(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】リカンベント型自転車
(51)【国際特許分類】
B62M 1/30 20130101AFI20240422BHJP
B62K 3/02 20060101ALI20240422BHJP
B62J 1/00 20060101ALN20240422BHJP
B62J 1/28 20060101ALN20240422BHJP
【FI】
B62M1/30
B62K3/02
B62J1/00 A
B62J1/28 A
(21)【出願番号】P 2023017212
(22)【出願日】2023-02-07
【審査請求日】2023-02-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391022614
【氏名又は名称】学校法人幾徳学園
(72)【発明者】
【氏名】高尾 秀伸
(72)【発明者】
【氏名】片山 遼介
【審査官】宇佐美 琴
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-112259(JP,A)
【文献】Tetsu Iwatsuki, Noriyuki Oda,"SDV DRIVE WITH OVAL PEDAL MOTION",Human Power eJournal,2007年,[2023年4月13日検索], インターネット<URL:https://hupi.org/HPeJ/0013/sdv.pdf>
【文献】David Gordon Wilson, Theodor Schmidt,"Bicycling Science",Fourth Edition,米国,The MIT Press,2020年05月05日,p.41-120,DOI:10.7551/mitpress/11660.001.0001, ISBN 9780262357531(electronic)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62J 1/00 -99/00
B62K 1/00 -27/16
B62M 1/00 -29/02
A63B 69/16
A61B 5/103- 5/1178
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の自転車進行方向前部にヘッドパイプ(2)を有し、前記ヘッドパイプ(2)から後方に延びるメインフレーム(3)を有し、前記ヘッドパイプ(2)に軸回転可能に支持されたハンドルステム(4)とフロントフォーク(7)によって前輪(8)を回転可能に支持し、前記メインフレーム(3)の後端部によって直接的に又は間接的に後輪(9)を回転可能に支持し、前記メインフレーム(3)にライダーが着座する座部シート(11)を設け、車体の前部に第1ギア(23)を設け、前記第1ギア(23)の前方に第2ギア(26)を設け、前記第1ギア(23)と前記第2ギア(26)に第1伝動チェーン(27)を掛け回し、ペダル(31)を前記第1伝動チェーン(27)に沿って移動するように構成したリカンベント型自転車(1)において、
ライダーの膝関節の屈曲角度が25度±15度の範囲内にある時の前記ペダル(31)が位置する空間領域である踏力最大ゾーンで、前記ペダル(31)への踏力方向Fと前記ペダル(31)の軌道方向がなす角度αが±20度の範囲内になるように構成し
、前記第1ギア(23)の直径を32~40cm、前記第2ギア(26)の直径を6~12cm、前記第1ギア(23)と前記第2ギア(26)の中心間距離を21cm~28cmとしたリカンベント型自転車(1)。
【請求項2】
前記第1ギア(23)と前記第2ギア(26)と前記第1伝動チェーン(27)と前記ペダル(31)を含む構造体を自転車進行方向に前後させる伸縮調整手段(40)を、前記メインフレーム(3)に直接的又は間接的に設けた、
請求項1に記載のリカンベント型自転車(1)。
【請求項3】
前記第1ギア(23)と前記第2ギア(26)と前記第1伝動チェーン(27)と前記ペダル(31)を含む構造体を前記メインフレーム(3)を含む垂直面内で回転させる回転調整手段(45,50)を、前記メインフレーム(3)に直接的又は間接的に設けた、
請求項1に記載のリカンベント型自転車(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リカンベント型自転車に関する。特に、ライダーの踏力が大きい範囲内で、かつ、ライダーの踏力を高い効率で推進力に変換することができるリカンベント型自転車に関する。
【背景技術】
【0002】
ペダルを踏むためのライダーの乗車姿勢と自転車の構造は踏力の大きさとその効率的な利用に大きく影響する。
【0003】
ペダルが円軌道を辿る自転車が一般的である。しかし、ペダルが円軌道を描く自転車は、ペダルの円軌道の一部でしか踏力が効果的に利用されない。
【0004】
このため、ライダーの踏力をより多くペダルに伝えるために、ペダルが辿る軌道が直線的な部分を含む自転車が提案されている。
【0005】
例えば、2つのプーリーの間にチェーンを掛け回し、チェーンに沿ってペダルが長円軌道を辿る自転車が提案されている。
【0006】
また、リンク機構を介してペダルを支え、該リンク機構によってペダルを楕円形状に動かすリカンベント型自転車も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】織田紀之、”オーテックSDVのサイトです!Welcome to the site of SDV Bikes!”[online]、[2022年11月5日検索]、インターネット<URL: http://www7a.biglobe.ne.jp/~otec/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般に、ライダーの踏力は股関節を起点とする放射線方向に作用する。したがって、ペダルの位置によって、ライダーの踏力が作用する方向(踏力方向)が変化し、それに伴ってペダルに仕事を与える踏力の分力が変化する。
【0010】
また、ライダーの踏力は、身体の前方に対してしか作用させることができない。さらにまた、ライダーの踏力は、膝関節が伸びきる前の一定の屈伸角度範囲内で最大になる。
【0011】
つまり、ライダーの踏力が最大になるのは、ライダーの足(ペダル踏部)が、ライダーの身体の前下方で膝関節が一定角度範囲内となる一定の空間領域内にある時である。以下、簡便性のために、このライダーの踏力が最大(最大値の前後の一定範囲を含む)になるペダルの空間範囲を「踏力最大ゾーン」と呼ぶことにする。
【0012】
ライダーの身体的な強さ(脚力、持続力等)を最大限自転車の推進力に変換するためには、3つのファクターを考慮することができる。
【0013】
一つのファクターは、ライダーの踏力が最大になる範囲内、すなわちライダーの踏力最大ゾーン内でペダルを漕ぐようにするということである。
【0014】
ライダーの踏力が大きい範囲でペダルを漕ぐことができれば、自転車に大きな加速度を与えることができる。又は、ペダルを短い距離漕ぐだけで自転車を長い距離進ませることができる。
【0015】
もう一つのファクターは、ライダーの踏力を最大の効率でペダルに与えるようにするということである。このファクターは、ペダルの移動方向への踏力の分力を大きくすることにより、機械損失を少なくするように考慮される。具体的には、踏力方向とペダルの移動方向を一致させることである。なお、本明細書でライダーの踏力方向とペダルの移動方向の「一致」は、一定の許容角度範囲を含む意である。
【0016】
さらにもう一つのファクターは、最大の仕事量をペダルに与えるということである。上記踏力最大ゾーン以外の部分でも、また、上記機械損失が少ない範囲以外でも、ライダーの踏力が自転車を駆動するために使用され得る。ライダーの踏力の有効な全仕事量が自転車の移動距離に変換される。ここで、有効な仕事量とは、熱や自転車の上下動など自転車の推進に利用されない仕事量を除く仕事量をいう。本発明の目的のためには、ライダーの踏力による有効な仕事量は、ペダルの移動方向の分力とペダルの移動距離の積分と考えればよい。
【0017】
ペダルが円軌道を描く一般的な従来の自転車では、ライダーの踏力は、ライダーの右側面視でペダルの円軌道の時計回りで約2時から約5時の間の範囲でしかライダーの踏力が効果的に作用しない。
【0018】
しかも、ライダーのペダルを踏む方向(踏力方向)がライダーの股関節を中心として変化するため、ライダー踏力方向がペダルの軌道と一致する範囲が狭かった。
【0019】
これに対して従来のペダルが長円軌道に動く自転車又はリカンベント型自転車は、ライダーの踏力方向とペダルの軌道方向とを一致させることを狙ったものである。
【0020】
しかし、自転車の構造上、従来のリカンベント型自転車は、シートを前後させることができるものもあるが、ペダルの軌道が固定的であった。
【0021】
ところが、ライダーの体格は様々で、踏力最大ゾーンが互いに異なり、必ずしも踏力が大きい領域でペダルを漕ぐことはできなかった。
【0022】
また、ライダーの踏力方向は股関節を中心とする方向を向き、ペダルの軌道方向と異なることがあった。しかし、従来のリカンベント型自転車は、ペダルの軌道が車体に対して固定的であったため、ライダーの踏力の方向がペダルの軌道の方向が異なる場合があっても、ライダーの踏力方向とペダルの軌道方向とを一致させることができなかった。
【0023】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、ライダーの踏力最大ゾーンでペダルを漕ぐことができ、かつ、ライダーの踏力方向とペダルの軌道が一致させることができるリカンベント型自転車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上述した課題を解決するために、本発明のリカンベント型自転車は、車体の自転車進行方向前部にヘッドパイプを有し、前記ヘッドパイプから後方に延びるメインフレームを有し、前記ヘッドパイプに軸回転可能に支持されたハンドルステムとフロントフォークによって前輪を回転可能に支持し、前記メインフレームの後端部によって直接的に又は間接的に後輪を回転可能に支持し、前記メインフレームにライダーが着座する座部シートを設け、車体の前部に第1ギアを設け、前記第1ギアの前方に第2ギアを設け、前記第1ギアと前記第2ギアに第1伝動チェーンを掛け回し、ペダルを前記第1伝動チェーンに沿って移動するように構成したリカンベント型自転車において、
ライダーの踏力が最大範囲になる踏力最大ゾーンで、前記ペダル(31)への踏力方向Fと前記ペダル(31)の軌道方向がなす角度αが±20度、又は±10度、又は±5度の範囲内になるように構成したものである。
【0025】
本発明のリカンベント型自転車の他の態様は、前記第1ギアの直径を32~40cm、前記第2ギアの直径を6~12cm、前記第1ギアと前記第2ギアの中心間距離を21cm~28cmとしたものである。
【0026】
本発明のリカンベント型自転車の他の態様は、前記第1ギアと前記第2ギアと前記第1伝動チェーンと前記ペダルを含む構造体を自転車進行方向に前後させる伸縮調整手段を、前記メインフレームに直接的又は間接的に設けたものである。
【0027】
本発明のリカンベント型自転車の他の態様は、前記第1ギアと前記第2ギアと前記第1伝動チェーンと前記ペダルを含む構造体を前記メインフレームを含む垂直面内で回転させる回転調整手段を、前記メインフレームに直接的又は間接的に設けたものである。
【0028】
本発明のリカンベント型自転車の他の態様は、前記ライダーの踏力が最大範囲になる踏力最大ゾーンが、ライダーの膝関節の屈曲角度が25度±15度、好ましくは25度±10度の範囲内にある時の前記ペダルが位置する空間領域であるとするものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明のリカンベント型自転車によれば、ライダーの踏力最大ゾーンで、ライダーの踏力方向とペダルの軌道がなす角度αが±20度、又は±10度、又は±5度の範囲内になる構成されるため、ライダーの踏力が最大になる踏力最大ゾーンで、ライダーの踏力方向とペダルの軌道がほぼ一致し、高効率かつ高出力のリカンベント型自転車を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の一実施形態によるリカンベント型自転車の全体を示した側面図である。
【
図2】本発明の一実施形態によるリカンベント型自転車のアーム支持構造を示した斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態によるリカンベント型自転車のペダルとチェーンの連結構造を示した斜視図である。
【
図4】ライダーの踏力が最大の効率で、最大の仕事量としてペダルに与えられる原理を説明した図である。
【
図5】本発明のリカンベント型自転車のライダーからペダルまでの距離を調整することができる伸縮調整手段を示した側面図である。
【
図6】本発明のリカンベント型自転車のペダル軌道の角度を調整することができる回転調整手段を示した側面図である。
【
図7】本発明のリカンベント型自転車のペダル軌道の角度を無段階に調整することができる無段階回転調整手段を示した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に本発明の実施形態を、図面を用いて説明する。
【0032】
図1は、本発明の一実施形態によるリカンベント型自転車1全体の側面を示した側面図である。
【0033】
リカンベント型自転車とは、ライダーが背もたれ付きのシートにもたれるように坐り、足を前方に向けた姿勢でペダルを漕ぐことで動力とする自転車の一種である。
【0034】
以下の説明では、「前」と「後」はそれぞれ自転車の進行方向と、その反対方向を指すものとする。また、「左」と「右」は、自転車が進行する方向に関してそれぞれライダーの「左」と「右」を指すものとする。
【0035】
本実施形態のリカンベント型自転車1は、前方にほぼ直立したヘッドパイプ2を有し、ヘッドパイプ2と交差して後方に傾斜して延びるメインフレーム3を有している。
【0036】
ヘッドパイプ2には、ヘッドパイプ2に軸回転可能に支持されたハンドルステム4が貫通して設けられている。ハンドルステム4の上端部には左右方向に延びるハンドルバー5が固定されている。ハンドルバー5の両端部にはハンドル6が設けられている。
【0037】
ハンドルステム4の下端には、フロントフォーク7がハンドルステム4と相対的に回転不能に接続されている。フロントフォーク7の下端には前輪8が回転可能に支持されている。ライダーがハンドル6を操作することによって、ハンドルステム4とフロントフォーク7が回転し、それによって前輪8の方向が変えられるようになっている。なお、フロントフォーク7はフォーク状のものに限られず、片持ち型のフロントフォークも含む。
【0038】
メインフレーム3の後端部は、後輪9のハブ(不図示)に回転可能に挿通された回転軸(不図示)に直接的又は間接的に接続されている。後輪9は、ハブが回転軸に対して相対的に回転することにより、回転軸を中心に回転する。ハブには複数のギアからなるスプロケット(不図示)が取り付けられている。スプロケットには後述するようにチェーンが掛け回され、動力が伝達される。
【0039】
メインフレーム3の中央部の上部にはシート支持体10が固定されている。本実施形態のシート支持体10は湾曲したパイプからできており、側面視で背もたれ形状に形成され、パイプの中央部で折り返され、両端部がメインフレーム3に固定されている。シート支持体10の上部には、クッション性の座部シート11と背もたれシート12が取り付けられている。
【0040】
メインフレーム3の下部には伝動ギアブラケット13が突設されている。伝動ギアブラケット13の先端部には水平軸14が取り付けられている。水平軸14には複数枚の中間伝動ギア15が回転可能に設けられている。
【0041】
メインフレーム3の先端には、回転調整手段としてのスペーサ部材16が取り付けられている。スペーサ部材16の前端には、アーム支持構造20が取り付けられている。
【0042】
ここで、
図2を参照してアーム支持構造20を説明する。アーム支持構造20は、メインフレーム3の先端部にスペーサ部材16を介して取り付けられている。
【0043】
アーム支持構造20は、スペーサ部材16の先端に接続されたT型フレーム21を有している。T型フレーム21は、腕が垂直面内に延びるように配設されている。T型フレーム21の本体には左右に水平に突出するように第1ギアアーム22が設けられている。第1ギアアーム22の両端部にはそれぞれ第1ギア23が取り付けられている。第1ギアアーム22の、T型フレーム21と左右いずれかの第1ギア23の間には、第1伝動ギア24が取り付けられている。
【0044】
T型フレーム21の本体から左右に延びる腕のうち、下方に延びる腕の下端部には、左右に水平に突出するように第2ギアアーム25が設けられている。第2ギアアーム25の両端部にはそれぞれ第2ギア26が取り付けられている。左右の両側のいずれにおいても、第1ギア23と第2ギア26の間に、第1伝動チェーン27がかけ回されている。第1ギア23は、本実施形態のように、第2ギア26より大径になっているのが好ましい。
【0045】
さらに好ましくは、第1ギア23の直径を32~40cm、第2ギア26の直径を6~12cm、第1ギア23と第2ギア26の中心間距離を21cm~28cmとする。
【0046】
T型フレーム21の本体から左右に延びる腕のうち、上方に延びる腕の上端部には、左右に水平に突出するように支持アーム28が設けられている。支持アーム28の左右の両端部にはそれぞれリンク部材29が取り付けられている。左右のリンク部材29はそれぞれ、1関節構造のリンクからなる。左右のリンク部材29のそれぞれの先端部には、左右に水平に突出するペダル軸30が取り付けられている。ペダル軸30は、一端部が第1伝動チェーン27に接続され、一部がリンク部材29に支持され、残る部分にペダル31が取り付けられている。
【0047】
ここで、
図3を参照してペダル軸30と第1伝動チェーン27とリンク部材29の構造を詳しく説明する。
【0048】
図3は右のペダル31を内側の後ろ上方から見たペダル軸30と第1伝動チェーン27とリンク部材29の接続構造を示している。ペダル軸30は内端に近い部分でリンク部材29の先端部の円筒部によって回転可能に支持されている。
【0049】
ペダル軸30の内端は接続部材32に接続されている。接続部材32は第1伝動チェーン27の外リンクの一つに外側から被さり、ピン33,34によってその外リンクに固定されている。
【0050】
リンク部材29は十分な剛性を有し、特にペダル31を踏み込んだときにペダル軸30が倒れないようにペダル軸30を支持している。このため、ペダル31を踏み込んだ力はペダル軸30と接続部材32を介して第1伝動チェーン27に伝えられることができる。
【0051】
接続部材32は第1伝動チェーン27の外リンクの一つに取り付けられているため、第1伝動チェーン27が
図3に示すようにギア外周に沿って湾曲するときは、接続部材32が第1伝動チェーン27に沿って移動し、したがってペダル31も第1伝動チェーン27の軌道に沿って移動する。
【0052】
再び
図1に戻って、ライダーによって生じられた動力が後輪9に伝達される仕組みを説明する。第1ギア23と第2ギア26の間に第1伝動チェーン27がかけ回されている。第1伝動ギア24(
図2参照)と中間伝動ギア15の間に第2伝動チェーン35がかけ回されている。さらに、中間伝動ギア15と後輪9のスプロケット(図示せず)の間に第3伝動チェーン36がかけ回されている。
【0053】
これにより、ライダーがペダル31を踏み込むと、その力は、第1伝動チェーン27と、第2伝動チェーン35と、第3伝動チェーン36を介して、後輪9のスプロケットに伝わり、リカンベント型自転車1を推進する。
【0054】
本発明においては、ライダーの踏力が最大になる踏力最大ゾーンで、ペダルへの踏力方向とペダル軌道の方向が一定の角度の範囲内になるように、特に好ましくは、ペダルへの踏力方向とペダル軌道の方向がほぼ一致するように、自転車が予め構成されるか事後的に調整される。すなわち、ライダーの踏力が最大になる高出力状態で(踏力最大ゾーンで)、ペダルを高効率で漕ぐことができるように、自転車が予め構成されるか事後的に調整される。調整に関しては
図4~7を用いて説明する。
【0055】
図4はアーム支持構造20とスペーサ部材16とメインフレーム3の一部を側面から見た図を示している。ペダル31を踏み込む空間領域をライダーの踏力最大ゾーン内に配置する仕組みは後述するとして、ここでは、ペダル31を効果的に踏み込む、すなわち高効率で大きい仕事量をペダル31に与えるようにペダル31を踏み込むことについて説明する。
【0056】
ペダル31を効率よく踏み込むためには、踏力方向Fとペダル31の移動方向のなす角度αが所定範囲内にあることが求められる。
【0057】
踏力方向Fとペダル31の移動方向のなす角度αが小さければ機械的損失が少なく、ライダーの踏力を効果的に自転車の推進力に変換することができる。発明者らの鋭意の実験と研究によれば、踏力方向Fとペダル31の移動方向のなす角度αは±20度、好ましくは±10度、より好ましくは±5度の範囲内が望ましい。
【0058】
本実施形態では、第1ギア23が第2ギア26より大径になっている。具体的には、第1ギア23の直径を32~40cm、第2ギア26の直径を6~12cm、第1ギア23と第2ギア26の中心間距離を21cm~28cmとするのが好ましい。
【0059】
第1ギア23が第2ギア26より大きいため、踏力方向Fが第1ギア23の円周の一部から、踏力方向Fとペダル31の移動方向のなす角度αが小さい角度で交差する。すなわち、
図4に示すように、大径の第1ギア23を有するリカンベント型自転車1では、ペダル31を踏み込む最初の段階で、踏力方向(F)がペダル31の移動方向(第1ギア23の外周の接線方向)より内側を向き(角度αがペダル31の移動方向に関してマイナス)、次に、踏力方向(F)がペダル31の移動方向に一致する点(角度αがペダル31の移動方向に関して0)を経て、踏力方向Fがペダル31の移動方向より外側を向く(角度αがペダル31の移動方向に関してプラス)ように変化する。その間、ペダル31は一定の角度αの範囲内で長い距離、すなわち第1ギア23の外周に沿って移動する距離D1と、第1伝動チェーン27の直線部分に沿って移動する距離D2の合計の距離D(D=D1+D2)を移動することができる。
【0060】
これにより、大径の第1ギア23を有するリカンベント型自転車1によれば、踏力方向とペダル31の移動方向のなす角度が小さい状態で、ペダル31を長い距離踏み込むことができ、ペダル31に大きな仕事量を与えることができる。これによって、高い効率で大きな仕事量を推進力に変換することができる。
【0061】
第1ギア23の直径を32~40cm、第2ギア26の直径を6~12cm、第1ギア23と第2ギア26の中心間距離を21cm~28cmとすることにより、ペダルの軌道がコンパクトになり、踏力最大ゾーンZ内に配置され得る。
【0062】
次に、ペダル31を高効率で踏み込む空間領域をライダーの踏力最大ゾーンに重なるように配置する方法とそのための手段について説明する。
【0063】
発明者らの鋭意の実験と研究によれば、ライダーの踏力が最大になるのは膝関節の屈曲角度が25度±15度、好ましくは25度±10度の範囲内である。
【0064】
ライダーの股関節は、腰の部分が踏力方向に対して120度~150度の角度をなすのが好ましいが、この角度は踏力の反動を支えるための背もたれシートの傾斜と距離によって変化する。踏力の反動を支える背もたれシートの傾斜が足りないときは、背もたれシートの傾斜を適宜調節することによって容易に適応することができる。
【0065】
リカンベント型自転車の踏力最大ゾーンの決定に関しては、ライダーの膝関節の屈曲角度が支配的な要素となる。発明者らの鋭意の研究によれば、リカンベント型自転車におけるライダーの踏力最大ゾーンは、ライダーの膝関節の屈曲角度が25度±15度、好ましくは25度±10度の範囲内となる領域であるとすることができる。
【0066】
なお、ライダーの膝関節の屈曲角度は、膝関節が伸びきった状態を0度として、そこから膝関節が屈曲した角度である。
【0067】
リカンベント型自転車におけるライダーの踏力最大ゾーンZは、ライダーの膝関節の屈曲角度が25度±15度、好ましくは25度±10度の範囲内となるペダル位置の空間領域である。ライダーの踏力最大ゾーンZを、例示的に
図4に点線で囲んで示す。
【0068】
本発明のリカンベント型自転車1では、ライダーの踏力最大ゾーンZで、ライダーの踏力方向Fとペダル31の移動方向のなす角度αが一定の角度範囲内になるように、予めカンベント型自転車1の車体を構成するか事後的にそのように調整する。
【0069】
ライダーの踏力最大ゾーンZで、ライダーの踏力方向Fとペダル31の移動方向のなす角度αが一定の小角度範囲内にするということは、ライダーの踏力が最大前後の状態(高出力状態)で、機械損失が少ない高効率状態(角度αが一定の小角度の状態)で、ペダル31を漕ぐということである。この状態では、強い力で少ない機械損失を介して自転車を推進することができる。
【0070】
上記強い力で少ない機械損失を介して自転車を推進するためには、踏力最大ゾーンZ内に、ライダーの踏力方向Fとペダル31の移動方向のなす角度αが小角度になるように、ペダル軌道を配置するのが好ましい。少なくとも、踏力最大ゾーンZが、ライダーの踏力方向Fとペダル31の移動方向のなす角度αが小角度になる空間領域と大部分重なるのが好ましい。
【0071】
なお、以下では、簡明のために「アーム支持構造20」と言うが、調整の目的のためには、「第1ギア23と第2ギア26と第1伝動チェーン27とペダル31を含む構造体」である。
【0072】
図5は、主にライダーの膝関節の屈曲角度が25度±15度、好ましくは25度±10度の範囲内になるように、アーム支持構造20を前後方向に移動させる伸縮調整手段40を示している。
【0073】
伸縮調整手段40は、アーム支持構造20全体を前後方向に移動可能にする任意の公知の手段であってよいが、本実施形態では、メインフレーム3の先端部に入子状に伸縮することができるスライダー41を有している。このスライダー41をメインフレーム3内でM方向にスライドさせることによって、アーム支持構造20全体、特に第1ギア23と第2ギア26と第1伝動チェーン27とペダル31からなる構造体が前後し、ライダーの体格に合わせて、ライダーの膝関節の屈曲角度が25度±15度、好ましくは25度±10度の範囲内になるように調整することができる。
【0074】
図6は、主にライダーの踏力方向とペダル31の移動方向のなす角度αが±20度、好ましくは±10度、より好ましくは±5度の範囲内になるように、アーム支持構造20全体、特に第1ギア23と第2ギア26と第1伝動チェーン27とペダル31を含む構造体を段階的に、メインフレーム3を含む垂直面内で回転させる回転調整手段45を示している。
【0075】
回転調整手段45は、メインフレーム3に接続される第1部材46と、アーム支持構造20のT型フレーム21に接続される第2部材47とを有している。第2部材47は第1部材46の外側に緩く嵌合するコの字型の横断面を有し、ヒンジ48によって第1部材46に結合されている。これにより、第2部材47は第1部材46に扇状に重なりながら、第1部材46対して、ヒンジ48を中心に枢動することができる。
【0076】
第2部材47のヒンジ48の反対側の端部には、複数の孔49が穿設されている。第1部材46にも孔49とほぼ同径の孔(図示せず)が穿設されている。第1部材46と第2部材47は、ヒンジ48を中心に枢動し、第2部材47の所定の孔49と第1部材46の孔を合わせて、図示しないピンを挿入することによって所定の相対角度で固定される。
【0077】
このように、第1部材46と第2部材47をヒンジ48を中心に枢動させて固定することにより、アーム支持構造20全体、特に第1ギア23と第2ギア26と第1伝動チェーン27とペダル31とを含む構造体を所定の角度傾斜させて固定することができる。アーム支持構造20をライダーの体格に合わせて所定の角度傾斜させて固定することにより、ライダーの踏力方向とペダル31の移動方向のなす角度αが±20度、好ましくは±10度、より好ましくは±5度の範囲内に調整することができる。
【0078】
図7は、ライダーの踏力方向とペダル31の移動方向のなす角度αが±20度、好ましくは±10度、より好ましくは±5度の範囲内になるように、アーム支持構造20全体、特に第1ギア23と第2ギア26と第1伝動チェーン27とペダル31とを含む構造体を無段階的に、メインフレーム3を含む垂直面内で回転させる無段階回転調整手段50を示している。
【0079】
無回転調整手段50は、メインフレーム3に接続される第1部材51と、アーム支持構造20のT型フレーム21に接続される第2部材52とを有している。第1部材51と第2部材52は、一端部でヒンジ53によって回転可能に結合されている。第2部材52のヒンジ53の反対側の端部には、ボルト挿通孔が設けられている。ボルト挿通孔は、ボルト54が挿入され、多少の角度の傾斜を許容できる程度に、ボルト54の外径より大きい内径を有するように形成されている。ボルト54には第2部材52から抜けないようにストッパー55が設けられている。ボルト54の先端部に対応する第1部材51の部分には、ボルト54を螺着するボルト孔が設けられている。
【0080】
この構成により、ボルト54を回転させることにより、ボルト54が第1部材51に対して進入し又は後退する。これにより、第2部材52がボルト54のストッパー55に規制されて移動し、その結果、第2部材52が第1部材51に対してヒンジ53を中心に無段階に回転する。
【0081】
第2部材52の回転によって、第2部材52に接続されたアーム支持構造20の全体、特に第1ギア23と第2ギア26と第1伝動チェーン27とペダル31を含む構造体が無段階に回転して傾斜し、ライダーの体格に合わせて、ライダーの踏力方向とペダル31の移動方向のなす角度αが±20度、好ましくは±10度、より好ましくは±5度の範囲内になるように調整することができる。
【0082】
上記伸縮調整手段40と回転調整手段45又は無段階回転調整手段50は、それぞれ単独で使用することもできるし、組み合わせて使用することもできる。
【0083】
なお、上記実施形態では、伸縮調整手段40と回転調整手段45又は無段階回転調整手段50を、メインフレーム3に直接取り付けた態様について説明したが、伸縮調整手段40と回転調整手段45又は無段階回転調整手段50を、メインフレーム3に直接的に取り付けない態様も考えられる。例えば、メインフレーム3に取り付ける代わりに、ヘッドパイプ2に、伸縮調整手段40と回転調整手段45又は無段階回転調整手段50を取り付けることができる。
【0084】
また、上記伸縮調整手段40と回転調整手段45又は無段階回転調整手段50を用いずに、ライダーの踏力方向Fとペダル31の移動方向のなす角度αが一定の角度範囲内の状態でペダル31を踏み込む領域が、ライダーの踏力最大ゾーンに重なるように、予めリカンベント型自転車1の車体を構成することも本発明の範疇に含まれる。
【0085】
また、上記伸縮調整手段40と回転調整手段45又は無段階回転調整手段50を用いずに、回転調整手段としてスペーサ部材16を使用することもできる。
【0086】
すなわち、メインフレーム3とアーム支持構造20のT型フレーム21が所望の角度をなすように、適切な傾斜面を有するスペーサ部材16でメインフレーム3とT型フレーム21を接続することができる。
【0087】
以上本発明の一実施形態に関して説明したが、上記の記載に基づいて、当業者であれば、本発明の追加の効果や種々の変形を想到することができる。しかし、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に規定された内容及びその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更及び部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0088】
1:リカンベント型自転車
2:ヘッドパイプ
3:メインフレーム
4:ハンドルステム
5:ハンドルバー
6:ハンドル
7:フロントフォーク
8:前輪
9:後輪
10:シート支持体
11:座部シート
12:背もたれシート
13:伝動ギアブラケット
14:水平軸
15:中間伝動ギア
16:スペーサ部材
20:アーム支持構造
21:T型フレーム
22:第1ギアアーム
23:第1ギア
24:第1伝動ギア
25:第2ギアアーム
26:第2ギア
27:第1伝動チェーン
28:支持アーム
29:リンク部材
30:ペダル軸
31:ペダル
32:接続部材
33、34:ピン
35:第2伝動チェーン
36:第3伝動チェーン
40:伸縮調整手段
41:スライダー
45:回転調整手段
46:第1部材
47:第2部材
48:ヒンジ
49:孔
50:無段階回転調整手段
51:第1部材
52:第2部材
53:ヒンジ
54:ボルト
【要約】
【課題】ライダーの踏力最大ゾーンで、ライダーの踏力方向とペダルの軌道を一致させ、かつ、その状態でペダルを踏み込む距離を長くすることができるリカンベント型自転車を提供する。
【解決手段】
ヘッドパイプ(2)と、メインフレーム(3)と、ハンドルステム(4)と、フロントフォーク(7)と、前輪(8)と、後輪(9)とを有し、メインフレーム(3)に座部シート(11)を設け、車体の前部に第1ギア(23)と第2ギア(26)を設け、第1ギア(23)と第2ギア(26)に第1伝動チェーン(27)を掛け回し、ペダル(31)を第1伝動チェーン(27)に沿って移動するように構成したリカンベント型自転車(1)において、
ライダーの踏力が最大範囲になる踏力最大ゾーンで、前記ペダル(31)への踏力方向Fと前記ペダル(31)の軌道方向がなす角度αが±20度、又は±10度、又は±5度の範囲内になるように構成した。
【選択図】
図1