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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】油回路
(51)【国際特許分類】
   F25B 1/00 20060101AFI20240422BHJP
【FI】
F25B1/00 387B
F25B1/00 396D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022146583
(22)【出願日】2022-09-14
(65)【公開番号】P2024041658
(43)【公開日】2024-03-27
【審査請求日】2022-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】521153168
【氏名又は名称】日本熱源システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154405
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 大吾
(74)【代理人】
【識別番号】100079005
【弁理士】
【氏名又は名称】宇高 克己
(72)【発明者】
【氏名】原田 克彦
【審査官】笹木 俊男
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06233967(US,B1)
【文献】実公昭47-016849(JP,Y1)
【文献】特開2005-024163(JP,A)
【文献】特開平06-300369(JP,A)
【文献】実開昭62-198462(JP,U)
【文献】中国実用新案第201583058(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機と蒸発器とを含み冷媒を循環する冷媒回路に設けられ、
前記圧縮機に油を供給する油供給手段と、
前記冷媒から前記油を分離する油分離手段と、
前記分離された油を溜める油溜手段と、
を含む油メイン回路と、
前記冷媒回路に設けられる前記油メイン回路から分岐した分岐路の圧力を介して、前記蒸発器に溜まった油を戻す油戻し手段
を有し、
前記冷媒は二酸化炭素であり
前記蒸発器はシェル内にブラインが満たされチューブ内に前記冷媒が流れるシェルアンドチューブ式であり、
前記分岐路は前記蒸発器と連結し、前記分岐路の圧力は前記蒸発器内の圧力より高圧である
ことを特徴とする油回路。
【請求項2】
前記分岐路は、前記油溜手段から分岐する
ことを特徴とする請求項1記載の油回路。
【請求項3】
前記分岐路は前記圧縮機の上流側に連結する
ことを特徴とする請求項1記載の油回路。
【請求項4】
圧縮機と蒸発器と、前記蒸発器の下流であって前記圧縮機の上流に設けられた液分離器とを含み冷媒を循環する冷媒回路に設けられ、
前記圧縮機に油を供給する油供給手段と、
前記冷媒から前記油を分離する油分離手段と、
前記分離された油を溜める油溜手段と、
を含む油メイン回路と、
前記冷媒回路に設けられる前記油メイン回路から分岐した分岐路の圧力を介して、前記液分離器に溜まった油を戻す油戻し手段
を有し、
前記冷媒は二酸化炭素であり、
前記分岐路は前記液分離器と連結し、前記分岐路の圧力は前記液分離器の圧力より高圧である
ことを特徴とする油回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油回路に関し、特に冷媒回路に設けられる油回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冷却サイクルの基本原理は、気体状の冷媒を圧縮し、その結果、昇圧昇温する第1工程と、放熱して凝縮させ液化させる第2工程と、減圧し膨張させ降温させる第3工程と、蒸発気化により熱を奪う第4工程とから形成される。
【0003】
第4工程においてシステム外との熱交換が行われる。例えば室内の熱を奪うことにより、室内は冷却される。熱を吸収した冷媒は第1工程により圧縮される。このサイクルが繰り返される。
【0004】
第1工程では圧縮機が用いられ、第4工程では蒸発器が用いられる。圧縮機には潤滑等のため油が供給される。このとき、油は冷媒に混じり、冷媒回路を循環する。そこで、冷媒回路に油分離器を設け、冷媒から油を分離する。
【0005】
分離された油は、油溜器に貯留され、適宜圧縮機に供給される。このように、油も循環する。当該油は特に交換や補充等の保守をしないことが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2019/026270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、冷媒としてフロン系ガスが用いられている。一方で、フロン系ガスは環境負荷が高く、自然冷媒が見直されている。自然冷媒にはアンモニア、CO2、プロパン、ブタンなどがある。プロパンやブタンは爆発性があり取り扱いが困難である。アンモニアは、刺激臭と毒性があり取り扱いが困難である。その結果、CO2(二酸化炭素)が着目されている。
【0008】
また、蒸発器の一例として、シェルアンドチューブ式熱交換器(多管式熱交換器)がある。太い円柱状の胴体に細い多数の円管を配置し、胴体(シェル)側の流体と円管(チューブ)側の流体間で熱交換を行う。
【0009】
出願人は、冷媒としてCO2を用い、蒸発器としてシェルアンドチューブ式熱交換器を用いた冷却システムを開発、運用したところ、油回路の油が徐々に減っていることに気が付いた。
【0010】
油自体が冷却システムに悪影響を与える可能性は低いが、随時油を補充する必要があり、保守手間が増える。
【0011】
本願発明は、上記課題を解決するものであり、保守の必要が少ない油回路を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本願発明は、圧縮機と蒸発器とを含み冷媒を循環する冷媒回路に設けられる油回路である。油回路は、前記圧縮機に油を供給する油供給手段と、前記冷媒から前記油を分離する油分離手段と、前記分離された油を溜める油溜手段と、を含む。油回路は、更に、前記冷媒回路から分岐した分岐路の圧力を介して、前記蒸発器に溜まった油を戻す油戻し手段を有する。
【0013】
蒸発器に溜まった油を戻すことにより、油補充の必要はなくなり、保守手間は少なくなる。
【0014】
上記発明において好ましくは、前記冷媒は二酸化炭素である。
【0015】
二酸化炭素以外の冷媒に比べ、二酸化炭素冷媒は流速が遅く、意図せぬ箇所で冷媒から油が分離して溜まりやすい。このような課題は本願発明により解決できる。
【0016】
上記発明において好ましくは、前記蒸発器はシェルアンドチューブ式である。
【0017】
冷媒流速が遅いと、シェルアンドチューブ式蒸発器内で、油が分離して溜まりやすい。このような課題は本願発明により解決できる。
【0018】
上記発明において好ましくは、前記分岐路は前記蒸発器と連結し、前記分岐路の圧力は前記蒸発器内の圧力より高圧である。
【0019】
分岐路圧力が比較的高圧であることにより、エジェクタ効果により油を吸引できる。
【0020】
上記発明において好ましくは、前記分岐路は、前記油溜め手段から分岐する。
【0021】
油溜付近の圧力は比較的中圧に制御されており、利用しやすい。
【0022】
上記発明において好ましくは、前記分岐器は前記圧縮機の上流側に連結する。
【0023】
これにより油は圧縮機に供給される。
【0024】
上記課題を解決する本願発明は、圧縮機と蒸発器と液分離器とを含み冷媒を循環する冷媒回路に設けられる油回路である。油回路は、前記圧縮機に油を供給する油供給手段と、前記冷媒から前記油を分離する油分離手段と、前記分離された油を溜める油溜手段と、を含む。油回路は、更に、前記冷媒回路から分岐した分岐路の圧力を介して、前記液分離器に溜まった油を戻す油戻し手段を有する。
【0025】
液分離器に溜まった油を戻すことにより、油補充の必要はなくなり、保守手間は少なくなる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の油回路は、保守の必要が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】冷却システムの概念図
図2】CO2の状態遷移図(モリエル線図)
図3】冷却システムの概念図(冷媒回路強調)
図4】冷却システムの概念図(油回路強調)
図5】シェルアンドチューブ式熱交換器の端部拡大図
図6】変形例の概念図
【発明を実施するための形態】
【0028】
~概要~
冷却システムの冷媒回路には油回路が設けられている。本願出願人は冷媒としてCO2を用い、蒸発器としてシェルアンドチューブ式熱交換器を用いた冷却システムを開発、運用したところ、油回路の油が徐々に減っていることに気が付いた。その原因について検討および考察した。
【0029】
CO2冷媒は、既存冷媒(たとえばフロン系冷媒やアンモニア系冷媒)と比べて、単位体積当たりの運ぶ熱量が高いという特徴を有する。その結果、既存冷媒と比べて、冷媒流速が遅くても機能する。
【0030】
一方、シェルアンドチューブ式熱交換器は配管が長い。冷媒流速が遅いと、配管内で冷媒から油が分離するおそれがある。特にU字配管では流れの向きが反転するため(見かけ上流速ゼロ)、当該箇所では顕著になる。また、ブライン冷却等の冷却対象が大量となるに従い、シェルアンドチューブ式熱交換器も大型化する。これに伴い蓄積する油も無視できない程多くなる。
【0031】
本願出願人がシェルアンドチューブ式熱交換器を分析したところ、油が溜まりやすい箇所があることを発見した。本願出願人は上記知見に基づき本願発明を想到するに至った。
【0032】
なお、本願発明は、CO2冷媒に限定されず、シェルアンドチューブ式熱交換器に限定されない。冷媒流速が遅く、油分離器以外の箇所において油分離・油溜まりが発生してれば、本願発明の適用は可能である。
【0033】
~基本構成および基本動作~
図1は冷却システムの概念図である。冷却システムにメイン路は圧縮機12とガスクーラ14と受液器16と膨張弁18と蒸発器20とを備える。蒸発器20はシェルアンドチューブ式熱交換器であり、冷却システム外のブライン回路と熱交換をおこなう。
【0034】
図2は、モリエル線図(p-h線図)である。圧力及び温度を制御することで、気体または液体の状態を制御できる。圧力と温度を例示しながら冷媒の状態を簡単に説明する。例示の数値に限定されるものではない。
【0035】
図3は冷却システムの概念図に基本的な冷媒の流れを付加したものである。実質的に図1と同等である。
【0036】
冷却システムでは、冷媒が循環する。冷却を終えた冷媒は圧縮機12の上流側に供給される(ステップS2)。このときの冷媒ガスの温度は-10℃、圧力は1.9Mpaである。
【0037】
圧縮機12では、冷媒ガスは圧縮され、1.9Mpaから9.0Mpaとなる。これに伴い、冷媒ガス温度は-10℃から135℃に昇温する(ステップS4)。
【0038】
ガスクーラ14では、冷媒ガスは、圧力維持(9.0Mpa)しながら、外気温前後の37℃に空冷される(ステップS6)。
【0039】
さらに、熱交換器を介してバイパス路と熱交換をおこない降温させ、高圧制御弁を介して降圧する。冷却ガスと冷却液が混在する(ステップS8)。
【0040】
受液器16では冷媒液(圧力4.0 Mpa,温度5℃)が貯められる(ステップS10)。
【0041】
なお、バイパス路は比較的低温の冷却ガスを受液器16から供給し、制御弁により降圧、降温させたのち、メイン路と熱交換をおこなう。熱交換を終えたバイパス路の冷媒は圧縮機12の上流側に供給される。
【0042】
メイン路において、受液器16からの冷媒液は熱交換を経て、圧力維持(4.0Mpa)しながら、0℃まで降温される(ステップS12)。
【0043】
膨張弁18を介して冷却液は膨張し、4.0Mpaから1.9Mpaとなる。これに伴い、冷媒液温度は0℃から-19℃に降温する(ステップS14)。
【0044】
蒸発器20では冷媒液は徐々に蒸発し一部が冷媒ガスとなる。このときブライン回路と熱交換をおこない、ブライン回路の熱を奪う。圧力維持(1.9Mpa)、温度維持(-19℃)しながら、蒸発する(ステップS16)。
【0045】
ブライン回路では-11℃から-14℃に降温する。ブラインは例えば塩化カルシウムである。なお、ブライン回路の流量が多くなると、シェルアンドチューブ式熱交換器20も大型化する。
【0046】
蒸発器20からの復路において、蒸発器20への往路と熱交換をおこない、圧力維持(1.9Mpa)しながら、-10℃まで昇温され(ステップS18)、圧縮機12の上流側に供給される(ステップS2)。
【0047】
~油回路~
図4は冷却システムのうち油回路を強調したものであり、実質的に図1と同等である。
【0048】
冷媒回路には油回路が設けられている。油回路は油溜器22と油分離器24と油供給装置26とを備える。
【0049】
油溜器22から油供給装置26を介して適宜油が圧縮機12に供給される。油は冷媒に混じり、冷媒回路を循環する。冷媒回路において圧縮機12下流には油分離器24が設けられ、冷媒から油を分離する。油を分離した冷媒はガスクーラ14に供給される。
【0050】
分離された油は油溜器22に戻される。このとき、油分離器24から油溜器22へ流路、油溜器22、油溜器22から圧縮機12への流路は比較的中圧(たとえば、3.5Mpa)に制御されている。
【0051】
しかしながら、冷媒に混じる油を完全に分離することはできない。分離できず冷媒に混じる油は、冷媒回路を循環するうち、特定の箇所に溜まりやすいことを発見した。例えば、シェルアンドチューブ式熱交換器において、U字配管内で流れの向きが反転する端部では顕著に油が溜まりやすい。
【0052】
図5はシェルアンドチューブ式熱交換器の端部拡大図である。U字配管内等で流れの向きが反転する箇所等で、冷媒から油が分離し、カバー下部に溜まるものと推測できる。なお、当該箇所でも分離せず、冷媒に混じったままの油は、そのまま、冷媒回路を循環し、圧縮機12に供給される。
【0053】
本願油回路は特徴的構成として、油戻し路30を備える。油戻し路30は油溜器22の上流から分岐し、圧縮機12の上流側の冷媒回路(圧力1.9Mpa,温度-10℃)に合流する。
【0054】
油戻し路30は油回路から分岐しており、油回路の圧力と同等(たとえば、3.5Mpa)である。なお、油戻し路30流量は冷媒回路流量に比べて極めて少なく、合流個所での圧力差は自動的に調整される。
【0055】
油戻し路30の途中にはエジェクタ32が設けられている。エジェクタ32はシェルアンドチューブ式熱交換器20のカバー下部と連結している。
【0056】
エジェクタ32は一般的に用いられる装置でよい。エジェクタ32は、ノズル部とディフューザ部とボディ部と吸引部とを備える。
【0057】
高圧流体をノズルにより高速供給し、ディフューザ部において速度を減じながら排出すると、ボディ部内に低圧空間が生成される。ボディ部に設けられた吸引部から外部流体は吸引され、高圧流体と混合し、ディフューザ部から排出される。
【0058】
油戻し路30の圧力をたとえば3.5Mpaとし、シェルアンドチューブ式熱交換器20の冷媒回路の圧力を1.9Mpaとすれば、エジェクタ効果により、シェルアンドチューブ式熱交換器20のカバー下部に溜まっている油は吸引され、圧縮機12の上流側の冷媒回路に合流し、圧縮機12に供給される。なお、シェルアンドチューブ式熱交換器に溜まった油を直接油溜器22に戻す必要はない。
【0059】
ここで、油戻し路30の圧力は、蒸発器20内の圧力より高圧であればよい。したがって、冷媒回路における圧縮機12下流から蒸発器20上流の間のいずれかから油戻し路30を分岐すればよい。上記実施形態では、冷媒回路から分岐している油回路から油戻し路30は更に分岐しており、比較的中圧で精度の良い制御が可能である。とくに、油溜器22付近の圧力は比較的中圧に制御されており、利用しやすい。これにより外気温変動による影響をほぼ受けず、安定した動作が可能である。
【0060】
試作モデルにおいて、油戻し路30は所定時間による所定時間ごとの間欠制御により、開閉を繰り返す。
【0061】
また、油溜器22の油量に基づいて、開閉制御をおこなってもよい。すなわち、油溜器22の油量が極端に減るようであれば、油戻し路30を作用させる。
【0062】
~変形例~
図6は変形例にかかる冷却システムの概念図である。圧縮機12上流側に液分離器34を設ける。
【0063】
蒸発器20において冷媒は液体から気体になるが、実際は一部液体が混じっている。液分離器34において液体を分離し、気体を圧縮機12に供給する。
【0064】
液分離器34の底にも顕著に油が溜まりやすいことを発見した。
【0065】
変形例は特徴的構成として、油戻し路40を備える。油戻し路40は油戻し路30から分岐し、圧縮機12の上流側の冷媒回路(圧力1.9Mpa,温度-10℃)に合流する。したがって、油戻し路40の圧力は、油戻し路30の圧力と同等(たとえば、3.5Mpa)である。
【0066】
油戻し路40の途中にはエジェクタ42が設けられている。エジェクタ42は液分離器34の底部と連結している。
【0067】
油戻し路40の圧力をたとえば3.5Mpaとし、液分離器34の冷媒回路の圧力を1.9Mpaとすれば、エジェクタ効果により、液分離器34の底部に溜まっている油は吸引され、圧縮機12の上流側の冷媒回路に合流し、圧縮機12に供給される。
【0068】
油戻し路40は油戻し路30から分岐しており、上記実施形態同様に、比較的中圧で精度の良い制御が可能である。これにより外気温変動による影響をほぼ受けず、安定した動作が可能である。
【符号の説明】
【0069】
12 圧縮機
14 ガスクーラ
16 受液器
18 膨張弁
20 蒸発器
22 油溜器
24 油分離器
26 油供給装置
30 油戻し路
32 エジェクタ
40 油戻し路
42 エジェクタ

図1
図2
図3
図4
図5
図6