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特許7475615ロボットのジョイントのすき間検出装置及びすき間検出方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】ロボットのジョイントのすき間検出装置及びすき間検出方法
(51)【国際特許分類】
   B25J 19/06 20060101AFI20240422BHJP
   B25J 11/00 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
B25J19/06
B25J11/00 D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022575614
(86)(22)【出願日】2022-01-12
(86)【国際出願番号】 JP2022000787
(87)【国際公開番号】W WO2022154021
(87)【国際公開日】2022-07-21
【審査請求日】2023-04-24
(31)【優先権主張番号】P 2021005871
(32)【優先日】2021-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】中川 浩
(72)【発明者】
【氏名】安部 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】松井 英生
(72)【発明者】
【氏名】永山 智昭
(72)【発明者】
【氏名】武田 行生
(72)【発明者】
【氏名】大野 真澄
【審査官】神山 貴行
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-136838(JP,A)
【文献】特開2017-217709(JP,A)
【文献】特開平07-100782(JP,A)
【文献】特開平03-242714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00-21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータによって駆動する駆動リンクと、
前記駆動リンクの動作に伴って従動する複数の受動リンクと、
前記複数の受動リンクにそれぞれ連結される複数の対偶と、を有するロボットにおいて、前記受動リンクに連結された対偶が有する対偶素の間の第1すき間量を検出するすき間検出装置であって、
前記ロボットを任意の動作軌道に沿って実際に動作させたときの、前記モータの駆動トルク又は電流値を計測する計測部と、
前記複数の対偶の対偶素間に任意の第2すき間量を設定し、前記動作軌道と同じ動作軌道に沿って前記ロボットを動作させるシミュレーションを実施し、前記モータの駆動トルク又は電流値を推定するシミュレーション部と、
前記計測部が計測した駆動トルク又は電流値に関する値の変動を表す第1特徴量、及び前記シミュレーション部が推定した駆動トルク又は電流値に関する値の変動を表す第2特徴量を算出する特徴量算出部と、
前記第1特徴量、前記第2特徴量及び前記第2すき間量に基づいて前記第1すき間量に関する指標を算出するすき間算出部と、
を有する、すき間検出装置。
【請求項2】
前記すき間算出部は、前記第1特徴量、前記第2特徴量、前記第1すき間量及び前記第2すき間量を関連付ける数理モデルを作成し、該数理モデルに基づいて、前記第1すき間量に関する指標を算出する、請求項1に記載のすき間検出装置。
【請求項3】
前記数理モデルは確率モデルである、請求項2に記載のすき間検出装置。
【請求項4】
前記すき間算出部は、前記確率モデルに関する確率分布に基づいて前記第1すき間量に関する指標を算出する、請求項3に記載のすき間検出装置。
【請求項5】
前記特徴量算出部は、主成分分析によって前記第1特徴量及び前記第2特徴量を算出する、請求項1~4のいずれか1項に記載のすき間検出装置。
【請求項6】
前記すき間算出部は、前記ロボットの動作軌道が変化する時刻の前後で時間区間を分割し、前記計測部は、分割した時間区間のそれぞれにおいて、同じ動作軌道を用いて駆動トルク又は電流値を計測し、前記すき間算出部は、分割した全ての時間区間におけるすき間の変化量を同定し、これらの変化量を加算することで、前記第1すき間量に関する指標を算出する、請求項1~5のいずれか1項に記載のすき間検出装置。
【請求項7】
前記複数の対偶のうち、前記第1すき間量に関する指標が所定の基準値以上である対偶のすき間を異常と判定する判定部をさらに有する、請求項1~6のいずれか1項に記載のすき間検出装置。
【請求項8】
前記駆動リンク及び前記受動リンクは、少なくとも1つの閉ループ型リンクを構成する、請求項1~7のいずれか1項に記載のすき間検出装置。
【請求項9】
モータによって駆動する駆動リンクと、
前記駆動リンクの動作に伴って従動する複数の受動リンクと、
前記複数の受動リンクにそれぞれ連結される複数の対偶と、を有するロボットにおいて、前記受動リンクに連結された対偶が有する対偶素の間の第1すき間量を検出するすき間検出方法であって、
前記ロボットを任意の動作軌道に沿って実際に動作させたときの、前記モータの駆動トルク又は電流値を計測することと、
前記複数の対偶の対偶素間に任意の第2すき間量を設定し、前記動作軌道と同じ動作軌道に沿って前記ロボットを動作させるシミュレーションを実施し、前記モータの駆動トルク又は電流値を推定することと、
計測された駆動トルク又は電流値に関する値の変動を表す第1特徴量、及び推定された駆動トルク又は電流値に関する値の変動を表す第2特徴量を算出することと、
前記第1特徴量、前記第2特徴量及び前記第2すき間量に基づいて前記第1すき間量に関する指標を算出することと、
を含む、すき間検出方法。
【請求項10】
モータによって駆動可能な第1のリンクと、
前記第1のリンクに接続された第2のリンクと、
前記第2のリンクに連結された複数の対偶と、を有するロボットにおいて、前記第2のリンクに連結された対偶が有する対偶素の間の第1すき間量を検出するすき間検出装置であって、
前記ロボットを任意の動作軌道に沿って実際に動作させたときの、前記モータの第1の出力値を計測する計測部と、
前記複数の対偶の対偶素間に任意の第2すき間量を設定し、前記動作軌道に基づいて前記ロボットを動作させるシミュレーションを実施し、前記モータの第2の出力値を推定するシミュレーション部と、
前記第1の出力値の変動、前記第2の出力値の変動及び前記第2すき間量に基づいて前記第1すき間量を算出するすき間算出部と、
を有する、すき間検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットのジョイントにおけるすき間を検出する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リンク機構を有するロボットの一例として、エンドエフェクタを備えた可動部を3次元的に位置決めする機能を備えたデルタ型パラレルリンク機構を有するパラレルリンクロボットが知られている。デルタ型パラレルリンクロボットは、基礎部、可動部、並びに基礎部と可動部を連結する駆動リンク及び受動リンクを備える。多くの場合、駆動リンクと受動リンクは3対設けられ、各対の動作を個々に制御することで可動部を3自由度(X,Y,Z)で移動させることができる。
【0003】
一般に、受動リンクと駆動リンクとの間や、受動リンクと可動部との間は、3自由度のボールジョイントで結合されており、ボールジョイントは分離型と一体型とに分類可能である。分離型のボールジョイントにおいて結合が外れたことを検出する先行技術例としては、パラレルリンクロボットの最終出力であるエンドプレートの傾きを検出するセンサを設け、該センサの出力値に基づいて、ボールジョイントによるリンクの複数の連結箇所のうち少なくとも1つにおいてリンク間の連結が解除されたことを検出するようにしたパラレルリンクロボットが挙げられる(例えば特許文献1参照)。
【0004】
さらに、ボールジョイントの球頭部の表面に開口する内部通路を形成し、内部通路の圧力の検出値に基づいてボールジョイントの連結が外れているか否かを判別する検知装置が周知である(例えば特許文献2参照)。
【0005】
一方、一体型のボールジョイントは、例えばハウジングとボールとが安易に分離されないように、ボールとハウジングが一体化されたリンクボール構造を有するものである。一体型のボールジョイントにおいてハウジングとボールとの間のすき間を検出する先行技術例としては、対象ジョイントではボールとハウジングとが衝突し、他のジョイントではボールとハウジングとが滑るようなロボットの動作軌道を生成し、この動作軌道に沿ってロボットを駆動したときのトルク変動の大きさに基づいて、対象ジョイントにおける異常なすき間の有無を判定する装置及び方法が周知である(例えば特許文献3、4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-056507号公報
【文献】特開2017-013160号公報
【文献】特開2019-136838号公報
【文献】特開2020-142353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
分離型のボールジョイントでは、想定以上の高速動作または衝突が発生した場合に、受動リンクの関節部においてボールをハウジングに引き付けるための拘束力が不足し、関節部が分解してしまうリスクがある。
【0008】
一方、一体型ボールジョイントでは、機械的な結合により、衝突等が起きてもハウジングとボールとが安易に分離されることはないと解される。但し、リンクボール構造を利用する場合は、ボール又はハウジングが使用によって摩耗した場合、ボールとハウジングとの間にすき間が発生し、ロボットの可動部の位置決め精度の悪化や振動の増加等が生じ得る。位置決め精度の悪化や振動の増加によって、ロボットがハンドリング作業や組立作業等を正常に行うことが困難となり、生産効率の低下や、生産工程が停止する等の重大な問題に至る場合もある。このため、リンクボール部のすき間に異常がある場合は、その異常状態を早期に知ることが望まれる。
【0009】
ボールジョイントにおける連結が外れたことを検出する従来の方法では、容易に連結が外れない構造のボールジョイントにおいて、ボールとハウジング(ソケット)との間のすき間が大きくなったことを検出することは難しい。一般に、すき間の大きさは0.1~0.2mm程度でも異常と考えられ、そのような微小なすき間をセンサ等で検出することは極めて困難だからである。
【0010】
また、異常なすき間を有するジョイントを特定するために行われるロボット動作は、通常の生産動作等とは異なる特殊なものとなる場合があり、そのような特殊なロボット動作は、ロボットと周辺機器との干渉やロボットを含むレイアウトの制約から、実現が難しい場合がある。そこで通常の生産動作でも異常なすき間を判定できる手法が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一態様は、モータによって駆動する駆動リンクと、前記駆動リンクの動作に伴って従動する複数の受動リンクと、前記複数の受動リンクにそれぞれ連結される複数の対偶と、を有するロボットにおいて、前記受動リンクに連結された対偶が有する対偶素の間の第1すき間量を検出するすき間検出装置であって、前記ロボットを任意の動作軌道に沿って実際に動作させたときの、前記モータの駆動トルク又は電流値を計測する計測部と、前記複数の対偶の対偶素間に任意の第2すき間量を設定し、前記動作軌道と同じ動作軌道に沿って前記ロボットを動作させるシミュレーションを実施し、前記モータの駆動トルク又は電流値を推定するシミュレーション部と、前記計測部が計測した駆動トルク又は電流値に関する値の変動を表す第1特徴量、及び前記シミュレーション部が推定した駆動トルク又は電流値に関する値の変動を表す第2特徴量を算出する特徴量算出部と、前記第1特徴量、前記第2特徴量及び前記第2すき間量に基づいて前記第1すき間量に関する指標を算出するすき間算出部と、を有する、すき間検出装置である。
【0012】
本開示の他の態様は、モータによって駆動する駆動リンクと、前記駆動リンクの動作に伴って従動する複数の受動リンクと、前記複数の受動リンクにそれぞれ連結される複数の対偶と、を有するロボットにおいて、前記受動リンクに連結された対偶が有する対偶素の間の第1すき間量を検出するすき間検出方法であって、前記ロボットを任意の動作軌道に沿って実際に動作させたときの、前記モータの駆動トルク又は電流値を計測することと、前記複数の対偶の対偶素間に任意の第2すき間量を設定し、前記動作軌道と同じ動作軌道に沿って前記ロボットを動作させるシミュレーションを実施し、前記モータの駆動トルク又は電流値を推定することと、計測された駆動トルク又は電流値に関する値の変動を表す第1特徴量、及び推定された駆動トルク又は電流値に関する値の変動を表す第2特徴量を算出することと、前記第1特徴量、前記第2特徴量及び前記第2すき間量に基づいて前記第1すき間量に関する指標を算出することと、を含む、すき間検出方法である。
本開示のさらなる他の態様は、モータによって駆動可能な第1のリンクと、前記第1のリンクに接続された第2のリンクと、前記第2のリンクに連結された複数の対偶と、を有するロボットにおいて、前記第2のリンクに連結された対偶が有する対偶素の間の第1すき間量を検出するすき間検出装置であって、前記ロボットを任意の動作軌道に沿って実際に動作させたときの、前記モータの第1の出力値を計測する計測部と、前記複数の対偶の対偶素間に任意の第2すき間量を設定し、前記動作軌道に基づいて前記ロボットを動作させるシミュレーションを実施し、前記モータの第2の出力値を推定するシミュレーション部と、前記第1の出力値の変動、前記第2の出力値の変動及び前記第2すき間量に基づいて前記第1すき間量を算出するすき間算出部と、を有する、すき間検出装置である。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、ロボットの各対偶(ジョイント)におけるすき間の同定、及び該すき間が異常であるかの判定等を容易かつ的確に行うことができる。またそのような同定や判定は、ロボットの任意の動作において行うことができ、ロボットのレイアウト等の制約を受けない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】好適な実施形態に係るすき間検出装置を、該装置の適用対象例であるデルタ型パラレルリンクロボットとともに示す図である。
図2図1のパラレルリンクロボットの各ボールジョイントの構造を示す部分拡大図である。
図3】パラレルリンクロボットの構造モデルを示す図である。
図4】第1実施例に係るすき間検出方法の一例を示すフローチャートである。
図5】モータの駆動トルクの時間変化の一例を表すグラフである。
図6】正常条件に対する実測駆動トルクの差分の時間変化の一例を表すグラフである。
図7】第2実施例に係るすき間検出方法の一例を示すフローチャートである。
図8】動力学解析の手順の一例を示すフローチャートである。
図9】パラレルリンクロボット機構の質量モデルの一例を示す図である。
図10】すき間を考慮した対偶の拘束条件を説明する図である。
図11】計算トルク法の一例を示すブロック線図である。
図12】動力学解析及び実機測定を用いた対偶すき間の組み合わせを表形式で表す図である。
図13】生成された多数の軌道の始点及び終点の座標を表形式で表す図である。
図14】ロボットの出力節の運動方向の加速度波形の一例を表すグラフである。
図15a】ある対偶について、動力学解析結果に対して主成分分析を行って得られたデータ散布図である。
図15b】ある対偶について、動力学解析結果に対して主成分分析を行って得られたデータ散布図である。
図15c】ある対偶について、動力学解析結果に対して主成分分析を行って得られたデータ散布図である。
図15d】ある対偶について、動力学解析結果に対して主成分分析を行って得られたデータ散布図である。
図15e】ある対偶について、動力学解析結果に対して主成分分析を行って得られたデータ散布図である。
図15f】ある対偶について、動力学解析結果に対して主成分分析を行って得られたデータ散布図である。
図16a】ある対偶について、実機測定結果に対して主成分分析を行って得られたデータ散布図である。
図16b】ある対偶について、実機測定結果に対して主成分分析を行って得られたデータ散布図である。
図16c】ある対偶について、実機測定結果に対して主成分分析を行って得られたデータ散布図である。
図16d】ある対偶について、実機測定結果に対して主成分分析を行って得られたデータ散布図である。
図16e】ある対偶について、実機測定結果に対して主成分分析を行って得られたデータ散布図である。
図16f】ある対偶について、実機測定結果に対して主成分分析を行って得られたデータ散布図である。
図17】検証手順の一例を示すフローチャートである。
図18図17の手順に従って行った検証結果を示すグラフである。
図19】本実施形態が適用可能な他の構造例を模式的に示す図である。
図20】本実施形態が適用可能なさらなる他の構造例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本開示の好適な実施形態に係るすき間検出装置と、該すき間検出装置が適用可能な構造の一例であるデルタ型パラレルリンクロボットの概略構成を示す図である。パラレルリンクロボット(以下、単にロボットとも称する)10は、基礎部12と、基礎部12から離隔配置(通常は基礎部12の下方に)配置された可動部14と、基礎部12及び可動部14を連結するとともに、基礎部12に対してそれぞれ1自由度を有する2つ以上(図示例では3つ)のリンク部16a~16cと、リンク部16a~16cのそれぞれを駆動する複数(通常はリンク部と同数、図示例では3つ)のサーボモータ等のモータ18a~18cを備え、可動部14には、ロボットハンド等のエンドエフェクタが取付け可能となっている。
【0016】
リンク部16aは、基礎部12に連結された駆動リンク20aと、駆動リンク(基節リンク)20aと可動部14を連結しかつ互いに平行に延びる一対の(2つの)受動リンク(末節リンク)22aとからなり、駆動リンク(第1のリンク)20aと受動リンク(第2のリンク)22aとは、一対の(2つの)第1の関節24aによって連結される。また可動部14と受動リンク22aとは、一対の(2つの)第2の関節26aによって連結される。なお本実施例では、第1及び第2の関節(対偶)はいずれも、ボールジョイント(球面軸受)として構成されている。
【0017】
図2は、ロボット10の各ボールジョイント(ここではボールジョイント24a又は26a)の構造(リンクボール構造)を示す部分拡大図である。ボールジョイント24a又は26aは、後述する対偶素(ジョイント要素)として、ボール(凸面部)28と、ボール28を収容するハウジング(凹面部)30とを有し、ボール28とハウジング30との間にはライナー32が配置される。また図1に示すように、ロボット10は、互いに平行な2つの受動リンク22aの各軸周りの回転を拘束するために、該受動リンクの駆動リンク側(上側)において、第1のボールジョイント24aのハウジング間に接続して設けられる拘束プレート34aを有する。
【0018】
他のリンク部16b及び16cについても、リンク部16aと同様の構成を有することができるので、対応する構成要素については、末尾のみを変更した参照符号を付与(例えば受動リンク22aに対応する要素には参照符号22b又は22cを付与)し、詳細な説明は省略する。
【0019】
図1に概略図示するように、パラレルリンクロボット10には、ロボット10の動作制御を行う制御装置36が接続される。またボールジョイントの実際のすき間(第1すき間量)を検出するすき間検出装置38は、ロボット10を任意の動作軌道に沿って実際に動作させたときの、モータ18a~18cの駆動トルク又は電流値を計測するトルクセンサや電流計等の計測部44と、複数の対偶の対偶素間に任意の第2すき間量を設定し、上記任意の動作軌道と同じ動作軌道に沿ってロボット10を動作させるシミュレーションを実施し、モータ18a~18cの駆動トルク又は電流値を推定するシミュレーション部40と、計測部44が計測した駆動トルク又は電流値に関する値の変動を表す第1特徴量、及びシミュレーション部40が推定した駆動トルク又は電流値に関する値の変動を表す第2特徴量を算出する特徴量算出部46と、第1特徴量、第2特徴量、第1すき間量及び第2すき間量を関連付ける数理モデル(後述)を作成し、該数理モデルに基づいて、第1すき間量に関する指標を算出するすき間算出部42と、を有する。またすき間検出装置38は任意に、複数の対偶のうち、第1すき間量に関する指標が所定の基準値を超えた対偶のすき間を異常と判定する判定部48を有してもよく、この場合すき間検出装置38は、各対偶が異常(過大)なすき間を有するか否かを検出する異常検出装置として機能する。
【0020】
ロボット制御装置36は、ロボット10を動作させるための動作指令を生成し、該動作指令に基づいてロボット10の各軸(モータ)の制御を行うように構成されている。またすき間検出装置38は、計測データや特徴量等を記憶するメモリ等の記憶部50と、上述のシミュレーション結果や判定結果等を作業者が認識できるように出力する出力部52と、作業者が種々の設定やデータ入力等を行えるようにするための、キーボードやタッチパネル等の入力部53とをさらに有してもよい。なお出力部52の具体例としては、シミュレーション結果や判定結果を表示可能なディスプレイ、シミュレーション結果や判定結果を音声として出力するスピーカ、及び、作業者が携帯可能でありかつ、ジョイントの摩擦状態が異常である(異常なすき間がある)と判定されたときに振動するバイブレータ等が挙げられる。作業者は出力部52からの出力を受けて、異常があるジョイントの修理又は交換を行うことができる。
【0021】
すき間検出装置38は、ロボット制御装置36に接続された、プロセッサ及びメモリ等を有するパーソナルコンピュータ(PC)等の演算処理装置として実現可能である。なお図1では、すき間検出装置38はロボット制御装置36とは別の装置として図示されているが、プロセッサやメモリの形態で制御装置36内に組み込むことも可能である。さらに、すき間検出機能の一部をPC等の装置に担わせ、他の機能をロボット制御装置36に担わせることも可能である。
【0022】
図3は、図1のパラレルリンクロボット10の構造モデルを示す図である。パラレルリンクロボット10は、3つの回転駆動部(モータ)と、12個の受動対偶(ここではボールジョイント)とを含む閉ループ型リンク構造を有している。
【0023】
図2を参照し、ロボット10の動作に伴い、各ジョイントにおいてボール28がライナー32に対して摺動するが、このときの摩擦抵抗をなるべく抑えるために、多くの場合、ライナー32は樹脂等の低摩擦材料から作製される。しかしロボット動作の繰り返しによってライナー32は摩耗するので、ボール28とライナー32(ハウジング30)との間にすき間(エアギャップ)が生じる。このすき間が一定値以上の大きさになると、ロボット10の位置決め精度の悪化や、ロボット動作に伴う振動の増加などの問題が生じ得る。そこで本実施例では、動力学解析を行うことで、任意のロボット動作について各ジョイントにおけるすき間を同定し、さらに該すき間が異常な値であるかを判定する。
【0024】
(第1実施例)
図4は、第1実施例に係るすき間検出装置38における処理の一例を示すフローチャートである。先ずステップS1において、(異常な)すき間を検出したい実機のロボット10を、任意の動作軌道に沿って駆動させる。具体的には、対偶すき間の同定に用いられる、1つ又は複数のロボット動作軌道が与えられる。ここで軌道は、記号mによって判別するものとする。また任意の動作軌道とは、例えば工場での生産動作が挙げられる。
【0025】
【0026】
【0027】
【数1】
【0028】
【0029】
【数2】
【0030】
【0031】
【0032】
なお本実施例では、主成分分析のみを用いた特徴選択の手法を示すが、フーリエ変換やウェーブレット変換等の信号処理の手法や、機械学習分野に属する様々な特徴選択の手法を組み合わせることで、数理モデルの精度向上が期待される。例えば、フーリエ変換又はウェーブレット変換によって対偶すき間の影響の出やすい特定の周波数領域のみを取り出すことで、他の誤差要因を排除してモデルの精度を高めることができる。また、特定の周波数領域を取り出すことで、データ次元の削減にもなる。取り出した特定の周波数領域データに対して上述の主成分分析を行うことで、データ次元がさらに削減される。
【0033】
次にステップS9において、動力学解析と実機測定について得られた駆動トルクの特徴量と対偶すき間の大きさを関連付ける数理モデルを、以下の式(3)のように構築する。
【0034】
【数3】
【0035】
【0036】
【0037】
【数4】
【0038】
【0039】
次にステップS10において、構築した数理モデルを解くこと、より具体的には構築した数理モデルの最尤推定解を求めることにより、対偶すき間を同定する(S10)。本実施例で構築した数理モデルは2種類の誤差項を含むため、最小二乗法の行列計算等のように厳密解を計算することは困難である。そこで一例として、モンテカルロ法の一種であるMCMC法を用いたベイズ推定によって最尤推定解の近似値を導出することを考える。ベイズ推定では、ベイズ統計学の考え方に基づき、確率モデルのパラメータを確率変数として推定する。MCMC法によって導出された対偶すき間に関する確率分布に対して、最頻値を求めることで、対偶すき間に関する最尤推定解を求めることができる。また、すき間量が確率分布で求められるため、推定されたすき間量の確からしさもわかる。本実施例では、このようにして得られた最尤推定解を対偶すき間の推定値(第1すき間量に関する指標)とする。
【0040】
最後にステップS11において、推定されたすき間の大きさからすき間の異常を検出する。具体的には、すき間の推定値を、異常と考えられる予め定めた基準値とを比較し、推定値が基準値以上である場合は、そのすき間を異常と判定する。このようにして本実施例では、各対偶のすき間量を定量的に推定することができることに加え、異常な(過大なすき間を有する)対偶を自動的に判定することができる。
【0041】
(第2実施例)
図7は、第2実施例に係るすき間検出装置38における処理の一例を示すフローチャートである。ここでは第1実施例と異なる点のみについて説明し、第1実施例と同様でよい点については説明を省略する。
【0042】
【0043】
【0044】
(シミュレーション)
図8を参照して、ステップS5の詳細、すなわち特定の球対偶にすき間を有するパラレルリンクロボット10を、ある軌道に沿って動作させたときのシミュレーション(動力学解析)の手順を説明する。ここではパラレルリンクロボット10が有する12個の球対偶のうち、一部の球対偶のすき間を考慮して解析を実施する。回転対偶、及びすき間を考慮する対象球対偶以外の球対偶は理想的に挙動するものとし、故に回転対偶、及び対象球対偶以外の球対偶のすき間は考慮しない。対偶素間の接触の粘弾性を除いて、全てのリンクは剛体であると仮定し、図9に示すようなパラレルリンクロボットの機構の質量モデルを考える。
【0045】
図8に示すように、先ずロボットに動作させる出力節(例えば図1に示す可動プレート14)の目標軌道を設定する(S51)。次に、任意のすき間を設定すべき球対偶と、その球対偶のすき間の大きさを設定する(S52)。次に、すき間を設定した球対偶の組み合わせに対して運動方程式を導出する(S53)。最後に、常微分方程式ソルバ等を用いて運動方程式を解き、駆動トルクの数値解を得る(S54)。これにより駆動トルクを求める動力学解析が可能となる。
【0046】
【0047】
【数5】
【0048】
【0049】
【数6】
【0050】
式(6)を式(5)に代入して整理すると、以下の式(7)が得られる。但し、以下の式(8)が成り立つ。
【0051】
【数7】
【0052】
【数8】
【0053】
【0054】
【数9】
【0055】
【0056】
【数10】
【0057】
【0058】
【0059】
【数11】
【0060】
【0061】
【数12】
【0062】
【0063】
【数13】
【0064】
【数14】
【0065】
【0066】
【数15】
【0067】
但し、以下の式(16)~(18)が成り立つ。
【0068】
【数16】
【0069】
【数17】
【0070】
【数18】
【0071】
【0072】
【数19】
【0073】
【数20】
【0074】
【数21】
【0075】
【0076】
【数22】
【0077】
本開示では、対偶素の分離・衝突・滑りを表現する接触モデルとして、Hertz の弾性接触理論にエネルギー損失を考慮した Lankarani のモデルを用いる。対偶素の接触モデルは、対偶の状態や材料に対して適当なものを用いることが望ましい。アクチュエータの制御則には、産業用ロボットに頻繁に用いられる計算トルク法を用いる。
【0078】
【0079】
(実験による検証)
本開示に係る対偶すき間の同定の妥当性を検証するために、実機ロボットによる駆動トルク測定実験を実施した。ここでは、複数の対偶すき間及び軌道における条件で、実機測定と動力学解析をそれぞれ予め実施しておき、得られたデータを組み合わせて使うものとする。
【0080】
図12(表1)は、動力学解析及び実機測定を実施した対偶すき間の組み合わせを示す。用いた対偶の半径方向のすき間の大きさは、0.00mm、0.14mm、0.15mm(実測値)の3通りであり、表中の0は半径すき間が0.00mm、Aは半径すき間が0.14mm、Bは半径すき間が0.15mmであることをそれぞれ表す。表1では、過大なすき間(0.14mm、0.15mm)を有する球対偶の数がゼロである条件(case 1)、1個である条件(case 2-13)、及び2個である条件(case 14-43)が設定されている。また実験の規模を抑えるために、12個の球対偶のうち、出力節に位置する6個の球対偶(図1ではボールジョイント26a~26cに相当)における過大なすき間のみを考慮する。
【0081】
表1において、0と記載されている球対偶については、実機測定ではすき間の実測値が 0.00mm の理想的な球対偶を用いて測定を実施し、動力学解析では理想的な球対偶の条件で数値計算を実施した。0.14mm、0.15mm については、動力学解析ではこれらの値を用いて数値計算を実施した。測定・解析に用いた軌道は、出力節を一定距離 l0(ここでは l0 = 200mm)移動させる直線軌道である。作業領域内から軌道の始終点を無作為に選択し、多数の直線軌道(本検討では100通りとした)を生成した。図13(表2)は、実際に生成した複数の軌道の始終点の座標をまとめて示す。全ての軌道において、出力節の運動方向の加速度波形は同じ変形台形曲線を用いた。図14に、出力節の運動方向の加速度波形を示す。
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
次に対偶すき間の同定を実施し、得られたすき間の推定値と実際のすき間の大きさを比較することで、本開示の妥当性の検証を行った。図17は、検証手順の一例を示すフローチャートである。本検証では、用いるデータの組み合わせを無作為に変更しながら、繰り返し対偶すき間の同定を実施する。
【0086】
【0087】
【0088】
なお上述の実施例では、モータの出力値としてその駆動トルクを用いた判定を行っているが、代わりに駆動トルクの時間微分値を用いてもよい。また駆動トルクに関する値(ここでは駆動トルク又はその時間微分値)を使用する代わりに、モータの出力値としてその電流値に関する値(例えば、電流値又はその時間微分値)を使用してもよい。通常、駆動トルクは電流値に比例するので、電流値に関する値を使用した場合にも、上述の処理と同様のことが適用できる。さらに上述の実施形態では、モータの出力値の変動を表す特徴量を用いて第1すき間量を同定しているが、該特徴量の代わりに、変動データそのものを利用することもできる。
【0089】
また本実施例では、本開示に係るすき間検出装置及びすき間検出方法が適用可能なロボットとしてパラレルリンクロボットを説明したが、適用対象はこれに限られない。本開示に係るすき間検出装置及びすき間検出方法が適用可能な他の好適な例としては、閉ループ型リンク機構を有さない6軸の垂直多関節ロボットや、図19又は図20に模式的に示すような、閉ループ型リンク機構を少なくとも部分的に有するロボットが挙げられる。
【0090】
図19は、1つの駆動関節80と、3つの受動関節82とを含む平面リンク機構を有するロボット84を表しており、先端に負荷をかけられるようになっている。一方、図20は2つの駆動関節86と、3つの受動関節88とを含む5節リンク機構を有するロボット90を表しており、位置決め装置等に使用可能である。これらのロボットも、図1に示したパラレルリンクロボットと同様に、モータによって駆動する駆動リンクと、駆動リンクの動作に伴って従動する複数の受動リンクと、複数の受動リンクにそれぞれ連結される複数の対偶とを有するので、上述と同様に異常なすき間を有するジョイント(受動対偶)の特定・検出を行うことができる。
【0091】
また本実施例では、本開示に係るすき間検出装置及びすき間検出方法が適用可能な対偶(ジョイント)として球面ジョイント(ボールジョイント)を説明したが、適用対象はこれに限られない。すき間検出装置及びすき間検出方法は例えば、自由度が1のヒンジ構造(回転ジョイント)にも適用可能であり、この場合回転ジョイント(ヒンジ構造)は、対偶素として略円柱状部材(凸面部)と、該円柱状部材に嵌合する略円筒状部材(凹面部)とを有する。このようなヒンジ構造でも、経時劣化(円柱状部材若しくは円筒状部材の摩耗、又は円柱状部材と円筒状部材との間のライナーの摩耗)等によって円柱状部材と円筒状部材との間に径方向の異常なすき間が生じ得るので、本開示に係るすき間検出装置及びすき間検出方法が同様に適用可能である。
【0092】
本開示では、上述の処理をすき間検出装置に実行させるためのプログラムを、該装置の記憶部又は他の記憶装置に記憶させることができる。またプログラムは、該プログラムを記録した、コンピュータが読み取り可能な非一過性の記録媒体(CD-ROM、USBメモリ等)として提供することも可能である。
【符号の説明】
【0093】
10 パラレルリンクロボット
12 基礎部
14 可動部
16a リンク部
18a モータ
20a 駆動リンク
22a 受動リンク
24a、26a ボールジョイント(球面軸受)
28 ボール
30 ハウジング
32 ライナー
34a 拘束プレート
36 制御装置
38 すき間検出装置
40 シミュレーション部
42 すき間算出部
44 計測部
46 特徴量算出部
48 判定部
50 記憶部
52 出力部
53 入力部
80、86 駆動関節
82、88 受動関節
84 平行リンク型ロボット
90 5節リンク型ロボット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15a
図15b
図15c
図15d
図15e
図15f
図16a
図16b
図16c
図16d
図16e
図16f
図17
図18
図19
図20