(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】シリカ多孔質中空糸管およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 71/02 20060101AFI20240422BHJP
B01D 53/22 20060101ALI20240422BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20240422BHJP
B01D 69/08 20060101ALI20240422BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20240422BHJP
C01B 39/38 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
B01D71/02
B01D53/22
B01D69/02
B01D69/08
B01D71/02 500
C02F1/44 Z
C01B39/38
(21)【出願番号】P 2020114962
(22)【出願日】2020-07-02
【審査請求日】2023-03-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・研究集会名 イノベーション・ジャパン2019~大学見本市&ビジネスマッチング 開催場所 東京ビックサイト青梅展示棟Bホール 開催日 令和1年8月29日(プレゼンテーション、ポスター展示、資料配布) ・刊行物名 「膜シンポジウム 2019 要旨集第87頁」 発行日 令和1年10月28日 発行所 一般社団法人日本膜学会 ・研究集会名 膜シンポジウム 2019 開催場所 大阪大学 基礎工学国際等Σホール 開催日 令和1年11月12日 ・研究集会名 産学連携テックミーティング「社会課題解決のための、大学研究シーズ発表会」 開催場所 大阪イノベーションハブ 開催日 令和1年10月30日 ・刊行物名 「第35回ゼオライト研究発表会 予稿集第74頁」 発行日 令和1年12月5日 発行所 一般社団法人日本ゼオライト学会 ・研究集会名 第35回ゼオライト研究発表会 開催場所 タワーホール船堀 開催日 令和1年12月5日 ・ウェブサイトのアドレス http://www3.scej.org/meeting/85a/abst/I205.pdf 掲載日 令和2年3月2日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】荒木 貞夫
(72)【発明者】
【氏名】山下 凌輔
(72)【発明者】
【氏名】山本 秀樹
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/081841(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0044130(US,A1)
【文献】米国特許第05779904(US,A)
【文献】国際公開第2017/115454(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00 - 71/82
C02F 1/44
C01B 33/20 - 39/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内管と、当該内管の外周に沿って形成されてなる外管とを備える紡糸口金の外管に、シリカと熱可塑性樹脂とを含有するスラリーを供給し、かつ、上記紡糸口金の内管に水を供給した後、上記外管から上記スラリーを吐出し、かつ、上記内管から上記水を吐出することにより、中空糸状の構造物を得る工程と、
上記中空糸状の構造物を、1200℃以上、1300℃未満の温度で焼成し、珪素と酸素とを主成分として含有し、アモルファス構造と、中空糸状の形状とを有するシリカ多孔質中空糸管支持体を得る第一焼成工程と、
種結晶として、オールシリカCHA型ゼオライトを上記シリカ多孔質中空糸管支持体に担持し、シリカ、構造規定剤、および水を含有する合成ゲルによって上記種結晶を被覆した後、上記シリカ多孔質中空糸管支持体を水熱合成に供することによって、上記シリカ多孔質中空糸管支持体の表面にオールシリカCHA型ゼオライト膜を形成する水熱合成工程と、
上記水熱合成工程を経た上記シリカ多孔質中空糸管支持体を焼成する第二焼成工程と、を含み、
上記水熱合成を、100℃以上200℃以下で、48時間超72時間以下行い、
上記合成ゲルのpHが7であり、
上記合成ゲル中の水と珪素とのモル比が、珪素1に対して水が6以上、7以下である、シリカ多孔質中空糸管の製造方法。
【請求項2】
上記合成ゲルが、上記種結晶としてのオールシリカCHA型ゼオライトよりも平均粒子径が大きいオールシリカCHA型ゼオライトをさらに含有する、請求項
1に記載のシリカ多孔質中空糸管の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法により製造されたシリカ多孔質中空糸管の表面に、上記オールシリカCHA型ゼオライト膜が有するCHA型ゼオライトの細孔径以上の大きさの分子を有する気体と、上記CHA型ゼオライトの細孔径より小さい分子を有する気体とを含有する混合ガスを接触させることにより、上記CHA型ゼオライトの細孔径以上の大きさの分子を有する気体と、上記CHA型ゼオライトの細孔径より小さい分子を有する気体とを分離する、混合ガスの分離方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の製造方法により製造されたシリカ多孔質中空糸管の表面に、水と酢酸とを含有する混合液体を接触させることにより、水と酢酸とを分離する、混合液体の分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ多孔質中空糸管およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
混合ガス、混合液体等の分離および濃縮に使用される薄膜は、その材料および合成方法により、薄膜中での気体等の透過特性が大きく左右される。上記薄膜の材料としては、高分子または無機材料等が使用されている。近年、広い温度範囲で気体等の分離および濃縮を実施でき、かつ有機物を含む混合物にも使用できるため、上記薄膜には、無機材料であるゼオライトが使用されることが多い。
【0003】
例えば、特許文献1には、オールシリカSTT型ゼオライト(Si-STT)の薄膜を、アルミナを材料とする支持体上に形成させた積層体が開示されている。
【0004】
また、混合ガス、混合液体等の分離および濃縮に使用されるシリカの多孔質管として、バイコールガラスが従来から知られている。さらに、シリカの支持体上にMFI結晶型のゼオライトを形成した積層体を用い、エタノールと水との混合物から水を分離する技術についても知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2017/115454号
【文献】国際公開第2018-131707号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、ゼオライト膜は、成膜後、細孔中の構造規定剤を除去する目的で焼成が行われる。しかしながら、例えば特許文献1に開示の技術は、ゼオライト膜とアルミナとの熱膨張係数の差により、上記焼成の際にゼオライト膜に欠陥が生じ得るという問題がある。
【0007】
また、例えば特許文献1に開示の技術は、ゼオライト膜の製造中に、アルミナの支持体からアルミニウムが溶出し、ゼオライト骨格中へ混入することにより、ゼオライト膜の高温での気体透過性および透過係数比、耐熱性、耐機械的特性等が低下するという問題、およびゼオライト膜の製造が困難であるという問題が生じ得る。
【0008】
バイコールガラスは、耐熱性および耐食性に優れるが、気体の透過係数が低く(3×10-8 mol m-2 s-1 Pa-1程度)、かつ高価であるという問題がある。
【0009】
特許文献2に開示の積層体は、調製条件がアルカリ性に限られているため、安全上好ましくないという問題がある。さらに、気体、液体の分離膜としては、耐久性および分離選択性の観点からゼオライトの比率が高いことが望まれているが、上記積層体は、これらの点において改善の余地があるものであった。また、上記積層体の効果としては、エタノールと水との混合物からの水の分離しか報告されていないが、より広範な対象についての分離が可能な分離膜が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、中空糸形状のシリカ多孔質支持体上にオールシリカCHA型ゼオライト膜を形成することで、耐熱性、機械的強度、気体分離能に優れたシリカ多孔質中空糸管を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の構成を含む。
<1>珪素と酸素とを主成分として含有し、アモルファス構造と、中空糸状の形状とを有するシリカ多孔質中空糸管支持体と、
当該シリカ多孔質中空糸管支持体の表面に形成されてなるオールシリカCHA型ゼオライト膜とを備える、シリカ多孔質中空糸管。
<2>上記シリカ多孔質中空糸管支持体は、三点曲げ試験に供したときの破壊荷重が1N以上である、<1>に記載のシリカ多孔質中空糸管。
<3>上記オールシリカCHA型ゼオライト膜が有するCHA型ゼオライトの細孔径より小さい分子を有する気体を透過可能である、<1>または<2>に記載のシリカ多孔質中空糸管。
<4>上記気体が、ヘリウム、水素、二酸化炭素および窒素からなる群より選ばれる1以上の気体である、<3>に記載のシリカ多孔質中空糸管。
<5>上記CHA型ゼオライトの細孔径以上の大きさの分子を有する気体の透過係数を1としたとき、上記CHA型ゼオライトの細孔径より小さい分子を有する気体の透過係数が10.0以上である、<3>または<4>に記載のシリカ多孔質中空糸管。
<6>内管と、当該内管の外周に沿って形成されてなる外管とを備える紡糸口金の外管に、シリカと熱可塑性樹脂とを含有するスラリーを供給し、かつ、上記紡糸口金の内管に水を供給した後、上記外管から上記スラリーを吐出し、かつ、上記内管から上記水を吐出することにより、中空糸状の構造物を得る工程と、
上記中空糸状の構造物を、1200℃以上、1300℃未満の温度で焼成し、珪素と酸素とを主成分として含有し、アモルファス構造と、中空糸状の形状とを有するシリカ多孔質中空糸管支持体を得る第一焼成工程と、
種結晶として、オールシリカCHA型ゼオライトを上記シリカ多孔質中空糸管支持体に担持し、シリカ、構造規定剤、および水を含有する合成ゲルによって上記種結晶を被覆した後、上記シリカ多孔質中空糸管支持体を水熱合成に供することによって、上記シリカ多孔質中空糸管支持体の表面にオールシリカCHA型ゼオライト膜を形成する水熱合成工程と、
上記水熱合成工程を経た上記シリカ多孔質中空糸管支持体を焼成する第二焼成工程と、を含む、シリカ多孔質中空糸管の製造方法。
<7>上記水熱合成を、100℃以上200℃以下で、48時間超96時間未満行う、<6>に記載のシリカ多孔質中空糸管の製造方法。
<8>上記合成ゲルのpHが6以上、8以下である、<6>または<7>に記載のシリカ多孔質中空糸管の製造方法。
<9>上記合成ゲル中の水と珪素とのモル比が、珪素1に対して水が3.9超、7.3未満である、<6>から<8>のいずれか一項に記載のシリカ多孔質中空糸管の製造方法。
<10>上記合成ゲルが、上記種結晶としてのオールシリカCHA型ゼオライトよりも平均粒子径が大きいオールシリカCHA型ゼオライトをさらに含有する、請求項<6>から<9>のいずれか一項に記載のシリカ多孔質中空糸管の製造方法。
<11><1>から<5>のいずれか1項に記載のシリカ多孔質中空糸管の表面に、上記オールシリカCHA型ゼオライト膜が有するCHA型ゼオライトの細孔径以上の大きさの分子を有する気体と、上記オールシリカCHA型ゼオライト膜が有するCHA型ゼオライトの細孔径より小さい分子を有する気体とを含有する混合ガスを接触させることにより、上記オールシリカCHA型ゼオライト膜が有するCHA型ゼオライトの細孔径以上の大きさの分子を有する気体と、上記オールシリカCHA型ゼオライト膜が有するCHA型ゼオライトの細孔径より小さい分子を有する気体とを分離する、混合ガスの分離方法。
<12><1>から<5>のいずれか1項に記載のシリカ多孔質中空糸管の表面に、水と酢酸とを含有する混合液体を接触させることにより、水と酢酸とを分離する、混合液体の分離方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、耐熱性、機械的強度、気体分離能に優れたシリカ多孔質中空糸管を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】1150℃~1400℃で焼成することによって得られたシリカ中空糸支持体のXRDパターンを示すグラフである。
【
図2】シリカ中空糸状支持体の焼成温度と、シリカ中空糸状支持体の窒素透過係数および三点曲げ試験の結果との関係を示すグラフである。
【
図3】1250℃、1300℃、1350℃で焼成することによって得られたシリカ中空糸状支持体の断面をFE-SEMによって観察した結果を示す図である。
【
図4】実施例で行ったオールシリカCHA型ゼオライト膜の合成において、H
2O/Si比を6.7、合成ゲルのpHを7とし、水熱合成を150℃で72時間行って得られたシリカ多孔質中空糸管のSi-CHA膜表面のXRDパターンを示す図である。
【
図5】オールシリカCHA型ゼオライト膜を合成する前のシリカ多孔質中空糸管支持体の表面、および、上記オールシリカCHA型ゼオライト膜の表面をFE-SEMにより観察した結果を示す図である。
【
図6】実施例で調製したシリカ多孔質中空糸管の縦断面をFE-SEMにより観察した結果を示す図である。
【
図7】Al-CHA膜の、CO
2およびCH
4の透過係数の測定結果を示す図である。
【
図8】
図3に示すCH
4の透過係数を1としたときのCO
2の透過係数(CO
2/CH
4透過係数比)を示す図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係るシリカ多孔質中空糸管のCO
2およびCH
4の透過係数の測定結果を示す図である。
【
図10】
図9に示すCH
4の透過係数を1としたときのCO
2の透過係数(CO
2/CH
4透過係数比)を示す図である。
【
図11】水熱合成時間とCO
2の透過係数およびCH
4の透過係数との関係性を示すグラフである。
【
図12】合成ゲルのpHと、CO
2の透過係数、およびCH
4の透過係数との関係性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0014】
なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意図する。本明細書において、「気体分離能」とは、複数種類の気体が混合した気体から、所望の成分を除外、あるいは抽出する効果を意味し、後述の透過係数の比によって決定される。
【0015】
〔1.シリカ多孔質中空糸管〕
本発明の一実施形態に係るシリカ多孔質中空糸管は、珪素および酸素を主成分として含有し、アモルファス構造および中空糸状の形状とを有するシリカ多孔質中空糸管支持体と、当該シリカ多孔質中空糸管支持体の表面に形成されてなるオールシリカCHA型ゼオライト膜とを備える。
【0016】
前述したように、従来技術では、無機多孔質支持体が珪素以外のアルミナ等を含むことにより、製造時に行う焼結に伴い、アルミニウム等がCHA型ゼオライト膜中に溶出すること等の課題があった。
【0017】
これに対し、本発明者は、珪素および酸素を主成分として含有する無機多孔質支持体を構成することにより、焼成を行ったとしてもCHA型ゼオライト膜中に他の成分が混入せず、耐熱性、機械的強度、気体分離能に優れたシリカ多孔質中空糸管を製造できることを見出した。
【0018】
本明細書において「シリカ多孔質中空糸管」は、後述するように、シリカ多孔質中空糸管支持体の表面に、オールシリカCHA型ゼオライト膜を形成することによって得ることができる。
【0019】
つまり、上記「シリカ多孔質中空糸管」は、単なるシリカ多孔質から形成される中空糸管のみを意味するわけではない。換言すれば、「シリカ多孔質中空糸管」は、シリカ多孔質中空糸管支持体と、オールシリカCHA型ゼオライト膜の複合体であるとも言える。本明細書中、「シリカ多孔質中空糸管」を、単に「中空糸管」とも称する。
【0020】
上記シリカ多孔質中空糸管支持体は、三点曲げ試験に供したときの破壊荷重が1N以上であることが好ましく、2N以上であることがより好ましい。
【0021】
破壊荷重が上記範囲であれば、シリカ多孔質中空糸管支持体が十分な強度を有するため、本発明の一実施形態に係る中空糸管の耐久性を向上させることができる。三点曲げ試験については後述する。上記破壊強度は、高ければ高いほど好ましいが、現実的には3N以下であってもよい。
【0022】
本発明の一実施形態に係る中空糸管は、オールシリカCHA型ゼオライト膜が有するCHA型ゼオライトの細孔径より小さい分子を有する気体を透過可能であることが好ましい。上記細孔径(0.38nm)より小さい分子を有する気体としては、例えば、窒素、酸素、二酸化炭素、アルゴン、一酸化炭素、ヘリウム、水素等から選ばれる1以上の気体が挙げられる。
【0023】
また、上記中空糸管はCHA型ゼオライトの細孔径以上の大きさの分子を有する気体を透過しないことが好ましい。上記細孔径以上の大きさの分子を有する気体としては例えば、メタンガス、エタンガス、ブタンガス、プロパンガス、プロピレンガス、CF4ガス、SF6ガス等から選ばれる1以上の気体が挙げられる。
【0024】
本明細書中、CHA型ゼオライトの細孔径より小さい分子を有する気体を「透過可能な気体」、CHA型ゼオライトの細孔径以上の大きさの分子を有する気体を「透過困難な気体」とも称する。
【0025】
上記構成であれば、CHA型ゼオライトに対する気体の透過係数の違いを利用して、複数種類の気体を含有する混合気体から、所望の気体を効率的に取り出すことができ、混合気体の浄化等を図ることができる。
【0026】
上記中空糸管は、上記透過可能な気体の透過係数が1×10-7mol m-2s-1 Pa-1以上であることが好ましく、1×10-6mol m-2 s-1 Pa-1以上であることがより好ましく、1×10-5mol m-2 s-1 Pa-1以上であることがさらに好ましい。
【0027】
本明細書において気体透過係数とは、下記式(1)によって算出される値のことであり、気体透過量の指標となる数値である。気体透過係数が上記範囲であれば、透過性に優れると言える。
【0028】
気体透過係数=透過量[mol/s]/(膜面積[m2]×膜間差圧[Pa])・・・(1)
上記中空糸管は、上記透過困難な気体の透過係数を1としたとき、上記透過可能な気体の透過係数が10.0以上であることが好ましく、30.0以上であることがより好ましく、50.0以上であることがさらに好ましい。
【0029】
本明細書では、上記透過困難な気体の透過係数を1としたときの、透過可能な気体の透過係数を「透過係数比」とも称する。透過係数比が10.0以上であれば、気体分離能に優れ、混合気体から、透過可能な気体を十分選択的に分離することができると言える。すなわち、中空糸管の透過係数比が大きいほど、気体分離能が優れていると言える。
【0030】
上記透過係数比は、透過困難な気体の透過係数を、透過可能な気体の透過係数で除することによって得られる数値である。
【0031】
上記中空糸管は、混合気体を分離する目的で使用されてもよい。分離される混合気体は、2種類の気体が混合した気体であってもよく、3種類以上の気体が混合した気体であってもよい。
【0032】
上記混合気体としては特に限定されないが、例えば、上記透過困難な気体から選択される一種類以上と、上記透過可能なから選択される一種類以上との混合物等が挙げられる。上記混合気体は、無機物の気体と有機物の気体との混合物、無機物の気体同士の混合物、有機物の気体同士の混合物のいずれであってもよい。
【0033】
例えば、上記中空糸管は、二酸化炭素とメタン、窒素とメタン、水素とメタン、水素と窒素等を分離する目的で使用されてもよい。
【0034】
上記中空糸管は、二酸化炭素および窒素等の分子サイズが小さい気体の透過性に優れ、かつ、メタン等の分子サイズが大きい気体の透過性が低いため、CHA型ゼオライトに対する透過係数の異なる気体同士を分離するために好適に使用することができる。
【0035】
上記中空糸管は、酢酸と、水とを分離するために使用することも可能である。上記中空糸管は、水の透過性に優れ、かつ、酢酸の透過性が低いため、酢酸と、水とを分離するために好適に使用することができる。
【0036】
以下、上記中空糸管を構成する各成分について説明する。
【0037】
<1-1.シリカ多孔質中空糸管支持体>
本発明の一実施形態に係るシリカ多孔質中空糸管が備えるシリカ多孔質中空糸管支持体は、珪素と酸素とを主成分として含有し、アモルファス構造と、中空糸状の形状を有する。本明細書中、シリカ多孔質中空糸管支持体を単に「支持体」とも称する。
【0038】
上記支持体は、後述するように、シリカと熱可塑性樹脂とを含有するスラリーを用いて得た中空糸状の構造物を、1200℃以上、1300℃未満の温度で焼成することによって得ることができる。このとき、シリカはアモルファスシリカとして得られる。
【0039】
上記支持体には、珪素および酸素が主成分として含有されている。すなわち、上記支持体全体の重量を100重量%としたとき、上記支持体における珪素および酸素の含有量は100重量%であることが好ましいが、上記支持体には、上記支持体の気体透過性等に影響を与えない限りにおいて、例えば、不可避的に含まれる不純物が少量含有されていてもよい。
【0040】
前述したように、上記支持体にアルミニウムが含有されている場合、Si-CHA膜の欠陥、Si-CHA膜の特性の低下等の原因となり得る。そのため、上記支持体におけるアルミニウムの含有量は少ないほど好ましく、100ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがさらに好ましく、全く含まないことが最も好ましい。
【0041】
例えば、上記支持体にアルミニウムが不純物として含まれていても、その含有量が上記範囲であれば、高温で焼成を行ったとしても、Si-CHA膜の強度および気体分離能等に与える影響を無視することができる。
【0042】
上記支持体は、中空糸状の構造を有する。支持体自身の壁厚が薄く、高い空隙率を示す中空糸状構造は、支持体の抵抗が低いため、高い透過係数を示すことが期待できる。
【0043】
上記支持体の断面の直径(上記支持体の外径)および空洞の直径(上記支持体の内径)は特に限定されるものではないが、断面の直径は1mm以上、10mm以下が好ましく、2mm以上、7mm以下がより好ましく、2mm以上、3mm以下がさらに好ましい。
【0044】
また、空洞の直径は、0.5mm以上、3mm以下であることが好ましく、0.7mm以上、2mm以下であることがより好ましく、1mm以上、2mm以下であることがさらに好ましい。ただし、上記空洞の直径は、上記断面の直径よりも小さい。
【0045】
上記支持体の形状は、必要な機械的強度が満足される限り、薄く、かつ細長いことが好ましい。
【0046】
上記支持体は、その表面(以降、支持体表面とも称する。)にSi-CHA膜が形成されてなる。すなわち、上記支持体は、上記表面にてSi-CHAを結晶化させる。本明細書中、支持体表面とは、支持体の表面部分を意味し、表面であればそれぞれの形状のどこの表面であってもよく、複数の面であっても良い。例えば中空糸管の外側の表面でも内側の表面でもよく、場合によっては外側と内側の両方の表面であってよい。支持体表面は滑らかであることが好ましく、必要に応じて表面を研磨してもよい。
【0047】
上記支持体表面が有する細孔の平均細孔径は特に制限されるものではないが、平均細孔径が制御されているものが好ましく、0.02μm以上、20μm以下が好ましく、0.05μm以上、10μm以下がより好ましく、0.1μm以上、5μm以下がさらに好ましい。
【0048】
上記平均細孔径は、例えば、バブルポイント法によって測定することができる。また、上記平均細孔径を制御する方法としては、例えば焼成温度、時間、アモルファスシリカ原料の大きさを変更すること等が挙げられる。
【0049】
上記支持体表面のうち、Si-CHA膜が形成されていない部分の細孔径は制限されるものではなく、また特に制御される必要は無いが、その他の部分の気孔率は20%以上、60%以下であることが好ましい。
【0050】
上記支持体表面にSi-CHA膜を形成する方法については、後述する。
【0051】
<1-2.オールシリカCHA型ゼオライト膜>
本発明の一実施形態に係る中空糸管は、上記支持体の表面に形成されてなるオールシリカCHA型ゼオライト膜を備える。なお、オールシリカCHA型ゼオライト(Si-CHA)とは、アルミニウムを含有しないCHA型ゼオライトのことである。
【0052】
CHAとは、International ZeoliteAssociation(IZA)が定めるゼオライトの構造を規定する骨格コードである。骨格コードは骨格の幾何構造のみを指定しており、ゼオライトの組成、構成元素が異なっていても、同じ幾何構造をとっていれば、同じ骨格コードに分類される。
【0053】
CHA型ゼオライトは3.8×3.8Åの径を有する酸素8員環からなる3次元細孔を有することを特徴とする構造をとり、その構造はX線回折データにより特徴付けられる。
【0054】
上記Si-CHA膜は、Si-CHAによって構成される膜状物のことである。好ましくは上記支持体表面にSi-CHAを結晶化させて形成された膜である。膜を構成する成分としては、基本的に珪素および酸素以外を含有しない。
【0055】
上記支持体表面は、上記中空糸管の気体透過性等に影響を与えない限りにおいて、Si-CHA膜以外の膜(例えば、オールシリカMFI型ゼオライト膜)をも備えていてもよいが、実質的にSi-CHA膜のみを備えることが好ましい。
【0056】
上記Si-CHA膜の厚さとしては、特に制限されるものではないが、0.1μm以上、100μm以下であることが好ましく、0.6μm以上、60μm以下であることがより好ましく、1.0μm以上、20μm以下であることがさらに好ましい。膜厚が上記範囲であれば、透過係数および気体分離能をより向上させることができる。
【0057】
〔2.シリカ多孔質中空糸管の製造方法〕
本発明の一実施形態に係るシリカ多孔質中空糸管の製造方法は、内管と、当該内管の外周に沿って形成されてなる外管とを備える紡糸口金の外管に、シリカと熱可塑性樹脂とを含有するスラリーを供給し、かつ、上記紡糸口金の内管に水を供給した後、上記外管から上記スラリーを吐出し、かつ、上記内管から上記水を吐出することにより、中空糸状の構造物を得る工程と、
上記中空糸状の構造物を、1200℃以上、1300℃未満の温度で焼成し、珪素と酸素とを主成分として含有し、アモルファス構造と、中空糸状の形状とを有するシリカ多孔質中空糸管支持体を得る第一焼成工程と、
種結晶として、オールシリカCHA型ゼオライトを上記シリカ多孔質中空糸管支持体に担持し、シリカ、構造規定剤、および水を含有する合成ゲルによって上記種結晶を被覆した後、上記シリカ多孔質中空糸管支持体を水熱合成に供することによって、上記シリカ多孔質中空糸管支持体の表面にオールシリカCHA型ゼオライト膜を形成する水熱合成工程と、
上記水熱合成工程を経た上記シリカ多孔質中空糸管支持体を焼成する第二焼成工程と、を含む。
【0058】
上記構成により、上記支持体からのアルミニウムの溶出等による問題を考慮する必要がなくなるため、耐熱性、機械的強度、気体分離能に優れたシリカ多孔質中空糸管を得ることができる。なお、〔1.シリカ多孔質中空糸管〕で説明した事項については、以下では説明を省略する。
【0059】
<2-1.相転換法による形成工程>
上記中空糸状の構造物を得る工程から上記第一焼成工程までの工程を経ることにより、上述したシリカ多孔質中空糸管支持体を製造することができる。上記工程を備える方法は、相転換法とも称される。
【0060】
上記紡糸口金は、内管および内管の外周に沿って形成されてなる外管とを備えていればよく、その構造は特に限定されない。上記紡糸口金の外管に、シリカと熱可塑性樹脂とを含有するスラリーを供給し、かつ、上記紡糸口金の内管に水を供給した後、上記外管から上記スラリーを吐出し、かつ、上記内管から上記水を吐出することにより、吐出された上記スラリーは、上記水を取り囲むようにして上記水と接触する。そうすると、熱可塑性樹脂が水と接触すると同時に固化を始め、水は下方に落下するため、内部が空洞になった中空糸状の構造物が得られる。
【0061】
上記スラリーおよび上記水の供給および吐出を連続的に行うことにより、上記中空糸状の構造物を所望の量、得ることができる。上記中空糸状の構造物は、上記紡糸口金の吐出孔の下方に設置した水槽中の水に浸漬するなどして冷却し、十分に固化させることが好ましい。
【0062】
上記スラリーは、シリカと熱可塑性樹脂とを含有する。シリカとしては、シリカ原料のみからなることが好ましい。例えば、シリカゲルを用いることができる。シリカゲルは、安価で入手することができるため、アルミニウム等を含有しない上記支持体を低コストで製造することができる。
【0063】
上記スラリーは、その他に、分散剤、溶媒を適宜含有することが好ましい。分散剤としては、例えば、ポリヒドロキシステアリン酸PEG-30(PEG-30)等を用いることができる。溶媒としては、例えばN-メチル-ピロリドン(NMP)等を用いることができる。
【0064】
上記熱可塑性樹脂としては、上記溶媒へ溶解しやすいため、例えば、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミドおよびPMMAからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。中でも、水との接触によって固化しやすく、上記中空糸状の構造物を容易に得ることができるため、PMMAであることが好ましい。
【0065】
上記スラリーは、例えば、シリカゲルを粉砕し、PEG-30およびNMP等を加えて、均一になるまで撹拌した後、ポリメチルメタクリレート等をさらに加えて溶解させることにより、得ることができる。
【0066】
上記中空糸状の構造物を十分に固化させた後、1200℃以上、1300℃未満の温度で焼成する第一焼成工程に供することにより、シリカ多孔質中空糸管支持体を得ることができる。上記焼成は、例えば、上記温度を有するマッフル炉内に上記構造物を載置することによって行うことができる。
【0067】
図1は、焼成温度に対応する、シリカ多孔質中空糸管支持体の結晶構造を示す。
図1には、焼成を行う温度が1300℃以下の場合、アモルファスを示すブロードなピークが得られている。
【0068】
しかし、実施例にて後述するように、焼成温度が1300℃の場合、結晶化が進行して粒子間に隙間が存在せず、かつ、上記支持体の窒素透過係数が測定限界値以下であった。よって、焼成を行う温度は、安定的にアモルファスシリカを得る観点から、1250℃以上1300℃未満であることが好ましく、1250℃であることが最も好ましい。
【0069】
また、1250℃以上の焼成温度は、上記支持体の強度を向上させる観点からも好ましい。焼成を行う時間は特に限定されないが、例えば1~3時間である。
【0070】
<2-2.水熱合成工程>
水熱合成工程は、上記支持体に水熱合成によってSi-CHA膜を形成する工程である。当該工程では、種結晶として、Si-CHAを上記支持体に担持し、シリカ、構造規定剤、および水を含有する合成ゲルによって上記種結晶を被覆した後、上記支持体を水熱合成に供することによって、上記支持体の表面にSi-CHA膜を形成する。
【0071】
上記種結晶を上記支持体に担持する方法としては、例えばラビングを挙げることができる。上記種結晶は、上記支持体に担持後、シリカ、構造規定剤、および水を含有する合成ゲルによって被覆する。
【0072】
上記シリカとしては例えば、シリカゲル、コロイダルシリカ、フュームドシリカ等が挙げられる。
【0073】
上記構造規定剤の種類は特に限定されないが、例えば、N,N,N-トリメチル-1-アダマントアンモニウム水酸化物、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、テトラエチルアンモニウム、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルピペリジン等が挙げられる。
【0074】
上記合成ゲルは、シリカおよび構造規定剤を混合し、フッ化水素でpHを調整し、加熱により水分を除去した生成物に水を添加することによって調製することができる。
【0075】
上記種結晶を上記合成ゲルによって被覆する方法としては、例えば、上記合成ゲルを上記種結晶に塗布する方法、上記種結晶を担持した上記支持体を、上記合成ゲルに浸漬する方法等を挙げることができる。また、上記種結晶の被覆をより確実に行うために、上記塗布または浸漬等を行った後、上記種結晶をPTFEテープなどでシールすることが好ましい。
【0076】
上記種結晶を上記合成ゲルによって被覆した上記支持体を、水熱合成に供することにより、上記支持体の表面にSi-CHA膜を形成することができる。
【0077】
上記水熱合成は、例えば、上記合成ゲルのpHを6以上、8以下、上記合成ゲル中の水と珪素とのモル比を、珪素1に対して水が3.9超、7.3未満として、100℃以上200℃以下で48時間超96時間未満行うことが、Si-CHAの流動性を好適に保ち、かつ、Si-CHAの結晶を十分に成長させる観点から好ましい。
【0078】
水熱合成時間は、上記中空糸管の気体分離能をより向上させる観点から、48時間超84時間がより好ましく、60時間以上72時間がさらに好ましい。
【0079】
また、水熱合成の温度は、CHA型ゼオライトを形成する観点から、130℃以上200℃以下であることがより好ましく、140℃以上160℃以下であることがさらに好ましい。
【0080】
上記合成ゲルのpHは、上記中空糸管の気体分離能をより向上させる観点から、より好ましくは7である。
【0081】
上記合成ゲルの珪素と水とのモル比は、上記中空糸管の気体分離能をより向上させる観点から、珪素1に対して、水が5以上、7以下であることがより好ましく、6.0以上、6.7以下であることがさらに好ましい。
【0082】
上記水熱合成は、反応をより確実に進行させるために、例えばテフロン(登録商標)製オートクレーブ内で行うことが好ましい。
【0083】
種結晶として用いるSi-CHA粒子は、市販品を用いてもよく、合成品であってもよい。Si-CHA粒子の合成方法としては、後述の方法が例として挙げられる。
【0084】
<2-3.第二焼成工程>
第二焼成工程は、Si-CHA膜を有する支持体から、構造規定剤を除去する工程である。これにより、構造規定剤を焼却、酸化分解等により除去できるため、実質的にシリカのみを含有するシリカ多孔質中空糸管を得ることができる。
【0085】
焼成を行う温度は、上記構造規定剤を除去できる温度であれば特に限定されないが、例えば、300~800℃が好ましく、400~600℃がより好ましく、450~550℃がさらに好ましい。加熱を行う時間も特に限定されないが、例えば10~20時間である。
【0086】
上記焼成は、例えばマッフル炉内に水熱合成を完了した上記支持体を載置し、上記温度下で焼成することによって行うことができる。
【0087】
<2-4.種結晶合成工程>
種結晶としてのSi-CHAは、合成によって得てもよく、例えば、以下の方法によって合成することができる。すなわち、<2-2.水熱合成工程>で作製した合成ゲルを水熱処理し、水冷後濾過を行って生成物を得る。得られた生成物を洗浄し、減圧乾燥の後、焼成することで、例えば、実施例で用いた種結晶が得られる。
【0088】
水熱合成の好適な条件は、<2-2.水熱合成工程>における条件と同様である。上記水熱合成を経た種結晶を焼成する好適な条件は、<2-3.第二焼成工程>における条件と同様である。
【0089】
〔3.他の実施形態に係るシリカ多孔質中空糸管の製造方法〕
本発明の他の実施形態に係るシリカ多孔質中空糸管の製造方法は、上記合成ゲルが、上記種結晶としてのオールシリカCHA型ゼオライトよりも平均粒子径が大きいオールシリカCHA型ゼオライトをさらに含有する。
【0090】
上記構成によれば、種結晶としてのSi-CHAが、上記合成ゲルに含有されているSi-CHAよりも微粒子となっているため、上記支持体の表面に形成されるSi-CHA膜がより緻密な膜となる。その結果、気体の透過係数比を向上させることができ、所望の気体の選択的な透過性を高めることができる。
【0091】
上記種結晶としてのSi-CHAの平均粒子径を、上記合成ゲルに含有されているSi-CHAよりも小さくする方法としては、例えば、<2-4.種結晶合成工程>で用いる合成ゲルに対し、当該合成ゲルを調製するために用いたシリカに対して0.001~1重量%のSi-CHA粒子を加えること以外は<2-4.種結晶合成工程>に記載した工程を行うことが挙げられる。
【0092】
そして、<2-2.水熱合成工程>に記載した合成ゲルに、上記種結晶の調製のために用いた合成ゲルに加えたSi-CHA粒子と略同一の平均粒子径を有するSi-CHA粒子を加えること以外は、<2-2.水熱合成工程>および<2-3.第二焼成工程>に記載したのと同じ工程を行うことにより、シリカ多孔質中空糸管を得ることができる。
【0093】
このように調製した上記中空糸管は、後述する実施例(試験5)に示すように、例えば二酸化炭素とメタンとの混合ガスを供したときに、二酸化炭素に対する高い選択的透過性を示すことができる。
【0094】
〔4.混合ガスの分離方法および混合液体の分離方法〕
本発明の一実施形態に係る混合ガスの分離方法は、上記CHA型ゼオライトの細孔径以上の大きさの分子を有する気体と、上記CHA型ゼオライトの細孔径より小さい分子を有する気体とを含有する混合ガスを接触させることにより、上記CHA型ゼオライトの細孔径以上の大きさの分子を有する気体と、上記CHA型ゼオライトの細孔径より小さい分子を有する気体とを分離する方法である。
【0095】
上述したように、本発明の一実施形態に係る中空糸管は、上記支持体が珪素と酸素とを主成分として含有し、実質的にアルミニウムを含有していない。また、上記支持体の表面に形成されたSi-CHA膜も、実質的にアルミニウムを含有していない。つまり、上記支持体と上記Si-CHA膜とは、いずれもシリカを主体とする成分によって構成されている。
【0096】
それゆえ、上記支持体からのアルミニウムの溶出に伴う上記Si-CHA膜への欠陥の形成、および、アルミニウムとシリカとの熱膨張係数の相違に起因する上記Si-CHA膜の欠陥形成が生じない。
【0097】
そのため、実施例で実証されているように、上記透過可能な気体(例えば、二酸化炭素)と、上記透過困難な気体(例えば、メタン)とを効率よく分離することができる。
【0098】
上記透過可能な気体と、上記透過困難な気体との分離は、本発明の一実施形態に係るシリカ多孔質中空糸管の表面に、上記混合ガスを接触させることによって行うことができる。
【0099】
上記表面は、上記中空糸管の外側の表面であってもよいし、内側の表面であってもよい。上記混合ガスを接触させる側の表面と、上記混合ガスを接触させない側の表面との膜間差圧を適宜調整することによって、上記透過可能な気体に上記中空糸管を透過させ、上記透過困難な気体と分離することができる。
【0100】
本発明の一実施形態に係る混合液体の分離方法は、本発明の一実施形態に係るシリカ多孔質中空糸管の表面に、水と酢酸とを含有する混合液体を接触させることにより、水と酢酸とを分離する方法である。
【0101】
酢酸と水とでは、水の方がSi-CHA膜に対する透過性が高い。それゆえ、本発明の一実施形態に係るシリカ多孔質中空糸管の表面に、水と酢酸とを含有する混合液体を接触させ、上記混合液体を接触させる側の表面と、上記混合液体を接触させない側の表面との膜間差圧を適宜調整することによって、水に上記中空糸管を透過させ、酢酸と分離することができる。
【0102】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0103】
[シリカ多孔質中空糸管支持体の合成]
まず、120℃で24時間乾燥させたシリカゲル(Small Granular、White、富士フイルム和光純薬)を遊星ボールミル(ボールミル、ドイツ製・フリッチュ社、クラシックラインP-6)により、4時間、270rpmで粉砕した。
【0104】
次に、N-メチル-ピロリドン(NMP、富士フイルム和光純薬)およびジポリヒドロキシステアリン酸PEG-30(PEG-30)を加えて、均一になるまで再び遊星ボールミルにて約20時間撹拌した。PEG-30は分散剤である。
【0105】
その後、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を加え溶解させることにより、スラリーを得た。上記スラリーの組成は、質量比で、シリカゲル:NMP:PEG-30:PMMA=44:48:0.5:7.5であった。
【0106】
上記スラリーは、真空下ゆるやかに撹拌しながら脱気した。続いて、内径がφ3mmである外管と、外径がφ1.2mmであり内径がφ0.8mmである内管とを有する二重管構造の紡糸口金を用いて、内管に水を、外管に脱気したスラリーを供給し、スラリーおよび水を10m程度吐出した。
【0107】
吐出されたスラリーは、吐出された水と接触することによって固化を始めた。固化を始めたスラリー(中空糸状の構造物)を、紡糸口金の吐出孔の下方に用意した水槽中の水に浸漬し、高分子が十分に固化するまで水中で保持した。固化した中空糸状の構造物を室温で乾燥後、後述する〔試験1〕に記載した温度にて、焼成を5時間行うことにより、シリカ多孔質中空糸管支持体を得た。試験には、特に言及しない限り、得られたシリカ多孔質中空糸管支持体を長さ4cmに切断して用いた。
【0108】
各温度で焼成したシリカ中空糸状支持体の構造を、X線回折装置(XRD,リガク製)によって同定した。また、上記シリカ中空糸状支持体の断面を、電界放出走査型電子顕微鏡(FE-SEM、日立ハイテクノロジーズ、HITACHI S-4800)により観察した。
【0109】
[種結晶の合成]
コロイダルシリカ(40wt%、LUDOX、AS-40、ALDRICH)およびN,N,N-トリメチル-1-アダマントアンモニウム水酸化物(TMAdaOH、20wt%、Sachem)を混合した後、混合溶液が中性になるまでHF(46wt%)を添加した。
【0110】
その後、混合溶液を撹拌しながら200℃で加熱し、H2Oを完全に蒸発させた。得られた生成物を粉砕し、SiO2に対してH2Oのモル比が6となるように加えて合成ゲルを作製した。合成ゲルの組成(モル比)はSiO2:TMAdaOH:HF:H2O=1:1.4:1.4:6であった。
【0111】
合成ゲルをテフロン(登録商標)製オートクレーブに移し、オーブンを用いて150℃、で24時間水熱処理をした。オーブンから取り出したオートクレーブを水冷後、濾過を行って生成物を回収した。
【0112】
生成物はイオン交換水で洗浄し、24時間減圧乾燥した。その後、当該生成物を、焼却炉にて580℃(昇温温度0.5℃/min)で12時間焼成し、平均粒子径が約350nmであるオールシリカCHA型ゼオライト粒子(Si-CHA粒子)を得た。なお、本明細書において、平均粒子径は、FE-SEM(日立ハイテクノロジーズ社製、型番S-4800)で、50個のSi-CHA粒子を直接測定することによって算出した。
【0113】
[オールシリカCHA型ゼオライト膜の合成]
上記Si-CHA粒子を種結晶としてラビングを行い、シリカ多孔質中空糸管支持体(焼成温度:1250℃)の上に担持した。さらに、上記[種結晶の合成]と同様に合成ゲルを作製した。ゲルの組成(モル比)はSiO2:TMdaOH:H2O=1:1.4:3.9~7.3であり、HFは、合成ゲルのpHが6、7、8のいずれかとなるよう添加した。
【0114】
ラビング終了後のシリカ多孔質中空糸管支持体に、合成ゲルを約3mmの厚さで塗布し、PTFEテープでシールした。その後、シリカ多孔質中空糸管支持体をオートクレーブに移して、150℃で24~72時間水熱合成を行った。水熱合成を経た上記シリカ多孔質中空糸管支持体に対し、濾過および水洗を行って、さらに24時間減圧乾燥を行い、焼却炉にて580℃(昇温速度0.5℃/min)で12時間焼成して、シリカ多孔質中空糸管を得た。
【0115】
[三点曲げ試験]
[シリカ多孔質中空糸管支持体の合成]にて調製したシリカ多孔質中空糸管支持体を三点曲げ試験に供した。三点曲げ試験は、フォーステスター MCT-2150(株式会社エー・アンド・ディー製)の装置を用いて行った。サンプルの長さは3cmとした。
【0116】
[気体透過係数の測定]
上記[オールシリカCHA型ゼオライト膜の合成]で調製したオールシリカCHA型ゼオライト膜の気体透過特性を、CO2、CH4およびN2を用いて評価した。自製のガス透過試験装置を用い、CO2、CH4またはN2を膜の外側に供給し、膜間差圧は0.1MPa、測定温度は25℃とした。透過側は大気圧とし、膜を透過した気体の流量を石鹸膜流量計(HORIBA STEC製)で測定した。透過流量、膜面積および膜間差圧を用いた下記式(1)で、それぞれの気体の透過係数を算出した。
【0117】
気体透過係数=透過量[mol/s]/(膜面積[m
2]×膜間差圧[Pa])・・・(1)
〔試験1〕
上記[シリカ多孔質中空糸管支持体の合成]で得た、固化させた中空糸状の構造物の焼成を表1に示す温度で行い、シリカ多孔質中空糸管支持体を作製した。それぞれのシリカ多孔質中空糸管支持体の焼成温度、三点曲げ試験に供したときの破壊荷重、窒素透過係数および結晶構造を表1、
図1~3に示す。
【0118】
【0119】
図1は、1150℃~1400℃で焼成することによって得られたシリカ中空糸状支持体のXRDパターンを示す図である。1300℃までは、アモルファスを示すブロードなピークが観察された。
【0120】
図2は、シリカ中空糸状支持体の焼成温度と、シリカ中空糸状支持体の窒素透過係数および三点曲げ試験の結果との関係を示すグラフである。
【0121】
表1および
図2より、焼成温度が1200℃以上であるシリカ多孔質中空糸管支持体は、1N以上の比較的高い強度を有することがわかる。また、窒素透過係数は、焼成温度が1300℃以上のとき、測定限界値である10
-9mol m
-2 s
-1 Pa
-1以下であることがわかる。その一方で、焼成温度が1350℃の場合は、支持体の結晶形状がクリストバライト状になっており、アモルファス状ではなかった。
【0122】
図3は、1250℃、1300℃、1350℃で焼成することによって得られたシリカ中空糸状支持体の断面を、FE-SEMによって観察した結果を示す図である。
【0123】
図3より、焼成温度が1250℃の場合は、粒子間の隙間が十分に存在するが、焼成温度が1300℃、1350℃の場合は、結晶化が進行し、粒子間に隙間が存在しないことが分かる。
図3の結果は、表1に示す窒素透過係数の結果と相関している。
【0124】
以上の結果から、焼成温度は1200℃以上1300℃未満が好ましく、1250℃が最も好ましいことが示された。以降の試験で用いたシリカ多孔質中空糸管支持体の焼成温度は特に記載がない限り、全て1250℃とした。
【0125】
〔試験2〕
上記〔オールシリカCHA型ゼオライト膜の合成〕に記載した条件のうち、合成ゲルのpH=7、ゲル組成のSiO2とH2Oとのモル比(以下、「H2O/Si比」と称する)を1:6として、表2に示す時間、水熱合成を行ってそれぞれのシリカ多孔質中空糸管を作製した。
【0126】
それぞれのオールシリカCHA型ゼオライト(Si-CHA)膜の水熱合成時間、シリカ多孔質中空糸管のCO
2透過係数(mol m
-2 s
-1 Pa
-1)、CH
4の透過係数を1としたときのCO
2の透過係数、およびSi-CHA含有率(%)を表2および
図11に示す。
【0127】
Si-CHA含有率は、以下のようにして算出した。すなわち、まず、Belsorp-maxII(マイクロトラック・ベル製)を用いてN2の吸着測定を行った結果に基づき、BET法によって、上記シリカ多孔質中空糸管(上記シリカ多孔質中空糸管支持体の表面にSi-CHA層を形成させたサンプル)、Si-CHA粒子、および上記シリカ多孔質中空糸管支持体について、それぞれ比表面積を求めた。なお、比表面積の単位は(m2/g)である。
【0128】
次に、上記比表面積を用いて、Si-CHA含有率(%)を下記式(2)によって算出した。
【0129】
【0130】
【0131】
図11は、水熱合成時間と、CO
2の透過係数およびCH
4の透過係数との関係性を示すグラフである。表2および
図11より、水熱合成時間が48時間の場合、わずかにCO
2選択性を示したことが分かる。これは、オールシリカCHA型ゼオライト膜の成長が不十分であることによると考えられる。
【0132】
一方、水熱合成時間が72時間である場合、シリカ多孔質中空糸管は良好な透過係数比を示し、高いCO2選択性を示した。また、図示しないが、水熱合成時間が96時間以上としたときは、シリカ多孔質中空糸管の機械的強度が不十分であった。
【0133】
したがって、水熱合成時間は48時間超96時間未満であることが好ましく、最も好適な水熱合成時間は72時間であることが示された。
【0134】
〔試験3〕
オールシリカCHA型ゼオライト膜の合成時、pH=7、水熱合成時間を72時間として、表3に示すH2O/Si比でそれぞれのシリカ多孔質中空糸管を得た。それぞれのオールシリカCHA型ゼオライト膜のH2O/Si比、シリカ多孔質中空糸管のCO2透過係数(mol m-2 s-1 Pa-1)、およびCO2透過係数/CH4透過係数を表3に示す。
【0135】
【0136】
表3より、H2O/Si比が3.9の場合は、CO2透過係数/CH4透過係数(透過係数比)が低かった。これは、合成ゲルの流動性が低いため、Si-CHAの成長が十分でなかったことによると考えられる。
【0137】
また、H2O/Si比が7.3の場合も、透過係数比が低かった。これは、SiO2の濃度の低下により、Si-CHAの成長が十分でなかったことによると考えられる。
【0138】
一方、特にH2O/Si比が6~6.7の場合の透過係数比が最も優れていることがわかる。したがって、最も好適なH2O/Si比は6~6.7であることが示された。
【0139】
〔試験4〕
H2O/Si比=6.7、水熱合成時間を72時間とし、合成ゲルのpHが透過係数に与える影響を検討した。すなわち、上記[オールシリカCHA型ゼオライト膜の合成]に記載したように、合成ゲルのpHを表4に示すpHとして、得られたシリカ多孔質中空糸管のCO2透過係数(mol m-2 s-1 Pa-1)、およびCO2透過係数/CH4透過係数(透過係数比)を調べた。
【0140】
結果を表4に示す。また、
図12は、上記合成ゲルのpHと、CO
2の透過係数、およびCH
4の透過係数との関係を示すグラフである。
【0141】
【0142】
オールシリカCHA型ゼオライトは、シリカの溶解と再析出とによって合成され、合成ゲルのpHはシリカの溶解に大きな影響を及ぼす。つまり、上記pHが低い場合、シリカの溶解速度が低いため、オールシリカCHA型ゼオライトの成長が不十分となる。
【0143】
一方、上記pHが高い場合、シリカの溶解速度が大きいため、結晶化度は高くなるが、オールシリカCHA型ゼオライトの再析出よりも上記溶解速度の方が大きくなる。それゆえ、pHが6および8の場合、上記透過係数比が低くなったものと考えられる。
【0144】
表4および
図12より、上記pHが7の時、最も優れた透過係数比が示された。したがって、合成ゲルの最も好適なpHは7であることが示された。
【0145】
図4は、上記[オールシリカCHA型ゼオライト膜の合成]において、H
2O/Si比を6.0、合成ゲルのpHを7とし、水熱合成を150℃で72時間行って得られたシリカ多孔質中空糸管が備えるSi-CHA膜表面のXRDパターンを示す図である。
【0146】
図中、(a)は、Si-CHA膜を合成する前の、シリカ多孔質中空糸管支持体(焼成温度1250℃)の表面のXRDパターンであり、(b)は、上記シリカ多孔質中空糸管のSi-CHA膜表面のXRDパターンである。
【0147】
図4に示されているように、合成前はアモルファスを示すブロードなピークのみが観察されたが、合成後はCHA型ゼオライト特有の結晶ピークが確認された。
【0148】
図5は、上記シリカ多孔質中空糸管支持体の表面(図中「合成前」)、および、上記オールシリカCHA型ゼオライト膜の表面(図中「合成後」)をFE-SEMにより観察した結果を示す図である。上記Si-CHA膜の表面には、CHA型ゼオライトに特有のキューブ状の結晶構造が観察された。
【0149】
図6は、上記シリカ多孔質中空糸管の縦断面をFE-SEMにより観察した結果を示す図である。縦断面は表層から順に、ゼオライト層、ゼオライトとシリカ粒子との混合層、シリカ層を形成していた。
【0150】
〔試験5〕
試験5では、合成ゲルに対し、予め調製しておいたSi-CHA粒子を添加して水熱合成を行うことにより、CO2透過係数/CH4透過係数(透過係数比)をさらに向上させることを目的とした。
【0151】
上記[種結晶の合成]にて作製した合成ゲルに、加えたコロイダルシリカに対して、平均粒子径が約350nmのSi-CHA粒子を、種結晶として3wt%添加して、平均粒子径が約200nmのSi-CHA粒子を得た。当該Si-CHA粒子を、以下、種結晶として用いた。
【0152】
次に、上記[オールシリカCHA型ゼオライト膜の合成]で調製した合成ゲルに、平均粒子径が約350nmのSi-CHA粒子を、加えたコロイダルシリカに対し、0.01wt%添加した。得られた合成ゲルを、以下、合成ゲル2と称する。
【0153】
平均粒子径が200nmの上記Si-CHA粒子を種結晶としてラビングを行い、シリカ多孔質中空糸管支持体(焼成温度:1250℃)上に担持した。
【0154】
ラビング終了後の上記シリカ多孔質中空糸管支持体に、上記合成ゲル2を、上記[オールシリカCHA型ゼオライト膜の合成]に記載したのと同様の方法によって塗布し、PTFEテープでシールした。
【0155】
なお、水熱合成時間は72時間、H2O/Si比は6.7、pHは7とし、その他の手順は、上記[オールシリカCHA型ゼオライト膜の合成]に記載した通りに行って、シリカ多孔質中空糸管を得た。
【0156】
当該シリカ多孔質中空糸管のCO2透過係数(mol m-2 s-1Pa-1)、およびCO2透過係数/CH4透過係数、Si-CHA含有率(%)を表5に示した。また、上記〔試験3〕の表3に示した「H2O/Si比」を6.7としたときのシリカ多孔質中空糸管を対照とし、下記表5において「種結晶の添加 無」とした。
【0157】
【0158】
表5より、平均粒子径が約200nmのSi-CHA粒子を種結晶として添加した場合、対照に比べてCO2透過係数が減少した一方で、CO2透過係数/CH4透過係数は大きく向上した。
【0159】
この結果は、シリカ多孔質中空糸管(上記シリカ多孔質中空糸管支持体の表面にSi-CHA層を形成させたサンプル)、におけるオールシリカCHA型ゼオライト(Si-CHA)の含有率(Si-CHA含有率)の増加によって膜厚が増加したことによるものと考えられる。
【0160】
一般的に、アルミナを材料とする支持体上にSi-CHA膜を形成した場合、膜厚が大きくなると、ゼオライトとアルミナとの熱膨張係数の差が大きいことにより、上記Si-CHA膜に欠陥が生じる。一方、本発明の一実施形態に係る多孔質中空糸管は、シリカ多孔質中空糸管支持体を構成するシリカと、Si-CHAとの熱膨張係数の差が小さいため、欠陥が生じる可能性を抑制することができる。
【0161】
以上の結果から、本発明の一実施形態に係る多孔質中空糸管は、CO2の透過性が必要な場合と、CO2の高い選択性が必要な場合とで、作り分けが可能であることが示された。
【0162】
〔試験6〕
従来のアルミニウムを含有するゼオライト膜(Al-CHA膜)との性能差を調べるため、上記[オールシリカCHA型ゼオライト膜の合成]に記載した焼成温度(580℃)を種々の温度としたこと以外は〔試験5〕と同じ条件で調製したシリカ多孔質中空糸管のCO2透過係数、CH4透過係数、およびCO2透過係数/CH4透過係数(透過係数比)を、上記Al-CHA膜と比較した。
【0163】
上記Al-CHA膜は、Separation and Purification Technology 199 (2018) 298-303に記載の方法を参考にして調製した。
【0164】
図7は、Al-CHA膜の、CO
2およびCH
4の透過係数の測定結果を示す図である。また、
図8は、
図7に示すCH
4の透過係数を1としたときのCO
2の透過係数(CO
2/CH
4透過係数比)を示す図である。
図7および
図8の横軸は、Al-CHA膜を合成後、耐熱性を確認するために熱処理を行った際の温度である。以下、当該熱処理を行った際の温度を、「熱処理温度」と称する。
【0165】
図7および
図8より、Al-CHA膜は、熱処理温度の上昇に従ってCO
2透過係数/CH
4透過係数が低下し、熱処理温度を900℃とした場合は上記透過係数比がほぼ0となり、CO
2選択性が無くなったことがわかる。図示しないが、ゼオライトの結晶構造が崩壊していなかったため、この結果は、アルミナ支持体の主原料であるα-アルミナとゼオライトとで熱膨張係数が大きく異なることに起因して、支持体の熱膨張によって高温での熱処理時に欠陥が形成されたことによると考えられる。
【0166】
図9は、本発明の一実施形態に係るシリカ多孔質中空糸管のCO
2およびCH
4の透過係数の測定結果を示す図である。また、
図10は、
図9に示すCH
4の透過係数を1としたときのCO
2の透過係数(CO
2/CH
4透過係数比)を示す図である。
図9および
図10の横軸は、Si-CHA膜を合成後、耐熱性を確認するために熱処理を行った際の温度である。
【0167】
図9および
図10より、本発明の一実施形態に係るシリカ多孔質中空糸管は、熱処理温度を上昇させても性能の低下がみられないことがわかる。したがって、本発明の一実施形態に係るシリカ多孔質中空糸管は、膜焼成による膜欠陥の生成を大きく抑制できることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0168】
本発明は、混合気体の分離用の膜、および混合液体の分離用の膜として好適に利用することができる。