(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】接合装置及び接合方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20240422BHJP
【FI】
B23K20/12 A
(21)【出願番号】P 2020048366
(22)【出願日】2020-03-18
【審査請求日】2023-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000236920
【氏名又は名称】富山県
(73)【特許権者】
【識別番号】520095980
【氏名又は名称】株式会社WISE企画
(73)【特許権者】
【識別番号】518360139
【氏名又は名称】株式会社スフィンクス・テクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】柿内 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】榎本 正敏
(72)【発明者】
【氏名】石橋 大輔
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-101283(JP,A)
【文献】特開2004-154790(JP,A)
【文献】特開2005-251595(JP,A)
【文献】特開平11-192562(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0036225(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタッド材を被接合材に接合するための接合装置であって、
前記スタッド材を保持するためのチャックと、前記チャックに前記スタッド材を保持した状態で回転制御するためのスピンドルを有し、
前記スタッド材と前記被接合材との一方又は両方の接合部を加熱するための加熱手段を有し、
前記加熱手段は高周波が印加されるコイルと、前記コイルの外周に沿って配設した磁性体ガイドからなり、
前記回転制御されたスタッド材を前記被接合材に向けて押圧制御する押圧手段と、
前記スタッド材の回転を停止し、前記被接合材に向けてアップセット加圧制御する加圧手段と、を
有し、
前記加熱手段を構成するコイルは単巻コイルであり、
前記磁性体ガイドは磁界の磁束分布を調整するための内周面に沿った上下の一方又は両方に斜面部を有することを特徴とする接合装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の接合装置を用いた接合方法であって、
前記加熱手段にて、前記スタッド材と前記被接合材との一方又は両方の接合部を加熱する工程と、
前記スタッド材を前記被接合材の接合面に向けて回転押圧する工程と、
次にスタッド材の回転を停止し、アップセット加圧する工程と、を有することを特徴とする接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被接合材にスタッド材を接合するための装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、橋梁の金属性床板やトンネル内装板、高速道路の案内板等の製造課程において、スタッドボルト等のスタッド材の接合方法としてアークスタッド溶接法が用いられていた。
アークスタッド溶接法では、アーク放電によってスタッド材と被接合材との間に溶融物から成る溶融池を形成した状態でこのスタッド材を被接合材に加圧して接合している。
しかし、このような接合法では作業者による加圧力のばらつきが生じやすく、スタッド材に傾きが生じやすい。
また、アーク放電が不安定であるとともに、溶接面の油・埃等の付着や酸化物の残存等により溶接部の品質および接合強度のばらつきが大きくなり易く、接合不良や強度不足といった問題が発生する恐れがあった。
【0003】
特許文献1には、スタッド溶接工程後に、溶接ピン(スタッド材)と被接合材との間に引張力を作用させつつ検査電流を通電することで溶接不良が発生した溶接ピンを検出する検査工程を含むスタッド溶接方法を開示する。
しかし、同公報に開示する技術は、溶接不良の溶接ピンを検出することができるが、溶接ピンと被接合材との接合不良や強度不足の問題を解決するわけではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した接合不良や強度不足に関する問題を解決するためになされたもので、特にスタッド材を被接合材に接合する接合品質の高く、小型化を図るのに有効な接合装置及びそれを用いた接合方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る接合装置は、スタッド材を被接合材に接合するための接合装置であって、前記スタッド材を保持するためのチャックと、前記チャックに前記スタッド材を保持した状態で回転制御するためのスピンドルを有し、前記スタッド材と前記被接合材との一方又は両方の接合部を加熱するための加熱手段を有し、前記加熱手段は高周波が印加されるコイルと、前記コイルの外周に沿って配設した磁性体ガイドからなり、前記回転制御されたスタッド材を前記被接合材に向けて押圧制御する押圧手段と、前記スタッド材の回転を停止し、前記被接合材に向けてアップセット加圧制御する加圧手段と、を有することを特徴とする。
ここでチャックは、例えば、圧力、油圧、空圧、電磁力等により締め付け力が調整されたコレットチャックを用いてもよい。
【0007】
コイルに高周波電流を通電するとコイルのまわりに磁界が発生する。
この場合に磁界中に生起される磁束はコイルの内周部のみならず外周部にも発生することになる。
スタッド材をコイルの内側に配置し、被接合材に接合する場合にはコイルの内側を集中的に加熱することが好ましいが、上記のようにコイルの外周部に発生した磁界は接合部の加熱には寄与しないことになる。
そこで本発明は、コイルの外周側に磁性体ガイドを配設することで磁束をコイルの内側の接合部に集中させたことに特徴がある。
これにより、接合部の加熱時の温度上昇が加速され、従来よりも小さい加圧力でしかも短い時間で接合できる。
また、スタッド材を回転させて被接合材に押圧することで、押圧面の摩擦にて加熱が促進されるとともに、摩擦による回転力にて接合面に有していた酸化物や油等の汚染物質が除去されることになり、接合品質が向上する。
【0008】
本発明において、加熱手段を構成するコイルは単巻コイルであってもよく、前記磁性体ガイドは磁界の磁束分布を調整するための内周面に沿った上下の一方又は両方に斜面部を有するものであってもよい。
コイルの外周側に磁性体ガイドを配設することで、コイルの内側に磁束を集中させることができるため、コイルの巻数を増やして磁界を強くする必要がない。
また、磁性体ガイドの内周面に有する斜面部の角度を調整することで、磁界の磁束分布を調整でき、コイルの内側に配置するスタッド材の直径の大きさや材質に合わせて磁束の集中を調整することができる。
これによりスタッド材と被接合材は同じ材質の金属の場合のみならず、スタッド材と被接合材とが異なる材質からなる金属であってもよい。
スタッド材と被接合材とが異なる金属の場合には透磁率あるいは導電率が異なるが、磁性体ガイドの有する斜面部の角度を調整することにより、スタッド材と被接合材との接合部のうち透磁率の大きいあるいは熱伝導率の小さい金属側へ磁束を集中させ、スタッド材と被接合材との接合部を効率よく加熱できる。
【0009】
本発明に係る接合方法は、前記加熱手段にて、前記スタッド材と前記被接合材との一方又は両方の接合部を加熱する工程と、前記スタッド材を前記被接合材の接合面に向けて回転押圧する工程と、次にスタッド材の回転を停止し、アップセット加圧する工程と、を有することを特徴とする。
これにより、スタッド材の回転及び回転停止後にアップセット加圧することでスタッド材が被接合材に接合される。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る接合装置及びそれを用いた接合方法にあっては、コイルの外周側に磁性体ガイドを配設することで磁束をコイルの内側の接合部に集中させ、接合部の加熱温度の上昇を加速させるとともに最高到達温度を上昇させるため、加熱時間を短縮してスタッド材を被接合材に接合できる。
また、以下の点において接合品質が向上する。
(1)磁束を接合部に集中させることで被接合材の表面への熱拡散を抑制し、熱影響による接合部近傍の軟化領域を縮小させて接合不良を抑制し接合品質を向上する。
(2)スタッド材を回転させて被接合材に押圧することで、摩擦による回転力にて接合面に有していた酸化物や油等の汚染物質を除去し接合品質を向上する。
(3)アップセット加圧力が装置によって管理されることで、加圧力のばらつきを解消し接合品質を向上する。
さらに、本発明による加熱及び摩擦により、軟化した接合部を小さなアップセット加圧力で接合することができるため、接合装置の小型化が期待できる。
本発明は、アークスタッド溶接法に代わり、接合品質が高く効率的に複数のスタッド材を連続的に被接合材に接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る接合装置を構成するコイルと磁性体ガイドの位置例を示す。
【
図4】本発明に係る接合方法例をフローチャートで示す。
【
図5】本実験におけるスタッド材、被接合材、コイル及び磁性体ガイドの位置関係を示す。
【
図6】本実験の加熱による接合部の温度分布図を示し、(a)は磁性体ガイド無しの条件下、(b)は磁性体ガイド配設有りの条件下での結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施例においてスタッド材1は、
図1に示すような棒状部材を用いた例として説明するが、本発明に係るスタッド材1は、ピンやボルト等であってもよい。
また、本発明に係る被接合材2の形状は、平板やIビームのフランジ面あるいはウエブ面、立方体の各面並びに曲率半径10m以上の円筒面あるいは球面でも、押出形材の平面状部分、溶接あるいはボルト等で締結された部材の平面状部分等でもよい。
スタッド材1及び被接合材2は、例えば、鉄、鉄鋼、アルミニウム、銅等の各種金属材料であってよく、スタッド材1及び被接合材2はともに同じ材質の金属であっても、一方が異なる材質からなる異材接合であってもよい。
【0013】
本発明に係る接合装置例を
図1から
図3に基づいて説明する。
本実施例である接合装置10は、単巻のコイル12aと、コイル12aの外周に沿って配設した磁性体ガイド12bとを有する。
便宜上、コイル12a、磁性体ガイド12bを併せて加熱手段12と称する。
図1に示すように、磁性体ガイド12bはコイル12aの外周に沿って配設するが、コイル12aの外周の全部に沿って配設しても、一部のみに沿って配設してもよい。
また、
図2に示すように、磁性体ガイド12bは磁界の磁束分布を調整するために内周面に沿って上下に斜面部A、Bを有するものであってもよい。
磁性体ガイド12bは、必要に応じて斜面部A又は斜面部Bのみを有するものであってもよく、斜面部A、Bのそれぞれの角度はスタッド材1と被接合材2の材質や大きさ、厚み等によって決定するのが好ましい。
【0014】
図3に示した実施例の接合装置10は、接合装置本体11の先端に、スタッド材1を保持するためのチャック13と、チャック13を回転制御するためのスピンドル14を有する他に、スピンドル14により回転制御されたスタッド材1を被接合材2に向けて押圧制御する押圧手段15と、スタッド材1の回転を停止した後被接合材2に向けてアップセット加圧制御する加圧手段16とを有する。
上記構成品の全ては、コントローラ17に内蔵された制御管理ユニット17aによって総合的に制御管理され、コントローラ17には、他にコイル12aに高周波を印加するIH電源17bと、冷却ユニット17cが内蔵されている。
本実施例である接合装置10は、スタッド材1の接合位置を制御しやすいように接合装置本体11として多関節ロボットアームを用いた例を挙げた。
接合装置本体11は、スタッド材の位置決めが可能であればハンディタイプ等であってもよい。
なお、コントローラ17は、接合装置本体11と別のハウジングに収容されていてもよいし、接合装置本体11と同じハウジングに収容されて接合装置10が1つのユニットとして形成されていてもよい。
【0015】
図3に示した実施例では、Z軸方向の位置をボールネジ等でサーボ制御された押圧手段15にてスタッド材1と被接合材2との間の押圧力を制御している。
これに対して、多関節ロボットアームにてZ軸方向の位置制御を分担させた場合には押圧手段15を省略することもできる。
また、加熱手段12はスタッド材1との相対的位置が一定になるように多関節ロボットの先端アーム側に固定されていてもよく、コイル12a及び磁性体ガイド12bの中心や高さが調整できるように独立した位置制御手段を有していてもよい。
なお、
図3に示した実施例では、高周波の印加を制御する出力制御手段12cは加熱手段12に連結しているが、出力制御手段12cはコントローラ17に内蔵されていてもよい。
【0016】
上記構成例の接合装置10を用いた接合方法例を
図4に示したフローチャートとともに説明する。
まず、スタッド材1をチャック13にチャックし(S1)、コイル12a及び磁性体ガイド12bの被接合材2に対するX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の位置決めをする(S2)。
図3に示すようなXYテーブル3に被接合材2を載置して、XYテーブル3の可動によりX軸方向及びY軸方向の位置を決めてもよい。
これによりX軸方向及びY軸方向の位置決めが容易となり、幅の広い被接合材2に対しても複数のスタッド材1を被接合材2に連続的に接合し易くなる。
ここで、加熱手段12がロボットの先端アーム側に固定されている場合には、スタッド材1のチャック動作に連動して、スタッド材1に対する加熱手段12の位置が定まるので、加熱手段のみを独立して位置制御する機構を省くことができる。
【0017】
次に、スタッド材1先端のZ軸方向の位置決めをし(S3)、出力制御手段12cによって高周波の印加を制御しながらコイル12aに高周波を印加し、スタッド材1と被接合材2との一方又は両方の接合部を加熱する(S4)。
コイル12a及び磁性体ガイド12bの中心や高さを調整する独立した位置制御手段を有していてもよい。
なお、スタッド材1の長さが異なっても、コレットチャック等のチャック13のチャック深さで調整することで、上記位置制御手段を省くこともできる。
具体的に説明すると、チャック13の先端部からスタッド材1の先端までの距離が同じになるように、スタッド材1の先端から所定の高さに鍔部等の挿入規制部を設けて、この挿入規制部がチャック13の先端に当接するようにすると、長さが異なるスタッド材1であってもスタッド材1の先端の高さが同じになる。
なお、接合部の加熱は、スタッド材1と被接合材2とが異なる金属の場合には透磁率の大きいあるいは熱伝導率の小さい金属側を、同じ金属の場合には被接合材2のみあるいはスタッド材1と被接合材2の両方の接合部を加熱するのが好ましい。
【0018】
所定時間あるいは所定温度に達するまで加熱手段12によって接合部を加熱しながら、又はその後に、押圧手段15によって、スピンドル14により回転させたスタッド材1を被接合材2に回転押圧する(S5)。
その後、スピンドル14の回転を停止し(S6)、加圧手段16により直ちにスタッド材1を被接合材2にアップセット加圧する(S7)。
スタッド材1と被接合材2とが異なる金属の場合には、加圧後に直ちに接合部を冷却してもよい。
ここで、コイル12aは、上記回転押圧やアップセット加圧の障害とならないために、単巻コイルであることが好ましい。
単巻コイルはZ軸方向の厚みをほとんど有しないため、スタッド材1の外側にコイル12aを配置したままで上記回転押圧やアップセット加圧が可能となる。
なお、コイル12aの外周に沿って配設する磁性体ガイド12bは、コイル12aの厚みとほぼ同一であることが好ましい。
最後にスタッド材1をチャック11から開放し(S8)、次のスタッド材1がある場合は上記操作を繰り返し、ない場合には接合操作を終了する。
【0019】
図6は、加熱による接合部の温度上昇について、磁性体ガイド12bの有無による違いを示す温度分布図である。
図6(a)は磁性体ガイド12bを配設しないコイル12aに高周波を印加した結果を、(b)は磁性体ガイド12bを配設したコイル12aに高周波を印加した結果を示す。
本実験は、
図5に示す位置関係で実施され、スタッド材1は、直径16mm、長さ50mmの一般構造用圧延鋼材であるSS400(JIS規格)を材質とし、厚さ20mmの被接合材2は同じくSS400を材質とした。
また、直径3mm、内径20mmの銅を材質とする
図1に示すような形状のコイル12aに高周波を印加している。
磁性体ガイド12bについては、汎用材MB3を材質とし、
図2に示すような形状で、C及びDが3mm、Eが5mmの磁性体ガイド12bを用いた。
【0020】
結果から、
図6(a)と比較して、
図6(b)では接合部近傍がより高温で加熱されており、温度上昇が加速したことが分かる。
また、
図6(a)のA点が80mT/720℃、B点が750mT/890℃であったのに対し、磁性体ガイド12bを配設した場合である
図6(b)のA点が100mT/890℃、B点が900mT/1120℃であったことからも同様である。
本実験において、接合部を800℃に加熱するのに、
図6(a)の条件ではおよそ60秒~90秒の加熱時間が必要であったのに対して、
図6(b)の条件であればおよそ15秒に加熱時間を短縮できた。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明の方法により、各種金属製の板や柱に多種多様な金属製スタッド材を接合することができ、例えば、高速道路の案内板や橋げた等の製造に応用することができる。
このような技術によって、安全安心なインフラ整備が可能となる。
【符号の説明】
【0022】
1 スタッド材
2 被接合材
3 XYテーブル
10 接合装置
11 接合装置本体
12 加熱手段
12a コイル
12b 磁性体ガイド
12c 出力制御手段
13 チャック
14 スピンドル
15 押圧手段
16 加圧手段
17 コントローラ
17a 制御管理ユニット
17b IH電源
17c 冷却ユニット
A 斜面部
B 斜面部