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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】合成スラブの設計方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 5/40 20060101AFI20240422BHJP
   B21D 47/00 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
E04B5/40 G
B21D47/00 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020065669
(22)【出願日】2020-04-01
(65)【公開番号】P2021161793
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174207
【弁理士】
【氏名又は名称】筬島 孝夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090549
【弁理士】
【氏名又は名称】加川 征彦
(72)【発明者】
【氏名】石丸 亮
(72)【発明者】
【氏名】赤丸 一朗
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】実開昭57-002914(JP,U)
【文献】特開昭52-036817(JP,A)
【文献】特開平05-311794(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 5/40
B21D 47/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
山部と谷部とが斜面で連続して台形波形断面形状をなすとともに幅方向両側に谷面高さ位置の平坦部を有するデッキプレートの長さ方向端部を押し潰して、山面高さ位置に端部閉塞の梁載置部を形成した逆エンドクローズドデッキプレートを用い施工され、デッキプレートとコンクリートとが一体化された合成スラブの設計方法であって、
合成スラブを、同一方向性の鉄筋コンクリート梁とみなす設計において、
鉄筋コンクリート梁とした場合の引張鉄筋比(r)を設定する工程と、
引張鉄筋比(r)に乗ずる係数(α)を設定する工程と、
合成スラブの各部材の断面寸法を、次の式(1、及び式(2)を用いて設定する工程と、を含むことを特徴とする合成スラブの設計方法
H=S/(α・r)-d ・・・・(1)
2≦α≦2×1.1 ・・・(2)
但し、
H=山上コンクリート厚さ(mm)
S=デッキプレートの1000mm幅当たりの断面積(mm
α=引張鉄筋比(r)に対する係数
r=鉄筋コンクリート梁の長期荷重時に最大曲げモーメントを受ける部分の引張鉄筋比
d=デッキプレート高さ領域における平均コンクリート厚さ(mm)
【請求項2】
前記引張鉄筋比が0.004であることを特徴とする請求項1記載の合成スラブの設計方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、デッキプレートとコンクリートとが一体化された合成スラブに関し、特に、デッキプレートの長さ方向端部を押し潰して山面高さ位置に端部閉塞の梁載置部を形成したエンドクローズドデッキプレート(以下では、「エンドクローズドデッキプレート」を「エンクロデッキプレート」と略して呼ぶ)、すなわち逆エンクロデッキプレートを用いて施工された合成スラブに関する。
【背景技術】
【0002】
山部と谷部とが斜面で連続して台形波形断面形状をなすとともに幅方向両側に谷面高さ位置の平坦部を有するデッキプレートは、これを型枠としてコンクリートを打設して床スラブを施工する場合に広く用いられている。
【0003】
エンボスや特殊な折り曲げを施していないデッキプレートによる床スラブ(コンクリート床スラブ)に荷重が加わると、デッキプレートとコンクリートに曲げが発生する。曲げにより引張力が作用する部分(中立線より下の部分)のコンクリートにひび割れが発生して、デッキプレートとコンクリートが相互に長手方向にずれる力が生じる。また、そのずれに伴って剥離も生じる。
【0004】
これに対して、デッキプレートにエンボスや特殊な折り曲げを施した合成スラブ用のデッキプレート(例えば図1のデッキプレート1(但し図示ではエンボスは施していない))による合成スラブでは、そのずれを抑えることで、両者の合成効果が発揮され、高い性能を有した床を構築できる。
図1において、符号2は山部(ないし山面)、3は谷部(ないし谷面)、4は斜面部、7、8は幅方向両側の谷面高さ位置の平坦部である。
【0005】
合成スラブに荷重を加えていくと、引張側となるコンクリートにひび割れが生じ始めるが、ひび割れが小さい範囲では、中立軸より圧縮側のコンクリートと引張側のデッキプレートからなる有効等価断面で荷重を保持することになる。この状態を維持している間は耐力低下は見られず、安定した状態で床荷重の支持が可能である。
【0006】
しかし、コンクリート厚が厚くなると、中立軸から引張縁(床スラブの下端縁)までの距離が離れてしまうことで、引張側コンクリートに大きな引張力が生じ、ひび割れが大きくなり易くなる。つまり、デッキプレートとコンクリートの間でずれが発生し易くなり、理論上の断面性能を保持できなくなる。
そのため、「デッキプレート床構造設計・施工規準2018」(一般社団法人日本鋼構造協会)では、合成スラブとして有効なデッキプレート山上コンクリート厚さは、50mm 以上 100mm 以下としている。これは、同規準にも記載がある通り、過去の実験結果から直接性能を確認した数値である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-118020
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
合成スラブを用いる際、デッキプレート山上コンクリート厚さを100mm以上とすることで合成スラブの断面性能が高くなり、より大きな積載荷重の支持及びひび割れ低減効果が期待できる。
しかし、デッキプレート山上コンクリート厚さを100mm以上としたとして現在の合成スラブの設計体系では、上述の通りデッキプレート山上コンクリート厚さは100mmまでの性能で設計することになっており、コンクリート厚さ100mmを超える断面を用いたとしても、その分の性能は上積みできず、逆に床スラブの自重増加分だけ許容荷重が小さくなってしまっていた。
図2(イ)、(ロ)に、例えば高さ75mmのデッキプレートの場合として模式的に示すように、山上コンクリート厚さを、例えば100mmから120mmへと20mm厚くしても、その分の性能は上積みせずに断面二次モーメントや断面係数は同じとして扱うので、自重増加分(厚さ20mm分のコンクリート重量)だけ許容荷重が小さくなる。つまり、山上コンクリート厚さを120mmとしても、山上コンクリート厚さ100mmの合成スラブの断面性能とみなされてしまう。
【0009】
なお、前記「デッキプレート床構造設計・施工規準2018」においてデッキプレート山上コンクリート厚さを100mm 以下としたのは、図3(イ)、(ロ)のように、梁10に載る梁載置部が谷面高さ位置にある場合を想定したものである。
すなわち、図3(イ)の端部閉塞をしていない一般的なデッキプレート1Aの場合、及び図3(ロ)の谷面高さ位置に端部閉塞の梁載置部5Bを形成した通常の端部閉塞デッキプレート1Bの場合を想定したものである。
【0010】
図3(ハ)のデッキプレートは、同基準においては、想定されていなかった。
【0011】
本発明は上記背景のもとになされたもので、山上コンクリート厚さを現状の100mmより高くした場合に、その高くした分の性能の上積みが可能な合成スラブを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する請求項1の発明の合成スラブの設計方法は、山部と谷部とが斜面で連続して台形波形断面形状をなすとともに幅方向両側に谷面高さ位置の平坦部を有するデッキプレートの長さ方向端部を押し潰して、山面高さ位置に端部閉塞の梁載置部を形成した逆エンドクローズドデッキプレートを用い施工された、デッキプレートとコンクリートとが一体化された合成スラブの設計方法であって、
合成スラブを、同一方向性の鉄筋コンクリート梁とみなす設計において、
鉄筋コンクリート梁とした場合の引張鉄筋比(r)を設定する工程と、
引張鉄筋比(r)に乗ずる係数(α)を設定する工程と、
合成スラブの各部材の断面寸法を、次の式(1)、及び式(2)を用いて設定する工程と、を含むことを特徴とする。
H=S/(α・r)-d ・・・・(1)
2≦α≦2×1.1 ・・・(2)
但し、
H=山上コンクリート厚さ(mm)
S=デッキプレートの1000mm幅当たりの断面積(mm
α=引張鉄筋比(r)に対する係数
r=鉄筋コンクリート梁の長期荷重時に最大曲げモーメントを受ける部分の引張鉄筋比
d=デッキプレート高さ領域における平均コンクリート厚さ(mm)
【0013】
請求項2は、請求項1の合成スラブの設計方法における引張鉄筋比が0.004であることを特徴とする。
[発明の効果]
【発明の効果】
【0014】
本発明の合成スラブにおけるデッキプレートは、長さ方向端部を押し潰して、山面高さ位置に端部閉塞の梁載置部を形成したエンクロデッキプレート、すなわち、図3(ハ)に示した逆エンクロデッキプレート1Cである。梁載置部を符号5Cで示す。
デッキプレートによる床スラブに荷重が加わると、デッキプレートとコンクリートに曲げが発生し、曲げにより引張力が作用する部分(中立線より下の部分)のコンクリートにひび割れが発生する。
下部のコンクリートにひび割れが発生すると、曲げの力はコンクリートがデッキプレートに対してずれる力となり、
図3(ロ)の谷面高さ位置に端部閉塞の梁載置部を形成した通常のエンドクローズドデッキプレート1Bの場合、コンクリート6が図4(ロ)のようにずれる。また、そのずれに伴って剥離も生じる。
しかし、図3(ハ)の山面高さ位置に端部閉塞の梁載置部5Cを形成した逆エンクロデッキプレート1Cの場合、図4(イ)のように逆エンクロデッキプレートであることにより、すなわち、梁載置部5Cが山面高さ位置にあることにより、デッキプレートの端部閉塞部が合成スラブの谷部のコンクリート6のずれ止めとして有効に作用する。したがって、デッキプレート5Cとコンクリート6の相互のずれ及びそれに伴う剥離が防止され、有効に一体化した合成スラブとなる。
【0015】
本発明は、デッキプレートが逆エンクロデッキプレートであることにより、上記の通りデッキプレートとコンクリートの相互のずれが防止され有効に一体化した合成スラブが得られることに伴って、式(1)、(2)を満たす条件のもとで、山上コンクリート厚さを現状の100mmより高くした場合に、その高くした分の性能の上積みが可能な合成スラブを得ることが可能となることを見出したものである。
【0016】
式(1)におけるrは「鉄筋コンクリート梁の長期荷重時に最大曲げモーメントを受ける部分の引張鉄筋比(梁断面積に対する鉄筋断面積の比)」であるが、「鉄筋コンクリート構造/計算基準・同解説」において、「長期荷重時に正負最大曲げモ―メントを受ける部分の引張鉄筋断面積は、
「0.004×梁幅×梁有効せい」(すなわち、引張鉄筋比rが0.004)、または存在応力によって必要とされる量の4/3倍のうち、小さい方の数値以上とする。」
とされている。
【0017】
本発明では、合成スラブにおける引張鉄筋比Rを鉄筋コンクリート梁の引張鉄筋比rのα倍とみなすが、基本的には「α=2」(すなわち、鉄筋コンクリート梁の引張鉄筋比rの2倍)と把握する。その理由は、鉄筋コンクリート梁における鉄筋は全周面がコンクリートとの付着面になり、コンクリートと鉄筋との一体化を図っているのに対して、合成スラブにおけるデッキプレートはその片面の付着により合成効果を発揮させることから、鉄筋コンクリート梁の場合における引張鉄筋比rの2倍を基本とする。αは引張鉄筋比rに対する係数として採用される数値であり、本発明ではαの範囲を、2より大で2.1より小という数値を採用する。
【0018】
本発明が床(床スラブ)に関するものであるのに「梁(鉄筋コンクリート梁)の引張鉄筋比」を利用するのは、合成スラブは一方向性スラブであるからである。
すなわち、合成スラブにおいてはデッキプレート断面が引張鉄筋となるが、直角2方向に鉄筋を配筋する二方向性スラブである鉄筋コンクリート床スラブと異なり、合成スラブは鉄筋機能を果たすデッキプレートが一方向であり、構造として「鉄筋コンクリート梁」と同様な一方向性梁を並べたものとして扱えるからである。
【0019】
本発明の合成スラブによる効果、すなわち、山上コンクリート厚さを現状の100mmより高くした場合に、その高くした分の性能の上積みが可能であることは、後述の「発明を実施するための形態」の実施例において、前記「鉄筋コンクリート構造/計算基準・同解説」に記載の考え方に沿って、具体的な形状寸法の逆エンクロデッキプレートを例にとって説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施例の合成スラブで採用したデッキプレートの形状/寸法を示す図である。
図2】谷面が梁上に載置される一般的なデッキプレート(谷面高さ位置に端部閉塞の梁載置部を形成した通常の端部閉塞デッキプレートの場合も含む)による合成スラブの場合に、デッキプレート山上コンクリート厚さが100mmの場合(イ)と、それを超えた120mmの場合(ロ)とを対比させて示した図であり、100mmを超えた厚さにしても、その分の性能は上積みできないことを説明する図である。
図3】端部閉塞デッキプレートについて説明するもので、(イ)は端部閉塞していない梁載置部を持つ一般的なデッキプレート1A、(ロ)は谷面高さ位置に端部閉塞の梁載置部5Bを形成した通常の端部閉塞デッキプレート1B、(ハ)は本発明で対象とする、山面高さ位置に端部閉塞の梁載置部5Cを形成した逆エンクロデッキプレート1Cを示す。
図4】(イ)は逆エンクロデッキプレート1Cを用いて施工した合成スラブ、(ロ)は通常エンクロデッキプレート1Bを用いて施工した合成スラブを示し、逆エンクロデッキプレート1Cを用いた合成スラブの場合に、コンクリートがデッキプレートに対してずれにくいことを説明する図である。
図5図1のデッキプレートで施工した合成スラブを模式的に示すものであり、本発明の合成スラブの効果を数値例として説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の合成スラブを実施するための形態について、図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0022】
本発明の合成スラブによる効果、すなわち、山上コンクリート厚さを現状の100mmより高くした場合に、その高くした分の性能の上積みが可能であることを、図1に示した断面形状・寸法のデッキプレートを取り上げて説明する。
本発明では合成スラブを鉄筋コンクリート梁とみなして扱うが、実施例として合成スラブを幅1000mm、せいHmmの鉄筋コンクリート梁とみなす。
h=山上コンクリート厚さmm
d=デッキプレート高さ領域の平均コンクリート厚さmm
S=デッキプレートの断面積mm
とすると、
梁断面積に対応するのは 1000×H(=1000×(h+d))、
鉄筋断面積に対応するのは デッキプレート断面積S、
である。
したがって、合成スラブにおける引張鉄筋比Rは、
R=S/1000(h+d) ・・・式(3)
である。
【0023】
具体的な数値例にて説明すると、以下の通りである。
図1に示した通り、1枚のデッキプレートの断面形状・寸法が板厚1.0mm、高さ75mm、幅600mmで、断面積が880mm(1メートル(1000mm)当たりの断面積S=1480mm)の場合で計算する。
式(1)における「デッキプレート高さ領域における平均コンクリート厚さd」は、さらに具体的に言えば、「デッキプレートの幅寸法×d=谷部空間と谷部相当空間の合計断面積」となるような数値dであり、溝部換算スラブ厚さとも呼ばれる。
ここで谷部相当空間とは、デッキプレート同士を幅方向に連結した場合における連結部領域空間を指す。通常は谷部空間と連結部領域空間は同サイズである。
例示のデッキプレートの「デッキプレート高さ領域における平均コンクリート厚さd」は36mm(d=36mm)である。
【0024】
具体的な計算は以下の通りである。
ここでは、鉄筋コンクリート梁の引張鉄筋比rを、前記「鉄筋コンクリート構造/計算基準・同解説」に記載の考え方に沿って、「r=0.004」とする。
また、[0018]に記載した通り、本発明において、係数αの数値は基本的には2と把握するので、「α=2.0」とする。
【0025】
前記の通り、r=0.004、α=2.0とすると、
合成スラブの引張鉄筋比R=α×r=0.008である。
上記断面形状・寸法の1メートル当たりの断面積S=1480mmであり、d=36mmなので、
式(3)に代入すると、
0.008=1480/1000(h+36)
したがって、
h=1480/(2×0.004)×1000―36
=149mm(≒150mm)
となる。
すなわち、逆エンクロデッキプレートを用いることで、デッキプレートとコンクリートとの相互のずれが防止されることから、合成スラブの山上コンクリート厚さhが100mmmを超えても、150mm程度までであれば、合成効果を有効に発揮することが可能であることが分かった。(鉄筋コンクリート梁として計算して、本発明の合成スラブの引張鉄筋比Rが「鉄筋コンクリート構造/計算基準」における引張鉄筋比の要件を満たしている故)。
【0026】
上記の通りであり、逆エンクロデッキプレートを用いた合成スラブの山上コンクリート厚さhを従来より厚くすることが可能となることで、断面性能の上積みなしに逆に自重増加分だけ許容荷重が小さくなってしまう、という問題を解消できる。つまり、従来の100mm以下の合成スラブに対して、合成スラブの断面性能が高くなり、積載荷重の負担増加に加え、ひび割れ低減効果が期待できる。
【符号の説明】
【0027】
1(1A、1B、1C) デッキプレート
2 山部(ないし山面)
3 谷部(ないし谷面)
4 斜面部
5(5B、5C) 梁載置部
6 コンクリート
7、8 デッキプレート幅方向両側の谷面高さ位置の平坦部
10 梁

図1
図2
図3
図4
図5