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特許7475632加湿燻製茶の製造方法、加湿燻製茶、並びに加湿燻製茶飲料
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  • 特許-加湿燻製茶の製造方法、加湿燻製茶、並びに加湿燻製茶飲料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】加湿燻製茶の製造方法、加湿燻製茶、並びに加湿燻製茶飲料
(51)【国際特許分類】
   A23F 3/06 20060101AFI20240422BHJP
   A23F 3/16 20060101ALI20240422BHJP
   A23F 3/40 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
A23F3/06 S
A23F3/16
A23F3/40
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020005641
(22)【出願日】2020-01-17
(65)【公開番号】P2021112139
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】592074175
【氏名又は名称】株式会社福寿園
(74)【代理人】
【識別番号】100130498
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 禎哉
(72)【発明者】
【氏名】本田 勲
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】特許第4964758(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F 3/00- 3/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燻香が付与された茶葉を製造する方法であって、
生茶葉から荒茶を製造する荒茶工程の後、当該荒茶から仕上茶を製造する仕上茶工程において、
前記仕上茶工程中の茶葉を加湿して当該茶葉の水分含有率を上昇させる加湿工程と、
前記加湿工程を経た茶葉に対して、所定の燻製材料にて燻製する燻製工程を含み、
前記燻製工程を経て得られる仕上茶として前記燻製材料の香味が付与された茶葉である加湿燻製茶を得ることを特徴とする加湿燻製茶の製造方法。
【請求項2】
前記加湿工程において、前記仕上茶工程中の茶葉を加湿する時間を1時間以上3時間以内としている請求項1に記載の加湿燻製茶の製造方法。
【請求項3】
前記加湿工程において、前記仕上茶工程中の茶葉の水分含有率を当該加湿工程前の水分含有率よりも0.7%以上上昇させることとしている請求項1又は2に記載の加湿燻製茶の製造方法。
【請求項4】
前記荒茶工程により得られる荒茶は、不発酵茶、半発酵茶、又は発酵茶の何れか一の荒茶である請求項1乃至3の何れかに記載の加湿燻製茶の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかの方法により仕上茶である茶葉として製造されることを特徴とする加湿燻製茶。
【請求項6】
請求項5に記載の加湿燻製茶を原料として所定温度の水で抽出した抽出液を含むことを特徴とする加湿燻製茶飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燻製の香味を付与した茶の製造方法とその製法による茶、並びに茶飲料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
茶は、製造方法の違いによって、日本茶に代表される不発酵茶、紅茶に代表される発酵茶(全発酵茶)、烏龍茶に代表される半発酵茶、プーアル茶に代表される後発酵茶に分類される。これらの茶に、茶以外の植物や食品の香味を付与したフレーバーティー(着香茶)も飲用されている。
【0003】
茶葉への着香の方法も様々に存在するが、茶葉を燻製する方法、すなわち茶葉に燻煙を当てて燻製材料の香味を付加する方法も古くから行われている。例えば、紅茶の一種であり、燻製茶として知られるラスサンプーチョンは、荒茶加工段階に燻製材料として松葉を用いて燻す燻製工程を含めることで、独特の強い燻香が付加された紅茶である。
【0004】
一方、茶本来の香味を愉しむことが前提とされてきた日本茶(緑茶)等の不発酵茶に関しては、これまで積極的に他の香味を付与することはなされてこなかったが、最近では、茶葉に燻煙処理を施すことで多様な香味を付加することができる茶(茶葉)の製造方法が開発されている(特許文献1参照)。同文献に開示された燻煙不発酵茶葉とその製造方法によれば、不発酵茶葉として蒸製緑茶葉(煎茶、碾茶、玉露、かぶせ茶、玉緑茶、番茶等)、釜炒製緑茶(玉緑茶、中国緑茶、番茶)の荒茶又は仕上茶を、好ましくは茶乾燥設備を応用したような燻煙が充満できる程度の密閉性を有した容器に入れ、燻製材料としてスモークウッド、乾燥花、ドライフルーツ、ポプリ等を用い、熱燻(80℃以上)、温燻(30~60℃)又は冷燻(15~30℃)の何れか温度の煙で燻すことで、例えば5分程度の燻煙処理であっても、緑茶本来の香味を損なわずに燻煙香を付与した燻煙不発酵茶葉が得られ、その茶葉を用いた茶葉抽出物、茶葉留出物を含む茶飲料が得られる、とされている。また同文献には、得られた茶飲料を容器詰飲料とした場合でも、燻煙香が維持された、と開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平2009-159861号公報(特許第4964758号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、本発明者は、独自方法による着香茶の研究過程で、燻製により茶葉に燻煙を付与して茶を淹れた場合、茶が本来有している香味を残しつつ、燻製材料の香味を付与することには成功したが、着香が不十分となったり、茶葉の外観における色沢が赤みを帯びる傾向があった。さらに、その茶葉を用いて淹れた茶(液体)の水の色(水色)も赤くなるという問題があった。この問題を明確にするために、特許文献1に開示された製造方法を参考に、試験的に煎茶の茶葉を用いて燻煙不発酵茶を作成し、その茶葉(後述する比較例2)から淹れた茶(液体)を燻煙加工する前の茶葉(後述する比較例1)から淹れた茶(液体)と比較したところ、水色が赤くなっていることが明らかになった。このことから、淹れた茶の色を愉しむための茶葉としては、比較例2の燻煙不発酵茶の茶葉は適さないと考えられる。
【0007】
更なる研究の結果、本発明者は、燻煙処理時における茶葉の水分含有量が問題解決の鍵となることを見出し、燻煙処理時には通常よりも高い水分含有率とした茶葉を用いることで、仕上茶の茶葉の色沢と淹れた茶の緑色の色沢が維持され、燻製材料の香味を適切に付与することができ、茶本来の風味も備えた茶飲料を実現するに至った。さらに、この手法によれば、不発酵茶だけでなく、発酵茶、半発酵茶についても同様の手法により、良好な燻煙の香味を付与した茶飲料が得られることも実現した。
【0008】
本発明は、このような点に着目してなされたものであって、主たる目的は、その茶本来の色沢を維持しつつ、燻製材料の香味を適切に付与した加湿燻製茶の製造方法と、その方法で製造した加湿燻製茶、並びに加湿燻製茶飲料を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の加湿燻製茶葉の製造方法は、燻香が付与された茶葉を製造する方法であって、生茶葉から荒茶を製造する荒茶工程の後、その荒茶から仕上茶を製造する仕上茶工程において、茶葉を加湿して茶葉を加湿して茶葉の水分含有率を上昇させる加湿工程と、加湿工程を経た茶葉に対して所定の燻製材料にて燻製する燻製工程を含み、この燻製工程を経て得られる仕上茶として燻製材料の香味が付与された加湿燻製茶を得ることを特徴とする方法である。
【0010】
このような製造方法により得られる茶葉である加湿燻製茶もまた、本発明に含まれる。さらに、上記の加湿燻製茶を原料として所定温度の水で抽出した抽出液を含む加湿燻製茶飲料も本発明に含まれる。加湿燻製茶飲料は、加湿燻製茶の水抽出液をそのまま茶飲料としたもの、又はその抽出液を水で希釈したものである。加湿燻製茶を抽出する水の温度や、抽出時の水に対する加湿燻製茶葉の量(割合)は、製造する茶飲料の種類や質によって適宜に選択すれば良い。茶飲料は、販売形態を考慮すれば、容器詰めとした態様が好適である。
【0011】
本発明者は、試作と検証を重ねた結果、茶の製造工程における茶葉の状態に着目したところ、水分含有率が高い状態の生茶葉に対して燻製しても、その後に得られる仕上茶(燻製茶)には燻製材料の香りが十分には付かない一方で、製造工程においてある程度乾燥した状態の茶葉に対して、一旦加湿して水分含有量を上昇させてから燻製すれば、燻製材料の香りが付いた仕上茶としての茶(茶葉)が得られ、その茶葉の色沢と、その茶葉で淹れた茶(茶飲料)の水色に劣化がなく、通常の茶(茶飲料)の色沢と遜色のないものとなり、また、茶本来の香味を残しながら燻製材料の香味が付いた茶(茶飲料)が得られることを突き止めた。
【0012】
通常の茶製造工程(荒茶製造工程、仕上茶製造工程)では、不発酵茶の製造工程初期において生茶葉を蒸して発酵を止める「蒸熱工程」以外に茶葉の水分含有率を上げる工程は存在せず、その後の工程で茶葉を徐々に乾燥させてゆく。茶葉の発酵を製造工程途中で釜煎りして止める半発酵茶や、茶葉の発酵を止める工程がない発酵茶の製造工程では、茶葉の乾燥を順次進めている。そのために、通常の製造工程で作られる茶葉を燻製に供すると、更に茶葉の乾燥が進んで焦げが生じ易くなり、茶飲料に燻香を付与することはできても、色沢低下に繋がるものと考えられる。これに対して本発明の製造方法であれば、通常の製造工程には含まれない「加湿工程」を取り入れて茶葉の水分含有率を上昇させた上で「燻製工程」に供するため、燻製による茶葉の焦げが抑制されることから、最終的に得られる茶飲料に燻香を付与しながらも、色沢を低下させない要因になっていると考えられる。
【0013】
本発明の製造方法が適用できる茶飲料は、不発酵茶、発酵茶、半発酵茶である。特に、不発酵茶の代表である日本茶は、その緑色から「緑茶」と呼ばれるように、緑色の色沢が重視されるところであるが、本発明の方法により製造された茶葉を原料として作られる茶飲料であれば、緑色の色沢を維持したまま、燻製材料の香味が付与されたものとなり、これまでにない新しいタイプの茶飲料を市場に提供できるものである。その他、茶色系の烏龍茶に代表される半発酵茶や、赤色系の紅茶に代表される発酵茶の場合であっても、本発明の方法により茶葉及び茶飲料を製造することで、その茶本来の色沢を保ちつつ、燻製材料の香味が付与された新しい茶飲料とすることができる。
【0014】
本発明の製造方法において、加湿工程では、加湿前後で茶葉の水分含有率を0.7%以上上昇させることが望ましいが、0.7%未満の水分含有率上昇であっても、最終的に得られる茶飲料の水色低下を抑制できることを確認している。加湿時間を長くすれば、燻製工程に供する茶葉の水分含有率をより高くすることができるが、あまりに長時間の加湿は製造工程の長時間化に繋がるため、コスト的に好ましくない。そのため、加湿工程にかける時間は3時間以内とすることが望ましい。
【0015】
本発明の製造方法において、燻製工程では、短時間で高温の燻煙を茶葉に当てて燻香を付与することができる熱燻法を採用するのが好ましいが、温燻法又は冷燻法を採用することを妨げるものではない。また、燻製材料には、燻製に通常用いられるような市販の木材チップ、薬草や香草等のハーブ等の他、各種植物の花、果実、葉、枝、幹等の植物材料を用いることができる。例えば、桜葉、柚子、ミカン、薔薇、ラベンダー、カモミール、カカオ、生姜、シナモン、ミント等、多様な植物材料又はそれらの複数種の組み合せを利用することが可能である。
【発明の効果】
【0016】
以上に述べたように、本発明の製造方法によれば、茶の製造工程中、仕上工程において茶葉を燻製することによって茶葉及び茶飲料に燻製材料の香味を付与することができるが、燻製工程の前に茶葉の水分含有率を向上させる加湿工程を導入することで、茶葉本来の色沢低下を抑制することができる。そのため、その茶葉を使用して淹れた茶(液体)は、加工前の茶葉を使用して淹れた茶が本来有していた水色を維持したまま燻製香味が加わった、従来になかった新たな付加価値のある茶葉並びに茶飲料を提供することができる。このように、本発明は、新たな燻香を付与した茶葉とその製造方法、並びに茶飲料を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る加湿燻製茶の製造方法を、通常の煎茶製造工程及び燻製茶工程とを比較して示す製造工程図。
図2】同実施例1~3(加湿燻製茶(煎茶))及び比較例1(荒茶基準品(煎茶))、比較例2(燻製茶(煎茶))に対する各種試験の結果を示す図。
図3】同実施例4、5(加湿燻製茶(煎茶))及び比較例3、5(仕上茶基準品(煎茶))、比較例4、6(燻製茶(煎茶))に対する各種試験の結果を示す図。
図4】同実施例6(加湿燻製茶(紅茶))及び比較例7(仕上紅茶基準品)、比較例8(燻製紅茶)に対する各種試験の結果を示す図。
図5】同実施例7(加湿燻製茶(烏龍茶))及び比較例9(仕上烏龍茶基準品)、比較例10(燻製烏龍茶)に対する各種試験の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
本実施形態の加湿燻製茶は、不発酵茶である日本茶(緑茶、特に煎茶。以下、特に言及しない限り、単に「茶」というものとする。)について、製造過程で茶葉を加湿及び燻製に供することによって、燻製に用いた燻製材料の香味を付与した茶葉である。図1(c)に示すように、本実施形態の加湿燻製茶葉は、通常の荒茶製造方法に従って生茶葉から荒茶を製造し、その荒茶から仕上茶(茶葉)までを製造する工程で、加湿工程及び燻製工程を加えている。
【0019】
本実施形態による加湿燻製茶の製造方法と、従来の茶の製造方法及び従来の煎茶の燻製茶との相違点を明確に説明するため、図1(a)に通常の茶(煎茶の茶葉)の製造工程(通常製法)、同図(b)に通常の茶の製造工程中に加湿工程を加えることなく燻製工程を加えて試験的に行った燻製茶(煎茶の燻製茶の茶葉)の製造工程(燻製茶製法)を比較して示す。図1の共通事項として、共通の工程には共通の符号を付して説明する。
【0020】
まず、図1(a)に示す通常の茶の製造工程(通常製法)では、生茶葉1から荒茶2(以下、比較例1として「荒茶基準品2」と称することがある)を製造する荒茶工程S1(詳述しないが、送風加熱、蒸熱、冷却、葉打ち、揉捻(粗揉、中揉、精揉)、乾燥の一般的な各工程)を経て、その荒茶2から仕上茶3を製造する仕上茶工程S2が行われる。ここでは、荒茶工程S1についての詳細は割愛するが、蒸熱工程以外は全て茶葉を乾燥させる工程である。仕上茶工程S2では、荒茶2を篩い分けした後、切断して茶葉の形状を細かくする精製加工工程S21、得られた細かい茶葉を加熱して乾燥させるとともに火入れ香を生成させて香味を向上させる火入工程S22、火入した茶葉を出荷する状態に向けてブレンドする合組工程S23を経て、仕上茶3としての茶葉が得られる。なお、ここで示した各工程は、一般的な仕上茶工程S2のうち代表的なものを取り上げたものであり、ここで示した工程の他にも、精製加工工程S21を篩い分けの工程と切断の工程を分けたり、火入工程S22と合組工程S23との間で木茎を除去する選別の工程が含まれたりする場合がある。また、荒茶の状態によっては、精製加工工程S21、火入工程S22、合組工程S23の各工程を省略することができる。特に火入工程S22は、火入れの香りが付き保存性が向上するが、茶葉の色沢劣化につながる。色沢維持のためには、できるだけ低温短時間で火入工程S22を行うことが望ましい。
【0021】
図1(b)に示す燻製茶の製造工程(燻製茶製法)では、荒茶基準品2(比較例1)を用いて既知の燻製茶製法で燻製茶3A(比較例2)を作成した。すなわち、燻製茶3A(比較例2)を製造する燻製茶製法では、仕上茶工程S2において、精製加工工程S21の後、加湿燻製茶3X(実施例1)との比較のために火入工程S22を行わず、細かく切断された茶葉を直接燻製工程S2Yに供し、その後、合組工程S23を経て仕上茶(茶葉)として、燻製材料の香味が付与された燻製茶3A(比較例2)が得られる。この燻製茶製法は、次に説明する本実施形態の加湿燻製茶の製造方法との違いを明らかにして、加湿工程S2Xの有無による効果の違いを確認するために行ったものである。
【0022】
図1(c)に示す本実施形態の加湿燻製茶の製造方法では、通常製法と同じく荒茶工程S1を行い、得られた荒茶について仕上茶工程S2として、まず精製加工工程S21を行う。次に、火入工程S22を行うことなく、細かく切断された茶葉を加湿する加湿工程S2Xを行う。実験的に行った加湿工程S2Xでは、デシケータの下部に水を張って湿度90%の高加湿環境に保った状態で、切断された茶葉をデシケータ内に所定時間静置した。静置時間が、1時間(実施例1)、2時間(実施例2)、3時間(実施例3)の3種類のサンプルを作成した。これら3種類のサンプルについて、それぞれの静置時間経過後に茶葉を取り出し、所定の燻製材料で燻製する燻製工程S2Yを行った。燻製工程S2Yの後、合組工程S23を経て得られた仕上茶が、本実施形態により得られる加湿燻製茶3X(3X1(実施例1)、3X2(実施例2)、3X3(実施例3))である。
【0023】
ここで、本実施形態の加湿燻製茶の製造方法と、燻製茶製法の共通事項である燻製工程S2Yを行うにあたっては、桜を燻製材料として加熱して出る煙を茶葉に当てて燻製する熱燻法を採用している。実験レベルでの具体的な加湿工程S2Y及び燻製工程S2Xとしては、緑茶葉(荒茶2)50gをデシケータに入れて水蒸気で加湿(実施例1では1時間、実施例2では2時間、実施例3では3時間)した後、その茶葉50gを燻煙が充満可能な密封性を有する容器に入れた。この容器に燻製材料10gに着火し発生させた燻煙を充満させた。燻煙処理開始から11分間経過した後、茶葉を取り出し、官能検査等の各種試験に供した。以下、基準品である荒茶2を比較例1として、比較例2及び実施例1、2、3について行った各種試験について説明する。
【0024】
各比較例及び実施例の製造工程における燻製工程S2Y前後の茶葉の水分含有率の変化を調べた。比較例1の荒茶2(荒茶基準品2)の水分含有率を調べたところ、4.1%であった。図2に示す検査結果比較では、比較例1の通常方法における荒茶(荒茶基準品2)の水分含有率を、「燻製前水分%」の欄に示し、「燻製後水分%」の欄は測定していないため表示していない。燻製茶3A(比較例2)では、燻製前の茶葉の水分含有率(「燻製前水分(%)」)は荒茶基準品2の水分含有率と同じ4.1%であり、その後燻製工程S2Yを行った後の水分含有率「燻製後水分%」は2.6%であった。本実施形態の加湿燻製茶の製造方法では、加湿工程S2X後の茶葉の水分含有率を「燻製前水分%」、その後に行った燻製工程S2Yを経た茶葉の水分含有率を「燻製後水分%」として調べた。加湿工程S2Yを1時間行った加湿燻製茶3X1(実施例1)では、燻製前の水分含有率が4.8%、燻製後の水分含有率が2.8%であった。加湿工程S2Yを2時間行った加湿燻製茶3X2(実施例2)では、燻製前の水分含有率が5.7%、燻製後の水分含有率が3.7%であった。加湿工程S2Yを3時間行った加湿燻製茶3X3(実施例3)では、燻製前の水分含有率が6.4%、燻製後の水分含有率が4.3%であった。この結果から、茶葉の燻製前に加湿工程S2Xを行うことにより、荒茶基準品2(比較例1)及び燻製茶3A(比較例2)の燻製茶製法による茶葉よりも水分含有率が0.7%(実施例1)~2.3%(実施例3)高い状態で燻製工程S2Yに供することができ、加湿時間が長いほど、燻製前の茶葉の水分含有率を高めることができることが分かった。さらに、燻製茶(比較例2)と比べると、加湿工程S2Xを経て燻製工程S2Yを行った後の茶葉の水分含有率は、0.2%(実施例1)~1.7%(実施例3)高くなり、この場合も加湿時間が長いほど、燻製後の茶葉の水分含有率を高めることができることが分かった。
【0025】
次に、各比較例及び実施例の製造方法で得られた茶葉(荒茶基準品2(実施例1)、燻製茶3A(実施例2)、加湿燻製茶3X(3X1(実施例1)、3X2(実施例2)、3X3(実施例3))について、色差計(日本電色工業株式会社製、分光色差計SE6000)を用いてLab空間(ハンター法)で評価した。L値(明度)は0(黒)~100(白)の値で表される。a値及びb値は色相、彩度を表し、a値は-60(緑方向)~60(赤方向)の値で表され、b値は-60(青方向)~60(黄方向)の値で表され、絶対値が大きくなるにしたがって色鮮やかであること、0に近付くほどくすんだ色(無彩色やグレー)であることが示される。特にa値は緑と赤の程度を意味していることにより、茶葉の評価では数値がマイナスになるほど緑色で品質が良いとされている。図2に示すように、a値については、加湿燻製茶の製造方法による加湿燻製茶3X(実施例1~3)の場合、加湿工程S2Xに供する時間が長いほど荒茶基準品2(比較例1)に近い値となり、燻製茶製造方法による燻製茶3A(比較例2)は荒茶基準品2(実施例1)と加湿燻製茶3X2(実施例2)の中間の値となった。この結果から、荒茶基準品2(比較例1)を基準として考えた場合、燻製茶3A(比較例2)は赤味を帯びており、荒茶基準品2(実施例1)はさらに赤味を帯びていたが、L値は比較例2よりも比較例1に近い値となり、全体としては許容範囲内であった。また、加湿燻製茶3X2(実施例2)及び加湿燻製茶3X3(実施例3)では赤味の改善が認められ、L値は燻製茶3A(比較例2)よりも荒茶基準品2(比較例1)に近い値となり、全体として良好な結果であった。
【0026】
このように、各実施例と比較例の色差計による測定では、色味に若干の数値的な違いが認められたが、茶の嗜好品としての性質から、次に官能検査を行った。官能検査では、検査員3名により、荒茶基準品2(比較例1)と仕上茶である燻製茶3A(比較例2)、加湿燻製茶3X1(実施例1)、3X2(実施例2)、3X3(実施例3)について、茶葉の目視による色沢の評価、茶葉3gを200mlの熱湯で3分間抽出した際に立ち上がる香気の評価、同抽出液を飲んだときに鼻に抜ける香気、旨味、渋味などのバランスを滋味として、「荒茶基準品2」を5点とした尺度法(良ければ6点以上、悪ければ4点以下)で評価している。図2に示す官能評価による数値は、3名の検査員による採点の平均点を示している。
【0027】
ここで、荒茶基準品2(比較例1)の茶葉の色沢、抽出時に立ち上がる香気、抽出液の色(水色)、及び抽出液の滋味の各官能検査の評価を5.0点とし、比較例2及び実施例1~3に対する比較基準としている。色沢の点数は、燻製により茶葉に艶が増したことを評価した。燻製茶3A(比較例2)では、茶葉の色沢の評価が2.0点、水色の評価が3.3点で最も低く、香気と抽出液の滋味の評価が比較例1よりも高い6.0点となった。検査官によるコメントでは、やや変質臭が感じられ、燻製材料である桜の香りが弱いという評価がなされた。加湿燻製茶3X1(実施例1)については、茶葉の色沢の評価が荒茶基準品2(比較例1)よりも低いが燻製茶(比較例2)よりも高い3.0点、抽出液の水色の評価が荒茶基準品2(比較例1)よりも低いが燻製茶(比較例2)よりも高い3.5点、香気と抽出液の滋味の評価が比較例1、2よりも高い6.3点となった。検査官によるコメントでは、燻製材料である桜の香味がちょうど良いという評価がなされた。加湿燻製茶3X2(実施例2)については、茶葉の色沢の評価が荒茶基準品2(比較例1)よりも低いが燻製茶3A(比較例2)よりも高く実施例と同じ3.0点、抽出液の水色の評価が荒茶基準品2(比較例1)よりも低いが燻製茶3A(比較例2)と加湿燻製茶3X1(実施例1)よりも高い3.5点、香気と抽出液の滋味の評価が荒茶基準品2(比較例1)、燻製茶3A(比較例2)よりも高く加湿燻製茶3X1(実施例1)と同じ6.3点となった。検査官によるコメントでは、加湿燻製茶3X1(実施例1)と同じく燻製材料である桜の香味がちょうど良いという評価がなされた。さらに加湿燻製茶3X3(実施例3)では、茶葉の色沢の評価が比較例1よりも少し低く加湿燻製茶3X1(実施例1)及び加湿燻製茶3X2(実施例2)よりも高い4.3点、水色の評価が比較例1よりも低いが燻製茶3A(比較例2)、加湿燻製茶3X1(実施例1)及び加湿燻製茶3X2(実施例2)よりも高い4.3点、香気と抽出液の滋味の評価が加湿燻製茶3X1(実施例1)、加湿燻製茶3X2(実施例2)よりも低く燻製茶3A(比較例2)と同等の6.0点となった。検査官によるコメントでは、色が良く、燻製材料である桜の香りが強く感じられ、味がちょうど良いという評価がなされた。特に茶葉の色沢と抽出液の色(水色)については、燻製工程が全くない比較例1が最も高い評価であるが、加湿燻製茶3X3(実施例3)、加湿燻製茶3X2(実施例2)、加湿燻製茶3X1(実施例1)、燻製茶3A(比較例2)と燻煙加工前の水分量が少ないほど評価が低くなる傾向があった(但し、加湿燻製茶3X1(実施例1)と加湿燻製茶3X2(実施例2)の色沢の評価は同点)。
【0028】
以上の結果から、荒茶に対して加湿を行わずに燻製に供した場合(燻製茶製法、比較例2)には、色差の計測結果では荒茶よりも明るい茶葉になり、香気や滋味は荒茶よりも向上するものの、色差計測の結果ではa値が著しく上昇し赤味が増し、茶葉の色沢と抽出液の水色がが著しく低下するだけでなく、変質臭の発生や燻製材料の香りの弱さといった観点から、燻製茶としては商品価値が低くなるという結果が得られた。それに対して、本実施形態の加湿燻製茶の製造方法のように、燻製の前に加湿によって茶葉の水分含有率を上昇させておくことで、色差の計測結果では、加湿時間の短い加湿燻製茶3X1(実施例1)のみa値の上昇が抑えられなかったが、十分加湿した加湿燻製茶3X2(実施例2)、加湿燻製茶3X3(実施例3)においてはa値の上昇が抑えられた。さらに、抽出液の水色でも加湿燻製茶3X1~3(実施例1~3)は各比較例に比べて官能検査の評価が高かった。また、香気や滋味は荒茶よりも良好となり、色沢は燻製茶製法ほどには低下せず、加湿時間を長くするほど色沢は荒茶に近付くことが明らかとなった。
【0029】
次に、本実施形態の加湿燻製茶の製造方法により得られた煎茶の仕上茶3Xについて、実施例1~3とは別のサンプルを用い、加湿時間を1時間とした仕上茶である加湿燻製茶3X4(実施例4)について、通常製法による仕上茶(以下、「仕上茶基準品3」、比較例3)と、燻製茶製法による仕上茶(燻製茶3B、比較例4)を比較対象として、燻製前後における水分含有率の変化と、官能検査として茶葉の色沢と抽出液の水色、香味の評価を行った。また、さらに別のサンプルを用い、加湿時間を3時間とした仕上茶である加湿燻製茶3X5(実施例5)について、通常製法による仕上茶(以下、「仕上茶基準品」3、比較例5)と、燻製茶製法による仕上茶(燻製茶3C、比較例6)を比較対象として、燻製前後における水分含有率の変化と、官能検査として色沢と水色、香味の評価を行った。色沢の検査では、前述した官能検査と同様に、茶葉の目視による色沢の評価を行い、水色の検査では仕上茶の茶葉3gを200mlの熱湯で3分間抽出した抽出液の色味を目視により評価した。官能検査では、仕上茶基準品3(比較例3、比較例5)の点数を何れも5点として、それぞれ燻製茶3B(比較例4)と加湿燻製茶3X4(実施例4)、燻製茶3C(比較例6)と加湿燻製茶3X5(実施例5)の比較基準とした。図3にこれらの検査結果を示す。
【0030】
仕上茶基準品3(比較例3)の水分含有率は3.0%であった。燻製茶製法により得られた燻製茶3B(比較例4)の燻製前は仕上茶基準品3(比較例3)と同じ3.0%、燻製後の水分含有率は3.2%であり、燻製前よりも上昇しているが、この理由は燻煙自体に含まれている水分が付着して水分量が増加したものと推定される。加湿時間を1時間とした加湿燻製茶3X4(実施例4)では、加湿後燻製前の水分含有率が5.3%から燻製後に5.2%となった。官能検査では、燻製茶3B(比較例4)、加湿燻製茶3X4(実施例4)ともに水色の点数は4.0であった。色沢の点数は燻製茶3B(比較例4)が4.2、加湿燻製茶3X4(実施例4)が4.5で、ともに燻製処理前の仕上茶基準品3(比較例3)を下回ったが、加湿燻製茶3X4(実施例4)は燻製により茶葉に艶が増しており、燻製茶3B(比較例4)と比べて高評価であった。さらに、仕上茶基準品3(比較例3)と比べて、燻製茶3B(比較例4)と加湿燻製茶3X4(実施例4)は桜の香りが付与されていた。また、仕上茶基準品3(比較例5)の水分含有率は3.7%であった。燻製茶製法により得られた燻製茶3C(比較例6)の燻製前は仕上茶基準品3(比較例5)と同じ3.7%、燻製後の水分含有率は3.8%であり燻煙自体に含まれている水分が付着して水分量が増加したものと推定される。燻製茶3C(比較例6)の官能検査では色沢の点数が仕上茶基準品3(比較例5)と同等の5.0、水色の点数は仕上茶基準品3(比較例5)を大きく下回って3.0となった。加湿時間を3時間とした加湿燻製茶3X4(実施例5)では、加湿後燻製前の水分含有率が9.9%から燻製後に8.1%となり、官能検査では色沢の点数が仕上茶基準品3(比較例5)、燻製茶3C(比較例6)を上回る6.0、水色の点数は仕上茶基準品3(比較例5)よりも低いが燻製茶3C(比較例6)よりも高い4.0であった。色沢の点数は、燻製により茶葉に艶が増したことを評価した。さらに、仕上茶基準品3(比較例5)と比べると、燻製茶3C(比較例6)と加湿燻製茶3X4(実施例5)は桜の香りが付与されていた。この結果から、本実施形態の加湿燻製茶の製造方法のように、燻製工程S2Yの前に加湿工程S2Xを行うことにより、燻製の効果である香りの付与の効果が得られるうえに、燻製に伴う仕上茶の色沢の低下を抑制できることが明らかとなった。また、加湿時間が長いほど、色沢の低下抑制効果が高いことが示された。
【0031】
次に、上述した実施例、比較例の緑茶から茶種を変え、発酵茶の代表である紅茶についても、燻製工程の前に加湿工程を行うか否かによる色沢と水色の違いを調べた。紅茶の製法としては、生茶から荒茶を得る荒茶工程(萎凋、揉捻、発酵、乾燥の各工程を含む)の後、荒茶から仕上茶(仕上紅茶)を得る仕上茶工程(等級区分、配合(ブレンド)の各工程を含む)を行うという、通常の製法を採用している。この通常製法による仕上茶(以下、「仕上紅茶基準品」、比較例7)を比較基準とした。仕上茶工程において、配合工程後の茶葉を燻製工程に供したものを、燻製茶製法により得られた仕上茶である燻製紅茶(比較例8)とした。一方、仕上茶工程において、配合工程後の茶葉に対して加湿工程(3時間)を行い、その後に燻製工程に供したものを、本実施形態の加湿燻製茶製法により得られた仕上茶である加湿燻製紅茶(実施例6)とした。加湿及び燻製の方法については、上述した緑茶の場合に適用した方法と同様である。このようにして得られた加湿燻製紅茶(実施例6)について、仕上紅茶基準品(比較例7)と、燻製紅茶(比較例8)を比較対象として、燻製前後における水分含有率の変化と、官能検査として色沢と水色、香味の評価を行った。色沢の検査では、前述した官能検査と同様に、茶葉の目視による色沢の評価を行い、水色の検査では仕上茶の茶葉3gを200mlの熱湯で3分間抽出した抽出液の色味を目視により評価し、同じ抽出液を使用して香味も評価した。官能検査では、比較例7の仕上紅茶基準品の点数を何れも5点として、それぞれ比較例8と実施例6の比較基準とした。図4にこれらの検査結果を示す。
【0032】
仕上紅茶基準品(比較例7)の水分含有率は5.8%であった。燻製茶製法により得られた燻製紅茶(比較例8)の燻製後の水分含有率は5.0%であり(燻製前は仕上紅茶基準品(比較例7)と同じ5.8%である)、官能検査では色沢の点数が5.0で仕上紅茶基準品(比較例7)と同等であったが、水色の点数が3.0となり、仕上紅茶基準品(比較例7)を大きく下回った。3時間の加湿後に燻製を行った加湿燻製紅茶(実施例6)では、加湿後燻製前の水分含有率が11.7%から燻製後に9.4%となり、官能検査では色沢の点数が仕上紅茶基準品(比較例7)を上回る6.0、水色は仕上紅茶基準品(比較例7)と同等の5.0であった。色沢の点数は、燻製により茶葉に艶が増したことを評価した。さらに、仕上紅茶基準品(比較例7)と比べると、燻製紅茶(比較例8)と加湿燻製紅茶(実施例8)は桜の香りが付与されていた。この結果から、本実施形態の加湿燻製紅茶の製造方法のように、燻製工程の前に加湿工程を行うことにより、燻製の効果である香りの付与の効果が得られるうえに、燻製に伴う仕上茶の茶葉の色沢の低下を抑制でき、抽出液の水色も向上することが明らかとなった。
【0033】
最後に、上述した実施例、比較例の緑茶、紅茶から茶種を変え、半発酵茶の代表である烏龍茶についても、燻製工程の前に加湿工程を行うか否かによる色沢と水色の違いを調べた。烏龍茶の製法としては、生茶から荒茶を得る荒茶工程(萎凋、発酵、釜煎り、揉捻、締め揉み、玉解き、乾燥の各工程を含む)の後、荒茶から仕上茶(仕上紅茶)を得る仕上茶工程(選別、配合(ブレンド)の各工程を含む)を行うという、通常の製法を採用している。この通常製法による仕上茶(以下、「仕上烏龍茶基準品」、比較例9)を基準とした。仕上茶工程において、配合工程後の茶葉を燻製工程に供したものを、燻製茶製法により得られた仕上茶である燻製烏龍茶(比較例10)とした。一方、仕上茶工程において、配合工程後の茶葉に対して加湿工程(3時間)を行い、その後に燻製工程に供したものを、本実施形態の加湿燻製茶製法により得られた仕上茶である加湿燻製烏龍茶(実施例7)とした。加湿及び燻製の方法については、上述した緑茶と紅茶の場合に適用した方法と同様である。このようにして得られた加湿燻製烏龍茶(実施例7)について、仕上烏龍茶基準品(比較例9)と、燻製烏龍茶(比較例10)を比較対象として、燻製前後における水分含有率の変化と、官能検査として色沢と水色、香味の評価を行った。色沢の検査では、前述した官能検査と同様に、茶葉の目視による色沢の評価を行い、水色の検査では仕上茶の茶葉3gを200mlの熱湯で3分間抽出した抽出液の色味を目視により評価し、同じ抽出液を使用して香味も評価した。官能検査では、仕上烏龍茶基準品(比較例9)の点数を何れも5点として、それぞれ燻製烏龍茶(比較例10)と加湿燻製烏龍茶(実施例7)の比較基準とした。図5にこれらの検査結果を示す。
【0034】
仕上烏龍茶基準品(比較例9)の水分含有率は3.0%であった。燻製紅茶製法により得られた燻製烏龍茶(比較例10)の燻製前の水分含有率は3.0%であり、燻製後の水分含有率は2.8%に減少した。官能検査では色沢、水色の点数が何れも4.0で仕上烏龍茶茶基準品(比較例9)を下回った。3時間の加湿後に燻製を行った加湿燻製烏龍茶(実施例7)では、加湿後燻製前の水分含有率が6.0%から燻製後に5.2%となり、官能検査では色沢の点数が仕上烏龍茶基準品(比較例9)よりも低いが燻製烏龍茶(比較例10)よりも高い4.2、水色は仕上烏龍茶基準品(比較例9)を上回る6.0であった。さらに、仕上烏龍茶基準品(比較例9)と比べると、燻製烏龍茶(比較例10)と加湿燻製烏龍茶(実施例7)は桜の香りが付与されていた。この結果から、本実施形態の加湿燻製烏龍茶の製造方法のように、燻製工程の前に加湿工程を行うことにより、燻製の効果である香りの付与の効果が得られるうえに、加湿工程を経ない場合と比べて燻製に伴う仕上茶の色沢の低下を抑制でき、水色は向上することが明らかとなった。
【0035】
以上の結果から、不発酵茶(緑茶)、発酵茶(紅茶)、半発酵茶(烏龍茶)という製法の違いによる茶種を問わず、仕上茶工程において燻製を行うことで、燻製材料の香味が付与された仕上茶(加湿燻製茶)を得ることができることが明らかとなり、その香味(香気や滋味)は、通常の製法による茶と同等かそれ以上に優れたものとなった。また、燻製の前段階で加湿を行うことで、荒茶や仕上茶の基準品と比較して遜色のない色沢や水色の茶葉を製造することができ、加湿を行わずに燻製する製法と比べると、色沢や水色の低下が抑制され、商品価値の高い仕上茶が得られることが明らかとなった。仕上茶工程において加湿後に燻製を行うことによるこのような効果は、特に緑系の色味を持つ緑茶において顕著に得られるものであったが、本来的に赤系の色味が強い紅茶や茶系の色味が強い烏龍茶においても同様の傾向が示された。
【0036】
なお、本発明は上述した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。例えば、仕上茶工程において行う加湿工程と燻製工程の具体的な実施態様は、茶の品種や状態によって適宜変更することができ、それ以外の製造工程についても、各地で通常行われる茶の製造方法を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0037】
S1…荒茶工程
S2…仕上茶工程
S2X…加湿工程
S2Y…燻製工程
1…生茶葉
2…荒茶
3…仕上茶
3X(3X1,3X2,3X3,3X4,3X5)…加湿燻製茶
図1
図2
図3
図4
図5