性腫瘍は、BRCA1欠損および/またはBRCA2欠損による乳がんや子宮がんであり得る(Lok and Powell, Clin Cancer Res, 18, 6400-6, 2012)。悪性腫瘍はまた、例えば、ATM欠損による白血病やリンパ腫(Treuner et al, Oncogene, 23, 4655-61, 2004)、およびAPCmin欠損による家族性大腸腺腫症(Sotiriou et al, Mol Cell, 64, 1127-1134, 2016)からなる群から選択される腫瘍であり得る。
【実施例】
【0047】
実施例1:一本鎖アニーリングによるDNA修復経路を標的とする化合物のアッセイ系の構築
これまでに、Kohzaki M. et al., International Journal of Cancer, DOI: 10.1002/ijc.32670で示されたように、ヒトRECQL4欠損(例えば、RECQL4ΔCのヒト大腸がん細胞株HCT116、ヒト肺がん細胞株A549、およびヒト乳がん細胞株MCF7)細胞は、電離放射線照射や白金製剤処置(例えば、シスプラチン処置)などのDNA損傷の誘発処置の後に働く一本鎖アニーリング(SSA)によるDNA修復経路を活性化することが見出されている。ヒトRECQL4を欠損した大腸がん細胞株HCT116細胞が、SSA経路を活性化させる一方で代替非相同末端結合(Alt-EJ)の活性化は抑制された。すなわち、ヒトRECQL4欠損は、HCT116細胞において、修復機構の中でSSA経路を選択的に活性化させると考えられる。
【0048】
本実施例では、ヒトRECQL4欠損を有するHCT116細胞(
図8に示されるように、内在性RECQL4のアミノ酸番号490、すなわちヘリカーゼドメインの開始部位付近にストップコドンおよびブラスチシジンS耐性遺伝子を導入し、薬剤選択により遺伝子改変がなされた細胞を選択することにより、樹立したヘリカーゼドメイン以降のRECQL4のC末端側の領域を欠失させた細胞株である)を用いて、SSA経路を抑制することができる化合物を試験するアッセイ系を構築した。
【0049】
1次アッセイ系
ステップ1:RECQL4欠損大腸がんHCT116細胞に、hprtSAGFPベクター(Addgene_41594, Addgene)をトランスフェクションして、ピューロマイシン(2~4μg/ml)で選択し、ベクターを安定的に組み込んだ細胞を樹立した。RECQL4欠損細胞では、RAD52が発現向上している。
図1に示されるように、hprtSAGFPベクターは、SSAの基質として用いられ、ベクター中では、緑色蛍光タンパク質GFPが、薬剤選択マーカーにより2つに分断されている。上記分断されたGFPをコードする遺伝子には、制限酵素I-SceIの切断部位が導入されており、I-SceIをHCT116細胞に強制発現させることで分断されたGFPをコードする遺伝子に二本鎖切断が加わる。そうすると、細胞のSSA修復経路によって、分断されたGFP遺伝子が再連結し、GFPの発現によって、SSA経路の活性強度を測定することができる。当該ベクターでは、GFP遺伝子は、CAGプロモーターによって駆動される。
【0050】
ステップ2:2×105個の上記細胞を、300μl培地を含む24穴プレートに播種した。
【0051】
ステップ3:翌日、制限酵素I-SceIの発現ベクターであるpCBASceIベクター(Addgene_26477,Addgene)、もしくは空のコントロールベクターpCAGGSそれぞれ0.4μgを、Lipofectamine LTX Reagent with PLUS Reagent(15338100, ThermoFisher Scientific)、またはAmaxa nucleofector (program D-032) with Kit V (VCA-1003, Lonza, Basel, Switzerland)を使って播種した細胞にトランスフェクションした。
図2に示されるように、この処理により、RECQL4欠損細胞では、野生型と比較して、DNA切断後のGFP陽性細胞数が2~3倍向上した。そのため、本アッセイ系は、SSA阻害活性を検査するには適していると考えられた。したがって、ステップ3として、前記トランスフェクションの数時間前または直後に、10μMの被検化合物で細胞を処理した。
【0052】
ステップ4:36~48時間後に、フローサイトメトリーによってGFP陽性細胞の割合からSSA活性を定量化し、被検化合物がDNA二本鎖切断後に活性化するSSAに対する阻害効果を有するか否かを調べた。スクリーニングは独立して2回行い、SSA活性の平均値と標準偏差を得た。実際に33種類の被検化合物を本アッセイ系を用いて試験した結果は
図3に示される通りであった。
図3に示されるように、化合物7~9は、GFP陽性細胞数を減少させたことから、SSA阻害活性を有する可能性が示唆された。このようにして、本アッセイ系では、被検化合物がSSA阻害活性を有するか否かを試験することができた。
【0053】
ステップ5:阻害剤候補が得られた際は、上記ステップ3でpmaxGFP(VDC-1040,Lonza)ベクターをトランスフェクションし、被検化合物を10μMで処理して36~48時間後にフローサイトメトリーにより解析し、トランスフェクション自体を阻害しないことを確認した。
【0054】
ステップ6:さらに、被検化合物による濃度依存的な阻害効果を確認するために、10、5、2.5μMと濃度を変えて、2回以上独立して解析することで、濃度依存的な阻害効果と再現性を確認した。
【0055】
2次アッセイ系
上記アッセイ系でSSA阻害活性を有すると評価された被検化合物については、当該被検化合物で処理した細胞内におけるRAD52の細胞内局在を確認することで、SSA経路の抑制がRAD52を介することの分子的証拠を得てもよい。具体的な方法は以下の通りである。RAD52の誘導能についての情報を得たい場合は、1次アッセイ系に加えて、2次アッセイ系による評価を行うことができる。
【0056】
ステップ1:RECQL4欠損大腸がんHCT116細胞2×105個を、1ml培地を含む12穴プレートに播種した。あらかじめ12穴にはカバーガラスを入れ、これに細胞を接着させる。
【0057】
ステップ2:2~3日後に、シスプラチンを処理する6時間前から被検化合物を10μMの濃度で添加する。その後、3μg/mlシスプラチンで上記HCT116細胞を16時間処理して、その後、処理細胞を2%スクロースと3%パラホルムアルデヒドを含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で室温で15分間処理して固定した。
【0058】
ステップ3:0.2% Triton-X含有PBSを2分間処理後、1%BSA含有PBSで室温15分間処理してブロッキングした。
【0059】
ステップ4:1次抗体として、マウスRAD52抗体(1:200希釈;sc-365341)、またはラビットRAD52抗体(1:500希釈;sc-8350)を室温1時間処理した。
【0060】
ステップ5:PBST(PBSと0.05% Tween-20)で3回洗浄後、2次抗体として、ヤギ抗マウスIgG抗体であるgoat anti-mouse Alexa Fluor 488 (1:2,000; A-11001)、またはヤギ抗ウサギIgG抗体であるgoat anti-rabbitAlexa Fluor 488 (1:2,000; A-11008)で細胞を室温で45分間処理した。
【0061】
ステップ6:PBSTで洗浄し、1μg/mlのDAPIを1分間処理後にもう一度PBSTで洗浄し、最後にFluoromount-G(0100-20,SouthernBiotech)で細胞を封入した。
【0062】
ステップ7:Axio Observer (Zeiss, Oberkochen, Germany)または、BZ-X700(Keyence, Osaka, Japan)顕微鏡で、細胞内で蛍光を発する輝点を定量・定性解析した。当該輝点は、RAD52が修復に関与している際に生じるフォーカス像と考えられる。
【0063】
図4にはRAD52を介するSSA阻害活性が発現した蛍光顕微鏡像が示される。シスプラチン処理をしてSSAを活性化させた場合には、RAD52は、核内(DAPIで染色)においてスポットを多数形成している。細胞数あたりのこのスポット数を計数することによって、RAD52の誘導の度合いを評価することができる。
【0064】
実際の被検化合物を用いたデータは
図5に示される通りであった。
図5に示されるように、陽性対照(ポジコン)としてエピガロカテキン(EGC)とアカデシン(AICAR)を用いた場合、RAD52の細胞あたりの輝点数は、被検化合物を含まないシスプラチン処理群における輝点数よりも減少した。このことからEGCおよびAICARは、DNA損傷に対するRAD52機能の阻害効果を示したことが分かる。また、ピロガロールおよび1つの被検化合物は、RAD52の輝点数を減少させた。このことからピロガロールおよび当該1つの被検化合物もDNA損傷に対するRAD52機能の阻害効果を示したことが分かる。ピロガロールおよび当該1つの被検化合物は、1次アッセイ系においてI-SceI誘発SSAを阻害した化合物であった。このことからこれらの化合物は、RAD52機能を阻害することによるSSA阻害活性を有する化合物であると考えられる。
【0065】
ところで、
図5では、1次アッセイ系において陽性であったテアフラビンに関して、シスプラチン処置により誘発されるRAD52による輝点形成の阻害の活性が弱いことが示されている。鋭意確認したところ、
図6に示されるようにテアフラビンは、GFPレポーターの発現そのものを停止させるアーティファクトを生じていた。
【0066】
このようにして、1次アッセイ系では、被検化合物はSSA阻害活性を有するか否かの観点で試験されるが、2次アッセイ系では、SSAの修復系を阻害する化合物が、RAD52のフォーカス形成を抑制するか否かの観点で試験された。
【0067】
このようにして、本願発明では、被検化合物がSSA阻害活性を有するか否かの測定系を構築することができた。また、本願発明では、被検化合物が、RAD52の阻害活性を有するか否かを決定できる測定系も構築することができた。なお、
図7に示されるように、通常の細胞ではRAD52をsiRNAによりノックダウンすると、SSAが阻害される一方でAlt-EJおよびHRの活性が向上して、SSA阻害が補完されるのに対して、RECQL4ΔC細胞においては、RAD52のsiRNAによる阻害効果は、Alt-EJおよびHRによる補完が生じない。このことから、RECQL4欠損のがんにおいて、RAD52によるSSAを阻害する化合物は、有望な抗がん剤候補となり得る。