(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】ひび割れの自己治癒性能を有するプレキャストコンクリートパネルを用いたコンクリート構造物
(51)【国際特許分類】
E04B 1/16 20060101AFI20240422BHJP
E04B 2/86 20060101ALI20240422BHJP
E04C 1/00 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
E04B1/16 D
E04B2/86 601C
E04C1/00 Z
(21)【出願番号】P 2020057831
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2023-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】守屋 健一
(72)【発明者】
【氏名】大橋 英紀
(72)【発明者】
【氏名】奥村 正樹
(72)【発明者】
【氏名】サンジェイ パリーク
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-216747(JP,A)
【文献】特開2019-213307(JP,A)
【文献】特表2013-523590(JP,A)
【文献】特開2003-268735(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/16
E04B 2/86
E04C 1/00- 1/42
C04B 28/02-28/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレキャストコンクリートパネルからなる型枠内に、現場打ちコンクリートを打設し、硬化後も現場打ちコンクリートと一体化したプレキャストコンクリートパネルをその表面に残置して構築されたコンクリート構造物において、
前記プレキャストコンクリートパネルに、バクテリアの代謝活動を利用したコンクリートのひび割れ補修材が含まれている
とともに、現場打ちコンクリートとの接合面に凸部と凹部とが交互に並んだ凹凸加工が施されており、
前記現場打ちコンクリートに鉄筋が配置されているとともに、前記鉄筋はプレキャストコンクリートパネルに形成された前記凹凸加工の凸部に対応する位置に配置されていることを特徴とするひび割れの自己治癒性能を有するプレキャストコンクリートパネル
を用いたコンクリート構造物。
【請求項2】
前記補修材の配合量が、2.5~7.5kg/m
3である請求項1記載のひび割れの自己治癒性能を有するプレキャストコンクリートパネル
を用いたコンクリート構造物。
【請求項3】
前記プレキャストコンクリートパネルに、短繊維が混入されている請求項1、2いずれかに記載のひび割れの自己治癒性能を有するプレキャストコンクリートパネル
を用いたコンクリート構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バクテリアの代謝活動によるひび割れの自己治癒能力を備えたプレキャストコンクリートパネルを用いたコンクリート構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、海洋・河川構造物の耐震補強工事などにおいて、工期短縮、省力化等を目的として、プレキャストコンクリートパネルからなる型枠内に、現場打ちコンクリートを打設し、硬化後も現場打ちコンクリートと一体化したプレキャストコンクリートパネルをその表面に残置して構造物を構築するハーフプレキャスト工法が知られている。
【0003】
このようなハーフプレキャスト工法による構造物では、施工後、プレキャストコンクリートパネルの表面にひび割れが生じる場合があった。その主な原因としては、(1)現場打ちコンクリートの硬化時の発熱による温度上昇と、プレキャストコンクリートパネルとの温度差に起因するひび割れ、(2)プレキャストコンクリートパネルの乾燥収縮や冬場の温度低下による体積変化に起因するひび割れ、(3)現場打ちコンクリートの体積変化の影響に起因するひび割れ、の3点が挙げられる。
【0004】
このような構造物において、表面にひび割れが生じると、外観が悪化するとともに、ひび割れ部分からコンクリート内部に浸水し、埋設された鉄筋を腐食させ構造物の耐久性や強度を低下させるおそれがあるため、コンクリート構造物のひび割れに対しては各種の補修が成されていた。
【0005】
ひび割れの補修方法としては、ひび割れに樹脂系またはセメント系の材料を注入する注入工法、ひび割れに沿ってコンクリートの表面をU字型にカットし、その部分に補修材を充填する充填工法、微細なひび割れの上に塗膜を形成する被覆工法、噴霧器、ローラー、ハケ等によりコンクリートの表面に補修材を塗布・含浸させる表面含浸工法等が知られている。
【0006】
また、下記特許文献1には、コンクリート構造物のひび割れ発生箇所に塗布されて含浸される低粘度の下地材と、この下地材の上から塗布される高粘度の接着材と、この接着剤を介して接着される繊維シートとを含んで構成される補修方法が開示されている。更に、下記特許文献2には、コンクリート構造物の水中部のひび割れ補修方法として、弾性材料からなるシート材をひび割れのある水中部の表面に前記ひび割れを覆うように固定し、前記シート材の注入部を通して水中不分離性の充填材料を注入する補修方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-96016号公報
【文献】特開2018-184715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方、コンクリート構造物のひび割れ点検方法としては、調査員の目視による目視検査や、ハンマー打撃による打音検査が一般的であり、水中部については、潜水士による目視調査や、水中でのリバウンドハンマーや超音波試験機を用いた調査が行われていた。
【0009】
このように、従来の補修工法では、施工後にコンクリート構造物を調査・診断し、ひび割れ箇所を補修・補強する作業に多大なコストと手間がかかっていた。特に、水中部のひび割れの調査は、潜水での作業になるため、大きな手間がかかり、発見することすら困難な場合が多かった。そして、発生したひび割れが補修されずに放置されることによって、コンクリート構造物の耐久性が低下する問題が深刻化していた。
【0010】
そこで本発明の主たる課題は、プレキャストコンクリートパネルからなる型枠内に、現場打ちコンクリートを打設し、硬化後も現場打ちコンクリートと一体化したプレキャストコンクリートパネルをその表面に残置して構築されたコンクリート構造物において、耐久性を向上させるとともに、ひび割れの調査及び補修にかかる費用を大幅に低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、プレキャストコンクリートパネルからなる型枠内に、現場打ちコンクリートを打設し、硬化後も現場打ちコンクリートと一体化したプレキャストコンクリートパネルをその表面に残置して構築されたコンクリート構造物において、
前記プレキャストコンクリートパネルに、バクテリアの代謝活動を利用したコンクリートのひび割れ補修材が含まれているとともに、現場打ちコンクリートとの接合面に凸部と凹部とが交互に並んだ凹凸加工が施されており、
前記現場打ちコンクリートに鉄筋が配置されているとともに、前記鉄筋はプレキャストコンクリートパネルに形成された前記凹凸加工の凸部に対応する位置に配置されていることを特徴とするひび割れの自己治癒性能を有するプレキャストコンクリートパネルを用いたコンクリート構造物が提供される。
【0012】
上記請求項1記載の発明では、現場打ちコンクリートと一体化して表面に残置されることによってコンクリート構造物の表面層を構成する前記プレキャストコンクリートパネルに、バクテリアの代謝活動を利用したコンクリートのひび割れ補修材が含まれているため、プレキャストコンクリートパネルにひび割れが生じても、このプレキャストコンクリートパネルに含まれる前記補修材のバクテリアの代謝活動によって、ひび割れが自然と閉塞(自己治癒)するようになる。このように、構造物の表面を構成するプレキャストコンクリートパネルのひび割れが自己治癒するため、プレキャストコンクリートパネルによって外部からの水の浸入が完全に遮断され、プレキャストコンクリートパネルの内側に打設された現場打ちコンクリートまで水が浸入しなくなる結果、現場打ちコンクリートに配置された鉄筋の腐食が防止でき、コンクリート構造物の耐久性が向上するとともに、ひび割れの調査及び補修にかかる費用が大幅に低減できるようになる。
【0013】
前記プレキャストコンクリートパネルは、現場打ちコンクリートとの接合面に凸部と凹部とが交互に並んだ凹凸加工が施されており、前記現場打ちコンクリートに鉄筋が配置されているとともに、前記鉄筋はプレキャストコンクリートパネルに形成された前記凹凸加工の凸部に対応する位置に配置されている。従って、プレキャストコンクリートパネルの表面から内側に進展したひび割れが、凸部の厚み分だけ距離が稼げるため、現場打ちコンクリートまで到達しにくくなり、プレキャストコンクリートパネルに含まれる補修材によって補修される確率が高まる結果、現場打ちコンクリートに配置された鉄筋にまでひび割れを通じて水が浸入しにくくなり、鉄筋が腐食するのが防止できるようになる。
【0014】
請求項2に係る本発明として、前記補修材の配合量が、2.5~7.5kg/m3である請求項1記載のひび割れの自己治癒性能を有するプレキャストコンクリートパネルを用いたコンクリート構造物が提供される。
【0015】
上記請求項2記載の発明では、プレキャストコンクリートパネルにおけるひび割れの自己治癒能力が確実に発揮できるように、バクテリアを含む前記補修材の配合量を所定の範囲にしている。
【0016】
請求項3に係る本発明として、前記プレキャストコンクリートパネルに、短繊維が混入されている請求項1、2いずれかに記載のひび割れの自己治癒性能を有するプレキャストコンクリートパネルを用いたコンクリート構造物が提供される。
【0017】
上記請求項3記載の発明では、ひび割れの自己治癒効率を高めるため、前記プレキャストコンクリートパネルに短繊維を混入している。
【発明の効果】
【0018】
以上詳説のとおり本発明によれば、プレキャストコンクリートパネルからなる型枠内に、現場打ちコンクリートを打設し、硬化後も現場打ちコンクリートと一体化したプレキャストコンクリートパネルをその表面に残置して構築されたコンクリート構造物において、前記プレキャストコンクリートパネルの耐久性が向上するとともに、ひび割れの調査及び補修にかかる費用が大幅に低減できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係るプレキャストコンクリートパネル1を用いたコンクリート構造物の断面図である。
【
図2】コンクリート構造物の施工手順を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0021】
本発明に係るプレキャストコンクリートパネル1(以下、「PCaパネル1」という。)は、
図1に示されるように、現場打ちコンクリート10と一体化してコンクリート構造物の表面に残置されるものである。このPCaパネル1には、
図1に示されるように、バクテリアの代謝活動を利用したコンクリートのひび割れ補修材2が含まれている。前記補修材2は、PCaパネル1のみに含有され、現場打ちコンクリート10には含まれていない。これにより、高価な補修材2の使用量が少なくて済み、施工コストの削減を図ることができる。
【0022】
前記PCaパネル1は、工場で製造されたコンクリート製またはモルタル製の部材であり、必要に応じて内部に鉄筋などの鋼材を配置することができる。断面形状は、板状、矩形中空状(口形状)、U形状、W形状など、公知の形状を制限なく用いることができる。
【0023】
前記現場打ちコンクリート10は、コンクリート構造物の施工現場で、前記PCaパネル1によって枠組みされた型枠内に打設され、硬化させたものであり、コンクリート構造物の設計上の強度を確保するため、内部に鉄筋11やH鋼などの鋼材が配置されている。
【0024】
前記PCaパネル1を用いたコンクリート構造物の施工手順は、
図2に示されるように、(A)PCaパネル1を設置し、(B)前記PCaパネル1で枠組みされた型枠内に現場打ちコンクリート10を打設してコンクリート構造物を構築する。その後、数ヶ月~数年経過すると、上述した種々の要因により、同
図2(C)に示されるように、PCaパネル1の表面にひび割れが生じることがある。
【0025】
本発明では、コンクリート構造物の表面を構成するPCaパネル1に、バクテリアの代謝活動を利用したコンクリートのひび割れ補修材2を含有させることによって、PCaパネル1にひび割れが生じても、このPCaパネル1に含まれる補修材2のバクテリアの代謝活動によって、ひび割れが自然と閉塞(自己治癒)するようになっている。このように、コンクリート構造物の表面を構成するPCaパネル1のひび割れが自己治癒するため、表面のPCaパネル1によって外部からの水の浸入が完全に遮断され、PCaパネル1の内側に打設された現場打ちコンクリート10まで水が浸入しなくなる結果、現場打ちコンクリート10に配置された鉄筋11の腐食が防止でき、コンクリート構造物の耐久性が向上するとともに、ひび割れの調査及び補修にかかる費用が大幅に低減できるようになる。
【0026】
〔補修材の基本的構成〕
前記補修材は、PCaパネル1の製造時に添加される。前記補修材としては、特表2013-523590号公報に記載されたものを用いるのが好適である。この補修材について、同公報の明細書の記載を一部抜粋しながら以下に説明する。
【0027】
同公報に開示された発明は、その第一の態様において、セメント出発材料及び粒子状補修材を混合してセメント系材料を用意するステップを含む、セメント系材料を作製するための方法であって、補修材が被覆粒子を含み、前記被覆粒子が、細菌材料(バクテリア)及び添加剤を含み、前記細菌材料が、細菌、凍結乾燥細菌及び細菌胞子からなる群から選択される方法を提供する。
【0028】
被覆は、セメント系ベースの材料を作製するための方法において粒子を保護することができるが、セメント系ベースの建築物においてひび割れが生じると(硬化において)、粒子も破損/ひび割れる。このようにして、補修材が放出され、ひび割れを少なくとも部分的に修復することができる。
【0029】
コンクリート又は他のセメントベースの材料に取り込まれた補修材は、水によって活性化されると、材料に形成されたひび割れの自発的修理を行うことができる。この薬剤は、細菌材料及び好ましくは添加剤を含む。細菌は、特に、乾燥(粉末)形態で提供され、特に、凍結乾燥した増殖性細胞であっても、乾燥した細菌胞子であってもよい。従って、細菌材料は、細菌、凍結乾燥細菌及び細菌胞子からなる群から選択される。
【0030】
用語「細菌材料」は、細菌、凍結乾燥細菌及び細菌胞子のうち2種以上の組み合わせ等、細菌材料の組み合わせも意味し得る。或いは又はさらに、用語「細菌材料」は、プラノコッカス(Planococcus)、バチルス(Bacillus)及びスポロサルシナ(Sporosarcina)のうち2種以上等、異なる種類の細菌の組み合わせ、或いは、嫌気性細菌及び好気性細菌の組み合わせ等も意味し得る。
【0031】
さらに、補修材は添加剤を含む。添加剤は、アルカリ性環境において活性細菌により、炭酸カルシウム又はリン酸カルシウム等、生体鉱物へと代謝性転換され得る1又は2以上の有機及び/又はカルシウム含有化合物を含むことができる。有機及び/又はカルシウム含有化合物は、アルカリ性環境における細菌による代謝性転換後に、炭酸カルシウムベースの鉱物(方解石、アラゴナイト、バテライト等)及び/又はリン酸カルシウムベースの鉱物(例えば、アパタイト)等、実質的に水に不溶の沈殿物を形成するリン酸及び/又は炭酸イオン並びにカルシウムイオンを生成する。有機及び/又はカルシウム含有化合物の例として、ギ酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム等の有機カルシウム塩、炭水化物、脂肪酸、アミノ酸、乳酸塩、マレイン酸塩、ギ酸塩、糖、ピルビン酸塩及びフィチン酸塩等の有機リン酸含有化合物が挙げられる。カルシウムベースの前駆体は、本明細書において、「生体鉱物前駆体」又は「カルシウム生体鉱物前駆体」としても表示されている。
【0032】
さらにまた別の一実施形態において、添加剤は、酵母エキス、ペプトン、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩及び微量元素からなる群から選択される等、細菌増殖因子を含む。好ましくは、細菌増殖因子は、微量元素並びに酵母エキス、ペプトン、アスパラギン酸塩及びグルタミン酸塩からなる群から選択される1又は2以上を含む。微量元素は、Zn、Co、Cu、Fe、Mn、Ni、B、P及びMoを含む群から選択される1又は2以上の元素を特に含む。
【0033】
特に、添加剤は、有機化合物からなる群から選択され、好ましくは、酵母エキス、ペプトン、炭水化物、脂肪酸、アミノ酸、乳酸塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩、マレイン酸塩、ギ酸塩、糖及びピルビン酸塩からなる群から選択される1又は2以上の化合物を含むことができる。
【0034】
従って、好ましい一実施形態において、添加剤は、(1)ギ酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、炭水化物、脂肪酸、アミノ酸、乳酸塩、マレイン酸塩、ギ酸塩、糖、ピルビン酸塩及びフィチン酸塩からなる群から選択される1又は2以上の化合物と、(2)好ましくは、酵母エキス、ペプトン、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩及び微量元素からなる群から選択される細菌増殖因子とを含む。好ましくは、添加剤は、カルシウム化合物及び有機化合物(炭水化物、脂肪酸、アミノ酸、乳酸塩、マレイン酸塩、ギ酸塩、糖及びピルビン酸塩等)と共に、微量元素並びに酵母エキス、ペプトン、アスパラギン酸塩及びグルタミン酸塩のうち1又は2以上を含む。有機化合物の代わりに、或いはそれに加えて、添加剤は、フィチン酸塩も含む。特に好ましい一実施形態において、添加剤は、(a)カルシウム化合物と、(b)有機化合物及びリン化合物(フィチン酸塩等)のうち1又は2以上と、(c)微量元素と、(d)酵母エキス、ペプトン、アスパラギン酸塩及びグルタミン酸塩のうち1又は2以上とを含む。
【0035】
従って、一実施形態において、細菌は、アルカリ性培地においてリン酸塩又は炭酸塩沈殿物(アパタイトのような炭酸カルシウム又はリン酸カルシウムベースの鉱物等)を生成できる細菌からなる群から選択される。さらに、一実施形態において、添加剤は、カルシウム化合物、特に、ギ酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム及びグルコン酸カルシウムを含む群から選択される1又は2以上を含む。
【0036】
一実施形態において、細菌は、好気性細菌からなる群から選択される。好気性細菌を用いることの利点は、好気性細菌の細菌材料を含む補修材を、硬化(hardened)セメント系材料が好気性条件に曝露される用途に用いてよいことであると思われる。
【0037】
別の一実施形態において、細菌は、嫌気性細菌からなる群から選択される。嫌気性細菌を用いることの利点は、嫌気性細菌の細菌材料を含む補修材を、硬化セメント系材料が地下適用等、嫌気性条件に曝露される用途に用いてよいことであると思われる。
【0038】
好ましい細菌は、プラノコッカス、バチルス及びスポロサルシナ、特にバチルス(等の属の通性好気性細菌)の群から選択される。特に、嫌気性発酵及び/又は嫌気性硝酸還元によって増殖できる細菌が選択される。
【0039】
粒子状補修材における細菌材料:添加剤の重量比は、特に、1:10,000~1:1,000,000の範囲、即ち、10グラム~1kgの添加剤に対し1mgの細菌材料となることができる。
【0040】
補修材の添加剤画分の2種の亜画分、即ち、生体鉱物前駆体化合物(それを元に細菌による代謝性転換後に炭酸カルシウム又はリン酸カルシウムベースの鉱物が生成される)及び細菌増殖因子(例えば、酵母エキス、ペプトン、アミノ酸、微量元素)の重量比は、特に、10:1~1000:1の範囲、即ち、10グラム~1kgの生体鉱物前駆体化合物に対し1グラムの細菌増殖因子となることができる。
【0041】
補修材の成分は、好ましくは、乾燥又は乾燥状態(粉末形態)にて適切な比率で提供され、(次に)錠剤にプレスされ、セメント及びコンクリート適合層等で被覆される。被覆は、好ましくは、コンクリート又はセメントベース材料調製手順のプロセス(例えば、コンクリート混合物の調製及び成型プロセス)における破損及び溶解に抵抗するように十分に物理的(機械的)に強く、化学的に弾性がある。さらに、被覆は、セメントベース材料の全体的な強度増進に寄与するため、好ましくは、セメントベース混合物の固化(硬化)においてセメントベース材料との安定的な物理的接着を形成する。そして、固化したセメントベース材料においてひび割れが形成されると、被覆が破裂して補修材が放出できるように、好ましくは、補修材を取り巻く被覆は、固化したセメントベースの材料に取り込まれると、好ましくは、周囲のセメント石マトリックスよりも弱くなるべきである。
【0042】
この目的のため、同公報に記載された発明は、そのさらに別の一態様において、細菌材料、添加剤及び任意選択で第二の添加剤の混合物を錠剤へと加工するステップと、前記錠剤を被覆するステップとを含む、粒子状補修材を作製するための方法であって、細菌が、好ましくは、プラノコッカス、バチルス及びスポロサルシナからなる属の群から選択され、添加剤が、ギ酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、炭水化物、脂肪酸、アミノ酸、乳酸塩、マレイン酸塩、ギ酸塩、糖、ピルビン酸塩及びフィチン酸塩からなる群から選択される1又は2以上の化合物を含み、添加剤が好ましくは、酵母エキス、ペプトン、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩及び微量元素からなる群から選択される細菌増殖因子を好ましくは含む方法を提供する。
【0043】
特定の一実施形態において、粒子状補修材を作製するための方法は、本技術分野において公知の技法である、噴霧乾燥、粒子化(prilling)、流動床(fluid bed)コーティング、v型混合機によるブレンディング(v-blending)、ホットブレンディング、球状化処理(spheroidiziation)及び錠剤コーティングからなる群から選択される1又は2以上の被覆方法により錠剤を被覆するステップを含む。任意選択の第二の添加剤は、担体(ゼオライト、粘土等)等のペレット化剤(pelleting agent)、崩壊剤、流動促進剤、潤滑剤、造粒剤、増粘剤、結合剤(澱粉、ラクトース、セルロース等)等となることができる。
【0044】
従って、同公報に記載された発明は、そのさらに別の一態様において、細菌材料、添加剤及び任意選択で第二の添加剤の混合物の錠剤への加工並びに前記錠剤の被覆によって得られる被覆粒子(即ち、粒子状補修材)も提供する。
【0045】
特に、同公報に記載された発明は、補修材が、被覆粒子を含み、前記粒子が、細菌材料及び添加剤を含み、前記細菌材料が、細菌、凍結乾燥細菌及び細菌胞子からなる群から選択され、前記細菌が、好ましくは、プラノコッカス、バチルス及びスポロサルシナ、特にバチルスからなる属の群から選択され、前記添加剤が、ギ酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、炭水化物、脂肪酸、アミノ酸、乳酸塩、マレイン酸塩、ギ酸塩、糖、ピルビン酸塩及びフィチン酸塩からなる群から選択される1又は2以上の化合物を含み、前記添加剤が、好ましくは、酵母エキス、ペプトン、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩及び微量元素からなる群から選択される細菌増殖因子を好ましくは含む、セメント系材料のための粒子状補修材をさらに提供する。
【0046】
上述の通り、特定の一実施形態において、被覆粒子の被覆は、噴霧乾燥、粒子化、流動床コーティング、v型混合機によるブレンディング、ホットブレンディング、球状化処理及び錠剤コーティングからなる群から選択される1又は2以上の被覆方法によって得ることができる。
【0047】
被覆粒子は、特に、被覆粒子の総重量に対して少なくとも50wt.%、より好ましくは少なくとも75wt.%の細菌材料及び添加剤を含むことができる。さらに、被覆粒子は、特に、0.2~4.0mmの範囲の平均寸法を有することができる。本明細書において、用語「寸法」は、長さ、幅、高さ及び直径(複数可)を指す。一実施形態において、被覆粒子は、5μm~2mmの範囲の被覆厚を有することができる。
【0048】
特定の一実施形態において、被覆は、グリコリド、ラクチド、ε-カプロラクトン、δ-バレロラクトン、N-ビニルカプロラクタム、3,6-ジメチル-1,4-ジオキサン-2,5-ジオン、メタクリル酸グリコシルオキシエチル、1,6-ビス(p-アセトキシカルボニル-フェノキシ)ヘキサン及び(3S)-cis-3,6-ジメチル-1,4-ジオキサン-2,5-ジオンを含む群から選択される1又は2以上のモノマー型に基づく(コ)ポリマーベースの被覆を含む。当業者であれば明らかとなる通り、被覆は、多層被覆となることができる。さらに、被覆は、本明細書に構成群として表示されているモノマーのうち1又は2以上を含むことができる。このような被覆は、硬化セメント系材料の内部で、圧力下(ひび割れ形成等により)破損することにより、補修材を放出することができる。別の一実施形態において、被覆は、エポキシベースの(コ)ポリマーを含むことができる。このようなエポキシベースの被覆は、相対的に硬くなることができ、これにより、コンクリート(圧縮)強度に貢献することができる。
【0049】
被覆粒子は、モース硬度計による3~9の範囲、特に、4~5等、4~7の範囲の平均粒子硬度を有することができる。このような強度は、粒子に実質的なダメージを与えることなく、或いは許容されるダメージでセメント系材料及び(その後の)セメント系建築物への加工を可能にするが、一方、セメント系建築物の硬化においてひび割れが生じると、粒子もひび割れることのできるような硬度範囲に収まる。例えば、アパタイトは、モース硬度5を有し、CaCO3は、モース硬度3を有するであろう。
【0050】
〔補修材の製造方法〕
次に、前記補修材の製造方法について説明する。前記バクテリアは、乾燥した状態で乳酸カルシウム等の栄養素及び酵素とともに混合され、少量ずつ生分解性プラスチックで被覆されて粒状の補修材2に成形される。
【0051】
〔PCaパネル1の製造方法〕
コンクリート原料(セメント出発材料)及び粒子状補修材は、一体に混合される。この操作は、セメント系材料を作製する(従来の)方法において、従来の仕方で行うことができる。
【0052】
コンクリート原料に対する前記補修材の配合量は、2.5~7.5kg/m3であるのが好ましい。この範囲で前記補修材を配合することにより、PCaパネル1におけるひび割れの自己治癒能力が確実に発揮されるようになる。
【0053】
前記PCaパネル1には、ひび割れの自己治癒効率を高めるため、短繊維を混入してもよい。前記短繊維は、前記補修材を配合するのと同時に、或いはその前工程又は後工程において、コンクリート原料に混入される。前記短繊維を混入後、コンクリート原料の練混ぜによって、前記短繊維はPCaパネル1にほぼ均一に分散するようになる。前記短繊維としては、鋼繊維、ビニロン繊維、ポリエチレン繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ガラス繊維、バサルト繊維などを用いることが可能である。前記短繊維を混入することにより、ひび割れ発生の分散とコンクリートに靭性能を付与することができる。
【0054】
前記PCaパネル1は、
図1に示されるように、現場打ちコンクリート10との接合面に凹凸加工を施すのが好ましい。凹凸加工を施すことにより、PCaパネル1と現場打ちコンクリート10との付着性能を高めることができるようになる。
【0055】
このとき、現場打ちコンクリート10に配置される鉄筋11は、PCaパネル1の凸部(現場打ちコンクリート10の凹部)に対応する位置に配置するのが好ましい。具体的には、
図1に示されるように、PCaパネル1の凸部の頂部から内側に所定の離隔幅を有するように配置するのが好ましい。これにより、PCaパネル1の表面から内側に進展したひび割れCが、凸部の厚み分だけ距離が稼げるため、現場打ちコンクリート10まで到達しにくくなり、PCaパネル1に含まれる補修材2によって補修される確率が高まる結果、現場打ちコンクリート10に配置された鉄筋11にまでひび割れCを通じて水が浸入しにくくなり、鉄筋11が腐食するのが防止できる。前記鉄筋11は、PCaパネル1の全ての凸部に対応して配置してもよいし、
図1に示されるように、1又は複数個置き、図示例では1つ置きの凸部に配置してもよい。前記凸部の頂部と鉄筋11との離隔幅は、小さすぎると隙間部分に現場打ちコンクリート10が入り込みにくく空洞が生じやすくなり、大きすぎるとコンクリート構造物の強度が低下するおそれがあるため、適切な範囲、具体的には3mm~200mm、好ましくは5mm~50mm程度とするのがよい。
【0056】
前記PCaパネル1を用いたコンクリート構造物としては、新設の構造物はもちろんのこと、既設の構造物の耐震補強工事やリニューアル工事などに用いることも可能である。
【0057】
〔補修材によるひび割れの補修メカニズム〕
図1に示されるように、PCaパネル1の表面にひび割れCが発生すると、PCaパネル1に含まれる補修材2の被覆層が破壊され、前記補修材2に含まれるバクテリアがひび割れCを伝って浸透した水分によって活性化されるとともに、
図3に示されるように、前記補修材2に含まれるバクテリアが栄養素を消費して、コンクリート組織と同系統の炭酸カルシウム(CaCO
3)を生成する。このバクテリアによって生成された炭酸カルシウムがひび割れC内に沈積してひび割れを閉塞する。
【0058】
ひび割れの閉塞後は、ひび割れを伝って浸透する水及び二酸化炭素が遮断されるため、バクテリアは仮死状態に戻る。再びひび割れが発生してバクテリアに水分が供給されると、仮死状態のバクテリアが活性化してひび割れを補修する。
【0059】
前述の通り、補修材2に含まれるバクテリアの代謝活動には水分が必要となるため、常に水分が供給される環境にある、水中に構築される海洋・河川構造物に、本発明の適用が特に有効である。このような水中の構造物は、ひび割れの発見及び補修が困難な場合が多いため、その点でも本発明の適用が有効である。
【符号の説明】
【0060】
1…プレキャストコンクリートパネル(PCaパネル)、2…補修材、3…栄養素、10…現場打ちコンクリート、11…鉄筋、C…ひび割れ