IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ バイオサイエンステクノロジー株式会社の特許一覧 ▶ ユニテックフーズ株式会社の特許一覧

特許7475575キノコ類を原料としたハイドロコロイドの製造方法、キノコ粉製造方法、キノコ類を原料としたハイドロコロイド、及びキノコ粉
<>
  • 特許-キノコ類を原料としたハイドロコロイドの製造方法、キノコ粉製造方法、キノコ類を原料としたハイドロコロイド、及びキノコ粉 図1
  • 特許-キノコ類を原料としたハイドロコロイドの製造方法、キノコ粉製造方法、キノコ類を原料としたハイドロコロイド、及びキノコ粉 図2
  • 特許-キノコ類を原料としたハイドロコロイドの製造方法、キノコ粉製造方法、キノコ類を原料としたハイドロコロイド、及びキノコ粉 図3
  • 特許-キノコ類を原料としたハイドロコロイドの製造方法、キノコ粉製造方法、キノコ類を原料としたハイドロコロイド、及びキノコ粉 図4
  • 特許-キノコ類を原料としたハイドロコロイドの製造方法、キノコ粉製造方法、キノコ類を原料としたハイドロコロイド、及びキノコ粉 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】キノコ類を原料としたハイドロコロイドの製造方法、キノコ粉製造方法、キノコ類を原料としたハイドロコロイド、及びキノコ粉
(51)【国際特許分類】
   A23L 19/00 20160101AFI20240422BHJP
   A23L 29/00 20160101ALI20240422BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20240422BHJP
   A61K 36/07 20060101ALN20240422BHJP
   A61K 9/14 20060101ALN20240422BHJP
   A61K 8/9728 20170101ALN20240422BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALN20240422BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALN20240422BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALN20240422BHJP
   A61K 47/46 20060101ALN20240422BHJP
   A61K 9/06 20060101ALN20240422BHJP
【FI】
A23L19/00 101
A23L29/00
C09K3/00 103E
A61K36/07
A61K9/14
A61K8/9728
A61Q19/00
A61Q5/00
A61Q11/00
A61K47/46
A61K9/06
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023114305
(22)【出願日】2023-07-12
(65)【公開番号】P2024014778
(43)【公開日】2024-02-01
【審査請求日】2023-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2022115345
(32)【優先日】2022-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】521435802
【氏名又は名称】バイオサイエンステクノロジー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】306007864
【氏名又は名称】ユニテックフーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100195752
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 一正
(72)【発明者】
【氏名】中村 弘一
(72)【発明者】
【氏名】酒井 有紀
(72)【発明者】
【氏名】坂本 有宇
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-111631(JP,A)
【文献】特開2000-032946(JP,A)
【文献】特開2007-195531(JP,A)
【文献】特開平11-262370(JP,A)
【文献】特開2021-180618(JP,A)
【文献】特開2007-124963(JP,A)
【文献】特開2011-160760(JP,A)
【文献】特開平07-155116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00 - 35/00
A61K 6/00 -135/00
A61Q 1/00 - 90/00
C09K 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キノコ類を原料としたハイドロコロイド製造方法であって、
臼式粉砕機を用いた圧縮、剪断、摩擦による磨砕を複数回繰り返すとともに、少なくともグラインダーのクリアランスがマイナスである前記磨砕を複数回含むことで前記キノコ類を解繊されたスラリー状のキノコ類溶液とする磨砕工程を含むことを特徴とするキノコ類を原料としたハイドロコロイド製造方法。
【請求項2】
キノコ類を原料としたハイドロコロイド製造方法であって、
前記キノコ類を粗粉砕する粗粉砕工程と、
臼式粉砕機を用いた圧縮、剪断、摩擦による磨砕を複数回繰り返すとともに、少なくともグラインダーのクリアランスがマイナスである前記磨砕を複数回含むことで前記粗粉砕工程で粗粉砕された前記キノコ類を解繊されたスラリー状のキノコ類溶液とする磨砕工程と、を含むことを特徴とするキノコ類を原料としたハイドロコロイド製造方法。
【請求項3】
前記ハイドロコロイドは、増粘剤、分散安定剤、乳化剤、または離水防止剤として用いられるものであることを特徴とする請求項1または2記載のハイドロコロイド製造方法。
【請求項4】
前記キノコ類は、アラゲキクラゲ、シロキクラゲのいずれか又は両方であることを特徴とする請求項1または2記載のハイドロコロイド製造方法。
【請求項5】
キノコ類を原料としたキノコ粉製造方法であって、
臼式粉砕機を用いた圧縮、剪断、摩擦による磨砕を複数回繰り返すとともに、少なくともグラインダーのクリアランスがマイナスである前記磨砕を複数回含むことで前記キノコ類を解繊されたスラリー状のキノコ類溶液とする磨砕工程と、
前記磨砕工程で磨砕されて解繊されたスラリー状のキノコ類溶液を乾燥して粉砕する乾燥粉砕工程と、を含むことを特徴とするキノコ類を原料としたキノコ粉製造方法。
【請求項6】
キノコ類を原料としたキノコ粉製造方法であって、
キノコ類を粗粉砕する粗粉砕工程と、
臼式粉砕機を用いた圧縮、剪断、摩擦による磨砕を複数回繰り返すとともに、少なくともグラインダーのクリアランスがマイナスである前記磨砕を複数回含むことで前記キノコ類を解繊されたスラリー状のキノコ類溶液とする磨砕工程と、
前記磨砕工程で磨砕されて解繊されたスラリー状のキノコ類溶液を乾燥して粉砕する乾燥粉砕工程と、を含むことを特徴とするキノコ類を原料としたキノコ粉製造方法。
【請求項7】
前記キノコ粉は、増粘剤、分散安定剤、乳化剤、または離水防止剤として用いられるものであることを特徴とする請求項5又は6記載のキノコ粉製造方法。
【請求項8】
前記キノコ類は、アラゲキクラゲ、シロキクラゲのいずれか又は両方であることを特徴とする請求項5又は6に記載のキノコ粉製造方法。
【請求項9】
スラリー状の解繊されたキノコ類溶液からなるハイドロコロイドであって、
下記測定方法で測定した粘度が200[Pa・s]以上であり、
下記測定方法で測定した不溶性残渣の沈殿率が1%未満であることを特徴とするハイドロコロイド。
粘度の測定方法: 粘弾性測定装置を用いて、パラレルプレートの治具、せん断速度:0.01-1000[1/s]、温度:20℃の条件で、粘度を測定する。
不溶性残渣の沈殿率の測定方法:スラリー1gを水59gで希釈し、希釈サンプルを遠心分離(10,000×g、10分、室温)し、遠心分離した沈殿物を定性濾紙No.101(保持粒子径5μm、アドバンテック社製)を用いて、室温にて1日乾燥して濾紙に付着した不溶性残渣重量を測定し、スラリー1gに対する不溶性残渣重量の割合を求めて、不溶性残渣の沈殿率とする。
【請求項10】
増粘剤、分散安定剤、乳化剤、または離水防止剤として用いられるものである、請求項9記載のハイドロコロイド。
【請求項11】
アラゲキクラゲ、シロキクラゲのいずれか又は両方を原料として得られたものであることを特徴とする請求項9又は10記載のハイドロコロイド。
【請求項12】
キノコ粉であって、325メッシュの篩を通過しない粒子であり、
温度にかかわらず水に分散溶解させることが可能であり、
下記測定方法で測定した粘度が10[mPa・s]以上であることを特徴とするキノコ粉。
粘度の測定方法:キノコ粉を水に分散溶解させて、1質量%濃度の分散溶解液を作成し、粘弾性測定装置を用いて、パラレルプレートの治具、せん断速度:50[1/s]、温度:20℃、の条件で、粘度を測定する。
【請求項13】
増粘剤、分散安定剤、乳化剤、または離水防止剤として用いられるものであることを特徴とする請求項12記載のキノコ粉。
【請求項14】
アラゲキクラゲ、シロキクラゲのいずれか又は両方を原料としたものであることを特徴とする請求項12又は13記載のキノコ粉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キノコ類を原料として製造したハイドロコロイドの製造方法、及びキノコ粉製造方法、並びに該製造方法によって得られるハイドロコロイド、及びキノコ粉に関するものであり、飲食物、化粧料、インク・塗料、日用品および農業資材に利用可能である。
【背景技術】
【0002】
従来より、飲食物、化粧料、インク・塗料、日用品や農業資材の物性を改良する目的でハイドロコロイド、あるいはハイドロコロイドを含む増粘剤またはゲル化剤等が使用されている。
【0003】
一方、近年、クリーンラベルや添加物フリーといったキーワードに消費者の関心があり、例えば食品業界においては食品添加物としての増粘剤あるいはゲル化剤の使用を削減し、食品素材としてのハイドロコロイドにて代替する動きが活発化している。食品業界以外、例えば化粧品業界やインク・塗料を扱う業界等においても、化学合成ポリマーの代替として、人が摂取しても危険性の低い食品素材としてのハイドロコロイドの引き合いが増えつつある。
【0004】
ハイドロコロイドとは、複数の糖からなる多糖類やタンパク質等を指す総称であり、増粘、ゲル化、乳化、分散安定化といった目的で、増粘剤等にして用いることができる。
【0005】
ハイドロコロイドの多くは発酵、合成、抽出、濃縮といった工程を経て製造されているものがほとんどであり製造工程は複雑である。
【0006】
抽出工程においてアルカリ性や酸性へpH調整を行う場合には、後の中和工程にて再度アルカリ性や酸性等の薬剤を用いる化学処理が行われ、使用する薬剤は製造工程中に除去、無毒化されるものであっても薬剤そのものは危険性を伴うものであるものが多い。
【0007】
また、抽出工程を伴うハイドロコロイドの製造方法では、抽出後に残渣が残ってしまい、廃棄等の手間やコストがかかってしまう。
【0008】
このような経緯から、食品素材そのものを粉砕等の単純加工を行うことによりハイドロコロイドあるいはハイドロコロイドを含む増粘剤の開発が検討されている。
【0009】
ハイドロコロイドあるいはハイドロコロイドを含む増粘剤の開発に使用される食品素材として例えばキノコ類が挙げられる。キノコ類は天候の影響を受けることなく年間を通して安定的な栽培が可能である。日本では古来よりキノコ類の食経験があることから消費者に受け入れられやすい素材である。キノコ類の細胞壁は多糖類やタンパク質といったハイドロコロイドや脂質等から構成されている。キノコ類に含まれるハイドロコロイドとしての多糖類の例としては、セルロース、α-グルカン、β-グルカン等のグルカンやキチンが挙げられる。
【0010】
特許文献1には、シロキクラゲ、ナメコ、及びハナビラニカワタケからなる群より選ばれた食用茸を微粉砕して44μm以下の粒径とした増粘剤が記載されている。
特許文献2には、ハナビラタケ、ソウオウ、茶樹茸、スエヒロタケ、霊芝、カバノアナタケ、シイタケ及びマイタケからなる群から選択されたキノコから、一次粗粉砕工程によって、平均粒度50~100μmの祖粉砕粉末を得、及び二次微粉砕工程を通じて平均粒度1~20μmの微粒子化したキノコ粉末を製造して、これを超音波抽出及び熱抽出する一連の工程を通じて、β-グルカンを製造する方法が記載されている。また、アルカリ処理抽出工程を行わないことによって、問題点であるアルカリ中和工程及びこれによる環境汚染を解消することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
特許文献1:特開平7-155116号公報
特許文献2:特表2015-535310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載のものは化学的処理工程を必要とすることなく、製造工程も複雑ではないものの、ミキサーにて粉砕、攪拌したものであるため、十分な増粘効果が得られないという問題がある。
特許文献2では、2度の粉砕工程を経て、さらに粉砕物を超音波抽出及び熱抽出にて処理する煩雑な工程を経る必要がある。また抽出工程を伴うため抽出後に残渣が残ってしまうという問題がある。
【0013】
本発明は、上記問題点を解決して、シンプルな工程により、キノコ類を原料として繊維感の残らないハイドロコロイド、及びキノコ粉を製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために本発明は、キノコ類を原料としたハイドロコロイド製造方法であって、
臼式粉砕機を用いた圧縮、剪断、摩擦による磨砕を複数回繰り返すとともに、少なくともグラインダーのクリアランスがマイナスである前記磨砕を複数回含むことで前記キノコ類を解繊されたスラリー状のキノコ類溶液とする磨砕工程を含むことを特徴とするキノコ類を原料としたハイドロコロイド製造方法を提供するものである。
【0015】
この構成により、シンプルな工程により、キノコ類のもつ不溶性食物繊維量が減少し水溶性食物繊維量が増加することで、繊維感の残らないハイドロコロイドを製造することができる。
【0016】
また、上記課題を解決するために本発明のもう1つは、キノコ類を原料としたハイドロコロイド製造方法であって、
記キノコ類を粗粉砕する粗粉砕工程と、
臼式粉砕機を用いた圧縮、剪断、摩擦による磨砕を複数回繰り返すとともに、少なくともグラインダーのクリアランスがマイナスである前記磨砕を複数回含むことで前記粗粉砕工程で粗粉砕された前記キノコ類を解繊されたスラリー状のキノコ類溶液とする磨砕工程と、を含むことを特徴とするキノコ類を原料としたハイドロコロイド製造方法を提供するものである。
【0017】
この構成によっても、シンプルな工程により、キノコ類のもつ不溶性食物繊維量が減少し水溶性食物繊維量が増加することで、繊維感の残らないハイドロコロイドを製造することができる。
【0018】
また、上記課題を解決するために本発明のもう1つは、キノコ類を原料としたキノコ粉製造方法であって、
臼式粉砕機を用いた圧縮、剪断、摩擦による磨砕を複数回繰り返すとともに、少なくともグラインダーのクリアランスがマイナスである前記磨砕を複数回含むことで前記キノコ類を解繊されたスラリー状のキノコ類溶液とする磨砕工程と、
前記磨砕工程で磨砕されて解繊されたスラリー状のキノコ類溶液を乾燥して粉砕する乾燥粉砕工程と、を含むことを特徴とするキノコ類を原料としたキノコ粉製造方法を提供するものである。
【0019】
この構成により、シンプルな工程により、キノコ類のもつ不溶性食物繊維量が減少し水溶性食物繊維量が増加することで、繊維感の残らないキノコ粉を製造することができる。
【0020】
また、上記課題を解決するために本発明のもう1つは、キノコ類を原料としたキノコ粉製造方法であって、
キノコ類を粗粉砕する粗粉砕工程と、
臼式粉砕機を用いた圧縮、剪断、摩擦による磨砕を複数回繰り返すとともに、少なくともグラインダーのクリアランスがマイナスである前記磨砕を複数回含むことで前記キノコ類を解繊されたスラリー状のキノコ類溶液とする磨砕工程と、
前記磨砕工程で磨砕されて解繊されたスラリー状のキノコ類溶液を乾燥して粉砕する乾燥粉砕工程と、を含むことを特徴とするキノコ類を原料としたキノコ粉製造方法を提供するものである。
【0021】
この構成によっても、シンプルな工程により、キノコ類のもつ不溶性食物繊維量が減少し水溶性食物繊維量が増加することで、繊維感の残らないキノコ粉を製造することができる。
【0023】
また、上記課題を解決するために本発明のもう1つは、スラリー状の解繊されたキノコ類溶液からなるハイドロコロイドであって
記測定方法で測定した粘度が200[Pa・s]以上であり、
下記測定方法で測定した不溶性残渣の沈殿率が1%未満であることを特徴とするハイドロコロイドを提供するものである。
粘度の測定方法: 粘弾性測定装置を用いて、パラレルプレートの治具、せん断速度:0.01-1000[1/s]、温度:20℃の条件で、粘度を測定する。
不溶性残渣の沈殿率の測定方法:スラリー1gを水59gで希釈し、希釈サンプルを遠心分離(10,000×g、10分、室温)し、遠心分離した沈殿物を定性濾紙No.101(保持粒子径5μm、アドバンテック社製)を用いて、室温にて1日乾燥して濾紙に付着した不溶性残渣重量を測定し、スラリー1gに対する不溶性残渣重量の割合を求めて、不溶性残渣の沈殿率とする。
【0024】
この構成により、増粘剤、分散安定剤、乳化剤、または離水防止剤として適したハイドロコロイドを提供できる。
【0025】
また、上記課題を解決するために本発明のもう1つは、ノコ粉であって、325メッシュの篩を通過しない粒子であり、
温度にかかわらず水に分散溶解させることが可能であり、
下記測定方法で測定した粘度が10[mPa・s]以上であることを特徴とするキノコ粉を提供するものである。
粘度の測定方法:キノコ粉を水に分散溶解させて、1質量%濃度の分散溶解液を作成し、粘弾性測定装置を用いて、パラレルプレートの治具、せん断速度:50[1/s]、温度:20℃、の条件で、粘度を測定する。
【0026】
本発明で得られるハイドロコロイド又はキノコ粉は、増粘剤、分散安定剤、乳化剤、または離水防止剤として用いることができる。
この構成により、食物繊維によって、増粘効果または、および保持・安定効果をもつハイドロコロイド又はキノコ粉を製造することができる。
【0027】
また、原料とする前記キノコ類は、アラゲキクラゲ、シロキクラゲのいずれか又は両方であってもよい。
この構成により、増粘効果または、および保持・安定効果をもつハイドロコロイド又はキノコ粉を製造することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、キノコ類を原料として、繊維感の残らないハイドロコロイド及びキノコ粉を製造し、提供することができる。このハイドロコロイド及びキノコ粉は、増粘剤、分散安定剤、乳化剤、または離水防止剤として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】比較例1,2、実施例2,3で得られたスラリーの写真、及びそれぞれのpH、糖度を示す図面である。
図2】実施例2,3の固形粒子に対する分散安定性評価試験の結果を示す写真である。
図3】実施例2,3の油脂に対する分散安定性評価試験の結果を示す写真である。
図4】実施例4,5の固形粒子に対する分散安定性評価試験の結果を示す写真である。
図5】比較例5、実施例4、5の油脂に対する分散安定性評価試験の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明において、原料とするキノコ類としては、例えば、アラゲキクラゲ、ナメコ、マイタケ、シメジタケ、ブナジメジ、エノキタケ、エリンギ、ハナビラタケ、シイタケ、ヒラタケ、タモギタケ、クロアワビタケ、シロキクラゲ、カワラタケ、スエヒロタケ、マンネンタケ、ヤマブシタケ、アガリクス、まつたけのいずれか1種または2種以上から選択されるものが好ましく使用される。この中でも、特に、アラゲキクラゲ、シロキクラゲが好ましく使用される。
【0031】
上記キノコ類は、そのまま磨砕することもできるが、好ましくは、予め粗粉砕する粗粉砕工程を行うことが好ましい。粗粉砕は、例えばフードプロセッサー、カッターミキサー、チョッパー、サイレントカッター等を用いて行うことができ、粒径が0.1~50mm程度となるように粉砕することが好ましい。粗粉砕物の粒径は、測定器具を用いて各粒状物の最大径を図り、その平均を求めることによって測定できる。
【0032】
粗粉砕したキノコ類は、次に圧縮、剪断、摩擦により磨砕する磨砕工程を行う。圧縮、剪断、摩擦による磨砕は、例えば臼式粉砕機を用いて行うことができる。臼式粉砕機としては、石臼を用いた粉砕機が好ましく使用でき、例えば増幸産業株式会社製の「スーパーマスコロイダー」(登録商標)を用いることができる。磨砕工程は、キノコ類がスラリー状になるまで行う。こうして、スラリー状の本発明のハイドロコロイドを得ることができる。
【0033】
本発明において、ハイドロコロイドとは、キノコ類が磨砕されてスラリー状となり、キノコ類の組織が均一に分散又は溶解したものを意味する。
【0034】
本発明のハイドロコロイドの平均粒子径は、500μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましい。なお、本発明において、ハイドロコロイド及びキノコ粉の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定した体積モーメント平均粒子径D[4,3]を意味する。レーザー回折式粒度分布測定装置としては、例えば「LMS-3000」(商品名、Malvern製)を用いることができる。
【0035】
また、本発明のハイドロコロイドは、下記測定方法で測定した粘度が150[Pa・s]以上であることが好ましく、200~10000[Pa・s]であることが更に好ましい。
粘度の測定方法: 粘弾性測定装置を用いて、パラレルプレートの治具、せん断速度:0.01-1000 [1/s]、温度:20℃の条件で、粘度を測定する。
例えば、粘弾性測定装置として、「MCR302」(商品名、Anton Paar製)を用い、治具PP50を用い、せん断速度:0.01-1000 [1/s]にて、温度:20℃で測定し、せん断速度0.1[1/s]の時の粘度値として測定することができる。
【0036】
また、本発明のハイドロコロイドは、下記測定方法で測定した不溶性残渣の沈殿率が1%未満であることが好ましく、0.9%未満であることが更に好ましい。
不溶性残渣の沈殿率の測定方法:スラリー1gを水59gで希釈し、希釈サンプルを遠心分離(10,000×g、10分、室温)し、遠心分離した沈殿物を定性濾紙No.101(保持粒子径5μm、アドバンテック社製)を用いて、室温にて1日乾燥して濾紙に付着した不溶性残渣重量を測定し、スラリー1gに対する不溶性残渣重量の割合を求めて、不溶性残渣の沈殿率とする。
【0037】
本発明のハイドロコロイドは、例えば飲食品、化粧品、医薬品、インク・塗料、日用品、農業資材などに添加することにより、増粘効果、分散安定化効果、乳化安定化効果、離水防止効果を発揮する。このため、スラリー状のまま、増粘剤、分散安定剤、乳化剤、または離水防止剤、あるいはそれらの原料として利用することができる。
【0038】
また、本発明のキノコ粉は、上記スラリー状のハイドロコロイドを乾燥させて粉末化することにより得ることができる。乾燥方法は、特に限定されないが、例えば凍結乾燥、噴霧乾燥、ジェットミルによる粉砕乾燥、真空乾燥などの方法を採用することができ、好ましくはジェットミルにより、微粉砕しつつ乾燥する方法が採用される。ジェットミルとしては、例えばアドバンテック社製のものを用いることができる。
【0039】
乾燥した粉末は、必要に応じて、更に粉砕して粒径を調整してもよい。粉砕方法は特に限定されないが、例えば乾式ビーズミル、ボールミル(転動式、振動式等)等の媒体攪拌ミル、ジェットミル、カッターミル、高速回転型衝撃式ミル(ピンミル等)、ロールミル、ハンマーミルなどを用いて粉砕することができる。更に、粉砕物を篩にかけて、特定粒度の粉末を採取してもよい。
【0040】
本発明において、キノコ粉の粒径は、325メッシュ(目開き45μm)の篩を通過しない粒子であることが好ましい。また、キノコ粉の平均粒子径は、46~1000μmが好ましく、50~900μmが更に好ましい。平均粒子径は、前述したレーザー回折式粒度分布測定装置を用いる方法で測定できる。
【0041】
本発明のキノコ粉は、温度にかかわらず水に分散溶解させることが可能である。そして、水に分散溶解させたとき、下記測定方法で測定した粘度が10[mPa・s]以上であることが好ましく、20[mPa・s]以上であることが更に好ましい。
粘度の測定方法:キノコ粉を水に分散溶解させて、1質量%濃度の分散溶解液を作成し、粘弾性測定装置を用いて、パラレルプレートの治具、せん断速度:50[1/s]、温度:20℃の条件で、粘度を測定する。
【0042】
例えば、粘弾性測定装置として「MCR302」(商品名、Anton Paar製)を用い、治具PP50を用い、せん断速度:50[1/s]にて、温度:20℃で測定し、せん断速度0.1[1/s]の時の粘度値として測定することができる。
【0043】
本発明のキノコ粉は、水に容易に分散溶解して、例えば飲食品、化粧品、医薬品、インク・塗料、日用品、農業資材などに添加することにより、増粘効果、分散安定化効果、乳化安定化効果、離水防止効果を発揮する。このため、増粘剤、分散安定剤、乳化剤、または離水防止剤、あるいはそれらの原料として利用することができる。
【0044】
上述した増粘効果とは、水等の溶媒に対して、本発明のハイドロコロイド又はキノコ粉を添加することにより、溶媒の粘度が高くなる効果である。
【0045】
上述した分散安定化効果とは、本発明のハイドロコロイド又はキノコ粉を添加することにより、液体原料中に含まれる溶解していない成分を分散させて安定して保持する効果である。
【0046】
上述した乳化安定化効果とは、溶媒に対して溶解性の低い溶質を溶媒に分散維持できる効果である。
【0047】
上述した離水防止効果とは、本発明のハイドロコロイド又はキノコ粉を添加した対象物(例えば野菜、肉等の食材など)に保持されている水分が、冷蔵、冷凍保管などを行った後に、遊離してドリップしてくる現象を抑制する効果を意味する。
【0048】
本発明のハイドロコロイド及びキノコ粉が適用できる飲食物としては、例えば、水産・畜産加工品(例:ソーセージ、ハム、ハンバーグ、つみれ等)、肉まん、餃子、春巻き、シュウマイ、コロッケ等の中具、おにぎり、サンドイッチ等の具材(例:ツナマヨネーズ)、野菜炒め、だし巻き、ヨーグルト、水羊羹等の寒天製品、フルーツジャム等のジャム類、コーヒーゼリー、フルーツゼリー等のゼリー類、ホイップクリーム、マヨネーズ、セパレートタイプドレッシング、乳化タイプドレッシング、ノンオイルドレッシング等のドレッシング類、タレ、ピザソース、ウスターソース、ホワイトソース等のソース類、調味料類、アイスクリーム、ラクトアイス、アイスミルク、ソフトクリーム等の冷菓類が挙げられる。
【0049】
本発明のハイドロコロイド及びキノコ粉が適用できる化粧品としては、例えば、クリーム、乳液、化粧水、美容液等の基礎化粧品、石鹸、洗顔料、シャンプー、リンス等の清浄用化粧品、ヘアトニック、整髪料等の頭髪用化粧品、ファンデーション、アイライナー、マスカラ、口紅等のメイクアップ化粧品、歯磨き等の口腔化粧品、浴用化粧品等が挙げられる。
【0050】
本発明のハイドロコロイド及びキノコ粉が適用できるインク・塗料としては、例えば、ボールペンのインク、インクジェット印刷等の印刷機のインク、ペンキ、絵具等が挙げられる。
【0051】
本発明のハイドロコロイド及びキノコ粉が適用できる日用品としては、例えば、洗剤、消毒液、歯磨き粉等が挙げられる。
【0052】
本発明のハイドロコロイド及びキノコ粉が適用できる農業資材としては、例えば種や土の保水性向上剤、農薬等が挙げられる。
【0053】
本発明のハイドロコロイド及びキノコ粉は、上記のような各種製品の原料に添加することにより、増粘効果、分散安定化効果、乳化安定化効果、離水防止効果をもたらすことができる。
【実施例1】
【0054】
(粗粉砕工程)
収穫したアラゲキクラゲをロータリーカッターで約1~2cmに粗粉砕した。
【0055】
(磨砕工程)
次に、上記粗粉砕物に対して3質量倍程度の水を加水し、石臼粉砕機として、増幸産業株式会社製のスーパーマスコロイダー(登録商標)を用いて、磨砕を行った。これにより、石臼で圧縮、剪断、摩擦により残渣が残らず全てのアラゲキクラゲが摩砕されてスラリー状のアラゲキクラゲ溶液、つまりハイドロコロイドができた。以下、このハイドロコロイドを「Defiアラゲキクラゲ」と略称する。
【0056】
(乾燥粉砕工程)
次に、乾燥粉砕工程を実施した。乾燥粉砕工程では、ジェットミルでスラリー状のアラゲキクラゲ溶液を乾燥させるとともに、粉砕して粉状のキノコ粉とした。ジェットミルとしては、アドバンテック社製のものを用いた。
【0057】
なお、アラゲキクラゲに替えて、ナメコ、マイタケ、シメジタケ、ブナジメジ、エノキタケ、エリンギ、ハナビラタケ、シイタケ、ヒラタケ、タモギタケ、クロアワビタケ、シロキクラゲ、カワラタケ、スエヒロタケ、マンネンタケ、ヤマブシタケ、アガリクス、まつたけのいずれか1種または2種以上から選択されるキノコ類でも同様の方法でハイドロコロイドやキノコ粉を作ることができる。
【0058】
(比較例1)
水分を含む生のシロキクラゲをフードプロセッサー(商品名「MK-K61」、パナソニック社製)を用いて粗く粉砕した。
次いで、TKホモジナイザー(商品名「T.K.HOMOMIXER MARK2 MODEL2.5」、プライミクス株式会社製)を用い、室温で10,000 rpm、10分間粉砕処理し、スラリーを得た。以下、このスラリーを「HGシロキクラゲ」と略称する。
【0059】
(比較例2)
生のアラキクラゲを用い、比較例1と同様な方法で粉砕し、ホモジナイザーによる粉砕処理をして、スラリーを得た。以下、このスラリーを「HGアラゲキクラゲ」と略称する。
【実施例2】
【0060】
水分を含む生のシロキクラゲをフードプロセッサー(商品名「MK-K61」、パナソニック社製)を用いて粗く粉砕した。
このシロキクラゲを、石臼式粉砕機(商品名「スーパーマスコロイダーMKCA6-5J」、増幸産業製)へ投入して磨砕処理した。回転数は1,500rpmとし、グラインダーのクリアランスを1回目、2回目の処理は100μm、3回目、4回目は接触運転でマイナス40μmへ設定した。
こうして、解繊スラリー、すなわち、本発明のハイドロコロイドを得た。以下、このハイドロコロイドを「Defiシロキクラゲ」と略称する。
【実施例3】
【0061】
生のアラゲキクラゲを用い、実施例2と同様な方法で粉砕し、磨砕して、解繊スラリー、すなわち、本発明のハイドロコロイドを得た。以下、このハイドロコロイドを「Defiアラゲキクラゲ」と略称する。
【0062】
[試験例1(スラリーの性状)]
比較例1、2、実施例2,3で得られたそれぞれのスラリーの写真を撮ると共に、pH及び糖度(Brix)を測定した。pHの測定はpH計(F-74S、堀場製作所製)を用い、糖度の測定はデジタル糖度計(DBX-85、アタゴ製)を用いて行った。
【0063】
この結果を図1に示す。図1に示されるように、磨砕処理した実施例2,3のスラリー(ハイドロコロイド)は、比較例1,2のスラリーに比べて、組織が滑らかであり、糖度も高いことがわかる。
【0064】
[試験例2(粒度分布)]
比較例1、2、実施例2,3で得られたそれぞれのスラリーについて、レーザー回折式粒度分布測定装置(商品名「LMS-3000」、Malvern製)を用いて、体積モーメント平均粒子径D [4,3]を測定した。この結果を下記表1に示す。
【0065】

表1

表1に示されるように、磨砕処理した実施例2,3のスラリー(ハイドロコロイド)は、比較例1,2のスラリーに比べて、粒子径が小さいことがわかる。
【0066】
[試験例3(粘度測定)]
比較例1、2、実施例2,3で得られたそれぞれのスラリーについて、下記測定方法にて粘度を測定し、せん断速度0.1 [1/s]の時の粘度値を得た。
(測定方法)
測定機器:商品名「MCR302」(Anton Paar製)
使用した治具:PP50
測定条件
せん断速度:0.01-1000 [1/s]
温度:20℃
この結果を下記表2に示す。
【0067】

表2

表2に示されるように、磨砕処理した実施例2,3のスラリー(ハイドロコロイド)は、比較例1,2のスラリーに比べて、粘度が顕著に高いことがわかる。
【0068】
[試験例4(沈殿率)]
比較例1、2、実施例2,3で得られたそれぞれのスラリーについて、下記の方法で不溶性残渣の沈殿率を評価した。
(不溶性残渣の沈殿率の評価方法)
スラリー1gを水59gで希釈し、希釈サンプルを遠心分離(10,000×g、10分、室温)し、遠心分離した沈殿物を定性濾紙No.101(保持粒子径5μm、アドバンテック社製)を用いて、室温にて1日乾燥して濾紙に付着した不溶性残渣重量を測定し、スラリー1gに対する不溶性残渣重量の割合を求めて、不溶性残渣の沈殿率とした。この結果を下記表3に示す。
【0069】

表3
表3に示されるように、磨砕処理した実施例2,3のスラリー(ハイドロコロイド)は、比較例1,2のスラリーに比べて、不溶性残渣の沈殿率が低いことがわかる。
【0070】
[試験例5(固形粒子の分散安定性の評価)]
実施例2,3で得られたそれぞれのスラリー(ハイドロコロイド)について、下記の方法で分散安定性を評価した。
(分散安定性評価溶液の作製方法)
常温水と各スラリーを1:1で混合し、スターラーで10分間撹拌した。
(分散性評価方法)
上記混合液を15mLチューブに10g充填し、ブラックペッパー(乾燥状態の粒子サイズ≦2mm)を0.05g投入した。
よく転倒混和した後、常温で7日間静置し、ブラックペッパーの分散状態を評価した。分散安定性評価は、ブラックペッパーがよく分散されている場合を○、沈殿している場合を×とした。
7日間静置後の写真と、評価結果を図2に示す。
図2に示されるように、実施例2,3のスラリー(ハイドロコロイド)は、水溶液中の固形粒子に対する優れた分散安定性を有することがわかる。
【0071】
[試験例6(油脂の分散安定性の評価)]
実施例2,3で得られたそれぞれのスラリー(ハイドロコロイド)について、下記の方法で油脂の分散安定性を評価した。
(油脂を含む溶液の作製方法)
500mLステンレス管にそれぞれのスラリー及び水を計量した。
TKホモジナイザー(商品名「T.K.HOMOMIXER MARK2 MODEL2.5」、プライミクス株式会社製)で3分間撹拌を継続した後、市販のサラダ油を投入し、TKホモジナイザー(室温、7,500rpm、5分)で撹拌した。
スラリー、水、サラダ油の配合割合は、図3に示す配合割合(質量%)となるように調整した。
【0072】
(油脂の分散安定性評価)
これを飲料瓶に充填し、室温で7日間静置し、目視で観察すると共に、写真を撮って、水層と油層の分離状態を評価した。
目視で水層と油層の分離が確認できなかった場合を○、分離を確認できた場合を×とした。この結果を図3に示す。
図3に示されるように、実施例2,3のスラリー(ハイドロコロイド)は、水溶液中の油脂に対する優れた分散安定性を有することがわかる。
【0073】
[試験例7(離水抑制効果)]
比較例1、実施例3で得られたそれぞれのスラリー、並びにそれらを添加しない対照例について、下記の方法で離水抑制効果試験を行った。
(離水抑制効果試験)
フライパンに市販のサラダ油10gを投入し、卓上IHヒーターの中火で1分間加熱した。次いで、もやし250g、およびスラリー20g(モヤシに対して8重量%)を投入し、4分間炒めた。更に、食塩2.5gを入れ、1分間炒めた。加熱後のもやしを皿に盛りつけ、放冷し、4℃にて24時間冷蔵保存した。
その後、冷蔵庫から取り出し、ほぐしてから傾斜角10度に皿を固定し、15分静置後の離水量をスポイトを用いて回収し電子天秤にて重量計測することにより測定した。
【0074】
(離水抑制効果の評価)
離水抑制効果は24時間後離水量が0.5g未満だった場合に○、0.5g以上だった場合に×とした。この結果を下記表4に示す。
表4
表4に示されるように、対照例、比較例1に比べて、実施例3で得られたスラリー(ハイドロコロイド)は、優れた離水防止効果を有していた。
【0075】
(比較例3)
市販で入手できる乾燥状態のシロキクラゲを用い、これを卓上乾式ミル(商品名「T-351」、スナオジャパン製)を用いて粉砕して粉末を調製した。以下、この粉末を「DPシロキクラゲ」と略称する。
【0076】
(比較例4)
市販で入手できる乾燥状態のアラゲキクラゲを用い、これを卓上乾式ミル(商品名「T-351」、スナオジャパン製)を用いて粉砕して粉末を調製した。以下、この粉末を「DPアラゲキクラゲ」と略称する。
【実施例4】
【0077】
実施例2で得たシロキクラゲのスラリー(「Defiシロキクラゲ」)を凍結乾燥し、卓上乾式ミル(商品名「T-351」、スナオジャパン製)を用いて粉砕して粉末を調製した。以下、この粉末を「FDPシロキクラゲ」と略称する。
【実施例5】
【0078】
実施例3で得たアラゲキクラゲのスラリー(「Defiアラゲキクラゲ」)を凍結乾燥し、卓上乾式ミル(商品名「T-351」、スナオジャパン製)を用いて粉砕して粉末を調製した。以下、この粉末を「FDPアラゲキクラゲ」と略称する。
【0079】
[試験例8(粒度分布)]
実施例4,5で得られたそれぞれの粉末をスターラーで撹拌しながら常温水へ添加し分散したのち、電子レンジで加熱して分散溶液を調製した。この分散溶液をスターラーで10分間撹拌し、1質量%溶液を得た。
上記各分散溶液を試料として、レーザー回折式粒度分布測定装置(商品名「LMS-3000」、Malvern製)を用いて、体積モーメント平均粒子径D [4,3]を測定した。この結果を下記表5に示す。

表5
【0080】
[試験例9(粘度測定1)]
実施例5で得られた粉末(FDPアラゲキクラゲ)を乳鉢で磨砕し、摩砕した粉末を325メッシュの篩(目開き45μm、東京スクリーン製)にかけて、該篩をパスした粉末を集め、用いて、粒子径≦45μmの粉末を調製した。この粉末(比較例5)と、乳鉢による磨砕を行わず、メッシュも通していない、実施例5で得られた粉末とを用いて、それぞれの増粘効果を評価した。
それぞれの粉末を15mLチューブへ投入し、脱イオン水を用いて0.1重量%溶液を作製した。この溶液をボルテックスミキサーを用いて撹拌し、下記条件にて粘度を測定し、120秒時点の粘度の値を得た。
【0081】
(粘度測定方法)
下記条件にて粘度を測定し、120秒時点の粘度の値を得た。

測定機器:商品名「MCR302」(Anton Paar製)
使用した治具:PP50
測定条件
せん断速度:50 [1/s]
温度:20℃
測定間隔:1点/s
測定時間:120s

この結果を下記表6に示す。増粘性評価は、粘度が10[mPa・s]以上の場合を○、未満の場合を×とした。

表6

表6に示されるように、粒子径≦45μmの粉末(比較例5)では粘度が低下してしまうことがわかる。
【0082】
[試験例10(粘度測定2)]
比較例3、4、実施例4、5で得られたそれぞれの粉末を用いて、下記測定方法にて粘度を測定した。
(増粘性評価溶液の作製)
氷と水を同質量ずつ混合した冷水(15℃以下に調整)、常温水(15℃以上、25℃未満に調整)をスターラーで撹拌しながらそれぞれの粉末を分散する。
別の試験区では常温水をスターラーで撹拌しながら凍結乾燥粉末または原料乾式粉砕粉末を分散したのち、電子レンジで加熱する(80℃以上達温)。
各温度を維持しながら分散溶液をスターラーで10分間撹拌し、1重量%濃度の原料粉砕物分散、冷水分散、常温水分散、または加熱分散溶液を得た。冷水溶解溶液は測定直前まで10℃恒温器にて保管した。
【0083】
(粘度測定方法)
下記条件にて粘度を測定し、120秒時点の粘度の値を得た。

測定機器:商品名「MCR302」(Anton Paar製)
使用した治具:PP50
測定条件
せん断速度:50 [1/s]
温度:20℃
測定間隔:1点/s
測定時間:120s
【0084】
シロキクラゲの結果を下記表7に示す。また、アラゲキクラゲの結果を下記表8に示す。増粘性評価は、粘度が10[mPa・s]以上の場合を○、未満の場合を×とした。

表7



表8

表7,8に示されるように、比較例3,4の粉末は、いずれも増粘効果が乏しかったが、実施例4,5の粉末は、冷水、常温、加熱のいずれの温度でも、優れた増粘効果が得られた。
【0085】
[試験例11(固形粒子の分散安定性の評価)]
実施例4,5で得られたそれぞれの粉末について、下記の方法で分散安定性を評価した。
【0086】
(分散安定性評価溶液の作製方法)
常温水をスターラーで撹拌しながら凍結乾燥粉末を分散したのち、電子レンジで加熱した。スターラーで溶液を10分間撹拌し、3重量%シロキクラゲ溶液および1重量%アラゲキクラゲ溶液を得た。
【0087】
15mLチューブに溶液10gを充填し、ブラックペッパー(乾燥状態の粒子サイズ≦2mm)を0.05g投入し、よく転倒混和した後、常温で7日間静置し、ブラックペッパーの分散状態を評価した。分散安定性評価は、ブラックペッパーがよく分散されている場合を○、沈殿している場合を×とした。
7日間静置後の写真と、評価結果を図4に示す。
図4に示されるように、実施例4,5のスラリー(ハイドロコロイド)は、水溶液中の固形粒子に対する優れた分散安定性を有することがわかる。
【0088】
[試験例12(油脂の分散安定性の評価)]
実施例4,5で得られたそれぞれの粉末について、下記の方法で油脂の分散安定性を評価した。また、比較例5として、市販のキサンタンガム粉末を同様な試験に供した。
【0089】
(油脂を含む溶液の作製方法)
500mLステンレス管に水を計量した。
TKホモジナイザー(T.K.HOMOMIXER MARK2 MODEL2.5、プライミクス株式会社製)で撹拌しながら粉末を分散させた。3分間撹拌を継続した後、市販のサラダ油を投入し、TKホモジナイザー(室温、7,500rpm、5分)で撹拌した。
スラリー、水、サラダ油の配合割合は、図5に示す配合割合(質量%)となるように調整した。
【0090】
(油脂の分散安定性評価)
これを飲料瓶に充填し、室温で7日間静置し、目視で観察すると共に、写真を撮って、水層と油層の分離状態を評価した。
目視で水層と油層の分離が確認できなかった場合を○、分離を確認できた場合を×とした。この結果を図5に示す。
図5に示されるように、実施例4,5の粉末は、水溶液中の油脂に対する優れた分散安定性を有することがわかる。これに対して、一般的な増粘剤であるキサンタンガム(比較例5)は、水溶液中の油脂に対する分散安定性は認められなかった。
【0091】
[試験例13(離水抑制効果)]
実施例4,5で得られたそれぞれの粉末、並びにそれらを添加しない対照例について、下記の方法で離水抑制効果試験を行った。
【0092】
(離水抑制効果試験)
フライパンに市販のサラダ油10gを投入し、卓上IHヒーターの中火で1分間加熱した。次いで、もやし250g、および粉末0.75g(モヤシに対して0.3重量%)を投入し、4分間炒めた。更に、食塩2.5gを入れ、1分間炒めた。加熱後のもやしを皿に盛りつけ、放冷し、4℃にて24時間冷蔵保存した。
その後、冷蔵庫から取り出し、ほぐしてから傾斜角10度に皿を固定し、15分静置後の離水量をスポイトを用いて回収し電子天秤にて重量計測することにより測定した。
【0093】
(離水抑制効果の評価)
離水抑制効果は24時間後離水量が0.5g未満だった場合に○、0.5g以上だった場合に×とした。この結果を下記表9に示す。
表9

表9に示されるように、対照例に比べて、実施例4,5で得られた粉末は、優れた離水防止効果を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明によれば、キノコ類を原料として、繊維感の残らないハイドロコロイド及びキノコ粉を製造し、提供することができ、このハイドロコロイド及びキノコ粉は、増粘剤、分散安定剤、乳化剤、または離水防止剤として利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5