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特許7475630斜面設置用間詰め部材、該間詰め部材を用いた斜面安定化工法及び斜面安定化構造
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  • 特許-斜面設置用間詰め部材、該間詰め部材を用いた斜面安定化工法及び斜面安定化構造 図1
  • 特許-斜面設置用間詰め部材、該間詰め部材を用いた斜面安定化工法及び斜面安定化構造 図2
  • 特許-斜面設置用間詰め部材、該間詰め部材を用いた斜面安定化工法及び斜面安定化構造 図3
  • 特許-斜面設置用間詰め部材、該間詰め部材を用いた斜面安定化工法及び斜面安定化構造 図4
  • 特許-斜面設置用間詰め部材、該間詰め部材を用いた斜面安定化工法及び斜面安定化構造 図5A
  • 特許-斜面設置用間詰め部材、該間詰め部材を用いた斜面安定化工法及び斜面安定化構造 図5B
  • 特許-斜面設置用間詰め部材、該間詰め部材を用いた斜面安定化工法及び斜面安定化構造 図5C
  • 特許-斜面設置用間詰め部材、該間詰め部材を用いた斜面安定化工法及び斜面安定化構造 図5D
  • 特許-斜面設置用間詰め部材、該間詰め部材を用いた斜面安定化工法及び斜面安定化構造 図6
  • 特許-斜面設置用間詰め部材、該間詰め部材を用いた斜面安定化工法及び斜面安定化構造 図7
  • 特許-斜面設置用間詰め部材、該間詰め部材を用いた斜面安定化工法及び斜面安定化構造 図8
  • 特許-斜面設置用間詰め部材、該間詰め部材を用いた斜面安定化工法及び斜面安定化構造 図9
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】斜面設置用間詰め部材、該間詰め部材を用いた斜面安定化工法及び斜面安定化構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/20 20060101AFI20240422BHJP
【FI】
E02D17/20 103H
E02D17/20 106
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019237107
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2021105296
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】595053777
【氏名又は名称】吉佳エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】大岡 太郎
(72)【発明者】
【氏名】張 満良
(72)【発明者】
【氏名】松元 隆雄
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-206537(JP,A)
【文献】特開2004-092370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に圧縮変形可能な多孔質部材が装填されるとともに、経時硬化性を有する充填材を内部に保持可能な袋体を備え、
斜面と、該斜面に埋設されたアンカー部材の頭部に取付けられた受圧板との間に配置される斜面設置用間詰め部材において、
前記袋体と前記斜面との間に設置され、該設置状態で前記袋体の厚み方向に凸となる少なくとも1つの突起部を有するスペーサ部材を備え、
前記スペーサ部材は、
前記アンカー部材が挿通される筒状体と、該筒状体の外周面から径方向外側に張り出した鍔状部と、を有し、
前記突起部は、前記鍔状部の一方の面から前記筒状体の軸方向に突出しており、
設置状態にて、前記鍔状部は、前記一方の面が上面となるように前記斜面と前記袋体との間に配置されることを特徴とする斜面設置用間詰め部材。
【請求項2】
前記突起部は、前記鍔状部と別部品で構成され、該鍔状部に設けられた取付け穴に、突出高さを調節可能に取付けられることを特徴とする請求項1に記載の斜面設置用間詰め部材。
【請求項3】
前記袋体は、設置状態で前記突起部と重なる位置に、前記突起部が挿通される突起部挿通孔を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の斜面設置用間詰め部材。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の斜面設置用間詰め部材を用いた斜面安定化工法であって、
前記斜面に形成された前記アンカー部材を挿入する掘削孔の開口部内に前記スペーサ部材の前記筒状体の一端側を嵌め込み、前記鍔状部を前記斜面上に載置するスペーサ部材設置工程と、
前記袋体を上方から前記鍔状部に重なるように載置する袋体設置工程と、
前記筒状体に挿通された前記アンカー部材の頭部に前記受圧板を取付けて仮固定する受圧板仮固定工程と、
前記袋体の内部に前記充填材を注入する充填材注入工程と、を含むことを特徴とする斜面安定化工法。
【請求項5】
斜面に設置されたアンカー部材と、
該アンカー部材の頭部に取付けられる受圧板と、
前記斜面と前記受圧板との間に配置される斜面設置用間詰め部材と、を備えた斜面安定化構造において、
前記斜面設置用間詰め部材は、
内部に圧縮変形可能な多孔質部材が装填されるとともに、経時硬化性を有する充填材を内部に保持可能な袋体と、
前記袋体と前記斜面との間に設置され、該設置状態で前記袋体の厚み方向に凸となる少なくとも1つの突起部を有するスペーサ部材と、を備え、
前記スペーサ部材は、
前記アンカー部材が挿通される筒状体と、該筒状体の外周面から径方向外側に張り出した鍔状部と、を有し、
前記突起部は、前記鍔状部の一方の面から前記筒状体の軸方向に突出しており、
設置状態にて、前記鍔状部は、前記一方の面が上面となるように前記斜面と前記袋体との間に配置されることを特徴とする斜面安定化構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地山等の斜面と、該斜面上にアンカー部材を介して設置される受圧板との間に配置される斜面設置用間詰め部材、該間詰め部材を用いた斜面安定化工法及び斜面安定化構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、斜面崩壊や地滑りを防止するための斜面安定化工法として、地山の表面(地盤斜面の表面)に、間隔をおいて、地盤の安定地層(深層)まで伸びるアンカー部材を複数埋め込み設置し、各アンカー部材の頭部に受圧板を取り付けて、アンカー部材の緊張・定着を行うことで受圧板を斜面に押圧して斜面の安定化を図る工法が知られている。
【0003】
受圧板は、アンカー部材を用いて地山表面に押し当てられた状態で固定されるが、受圧板の背面に接する地山表面に凹凸がある(すなわち、不陸がある)と、受圧板に作用する斜面表面からの反力が不均一になり、受圧板に亀裂が生じる原因となる。
【0004】
不陸対策として、地山表面にモルタルを打設して、その表面自体をほぼ平らにした後に受圧板を設置する方法が使用されている。
【0005】
しかしながら、地盤斜面自体を平らにする場合、施工期間や施工費用が嵩むという問題がある。それ故、これに代わる方法として、受圧板と斜面との間に間詰め部材を配置して、受圧板と斜面との間の不陸を解消する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0006】
この間詰め部材は、内部に圧縮変形可能な多孔質部材が装填された袋体と、袋体の内部に充填される充填材とを備えている。袋体は通気性を有するが、内部の充填材は漏れ出さないという充填材保持機能を有する部材にて構成されている。
【0007】
また、充填材は、経時硬化性を有する材料で構成されており、受圧板をアンカー部材の頭部に仮固定した状態で、斜面と受圧板との間に配置された袋体の内部に、流動性を有する充填材が注入される。充填材を注入した後、受圧板はアンカー部材に本固定される。充填材は、多孔質部材内に含浸されることにより、斜面下方側への流動が抑制される。この工法では、袋体内の充填材が時間の経過とともに硬化し、受圧板と斜面との間の隙間を埋めることで、不陸問題を解消することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2003-206537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、地山表面の凸部と受圧板との間は、多孔質物質の圧縮率が高くなって多孔質物質の空隙率が低くなる。また、凹凸の高低差が小さい(平らにより近い)場合には、斜面上に設置された袋体は、その上から仮固定される受圧板の重量によって袋体全体が押し潰された状態となり、袋体内の多孔質部材の空隙率が極めて小さくなる。このような状態では、袋体内部における充填材の流動性が阻害され、袋体内の全体に満遍なく充填材を注入させることが困難になる。
【0010】
充填材が十分に充填されていない部分が存在する状態(すなわち、袋体と多孔質部材だけで、そこに充填材が存在しない部分が残存した状態)で、袋体及び多孔質部材が経年劣化すると、斜面と受圧板との間に充填材が存在しない空洞領域が形成されてしまい、その結果、地盤から受圧板に作用する応力の均一性が損なわれるという問題があった。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、受圧板と斜面との間を的確に埋めて、受圧板に均等な応力を作用させることが可能な斜面設置用間詰め部材、該間詰め部材を用いた斜面安定化工法及び斜面安定化構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る斜面設置用間詰め部材は、
内部に圧縮変形可能な多孔質部材が装填されるとともに、経時硬化性を有する充填材を内部に保持可能な袋体を備え、
斜面と、該斜面に埋設されたアンカー部材の頭部に取付けられた受圧板との間に配置される斜面設置用間詰め部材において
記袋体と前記斜面との間に設置され、該設置状態で前記袋体の厚み方向に凸となる少なくとも1つの突起部を有するスペーサ部材を備え、
前記スペーサ部材は、
前記アンカー部材が挿通される筒状体と、該筒状体の外周面から径方向外側に張り出した鍔状部と、を有し、
前記突起部は、前記鍔状部の一方の面から前記筒状体の軸方向に突出しており、
設置状態にて、前記鍔状部は、前記一方の面が上面となるように前記斜面と前記袋体との間に配置されることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、袋体の内部または袋体と斜面との間に配置されたスペーサ部材の突起部によって、斜面と受圧板との間には、突起部の突出高さ分の隙間が確保される。すなわち、袋体の内部にスペーサ部材を設置した場合には、袋体に突起部の突出高さ分の厚みを確保することができる。また、スペーサ部材が袋体と斜面との間に設置される場合には、袋体が突起部と重なる部位では袋体の厚みが小さくなるものの、袋体が突起部と重なっていない領域では、受圧板と斜面との間に突起部の突出高さ分の隙間が確保されているので、この高さ分の袋体の厚みを確保することができる。
【0014】
このように袋体の厚みが確保した部分を残した状態(すなわち、多孔質部材の空隙率が比較的高くて充填材が注入されやすい状態)で、袋体内に充填材を注入すると、充填材を多孔質部材の空隙にスムーズに入り込ませることができ、袋体内を充填材で十分に満たすことができる。これにより、袋体や多孔質部材が経年劣化した場合に、斜面と受圧板との間に充填材が存在しない空洞領域が形成されることを防止することができ、受圧板と斜面との間を間詰め部材によって適切に埋めて、受圧板に均一な応力を作用させることができる。
【0016】
この構成によれば、設置状態で、斜面上に配置された鍔状部の上面から突出する突起部により、斜面と受圧板との間に突起部の突出高さ分の隙間を確保することができる。この隙間の存在により、斜面と受圧板の間に配置される袋体には、この突出高さ分の袋体の厚みを確保することができ、この状態で充填材を袋体内に注入することで、充填材を多孔質部材の空隙にスムーズに入り込ませることができ、斜面と受圧板との間に充填材が存在しない空洞領域が形成されることを防止することができる。また、筒状体にアンカー部材が挿通されることにより、スペーサ部材と、アンカー部材の頭部に取付けられる受圧板との相対的な位置ずれを抑えることができる。これにより、スペーサ部材による隙間の確保をより確実にし、受圧板と斜面との間をより適切に埋めることができる。
【0017】
また、本発明の請求項に係る斜面設置用間詰め部材は、上記間詰め部材において、
前記突起部は、前記鍔状部と別部品で構成され、該鍔状部に設けられた取付け穴に、突出高さを調節可能に取付けられることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、スペーサ部材の突起部の突出高さを変更することができるので、例えば、斜面の凹凸の高低差が小さく、袋体内に充填材が入り込みにくい場合に、突起部の突出高さをより大きくして、斜面と受圧板のとの間の隙間を大きくし、充填材が注入される袋体内の空間を大きく確保することができる。このように、現場の状況に応じてスペーサ部材の突起部の突出高さを調節できるので、受圧板と斜面との間をより適切に埋めることができるとともに、間詰め部材の汎用性を向上することができる。
【0019】
また、本発明の請求項に係る斜面設置用間詰め部材は、上記間詰め部材において、
前記袋体は、設置状態で前記突起部と重なる位置に、前記突起部が挿通される突起部挿通孔を有することを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、設置状態で、袋体をスペーサ部材の鍔状部の上に載置した際に、鍔状部から突出する突起部が袋体に形成された突起部用孔に挿通された状態となるので、袋体が突起部に重なった状態で配置され、袋体が突起部と受圧板に押し潰されて破れが生じることを防止することができる。
【0023】
また、本発明は上記請求項1~3のいずれか1項に記載の斜面設置用間詰め部材を用いた斜面安定化工法であって、
前記斜面に形成された前記アンカー部材を挿入する掘削孔の開口部内に前記スペーサ部材の前記筒状体の一端側を嵌め込み、前記鍔状部を前記斜面上に載置するスペーサ部材設置工程と、
前記袋体を上方から前記鍔状部に重なるように載置する袋体設置工程と、
前記筒状体に挿通された前記アンカー部材の頭部に前記受圧板を取付けて仮固定する受圧板仮固定工程と、
前記袋体の内部に前記充填材を注入する充填材注入工程と、を含むことを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、設置状態で、筒状体にアンカー部材が挿通されることにより、スペーサ部材と、アンカー部材の頭部に取付けられる受圧板との相対的な位置ずれを抑えることができ、斜面と受圧板との間に確実に隙間を設けることができる。また、斜面上に配置された鍔状部の上面から突出する突起部により、斜面と受圧板との間に突起部の突出高さ分の隙間が確保されるので、この隙間の存在により、斜面と受圧板の間に配置される袋体の内部には、充填材が注入される空間が確保される。これにより、充填材が存在しない空洞領域が形成されることを防止することができる。
【0025】
また、本発明の請求項に係る斜面安定化構造は、
斜面に設置されたアンカー部材と、
該アンカー部材の頭部に取付けられる受圧板と、
前記斜面と前記受圧板との間に配置される斜面設置用間詰め部材と、を備えた斜面安定化構造において、
前記斜面設置用間詰め部材は、
内部に圧縮変形可能な多孔質部材が装填されるとともに、経時硬化性を有する充填材を内部に保持可能な袋体と、
前記袋体と前記斜面との間に設置され、該設置状態で前記袋体の厚み方向に凸となる少なくとも1つの突起部を有するスペーサ部材と、を備え、
前記スペーサ部材は、
前記アンカー部材が挿通される筒状体と、該筒状体の外周面から径方向外側に張り出した鍔状部と、を有し、
前記突起部は、前記鍔状部の一方の面から前記筒状体の軸方向に突出しており、
設置状態にて、前記鍔状部は、前記一方の面が上面となるように前記斜面と前記袋体との間に配置されることを特徴とする
【0026】
この構成によれば、袋体の内部または袋体と斜面との間に配置されたスペーサ部材の突起部によって、斜面と受圧板との間には、突起部の突出高さ分の隙間が確保されるので、袋体内に充填材を注入する際に、充填材を多孔質部材の空隙にスムーズに入り込ませることができ、袋体内を充填材で十分に満たすことができる。これにより、袋体や多孔質部材が経年劣化した場合に、斜面と受圧板との間に充填材が存在しない空洞領域が形成されることを防止することができ、受圧板と斜面との間を間詰め部材によって適切に埋めて、受圧板に均一な応力を作用させることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の斜面設置用間詰め部材、該間詰め部材を用いた斜面安定化工法及び斜面安定化構造によれば、スペーサ部材部によって、斜面と受圧板との間に隙間が確保され、この隙間の存在により、斜面と受圧板との間に配置された袋体の厚みを確保し、袋体内の多孔質物質の空隙率を高めることで、袋体内に充填材をスムーズに入り込ませて、袋体内を充填材で十分に満たすことができる。これにより、袋体や多孔質部材が経年劣化した場合に、斜面と受圧板との間に充填材が存在しない空洞領域が形成されることを防止することができ、受圧板と斜面との間を間詰め部材で的確に埋めて、受圧板に均等な応力を作用させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の第1実施形態である斜面設置用間詰め部材を用いた斜面安定化構造を模式的に示す断面図。
図2図1に示す斜面安定化構造の概略分解斜視図。
図3】(A)はスペーサ部材の斜視図、(B)はスペーサ部材の平面図。
図4】多孔質部材が装填された袋体の断面図。
図5A】斜面安定化構造の施工方法を説明する図。
図5B】斜面安定化構造の施工方法を説明する図。
図5C】斜面安定化構造の施工方法を説明する図。
図5D】斜面安定化構造の施工方法を説明する図。
図6】本発明の第2実施形態である斜面設置用間詰め部材を用いた斜面安定化構造を模式的に示す断面図。
図7図6に示す斜面安定化構造の概略分解斜視図。
図8】本発明の第3実施形態である斜面設置用間詰め部材を用いた斜面安定化構造を模式的に示す断面図。
図9】間詰め部材の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態である斜面設置用間詰め部材を用いた斜面安定化構造を模式的に示す断面図であり、図2は、図1に示す斜面安定化構造の概略分解斜視図である。
【0030】
斜面安定化構造10は、斜面Sに設置されるアンカー部材20と、固定部材40を用いてアンカー部材20の頭部に取付けられる受圧板30と、斜面Sと受圧板30との間に配置される斜面設置用間詰め部材50(以下、単に間詰め部材50とも称する)とを備える。間詰め部材50は、内部に充填材56が充填された袋体52と、袋体52と斜面Sとの間に配置されるスペーサ部材60とを備えている。斜面安定化構造10は、地盤となる斜面Sの崩壊を防止するものであって表面に凹凸のある斜面Sに適用される。斜面安定化構造10が適用される斜面Sとしては、例えば、地山斜面や、地山を切削した法面などが挙げられる。
【0031】
アンカー部材20としては、PC鋼材などからなるテンドンや、ロックボルト等を使用することができ、本実施形態ではテンドンを用いている。アンカー部材20が設置される斜面Sを有する地盤は、表面側に位置して風化しやすい不安定層(表層)と、その下に存在する安定地盤である安定地層(深層)とを有しており、アンカー部材20は安定地層まで伸びている。アンカー部材20は地盤に形成された掘削孔12に挿入され、掘削孔12内に充填されたグラウト材24によって地盤に固定される。なお、図示していないが、アンカー部材20は、斜面Sの斜面安定化構造10の構築範囲内において、斜面Sに間隔をあけて複数設置される。
【0032】
受圧板30は、例えば、コンクリート製、鋼製、又は繊維強化樹脂製とすることができ、平面視で略十字形状のブロックであって、設置状態で斜面S側と対向する下面31側が平面に形成されている。また、十字形状における交差部38の上面32には、凹部34が形成されており、凹部34の底面35には、下面31まで貫通し、アンカー部材20が挿通される挿通孔36が形成されている。なお、受圧板30の形状は十字形状に限られず、例えば、平面視で四角形状や菱形形状、その他の多角形状等、適宜選択することができる。
【0033】
固定部材40は、アンカー部材20に受圧板30を固定するものであり、板状のアンカープレート42と、アンカープレート42の上に載置されるアンカーヘッド44と、定着楔46とを備える。アンカープレート42は、中央部にアンカー部材20が挿通される貫通孔が形成されている。アンカーヘッド44はブロック状であって、アンカー部材20が挿通される孔44aが形成されている。定着楔46は、断面略V字形の楔形状を有する部材であって、アンカー部材20が挿通された孔44aに挿入されて楔作用によりアンカー部材20を定着する。
【0034】
本実施形態では、さらに、受圧板30の凹部34及び固定部材40を覆うように、受圧板30の上面32にカバー部材48を取付けている。
【0035】
間詰め部材50は、内部に圧縮変形可能な多孔質部材54が装填された袋体52と、袋体52の内部に充填される充填材56とを備えるとともに、設置状態において、袋体52の厚みを確保するためのスペーサ部材60を備えている。
【0036】
図3(A)はスペーサ部材の斜視図、図3(B)はスペーサ部材の平面図である。スペーサ部材60は、アンカー部材20が挿通される中空部を有する筒状体62と、筒状体62の軸方向中央部の外周面から径方向外側に張り出した鍔状部64と、鍔状部64の一方の面から突出する複数の突起部66とを備える。筒状体62、鍔状部64及び突起部66は、硬質材料、例えば、表裏面に防食処理を施した鋼材、FRP層で表裏面を被覆した鋼材、その他の金属材料、補強材が埋め込まれた樹脂材、又はこれらの組み合わせたもの等で形成することができる。
【0037】
筒状体62は、受圧板30の挿通孔36に嵌め込まれるように、その外径が挿通孔36の内径と同程度に設定されている。本実施形態において筒状体62は円筒状に形成されているが、形状はこれに限られず、中空を有する筒状のものであればよい。
【0038】
鍔状部64は、複数の突起部66を設ける基台となる板状の部位である。本実施形態において、鍔状部64は筒状体62と一体的に形成されており、平面視で四角形状を有している。なお、鍔状部64の平面視形状はこれに限られず、円形や他の多角形状であってもよい。図2に示すように、鍔状部64の最大幅寸法D1(すなわち、鍔状部64の筒状体径方向における最大寸法)は、受圧板30の平面視における最大幅寸法D2よりも十分に小さく設定されており、好ましくは寸法D1が寸法D2の4分の1以下、より好ましくは
5分の1以下に設定されている。本実施形態では、設置状態で鍔状部64が平面視十字形状の受圧板30の交差部38に収まる程度の大きさ・形状に設定されている。なお、受圧板30の最大幅寸法D1は、例えば、1m~3mとすることができる。また、鍔状部64の一辺の長さは、例えば、200mm~300mmとすることができる。
【0039】
突起部66は、鍔状部64の一方の面64a(設置状態で上方を向く面。以下、上面64aとも称する。)に1つ以上設けられている。突起部66は、筒状体62を囲むように、筒状体62の周囲に複数配置されることが好ましく、本実施形態では、9つの突起部66が筒状62を周囲に間隔をあけて設けられている。鍔状部64の他方の面64b(設置状態で下方となり、斜面Sと対向する面。以下、下面64aとも称する。)は平坦に形成されている。突起部66の高さは、例えば、15mm~70mm、好ましくは20mm~50mmとすることができ、突起部66の直径は、例えば、8mm~20mm、好ましくは10mm~16mmとすることができる。
【0040】
突起部66は、鍔状部64と同一材料で一体的に形成されていてもよいし、鍔状部64からの突出高さが変更可能となるように別部品で構成されていてもよい。例えば、突起部66は、略円柱状の周面に螺子溝が形成された螺子部材であって、この螺子部材を鍔状部64に形成された螺子穴に螺合する構造であってもよく、突起部66である螺子部材の螺合状態を調節することで、突起部66の突出高さを調節可能にしてもよい。かかる場合、斜面Sの凹凸の高低差の程度に応じて、各突起部66の突出高さをそれぞれ変更することが可能である。
【0041】
図1に示すように、スペーサ部材60は、筒状体62の中空部にアンカー部材20の頭部が挿通され、鍔状部64の下面64bが斜面Sに対向した状態で、斜面S上に載置される。筒状体62の下方側は、地盤内に埋め込まれており、上方側は、受圧板30の挿通孔36に挿入されている。
【0042】
図4に示すように、袋体52は、内部に経時硬化性を有する充填材56が注入される袋状のものであり、斜面Sの凹凸に対応して変形自在な材料で形成される。また、この袋体52は、通気性を有するとともに、充填材56を内部に保持可能な材料で形成される。このような材料としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンまたはポリエステル等からなる不織布を用いることができる。この不織布は、多数の微小繊維を接合させることにより構成された多孔性の布体であり、接合された繊維相互の間隙は、空気を通過させ、水をわずかに浸透させるが、充填材を浸透させない程度の大きさの細孔を形成している。更に、ポリプロピレン製とすることで、袋体52を酸・アルカリに強く、地盤のpHの違いによる影響を受けにくいものとすることができる。本実施形態の袋体52は、2枚の不織布の周辺部を互いに接合させて形成されている。
【0043】
多孔質部材54は、充填材56を含浸保持可能な多数の細孔及び/又は間隙を有するとともに、圧縮変形可能なものである。このような素材としては、例えば、スポンジ、発泡ウレタン、パルプ製品又はパーム等が挙げられるが、上述の性質を有していれば他の素材を用いても良い。本実施形態では多孔質部材54として、パーム(ヤシ科植物などから得られる塊状繊維)を用いている。
【0044】
多孔質物質54が装填された袋体52の厚みは、圧縮前の状態で、例えば約5cm~10cmとすることができる。また、袋体52内の多孔質物質54の空隙率は、圧縮前の状態で、例えば85%~95%とすることができ、圧縮後の状態(すなわち、スペーサ部材60により厚みを確保しつつ、斜面Sと仮止めした受圧板30とにより圧縮された状態)であって最も圧縮されている領域で、少なくとも15%以上、好ましくは15%~25%の範囲とすることができる。
【0045】
袋体52は、その端部の一部に、袋体52の内部と外部とを繋ぐ注入口53が設けられている。この注入口53は、充填材56を袋体52内に注入するための注入用ホースの先端部を挿入可能な内径を有する。この注入口53は、充填材56の注入後に、袋体52内の充填材56が漏れ出さないように針金等で固く閉じられる。
【0046】
充填材56は、経時硬化性を有するものであり、袋体52に注入される際に流動性を有し、その後、固体物となる。本実施形態では、充填材56としてセメントミルクを用いているが、これに限られず、例えば樹脂材料やモルタル等のグラウト材であってもよい。
【0047】
図2に示すように、本実施形態では、1つの受圧板30に対して平面視で四角形状に形成された複数の袋体52(図示例では4つの袋体52)を使用しており、4つの袋体52は、設置状態で受圧板30の形状と略一致するように斜面S上に十字状に配置されているが、袋体52の形状はこれに限られず受圧板30の形状に合う形状、すなわち、平面視において受圧板30のほぼ全域で、斜面Sと受圧板30との間に袋体52が配置されるような形状や配置とすることができる。なお、袋体52を受圧板30とほぼ同一の平面視略十字状に形成した場合には、袋体52の中央部に、アンカー部材20を挿通するためのアンカー挿通孔を形成した構造とすることができる。また、各袋体52は、その一部がスペーサ部材60の鍔状部64及び少なくとも1つの突起部66と重なるように配置される。
【0048】
次に、上述した斜面安定化構造10の施工方法について説明する。
【0049】
まず、図5Aに示すように、斜面地盤を掘削してアンカー部材20を挿入する掘削孔12を設け、形成された掘削孔12にアンカー部材20を挿入し、掘削孔12の底部からグラウト材24を注入する(アンカー部材設置工程)。グラウト材24は、掘削孔12の開口部13付近(開口部13の上端縁よりも僅かに低い位置)まで注入する。
【0050】
次に、図5Bに示すように、掘削孔12の開口部13にスペーサ部材60の筒状62の下端側を嵌め込み、斜面S上に鍔状部64を突起部66側が上面となるように載置し、その後、グラウト材24を筒状62の上端部62aまで注入する(スペーサ部材設置工程)。なお、ペーサ部材60は掘削孔12にアンカー部材20を挿入した後、グラウト材を注入する前に開口部13に嵌め込み、その後、掘削孔12の底部から筒状62の上端部62aまでグラウト材24を注入してもよい。
【0051】
次に、図5Cに示すように、袋体52がスペーサ部材60の少なくとも1つの突起部66に重なるように、斜面S上に袋体52を配置する(袋体配置工程)。袋体52は、受圧板30の形状に合わせて、平面視で略十字形状となるように配置される。その後、固定部材40を用いてアンカー部材20の頭部に受圧板30を取り付けて仮固定する(受圧板仮固定工程)。これにより、袋体52は、斜面Sと受圧板30とに挟まれた状態となる。この際、袋体52は、受圧板30によって、内部の多孔質部材54とともに斜面S側に押し潰された状態となるが、スペーサ部材60の突起部66が厚み方向に突出していることにより、斜面Sとの間で所要の厚みを確保することができる。
【0052】
次に、図5Dに示すように、袋体52の内部に液体状の充填材56を注入する(充填材注入工程)。充填材56は、注入用ホース59を用いて袋体52の注入口53から、袋体52内に注入される。本実施形態では、袋体52の注入口53が、斜面Sの上方側に位置するように配置されており、これにより、充填材56を斜面S下方側の袋体52の端部まで十分に充填できるようにしている。その後、充填材56を経時的に固化させる。これにより、固化した充填材56と多孔質部材54とが一体化される。
【0053】
次に、アンカー部材20に受圧板30を本固定する(受圧板の本固定工程)。本固定では、グラウト材24が硬化した後、アンカー部材20に所定の緊張力を導入し、定着楔46を用いて、アンカー部材20及び受圧板30を定着する。その後、図1に示すように、受圧板30の上面32にカバー部材48を取り付けて、アンカー部材20の頭部、及び固定部材40が外部に露出しないように被覆する。
【0054】
上述した斜面安定化構造10では、袋体52と斜面Sとの間に配置されたスペーサ部材60の突起部66によって、斜面Sと受圧板30との間には、少なくとも突起部66の突出高さ分の隙間が確保される。具体的には、袋体52が突起部66と重なる部位では袋体52の厚みが小さくなるものの、袋体52が突起部66と重なっていない領域では、受圧板30と斜面Sとの間に突起部66の突出高さ分の隙間が確保されているので、この高さ分の袋体52の厚みを確保することができる。このように、袋体52の厚みが確保されていると、袋体52内の多孔質部材54の空隙率が比較的高くなるので、袋体52内に充填材56を注入する際に、充填材56を多孔質部材54の空隙にスムーズに入り込ませることができ、袋体52内を充填材56で十分に満たすことができる。これにより、袋体52や多孔質部材54が経年劣化した場合に、斜面Sと受圧板30との間に充填材56が存在しない空洞領域が形成されることを防止することができ、受圧板30と斜面Sとの間を間詰め部材50によって適切に埋めて、受圧板30に均一な応力を作用させることができる。
【0055】
また、斜面安定化構造10において用いられるスペーサ部材60は、筒状体62にアンカー部材20が挿通されることにより、スペーサ部材60と、アンカー部材20の頭部に取付けられる受圧板30との相対的な位置ずれが抑えられる。これにより、スペーサ部材60の配置を適切な状態にして、突起部66による隙間の確保を確実にし、受圧板30と斜面Aとの間を間詰め部材50より適切に埋めることができる。
【0056】
さらに、スペーサ部材60において、突起部66の突出高さを調節可能にした場合には、現場の状況に応じてスペーサ部材の突起部の突出高さを調節できるので、受圧板と斜面との間をより適切に埋めることができるとともに、間詰め部材の汎用性を向上することができる。例えば、斜面Sの凹凸の高低差が小さく、袋体52内に充填材56が入り込みにくい状況である場合に、突起部66の突出高さをより大きくして、斜面Sと受圧板30のとの間の隙間を大きくすることで、充填材56が注入される袋体52内の空間を大きく確保することができる。また、不陸の状態に応じて、各突起部66の高さが異なるように調整することも可能であるので、例えば、1つのスペーサ部材60において、斜面Sの凹凸の高低差が小さい領域では、突起部66の高さを大きくし、凹凸の高低差が大きい領域では、突起部66の高さを小さくするように、各突起部66の高さを変えることができる。
【0057】
(第2実施形態)
次に、図6及び図7を用いて、本発明の第2実施形態である斜面設置用間詰め部材を用いた斜面安定化構造10について説明する。図6は、本発明の第2実施形態である斜面設置用間詰め部材を用いた斜面安定化構造を模式的に示す断面図であり、図7は、図6に示す斜面安定化構造の概略分解斜視図である。以下に説明する第2実施形態では、第1実施形態と対応する部位に同一の符号を付し、第1実施形態と同一の構成についての詳細を省略する。
【0058】
第2実施形態では、間詰め部材50の袋体52’の構造が第1実施形態の袋体52と異なっている。第2実施形態の袋体52’は、内部に多孔質部材54が装填されているとともに、設置状態で、スペーサ部材60の突起部66と重なる位置に、突起部66が挿通される突起部挿通孔51を有している。本実施形態において、突起部挿通孔51の形状は、平面視で突起部66と同じ形状となるように円形に形成されている。なお、図7に示すように、本実施形態では、斜面Sと受圧板30との間に、平面視で略十字形状となるように4つの袋体を配置しており、設置状態で突起部66と重なる2つの袋体52’に突起部挿通孔51が形成されており、突起部66と重ならない残り2つの袋体52には、突起部挿通孔51が形成されていない。また、スペーサ部材60の9つの突起部66のうち、6つの突起部66は、それぞれ、突起部挿通孔51に挿通され、残り2つの突起部、すなわち、図7の突起部66a,66bは、突起部挿通孔51に挿通されず、2つの袋体52’によって、突起部66a,66bの周囲を隙間なく囲むように配置される。
【0059】
この袋体52’は、袋体52と同様に、斜面Sと受圧板30との間に配置される。具体的には、第1実施形態で説明した袋体配置工程において、袋体52’の一部が、斜面S上に載置されたスペーサ部材60の鍔状部64と重なり、かつ袋体52’の突起部挿通孔51にスペーサ部材60の突起部66が挿通されるように配置される。その後、アンカー部材20の頭部に受圧板30が仮固定され、その後、袋体52,52’の内部に充填材56が注入される。
【0060】
本実施形態の斜面安定化構造10では、図6に示すように、設置状態において、鍔状部64から突出する突起部66が袋体52’に形成された突起部用孔51に挿通された状態となるので、袋体52、52’が突起部66に重なった状態で配置されることがない。それ故、袋体52、52’が突起部66と受圧板30とによって押し潰されて、袋体52、52’に破れが生じることを防止することができる。
【0061】
なお、図6及び図7に示す例では、1つの十字状の受圧板30に対して、4つの袋体52、52’を用いているが、これに代えて、突起部挿通孔51を有するとともに、平面視略十字状(すなわち、平面視で受圧板30とほぼ同一形状)に形成された1つの袋体52’を用いてもよい。このような受圧板30と略同一形状の袋体52’において、突起部挿通孔51は、設置状態で突起部66と重なる位置(すなわち、鍔上部64上の9つの突起部66と重なる9か所の位置)に形成されるとともに、袋体52’の中央部には、アンカー部材20を挿通するためのアンカー挿通孔が形成される。
【0062】
(第3実施形態)
次に、図8及び図9を用いて、本発明の第3実施形態である斜面設置用間詰め部材を用いた斜面安定化構造10について説明する。図8は、本発明の第3実施形態である斜面設置用間詰め部材を用いた斜面安定化構造を模式的に示す断面図であり、図9は、間詰め部材の断面図である。以下に説明する第3実施形態では、第1実施形態と対応する部位に同一の符号を付し、第1実施形態と同一の構成についての詳細を省略する。
【0063】
第3実施形態では、間詰め部材50の構造が第1実施形態と異なっている。具体的には、図9に示すように、間詰め部材50は、内部に圧縮変形可能な多孔質部材54が装填された袋体52と、袋体52の内部に配置された少なくとも1つの突起部66からなるスペーサ部材60と、を備えている。なお、図9は、袋体52内に充填材56を注入する前の状態を示している。
【0064】
本実施形態において、スペーサ部材60は、複数の突起部66によって構成されている。各突起部66は、円柱状に形成され、袋体52内に間隔をおいて配置されており、各突起部66の周囲は、多孔質部材54で囲まれている。本実施形態では、多孔質部材54内に突起部66が埋め込まれた状態とすることで、突起部66の位置を安定化させている。また、本実施形態では、袋体52内の全域に複数の突起部66をほぼ等間隔で配置している。なお、突起部66は、その上面(すなわち、設置状態で上方を向く端面)又は下面(すなわち、設置状態で斜面Sと対向する端面)が袋体52の内面に接着されていてもよい。また、突起部66の形状は円柱状に限らず、その他の柱状や、球状であってもよく、設置状態で袋体52の厚み方向に凸となる形状であればよい。多孔質部材54は、突起部66の外周全域を囲むとともに、突起部66の上面及び下面の少なくとも一方の面を覆うように配置されていることが好ましい。図9に示す例では、突起部66の外周全域と上面とが多孔質部材54で囲まれている。また、本実施形態の斜面安定化構造10において、受圧板30の挿通孔36の内壁とアンカー部材20の外周面との間には、グラウト材24が充填されている。
【0065】
この間詰め部材50は、図8に示すように、斜面Sと受圧板30との間に配置される。具体的には、アンカー部材設置工程の後、斜面S上に、充填材56が注入されていない間詰め部材50を配置する(間詰め部材設置工程)。間詰め部材50は、受圧板30の形状に合わせて、平面視で略十字形状となるように配置される。その後、アンカー部材20の頭部に受圧板30を取り付けて仮固定する(受圧板仮固定工程)。次に、袋体52内に液体状の充填材56を注入し(充填材注入工程)、充填材56が固化した後に、受圧板30を本固定する。
【0066】
本実施形態の間詰め部材50を用いた斜面安定化構造10では、袋体52の内部に配置された突起部66によって、斜面Sと受圧板30との間に、少なくとも突起部66の突出高さ分の隙間を確保することができる。これにより、袋体52に装填された多孔質部材54の空隙率を比較的高く保つことができ、袋体52内に充填材56を注入する際に、充填材56を多孔質部材54の空隙にスムーズに入り込ませることが可能となり、袋体52内を充填材56で十分に満たすことができる。その結果、袋体52内に充填材56が存在しない空洞領域が形成されることを防止することができ、受圧板30と斜面Sとの間を間詰め部材50によって適切に埋めて、受圧板30に均一な応力を作用させることができる。
【0067】
また、本実施形態の間詰め部材50は、袋体52内にスペーサ部材60が配置された構造であるので、スペーサ部材60と袋体52と同時に設置することができ、施工が容易である。さらに、袋体52が、スペーサ部材60と受圧板30とによって押し潰されて破れることを防止することができる。
【0068】
なお、本発明は上述した各実施形態や変形例に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0069】
10 斜面安定化構造
20 アンカー部材
30 受圧板
40 固定部材
50 間詰め部材
52、52’ 袋体
51 突起部挿通孔
54 多孔質部材
56 充填材
60 スペーサ部材
62 筒状
64 鍔状部
66 突起部
S 斜面
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7
図8
図9