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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】CARS光学系を含むシステム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/65 20060101AFI20240422BHJP
【FI】
G01N21/65
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021571449
(86)(22)【出願日】2020-06-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-06
(86)【国際出願番号】 JP2020024954
(87)【国際公開番号】W WO2020262513
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-05-10
(31)【優先権主張番号】62/866,115
(32)【優先日】2019-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509339821
【氏名又は名称】アトナープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102934
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 彰
(72)【発明者】
【氏名】アンダーソン デイヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】プレウィッキ マテウス
(72)【発明者】
【氏名】チュリン ドミトリー
(72)【発明者】
【氏名】パンドゥランガン アナンド
(72)【発明者】
【氏名】チャン アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】ブルックナー ルーカス
(72)【発明者】
【氏名】ムルティ プラカッシ スリダラ
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0066848(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0045628(KR,A)
【文献】国際公開第2014/180986(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/83
A61B 5/00-A61B 5/398
G01J 3/00-G01J 3/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
IEEE Xplore
Optica
Science Direct
ACS PUBLICATIONS
APS Journals
JJAP
APEX
KAKEN
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の範囲の波長の第1の光パルスを供給するように構成された第1の光路と、
前記第1の範囲の波長よりも短い第2の範囲の波長の第2の光パルスを供給するように構成された第2の光路と、
前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスをターゲットに照射して前記ターゲットからの光を取得することにより前記ターゲットからのCARS光パルスを検出器で検出するように構成された光入出力ユニット
前記光入出力ユニットを介して前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスが照射される際の前記第1の光パルスと前記第2の光パルスとの位相差を可変する第1の位相変調ユニットと、
前記CARS光パルスのスペクトルの既知成分のピークが最大化されるように、前記第1の光パルスと前記第2の光パルスとの前記位相差を可変させるように構成された第2の変調制御ユニットとを有するシステム。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1の位相変調ユニットを用いて、前記第1の光パルスと前記第2の光パルスとの位相差を周期的にシフトさせるように構成された第1の変調制御ユニットをさらに有する、システム。
【請求項3】
請求項2において、
前記第1の変調制御ユニットは、前記第1の光パルスと前記第2の光パルスとの位相差をパルス毎にシフトさせるように構成されたユニットを含む、システム。
【請求項4】
請求項2または3において、
前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスは、フェムト秒からピコ秒のオーダーであり、前記第1の変調制御ユニットは、前記第1の光パルスと前記第2の光パルスとの位相差を1~100kHzの周期でシフトさせる、システム。
【請求項5】
請求項1ないしのいずれかにおいて、
前記第1の位相変調ユニットは、遅延を変調するユニットであって、前記第1の光路および前記第2の光路のうちの少なくとも一方の光路を変調して少なくとも2πの位相シフトを可能とするように構成された遅延変調ユニットを含む、システム。
【請求項6】
請求項において、
前記遅延変調ユニットは、再帰反射器と、前記再帰反射器を移動させるためのピエゾ素子とを含む、システム。
【請求項7】
請求項5または6において、
前記遅延変調ユニットは、前記第2の光路の一部の光路を変調する、システム。
【請求項8】
第1の範囲の波長の第1の光パルスを供給するように構成された第1の光路と、
前記第1の範囲の波長よりも短い第2の範囲の波長の第2の光パルスを供給するように構成された第2の光路と、
前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスをターゲットに照射して前記ターゲットからの光を取得することにより前記ターゲットからのCARS光パルスを検出器で検出するように構成された光入出力ユニットと、
前記光入出力ユニットを介して前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスが照射される際の前記第1の光パルスと前記第2の光パルスとの位相差を可変する第1の位相変調ユニットと、
前記光入出力ユニットを介して前記ターゲットに照射するように前記第2の範囲の波長よりも短い第3の範囲の波長の第3の光パルスを供給する第3の光路と、
前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスに対する前記第3の光パルスの位相差を可変するように構成された第2の位相変調ユニットとをさらに有する、システム。
【請求項9】
請求項において、
前記第3の光パルスと前記第2の光パルスとの間の時間差を制御するように構成された時間遅延ユニットをさらに有する、システム。
【請求項10】
請求項8または9において、
前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスに対する前記第3の光パルスの位相差を周期的にシフトさせるように構成された第3の変調制御ユニットをさらに有する、システム。
【請求項11】
請求項8ないし10のいずれかにおいて、
前記CARS光パルスのスペクトルの既知成分のピークが最大化されるように、前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスに対する前記第3の光パルスの位相差を可変させるように構成された第4の変調制御ユニットをさらに有する、システム。
【請求項12】
第1の範囲の波長の第1の光パルスおよび前記第1の範囲より短い第2の範囲の波長の第2の光パルスを、前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスをターゲットに出力して前記ターゲットからCARS光パルスを取得するように構成された光学ユニットを通して照射することと、
前記ターゲットから前記光学ユニットを通って取得されたCARS光パルスを検出器によって検出することと、
前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスが前記光学ユニットを通って照射される際の前記第1の光パルスと前記第2の光パルスとの間の位相差を可変することと
前記光学ユニットを通して、前記第2の範囲の波長よりも短い第3の範囲の波長の第3の光パルスを照射することと、
前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスに対する前記第3の光パルスの位相差を可変することとを有する方法。
【請求項13】
請求項12において、
前記第1の光パルスと前記第2の光パルスとの間の位相差を可変することは、前記第1の光パルスと前記第2の光パルスとの間の前記位相差を周期的にシフトさせることを含む、方法。
【請求項14】
請求項12または13において、
前記第1の光パルスと前記第2の光パルスとの間の位相差を可変することは、前記CARS光パルスのスペクトルの既知の成分のピークが最大化されるように、前記第1の光パルスと前記第2の光パルスとの間の前記位相差を可変することを含む、方法。
【請求項15】
請求項12において、
前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスに対する前記第3の光パルスの位相差を可変することは、前記第1の光パルスと前記第2の光パルスとの間で、前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスに対する前記第3の光パルスの前記位相差を周期的にシフトさせることを含む、方法。
【請求項16】
請求項12または15において、
前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスに対する前記第3の光パルスの位相差を前記可変することは、前記CARS光パルスのスペクトルの既知の成分のピークが最大化されるように、前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスに対する前記第3の光パルスの前記位相差を可変することを含む、方法。
【請求項17】
コンピュータがデバイスを動作させるためのコンピュータプログラムであって、前記デバイスは、
第1の範囲の波長を有する第1の光パルスを供給するように構成された第1の光路と、
前記第1の範囲の波長よりも短い第2の範囲の波長を有する第2の光パルスを供給するように構成された第2の光路と、
前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスをターゲットに照射し、前記ターゲットからの光を取得して前記ターゲットからのCARS光パルスを検出器で検出するように構成された光入出力ユニットと、
前記光入出力ユニットを介して前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスが照射される際の前記第1の光パルスと前記第2の光パルスとの位相差を可変させる第1の位相変調ユニットとを備え、
当該コンピュータプログラムは、
前記CARS光パルスのスペクトルの既知の成分のピークが最大化されるように、前記第1の光パルスと前記第2の光パルスとの間の前記位相差を可変するステップを実施するための実行可能コードを含む、コンピュータプログラム。
【請求項18】
請求項17において、
前記デバイスはさらに、
前記第2の範囲の波長よりも短い第3の範囲の波長の第3の光パルスを供給し、前記光入出力ユニットを介して前記ターゲットに照射するための第3の光路と、
前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスに対する前記第3の光パルスの位相差を可変する第2の位相変調ユニットとを含み、
当該コンピュータプログラムは、
前記CARS光パルスのスペクトルの既知の成分のピークが最大化されるように、前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスに対する前記第3の光パルスの前記位相差を可変するステップを実施するための実行可能コードをさらに含む、コンピュータプログラム。
【請求項19】
第1の範囲の波長を有する第1の光パルスを供給するように構成された第1の光路と、
前記第1の範囲の波長よりも短い第2の範囲の波長を有する第2の光パルスを供給するように構成された第2の光路と、
前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスをターゲットに照射し、前記ターゲットからの光を取得して前記ターゲットからのCARS光パルスを検出器で検出するように構成された光入出力ユニットと、
前記光入出力ユニットを介して前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスが照射される際の前記第1の光パルスと前記第2の光パルスとの位相差を可変させる第1の位相変調ユニットとを有する装置であって、
コンピュータプログラムにより当該装置を制御するコントローラをさらに有し、
前記コンピュータプログラムは、
前記CARS光パルスのスペクトルの既知の成分のピークが最大化されるように、前記第1の光パルスと前記第2の光パルスとの間の前記位相差を可変するステップを実施するための実行可能コードを含む、装置
【請求項20】
請求項19において、
前記装置はさらに、
前記第2の範囲の波長よりも短い第3の範囲の波長の第3の光パルスを供給し、前記光入出力ユニットを介して前記ターゲットに照射するための第3の光路と、
前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスに対する前記第3の光パルスの位相差を可変する第2の位相変調ユニットとを含み、
前記コンピュータプログラムは、
前記CARS光パルスのスペクトルの既知の成分のピークが最大化されるように、前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスに対する前記第3の光パルスの前記位相差を可変するステップを実施するための実行可能コードをさらに含む、装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CARS光学系を含むシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
国際公開第2014/061147号には、顕微鏡が開示されている。この顕微鏡は、光源からの光束を第1ポンプ光束と第2ポンプ光束とに分割する第1光分割部と、第2ポンプ光束を入力として受け取ってストークス光束を出力するストークス光源と、第1ポンプ光束とストークス光束とを合波して合波光束を生成する合波部と、合波光束をサンプルに集光する第1集光部と、サンプルから発生し、合波光束とは異なる波長を有するCARS光を検出する第1検出器と、第2ポンプ光束とストークス光束の少なくとも一方を部分的に参照光束として分割する第2光分割部と、サンプルからの光束と参照光束を合波して干渉光を生成する第2合波部と、干渉光を検出する第2検出器とを備える。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、ラマン分光法(RS)を組み込んだシステムに関し、より詳細には、コヒーレント反ストークスラマン散乱(Coherent Anti-Stokes Raman Scattering、CARS)を組み込んだシステムに関するものである。このシステムは、生体の関心対象(ターゲット)の生化学的および構造的な特徴付けを行う(評価する)ために用いられてもよく、より具体的には、生体の関心対象(ターゲット)の生化学的な組成を非侵襲的に評価したり、そのようなアプリケーションのためのシステムに適用してもよい。
【0004】
本発明の一態様は、第1の範囲の波長(第1の波長範囲)の第1の光パルス(複数の第1のライトパルス)を供給するように構成された第1の光路と、第1の範囲の波長よりも短い第2の範囲の波長(第2の波長範囲)の第2の光パルス(複数の第2のライトパルス)を供給するように構成された第2の光路と、第1の光パルスおよび第2の光パルスをターゲットに照射し、ターゲットからの光を取得してターゲットからのCARS光パルスを検出器によって検出するように構成された光入出力ユニット(光学的I/Oユニット)と、光入出力ユニットを介して第1の光パルスおよび第2の光パルスが照射される際の第1の光パルスと第2の光パルスとの位相差を可変する(変化させる)ように構成された第1の位相変調ユニットとを備えるシステムである。
【0005】
CARSは、分子結合が、第1の波長を有する第1の光(ポンプ光ビーム、ポンプビーム)と第2の波長を有する第2の光(ストークス光ビーム、ストークスビーム)との相互作用により位相が揃った振動状態に励起される、多光子プロセスである。分子結合の自然共鳴状態が波長の差に等しい場合、共鳴状態が生じる。この共鳴状態は、プローブ光ビーム(プローブビーム)でコヒーレントに検出することができる。ポンプビームは、通常、プローブビームとしても使用される。ストークスビームが広帯域スペクトルからなる場合、ポンプ-ストークス(P-S)相互作用はストークスビームの各波長で生じる完全にコヒーレントな出力スペクトルを生成する。しかしながら、ポンプ-ストークスが所定の分子を共振状態に励起するのに加えて、ストークスビーム中の2つの波長が分子結合の自然共振状態に等しい程度に離れている場合は振動共鳴を誘発し得る。これは、ストークス-ストークス(S-S)励起と呼ばれる。これらのプロセスは、放射プロセスに対してポンプ信号とストークス信号との間の位相関係に基づいて強め合う方向にも弱め合う方向にも働き、波長のほんの一部に相当するような時間的な遅延によって影響を受ける。例えば、ポンプビームの波長が約1μmの場合、反転する(フルシフトする)距離はわずか500nmであり、ファイバ長が5mであれば、そのファイバ長の0.01%の変動に相当する。
【0006】
本発明では、システムはパルス化された第1の光および第2の光を照射し、第1の位相変調ユニットは、第1の光パルスおよび第2の光パルスが光入出力ユニットを介して照射される際の第1の光パルスと第2の光パルスとの間の位相差を可変する。したがって、第1の光(例えばストークス光)と第2の光(例えばポンプ光)との間の相対的な位相に応じて、第1の光と第2の光との間の強め合う、および弱め合う干渉を、パルス単位で制御することができる。
【0007】
このシステムは、第1の光パルスと第2の光パルスとの間の位相差を第1の位相変調ユニットを用いて周期的にシフトさせるように構成された第1の変調制御ユニットを有していてもよい。この場合、検出器は平均化された強度を有する信号を検出することができ、この信号は、複数の第1の光パルスおよび複数の第2の光パルスによって生成された複数のCARS光パルスにおいて、強め合った強度と弱め合った強度との間の中間的な強度であり得る。システムは、CARS光パルスのスペクトルの既知の成分のピークが最大化されるように、第1の光パルスと第2の光パルスとの間の位相差を可変させるように構成された第2の変調制御ユニットを備えてもよい。この場合、検出器は最も高い強度(強い)信号を検出することができ、それは第1の光パルスおよび第2の光パルスによって生成されたCARS光パルスにおいて強め合った強度を有する信号であり得る。
【0008】
本発明の異なる態様は、(i)第1の範囲の波長の複数の第1の光パルスおよび第1の範囲より短い第2の範囲の波長の複数の第2の光パルスを、これら第1の光パルスおよび第2の光パルスをターゲットに出力し、ターゲットから複数のCARS光パルスを取得するように構成された光学ユニットを通して照射することと、(ii)検出器によってターゲットから光学ユニットを通して取得された複数のCARS光パルスを検出するステップと、(iii)複数の第1の光パルスおよび第2の光パルスが光学ユニットを通して照射される際の、これら第1の光パルスと第2の光パルスとの間の位相差を可変させることとを含む方法である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本明細書の実施形態は、図面を参照して以下の詳細な説明から、よりよく理解されるであろう。
図1図1は、本発明のCARS光学系の一実施形態を示す。
図2図2は、CARSスペクトルの例を示す。
図3図3は、CARS光学系の他の実施形態を示す。
図4図4は、TD-CARS光学系の一実施形態を示す。
図5図5は干渉計を示す。
図6図6は波長の計画図を示す。
図7図7は、TD-CARS光学系による測定方法のフローダイアグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書の実施形態ならびにその様々な特徴および効果の詳細は、添付した図面および以下の説明に詳述される非限定的な実施形態を参照して、より詳しく説明される。周知の構成要素および処理技法の説明は、本明細書の実施形態を不必要に不明瞭にしないように省略される。本明細書で説明される例は、単に、本明細書の実施形態が実施され得ることの理解を容易にし、当業者が本明細書の実施形態を実施することを可能にすることを意図したものである。したがって、実施例は、本明細書の実施形態の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態によるシステム1を示す。システム1は、光学系(光学システム)10とコントローラ(制御ユニット)55とを含む。このシステム1は、アプリケーション(用途)に応じて、測定装置、分析装置、監視装置、モニタなどとして使用することができる。光学系10は、CARS(コヒーレント反ストークスラマン散乱)を用いて、人体などのターゲット5の表面や内部の状態および成分を示すデータを取得する。コントローラ55は、CARSにより内部の組成(成分)を分析するアナライザー(分析器)56を含む。アナライザー56は、CARS光17が生成されるターゲット5の部分を検証(確認)するためのモニタ(監視モジュール)56cを含んでもよい。コントローラ55のメモリに格納されたプログラム(プログラムプロダクト、ソフトウェア、アプリケーション)59が、メモリ、CPUなどのコンピュータ資源を用いてコントローラ55としての処理を実行するために提供される。プログラム(ソフトウェア)59は、プロセッサあるいはコンピュータが読み取り可能な他の記憶媒体として提供されてもよい。
【0012】
光学システム10は、ストークス光パルス(ストークスビームパルス、第1の光パルス)11およびポンプ光パルス(ポンプビームパルス、第2の光パルス)12のための第1の波長1040nmの第1のレーザパルス30aを生成するためのレーザ光源(レーザーソース)30を含む。好ましいレーザ光源30の1つはファイバレーザである。第1のレーザパルス30aは、数10~数100mWの1~数100fS(フェムト秒)オーダーの複数のパルスを含む。光学系10は、レンズ、フィルタ、ミラー、ダイクロイックミラー、プリズムなどの複数の光学素子32を含み、これらの光学素子32は、複数のレーザ光パルスを分離および合成するための光路を構成する。
【0013】
光学系(光学システム)10は、ポンプ光パルス12と共通の第1のレーザパルス30aからPCF(フォトニック結晶ファイバ、ファイバ)21aを介して、第1の範囲R1の波長1080~1300nmの複数のストークス光パルス(第1の光パルス)11を供給するように構成されたストークス光路(第1の光路、ストークスユニット)21を含む。光学系10は、ストークス光11と共通の第1のレーザパルス30aから、第1の範囲の波長(第1の範囲)R1よりも短い第2の範囲R2の波長1070nmの複数のポンプ光パルス(第2の光パルス)12を供給するように構成されたポンプ光路(第2の光路、ポンプユニット)22を含む。光システム10は、光路21により供給されるストークス光パルス11と、光路22により供給されるポンプ光パルス12とを、光入出力ユニット(レンズシステム)25に供給する、共通光路28aを含む。光路21、22、28aは、各光路を構成するフィルタ、ファイバ、ダイクロイックミラー、プリズム等の必要な光学素子32を含む。以下の光路についても同様である。
【0014】
光学系10は、さらに、ストークス光パルス11およびポンプ光パルス12をターゲット5に対して同軸状に出力し、ターゲット5からの光を、共通光路28cを介して取得するように構成された光入出力ユニット(光I/Oユニット、光学ユニット)25を含む。典型的な光入出力ユニット25は、ターゲット5に対向する対物レンズまたはレンズ系(レンズシステム)であり、レンズ25を介して、ターゲット5にストークス光パルス11およびポンプ光パルス12を照射または放射し、ターゲット5からCARS光パルス17を取得または受信する。数100fS(フェムト秒)オーダーのパルス幅を有する複数のストークス光パルス11および複数のポンプ光パルス12によって生成される複数のCARS光パルス17は、900~1000nmの波長を有してもよい。これらのCARS光パルス17は検出器(ディテクタ)50によって検出され、これらのCARS光パルスに含まれるスペクトルはアナライザー56によって分析される。光学系10は、後方CARS光パルス(Epi-CARS)17を取得し、光入出力ユニット25からの後方CARS光パルス17を導くように構成された第1の入力光路28cを含む。光学系10は、前方CARS光を得るように構成された光路を含んでもよい。
【0015】
光学系10は、ストークス光パルス11およびポンプ光パルス12が光入出力ユニット25を介して照射される際の、ストークス光パルス(第1の光パルス)11とポンプ光パルス(第2の光パルス)12との位相差を可変するように構成された位相変調ユニット(第1位相変調ユニット)60を有する。位相変調ユニット60としては、LC-SLM(Liquid crystal spatila Light modulator、液晶空間光変調器)、AWG(Arrayed wave-guide grating、アレイ導波路回折格子)などを用いることができる。この光学系10において、位相変調ユニット60は、ストークス光路(第1の光路)21およびポンプ光路(第2の光路)22の少なくとも一方の光路(光路長)を変調して(変えて)2π(360度)を超える位相シフトを実現するように構成された遅延変調ユニット61を含む。この例では、遅延変調ユニット61は、ポンプ光路(第2の光路)22の光路(光路長)を変調して、2πを超える位相シフトを実現する。ポンプ光パルス12は、より狭い範囲R2の波長を有するので、ポンプ光パルス12を生成する光路22は、適切な範囲が得られるように光路長を変調するのに適している。
【0016】
遅延変調ユニット61は、再帰反射体(レトロリフレクタ)62と、再帰反射体61を移動させる(動かす)ピエゾ素子63とを含む。ピエゾ素子63は、再帰反射体62を振動させる振動子として機能してもよく、再帰反射体62の位置を精密に決める装置として機能してもよい。ピエゾ素子63は、正弦波、余弦波、三角波、定電圧など任意の波形パターンで再帰反射体62を動かすことができる。再帰反射体62の振動の振幅は、ピエゾ素子63への印加電圧を用いて、例えば0~150Vに調整することができる。再帰反射体62の振動の周波数は、ピエゾ素子63によって約1kHzあるいはそれ以下から数100kHzまで制御することができる。
【0017】
システム10は、位相変調ユニット60のピエゾ素子63を制御または駆動するように構成された変調制御ユニット65を備える。変調制御ユニット65は、セルフ制御ユニット(自律制御ユニット、自己制御ユニット、第1の変調制御ユニット)66と、リモート制御ユニット(遠隔制御ユニット、第2の変調制御ユニット)67とを含む。セルフ制御ユニット66は、位相変調ユニット60を用いて、ストークスパルス(第1の光パルス)11とポンプパルス(第2の光パルス)12との位相差を周期的に、または繰り返しシフト(変移、移相、変位、入れ替え)させる。セルフ制御ユニット66は、セルフ制御ユニット66に予めインストールされたプログラムに基づいて、ピエゾ素子63を用いて再帰反射体(レトロリフレクタ)61の振動速度および振幅を制御するための回路、マイクロコントローラなどのユニットを含む。これらのストークス光パルス11およびポンプ光パルス12は、フェムト秒(fS)~ピコ秒(pS)のオーダーであり、セルフ制御ユニット66は、ストークス光パルス11とポンプ光パルス12との位相差を1~100kHzの周期、さらには1~10kHzの周期でシフト(入れ替え、移相)させてもよい。
【0018】
セルフ制御ユニット66は、再帰反射器62を特定の速度および振幅で微視的に振動させることによって、第1の光パルスと第2の光パルスとの間の位相差をパルスごとに(パルス単位で)シフトさせる能力、ユニットまたは機能を有するものであってもよい。セルフ制御ユニット66は、位相差をプラス側およびマイナス側にπ(180度)だけシフトまたは変調してもよい。セルフ制御ユニット66は、2πの範囲を超えて位相差をシフトまたは変調してもよい。サンプル取得速度、例えばミリ秒(mS)を超えて位相差を変調することによって、安定したCARS出力を得ることができる。この応答は、フィードバック機構なしでも、機械的振動および温度変化の両方に対して安定している。
【0019】
図2は、シミュレーションによって得られたグルコース成分を示す典型的なCARSスペクトルを示す。シミュレーションは、ストークス-ストークス(S-S)励起および、波長のわずかな部分に相当する時間的な遅延よって影響を受ける可能性があるポンプ信号とストークス信号との間の位相関係の効果をサポートしており、それらの強度は、図2に示すように、位相のオフセット範囲がπの最小の振幅と最大の振幅(曲線44および曲線42)の間で変化する。記録されたスペクトルのコヒーレントな重ね合わせは、純粋なポンプ-ストークス(ポンプ-ストークス-プローブ)スペクトルを生成し、曲線41に示したようになることが予想される。上記のデモンストレーションにおいては、信号出力の急速な変動を引き起こし得る環境ストレスに対する感度を高められており、その感度を低下させる手順として、2πの範囲を超えて位相を変調することを開発した。このような変調を、サンプルの取得速度を大幅に超えて行うことにより、図2に示す曲線43によって表されるような、安定したCARS出力を得ることができる。
【0020】
図2において、曲線41は、再現された最も強い信号を示し、コヒーレントなポンプ-ストークス(ポンプ-ストークス-プローブ)スペクトルの複数の信号が強め合うように加えられた信号に対応するものであり、曲線42は、シミュレーションにより得られた最も強いスペクトルを示し、曲線43は、再現されたポンプ-ストークススペクトルを示し、これはシステム1において、位相変調ユニット60がセルフ制御ユニット66の制御下で使用されたときのシステム1の信号によって得られるスペクトルに対応しており、曲線44は、シミュレーションにより得られた最も強度が低い信号を示し、曲線45は、再現された最も低い信号を示し、コヒーレントなポンプ-ストークススペクトルの複数の信号が弱め合うように加えられた信号に対応するものであり、曲線46は、ストークス-ストークス(ストークス-ストークス-プローブ)励起を示す。位相変調ユニット60を振動モード(セルフ制御モード)で使用することによって、ポンプビームパルス12により位相をスウィープすること(フェイズスウィーピング、位相を走査すること、位相を一掃すること、位相を全範囲で集計すること)を実装することができ、スペクトルが位相差(位相遅延)の全範囲にわたって平均化されることにより、信号の感度を低下させることができる。
【0021】
変調制御ユニット65のリモート制御ユニット(第2の変調制御ユニット)67は、CARS光パルスの既知成分のピーク、例えばグルコース成分を示すスペクトルのピークが最大化するように、ストークス光パルス11とポンプ光パルス12との位相差を可変させるように構成されている。コントローラ55のアナライザー(分析器、解析器)56は、リモート制御ユニット67を制御して、グルコースを示すピーク高さを監視しながら、位相変調ユニット60を用いて位相差を変化させ、ピーク高さが最も高い状態で位相差を固定させることができる。この条件では、検出器(ディテクタ)は、特定の用途(アプリケーション)における測定の関心領域(ROI)であり得るグルコース成分のスペクトルの少なくとも周囲において、コヒーレントなポンプ-ストークススペクトルが強め合うように加算された信号を得ることができる。ピーク高さが最大となる条件は、温度あるいは他の条件により変化し、リモート制御ユニット67は、位相変調ユニット60を用いて周期的に位相差を探索することで、その変動に追従することができる。ROIが変更された場合も同様のプロセスを適用できる。ピークを最大化するときの条件を探索する際に、既知の成分および濃度を有するテストサンプルを用いてもよい。代案としてのリモート制御モードは、若干複雑なアプローチとなるが、サーボループを使用してプローブ光パルス12の位相差(時間遅延)を調整してCARS信号を最大化してもよい。この方法は、ループ応答が、温度または機械的応力がCARS出力応答に影響を及ぼし得る速度よりも速ければ有効である。
【0022】
図3は、システム1の異なる実施形態を示し、光学系10aを含む。この光学系(光学システム)10aは位相変調ユニット(第1の位相変調ユニット)60を含み、この位相変調ユニット60は、PCF21aにより複数の広帯域ストークスパルス(ブロードバンドストークスパルス)を生成する前に、ストークス光路(第1の光路)21の光路(光路長)を変調して第1のレーザパルス30aの位相を2πを超えてシフトさせるように構成された遅延変調ユニット64を含む。この図に示される光学系10aの他の光路および要素は、図1に示される光学系10のものと共通する。
【0023】
図4は、システム1のさらに異なる実施形態を示し、光学系10bを含む。この光学系(光学システム)10bはハイブリッド光学系であり、OCT(Optical Coherence Tomography、光干渉断層撮影)とCARS(コヒーレント反ストークスラマン散乱)とを用いて、人体等のターゲット5の表面や内部の状態および成分を示すデータを取得する。コントローラ55は、ディテクタ50によって検出された干渉光パルス16からOCT画像を生成するOCT分析モジュール56aと、TD-CARS光パルス17による情報の信頼性を確認するために、TD-CARS光パルス17が生成されたターゲット5の部位を確認(検証)し、OCT画像の情報と連携してターゲット5を解析する監視モジュール56cとを含む。コントローラ55は、さらに、TD-CARS光パルス17の検出結果を用いて、ターゲット5の一部の組成の少なくとも一部を分析するTD-CARS分析モジュール56bを備える。
【0024】
ハイブリッド光学システム(光学システム)10bは、ストークス光パルス11およびポンプ光パルス12のための第1の波長1040nmを有する第1のレーザパルス30aに加えて、OCT光パルス13およびプローブ光パルス(プローブビーム、第3の光パルス)14のための第2の波長780nmを有する第2のレーザパルス30bを生成するためのレーザ源(レーザーソース)30を含む。第2のレーザパルス30bは、1~数10pS(ピコ秒)オーダーで数10~数100mWのパルスを含んでもよく、波長780nmの第2のレーザパルス30bは、波長1560nmのソースオシレータから生成されてもよい。
【0025】
光学系10bは、ストークス光路21およびポンプ光路22に加えて、プローブ光14と共通の第2レーザ30bから第2の範囲R2の波長よりも短い波長620~780nmの範囲R4のOCT光(第3の光)13を、ファイバ23aを介して供給するように構成されたOCT光路23を含む。光学系10bは、さらに、OCT光13と共通の第2レーザ30bから、第2の範囲R2の波長よりも短く、かつ、波長の範囲R4よりも大きいか、または波長の範囲R4に含まれる、波長780nmの第3の範囲R3のプローブ光パルス(プローブビームパルス、プローブパルス、第3の光パルス)14を供給するように構成されたプローブ光路(第3の光路、プローブユニット)24を有する。光学系10bは、光路23によって干渉計35を介して供給されるOCT光パルス13と、光路24によって供給されるプローブ光パルス14と、を光入出力ユニット25に供給する共通の光路28bを含む。
【0026】
プローブ光路24は、プローブ光パルス(第3の光パルス)14の出射(照射)とポンプ光パルス(第2の光パルス)12の出射(照射)との間の時間差を制御するように構成された時間遅延ユニット24aを含む。時間遅延ユニットは、複数のコリメータと、コリメータ間の距離を制御することができる電動遅延ステージとを有してもよい。時間遅延は、コントローラ55内のレーザ制御ユニット58によって制御することができる。この時間遅延ユニット24aを用いることにより、プローブ光路24は、ポンプ光パルス12の照射から時間差を設けてプローブ光パルス14を供給し、光入出力ユニット25を介してターゲット5に照射することにより、ポンプ光パルス12から数10~数100fS(フェムト秒)またはそれ以上遅延した遅延CARSパルス17を得ることができる。
【0027】
光入出力ユニット(光学ユニット、レンズ系)25は、ストークス光パルス11、ポンプ光パルス12、プローブ光パルス14およびOCT光パルス13をターゲット5に対して同軸状に出力するとともに、共通光路28cを介して、ターゲットからCARS光(TD-CARS光)パルス17を取得する。同様に、光学ユニット(レンズ)25を通して(介して)、OCT光パルス13がターゲットに照射または放射され、ターゲット5からの反射光パルス15が取得または受信される。
【0028】
図5は、干渉計(インターフェロメーター)35の一例を示す。干渉計35は、参照ミラー34mによってOCT光パルス13から参照光パルス13Rを分離するように構成された参照ユニット34を含む。ファイバ干渉計35は、4つのアーム(光路)を有し、光を分離して混合する。OCT光パルス13に対しては、ポート35aから入力された光の一部が参照光パルス13Rとして分離され、ポート35cを介して参照ミラー34mに向かい、他の一部がポート35bを介してサンプル(物体、ターゲット)5に出力される。ターゲット5から戻された(反射された)OCT光パルス15は、ポート35bを介して入力され、参照光パルス13Rと組み合わされ、または合波(重畳)されて干渉光パルス16を生成する。干渉光パルス16はポート35dを介して検出器(ディテクタ)50に出力される。CARS光パルス17は、同様に、ポート35bおよび35dを用いて干渉計35を通過して検出器50に供給される。
【0029】
光学系10bでは、上述した複数の光路を用いて、レーザ光源30側から順に、OCT光パルス13がプローブ光パルス14と共通の経路を介して時分割で供給される。両方のパルス13および14は、さらに、ストークス光パルス11およびポンプ光パルス12と共通の経路を通して供給され、例えば、対物レンズ(レンズ系)などの光入出力ユニット25を通して放出され、これらのパルスが、例えば人間の皮膚などのターゲット5に照射される。ターゲット5から反射した光パルス、またはターゲット5において発生した光パルス(反射光パルス15およびCARS光パルス17)は、ターゲット5から光学ユニット25の対物レンズを通して取得され、光学系10bの複数の光路に戻される。
【0030】
OCT光パルス13およびプローブ光パルス14と経路を共有するためのダイクロイックミラーなどの光学素子は、620~780nmのOCT光の反射光パルス15およびCARS光パルス17を選択するように構成された分離器(セパレータ)または選択ユニットであってもよい。このシステム10bでは、波長の範囲R3よりも短く、OCTの波長の範囲R4と少なくとも部分的に重複する680~760nmの波長の範囲R5を有するTD-CARS光パルス17が、取得された光からフィルタリングされ、ディテクタ50に供給される。TD-CARS光パルス17は、ターゲット5において、ストークス光パルス11、ポンプ光パルス12およびプローブ光パルス14によって生成される。この光学系10bでは、TD-CARS光パルス17および干渉光パルス16の両方が干渉計35を通してディテクタ50に供給されているが、干渉光を生成するための他の光路と、干渉光パルス16およびTD-CARS光パルス17をディテクタ50に供給するための他の光路とを光学系10bに設けてもよい。
【0031】
光学系10bのディテクタ50は、TD-CARS光パルス17および干渉光パルス16に共通する検出波長の範囲DRを含む。典型的には、ディテクタ50は、OCT光13の波長の範囲R4およびTD-CARS光17の波長の範囲R5のうち大きい方と同じ検出範囲(測定範囲)DRを有してもよい。例えば、この光学系10bでは、TD-CARS光パルス17は波長680~760nmの範囲R5を有し、OCT光パルス13は波長620~780nmの範囲R4を有し、検出範囲DRは波長620~780nmまたはそれ以上の範囲をカバーするように設定されている。CARSとOCTとの検出について検出波長の範囲DRを共有する単一かつ共通のディテクタ50を適用することによって、システム構成が簡略化され、CARSを検出するためのスペクトル分解能およびOCTによる撮像深さを増大できる。
【0032】
光学系10bは、CARS光パルス17および干渉光パルス16の生成または供給を時分割で切り替えるための光学素子を備えてもよい。光学系10は、スイッチング素子を用いて第2のレーザ光パルス30bからOCT光パルス13およびプローブ光パルス14を生成するように構成された生成用の光路を備えてもよい。スイッチング素子は、コントローラ55内のレーザ制御ユニット58の制御によりソースレーザ30bの方向を、プローブ光路24およびOCT光路23に変えるMEMSミラーであってもよい。
【0033】
図6は、この光学系10bの波長プラン(波長計画)の1つを示す。図6に示す計画では、ストークス光パルス11は波長1085~1230nm(400cm-1~1500cm-1)の第1の範囲R1を有し、ポンプ光パルス12は波長1040nmの第2の範囲R2を有し、プローブ光パルス14は波長780nmの第3の範囲R3を有し、OCT光パルス13は波長620~780nmの範囲R4を有し、TD-CARS光パルス17は波長680~760nmの範囲R5を有する。範囲R1、R2、R3、R4およびR5の全ては、波長600nm~1300nmの範囲に含まれる。第2の範囲R2は第1の範囲R1よりも短く、第3の範囲R3は第2の範囲R2よりも短く、第3の範囲R3は第2の範囲R2よりも短く第4の範囲R4よりも大きいか、またはその範囲に含まれ、TD-CARS17の範囲R5は第3の範囲R3よりも短く、OCTの範囲R4と少なくとも部分的に重なる。
【0034】
光学系10bは、第1の位相変調ユニット60に加えて、ストークス光パルス(第1の光パルス)11およびポンプ光パルス(第2の光パルス)12に対するプローブパルス(第3の光パルス)14の位相差を可変するように構成された第2の位相変調ユニット70をさらに備える。位相変調ユニット70は、プローブ光路(第3の光路)24の光路(光路長)を変調して2πを超える位相シフトを実現するように構成された遅延変調ユニット71を含む。遅延変調ユニット71は、再帰反射体(レトロリフレクタ)72と、再帰反射体72を動かす(移動させる)ピエゾ素子73とを含む。ピエゾ素子73は、第1の位相変調ユニット60について説明したように、再帰反射体72を振動させるための振動子として、および/または再帰反射体72の位置を精密よく決める装置として機能することができる。再帰反射体72の振動の振幅は、ピエゾ素子73への印加電圧を用いて、例えば0~150Vに調整することができる。再帰反射体72の振動周波数は、ピエゾ素子73によって約1kHzまたはそれ以下から数100kHzまで制御することができる。
【0035】
このシステム10bは、位相変調ユニット70のピエゾ素子73を制御または駆動させるように構成された変調制御ユニット75を備える。変調制御ユニット75は、セルフ制御ユニット(自己制御ユニット、自律制御ユニット、第3の変調制御ユニット)76と、リモート制御ユニット(遠隔制御ユニット、第4の変調制御ユニット)77とを含む。セルフ制御ユニット76は、上述したセルフ制御ユニット66と同様の方法で、ストークス光パルス11およびポンプ光パルス12に対するプローブ光パルス14の位相差を周期的に、または繰り返しシフト(移相、入れ替え)させるように構成されている。リモート制御ユニット77は、TD-CARS光パルス17のスペクトルの既知の成分のピークが最大化されるように、ストークス光パルス11およびポンプ光パルス12に対するプローブ光パルス14の位相差を可変するように構成されている。リモート制御ユニット77の詳細な機能は、上述したリモート制御ユニット67と共通する。
【0036】
図7は、システム1の処理を示すフローダイヤグラム(フローチャート)である。この処理は、コントローラ(制御ユニット)55のメモリに格納されたプログラム(プログラムプロダクト、ソフトウェア、アプリケーション)59によって実行される。ステップ81において、レーザ制御ユニット58は、レーザ光源30および光学系10bを制御して、第1の範囲R1の波長のストークス光パルス(第1の光パルス)11と、第1の範囲R1の波長よりも短い第2の範囲R2の波長のポンプ光パルス(第2の光パルス)12とを光入出力ユニット(光学ユニット)25を介して照射させる。ステップ81において、ストークス光パルス11およびポンプ光パルスの少なくとも一方が位相変調ユニット60により位相変調され、それらのパルスが光学ユニット25を通って照射される際のストークス光パルス11とポンプ光パルス12との間の位相差が可変されて(変更されて、変調されて)照射される。
【0037】
ストークス光パルス11またはポンプ光パルス12は、セルフ制御モード(セルフコントロールモード)81aおよびリモート制御モード(リモートコントロールモード)81bの2つのモードのうちの一方で変調される。セルフ制御モード81aでは、位相変調ユニット60は、セルフ制御ユニット66により、ストークス光パルス11とポンプ光パルス12との位相差を周期的に、または繰り返しシフトさせる。リモート制御モード81bでは、位相変調ユニット60は、リモート制御ユニット67により、CARS光パルス17のスペクトルの既知成分のピークを最大化させるように、ストークス光パルス11とポンプ光パルス12との位相差を可変させる。
【0038】
ステップ82において、レーザコントローラ58は、レーザ光源30および光学系10bを制御して、ポンプ光パルス12の照射から時間差を設けて、第3の範囲R3の波長のプローブ光パルス(第3の光パルス)14を照射させる。ステップ82において、時間遅延ユニット24aを用いてポンプ光パルス12の照射からの時間差を可変(変化)させて、プローブ光パルス14をターゲット5に照射してもよい。ステップ82において、プローブ光パルス14は、位相変調器70によって位相変調されて照射され、ストークス光パルス11およびポンプ光パルス12に対するプローブ光パルス14の位相差を可変させる。
【0039】
プローブ光パルス14は、セルフ制御モード(セルフコントロールモード)82aおよびセルフ制御モード(リモートコントロールモード)82bの2つのモードのうちの一方で変調される。セルフ制御モード82aでは、位相変調ユニット70は、セルフ制御ユニット76により、プローブ光パルス14の位相差を、ストークス光パルス11およびポンプ光パルス12に対して、周期的に、または繰り返しシフトさせる。リモート制御モード82bでは、位相変調ユニット70は、リモート制御ユニット77により、TD-CARS光パルス17のスペクトルの既知成分のピークが最大化されるように、プローブ光パルス14のストークス光パルスおよびポンプ光パルス12に対する位相差を可変させる。
【0040】
ステップ83において、ディテクタ50は、ターゲット5においてストークス光パルス11、ポンプ光パルス12、およびプローブ光パルス14により生成されたTD-CARS光パルス17を検出する。ステップ84において、分析器56のTD-CARS分析モジュール56bは、TD-CARS光パルス17の検出結果を用いて、ターゲット5の一部の組成の少なくとも一部を分析してもよい。
【0041】
ステップ85において、ステップ84に前後して、または並行して、レーザコントローラ58は、レーザ光源30および光学系10bを制御して、プローブ光パルス14に対し時分割で範囲R4の波長のOCT光パルス13を光学ユニット25を介してターゲット5に照射する。ステップ86において、ディテクタ50は、参照光パルス13Rとターゲット5からの反射光パルス15とにより生成される干渉光パルス16を、TD-CARS光パルス17に対し時分割で検出する。
【0042】
ステップ87において、分析器56のOCT分析モジュール56aは、ディテクタ50により検出された干渉光パルス16からOCT画像を生成し、分析器56の監視モジュール56cは、TD-CARS光パルス17による情報の信頼性を確認するために、TD-CARS光パルス17が生成されたターゲット5の部分を確認してもよく、OCT画像の情報とTD-CARS光17の情報とを連携(協働)させてターゲット5を分析してもよい。
【0043】
上述したシステム1は、カスタマイズが容易であり、低コストであり、様々な分野における測定、研究、モニタリング(監視)および/または自己治療(セルフケア)に適したシステムを供給することができる。システム1は、グルコース、ヘモグロビンA1c、クレアチニン、アルブミンなどを測定するための、最小侵襲デバイス、非侵襲デバイス、フローサンプラデバイス、またはウェアラブルデバイスであってもよい。
【0044】
上記において開示された態様の1つは、(a)第1の波長範囲を有する第1の光、例えばストークス光を照射するように構成された第1のユニットと、(b)第1の波長範囲よりも短い第2の波長範囲を有する第2の光、例えばポンプ光を照射するように構成された第2のユニットと、(c)第1の光および第2の光の少なくとも一方の位相を周期的にシフトさせるように構成された位相変調ユニットと、(d)第1の光および第2の光をターゲットに出力し、ターゲットからの光を取得してターゲットからのCARS光を検出器で検出するように構成された光学ユニットと、を備えるシステムである。上記の変調が、サンプル取得速度を大幅に超える場合、フィードバック機構なしで機械的振動および温度変動の両方に対して安定したCARSを取得することができる。実施形態の1つは、2πを超えるような位相シフトを達成すようにミラーを変調(変動)するピエゾ素子を有するものである。
【0045】
1つの簡易な実施形態として、ピエゾ素子がミラーを変調して2πを超える位相シフトを達成するものが示されている。ポンプビームにおける位相をスウィープ(掃引)する実装は、スペクトルが位相遅延の全範囲にわたって平均化されるので、信号が敏感になりすぎることを低減(感度低下)することができる。このような効果をもたらすであろうプローブの時間的な変調を可能にする任意の実施形態であってもよい。
【0046】
異なる例として、わずかに複雑なアプローチになるが、サーボループを使用してCARS信号を最大化させるようにプローブ信号の時間遅延を調整してもよい。これは、このループの応答を、温度または機械的応力がCARS出力の応答に影響を及ぼし得る速度よりも速くすることができるときに有効である。
【0047】
本明細書における異なる態様は、検出器によってCARS光を検出することを含む方法である。検出することは、第1の範囲の波長を有する第1の光と、第1の範囲よりも短い第2の範囲の波長を有する第2の光とを、第1の光および第2の光の少なくとも一方の位相を周期的にシフトさせるように構成された位相変調ユニットを介してターゲットに照射してCARS光を生成することを含む。
上記には、第1の範囲の波長の第1の光パルスを供給するように構成された第1の光路と、前記第1の範囲の波長よりも短い第2の範囲の波長の第2の光パルスを供給するように構成された第2の光路と、前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスをターゲットに照射して前記ターゲットからの光を取得することにより前記ターゲットからのCARS光パルスを検出器で検出するように構成された光入出力ユニットと、前記光入出力ユニットを介して前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスが照射される際の前記第1の光パルスと前記第2の光パルスとの位相差を可変する第1の位相変調ユニットとを有するシステムが開示されている。このシステムは、前記第1の位相変調ユニットを用いて、前記第1の光パルスと前記第2の光パルスとの位相差を周期的にシフトさせるように構成された第1の変調制御ユニットをさらに有してもよい。前記第1の変調制御ユニットは、前記第1の光パルスと前記第2の光パルスとの位相差をパルス毎にシフトさせるように構成されたユニットを含んでもよい。前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスは、フェムト秒からピコ秒のオーダーであり、前記第1の変調制御ユニットは、前記第1の光パルスと前記第2の光パルスとの位相差を1~100kHzの周期でシフトさせてもよい。前記CARS光パルスのスペクトルの既知成分のピークが最大化されるように、前記第1の光パルスと前記第2の光パルスとの前記位相差を可変させるように構成された第2の変調制御ユニットをさらに有してもよい。前記第1の位相変調ユニットは、遅延を変調するユニットであって、前記第1の光路および前記第2の光路のうちの少なくとも一方の光路を変調して少なくとも2πの位相シフトを可能とするように構成された遅延変調ユニットを含んでもよい。前記遅延変調ユニットは、再帰反射器と、前記再帰反射器を移動させるためのピエゾ素子とを含んでもよい。前記遅延変調ユニットは、前記第2の光路の一部の光路を変調してもよい。このシステムは、前記光入出力ユニットを介して前記ターゲットに照射するように前記第2の範囲の波長よりも短い第3の範囲の波長の第3の光パルスを供給する第3の光路と、前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスに対する前記第3の光パルスの位相差を可変するように構成された第2の位相変調ユニットとをさらに有してもよい。このシステムは、さらに、前記第3の光パルスと前記第2の光パルスとの間の時間差を制御するように構成された時間遅延ユニットを有してもよい。このシステムは、前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスに対する前記第3の光パルスの位相差を周期的にシフトさせるように構成された第3の変調制御ユニットをさらに有してもよい。このシステムは、前記CARS光パルスのスペクトルの既知成分のピークが最大化されるように、前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスに対する前記第3の光パルスの位相差を可変させるように構成された第4の変調制御ユニットをさらに有してもよい。
上記には、また、第1の範囲の波長の第1の光パルスおよび前記第1の範囲より短い第2の範囲の波長の第2の光パルスを、前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスをターゲットに出力して前記ターゲットからCARS光パルスを取得するように構成された光学ユニットを通して照射することと、前記ターゲットから前記光学ユニットを通って取得されたCARS光パルスを検出器によって検出することと、前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスが前記光学ユニットを通って照射される際の前記第1の光パルスと前記第2の光パルスとの間の位相差を可変することとを有する方法が開示されている。前記第1の光パルスと前記第2の光パルスとの間の位相差を可変することは、前記第1の光パルスと前記第2の光パルスとの間の前記位相差を周期的にシフトさせることを含んでもよい。前記第1の光パルスと前記第2の光パルスとの間の位相差を可変することは、前記CARS光パルスのスペクトルの既知の成分のピークが最大化されるように、前記第1の光パルスと前記第2の光パルスとの間の前記位相差を可変することを含んでもよい。この方法は、前記光学ユニットを通して、前記第2の範囲の波長よりも短い第3の範囲の波長の第3の光パルスを照射することと、前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスに対する前記第3の光パルスの位相差を可変することをさらに有してもよい。前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスに対する前記第3の光パルスの位相差を可変することは、前記第1の光パルスと前記第2の光パルスとの間で、前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスに対する前記第3の光パルスの前記位相差を周期的にシフトさせることを含んでもよい。前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスに対する前記第3の光パルスの位相差を前記可変することは、前記CARS光パルスのスペクトルの既知の成分のピークが最大化されるように、前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスに対する前記第3の光パルスの前記位相差を可変することを含んでもよい。
上記には、さらに、コンピュータがデバイスを動作させるためのコンピュータプログラムが開示されている。前記デバイスは、第1の範囲の波長を有する第1の光パルスを供給するように構成された第1の光路と、前記第1の範囲の波長よりも短い第2の範囲の波長を有する第2の光パルスを供給するように構成された第2の光路と、前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスをターゲットに照射し、前記ターゲットからの光を取得して前記ターゲットからのCARS光パルスを検出器で検出するように構成された光入出力ユニットと、前記光入出力ユニットを介して前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスが照射される際の前記第1の光パルスと前記第2の光パルスとの位相差を可変させる第1の位相変調ユニットとを備える。当該コンピュータプログラムは、前記CARS光パルスのスペクトルの既知の成分のピークが最大化されるように、前記第1の光パルスと前記第2の光パルスとの間の前記位相差を可変するステップを実施するための実行可能コードを含む。前記デバイスはさらに、前記第2の範囲の波長よりも短い第3の範囲の波長の第3の光パルスを供給し、前記光入出力ユニットを介して前記ターゲットに照射するための第3の光路と、前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスに対する前記第3の光パルスの位相差を可変する第2の位相変調ユニットとを含み、当該コンピュータプログラムは、前記CARS光パルスのスペクトルの既知の成分のピークが最大化されるように、前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスに対する前記第3の光パルスの前記位相差を可変するステップを実施するための実行可能コードをさらに含んでもよい。
【0048】
特定の実施形態に関する前述の説明は、本明細書における実施形態の一般的な性質を十分に明らかにするためのものであり、他者は、現在の知識を適用することによって、一般的な概念から逸脱することなく、そのような特定の実施形態を様々な用途に容易に修正および/または適合させることができ、即ち、そのような適合および修正は、開示される実施形態と均等な意味および範囲内に包含されるべきであり、そのように意図されている。本明細書で使用される表現または用語は、説明を目的とするものであり、限定を目的とするものではないことを理解されたい。したがって、本明細書の実施形態を好ましい実施形態に関して説明してきたが、当業者は、本明細書の実施形態を添付の特許請求の範囲の趣旨および範囲内で修正して実施できることを認識するであろう。
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