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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】甲状腺機能検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20240422BHJP
   G01N 33/60 20060101ALI20240422BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/60
G01N33/48 H
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020107778
(22)【出願日】2020-06-23
(65)【公開番号】P2022003314
(43)【公開日】2022-01-11
【審査請求日】2023-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】320005350
【氏名又は名称】医療法人社団甲友会
(74)【復代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100093148
【弁理士】
【氏名又は名称】丸岡 裕作
(72)【発明者】
【氏名】栗原 英夫
【審査官】下村 一石
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/147937(WO,A1)
【文献】米国特許第03615222(US,A)
【文献】特開平01-282390(JP,A)
【文献】特開平02-289628(JP,A)
【文献】栗原英夫,O-6-4 バセドウ病に無痛性甲状腺炎が合併か?,第58回日本甲状腺学会学術集会,2015年11月07日,P79,https://www.jstage.jst.go.jp/article/endocrine/91/2/91_699/_pdf
【文献】栗原, 英夫,放射性ヨードによる甲状腺機能検査法の検討-1~3-,東北医学雑誌,1962年04月,65(4),https://cir.nii.ac.jp/crid/1520853832743047680
【文献】AICKIN, C.M., FRASER, S., COOPER, E., HALL, G. and BURKE, C.W.,THYROID HORMONE KINETICS: IMPROVED METHOD FOR QUANTITATIVE SEPARATION AND MEASUREMENT OF THE VARIOUS RADIOIODINATED SPECIES IN SERUM AFTER RADIOIODOTHYRONINE INJECTION.,Clinical Endocrinology,,1977年12月,7:,469-479.,https://doi.org/10.1111/j.1365-2265.1977.tb01339.x
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機放射性ヨウ素化合物を経口により投与し、甲状腺により放射性ヨウ素を取り込んで合成された甲状腺ホルモンが結合する蛋白結合放射性ヨウ素化合物を生成せしめ、無機放射性ヨウ素化合物の投与後、所要時間経過後に採血した血液から分離して得られた血清を用いて、当該血清の所定量について放射線量を測定して第1測定値を得る第1測定工程と、
該第1測定工程後に、無機ヨウ素化合物を吸着し蛋白結合ヨウ素化合物を通過させる繊維状のイオン交換体を用い、上記所定量の血清を上記イオン交換体を通過させて該血清から無機放射性ヨウ素化合物を除去する無機放射性ヨウ素化合物除去工程と、
該無機放射性ヨウ素化合物除去工程で上記無機放射性ヨウ素化合物が除去された血清の放射線量を測定して第2測定値を得る第2測定工程と、
上記第1測定値を全放射性ヨウ素量とし、上記第2測定値を蛋白結合放射性ヨウ素量として、上記全放射性ヨウ素量及び蛋白結合放射性ヨウ素量から放射性ヨウ素が蛋白結合放射性ヨウ素化合物に転換された放射性ヨウ素転換率を算出する放射性ヨウ素転換率算出工程とを備え、
上記放射性ヨウ素転換率により、甲状腺のヨウ素から甲状腺ホルモンを合成する機能評価を可能にし、
上記繊維状のイオン交換体を備えたイオン交換体ユニットを用い、
該イオン交換体ユニットを、第1開放口を有した第1容器と、第2開放口を有した第2容器と、一端に一端開口を有し他端に他端開口を有して貫通する通路を備えるとともに該通路の途中に上記イオン交換体を保持する保持部を有したろ過体とを備えて構成し、上記ろ過体の一端側を上記第1容器の第1開放口側に連結可能に形成し、上記ろ過体の他端側を上記第2容器の第2開放口側に連結可能に形成し、
上記第1測定工程で、血清を上記第1容器に入れて放射線量を測定し、
上記無機放射性ヨウ素化合物除去工程で、上記第1容器にろ過体を連結するとともに、該ろ過体に第2容器を連結し、遠心分離機により、上記第1容器の血清を上記ろ過体のイオン交換体を通過させて上記第2容器に至らしめ、
上記第2測定工程で、上記第2容器に入れられた血清の放射線量を測定することを特徴とする甲状腺機能検査方法。
【請求項2】
上記ろ過体の一端開口側の内側を上記第1容器の第1開放口側の外側に相対的に嵌合する形状に形成し、上記ろ過体の他端開口側の外側を上記第2容器の第2開放口側の内側に相対的に嵌合する形状に形成し、上記第1容器の第1開放口側の外側を上記第2容器の第2開放口側の内側に相対的に嵌合する形状に形成し、
上記第1測定工程で、血清を上記第1容器に入れ、且つ、該第1容器の第1開放口側の外側に上記第2容器の第2開放口側の内側を嵌合し、該第2容器により上記第1容器の第1開放口に蓋をし、この状態で、上記第1容器内の血清の放射線量を測定し、
上記無機放射性ヨウ素化合物除去工程で、上記第1容器から上記第2容器を外し、上記第1容器の第1開放口側の外側に上記ろ過体の一端開口側の内側を嵌合するとともに、該ろ過体の他端開口側の外側に上記第2容器の第2開放口側の内側を嵌合し、この状態で、遠心分離機により、上記第1容器の血清を上記ろ過体のイオン交換体を通過させて上記第2容器に至らしめ、
上記第2測定工程で、上記第2容器から上記ろ過体を外すとともに、該ろ過体から第1容器を外し、それから、上記第2容器の第2開放口側の内側に上記第1容器の第1開放口側の外側を嵌合し、該第1容器により上記第2容器の第2開放口に蓋をして、この状態で上記第2容器内の血清の放射線量を測定することを特徴とする請求項1記載の甲状腺機能検査方法。
【請求項3】
上記第1容器を断面リング状の試験管状に形成し、上記第2容器を断面リング状の試験管状に形成し、上記ろ過体を断面リング状の管状に形成し、上記保持部を、上記他端開口に架設される網状体で構成し、上記イオン交換体をろ過体の通路に嵌合する円盤状に形成し、該イオン交換体を上記保持部を構成する網状体の内側に付設したことを特徴とする請求項1または2記載の甲状腺機能検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、甲状腺ホルモン合成能を検査する甲状腺機能検査方法に係り、特に、甲状腺ホルモンの材料である放射性ヨウ素を投与して血液を採取し、その血清における放射線量の測定に基づいて行う甲状腺機能検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の甲状腺機能検査方法としては、所謂三塩化酢酸法と言われる方法が知られている(例えば、栗原英夫著「放射性ヨードによる甲状腺検査法の検討」:東北医学雑誌第65巻第4号(1962年4月1日発行)に掲載)。
これは、無機放射性ヨウ素化合物であるヨウ化ナトリウム(Na131I)を経口または静脈注射による静注により投与し、甲状腺により放射性ヨウ素を取り込んで合成された甲状腺ホルモンが結合する蛋白結合放射性ヨウ素化合物(Protein Bound Radioactive iodine(131I):PB131I)を生成せしめるようにする。甲状腺は、甲状腺ホルモンとして、サイロキシン(T4)やトリヨードサイロニン(T3)を合成し、これらは血清蛋白と結合し、蛋白結合放射性ヨウ素化合物となる。それから、無機放射性ヨウ素化合物の投与後、例えば24時間の所要時間経過後に採血し、採血した血液から血清を分離する。
【0003】
そして、先ず、分離した血清の所定量について、例えば、クリスタル井戸型シンチレータを用いて放射線量を測定し、この測定値を全放射性ヨウ素量とする。次に、所定量の血清から無機放射性ヨウ素化合物を除去する。この除去は、血清に三塩化酢酸を加えて撹拌し、遠心分離機によって遠心分離し、その上澄みを捨て、更に、三塩化酢酸を加えて同様の操作を繰り返し行い、最後に、水酸化ナトリウムを加えて蛋白結合放射性ヨウ素化合物である血清蛋白質の試料を得る。それから、この試料について、上記と同様に、放射線量を測定し、この測定値を蛋白結合放射性ヨウ素化合物の蛋白結合放射性ヨウ素量とする。
【0004】
その後、求めた全放射性ヨウ素量及び蛋白結合放射性ヨウ素量から、蛋白結合放射性ヨウ素化合物に転換された放射性ヨウ素の転換率を算出する。この放射性ヨウ素転換率を、甲状腺のヨウ素から甲状腺ホルモンを合成する機能評価に資するようにしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】栗原英夫著「放射性ヨードによる甲状腺検査法の検討」:東北医学雑誌第65巻第4号(1962年4月1日発行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、この従来の甲状腺機能検査方法にあっては、所定量の血清から無機放射性ヨウ素化合物を除去する際、血清に三塩化酢酸を加えて撹拌し、遠心分離機によって遠心分離し、その上澄みを捨て、更に、三塩化酢酸を加えて同様の操作を繰り返し、最後に、水酸化ナトリウムを加えるので、その操作が極めて煩雑になっており、そのため、検査結果を得るまでに多くの時間を要し、極めて検査効率が悪いという問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、血清から無機放射性ヨウ素化合物を除去する操作を容易に行うことができるようにし、検査効率の向上を図った甲状腺機能検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的を達成するため、本発明の甲状腺機能検査方法は、
無機放射性ヨウ素化合物を経口により投与し、甲状腺により放射性ヨウ素を取り込んで合成された甲状腺ホルモンが結合する蛋白結合放射性ヨウ素化合物を生成せしめ、無機放射性ヨウ素化合物の投与後、所要時間経過後に採血した血液から分離して得られた血清を用いて、当該血清の所定量について放射線量を測定して第1測定値を得る第1測定工程と、
該第1測定工程後に、無機ヨウ素化合物を吸着し蛋白結合ヨウ素化合物を通過させる繊維状のイオン交換体を用い、上記所定量の血清を上記イオン交換体を通過させて該血清から無機放射性ヨウ素化合物を除去する無機放射性ヨウ素化合物除去工程と、
該無機放射性ヨウ素化合物除去工程で上記無機放射性ヨウ素化合物が除去された血清の放射線量を測定して第2測定値を得る第2測定工程と、
上記第1測定値を全放射性ヨウ素量とし、上記第2測定値を蛋白結合放射性ヨウ素量として、上記全放射性ヨウ素量及び蛋白結合放射性ヨウ素量から放射性ヨウ素が蛋白結合放射性ヨウ素化合物に転換された放射性ヨウ素転換率を算出する放射性ヨウ素転換率算出工程とを備え、
上記放射性ヨウ素転換率により、甲状腺のヨウ素から甲状腺ホルモンを合成する機能評価を可能にした構成としている。
【0009】
ここで、無機ヨウ素化合物としては、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化カルシウム等を挙げることができる。放射性ヨウ素としては、ヨウ素131(131I)あるいはヨウ素123(123I)があり、無機放射性ヨウ素化合物としては、ヨウ素131(131I)の化合物であるヨウ化ナトリウム(Na131I)、あるいは、ヨウ素123(123I)の化合物であるヨウ化ナトリウム(Na123I)を用いることができる。ヨウ素131(131I)は、半減期が7日なので、使用し易い。ヨウ化ナトリウム(Na123I)は、β線を放出しないので、小児などに使用するが、高価なので、一般の検査では、ヨウ化ナトリウム(Na131I)を用いる。
【0010】
これにより、無機放射性ヨウ素化合物を経口により投与すると、甲状腺は、放射性ヨウ素を取り込んで、甲状腺ホルモンとして、サイロキシン(T4)やトリヨードサイロニン(T3)を合成し、これらは血清蛋白と結合し、蛋白結合放射性ヨウ素化合物(Protein Bound Radioactive iodine)になる。それから、無機放射性ヨウ素化合物の投与後、例えば24時間の所要時間経過後に採血し、採血した血液から血清を分離する。そして、先ず、第1測定工程で、分離した血清の所定量について放射線量を測定して第1測定値を得る。
【0011】
次に、無機放射性ヨウ素化合物除去工程において、血清から無機放射性ヨウ素化合物を除去する。この際には、所定量の血清を繊維状のイオン交換体を通過させる。この場合、無機放射性ヨウ素化合物は、イオン交換体に吸着するので、血清から除去させられるとともに、蛋白結合放射性ヨウ素化合物は血清中に混合したままイオン交換体を通過する。そのため、血清をイオン交換体を通過させるだけで、無機放射性ヨウ素化合物を除去できるので、その操作が極めて容易であり、時間も短時間で済み、検査効率を大幅に向上させることができる。このため、極めて容易且つ短時間で甲状腺の甲状腺ホルモン合成能を判定できるようになり、日常の甲状腺機能検査として使用できるようになる。
【0012】
それから、第2測定工程で無機放射性ヨウ素化合物が除去された血清の放射線量を測定して第2測定値を得る。その後、放射性ヨウ素転換率算出工程において、全放射性ヨウ素量及び蛋白結合放射性ヨウ素量から放射性ヨウ素が蛋白結合放射性ヨウ素化合物に転換された放射性ヨウ素転換率を算出する。この場合、第2測定工程で測定した第2測定値がそのまま蛋白結合放射性ヨウ素量となるので、別途計算して算出する必要がなく、それだけ、蛋白結合放射性ヨウ素量の特定を容易にすることができる。
放射性ヨウ素転換率は、以下の計算式により算出することができる。
放射性ヨウ素転換率(%)=(蛋白結合放射性ヨウ素量÷全放射性ヨウ素量)×100
【0013】
この算出された放射性ヨウ素転換率は、甲状腺のヨウ素から甲状腺ホルモンを合成する機能評価に資することができる。例えば、放射性ヨウ素転換率が高ければ、甲状腺機能亢進症があるとして、バセドウ病等の診断が可能になり、放射性ヨウ素転換率が低ければ、甲状腺機能低下症があるとして、無痛性甲状腺炎,亜急性甲状腺炎,橋本病等の診断が可能になる。
また、現在、臨床で行われているヨウ素131(131I)の摂取率は、甲状腺ホルモンの合成する材料のヨウ素の取り込みを見ている検査であり、甲状腺ホルモンの合成(産生)を診ている検査ではない。また、最近の甲状腺ホルモン測定法では、血中の甲状腺ホルモンをピコグラム(pg)のオーダーまで測定可能ではあるが、血中のホルモンの値は、炎症によるホルモンの漏出もあり、この場合には不都合を生じる。そのため、甲状腺ホルモンの合成能を診る本発明検査方法は極めて優れる。
【0014】
また、必要に応じ、上記繊維状のイオン交換体を備えたイオン交換体ユニットを用い、
該イオン交換体ユニットを、第1開放口を有した第1容器と、第2開放口を有した第2容器と、一端に一端開口を有し他端に他端開口を有して貫通する通路を備えるとともに該通路の途中に上記イオン交換体を保持する保持部を有したろ過体とを備えて構成し、上記ろ過体の一端側を上記第1容器の第1開放口側に連結可能に形成し、上記ろ過体の他端側を上記第2容器の第2開放口側に連結可能に形成し、
上記第1測定工程で、血清を上記第1容器に入れて放射線量を測定し、
上記無機放射性ヨウ素化合物除去工程で、上記第1容器にろ過体を連結するとともに、該ろ過体に第2容器を連結し、遠心分離機により、上記第1容器の血清を上記ろ過体のイオン交換体を通過させて上記第2容器に至らしめ、
上記第2測定工程で、上記第2容器に入れられた血清の放射線量を測定する構成としている。
【0015】
これにより、第1容器,第2容器及びイオン交換体を保持したろ過体からなるイオン交換体ユニットを用いるので、血清の処理が極めて容易になり、より一層検査効率を向上させることができる。特に、無機放射性ヨウ素化合物除去工程において、第1容器,ろ過体及び第2容器を連結して遠心分離機にかけるだけで、第2容器に無機放射性ヨウ素化合物を除去した血清を得ることができるので、その操作が極めて容易であり、時間も短時間で済み、検査効率を大幅に向上させることができるのである。
【0016】
更に、必要に応じ、上記ろ過体の一端開口側の内側を上記第1容器の第1開放口側の外側に相対的に嵌合する形状に形成し、上記ろ過体の他端開口側の外側を上記第2容器の第2開放口側の内側に相対的に嵌合する形状に形成し、上記第1容器の第1開放口側の外側を上記第2容器の第2開放口側の内側に相対的に嵌合する形状に形成し、
上記第1測定工程で、血清を上記第1容器に入れ、且つ、該第1容器の第1開放口側の外側に上記第2容器の第2開放口側の内側を嵌合し、該第2容器により上記第1容器の第1開放口に蓋をし、この状態で、上記第1容器内の血清の放射線量を測定し、
上記無機放射性ヨウ素化合物除去工程で、上記第1容器から上記第2容器を外し、上記第1容器の第1開放口側の外側に上記ろ過体の一端開口側の内側を嵌合するとともに、該ろ過体の他端開口側の外側に上記第2容器の第2開放口側の内側を嵌合し、この状態で、遠心分離機により、上記第1容器の血清を上記ろ過体のイオン交換体を通過させて上記第2容器に至らしめ、
上記第2測定工程で、上記第2容器から上記ろ過体を外すとともに、該ろ過体から第1容器を外し、それから、上記第2容器の第2開放口側の内側に上記第1容器の第1開放口側の外側を嵌合し、該第1容器により上記第2容器の第2開放口に蓋をして、この状態で上記第2容器内の血清の放射線量を測定する構成としている。
【0017】
これにより、第1測定工程では、第2容器により第1容器の第1開放口に蓋をするが、ユニットの容器を利用して蓋をするので、別途蓋を設ける場合に比較して部品点数を少なくすることができる。また、測定時の血清の漏れを防止することができる。一方、第2測定工程では、その逆に、第1容器により第2容器の第2開放口に蓋をするが、ユニットの容器を利用して蓋をするので、別途蓋を設ける場合に比較して部品点数を少なくすることができる。また、測定時の血清の漏れを防止することができる。
【0018】
更にまた、必要に応じ、上記第1容器を断面リング状の試験管状に形成し、上記第2容器を断面リング状の試験管状に形成し、上記ろ過体を断面リング状の管状に形成し、上記保持部を、上記他端開口に架設される網状体で構成し、上記イオン交換体をろ過体の通路に嵌合する円盤状に形成し、該イオン交換体を上記保持部を構成する網状体の内側に付設した構成としている。第1容器及び第2容器が試験管状に形成されているので、血清を収容しやすくすることができるとともに、既存の遠心分離機に装着しやすくすることができる。また、ろ過体において、イオン交換体を網状体で受けるので保持が確実になり、遠心分離機での分離を確実に行わせることができる。更に、第1測定工程及び第2測定工程において、例えば、井戸型放射能測定装置に容器を入れる際にも装着し易くすることができ、極めて便利になる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、血清から無機放射性ヨウ素化合物を除去し、蛋白結合放射性ヨウ素化合物を得るときには、所定量の血清を繊維状のイオン交換体を通過させるが、血清をイオン交換体を通過させるだけで、無機放射性ヨウ素化合物を除去できるので、その操作が極めて容易であり、時間も短時間で済み、検査効率を大幅に向上させることができる。そのため、無機放射性ヨウ素化合物を短時間で除去して、放射線量を測定することができるので、短時間で蛋白結合放射性ヨウ素量を導き出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態に係る甲状腺機能検査方法を示す工程図である。
図2】本発明の実施の形態に係る甲状腺機能検査方法を示し、その工程の要部を具体的に示す図である。
図3】本発明の実施の形態に係る甲状腺機能検査方法に用いられるイオン交換ユニットを示し、(a)は分解斜視図、(b)は無機放射性ヨウ素化合物除去工程で用いる際の組み立てた状態を示す斜視図である。
図4】本発明の実施の形態に係る甲状腺機能検査方法に用いられるイオン交換ユニットを示す分解断面図である。
図5】本発明の実施の形態に係る甲状腺機能検査方法に用いられるイオン交換ユニットの無機放射性ヨウ素化合物除去工程における作用を示す断面図である。
図6】本発明方法と従来方法との蛋白結合放射性ヨウ素化合物(Protein Bound Radioactive iodine(131I):PB131I)に係る放射性ヨウ素転換率の相関を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面に基づいて本発明の実施の形態に係る甲状腺機能検査方法について詳細に説明する。本発明の実施の形態に係る甲状腺機能検査方法は、放射性ヨウ素を投与して血液を採取し、その血清における放射線量の測定に基づいて、甲状腺ホルモン合成能を検査する方法であり、その基本的構成は、図1及び図2に示すように、第1測定工程(1)、無機放射性ヨウ素化合物除去工程(2)、第2測定工程(3)、放射性ヨウ素転換率算出工程(4)とからなる。そして、放射性ヨウ素転換率算出工程で得られた放射性ヨウ素転換率により、甲状腺のヨウ素から甲状腺ホルモンを合成する機能評価を可能にしている。
【0022】
本実施の形態においては、繊維状のイオン交換体1を備えたイオン交換体ユニットKを用いる。先に、このイオン交換体ユニットKについて説明する。
イオン交換体ユニットKは、図2乃至図5に示すように、第1開放口11を有した第1容器10と、第2開放口21を有した第2容器20と、一端に一端開口31を有し他端に他端開口32を有して貫通する通路33を備えるとともに通路33の途中にイオン交換体1を保持する保持部34を有したろ過体30とを備えて構成されている。ろ過体30の一端側は、第1容器10の第1開放口11側に連結可能に形成され、ろ過体30の他端側は、第2容器20の第2開放口21側に連結可能に形成されている。
【0023】
詳しくは、第1容器10及び第2容器20は、樹脂やガラス等で断面リング状の透明若しくは半透明の試験管状に形成されている。ろ過体30は、樹脂で断面リング状の管状に形成されている。そして、ろ過体30の一端開口31側の内側は、第1容器10の第1開放口11側の外側に相対的に嵌合する形状に形成され、ろ過体30の他端開口32側の外側は、第2容器20の第2開放口21側の内側に相対的に嵌合する形状に形成されている。また、第1容器10の第1開放口11側の外側は、第2容器20の第2開放口21側の内側に相対的に嵌合する形状に形成されている。また、ろ過体30において、保持部34は、他端開口32に架設される樹脂製の網状体で構成されている。網状体は、他端開口32に4つの通孔35が形成されるように十字形に形成されている。
【0024】
イオン交換体1は、後述する無機ヨウ素化合物を吸着し蛋白結合ヨウ素化合物を通過させる繊維状のものである。イオン交換体1は、その構造中にイオン交換性置換基を持ち、イオン交換能を示す繊維をいう。イオン交換性置換基としては、カチオン交換基、アニオン交換基のほか、2以上の極性基を有するキレート性置換基等が挙げられる。繊維素材としては、ポリエステル等の合成繊維の他、綿などのセルロース系繊維、動物性繊維、またはそれらの混合繊維を挙げることができる。そして、実施の形態では、イオン交換体1は、織物や不織布等の手法により濾紙状に形成されており、ろ過体30の通路33に嵌合する円盤状に形成され、ろ過体30の保持部34を構成する網状体の内側に付設されている。
【0025】
実施の形態において、イオン交換体ユニットKの大きさは、おおよそ下記の通りである。第1容器10は、その外形をD1、全長をL1、容量をV1としたとき、10mm≦D1≦20mm、30mm≦L1≦50mm、2ml≦V1≦15mlに設定され、第2容器20は、その外形をD2、全長をL2、容量をV2としたとき、10mm≦D2≦20mm、30mm≦L2≦50mm、2ml≦V1≦15mlに設定され、ろ過体30は、その最大外形をD3、全長をL3としたとき、12mm≦D3≦22mm、20mm≦L3≦30mmに設定されている。
【0026】
次に、本発明の実施の形態に係る甲状腺機能検査方法の各工程について、図1及び図2を用いて説明する。
予め、検査に係る血清を得る。先ず、無機放射性ヨウ素化合物を経口により投与し、甲状腺に放射性ヨウ素を取り込んだ甲状腺ホルモンに係る蛋白結合放射性ヨウ素化合物を生成せしめるようにする。無機ヨウ素化合物としては、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化カルシウム等を挙げることができる。放射性ヨウ素としては、ヨウ素131(131I)あるいはヨウ素123(123I)があり、無機放射性ヨウ素化合物としては、ヨウ素131(131I)の化合物であるヨウ化ナトリウム(Na131I)、あるいは、ヨウ素123(123I)の化合物であるヨウ化ナトリウム(Na123I)を用いることができる。ヨウ素131(131I)は、半減期が7日なので、使用し易い。ヨウ化ナトリウム(Na123I)は、β線を放出しないので、小児などに使用するが、高価なので、一般の検査では、ヨウ化ナトリウム(Na131I)を用いる。実施の形態では、ヨウ化ナトリウム(Na131I)を用いた。
【0027】
次に、無機放射性ヨウ素化合物の投与後、例えば24時間の所要時間経過後に採血する。
【0028】
それから、採血した血液から血清を分離する。採血した血液は、抗凝固剤の入っている試験管に入れ、周知の遠心分離する方法で行う。これにより、検査に係る血清を得る。
【0029】
(1)第1測定工程
検査に係る血清の所定量について放射線量を測定して第1測定値を得る。詳しくは、図2に示すように、血清をイオン交換体ユニットKの第1容器10に入れ、且つ、第1容器10の第1開放口11側の外側に第2容器20の第2開放口21側の内側を嵌合し、第2容器20により第1容器10の第1開放口11に蓋をし、この状態で、第1容器10内の血清の放射線量を測定する。この場合、イオン交換ユニットの第2容器20を利用して蓋をするので、別途蓋を設ける場合に比較して部品点数を少なくすることができる。また、測定時の血清の漏れを防止することができる。
【0030】
(2)無機放射性ヨウ素化合物除去工程
第1測定工程後に、無機ヨウ素化合物を吸着し蛋白結合ヨウ素化合物を通過させる繊維状のイオン交換体1を用い、所定量の血清を、イオン交換体1を通過させ、この血清から無機放射性ヨウ素化合物を除去する。詳しくは、図2及び図5に示すように、第1容器10から第2容器20を外し、第1容器10の第1開放口11側の外側にろ過体30の一端開口31側の内側を嵌合するとともに、ろ過体30の他端開口32側の外側に第2容器20の第2開放口21側の内側を嵌合し、上下を逆転させ、この状態で、遠心分離機により、第1容器10の血清をろ過体30のイオン交換体1を通過させて第2容器20に至らしめる。
【0031】
これにより、所定量の血清は、繊維状のイオン交換体1を通過するが、無機放射性ヨウ素化合物は、イオン化しており、繊維状のイオン交換体1に吸着するので、血清から除去させられるとともに、蛋白結合放射性ヨウ素化合物(PB131I)は血清中に混合したままイオン交換体1を通過する。そのため、血清をイオン交換体1を通過させるだけで、無機放射性ヨウ素化合物を除去でき、蛋白結合放射性ヨウ素化合物(PB131I)を含む血清を得ることができるので、その操作が極めて容易であり、時間も短時間で済み、検査効率を大幅に向上させることができる。
【0032】
また、この場合、第1容器10,ろ過体30及び第2容器20を連結して遠心分離機にかけるだけで、第2容器20に無機放射性ヨウ素化合物を除去した蛋白結合放射性ヨウ素化合物(PB131I)を含む血清を得ることができるので、その操作が極めて容易であり、時間も短時間で済み、検査効率を大幅に向上させることができる。
【0033】
(3)第2測定工程
無機放射性ヨウ素化合物除去工程で無機放射性ヨウ素化合物が除去された蛋白結合放射性ヨウ素化合物(PB131I)を含む血清の放射線量を測定して第2測定値を得る。詳しくは、図2に示すように、第2容器20からろ過体30を外すとともに、ろ過体30から第1容器10を外し、それから、第2容器20の第2開放口21側の内側に第1容器10の第1開放口11側の外側を嵌合し、第1容器10により第2容器20の第2開放口21に蓋をして、この状態で第2容器20内の血清の放射線量を測定する。この場合、イオン交換ユニットの第1容器10を利用して蓋をするので、別途蓋を設ける場合に比較して部品点数を少なくすることができる。また、測定時の血清の漏れを防止することができる。
【0034】
(4)放射性ヨウ素転換率算出工程
第1測定値を全放射性ヨウ素量とし、第2測定値を蛋白結合放射性ヨウ素化合物(PB131I)の蛋白結合放射性ヨウ素量とする。この場合、第2測定値がそのまま蛋白結合放射性ヨウ素量となるので、別途計算して算出する必要がなく、それだけ、蛋白結合放射性ヨウ素量の特定を容易にすることができる。また、この場合、放射性イオンを短時間で除去して、放射線量を測定するので、短時間で蛋白結合放射性ヨウ素量を導き出すことができる。
【0035】
それから、放射性ヨウ素転換率算出工程においては、全放射性ヨウ素量((131I+PB131I)の放射線量)及び蛋白結合放射性ヨウ素量(PB131Iの放射線量)から、放射性ヨウ素(131I)が蛋白結合放射性ヨウ素化合物(PB131I)に転換された放射性ヨウ素転換率を算出する。
即ち、以下の計算式により放射性ヨウ素転換率を算出することができる。
放射性ヨウ素転換率(%)=(蛋白結合放射性ヨウ素量÷全放射性ヨウ素量)×100・・・・(式1)
【0036】
この算出された放射性ヨウ素転換率は、甲状腺のヨウ素から甲状腺ホルモンを合成する機能評価に資することができる。即ち、甲状腺が、放射性ヨウ素を取り込んで蛋白と結合する甲状腺ホルモンとしてのサイロキシン(T4)及びトリヨードサイロニン(T3)を合成することから、放射性ヨウ素転換率は、甲状腺のホルモンを合成する機能を示す。これから、例えば、転換率が高ければ、甲状腺機能亢進症があるとして、バセドウ病等の診断が可能になり、転換率が低ければ、甲状腺機能低下症があるとして、無痛性甲状腺炎,亜急性甲状腺炎,橋本病等の診断に有用になる。
【0037】
また、現在、臨床的に常用されている甲状腺機能検査では、甲状腺ホルモンの血中濃度を測定することで日常行われている。しかし、血中の甲状腺ホルモンは、正規に甲状腺から分泌されるもののみでなく、亜急性甲状腺炎や無痛性甲状腺炎の際には、甲状腺から漏出することもあり、この場合は、血中甲状腺ホルモンは高値であるが、甲状腺機能は低下している。即ち、ヨウ素131(131I)の甲状腺摂取率は、甲状腺ホルモンの産生に必要なヨウ素の取り込みを診るのには有用であるが、取り込んだヨウ素を甲状腺ホルモンに合成する機能を診ることはできない。本技術は、ヨウ素131(131I)の転換率を診るので、甲状腺ホルモンの合成能を診ることができるのである。この甲状腺ホルモンの合成能を診る検査としては、本甲状腺機能検査方法が現存する検査の中でも唯一の方法であり、極めて優れる。
【実施例
【0038】
次に、実施例について説明する。実施例において、イオン交換ユニットとして、樹脂製のものを用い、第1容器10は、外形D1が、D1=14.5mm、全長L1が、L1=38mm、容量V1が、V1≒4.5mlのもの、第2容器20は、D2=14.5mm、全長L2が、L1=43mm、容量V2が、V2≒5mlのもの、ろ過体30は、最大外形D3が、D3=16mm、全長L3が、L3=27mmのものを用いた。
【0039】
予め、検査に係る血清を得る。先ず、無機放射性ヨウ素化合物を経口により投与し、甲状腺に放射性ヨウ素を取り込んだ甲状腺ホルモンに係る蛋白結合放射性ヨウ素化合物を生成せしめるようにする。
ヨウ化ナトリウム(Na131I)として、3.7MBqの錠剤(「ラヂオカップ」Fujifilm社製)1錠(半減期7日)を用い、これを経口により投与した。
次に、ヨウ化ナトリウム(Na131I)を投与してから、24時間経過後、2mlを採血した。
【0040】
それから、採血した血液から血清を分離した。遠心分離機(「KUBOTA」久保田商事株式会社製)を用いて分離し(3400RPMで10分)、0.4mlの血清を得た。これを、第1容器10に入れ、第2容器20で蓋をした。
(1)第1測定工程
第1容器10内の血清の所定量(0.4ml)について、クリスタル井戸型シンチレーションカウンター(well-type scinchilation counter (JDCl712,ALOKA,Tokyo,Japan) )を用い、第1測定値(cpm)を得た。
【0041】
(2)無機放射性ヨウ素化合物除去工程
第1容器10から第2容器20を外し、第1容器10にろ過体30を装着するとともにこのろ過体30に第2容器20を装着し、上下を逆転させ、この状態で、遠心分離機により、第1容器10の血清をろ過体30のイオン交換体1を通過させて第2容器20に至らしめた。遠心分離機としては、「CF7D2」(日立工機株式会社製)のものを用い、10分間で分離を行った。
【0042】
(3)第2測定工程
第2容器20からろ過体30を外すとともに、ろ過体30から第1容器10を外し、それから、第2容器20に第1容器10を装着して蓋をして、この状態で第2容器20内の血清(0.4ml)の放射線量を測定した。測定は、第1測定工程と同様のクリスタル井戸型シンチレーションカウンターを用い、第2測定値(cpm)を得た。
(4)放射性ヨウ素転換率算出工程
第1測定値を全放射性ヨウ素量とし、第2測定値を蛋白結合放射性ヨウ素化合物(PB131I)の蛋白結合放射性ヨウ素量とし、(式1)から放射性ヨウ素転換率(%)を求めた。
【0043】
<試験例>
次に、試験例について説明する。甲状腺患者144例の検体について、上記実施例に示す方法(本発明方法若しくはイオン交換体法(IEMユニット法)とも言う)により、蛋白結合放射性ヨウ素化合物(PB131I)に係る放射性ヨウ素転換率を求めた。
【0044】
また、甲状腺患者144例の同一検体について、上記実施例と同様に得た血清の2mlについて、三塩化酢酸を用いた分離方法により、蛋白結合放射性ヨウ素化合物(PB131I)に係る放射性ヨウ素転換率を求めた(以下「従来方法」という)。従来方法は、血清の2mlについて、上記と同様のシンチレーションカウンターを用いて放射線量を測定して全放射性ヨウ素量とした。次に、この2mlの血清に10%三塩化酢酸を10ml加えて撹拌し、周知の遠心分離機によって遠心分離(2000rpm、15min)し、その上澄みを捨て、更に、3%三塩化酢酸を用いて、2回同様の操作を繰り返した後、終量が2mlになるように、2N-NaOHを加えて試料とした。この試料について、上記と同様に、放射線量を測定して蛋白結合放射性ヨウ素量とした。
【0045】
そして、本発明方法で求めた放射性ヨウ素転換率と、従来方法で求めた放射性ヨウ素転換率の相関を見た。結果を図6に示す。両者は相関係数0.983と極めて良好な相関を示していた。
【0046】
尚、本発明は、上述した本発明の実施の形態に限定されず、当業者は、本発明の新規な教示及び効果から実質的に離れることなく、これら例示である実施の形態に多くの変更を加えることが容易であり、これらの多くの変更は本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0047】
K イオン交換体ユニット
1 イオン交換体
10 第1容器
11 第1開放口
20 第2容器
21 第2開放口
30 ろ過体
31 一端開口
32 他端開口
33 通路
34 保持部
35 通孔
(1)第1測定工程
(2)無機放射性ヨウ素化合物除去工程
(3)第2測定工程
(4)放射性ヨウ素転換率算出工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6