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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】水中油型乳化組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/34 20060101AFI20240422BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20240422BHJP
   A61K 8/25 20060101ALI20240422BHJP
   A61K 8/31 20060101ALI20240422BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20240422BHJP
   A61Q 15/00 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
A61K8/34
A61K8/06
A61K8/25
A61K8/31
A61K8/73
A61Q15/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020151755
(22)【出願日】2020-09-10
(65)【公開番号】P2022045971
(43)【公開日】2022-03-23
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】390011442
【氏名又は名称】株式会社マンダム
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】山科 拓也
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-128345(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)、下記成分(B)、下記成分(C)、下記成分(D)、及び下記成分(E)を含有し、成分(D)の含有割合が40.0~90.0質量%であり、
成分(E)を含む水相と前記水相に分散した成分(C)を含む油相とを有するピッカリングエマルションである、水中油型乳化組成物。
成分(A):オクテニルコハク酸デンプンエステル金属塩およびタルクからなる群より選択される一種以上の粉体
成分(B):イソプロピルメチルフェノール
成分(C):炭化水素油
成分(D):エタノール
成分(E):水
【請求項2】
下記成分(A)、下記成分(B)、下記成分(C)、下記成分(D)、及び下記成分(E)を含有し、成分(D)の含有割合が40.0~90.0質量%であり、
ノニオン性界面活性剤及び/又はアニオン性界面活性剤を含まないか、又は、含み、ノニオン性界面活性剤の含有割合とアニオン性界面活性剤の含有割合との合計が0.1質量%以下である、水中油型乳化組成物。
成分(A):オクテニルコハク酸デンプンエステル金属塩およびタルクからなる群より選択される一種以上の粉体
成分(B):イソプロピルメチルフェノール
成分(C):炭化水素油
成分(D):エタノール
成分(E):水
【請求項3】
デオドラント剤である請求項1又は2に記載の水中油型乳化組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中油型乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、不快な腋臭等の体臭を防止するデオドラント剤や、ニキビケア剤などの用途において、殺菌成分として、イソプロピルメチルフェノールを配合した組成物が広く知られている。このようなイソプロピルメチルフェノールを配合した組成物としては、例えば、速乾効果や殺菌効果の観点から、エタノールを比較的多量に含むものがある(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-76997号公報
【文献】特開2002-370958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、イソプロピルメチルフェノールを配合した組成物には、肌に塗布して用いた場合に、イソプロピルメチルフェノールが汗などの水分によって流れ落ちたり、経皮吸収したりするため、塗布後の肌上にイソプロピルメチルフェノールが充分に残存しにくく、時間が経過すると殺菌作用が充分に得られず、殺菌効果や消臭効果が不充分になるという問題がある。
【0005】
上記の問題を解消し、イソプロピルメチルフェノールの肌への残存性を向上させる方法としては、組成物中に、水-エタノール混合溶媒に溶解するような比較的IOB値の高いエステル油を配合することが考えられる。これにより、エタノールが揮発した後も、油性成分であるエステル油がイソプロピルメチルフェノールとともに肌上に残存するためと考えられるが、イソプロピルメチルフェノールの肌への残存性が向上する。上記エステル油は油性成分の中では肌に浸透しやすいため、上記の肌上に残存する効果は限定的である。さらに、上記エステル油が肌に浸透する際にイソプロピルメチルフェノールもともに肌に浸透するためとも考えられるが、上記エステル油がイソプロピルメチルフェノールの肌への残存性を向上させる効果は限定的である。従って、さらに効果的な解決策が求められているのが現状である。
【0006】
そこで、上記エステル油のかわりに、より肌に浸透しにくい炭化水素油を用いることを検討したが、上記炭化水素油は水-エタノール混合溶媒に溶解せず、界面活性剤を用いて乳化させようとしても、エタノールを高配合した系では乳化がくずれやすく、乳化安定性が劣るという問題があった。
【0007】
従って、本発明の目的は、エタノールを高濃度で配合した組成物であって、イソプロピルメチルフェノールが長時間にわたって肌上に残存しやすい組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、成分(A):粉体、成分(B):イソプロピルメチルフェノール、成分(C):炭化水素油、成分(D):エタノール、及び成分(E):水を含有し、成分(D)の含有割合が40.0~90.0質量%である水中油型乳化組成物であり、成分(E)を含む水相と上記水相に分散した成分(C)を含む油相とを有するピッカリングエマルションであるか、あるいは、ノニオン性界面活性剤及び/又はアニオン性界面活性剤を含まないか、又は、含み、上記水中油型乳化組成物中のノニオン性界面活性剤の含有割合とアニオン性界面活性剤の含有割合との合計が0.1質量%以下である水中油型乳化組成物によれば、エタノールを高濃度で配合した組成物であって、イソプロピルメチルフェノールが長時間にわたって肌上に残存しやすいことを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、下記成分(A)、下記成分(B)、下記成分(C)、下記成分(D)、及び下記成分(E)を含有し、成分(D)の含有割合が40.0~90.0質量%であり、
成分(E)を含む水相と上記水相に分散した成分(C)を含む油相とを有するピッカリングエマルションである、水中油型乳化組成物を提供する。
成分(A):粉体
成分(B):イソプロピルメチルフェノール
成分(C):炭化水素油
成分(D):エタノール
成分(E):水
【0010】
また、本発明は、下記成分(A)、下記成分(B)、下記成分(C)、下記成分(D)、及び下記成分(E)を含有し、成分(D)の含有割合が40.0~90.0質量%であり、ノニオン性界面活性剤及び/又はアニオン性界面活性剤を含まないか、又は、含み、ノニオン性界面活性剤の含有割合とアニオン性界面活性剤の含有割合との合計が0.1質量%以下である、水中油型乳化組成物を提供する。
成分(A):粉体
成分(B):イソプロピルメチルフェノール
成分(C):炭化水素油
成分(D):エタノール
成分(E):水
【0011】
成分(A)は、オクテニルコハク酸デンプンエステル金属塩、タルク、ナイロン、ポリメタクリル酸メチル、ポリメチルシルセスキオキサン、及び(ビニルジメチコン/メチコンシルセスキオキサン)クロスポリマーからなる群より選択される一種以上の粉体であることが好ましい。
【0012】
上記水中油型乳化組成物はデオドラント剤であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の水中油型乳化組成物は、エタノールを高濃度で配合した組成物であって、イソプロピルメチルフェノールが長時間にわたって肌上に残存しやすい。このため、肌上に残存したイソプロピルメチルフェノールによる殺菌作用が長時間にわたって持続し、デオドラント剤として用いた場合のデオドラント効果の持続性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の水中油型乳化組成物は、粉体、イソプロピルメチルフェノール(IPMP)、炭化水素油、エタノール、及び水を少なくとも含む。なお、本明細書において、粉体を「成分(A)」、イソプロピルメチルフェノールを「成分(B)」、炭化水素油を「成分(C)」、エタノールを「成分(D)」、水を「成分(E)」とそれぞれ称する場合がある。
【0015】
すなわち、本発明の水中油型乳化組成物は、成分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(D)、及び成分(E)を少なくとも含む。本発明の水中油型乳化組成物は、上記成分(A)~(E)以外の成分を含んでいてもよい。また、本発明の水中油型乳化組成物に含まれる各成分、例えば、成分(A)、成分(C)、及び他の成分などの各成分は、それぞれ、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。
【0016】
本発明の水中油型乳化組成物は、成分(E)を含む水相と、上記水相に分散した成分(C)を含む油相(油滴)とを有するピッカリングエマルションである。上記ピッカリングエマルションは、上記水相と上記油相との界面に成分(A)が存在する構造を有する。また、本発明の水中油型乳化組成物は、ピッカリングエマルションであるため、ノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤を実質的に含まないで、乳化組成物を形成し得る。従って、本発明の水中油型乳化組成物は、ノニオン性界面活性剤及び/又はアニオン性界面活性剤を含まないか、又はノニオン性界面活性剤及び/又はアニオン性界面活性剤の含有割合が0.1質量%以下である乳化組成物を形成し得る。
【0017】
[成分(A)]
成分(A)は、粉体である。本発明の水中油型乳化組成物は、成分(A)を成分(C)~(E)と組み合わせて用いることでピッカリングエマルションを形成することができる。成分(A)は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。
【0018】
成分(A)としては、例えば、オクテニルコハク酸デンプンエステル金属塩、タルク、ナイロン、ポリメタクリル酸メチル、シリコーンエラストマー粒子、マイカ、リン酸カルシウム、疎水化シリカ、炭などが挙げられる。
【0019】
上記オクテニルコハク酸デンプンエステル金属塩としては、オクテニルコハク酸デンプンエステルのアルミニウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、鉄塩などが挙げられる。中でも、アルミニウム塩(オクテニルコハク酸デンプンアルミニウム)が好ましい。上記オクテニルコハク酸デンプンアルミニウムは、オクテニルコハク酸デンプンAl又はオクテニルコハク酸トウモロコシデンプンアルミニウムと表記される場合がある。また、上記オクテニルコハク酸デンプンアルミニウムは、INCI(Internationa Nomenclature for Cosmetic Ingredients)名で、ALUMINUM STARCH OCTENYLSUCCINATEと表記される場合がある。
【0020】
本発明の水中油型乳化組成物において、成分(A)は粉体である。オクテニルコハク酸デンプンエステル金属塩は、比較的高温(例えば、60℃以上)に加温することで、親水化・ゲル化(所謂、α化や糊化)し粉体状態でなくなり、増粘剤として使用されることがある。本発明の水中油型乳化組成物では、オクテニルコハク酸デンプンエステル金属塩を配合する場合は粉体の状態で含まれることが特徴である。このため、本発明の水中油型乳化組成物の製造工程において、オクテニルコハク酸デンプンエステル金属塩は、60℃未満(より好ましくは55℃未満)で用いられることが好ましい。
【0021】
上記タルクとしては、特に限定されず、化粧料組成物に一般的に用いられているタルクを使用することができる。上記タルクは、INCI名で、TALCと表記される。
【0022】
上記タルクの吸油量は、特に限定されないが、18~50ml/100gが好ましい。また、上記タルクの平均粒径D50は、特に限定されないが、0.5~25.0μmが好ましく、より好ましくは1.0~20.0μmである。
【0023】
なお、本明細書において、油量は、例えば、JIS K5101に記載の測定方法に準拠して測定される値である。また、本明細書において、平均粒径D50は、レーザ回折散乱法により測定することができる。具体的には、例えば、レーザ回折散乱式粒度分布測定装置(商品名「LA950V2」、株式会社堀場製作所社製)を用いて測定することができる。
【0024】
上記ナイロンとしては、特に限定されず、例えば、ナイロン-6(INCI名:NYLON-6)、ナイロン-12(INCI名:NYLON-12)などが挙げられる。上記ナイロンの平均粒径D50は、特に限定されないが、0.5~40.0μmが好ましく、より好ましくは1.0~20.0μm、さらに好ましくは3.0~10.0μmである。
【0025】
上記ポリメタクリル酸メチルは、INCI名で、POLYMETHYL METHAC RYLATEと表記される。上記ポリメタクリル酸メチルの平均粒径D50 は、特に限定されないが、0.5~100μmが好ましく、より好ましくは1.0~60μmである。
【0026】
上記シリコーンエラストマー粒子としては、ポリメチルシルセスキオキサン、架橋型メチルポリシロキサン、ジメチコンクロスポリマー、ビニルジメチコンクロスポリマー、ジメチコン/ビニルジメチコンクロスポリマー、(ビニルジメチコン/メチコンシルセスキオキサン)クロスポリマー、ジメチコンクロスポリマー-3などが挙げられる。中でも、ポリメチルシルセスキオキサン、(ビニルジメチコン/メチコンシルセスキオキサン)クロスポリマーが好ましい。上記ポリメチルシルセスキオキサンは、メチルシロキサン網状重合体とも称し、INCI名で、POLYMETHYLSILSESQUIOXANEと表記される。上記(ビニルジメチコン/メチコンシルセスキオキサン)クロスポリマーは、架橋型シリコーン・網状型シリコーンブロック共重合体とも称し、INCI名で、Vinyl Dimethicone/Methicone Silsesquioxane Crosspolymerと表記される。上記シリコーンエラストマー粒子の平均粒径D50は、特に限定されないが、1.0~20.0μmが好ましく、より好ましくは2.0~15.0μm、さらに好ましくは3.0~10.0μmである。
【0027】
上記マイカとしては、例えば、セリサイト、雲母の表面を酸化チタンで被覆した雲母チタンなどが挙げられる。
【0028】
上記リン酸カルシウムとしては、例えば、第一リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、第三リン酸三カルシウムなどが挙げられる。
【0029】
上記疎水性シリカは、親水性シリカに疎水化処理が施されたシリカである。疎水化処理に用いられる処理剤としては、例えば、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、メチルトリアルコキシシラン、ジメチルジアルコキシシラン、トリメチルアルコキシシラン、エチルトリクロロシラン、プロピルトリクロロシラン、ヘキシルトリクロロシラン、長鎖アルキルトリクロロシラン、エチルトリアルコキシシラン、プロピルトリアルコキシシラン、ヘキシルトリアルコキシシラン、長鎖アルキルトリアルコキシシラン、メタクリルシラン、フルオロアルキルシラン、ペルフルオロアルキルシランなどの有機シリル化合物;ジメチルポリシロキサン(シリコーンオイル)、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、アミノ変性シリコーンなどのシリコーン化合物などが挙げられる。疎水化処理方法は、公知の方法を用いて疎水化処理を施すことができ、例えば、液相法、気相法、オートクレーブ法などが挙げられる。
【0030】
上記疎水性シリカとしては、具体的には、例えば、ジメチルシロキシル化シリカ、トリメチルシロキシル化シリカ、オクチルシロキシル化シリカ、シリコーンオイル処理シリカ、メタクリルシロキシル化シリカ、メチルハイドロジェンポリシロキサン被覆シリカなどが挙げられる。
【0031】
上記炭としては、例えば、活性炭(薬用炭)などが挙げられる。上記活性炭の原料としては、特に限定されず、活性炭の原料として一般的に用いられるものを用いることができる。具体的には、例えば、ヤシ殻、木材、おが屑、石炭、フェノール樹脂、レーヨン、アクリロニトリル、石炭ピッチ、石油ピッチなどが挙げられる。中でも、ヤシ殻、木材、フェノール樹脂、石炭が好ましい。
【0032】
成分(A)は市販品を用いることもできる。オクテニルコハク酸デンプンエステル金属塩の市販品としては、例えば、商品名「DRY-FLO PURE」、商品名「DRY-FLO PC」(以上、Nouryon社製)、商品名「オクティエ」(日澱化学株式会社製)などが挙げられる。タルクの市販品としては、商品名「タルクMS」(日本タルク株式会社製)などが挙げられる。ナイロンの市販品としては、例えば、商品名「ガンツパール GPA-550」(アイカ工業株式会社製)、商品名「Orgasol(R) 2002 EXD NAT COS」(アルケマ株式会社製)などが挙げられる。ポリメタクリル酸メチルの市販品としては、例えば、商品名「マツモトマイクロスフェア M」(松本油脂製薬株式会社製)などが挙げられる。ポリメチルシルセスキオキサンの市販品としては、例えば、商品名「KMP-599」、商品名「KSP-300」、商品名「X-52-1621」、商品名「KMP-601」、商品名「KMP-598」(以上、信越化学工業株式会社製)、商品名「トスパール120A」、商品名「トスパール145A」(以上、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製)などが挙げられる。(ビニルジメチコン/メチコンシルセスキオキサン)クロスポリマーの市販品としては、例えば、商品名「KSP-105」、商品名「KSP-100」、商品名「KSP-101」(以上、信越化学工業株式会社製)などが挙げられる。マイカの市販品としては、例えば、商品名「セリサイト DN-MC」(大日本化成株式会社製)、商品名「RonaFlair Extender W」(Merck社製)などが挙げられる。上記リン酸カルシウムの市販品としては、例えば、商品名「第二リン酸カルシウム」(松尾薬品産業株式会社製)などが挙げられる。上記疎水性シリカの市販品としては、例えば、商品名「HDK H2000」(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製)などが挙げられる。炭の市販品としては、例えば、商品名「薬用炭」(堀江生薬株式会社製)などが挙げられる。
【0033】
成分(A)としては、中でも、エタノールを高濃度で配合した場合の乳化安定性により優れる観点から、オクテニルコハク酸デンプンエステル金属塩、タルク、ナイロン、ポリメチルメタクリレート(特に、ポリメタクリル酸メチル)、シリコーンエラストマー粒子(特に、ポリメチルシルセスキオキサン、(ビニルジメチコン/メチコンシルセスキオキサン)クロスポリマー)が好ましく、オクテニルコハク酸デンプンエステル金属塩、タルクがより好ましい。
【0034】
本発明の水中油型乳化組成物中の成分(A)の含有割合は、本発明の水中油型乳化組成物100質量%に対して、0.05~10.0質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1~8.0質量%である。上記含有割合が上記範囲内であると、乳化安定性がよりいっそう優れる。上記成分(A)の含有割合は、本発明の水中油型乳化組成物中の全ての成分(A)の含有割合の合計である。
【0035】
[成分(B)]
成分(B)はイソプロピルメチルフェノールである。成分(B)は、本発明の水中油型乳化組成物を肌に塗布した際に殺菌作用を発揮する殺菌成分である。
【0036】
本発明の水中油型乳化組成物中の成分(B)の含有割合は、本発明の水中油型乳化組成物100質量%に対して、0.01~3.0質量%であることが好ましく、より好ましくは0.05~2.0質量%である。上記含有割合が0.01質量%以上であると、水中油型乳化組成物の殺菌作用がより優れる。上記含有割合が3.0質量%以下であると、肌刺激の少なさの点で優れる。
【0037】
[成分(C)]
成分(C)は炭化水素油である。油性成分として成分(C)を用いることで、水中油型乳化組成物の塗布後において、肌上で成分(C)により油膜を形成するものと推測され、成分(B)の汗などの水分による流れ落ちを起こりにくくし、成分(B)が肌上に残存しやすくする。また、エステル油と比べて成分(C)は肌により浸透しにくく、肌上でより長時間油膜を形成しつづけるため、成分(B)を肌上に残存させる効果に優れる。成分(C)は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。
【0038】
成分(C)としては、例えば、イソパラフィン、軽質イソパラフィン、軽質流動イソパラフィン、スクワラン(合成スクワラン、植物性スクワラン)、流動イソパラフィン、流動パラフィン等、水添ポリイソブテン、イソドデカンなどが挙げられる。
【0039】
本発明の水中油型乳化組成物中の成分(C)の含有割合は、本発明の水中油型乳化組成物100質量%に対して、0.01~15.0質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1~10.0質量%である。上記含有割合が0.01質量%以上であると、成分(B)を肌上に残存させる効果がよりいっそう優れる。また、上記含有割合が15.0質量%以下であると、油相の分離を抑制する効果がよりいっそう優れる。上記成分(C)の含有割合は、本発明の水中油型乳化組成物中の全ての成分(C)の含有割合の合計である。
【0040】
本発明の水中油型乳化組成物中の成分(A)に対する成分(C)の質量割合[成分(C)/成分(A)]は、0.05~2.0であることが好ましく、より好ましくは0.1~1.8である。上記質量割合が0.05以上であると、ピッカリングエマルションの形成に寄与しない成分(A)の浮遊(所謂、粉浮き)や沈降をより抑制することができる。上記質量割合が2.0以下であると、ピッカリングエマルションの形成に寄与しない油相の分離(所謂、油浮き)をより抑制することができる。
【0041】
[成分(D)]
成分(D)はエタノールである。成分(D)を用いることにより、本発明の水中油型乳化組成物に速乾性やさっぱりとした使用感を付与できる。
【0042】
本発明の水中油型乳化組成物中の成分(D)の含有割合は、本発明の水中油型乳化組成物100質量%に対して、40.0~90.0質量%であり、好ましくは50.0~80.0質量%である。上記含有割合が40.0質量%以上であると、速乾性の観点から優れる。上記含有割合が90.0質量%を超えると、刺激感や乾燥感が生じやすくなる。
【0043】
[成分(E)]
成分(E)は水であり、特に限定されないが、精製水が好ましい。本発明の水中油型乳化組成物中の成分(E)の含有割合は、本発明の水中油型乳化組成物100質量%に対して、5.0~59.0質量%であることが好ましく、より好ましくは15.0~49.0質量%である。
【0044】
本発明の水中油型乳化組成物中の成分(D)に対する成分(E)の質量割合[成分(E)/成分(D)]は、0.1~1.5であることが好ましく、より好ましくは0.2~1.2である。上記質量割合が上記範囲内であると、ピッカリングエマルションの安定性がより向上する。水相と油相の極性バランスがより適正となることによって、成分(A)が界面により吸着しやすくなり、エマルションが崩壊しにくくなり、所謂、油浮きがより一層抑制される。
【0045】
[その他の成分]
本発明の水中油型乳化組成物は、上記成分(A)~(E)以外の成分(その他の成分)を含んでいてもよい。上記その他の成分しては、特に限定されず、例えば、化粧品や医薬部外品に通常用いられる成分等が挙げられる。具体的には、例えば、成分(D)以外の低級アルコール;ノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤以外の界面活性剤;成分(C)以外の油性成分;増粘剤;多価アルコール;グリチルリチン酸及びその塩等の抗炎症剤;メントール等の清涼剤;リン酸及びその塩類、クエン酸及びその塩類、乳酸及びその塩類、水酸化ナトリウム、トリエタノールアミン等のpH調整剤;香料;紫外線吸収剤;酸化防止剤;防腐剤;金属イオン封鎖剤;色素;顔料;ビタミン類;アミノ酸類;収斂剤;美白剤;動植物抽出物;中和剤;成分(B)以外の殺菌剤;制汗剤;消臭剤;酸;アルカリなどが挙げられる。上記その他の成分は、それぞれ、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。
【0046】
上記制汗剤は、例えば、皮膚を収斂することにより汗の発生を抑制する薬剤である。上記制汗剤としては、例えば、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、クロルヒドロキシアルミニウム、アラントインクロルヒドロキシアルミニウム、パラフェノールスルホン酸亜鉛などが挙げられる。
【0047】
上記殺菌剤は、例えば、体臭の原因となる物質を生成する皮膚常在菌の増殖を抑制する薬剤である。成分(B)以外の上記殺菌剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩酸クロルヘキシジン、フェノール、トリクロロカルバニリド、グルコン酸クロルヘキシジン、トリクロサン、トリクロカルバン、ピロクトンオラミン、ジンクピリチオン、サリチル酸、ソルビン酸、塩化リゾチームなどが挙げられる。
【0048】
上記清涼剤としては、例えば、メントール、メンチルグリセリルエーテル、乳酸メンチル、カンファー、イシリンなどが挙げられる。
【0049】
本発明の水中油型乳化組成物は、ノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤を実質的に含まないことが好ましい。本発明の水中油型乳化組成物は、ノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤を含まないか、又は、ノニオン性界面活性剤及び/又はアニオン性界面活性剤を含む場合はノニオン性界面活性剤及び/又はアニオン性界面活性剤の含有割合が0.1質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.01質量%以下である。本発明の水中油型乳化組成物は、界面活性剤を用いることなくエマルションを形成して粉体を分散しているため、粉体の分散のための界面活性剤の使用を必須としない。そして、上記含有割合が0.1質量%以下であると、ノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤に由来する皮膚への刺激やべたつきを防止することができる。また、成分(A)によるピッカリングエマルションの形成を妨げないため、乳化安定性がよりいっそう優れる。
【0050】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、及びこれらのアルキレンオキシド付加物、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルフェノール、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルホルムアルデヒド縮合物、ポリオキシエチレンステロール及びその誘導体、ポリオキシエチレンラノリン及びその誘導体、ポリオキシエチレンミツロウ誘導体、シュガーエステル類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油などが挙げられる。
【0051】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、高級脂肪酸石鹸、アルキル硫酸エステル塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、アルキルエーテルリン酸エステル、アルキルエーテルカルボン酸塩、アシルメチルタウリン塩、N-アシル-N-メチル-β-アラニン塩、N-アシルグリシン塩、N-アシルグルタミン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルカルボン酸塩、アルキルフェニルエーテルスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸及びその塩、N-アシルサルコシン及びその塩、ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド硫酸塩などが挙げられる。
【0052】
本発明の水中油型乳化組成物の剤型としては、特に限定されないが、ローション、ミスト、スプレー(エアゾール型、非エアゾール型)、チューブ、シート、ロールオンなどが挙げられる。本発明の水中油型乳化組成物は、ロールオン剤型として好ましく用いられる。ロールオン剤型であると、組成物を手に付けて塗布対象物に塗布することなく、組成物を塗布対象物に直接且つ均一に塗布することができ、塗布性に優れる。例えば、腋などの肌に、ロールオン容器内のデオドラント組成物を直接塗布することが容易である。また、ロールオンタイプの水中油型乳化組成物では、塗布後の殺菌剤の残存性、及び塗布後の殺菌効果の持続性を高める効果がよりいっそう発揮されやすい。本発明の水中油型乳化組成物がロールオン剤型である場合、ロールオン容器に充填されてロールオン製品として用いられる。上記ロールオン製品は、内容物を吐出可能な容器と、上記容器内に充填された本発明の水中油型乳化組成物とを備える。上記容器は塗布部にロールを備える。ロールは、円筒部材であってもよく、球状部材であってもよい。
【0053】
本発明の水中油型乳化組成物としては、体臭抑制剤(デオドラント剤)、清涼化粧料、化粧水、頭髪化粧料、シェービング化粧料、拭き取り化粧料(シート化粧料)などが挙げられる。本発明の水中油型乳化組成物は、好ましくは、デオドラント剤(体臭を抑制する目的で用いられる防臭剤)、化粧水(特に、ニキビ予防用化粧水)である。
【0054】
本発明の水中油型乳化組成物は、皮膚に塗布して用いられることが好ましい。皮膚に塗布する場合の塗布部としては、例えば、腋下、腕、足、足裏、首、胸、体幹部、臀部、顔、頭髪などが挙げられる。
【0055】
本発明の水中油型乳化組成物は、特に限定されず、公知乃至慣用の方法により製造することができる。例えば、上記各成分を混合し、ディスパーミキサー、パドルミキサー等の公知の撹拌装置を用いて撹拌する方法などで、各成分を均一化する方法が挙げられる。
【0056】
本発明の水中油型乳化組成物は、水[成分(E)]と、高濃度のエタノール[成分(D)]と、殺菌成分としてのイソプロピルメチルフェノール[成分(B)]とを含む系において、炭化水素油[成分(C)]を含むことにより、肌上に塗布した後において炭化水素油が油膜を形成するものと推測され、成分(B)の汗などの水分による流れ落ちを抑制することができる。また、成分(D)により成分(B)の肌への浸透が促進されるものの、成分(C)は肌に浸透しにくいため、成分(B)の肌への浸透も抑制することができる。さらに、粉体[成分(A)]を配合することによりピッカリングエマルションを形成することができ、界面活性剤を使用しなくても乳化組成物を形成することができる。これにより、成分(D)を高濃度で含む系に、乳化安定性に優れる状態で成分(C)を配合することができる。
【実施例
【0057】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。なお、表に記載の配合量は、各成分の配合量(すなわち、各原料中の有効成分の配合量。所謂純分)であり、特記しない限り「質量%」で表す。また、実施例8~11は参考例1~4に読み替えるものとする。
【0058】
実施例1~13、比較例1~2
表に記した各成分(成分(A)~(E))及びその他の成分を用い、実施例及び比較例の各組成物を常法により調製した。
【0059】
(評価)
実施例及び比較例で得られた各組成物について以下の通り評価した。(2)イソプロピルメチルフェノールの残存性の評価結果は表に記載した。
【0060】
(1)ピッカリングエマルション形成の観察
実施例及び比較例で得られた各組成物を、25℃の環境下で24時間放置した後、光学顕微鏡にて観察を行った。
その結果、実施例の各組成物では、水相中に油滴が分散しており、粉体が油滴表面に存在する構造である、ピッカリングエマルションが形成されていることを確認した。一方、比較例1及び2は油相を含まないため、ピッカリングエマルションは形成されない。
【0061】
(2)イソプロピルメチルフェノールの残存性
実施例及び比較例で得られた各組成物を前腕内側に0.5mL滴下し、滴下部表面を綿棒で5往復こすり、初期の測定サンプルを採取した。次いで、15分経過後、再び滴下部表面を綿棒でこすり、経時後の測定サンプルを採取した。採取したそれぞれの測定サンプルをエタノール5mLに浸漬して溶解し、それぞれのエタノール中のイソプロピルメチルフェノール濃度を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定した。「初期の測定サンプルのイソプロピルメチルフェノール濃度」に対する「経時後の測定サンプルのイソプロピルメチルフェノール濃度」の割合を「イソプロピルメチルフェノールの残存性」とし、以下の基準で判定した。なお、有意差は、ウィルコクソン(Wilcoxon)検定により判定した。
[残存性の判定基準]
○(良好):比較例2と比較してイソプロピルメチルフェノールの残存性が有意に高い。
×(不良):比較例2と比較してイソプロピルメチルフェノールの残存性が有意に高いとは認められない。
【0062】
【表1】
【0063】
表に示すように、本発明の水中油型乳化組成物は、殺菌剤であるイソプロピルメチルフェノールが長時間にわたって肌上に残存していると評価された。一方、成分(C)を配合しない組成物(比較例)は、ピッカリングエマルションを形成せず、実施例の組成物に対してイソプロピルメチルフェノールの残存性が劣っていた。
【0064】
(3)乳化安定性
実施例で得られた各組成物を、容量50mLのスクリュー管に入れ、25℃の環境下で24時間放置した後、各組成物における乳化状態を目視にて観察した。
その結果、実施例の組成物は、いずれにも油相の分離は認められず、良好な乳化安定性を有することが確認された。なお、油相が分離した場合には、組成物の上層に油の層が認められる。
【0065】
また、上記評価(3)の後、スクリュー管を軽く振とうし、スクリュー管の底部に沈降した粉体を舞い上げて、浮遊する遊離粉体の量を確認した。その結果、実施例の組成物は、いずれも、遊離粉体はほとんど認められないか、スクリュー管の向こう側が透けて見える程度の遊離粉体の量であった。なお、振とうした際に遊離粉体の量が多いと、スクリュー管の向こう側が見えないくらいに白濁し、審美性が悪くなる場合がある。
【0066】
さらに、以下に、本発明の水中油型乳化組成物の処方例を示す。
【0067】
処方例1 デオドラントロールオン
エタノール 70.0質量%
流動パラフィン 0.5質量%
オクテニルコハク酸デンプンAl 5.0質量%
イソプロピルメチルフェノール 0.1質量%
クロルヒドロキシアルミニウム 5.0質量%
ヒドロキシプロピルセルロース 0.5質量%
メントール 0.3質量%
香料 0.15質量%
水 残部
合計 100.0質量%
【0068】
処方例2 デオドラントミスト
エタノール 50.0質量%
スクワラン 0.15質量%
オクテニルコハク酸デンプンAl 1.5質量%
イソプロピルメチルフェノール 0.2質量%
フェノールスルホン酸亜鉛 0.5質量%
メントキシプロパンジオール 0.1質量%
メントール 0.6質量%
香料 0.2質量%
水 残部
合計 100.0質量%