IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キングス・カレッジ・ロンドンの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】ヒト真皮線維芽細胞の単離方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/077 20100101AFI20240422BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20240422BHJP
   A61K 35/36 20150101ALI20240422BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240422BHJP
   A61K 8/98 20060101ALI20240422BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20240422BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240422BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240422BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20240422BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240422BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20240422BHJP
   C12Q 1/6813 20180101ALN20240422BHJP
   C12Q 1/6837 20180101ALN20240422BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALN20240422BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALN20240422BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALN20240422BHJP
【FI】
C12N5/077 ZNA
A61P17/02
A61K35/36
A61P17/00
A61K8/98
A61Q19/08
A61Q19/00
C12Q1/02
G01N33/48 M
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
C12Q1/6813 Z
C12Q1/6837 Z
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6869 Z
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2020534824
(86)(22)【出願日】2018-12-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-25
(86)【国際出願番号】 GB2018053760
(87)【国際公開番号】W WO2019122931
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-12-20
(31)【優先権主張番号】1721738.1
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513200313
【氏名又は名称】キングス・カレッジ・ロンドン
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】フィオナ ワット
(72)【発明者】
【氏名】クリスティナ フィリッペオス
(72)【発明者】
【氏名】マグナス リンチ
【審査官】中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-533959(JP,A)
【文献】特開2008-271971(JP,A)
【文献】特開2001-215225(JP,A)
【文献】Science, 2015 Apr 17, vol. 348, no. 6232, article no. aaa2151(RESEARCH ARTICLE SUMMARY p. 1, RESEARCH ARTICLE pp. 1-13)
【文献】TISSUE REGENERATION AND WOUND HEALING, 2017 May 01, vol. 137, no 5, Suppl. 1, p. S157 (abstract no. 914)
【文献】Nature, 2013 Dec 12, vol. 504, no. 7479, pp. 277-281
【文献】J Invest Dermatol, 2018 Mar 3, vol. 138, no. 4, pp. 811-825
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00- 3/00
C12N 1/00- 7/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq/UniProt
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト真皮線維芽細胞を選別する方法であって:
(a)最初にヒト真皮線維芽細胞を含む細胞集団を提供する工程;及び
(b)続いて該ヒト真皮線維芽細胞を、CD39、CD36及びCD26から選択された1以上の細胞表面マーカーの発現を基に、亜集団へ分離する工程;を含み、ここで、
(i) ヒト真皮線維芽細胞の第一の亜集団が、細胞表面表現型CD39+CD26-を有する細胞を選択することにより分離され;かつ/又は
(ii) ヒト真皮線維芽細胞の第二の亜集団が、細胞表面表現型CD39-又はCD39+CD26+を有する細胞を選択することにより分離され;かつ/又は
(iii) ヒト真皮線維芽細胞の第三の亜集団が、CD36を発現している細胞を選択することにより分離される、前記方法。
【請求項2】
工程(b)において前記ヒト真皮線維芽細胞が、フローサイトメトリーにより亜集団に分離される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程(a)の後、かつ工程(b)の前に、前記ヒト真皮線維芽細胞が、CD90を発現している細胞を選択することにより、前記細胞集団から分離される、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
工程(a)の後、かつ工程(b)の前に、前記ヒト真皮線維芽細胞が、細胞表面表現型CD45-CD31-CD324-CD90+を有する細胞を選択することにより、他のヒト真皮細胞から分離される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記第一の亜集団が、乳頭層線維芽細胞を含む、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
前記第二の亜集団が、網状層線維芽細胞を含む、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
前記第三の亜集団が、脂肪前駆細胞性線維芽細胞を含む、請求項1~6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
インビトロにおいて工程(b)で分離された1以上の亜集団を増殖させる工程を更に含む、請求項1~7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
前記1以上の亜集団が、インビトロにおいて、Wnt、トランスフォーミング増殖因子β、線維芽細胞増殖因子又はヘッジホッグシグナリング経路を調節する物質の存在下で、培養される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
COL6A5、COL23A1、HSPB3、WNT5a、RSP01、LEF1、RGS5、MFAP5、PRG4、CD9、CD11a、CD29、CD34、CD44、CD47、CD59、CD70、CD73、CD81、CD87、CD105、CD141、CD142、CD147、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-DR、HLA-DP、HLA-DQ、デコリン、ルミカン及びジシアロガングリオシドGD2から選択される1以上の追加マーカーの亜集団における発現を決定する工程を更に含む、請求項1~9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
細胞表面表現型CD45-CD31-CD324-CD90+CD39+CD26-の発現により特徴付けられる、ヒト真皮乳頭層線維芽細胞の単離された集団。
【請求項12】
細胞表面表現型CD45-CD31-CD324-CD90+CD39-又はCD45-CD31-CD324-CD90+CD39+CD26+の発現により特徴付けられる、ヒト真皮網状層線維芽細胞の単離された集団。
【請求項13】
細胞表面表現型CD45-CD31-CD324-CD90+CD36+の発現により特徴付けられる、ヒト真皮脂肪前駆細胞性線維芽細胞の単離された集団。
【請求項14】
医薬品における使用のための、請求項11~13のいずれか一項記載のヒト真皮線維芽細胞の単離された集団。
【請求項15】
皮膚障害の治療における使用のための、請求項11~13のいずれか一項記載のヒト真皮線維芽細胞の単離された集団。
【請求項16】
創傷治癒の促進における使用のための、請求項11~13のいずれか一項記載のヒト真皮線維芽細胞の単離された集団。
【請求項17】
ケロイド状瘢痕、強皮症、移植片対宿主病、皮膚潰瘍又は表皮水疱症の治療における使用のための、請求項11~13のいずれか一項記載のヒト真皮線維芽細胞の単離された集団。
【請求項18】
ヒト対象における皮膚の加齢又は瘢痕化の予防又は治療における使用のための、請求項11~13のいずれか一項記載のヒト真皮線維芽細胞の単離された集団。
【請求項19】
前記ヒト真皮線維芽細胞が、前記対象にとって自家である、請求項18記載の使用のためのヒト真皮線維芽細胞の単離された集団。
【請求項20】
前記ヒト真皮線維芽細胞が、前記対象にとって同種である、請求項18記載の使用のためのヒト真皮線維芽細胞の単離された集団。
【請求項21】
ヒト真皮線維芽細胞活性を調節する薬剤を同定するためのスクリーニング方法であって:
(a)該薬剤を、請求項11~13のいずれか一項記載のヒト真皮線維芽細胞の単離された集団と接触させる工程;及び
(b)該薬剤の存在下での、該ヒト真皮線維芽細胞の単離された集団の活性を決定する工程:を含む、前記方法。
【請求項22】
複数の候補薬剤が、前記ヒト真皮線維芽細胞の単離された集団と接触させられ、かつ該ヒト真皮線維芽細胞の活性を調節する薬剤が選択される、請求項21記載のスクリーニング方法。
【請求項23】
創傷治癒の促進において使用するための、細胞表面表現型CD45-CD31-CD324-CD90+CD39+CD26-の発現により特徴付けられる、ヒト真皮乳頭層線維芽細胞の単離された集団。
【請求項24】
瘢痕化リスクの低下を伴う創傷治癒の促進において使用するための、細胞表面表現型CD45-CD31-CD324-CD90+CD39+CD26-の発現により特徴付けられる、ヒト真皮乳頭層線維芽細胞の単離された集団。
【請求項25】
瘢痕化の予防又は治療において使用するための、細胞表面表現型CD45-CD31-CD324-CD90+CD39+CD26-の発現により特徴付けられる、ヒト真皮乳頭層線維芽細胞の単離された集団。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、皮膚科学の分野に、特に皮膚の状態、加齢及び創傷治癒における線維芽細胞の役割に関する。本発明は、より具体的には、ヒト真皮線維芽細胞を、亜集団へ選別し、且つ培養において有益な亜集団を増殖させる方法、更に医薬的方法及び美容方法における、並びにインビトロにおける毒物学(toxicology)及び美容スクリーンにおける、選別された集団の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
後生動物の体制のパラダイムは、構成された三次元器官への上皮系要素と間葉系要素の組合せである。哺乳動物の皮膚は、このパターンの原型を表す:表皮、重層扁平上皮が、真皮、間葉系組織に重なっている。表皮及び他の上皮内の細胞系譜相関は、詳細に研究されているが1、他の間葉系組織と共通の、真皮を含む細胞の機能的同一性は、余り特徴付けられていない2
【0003】
線維芽細胞は、コラーゲン及びエラスチンなどの構造タンパク質を合成し、且つそれらをほとんどの間葉系組織の細胞外マトリクスへ統合する細胞である3-6。真皮は、組織学的に容易に同定される別個の層を有し:乳頭層真皮は、表皮に最も近くに位置するのに対し、下方にある網状層真皮は、より厚く、且つ大部分は線維性の細胞外マトリクスを含む7。網状層真皮の下側には、皮下組織、又は真皮の白色脂肪組織が位置する8,9。マウス及びヒトの真皮において同定された他の線維芽細胞亜集団は、毛包の基部の真皮乳頭細胞10,11、血管と密接に関連している立毛筋細胞及び周皮細胞12を含む。
【0004】
乳頭層線維芽細胞及び網状層線維芽細胞は、別個の独自性を有すること7が、長い間疑われている。マウス真皮の場合、創傷治癒時の及び皮膚再構成アッセイにおける、恒常状態下での細胞系譜トレースにより、乳頭層線維芽細胞及び網状層線維芽細胞は、胚発生時に多能性前駆細胞集団から生じる機能的に別個の系譜を表すことが明らかにされている13,14。乳頭層線維芽細胞は、新たな毛包形成に必要であるのに対し、網状層線維芽細胞は、創傷修復における早期事象を媒介し、且つアルファ-平滑筋アクチンなどの、いわゆる線維芽細胞活性化マーカーを発現する。
【0005】
ヒト真皮の先行する研究は、デルマトームにより網状層真皮から乳頭層真皮を機能的に分離した。真皮のこれらの分離された領域から誘導された外植片培養物の分析は、培養及び遺伝子発現における線維芽細胞の挙動の差異を明らかにした15-17。しかし乳頭層真皮及び網状層真皮から個別に培養された線維芽細胞を識別するマーカーを規定しようとする先の試み16は、皮膚から直接初代線維芽細胞亜集団のプロスペクティブな単離を可能にする細胞表面マーカーを生じることはなかった。
【0006】
従って、ヒト真皮の線維芽細胞を、皮膚状態の治療において有用である亜集団へ分離する新規方法が必要である。
【発明の概要】
【0007】
(発明の概要)
従って一態様において、本発明は、ヒト真皮線維芽細胞を選別する方法であって:
(a)ヒト真皮線維芽細胞を含む細胞集団を提供する工程;並びに
(b)ヒト真皮線維芽細胞を、CD39、CD36及び/又はCD26などの、1以上の細胞表面マーカーの発現を基に、亜集団へ分離する工程;を含む、方法を提供する。
【0008】
一部の実施態様において、本方法は任意に、工程(b)において、例えばインビトロ細胞培養工程で、分離された1以上の亜集団を増殖させる工程を更に含んでよい。好ましくは、この増殖させた亜集団は、増殖後にそれらの機能的特性を保持している。
【0009】
好ましくは、ヒト真皮線維芽細胞は、フローサイトメトリーにより分離される。代わりの実施態様において、ヒト真皮線維芽細胞は、磁気ビーズ、カラム及び/又は微小流体系を使用し、分離される。
【0010】
一実施態様において、ヒト真皮線維芽細胞は、CD90を発現している細胞を選択することにより、細胞集団から分離される。例えば、ヒト真皮線維芽細胞は、細胞表面表現型CD45-CD31-CD324-CD90+を有する細胞を選択することにより、他のヒト真皮細胞から分離される。
【0011】
一実施態様において、ヒト真皮線維芽細胞の第一の亜集団は、細胞表面表現型CD39+CD26-を有する細胞を選択することにより分離される。この第一の亜集団は、乳頭層線維芽細胞を含み得る。
【0012】
別の実施態様において、ヒト真皮線維芽細胞の第二の亜集団は、細胞表面表現型CD39+CD26+を有する細胞を選択することにより分離される。この第二の亜集団は、網状層線維芽細胞を含み得る。別のヒト真皮線維芽細胞の亜集団は、細胞表面表現型CD39-を有する細胞を選択することにより分離される。この亜集団もまた、網状層線維芽細胞を含み得る。
【0013】
更なる実施態様において、ヒト真皮線維芽細胞の第三の亜集団は、CD36を発現している細胞を選択することにより分離される。好ましくは、この第三の亜集団は、下側網状層及び脂肪前駆細胞性線維芽細胞を含む。
【0014】
別の態様において、本発明は、先に規定した方法により入手された又は入手可能なヒト真皮線維芽細胞の単離された亜集団を提供する。
【0015】
別の態様において、本発明は、細胞表面表現型CD45-CD31-CD324-CD90+CD39+CD26-の発現により特徴付けられる、ヒト乳頭層線維芽細胞の単離された集団を提供する。
【0016】
別の態様において、本発明は、細胞表面表現型CD45-CD31-CD324-CD90+CD39-の発現により特徴付けられる、ヒト真皮網状層線維芽細胞の単離された集団を提供する。
【0017】
別の態様において、本発明は、細胞表面表現型CD45-CD31-CD324-CD90+CD39+CD26+の発現により特徴付けられる、ヒト真皮網状層線維芽細胞の単離された集団を提供する。
【0018】
別の態様において、本発明は、細胞表面表現型CD45-CD31-CD324-CD90+CD36+の発現により特徴付けられる、ヒト真皮脂肪前駆細胞性線維芽細胞の単離された集団を提供する。
【0019】
別の態様において、ビメンチンを発現し且つCD45-CD31-CD324-及びCD90-である真皮細胞は、別の潜在的に有用な細胞のサブセットを表す。
【0020】
別の態様において、本発明は、例えばWnt又はヘッジホッグシグナリング経路の薬理学的調節による、インビトロにおける線維芽細胞亜集団の増殖を提供する。これらの亜集団は、Wntシグナリング、細胞外マトリクス生成/リモデリング及び炎症に関連した遺伝子の差次的発現により特徴付けられてよい。
【0021】
別の態様において、本発明は、先に規定したヒト真皮線維芽細胞の単離された集団、及び任意に1種以上の医薬として許容し得る賦形剤、希釈剤又は担体を含有する医薬組成物を提供する。
【0022】
別の態様において、本発明は、医薬品における使用のための、先に規定したヒト真皮線維芽細胞の単離された集団を提供する。
【0023】
別の態様において、本発明は、皮膚障害の治療における使用のための、先に規定したヒト真皮線維芽細胞の単離された集団を提供する。
【0024】
別の態様において、本発明は、創傷治癒の促進における使用のための、先に規定したヒト真皮線維芽細胞の単離された集団を提供する。
【0025】
別の態様において、本発明は、ケロイド状もしくは非ケロイド状の瘢痕化、強皮症、移植片対宿主病、皮膚潰瘍又は表皮水疱症などの遺伝的皮膚障害の治療における使用のための、先に規定したヒト真皮線維芽細胞の単離された集団を提供する。
【0026】
別の態様において、本発明は、皮膚障害の予防又は治療における、例えば創傷治癒の促進、ケロイド状もしくは非ケロイド状の瘢痕化、強皮症、移植片対宿主病、皮膚潰瘍又は表皮水疱症などの遺伝的皮膚障害の治療における、先に規定したヒト真皮線維芽細胞の単離された集団の使用を提供する。
【0027】
別の態様において、本発明は、皮膚障害の予防又は治療のため、例えば創傷治癒の促進、ケロイド状もしくは非ケロイド状の瘢痕化、強皮症、移植片対宿主病、皮膚潰瘍又は表皮水疱症などの遺伝的皮膚障害の治療のための、医薬品の調製のための、先に規定したヒト真皮線維芽細胞の単離された集団の使用を提供する。
【0028】
別の態様において、本発明は、先に規定したヒト真皮線維芽細胞の単離された集団の医薬として許容し得る量を、対象へ投与することを含む、それを必要とする対象における皮膚障害の予防又は治療(例えば、創傷治癒の促進、ケロイド状もしくは非ケロイド状の瘢痕化、強皮症、移植片対宿主病、皮膚潰瘍又は表皮水疱症などの遺伝的皮膚障害の治療)の方法を提供する。
【0029】
別の態様において、本発明は、対象の皮膚へ、先に規定したヒト真皮線維芽細胞の単離された集団を投与することを含む、ヒト対象における皮膚の加齢又は瘢痕化を予防もしくは治療する美容方法を提供する。
【0030】
一実施態様において、ヒト真皮線維芽細胞は、対象にとって自家である。代わりの実施態様において、ヒト真皮線維芽細胞は、対象にとって同種である。
【0031】
更なる実施態様において、線維芽細胞亜集団は、インビトロにおける毒物学及び/又は美容スクリーンのために使用される。
【0032】
別の態様において、本発明は、試料中のヒト真皮線維芽細胞の1以上の亜集団を同定する方法であって、ヒト真皮線維芽細胞を含む試料を提供すること、並びに本明細書記載の1種以上の(細胞表面又は細胞内)マーカー、例えば、該線維芽細胞上のCD39、CD36及び/又はCD26から選択された1種以上の細胞表面マーカーの発現を決定することを含む方法を提供する。
【0033】
別の態様において、本発明は、ヒト真皮線維芽細胞の亜集団の同定のための、本明細書記載の1種以上の(細胞表面又は細胞内)マーカー、例えばCD39、CD36及び/もしくはCD26から選択された1種以上の細胞表面マーカー、又はそれらへのリガンド(例えば抗体)の使用を提供する。
【0034】
別の態様において、本発明は、試料中のヒト真皮線維芽細胞の1以上の亜集団を同定及び/又は分離するためのキットであって、本明細書に規定した1種以上の(細胞表面又は細胞内)マーカー、例えばCD39、CD36及び/又はCD26から選択される1種以上の細胞表面マーカーに特異的な1種以上の試薬を含むキットを提供する。一実施態様において、キットは、これらのマーカー(複数可)へ特異的に結合する1種以上のリガンド(例えば抗体)を含む。別の実施態様において、キットは、これらのマーカーをコードしているヌクレオチド配列の特異的増幅に適した1種以上の試薬、例えばこれらのマーカーをコードしているmRNA又はcDNAのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅に適したヌクレオチドプライマーを含む。
【0035】
別の態様において、本発明は、皮膚障害の予防又は治療、例えば創傷の治療、創傷治癒の促進、低下した瘢痕化リスクを伴う創傷治癒の促進、及び/又は瘢痕化の予防もしくは治療における使用のための、ヒト真皮乳頭層又は網状層線維芽細胞の単離された集団を提供する。一実施態様において、ヒト真皮線維芽細胞は、細胞表面表現型CD45-CD31-CD324-CD90+CD39+CD26-の発現により特徴付けられる、ヒト乳頭層線維芽細胞である。別の実施態様において、ヒト真皮線維芽細胞は、細胞表面表現型CD45-CD31-CD324-CD90+CD39-の発現により特徴付けられる、ヒト真皮網状層線維芽細胞である。別の実施態様において、ヒト真皮線維芽細胞は、細胞表面表現型CD45-CD31-CD324-CD90+CD39+CD26+の発現により特徴付けられる、ヒト真皮網状層線維芽細胞である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
(図面の簡単な説明)
図1】マウス線維芽細胞亜集団のトランスクリプトーム分析。 A)フローサイトメトリーによる、マウス生後2日目(P2)の線維芽細胞亜集団の単離。PdgfraHBeGFP+細胞は、単離され、且つDlk1、Sca1及びCD26の発現に従い分離された。 B)マイクロアレイハイブリダイゼーション(Affymetrix)により決定された全般的遺伝子発現パターンの主成分分析。別の脂肪前駆細胞(Dlk1+Sca1+)集団とクラスター化する、外れ値脂肪前駆細胞(Dlk1-Sca1+)集団(アスタリスク;同じくパネルD及びEにおいてもアスタリスクで記しを付けている)に、注意。 C)流動選別された集団に関するマーカー発現のqPCRバリデーション。遺伝子発現は、GAPDHに対し規準化され、且つ3回の生物学的反復についての平均±S.D.として表される。 D)マイクロアレイ試料中のマーカー発現のレベル; 3回の生物学的反復の各々に関するレベルは、個別に示されている。外れ値脂肪前駆細胞(Dlk1-Sca1+)集団は、示されている(アスタリスク)。 E)プロスペクティブに単離されたマウスP2線維芽細胞亜集団の全般的遺伝子発現パターンの階層的クラスター化。外れ値脂肪前駆細胞(Dlk1-Sca1+)集団は、示されている(アスタリスク)。
【0037】
図2】マウス線維芽細胞亜集団におけるWnt、ECM及び免疫シグナリングに関連した遺伝子の差次的発現。 A)マウス線維芽細胞亜集団において差次的に発現された経路のジーンオントロジー(GO)ターム分析。 B-D)(B)Wntシグナリング、(C)炎症、及び(D)ECM調節に結びつけられた遺伝子の差次的発現(Affymetrixマイクロアレイ)を図示するヒートマップ。 E)選択された差次的に発現された遺伝子のQ-PCRバリデーション。 F)脂肪生成に結びつけられた遺伝子の発現(Affymetrixマイクロアレイ)を比較するヒートマップ。 G,H)脂肪前駆細胞集団におけるCD36発現(G)及び乳頭層線維芽細胞におけるCD39発現(H)のアップレギュレーションを明らかにする、qPCR分析。遺伝子発現(E、G、H)は、GAPDHに対し規準化され、且つ3回の生物学的反復についての平均±S.D.として表されている(*p<0.05、**p<0.005、***p<0.0005)。
【0038】
図3】ヒト真皮における遺伝子発現の空間プロファイリング。 A)3名の個別の個人における乳頭層及び網状層真皮からの遺伝子発現パターンの階層的クラスター化。発現は、RNAシークエンシングにより定量化された(青色類似、赤色非類似)。 B)乳頭層真皮においてアップレギュレートされた遺伝子(>3倍)。 C)網状層真皮においてアップレギュレートされた遺伝子(>10倍)。 D)発現が、乳頭層真皮において少なくとも2倍アップレギュレートされた細胞表面マーカー。発現レベルは、3回の生物学的反復の各々について、個別に示され(緑色、高い;赤色、低い)、且つ6つの異なる培養線維芽細胞系統及び7つの他の培養細胞株における発現と比較される。 E)網状層真皮において少なくとも2倍アップレギュレートされた細胞表面マーカー。 F)ヒト成体真皮とマウスP2真皮の間で保存されている、乳頭層真皮においてアップレギュレートされた細胞表面マーカー。
【0039】
図4】空間トランスクリプトミクスにより同定された候補線維芽細胞亜集団マーカーに対する抗体によりヒト真皮を標識している免疫蛍光測定。 A,B)COL6A5の発現は、乳頭層真皮に制限されている。表皮基底層は、抗-ケラチン14により標識されている(COL6A5、緑色;ケラチン14、赤色)。 C,D)APCDD1の発現は、乳頭層真皮において濃縮されている(APCDD1、緑色;ケラチン14、赤色)。 E,F)HSPB3の発現は、乳頭層真皮において濃縮されている(HSPB3、緑色;ケラチン14、赤色)。 G,H)WIF1の発現は、真皮上層においてより顕著である血管構造において、濃縮されている(WIF1、緑色;ケラチン14、赤色)。 I,J)CD36の発現は、皮下組織(皮下脂肪)において高度に濃縮されている。 K,L)CD39は、乳頭層真皮において濃縮されている(CD39、緑色;ポドプラニン、赤色)。スケールバー:200μm。
【0040】
図5】ヒト真皮線維芽細胞亜集団は、インビトロにおいて機能差を維持する。 A,B)LUM及びCOL6A5の発現は、CD90+集団中で、未分画の真皮細胞浮遊液と比べ、濃縮される。遺伝子発現は、GAPDHに対して規準化され、且つ3回の反復の平均±S.D.で表される。 F)lin-CD90+CD39+細胞及びlin-CD90+CD36+細胞は、インビトロにおいて形態学的差異を示すが、これらは異なる体の部位とドナーの年齢の間で一貫していない(スケールバー:50μm)。 C,D)lin-CD90+CD39+細胞は、1回の継代培養後、CD39発現を失っている(C)。しかし、CD90及びCD36の発現は、保持されている(D)。 E)Q-PCRは、培養におけるLUMの保持及びCOL6A5の喪失を示す。遺伝子発現は、GAPDHに対して規準化され、且つ3回の生物学的反復の平均±S.D.で表される。 G-L)Wntシグナリング(G)、炎症及び免疫(H)、並びにECMリモデリング(I)に結びつけられた遺伝子の発現。遺伝子発現は、GAPDHに対して規準化され、且つ3回の生物学的反復の平均±S.D.で表される。 J-N)培養におけるIFNγ刺激に対し反応する細胞表面マーカーの発現の調節(青色、CD39+IFNγ;黄色、CD36+IFNγ;赤色、非染色対照)。上段:代表的フロープロット。下段:3回の独立した実験からのデータの定量。(*p<0.05、**p<0.005、***p<0.0005、****p<0.0001)。
【0041】
図6】異なる線維芽細胞亜集団のDED上の表皮成長を支持する能力の比較。 A-J)線維芽細胞を伴わずに培養(A、F)、又は未分画の(lin-CD90+)線維芽細胞(B、G)、CD90+CD39+(乳頭層において濃縮される)線維芽細胞(C、H)、CD90+CD39-(乳頭層で枯渇される)線維芽細胞(D、I)、及びCD90+CD36+(脂肪前駆細胞性)線維芽細胞(E、J)と共に播種された、脱上皮された真皮(DED)の器官型培養のH&E染色(A-E)及び免疫蛍光染色(F-J)。 (F-J)ケラチン14(緑色)はケラチノサイトをマークし、ビメンチン(白色)は、間葉細胞(線維芽細胞)をマークする。実験は、最低3回の生物学的反復を繰り返し、代表的画像を提示している。CD90+CD39+細胞の場合、3回の実験のうちの2回は、乳頭層細胞集団(CD90+CD39+CD26-)の更なる濃縮のために、CD26-細胞の追加の選択に関わっている。スケールバー:200μm。 K-M)表皮厚さの定量(K);300μmの表皮内の線維芽細胞の密度(L);並びに、表皮からの異なる深度での線維芽細胞の相対存在量(M)。
【0042】
図7】ヒト成体真皮の線維芽細胞のシングルセルRNAシークエンシング。 A)ヒト真皮からの系譜(lin)陰性細胞及びlin-CD90+細胞の単離。単独の生存細胞は、前方散乱、側方散乱及びDAPI染色に関するゲーティングにより単離された。系譜(lin)陰性細胞は、CD31-CD45-ECad-ゲーティングにより単離された。 B)遺伝子発現パターンのPCA分析。 C,D)遺伝子発現パターンのtSNE分析(赤色、lin-;青色、lin-CD90+)。 D)tSNE分析の自動クラスター化は、5種の真皮線維芽細胞亜集団を同定する。 E)5種の各クラスターにおいて差次的に発現されたマーカーの発現パターン(赤色、高発現;黄色、低発現)。 F)5種の真皮線維芽細胞亜集団の各々におけるマーカー遺伝子の差次的発現を図示する、バイオリンプロット。 G-J)成体ヒト皮膚における候補線維芽細胞マーカーの免疫染色。スケールバー:200μm。 K-O)lin-CD39+CD26-及びCD39-真皮線維芽細胞におけるCD39(K)、COL6A5(L)、WNT5A(M)、RSP01(N)及びLEF1(O)の発現。遺伝子発現は、GAPDH及びTBPに対して規準化され、且つ3回の生物学的反復の平均±S.D.で表される。(*p<0.05、**p<0.005、***p<0.0005、****p<0.0001)。
【0043】
図8】成体ヒト真皮線維芽細胞の細胞表面マーカースクリーン。 ヒト真皮から単離された系譜陰性細胞を、242の精製したモノクローナル抗体及び対応するアイソタイプ対照を含む、BD Lyoplateヒト細胞表面マーカースクリーニングパネル(BD Biosciences、カタログ番号560747)を用いて分析した。ヒットは、免疫蛍光染色により同定した;明るく染色された細胞は、表面マーカーの高発現を示す(**)。細胞表面マーカー転写物は、シングルセルRNAシークエンシングデータのtSNE分析における遺伝子発現オーバーレイにより、独立して認められた(赤色、高発現;黄色、低発現)。
【0044】
図9】エクスビボにおいて14日間培養された、異なる線維芽細胞亜集団と共に播種された、創傷皮膚中のコラーゲン密度を示す。
【0045】
図10】エクスビボにおいて14日間培養された、異なる線維芽細胞亜集団と共に播種された、創傷皮膚の画像を示す。
【0046】
図11】エクスビボにおいて14日間培養された、異なる線維芽細胞亜集団と共に播種された、創傷皮膚の画像を示す。
【0047】
図12】エクスビボにおいて14日間培養された、異なる線維芽細胞亜集団と共に播種された、創傷皮膚の画像を示す。
【0048】
図13】異なる線維芽細胞亜集団により再構成された脱細胞化された真皮中のコラーゲン沈着の画像を示す。
【0049】
図14】異なる線維芽細胞亜集団により再構成された脱細胞化された真皮中のコラーゲン密度を示す。
【0050】
図15】コラーゲンハイブリダイジングペプチド(CHP)を使用し検出された、異なる線維芽細胞亜集団により再構成された脱細胞化された真皮中のコラーゲン線維構造の画像を示す。
【0051】
図16】異なる線維芽細胞亜集団により再構成された脱細胞化された真皮の表皮内のR-スポンジン1発現の画像を示す。
【0052】
図17】異なる線維芽細胞亜集団によりリモデリングしているケロイド状瘢痕を示す画像を示す。スケールバー=2.5mm。
【0053】
図18】脱細胞化され、異なる線維芽細胞亜集団が注射され、且つインビトロにおいて3週間培養された、ケロイド状瘢痕組織の厚さを示す。
【発明を実施するための形態】
【0054】
(発明の詳細な説明)
一態様において、本発明は、ヒト真皮線維芽細胞を選別する方法に関する。従って本方法は、典型的には特異的細胞表面マーカーの発現を基に、1以上の亜集団へ、ヒト皮膚由来の線維芽細胞を分離することに関与している。
【0055】
(ヒト真皮線維芽細胞を含む細胞集団)
一実施態様において、本方法の第一工程は、ヒト真皮線維芽細胞を含む細胞集団を提供することを含む。典型的にはこの細胞集団は、ヒト皮膚試料から誘導され、すなわちこの細胞集団は、ヒト皮膚細胞を含む。一実施態様において、この細胞集団は、ヒト真皮の酵素的消化により得られる。従って好ましい実施態様において、この細胞集団は、解離された細胞、すなわちそれらの当初の組織環境から分離され且つ液体培地中に分散されている細胞を含む。
【0056】
一実施態様において、この細胞集団は、細胞浮遊液を含む。例えば、この方法は、ヒト皮膚試料を消化し、好適な水性緩衝液中に分散された細胞の浮遊液を得ることを含んでよい。この浮遊液は、任意に濾過及び/又は遠心分離され、細胞ペレットを得、これは次に所望の水性緩衝液、例えばリン酸-緩衝食塩水(PBS)中に、再浮遊されてよい。
【0057】
典型的には、この細胞集団(例えば、細胞浮遊液)は、ヒト真皮線維芽細胞、並びにヒト皮膚から誘導された他の(すなわち非-線維芽細胞)細胞型を含む。一部の実施態様において、ヒト真皮線維芽細胞は、ヒト真皮線維芽細胞亜集団への分離を開始する前に、最初に他のヒト皮膚型から分離される。代わりの実施態様において、ヒト真皮線維芽細胞亜集団への分離は、他の皮膚細胞型からのヒト真皮線維芽細胞の分離と同時に開始され、すなわちヒト真皮細胞を含む細胞浮遊液からヒト真皮線維芽細胞亜集団が分画される単独の分離工程が存在する。代わりの実施態様において、関心対象の線維芽細胞は、外植片培養中の真皮の遊走により収集される。
【0058】
(ヒト真皮線維芽細胞の分離)
本発明の方法において、ヒト真皮線維芽細胞は、特異的細胞表面マーカーの発現を基に、亜集団へ分離される。これにより、特定の細胞表面表現型を発現する亜集団へ、例えば特定のマーカーの発現及び/又は他のマーカーの無発現の亜集団へ、ヒト真皮線維芽細胞が、選別されるか又は分画されることを意味する。例えばヒト真皮線維芽細胞亜集団は、CD90、CD39、CD36又はCD26を個別に発現する細胞を選択することによるか、或いはCD90、CD39、CD36又はCD26の個別の発現を欠いているヒト真皮線維芽細胞を選択することにより、分離されてよい。一部の実施態様において、ヒト線維芽細胞亜集団は、2種以上の前記マーカーの発現及び無発現の組合せを基に分離されてよい。
【0059】
一実施態様において、ヒト真皮線維芽細胞は、フローサイトメトリーにより分離される。例えば、フローサイトメトリーは、ヒト真皮線維芽細胞を、他の皮膚細胞から分離するため、及び/又はヒト真皮線維芽細胞を亜集団へ分離するために使用されてよい。蛍光サイトメトリー又は蛍光活性化細胞選別(FACS)は、表面マーカーに従い細胞を同定及び単離するために特に有用であるフローサイトメトリーの特殊型であり、且つ本発明の好ましい実施態様において使用されてよい。これは、生物学的細胞の不均一な混合物を、各細胞の特異的光散乱及び蛍光の特徴を基に、一度に1細胞を、2つ以上の容器に選別する方法を提供する。従ってFACSは、個々の細胞からの蛍光シグナルの迅速で客観的且つ定量的記録、並びに特に関心のある細胞の物理的分離を提供する。
【0060】
蛍光サイトメトリーにおいて、細胞浮遊液は、液体の狭い迅速に流れる細流の中央に取り込まれる(entraine)。この流れは、それらの直径に対し細胞間で大きい分離が存在するように、配置される。振動機構は、細胞の細流の、個別の液滴へのブレイクオフを引き起こす。このシステムは、1滴の液滴につき細胞が2個よりも多い確率が低いように調節される。細流が液滴へブレイクオフする直前に、流れは、蛍光測定ステーションを通過し、そこで各細胞の関心のある蛍光特性が測定される。帯電リングは、細流が液滴にブレイクオフするポイントに丁度配置される。電荷が、直前の蛍光強度測定を基にリング上に配置され、且つ反対の電荷は、これが細流からブレイクオフする際に、液滴上に捕獲される。帯電した液滴は次に静電偏向システムを通って落ち、これは液滴をそれらの電荷を基に容器への流れをかえる(divert)。一部のシステムにおいて、電荷は、細流へ直接印加され、且つブレイクオフしている液滴は、細流と同じ符合の電荷を保持する。次にこの細流は、液滴のブレイクオフ後、中性に戻る。フローサイトメトリーを使用する一つの一般的方式は、細胞上又は細胞中の標的に結合する蛍光標識された抗体を伴い、これにより所定の標的を伴う細胞を同定する。この技術は、定量的に使用することができ、そこでは蛍光の量は、標的の量に相関しており、これにより蛍光の相対量、及び結果的に標的の相対量を基にした選別が可能である。
【0061】
従って、本発明の好ましい実施態様において、ヒト真皮線維芽細胞を含む細胞集団は、1種以上の蛍光標識された抗体(例えば、FACSにおける使用に適している)と接触されてよい。蛍光標識された抗体は、ヒト真皮線維芽細胞の細胞表面マーカー(例えば、CD90、CD39、CD36もしくはCD26)に直接結合するか、又は細胞表面マーカーに特異的な一次抗体に結合する二次抗体であってよい(例えば、一次マウスIgG抗-ヒトCD39、CD36又はCD26抗体は、ヒト真皮線維芽細胞へ直接結合し、且つ二次蛍光ラット抗-マウスIgG抗体は、この一次抗体へ結合することができる)。従ってヒト真皮線維芽細胞は、フローサイトメトリー(例えばFACS)を使用し、CD39、CD36及び/又はCD26から選択されたマーカーの組合せを発現する亜集団へ分離されてよい。マルチカラー蛍光法(例えば、異なる波長の蛍光標識により標識された異なる細胞表面タンパク質に対する抗体を使用する)は、単独のFACS工程においてマーカーの組合せの発現を基に、ヒト真皮線維芽細胞を選択するために使用されてよい。
【0062】
代わりの実施態様において、ヒト真皮線維芽細胞亜集団は、細胞表面マーカーの発現を基に細胞を分離するのに適した任意の他の方法により分離されてよい。例えば好適な方法は、磁気ビーズ、カラム及び/又は微小流体系の使用に関与し得る。そのような方法において、細胞表面マーカーに特異的なリガンド(例えば抗体)が、固相(例えば磁気ビーズ)上に固定され、且つ浮遊液中のヒト真皮線維芽細胞を含む細胞集団が、それに接触されてよい。次に関心対象のマーカーを発現しているヒト真皮線維芽細胞は、固相に結合し且つ保持される。このマーカーを欠いている他のヒト真皮線維芽細胞は、固相に結合せず、従って上清を洗浄除去することにより、所望の亜集団から分離され得る。次に所望のヒト線維芽細胞亜集団は、必要に応じ、固相から溶離される。
【0063】
(ヒト真皮線維芽細胞)
ヒト真皮線維芽細胞は、特徴的細胞表面マーカーの発現を基に、他のヒト真皮細胞型から識別されてよい。例えば一実施態様において、CD90発現は、ヒト真皮線維芽細胞のマーカーとして使用されてよい。他の実施態様において、ヒト真皮線維芽細胞は、lin-CD90+細胞又はlin-CD90-細胞として同定されてよい。lin-CD90-細胞は、脂肪前駆細胞、線維芽細胞及び単球/マクロファージの混合された特徴を持つ細胞の集団として存在する。このlin-細胞表面表現型は、CD45、CD31及びCD324の発現を欠く細胞を指す。CD45発現は、免疫細胞の指標であり、CD31は、典型的には内皮細胞上で発現され、並びにCD324は、ケラチノサイト上で発現されてよい。従ってヒト真皮線維芽細胞は、一実施態様において、例えばCD45-CD31-CD324-CD90+細胞として、同定されてよい。
【0064】
従って本発明の一実施態様において、ヒト真皮線維芽細胞は、最初に、CD90+(例えば、CD45-CD31-CD324-CD90+)細胞を選択することにより、他のヒト皮膚細胞型から分離され得る。総ヒト真皮線維芽細胞集団は次に、例えば、CD39、CD36及び/又はCD26の発現を基に、亜集団へ分離されてよい。あるいは、ヒト真皮線維芽細胞亜集団は、単工程において、例えば、CD90+CD39+CD26-(CD45-CD31-CD324-CD90+CD39+CD26-)細胞、CD90+CD39- (CD45-CD31-CD324-CD90+CD39-)細胞、CD90+CD36+(CD45-CD31-CD324-CD90+CD36+)細胞などを選択することにより、他のヒト皮膚細胞型から分離されてよい。これらの選択は、例えば、1以上のフローサイトメトリー工程において、例えば抗体の特定の組合せを使用し、実行されてよい。
【0065】
更なる実施態様において、所望の特徴を伴う線維芽細胞は、Wnt又はヘッジホッグなどの、シグナリング経路の薬理学的調節により、培養物中で選択的に増殖する。これは、単独細胞又は外植片のいずれかの形状で、先のFACS濃縮、又は未分画細胞の播種に関わってよい。
【0066】
(マーカー)
本発明の実施態様において、1以上の細胞表面マーカーの発現が決定されてよい。概して細胞は、各細胞表面マーカーの発現に関して、陽性(+)又は陰性(-)のいずれかであるとして決定される。陽性(+)により典型的には、細胞は、少なくとも最少(例えば、検出可能な)レベルの細胞表面マーカーを発現することを意味する。例えば、細胞表面マーカーに特異的な蛍光標識された抗体が、例えばフローサイトメトリー(FACS)により検出可能であるのに十分な量で細胞へ結合している場合、この細胞は、この細胞表面マーカーについて陽性(+)であると考えられてよい。同様に、細胞がマーカーを最少(例えば、検出可能な)レベル未満で発現する場合、この細胞は、この細胞表面マーカーについて陰性(-)であると考えられてよい。従って細胞集団の細胞表面表現型は、例えば、CD45-CD90+CD39-など、特定のマーカーの発現及び/又は無発現を基に指定されてよい。
【0067】
フローサイトメトリーにおける使用に適している本明細書において考察されるマーカーに対する抗体は、公知であり、且つ典型的には商業的供給業者から入手可能であるか、又は実験動物の好適な抗原による免疫化などの、公知の技術により産生されてよい。好適な抗体は、下記例において説明されている。
(CD26)
CD26は、様々な細胞型の表面上に発現された細胞膜糖タンパク質及びセリンエキソペプチダーゼである。CD26はまた、ジペプチジルペプチダーゼ-4及びアデノシンデアミナーゼ複合タンパク質2としても公知である。ヒトCD26のアミノ酸配列は、例えばデータベース寄託番号P27487(UniProt)及びNP_001926(NCBI RefSeq)に明らかにされている。CD26は、フローサイトメトリーにより検出されてよく、且つCD26+細胞及びCD26-細胞は、例えばKelemenらの文献、Am J Clin Pathol. 2008年1月;129(1):146-56において明らかにされた通りに、選別される。
【0068】
(CD36)
CD36は、クラスBスカベンジャー受容体ファミリーの一員である膜タンパク質である。CD36はまた、血小板糖タンパク質4、脂肪酸トランスロカーゼ、スカベンジャー受容体クラスBメンバー3(SCARB3)、糖タンパク質88(GP88)、糖タンパク質IIIb(GPIIIB)、又は糖タンパク質IV(GPIV)としても公知である。ヒトCD36のアミノ酸配列は、例えばデータベース寄託番号P16671(UniProt)、並びにNP_000063、NP_001001547、NP_001001548、NP_001120915及びNP_001120916(NCBI RefSeq)に明らかにされている。CD36は、フローサイトメトリーにより検出されてよく、且つCD36+細胞及びCD36-細胞は、例えば、Cserti-Gazdewichらの文献、Cytometry B Clin Cytom. 2009年3月;76(2):127-34において明らかにされた通りに、選別される。
【0069】
(CD39)
CD39は、エクトヌクレオシド三リン酸ジホスホヒドロラーゼ-1(ENTPD1)としても公知の、細胞表面に局在するエクトヌクレオチダーゼである。ヒトCD39のアミノ酸配列は、例えばデータベース寄託番号P49961(UniProt)、並びにNP_001091645、NP_001157650、NP_001157651、NP_001157653及びNP_001157654(NCBI RefSeq)に明らかにされている。CD39は、フローサイトメトリーにより検出されてよく、且つCD39+細胞及びCD39-細胞は、例えばMandapathilらの文献、Journal of Immunological Methods, 346巻, 1-2号, 2009年7月31日, 55-63頁において明らかにされた通りに、選別される。
【0070】
(CD90)
CD90は、免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーであるThy-1としても公知の、N-グリコシル化されたグリコホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー型の保存された細胞表面タンパク質である。ヒトCD90のアミノ酸配列は、例えばデータベース寄託番号P04216(UniProt)、並びにNP_001298089、NP_001298091及びNP_006279(NCBI RefSeq)に明らかにされている。CD90は、フローサイトメトリーにより検出されてよく、且つCD90+細胞及びCD90-細胞は、例えばNakamuraらの文献、British Journal of Dermatology 154(6):1062-1070 (2006)において明らかにされた通りに、選別される。
【0071】
(CD45)
CD45は、白血球共通抗原(LCA)及び受容体型タンパク質チロシンホスファターゼC(PTPRC)としても公知である。CD45は、成熟赤血球を除く、ほとんど全ての造血細胞上で発現される、膜糖タンパク質である。ヒトCD45のアミノ酸配列は、例えばデータベース寄託番号P08575(UniProt)、並びにNP_001254727、NP_002829及びNP_00563578(NCBI RefSeq)に明らかにされている。CD45は、フローサイトメトリーにより検出されてよく、且つCD45+細胞及びCD45-細胞は、例えばJanossyらの文献、Clinical and Vaccine Immunology, 9(5):1085-1094 (2002)において明らかにされた通りに、選別される。
【0072】
(CD31)
CD31は、血小板内皮細胞接着分子1(PECAM-1)としても公知である、細胞表面タンパク質である。ヒトCD31のアミノ酸配列は、例えばデータベース寄託番号P16284(UniProt)及びNP_000433(NCBI RefSeq)に明らかにされている。CD31は、フローサイトメトリーにより検出されてよく、且つCD31+細胞及びCD31-細胞は、例えばKhanらの文献、Cytometry, 64B(1):1-8 (2005)、及びMockらの文献、Mucosal Immunology, (2014) 7, 1440-1451において明らかにされた通りに、選別される。
【0073】
(CD324)
CD324は、カドヘリン-1、E-カドヘリン、CDH1又はウボモルリンとしても公知の、細胞-細胞接着性糖タンパク質である。ヒトCD324のアミノ酸配列は、例えばデータベース寄託番号P112830(UniProt)、並びにNP_001304113、NP_001304114及びNP_001304115(NCBI RefSeq)に明らかにされている。CD324は、フローサイトメトリーにより検出されてよく、且つCD324+細胞及びCD324-細胞は、例えばUS9534058において明らかにされた通りに、選別される。
【0074】
(ヒト真皮の転写プロファイリングにより同定された追加マーカー)
本明細書記載の例において、ヒト真皮由来の線維芽細胞のシングルセルRNAシークエンシングを使用し、線維芽細胞亜集団の追加のマーカーを同定した。これらの追加マーカーは、細胞内マーカー、並びに細胞表面マーカーを含んでよく、且つ線維芽細胞亜集団を更に特徴付けるために使用されてよい。例えば一部の実施態様において、流動選別された線維芽細胞亜集団(培養におけるインビトロ増殖工程の前又は後)は、例えば、亜集団の均一性及び/又は亜集団の特徴的特性の保持を確認するためのバリデーション工程として、1種以上の追加マーカーの発現について分析されてよい。追加マーカーの分析は、例えばRT-PCR、RNA-Seq、遺伝子発現アレイ、ノーザン/ウェスタンブロット、ELISA及び免疫細胞化学など、細胞の亜集団中のRNA及び/又は対応するポリペプチドの配列の検出のための任意の好適な方法により行われてよい。これらの追加マーカーの発現は、真皮内の空間的区画化により必ずしも制限されない線維芽細胞の亜集団を更に同定してよく、例えば、これらの追加マーカーを発現している線維芽細胞は、皮膚の2つ以上の領域内に認められてよい。
【0075】
一実施態様において、線維芽細胞又はそれらの亜集団(複数可)は、COL6A5、COL23A1及び/又はHSPB3の発現について分析されてよい。典型的には、これらのマーカーの発現は、乳頭層線維芽細胞に関連している。COL6A5は、VI型コラーゲンα5鎖であり、特に真皮線維芽細胞について頑強なマーカーを表す。乳頭層線維芽細胞の追加マーカーは、WNT5a、RSPO1及びLEF1を含んでよい。これらのマーカーをコードしている配列に関するデータベース寄託番号は、下記表2に示されている。
【0076】
別の実施態様において、線維芽細胞又はそれらの亜集団(複数可)は、CD70(例えば、データベース寄託番号NM_001252.4及びNP_001243.1参照)、並びに/又はCD34(データベース寄託番号NM_001025109.1及びNP_001020280.1参照)の発現について分析されてよい。場合によっては、これらのマーカーの発現は、例えば、細胞表面表現型CD39+CD26+を有する細胞である、網状層線維芽細胞に関連し得る。
【0077】
別の実施態様において、線維芽細胞又はそれらの亜集団(複数可)は、RGS5(Gタンパク質シグナル伝達の制御因子5)の発現により分析されてよい。例えばRGS5をコードしているmRNA及びポリペプチド配列の、データベース寄託番号NM_001195303.2、NP_001182232.1、NM_001254748.1、NP_001241677.1、NM_001254749.1、NP_001241678.1、NM_003617.3及びNP_003608.1を参照されたい。このマーカーの発現は、周皮細胞に関連している。
【0078】
別の実施態様において、線維芽細胞又はそれらの亜集団(複数可)は、MFAP5(ミクロフィブリル関連タンパク質5)及び/又はPRG4(プロテオグリカン4)の発現について分析されてよい。例えばMFAP5をコードしているmRNA及びポリペプチド配列の、データベース寄託番号NM_001297709.1及びNP_001284638.1を参照されたい。例えばPRG4をコードしているmRNA及びポリペプチド配列の、データベース寄託番号NM_001127708.2及びNP_001121180.2を参照されたい。
【0079】
さらなる実施態様では、線維芽細胞は、1以上の汎-線維芽細胞マーカー、例えば、PDGFRα(血小板由来成長因子受容体-α)、PDGFRβ(血小板由来成長因子受容体-β)、デコリン又はルミカンの発現について分析されてよい。分析され得る線維芽細胞集団において認められる追加マーカーは、CD9、CD11a、CD29、CD44、CD47、CD59、CD73、CD81、CD87、CD105、CD141、CD142、CD147、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-DR、HLA-DP、HLA-DQ及びジシアロガングリオシドGD2を含む。そのような細胞表面マーカーはまた、先に説明したような選別法(例えばフローサイトメトリー)において使用されてよい。
【0080】
(ヒト真皮線維芽細胞亜集団)
本明細書記載の方法において、ヒト真皮線維芽細胞は、先に言及した追加マーカーのいずれかを含む、本明細書記載のマーカーの任意の組合せの発現を基に、亜集団へ選別されてよい。ヒト真皮線維芽細胞の単離された亜集団は、特定の細胞表面表現型、例えばCD45-CD90+CD39+CD26-の発現により特徴付けられてよい。「単離された」により典型的には、細胞の集団が、その天然の環境から分離されること、例えば、ヒト真皮線維芽細胞の亜集団が、ヒト真皮線維芽細胞及び/又は給源試料(例えばヒト皮膚試料)中の他の真皮細胞の総集団から分離されることを意味する。
【0081】
一実施態様において、単離された細胞集団は、細胞表面表現型CD90+CD39+CD26-、好ましくはCD45-CD31-CD324-CD90+CD39+CD26-の発現により特徴付けられる。典型的にはこの亜集団は、ヒト乳頭層線維芽細胞を含む。
【0082】
別の実施態様において、単離された細胞集団は、細胞表面表現型CD90+CD39-、好ましくはCD45-CD31-CD324-CD90+CD39-の発現により特徴付けられる。典型的にはこの亜集団は、ヒト真皮の網状層線維芽細胞を含む。
【0083】
別の実施態様において、単離された細胞集団は、細胞表面表現型CD90+CD39+CD26+、好ましくはCD45-CD31-CD324-CD90+CD39+CD26+の発現により特徴付けられる。典型的にはこの亜集団は、ヒト真皮の網状層線維芽細胞を含む。
【0084】
別の実施態様において、単離された細胞集団は、細胞表面表現型CD90+CD36+、好ましくはCD45-CD31-CD324-CD90+CD36+の発現により特徴付けられる。典型的にはこの亜集団は、ヒト真皮の脂肪前駆細胞性線維芽細胞を含む。
【0085】
別の実施態様において、単離された細胞集団は、細胞表面表現型CD90+CD39+CD26-、好ましくはCD45-CD31-CD324-CD90+CD39+CD26-の発現により特徴付けられる。典型的にはこの亜集団は、ヒト乳頭層線維芽細胞を含む。
【0086】
別の実施態様において、単離された細胞集団は、ビメンチン+及びlin-CD90-であるが、CD74(マクロファージ抑制因子受容体)、HLA-DR及び/又はCLDN5及びTEK(TIE2)を発現することにより特徴付けられる。典型的にはこの亜集団は、脂肪前駆細胞性線維芽細胞及び周皮細胞へ寄与する能力を持つ細胞を含む。
【0087】
(単離された線維芽細胞亜集団の増殖)
一部の実施態様において、本方法は任意に、例えばインビトロ細胞培養工程など、工程(b)において分離された1以上の亜集団を増殖する工程を、更に含んでよい。単離された細胞集団は、例えば、Driskellらの文献、J Invest Dermatol. 2012年4月; 132(4): 1084-1093に説明されたもののような、公知の細胞培養法を用いて、増殖されてよい。好ましくは、増殖された亜集団は、それらの機能的特性を増殖後も保持する。
【0088】
一部の実施態様において、線維芽細胞亜集団の特性は、例えば、Wnt、TGFβ、FGF又はヘッジホッグシグナリング経路の薬理学的調節により、培養物中で維持されるか又は修飾されてよい。そのような経路を阻害するのに適した化合物の例は、例えば、Lichtenbergerらの文献、「線維芽細胞系譜を区別するためのパラクリンシグナリングを介した真皮をリモデリングする表皮b-カテニン活性化(Epidermal b-catenin activation remodels the dermis via paracrine signaling to distinct fibroblast lineages)」、Nature Communications (2016) 7:10537 |DOI: 10.1038/ncomms10537に説明されている。例えば、PD173074(Tocris)は、好適なFGFRインヒビターであり、IPI4182(Infinity Pharmaceuticals)は、ヘッジホッグシグナリングを阻害し、並びにRepSox(Sigma Aldrich)及びSB431542(Tocris)は、TGF-βインヒビターとして使用され得る。使用され得るこれらの経路のアゴニストは、SUN 11602(塩基性線維芽細胞成長因子模倣体);TGFβ;20(S)-ヒドロキシコレステロール及びSAG 21k(ヘッジホッグ経路のアゴニスト);並びに、精製されたWntタンパク質又はGSK3のインヒビター、例えばCHIR99021及びLiCl(WNTシグナリングのアクチベーター)などである。
【0089】
(治療的及び美容適用)
本明細書記載の単離されたヒト真皮線維芽細胞集団は、様々な美容及び治療的方法において使用されてよい。一部の実施態様において、単離された細胞集団は、対象への投与前に、エクスビボにおいて増殖させてよい。他の実施態様において、単離された細胞集団は、対象へ直接、すなわちエクスビボにおいて増殖させることなく、投与されてよい。さらなる実施態様において、これらの細胞は、生物学的(例えば、脱細胞化されたヒト真皮)であれ不活性(例えば、ヒドロゲル)であれ、無細胞スカフォールドと組合せられてよい。各場合において、単離された細胞集団は、それから当初の細胞集団が入手される対象へ投与されるか(すなわち、自家細胞療法)、又は単離された細胞集団は、異なる対象へ投与されてよい(すなわち、同種細胞療法)。
【0090】
単離されたヒト真皮線維芽細胞集団を使用し、様々な皮膚障害を治療することができる。 例えば、単離されたヒト真皮線維芽細胞集団を使用し、創傷治癒を促進するか、又はケロイド状もしくは非-ケロイド状瘢痕化、強皮症、移植片対宿主病、皮膚潰瘍又は表皮水疱症などの遺伝的障害を治療することができる。単離されたヒト真皮線維芽細胞亜集団を、単独で又は組合せて使用することができる。例えば、乳頭層線維芽細胞(例えば、CD90+CD39+CD26-細胞)は、単独で、又は線維芽細胞の別の亜集団(例えば、細胞表面マーカー、網状層線維芽細胞、脂肪前駆細胞性線維芽細胞又はビメンチン+lin-CD90-細胞の組合せによる、本明細書に規定された単離された線維芽細胞亜集団のいずれかひとつ)と組合せて、使用することができる。一実施態様において、ヒト真皮の乳頭層線維芽細胞亜集団は、例えば、細胞表面表現型CD45-CD31-CD324-CD90+CD39+CD26-により特徴付けられた単離された集団で、そのような方法において使用される。
【0091】
単離されたヒト真皮線維芽細胞集団はまた、例えば、ヒト対象における、皮膚加齢、皺又は瘢痕化を予防又は治療するための、様々な美容方法においても使用されてよい。一実施態様において、単離されたヒト真皮線維芽細胞集団を使用し、対象の皮膚における線維症を軽減することができる。例えば、この細胞集団を使用し、ほうれい線、眉間の皺、前額の深い皺、及び座瘡瘢痕などの、顔の輪郭(contour)の変形を軽減することができる。一実施態様において、ヒト真皮の乳頭層線維芽細胞亜集団は、そのような方法において、例えば細胞表面表現型CD45-CD31-CD324-CD90+CD39+CD26-により特徴付けられた単離された集団で使用される。
【0092】
本明細書記載の単離されたヒト真皮線維芽細胞亜集団は、例えば、総ヒト真皮線維芽細胞療法のための現存する臨床試験において実行されるような公知の方法を用い、対象へ投与される。例えば、本明細書記載の細胞集団は、臨床試験NCT01743053、NCT01115634、NCT02493816及びNCT00642642(clinicaltrials.govから入手可能)において説明された方法を使用し、対象へ投与されてよい。線維芽細胞-ベースの細胞療法を行う方法はまた、例えば、Leavitt Tらの文献、「無瘢痕創傷治癒:正しい細胞及びシグナルの知見(Scarless wound healing: finding the right cells and signals)」、Cell Tissue Res. 2016 Sep; 365(3):483-93、及びWeiss RAの文献、「自家細胞療法:真皮充填物を置き換えるか?(Autologous cell therapy: will it replace dermal fillers?)」、Facial Plast Surg Clin North Am. 2013 May;21(2):299-304においても検証されている。FDAが承認した線維芽細胞療法の例は、Fibrocell Technologies社からのLAVIV(登録商標)(azficel-T)であり、これはDMEM中に浮遊された自家線維芽細胞を含む。本発明の線維芽細胞亜集団は、同様の様式で投与されてよい。
【0093】
単離されたヒト真皮線維芽細胞亜集団は、対象への投与のために、いずれか好適な薬理学的に許容し得る賦形剤、希釈剤又は担体と組合せられてよい。典型的には、この細胞集団は、液体培地、例えば緩衝されたダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)などの、好適な無菌の緩衝溶液中に製剤化される。単離されたヒト真皮線維芽細胞亜集団を含有する医薬製剤は、好ましくは注射、例えば対象の皮膚への皮内注射などの、いずれか好適な経路により投与されてよい。
【0094】
当業者は、治療される病態、対象などの性質に応じて、これらの細胞集団の好適な用量を決定してよい。例えば、単回投与量は、10,000~100,000,000個の細胞、好ましくは約20,000,000個の細胞を含んでよい。典型的にはそのような投与量は、(例えば注射により)溶液0.1~10ml、例えば好適な無菌の緩衝溶液約1ml中で投与される。
【0095】
前述の治療的及び美容適用における線維芽細胞亜集団の有効性は、インビトロ及びインビボ動物モデルを含む、前臨床試験及び臨床試験において確認されてよい。例えば、ケロイド移植動物モデルを含む、ケロイド-誘導した線維芽細胞の活性の分析を基にした、ケロイド状瘢痕化の好適なモデルは、J. Liuらの文献、「パラクリンシグナリングによるケロイドモデルにおけるケロイド線維素及び線維症の活性を阻害するヒト脂肪組織由来幹細胞(Human adipose tissue-derived stem cells inhibit the activity of keloid fibroblasts and fibrosis in a keloid model by paracrin signaling)」、Burns (2017) [Epublication, http://dx.doi.org/10.1016/j.burns.2017.08.017]に説明されている。そのようなモデルにおける本発明の線維芽細胞亜集団の作用もまた、決定されてよい。一般にケロイド状瘢痕化の治療は、Ogawa R.の文献、「網状層真皮における慢性炎症の結果としてのケロイド及び肥大性瘢痕(Keloid and Hypertrophic Scars Are the Result of Chronic Inflammation in the Reticular Dermis)」、Int J Mol Sci. 2017年3月 10;18(3)に説明されている。従ってケロイド状瘢痕化の治療における線維芽細胞亜集団の作用を決定するのに適した試験は、線維芽細胞亜集団注射を伴うインビトロケロイド外植片、コラーゲンゲル収縮アッセイ、及び線維芽細胞亜集団由来の培養培地により治療したケロイド線維芽細胞の増殖アッセイを含み得る。
【0096】
創傷治癒に対する線維芽細胞亜集団の作用は、好適なインビトロ及びインビボにおけるモデルにおいて決定されてもよい。例えば、遊走アッセイ、生検創傷のインビトロ外植片培養、細胞外マトリクス分泌アッセイ、及びインビボ切除創傷治癒モデルは、それらの作用を決定するために、線維芽細胞亜集団を用いて行ってよい。
【0097】
(スクリーニング法)
更なる実施態様において、本明細書記載の線維芽細胞亜集団は、当業者が生存動物において化合物を試験することを回避することを可能にする、インビトロにおける毒物学及び美容スクリーンに使用される。例えば、活性薬剤は、線維芽細胞亜集団について、インビトロにおいて試験されてよく、且つそれらの作用が決定される。
【0098】
一態様に従い、本発明は、インビトロにおいて本明細書記載の単離された線維芽細胞亜集団に薬剤を適用すること、及びそれらの1以上の作用を決定することを含む、美容又は治療薬剤のスクリーニング方法を更に提供する。例えば、この方法は、活性薬剤の存在下における、線維芽細胞亜集団の、細胞生存度、特徴的マーカーの発現又は機能特性(例えば、脱細胞化されたヒト真皮を再配置する能力)を決定することに関与している。ハイスループットスクリーニング法を使用し、著しい毒性作用を伴わずに、線維芽細胞亜集団の所望の機能特性を増強することが可能である薬剤を同定してよい。
【0099】
(ヒト真皮線維芽細胞亜集団の同定)
さらなる実施態様において、本明細書記載の細胞表面及び/又は細胞内マーカーのいずれかを使用し、試料中のヒト真皮線維芽細胞の亜集団を同定してよい。典型的にはそのような方法は、試料中のヒト真皮線維芽細胞のサブセット中の1つの又は組合せたマーカーの発現(例えば、mRNA及び/又はタンパク質)の決定に関与している。
【0100】
例えばこの方法は、該線維芽細胞上のCD39、CD36及び/又はCD26から選択される1以上の細胞表面マーカーの発現の決定を含んでよい。別の実施態様において、この方法は、1以上の細胞内マーカー、例えば先に説明した及び実施例におけるヒト真皮の転写プロファイリングにより同定された1以上の追加マーカーの発現を決定することを含んでよい。
【0101】
試料中のそのようなマーカーの発現は、細胞の亜集団中のmRNA及び/又は対応するポリペプチド配列の検出に適した任意の方法、例えば、RT-PCR、RNA-Seq、遺伝子発現アレイ、ノーザン/ウェスタンブロット、ELISA及び免疫細胞化学などにより、決定されてよい。好ましくは、この方法は、ヒト真皮線維芽細胞亜集団をより完全に特徴付けるために、複数のそのようなマーカーを、例えば、RT-PCR又はELISAにより決定することを含む。
【0102】
例えば一実施態様において、乳頭層線維芽細胞は、例えば1種以上のこれらのマーカーをコードしているmRNAを検出することにより、COL6A5、COL23A1、HSPB3、WNT5a、RSPO1及び/又はLEF1の発現により同定されてよい。網状層線維芽細胞は、CD70及び/又はCD34の発現により同定されてよい。
【0103】
(キット)
同じく試料中のヒト真皮線維芽細胞の1以上の亜集団を同定及び/又は分離するためのキットも、本明細書に提供される。そのようなキットは、本明細書に規定された1種以上のマーカーに特異的な試薬を含んでよい。好ましくはキットは、複数のマーカーに特異的な試薬を含む。好適な試薬は、マーカー(複数可)に特異的に結合するリガンド(例えば抗体)、又はマーカー配列、例えばマーカーをコードしているmRNA又はcDNAの特異的増幅を指示するオリゴヌクレオチドプライマーなどの試薬を含む。これらのキットは、検出法を実行するのに適した更なる試薬、例えば、二次抗体、緩衝溶液もしくは蛍光標識などのELISAアッセイのための試薬、又は逆転写酵素、Taqポリメラーゼ、デオキシリボヌクレオチド(dNTP)及び好適な緩衝液などのRT-PCRを実行するための試薬などを含んでよい。
【0104】
好ましい実施態様において、このキットは、CD39、CD36及び/又はCD26に特異的な試薬の組合せを含む。例えば、キットは、CD39、CD36及びCD26に特異的な抗体又はプライマーを含んでよい。キットは、任意に、CD90、CD45、CD31及び/又はCD324に特異的な試薬(例えば、抗体又はプライマー)を更に含んでよい。
【0105】
別の実施態様において、このキットは、乳頭層線維芽細胞のマーカーに特異的な試薬の組合せを含む。例えば、このキットは、COL6A5、COL23A1 HSPB3、WNT5a、RSP01及び/又はLEF1に特異的な1種以上のヌクレオチドプライマーを含んでよい。好ましくはキットは、少なくとも2、3、4、5又は6種のプライマー対を含み、各プライマー対は、COL6A5、COL23A1、HSPB3、WNT5a、RSP01及び/又はLEF1のmRNA又はcDNAの増幅に適している。乳頭層線維芽細胞特異的マーカーの増幅に適したプライマー対の例を、下記表1に示す:
表1
【表1】
【0106】
従って、特定の実施態様において、このキットは、配列番号:1-12の1以上の配列を有する1以上のプライマーを含んでよい。好ましくはキットは、配列番号1-12の少なくとも2、4、6、8、10又は12を含む。
【0107】
当業者は、公知の方法を用い、所望のマーカーの特異的増幅に適している、代わりのプライマー配列を容易に同定することができる。様々なそれらの多形バリアントを含む、本明細書記載のマーカーのヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、例えば、下記表2に示したような、公にアクセス可能な配列データベースから入手可能である:
表2
【表2】
【0108】
さらなる実施態様では、キットは、例えば以下のマーカーの少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9又は10などの、以下のマーカーの任意の組合せに特異的な試薬(例えば、 抗体又はプライマー)を含んでよい:CD90、CD70、CD34、RGS5、PRG4、MFAP5、ビメンチン、ルミカン又はデコリン。
【0109】
本発明はここで、以下の非限定的実施態様を参照し、単なる実施例により説明される。
【実施例
【0110】
(実施例)
(実施例1)
流動選別されたマウス線維芽細胞亜集団の転写プロファイリング、顕微解剖されたヒト真皮の空間プロファイリング、及び初代ヒト真皮線維芽細胞のシングルセルRNAシークエンシングの組合せを使用し、本発明者らは、ヒト真皮線維芽細胞亜集団のプロスペクティブ単離を可能にするマーカーを規定する。本発明者らは更に、真皮上層及び下層からプロスペクティブに単離された線維芽細胞は、Wntシグナリングにおける差異、インターフェロン刺激に対する差次的反応、及び三次元器官型細胞培養における完全に層別化されたヒト表皮の発達を支持する能力を含む、異なる特性を示すことを明らかにしている。本発明者らの知見は、創傷治癒、及び過剰な線維症により特徴付けられるヒト疾患状態の研究に、かなり関連しており、並びに治療適用のために特異的線維芽細胞亜集団のエクスビボにおける増殖又はインビボにおけるアブレーションを容易にすることができる細胞表面マーカーを提供する。
【0111】
(材料及び方法)
(組織学)
余剰の手術廃棄皮膚を、形成外科手術を受けた、同意を得た患者から入手した。この研究は、国立研究倫理局(NRES)(英国)(HTAライセンス番号:12121、REC No: 14/NS/1073)により、倫理的に承認された。組織学に関して、組織試料を、最適な切断温度化合物(OCT、Life Technologies)中に包埋し、-80℃で貯蔵した。10~16mmの切片を、Thermo Cryostar Nx70(Thermo Fisher Scientific)を用いて切り出した。切片を、4%パラホルムアルデヒド中に固定し、PBS中の10%ロバ血清、0.1%魚類皮膚ゼラチン、0.1%Triton X-100、及び0.5%Tween-20(全てSigma-Aldrichから)の溶液でブロッキングし、且つブロッキング緩衝液中に希釈した一次抗体により、4℃で一晩標識した。切片を、PBSで洗浄し、次に二次抗体及びDAPIで、室温で1時間標識し、PBSで洗浄し、蛍光マウンティング培体(DAKO)によりマウントした。
【0112】
(抗体)
以下の一次抗体を、免疫蛍光測定標識及びフローサイトメトリーに使用した:抗-マウスCD26 PerCP-Cy5.5(eBioscience 45-0261-80)、抗-ヒトCD26 PE-Cy5(Biolegend 302708)、抗-マウスCD133 PE(eBioscience 12- 1331-80)、抗-マウスCD133 APC(eBioscience 17-1331-81)、抗-マウスCD140a APC(eBioscience 17-1401-81)、抗-マウスLy-6A/E AF700(eBioscience 56-5981-82)、抗-マウスDlk1 PE(MBL Int/Caltag medsystems D187-5)、抗-ヒトCD31 PE(eBioscience 12-0319-41)、抗-ヒトCD31 APC-Cy7(Biolegend 303119)、抗-ヒトCD36 FITC(eBioscience11-0369-41)、抗-ヒトCD36 PE(Biolegend 336206)、CD39(eBioscience 14-0399-82)、抗-ヒトCD39 PE(eBioscience 1112-0399-41)、抗-ヒトCD39 APC(Biolegend 328210)、抗-ヒトCD45 AF700(eBioscience 111256-9459-41)、抗-ヒトCD45 APC-Cy7(Biolegend 368516)、抗-ヒトCD90 PE(eBioscience 12- 0909-41)、抗-ヒトCD90 APC(Biolegend 328114)、抗-ヒトCD324 PerCP/Cy5.5(Biolegend 324113)、抗-ヒトCD86 PE(Biolegend 305405)、抗-ヒトCD40 APC/Cy7(Biolegend 334323)、抗-ヒトHLA-DR Pacific Blue(商標)(Biolegend 327016)、抗-ヒトCD80 Brilliant Violet 605(商標)(Biolegend 305225)、抗-ヒトCD274(PD-L1, B7-H1)PE-シアニン7(eBioscience 25-5983-41)、K14(Cambridge Bioscience 906001)、PDGFR-α(R&D Systems AF307-NA)、ビメンチン(Cell Signaling 5741S)、ポドプラニン(R&D Systems AF3244)、Col6A5(Abcam Ab122836)、APCDD1(Abcam Ab171851)、HSPB3(Abcam Ab150844)、WIF-1(R&D Systems MAB134)、MFAP5(Atlas Antibodies HPA010553)、及びPRG4(Atlas Antibodies HPA028523)。
【0113】
以下の二次抗体を使用した:抗-マウスAF555(Invitrogen A31570)、抗-マウスAF647(Invitrogen A31571)、抗-ヤギAF488(Invitrogen A110550)、抗-ヤギAF555(Invitrogen A21432)、抗-ウサギAF488(Invitrogen A21206)、抗-ウサギAF555(Invitrogen A31572)、抗-ラットAF488(Invitrogen A21208)、抗-ラットAF555(Invitrogen A21434)、及び抗-ニワトリAF488(Invitrogen A11039)。
【0114】
(顕微鏡検査)
顕微鏡写真は、Leica DM IL LED組織培養顕微鏡を用いて撮影した。共焦点顕微鏡法は、10×又は20×対物レンズを用い、Nikon A1アップライト型共焦点顕微鏡により行った。H&E染色した切片の造影は、Hamamatsu NanoZoomerスライドスキャナー(Hamamatsu)を用いて行った。画像処理は、Nikon Elements、Image J(Fiji)、Photoshop CS6(Adobe)、及びIcyソフトウェアにより行った。
【0115】
(新生仔マウス線維芽細胞の単離)
P2真皮は、先に説明したように摘出した62。四肢、尾部及び頭部を除去した。腹部皮膚に前方から後方への切開部を作製し、その皮膚を、死体から分離した。皮膚を、トリプシン/EDTA(Sigma-Aldrich)及びディスパーゼ(Sigma-Aldrich)(50:50)の溶液中で、37℃で1時間インキュベーションし、その後表皮を剥離し、且つ廃棄した。真皮を、細かく刻み、FAD基本培地(Gibco)中の0.25%コラゲナーゼ中で、37℃で1時間インキュベーションした。生じる細胞浮遊液を、70μm細胞ストレーナー(SLS)を通して濾過し、1800rpmで25℃で4分間遠心分離した。上清を除去し、ペレットをPBSにより3回洗浄した。最後に、ペレットを、Amniomax培地(Gico)中に再浮遊させ、細胞をフローサイトメトリー及びRNA抽出に使用した。
【0116】
(成体ヒト線維芽細胞の単離)
ヒト成体の手術廃棄皮膚を、直径5mmの小片に切断し、ディスパーゼと共に37℃で1時間インキュベーションした。表皮を剥離し、廃棄し、真皮を、全-皮膚解離キット(Miltenyi)からの酵素を用いて、37℃で一晩消化した。得られた細胞浮遊液を、70μm細胞ストレーナーを通して濾過し、1500rpmで4℃で10分間遠心分離した。上清を除去し、ペレットを、PBSにより、1500rpmで、4℃で4分間1回洗浄した。ペレットを、フローサイトメトリーのために、PBS+1%FCS中に、又はRNA抽出のために、2-メルカプトエタノール(Qiagen)を含有する溶解緩衝液中に、再浮遊させた。
【0117】
(細胞培養)
ヒト成体真皮線維芽細胞は、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)+10%(v/v)FBS、2mM L-グルタミン、及び100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン(Gibco)、又はAmniomax C100補充物を含むAmniomax C100培地(Gibco)中で培養した。培養フラスコを、5%CO2を含む加湿した大気中、37℃で、インキュベーションし、集密度80%の時点で、3~5日毎に継代した。細胞は、全ての試験に関して、継代1~6の間で使用した。初代正常ヒトケラチノサイト(NHK、km株)のストック培養物を、手術廃棄包皮から入手し、3T3-J2フィーダー細胞上で成長させた。NHKを、DED実験のために、継代2~5の間で使用した。3T3-J2線維芽細胞を当初、Dr James Rheinwald(Department of Dermatology, Harvard Skin Research Centre, USA)から、認証なしで入手した。全ての細胞ストックを、マイコプラズマの混入について慣習的に試験したところ、陰性であった。NHKは、先に説明されたように63,64、有糸分裂不活化された3T3-J2細胞上で、1部のHam's F12、3部のDMEM、10-4Mアデニン、10%(v/v)FBS、0.5μg/mlヒドロコルチゾン、5μg/mlインスリン、10-10Mコレラ毒素及び10ng/mlEGFを含む完全FAD培地において培養した。INF-γ-刺激アッセイのために、ヒト真皮線維芽細胞を、成長培地において72時間1000U/ml INF-γ(Sigma-Aldrich)で刺激し、その後フローサイトメトリーによる分析のために採取した。
【0118】
脱表皮化された真皮(DED)を、先に説明されたように調製した65。簡単に述べると、成体ヒト皮膚を、1~2cm2に分割し、52℃で20分間加熱し、この表皮を、鉗子により真皮から分離した。真皮を、少なくとも10回の凍結-解凍サイクルにより、細胞枯渇させ、60Gyで1回照射した。線維芽細胞をDED上へ播種する前に、組織を、6-ウェルハンギング細胞培養インサート(Millipore)へ配置し、DMEMで平衡化させた。表皮表面から、線維芽細胞の5×105個細胞/DEDを、U-100インスリン注射器(BD)を使用し、DEDへ注射し、DMEM中に完全に浸漬させ、その後72時間インキュベーションした。培地を、気液界面を伴うFAD培地へ交換し、1×106個ケラチノサイトを、DEDの表面に播種した。DEDは、3週間にわたり、FAD培地及び気液界面を伴う培養物中に維持し、培地は、48時間毎に交換した。
【0119】
(フローサイトメトリー)
脱凝集させた真皮細胞を、PBS+1%FCS中の抗体で、4℃で45分間標識した。DAPIを使用し、死滅した細胞を除いた。蛍光マイナスワン(FMO)対照を、この実験設定の間使用した。インキュベーション後、細胞を、1500rpmで、4℃で4分間遠心分離し、PBS+1%FCS中で3回洗浄した。ペレットを、PBS+1%FCS中に再浮遊させ、50μm細胞ストレーナーを通して濾過した。データ獲得は、BD FACSCanto II流体系及びLSRFortessa細胞分析装置システムを用いて行った。細胞選別は、BD FACSAria(商標)II及びBD FACSAria(商標)III融合細胞選別装置上で行った。ゲート設定及び補償について、標識されない細胞、単-標識した細胞及び補償ビーズ(BD)を、対照として使用した。データ解析は、FlowJoソフトウェアバージョン7.6.5(Tree Star, アシュランド, OR) を用いて行った。
【0120】
(定量的RT-PCR)
全RNAを、Qiagen RNeasyミニキット(Qiagen)用いて単離し、且つcDNAを、QuantiTect逆転写キット(Qiagen)又はSuperscript III第一鎖合成(Thermofisher)を用いて合成した。追加のRNAse H処理は、30μl反応液につき1μlのRNAse Hを添加し、PCRブロック中、37℃で20分間かけることにより、この反応の終了時に完了した。
【0121】
RT-qPCR反応は、TaqManプローブによる、TaqManファストユニバーサルPCRマスターミックスに関する標準プロトコールを使用するか、又はqPCRプライマー(プライマー3で公開されるか又は設計された)を使用するSYBR-グリーンマスターミックス(Life Technologies)を使用し、CFX384リアルタイムシステム(Bio-Rad)上で行った。値は、デルタCT法を用い、GAPDH、18S又はTBP発現レベルに対し規準化した。各反応は、別に言及しない限りは、少なくとも生物学的3つ組で完了した。以下のTaqManプローブを使用した:CD36 Mm01135198_m1;AKAP12 Mm00513511_m1;CHODL Mm00507273_m1;マウスGAPDH内因性対照(4352339E);CD39 Mm00515447_m1;Akr1c18 Mm00506289_m1;IL6 Mm00446190_m1、NRK Mm00479081_m1。
【0122】
(Affymetrixマイクロアレイ)
cDNAを断片化し、Affymetrix GeneChip(登録商標)標識キットにより標識した。標識したDNA標的及び断片化したcDNAを、マウス遺伝子2.0 STアレイ(Affymetrix)上でハイブリダイズした。これらのマイクロアレイを、GeneChip(登録商標)スキャナ3000(Affymetrix)上で走査した。
【0123】
(RNAシークエンシング)
空間的RNAシークエンシングを、新鮮なヒト皮膚試料(3名の個別の個人から入手)を用いて、行った。皮膚試料は、ディスパーゼII(Stemcell Technologies)と共に、37℃で1時間インキュベーションし、表皮を分離させた。真皮を、解剖顕微鏡下での顕微解剖により、乳頭層真皮(上層100mm)、網状層真皮(200~500mm)に分離した。分離した乳頭層及び網状層真皮試料を引き続き、2-メルカプトエタノールを含有する溶解緩衝液(PureLink RNAマイクロスケールキット、Invitrogen)へ移し、機械的ホモジナイザー(Polytron、Kinematica)を用いて、2分間ホモジナイズした。引き続きRNA抽出を、PureLinkマイクロキットを用いて、製造業者の指示に従い行った。ライブラリー調製は、SmartSeq2プロトコールに従い行った66
【0124】
シングルセルRNAシークエンシングのために、単独細胞を、フローサイトメトリーにより単離し(前述のように)、且つ2μl溶解緩衝液(0.2%(vol/vol)Triton X-100)及び2U/ul組換えRNaseインヒビター(Clontech)の入った96ウェルプレートの個別のウェルに選別した。ライブラリー調製を、SmartSeq2、引き続きNextera XTプロトコール(Illumina)により行った。シークエンシングは、TruSeq SBS v3化学により、Ilumina Hiseq2000又はHiseq 25000上で行った。測定値は、Tophat2によりマッピングした67。遺伝子-特異的発現を、featureCountsを用いて定量した68
【0125】
(グラフ化及び統計解析)
グラフを、Excel及びGraphPad Prism 6ソフトウェアを用いて作製した。データは、平均±平均の標準誤差(SEM)である。ボンフェローニ事後検定を伴う一元ANOVAパラメトリック検定又はスチューデント検定を、実験について行い、P<0.05を有意とみなした。シングルセルシークエンシングデータの統計解析及び可視化は、Seurat package for R (Satija Lab)を用いて行った。
【0126】
(結果)
(新生仔マウス線維芽細胞亜集団におけるWnt、ECM及び免疫シグナリングに関連した遺伝子の差次的発現)
本発明者らは、生後2日目(P2)のPdgfraHBeGFPレポーターマウスの背部皮膚から単離したGFP+線維芽細胞は、細胞表面マーカーCD26、Sca1及びDlk1の発現を基に、フローサイトメトリーにより分離することができることを、先に報告している13。これらの細胞集団を識別する追加のマーカー及びシグナリング経路を同定するために、本発明者らは、流動選別されたP2 GFP+線維芽細胞のトランスクリプトミクス分析を行った(図1)。網状層線維芽細胞はDlk1+Sca1-細胞のゲーティングにより、単離された。2つの個別の脂肪前駆細胞性集団は、Sca1について陽性であり、且つDlk1を用い互いに識別することができる:Dlk1+Sca1+細胞及びDlk1-Sca1+細胞。乳頭層細胞は、CD26+Sca1-として単離された。各集団の80,000個細胞を、3匹の個別のマウスから選別した(図1A)。RNAを抽出し、且つCD26、Sca1及びDlk1発現に関する、Affymetrixマイクロアレイ分析及びqPCRバリデーションに供した(図1B-E)。マーカー発現は、流動選別された集団から単離されたmRNA(図1C)及びマイクロアレイ(図1D)において確認した。
【0127】
主成分分析(PCA)を、異なる細胞集団の間の関係を評価するために利用した(図1B)。これらの試料は、それらの差次化された状態に従い、PC1(y)軸に沿って並べた。2つのSca1+(脂肪前駆細胞性)集団は、PC1において一緒に近似して配置された。Dlk1-Sca1+試料の一つは、Dlk1+Sca1+試料とともに、クラスター化され(アスタリスク、図1B)、且つマイクロアレイにおいて他のDlk1-Sca1+試料よりも、より高いレベルのDlk1を有していた(アスタリスク、図1D)。これについて最も可能性があるのは、流動選別時の技術的失敗を反映しているのであろう。従ってこの試料は、後続の分析から除外した。遺伝子発現レベルの階層的クラスター化により、外れ値Dlk1-Sca1+試料(アスタリスク)を除いて、異なるマウス由来の同じ細胞集団が、一緒にクラスター化されたことが確認された(図1E)。
【0128】
差次的に発現された遺伝子のジーンオントロジー(GO)ターム分析(図2A)は、乳頭層線維芽細胞におけるWntシグナリング経路のアップレギュレーションを示す先行する知見を確認した13,18。網状層線維芽細胞に関するトップのGOタームは、ECM組織化であり、主要な役割を果たすこれらの細胞は、真皮ECM沈着と一致するのに対し、Dlk1-Sca1+トップGOタームは、筋肉に関連し、これは下にある皮筋(panniculus carnosus muscle)における線維/脂肪前駆細胞の存在を反映している19。Dlk1+Sca1+細胞におけるトップ経路は、走化性及び炎症に関連している。Dlk1+Sca1+細胞は、Dlk1-Sca1+細胞よりも、フィブリリン(FBN1)などの線維型ECMタンパク質をコードしている遺伝子をより高いレベルで発現した(図2E)。線維性炎症に結びつけられた遺伝子(例えば、IL-6、CCL7及びCXCL12)は、Dlk1+Sca1+細胞において、Dlk1-Sca1+細胞よりも、より大きい程度アップレギュレートされた(図2B)。差次的に発現されたWnt、ECM及び炎症-関連遺伝子の例を示すヒートマップを、図2B-Dに示している。これらの遺伝子のいくつかの差次的発現は、Q-PCRにより確認し:Wnt経路遺伝子Tcf4、Lef1及びAxin 2は、CD26+Sca1-乳頭層線維芽細胞において、他の集団よりもより高度に発現されたのに対し、Cxcl1及びCxcl12は、乳頭層線維芽細胞において有意にダウンレギュレートされた(図2E)。
【0129】
Sca1+マウス真皮線維芽細胞は、インビボ及び培養物において脂肪細胞へ分化する能力を有しているが13,20;しかし、Dlk1+Sca1-線維芽細胞もまた、脂肪生成活性を有する13。2種の脂肪前駆細胞性集団の性質への識見を得るために、本発明者らは、脂肪生成マーカーのパネルの発現を比較した(図2F)。Dlk1+Sca1+及びDlk1-Sca1+の両集団は、他の集団よりも、より高いレベルのPparg及びFabp4などの既知の脂肪前駆細胞性マーカー21を発現した(図2F)。しかし、網状層線維芽細胞(Dlk1+Sca1-)は、脂肪前駆細胞性マーカーCD248の最高レベルを有した(図2F)。両方のSca1+集団は、他方の線維芽細胞亜集団よりも、より高いレベルの脂肪酸輸送体CD3622を発現した(図2G)のに対し、CD39は、CD26+Sca1-細胞において、選択的にアップレギュレートされた(図2H)。
【0130】
本発明者らは、新生仔マウス乳頭層線維芽細胞は、上昇したWnt遺伝子シグネチャを有することにより、他の線維芽細胞集団から識別される一方で、Dlk1+Sca1+細胞は、ECM遺伝子及び炎症遺伝子の上昇した発現を有することを結論付けた。両方のSca1+集団は、脂肪細胞へ分化することが可能であるが、これらは、個別の遺伝子発現プロファイルを有し、且つ脂肪前駆細胞性マーカーCD24を発現する細胞は、網状層(Dlk1+Sca1-)集団内に存在する。
【0131】
(ヒト真皮の空間トランスクリプトミクスプロファイリング)
ヒト線維芽細胞亜集団のマーカーを同定するために、本発明者らは、遺伝子発現における空間的差異は、マウスとヒトの間で保存されると仮定した。このことを試験するために、本発明者らは、ヒト皮膚試料(個別の個人由来の3つの成人女性乳房試料)から酵素により表皮を除去し、次に解剖顕微鏡下で網状層真皮から乳頭層真皮を顕微解剖した。RNAを、上側100mm(‘乳頭層’)及び200~500mm(‘網状層’)のヒト真皮層から個別に抽出し、増幅及びRNAシークエンシングに供した。遺伝子発現の階層的クラスター化は、乳頭層真皮及び網状層真皮中の細胞は、異なる遺伝子発現プロファイルを有すること、並びに異なる個人由来の同じ空間的位置に由来する試料は、共に関連した(co-associated)ことを明らかにした(図3A)。
【0132】
汎-線維芽細胞マーカー3を同定するために、本発明者らは、上層及び下側ヒト真皮からの我々の遺伝子発現プロファイルを、6つの培養されたヒト線維芽細胞株及び7つの非-線維芽細胞細胞株からの公開されたRNA-seqデータと比較した。汎-線維芽細胞マーカーは、真皮の両方の層及び全ての培養された線維芽細胞株において高レベルで発現されたが、他の培養された細胞型においては検出不可能な遺伝子として規定した。これらの基準に合致する唯一の細胞表面マーカーは、公知のマーカーCD9023(CD90はヒトES細胞においても発現されるにもかかわらず)、PDGFRα及びPDGFRβ2であった。しかしこの分析は、小型ロイシン-リッチプロテオグリカンであるルミカン(LUM)及びデコリン(DCN)を、分泌型汎-線維芽細胞マーカーとして同定した。
【0133】
次に本発明者らは、乳頭層及び網状層線維芽細胞に関する新規マーカーを見つけるために、ヒト真皮の異なる層において差次的に発現された遺伝子を分析した(図3B、C)。乳頭層真皮において最も高度に濃縮されたマーカーの一つは、VI型コラーゲンのα5鎖(COL6A5)であった。VI型コラーゲンはほとんどの結合組織に存在し、そこで構造的に独特なミクロフィブリルを形成するように集成し、且つ時には基底膜との会合において認められる24-26。COL23A1も、乳頭層真皮において、網状層真皮に対し過剰発現された。この分析は更に、乳頭層真皮におけるWnt経路の成分(WIF1、APCDD1、RSP01、AXIN2)の増大した発現を同定し、このことは、マウスとヒトの間の差次的Wntシグナリングの進化的保存を示唆している(図2Bを参照されたい)。真皮下層は、特徴的ECMシグネチャを有さなかったが;しかし、セクレトグロビンスーパーファミリーのいくつかのメンバー(SCGB2A2、SCGB1D2、SLC12A2)が、高度に発現された。中でも毛包-特異的遺伝子(KRTAP11-1、TCHH)は、網状層真皮において最も強力に濃縮され、これはおそらくRNA単離前に表皮が除去された際に、真皮内に包埋され続ける下側毛包のせいであろう。乳房上皮マーカーMUCL1の高い発現も、真皮下層の特徴であり、このことはこの調製物内に残存する乳房上皮細胞を示している。
【0134】
機能試験に関して、線維芽細胞亜集団を識別する細胞表面マーカーは、非常に価値がある。従って本発明者らは、差次的に発現された遺伝子のリストをフィルタリングし、乳頭層(図3D)及び網状層(図3E)ヒト真皮において濃縮された細胞表面マーカーを同定した。乳頭層真皮においてCD3γ、CD3δ及びCD3εは有意に濃縮されたが、これは線維芽細胞亜集団よりもむしろT細胞内容物の差異を反映しているということが最も可能性があるであろう。本発明者らは、マウス及びヒトの両方の真皮系譜において差次的に発現された細胞表面マーカーも同定した(図3F)。網状層系譜の保存されたマーカーは同定されなかったが;しかし、CD39は、マウス及びヒトの両方において、乳頭層真皮系譜の保存されたマーカーとして同定された。
【0135】
RNAシークエンシングにおいて同定された遺伝子の差次的発現をバリデートするために、本発明者らは、3名の個人由来の皮膚切片上に抗体標識を行った。本発明者らは、COL6A5発現は、乳頭層真皮線維芽細胞に限定されることを確認した(図4A、B)。発現のこのパターンは、2つの独立した文献27,28において説明されおり、従ってCOL6A5は、乳頭層真皮線維芽細胞の頑強なマーカーである。APCDD1(図4C、D)、HSPB3(図4E、F)及びWIF1(図4G、H)の免疫染色は、乳頭層真皮におけるこれらのマーカーの差次的発現(図3B)を確認した。マウス線維芽細胞亜集団におけるそれらの発現(図2G、H)と一致して、CD36は下側網状層真皮及び皮下組織において(図4I、J)、並びにCD39は乳頭層真皮において(図4K、L)、優先的に発現された。
【0136】
本発明者らは、新生仔マウス及び成体ヒトの真皮において、網状層及び乳頭層真皮の線維芽細胞において差次的遺伝子発現が存在すること、差次的Wntシグナリングは、進化的に保存された形質であること、並びにCD36及びCD39は、異なる線維芽細胞亜集団のプロスペクティブ単離のための、表面マーカーであることを結論付けた。
【0137】
(流動選別されたヒト線維芽細胞の機能的不均質性)
治療適用のための、特定の真皮線維芽細胞亜集団のエクスビボ増殖は、細胞が培養物中で異なる特徴を保持する場合に、望ましいであろう。従ってマウス及びヒト線維芽細胞の我々の分析を基に、本発明者らは、lin-(すなわちCD31-CD45-E-カドヘリン-)CD90+CD39+(乳頭層)又はlin-CD90+CD36+(下側網状層/皮下組織)であるヒト線維芽細胞を流動選別し、最大4回継代した培養における増殖後に、それらの特性を比較した(図5)。本発明者らは、LUM及びCOL6A5の発現は、CD90+線維芽細胞において、総真皮に対し、濃縮されたことを確認した(図5A、B)。1回継代後、CD39及びCOL6A5の発現は、完全に失われたが;しかし、CD90、LUM及びCD36の発現は、維持された(図5C-E)。これは、培養それ自身は、細胞競合よりもむしろ、線維芽細胞マーカーの喪失に繋がることを明らかにしている。
【0138】
CD39及びCOL6A5の発現は、培養物において迅速に失われたが、lin-CD90+CD39+及びlin-CD90+CD36+集団は、培養物において異なる形態を示した。一部の試料において、CD39+細胞は、紡錘状形態を示したのに対し、CD36+細胞は、より類上皮的形状を有した(図5F)。しかしこれらの差異は、組織試料間で一貫しておらず、潜在的に異なる年齢の皮膚及び体の部位からの細胞の単離を反映しているのかもしれない(図5F)。qPCRは、いくつかのECM成分(図5I)及び炎症メディエーター(図 5H)をコードしている遺伝子の発現は、CD36+細胞においてより高度に発現され続けることを明らかにした。しかし、乳頭層真皮に関連したWnt経路遺伝子の上昇した発現は、喪失された(図5G)。
【0139】
炎症メディエーターの差次的発現の機能的有意性を試験するために(図5H)、本発明者らは、インターフェロン刺激アッセイを行った(図5J-N)。本発明者らは、lin-CD90+CD36+(皮下組織)と比較した、lin-CD90+CD39+(真皮上層)の反応において、CD39+細胞におけるPDL-1及びCD40のアップレギュレーションの有意な減少という明らかな差異を認めた。これは、真皮上層の線維芽細胞に関する抗炎症性表現型と一致する。
【0140】
マウス試験は、表皮幹細胞コンパートメントの調節及び維持における、基底層ケラチノサイトと真皮上層線維芽細胞の間の、相反するWntシグナリングの役割を同定した18,29-31。乳頭層Wnt遺伝子シグネチャは、培養物において失われたが(図5G)、乳頭層真皮に由来した培養された線維芽細胞は、三次元器官型培養において、網状層真皮由来の線維芽細胞よりもより効果的に、正常な層別化された表皮の形成を支援することは、既に明らかにされている15-17。従って本発明者らは、これを、培養された線維芽細胞亜集団の、脱細胞化されたヒト真皮(DED)を増殖させ、且つ構造的に正常な表皮の形成を支援する能力を評価するための機能アッセイとして利用した。流動選別されたlin-CD90+CD39+細胞、lin-CD90+CD39-細胞及びlin-CD90+CD36+細胞を、培養物中で増殖させ、次にDEDの上側表面に導入した。引き続き、初代ヒトケラチノサイトを、真皮の表面へ添加し、気液界面で培養した。
【0141】
線維芽細胞非存在での3週間の培養後、表皮は、正常表皮よりも、より少ない生存細胞層を有し、且つ健常な組織の特徴である乳頭間隆起として公知の起伏を欠いていた(図6A、F)。追加の未分画の線維芽細胞(CD90+)は、若干の乳頭間隆起を伴うより厚い表皮の形成に繋がった(図6B、G)。線維芽細胞亜集団がプロスペクティブに単離された場合、lin-CD90+CD39+細胞は、lin-CD90+CD39-細胞(図6D、I)及びlin-CD90+CD36+細胞(図6E、J)よりも、多層の上皮の形成をより効果的に支援した(図6C、H、K)。播種後、lin-CD90+CD39+細胞は、真皮上層に大きく制限され続けたのに対し、lin-CD90+CD39-細胞及びlin-CD90+CD36+細胞は、真皮の中央部及び深部へと広がり(図6L、M)、且つ線維芽細胞密度は、lin-CD90+CD39+細胞により再構成されたDEDにおいて最高であった(図6L)。
【0142】
まとめると、本発明者らの機能分析は、培養に関連した遺伝子発現の変化に逆らうことなく(not withstanding)、プロスペクティブに単離された線維芽細胞亜集団は、免疫学的機能における差異並びに三次元器官型細胞培養における構造的に正常な表皮の形成を支援する能力を維持することを明らかにしている。
【0143】
(ヒト真皮線維芽細胞のシングルセル転写プロファイリングは空間的に隔離されていない亜集団を同定する)
本発明者らのヒト真皮の異なる層の線維芽細胞の分析は、線維芽細胞は不均質であるという概念を裏付けたが、これは乳頭層真皮と網状層真皮の間で空間的に隔離されている線維芽細胞亜集団を検出することができるのみである。従って線維芽細胞亜集団のより包括的な評価に着手するために、本発明者らは、表皮の酵素的除去後、ヒト真皮から、系譜lin-及びlin-CD90+の両細胞を、単離した(図7A)。初代ヒト真皮の5つの試料について、細胞の12.2%(S.D.6.7%)はCD90+であり、9.4%(S.D.4.7%)はlin-CD90+であり、且つ39.6%(S.D.16.4%)はlin-CD90-であった。従って線維芽細胞は、真皮細胞の小さい割合を構成し、その大半は、CD31+内皮細胞(8.1% S.D.5.2%)、CD45+(11.6% S.D.7.4%)造血細胞、並びに汗腺、神経細胞及び毛包由来のケラチノサイトを含む他の細胞型であった。
【0144】
追加の線維芽細胞亜集団を規定するために、本発明者らは、合計184細胞についてシングルセルRNAシークエンシングを行った。線維芽細胞の濃縮のために、これらの細胞の半分は、流動選別されたlin-CD90+細胞であった。しかし本発明者らは、CD90-である可能性のある新規線維芽細胞サブセットを排除することを欲さないので、これらの細胞の半分は、lin-CD90+/-であった。tSNE分析(図7B-D)は、各個別の細胞の遺伝子発現の全体のパターンについて行い;この方法は、類似の遺伝子発現を伴う細胞を群別した。tSNE分析の自動クラスター化(図7D)は、細胞の5つの群を同定したが、第1群(赤色)はわずかに5個の細胞を含んだ。
【0145】
線維芽細胞亜集団を特徴付けるために、本発明者らは、各群において有意に過剰発現された遺伝子を、コンピュータにより同定した。ビメンチン、間葉細胞マーカーは全ての群において発現し、上皮細胞はプロファイルされなかったことを確立した(図7E、F)。デコリン(DCN)及びルミカン(LUM)-空間トランスクリプトミクスにより同定した汎-線維芽細胞マーカー(図3)-は、第5群を除く、全ての群において発現された。第5群はまた、lin-CD90+細胞を含まなかった。乳頭層真皮に局在化されたような、空間的転写プロファイリング(図3B)により同定された、COL6A5、COL23A1及びHSPB3は、第3群において高度に濃縮され、これはこの群は、乳頭層線維芽細胞を表すことを示唆している。
【0146】
CD74及びHLA-DR4-両方共MHCクラスII成分32-及び密着結合の成分であるCLDN533は、第5群にマークされた。これらの細胞は、ビメンチン+及びlin-であるが、DCN及びLUMの欠如並びにCD74(マクロファージ抑制因子受容体)及びHLA-DRの発現は、マクロファージ/樹状細胞の特徴を示している32,34。しかし、第5群細胞の別のマーカーであるCLDN5は、内皮マーカーである35。興味深いことに、Pparg(PPARG)及びよりない程度のCD36の脂肪前駆細胞性マーカーの発現も、第5群において濃縮され、これは少なくとも脂肪前駆細胞の画分は、CD90-であることを示唆している。更に第5群細胞の亜集団は、TEK(TIE2)を発現し、且つTIE2-発現する単球/マクロファージに対応するであろう36
【0147】
第2群は、最大の細胞クラスターの一つであるが、特異的マーカーは、ほとんど存在しなかった。それらの一つであるRGS5は、周皮細胞のマーカーとしてよく特徴付けられており37、真皮を通じてRGS5標識された血管-関連した周皮細胞に対する抗体である(図7J)。RGS5-陽性細胞は、第2群の上側半分に限定され、このことは、第2群の下側半分の細胞は、代りの細胞の同一性を表していることを示唆している。
【0148】
CD26、MFAP5及びPRG4は、第4群のマーカーとして同定された。CD26はまた、第1群細胞のマーカーでもあるのに対し、MFAP5は、第2群の細胞により発現された。抗体標識は、新生仔マウス真皮(図1)とは対照的に、CD26を発現する細胞は、成体の乳頭層ヒト真皮には存在しないことを示している(図7H)。MFAP5は、真皮を通じて発現された(図5I)。CD39+CD26-であることを基本とした乳頭層細胞の流動選別により(図7G、H)、本発明者らは、乳頭層マーカーCOL6A5、WNT5A、RSPO1及びLEF1の発現を、濃縮することができた(図7K-O)。
【0149】
本発明者らは、線維芽細胞の同定は、乳頭層線維芽細胞の場合を除き、真皮内の空間的区画化により制限されないこと、並びにシングルセルRNAシークエンシングにより、本発明者らは、追加の線維芽細胞亜集団を同定することができることを結論付けた。
【0150】
(考察)
本発明者らの結果は、細胞外マトリクスの合成及び維持並びに隣接細胞型の協調及び調節に特化した機能を有する線維芽細胞は、単独の均質な細胞型ではなく、関連した細胞型のファミリーであるという浮かび上がりつつある概念13,14を裏付けている。空間的及びシングルセル転写プロファイリングの組合せにより、本発明者らは、ヒト真皮内に少なくとも4種の線維芽細胞亜集団を同定した。これらの第一のものはlin-CD90+CD39+CD26-の細胞表面表現型を有し、COL6A5などの特異的コラーゲン鎖の発現により特徴付けられ、且つ真皮上層に局在化されている。第二のものは、lin-CD90+CD39+CD26+であり、且つ真皮の残り部分を通じて局在化される。残りの群は、周皮細胞に対応するlin-CD90+CD39-RGS5+細胞37;真皮下層に位置し、且つ脂肪前駆細胞を表す、lin-CD36+細胞;並びに、依然特徴付けられていない線維芽細胞亜集団である、lin-CD90+CD39-RGS5-細胞である。
【0151】
マウス真皮の先行する研究38-41とは対照的に、真皮の乳頭層に関連した線維芽細胞は、本発明者らのデータセットにおいては顕著ではなく、おそらくマウス皮膚と比べ、ヒト乳房皮膚中では毛包密度が有意に低いことを反映しているであろう。発達するマウス真皮の本発明者らの先行する研究において同定された細胞表面マーカーの多くは、ヒトにおいては保存されなかった。この保存の欠如は、ヒトとマウスの間で造血幹細胞に関する細胞表面マーカーの保存は良くない42ので、予想外ではなかった。しかし興味深いことに、真皮線維芽細胞同定の3つの研究全てが、重要な系譜マーカーとしてCD26を同定したが、標識される亜集団は異なるように見える。マウス発生の早期段階において、CD26は、真皮上層系譜をマークし;成体マウスにおいて、CD26発現は、真皮の大きい画分に存在する14。ここで本発明者らは、CD26発現は、ヒト成体真皮の大きい画分に存在するが、これは最も上層の(乳頭層)線維芽細胞から排除されることを明らかにした。注目すべきは、CD26は、炎症反応の制御因子として結びつけられており43、並びにCD26+線維芽細胞は、皮膚線維症の原因となることが報告されている44
【0152】
おそらく、線維芽細胞の細胞同一性の詳細は、細胞-細胞接触及び拡散性細胞シグナリングメディエーターを含む、この細胞の空間的状況から発せられる外因性シグナルと、転写及びエピジェネティック制御ネットワークを含む、内因性機構の組合せを反映しているであろう。前者に関して、本発明者らの結果は、真皮線維芽細胞亜集団同一性の調節におけるWnt経路を介したシグナリングに関する重要な役割を裏付けている。本発明者らは、真皮上層のマウス及びヒトの両方の線維芽細胞系譜において、Wntシグナリングのアップレギュレーションを認めた。Wntシグナリングは、マウス真皮45及びヒト真皮46の正常な発達に必要であり、研究は、毛包の発育及び再生におけるWntシグナリングの中心的役割を明らかにしている47,48,40,49。表皮性のWntシグナリングはまた、皮下組織の脂肪細胞層の調節にも結びつけられており8,50、且つ表皮の維持には重要である51。本発明者らは、乳頭層真皮線維芽細胞と、乳頭層真皮線維芽細胞の細胞同一性の維持に貢献する基底層ケラチノサイトの間には、互いに相乗的なWnt-媒介したクロストークが存在することを提唱する。培養物におけるこのシグナリングの喪失は、乳頭層細胞マーカーの迅速な喪失を説明することができる。
【0153】
Wnt経路成分の差次的発現に加え、本発明者らは、真皮からの単離に対するマウス及びヒト線維芽細胞の亜集団における、ECMと免疫制御因子の遺伝子の差次的発現を認めた。本発明者らはまた、コラーゲン鎖発現における差異、インターフェロン刺激に対する免疫学的反応、及び3D-再構築された器官型細胞培養における層化された扁平上皮の正常な発達を支援する能力により証明されるような、上層及び下層真皮線維芽細胞のインビトロにおける増殖後の、細胞機能の保存も認めた。興味深いことに、線維芽細胞機能における差異は、少なくとも早期の継代に関して、培養において保存されるにもかかわらず、重要な亜集団マーカーの発現は、迅速に消失した。この知見は、線維芽細胞は皮膚に存在する細胞の小さい画分を構成するという知見と組合せて、培養された線維芽細胞により実施された実験を基に疾患過程を理解することを求める研究との関係を有し、並びに同様のことが、インビボにおいて示されたものとは異なる、培養又は移植実験において提示される表皮幹細胞の特性を示している先行する研究1,52から引き出された。
【0154】
真皮などの哺乳動物組織は、異なる機能的同一性を伴う線維芽細胞を含むという浮かび上がる概念は、多種多様な病態の理解と、深い関係を有する。成体における創傷治癒は、皮脂腺及び汗腺などの正常な皮膚付属器を欠いている、ECM-リッチ瘢痕の形成により特徴付けられる53。マウスの細胞系譜トレースは、線維芽細胞遊走の第一波は、アルファ平滑筋アクチンを発現している下側(網状層)系譜の線維芽細胞に由来する13ことを明らかにしている。これはヒトにおいて保存されているかどうかを決定することは、非常に興味深く、正常な創傷治癒の調節のための可能性のある戦略、並びにケロイド状瘢痕化54,55、強皮症、及び移植片対宿主病などの病態の理解を提供する。線維芽細胞亜集団の量又は機能の変更はまた、正常な乳頭間隆起の喪失を伴う、真皮の薄化及び真皮-表皮接合部の平坦化を含む、皮膚構造の特徴的な年齢に関連した変化においても役割を果たす56,57
【0155】
線維芽細胞亜集団のヒト疾患への差次的寄与の理解は、新たな治療戦略を提供し得る。この状況において、有害な線維芽細胞亜集団の作用は、おそらくこれらの亜集団に特異的なシグナリング経路の阻害を介して、又は、モノクローナル抗体が媒介したアブレーションを介して、阻害され得ることが、想定される。この概念の裏付けにおいて、マウスにおける創傷治癒時の線維芽細胞の数の実験的な減少は、線維症の程度を軽減することができる58。あるいは、有益な亜集団は、おそらく細胞シグナリング経路の操作を介して、エクスビボにおいて増殖され得る。線維芽細胞の細胞療法の治験が、治癒不良の潰瘍59及び表皮水疱症60の治療について既に実行されている。注目すべきことに、乳頭層線維芽細胞は、組織-操作された代用皮膚の構築においてより有効であるように見える61
【0156】
まとめると、空間的及びシングルセル転写プロファイリングの組合せにより、本発明者らは、マウス真皮の先行する研究と一致して、線維芽細胞亜集団は、ヒト真皮内に同定することができることを示した。本発明者らは、これらの亜集団のプロスペクティブ単離を可能にする細胞表面マーカーを同定し、且つこれらは、機能的特殊化(specialization)を示すことを明らかにした。これらの知見は、線維芽細胞機能障害により特徴付けられる疾患の理解と治療との重要な関係を有する。
【0157】
(実施例2)
(方法)
(線維芽細胞単離)
初代線維芽細胞は、先に説明した通りに単離した。細胞の異なる亜集団を、系譜陰性(CD45-、CD31-、e-カドヘリン-)細胞の枯渇後、フローサイトメトリーにより単離した。その後線維芽細胞を、CD90+について、引き続きそれらの各細胞表面マーカーについて、陽性選別した。
【0158】
(創傷治癒エクスビボ外植片)
形成外科手術を受けている同意を得た患者からの成体手術廃棄皮膚は、St George’s University Hospitals NHS Foundation Trustから入手し、本試験は、英国国立研究倫理局委員会(NRESC)(HTAライセンス番号:12121, REC-No: 14/NS/1073)により倫理的に承認された。過剰な脂肪組織を切除し、皮膚を10%ヨウ素消毒液中に含浸することにより滅菌し、引き続き70%アルコールで2回交換し、最後に滅菌したリン酸緩衝食塩水(PBS、Gibco)中に交換した。この皮膚を、1cm2の小片に切断し、4mmパンチ生検を用い、各々の中心部に、部分厚みのある(partial thickness)創傷を作製した。線維芽細胞を創傷へ播種する前に、この組織を、6-ウェルハンギング細胞培養インサートへ配置し、気液界面を伴うDMEMにより平衡化した。別のドナーからの初代線維芽細胞亜集団(20 000個細胞)を、10μlのDMEM中に再浮遊させ、この創傷へピペッティングした。外植片は、5%CO2を含む加湿大気中で、37℃で2週間インキュベーションし、最適な切断温度化合物(OCT、Life Technologies)中に包埋し、その後切片を切り出した。
【0159】
(脱表皮化した真皮(DED)の器官型培養)
脱表皮化した真皮(DED)を、先に説明された通りに調製した(Rikimaruらの文献、Experimental dermatology 6, 214-221 (1997))。簡単に述べると、正常な成体ヒト皮膚又は切除したケロイド状瘢痕を、1~2cm2に切断し、52℃で20分間加熱し、表皮を、鉗子により真皮から分離した。この真皮を、10回の凍結-解凍サイクルにより、細胞枯渇させ、60Gyで1回照射した。線維芽細胞をDEDへ播種する前に、この組織を、6-ウェルハンギング細胞培養インサート(Millipore)へ配置し、DMEMで平衡化させた。様々な初代線維芽細胞亜集団(5×105個細胞)を、U-100インスリン注射器(BD)を使用し、表皮表面から、各DEDへ注射した。その後DEDを24時間インキュベーションし、5%CO2を含む加湿大気中で、37℃で、DMEM中に完全に浸漬させた。培地を、気液界面を伴うFAD培地へ交換し、1×106個ケラチノサイトを、DEDの表面に播種した。DEDsは、3週間にわたり、気液界面でFAD培地を伴う培養物中に維持し、培地は、48時間毎に交換した。試料は、切片を切り出す前に、OCTに包埋した。
【0160】
(コラーゲン分析)
コラーゲン定量のために、16μmの凍結切片を、ピクロシリウスレッドにより、常法を用い染色した(Lattoufらの文献、J Histochem Cytochem. 2014; 62(10):751-8)。簡単に述べると、これらの切片を、4%パラホルムアルデヒド/PBSで固定し(室温で10分間)、水で2回洗浄し、ピクロシリウスレッド溶液[ピクリン酸飽和水溶液中の0.1%シリウスレッドF3B(Sigma)]で1時間染色した。染色後、切片を酸性水(0.5%酢酸)で2回洗浄し、脱水し、キシレンで透徹し、且つDPXマウンティング培体(Sigma)にマウントした。画像を、背景の黒色に対しコラーゲン線維を緑色、オレンジ色及び黄色で示す平面偏光下で、Zeiss Axiophot顕微鏡及びAxioCam HRcカメラにより撮影した。光の強度は、定量について線形反応を生じるように調節した。総コラーゲン線維の定量は、Fiji画像ソフトウェアを用いて行った。コラーゲンピクセルは、色閾値ツール(色彩0~100、彩度0~255、及び輝度230~255)により選択し、バイナリー画像を作製し、選択を基に測定した。
【0161】
コラーゲンハイブリダイジングペプチド(CHP)染色(Hwangらの文献、2017;Li及びYuの文献、2013)に関して、16μm凍結切片を、4%パラホルムアルデヒド/PBSで固定し(室温で10分間)、0.1%Triton X-100/PBSにより透過性を高め(室温で10分間)、5%BSA/PBSによりブロックし(室温で1時間)、且つ指定された一次抗体及び5μMのB-CHP(BIO300、3Helix)により4℃で一晩染色した。製造業者の指示に従い、B-CHPプローブを、80℃で5分間加熱し、その後これを一次抗体ミックスへ添加し、これを直ちに組織切片へ塗布した。切片を、PBSにより3回洗浄し、適切な二次抗体及びストレプトアビジン-AlexaFluor647(S32357、Thermo Fisher)と共に、室温で1時間インキュベーションした。切片をPBSで洗浄し、且つそれらをDAPI(1:50,000希釈した1μg/ml)と室温で10分間インキュベーションした後、これらの試料を、ProLong(登録商標)Gold Antifade Mountant(Thermo Fisher)によりマウントした。共焦点顕微鏡法を、Nikon A1共焦点顕微鏡で、20×対物レンズを使用し行った。
【0162】
(結果)
(様々な線維芽細胞亜集団を播種し、エクスビボにおいて14日間培養した創傷皮膚)
線維芽細胞亜集団は、エクスビボにおける創傷治癒について様々な作用を有する(図9から12参照)。乳頭層CD39+CD26-細胞及び網状層CD39-細胞のみが、再上皮化を支援することができた。しかし、CD39-細胞は、他の亜集団よりも、有意に多いコラーゲンを分泌した。このことは、線維症に易罹患性の患者に関して、臨床的な関わりを有し得る。従って、CD39+CD26-細胞の創傷への注射は、瘢痕組織形成のリスクを伴わずに、より迅速な治癒を促進することができる。
【0163】
(異なる線維芽細胞亜集団で再構成した脱細胞化した真皮におけるコラーゲン沈着の差異)
総コラーゲン密度を計算するために、本発明者らは、切片をピクロシリウスレッドにより染色し、そこではコラーゲン束は、偏光下で、緑色、赤色又は黄色に見える(図13参照)。これらの画像を定量するために、本発明者らは、バイナリー画像において、総コラーゲンシグナルを、黒色ピクセルに変換し、フレーム内のピクセルの総数を測定した。CD39+CD26-乳頭層線維芽細胞により再配置させたDEDは、他の線維芽細胞亜集団と比べ、より多い総コラーゲン密度を有した(図14参照)。
【0164】
(異なる線維芽細胞亜集団で再構成した脱細胞化した真皮におけるコラーゲン線維構造の差異)
コラーゲンハイブリダイズペプチド(CHP)は、コラーゲン線維の成熟及びリモデリングにおいて、アクセス可能なコラーゲン3本鎖ヘリックスへとインターカレートする。これは、フォールディングしていないコラーゲン分子に関する極めて特異的なプローブであり、従ってこれは厚い3本鎖ヘリックスの成熟したコラーゲンには結合しない。CD39+CD26-乳頭層線維芽細胞は、他の線維芽細胞亜集団と比べ、より新しいコラーゲン線維を作製し及び/又はDED中に存在するコラーゲンをリモデリングするように見える(図15参照)。
【0165】
(異なる線維芽細胞亜集団で再構成した脱細胞化した真皮における表皮性WNTシグナリング)
CD39+CD26-乳頭層線維芽細胞は、表皮においてR-スポンジン1をより高いレベルで刺激する(図16参照)。
【0166】
(線維芽細胞亜集団によるケロイド状瘢痕リモデリング)
ケロイド組織を、脱細胞化し、異なる線維芽細胞亜集団を注射し、インビトロにおいて3週間培養した。乳頭層線維芽細胞(CD39+CD26-)(c)は、他の単離された集団よりも多く、瘢痕組織の厚さを減少した(図17、b、d、e及びf参照)。未分画(b)及びCD36+網状層/脂肪前駆細胞性(f)線維芽細胞は、線維芽細胞無添加の対照組織と比較した場合に、瘢痕リモデリングに作用を有さなかった(図18参照)。
【0167】
(考察)
これらの結果は、創傷治癒、コラーゲン沈着及び瘢痕化における、個々の線維芽細胞亜集団の差次的作用を示している。創傷治癒モデルにおいて、乳頭層(CD39+CD26-)線維芽細胞は、コラーゲン生成を増加することなく、再上皮化を増強した。乳頭層(CD39+CD26-)線維芽細胞もまた、ケロイド組織リモデリング時に、他の集団よりも多く、瘢痕組織の厚さを減少した。このことは、瘢痕化リスクが低下した創傷治癒を促進するための、この亜集団の使用を示唆している。対照的に、脱細胞化された真皮において乳頭層(CD39+CD26-)線維芽細胞は、他の線維芽細胞亜集団と比べ、より高いコラーゲン生成が促進され、これは損傷したコラーゲン、例えば、紫外線曝露に起因するコラーゲン損傷の修復のための、それらの使用を暗示している。
【0168】
(参考文献)
【化1】
【0169】
先に本明細書において言及した全ての刊行物は、引用により本明細書中に組み込まれている。本発明の説明した方法及びシステムの様々な修飾及び変動は、本発明の範囲及び精神から逸脱することなく、当業者には明らかであろう。本発明は具体的好ましい実施態様に結びつけて説明されているが、請求される本発明は、そのような具体的実施態様に過度に限定されるべきではないことは理解されるべきである。実際、当業者には明白である本発明を実行するための説明された方式の様々な修飾は、以下の請求項の範囲内であることが意図される。
本件出願は、以下の態様の発明を提供する。
(態様1)
ヒト真皮線維芽細胞を選別する方法であって:
(a)ヒト真皮線維芽細胞を含む細胞集団を提供する工程;並びに
(b)ヒト真皮線維芽細胞を、CD39、CD36及びCD26から選択された1以上の細胞表面マーカーの発現を基に、亜集団へ分離する工程;を含む、前記方法。
(態様2)
前記ヒト真皮線維芽細胞が、フローサイトメトリーにより分離される、態様1記載の方法。
(態様3)
前記ヒト真皮線維芽細胞が、CD90を発現している細胞を選択することにより、細胞集団から分離される、態様1又は2記載の方法。
(態様4)
前記ヒト真皮線維芽細胞が、細胞表面表現型CD45-CD31-CD324-CD90+を有する細胞を選択することにより、他のヒト真皮細胞から分離される、態様3記載の方法。
(態様5)
ヒト真皮線維芽細胞の第一の亜集団が、細胞表面表現型CD39+CD26-を有する細胞を選択することにより分離される、態様1~4のいずれか一項記載の方法。
(態様6)
前記第一の亜集団が、乳頭層線維芽細胞を含む、態様5記載の方法。
(態様7)
ヒト真皮線維芽細胞の第二の亜集団が、細胞表面表現型CD39-又はCD39+CD26+を有する細胞を選択することにより分離される、態様1~6のいずれか一項記載の方法。
(態様8)
前記第二の亜集団が、網状層線維芽細胞を含む、態様7記載の方法。
(態様9)
ヒト真皮線維芽細胞の第三の亜集団が、CD36を発現している細胞を選択することにより分離される、態様1~8のいずれか一項記載の方法。
(態様10)
前記第三の亜集団が、脂肪前駆細胞性線維芽細胞を含む、態様9記載の方法。
(態様11)
インビトロにおいて工程(b)において分離された1以上の亜集団を増殖させる工程を更に含む、態様1~10のいずれか一項記載の方法。
(態様12)
前記1以上の亜集団が、インビトロにおいて、Wnt、トランスフォーミング増殖因子β、線維芽細胞増殖因子又はヘッジホッグシグナリング経路を調節する物質の存在下で、培養される、態様11記載の方法。
(態様13)
COL6A5、COL23A1、HSPB3、WNT5a、RSP01、LEF1、RGS5、MFAP5、PRG4、CD9、CD11a、CD29、CD34、CD44、CD47、CD59、CD70、CD73、CD81、CD87、CD105、CD141、CD142、CD147、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-DR、HLA-DP、HLA-DQ、デコリン、ルミカン及びジシアロガングリオシドGD2から選択される1以上の追加マーカーの亜集団における発現を決定する工程を更に含む、態様1~12のいずれか一項記載の方法。
(態様14)
態様1~13のいずれか一項記載の方法により入手された又は入手可能なヒト真皮線維芽細胞の単離された亜集団。
(態様15)
細胞表面表現型CD45-CD31-CD324-CD90+CD39+CD26-の発現により特徴付けられる、ヒト真皮乳頭層線維芽細胞の単離された集団。
(態様16)
細胞表面表現型CD45-CD31-CD324-CD90+CD39-又はCD45-CD31-CD324-CD90+CD39+CD26+の発現により特徴付けられる、ヒト真皮網状層線維芽細胞の単離された集団。
(態様17)
細胞表面表現型CD45-CD31-CD324-CD90+CD36+の発現により特徴付けられる、ヒト真皮脂肪前駆細胞性線維芽細胞の単離された集団。
(態様18)
医薬品における使用のための、態様14~17のいずれか一項記載のヒト真皮線維芽細胞の単離された集団。
(態様19)
皮膚障害の治療における使用のための、態様14~17のいずれか一項記載のヒト真皮線維芽細胞の単離された集団。
(態様20)
創傷治癒の促進における使用のための、態様14~17のいずれか一項記載のヒト真皮線維芽細胞の単離された集団。
(態様21)
ケロイド状瘢痕、強皮症、移植片対宿主病、皮膚潰瘍又は表皮水疱症の治療における使用のための、態様14~17のいずれか一項記載のヒト真皮線維芽細胞の単離された集団。
(態様22)
対象の皮膚へ、態様14~17のいずれか一項記載のヒト真皮線維芽細胞の単離された集団を投与することを含む、ヒト対象における皮膚の加齢又は瘢痕化を予防又は治療する美容方法。
(態様23)
前記ヒト真皮線維芽細胞が、対象にとって自家である、態様22記載の美容方法。
(態様24)
前記ヒト真皮線維芽細胞が、対象にとって同種である、態様22記載の美容方法。
(態様25)
ヒト真皮線維芽細胞活性を調節する薬剤を同定するスクリーニング方法であって:
(a)この薬剤を、態様14~17のいずれか一項記載のヒト真皮線維芽細胞の単離された集団と接触させる工程;
(b)この薬剤の存在下での、ヒト真皮線維芽細胞の単離された集団の活性を決定する工程:を含む、前記方法。
(態様26)
複数の候補薬剤が、ヒト真皮線維芽細胞の単離された集団と接触させられ、及びヒト真皮線維芽細胞の活性を調節する薬剤が選択される、態様25記載のスクリーニング方法。
(態様27)
創傷治癒の促進において使用するための、細胞表面表現型CD45-CD31-CD324-CD90+CD39+CD26-の発現により特徴付けられる、ヒト真皮乳頭層線維芽細胞の単離された集団。
(態様28)
瘢痕化リスクの低下を伴う創傷治癒の促進において使用するための、細胞表面表現型CD45-CD31-CD324-CD90+CD39+CD26-の発現により特徴付けられる、ヒト真皮乳頭層線維芽細胞の単離された集団。
(態様29)
瘢痕化の予防又は治療において使用するための、細胞表面表現型CD45-CD31-CD324-CD90+CD39+CD26-の発現により特徴付けられる、ヒト真皮乳頭層線維芽細胞の単離された集団。
図1A-B】
図1C-D】
図1E
図2A
図2B-D】
図2E
図2F-H】
図3A-D】
図3B
図3C
図3E-F】
図4
図5A-E】
図5F
図5G-H】
図5I
図5J-L】
図5M-N】
図6
図7A
図7B-D】
図7E-01】
図7E-02】
図7F-01】
図7F-02】
図7G-O】
図8-01】
図8-02】
図8-03】
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
【配列表】
0007475685000001.app