(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】能動型騒音制御システム
(51)【国際特許分類】
G10K 11/178 20060101AFI20240422BHJP
【FI】
G10K11/178 140
(21)【出願番号】P 2020122087
(22)【出願日】2020-07-16
【審査請求日】2023-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【氏名又は名称】佐藤 克志
(74)【代理人】
【識別番号】100103171
【氏名又は名称】雨貝 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【氏名又は名称】橘 和之
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【氏名又は名称】片寄 恭三
(72)【発明者】
【氏名】田地 良輔
(72)【発明者】
【氏名】梶川 嘉延
【審査官】金子 秀彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/106748(WO,A1)
【文献】特表2021-524940(JP,A)
【文献】特開2020-106619(JP,A)
【文献】特開2018-072770(JP,A)
【文献】特開平04-314100(JP,A)
【文献】特開2017-071240(JP,A)
【文献】国際公開第2019/232400(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/178
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
騒音を低減する能動型騒音制御システムであって、
ユーザが音を聴取する位置である聴取位置を検出する位置検出手段と、
騒音キャンセル音を出力するスピーカと、
マイクと、
複数の騒音キャンセル対象位置のいずれかを選択的に設定できる騒音キャンセル音生成部と、
制御手段とを有し、
前記騒音キャンセル音生成部は、設定されている騒音キャンセル対象位置で聴取されると推定される音に前記マイクの出力を補正した信号であるエラー信号を生成すると共に、騒音を表す騒音信号から、設定された騒音キャンセル対象位置で騒音をキャンセルする前記騒音キャンセル音を生成し、
前記制御手段は、前記複数キャンセル位置の内の位置検出手段が検出した聴取位置に整合する騒音キャンセル対象位置が、前記騒音キャンセル音生成部に設定されている騒音キャンセル対象位置から変化したときに、当該聴取位置に整合する騒音キャンセル対象位置に前記騒音キャンセル音生成部に設定する騒音キャンセル対象位置を切り替えると共に、当該切り替え後に、前記エラー信号のレベルが所定のレベルより大きいかどうかを判定し、大きい場合に、前記騒音キャンセル音生成部に設定する騒音キャンセル対象位置を、当該切り替え前の騒音キャンセル対象位置に復帰することを特徴とする能動型騒音制御システム。
【請求項2】
騒音を低減する能動型騒音制御システムであって、
ユーザが音を聴取する位置である聴取位置を検出する位置検出手段と、
騒音キャンセル音を出力するスピーカと、
マイクと、
騒音キャンセル音生成部と、
制御手段とを有し、
前記騒音キャンセル音生成部は、
騒音を表す騒音信号に、設定された伝達関数を施して補正信号を生成し出力する補助フィルタと、
前記マイクの出力を、前記補助フィルタが出力した補正信号で補正してエラー信号を生成するエラー補正手段と、
前記エラー補正手段が生成したエラー信号を用いた適応動作を行って、前記騒音信号から前記スピーカから出力する騒音キャンセル音を生成する適応フィルタとを有し、
前記制御手段は、前記複数の騒音キャンセル対象位置の各々に対応する補助フィルタ用伝達関数が登録された管理情報を記憶しており、かつ、
当該制御手段は、前記複数の騒音キャンセル対象位置の内の位置検出手段が検出した位置に整合する騒音キャンセル対象位置が変化したときに、当該変化後の騒音キャンセル対象位置に対応する補助フィルタ用伝達関数に前記補助フィルタの伝達関数を切り替え、当該切り替え後に前記エラー信号のレベルが所定のレベルより大きいかどうかを判定し、大きい場合に前記補助フィルタの伝達関数を、当該切り替え前に伝達関数として設定されていた補助フィルタ用伝達関数に復帰し、
前記各騒音キャンセル対象位置に対応する補助フィルタ用伝達関数は、当該補助フィルタ用伝達関数が設定されたときに、前記補助フィルタが、当該補助フィルタ用伝達関数に対応する騒音キャンセル対象位置とマイクとの位置の差が補償されるように前記マイクの出力が前記エラー補正手段によって補正される補正信号を出力する伝達関数であることを特徴とする能動型騒音制御システム。
【請求項3】
請求項2記載の能動型騒音制御システムであって、
前記各騒音キャンセル対象位置に対応する補助フィルタ用伝達関数は、当該騒音キャンセル対象位置に配置した学習用マイクを用いて学習した、当該対応する騒音キャンセル対象位置において騒音をキャンセルする騒音キャンセル音を前記適応フィルタが生成する伝達関数に適応フィルタの伝達関数を固定した状態において、前記補助フィルタが、前記エラー補正手段において前記エラー信号が0に補正される補正信号を出力する伝達関数として、予め学習した伝達関数であることを特徴とする能動型騒音制御システム。
【請求項4】
請求項1、2または3記載の能動型騒音制御システムであって、
前記位置検出手段は、前記聴取位置として、自動車の所定の座席に着座したユーザの頭部もしくは耳の位置を検出することを特徴とする能動型騒音制御システム。
【請求項5】
騒音を低減する能動型騒音制御システムであって、
ユーザの左右の耳の位置を検出する位置検出手段と、
制御手段と、
第1騒音制御系統と
第2騒音制御系統とを有し、
前記制御手段は、複数の右耳騒音キャンセル対象位置のうちの一つの右耳騒音キャンセル対象位置と、複数の左耳騒音キャンセル対象位置のうちの一つの左耳騒音キャンセル対象位置とのセットを騒音キャンセル対象位置セットとして、複数の騒音キャンセル対象位置セットの内の、前記位置検出手段が検出した左右の耳の位置に、右耳騒音キャンセル対象位置と左耳騒音キャンセル対象位置が整合する騒音キャンセル対象位置セットを、現用騒音キャンセル対象位置セットとして設定し、
前記第1騒音制御系統は、
第1騒音キャンセル音を出力する第1スピーカと、
第1マイクと、
第1騒音キャンセル音生成部とを有し、
前記第1騒音キャンセル音生成部は、設定されている現用騒音キャンセル対象位置セットの右耳騒音キャンセル対象位置で聴取されると推定される音に、前記第1マイクの出力を補正した信号である第1エラー信号を生成し、
前記第2騒音制御系統は、
第2騒音キャンセル音を出力する第2スピーカと、
第2マイクと、
第2騒音キャンセル音生成部とを有し、
前記第2騒音キャンセル音生成部は、設定されている現用騒音キャンセル対象位置セットの左耳騒音キャンセル対象位置で聴取されると推定される音に、前記第2マイクの出力を補正した信号である第2エラー信号を生成し、
前記第1騒音キャンセル音生成部は、騒音を表す騒音信号から、設定されている現用騒音キャンセル対象位置セットの右耳騒音キャンセル対象位置と左耳騒音キャンセル対象位置で、前記第2スピーカから出力される第2騒音キャンセル音と共に、騒音をキャンセルする前記第1騒音キャンセル音を生成して前記第1スピーカから出力し、
前記第2騒音キャンセル音生成部は、騒音を表す騒音信号から、設定されている現用騒音キャンセル対象位置セットの右耳騒音キャンセル対象位置と左耳騒音キャンセル対象位置で、前記第1スピーカから出力される第1騒音キャンセル音と共に、騒音をキャンセルする前記第2騒音キャンセル音を生成して前記第2スピーカから出力し、
前記制御手段は、前記現用騒音キャンセル対象位置セットが変化したときに、当該変化後に前記第1エラー信号と前記第2エラー信号のレベルが所定のレベルより大きいかどうかを判定し、大きい場合に、現用騒音キャンセル対象位置セットとして設定する騒音キャンセル対象位置セットを、前記変化前に現用騒音キャンセル対象位置セットであった騒音キャンセル対象位置セットに復帰することを特徴とする能動型騒音制御システム。
【請求項6】
騒音を低減する能動型騒音制御システムであって、
ユーザの左右の耳の位置を検出する位置検出手段と、
制御手段と、
第1騒音制御系統と
第2騒音制御系統とを有し、
前記制御手段は、複数の右耳騒音キャンセル対象位置のうちの一つの右耳騒音キャンセル対象位置と、複数の左耳騒音キャンセル対象位置のうちの一つの左耳騒音キャンセル対象位置とのセットを騒音キャンセル対象位置セットとして、複数の騒音キャンセル対象位置セットの内の、前記位置検出手段が検出した左右の耳の位置に、右耳騒音キャンセル対象位置と左耳騒音キャンセル対象位置が整合する騒音キャンセル対象位置セットを、現用騒音キャンセル対象位置セットとして設定し、
前記第1騒音制御系統は、
第1騒音キャンセル音を出力する第1スピーカと、
第1マイクと、
騒音を表す騒音信号に設定された伝達関数を施して第1補正信号を生成し出力する第1補助フィルタと、
前記第1マイクの出力を、前記第1補助フィルタが出力した第1補正信号で補正して第1エラー信号を生成する第1エラー補正手段と、
第1適応フィルタとを有し、
前記第2騒音制御系統は、
第2騒音キャンセル音を出力する第2スピーカと、
第2マイクと、
騒音を表す騒音信号に設定された伝達関数を施して第2補正信号を生成し出力する第2補助フィルタと、
前記第2マイクの出力を、前記第2補助フィルタが出力した第2補正信号で補正して第2エラー信号を生成する第2エラー補正手段と、
第2適応フィルタとを有し、
前記第1適応フィルタは、前記第1エラー信号と前記第2エラー信号を用いた適応動作を行って、前記騒音信号から前記第1スピーカから出力する第1騒音キャンセル音を生成し、
前記第2適応フィルタは、前記第1エラー信号と前記第2エラー信号を用いた適応動作を行って、前記騒音信号から前記第2スピーカから出力する第2騒音キャンセル音を生成し、
前記制御手段は、前記複数の騒音キャンセル対象位置セットの各々に対応する第1補助フィルタ用伝達関数と第2補助フィルタ用伝達関数とが登録された管理情報を記憶しており、かつ、
当該制御手段は、前記現用騒音キャンセル対象位置セットが変化したときに、第1補助フィルタに設定する伝達関数を、変化後の現用騒音キャンセル対象位置セットに対応する第1補助フィルタ用伝達関数に切り替え、第2補助フィルタに設定する伝達関数を、変化後の現用騒音キャンセル対象位置セットに対応する第2補助フィルタ用伝達関数に切り替えると共に、当該切り替え後に前記第1エラー信号と前記第2エラー信号のレベルが所定のレベルより大きいかどうかを判定し、大きい場合に、現用騒音キャンセル対象位置セットを、前記変化前に現用騒音キャンセル対象位置セットであった騒音キャンセル対象位置セットに復帰すると共に、第1補助フィルタに設定する伝達関数を、前記切り替え前に第1補助フィルタの伝達関数として設定されていた第1補助フィルタ用伝達関数に復帰し、第2補助フィルタに設定する伝達関数を、前記切り替え前に第2補助フィルタの伝達関数として設定されていた第2補助フィルタ用伝達関数に復帰し、
前記各騒音キャンセル対象位置セットに対応する第1補助用伝達関数は、当該第1補助用伝達関数が設定されたときに、前記第1補助フィルタが、当該騒音キャンセル対象位置セットの右耳騒音キャンセル対象位置と第1マイクとの位置の差が補償されるように前記第1マイクの出力が前記第1エラー補正手段によって補正される第1補正信号を出力する伝達関数であり、
前記各騒音キャンセル対象位置セットに対応する第2補助用伝達関数は、当該第2補助用伝達関数が設定されたときに、前記第2補助フィルタが、当該騒音キャンセル対象位置セットの左耳騒音キャンセル対象位置と第2マイクとの位置の差が補償されるように前記第2マイクの出力が前記第2エラー補正手段によって補正される第2補正信号を出力する伝達関数であることを特徴とする能動型騒音制御システム。
【請求項7】
請求項5または6記載の能動型騒音制御システムであって、
前記位置検出手段は、自動車の所定の座席に着座したユーザの左右の耳の位置を検出することを特徴とする能動型騒音制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、騒音を打ち消す騒音キャンセル音を放射することにより騒音を低減する能動型騒音制御(ANC; Active Noise Control)の技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
騒音を打ち消す騒音キャンセル音を放射することにより騒音を低減する能動型騒音制御の技術としては、マイクと、騒音キャンセル音を出力するスピーカと、騒音を表す騒音信号から騒音キャンセル音を生成する適応フィルタとを設け、適応フィルタにおいて、マイクの出力を補助フィルタを用いて補正した信号をエラーとして自身の伝達関数を適応する技術が知られている(たとえば特許文献1)。
【0003】
ここで、この技術では、補助フィルタには、予め学習した、騒音キャンセル位置にマイクが配置されていた場合にマイクから出力される信号に、マイクが実際に出力する信号を補正する補正信号を騒音信号から生成する伝達関数が設定されており、このような補助フィルタを用いることにより、マイクの位置と異なる騒音キャンセル位置において騒音をキャンセルできるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した補助フィルタを用いてマイクの位置と異なる騒音キャンセル位置において騒音をキャンセルする技術を用いてユーザに聞こえる騒音をキャンセルする場合、ユーザの変位に伴って、ユーザの耳が騒音キャンセル位置からずれてしまうと、ユーザに聞こえる騒音を良好にキャンセルできなくなる。
【0006】
そこで、異なる複数の騒音キャンセル位置について補助フィルタの伝達関数を学習しておき、ユーザの耳の変位に伴って、補助フィルタの伝達関数をユーザの耳の位置に対応する騒音キャンセル位置について学習した伝達関数に、補助フィルタの伝達関数を切り替えることにより、騒音キャンセル対象位置をユーザの耳の位置に整合する位置に変化させて、ユーザの耳の変位によらずにユーザに聞こえる騒音をキャンセルすることが考えられる。
【0007】
しかし、当該搭乗者に聞こえる騒音をキャンセルする対象者の耳の位置の検出法によっては、当該耳の位置の誤検出が発生することがある。たとえば、自動車の運転席や助手席の搭乗者を対象者として、カメラで撮影した映像から対象者の耳の位置を画像認識によって検出する場合には、対象者の隣席の搭乗者の耳の位置を対象者の耳の位置として誤検出したり、自動車の後席の搭乗者の耳の位置を対象者の耳の位置として誤検出したりすることがある。
【0008】
そして、このように対象者の耳の位置を誤検出すると、補助フィルタの伝達関数を適正な伝達関数に設定できなかったり、騒音キャンセル音によって対象者に聞こえるノイズ音を増大させてしまったりする等の誤動作が生じることがある。
【0009】
そこで、本発明は、ユーザの耳の位置に応じて騒音キャンセル対象位置を変化させて騒音をキャンセルする能動型騒音制御システムにおいて、ユーザの耳の位置の誤検出に伴う誤動作の影響を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題達成のために、本発明は、騒音を低減する能動型騒音制御システムに、ユーザが音を聴取する位置である聴取位置を検出する位置検出手段と、騒音キャンセル音を出力するスピーカと、マイクと、複数の騒音キャンセル対象位置のいずれかを選択的に設定できる騒音キャンセル音生成部と、制御手段とを備えたものである。前記騒音キャンセル音生成部は、設定されている騒音キャンセル対象位置で聴取されると推定される音に前記マイクの出力を補正した信号であるエラー信号を生成すると共に、騒音を表す騒音信号から、設定された騒音キャンセル対象位置で騒音をキャンセルする前記騒音キャンセル音を生成し、前記制御手段は、前記複数キャンセル位置の内の位置検出手段が検出した聴取位置に整合する騒音キャンセル対象位置が、前記騒音キャンセル音生成部に設定されている騒音キャンセル対象位置から変化したときに、当該聴取位置に整合する騒音キャンセル対象位置に前記騒音キャンセル音生成部に設定する騒音キャンセル対象位置を切り替えると共に、当該切り替え後に、前記エラー信号のレベルが所定のレベルより大きいかどうかを判定し、大きい場合に、前記騒音キャンセル音生成部に設定する騒音キャンセル対象位置を、当該切り替え前の騒音キャンセル対象位置に復帰する。
【0011】
また、前記課題達成のために、本発明は、騒音を低減する能動型騒音制御システムに、ユーザが音を聴取する位置である聴取位置を検出する位置検出手段と、騒音キャンセル音を出力するスピーカと、マイクと、騒音キャンセル音生成部と、
制御手段とを備えたものである。前記騒音キャンセル音生成部は、騒音を表す騒音信号に、設定された伝達関数を施して補正信号を生成し出力する補助フィルタと、前記マイクの出力を、前記補助フィルタが出力した補正信号で補正してエラー信号を生成するエラー補正手段と、前記エラー補正手段が生成したエラー信号を用いた適応動作を行って、前記騒音信号から前記スピーカから出力する騒音キャンセル音を生成する適応フィルタとを備えている。前記制御手段は、前記複数の騒音キャンセル対象位置の各々に対応する補助フィルタ用伝達関数が登録された管理情報を記憶しており、かつ、当該制御手段は、前記複数の騒音キャンセル対象位置の内の位置検出手段が検出した位置に整合する騒音キャンセル対象位置が変化したときに、当該変化後の騒音キャンセル対象位置に対応する補助フィルタ用伝達関数に前記補助フィルタの伝達関数を切り替え、当該切り替え後に前記エラー信号のレベルが所定のレベルより大きいかどうかを判定し、大きい場合に前記補助フィルタの伝達関数を、当該切り替え前に伝達関数として設定されていた補助フィルタ用伝達関数に復帰する。また、前記各騒音キャンセル対象位置に対応する補助フィルタ用伝達関数は、当該補助フィルタ用伝達関数が設定されたときに、前記補助フィルタが、当該補助フィルタ用伝達関数に対応する騒音キャンセル対象位置とマイクとの位置の差が補償されるように前記マイクの出力が前記エラー補正手段によって補正される補正信号を出力する伝達関数である。
【0012】
ここで、このような能動型騒音制御システムにおいて、前記各騒音キャンセル対象位置に対応する補助フィルタ用伝達関数は、当該騒音キャンセル対象位置に配置した学習用マイクを用いて学習した、当該対応する騒音キャンセル対象位置において騒音をキャンセルする騒音キャンセル音を前記適応フィルタが生成する伝達関数に適応フィルタの伝達関数を固定した状態において、前記補助フィルタが、前記エラー補正手段において前記エラー信号が0に補正される補正信号を出力する伝達関数として、予め学習した伝達関数であってよい。
【0013】
また、以上の能動型騒音制御システムにおいて、前記位置検出手段は、前記聴取位置として、自動車の所定の座席に着座したユーザの頭部もしくは耳の位置を検出するものであってよい。
【0014】
以上のような能動型騒音制御システムによれば、位置検出手段が検出したユーザの聴取位置に応じて、騒音キャンセル音生成部に設定する騒音キャンセル対象位置を切り替えることにより、おおよそ検出した聴取位置で騒音がキャンセルされるように、騒音キャンセル音を出力する動作を行うことができる。
【0015】
また、騒音キャンセル対象位置の切り替え後に、エラー信号のレベルが所定のレベルより大きい時には、騒音キャンセル音生成部の騒音キャンセル特性を切り替え前の状態に復帰することができる。
【0016】
ここで、位置検出手段が検出した聴取位置置で騒音がキャンセルされるように騒音キャンセル対象位置を切り替えた後のエラー信号のレベルが大きいときには、騒音キャンセル対象位置に対して予め想定したユーザの頭部等の位置と実際のユーザの頭部等の位置が異なっている蓋然性、すなわち、位置検出手段がユーザの聴取位置を誤検出している蓋然性が大きい。
【0017】
したがって、本能動型騒音制御システムによれば、位置検出手段のユーザの聴取位置の誤検出に伴う誤動作の影響を抑制することができる。
また、以上の能動型騒音制御システムは、ユーザの左右の耳のそれぞれについて騒音をキャンセルする場合にも適用することができる。
すなわち、この場合には、能動型騒音制御システムに、ユーザの左右の耳の位置を検出する位置検出手段と、制御手段と、第1騒音制御系統と第2用騒音制御系統とを設ける。また、前記制御手段において、複数の右耳騒音キャンセル対象位置のうちの一つの右耳騒音キャンセル対象位置と、複数の左耳騒音キャンセル対象位置のうちの一つの左耳騒音キャンセル対象位置とのセットを騒音キャンセル対象位置セットとして、複数の騒音キャンセル対象位置セットの内の、前記位置検出手段が検出した左右の耳の位置に、右耳騒音キャンセル対象位置と左耳騒音キャンセル対象位置が整合する騒音キャンセル対象位置セットを、現用騒音キャンセル対象位置セットとして設定する。また、前記第1騒音制御系統に、第1騒音キャンセル音を出力する第1スピーカと、第1マイクと、第1騒音キャンセル音生成部とを備え、前記第1騒音キャンセル音生成部において、設定されている現用騒音キャンセル対象位置セットの右耳騒音キャンセル対象位置で聴取されると推定される音に、前記第1マイクの出力を補正した信号である第1エラー信号を生成する。また、前記第2騒音制御系統に、第2騒音キャンセル音を出力する第2スピーカと、第2マイクと、第2騒音キャンセル音生成部とをとを備え、前記第2騒音キャンセル音生成部において、設定されている現用騒音キャンセル対象位置セットの左耳騒音キャンセル対象位置で聴取されると推定される音に、前記第2マイクの出力を補正した信号である第2エラー信号を生成する。そして、前記第1騒音キャンセル音生成部において、騒音を表す騒音信号から、設定されている現用騒音キャンセル対象位置セットの右耳騒音キャンセル対象位置と左耳騒音キャンセル対象位置で、前記第2スピーカから出力される第2騒音キャンセル音と共に、騒音をキャンセルする前記第1騒音キャンセル音を生成して前記第1スピーカから出力し、前記第2騒音キャンセル音生成部において、騒音を表す騒音信号から、設定されている現用騒音キャンセル対象位置セットの右耳騒音キャンセル対象位置と左耳騒音キャンセル対象位置で、前記第1スピーカから出力される第1騒音キャンセル音と共に、騒音をキャンセルする前記第2騒音キャンセル音を生成して前記第2スピーカから出力する。そして、前記制御手段において、前記現用騒音キャンセル対象位置セットが変化したときに、当該変化後に前記第1エラー信号と前記第2エラー信号のレベルが所定のレベルより大きいかどうかを判定し、大きい場合に、現用騒音キャンセル対象位置セットとして設定する騒音キャンセル対象位置セットを、前記変化前に現用騒音キャンセル対象位置セットであった騒音キャンセル対象位置セットに復帰する。
【0018】
または、能動型騒音制御システムに、ユーザの左右の耳の位置を検出する位置検出手段と、制御手段と、第1騒音制御系統と第2用騒音制御系統とを備える。そして、前記制御手段は、複数の右耳騒音キャンセル対象位置のうちの一つの右耳騒音キャンセル対象位置と、複数の左耳騒音キャンセル対象位置のうちの一つの左耳騒音キャンセル対象位置とのセットを騒音キャンセル対象位置セットとして、複数の騒音キャンセル対象位置セットの内の、前記位置検出手段が検出した左右の耳の位置に、右耳騒音キャンセル対象位置と左耳騒音キャンセル対象位置が整合する騒音キャンセル対象位置セットを、現用騒音キャンセル対象位置セットとして設定する。また、前記第1騒音制御系統に、第1騒音キャンセル音を出力する第1スピーカと、第1マイクと、騒音を表す騒音信号に設定された伝達関数を施して第1補正信号を生成し出力する第1補助フィルタと、前記第1マイクの出力を、前記第1補助フィルタが出力した第1補正信号で補正して第1エラー信号を生成する第1エラー補正手段と、第1適応フィルタとを設ける。また、前記第2騒音制御系統に、第2騒音キャンセル音を出力する第2スピーカと、第2マイクと、騒音を表す騒音信号に設定された伝達関数を施して第2補正信号を生成し出力する第2補助フィルタと、前記第2マイクの出力を、前記第2補助フィルタが出力した第2補正信号で補正して第2エラー信号を生成する第2エラー補正手段と、第2適応フィルタとを設ける。そして、前記第1適応フィルタにおいて、前記第1エラー信号と前記第2エラー信号を用いた適応動作を行って、前記騒音信号から前記第1スピーカから出力する第1騒音キャンセル音を生成し、前記第2適応フィルタにおいて、前記第1エラー信号と前記第2エラー信号を用いた適応動作を行って、前記騒音信号から前記第2スピーカから出力する第2騒音キャンセル音を生成する。また、前記制御手段は、前記複数の騒音キャンセル対象位置セットの各々に対応する第1補助フィルタ用伝達関数と第2補助フィルタ用伝達関数とが登録された管理情報を記憶しており、当該制御手段は、前記現用騒音キャンセル対象位置セットが変化したときに、第1補助フィルタに設定する伝達関数を、変化後の現用騒音キャンセル対象位置セットに対応する第1補助フィルタ用伝達関数に切り替え、第2補助フィルタに設定する伝達関数を、変化後の現用騒音キャンセル対象位置セットに対応する第2補助フィルタ用伝達関数に切り替えると共に、当該切り替え後に前記第1エラー信号と前記第2エラー信号のレベルが所定のレベルより大きいかどうかを判定し、大きい場合に、現用騒音キャンセル対象位置セットを、前記変化前に現用騒音キャンセル対象位置セットであった騒音キャンセル対象位置セットに復帰すると共に、第1補助フィルタに設定する伝達関数を、前記切り替え前に第1補助フィルタの伝達関数として設定されていた第1補助フィルタ用伝達関数に復帰し、第2補助フィルタに設定する伝達関数を、前記切り替え前に第2補助フィルタの伝達関数として設定されていた第2補助フィルタ用伝達関数に復帰する。ここで、前記各騒音キャンセル対象位置セットに対応する第1補助用伝達関数は、当該第1補助用伝達関数が設定されたときに、前記第1補助フィルタが、当該騒音キャンセル対象位置セットの右耳騒音キャンセル対象位置と第1マイクとの位置の差が補償されるように前記第1マイクの出力が前記第1エラー補正手段によって補正される第1補正信号を出力する伝達関数とし、前記各騒音キャンセル対象位置セットに対応する第2補助用伝達関数は、当該第2補助用伝達関数が設定されたときに、前記第2補助フィルタが、当該騒音キャンセル対象位置セットの左耳騒音キャンセル対象位置と第2マイクとの位置の差が補償されるように前記第2マイクの出力が前記第2エラー補正手段によって補正される第2補正信号を出力する伝達関数とする。
【0019】
ここで、これらの能動型騒音制御システムにおいて、前記位置検出手段は、自動車の所定の座席に着座したユーザの左右の耳の位置を検出するものとしてよい。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、ユーザの耳の位置に応じて騒音キャンセル対象位置を変化させて騒音をキャンセルする能動型騒音制御システムにおいて、ユーザの耳の位置の誤検出に伴う誤動作の影響を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態に係る能動型騒音制御システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る能動型騒音制御システムのスピーカとマイクの配置を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る信号処理ブロックの構成を示すブロック図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る第1フィルタ管理テーブルを示す図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るキャンセルポイントの設定法を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る補助フィルタの伝達関数の学習の構成を示すブロック図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る補助フィルタの伝達関数の学習の構成を示すブロック図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る第1騒音制御システムキャンセルポイント切替処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1に、本実施形態に係る能動型騒音制御システムの構成を示す。
本実施形態に係る能動型騒音制御システムは、自動車に搭載されるシステムであり、図示するように、第1騒音制御システム1、第2騒音制御システム2、制御装置と、DMS4(Driver Monitoring System4)を備えている。
【0023】
第1騒音制御システム1は、自動車の運転席に着座したユーザの標準的な右耳の位置を第1キャンセルポイント、ユーザの標準的な左耳の位置を第2キャンセルポイントとして、2つのキャンセルポイントのそれぞれにおいて騒音源の発生する騒音をキャンセルするシステムである。また、第2騒音制御システム2は、自動車の助手席に着座したユーザの標準的な右耳の位置を第1キャンセルポイント、ユーザの標準的な左耳の位置を第2キャンセルポイントとして、2つのキャンセルポイントのそれぞれにおいて騒音源の発生する騒音をキャンセルするシステムである。
【0024】
第1騒音制御システム1と第2騒音制御システム2は、同様の構成を備えており、それぞれ、信号処理ブロック11、第1スピーカ12、第1マイク13、第2スピーカ14、第2マイク15、レベル検出器16を備えている。
【0025】
ただし、
図2a1、a2に示すように、第1騒音制御システム1と第2騒音制御システム2では、マイク、スピーカの配置が異なっている。
すなわち、図示するように、第1騒音制御システム1において、第1スピーカ12と第1マイク13は、運転席のヘッドレストの、当該運転席に着座したユーザの右耳の標準的な位置の近傍となる位置に配置し、第2スピーカ14と第2マイク15は、運転席のヘッドレストの、当該運転席に着座したユーザの左耳の標準的な位置の近傍となる位置に配置する。また、第2騒音制御システム2において、第1スピーカ12と第1マイク13は、助手席のヘッドレストの、当該助手席に着座したユーザの右耳の標準的な位置の近傍となる位置に配置し、第2スピーカ14と第2マイク15は、助手席のヘッドレストの、当該助手席に着座したユーザの左耳の標準的な位置の近傍となる位置に配置する。
【0026】
ただし、
図2b1、b2に示すように、第1騒音制御システム1において、第1スピーカ12を、自動車の車室の天井の、運転席に着座したユーザの右耳の標準的な位置の前上方の位置に配置し、第2スピーカ14を、車室の天井の、運転席に着座したユーザの左耳の標準的な位置の前上方の位置に配置し、第1マイク13を、運転席の前方の天井の、第1スピーカ12よりも運転席よりの位置に配置し、第2マイク15を、運転席の前方の天井の、第2スピーカ14よりも運転席よりの位置に配置するようにしてもよい。また、同様に、第2騒音制御システム2において、第1スピーカ12を、自動車の車室の天井の、助手席に着座したユーザの右耳の標準的な位置の前上方の位置に配置し、第2スピーカ14を、車室の天井の、助手席に着座したユーザの左耳の標準的な位置の前上方の位置に配置し、第1マイク13を、助手席の前方の天井の、第1スピーカ12よりも助手席よりの位置に配置し、第2マイク15を、助手席の前方の天井の、第2スピーカ14よりも助手席よりの位置に配置するようにしてもよい。
【0027】
なお、
図2b1、b2の配置を採用する場合、第1騒音制御システム1と第2騒音制御システム2の第1スピーカ12、第2スピーカ14としては、比較的距離減衰の小さい超指向性のパラメトリックスピーカを用いることが好ましい。
【0028】
次に、DMS4は、たとえば、
図2a1、a2に示すように、自動車の前席の前方の天井に配置した近赤外線カメラ41により撮影した車室内の映像に対して画像認識処理を施して、運転席に着座したユーザの左右の耳の位置と、助手席に着座したユーザの左右の耳の位置を検出する。
【0029】
図1に戻り、第1騒音制御システム1の信号処理ブロック11は、それぞれ、騒音源の発生する騒音を表す騒音信号x(n)と、第1マイク13でピックアップした音声信号である第1マイクエラー信号err1(n)と、第2マイク15でピックアップした音声信号である第2マイクエラー信号err2(n)とを用いて、第1キャンセル信号CA1(n)を生成し第1スピーカ12から出力すると共に、第2キャンセル信号CA2(n)を生成し第2スピーカ14から出力する。また、第1騒音制御システム1のレベル検出器16は、信号処理ブロック11から出力されるエラーe1とエラーe2のレベルを検出し、制御装置3に通知する。
【0030】
そして、第1騒音制御システム1の第1スピーカ12から出力される第1キャンセル信号CA1(n)と第1騒音制御システム1の第2スピーカ14から出力される第2キャンセル信号CA2(n)によって、運転席に着座したユーザの右の耳の位置である第1キャンセルポイントと左の耳の位置である第2キャンセルポイントにおいて騒音源の発生する騒音がキャンセルされる。
【0031】
第2騒音制御システム2の信号処理ブロック11も同様に動作し、第2騒音制御システム2の第1スピーカ12から出力される第1キャンセル信号CA1(n)と第2騒音制御システム2の第2スピーカ14から出力される第2キャンセル信号CA2(n)によって、助手席に着座したユーザの右の耳の位置である第1キャンセルポイントと、左の耳の位置である第2キャンセルポイントにおいて騒音源の発生する騒音がキャンセルされる。また、第2騒音制御システム2のレベル検出器16は、第2騒音制御システム2のの信号処理ブロック11から出力されるエラーe1とエラーe2のレベルを検出し、制御装置3に通知する。
【0032】
次に、第1騒音制御システム1、第2騒音制御システム2の信号処理ブロック11は、
図3に示すように、主として、第1キャンセル信号CA1(n)の生成に関わる処理を行う第1系信号処理部111と、主として、第2キャンセル信号CA2(n)の生成に関わる処理を行う第2系信号処理部112とを備えている。
【0033】
そして、第1系信号処理部111は、第1系可変フィルタ1111、第1系適応アルゴリズム実行部1112、予め伝達関数S11^(z)が設定された第1系第1推定フィルタ1113、予め伝達関数S21^(z)が設定された第1系第2推定フィルタ1114、第1系減算器1115、伝達関数H1(z)が設定された第1系補助フィルタ1116を備えている。
【0034】
このような第1系信号処理部111の構成において、入力した騒音信号x(n)は、第1系可変フィルタ1111を通って第1キャンセル信号CA1(n)として第1スピーカ12に出力される。
【0035】
また、入力した騒音信号x(n)は第1系補助フィルタ1116を通って第1系減算器1115に送られ、第1系減算器1115は第1マイク13でピックアップした第1マイクエラー信号err1(n)から、第1系補助フィルタ1116の出力を減算し、エラーe1として、第1系適応アルゴリズム実行部1112と第2系信号処理部111とレベル検出器16に出力する。
【0036】
次に、第1系可変フィルタ1111と第1系適応アルゴリズム実行部1112と第1系第1推定フィルタ1113と第1系第2推定フィルタ1114はFiltered-X適応フィルタを構成している。第1系第1推定フィルタ1113には、実測等により算定した第1系信号処理部111から第1マイク13までの伝達関数S11(z)の推定伝達特性S11^(z)が予め設定されており、第1系第1推定フィルタ1113は、伝達特性S11^(z)を入力した騒音信号x(n)に畳み込んで、第1系適応アルゴリズム実行部1112に入力する。また、第1系第2推定フィルタ1114には、実測等により算定した第1系信号処理部111から第2マイク15までの伝達関数を表す伝達特性S21(z)の推定伝達特性S21^(z)が予め設定されており、第1系第2推定フィルタ1114は、伝達特性S21^(z)を入力した騒音信号x(n)に畳み込んで、第1系適応アルゴリズム実行部1112に入力する。
【0037】
そして、第1系適応アルゴリズム実行部1112は、第1系第1推定フィルタ1113で伝達関数S11^(z)が畳み込まれた騒音信号x(n)と、第1系第2推定フィルタ1114で伝達関数S21^(z)が畳み込まれた騒音信号x(n)と、第1系減算器1115から出力されるエラーe1と、第2系信号処理部112から出力されるエラーe2を入力として、NLMSなどの適応アルゴリズムを実行し、エラーe1、e2が0となるように第1系可変フィルタ1111の伝達関数W1(z)を更新する適応動作を行う。
【0038】
第2系信号処理部112も第1系信号処理部111と同様の構成を備えており、第2系信号処理部112は、第2系可変フィルタ1121、第2系適応アルゴリズム実行部1122、予め伝達関数S22^(z)が設定された第2系第1推定フィルタ1123、予め伝達関数S12^(z)が設定された第2系第2推定フィルタ1124、第2系減算器1125、伝達関数H2(z)が設定された第2系補助フィルタ1126を備えている。
【0039】
このような第2系信号処理部112の構成において、入力した騒音信号x(n)は、第2系可変フィルタ1121を通って第2キャンセル信号CA2(n)として第2スピーカ14に出力される。
【0040】
また、入力した騒音信号x(n)は第2系補助フィルタ1126を通って第2系減算器1125に送られ、第2系減算器1125は第2マイク15でピックアップした第1マイクエラー信号err2(n)から第2系セレクタの出力を減算し、エラーe2として、第2系適応アルゴリズム実行部1122と第1系信号処理部111とレベル検出器16に出力する。
【0041】
次に、第2系可変フィルタ1121と第2系適応アルゴリズム実行部1122と第2系第1推定フィルタ1123と第2系第2推定フィルタ1124はFiltered-X適応フィルタを構成している。第2系第1推定フィルタ1123には、実測等により算定した第2系信号処理部112から第2マイク15までの伝達関数S22(z)の推定伝達特性S22^(z)が予め設定されており、第2系第1推定フィルタ1123は、伝達特性S22^(z)を入力した騒音信号x(n)に畳み込んで、第2系適応アルゴリズム実行部1122に入力する。また、第2系第2推定フィルタ1124には、実測等により算定した第2系信号処理部112から第1マイク13までの伝達関数を表す伝達特性S12(z)の推定伝達特性S12^(z)が予め設定されており、第2系第2推定フィルタ1124は、伝達特性S12^(z)を入力した騒音信号x(n)に畳み込んで、第2系適応アルゴリズム実行部1122に入力する。
【0042】
そして、第2系適応アルゴリズム実行部1122は、第2系第1推定フィルタ1123で伝達関数S22^(z)が畳み込まれた騒音信号x(n)と、第2系第2推定フィルタ1124で伝達関数S12^(z)が畳み込まれた騒音信号x(n)と、第2系減算器1125から出力されるエラーe2と、第1系信号処理部111から出力されるエラーe1を入力として、NLMSなどの適応アルゴリズムを実行し、エラーe1、e2が0となるように第2系可変フィルタ1121の伝達関数W2(z)を更新する適応動作を行う
ここで、第1系信号処理部111の第1系補助フィルタ1116の伝達関数H1(z)、第2系信号処理部112の第2系補助フィルタ1126の伝達関数H2(z)、第1系信号処理部111の第1系可変フィルタ1111の伝達関数W1(z)、第2系信号処理部112の第2系可変フィルタ1121の伝達関数W2(z)は、制御装置3から任意に設定可能に構成されている。
【0043】
次に、制御装置3は、第1フィルタ管理テーブルと第2フィルタ管理テーブルを備えている。
まず、第1フィルタ管理テーブルについて説明する。
図4に示すように、第1フィルタ管理テーブルには、n個のキャンセルポイントセットの各々に対応して設けられたn個のエントリ(図の各行)が設けられている。
各キャンセルポイントセットは、一つの第1キャンセルポイントと一つの第2キャンセルポイントの対であり、異なるキャンセルポイントセットは、第1キャンセルポイントと第2キャンセルポイントの異なる組み合わせとなる。
【0044】
すなわち、n個のキャンセルポイントセットは、たとえば、
図5a、b、c、dに示すような運転席の搭乗者の様々な姿勢や位置の組み合わせに対応して設定することができ、この場合、各キャンセルポイントセットの第1キャンセルポイントは、図中に白丸で示した当該キャンセルポイントセットに対応する姿勢と位置で運転席に着座したユーザの標準的な右耳の位置とし、第2キャンセルポイントは、図中に黒丸で示した当該キャンセルポイントセットに対応する姿勢と位置で運転席に着座したユーザの標準的な左耳の位置とする。
【0045】
図4に戻り、第1フィルタ管理テーブルのi番目のキャンセルポイントセットに対応するエントリには、i番目のキャンセルポイントセットの第1キャンセルポイントP1_iと第2キャンセルポイントP2_i、第1系補助フィルタ設定値H1_i(z)、第2系補助フィルタ設定値H2_i(z)、第1系可変フィルタ初期値W1_i(z)、第2系可変フィルタ初期値W2_i(z)が登録されている。
【0046】
さて、第1フィルタ管理テーブルの各キャンセルポイントセットのエントリに登録されている、第1系補助フィルタ設定値H1_i(z)、第2系補助フィルタ設定値H2_i(z)、第1系可変フィルタ初期値W1_i(z)、第2系可変フィルタ初期値W2_i(z)は、予め学習してフィルタ管理テーブルに設定される。
【0047】
この第1系補助フィルタ設定値H1_i(z)、第2系補助フィルタ設定値H2_i(z)、第1系可変フィルタ初期値W1_i(z)、第2系可変フィルタ初期値W2_i(z)の学習は、標準的な環境下で、1からnまでの整数について、当該数をiとして、以下の第1段階の学習処理と第2段階の学習処理を実行することによって行われる。
【0048】
第1段階の学習処理は、第1騒音制御システム1の信号処理ブロック11を
図6に示す第1段階学習処理ブロック6に置き換えた構成において行う。
また、第1段階の学習処理は、i番目のキャンセルポイントセットの第1キャンセルポイントP1_iに配置した第1学習用マイク51、i番目のキャンセルポイントセットの第2キャンセルポイントP2_iに配置した第2学習用マイク52を第1学習処理ブロックに接続して行う。
【0049】
第1学習用マイク51と第2学習マイクの配置は、たとえば、右耳の位置に第1学習用マイク51を設置し左耳の位置に第2学習用マイク52を設置したダミー人形を運転席に着座させ、i番目のキャンセルポイントセットの第1キャンセルポイントP1_iに第1学習用マイク51が位置し、i番目のキャンセルポイントセットの第2キャンセルポイントP2_iに第2学習用マイク52が位置するように運転席の位置やダミー人形の位置や姿勢を調整すること等により行う。
【0050】
第1段階学習処理ブロック6は、第1系第1段階学習処理部61と第2系第1段階学習処理部62を備えている。
そして、第1系第1段階学習処理部61は、
図3に示した信号処理ブロック11の第1系信号処理部111から、第1系減算器1115、第1系補助フィルタ1116を取り除き、第1系第1推定フィルタ1113に代えて、第1系第1段階学習処理部61から第1学習用マイク51までの伝達関数Sv11(z)の推定伝達関数Sv11^(z)を設定した第1系第1学習用推定フィルタ611を設け、第1系第2推定フィルタ1114に代えて、第1系第1段階学習処理部61から第2学習用マイク52までの伝達関数Sv21(z)の推定伝達関数Sv21^(z)を設定した第1系第2学習用推定フィルタ612を設け、第1学習用マイク51の出力と第2学習用マイク52の出力の双方をエラーとして第1系適応アルゴリズム実行部1112に入力した構成を備えている。
【0051】
また、第2系第1段階学習処理部62は、
図3に示した信号処理ブロック11の第2系信号処理部112から、第2系減算器1125、第2系補助フィルタ1126を取り除き、第2系第1推定フィルタ1123に代えて、第2系第1段階学習処理部62から第2学習用マイク52までの伝達関数Sv22(z)の推定伝達関数Sv22^(z)を設定した第2系第1学習用推定フィルタ621を設け、第2系第2推定フィルタ1124に代えて、第2系第1段階学習処理部62から第1学習用マイク51までの伝達関数Sv12(z)の推定伝達関数Sv12^(z)を設定した第2系第2学習用推定フィルタ622を設け、第1学習用マイク51の出力と第2学習用マイク52の出力の双方をエラーとして第2系適応アルゴリズム実行部1122に入力した構成を備えている。
【0052】
そして、このような構成において、第1系適応アルゴリズム実行部1112による適応動作によって第1系可変フィルタ1111の伝達関数W1(z)を収束安定させ、第2系適応アルゴリズム実行部1122による適応動作によって第2系可変フィルタ1121の伝達関数W2(z)を収束安定させ、収束安定した伝達関数W1(z)を、i番目のキャンセルポイントセットの第1系可変フィルタ初期値W1_i(z)として学習し、収束安定した伝達関数W2(z)を、i番目のキャンセルポイントセットの第2系可変フィルタ初期値W2_i(z)として学習する。
【0053】
次に、第2段階の学習処理では、第1騒音制御システム1の信号処理ブロック11を
図7に示す第2段階学習処理ブロック7に置き換えた構成において行う。
第2段階学習処理ブロック7は、第1系第2段階学習処理部71と第2系第2段階学習処理部72とを備えている。
そして、第1系第2段階学習処理部71は、第1段階の学習処理の結果として得た第1系可変フィルタ初期値W1_i(z)を伝達関数として設定した第1系固定フィルタ711と、第1系第2段階学習用可変フィルタ712と、第1系第2段階学習用適応アルゴリズム実行部713と、第1系第2段階学習用減算器714を備えている。
【0054】
また、第2系第2段階学習処理部72は、第1段階の学習処理の結果として得た第2系可変フィルタ初期値W2_i(z)を伝達関数として設定した第2系固定フィルタ721と、第2系第2段階学習用可変フィルタ722と、第2系第2段階学習用適応アルゴリズム実行部723と、第2系第2段階学習用減算器724を備えている。
【0055】
第1系第2段階学習処理部71に入力した騒音信号x(n)は、第1系固定フィルタ711を通って第1スピーカ12に出力され、第2系第2段階学習処理部72に入力した騒音信号x(n)は、第2系固定フィルタ721を通って第2スピーカ14に出力される。
【0056】
また、第1系第2段階学習処理部71に入力した騒音信号x(n)は第1系第2段階学習用可変フィルタ712を通って第1系第2段階学習用減算器714に送られ、第1系第2段階学習用減算器714は第1マイク13でピックアップした信号から第1系第2段階学習用可変フィルタ712の出力を減算し、エラーとして、第1系第2段階学習用適応アルゴリズム実行部713と、第2系第2段階学習処理部72の第2系第2段階学習用適応アルゴリズム実行部723に出力する。
【0057】
また、第2系第2段階学習処理部72に入力した騒音信号x(n)は第2系第2段階学習用可変フィルタ722を通って第2系第2段階学習用減算器724に送られ、第2系第2段階学習用減算器724は第2マイク15でピックアップした信号から第2系第2段階学習用可変フィルタ722の出力を減算し、エラーとして、第2系第2段階学習用適応アルゴリズム実行部723と、第1系第2段階学習処理部71の第1系第2段階学習用適応アルゴリズム実行部713に出力する。
【0058】
そして、第1系第2段階学習処理部71の第1系第2段階学習用適応アルゴリズム実行部713は、第1系第2段階学習用減算器714と第2系第2段階学習用減算器724から入力するエラーが0となるように第1系第2段階学習用可変フィルタ712の伝達関数H1(z)を更新し、第2系第2段階学習処理部72の第2系第2段階学習用適応アルゴリズム実行部723は、第1系第2段階学習用減算器714と第2系第2段階学習用減算器724から入力するエラーが0となるように第2系第2段階学習用可変フィルタ722の伝達関数H2(z)を更新する。
【0059】
そして、このような構成において、第1系第2段階学習用適応アルゴリズム実行部713による適応動作によって第1系第2段階学習用可変フィルタ712の伝達関数H1(z)を収束安定させ、収束安定した伝達関数H1(z)を、i番目のキャンセルポイントセットの第1系補助フィルタ設定値H1_i(z)として学習する。また、第2系第2段階学習用適応アルゴリズム実行部723による適応動作によって第2系第2段階学習用可変フィルタ722の伝達関数H2(z)を収束安定させ、収束安定した伝達関数H2(z)を、i番目のキャンセルポイントセットの第2系補助フィルタ設定値H2_i(z)として学習する。
【0060】
ここで、このようにして学習された第1系補助フィルタ設定値H1_i(z)、第2系補助フィルタ設定値H2_i(z)は、それぞれが第1系補助フィルタ1116、第2系補助フィルタ1126の伝達関数であった場合に、第1マイク13の出力する第1マイクエラー信号err1(n)と第2マイク15の出力する第2マイクエラー信号err2(n)を、i番目のキャンセルポイントセットの第1キャンセルポイントP1_iと第2キャンセルポイントP2_iに第1マイク13と第2マイク15があった場合の出力に補正するものとなる。
【0061】
また、このようにして学習された第1系可変フィルタ初期値W1_i(z)、第2系可変フィルタ初期値W2_i(z)、第1系補助フィルタ設定値H1_i(z)、第2系補助フィルタ設定値H2_i(z)は、それぞれが第1系可変フィルタ1111、第2系可変フィルタ1121、第1系補助フィルタ1116、第2系補助フィルタ1126の伝達関数であり、環境条件が学習時と同じである場合に、i番目のキャンセルポイントセットの第1キャンセルポイントP1_iと第2キャンセルポイントP2_iで騒音キャンセルされる第1キャンセル信号CA1(n)と第2キャンセル信号CA2(n)が信号処理ブロック11から出力されるものとなる。
【0062】
以上、制御装置3が備える第1フィルタ管理テーブルについて説明した。
次に、制御装置3が備える第2フィルタ管理テーブルについて説明する。
第2フィルタ管理テーブルは、
図4に示した第1フィルタ管理テーブルと同様の構成を備えており、n個のキャンセルポイントセットの各々に対応して設けられたn個のエントリを有し、i番目のキャンセルポイントセットの第1キャンセルポイントP1_iと第2キャンセルポイントP2_i、第1系補助フィルタ設定値H1_i(z)、第2系補助フィルタ設定値H2_i(z)、第1系可変フィルタ初期値W1_i(z)、第2系可変フィルタ初期値W2_i(z)が登録されている。
【0063】
ただし、第2フィルタ管理テーブルの各エントリに対応するキャンセルポイントセットは、助手席の搭乗者の異なる姿勢や位置に対応して設定されたものであり、各キャンセルポイントセットの第1キャンセルポイントは、当該キャンセルポイントセットに対応する姿勢と位置で助手席に着座したユーザの標準的な右耳の位置とし、第2キャンセルポイントは、当該キャンセルポイントセットに対応する姿勢と位置で助手席に着座したユーザの標準的な左耳の位置とする。
【0064】
また、第2フィルタ管理テーブルの各キャンセルポイントセットのエントリに登録されている、第1系補助フィルタ設定値H1_i(z)、第2系補助フィルタ設定値H2_i(z)、第1系可変フィルタ初期値W1_i(z)、第2系可変フィルタ初期値W2_i(z)は、予め学習して第2フィルタ管理テーブルに設定される。
【0065】
この学習は、標準的な環境下で、第2騒音制御システム2において、1からnまでの整数について、当該数をiとして、上述した第1段階の学習処理と第2段階の学習処理を実行することによって行われる。
【0066】
すなわち、第1段階の学習処理は、第2騒音制御システム2の信号処理ブロック11を
図6の第1段階学習処理ブロック6に置き換えた構成において上述のように行い、第2フィルタ管理テーブルのi番目のエントリに対応するi番目のキャンセルポイントセットの第1系可変フィルタ初期値W1_i(z)と第2系可変フィルタ初期値W2_i(z)を学習する。
【0067】
また、第2段階の学習処理は、第2騒音制御システム2の信号処理ブロック11を、
図7に示した第2段階学習処理ブロック7に置き換えた構成において上述のように行い、第2フィルタ管理テーブルのi番目のエントリに対応するi番目のキャンセルポイントセットの第1系補助フィルタ設定値H1_i(z)と第2系補助フィルタ設定値H2_i(z)を学習する。
【0068】
次に、能動型騒音制御システムの実働時に、制御装置3は、第1騒音制御システムキャンセルポイント切替処理と、第2騒音制御システムキャンセルポイント切替処理とを行う。
【0069】
まず、第1騒音制御システムキャンセルポイント切り替え処理について説明する。
図8に示すように、制御装置3は、キ第1騒音制御システムャンセルポイント切替処理において、まず、予め定めておいたディフォルトのキャンセルポイントセットを、設定キャンセルポイントセットとする(ステップ802)。ただし、ディフォルトのキャンセルポイントセットは、第1フィルタ管理テーブルのいずれかのエントリに対応するキャンセルポイントセットである。
【0070】
そして、第1フィルタ管理テーブルの設定キャンセルポイントセットのエントリに登録されている第1系補助フィルタ設定値H1_i(z)を第1騒音制御システム1の第1系補助フィルタ1116の伝達関数H1(z)として設定し、当該エントリに登録されている第2系補助フィルタ設定値H2_i(z)を第1騒音制御システム1の第2系補助フィルタ1126の伝達関数H2(z)として設定し、当該エントリに登録されている第1系可変フィルタ初期値W1_i(z)に、第1騒音制御システム1の第1系信号処理部111の第1系可変フィルタ1111の伝達関数W1(z)を更新し、当該エントリに登録されている第2系可変フィルタ初期値W2_i(z)に、第1騒音制御システム1の第2系可変フィルタ1121の伝達関数W2(z)を更新する(ステップ804)。
【0071】
そして、DMS4が検出しているドライバの右耳と左耳の位置を取得する(ステップ806)。
そして、取得したドライバの右耳と左耳の位置が、設定キャンセルポイントセットと所定レベル以上相違しているかどうかを調べる(ステップ808)。
ドライバの右耳と左耳の位置と設定キャンセルポイントセットとの相違は、たとえば、右耳と設定キャンセルポイントセットの第1キャンセルポイントとの距離と、左耳と設定キャンセルポイントセットの第2キャンセルポイントとの距離との二つの距離の和、もしくは、当該二つの距離のうちの大きい方の値として求める。
【0072】
そして、所定レベル以上相違していなければ(ステップ808)、ステップ806からの処理に戻る。
一方、取得したドライバの右耳と左耳の位置が設定キャンセルポイントセットと所定レベル以上相違している場合には(ステップ808)、第1フィルタ管理テーブルの各エントリに対応するキャンセルポイントセットのうちで、取得した右耳と左耳の位置に最も整合するキャンセルポイントセットに設定キャンセルポイントセットを更新する(ステップ810)。
【0073】
ここで、取得した右耳と左耳の位置に最も整合するキャンセルポイントセットは、たとえば、右耳と第1キャンセルポイントとの距離と、左耳と第2キャンセルポイントとの距離との二つの距離の和が最小となるキャンセルポイントセット、または、当該二つの距離のうちの大きい方の値が最小となるキャンセルポイントセットとして求める。
【0074】
そして、設定キャンセルポイントセットを更新したならば(ステップ810)、第1フィルタ管理テーブルの設定キャンセルポイントセットのエントリに登録されている第1系補助フィルタ設定値H1_i(z)を第1騒音制御システム1の第1系補助フィルタ1116の伝達関数H1(z)として設定し、当該エントリに登録されている第2系補助フィルタ設定値H2_i(z)を第1騒音制御システム1の第2系補助フィルタ1126の伝達関数H2(z)として設定し、当該エントリに登録されている第1系可変フィルタ初期値W1_i(z)に、第1騒音制御システム1の第1系信号処理部111の第1系可変フィルタ1111の伝達関数W1(z)を更新し、当該エントリに登録されている第2系可変フィルタ初期値W2_i(z)に、第1騒音制御システム1の第2系可変フィルタ1121の伝達関数W2(z)を更新する(ステップ812)。
【0075】
そして、その後、所定時間を待って(ステップ814)、第1騒音制御システム1のレベル検出器16が検出しているエラーe1のレベルとエラーe2のレベルとが表すエラーレベルが所定のしきい値Thより大きいかどうかを調べる(ステップ816)。
【0076】
ここで、エラーのレベルとしては、たとえは、エラーe1のレベルとエラーe2のレベルとの二つのレベルの和、もしくは、二つのレベルのうちの大きい方の値を用いる。
そして、エラーレベルがしきい値Thより大きくなければ(ステップ816)、ステップ806からの処理に戻る。
一方、エラーレベルがしきい値Thより大きければ(ステップ816)、第1騒音制御システム1の第1系補助フィルタ1116の伝達関数H1(z)と第2系補助フィルタ1126の伝達関数H2(z)と第1系可変フィルタ1111の伝達関数W1(z)と第2系可変フィルタ1121の伝達関数W2(z)を、ステップ812で更新する前の値に復帰し(ステップ818)、設定キャンセルポイントセットをステップ810で更新する前に設定キャンセルポイントセットであったキャンセルポイントセットに復帰した上で(ステップ820)、ステップ806からの処理に戻る。
【0077】
以上、制御装置3が行う第1騒音制御システムキャンセルポイント切替処理について説明した。
このような第1騒音制御システムキャンセルポイント切替処理によれば、DMS4が検出したドライバの右耳と左耳の位置に応じて、設定キャンセルポイントセットを、当該ドライバの右耳と左耳の位置に整合するキャンセルポイントセットに更新し、第1騒音制御システム1の騒音キャンセル対象位置を、おおよそDMS4が検出したドライバの右耳と左耳となる位置に切り替えることができる。
【0078】
また、騒音キャンセル対象位置の切り替え後に、信号処理ブロック11から出力されるエラーe1とエラーe2のレベルを表すエラーレベルを調べ、エラーレベルが大きいときには、第1騒音制御システム1の状態を更新前の状態に復帰して、騒音キャンセル対象位置を元の位置に戻すことができる。
【0079】
ここで、DMS4が検出したドライバの右耳と左耳の位置に応じて騒音キャンセル対象位置を切り替えた後のエラーレベルが大きいときには、DMS4がドライバの右耳と左耳の位置を誤検出している蓋然性が大きい。
【0080】
すなわち、この場合には、DMS4が検出した右耳と左耳の位置に対応するキャンセルポイントセットに対して第1系補助フィルタ設定値H1_i(z)、第2系補助フィルタ設定値H2_i(z)、第1系可変フィルタ初期値W1_i(z)、第2系可変フィルタ初期値W2_i(z)の学習時のダミー人形の頭部等の位置と、実際のドライバの頭部等の位置が異なるために、当該学習時とは、当該キャンセルポイントセットの第1キャンセルポイントと第2キャンセルポイントまでの伝達関数が乖離しエラーレベルが大きくなったと考えられる。
【0081】
したがって、このような第1騒音制御システムキャンセルポイント切替処理によれば、DMS4のドライバの耳の位置の誤検出に伴う第1騒音制御システム1の誤動作の影響を抑制することができる。
【0082】
次に、制御装置3が行う第2騒音制御システムキャンセルポイント切替処理について説明する。
第2騒音制御システムキャンセルポイント切替処理では、上述した第1騒音制御システムキャンセルポイント切替処理と同様の処理を第2騒音制御システム2に対して行う。
したがって、その内容は、以上の第1騒音制御システムキャンセルポイント切替処理の説明において、第1騒音制御システム1を第2騒音制御システム2に置換し、第1フィルタ管理テーブルを第2フィルタ管理テーブルに、ドライバを助手席の搭乗者に置換したものとなる。
【0083】
また、第1騒音制御システムキャンセルポイント切替処理と同様に、第2騒音制御システムキャンセルポイント切替処理によれば、DMS4が検出した助手席の搭乗者の右耳と左耳の位置に応じて、第2騒音制御システム2の設定キャンセルポイントセットを、当該助手席の搭乗者の右耳と左耳の位置に整合するキャンセルポイントセットに更新し、第2騒音制御システム2の騒音キャンセル対象位置を、おおよそDMS4が検出した助手席の搭乗者の右耳と左耳となる位置に切り替えることができると共に、DMS4の助手席の搭乗者の耳の位置の誤検出に伴う第2騒音制御システム2の誤動作の影響を抑制することができる。
【0084】
以上、本発明の実施形態について説明した。
ここで、以上の実施形態は、第1系補助フィルタ1116、第2系補助フィルタ1126の伝達関数を変更する代わりに、第1騒音制御システム1や第2騒音制御システム2に、複数の、各騒音キャンセルポイントセットに対応する伝達関数を設定した第1系補助フィルタ1116と第2系補助フィルタ1126のセットを設け、現用として使用する第1系補助フィルタ1116、第2系補助フィルタ1126のセットを設定キャンセルポイントセットに対応する第1系補助フィルタ1116、第2系補助フィルタ1126のセットに切り替えるようにしてもよい。
【0085】
また、以上では、騒音源が一つのみである場合について示したが、以上の実施形態は、信号処理ブロック11の構成を各騒音源の各キャンセルポイントへの伝搬を考慮するように拡張することにより、騒音源が複数存在する場合にも適用可能である。
【0086】
また、以上の実施形態では、右耳と左耳の各々に対してマイクやスピーカや信号処理部を設けた場合について示したが、本実施形態は、頭部に対してマイクやスピーカや信号処理部を設けて、右耳と左耳に聞こえる騒音を、右耳と左耳に共通のマイクとスピーカと信号処理部でまとめてキャンセルする場合にも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0087】
1…第1騒音制御システム、2…第2騒音制御システム、3…制御装置、4…DMS、6…第1段階学習処理ブロック、7…第2段階学習処理ブロック、11…信号処理ブロック、12…第1スピーカ、13…第1マイク、14…第2スピーカ、15…第2マイク、16…レベル検出器、41…近赤外線カメラ、51…第1学習用マイク、52…第2学習用マイク、61…第1系第1段階学習処理部、62…第2系第1段階学習処理部、71…第1系第2段階学習処理部、72…第2系第2段階学習処理部、111…第1系信号処理部、112…第2系信号処理部、611…第1系第1学習用推定フィルタ、612…第1系第2学習用推定フィルタ、621…第2系第1学習用推定フィルタ、622…第2系第2学習用推定フィルタ、711…第1系固定フィルタ、712…第1系第2段階学習用可変フィルタ、713…第1系第2段階学習用適応アルゴリズム実行部、714…第1系第2段階学習用減算器、721…第2系固定フィルタ、722…第2系第2段階学習用可変フィルタ、723…第2系第2段階学習用適応アルゴリズム実行部、724…第2系第2段階学習用減算器、1111…第1系可変フィルタ、1112…第1系適応アルゴリズム実行部、1113…第1系第1推定フィルタ、1114…第1系第2推定フィルタ、1115…第1系減算器、1116…第1系補助フィルタ、1121…第2系可変フィルタ、1122…第2系適応アルゴリズム実行部、1123…第2系第1推定フィルタ、1124…第2系第2推定フィルタ、1125…第2系減算器、1126…第2系補助フィルタ。