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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】細胞の調製方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/077 20100101AFI20240422BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20240422BHJP
【FI】
C12N5/077
C12N5/071
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022155545
(22)【出願日】2022-09-28
(62)【分割の表示】P 2017545800の分割
【原出願日】2016-10-20
(65)【公開番号】P2022185031
(43)【公開日】2022-12-13
【審査請求日】2022-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2015207529
(32)【優先日】2015-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(72)【発明者】
【氏名】山本 健太
(72)【発明者】
【氏名】岸田 綱郎
(72)【発明者】
【氏名】素輪 善弘
(72)【発明者】
【氏名】山本 俊郎
(72)【発明者】
【氏名】松田 修
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/011031(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/038704(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0120621(US,A1)
【文献】Cell. Reprogram.,2012年,Vol.14, No.2,pp.99-105
【文献】J. Clin. Endocrinol. Metab.,2002年,Vol.87, No.5,pp.2352-2358
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物の分化した体細胞を、前記分化した体細胞以外の他の体細胞を分化誘導するための培地中で、TGF-βパスウェイ阻害剤の存在下に培養して、前記分化した体細胞を他の体細胞にコンヴァートさせることを特徴とする、体細胞を調製する方法であって、該分化した体細胞が線維芽細胞又はケラチノサイトであり、他の体細胞が骨芽細胞である方法
ここでTGF-βパスウェイ阻害剤はALK5阻害剤であり、
該培地は骨芽細胞を誘導するための培地(アスコルビン酸、β-Glycerophosphate及び糖質コルチコイドを通常の液体培地に添加したもの)である
【請求項2】
ALK5阻害剤が、D4476、SB431542、LY2157299、SD208、又はALK5 inhibitor IIである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ALK5阻害剤が、ALK5 inhibitor IIである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
TGF-βパスウェイ阻害剤を含む、分化した体細胞を培地中で他の体細胞にコンヴァートさせるための誘導剤であって、該分化した体細胞が線維芽細胞又はケラチノサイトであり、他の体細胞が骨芽細胞である誘導剤
ここでTGF-βパスウェイ阻害剤はALK5阻害剤であり、
該培地は骨芽細胞を誘導するための培地(アスコルビン酸、β-Glycerophosphate及び糖質コルチコイドを通常の液体培地に添加したもの)である
【請求項5】
分化した体細胞を他の体細胞にコンヴァートさせるためのキットであって、TGF-βパスウェイ阻害剤及び前記他の体細胞を分化誘導するための培地を含むキットであり、該分化した体細胞が線維芽細胞又はケラチノサイトであり、他の体細胞が骨芽細胞であり、培地が骨芽細胞を誘導するための培地(アスコルビン酸、β-Glycerophosphate及び糖質コルチコイドを通常の液体培地に添加したもの)であるキット
ここでTGF-βパスウェイ阻害剤はALK5阻害剤である
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2015年10月21日に出願された、日本国特許出願第2015-207529号明細書(その開示全体が参照により本明細書中に援用される)に基づく優先権を主張する。
【0002】
本発明は、主に細胞の調製方法に関する。詳しくはダイレクト・リプログラミングによる細胞の調製方法に関する。本発明はまた、分化した体細胞を他の体細胞にコンヴァートさせるための誘導剤にも関する。
【背景技術】
【0003】
近年、細胞を患者に移植することによって、機能や形態の異常を補完し、病気を治療する再生医療技術が着目されている。
【0004】
例えば骨芽細胞については、骨腫瘍、外傷や骨髄炎等にともなう骨欠損、また骨腫瘍等の掻爬後の骨欠損の修復目的で、病変部に骨芽細胞を移植すれば、骨形成を促進し、機能的形態的な予後が向上すると期待できる。実際に、たとえば患者の海綿骨から採取した骨髄細胞を自家移植する治療が行われており、その有効性が知られている。この場合自家骨髄細胞に含まれる間葉系幹細胞から骨芽細胞が分化誘導され、骨形成とリモデリングに寄与していると考えられる。一方、高齢化にともなって骨粗しょう症の罹患率が増加しており、高齢者が骨折すると長期臥床に繋がることもある。骨芽細胞の移植は、骨粗しょう症や外傷等に伴う骨折、難治性骨折や偽骨折の治癒を促進できると考えられる。骨芽細胞の移植はまた、関節リウマチ、突発性大腿骨頭壊死、変形性関節症、腰椎変形性脊椎症、脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニア、脊椎分離症、脊椎分離すべり症、脊椎側弯症、頸椎症性脊髄症、後縦靭帯骨化症、脊髄損傷、変形性股関節症、変形性膝関節症、大腿骨頭すべり症、骨軟化症、手術後の骨の修復(心臓手術後の胸骨の修復など)、人工足関節手術に伴う欠損部の修復、骨髄炎、骨壊死等にも有用な可能性がある。
【0005】
一方、歯周病は第4の生活習慣病とも呼ばれ、罹患率が極めて高く、またさまざまな全身疾患の原因になっている。歯周病の進行にともなって、歯槽骨の骨吸収が起こるので、骨芽細胞を効率良く局所の骨吸収部に供給出来れば、歯槽骨の再生治療につながると考えられる。
【0006】
また、骨芽細胞の移植を、骨移植、人工骨移植、人工関節やインプラントと併用すれば、治療効果を高められる可能性がある。
【0007】
再生医療技術において、用いる細胞の供給手段が課題の一つである。
【0008】
例えば移植目的の骨芽細胞として、これまで骨髄間葉系幹細胞や骨髄間葉系幹細胞を含む骨髄細胞などが用いられてきた。しかし骨髄の採取は患者への侵襲が大きく、また十分な数の骨髄細胞が供給できない場合があるなどの問題点がある。一方、ヒト胚性幹細胞(ES細胞)を用いれば、患者から骨髄を採取する必要はなく、また十分な数の骨芽細胞を供給できる可能性があるが、倫理的問題に加えて移植後に残存ES細胞が腫瘍化する危険性がある。またiPS細胞を用いても、患者から骨髄を採取する必要はなく、また十分な数の骨芽細胞を供給できる可能性があるが、移植後に残存iPS細胞が腫瘍化する危険性がある。
【0009】
他の細胞についても、同様の問題がある。
【0010】
非特許文献1は、ヒトES細胞へのOsterixのLentivirusベクター導入+Osteogenic培地での骨芽細胞への分化誘導を行っている。非特許文献2,3は、マウスiPS細胞からMSCを経てOsteogenic培地で分化誘導して骨芽細胞を得ている。
【0011】
非特許文献4は、マウスiPS細胞にRunx2のAdenovirusベクターを導入し、Osteogenic培地で分化誘導して骨芽細胞を得ている。非特許文献1~4に示されるように、骨芽細胞はES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞から分化誘導して作製されているため、長期間の培養を要し、また癌化の危険性があった。
【0012】
体細胞に、組織特異的な転写因子の遺伝子群を導入して、iPS細胞を経ずに直接その組織細胞に分化誘導できること(ダイレクト・コンヴァージョン(ダイレクト・リプログラミング))について、たとえば、以下の報告がある:
マウス線維芽細胞→軟骨細胞(SOX9 + Klf4 + c-Myc遺伝子を導入)
マウス線維芽細胞→心筋細胞(GATA4 + Mef2c + Tbx5遺伝子を導入)
マウス線維芽細胞→肝細胞(Hnf4α+(Foxa1またはFoxa2またはFoxa3)遺伝子を導入)
マウス線維芽細胞→神経幹細胞(Sox2 + FoxG1遺伝子を導入など)、
マウス、ヒト細胞→造血幹細胞など。
【0013】
特許文献1には、体細胞に所定の遺伝子群を導入して、機能性を有する骨芽細胞を効率よく調製(ダイレクト・コンヴァージョン)するための方法が開示されている。しかしながら、遺伝子を導入する方法では、導入した遺伝子やベクターの影響で、細胞が腫瘍化する可能性がある。また安全性の検証のために費用と時間を要するなどの問題もある。そこで、遺伝子を導入せずに移植用の細胞を誘導する技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】国際公開公報WO2015/012377
【非特許文献】
【0015】
【文献】Karner E et al. J Cell Physiol. 2009.
【文献】Li F et al. J Cell Biochem. 2010.
【文献】Biloussova G et al. Stem cells. 2011.
【文献】Tashiro K et al. Stem cells. 2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、主に、細胞の調製方法、特に分化した体細胞を遺伝子導入を行うことなく他の体細胞に変換する技術(ダイレクト・コンヴァージョン(ダイレクト・リプログラミング))の技術)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、哺乳動物の分化した体細胞を培地中、TGF-βパスウェイ阻害剤の存在下に、種々の組成の培地中に培養して、原材料の体細胞を、当該原材料の体細胞以外の他の体細胞に変換できることを見出した。
【0018】
TGF-βパスウェイ阻害剤を用いた、ダイレクト・コンヴァージョン(ダイレクト・リプログラミング)の報告はない。
【0019】
本発明は、以下の骨芽細胞の調製方法、骨芽細胞誘導剤及びキットを包含する。
【0020】
項1、哺乳動物の分化した体細胞を、前記分化した体細胞以外の他の体細胞を分化誘導するための培地中で、TGF-βパスウェイ阻害剤の存在下に培養して、前記分化した体細胞を他の体細胞にコンヴァートさせることを特徴とする、体細胞を調製する方法。
【0021】
項2、TGF-βパスウェイ阻害剤が、TGF-β/SMADパスウェイ阻害剤である、項1に記載の方法。
【0022】
項3、TGF-βパスウェイ阻害剤が、D4476、SB431542、LY2157299、SD208、又はALK5 inhibitor IIである、項1又は2に記載の方法。
【0023】
項4、TGF-βパスウェイ阻害剤が、ALK5 inhibitor IIである、項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【0024】
項5、線維芽細胞を間葉系の細胞にコンヴァートさせることを特徴とする、項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【0025】
項6、線維芽細胞又はケラチノサイトを骨芽細胞にコンヴァートさせることを特徴とする、項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【0026】
項7、線維芽細胞又は末梢血単核細胞を白色脂肪細胞にコンヴァートさせることを特徴とする、項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【0027】
項8、線維芽細胞又はケラチノサイトを褐色脂肪細胞にコンヴァートさせることを特徴とする、項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【0028】
項9、体細胞を分化誘導するための培地が、Peroxisome Proliferator-Activated Receptor-γ (PPAR-γ)アゴニストを含む、項7又は8に記載の方法。
【0029】
項10、線維芽細胞を軟骨細胞にコンヴァートさせることを特徴とする、項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【0030】
項11、線維芽細胞を筋芽細胞にコンヴァートさせることを特徴とする、項1~4のいずれか1項記載の方法。
【0031】
項12、線維芽細胞をシュワン細胞にコンヴァートさせることを特徴とする、項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【0032】
項13、ケラチノサイトを尿路上皮細胞にコンヴァートさせることを特徴とする、項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【0033】
項14、線維芽細胞を間葉系幹細胞にコンヴァートさせることを特徴とする、項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【0034】
項15、TGF-βパスウェイ阻害剤を含む、分化した体細胞を他の体細胞にコンヴァートさせるための誘導剤。
【0035】
項16、分化した体細胞を他の体細胞にコンヴァートさせるためのキットであって、TGF-βパスウェイ阻害剤及び前記他の体細胞を分化誘導するための培地を含むキット。
【発明の効果】
【0036】
本発明では、低分子化合物の作用により分化した体細胞から短期間で他の体細胞を提供できる。得られた体細胞(例えば、間葉系幹細胞や骨芽細胞)は、移植する本人の体細胞から容易に誘導できるので、得られた体細胞自体又はそれから作製した組織を移植した場合にも免疫学的な拒絶応答などの問題は生じない。また、iPS細胞やES細胞を経由することなく直接体細胞から体細胞を誘導できるため、癌化などの多能性幹細胞に起因する問題を回避できる。一方で、あらかじめ作成してバンク化しておき、そこから患者へのアロ移植や異種移植に使うことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】アリザリンレッドS染色の結果(染色図)を示す。
図2】アリザリンレッドS染色の結果(吸光度測定)を示す。
図3】リアルタイムRT-PCR法による遺伝子発現量の測定結果を示す。
図4】Osteocalsinの免疫染色の結果(染色図)を示す。
図5】アリザリンレッドS染色の結果(染色図及び吸光度測定)を示す。
図6】Runx2の免疫染色の結果(染色図)を示す。
図7】Bodipy染色の結果(染色図)を示す。
図8】リアルタイムRT-PCR法による遺伝子発現量の測定結果を示す。
図9】アルシアンブルー染色の結果(染色図)を示す。
図10】リアルタイムRT-PCR法による遺伝子発現量の測定結果を示す。
図11】リアルタイムRT-PCR法による遺伝子発現量の測定結果を示す。
図12】Oil Red O染色の結果(染色図)を示す。
図13】リアルタイムRT-PCR法による遺伝子発現量の測定結果を示す。
図14】リアルタイムRT-PCR法による遺伝子発現量の測定結果を示す。
図15A】Bodipy染色の結果(染色図)を示す。
図15B】Bodipy染色の結果(蛍光強度測定)を示す。
図16】TGF-β/SMADパスウェイを模式的に示す。
図17】TGF-β/SMADパスウェイとTGF-β/ERKパスウェイを模式的に示す。
図18】TGF-β/SMADパスウェイ、TGF-β/JNKパスウェイとTGF-β/p38パスウェイを模式的に示す。
図19】TGF-β/SMADパスウェイとTGF-β/RhoAパスウェイを模式的に示す。
図20】アリザリンレッドS染色の結果(染色図)を示す。
図21】ALP染色の結果(染色図)を示す。
図22】リアルタイムRT-PCR法による遺伝子発現量の測定結果を示す。
図23】Oil Red O染色の結果(染色図)を示す。
図24】リアルタイムRT-PCR法による遺伝子発現量の測定結果を示す。
図25】アルシアンブルー染色の結果(染色図)を示す。
図26】リアルタイムRT-PCR法による遺伝子発現量の測定結果を示す。
図27】アリザリンレッドS染色の結果(染色図)を示す。
図28】ALP染色の結果(染色図)を示す。
図29】μCTの断層像(μCT analysis)を示す。矢頭は骨欠損(Bone defect)、矢印は再生した骨組織(化骨)(Regenerated bone tissue (Callus))をそれぞれ示す。
図30】μCTの3D再構築像を示す。移植後21日(21 days after transplantation)の像である。矢印は骨欠損(Bone defect)または再生した骨組織(化骨)(Regenerated bone tissue (Callus))を示す。上段は断面図(Cross section)、下段は縦断面(Longitudinal)である。
図31】ヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)およびアリザリンレッドS染色(Alizarin Red S staining)による組織学的解析(Histological analysis)の結果を示す。
図32】DNAマイクロアレイ(DNA microarray)解析による、MSCマーカー遺伝子(MSC marker genes)の発現量を表したヒートマップを示す。
図33】アリザリンレッドS染色の結果(染色図)を示す。
図34】アリザリンレッドS染色の結果(吸光度測定)を示す。
図35】アリザリンレッドS染色及びALP染色の結果(染色図)を示す。
図36】アリザリンレッドS染色の結果(吸光度測定)を示す。
図37】ALP染色の結果(染色図)を示す。
図38】アリザリンレッドS染色の結果(染色図)を示す。
図39】リアルタイムRT-PCR法による遺伝子発現量の測定結果を示す。
図40】Osteocalsin(OC)の免疫染色の結果(染色図とDAPI陽性細胞中のOC陽性細胞のパーセンテージ)を示す。
図41】リアルタイムRT-PCR法による遺伝子発現量の測定結果を示す。
図42】UCP1の免疫染色の結果(染色像)を示す。
図43】リアルタイムRT-PCR法による遺伝子発現量の測定結果を示す。
図44】UCP1の免疫染色の結果(染色図)を示す。
図45】リアルタイムRT-PCR法による遺伝子発現量の測定結果を示す。
図46】UCP1の免疫染色の結果(染色像(A)とDAPI陽性細胞中のUCP1陽性細胞のパーセンテージ(B))を示す。
図47】リアルタイムRT-PCR法による遺伝子発現量の測定結果を示す。
図48】リアルタイムRT-PCR法による遺伝子発現量の測定結果を示す。
図49】Bodipy染色の結果(染色図)を示す。
図50】Bodipy染色の結果(Bodipy陽性細胞の比率)を示す。
図51】リアルタイムRT-PCR法による遺伝子発現量の測定結果を示す。
図52】Bodipy染色の結果(染色図)を示す。
図53】Bodipy染色の結果(定量)を示す。
図54】リアルタイムRT-PCR法による遺伝子発現量の測定結果を示す。
図55】リアルタイムRT-PCR法による遺伝子発現量の測定結果を示す。
図56】リアルタイムRT-PCR法による遺伝子発現量の測定結果を示す。
図57】リアルタイムRT-PCR法による遺伝子発現量の測定結果を示す。
【0038】
なお、図4図6及び図7は、色反転画像を併せて示している。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明は、哺乳動物の分化した体細胞を原材料として、他の体細胞を調製する方法に関する。換言すると、本発明は哺乳動物の分化した体細胞を、他の体細胞にコンヴァートする方法に関する。「コンヴァート」とは、体細胞を目的の体細胞へと変換することを意味する。本発明の方法の好ましい態様の1つは、「ダイレクトコンヴァージョン」、「ダイレクトリプログラミング」ともよばれる、iPS細胞の作製に代表される細胞の初期化の工程を経ることなく、体細胞を他の体細胞にコンヴァートする方法である。体細胞を他の体細胞に直接コンヴァートする方法であると換言することもできる。
【0040】
本発明の方法の好ましい態様においては、体細胞は遺伝子の導入なしに、他の体細胞へとコンヴァートされる。「遺伝子の導入なしに」とは、体細胞の当初のゲノム配列(主として、DNAの塩基配列を意味する)が変化することなく、他の体細胞へとコンヴァートされることを意味する。あるいは、「遺伝子の導入なしに」とは、体細胞の当初の内在遺伝子の機能に基づき、他の体細胞へとコンヴァートされることを意味する。
【0041】
分化した体細胞(原材料)
本発明の方法において原材料として用いる哺乳動物の分化した体細胞としては、哺乳動物由来であれば、特に限定されない。体細胞とは、細胞のうち生殖細胞以外の細胞を意味する。
【0042】
体細胞の種類としては、例えば、線維芽細胞、上皮細胞(皮膚表皮細胞、口腔粘膜上皮細胞、気道粘膜上皮細胞、腸管粘膜上皮細胞など)、表皮細胞、歯肉細胞(歯肉線維芽細胞、歯肉上皮細胞)、歯髄細胞、白色脂肪細胞、皮下脂肪、内臓脂肪、筋肉、血液細胞(例えば、末梢血単核細胞)などが挙げられ、好ましくは線維芽細胞、歯肉細胞、口腔粘膜上皮細胞、歯髄細胞、脂肪細胞、表皮角化細胞(ケラチノサイト)、血液細胞などが挙げられる。
【0043】
また、間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cell: MSC)、神経幹細胞(Neural stem cell)、肝幹細胞(hepatic stem cell)、腸幹細胞、皮膚幹細胞、毛包幹細胞、色素細胞幹細胞などの体性幹細胞から分化誘導し、あるいは脱分化させ、あるいはリプログラミングさせて作製した体細胞も挙げられる。また、さまざまな体細胞から分化誘導し、あるいは脱分化させ、あるいはリプログラミングさせて別の体細胞に誘導した細胞も挙げられる。また、生殖系列の細胞から分化誘導し、あるいは脱分化させ、あるいはリプログラミングさせて誘導した体細胞も挙げられる。
【0044】
また、培養細胞も挙げられ、培養細胞から分化誘導し、あるいは脱分化させ、あるいはリプログラミングさせて誘導した体細胞も挙げられる。
【0045】
哺乳動物としては、マウス、ラット、ハムスター、ヒト、イヌ、ネコ、サル、ウサギ、ウシ、ウマ、ブタなどが挙げられる。体細胞は、ヒト由来であることが特に好ましい。体細胞が由来する個体の年齢は限定されず、成人であっても小児であっても胎児であってもよい。なお、本明細書において、胎児由来の細胞、並びに、胎盤、羊膜、臍帯等由来の細胞も「体細胞」に包含される。
【0046】
調製した体細胞を生体に移植する場合には、移植される被験体由来の体細胞(自家細胞)を用いることが、感染や拒絶応答等の危険を低減させるために好ましい。しかしながら、自家細胞でなく、他人や他の動物の体細胞から作った体細胞を移植に用いることができる。またはあらかじめ準備しておいた他人や他の動物の体細胞から他の体細胞を作り、移植に用いることができる。または他人や他の動物の体細胞からあらかじめ作っておいた体細胞を、移植に用いることができる。すなわち、体細胞バンク、または体細胞前駆細胞のバンクを作っておき移植目的に供することができる。このような場合、拒絶応答等の危険を低減させるために、あらかじめ血液型とMHCをタイピングしておくことができる。また、あらかじめ移植用の体細胞のキャラクターや造腫瘍性などを確認しておくことができる。
【0047】
調製される他の体細胞
本発明の方法により調製される他の体細胞は、原材料として用いる体細胞以外の体細胞である。また、原材料として用いる体細胞から、生理的な条件下(特に、生体内)で分化する体細胞は、「他の体細胞」には含まれない。例えば、生体内で間葉系幹細胞から骨芽細胞へと分化するため、間葉系幹細胞を原材料として用いる場合は、骨芽細胞は「他の体細胞」には該当しない。
【0048】
調製される体細胞の種類としては、例えば、間葉系幹細胞(MSC)、骨芽細胞、脂肪細胞(褐色脂肪細胞又は白色脂肪細胞)、軟骨細胞、筋芽細胞、尿路上皮細胞、骨髄間質細胞、腱細胞、肝細胞、胆管上皮細胞、シュワン細胞などのグリア細胞、神経細胞、心筋細胞、平滑筋細胞、血管内皮細胞、リンパ管内皮細胞などが挙げられる。
【0049】
さらに、表皮細胞、色素細胞、毛嚢細胞、爪母細胞、結合織細胞、肺と気道の細胞(気道上皮細胞、肺胞上皮細胞等)、消化管上皮細胞、腺細胞、造血幹細胞、リンパ球、顆粒球、単球、マクロファージ、マスト細胞、巨核球、血小板、赤芽球、赤血球、リンパ網内系細胞、抗原提示細胞、乳腺上皮細胞、腎臓の細胞(糸球体細胞、尿細管上皮細胞、尿路上皮細胞などの尿路系細胞等)、生殖器系細胞、角膜細胞、結膜細胞、網膜細胞、滑膜細胞、内分泌細胞、膵島の細胞(インスリン産生細胞(β細胞)等)、外分泌細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、腸管幹細胞、唾液腺幹細胞などが挙げられる。
【0050】
原材料として用いる体細胞と、調製される体細胞の組み合わせは特に限定されない。
【0051】
体細胞が調製される効率が高いとの観点から、原材料として用いる体細胞と調製される他の体細胞とは、いずれもが間葉系幹細胞から分化する、間葉系に属する体細胞であることが好ましい。
【0052】
間葉系に属する細胞としては、間葉系幹細胞(MSC)、線維芽細胞、骨芽細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、筋芽細胞、骨髄間質細胞、腱細胞などが例示される。また、肝細胞、胆管上皮細胞、グリア細胞、神経細胞、心筋細胞、平滑筋細胞、血管内皮細胞、リンパ管内皮細胞などの間葉系幹細胞から分化できる可能性が知られている細胞も「間葉系に属する細胞」に包含される。
【0053】
骨芽細胞には、前骨芽細胞、未熟骨芽細胞、成熟骨芽細胞、骨細胞等を含むものとする。また脂肪細胞には、白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞を含み、白色脂肪細胞には、脂肪幹細胞、前駆脂肪細胞、成熟脂肪細胞、肥大化脂肪細胞等を含むものとする。褐色脂肪細胞には、ベージュ細胞、Brite細胞等を含むものとする。軟骨細胞には、未熟軟骨細胞、成熟軟骨細胞、肥大軟骨細胞等を含むものとする。筋芽細胞には、筋衛星細胞、未熟な筋芽細胞、成熟した筋芽細胞、筋細胞、筋管細胞、筋線維等を含むものとする。同様に、本明細書で記載する細胞は、いずれもその名称で代表される細胞系列の、分化の程度が異なる細胞を含む。
【0054】
本発明の態様の具体例としては、線維芽細胞を間葉系幹細胞(MSC)にコンヴァートさせる方法、線維芽細胞を骨芽細胞にコンヴァートさせる方法、線維芽細胞を脂肪細胞にコンヴァートさせる方法(例えば、線維芽細胞を白色脂肪細胞にコンヴァートさせる方法、線維芽細胞を褐色脂肪細胞にコンヴァートさせる方法など)、線維芽細胞を軟骨細胞にコンヴァートさせる方法、線維芽細胞を軟骨細胞にコンヴァートさせる方法、線維芽細胞を筋芽細胞にコンヴァートさせる方法、ケラチノサイトを尿路上皮細胞にコンヴァートさせる方法、血液細胞(例えば、末梢血単核細胞)を白色脂肪細胞にコンヴァートさせる方法などが例示される。
【0055】
また、歯肉細胞、口腔粘膜上皮細胞、歯髄細胞、脂肪細胞、血液細胞等を原材料とし、間葉系幹細胞(MSC)、骨芽細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、筋芽細胞にコンヴァートさせる方法などが例示される。
【0056】
本発明では、原材料から一旦、途中経過の細胞(たとえば、MSC、MSC様の細胞、その他の体性幹細胞など)にコンヴァートしたあとで、その途中経過の細胞から最終目的の細胞(骨芽細胞、脂肪細胞、軟骨細胞や筋芽細胞など)に分化することも含まれる。途中経過の細胞なども体細胞のひとつであるので、これを経由しても本明細書ではダイレクト・コンヴァージョンと呼ぶ。
【0057】
培地
本発明の方法において、分化した体細胞を、分化した体細胞以外の他の体細胞を誘導するための培地(分化誘導培地)中で培養する。分化誘導培地としては、目的の調製される体細胞に応じて、公知の分化誘導培地を使用することができる。
【0058】
「分化した体細胞以外の他の体細胞を誘導するための培地」、「分化誘導培地」とは、主に多能性幹細胞(ES細胞、iPS細胞など)を当該体細胞へと分化させることができる成分を含む培地を指す。
【0059】
例えば、骨芽細胞を誘導するための培地としては、アスコルビン酸(例えば、濃度0.1~1000μg/ml程度、好ましくは、1~100μg/ml程度);β-Glycerophosphate(例えば、濃度0.1~1000mM程度、好ましくは1~100mM程度);デキサメタゾン(1 nM~10 mM程度、好ましくは10~1000 mM程度)及びヒドロコルチゾンなどの糖質コルチコイドからなる群から選択される成分(1種又は2種以上)を通常の液体培地に添加したものが例示される。具体的例として、50 μg/mlアスコルビン酸、10 mM β-Glycerophosphate、100 nMデキサメタゾン(いずれも最終濃度)を、10%FBS若しくは5%HS添加のDMEMなどの通常培地に加えたものが挙げられる。しかしこれらに限定されない。
【0060】
白色脂肪細胞を誘導するための培地としては、インスリン(Insulin)(例えば濃度0.01~100 μg/mL程度、好ましくは0. 1~10 μg/mL程度);3-イソブチル-1-メチルキサンチン(3-isobutyl-1-methylxanthine;IBMX)(例えば濃度0.01~100 mM程度、より好ましくは0.1~10mM程度); デキサメタゾン(Dexamethasone)(例えば濃度0.01~100 μM程度、より好ましくは0.1~10 μM程度)などの成分(1種又は2種以上)を通常培地に添加したものが例示される。具体例として、10% FBS添加DMEM+MDI培地(0.5 mM 3-isobutyl-1-methylxanthine(IBMX)、0.5 μM dexametazone、および1 μg/mL Insulinを添加した、10% FBS添加DMEM)が挙げられる。しかしこれらに限定されない。
【0061】
白色脂肪細胞にコンヴァートさせる効率が高いとの観点から、さらにPeroxisome Proliferator-Activated Receptor-γ (PPAR-γ)アゴニスト(例えば濃度0.01~100 μM程度、より好ましくは0.1~10 μM程度)を加えることが好ましい。
【0062】
PPAR-γアゴニストとしては、Rosiglitazone、Ciglitazone、GW1929、nTZDpa、Pioglitazone Hydrochloride、Troglitazoneなどのチアゾリジンジオン化合物が例示される。
【0063】
褐色脂肪細胞を誘導するための培地としては、インスリン(Insulin)(例えば濃度0.01~100μg/mL程度、より好ましくは0. 1~10μg/mL程度);3-イソブチル-1-メチルキサンチン(3-isobutyl-1-methylxanthine;IBMX)(例えば濃度0.01~100 mM程度、より好ましくは0.1~10mM程度); デキサメタゾン(Dexametazone)(例えば濃度0.01~100 μM程度、より好ましくは0.1~10 μM程度)を通常培地に添加したものが例示される。また、インドメタシン(Indometacin)(例えば濃度0.001~10 mM程度、より好ましくは0.01~1 mM程度)を添加してもよい。
【0064】
褐色脂肪細胞にコンヴァートさせる効率が高いとの観点から、さらに甲状腺ホルモン(例えば濃度0.01~100 nM程度、より好ましくは0.1~10nM程度)及び/又はPeroxisome Proliferator-Activated Receptor-γ (PPAR-γ)アゴニスト(例えば濃度0.01~100 μM程度、より好ましくは0.1~10 μM程度)を加えることが好ましく、両者を加えることがさらに好ましい。
【0065】
甲状腺ホルモンとしては、トリヨードサイロニン(Triiodothyronine, T3)、サイロキシン(Thyroxine, T4)などが例示される。
【0066】
PPAR-γアゴニストとしては、Rosiglitazone、Ciglitazone、GW1929、nTZDpa、Pioglitazone Hydrochloride、Troglitazoneなどのチアゾリジンジオン化合物が例示される。
【0067】
褐色脂肪細胞を誘導するための培地の具体例としては、[1] FBS 10%, 0.5 mM IBMX, 125 nM Indomethacin, 1 microM Dexamethasone, 850 nM insulin 、1 nM トリヨードサイロニン(Triiodothyronine, T3)、1 μM Rosiglitazoneを添加したDMEM培地、[2] 10% FBS, 850 nM insulin, 1 nM T3, 1 μM Rosiglitazoneを添加したDMEM培地が例示される。第1~2日に[1]を、第3日以降に[2]を用いることができる。。
【0068】
また、線維芽細胞から褐色脂肪細胞を誘導するための培地として、1 nM T3, 1 μM Rosiglitazone, 0.5 mM isobutyl-1-methylxanthine(IBMX)、0.5 μM dexamethasone、1 μg/mL Insulin および10% FBSを添加したDMEMを使用することができる。ケラチノサイトから褐色脂肪細胞を誘導するための培地として、1 nM T3, 1 μM Rosiglitazone, 0.5 mM isobutyl-1-methylxanthine(IBMX)、0.5 μM dexamethasone、1 μg/mL Insulinを加えたHuMedia-KG2を使用することができる。
【0069】
しかしこれらに限定されない。
【0070】
PPAR-γアゴニストとしては、Rosiglitazone、Ciglitazone、GW1929、nTZDpa、Pioglitazone Hydrochloride、Troglitazoneなどが例示される。
【0071】
間葉系幹細胞を誘導するための培地としては、例えば下記の文献(1-1)~(1-4)に記載の培地を使用することができるが、これらに限定されない。
(1-1) M.D. Hoffman and D.S.W. Benoit, J Tissue Eng Regen Med. 2013 Apr 1. doi: 10.1002/term.1736
(1-2) C-Y Li, et al., Stem Cell Res Ther. 2015 Apr 13;6:55. doi: 10.1186/s13287-015-0066-5.
(1-3) B. Gharibi and F.J. Hughes, Stem Cells Transl Med. 2012 Nov;1(11):771-82. doi: 10.5966/sctm.2010-0031. Epub 2012 Oct 23
(1-4) S.K. Both et al. Tissue Eng. 2007 Jan;13(1):3-9.
(1-5) F. Ng et al., Blood. 2008 Jul 15;112(2):295-307. doi: 10.1182/blood-2007-07-103697. Epub 2008 Mar 10.
(1-6) Hynes K. et al., J Dent Res. 2013 Sep;92(9):833-9。
【0072】
軟骨細胞を誘導するための培地としては、公知のものを使用することができる。下記の文献(2-1)~(2-4)に記載の培地を使用することができるが、これらに限定されない。(2-1)H. Outani, et al., PLOS One, 8(10): e77365. doi:10.1371/journal.pone.0077365
(2-2)G.-I. Im, et al. Tissue Engineering. March 2006, 12(3): 527-536. doi:10.1089/ten.2006.12.527.
(2-3) H-J. Kim and G.-I. Im, Journal of Orthopaedic Research,Volume 27, Issue 5, pages 612-619, May 2009
(2-4) A.M. Ibrahim et al., Microscopy Research and Technique, Volume 78, Issue 8, pages 667-675, August 2015。
【0073】
筋芽細胞を誘導するための培地としては、公知のものを使用することができる。例えば、5% FBS, 50 microG/ml Bovine Fetuin, 10 nG/ml hEGF, 1 nG/ml bFGF, 10 microG/ml Insulin, 0.4 microG Dexamethasoneを添加したHam's/F10培地;10% FBS, 10 microM 5-azacytidine, 10 ng/mL VEGF, 10 ng/mL IGF-1, 10 ng/mL bFGFを添加したDMEM培地;5% Horse serum, 10 ng/mLを添加したαMEM培地などを用いることができる。また、例えば文献:Int J Mol Med. 2014 Jan;33(1):160-70. doi: 10.3892/ijmm.2013.1555. Epub 2013 Nov 13.に記載の培地を使用することができる。しかし、これらに限定されるものではない。
【0074】
神経細胞を誘導するための培地としては、公知のものを使用することができる。例えば、[1]1 microM Retinoic acid(RA), 5 microM FSK添加DMEM培地、[2]1 microM RA, 5 microM FSK、10 ng/mL bFGF添加DMEM培地、[3]1 microM RA, 1 microM FSK、10 ng/mL bFGF、100 ng/mL SHH添加DMEM培地を用い、第1~3日目に[1]、第4~5日目に[2]、第6日目以降に[3]を用いることができる。また、たとえば文献:Yan Y. et al., Stem Cells Transl Med. 2013 Nov;2(11):862-70. に記載の培地を使用することができる。しかし、これらに限定されるものではない。
【0075】
グリア細胞と神経細胞を誘導するための培地としては、公知のものを使用することができる。例えば、文献:L. Hook et al.,Neurochemistry International. Volume 59, Issue 3, September 2011, Pages 432-444やSelvaraj V. et al., Front Biosci (Landmark Ed). 2012 Jan 1;17:65-89.に記載の培地を使用することができる。しかしこれらに限定されるものではない。
【0076】
グリア細胞を誘導するための培地としては、公知のものを使用することができる。例えば、文献:Duan L. et al., Stem Cells Transl Med. 2015 May;4(5):437-47.に記載の培地を使用することができる。しかしこれらに限定されるものではない。
【0077】
シュワン細胞を誘導するための培地としては、公知のものを使用することができる。例えば、10%FBS(fetal bovine serum)を添加したDMEM培地(ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco's Modied Eagle's Medium))などの通常培地に、1~20 μM程度(特に、5 μM程度)のforskolin;2~50 ng/ml程度(特に、10 ng/ml程度)のbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子、basic fibroblast growth factor);2~50 ng/ml程度(特に、10 ng/ml程度)のPDGF(Platelet-Derived Growth Factor);50~1000 ng/ml程度(特に、200 ng/ml程度)のhuman neuregulin-β1(別名、heregulin、GGF(Glial growth factor))などの成分の1種または2種以上(好ましくは、全て)を含む培地(シュワン細胞誘導培地)を使用することができる(以上の濃度は、いずれも終濃度である)。一例として、下記文献(3-1)~(3-2)に記載の培地(未分化脂肪幹細胞からシュワン細胞を誘導できる培地)を使用することができる。
(3-1)Kingham PJ, DF Kalbermatten, D Mahay,et al: Adipose-derived stem cells differentiate into a Schwann cell phenotype andpromote neurite outgrowth in vitro. ExpNeurol, 2007; 207:267-274.
(3-2)Liu Y, Zhang Z, Qin Y, Wu H, Lv Q, Chen X, Deng W: A new method for Schwann-like cell differentiation of adipose derived stem cells. Neurosci Lett. 2013 Sep 13;551:79-83.。
【0078】
心筋細胞を誘導するための培地としては、公知のものを使用することができる。例えば、文献:Y.J. Nam et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2013 Apr 2;110(14):5588-93. doi: 10.1073/pnas.1301019110. Epub 2013 Mar 4.に記載の培地を使用することができる。しかしこれらに限定されない。
【0079】
血管内皮細胞を誘導するための培地としては、公知のものを使用することができる。例えば、10% FBS, 100 ng/mL VEGFを添加したDMEMを用いることができる。また、Chatterjee I. et al., Methods Mol Biol. 2015 Feb 17. PMID:25687301に記載の方法で行うことができる。しかしこれらに限定されない。
【0080】
平滑筋細胞誘導するための培地としては、公知のものを使用することができる。例えば、Wang Y. et al., Biomaterials. 2014 Oct;35(32):8960-9. に記載の方法で行うことができる。しかしこれらに限定されない。
【0081】
マスト細胞を誘導するための培地としては、公知のものを使用することができる。例えば、[1]15% FBS, 20 ng/mL VEGFを添加したDMEM培地、[2]10% FBS, 10 ng/mL IL-3, 100 ng/mL IL-6, 10 ng/mL Flt3L, 10 ng/mL TPO, 10 ng/mL VEGFを加えたIDMD培地、[3]10% Stem span, 100 ng/mL SCF, 100 ng/mL IL-6, 10 ng/mL Flt3L, 10 ng/mL TPO, 10 ng/mL VEGFを添加したIDMDを用い、第1~8日に[1]、第9~18日に[2]、第19日以降に[3]を用いることができる。しかしこれらに限定されない。
【0082】
β細胞(インスリン産生細胞)を誘導するための培地としては、公知のものを使用することができる。例えば、15% FBS, 100 ng/mL Activin A, 10 nM GLP-1, 10 mM Nicotinamide, 20 ng/mL EGF, 10 ng/mL bFGF, ITS添加DMEMを用いることができる。また、Shahjalal HM et al., J Mol Cell Biol. 2014 Oct;6(5):394-408. やNoguchi H. et a., Curr Diabetes Rev. 2010 May;6(3):184-90.に記載の培地を使用することができる。しかし、これらに限定されるものではない。
【0083】
肝細胞を誘導するための培地としては、公知のものを使用することができる。例えば、Y. Yu et al., Stem Cell Res. 2012 Nov;9(3):196-207に記載の培地を使用することができる。しかし、これらに限定さされるものではない。
【0084】
消化管の細胞を誘導するための培地としては、公知のものを使用することができる。例えば、Spence JR. et al. Nature. 2011 Feb 3;470(7332):105-9. やWells JM and Spence JR. Development. 2014 Feb;141(4):752-60.に記載の培地を使用することができる。しかし、これらに限定されるものではない。
【0085】
肺と気道の細胞を誘導するための培地としては、公知のものを使用することができる。例えば、Ghaedi M. et al., J Clin Invest. 2013 Nov;123(11):4950-62. に記載の培地を使用することができる。しかし、これらに限定されるものではない。
【0086】
尿路上皮細胞を誘導するための培地としては、公知のものを使用することができる。例えば、Osborn S.L. et al., Stem Cells Transl Med. 2014; 3(5): 610-619. やKang M. et al., Int. J. Mol. Sci. 2014, 15(5), 7139-7157に記載の培地を使用することができる。しかし、これらに限定されるものではない。
【0087】
腎臓の細胞を誘導するための培地としては、公知のものを使用することができる。例えば、Lam AQ, et al. Semin Nephrol. 2014 Jul;34(4):445-61. やLam AQ, and Bonventre JV. Curr Opin Organ Transplant. 2015 Apr;20(2):187-92.に記載の培地を使用することができる。しかし、これらに限定されるものではない。
【0088】
造血幹細胞を誘導するための培地としては、公知のものを使用することができる。例えば、Wang Y, et al., Proc Natl Acad Sci USA. 2005;102:19081-6. に記載の培地を使用することができる。しかし、これらに限定されるものではない。
【0089】
血液細胞を誘導するための培地としては、公知のものを使用することができる。例えば、Nakayama N. et al., Blood. 1998 Apr 1;91(7):2283-95. に記載の培地を使用することができる。しかし、これらに限定されるものではない。
【0090】
リンパ球を誘導するための培地としては、公知のものを使用することができる。例えば、Carpenter L. et al., Blood. 2011 Apr 14;117(15):4008-11. やVodyanik MA, et al., Blood. 2005;105:617-26.に記載の培地を使用することができる。しかし、これらに限定されるものではない。
【0091】
赤芽球を誘導するための培地としては、公知のものを使用することができる。例えば、Lu SJ, et al., Blood. 2008;112:4475-84. に記載の培地を使用することができる。しかし、これらに限定されるものではない。
【0092】
巨核球を誘導するための培地としては、公知のものを使用することができる。例えば、Takayama N. and Eto K. Methods Mol Biol. 2012;788:205-17. に記載の培地を使用することができる。しかし、これらに限定されるものではない。
【0093】
樹状細胞やマクロファージを誘導するための培地としては、公知のものを使用することができる。例えば、Senju S. et al., Gene Ther. 2011 Sep;18(9):874-83. に記載の培地を使用することができる。しかし、これらに限定されるものではない。
【0094】
顆粒球を誘導するための培地としては、公知のものを使用することができる。例えば、Morishima T. et al., J Cell Physiol. 2011 May;226(5):1283-91. に記載の培地を使用することができる。しかし、これらに限定されるものではない。
【0095】
網膜細胞を誘導するための培地としては、公知のものを使用することができる。例えば、Maeda T. et al., J Biol Chem. 2013 Nov 29;288(48):34484-93に記載の培地を使用することができる。しかし、これらに限定されるものではない。
【0096】
角膜細胞を誘導するための培地としては、公知のものを使用することができる。例えば、Yu D.et al., Cell Biol Int. 2013 Jan;37(1):87-94. に記載の培地を使用することができる。しかし、これらに限定されるものではない。
【0097】
通常培地としては、例えば、Dulbecco's Modified Eagle's Medium)、EMEM(Eagle's minimal essential medium)などの通常の液体培地を用いることができる。必要に応じて、血清成分(Fetal Bovine Serum(FBS)、Human Serum(Serum))、ストレプトマイシン、ペニシリンなどの抗菌薬、Non-Essential Amino Acid等の成分を添加することができる。
【0098】
TGF-βパスウェイ阻害剤
本発明の方法において、他の体細胞を誘導するための培地中で、TGF-βパスウェイ阻害剤の存在下に培養する。
【0099】
「TGF-βパスウェイ阻害剤」とは、TGF-β/SMADパスウェイ阻害剤、TGF-β/Erkパスウェイ阻害剤、TGF-β/JNKパスウェイ阻害剤、TGF-β/p38パスウェイ阻害剤及びTGF-β/RhoAパスウェイ阻害剤を包含する。すなわち、TGF-βレセプターファミリーの分子、そのリガンドとなるTGF-βスーパーファミリーのサイトカイン、TGF-βレセプターファミリーの分子の下流でTGF-β/SMADパスウェイ、TGF-β/Erkパスウェイ、TGF-β/JNKパスウェイ、TGF-β/p38パスウェイ、TGF-β/RhoAパスウェイを構成する分子のうち、いずれか1つ以上を抑制する阻害剤が、本発明のTGF-β阻害剤である。
【0100】
「TGF-βパスウェイ阻害剤」は狭義の阻害剤である低分子化合物に止まらず、サイトカインの中和抗体、受容体のアンタゴニスト、可溶性受容体、パスウェイのタンパク質に結合しその作用を阻害する活性を有する抗体、アプタマー、ペプチド、ドミナントネガティブとして働く変異体タンパク質やペプチドやその類似体、パスウェイのタンパク質の発現を抑制するsiRNA、shRNA、マイクロRNAなどを包含する。
【0101】
TGF-β/SMADパスウェイ阻害剤
TGF-β/SMADパスウェイ阻害剤は、TGF-β/SMADパスウェイに属するタンパク質の活性を阻害できる化合物を意味する。TGF-β/SMADパスウェイは図16(Chen G et al, Int J Biol Sci, 2012より引用)に模式的に示す、当業者に公知のシグナル経路である。
【0102】
TGF-β/SMADパスウェイは、TGF-βスーパーファミリーに属するタンパク質から構成されるリガンド(TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、アクチビン-βA、アクチビン-βB、アクチビン-βC、アクチビン-βE、nodal、BMP2、BMP3、BMP4、BMP5、BMP6、BMP7、BMP8A、BMP8B、BMP10, BMP15、GDF1、GDF2、GDF3、GDF5、GDF6、GDF7、GDF8、GDF9、GDF10、GDF11、GDF15、AMH(MIS)など)、ヘテロ二量体型の受容体を構成するTGF-β type I receptorファミリーに属するタンパク質及びTGF-β type II receptorファミリーに属するタンパク質、並びに、細胞内のシグナル伝達分子(エフェクター)であるSMADファミリーに属するタンパク質(とくにSMAD2、SMAD3、SMAD4、SMAD1、SMAD5、またはSMAD8)が主に構成する。
【0103】
TGF-β/SMADパスウェイにおいては、リガンドが二量体型の受容体に結合すると、キナーゼ型受容体であるTGF-β type I receptorタンパク質が、SMADタンパク質をリン酸化して、下流にシグナルを伝達する。したがって本明細書では、TGF-βスーパーファミリーのサイトカイン、TGF-β type I receptorファミリー、TGF-β type II receptorファミリー、SMADファミリータンパク(とくにSMAD2、SMAD3、SMAD4、SMAD1、SMAD5、またはSMAD8)のいずれかを抑制する分子を、TGF-β/SMADパスウェイ阻害剤と呼ぶ。
【0104】
TGF-β/SMADパスウェイ阻害剤の態様の1つとして、TGF-β type I receptorファミリー(Activin receptor like kinase(ALK)ファミリーともいう)に属するALKタンパク質(ACVRL1 (ALK1)、ACVR1 (ALK2)、BMPR1A (ALK3)、ACVR1B (ALK4)、TGFBR1 (ALK5)、BMPR1B (ALK6)、ACVR1C (ALK7))の阻害剤(ALK阻害剤)が例示される。また、TGF-β type II receptorファミリーに属するタンパク質(ACVR2A (ACTRII)、ACVR2B (ACTRIIB)、TGFBRII(AAT3)、BMPR2 (PPH1))の阻害剤が例示される。
【0105】
具体的には、ALK5の阻害剤であるD4476(4-[4-(2,3-dihydro-1,4-benzodioxin-6-yl)-5-(2-pyridinyl)1H-imidazol-2-yl]-benzamide)、ALK5 Inhibitor II(2-(3-(6-Methylpyridin-2-yl)-1H-pyrazol-4-yl)-1,5-naphthyridine;別名RepSox)、GW788388、SD-208(2-(5-Chloro-2-fluorophenyl)-4-[(4-pyridyl)amino]pteridine);ALK5とTGFBRII(AAT3)の阻害剤であるLY2109761、LY2157299(Galunisertiv, 4-[5,6-dihydro-2-(6-methyl-2-pyridinyl)-4H-pyrrolo[1,2-b]pyrazol-3-yl]-6-quinolinecarboxamide)、LY364947(4-[3-(2-pyridinyl)-1H-pyrazol-4-yl]-quinoline);ALK4 及びALK5の阻害剤であるSM16 (4-(5-(benzo[d][1,3]dioxol-5-yl)-4-(6-methylpyridin-2-yl)-1H-imidazol-2-yl)bicyclo[2.2.2]octane-1-carboxamide)、EW-7197、SB525334((6-[2-tert-butyl-5-(6-methyl-pyridin-2-yl)-1H-imidazol-4-yl]-quinoxaline);ALK4、ALK5及びALK7阻害剤であるSB431542(4-[4-(1,3-Benzodioxol-5-yl)-5-(pyridin-2-yl)-1H-imidazol-2-yl]benzamide)、SB505124、A83-01;ALK2及びALK3の阻害剤であるLDN-193189、PKC-412、Apigenin、DMH1、ML347;ALK1及びALK2の阻害剤であるLDN-214117;ALK1、ALK2及びALK3の阻害剤であるLDN-212854;ALK1、ALK2、ALK3及びALK6の阻害剤であるK02288が例示される。
【0106】
TGF-β/SMADパスウェイ阻害剤として、Gellibert,F et al. J. Med. Chem. 2004, 47, 4494-4506に記載の下記式(1)又は(2)で表される化合物もしくはその塩を使用することもできる。
【0107】
【化1】
【0108】
[式中、XはCH又はNである。
はH、メチル基又はハロゲン(例えば、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素)である。
はH又はメチル基である。]
【0109】
ALK阻害剤としては、効果が高いとの観点から、少なくともALK5に対する阻害活性を有するもの(ALK5阻害剤)が好ましい。効果が特に高いとの観点から、ALK4及びALK5、又はALK5に対する特異的な阻害活性を有するもの(ALKタンパク質のうち、当該タンパク質への阻害活性が顕著に高いもの)が好ましい。
【0110】
好ましいALK阻害剤の具体例として、D4476、SB431542、SD208、LY2157299及びALK5 Inhibitor IIが例示され、ALK5 Inhibitor IIが特に好ましい。D4476、SB431542、SD208、及びALK5 Inhibitor IIは、線維芽細胞を骨芽細胞へコンヴァートする効率が高い。LY2157299及びALK5 Inhibitor IIは、線維芽細胞を褐色脂肪細胞へコンヴァートする効率が高い。
【0111】
TGF-β/SMADパスウェイ阻害剤の別の態様として、SMADタンパク質の阻害剤が例示される。中でも、ALK5の下流に位置するSMAD2及びSMAD3、さらにはSMAD4の阻害剤が好ましい。
【0112】
TGF-β/ERKパスウェイ阻害剤
TGF-β/ERKパスウェイ阻害剤は、TGF-β/ERKパスウェイに属するタンパク質の活性を阻害できる化合物を意味する。TGF-β/ERKパスウェイは図17(Y. E. Zhang,“Non-smad pathways in TGF-β signaling” Cell Research 19: 128, 2009より引用)に模式的に示す、当業者に公知のシグナル経路である。
【0113】
TGF-β/Erkパスウェイは、TGF-βスーパーファミリーに属するタンパク質から構成されるリガンド(TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、アクチビン-βA、アクチビン-βB、アクチビン-βC、アクチビン-βE、nodal、BMP2、BMP3、BMP4、BMP5、BMP6、BMP7、BMP8A、BMP8B、BMP10, BMP15、GDF1、GDF2、GDF3、GDF5、GDF6、GDF7、GDF8、GDF9、GDF10、GDF11、GDF15、AMHなど)、ヘテロ二量体型の受容体を構成するTGF-β type I receptorファミリーに属するタンパク質及びTGF-β type II receptorファミリーに属するタンパク質、並びに、細胞内のシグナル伝達分子であるRaf, MEK1/2、Erk1/2タンパク質が主に構成する。
【0114】
TGF-β/Erkパスウェイにおいては、リガンドが二量体型の受容体に結合すると、Raf, MEK1/2、Erk1/2と下流へシグナルが伝達する。したがって本明細書では、TGF-βスーパーファミリーのサイトカイン、TGF-β type I receptorファミリー、TGF-β type II receptorファミリー、Raf, MEK1/2、Erk1/2のいずれかを抑制する分子を、TGF-β/Erkパスウェイ阻害剤と呼ぶ。
【0115】
TGF-β/Erkパスウェイ阻害剤の態様の1つとして、前述のALKタンパク質の阻害剤が例示される。
【0116】
TGF-β/Erkパスウェイ阻害剤の別の態様として、Rafの阻害剤、MEK1の阻害剤、MEK2の阻害剤、Erk1の阻害剤およびErk2の阻害剤の阻害剤が例示される。中でも、Erk1の阻害剤、Erk2の阻害剤が好ましい。
【0117】
TGF-β/JNKパスウェイ阻害剤
TGF-β/JNKパスウェイ阻害剤は、TGF-β/JNKパスウェイに属するタンパク質の活性を阻害できる化合物を意味する。TGF-β/JNKパスウェイは図18(Y. E. Zhang,“Non-smad pathways in TGF-β signaling” Cell Research 19: 128, 2009より引用)に模式的に示す、当業者に公知のシグナル経路である。
【0118】
TGF-β/JNKパスウェイは、TGF-βスーパーファミリーに属するタンパク質から構成されるリガンド(TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、アクチビン-βA、アクチビン-βB、アクチビン-βC、アクチビン-βE、nodal、BMP2、BMP3、BMP4、BMP5、BMP6、BMP7、BMP8A、BMP8B、BMP10, BMP15、GDF1、GDF2、GDF3、GDF5、GDF6、GDF7、GDF8、GDF9、GDF10、GDF11、GDF15、AMHなど)、ヘテロ二量体型の受容体を構成するTGF-β type I receptorファミリーに属するタンパク質及びTGF-β type II receptorファミリーに属するタンパク質、並びに、細胞内のシグナル伝達分子であるTAB1/2、TAK1、TRAF6、MKK4、JNKタンパク質が主に構成する。
【0119】
TGF-β/JNKパスウェイにおいては、リガンドが二量体型の受容体に結合すると、TAB1/2、TAK1、TRAF6、MKK4、JNKと下流へシグナルが伝達する。したがって本明細書では、TGF-βスーパーファミリーのサイトカイン、TGF-β type I receptorファミリー、TGF-β type II receptorファミリー、TAB1/2、TAK1、TRAF6、MKK4、JNKのいずれかを抑制する分子を、TGF-β/JNKパスウェイ阻害剤と呼ぶ。
【0120】
TGF-β/JNKパスウェイ阻害剤の態様の1つとして、前述のALKタンパク質の阻害剤が例示される。
【0121】
TGF-β/JNKパスウェイ阻害剤の別の態様として、TAK1の阻害剤、MKK4の阻害剤およびJNKの阻害剤の阻害剤が例示される。中でも、JNKの阻害剤が好ましい。
【0122】
TGF-β/p38パスウェイ阻害剤
本発明の方法において、他の体細胞を誘導するための培地中で、TGF-β/p38パスウェイ阻害剤の存在下に培養する。
【0123】
TGF-β/p38パスウェイ阻害剤は、TGF-β/p38パスウェイに属するタンパク質の活性を阻害できる化合物を意味する。TGF-β/p38パスウェイは図18(Y. E. Zhang,“Non-smad pathways in TGF-β signaling” Cell Research 19: 128, 2009より引用)に模式的に示す、当業者に公知のシグナル経路である。
【0124】
TGF-β/p38パスウェイは、TGF-βスーパーファミリーに属するタンパク質から構成されるリガンド(TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、アクチビン-βA、アクチビン-βB、アクチビン-βC、アクチビン-βE、nodal、BMP2、BMP3、BMP4、BMP5、BMP6、BMP7、BMP8A、BMP8B、BMP10, BMP15、GDF1、GDF2、GDF3、GDF5、GDF6、GDF7、GDF8、GDF9、GDF10、GDF11、GDF15、AMHなど)、ヘテロ二量体型の受容体を構成するTGF-β type I receptorファミリーに属するタンパク質及びTGF-β type II receptorファミリーに属するタンパク質、並びに、細胞内のシグナル伝達分子であるTAB1/2、TAK1、TRAF6、MKK3、MKK6、p38ファミリーに属するタンパク質が主に構成する。
【0125】
TGF-β/p-38パスウェイにおいては、リガンドが二量体型の受容体に結合すると、TAK、MKK3またはMKK6、p-38ファミリー(特にp-38α、p-38β)へと、下流にシグナルを伝達される。したがって本明細書では、TGF-βスーパーファミリーのサイトカイン、TGF-β type I receptorファミリー、TGF-β type II receptorファミリー、TAB1/2、TAK1、TRAF6、MKK3、MKK6、p38ファミリータンパク(特にp38α、p38β)のいずれかを抑制する分子を、TGF-β/SMADパスウェイ阻害剤と呼ぶ。
【0126】
TGF-β/p38パスウェイ阻害剤の態様の1つとして、前述のALKタンパク質の阻害剤が例示される。
【0127】
TGF-β/p38パスウェイ阻害剤の別の態様として、TAK1の阻害剤、MKK3の阻害剤、MKK6の阻害剤、p38の阻害剤が挙げられる。中でも、p38の阻害剤が好ましい。
【0128】
TGF-β/RhoAパスウェイ阻害剤
本発明の方法において、他の体細胞を誘導するための培地中で、TGF-β/RhoAパスウェイ阻害剤の存在下に培養する。
【0129】
TGF-β/RhoAパスウェイ阻害剤は、TGF-β/RhoAパスウェイに属するタンパク質の活性を阻害できる化合物を意味する。TGF-β/RhoAパスウェイは図19(Y. E. Zhang,“Non-smad pathways in TGF-β signaling” Cell Research 19: 128, 2009より引用)に模式的に示す、当業者に公知のシグナル経路である。
【0130】
TGF-β/RhoAパスウェイは、TGF-βスーパーファミリーに属するタンパク質から構成されるリガンド(TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、アクチビン-βA、アクチビン-βB、アクチビン-βC、アクチビン-βE、nodal、BMP2、BMP3、BMP4、BMP5、BMP6、BMP7、BMP8A、BMP8B、BMP10, BMP15、GDF1、GDF2、GDF3、GDF5、GDF6、GDF7、GDF8、GDF9、GDF10、GDF11、GDF15、AMHなど)、ヘテロ二量体型の受容体を構成するTGF-β type I receptorファミリーに属するタンパク質及びTGF-β type II receptorファミリーに属するタンパク質、並びに、細胞内のシグナル伝達分子であるPar6、PKCζ、Smurf1、RhoAタンパク質が主に構成する。
【0131】
TGF-β/RhoAパスウェイにおいては、リガンドが二量体型の受容体に結合すると、TAK、MKK3またはMKK6、p-38ファミリー(特にp-38α、p-38β)へと、下流にシグナルを伝達される。したがって本明細書では、TGF-βスーパーファミリーのサイトカイン、TGF-β type I receptorファミリー、TGF-β type II receptorファミリー、Par6、PKCζ、Smurf1、RhoAのいずれかを抑制する分子を、TGF-β/RhoAパスウェイ阻害剤と呼ぶ。
【0132】
TGF-β/RhoAパスウェイ阻害剤の態様の1つとして、前述のALKタンパク質の阻害剤が例示される。
【0133】
TGF-β/RhoAパスウェイ阻害剤の別の態様として、RhoAの阻害剤、PAKの阻害剤が挙げられる。中でも、RhoAの阻害剤が好ましい。
【0134】
TGF-βパスウェイ阻害剤の好ましい例として、ALK5またはそのリガンドとなるTGF-βファミリーのサイトカイン、及び、ALK 5の下流でTGF-β/SMADパスウェイ、TGF-β/Erkパスウェイ、TGF-β/JNKパスウェイ、TGF-β/p38パスウェイ、またはTGF-β/RhoAパスウェイを構成する分子のうち、いずれか1つ以上を抑制する阻害剤が挙げられる。
【0135】
もちろん、2つ以上のパスウェイを抑制する阻害剤であっても構わない。TGF-βレセプターファミリーの分子、またはそのリガンドとなるTGF-βスーパーファミリーのサイトカインを抑制する阻害剤は、TGF-βパスウェイのうち複数のパスウェイを抑制するので好ましい。
【0136】
TGF-βパスウェイ阻害剤としては、公知のTGF-βパスウェイ阻害剤に限定されない。今後開発されるTGF-βパスウェイ阻害剤は全て本発明のTGF-βパスウェイ阻害剤に包含される。
【0137】
TGF-βパスウェイ阻害剤は、上記の化合物の誘導体も包含する。例えば、WO00/61576号に記載のD4476の誘導体を使用することができる。
【0138】
「TGF-βパスウェイ阻害剤の存在下」とは、主にTGF-βパスウェイ阻害剤を培地中に含有させる態様を意味するが、本発明の効果を損なわない限りこれに限定されない。TGF-βパスウェイ阻害剤の培地中の濃度は、当業者が適宜設定することができる。通常は、0.01 μM~100μM程度、特に0.1 μM~10 μM程度である。
【0139】
TGF-βパスウェイ阻害剤は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0140】
また、本発明の効果を妨げない範囲で、他の化合物と組み合わせて使用することができる。例えば、目的の体細胞が調製される効率が高いとの観点から、TGF-βパスウェイ阻害剤とスタチン化合物を併用することができる。
【0141】
スタチン化合物としては、HMG-CoA還元酵素阻害剤を広く包含し、特に限定されないが、例えばシンバスタチン、アトルバスタチン、ロバスタチン、フルバスタチン、プラバスタチン、セリバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン、ジヒドロコンパクチン、コンパクチン、ベルバスタチン、カルバスタチン、クリルバスタチン、ダルバスタチン、グレンバスタチン、フルインドスタチン、ベロスタチン、メバスタチン、リバスタチン、シリバスタチン、CI-981などが挙げられる。今後開発されるスタチン化合物は全て本発明のスタチン化合物に包含される。
【0142】
本発明の好ましい態様において、前述の培地の成分以外に用いるTGF-βパスウェイ阻害剤及び他の化合物の数は、10種以下、より好ましくは4種以下、さらに好ましくは3種以下、特に好ましくは1種又は2種である。
【0143】
培養
本発明の方法において、哺乳動物の分化した体細胞を誘導培地中、TGF-βパスウェイ阻害剤の存在下に培養する。
【0144】
培養は、細胞及び培地を格納するための適切な容器中で行なうことができる。好適な培養を行なう手法として、約37℃程度および二酸化炭素濃度約5%程度の条件下で培養する手法が例示されるが、これに限定されるものではない。上記条件での培養は、例えば公知のCO2インキュベータを用いて行なうことができる。
【0145】
培養を行う期間は、本発明の効果を損なわない範囲で、特に限定されるものではない。例えば、24時間から60日間程度好ましくは3~30日、より好ましくは10~20日程度、特に好ましくは14日程度とすることができる。
【0146】
TGF-βパスウェイ阻害剤は全培養期間の内の一部の期間のみで添加してもよい。とすることができる。
【0147】
効果が高いとの観点から、全培養期間中、所定期間(例えば6~10日程度、特に8日程度)誘導培地中上記化合物の存在下での培養をし、その後誘導培地中上記化合物の非存在下での培養とすることができる。この場合の上記化合物の存在下での培養は、全培養期間中、培養開始からであっても、所定期間上記化合物の非存在下で培養した後であってもよい。
【0148】
特に褐色脂肪細胞を調製する場合、全培養期間のうち、培養開始から所定期間、例えば6~10日程度、特に8日程度、誘導培地中上記化合物の存在下での培養をし、その後誘導培地中上記化合物の非存在下での培養とすることで、褐色脂肪細胞を効率よく調製することができる。
【0149】
また、哺乳動物の分化した体細胞を、通常培地中TGF-βパスウェイ阻害剤の存在下に培養した後で、誘導培地中TGF-βパスウェイ阻害剤の非存在下に培養してもよい。また、通常培地中TGF-βパスウェイ阻害剤の存在下に培養した後で、通常培地中TGF-βパスウェイ阻害剤の非存在下に培養し、その後誘導培地中TGF-βパスウェイ阻害剤の非存在下に培養してもよい。また、通常培地中TGF-βパスウェイ阻害剤の存在下に培養した後で、誘導培地中TGF-βパスウェイ阻害剤の存在下に培養し、その後誘導培地中TGF-βパスウェイ阻害剤の非存在下に培養してもよい。このように、TGF-βパスウェイ阻害剤存在下で培養することと、誘導培地で培養することの両方の過程を含んでさえいれば、それらは同時でなくてもよいし、それぞれは全培養期間の一部だけであってもよい。
【0150】
培養において、必要において継代を行うことができる。継代を行う場合は、コンフルエント状態に到達する前または直後に細胞を回収し、細胞を新しい培地に播種する。また、本発明の培養において、培地を適宜交換することもできる。
【0151】
また、完全にコンヴァージョンが完了しなくても、培養の途上の細胞を回収し、移植に用いることができる。この場合、本発明の方法によってコンヴァージョンのトリガーが引かれ、不可逆的なエピゲノムの変化が起こることにより移植後に細胞が目的の細胞にコンヴァートすることが期待できる。
【0152】
かくして、目的とする体細胞が調製される。
【0153】
目的とする体細胞が調製されたことは、マーカーの検出など公知の方法により検証をすることができる。
【0154】
以下にその例を述べるが、いずれもひとつのマーカーだけで確定できるとは限らず、いくつかのマーカーの検出を組み合わせて検証するのが望ましい。
【0155】
調製した体細胞のトランスクリプトーム解析等のmRNA発現の網羅的な解析、プロテオーム解析等のタンパク質発現の網羅的な解析などを行い、生体由来の目的体細胞の解析結果と比較を行い、目的とする体細胞が調製されたことの評価を行うこともできる。
【0156】
例えば、骨芽細胞が得られたことは、ALP(アルカリフォスファターゼ)遺伝子、オステオカルシン(Osteocalcin、OC)遺伝子、オステオポンチン(Osteopontin)遺伝子、Runx2遺伝子のmRNAのリアルタイムPCRによる測定、アリザリンレッドSによる染色(石灰化(ミネラル化)した骨基質の産生)、などにより確認することができる。なお、本明細書では前骨芽細胞、未熟骨芽細胞、成熟骨芽細胞、骨細胞等もあわせて「骨芽細胞」と呼ぶものとする。
【0157】
白色脂肪細胞が得られたことは、Oil Red O染色やBodipy染色で染められる、大きな単房性脂肪滴を有する特有の形態や、FABP4遺伝子、HS遺伝子L、AdipoQ遺伝子の発現により確認することができる。
【0158】
褐色脂肪細胞が得られたことは、Oil Red O染色やBodipy染色で染められる、多房性脂肪滴を有する特有の形態や、UCP-1遺伝子、CIDEA遺伝子、KCNK3遺伝子、PCG-1α遺伝子、Cox8b遺伝子、Otop遺伝子、ELOVL3遺伝子などの発現によって検出することができる。中でも、UCP-1(Uncoupling protein 1)は、褐色脂肪細胞に特異的に発現する遺伝子であり、酸化的リン酸化を脱共役させるミトコンドリア内膜タンパク質をコードし、褐色脂肪細胞の機能の根幹を担うと考えられるため、褐色脂肪細胞の指標として特に好ましいものの1つである。
【0159】
軟骨細胞が得られたことは、たとえばSOX9遺伝子、COL2A1(Type II collgaen)遺伝子、aggrecan遺伝子、COL11A1(Type XI collgaen)遺伝子、MMP13遺伝子の発現、軟骨基質の産生、アルシアンブルー染色、トルイジンブルー染色、サフラニンO染色などによって検出することができる。
【0160】
筋芽細胞が得られたことは、たとえばMyoD遺伝子、Myogenin遺伝子、Myf5遺伝子、MRF4遺伝子の発現;骨格筋型αアクチンタンパク質、骨格筋型ミオシンタンパク質の発現、筋に特有な形態(多核、筋線維の形成、筋管の形成)、収縮性などによって検出することができる。
【0161】
心筋細胞が得られたことは、たとえばトロポニン T(cTnT)タンパク質、トロポミオシンタンパク質、心筋型αアクチンタンパク質、心筋型ミオシンタンパク質の発現;ATP2A2遺伝子、GJA1遺伝子、GJA5遺伝子、NPPA遺伝子、NPPB遺伝子の発現、自律的な収縮性などによって検出することができる。
【0162】
平滑筋細胞が得られたことは、たとえばα平滑筋アクチン(αSMA)タンパク質、平滑筋ミオシンタンパク質の発現によって検出することができる。
【0163】
間葉系幹細胞(MSC)が得られたことは、抗Stro-1, 抗CD90, 抗CD106, 抗CD105, 抗CD146, 抗CD166, 抗CD44抗体によって染色され、抗CD19, 抗CD45抗体によって染色されないなど、複数の抗体を用いた細胞表面抗原の発現パターンによって検出することができる。またMASP1遺伝子、FOSB遺伝子の発現や、Nestinタンパク質 、CXCL12タンパク質、 PDGF受容体α/Sca-1タンパク質、CD51/PDGF受容体αタンパク質等の発現を調べて総合的に判定することができる。さらにさまざまな間葉系細胞への分化能によって検出することができる。
【0164】
神経細胞が得られたことは、たとえばTuj1タンパク質、vGLUT1タンパク質、MAP2タンパク質の発現や形態、神経伝達物質の合成、活動電位によって検出することができる。
【0165】
グリア細胞が得られたことは、たとえばオリゴデンドログリアの場合にはolig2タンパク質、アストロサイトの場合にはGFAPタンパク質、ミクログリアの場合にはOX42タンパク質の発現によって検出することができる。
【0166】
シュワン細胞が得られたことは、形態(比較的小型の核を有する双極、もしくは多極性の細胞形態、細胞幅と細胞長との比。)、S100β、p75NTR、GFAP、Nestin、NG2などのシュワン細胞特異的マーカーの発現の検出、共培養した神経細胞に対する神経突起伸長の効果やミエリン形成能によって検出することができる。
【0167】
肝細胞が得られたことは、たとえばアルブミン、cytochrome P450の発現や種々の酵素活性、薬剤の代謝、LDL取り込み等の機能によって検出することができる。
【0168】
胆管上皮細胞が得られたことは、たとえばAFP(-), Dlk(-), Alb(-), CK19(+),zEpCAM(+),Thy1(-)というキャラクターによって検出することができる。
【0169】
血管内皮細胞が得られたことは、たとえばCD31抗原の発現、Endoglin、VE-cadherin、VWF、TIE2、ANGPT2の発現によって検出することができる。
【0170】
リンパ内皮細胞が得られたことは、たとえばD2-40抗原の発現、Podoplanin 、LYVE-1、PROX-1の発現によって検出することができる。
【0171】
腱細胞が得られたことは、たとえばScleraxis (Scx)とtenomodulin (Tnmd)の発現によって検出することができる。
【0172】
線維芽細胞は、COL1A1、COL1A2の遺伝子発現等で確認することができる。
【0173】
骨髄間質細胞は、細胞表面マーカーの発現、遺伝子発現等から確認することができる。
【0174】
リンパ球、マクロファージ、顆粒球、造血幹細胞、マスト細胞などが得られたことも、細胞表面マーカーの発現、遺伝子発現等から確認することができる。
【0175】
尿路上皮細胞が得られたことは、たとえばUroplakin1b、Uroplakin2、CK5, CK17の遺伝子発現、Asymmetric Unit Membraneの形成等によって検出することができる。
【0176】
治療又は予防剤;移植材
本発明の方法により調製される体細胞は、生体に移植することで、種々の疾患又は状態の予防又は治療に使用することができる。本明細書において、特に明示のない限り、「治療」という用語は、患者が特定の疾患又は障害を患っている間に行う処置を意図し、これによって疾患若しくは障害の重症度、又は1つ若しくは複数のその症状が軽減されるか、又は疾患若しくは障害の進行が遅延又は減速することを意味する。本明細書において、「治療」には「予防」を含むものとする。
【0177】
移植材料とは、体細胞を細胞を生体内に導入する材料をいう。移植材料は、インビトロで体細胞を調製したあと、同一または別の個体に移植する材料を包含する。また、目的とする体細胞をインビトロで分化途中まで誘導し、移植後にインビボで最終的に目的とする体細胞へと誘導される移植材も、本発明に包含される。
【0178】
例えば、骨芽細胞を用いて治療する対象となる疾患としては、骨腫瘍、外傷や骨髄炎等にともなう骨欠損、また骨腫瘍等の掻爬後の骨欠損、骨折、骨粗しょう症、歯周病、歯槽骨吸収、口唇口蓋裂、関節リウマチ、突発性大腿骨頭壊死、変形性関節症、腰椎変形性脊椎症、脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニア、脊椎分離症、脊椎分離すべり症、脊椎側弯症、頸椎症性脊髄症、後縦靭帯骨化症、脊髄損傷、変形性股関節症、変形性膝関節症、大腿骨頭すべり症、骨軟化症、下顎再建術などの複雑骨折により破壊された骨折部位の再建術、手術後の骨の修復(心臓手術後の胸骨の修復など)、人工足関節手術に伴う欠損部の修復、骨髄炎、骨壊死などが挙げられる。また、骨芽細胞を移植すれば、骨移植、人工骨移植、人工関節やインプラントと併用し治療効果を高められる可能性がある。また骨芽細胞を3次元的なスキャホルド等を用いて培養して種々な形態の骨組織を体外で作製し、その骨組織を移植するによって、上記の疾患の治療を行うこともできる。それ以外にも骨芽細胞の欠損、不足もしくは機能低下に関係するさまざまな疾患が対象となる。
【0179】
疾患の治療に限らず、美容目的で用いることもできる。例えば事故や手術などにより欠損した部位に骨芽細胞もしくはそれにより作製された骨組織を移植することで、骨基質を産生させて欠損部位を修復し、ふっくらさせて目立たなくすることができる。その際、ヒトに対する処置も、本明細書では便宜上治療と呼び、「患者」は「健常者」あるいは「ヒト」、「疾患」は「美容」と読み替えることができる。
【0180】
骨芽細胞を細胞製剤として患者に移植することもできるし、ヒドロキシアパタイトや生体吸収性セラミックなどの人工材料からなる基材(スキャホルド(scaffold))とともに移植したり、スキャホルドとともに培養してから移植することができる。これらの場合、スキャホルドは移植目的に応じて様々な3次元的な形状を作らせることができる。
【0181】
また、褐色脂肪細胞は、肥満、メタボリックシンドローム、或いはこれらに関連する疾患又は状態の予防又は治療に使用することができる。対象とする疾患には、I型糖尿病、II型糖尿病、糖尿病性合併症(網膜症、末梢神経症、腎症、大血管障害、糖尿病性壊疽、骨粗鬆症、糖尿病性昏睡等)、耐糖能異常、インスリン抵抗性、アシドーシス、ケトーシス、ケトアシドーシス、肥満、中枢性肥満とその合併症、内臓肥満症候群、高血圧、食後高脂血症、脳血管障害、動脈硬化症、アテローム性動脈硬化症、メタボリック・シンドローム、脂質異常症、高トリグリセリド血症、高コレステロール血症、低HDL血症、腎臓疾患 (糖尿病性ネフロパシー、ネフローゼ症候群等)、動脈硬化症、血栓性疾患、心筋梗塞、虚血性心疾患、狭心症、心不全、脳血管障害(脳梗塞、脳卒中等)、末梢血行障害、知覚障害、高尿酸血症、痛風、感染症(呼吸器感染症、尿路感染症、消化管感染症、皮膚感染症、軟部組織感染症等)、悪性腫瘍、白内障、脂肪肝、非アルコール性脂肪性肝炎、骨粗鬆症が含まれる。褐色脂肪細胞による脂質の燃焼と糖・脂質代謝異常の改善によって、これら疾患に対する予防と治療効果が得られると考えられる。
【0182】
また、褐色脂肪細胞は、腹部や顎の周り、太ももなどの脂肪を除去する美容的な用途にも使用できる。褐色脂肪細胞は、乳房などに導入する美容的処置の移植材料として使用することもできる。
【0183】
褐色脂肪細胞を投与すると、脂肪量、特に内臓脂肪、皮下脂肪などの白色脂肪細胞が減少し、また高カロリー食を摂取した場合にも体重増加が抑制されるため、肥満、メタボリックシンドローム、或いはこれらの関連する疾患又は状態の予防と治療の両方に有用である。本発明はまた、疾患の予防又は治療に限らず、健康増進や美容(例えば腹部、顎、腕、太ももなどの内臓脂肪、皮下脂肪の除去)等の目的で用いることもできる。その際、ヒトに対する処置も、本明細書では便宜上治療と呼び、「患者」は「健常者」あるいは「ヒト」、「疾患」は「健康増進」や「美容」等と読み替えることができる。
【0184】
褐色脂肪細胞は、乳房などに導入する美容的処置の移植材料として使用することもできる。
【0185】
白色脂肪細胞については、外傷、熱傷や手術等による組織の欠損部に白色脂肪細胞を移植することによって、組織の形態を改善し感染の予防等を行うことができる。たとえば乳がんの摘出手術後の欠損部に白色脂肪細胞を移植することによって、乳房を再建することができる。また美容的処置の移植材料として使用することもできる。
【0186】
筋芽細胞については、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、筋ジストロフィー、先天性/遠位型ミオパチー、筋強直性ジストロフィーなどのミオトニア症候群、ミトコンドリア病、周期性四肢麻痺などの筋原性疾患、ウェルドニッヒ・ホフマン病、シャルコ・マリー・ツース病、先天性ミエリン形成不全症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経原性筋疾患、皮膚筋炎、多発性筋炎、結節性多発動脈炎、リウマチ性多発筋痛症、混合性結合組織病などの膠原病、炎症性筋疾患、内分泌性筋疾患、ステロイドや高脂血症治療薬などによる薬剤性筋疾患、サルコペニア、進行性骨化性線維異形成症 (FOP)等に対する予防と治療効果が得られると考えられる。
【0187】
軟骨細胞については、変形性関節症、変形性軟骨症、軟骨形成異常症関節炎、関節リウマチ、外傷、椎間板損傷、半月板損傷、離断性骨軟骨炎、骨壊死、神経原性関節症などの軟骨疾患において見られる軟骨損傷や軟骨欠損等に対する予防と治療効果が得られると考えられる。
【0188】
間葉系幹細胞については、間葉系幹細胞から分化しうる骨芽細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、筋芽細胞等が有効な上記の多くの疾患等に対する予防と治療効果が得られると考えられる。
【0189】
腱細胞については、外傷や手術にともなう腱の断裂等に対する予防と治療効果が得られると考えられる。
【0190】
神経細胞とグリア細胞については、神経変性疾患(パーキンソン病、パーキンソン症候群、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、進行性核上性麻痺、ハンチントン病、シャイ・ドレーガー症候群、黒質線条体変性症、オリーブ橋小脳萎縮症、脊髄小脳失調症など)、皮質基底核変性症、レヴィ小体病、ジストニア、メージ症候群、晩発性小脳皮質萎縮症、家族性痙性対麻痺、運動ニューロン疾患、マッカードジョセフ病、Pick病、脳卒中、脳血管障害、脱髄疾患(多発性硬化症、ギラン・バレー症候群、急性散在性脳脊髄炎、急性小脳炎、横断性脊髄炎など)、脳腫瘍、感染に伴う脳脊髄疾患(髄膜炎、脳膿瘍、クロイツフェルド-ヤコブ病など)、外傷後の神経機能障害、毒物や放射線等による神経障害、精神疾患(統合失調症、躁うつ病など)、睡眠障害(ナルコレプシー、原発性過眠症、反復性過眠症、突発性過眠症、不眠症など)、てんかん等に対する予防と治療効果が得られると考えられる。
【0191】
シュワン細胞を用いて治療する対象となる疾患としては、脳梗塞、脊椎損傷などによる中枢神経の欠損若しくは損傷、外傷や神経炎や腫瘍の切除等に伴う末梢神経の欠損若しくは損傷;多発性硬化症 視神経脊髄炎(Devic症候群)、同心円硬化症(Balo病)、急性散在性脳脊髄炎(acute disseminated encephalomyelitis、ADEM)、炎症性広汎性硬化症(Schilder病)、感染性 亜急性硬化症全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis、SSPE)、進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy、PML)などの中枢神経系の疾患;ギラン・バレー症候群、フィッシャー症候群、慢性炎症性脱髄性多発根神経炎などの末梢神経系の疾患;Charcot-Marie-Tooth disease(CMT)などのシュワン細胞欠損、不足もしくは機能低下に基づく疾患などが挙げられる。
【0192】
肝細胞と胆管上皮細胞については、肝不全、劇症肝炎、肝硬変、脂肪肝炎、メタボリックシンドローム等に対する予防と治療効果が得られると考えられる。また肝臓に対する薬物の毒性試験、代謝試験、安全性試験に役立てられる。また糖尿病、脂質異常症、メタボリックシンドローム、高血圧等に対する薬剤のスクリーニング、効果判定に有用である。
【0193】
肺と気道の細胞は、原発性肺高血圧症、肺線維症、肺気腫、気管支拡張症、肺サルコイドーシス、間質性肺炎、嚢胞性線維症、びまん性汎細気管支炎、閉塞性細気管支炎、肺好酸菌性肉芽腫症、慢性血栓梗塞症性肺高血圧症、多発性肺動静脈瘻等に対する予防と治療効果が得られると考えられる。
【0194】
腎臓の細胞は腎不全、糖尿病性腎症、慢性糸球体腎炎、天性腎低形成、嚢胞腎、IgA腎症、腎硬化症、妊娠中毒症等に対する予防と治療効果が得られると考えられる。
【0195】
尿路上皮細胞は、膀胱癌で膀胱全摘した症例における代用膀胱の形成、膀胱膣瘻で尿路上皮が欠損した部位へのパッチの構築、神経因性膀胱で膀胱が線維化し萎縮した症例に対して膀胱拡大術を行う際に、部分的に補うための尿路上皮の形成、高度の間質性膀胱炎(尿路上皮の機能異常)に対する尿路上皮再生等に有用である。
【0196】
心筋細胞は、心筋梗塞、虚血性心疾患、うっ血性心不全、心筋炎、肥大型心筋症、拡張型心筋症等に対する予防と治療効果が得られると考えられる。
【0197】
リンパ管内皮はリンパ浮腫等に対する予防と治療効果が得られると考えられる。
【0198】
平滑筋細胞は、気道、消化管、血管の再生治療の際に有用である。
【0199】
血管内皮細胞は、血管の再生治療の際に有用である。
【0200】
造血幹細胞と骨髄間質細胞は骨髄不全、再生不良性貧血や免疫不全に有用である。
【0201】
リンパ球、顆粒球、マクロファージ、樹状細胞は免疫不全症に、また抗腫瘍免疫に有用である。巨核球は血小板減少に有用である。赤芽球は再生不良性貧血に有用である。
【0202】
本発明はまた、ヒトだけでなく、イヌ、ネコ等の愛玩動物やウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ニワトリ等の家畜の疾患の治療にも用いることが可能である。その場合、「患者」あるいは「ヒト」を「患畜」あるいは「動物」と読み替えることとする。
【0203】
本発明はまた、再生医療だけでなく、さまざまな疾患に対する薬剤(生物学的製剤や核酸医薬も含む)の開発、薬剤の副作用の評価、発生や病態解明等基礎研究にも用いることができる。
【0204】
誘導剤
本発明は、TGF-βパスウェイ阻害剤を含む、分化した体細胞を他の体細胞にコンヴァートさせるための誘導剤をも提供する。また、分化した体細胞を他の体細胞にコンヴァートさせるための、TGF-βパスウェイ阻害剤の使用をも提供する。
【0205】
すなわち、本発明はTGF-βパスウェイ阻害剤の新規な用途を提供するものである。
【0206】
誘導剤は、TGF-βパスウェイ阻害剤単独であってもよく、TGF-βパスウェイ阻害剤を含む組成物であってもよい。組成物である場合、TGF-βパスウェイ阻害剤を溶解させるための適切な溶媒(水、DMSOなど)をさらに含むものであってもよい。
【実施例
【0207】
以下に実施例を示すが、本発明はこの実施例だけに限定されるものではない。
【0208】
以下に、実施例で用いた化合物の構造を示す。
【0209】
【化2】
【0210】
【化3】
【0211】
【化4】
【0212】
【化5】
【0213】
以下、本明細書中及び図中において、「ALK5 Inhibitor II」を「ALK5 Inhibitor」、「ALK5IH」、「ALK5 IHII」または「ALK5 i II」と記載する場合がある。
【0214】
実施例1 (図1
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(human dermal fibroblasts; HDFs)を通常培地(10% FBSを添加したDulbecco’s modified minimum essential medium; DMEM)に縣濁した。これを5×103 cells/wellの濃度で24-well plateに播種し(day 0)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、図中に記載のとおり、通常培地、石灰化誘導培地、または各化合物を加えた石灰化誘導培地を、500 μL/well加えた。
【0215】
石灰化誘導培地は、10%FBS DMEMに50 μg/mlアスコルビン酸、10 mM β-glycerophosphate、100 nM Dexamethasoneを添加したものである。3~4日に1度、培養液をフレッシュなものに置換し、day 24まで培養した。
【0216】
Day 24に、各wellから培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄後、10%ホルマリンにて固定した。滅菌蒸留水で3回洗浄した。その後、アリザリンレッドS染色液を加え、室温で15分間インキュベートした。染色後のwellを滅菌蒸留水にて洗浄し、撮影した。
【0217】
各化合物の濃度は以下のとおりである:
D4476: 2 μM
ALK5 inhibitor II: 2 μM
SB431542: 2 μM。
【0218】
結果を図1に示す。D4476、ALK5 inhibitor II、またはSB431542を添加した誘導培地で培養することによって、ヒト線維芽細胞が石灰化骨基質産生能を有する骨芽細胞にコンヴァージョンしたことがわかる。とくにALK5 inhibitor IIが最も効率高く線維芽細胞を骨芽細胞にコンヴァージョンすることがわかる。
【0219】
TGF-βシグナルについては、骨芽細胞の増殖、生存、分化と骨形成に必須であり、骨芽細胞の分化と骨形成に促進的に働くことが知られている(例えば、文献:Kasagi and Chen, Cell & Bioscience 2013, 3:4)。本発明の方法により、TGF-βパスウェイの抑制により骨芽細胞へのコンヴァージョンが達成できることは、意外な結果であった。
【0220】
実施例2 (図2
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(human dermal fibroblasts; HDFs)を通常培地(10% FBSを添加したDulbecco’s modified minimum essential medium; DMEM)に縣濁した。これを5×103 cells/wellの濃度で24-well plateに播種し(day 0)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、図中に記載のとおり、石灰化誘導培地、または各化合物を加えた石灰化誘導培地を、500 μL/well加えた。
【0221】
石灰化誘導培地は、10%FBS DMEMに50μg/mlアスコルビン酸、10mM β-glycerophosphate、100nM Dexamethasoneを添加したものである。3~4日に1度、培養液をフレッシュなものに置換し、day 24まで培養した。
【0222】
Day 24に、各wellから培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄後、10%ホルマリンにて固定した。滅菌蒸留水で3回洗浄した後、アリザリンレッドS染色液を加え、室温で15分間インキュベートした。染色後の染色液は、96well plateに回収し、吸光度計にて吸光度(OD: 550nm)を測定した。
【0223】
各化合物の濃度は以下のとおりである:
D4476: 2μM
SB431542: 2μM
ALK5 inhibitor II: 2μM。
【0224】
結果を図2に示す。D4476、ALK5 inhibitor II、またはSB431542を添加した誘導培地で培養することによって、ヒト線維芽細胞が石灰化骨基質産生能を有する骨芽細胞にコンヴァージョンしたことがわかる。とくにALK5 inhibitor IIが最も効率高く線維芽細胞を骨芽細胞にコンヴァージョンすることがわかる。
【0225】
実施例3 (図3
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(human dermal fibroblasts; HDFs)を通常培地(10% FBSを添加したDulbecco’s modified minimum essential medium; DMEM)に縣濁した。これを5×103 cells/wellの濃度で24-well plateに播種し(day 0)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、図中に記載のとおり、石灰化誘導培地、または各化合物を加えた石灰化誘導培地を、500 μL/well加えた。
【0226】
石灰化誘導培地は、10%FBS DMEMに50μg/mlアスコルビン酸、10mM β-glycerophosphate、100nM Dexamethasoneを添加したものである。3~4日に1度、培養液をフレッシュなものに置換し、day 24まで培養した。
【0227】
Day 24に、各wellから培養液を吸引除去し、PBSで洗浄後、細胞からISOGEN IIにてtotal RNAを抽出した。このRNAから、Rever Tra Ace qPCR RT Master Mixを用いてcDNAを合成した。このcDNAにReal-time PCR Master Mix、OsteocalcinおよびAlkaline Phosphataseまたはβ-actin遺伝子に特異的なprimersとTaqman pobeを混和した。AB7300 Real-time PCR systemを用いてqRT-PCRを行った。OsteocalcinおよびAlkaline Phosphatase遺伝子のmRNAレベルをβ-actin遺伝子mRNAに対する比として定量し、石灰化誘導培地のみで培養した線維芽細胞の値を1として算出した。
【0228】
各化合物の濃度は以下のとおりである:
D4476: 2μM
SB431542: 2μM
ALK5 inhibitor II: 2μM。
【0229】
結果を図3に示す。D4476、ALK5 inhibitor II、またはSB431542を添加した誘導培地で培養することによって、ヒト線維芽細胞がオステオカルシンとアルカリフォスファターゼ遺伝子を発現する骨芽細胞にコンヴァージョンしたことがわかる。とくにALK5 inhibitor IIが最も効率高く線維芽細胞を骨芽細胞にコンヴァージョンすることがわかる。
【0230】
実施例4 (図4
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(human dermal fibroblasts; HDFs)を通常培地(10% FBSを添加したDulbecco’s modified minimum essential medium; DMEM)に縣濁した。これを5×103 cells/wellの濃度で24-well plateに播種し(day 0)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、通常培地、またはALK5 inhibitor IIを加えた石灰化誘導培地を、500 μL/well加えた。
【0231】
石灰化誘導培地は、10%FBS DMEMに50μg/mlアスコルビン酸、10mM β-glycerophosphate、100nM Dexamethasoneを添加したものである。3~4日に1度、培養液をフレッシュなものに置換し、day 24まで培養した。
【0232】
Day 24に、各wellから培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄した。4%パラホルムアルデヒドで固定後、PBS(-)にて洗浄した。PBS(-)にて3回洗浄した後、Blocking Oneを加えて、室温で60分間インキュベートした。
【0233】
抗Osteocalcin抗体を加えて4℃でover nightで反応させた後、Wash bufferにて3回washした。Alexa 488-conjugated anti-mouse Ig抗体を加えて室温で1時間反応させた後、Wash bufferにて5回washした。蛍光顕微鏡を用いて倍率200倍で写真撮影を行った。
【0234】
結果を図4に示す。ALK5 inhibitor IIを添加した誘導培地で培養することによって、ヒト線維芽細胞がオステオカルシンを産生する骨芽細胞にコンヴァージョンしたことがわかる。
【0235】
実施例5 (図5
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(human dermal fibroblasts; HDFs)またはヒト脂肪由来間葉系幹細胞(human adipose derived stem cells; ADSC)を通常培地(10% FBSを添加したDulbecco’s modified minimum essential medium; DMEM)に縣濁した。これを5×103 cells/wellの濃度で24-well plateに播種し(day 0)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、図中に記載のとおり、通常培地、石灰化誘導培地、またはALK5 inhibitor IIを加えた石灰化誘導培地を、500 μL/well加えた。
【0236】
石灰化誘導培地は、10%FBS DMEMに50 μg/mlアスコルビン酸、10 mM β-glycerophosphate、100 nM Dexamethasoneを添加したものである。3~4日に1度、培養液をフレッシュなものに置換し、day 19まで培養した。
【0237】
Day 19に、各wellから培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄後、10%ホルマリンにて固定した。滅菌蒸留水で3回洗浄した。その後、アリザリンレッドS染色液を加え、室温で15分間インキュベートした。染色後の染色液は、96well plateに回収し、吸光度計にて550nmの吸光度(OD550)を測定した(図5下)。また染色後のwellを滅菌蒸留水にて洗浄し、1倍の倍率、および倒立顕微鏡で40倍の倍率で撮影した(図5上)。
【0238】
結果を図5に示す。ALK5 inhibitor IIを添加した誘導培地で培養することによって、ヒト線維芽細胞および脂肪由来間葉系幹細胞が石灰化骨基質産生能を有する骨芽細胞にコンヴァージョンしたことがわかる。
【0239】
実施例6 (図6
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(human dermal fibroblasts; HDFs)を通常培地(10% FBSを添加したDulbecco’s modified minimum essential medium; DMEM)に縣濁した。これを5×103 cells/wellの濃度で24-well plateに播種し(day 0)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、通常培地、またはALK5 inhibitor IIを加えた石灰化誘導培地を、500 μL/well加えた。
【0240】
石灰化誘導培地は、10%FBS DMEMに50 μg/mlアスコルビン酸、10 mM β-glycerophosphate、100 nM Dexamethasoneを添加したものである。3~4日に1度、培養液をフレッシュなものに置換し、day 24まで培養した。
【0241】
Day 19に、各wellから培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄した。4%パラホルムアルデヒドで固定後、PBS(-)にて洗浄した。PBS(-)にて3回洗浄した後、Blocking Oneを加えて、室温で60分間インキュベートした。
【0242】
抗Runx2抗体を加えて4℃でover nightで反応させた後、Wash bufferにて3回washした。Alexa 488-conjugated anti-mouse Ig抗体を加えて室温で1時間反応させた後、Wash bufferにて5回washした。蛍光顕微鏡を用いて倍率200倍で写真撮影を行った。
【0243】
なお、通常培地で培養した細胞をHDF、ALK5 inhibitor IIを加えた石灰化誘導培地で誘導培養した細胞をdOBsとして図に示す。
【0244】
結果を図6に示す。ALK5 inhibitor IIを添加した誘導培地で培養することによって、ヒト線維芽細胞がRunx2を発現する骨芽細胞にコンヴァージョンしたことがわかる。
【0245】
実施例7 (図7
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(human dermal fibroblasts; HDFs)を通常培地(10% FBSを添加したDulbecco’s modified minimum essential medium; DMEM)に縣濁した。これを10×103 cells/wellの濃度で24-well plateに播種し(day 0)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。4日日に培養上清を吸引除去し、50 mM ALK5 Inhibitor IIを添加した誘導培地(a)(下記)を加えて培養を行った。6日目に誘導培地(a)を除去し、50 mM ALK5 Inhibitor IIを添加した誘導培地(b)(下記)を加えて培養を続けた。その後、9,12,14,16日目に、50 mM ALK5 Inhibitor IIを添加した誘導培地(b)を用いて同様に培地交換を繰り返した。
【0246】
Day 20に培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄後、10%ホルマリンにて固定した。滅菌蒸留水で3回洗浄した。Bodipyで染色後、wellを滅菌蒸留水にて洗浄し、倒立顕微鏡で100倍,200倍の倍率で撮影した。
【0247】
結果を図7に示す。Phase contrastでも蛍光像でも、大きな単房性脂肪滴を含む白色脂肪細胞が認められ、ヒト正常皮膚由来線維芽細胞が白色脂肪細胞にコンヴァージョンしたことがわかる。
【0248】
誘導培地(a)及び(b)の組成は以下のとおりである:
[誘導培地(a)]
DMEM (High Glucose):500 mL
FETAL BOVINE SERUM (FBS):50 mL
MEM Non‐Essential Amino Acids Solution:5 mL100 mM‐Sodium Pyruvate Solution:5 mL
Penicillin‐Streptomycin Mixed Solution:5 mLInsulin:170 nM
3,3',5‐Triiodo‐L‐thyronine:1 nM
Rosiglitazone:1 uM
IBMX(3-isobutyl-1-methylxanthine):0.5 mMIndomethacin:62.5 nM
Dexamethasone:1 uM
[誘導培地(b)]
DMEM (High Glucose):500 mL
FOETAL BOVINE SERUM (FBS):50 mL
MEM Non‐Essential Amino Acids Solution:5 mL100 mM‐Sodium Pyruvate Solution:5 mL
Penicillin‐Streptomycin Mixed Solution:5 mLInsulin:170 nM
3,3',5‐Triiodo‐L‐thyronine:1 nM。
【0249】
実施例8 (図8
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(human dermal fibroblasts; HDFs)を通常培地(10% FBSを添加したDulbecco’s modified minimum essential medium; DMEM)に縣濁した。これを2×104 cells/wellの濃度で12-well plateに播種し(day 0)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、Cyclic Pifithrin-αまたはALK5 inhibitor IIを添加した軟骨誘導培地(StemPro Chondrogenesis Differentiation Kit : ThermoFisher Scientific社製)を1000 μL/well加えた。
【0250】
2日に1度、培養液をフレッシュなものに置換し、day 18まで培養した。
【0251】
Day 18に、各wellから培養液を吸引除去し、PBSで洗浄後、細胞からISOGEN IIにてtotal RNAを抽出した。このRNAから、Rever Tra Ace qPCR RT Master Mixを用いてcDNAを合成した。このcDNAにReal-time PCR Master Mix、Sox9およびAggricanまたはβ-actin遺伝子に特異的なprimersとTaqman pobeを混和した。AB7300 Real-time PCR systemを用いてqRT-PCRを行った。Sox9およびAggrican遺伝子のmRNAレベルをβ-actin遺伝子mRNAに対する比として定量し、通常培地で培養した線維芽細胞の値を1として算出した。
【0252】
各化合物の濃度は以下のとおりである:
Cyclic Pifithrin-α:5μM
ALK5 inhibitor II: 2μM。
【0253】
結果を図8に示す。ALK5 inhibitor IIの存在下、軟骨誘導培地で培養を行うことで、ヒト正常皮膚由来線維芽細胞を、Sox9とAggrican 遺伝子を発現する軟骨細胞へと、コンヴァージョンできることが確認できた。Cyclic Pifithrin-αは、線維芽細胞からiPS細胞へのリプログラミングを促進することが知られているが、線維芽細胞から軟骨細胞へのコンヴァージョンは促進しないことがわかる。
【0254】
アクチビンを介したTGF-βレセプターシグナルは、MSCの増殖を正に制御することや、TGF-βレセプターシグナルがMSCから骨芽細胞や軟骨細胞への分化を促進することが知られている(例えば、文献:W.G. Li and X.X.Xu、 Chin J Traumatol. 2005;8(6):349-51.、文献:F. Ng et al., Blood. 2008 ;112(2):295-307.)。本発明の方法により、TGF-βパスウェイの抑制により軟骨細胞へのコンヴァージョンが達成できることは、意外な結果であった。
【0255】
実施例9 (図9
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(human dermal fibroblasts; HDFs)を通常培地(10% FBSを添加したDulbecco’s modified minimum essential medium; DMEM)に縣濁した。これを2×104 cells/wellの濃度で12-well plateに播種し(day 0)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、軟骨誘導培地、または2μM ALK5 inhibitor IIを添加した軟骨誘導培地を、1000 μL/well加えた。
【0256】
2日に1度、培養液をフレッシュなものに置換し、day 18まで培養した。
この細胞をPBS(-)で2回洗浄したのち3%酢酸溶液で1回洗浄したのちナカライテスク社のPH2.5 アルシアンブルー染色液を加えて1時間、室温で染色した。PBS(-)で3回洗浄したのち顕微鏡で観察した。
【0257】
結果を図9に示す。ALK5 inhibitor IIの存在下、軟骨誘導培地で培養を行うことで、ヒト正常皮膚由来線維芽細胞を、青く染色される軟骨基質を産生する軟骨へと、コンヴァージョンできることが確認された。
【0258】
実施例10 (図10
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(human dermal fibroblasts; HDFs)を通常培地(10% FBSを添加したDulbecco’s modified minimum essential medium; DMEM)に縣濁した。これを2×104 cells/wellの濃度で12-well plateに播種し(day 0)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、2μM ALK5 inhibitor II と2μM D4476を添加した骨格筋細胞増殖培地(5% FBS, 50 microG/ml Bovine Fetuin, 10 nG/ml hEGF, 1 nG/ml bFGF, 10 microG/ml Insulin, 0.4 microG Dexamethasoneを添加したHam's/F10培地)を1000 μL/well加えた。2日に1度、培養液をフレッシュなものに置換し、day 28まで培養した。
【0259】
Day 28に、各wellから培養液を吸引除去し、PBSで洗浄後、細胞からISOGEN IIにてtotal RNAを抽出した。このRNAから、Rever Tra Ace qPCR RT Master Mixを用いてcDNAを合成した。このcDNAにReal-time PCR Master Mix、MyoD1およびMyogeninまたはβ-actin遺伝子に特異的なprimersとTaqman pobeを混和した。AB7300 Real-time PCR systemを用いてqRT-PCRを行った。、MyoD1およびMyogenin遺伝子のmRNAレベルをβ-actin遺伝子mRNAに対する比として定量し、通常培地で培養した線維芽細胞の値を1として算出した。
【0260】
結果を図10に示す。ALK5 inhibitor IIの存在下、骨格筋細胞増殖培地で培養を行うことで、ヒト正常皮膚由来線維芽細胞を、MyogeninとMyoD1遺伝子を発現する筋芽細胞へと、コンヴァージョンできることが確認できた。
【0261】
実施例11 (図11
ヒト正常皮膚線維芽細胞株HDFsを、5×103 細胞/ウェルの濃度で24 well plateに播種した(day 0)。翌日、各wellの培養液を棄て、500 μl/wellの新しい培地に交換した。骨芽細胞誘導培地はDulbecco’s modified Eagle’s medium (DMEM)、50 μg/mlアスコルビン酸、10 mM β-glycerophosphate、100 nM Dexamethasoneに10% ウシ胎仔血清(FBS)を添加したものである。
【0262】
図中に示すとおり、スタチン化合物であるSimvastatin(SS)またはPravastatin(PrS)(終濃度100nM)を培地にさらに添加した。
【0263】
培養28日後に、各wellから培養液を除去し、PBS(-)で洗浄した。細胞からISOGEN IIにてtotal RNAを回収し、Rever Tra Ace qPCR RT Master Mixを用いてcDNAを合成した。Real-time PCR Master Mixと、ヒトアルカリフォスファターゼ(ALP)遺伝子に特異的なTaqman probeとPrimersを加え、AB7300 Real-time PCR systemを用いてReal-time RT-PCRを行った。
【0264】
結果を図14に、正常ヒト線維芽細胞の値を1とした相対値で示す。SS、PrSをD4476と共に加えるとD4476単独よりもさらにALP発現を強く誘導したことがわかる。
【0265】
実施例12 (図12
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(human dermal fibroblasts; HDFs)を通常培地(10% FBSを添加したDulbecco’s modified minimum essential medium; DMEM)に縣濁した。これを1×104cells/wellの濃度で24-well plateに播種し(day 0)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、図中に記載のとおり、通常培地、脂肪細胞誘導培地、または化合物等を加えた脂肪細胞誘導培地を、500 μL/well加えた。
【0266】
脂肪細胞誘導培地は、10% FBS添加DMEM+MDI培地(0.5 mM 3-isobutyl-1-methylxanthine(IBMX)、0.5 μM dexamethasone、および1 μg/mL Insulinを添加した、10% FBS添加DMEM)である。
【0267】
添加物の濃度は以下のとおりである:
T3: 1 nM
Rosiglitazone: 1 μM
D4476: 2 μM
Pifithrin alpha[p53阻害剤]: 5 μM
SB431542: 2 μM
ALK5 Inhibitor II: 2 μM。
【0268】
3~4日に1度、培養液をフレッシュなものに置換し、day 14まで培養した。
【0269】
Day 14に、各wellから培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄後、10%ホルマリンにて固定した。滅菌蒸留水で3回洗浄した後、Oil Red O染色液を加え、室温で15分間インキュベートした。その後滅菌蒸留水にて洗浄し、位相差顕微鏡で100倍の倍率で撮影した。
【0270】
結果を図12に示す。T3およびRosiglitazoneに加えて、D4476、SB431542、ALK5 Inhibitor IIのいずれかを添加培養することにより、線維芽細胞が褐色脂肪細胞にコンヴァートしたことがわかる。
【0271】
実施例13 (図13
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(human dermal fibroblasts; HDFs)を通常培地(10% FBSを添加したDulbecco’s modified minimum essential medium; DMEM)に縣濁した。これを1×104 cells/wellの濃度で24-well plateに播種し(day 0)、5% CO2 /95% humid air 37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、図中に記載のとおり、通常培地、脂肪細胞誘導培地、または各化合物等を加えた脂肪細胞誘導培地を、500 μL/well加えた。
【0272】
脂肪細胞誘導培地は、10% FBS添加DMEM+MDI培地(0.5 mM 3-isobutyl-1-methylxanthine(IBMX)、0.5 μM dexamethasone、および1 μg/mL Insulinを添加した、10% FBS添加DMEM)である。
【0273】
添加物の濃度は以下のとおりである:
T3: 1 nM
Rosiglitazone: 1 μM
D4476: 2 μM
Pifithrin alpha[p53阻害剤]: 5 μM
SB431542: 2 μM
ALK5 Inhibitor II: 2 μM。
【0274】
3~4日に1度、培養液をフレッシュなものに置換し、day 14まで培養した。
Day 14に、各wellから培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄後、細胞からISOGEN IIにてtotal RNAを抽出した。このRNAから、Rever Tra Ace qPCR RT Master Mixを用いてcDNAを合成した。このcDNAにReal-time PCR Master Mixと、CIDEA遺伝子またはβアクチン遺伝子に特異的なprimersとTaqman probeを混和した。AB7300 Real-time PCR systemを用いてqRT-PCRを行った。CIDEA遺伝子のmRNAレベルをβアクチン遺伝子mRNAに対する比として定量し、通常培地で培養した線維芽細胞の値を1として算出した。
【0275】
その結果を図13に示す。T3およびRosiglitazoneに加えて、D4476、SB431542、またはALK5 Inhibitor IIのいずれかを添加培養することにより、線維芽細胞がCIDEA遺伝子のmRNAを発現する褐色脂肪細胞にコンヴァートしたことがわかる。
【0276】
実施例14 (図14
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(human dermal fibroblasts; HDFs)を通常培地(10% FBSを添加したDulbecco's modified minimum essential medium; DMEM)に縣濁した。これを1×104cells/wellの濃度で24-well plateに播種し(day 0)、5% CO2 /95% humid air 37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、図中に記載のとおり、通常培地、脂肪細胞誘導培地、または各小分子化合物等を加えた脂肪細胞誘導培地を、500 μL/well加えた。
【0277】
脂肪細胞誘導培地は、10% FBS添加DMEM+MDI培地(0.5 mM 3-isobutyl-1-methylxanthine(IBMX)、0.5 μM dexamethasone、および1 μg/mL Insulinを添加した、10% FBS添加DMEM)である。
【0278】
添加物の濃度は以下のとおりである:
T3: 1 nM
Rosiglitazone: 1 μM
D4476: 2 μM。
Pifithrin alpha[p53阻害剤]: 5 μM
PD0325901: 1 μM
SB431542: 2 μM
ALK5 Inhibitor II: 2 μM。
【0279】
3~4日に1度、培養液をフレッシュなものに置換し、day 14まで培養した。
【0280】
Day 14に、各wellから培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄後、細胞からISOGEN IIにてtotal RNAを抽出した。このRNAから、Rever Tra Ace qPCR RT Master Mixを用いてcDNAを合成した。このcDNAにReal-time PCR Master Mix、および、AdipoQまたはβアクチン遺伝子に特異的なprimersとTaqman pobeを混和した。AB7300 Real-time PCR systemを用いてqRT-PCRを行った。AdipoQ遺伝子のmRNAレベルをβアクチン遺伝子mRNAに対する比として定量し、通常培地で培養した線維芽細胞の値を1として算出した。
【0281】
その結果を図14に示す。T3およびRosiglitazoneに加えて、D4476、PD0325901、SB431542またはALK5 Inhibitor IIのいずれかを添加培養することにより、線維芽細胞がAdipoQ遺伝子のmRNAを発現する褐色脂肪細胞にコンヴァートしたことがわかる。
【0282】
実施例15 (図15
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(human dermal fibroblasts; HDFs)を通常培地(10% FBSを添加したDulbecco's modified minimum essential medium; DMEM)に縣濁した。これを1×104 cells/wellの濃度で24-well plateに播種し(day 0)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、図中に記載のとおり、通常培地、脂肪細胞誘導培地、または各小分子化合物等を加えた脂肪細胞誘導培地を、500 μL/well加えた。
【0283】
脂肪細胞誘導培地は、10% FBS添加DMEM+MDI培地(0.5 mM 3-isobutyl-1-methylxanthine(IBMX)、0.5 μM dexamethasone、および1 μg/mL Insulinを添加した、10% FBS添加DMEM)である。
【0284】
添加物の濃度は以下のとおりである:
T3: 1 nM
Rosiglitazone: 1 μM
D4476: 2 μM
SB431541: 2 μM
ALK5 inhibitor II: 2 μM。
【0285】
3~4日に1度、培養液をフレッシュなものに置換し、day 14まで培養した。
【0286】
Day 14に、各wellから培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄した。その後、4%パラホルムアルデヒドで固定し、PBS(-)にて洗浄した後、BODIPY 493/503 (Invitrogen)/PBS溶液にて室温で5分間反応させ、PBSで3回Washした。蛍光顕微鏡を用いて倍率200倍で写真撮影を行い、また蛍光強度を計測した。
【0287】
その結果を図15A(蛍光顕微鏡像)と図15B(蛍光強度)に示す。T3およびRosiglitazoneに加えて、D4476、SB431541、またはALK5 inhibitor IIのいずれかを添加培養することにより、線維芽細胞がBODIPYで染色される脂肪滴を有する褐色脂肪細胞にコンヴァートしたことがわかる。
【0288】
実施例16 (図20
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(human dermal fibroblasts; HDFs)またはヒト間葉系幹細胞(human mesenchymal stem cells; MSC)を通常培地(10% FBSを添加したDulbecco’s modified minimum essential medium; DMEM)に縣濁した。これを1×104cells/wellの濃度で24-well plateに播種し(day 0)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、図中に記載のとおり、通常培地(Normal medium)、石灰化誘導培地(OB medium)、またはALK5 inhibitor II(ALK5 i II)を4 μMの濃度で加えた石灰化誘導培地(OB medium+ ALK5 i II)を、500 μL/well加えた。
【0289】
石灰化誘導培地は、10%FBS DMEMに50μg/mlアスコルビン酸、10mM β-glycerophosphate、100nM Dexamethasoneを添加したものである。3~4日に1度、培養液をフレッシュなものに置換し、day 18まで培養した。
【0290】
Day 18に、各wellから培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄後、10%ホルマリンにて固定した。滅菌蒸留水で3回洗浄した。Alizarin Red S染色後のwellを滅菌蒸留水にて洗浄し、倒立顕微鏡で40倍の倍率で撮影した。
【0291】
結果を図20に示す。ALK5 inhibitor IIを加えた石灰化誘導培地で培養することにより、ヒト皮膚由来線維芽細胞が石灰化骨基質を多量に産生する骨芽細胞にコンヴァートしたことがわかる。
【0292】
実施例17 (図21
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(human dermal fibroblasts; HDFs)を通常培地(10% FBSを添加したDulbecco’s modified minimum essential medium; DMEM)に縣濁した。これを1×104cells/wellの濃度で24-well plateに播種し(day 0)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、図中に記載のとおり、通常培地、石灰化誘導培地、またはALK5 inhibitor IIおよび/またはTGF-βを加えた石灰化誘導培地を、500 μL/well加えた。
【0293】
石灰化誘導培地は、10%FBS DMEMに50μg/mlアスコルビン酸、10mM β-glycerophosphate、100nM Dexamethasoneを添加したものである。3~4日に1度、培養液をフレッシュなものに置換し、day 13まで培養した。
【0294】
Day 13に、各wellから培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄後、固定液にて固定した。滅菌蒸留水で3回洗浄した。ALP染色(ALP staining)後のwellを滅菌蒸留水にて洗浄し、倒立顕微鏡で40倍の倍率で撮影した。
【0295】
培地に添加した化合物とサイトカインの濃度は以下の通りである。
ALK5 inhibitor II: 4 μM
TGF-β: 50 ng/ml。
【0296】
結果を図21に示す。ALK5 inhibitor IIを加えた石灰化誘導培地で培養することにより、ヒト皮膚由来線維芽細胞が高いALP活性を有する骨芽細胞にコンヴァートしたことがわかる。
【0297】
実施例18 (図22
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(human dermal fibroblasts; HDFs)またはヒト脂肪由来間葉系幹細胞(human adipose derived stem cells; ADSCs)を通常培地(10% FBSを添加したDulbecco’s modified minimum essential medium; DMEM)に縣濁した。これを1×104cells/wellの濃度で24-well plateに播種し(day 0)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、図中に記載のとおり、通常培地、石灰化誘導培地、またはALK5 inhibitor IIを4 μMの濃度で加えた石灰化誘導培地を、500 μL/well加えた。
【0298】
石灰化誘導培地は、10%FBS DMEMに50μg/mlアスコルビン酸、10mM β-glycerophosphate、100nM Dexamethasoneを添加したものである。3~4日に1度、培養液をフレッシュなものに置換し、day 18まで培養した。
【0299】
Day 18に、各wellから培養液を吸引除去し、PBSで洗浄後、細胞からISOGEN IIにてtotal RNAを抽出した。このRNAから、Rever Tra Ace qPCR RT Master Mixを用いてcDNAを合成した。このcDNAにReal-time PCR Master Mix、およびOsteocalcin、Alkaline Phosphataseまたはβ-actin遺伝子に特異的なprimersとTaqman pobeを、混和した。AB7300 Real-time PCR systemを用いてqRT-PCRを行った。Osteocalcin(Oc)およびAlkaline Phosphatase(ALP)遺伝子のmRNAレベルをβ-actin遺伝子mRNAレベルに対する比として定量し、石灰化誘導培地で培養した線維芽細胞の値を1として算出した
【0300】
結果を図22に示す。ALK5 inhibitor IIを加えた石灰化誘導培地で培養することにより、ヒト皮膚由来線維芽細胞がオステオカルシン遺伝子とALP遺伝子を発現する骨芽細胞にコンヴァートしたことがわかる。図中、*及び**は、石灰化誘導培地(OB medium)に対して、それぞれp <0.05 及びp <0.01であることを示す(*p <0.05 and **p<0.01 vs. the OB medium. Values are means ± S.D. (n=4).)。
【0301】
実施例19 (図23
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(human dermal fibroblasts; HDFs)またはヒト脂肪由来間葉系幹細胞(human adipose derived stem cells; ADSCs)を通常培地(10% FBSを添加したDulbecco’s modified minimum essential medium; DMEM)に縣濁した。これを2×104cells/wellの濃度で24-well plateに播種し(day 0)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、図中に記載のとおり、通常培地(Normal medium)、MDI medium(線維芽細胞用の脂肪細胞誘導培地)、またはALK5 inhibitor IIを4 μMの濃度で加えたMDI培地(MDI medium + ALK5 i II)を、500 μL/well加えた。
【0302】
MDI培地は、10%FBS DMEMに0.5 mM 3-isobutyl-1-methylxanthine(IBMX)、0.5 μM dexamethasone、および1 μg/mL Insulinを添加したものである。3~4日に1度、培養液をフレッシュなものに置換し、day 14まで培養した。
【0303】
Day 14に、各wellから培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄後、10%ホルマリンにて固定した。滅菌蒸留水で3回洗浄した。Oil Red O染色後のwellを滅菌蒸留水にて洗浄し、倒立顕微鏡で40倍, 100倍の倍率で撮影した。
【0304】
結果を図23に示す。ALK5 inhibitor IIを加えたMDI培地で培養することにより、ヒト皮膚由来線維芽細胞が脂肪滴を多量に蓄積する白色脂肪細胞にコンヴァートしたことがわかる。
【0305】
実施例20 (図24
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(human dermal fibroblasts; HDFs)またはヒト脂肪由来間葉系幹細胞(human adipose derived stem cells; ADSCs)を通常培地(10% FBSを添加したDulbecco’s modified minimum essential medium; DMEM)(Normal medium)に縣濁した。これを1×104cells/wellの濃度で24-well plateに播種し(day 0)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、図中に記載のとおり、通常培地、MDI培地、またはALK5 inhibitor IIを4 μMの濃度で加えたMDI培地を、500 μL/well加えた。
【0306】
MDI培地(3-isobutyl-1-methylxanthine / dexamethasone / insulin-containing medium)は、10%FBS DMEMに0.5 mM 3-isobutyl-1-methylxanthine(IBMX)、0.5 μM dexamethasone、および1 μg/mL Insulinを添加したものである。3~4日に1度、培養液をフレッシュなものに置換し、day 14まで培養した。
【0307】
Day 14に、各wellから培養液を吸引除去し、PBSで洗浄後、細胞からISOGEN IIにてtotal RNAを抽出した。このRNAから、Rever Tra Ace qPCR RT Master Mixを用いてcDNAを合成した。このcDNAにReal-time PCR Master Mix、およびAdipoQ、FABP4またはβ-actin遺伝子に特異的なprimersとTaqman pobeを、混和した。AB7300 Real-time PCR systemを用いてqRT-PCRを行った。AdipoQおよびFABP4遺伝子のmRNAレベルをβ-actin遺伝子mRNAレベルに対する比として定量し、MDI培地で培養した線維芽細胞の値を1として算出した。
【0308】
結果を図24に示す。ALK5 inhibitor IIを加えたMDI培地で培養することにより、ヒト皮膚由来線維芽細胞がAdipoQ遺伝子とFABP4遺伝子を発現する白色脂肪細胞にコンヴァートしたことがわかる。
【0309】
実施例21 (図25
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(human dermal fibroblasts; HDFs)またはヒト脂肪由来間葉系幹細胞(human adipose derived stem cells; ADSCs)を通常培地(10% FBSを添加したDulbecco’s modified minimum essential medium; DMEM)に縣濁した。これを1×104cells/wellの濃度でfibronectin coated 24-well plateの中心部に播種し(day 0)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、図中に記載のとおり、通常培地、軟骨誘導培地(Chondrocyte medium)、またはALK5 inhibitor IIを4 μMの濃度で加えた軟骨誘導培地(Chondrocyte medium + ALK5 i II)を、500 μL/well加えた。
【0310】
軟骨誘導培地は、1%FBS DMEMに50μg/mlアスコルビン酸、1% insulin-transferrin-selenium、10ng/ml BMP-2、10ng/ml TGF-β、10ng/ml GDF5、10ng/nl b-FGFを添加したものである。3~4日に1度、培養液をフレッシュなものに置換し、day 21まで培養した。
【0311】
Day 21に、各wellから培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄後、10%ホルマリンにて固定した。滅菌蒸留水で3回洗浄した。Alcian blue染色後のwellを滅菌蒸留水にて洗浄し、倒立顕微鏡で100倍の倍率で撮影した。
【0312】
結果を図25に示す。ALK5 inhibitor IIを加えた軟骨誘導培地で培養することにより、ヒト皮膚由来線維芽細胞が軟骨基質を多量に産生する軟骨細胞にコンヴァートしたことがわかる。
【0313】
実施例22 (図26
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(human dermal fibroblasts; HDFs)またはヒト脂肪由来間葉系幹細胞(human adipose derived stem cells; ADSCs)を通常培地(10% FBSを添加したDulbecco’s modified minimum essential medium; DMEM)に縣濁した。これを1×104cells/wellの濃度でfibronectin coated 24-well plateの中心部に播種し(day 0)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、図中に記載のとおり、通常培地、軟骨誘導培地、またはALK5 inhibitor IIを4 μMの濃度で加えた軟骨誘導培地を、500 μL/well加えた。
【0314】
軟骨誘導培地は、1%FBS DMEMに50μg/mlアスコルビン酸、1% insulin-transferrin-selenium、10ng/ml BMP-2、10ng/ml TGF-β、10ng/ml GDF5、10ng/nl b-FGFを添加したものである。3~4日に1度、培養液をフレッシュなものに置換し、day 21まで培養した。
【0315】
Day 21に、各wellから培養液を吸引除去し、PBSで洗浄後、細胞からISOGEN IIにてtotal RNAを抽出した。このRNAから、Rever Tra Ace qPCR RT Master Mixを用いてcDNAを合成した。このcDNAにReal-time PCR Master Mix、およびAggrecan、Type II collgaenまたはβ-actin遺伝子に特異的なprimersとTaqman pobeを、混和した。AB7300 Real-time PCR systemを用いてqRT-PCRを行った。Aggrecan(ACAN)、およびType II collagen遺伝子のmRNAレベルをβ-actin遺伝子mRNAレベルに対する比として定量し、軟骨誘導培地で培養した線維芽細胞の値を1として算出した
【0316】
結果を図26に示す。ALK5 inhibitor IIを加えた軟骨誘導培地で培養することにより、ヒト皮膚由来線維芽細胞がAggrecan遺伝子と2型コラーゲン遺伝子を発現する軟骨細胞にコンヴァートしたことがわかる。
【0317】
実施例23 (図27
ヒト正常歯肉由来線維芽細胞(human gingival fibroblasts; GFs)を通常培地(10% FBSを添加したDulbecco’s modified minimum essential medium; DMEM)に縣濁した。これを1×104cells/wellの濃度で24-well plateに播種し(day 0)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、図中に記載のとおり、通常培地、石灰化誘導培地、またはALK5 inhibitor IIを4 μMの濃度で加えた石灰化誘導培地を、500 μL/well加えた。
【0318】
石灰化誘導培地は、10%FBS DMEMに50μg/mlアスコルビン酸、10mM β-glycerophosphate、100nM Dexamethasoneを添加したものである。3~4日に1度、培養液をフレッシュなものに置換し、day 18まで培養した。
【0319】
Day 18に、各wellから培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄後、10%ホルマリンにて固定した。滅菌蒸留水で3回洗浄した。Alizarin Red S染色後のwellを滅菌蒸留水にて洗浄し、倒立顕微鏡で40倍の倍率で撮影した。
【0320】
結果を図27に示す。ALK5 inhibitor IIを加えた石灰化誘導培地で培養することにより、ヒト歯肉由来線維芽細胞が石灰化骨基質を多量に産生する骨芽細胞にコンヴァートしたことがわかる。
【0321】
実施例24 (図28
ヒト正常歯肉由来線維芽細胞(human gingival fibroblasts; GFs)を通常培地(10% FBSを添加したDulbecco’s modified minimum essential medium; DMEM)に縣濁した。これを1×104cells/wellの濃度で24-well plateに播種し(day 0)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、図中に記載のとおり、通常培地、石灰化誘導培地、またはALK5 inhibitor IIを4 μMの濃度で加えた石灰化誘導培地を、500 μL/well加えた。
【0322】
石灰化誘導培地は、10%FBS DMEMに50μg/mlアスコルビン酸、10mM β-glycerophosphate、100nM Dexamethasoneを添加したものである。3~4日に1度、培養液をフレッシュなものに置換し、day 18まで培養した。
【0323】
Day 18に、各wellから培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄後、固定液にて固定した。滅菌蒸留水で3回洗浄した。ALP染色後のwellを滅菌蒸留水にて洗浄し、倒立顕微鏡で40倍の倍率で撮影した。
【0324】
結果を図28に示す。ALK5 inhibitor IIを加えた石灰化誘導培地で培養することにより、ヒト歯肉由来線維芽細胞が高いALP活性を有する骨芽細胞にコンヴァートしたことがわかる。
【0325】
実施例25 (図29
動物実験は所属機関の認可を得て行った。8週齢オスのNOD/SCIDマウス(Charles River)を麻酔した。注水下に歯科ドリルを用いて左大腿骨骨幹に直径約7mmの部分骨欠損を作成した。後述の実施例16と同様の方法で、HDFsをALK5 inhibitor II存在下で13日間培養した細胞(CdOBs; Chemical-mediated directly converted osteoblasts)を、マトリゲル (BD Bioscience, San Jose, CA)とともに懸濁し、骨欠損部とその周辺の骨表面に5×105cells/マウスの濃度で移植した。また、同様に骨欠損を作ったのち、線維芽細胞をマトリゲルに懸濁し移植したマウスも準備した。21日後にマウスを安楽死させ、大腿を切除し、中性ホルマリンで固定後、X-ray CT device (Scan Xmate-L090, Com Scan Techno, Yokohama, Japan)を用いてマイクロ・コンピューター断層撮影(μCT)を行った。
【0326】
μCTの断層像を図29に示す。CdOBがマウスの体内で骨欠損部において骨形成を行ったことがわかる。
【0327】
実施例26 (図30
実施例25のμCT像を3次元構築したイメージを図30に示す。ALK5 inhibitor IIを添加して培養した細胞は、生体内で骨形成能を有することが示された。CdOBがマウスの体内で骨欠損部において骨形成を行ったことがわかる。
【0328】
実施例27 (図31
動物実験は所属機関の認可を得て行った。上記実施例25と同様に移植実験を行った。また、線維芽細胞を移植したマウスも準備した。21日後にマウスを安楽死させ、実施例25と同様に大腿を切除し、中性ホルマリンで固定後、骨組織をSCEM (Leica Microsystem) compoundで包埋し、急速凍結した。6 μmの切片にスライス後、連続切片をヘマトキシリン・エオジン (H&E)染色およびAlizarin Red Sで染色した。
【0329】
結果(40倍の顕微鏡像)を図31に示す。CdOBがマウスの体内で骨欠損部において骨形成を行ったことがわかる。
【0330】
実施例28 (図32
ヒト正常皮膚線維芽細胞株HDFsを、60 mm培養ディシュに培養し、通常培地で培養した(-)。また、HDFsを4 μMのALK5 inhibitor IIを加えた通常培地で3または7日間培養した。これらの細胞からISOGEN IIにてtotal RNAを回収した。各細胞のmRNA発現パターンをAffymetrix 社のDNAチップを用いてゲノムワイドに解析した。MSCマーカーの発現量を表したヒートマップを図32に示す。ALK5 inhibitor IIを添加した培地で培養することにより線維芽細胞が間葉系幹細胞(MSCs)にコンヴァートしたことが分かる。
【0331】
実施例29 (図33
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(human dermal fibroblasts; HDFs)を通常培地(10% FBSを添加したDulbecco’s modified minimum essential medium; DMEM)に縣濁した。これを1×104cells/wellの濃度で24-well plateに播種し(day 0)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、図中に記載のとおり、通常培地、石灰化誘導培地、または各小分子化合物を加えた石灰化誘導培地を、500 μL/well加えた。
【0332】
石灰化誘導培地は、10% FBS、50 μg/mlアスコルビン酸、10 mM β-glycerophosphate、100 nM Dexamethasoneを添加したDMEMである。
【0333】
培地に添加した化合物とその濃度は以下の通りである。
I-BET151: 2μM
Pifthrin-α: 5μM
PD0325901:2μM
2-Me-5HT:2μM
CX4945:2μM
CHIR99021:2μM
Forskolin:2μM
DZnep:50nM
D4476:2μM
SB431542:2μM
ALK5 i II:2μM。
【0334】
3~4日に1度、培養液をフレッシュなものに置換し、day 28まで培養した。
【0335】
Day 28に、各wellから培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄後、10%ホルマリンにて固定した。滅菌蒸留水で3回洗浄した後、Alizarin Red S染色液を加え、室温で15分間インキュベートした。染色後の染色液は、96 well plateに回収し、実施例30の実験に用いた。その後wellを滅菌蒸留水にて洗浄し、撮影した。
【0336】
結果を図33に示す。
【0337】
実施例30 (図34
実施例29の実験において、Alizarin Red S染色液で染色した後の液を、96 well plateに回収し、吸光度計にて吸光度(OD550nm)を測定した。
結果を図34に示す。
【0338】
図33図34に示された結果から、TGF-βパスウェイ阻害剤であるD4476、SB431542とALK5 i IIは、いずれも石灰化誘導培地に添加することによって、線維芽細胞から骨芽細胞へのコンヴァージョンを誘導することが分かった。しかし、線維芽細胞からiPS細胞への誘導を促進することが報告されているTGF-βパスウェイ阻害剤以外の化合物(I-BET、Pifthrin-α、PD0325901、2-Me-5HT、CHIR 、ForskolinやDZnep)では、TGF-βパスウェイ阻害剤と同様の条件で添加培養しても、線維芽細胞から骨芽細胞へのコンヴァージョンは誘導しないことがわかる。TGF-βパスウェイ阻害剤の中でも、とりわけALK5 i IIが、もっとも強力に線維芽細胞から骨芽細胞へのコンヴァージョンを誘導した。
【0339】
実施例31 (図35
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(HDFs)を通常培地(10% FBSを添加したDMEM)に縣濁した。これを1×104cells/wellの濃度で24-well plateに播種し(day 0)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、図中に記載のとおり、通常培地、石灰化誘導培地(OB培地)、または各小分子化合物あるいはサイトカインを添加した石灰化誘導培地を、500 μL/well加えた。
【0340】
石灰化誘導培地は、10% FBS、50 μg/mlアスコルビン酸、10 mM β-glycerophosphate、100 nM Dexamethasoneを添加したDMEMである。
【0341】
培地に添加した化合物とその濃度は以下の通りである。
D4476: 1または4 μM
LY2157299: 1または4 μM
LY364947: 1または4 μM
SB431542: 1または4 μM
SB525334: 1または4 μM
SD208: 1または4 μM
ALK5 i II: 1または4 μM
TGF-β: 10 ng/ml。
【0342】
3~4日に1度、培養液をフレッシュなものに置換し、day 21まで培養した。
【0343】
Day 21に、一部のwellから培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄後、固定液にて固定した。滅菌蒸留水で3回洗浄した。ALP染色後のwellを滅菌蒸留水にて洗浄し撮影した。
【0344】
またDay21に、残りのwellから培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄後、10%ホルマリンにて固定した。滅菌蒸留水で3回洗浄した後、Alizarin Red S染色液を加え、室温で15分間インキュベートした。染色後の染色液は、96 well plateに回収し、実施例32の実験に用いた。その後wellを滅菌蒸留水にて洗浄し撮影した。
【0345】
結果を図35に示す。
【0346】
実施例32 (図36
実施例31の実験において、Alizarin Red S染色液で染色した後の液を、96 well plateに回収し、吸光度計にて吸光度(OD550nm)を測定した。
結果を図36に示す。
【0347】
図35図36に示された結果から、種々のTGF-βパスウェイ阻害剤を添加した石灰化誘導培地で培養することにより、ヒト線維芽細胞を骨芽細胞にコンヴァートできることがわかった。とりわけSD208とALK5 i IIが強力にヒト線維芽細胞を骨芽細胞にコンヴァートできることがわかった。中でもALK5 i IIがもっとも強力にヒト線維芽細胞を骨芽細胞にコンヴァートできることがわかった。
【0348】
TGF-βを添加した石灰化誘導培地で培養すると、ヒト線維芽細胞は骨芽細胞にコンヴァートしなかった。
【0349】
実施例33 (図37
さまざまな個人に由来するヒト正常皮膚由来線維芽細胞(HDF45(KURABOより購入)、HDF69(PromoCellより購入)、HDF22(PromoCellより購入))を通常培地(10% FBSを添加したDMEM)に縣濁した。これを1×104cells/wellの濃度で24-well plateに播種し(day 0)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、図中に記載のとおり、通常培地、石灰化誘導培地、またはALK5 i IIを4μM添加した石灰化誘導培地を、500 μL/well加えた。
【0350】
石灰化誘導培地は、10% FBS、50 μg/mlアスコルビン酸、10 mM β-glycerophosphate、100 nM Dexamethasoneを添加したDMEMである。
【0351】
3~4日に1度、培養液をフレッシュなものに置換し、Day10, 15まで培養した。
【0352】
Day 10に、各wellから培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄後、固定液にて固定した。滅菌蒸留水で3回洗浄した。ALP染色後、wellを滅菌蒸留水にて洗浄し、倒立顕微鏡で40倍の倍率で撮影した。
【0353】
結果を図37に示す。
【0354】
実施例34 (図38
さまざまな個人に由来するヒト正常皮膚由来線維芽細胞(HDF45、HDF69、HDF22)を用いて、実施例33と同様の培養を行った。
【0355】
Day 15に、各wellから培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄後、10%ホルマリンにて固定した。滅菌蒸留水で3回洗浄した。Alizarin Red S染色後、wellを滅菌蒸留水にて洗浄し、倒立顕微鏡で40倍の倍率で撮影した。
結果を図38に示す。
【0356】
図37図38の結果から、異なる個人に由来するいずれのヒト正常皮膚由来線維芽細胞も、ALK5 i IIを添加した石灰化誘導培地で培養することにより、骨芽細胞にコンヴァートすることがわかった。
【0357】
実施例35 (図39
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(HDFs)を通常培地(10% FBSを添加したDMEM)に縣濁した。これを1×104cells/wellの濃度で24-well plateに播種し(day 0)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、図中に記載のとおり、石灰化誘導培地(OB培地)、または各小分子化合物および/またはサイトカインを添加した石灰化誘導培地を、500 μL/well加えた。
【0358】
石灰化誘導培地は、10% FBS、50 μg/mlアスコルビン酸、10 mM β-glycerophosphate、100 nM Dexamethasoneを添加したDMEMである。
【0359】
添加した小分子化合物あるいはサイトカインの濃度は以下の通りである。
ALK5 i II: 4 μM
1α,25-dihydroxy Vitamin D3 (VD3): 5 nM
Human insulin-like growth factor-1 (IGF-1): 100 ng/ml。
【0360】
3~4日に1度、培養液をフレッシュなものに置換し、day 18まで培養した。
【0361】
Day 18に、各wellから培養液を吸引除去し、PBSで洗浄後、細胞からISOGEN IIにてtotal RNAを抽出した。このRNAから、Rever Tra Ace qPCR RT Master Mixを用いてcDNAを合成した。このcDNAにReal-time PCR Master Mix、およびAlkaline Phosphatase、Osteocalcin、Bonesialoproteinまたはβ-actin遺伝子に特異的なprimersとTaqman pobeを、混和した。AB7300 Real-time PCR systemを用いてqRT-PCRを行った。Alkaline Phosphatase、Osteocalcin(OC)、Bonesialoprotein遺伝子のmRNAレベルをβ-actin遺伝子mRNAレベルに対する比として定量し、ALK5 i IIを加えた石灰化誘導培地で培養した線維芽細胞の値を1として算出した。
【0362】
結果を図39に示す。ALPのmRNA発現は、ALK5 i IIを添加した石灰化誘導培地で培養した細胞で有意に上昇した。OCのmRNA発現は、石灰化誘導培地で培養した細胞に比して、ALK5 i IIを添加した石灰化誘導培地で培養した細胞では上昇していたが、ALK5 i IIを添加した石灰化誘導培地で培養した細胞に比して、ALK5 i IIとVD3を添加した石灰化誘導培地で培養した細胞でさらに有意に上昇した。BSPのmRNA発現は、石灰化誘導培地で培養した細胞に比して、ALK5 i IIを添加した石灰化誘導培地で培養した細胞では上昇していたが、ALK5 i IIを添加した石灰化誘導培地で培養した細胞に比して、ALK5 i IIとIGF-1を添加した石灰化誘導培地で培養した細胞でさらに有意に上昇した。数値は平均値±S.D.である(
Values are means ± S.D. (n=4).)。
【0363】
実施例36 (図40
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(HDFs)を通常培地(10% FBSを添加したDMEM)に縣濁した。これを1×104cells/wellの濃度で24-well plateに播種し(day 0)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、通常培地、またはALK5 i II、VD3、IGF-1を、それぞれ4 μM 、5 nM、100 ng/mlの濃度で添加した石灰化誘導培地を、500 μL/well加えた。
【0364】
石灰化誘導培地は、10% FBS、50 μg/mlアスコルビン酸、10 mM β-glycerophosphate、100 nM Dexamethasoneを添加したDMEMである。
【0365】
3~4日に1度、培養液をフレッシュなものに置換し、day 18まで培養した。
【0366】
Day 18に、各wellから培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄した。4%パラホルムアルデヒドで固定後、PBS(-)にて洗浄した。PBS(-)にて3回洗浄した後、Blocking Oneを加えて、室温で60分間インキュベートした。
【0367】
抗Osteocalcin抗体を加えて4℃でover nightで反応させた後、Wash bufferにて3回washした。Alexa 488-conjugated anti-mouse Ig抗体を加えて室温で1時間反応させた後、Wash bufferにて3回washした。その後DAPIを用いて核染色を行い、蛍光顕微鏡を用いて倍率200倍で写真撮影を行った。またBZ-H3C, BZ-H3CM(KEYENCE)を用いてOC陽性細胞数/DAPI数を計算した。
【0368】
結果を図40に示す。HDFsでは、DAPIで染色される細胞核が多数見られたが、抗OC抗体で著明に染色される細胞はほとんど存在しなかった。他方、CdOBは、多くの細胞が抗OC抗体によって強く染色された。核がDAPIで染色される細胞数を分母とし、抗OC抗体で染色される細胞数を分子とする比を計算すると、ヒト線維芽細胞の約87%がオステオカルシンたんぱくを発現する骨芽細胞にコンヴァージョンしたことがわかる。図中、**はHDFに対してp <0.01であることを示す(**p <0.01 vs. the HDF.)。
【0369】
実施例37 (図41
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(human dermal fibroblasts; HDFs)を通常培地(10% FBS を添加したDulbecco's modified minimum essential medium; DMEM)に縣濁した。これを 3×104 cells/well の濃度で12-well plate に播種し(Day 0)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、図に示すように、群1には通常培地を1 mL/well 加えた。群2にはRosiglitazoneを含まない脂肪細胞誘導培地(脂肪細胞誘導培地(R-))を1 mL/well 加えた。群3には脂肪細胞誘導培地を1 mL/well 加えた。群4にはALK5 inhibitor II を4 μMの濃度で添加した脂肪細胞誘導培地(R-)を1 mL/well 加えた。群5~9にはALK5 inhibitor II を4 μMの濃度で添加した脂肪細胞誘導培地を1 mL/well加えた。
【0370】
脂肪細胞誘導培地は、(1 nM T3, 1 μM Rosiglitazone, 0.5 mM 3-isobutyl-1-methylxanthine(IBMX)、0.5 μM dexamethasone、1 μg/mL Insulin および10% FBSを添加したDMEM)である。
【0371】
脂肪細胞誘導培地(R-)は、(1 nM T3, 0.5 mM 3-isobutyl-1-methylxanthine(IBMX)、0.5 μM dexamethasone、1 μg/mL Insulin および10% FBSを添加したDMEM)である。
【0372】
2 日に1 度、培養液をフレッシュなものに置換した。群5~9では、図に記載にように、それぞれ0-2日、0-4日、0-6日、0-8日、0-10日の期間のみALK5 inhibitor II を添加した脂肪細胞誘導培地で培養し、その後はALK5 inhibitor II を添加しない脂肪細胞誘導培地で培養した。Day 14 に、各well から培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄後、細胞からQiagen社製 RNA easy Mini Kitを用いてtotal RNA を抽出した。このRNA から、Rever Tra Ace qPCR RT Master Mix を用いてcDNA を合成した。このcDNA にReal-time PCR Master Mix と、UCP-1遺伝子またはβ アクチン遺伝子に特異的なprimers とTaqman probe を、混和した。AB7300 Real-time PCR system を用いてqRT-PCR を行った。UCP1 遺伝子のmRNA レベルをβ アクチン遺伝子mRNAレベルに対する比として定量し、通常培地で培養した線維芽細胞の値を1として算出した。
【0373】
結果を図41に示す。ALK5 inhibitor IIを添加した脂肪細胞誘導培地で培養することにより、線維芽細胞がUCP1 遺伝子を強発現する褐色脂肪細胞にコンヴァートしたことがわかる。とくにALK5 inhibitor IIを0-8日間加え、その後、ALK5 inhibitor IIを含まない脂肪細胞誘導培地で4日間培養することによって、もっとも強く線維芽細胞の褐色脂肪細胞へのコンヴァージョンを誘導できることがわかる。
【0374】
実施例38 (図42
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(HDFs)を通常培地(10% FBS を添加したDMEM)に縣濁した。これを 3×104 cells/well の濃度で12-well plate に播種し(Day 0)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、群1には通常培地を1 mL/well 加えた(Control)。群2には脂肪細胞誘導培地を1 mL/well 加えた。群3~8にはALK5 inhibitor II を4 μMの濃度で添加した脂肪細胞誘導培地を1 mL/well加えた。
【0375】
脂肪細胞誘導培地は、(1 nM T3, 1 μM Rosiglitazone, 0.5 mM 3-isobutyl-1-methylxanthine(IBMX)、0.5 μM dexamethasone、1 μg/mL Insulin, および10% FBS を添加したDMEM)である。2 日に1 度、培養液をフレッシュなものに置換した。群3~7では、図に記載にしたように、それぞれ0-2日、0-4日、0-6日、0-8日、0-10日の期間のみALK5 inhibitor II を添加した脂肪細胞誘導培地で培養し、その後はALK5 inhibitor II を添加しない脂肪細胞誘導培地で培養した。Day 14 に、各well から培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄した。4%パラホルムアルデヒドで固定後、PBS(-)にて洗浄し、Perm Buffer(0.2% Triton-X 添加PBS)を加えて15 分間インキュベートした。PBS(-)にて3 回洗浄した後、Blocking One を加えて、室温で60 分間インキュベートした。抗UCP-1 抗体(RD MAB6158)を加えて室温で2 時間反応させた後、Wash buffer にて3 回wash した。CF488-conjugated anti-mouse Ig 抗体(Biotum 20014)を加えて室温で2 時間反応させた後、PBS(-) にて3 回wash した。Lifetechnology社製SlowFade Gold antifade reagent with DAPIで核染色したのち蛍光顕微鏡を用いて倍率100 倍で写真撮影を行った。
【0376】
蛍光顕微鏡像を図42に示す。群1と群2の細胞はほとんど抗UCP1抗体で染色されなかった。群3~8では抗UCP1抗体で染色される細胞が多数認められた。とくに群6では、抗UCP1抗体で染色される細胞の密度が最も高かった。ALK5 inhibitor IIを添加した脂肪細胞誘導培地で培養することにより、線維芽細胞がUCP1 たんぱくを高発現する褐色脂肪細胞にコンヴァートしたことがわかる。とくにALK5 inhibitor IIを0-8日間加え、その後、ALK5 inhibitor IIを含まない脂肪細胞誘導培地で4日間培養することによって、もっとも強く線維芽細胞の褐色脂肪細胞へのコンヴァージョンを誘導できることがわかる。
【0377】
実施例39 (図43
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(HDFs)を通常培地(10% FBS を添加したDMEM)に縣濁した。これを 3×104 cells/well の濃度で12-well plate に播種し(Day 0)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、通常培地、脂肪細胞誘導培地(BA medium)、または化合物 ALK5 inhibitor II、LY2157299、SB431542、D4476を添加した脂肪細胞誘導培地を、1mL/well 加えた。化合物の添加濃度は4 μM、8 μM、12 μM、または16 μMである。脂肪細胞誘導培地は、(1 nM T3, 1 μM Rosiglitazone, 0.5 mM 3-isobutyl-1-methylxanthine(IBMX)、0.5 μM dexamethasone、1 μg/mL Insulin および10% FBSを添加したDMEM)である。2 日に1 度、培養液をフレッシュなものに置換し、Day 1 - Day 8まで培養した。その後、Day 9 - Day 14までは、ALK5 inhibitor II、LY2157299、SB431542、D4476をいずれも含まない培地で培養した。Day 14 に、各well から培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄後、細胞からQiagen社製 RNA easy Mini Kitを用いてtotal RNA を抽出した。このRNA から、Rever Tra Ace qPCR RT Master Mix を用いてcDNA を合成した。このcDNA にReal-time PCR Master Mix と、UCP-1遺伝子またはβ アクチン遺伝子に特異的なprimers とTaqman probe を、混和した。AB7300 Real-time PCR system を用いてqRT-PCR を行った。UCP1 遺伝子のmRNA レベルをβ アクチン遺伝子mRNAレベルに対する比として定量し、通常培地で培養した線維芽細胞の値を1として算出した。
【0378】
結果を図43に示す。ALK5 inhibitor II、LY2157299、SB431541、D4476のいずれかを添加した脂肪細胞誘導培地で培養することにより、線維芽細胞がUCP1 遺伝子を強発現する褐色脂肪細胞にコンヴァートしたことがわかる。とくにALK5 inhibitor IIがもっとも強く線維芽細胞の褐色脂肪細胞へのコンヴァージョンを誘導したこと、LY2157299がそれに次ぐことがわかる。
【0379】
実施例40 (図44
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(HDFs)を通常培地(10% FBS を添加したDMEM)に縣濁した。これを 3×104 cells/well の濃度で12-well plate に播種し(Day 0)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、図のように群1には通常培地を、群2には脂肪細胞誘導培地を、群3~6には化合物ALK5 inhibitor II (4 μM)、LY2157299 (8 μM)、SB431542 (4 μM)、D4476 (4 μM)をそれぞれ加えた脂肪細胞誘導培地を、1mL/well 加えた。脂肪細胞誘導培地は、(1 nM T3, 1 μM Rosiglitazone, 0.5 mM 3-isobutyl-1-methylxanthine(IBMX)、0.5 μM dexamethasone、1 μg/mL Insulin および10% FBSを添加したDMEM)である。2 日に1 度、培養液をフレッシュなものに置換し、Day 1 - Day 8まで培養した。その後、Day 9からDay 14は、ALK5 inhibitor II、LY2157299、SB431542、D4476 をいずれも含まない脂肪細胞誘導培地で培養した。Day 14 に、各well から培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄した。4%パラホルムアルデヒドで固定後、PBS(-)にて洗浄し、Perm Buffer(0.2% Triton-X 添加PBS)を加えて15 分間インキュベートした。PBS(-)にて3 回洗浄した後、Blocking One を加えて、室温で60 分間インキュベートした。抗UCP-1 抗体(RD MAB6158)を加えて室温で2 時間反応させた後、Wash buffer にて3 回wash した。CF488-conjugated anti-mouse Ig 抗体(Biotum 20014)を加えて室温で2 時間反応させた後、PBS (-) にて3 回wash した。Lifetechnology社製SlowFade Gold antifade reagent with DAPIで核染色したのち蛍光顕微鏡を用いて倍率100 倍で写真撮影を行った。
【0380】
結果を図44(蛍光顕微鏡像)に示す。すべての群で、DAPIで染色される細胞核が多数認められた。群1と群2では、抗UCP1抗体で染色される細胞はほとんど見られなかった。一方、群3~6では、抗UCP1抗体で染色される細胞が多数認められた。とくに群3は、抗UCP1抗体で染色される細胞がもっとも高い密度で認められ、群4がそれに次いだ。したがって、ALK5 inhibitor II、LY2157299、SB431541、D4476、のいずれかを添加した脂肪細胞誘導培地で培養することにより、線維芽細胞がUCP1 たんぱくを発現する褐色脂肪細胞にコンヴァートしたことがわかる。とくに、AKL5 inhibitor IIがもっとも強く線維芽細胞の褐色脂肪細胞へのコンヴァージョンを誘導したこと、LY2157299がそれに次ぐことがわかる。
【0381】
実施例41 (図45
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(HDFs)を通常培地(10% FBS を添加したDMEM)に縣濁した。これを 3×104 cells/well の濃度で12-well plate に播種し(day 0)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、通常培地、脂肪細胞誘導培地、あるいは化合物 ALK5 inhibitor II(4μM)またはLY2157299(8μM)を加えた脂肪細胞誘導培地を、1 mL/well 加えた。脂肪細胞誘導培地は、(1 nM T3, 1 μM Rosiglitazone, 0.5 mM 3-isobutyl-1-methylxanthine(IBMX)、0.5 μM dexamethasone、1 μg/mL Insulin および 10% FBSを添加したDMEM)である。2 日に1 度、培養液をフレッシュなものに置換し、Day 1 - Day 8まで培養した。その後、Day 9 - Day 14までは、ALK5 inhibitor IIもLY2157299を含まない培地で培養した。Day 14 に、各well から培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄後、細胞からQiagen社製 RNA easy Mini Kitを用いてtotal RNA を抽出した。このRNA から、Rever Tra Ace qPCR RT Master Mix を用いてcDNA を合成した。このcDNA にReal-time PCR Master Mix と、UCP-1遺伝子、CIDEA遺伝子、KCNK3遺伝子またはβ アクチン遺伝子に特異的なprimers とTaqman probe を混和した。AB7300 Real-time PCR system を用いてqRT-PCR を行った。UCP1 遺伝子のmRNA レベルをβ アクチン遺伝子mRNAに対する比として定量し、通常培地で培養した線維芽細胞の値を1として算出した。
【0382】
結果を図45に示す。ALK5 inhibitor II、またはLY2157299のいずれかを添加した脂肪細胞誘導培地で培養することにより、線維芽細胞がUCP1遺伝子、CIDEA遺伝子、KCNK3遺伝子発現する褐色脂肪細胞にコンヴァートしたことがわかる。とくに、AKL5 inhibitor IIがより強力に線維芽細胞の褐色脂肪細胞へのコンヴァージョンを誘導したことがわかる。
【0383】
実施例42 (図46
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(HDFs)を通常培地(10% FBS を添加したDMEM)に縣濁した。これを 3×104 cells/well の濃度で12-well plate に播種し(Day 0)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、通常培地、脂肪細胞誘導培地、またはALK5 inhibitor IIを、4 μMの濃度で加えた脂肪細胞誘導培地を、1 mL/well 加えた。脂肪細胞誘導培地は、(1 nM T3, 1 μM Rosiglitazone, 0.5 mM 3-isobutyl-1-methylxanthine(IBMX)、0.5 μM dexamethasone、1 μg/mL Insulin および10% FBSを添加したDMEM)である。2 日に1 度、培養液をフレッシュなものに置換し、Day 1 - Day 8まで培養した。その後、Day 9 - Day 14までは、ALK5 inhibitor IIを含まない培地で培養した。Day 14 に、各well から培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄した。4%パラホルムアルデヒドで固定後、PBS(-)にて洗浄し、Perm Buffer(0.2% Triton-X 添加PBS)を加えて15 分間インキュベートした。PBS(-)にて3 回洗浄した後、Blocking One を加えて、室温で60 分間インキュベートした。抗UCP-1 抗体(RD MAB6158)を加えて室温で2 時間反応させた後、Wash buffer にて3 回wash した。CF488-conjugated anti-mouse Ig 抗体(Biotum 20014)を加えて室温で2 時間反応させた後、PBS(-) にて3 回wash した。Lifetechnology社製SlowFade Gold antifade reagent with DAPIで核染色したのち蛍光顕微鏡を用いて倍率100 倍で写真撮影を行った。撮影した画像をKeyence BZ-H3A softwareを用いてDAPI陽性細胞中のUCP1陽性細胞のパーセンテージを算出した。
【0384】
結果を図46に示す。通常培地で培養したHDFsと、ALK5 inhibitor IIを添加しない脂肪細胞誘導培地で培養した細胞では、DAPIで染色される細胞核が多数見られたが、抗UCP1抗体で染色される細胞はほとんど存在しなかった。他方、ALK5 inhibitor IIを添加した脂肪細胞誘導培地で培養した細胞は、多くの細胞が抗UCP1抗体によって強く染色された。核がDAPIで染色される細胞数を分母とし、抗UCP1抗体で染色される細胞数を分子とする比を計算した結果、ALK5 inhibitor II を添加した脂肪細胞誘導培地で培養することにより、90%を超える線維芽細胞が、UCP1タンパク質を高発現する褐色脂肪細胞にコンヴァートしたことがわかる。
【0385】
実施例43(図47
正常ヒト表皮角化細胞(Human Epidermal Keratinocyte; NHEK(AD))を正常ヒト表皮角化細胞増殖用無血清液体培地(HuMedia-KG2 ; Kurabo社製)に縣濁した。これを 3×104 cells/well の濃度で12-well plate に播種し(Day 0)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、HuMedia-KG2培地(Ctrl medium)、K-脂肪細胞誘導培地(ケラチノサイト用脂肪細胞誘導培地)、または、ALK5 inhibitor II(4 μM)あるいはLY2157299(8 μM)を添加したK-脂肪細胞誘導培地を、1mL/well 加えた。
【0386】
K-脂肪細胞誘導培地は、(1 nM T3, 1 μM Rosiglitazone, 0.5 mM 3-isobutyl-1-methylxanthine(IBMX)、0.5 μM dexamethasone、1 μg/mL Insulinを加えたHuMedia-KG2)である。
【0387】
2 日に1 度、培養液をフレッシュなものに置換し、Day 1 - Day 8まで培養した。その後、Day 9 - Day 14までは、ALK5 inhibitor IIもLY2157299を含まない培地で培養した。Day 14 に、各well から培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄後、細胞からQiagen社製 RNA easy Mini Kitを用いてtotal RNA を抽出した。このRNA から、Rever Tra Ace qPCR RT Master Mix を用いてcDNA を合成した。このcDNA にReal-time PCR Master Mix と、UCP-1遺伝子、CIDEA遺伝子、またはβ アクチン遺伝子に特異的なprimers とTaqman probe を、混和した。AB7300 Real-time PCR system を用いてqRT-PCR を行った。UCP1 遺伝子とCIDEA遺伝子のmRNA レベルをβ アクチン遺伝子mRNAレベルに対する比として定量し、通常培地で培養した線維芽細胞の値を1として算出した。
【0388】
結果を図47に示す。ALK5 inhibitor II、LY2157299、のいずれかを添加したK-脂肪細胞誘導培地で培養することにより、正常ヒト表皮角化細胞がUCP1遺伝子、CIDEA遺伝子発現する褐色脂肪細胞にコンヴァートしたことがわかる。
【0389】
実施例44(図48
正常ヒト表皮角化細胞(Human Epidermal Keratinocyte; NHEK(AD))を正常ヒト表皮角化細胞増殖用無血清液体培地(HuMedia-KG2 ; Kurabo社製)に縣濁した。これを 3×104 cells/well の濃度で12-well plate に播種し(Day 0)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、HuMedia-KG2培地(Ctrl medium)、K-骨芽細胞誘導培地(ケラチノサイト用骨芽細胞誘導培地)、または化合物 ALK5 inhibitor II(4 μM)を添加したK-骨芽細胞誘導培地を、1mL/well 加えた。K-骨芽細胞誘導培地は、50 μg/mL ascorbic acid, 10 mM β-glycerol phosphate, and 100 nM dexamethasone を添加したHuMedia-KG2である。2 日に1 度、培養液をフレッシュなものに置換し、 Day 14まで培養した。その後、Day 14 - Day 28までは、いずれの細胞もALK5 inhibitor IIを含まない培地で培養した。Day 28 に、各well から培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄後、細胞からQiagen社製 RNA easy Mini Kitを用いてtotal RNA を抽出した。このRNA から、Rever Tra Ace qPCR RT Master Mix を用いてcDNA を合成した。このcDNA にReal-time PCR Master Mix と、Runx2遺伝子またはβ アクチン遺伝子に特異的なprimers とTaqman probe を、混和した。AB7300 Real-time PCR system を用いてqRT-PCR を行った。Runx2遺伝子のmRNA レベルをβ アクチン遺伝子mRNAレベルに対する比として定量し、通常培地で培養した線維芽細胞の値を1として算出した。
【0390】
結果を図48に示す。ALK5 inhibitor IIを添加したK-骨芽細胞誘導培地で培養することにより、正常ヒト表皮角化細胞がRunx2遺伝子を発現する骨芽細胞にコンヴァートしたことがわかる。
実施例45 (図49
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(human dermal fibroblasts; HDFs)をControl培地に縣濁した。これを104 cells/mm2の濃度で48-well plateに播種し(第 0日)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。第4日に培養上清を吸引除去し、ウェルを5群に分け、図中に記載の培地を加えた。すなわち、
群1:Control培地
群2:WA培地
群3:1 μM Rosiglitazoneを添加したWA培地
群4:16 μMのALK5 inhibitor IIを添加したWA培地
群5:16 μMのALK5 inhibitor II と1 μM Rosiglitazoneを添加したWA培地。
【0391】
培地の組成は以下のとおりである。
Control培地は、10% FBS、100 mM non-essential amino acids (NEAA), 100 U/ml penicillin, および 100 μg/mL streptomycinを添加したDulbecco’s modified minimum essential medium; DMEMである。
WA培地は、10% FBS、100 mM non-essential amino acids (NEAA), 100 U/ml penicillin, 100 μg/mL streptomycin、0.5 mM IBMX(3-isobutyl-1-methylxanthine)、62.5 nM Indomethacin、1 μM Dexamethasone、および170 nM Insulinを添加したDulbecco’s modified minimum essential medium; DMEMである。
【0392】
5% CO2/95% humidified air、37℃で培養をつづけた。第6、8、10日に同じ組成のフレッシュな培地にそれぞれ交換した。
【0393】
第12日に以下のようにBODIPY染色を行った。
(1)ウェル内の培養液を除去後、PBSで各ウェルを1回洗浄。
(2)各ウェルに4%ホルムアルデヒド液を50μL加え、室温で一晩固定。
(3)PBSで2 回洗浄。
(4)各ウェルにBODIPY染色液を50μLずつ加え、室温で30 分間静。
(5)ウェル内から染色液を除去後、室温で30 分間静置。
【0394】
蛍光顕微鏡で撮影した、位相差像と緑色蛍光像を図49に示す。Control培地で培養した細胞はほとんどBodipyでは染色されず、Rosiglitazoneを添加したWA培地で培養した群にはごく弱く染色される細胞が低い頻度で存在する。ALK5 inhibitor IIを添加したWA培地で培養した群ではより強く染色される細胞がより多く認められる。ALK5 inhibitor IIと Rosiglitazoneの両方を添加したWA培地で培養した群では、最も多くの細胞が強くBODIPYで染色された。したがって、ALK5 inhibitor II を添加したWA培地で培養することにより、ヒト線維芽細胞が白色脂肪細胞にコンヴァートしたことがわかる。とくにRosiglitazoneの共存下で、AKL5 inhibitor IIがより強力に線維芽細胞の白色脂肪細胞へのコンヴァージョンを誘導したことがわかる。
【0395】
実施例46 (図50
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(human dermal fibroblasts; HDFs)をControl培地に縣濁した。これを104 cells/mm2の濃度で48-well plateに播種し(第 0日)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。第4日に培養上清を吸引除去し、ウェルを7群に分け、図中に記載の培地を加えた。すなわち、
群1:Control培地
群2:WA培地
群3:1 μM Rosiglitazoneを添加したWA培地
群4:8 μMのALK5 inhibitor IIを添加したWA培地
群5:16 μMのALK5 inhibitor IIを添加したWA培地
群6:8 μMのALK5 inhibitor II と1 μM Rosiglitazoneを添加したWA培地。
群7:16 μMのALK5 inhibitor II と1 μM Rosiglitazoneを添加したWA培地。
【0396】
培地の組成は実施例45と同じである。
【0397】
5% CO2/95% humidified air、37℃で培養をつづけた。第6、8、10日に同じ組成のフレッシュな培地にそれぞれ交換した。
【0398】
第12日に、実施例45と同様にBODIPYで染色し、脂肪滴を蛍光染色した。蛍光顕微鏡BZ-9000 (Keyence)を用いて100倍で撮影した。BZ-II Analyzer software (Keyence, Osaka, Japan) でBODIPY陽性細胞数を算出し、各群間の比較を行った。
【0399】
結果(平均±標準偏差)を図50に示す。Control培地で培養した細胞はほとんどBODIPYで染色されなかったが、1 μM のRosiglitazoneあるいは16 μMのALK5 inhibitor IIのいずれかを添加したWA培地で培養した群には染色される細胞が低い頻度で存在した。8μMまたは16 μMのALK5 inhibitor IIと、1 μM のRosiglitazoneを共添加したWA培地で培養した群では、染色される細胞がより多く認められた。したがって、ALK5 inhibitor II を添加したWA培地で培養することにより、ヒト線維芽細胞が白色脂肪細胞にコンヴァートしたことがわかる。とくにRosiglitazoneの共存下で、AKL5 inhibitor IIがより強力に線維芽細胞の白色脂肪細胞へのコンヴァージョンを誘導したことがわかる。
【0400】
実施例47 (図51
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(human dermal fibroblasts; HDFs)をControl培地に縣濁した。これを104 cells/mm2の濃度で6-well plateに播種し(第 0日)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。第4日に培養上清を吸引除去し、ウェルを5群に分け、実施例45と同様に図中に記載の培地を加えた。培地の組成は実施例45と同じである。
【0401】
5% CO2/95% humidified air、37℃で培養をつづけた。第6、8、10日に同じ組成のフレッシュな培地にそれぞれ交換した。
【0402】
第12日に、細胞からRNAを回収した。AdipoQ、FABP4(成熟脂肪細胞マーカー)、およびPPAR-γ(脂肪前駆細胞マーカー)遺伝子にそれぞれ特異的なTaqManプローブとPrimerを用い、リアルタイムPCRを行ってmRNAを定量した。
【0403】
結果(平均)(相対値)を図51に示す。AdipoQとFABP4は、ALK5 i II単独添加培養で軽度に発現誘導され、ALK5 i IIとRosiglitazoneの共添加で強く発現誘導された。PPAR-γはWA培地での培養でも軽度発現が誘導され、ALK5 i IIあるいはRosiglitazoneのいずれかの添加で中等度発現誘導され、ALK5 i IIとRosiglitazoneの共添加で強く発現誘導された。
【0404】
したがって、ALK5 inhibitor II を添加したWA培地で培養することにより、ヒト線維芽細胞が白色脂肪細胞にコンヴァートしたことがわかる。とくにRosiglitazoneの共存下で、AKL5 inhibitor IIがより強力に線維芽細胞の白色脂肪細胞へのコンヴァージョンを誘導したことがわかる。
【0405】
実施例48 (図52
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(human dermal fibroblasts; HDFs)をControl培地に縣濁した。これを104 cells/mm2の濃度で48-well plateに播種し(第 0日)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。第4日に培養上清を吸引除去し、ウェルを10群に分け、図中に記載の培地を加えた。すなわち、
群1:WA培地
群2:16 μMのALK5 inhibitor II(ALK5 i II)を添加したWA培地
群3:16 μMのLY2157299を添加したWA培地
群4:16 μMのSB431542を添加したWA培地
群5:16 μMのD4476を添加したWA培地
群6:1 μM Rosiglitazoneを添加したWA培地。
群7:16 μMのALK5 inhibitor II (ALK5 i II)と1 μM Rosiglitazoneを添加したWA培地。
群8:16 μMのLY2157299と1 μM Rosiglitazoneを添加したWA培地。
群9:16 μMのSB431542と1 μM Rosiglitazoneを添加したWA培地。
群10:16 μMのD4476と1 μM Rosiglitazoneを添加したWA培地。
【0406】
培地の組成は実施例45と同じである。
【0407】
5% CO2/95% humidified air、37℃で培養をつづけた。第6、8、10日に同じ組成のフレッシュな培地にそれぞれ交換した。
【0408】
第12日に、実施例45と同様にBODIPYで染色し、脂肪滴を蛍光染色した。蛍光顕微鏡BZ-9000 (Keyence)を用いて100倍で撮影した。BZ-II Analyzer software (Keyence, Osaka, Japan) で脂肪細胞数を算出し、各群間比較を行った。結果を図52に示す。
【0409】
ALK5 inhibitor II、LY2157299、SB431542、あるいはD4476をそれぞれ単独で添加したWA培地で培養した細胞は、少数の細胞のみBodipyで染色される脂肪滴を有していたが、ALK5 inhibitor II、LY2157299、SB431542、D4476のいずれかとRosiglitazoneの両者を添加したWA培地で培養した群には、染色される細胞が多数認められた。したがって、TGF-βパスウェイ阻害剤を添加したWA培地で培養すると、ヒト線維芽細胞が白色脂肪細胞にコンヴァートすることがわかる。またTGF-βパスウェイ阻害剤とRosiglitazoneの両者を添加したWA培地で培養すると、ヒト線維芽細胞がTGF-βパスウェイ阻害剤単独よりもより効率よく白色脂肪細胞にコンヴァートしたことがわかる。とくにTGF-βパスウェイ阻害剤の中でもAKL5 inhibitor IIが、最も強力に線維芽細胞の白色脂肪細胞へのコンヴァージョンを誘導したことがわかる。
【0410】
実施例49 (図53
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(human dermal fibroblasts; HDFs)をControl培地に縣濁した。これを104 cells/mm2の濃度で6-well plateに播種し(第 0日)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。第4日に培養上清を吸引除去し、ウェルを10群に分け、実施例48と同様に、図中に記載の培地を加えた。培地の組成は実施例45と同じである。
【0411】
5% CO2/95% humidified air、37℃で培養をつづけた。第6、8、10日に同じ組成のフレッシュな培地にそれぞれ交換した。
【0412】
第12日に、実施例48と同様にBODIPYで染色し、脂肪滴を蛍光染色した。蛍光顕微鏡BZ-9000 (Keyence)を用いて100倍で撮影した。BZ-II Analyzer software (Keyence, Osaka, Japan) でBODIPY陽性細胞数、BODIPYで染色された面積、およびBODIPYによる染色の強度を算出し、各群間の比較を行った。
【0413】
結果(平均±標準偏差)を図53に示す。Control培地で培養した細胞はほとんどBODIPYで染色されなかったが、1 μM のRosiglitazoneあるいは16 μMのALK5 inhibitor IIのいずれかを添加したWA培地で培養した細胞は少量の脂肪を蓄積していた。16 μMのALK5 inhibitor II 、LY2157299、SB431542とD4476はいずれも、Rosiglitazone と共添加することで、Rosiglitazone 単独よりも強く脂肪蓄積を誘導した。ALK5 inhibitor IIと1 μM のRosiglitazoneを共添加したWA培地で培養した群では、もっとも多量の脂肪を蓄積する細胞が認められた。したがって、TGF-βパスウェイ阻害剤を添加したRosiglitazoneを含むWA培地で培養することにより、ヒト線維芽細胞が効率よく白色脂肪細胞にコンヴァートしたことがわかる。とくにTGF-βパスウェイ阻害剤の中でもAKL5 inhibitor IIが、最も強力に線維芽細胞の白色脂肪細胞へのコンヴァージョンを誘導したことがわかる。
【0414】
実施例50 (図54
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(human dermal fibroblasts; HDFs)をControl培地に縣濁した。これを104 cells/mm2の濃度で6-well plateに播種し(第 0日)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。第4日に培養上清を吸引除去し、ウェルを5群に分け、図中に記載の培地を加えた。すなわち、
群1:1 μM Rosiglitazone を添加したWA培地
群2:1 μM Rosiglitazone と16 μMのALK5 inhibitor II(ALK5 i II)を添加したWA培地
群3:1 μM Rosiglitazone と16 μMのLY2157299(LY)を添加したWA培地
群4:1 μM Rosiglitazone と16 μMのSB431542(SB)を添加したWA培地
群5:1 μM Rosiglitazone と16 μMのD4476(D4)を添加したWA培地。
【0415】
培地の組成は実施例45と同じである。5% CO2/95% humidified air、37℃で培養をつづけた。第6、8、10日に同じ組成のフレッシュな培地にそれぞれ交換した。
【0416】
第12日に、細胞からRNAを回収し、実施例47と同様に、AdipoQ、FABP4(成熟脂肪細胞マーカー)、およびPPAR-γ(脂肪前駆細胞マーカー)遺伝子のmRNAを定量した。
【0417】
結果(平均)を図54に示す。群2~5の細胞は、AdipoQ、FABP4あるいはPPAR-γのいずれか1つ以上の遺伝子のmRNAを中程度~高度発現していた。ALK5 inhibitor IIを添加した細胞が、これら3つの遺伝子のすべてを最も強く発現していた。
【0418】
したがって、ALK5 inhibitor II 、LY2157299、SB431542とD4476は、いずれもヒト線維芽細胞が白色脂肪細胞にコンヴァートさせたことがわかる。とくにTGF-βパスウェイ阻害剤の中でもAKL5 inhibitor IIが、最も強力に線維芽細胞の白色脂肪細胞へのコンヴァージョンを誘導したことがわかる。
【0419】
実施例51 (図55
ヒト線維芽細胞aHDF45を24ウェルプレートに1.0×104 cells/500 μL/wellずつ播種した。翌日、ウェルを2群に分け、1群は培地を下記のControl培地に交換し、別の1群は4 μMのAlk5 i IIを添加した下記のSC培地に交換した。37℃、5% CO2/95% 大気下で14日間培養した。培地交換は週2回行った。
Control培地:10% FBS、100 mM non-essential amino acids (NEAA), 1 mM Sodium Pyruvate、100 U/ml penicillin, および 100 μg/mL streptomycinを添加したDulbecco’s modified minimum essential medium; DMEM。
SC(Schwann cell)培地:10% FBS、10 ng/mL rhbFGF(basic fibroblast growth factor)、5.7 μg/mL Forskolin 、200 ng/mL rhHeregulin beta-1、5 ng/mL rhPDGF-AA 、100 mM non-essential amino acids (NEAA), 1 mM Sodium Pyruvate、100 U/ml penicillin, および 100 μg/mL streptomycinを添加したDulbecco’s modified minimum essential medium; DMEM。
【0420】
8日目および14日目に各細胞からRNeasy Mini QIAcube Kit (QIAGEN)を用いてRNAを抽出し、ReverTra Ace qPCR RT Master Mix (TOYOBO)を用いて逆転写反応を行ってcDNAを合成した。得られたcDNAを用いて、StepOnePLUS (Applied Biosystems)によるEGR2およびS100β遺伝子のmRNA発現のreal time RT-PCR解析を行った。
【0421】
結果を図55に示す。4 μMのAlk5 i IIを添加したSC培地で培養することで、ヒト線維芽細胞が、S100βとEGR2を共発現するシュワン細胞にコンヴァートしたことがわかる。
【0422】
実施例52 (図56
正常ヒト表皮角化細胞(Human Epidermal Keratinocyte ; NHEK(AD))を正常ヒト表皮角化細胞増殖用無血清液体培地(HuMedia-KG2 ; Kurabo社製)に縣濁した。これを 3×104 cells/well の濃度で12-well plate に播種し(Day 0)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、HuMedia-KG2培地、ヒト表皮基底細胞増殖用培地(CnT-PR;CELLnTEC社製)、またはALK5 inhibitor IIを1 μMまたは10 μMの濃度で添加したヒト表皮基底細胞増殖様培地を、それぞれ1 mL/well 加えた。2 日に1 度、培養液をフレッシュなものに置換し、day 21まで培養した。Day 21 に各well から培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄後、細胞からQiagen社製 RNA easy Mini Kitを用いてtotal RNA を抽出した。このRNA から、Rever Tra Ace qPCR RT Master Mix を用いてcDNA を合成した。このcDNA にReal-time PCR Master Mix と、Uroplakin 1b遺伝子、Uroplakin 3b遺伝子またはβ アクチン遺伝子に特異的なprimers とTaqman probe を、混和した。AB7300 Real-time PCR system を用いてqRT-PCR を行った。Uroplakin 1b 遺伝子とUroplakin 3b遺伝子のmRNA レベルをβ アクチン遺伝子mRNAレベルに対する比として定量し、HuMedia-KG2培地で培養したヒト表皮角化細胞の値を1として算出した。その結果を図56に示す。ALK5 inhibitor IIを添加したCnT-PR培地で培養することにより、ヒト表皮角化細胞が、Uroplakin 1b遺伝子とUroplakin 3b遺伝子を発現する尿路上皮細胞にコンヴァートしたことがわかる。
【0423】
実施例53
ヒト正常末梢血単核細胞(human peripheral blood mononuclear cells; PBMCs)をcontrol medium(10% FBS を添加したRPMI1640培地)に縣濁した。これを 2.5×105cells/well の濃度で12-well plate に播種し(Day 0)、5% CO2/95% humidified air、37℃で培養を開始した。翌日、培養上清を吸引除去し、群1にはControl mediumを1 mL/well 加えた。群2にはP-脂肪細胞誘導培地(末梢血単核細胞用脂肪細胞誘導培地)を1 mL/well加えた。群3にはALK5 inhibitor II を4 μMの濃度で添加したP-脂肪細胞誘導培地を1 mL/well加えた。P-脂肪細胞誘導培地は、10% FBS、30 U/ml recombinant hIL-2、1 nM T3、1 μM Rosiglitazone、 0.5 mM 3-isobutyl-1-methylxanthine(IBMX)、0.5 μM dexamethasoneおよび1 μg/mL Insulinを添加したRPMI1640培地である。2 日に1 度、培養液の50%をフレッシュなものに置換した。
【0424】
Day 14 に、各well から培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄後、細胞からQiagen社製 RNA easy Mini Kitを用いてtotal RNA を抽出した。このRNA から、Rever Tra Ace qPCR RT Master Mix を用いてcDNA を合成した。このcDNA にReal-time PCR Master Mix と、FABP4遺伝子またはβ アクチン遺伝子に特異的なprimers とTaqman probe を、混和した。AB7300 Real-time PCR system を用いてqRT-PCR を行った。FABP4遺伝子のmRNA レベルをβ アクチン遺伝子mRNAレベルに対する比として定量し、通常培地で培養したヒト正常末梢血単核細胞の値を1として算出した。
【0425】
結果を図57に示す。ALK5 inhibitor IIを添加したP-脂肪細胞誘導培地で培養することにより、ヒト正常末梢血単核細胞がFABP4遺伝子を発現する白色脂肪細胞にコンヴァートすることが明らかとなった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B
図16
図17
図18
図19
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図21
図22
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図26
図27
図28
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図30
図31
図32
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図39
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図43
図44
図45
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図57