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特許7475732複合体、光電変換素子用受光部材、および光電変換素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】複合体、光電変換素子用受光部材、および光電変換素子
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/50 20230101AFI20240422BHJP
   H10K 30/40 20230101ALI20240422BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/40
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022526560
(86)(22)【出願日】2021-05-25
(86)【国際出願番号】 JP2021019717
(87)【国際公開番号】W WO2021241542
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-06-24
(31)【優先権主張番号】P 2020093726
(32)【優先日】2020-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】二瓶 あゆみ
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 力
【審査官】桂城 厚
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-092563(JP,A)
【文献】特開2019-016772(JP,A)
【文献】特開2015-046585(JP,A)
【文献】特開2009-054936(JP,A)
【文献】特開2016-132685(JP,A)
【文献】特開平08-054655(JP,A)
【文献】特開2012-099592(JP,A)
【文献】特開2016-027587(JP,A)
【文献】特開2017-066096(JP,A)
【文献】特表2015-517736(JP,A)
【文献】国際公開第2011/037041(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0002354(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00-31/078
H01L 31/18-31/20
H10K 30/00-99/00
H02S 10/00-10/40
H02S 30/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト構造体を主成分として含む凝集体または薄膜であり、前記凝集体または薄膜の中にさらに他の成分として以下のコアシェル粒子を含むことを特徴とする複合体であって、
前記コアシェル粒子は、アップコンバージョン機能を有するコアシェル粒子であって、
光の波長変換能力を有する、粒径(直径)が10nm~100nmである無機ナノ粒子と、
前記無機ナノ粒子の表面に形成され、厚みが前記無機ナノ粒子の粒径の5%以上である無機ペロブスカイト型物質からなる被覆層とを備え、前記無機ナノ粒子と前記無機ペロブスカイト型物質とが密接してなり、かつ、前記無機ナノ粒子の表面に対する被覆層の被覆率が50%以上100%以下であるコアシェル構造を有し、前記無機ナノ粒子が、希土類元素を含むことを特徴とするコアシェル粒子である、複合体
【請求項2】
前記無機ナノ粒子の表面に対する被覆層の被覆率が100%であることを特徴とする請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の複合体によって構成される層と、
有機あるいは無機半導体(金属錯体を含む)を主成分として含む凝集体または薄膜によって構成される層と、を積層してなることを特徴とする光電変換素子用受光部材。
【請求項4】
請求項に記載の光電変換素子用受光部材を、ホール輸送層と電子輸送層との間に備えてなる光電変換素子。
【請求項5】
無機半導体を主成分として含む複数の粒子またはその凝集体あるいは薄膜によって構成される第一層と、
前記第一層の表面に形成され、請求項1又は2に記載の複合体によって構成される第二層と、
有機あるいは無機半導体(金属錯体を含む)を主成分として含む複数の粒子またはその凝集体、あるいは薄膜によって構成される第三層と、
を順に積層してなり、
伝導帯において、前記第二層のエネルギー準位が前記第一層のエネルギー準位より高く、かつ前記第三層のエネルギー準位が前記第二層のエネルギー準位より高い、
ことを特徴とする光電変換素子。
【請求項6】
無機半導体を主成分として含む複数の粒子またはその凝集体あるいは薄膜によって構成される第一層と、
前記第一層の表面に形成され、複合体によって構成される第二層と、
有機あるいは無機半導体(金属錯体を含む)を主成分として含む複数の粒子またはその凝集体、あるいは薄膜によって構成される第三層と、を順に積層してなる光電変換素子であって、
伝導帯において、前記第二層のエネルギー準位が前記第一層のエネルギー準位より高く、かつ前記第三層のエネルギー準位が前記第二層のエネルギー準位より高く、
前記複合体は、ペロブスカイト構造体を主成分として含み、さらにコアシェル粒子を含む凝集体または薄膜であり、
前記コアシェル粒子は、光の波長変換能力を有する無機ナノ粒子と、前記無機ナノ粒子の表面に形成され、無機ペロブスカイト型物質からなる被覆層と、を備え、コアシェル構造を有するコアシェル粒子であり、
前記第三層が有機金属錯体を主成分として含み、価電子帯における前記第二層のエネルギー準位が、前記第三層のエネルギー準位より高いことを特徴とする光電変換素子。
【請求項7】
前記無機ナノ粒子が、希土類元素を含むことを特徴とする請求項に記載の光電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合体、光電変換素子用受光部材、および光電変換素子に関する。本願は、2020年5月28日に、日本に出願された特願2020-093726号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池やフォトダイオードといった光電変換素子は、各種分野において広く用いられている。しかしながら、従来の光電変換素子は、近赤外領域の光に対して、可視光領域の光よりも検出感度が弱いという問題がある。近赤外領域の光についても可視光と同様に検出感度を上げることができれば、例えば、太陽電池においては、光電変換効率を向上することが可能となる。
【0003】
特許文献1では、発電層である有機無機複合ペロブスカイト型化合物を担持させるための無機多孔質としてアップコンバージョンナノ粒子を用いた技術が開示されている。ここで、アップコンバージョンナノ粒子とは、赤外線等の長波長の光を可視光や紫外線などの短波長の光へ変換する機能を有する、粒径がnmオーダーの粒子をいう。この技術は、無機コアシェル粒子が吸収した近赤外光等の長波長の光を、可視光・紫外線等の短波長の光に変換し、これを有機無機複合ペロブスカイト結晶に再吸収させることにより、エネルギー励起し、起電力を生じさせるものである。
【0004】
非特許文献1では、無機ナノ粒子(Lanthanide-doped NPS)と、無機ペロブスカイト量子ドット(CaPbX(X=Cl,Br,I)PeQDs)とを、互いに離間して混在させた状態で、無機ナノ粒子のアップコンバージョン機能を利用した技術が開示されている。この技術は、無機ナノ粒子が近赤外光励起により発生させた可視光を、無機ペロブスカイト量子ドットで再吸収させ発光させるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特開2015-92563号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Wei Zheng et al., Nature Communications (2018) 9:3462
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記文献で開示されている構成では、波長変換後の光をペロブスカイトに再吸収させる際のエネルギーロスが避けられないため、吸収させる光が弱い場合には、十分な起電力や発光を発生させることは難しい。
【0008】
従来の希土類イオンを含むアップコンバージョンナノ粒子では、発光を担うイオンの濃度は1から5%程度にする必要があり、発光を担うイオンの濃度を高濃度にすると発光が消光する。これは、高濃度条件では発光種間で交差緩和が生じ、ナノ粒子表面に被覆された鎖状有機分子の熱振動によりエネルギーが失活するためである。そのため、光吸収量が非常に小さく、強い光でないとアップコンバージョンは生じない。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、長波長の弱い光を用いて高い可視光増感特性を得ることを可能とすることが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、コアシェル粒子、複合体、光電変換素子用受光部材、および光電変換素子を提供する。そして本発明は以下の手段を採用している。
【0011】
(1)本発明の一態様に係るコアシェル粒子は、光の波長変換能力を有する無機ナノ粒子と、前記無機ナノ粒子の表面に形成され、無機ペロブスカイト型物質からなる被覆層と、を備え、コアシェル構造を有する。
【0012】
(2)前記(1)に記載のコアシェル粒子において、前記無機ナノ粒子が、希土類元素を含むことが好ましい。
【0013】
(3)本発明の一態様に係る複合体は、ペロブスカイト構造体を主成分として含み、さらに前記(1)または(2)のいずれかに記載のコアシェル粒子を含む凝集体または薄膜である。
【0014】
(4)本発明の一態様に係る光電変換素子用受光部材は、前記(3)に記載の複合体によって構成される層と、有機あるいは無機半導体(金属錯体を含む)を主成分として含む凝集体または薄膜によって構成される層と、を積層してなる。
【0015】
(5)本発明の一態様に係る光電変換素子は、前記(4)の光電変換素子用受光部材を、ホール輸送層と電子輸送層との間に備えてなる。
【0016】
(6)本発明の一態様に係る光電変換素子は、無機半導体を主成分として含む複数の粒子またはその凝集体あるいは薄膜によって構成される第一層と、前記第一層の表面に形成され、請求項3記載の複合体によって構成される第二層と、有機あるいは無機半導体(金属錯体を含む)を主成分として含む複数の粒子またはその凝集体あるいは薄膜によって構成される第三層と、を順に積層してなり、伝導帯において、前記第二層のエネルギー準位が前記第一層のエネルギー準位より高く、かつ前記第三層のエネルギー準位が前記第二層のエネルギー準位より高い。
【0017】
(7)前記(6)に記載の光電変換素子は、前記第三層が有機金属錯体を主成分として含み、価電子帯における前記第二層のエネルギー準位が、前記第三層のエネルギー準位より高くてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、従来、数%であった発光種のドーパント濃度を、表面でペロブスカイト被覆層を形成することで、100%まで増加させることができる。これにより、長波長の弱い光を用いて高い可視光増感特性を得ることができる。
【0019】
本発明によれば、長波長の弱い光を用いて、高い可視光増感特性を得ることを可能とする、コアシェル粒子、複合体、光電変換素子用受光部材、および光電変換素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係るコアシェル粒子の断面図である。
図2図1のコアシェル粒子を備えた光電変換素子の断面図である。
図3図2の光電変換素子の動作中における、各層のエネルギーバンドの構造を示している。
図4図1のコアシェル粒子を備えた光電変換素子の変形例の断面図である。
図5図4の光電変換素子の動作中における、各層のエネルギーバンドの構造を示している。
図6図2の光電変換素子の製造過程における被処理体の断面図である。
図7】コアシェル粒子1、2およびナノ粒子1の発光スペクトルを示すグラフである。
図8】第二層のコアシェル粒子の構造の違いによる吸収率の変化を示すグラフである。
図9】実施例2として製造した光電変換素子の断面のSEM画像である。
図10】実施例2の光電変換素子の第二層で波長変換された光を吸収後生じた発光のスペクトルを示すグラフである。
図11】光電変換素子において得られる光電流の応答速度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を適用した実施形態に係るコアシェル粒子、複合体、光電変換素子用受光部材、および光電変換素子について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0022】
(コアシェル粒子)
図1は、本発明の一実施形態に係るコアシェル粒子10の構成を、模式的に示す断面図である。コアシェル粒子10は、主に、無機ナノ粒子11と、その被覆層12とを備え、コアシェル構造を有する。
【0023】
無機ナノ粒子11は、粒径(直径)11aが10nm~100nm程度の粒子であって、光の波長変換能力を有する。ここでの光の波長変換能力は、入射光の波長を変換して、入射光と異なる波長の光を出射する能力を意味する。本実施形態では、入射した近赤外光が、その波長が変換されて可視光になって出射される場合について、例に挙げて説明する。
【0024】
無機ナノ粒子11の主な材料としては、例えば、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ネオジウム(Nd)、ホルミウム(Ho)、プラセオジウム(Pr)、ガドリニウム(Gd)、ユウロピウム(Eu)、テルビウム(Tb)、サマリウム(Sm)、セリウム(Ce)等の希土類元素、あるいはそれらの化合物のうち、少なくとも一つを含むものが挙げられる。
【0025】
被覆層12は、無機ナノ粒子11の表面に形成され、無機ペロブスカイト型物質からなる。一般的な希土類元素のアップコンバージョンナノ粒子の表面には、複数の鎖状有機分子(オレイルアミン、オレイン酸など)で被覆されているので、鎖状有機分子の熱振動を介した発光の散逸が起こる。一方、本開示のコアシェル粒子10は、被覆層12が無機ナノ粒子11の表面を被覆しているので、一般的なアップコンバージョンナノ粒子のように鎖状有機物(Organic ligand)の熱振動が無く、熱振動を介した発光の散逸を抑えることができる。無機ナノ粒子11の表面に対する被覆層12の被覆率は、概ね50%以上であればよく、100%であれば好ましい。
【0026】
被覆層12の厚み12aは、無機ナノ粒子の粒径11aの5%以上であればよく、無機ナノ粒子の表面にわたってほぼ一様であることが好ましい。被覆層12の厚み12aが厚いほうが、光電変換効率が向上する。
【0027】
被覆層12を構成する無機ペロブスカイト型物質の材料としては、三種類の無機元素からなる複合体、例えば、CsPbX等(X=Cl、Br、I)が挙げられる。Xはハロゲンイオンのうち少なくとも一つを含む。例えば、無機ナノ粒子11として、ErYFやEr、YbドープNaYF(NaYF4:Er,Yb)を用いる場合、CsPbBrあるいはCsPbIを用いると、光電変換効率が向上するので好ましい。Tm、YbドープNaYF(NaYF4:Tm,Yb)を用いる場合、CsPbClを用いると、光電変換効率が向上するので好ましい。
【0028】
図1(b)は、図1(a)に示すコアシェル粒子10の変形例を示している。被覆層12は、図1(b)に示すように二層を重ねて形成してもよく、三層以上形成してもよい。
【0029】
(光電変換素子)
図2(a)は、コアシェル粒子10を備えた光電変換素子100の断面図である。光電変換素子100は、主に、正極層(正極部材)101、と、負極層(負極部材)102と、それらの間に挟まれた光電変換層103と、で構成されている。
【0030】
負極層102と光電変換層103との間には、伝導帯のエネルギー準位としてEcbが、負極層102と光電変換層103との伝導帯のエネルギー準位としてEc2とEc3との間に有する(すなわちEc2<Ecb<Ec3となる)バッファ層107が挟まれていてもよい。バッファ層107の構成材料としては、例えば、酸化ユーロピウム(Eu)、酸化チタン、酸化スズ等が挙げられる。
【0031】
光電変換層103に光を取り込むため、負極層102は、光透過性を有する材料、例えば、アンチモンドープ酸化インジム(ATO)、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛、酸化スズ、フッ素ドープ酸化インジウム(FTO)等で構成されているものがよい。本実施形態の光電変換層103の製造過程においては、熱処理を行う必要があるため、負極層102の材料としては、これらの材料の中でも耐熱性を有するATOが好ましい。
【0032】
正極層101は、透明でなくてもよく、該電極の電極材料としては、金属、導電性高分子等を用いることができる。電極材料の具体例としては、金(Au)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)等の金属、及びそれらのうち2つ以上の合金、グラファイト、グラファイト層間化合物、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体が挙げられる。透明な正極層101の材料としては、ITOが挙げられる。
【0033】
図2(a)に示すように、光電変換層103は、主に、無機半導体を主成分として含む複数の粒子(以下、「無機半導体の粒子」と記すこともある。)20によって構成される第一層104aを有し、第一層104aの表面に形成され、ペロブスカイト構造体を主成分として含み、さらにコアシェル粒子10を含む凝集体または薄膜(複合体)によって構成される第二層105と、有機あるいは無機半導体(金属錯体を含む)を主成分として含む複数の粒子またはその凝集体あるいは薄膜によって構成される第三層106と、を積層してなるとよい。つまり、光電変換素子100は、正極層101、第三層106、第二層105、第一層104、負極層102の順に並び、少なくとも、正極層101から負極層102への電流パスが形成されるように構成されているとよい。ここで、「無機半導体を主成分として含む」とは、無機半導体の粒子20中において、無機半導体が本発明での機能を発揮可能な量を含むことを意味し、具体的には例えば、無機半導体の含有量が50体積%超であることをいう。好ましくは、90体積%超であり、より好ましくは、実質的に無機半導体からなることがよい。「ペロブスカイト構造体を主成分として含む」とは、第二層105の全質量に対して、ペロブスカイト構造体が本発明での機能を発揮可能な量を含むことを意味し、具体的には例えば、ペロブスカイト構造体の含有量が、50体積%超であることをいう。好ましくは、70体積%以上である。さらに「有機あるいは無機半導体(金属錯体を含む)を主成分として含む」とは、第三層106の全質量に対し、コアシェル粒子10を含む凝集体または薄膜(複合体)が本発明での機能を発揮可能な量を含むことを意味し、具体的には例えば、コアシェル粒子10を含む凝集体または薄膜(複合体)の含有量が50質量%超であることをいう。好ましくは、90体積%超であり、より好ましくは、実質的に有機あるいは無機半導体(金属錯体を含む)からなることがよい。形成される電流パスの数は多いほど好ましいが、隣接する電流パス同士は、電気的に、互いに接続されていてもよいし、接続されていなくてもよい。なお、本実施形態における「層」は、一回または複数回の成膜プロセスで形成される膜を意味しており、平坦なものに限定されることはなく、また、一体でなくてもよいものとする。
【0034】
さらに、三つの層104~106の材料・組成については、伝導帯(LUMO、励起状態)のエネルギー準位が、第一層104、第二層105、第三層106の順で高くなるように決定される。例えば、第一層104については、価電子帯のエネルギー準位を-8eV以上とし、伝導帯のエネルギー準位を-4eV以下とすることができる。このとき、第二層105については、価電子帯のエネルギー準位を-6.0eV以上とし、伝導帯のエネルギー準位を-3eV以下とすることができる。また、第三層106については、伝導帯のエネルギー準位を-2eV以下とするのが好ましい。
【0035】
第一層104aは、負極層102上に形成された複数の無機半導体の粒子20の集合体であり、無機半導体の粒子20間の空隙を複数有する多孔膜である。第二層105に接する無機半導体の粒子20は、負極層102と電気的に接続されるように、負極層102に対し、直接、または他の無機半導体の粒子20を介して間接的に接触している。
【0036】
無機半導体の粒子20に含まれる無機半導体としては、吸収波長が、紫外光域に含まれるものであることが好ましく、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛等が挙げられる。第一層104の厚みは、約10nm以上1000nm以下であることが好ましく、さらに約50nm以上500nm以下であることがより好ましい。
【0037】
第二層105は、その製造段階において、無機半導体の粒子20の表面のうち露出している部分、すなわち、負極層102、無機半導体の粒子20のいずれとも接していない部分を覆う薄膜である。第二層105は、この露出している部分の全体を覆う必要はないが、上記電流パスを形成するために、少なくとも正極層101側を覆っていなければならない。
【0038】
第二層105を構成するペロブスカイト構造体は、Pb2+、Sn2+等の金属カチオン、I、Cl、Br-等のハロゲン化アニオン、CHNH (MA)、NH=CHNH (FA)、C 等の有機カチオン、からなる複数の分子によって構成されるものである。金属カチオン、ハロゲン化物アニオン、有機カチオンのそれぞれから選択するイオンの数によって、バンドギャップの大きさ・形を変えることができる。ペロブスカイト構造体にスズを添加すると、バンドギャップが狭められ、近赤外光等の長波長の光に対する応答性を向上させることができるが大気下において容易に酸化されてしまい、特性は劣化する。ペロブスカイト構造体を構成するそれぞれの分子において、ハロゲン化アニオンは、金属イオンを中心とする正八面体の頂点に配され、有機カチオンは、金属イオンを中心とし、正八面体を内在させた立方体の近傍に配されている。具体的には、金属イオンとハロゲン化アニオンで形成された正八面体が三次元の格子を形成し、その隙間に有機カチオンが入り込んだような構造となる。
【0039】
コアシェル粒子10は、ペロブスカイト構造体と接しながら第二層105を形成する際に、コアシェル粒子10中の被覆層12とペロブスカイト構造体との境界が無くなる。そのため、コアシェル粒子10で可視光に変換された光は、被覆層12を含むペロブスカイト構造体に効率よく吸収される。これによって、光電変換素子100の近赤外領域の光の検出感度を向上することができる。
【0040】
第二層105中のコアシェル粒子10が、5wt%以上であれば、近赤外領域の光の感度が向上するので、好ましい。第二層105中のコアシェル粒子10が30wt%超であると、ペロブスカイト構造体が形成しにくくなるので、30wt%以下が好ましい。
【0041】
また、第二層105の価電子帯のエネルギー準位は、第三層106の価電子帯のエネルギー準位よりも低く、かつ同エネルギー順位と断続的に接続されていることが好ましい。これらの条件を満たす第二層105(ペロブスカイト構造体)の組成としては、例えば、CHNHPbl、NH=CHNHPbI、CsPbI等が挙げられる。この他に、ハロゲン化物アニオンのうち、IとClあるいはBrの組成比を変えたものも挙げられる。
【0042】
第三層106は、第一層104、第二層105によって構成される光電変換素子前駆体のうち、第二層に含まれる、ペロブスカイト構造体の表面(露出面)を覆う薄膜であるとよい。第三層106は、p型の有機半導体、無機半導体、有機金属錯体のいずれかによって形成される。図2(a)では、有機金属錯体の例を示し、図2(a)中の106Aは、第三層106の無機遷移金属イオンを示し、106Bは第三層106の有機配位子を示す。第三層106の厚さは、例えば、1nm以上100nm以下であることが好ましい。
【0043】
第三層を構成するp型有機半導体としては、バソクプロイン(BCP)、2,2’,7,7’-tetrakis(N,N’-di-p-methoxyphenylamine)-9,9’-spirobifluorene(Spiro―OMeTAD)、poly(3,4-ethylenedioxythiophene):poly(styrenesulfonate)(PEDOT:PSS)、N,N,N’,N’-tetrakis(4-methoxyphenyl)-benzidine(TPD)などが挙げられる。
【0044】
第三層を構成するp型無機半導体としては、CuI、CuSCNなどが挙げられる。
【0045】
なお、本実施形態の光電変換素子100を光センサーあるいは光発電素子(太陽電池)に適用する場合、光電変換素子100は、シリコン等の半導体基板やガラス基板に搭載されることになる。この場合、例えば、以下のようなデバイス構成を挙げることができる。(1)透明性を有する正極層101が、前記半導体基板から最も離れた最上層に形成されている形態(即ち、入光側の最上層から、(透明)正極層101/第三層106/第二層105/第一層104/負極層102/(Si)基板の順に積層された構成)
(2)透明性を有する負極層102が、前記ガラス基板に隣接するように形成されている形態(即ち、入光側の最上層から、(ガラス)基板/負極層102/第一層104/第二層105/第三層106/正極層101の順に積層された構成)
(3)透明性を有する負極層102が、前記半導体基板から最も離れた最上層に形成されている形態(即ち、入光側の最上層から、(透明)負極層102/第一層104/第二層105/第三層106/正極層101/(Si)基板の順に積層された構成)
【0046】
(エネルギーバンド構造)
図3(a)~(c)は、本実施形態に係る光電変換素子100の動作中における、各層のエネルギーバンドの構造を示している。
【0047】
光を照射していない状態では、第三層106の伝導帯のエネルギー準位が、正極層101側で、正極層101のフェルミ準位より高くなっており、図3(a)に示すように、正極層101から負極層102に向かう電流はブロックされている。
【0048】
光電変換素子に800nm以上の波長をもつ光が照射されると、第二層105を構成するコアシェル粒子10のコア(無機ナノ粒子11)が、その光を吸収し、波長を可視光に変換する。ペロブスカイト構造体が、波長変換された光を吸収する(図3(b))。なお、図3(b)中のコアシェル粒子10の破線矢印と、実線の矢印は同じ大きさのエネルギーを示す。光を吸収することでペロブスカイト構造体は電子eと正孔hを発生させ、電子eは伝導帯Ec1に移り、正孔hは価電子帯Ev3に移る(図3(c))。
【0049】
上記の例では、第一層104aが多孔質膜の場合を例に挙げて説明したが、図2(b)の第一層104bのように、均一な膜状に第一層が形成されていてもよい。
【0050】
(光電変換素子の変形例)
次に、光電変換素子の変形例について説明する。以下、類似する構成要素については、同一の符号の後に異なるアルファベットを付して区別する。ただし、同一の構成要素については、その説明を省略する。また、類似する構成要素のうち、説明を行った構成要素と実質的に同一の機能構成を有する場合は、その構成要素についての説明を省略する。
【0051】
図4(a)は、コアシェル粒子10を備えた光電変換素子100bの断面図である。光電変換素子100bは、主に、正極層(正極部材)101、と、負極層(負極部材)102と、それらの間に挟まれた光電変換層103bと、で構成されている。尚、図4(a)は、詳細な構造を示す断面図であるが、場合によっては、図4(b)のように簡便に記載することもある。因みに、図4(b)では、光電変換層103cの構成のうち、第二層105cおよび第三層106cを負極層102(およびバッファ層107)ならびに正極層101cに対向する形の層として示している。図4(a)の光電変換層103bを簡便に記載したものが図4(b)の光電変換層103cとなる。この場合、図4(a)の第一層104aは、図4(b)の104cに対応し、図4(a)の第二層105が図4(b)の105cに対応する。図4(a)の第三層106bは、図4(b)の第三層106cに対応する。
【0052】
(光電変換層)
図4(a)に示すように、光電変換層103bは、主に、無機半導体を主成分として含む複数の粒子(即ち、無機半導体の粒子)20またはその凝集体あるいは薄膜によって構成される第一層104aを有し、第一層104aの表面に形成され、ペロブスカイト構造体を主成分として含み、さらにコアシェル粒子10を含む凝集体または薄膜(複合体)によって構成される第二層105と、有機金属錯体を主成分として含む複数の粒子またはその凝集体あるいは薄膜によって構成される第三層106bと、を積層してなるとよい。ここで、「有機金属錯体を主成分として含む」とは、粒子またはその凝集体、あるいは薄膜において、有機金属錯体の含有量が50体積%超であることをいう。好ましくは、90体積%超であり、より好ましくは、実質的に無機半導体からなることがよい。つまり、光電変換層103bは、正極層101、第三層106b、第二層105、第一層104、負極層102の順に並び、少なくとも、正極層101から負極層102への電流パスが形成されるように構成されているとよい。形成される電流パスの数は多いほど好ましいが、隣接する電流パス同士は、電気的に、互いに接続されていてもよいし、接続されていなくてもよい。
【0053】
さらに、三つの層104~106bの材料・組成については、伝導帯(LUMO、励起状態)のエネルギー準位が、第一層104、第二層105、第三層106bの順で高く、第二層の価電子帯(HOMO、基底状態)のエネルギー準位が、第三層106bの価電子帯のエネルギー準位より高くなるように決定される。伝導帯において、第二層105のエネルギー準位が第一層104のエネルギー準位より高く、かつ第三層106bのエネルギー準位が第二層105のエネルギー準位より高い。例えば、第一層104については、価電子帯のエネルギー準位を-8eV以上とし、伝導帯のエネルギー準位を-4eV以下とすることができる。このとき、第二層105については、価電子帯のエネルギー準位を-5.5eV以上とし、伝導帯のエネルギー準位を-3eV以下とすることができる。また、第三層106bについては、価電子帯のエネルギー準位を-6eV以上とし、伝導帯のエネルギー準位を-2eV以下とするのが好ましい。
【0054】
第三層106bは、第一層104、第二層105によって構成される光電変換素子前駆体のうち、第二層に含まれる、ペロブスカイト構造体の分子の表面(露出面)を覆う薄膜であるとよい。第三層106bを構成する有機金属錯体の分子は、無機遷移金属と、有機配位子と、を配位結合させることによって得られる。ここで、106Aは、第三層106bの無機遷移金属イオンを示し、106Bは第三層106bの有機配位子を示す。
【0055】
有機金属錯体において、無機遷移金属イオンは、第二層105のペロブスカイト構造体と直接結合するように、第二層側に膜状に局在しているとよい。一方、有機配位子は、第二層と反対側(正極側)に膜状に局在しているとよい。そして、後述する光電流の増幅を実現するために、有機金属錯体の分子は、正極層101側から第二層105側に向かう電流パスにおいて、有機配位子、無機遷移金属イオンの順で並ぶように、ペロブスカイト構造体の分子に結合されているとよい。つまり、無機遷移金属イオンからなる層と有機配位子イオンからなる層とに分けられる。なお、二つの層の境界については、例えば透過電子顕微鏡(TEM)等を用いて確認できる。
【0056】
ここでの無機遷移金属イオンとしては、例えば、還元準位がLUMOとなるEu3+、Cr3+等、酸化準位がHOMOとなるRu2+、Fe2+、Mn2+、Co2+等が挙げられる。また、ここでの有機配位子としては、一般的な金属錯体の配位子、例えば、(i)カルボキシル基、ニトロ基、スルホ基、リン酸基、ヒドロキシ基、オキソ基、アミノ基等を有する有機化合物;(ii)エチレンジアミン誘導体;(iii)ターピリジン誘導体、フェナントロリン誘導体、ビピリジン誘導体等の環ヘテロ原子含有有機配位子;(iv)カテコール誘導体、キノン誘導体、ナフトエ酸誘導体、アセチルアセトナート誘導体(具体的には例えば、アセチルアセトン)等のアセチルアセトナート系有機配位子(ここで、「アセチルアセトナート系有機配位子」とは、2つの酸素原子を介して多くの遷移金属イオンと(例えば六員環を形成しながら)配位結合可能な有機配位子を意味するものである。)等が挙げられる。なお、ターピリジン誘導体は、下記(1)式で表される組成を有するものである。
【0057】
【化1】
【0058】
第三層106bの厚さは、例えば、約1nm以上10nm以下であることが好ましい。第三層106bが10nmより厚いと、エネルギー障壁が厚くなり過ぎて十分なトンネル確率が得られなくなり、光電変換層103bにおける光電流の増幅が妨げられてしまう。また、第三層106bが1nmより薄いと、光が照射されず、バンドが曲がっていないときにもトンネル電流が流れることになり、光電変換層103bの光検出機能が意味をなさなくなってしまう。
【0059】
なお、コアシェル粒子10およびペロブスカイト構造体の複合体によって構成される第二層105と、有機金属錯体を主成分として含む凝集体または薄膜によって構成される第三層106bを積層してなる光電変換素子用受光部材は、ホール輸送層と電子輸送層との間に備えることにより、光電変換素子として活用することができる。
【0060】
(エネルギーバンド構造)
図5(a)~(d)は、本実施形態に係る光電変換素子100の動作中における、各層のエネルギーバンドの構造を示している。ここで、106Aは、第三層106bの無機遷移金属イオンを示し、106Bは第三層106bの有機配位子を示す。
【0061】
光を照射していない状態では、第三層106bの伝導帯のエネルギー準位が、正極層101側で、正極層101のフェルミ準位より高くなっており、図5(a)に示すように、正極層101から負極層102に向かう電流はブロックされている。
【0062】
光電変換素子に800nm以上の波長をもつ光Lが照射されると、第二層105を構成するコアシェル粒子10のコア(無機ナノ粒子11)が、その光を吸収し、波長を可視光に変換する。ペロブスカイト構造体が、波長変換された光を吸収して電子eと正孔hを発生させ、電子eは伝導帯Ec2に移り、正孔hは価電子帯Ev2に移る(図5(b))。
【0063】
このとき、第一層104a、第二層105、第三層106bの伝導帯のエネルギー準位Ec1、Ec2、Ec3が、Ec3>Ec2>Ec1の関係にあるため、第二層105で発生して同層の伝導帯に移った電子eは、より低いエネルギー状態となる第一層104aの伝導帯Ec1に移る。
一方、第一層104a、第二層105、第三層106bの価電子帯のエネルギー準位Ev1、Ev2、Ev3が、Ev2>Ev1層、Ev2>Ev3となっているため、図5(c)に示すように、第二層で発生して価電子帯に移った正孔は、第一層、第三層と比べて相対的に高い(正孔にとっては低い)エネルギー状態となる第二層の価電子帯にトラップされる。
【0064】
トラップされて集中して分布している正孔の影響(正の電位)により、第二層の価電子帯の近傍においては、電子のポテンシャルエネルギーが低下し、伝導帯のエネルギー準位が低下する。伝導帯のエネルギー準位は、正孔がトラップされている第二層に近いほど大きく低下するため、第三層の伝導帯のエネルギー準位は、第二層側でより低くなり、正極層側が尖った形状となる。したがって、正極層101に存在する電子にとって、第三層のエネルギー障壁が薄くなり、図5(d)に示すように負極層側へトンネルすることが可能となる。つまり、第三層のエネルギー障壁にブロックされていた正極側の多数の電子(光を照射していない状態における電子)を、光電変換素子に光が照射されると、薄くなったエネルギー障壁をトンネル(透過)させ、これらを負極側に流れ込ませることができる。よって、本変形例の光電変換素子は、照射した光によって直接発生する電流の大幅な増幅を実現することができる。
【0065】
(コアシェル粒子の製造方法)
次に、本開示のコアシェル粒子10の製造方法について説明する。本開示のコアシェル粒子10の製造方法は、無機ナノ粒子合成工程および被覆層形成工程を備える。
【0066】
「無機ナノ粒子合成工程」
無機ナノ粒子合成工程において、無機ナノ粒子11は合成される。無機ナノ粒子11の合成方法は特に限定されないが、たとえば沈殿法や水熱合成法などが挙げられる。具体的には、主原料として、Ln(ランタノイド)酸化物、例えば、Er、Tm、Ho、Yb、またはLnハロゲン化物、例えば、ErCl、ErF、TmCl、TmF、HoCl、HoF等を用い、トリフルオロ酢酸塩を合成する。さらに、トリフルオロ酢酸ナトリウムおよび鎖状有機分子を用い、NまたはAr雰囲気下高温条件(100~400℃)で反応させる。反応後の溶液を冷却し、必要に応じてエタノールなどの有機溶剤を加えた後遠心分離で、無機ナノ粒子11を分離することで、無機ナノ粒子11が得られる。
【0067】
「被覆層形成工程」
次に、被覆層形成工程で、無機ナノ粒子合成工程で得られた無機ナノ粒子11に被覆層12を形成する。被覆層12の形成方法は特に限定されないが、例えば、沈殿法や水熱合成法などが挙げられる。具体的には例えば、無機ナノ粒子11を、炭酸セシウムから合成したオレイン酸セシウムおよびハロゲン化鉛(PbX)を含む溶液と反応させる。温度120~200℃、窒素雰囲気下とする。反応後の溶液を冷却し、遠心分離で、微粒子を分離する。分離後の微粒子を焼成(例えば、200℃~300℃)することで、コアシェル粒子が得られる。
【0068】
(光電変換素子の製造方法)
図6(a)~(e)は、光電変換素子100の製造過程における被処理体の断面図である。光電変換素子100は、主に次の手順を経て製造することができる。
【0069】
まず、図6(a)に示すように、光電変換層103を形成するための、負極層102を設けた基材を準備する。基材上の負極層102としては、負極層として機能し、透明導電性を有する電極部材を用いる。ここでは、負極層102の一面にバッファ層107を形成する場合について、例示しているが、このバッファ層107は形成しなくてもよい。なお、バッファ層107は、電子輸送層あるいはホールブロッキング層として機能する。バッファ層107は、スピンコーティング法等を用いて、負極層102に材料の溶液を塗布し、それを加熱する(乾燥させる)ことによって形成することができる。この加熱は、例えば、約120~450℃で、10~60分程度行うとよい。バッファ層107の厚みが、例えば、1~100nm程度となるように、材料塗布の条件(塗布時間等)を調整するとよい。
【0070】
次に、図6(b)に示すように、負極層102の一面側に(バッファ層107がある場合にはそれを挟んで)、無機半導体を主成分として含む複数の粒子(即ち、無機半導体の粒子)20によって構成される、第一層104aを形成する。第一層104aも、バッファ層107と同様に、その材料の溶液を塗布して加熱することによって形成することができる。この加熱も、例えば、約120~450℃で、10~60分程度行うとよい。第一層104aの厚みが、例えば、約10~1000nm程度、好ましくは約50~500nm程度となるように、材料塗布の条件(塗布時間等)を調整するとよい。
【0071】
次に、図6(c)に示すように、スピンコーティング法、ディップ法等を用いて、無機半導体の粒子20の表面に対し、主成分となるペロブスカイト構造体の原料、およびコアシェル粒子10を含有する溶液を塗布し、それを加熱することによって第二層105を形成するとよい。この加熱は、例えば、約40~100℃で、5~10分程度行うとよい。第二層105の厚みは、材料塗布の条件(塗布時間等)で調整する。液体状態の材料を用いることにより、シリコン等の固体状態の無機半材料を用いる場合に比べて、環境負荷の少ない条件で薄膜を形成することができる。
【0072】
次に、図6(d)に示すように、第二層105の上に第三層106を形成するとよい。より詳細には、スピンコーティング法、ディップ法等を用いて、第二層105の上に、p型有機半導体あるいは無機半導体を主成分として含む材料を蒸着またはその材料の溶液を塗布することで第三層106を形成するとよい。実際には、第二層105形成時に、第一層104aの無機半導体の粒子20同士の隙間がほぼ埋まった状態になる。そのため、第三層106は、第二層105の表面のうち主に正極層101側(負極層102と反対側)の露出部分に、膜状に形成されることになることができる。
【0073】
第三層として有機金属錯体を形成する場合(すなわち第三層106bを形成する場合)は、ここでの溶液の塗布および加熱は、二段階に分けて行うとよい。すなわち、一段階目として、ユーロピウム等の無機遷移金属の溶液を塗布して加熱し、続いて二段階目として、ターピリジン等の有機配位子の溶液を塗布して加熱するとよい。このように、第三層106bの形成を二段回に分けて行う結果として、第三層106bは、第二層105側から順に、無機遷移金属からなる層106A、有機配位子からなる層106B、を積層した構造になる。
【0074】
最後に、図6(e)に示すように、第三層106上に、正極として機能し、導電性を有する電極部材(正極層)101を形成させることにより、本実施形態の光電変換素子100を得ることができる。
【0075】
上記の光電変換素子の製造方法では、多孔質の第一層104aを用いた場合について説明したが、層状の第一層104bについても上記と同様の方法で製造することができる。第一層104bは、蒸着などの公知の方法で形成することができる。
【0076】
以上のように、本実施形態のコアシェル粒子10は、コアとなる無機ナノ粒子11が、吸収した近赤外光等の長波長の光を可視光・紫外光等の短波長の光に変換し、変換された光を、シェルとなる被覆層12の無機ペロブスカイト型物質が再吸収し、電力に変換するように、構成されている。したがって、本実施形態のコアシェル粒子10によれば、従来は難しかった長波長の光から光電変換あるいは起電力を生じさせることが可能となる。
【0077】
また、本実施形態のコアシェル粒子10は、コアシェル構造とすることにより、密接した無機ナノ粒子と無機ペロブスカイト型物質の間でのエネルギー転移を確実かつ効率的に行い、エネルギーロスを低減させることできる。そのため、コアに吸収させる光が弱い光であっても、優れた光増感特性を実現することができる。
【実施例
【0078】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0079】
(コアシェル粒子の製造)
上述したコアシェル粒子の製造方法に沿って、具体的には次の条件で、コアシェル粒子を製造した。
【0080】
(コアシェル粒子1)
コアシェル粒子のコアとなる無機ナノ粒子は沈殿法によって合成した。具体的には、Er酸化物(Er)1mmolを、トリフルオロ酢酸5mLおよび水5mLに溶解し、減圧しながら80℃で加熱撹拌した。蒸発乾固して得られた粉末にトリフルオロ酢酸ナトリウム(NaCOOCF)2.5mmolを加え、オレイルアミン15mLに溶解させた。減圧下100℃で30分撹拌した後、窒素を系内に導入し、330℃で1時間撹拌した。80℃まで冷却した後、エタノール20mLを加え、遠心法によりNaErFナノ粒子を分離した。
【0081】
炭酸セシウム(CsCO)0.81gをオレイン酸2.5mLおよびオクタデセン40mLに溶解し、窒素雰囲気下120℃で1時間撹拌した。さらに160℃で30分撹拌することでオレイン酸セシウムを得た。
【0082】
上記で合成したNaErFナノ粒子に対する被覆層の形成は、沈殿法によって行った。具体的には、PbBr0.4mmolとNaErFナノ粒子をオクタデセン10mLに分散させ、窒素雰囲気下120℃で1時間撹拌した。さらにオレイン酸およびオレイルアミン1mLを加えた。温度を180~190℃に上げた後、オレイン酸セシウム0.85mLを加え1時間撹拌した。冷却後、遠心法によりナノ粒子を分離し、200℃で30分焼成することで、1層のコアシェル粒子(粒径25nm)が得られた。コアシェル粒子の粒径はSEM観察から得られたSEM像から得た。
【0083】
(コアシェル粒子2)
PbBr0.4mmolと上記で得られた1層のコアシェル粒子をオクタデセン10mLに分散させ、窒素雰囲気下120℃で1時間撹拌した。さらにオレイン酸およびオレイルアミン1mLを加えた。温度を180~190℃に上げた後、オレイン酸セシウム0.85mLを加え1時間撹拌した。冷却後、遠心法によりナノ粒子を分離し、200℃で30分焼成することで、2層のコアシェル粒子(粒径30nm)が得られた。
【0084】
(ナノ粒子1)
無機ナノ粒子は沈殿法によって合成した。具体的には、Er酸化物(Er)1mmolを、トリフルオロ酢酸5mLおよび水5mLに溶解し、減圧しながら80℃で加熱撹拌した。蒸発乾固して得られた粉末にトリフルオロ酢酸ナトリウム(NaCOOCF)2.5mmolを加え、オレイルアミン15mLに溶解させた。減圧下100℃で30分撹拌した後、窒素を系内に導入し、330℃で1時間撹拌した。80℃まで冷却した後、エタノール20mLを加え、遠心法によりNaErFナノ粒子(粒径20nm)を分離した。
【0085】
上述した光電変換素子の製造方法に沿って、具体的には次の条件で、光電変換素子を製造した。
【0086】
(実施例1)
基材上に設けられて負極層となる部材として、実質的にアンチモンドープ酸化インジム(ATO)からなる部材を準備した。この部材の一面に対し、10mM濃度で塩化ユーロピウム水和物(EuCl・6HO)を含むエタノール(COH)液200μlを、3000rpmの回転数でスピンコーティングした。続いて、スピンコーティングされた混合液に対し、120℃で10分間の加熱、450℃で1時間の加熱を順に行い、実質的に酸化ユーロピウム(Eu)からなるバッファ層を形成した。
【0087】
次に、バッファ層に対し、酸化チタン(TiO)ペースト(PST18NR、日揮触媒化成株式会社製)とエタノールとを1:3.5の重量比で含む混合液120μlを、6000rpmの回転数でスピンコーティングした。続いて、スピンコーティングされた混合液に対し、120℃で10分間の加熱、450℃で1時間の加熱を順に行い、実質的に酸化チタンからなる複数の粒子からなる第一層(多孔膜)を形成した。
【0088】
次に、第一層の多孔膜に対し、0.5M以下の濃度で、ヨウ化鉛(PbI)を1M、ヨウ化セシウム(CsI)を1M、コアシェル粒子1を8重量パーセント濃度(w%)で含む、ジメチルホルムアミド(DMF)およびジメチルスルホキシド(DMSO)の混合溶液100μlを、5000rpmの回転数でスピンコーティングした。続いて、スピンコーティングされた混合液に対し、185℃で15分間の加熱を行い、本発明のコアシェル粒子を含む第二層を形成した。
【0089】
次に、第二層に対し、5mM濃度で塩化ユーロピウム(EuCl)を含むイソプロピルアルコール(IPA)液100μlを、5000rpmの回転数でスピンコーティングした。続いて、スピンコーティングされた混合液に対し、100℃で15分間の加熱を行い、実質的にユーロピウムからなる層を形成した。
【0090】
次に、このユーロピウムを主成分とする層に対し、20mM濃度でターピリジン(2,2’:6’,2”-terpyridine)を含むイソプロピルアルコール(IPA)液200μlを30秒保持した後、3000rpmの回転数でスピンコーティングした。続いて、スピンコーティングされた混合液に対し、100℃で15分間の加熱を行い、実質的にターピリジンからなる層を形成した。
【0091】
最後に、第一層、第二層、第三層からなる積層体を挟んで負極層と反対側に、かつ第三層に接するように、正極層(Ag)を形成する(蒸着する)ことにより、実施例1の光電変換素子を製造した。
【0092】
(実施例2)
コアシェル粒子1の代わりにコアシェル粒子2を用いた以外は、実施例1と同じ条件で、光電変換素子を製造した。
【0093】
(実施例3)
第三層として、真空蒸着法でBCPからなる層(膜厚30nm)を形成した以外は、実施例1と同じ条件で、光電変換素子を製造した。
【0094】
(実施例4)
第三層として実質的にSpiro―OMeTADからなる層(膜厚100nm)を形成した以外の条件は、実施例1と同じ条件で、光電変換素子を製造した。
【0095】
(比較例1)
コアシェル粒子1の代わりにナノ粒子1を用いた以外は、実施例1と同じ条件で、光電変換素子を製造した。
【0096】
(コアシェル粒子の発光スペクトル)
コアシェル粒子1~2およびナノ粒子1の各粒子に対し、波長980nmの近赤外光を照射した際のスペクトルを浜松ホトニクス社製絶対PL量子収率測定装置で測定した。
【0097】
(コアシェル粒子の光吸収スペクトル)
コアシェル粒子2の光吸収スペクトルを浜松ホトニクス社製絶対PL量子収率測定装置で測定した。
【0098】
(SEM観察)
日立ハイテクノロジーズ社製走査型電子顕微鏡を用い倍率150,000倍で、実施例2の光電変換素子の断面を観察し、SEM像を得た。
【0099】
(光電流の応答特性)
実施例2に対し、光応答特性を測定した。光電変換素子の正極層と負極層との間に印加する電圧を、-0.5Vとした。光電変換素子に照射する光の波長、放射照度を、それぞれ808nm、10mW/cmとした。
【0100】
図7は、コアシェル粒子1および2の光電変換素子に対して波長980nmの近赤外光を照射し、そこで波長変換された光のスペクトルを示すグラフである。グラフの横軸が波長(nm)を示し、グラフの縦軸が強度(Counts/s)を示している。三つの波長(約550nm付近、約650nm付近、約800nm付近)でピークを示していることから、照射した近赤外光が、これら三つの光に変換されたことが分かる。破線は、被覆層CsPbBrが2層の場合(コアシェル粒子2)、点線は、被覆層CsPbBrが1層の場合(コアシェル粒子1)のスペクトルを示す。なお、比較として、ナノ粒子1のNaErF4(実線)のみのスペクトルも示す。その発光強度は、被覆層CsPbBrにより著しく強くなり、層の厚さが増すことでさらに強くなる。無機ナノ粒子のみの場合は鎖状有機分子の熱振動により発光が失活するのに対し、被覆層CsPbBrが失活を抑制していることを示した結果である。なお、ピークの位置は、コアシェル粒子の材料、形状、大きさ等を変えることによって調整することができる。
【0101】
図8は、第二層のコアシェル粒子の構造の違いによる吸収率の変化を示すグラフである。グラフの横軸が波長(nm)を示し、グラフの縦軸が強度(Counts/s)を示している。実線は、コアシェル粒子2の結果を示す。比較として、Erイオンを2%含むNaYFのナノ粒子の吸収率(破線)も示す。コアシェル粒子2は、Erイオンの量が100%であるため、一般的なアップコンバージョンナノ粒子(Erを2%使用)に比べ、照射された近赤外光の強度が7分の1程度に低くなっている。低くなった強度に相当する近赤外光は、コアシェル粒子のコア(無機ナノ粒子)に吸収されたものと考えられる。
【0102】
図9は、実施例として製造した光電変換素子の断面のSEM画像である。第一層、第二層、第三層からなる層が順に積層された構造体を形成し、Ag-ATO電極間を連結する電流パスを形成していることが分かる。
【0103】
図10は、実施例2の光電変換素子の第二層に対して、波長980nmの近赤外光を照射し、そこで波長変換された光のスペクトルを示すグラフである。グラフの横軸が波長(nm)を示し、グラフの縦軸が強度(Counts/s)を示している。本来、ペロブスカイト層(ここでは、CsPbI)は、800nm以上の光を吸収することができないが、実施例2の第二層では、コアシェル粒子2を含むことにより、980nmの光を図7に示す可視光に変換することができる。700nm付近に、CsPbI3に由来する発光が観測されたことから、コアシェル粒子2で波長変換された可視光をCsPbIが吸収したことを示す。
【0104】
図11は、実施例2の光電変換素子に対して所定のタイミングで光照射を行うことにより、得られた光電流の応答速度を示すグラフである。グラフの横軸は経過時間(s)を示し、グラフの縦軸は光電流(A/cm)を示している。光電流は、電圧のオンオフに合わせた瞬時の立ち上がり、立ち下がりを示しており、十分な応答速度を実現できることが分かる。光電変換効率は75%、感度は0.49A/Wであった。
【符号の説明】
【0105】
10・・・コアシェル粒子
11・・・無機ナノ粒子
11a・・・無機ナノ粒子の粒径
12・・・被覆層
12a・・・被覆層の厚み
100・・・光電変換素子
101・・・正極層
102・・・負極層
103・・・光電変換層
104・・・第一層
105・・・第二層
106・・・第三層
107・・・バッファ層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11