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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】グリッパ
(51)【国際特許分類】
   B25J 15/08 20060101AFI20240422BHJP
【FI】
B25J15/08 S
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021005475
(22)【出願日】2021-01-18
(65)【公開番号】P2022110213
(43)【公開日】2022-07-29
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000108498
【氏名又は名称】タイガースポリマー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】三浦 貴嗣
【審査官】松浦 陽
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-167689(JP,U)
【文献】特開2015-112662(JP,A)
【文献】特開2007-301168(JP,A)
【文献】特開昭60-167789(JP,A)
【文献】特開2016-002611(JP,A)
【文献】特開2020-097066(JP,A)
【文献】特許第6883908(JP,B1)
【文献】特開2021-112789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 15/00-15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
把持対象物を把持するよう開閉可能に設けられた爪部材と、
把持対象物を把持する際に把持対象物と接触するように爪部材に取り付けられたグリップ部材とを有するグリッパであって、
前記グリップ部材は、JIS-K6253に準拠するデュロA硬度で30~80HDAの樹脂で形成された外皮部材と、外皮部材の内側に配置される発泡樹脂製の内包体を有し、
把持対象物を把持した際に外皮部材内部の空気が外皮部材の外に抜ける通気口が設けられており、
外皮部材は、把持対象物と接触するように設けられた平板状の把持壁と、
把持壁に対し把持対象物と反対方向に、把持動作の開閉方向に沿って延在する側壁を有する中空形状に一体成型されており、
把持対象物を把持していない状態で、内包体が、外皮部材の側壁に接触するように、外皮部材と一体化されている、
グリッパ。
【請求項2】
内包体が、少なくとも、外皮部材の把持壁または外皮部材のうち前記把持壁に対向配置される壁部に、接着されている、
請求項1に記載のグリッパ。
【請求項3】
外皮部材と内包体が、前記側壁では接着されていない、
請求項2に記載のグリッパ。
【請求項4】
把持動作の開閉方向に沿って見て、
少なくとも、把持対象物が把持壁に接触する領域を挟むように、前記側壁が対をなして設けられる、
請求項1に記載のグリッパ。
【請求項5】
把持動作の開閉方向に沿って見て、
少なくとも、把持対象物が把持壁に接触する領域に対し、前記側壁が爪部材の先端側に設けられる、
請求項1に記載のグリッパ。
【請求項6】
側壁が平板状であり、外皮部材が中空箱状に形成された、
請求項4または請求項5に記載のグリッパ。
【請求項7】
把持動作の開閉方向に沿って見て、
一部の側壁が、把持壁を間仕切りするように設けられている、
請求項1に記載のグリッパ。
【請求項8】
内包体が、爪部材に対し横滑りしないように取り付けられている、
請求項1または請求項2に記載のグリッパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用ロボットなどに使用されるグリッパ、特に、開閉動作により作業対象物を把持するグリッパに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、産業用ロボットが部材の搬送や組立等、多彩な用途に使用されている。産業用ロボットによって、作業対象物を搬送する、いわゆるマテリアルハンドリングのための産業用ロボットも実用化されている。産業用ロボットにより、作業対象物の搬送を行う場合には、産業用ロボットのアームに、グリッパ(エンドエフェクタと呼ばれる場合もある)が取り付けられて、グリッパにより作業対象物が操作される。作業対象物の性質や形状により、グリッパが使い分けられるが、グリッパには、磁力や真空引きなどの吸引力を利用するものや、開閉動作により作業対象物を把持するものなどがある。
【0003】
開閉動作により作業対象物を把持するグリッパとしては、例えば、特許文献1に開示されるものが知られている。特許文献1のグリッパは、板バネとクッション材がアクチュエータにより開閉される。当該グリッパによれば、脆弱な機械的特性を持つ物の把持や搬送ができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-276281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のグリッパは、グリッパが把持対象物(搬送作業の対象物)を把持する部分にクッション材を用いているため、把持の際の衝撃力が緩和されるが、その反面、図8に示すように、クッション材が把持方向と交差する方向にも変形しやすいため、保持力が弱く、把持対象物が落下したり、把持された把持対象物の位置や姿勢等が変化したりしやすいという課題を有している。
【0006】
本発明の目的は、把持対象物を柔軟に把持しながら、かつ、保持力が高いグリッパを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者は、鋭意検討の結果、グリッパに設けられて把持対象物と接触するグリップ部材を樹脂製の外皮部材とその内部に設けられた発泡樹脂製の内包体を有するように構成し、外皮部材を把持壁と特定形状の側壁の組み合わせを有するように構成し、内包体が側壁に接触するようにグリップ部材を構成すると、把持対象物を柔軟に把持しながら保持力が高められることを知見し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は、把持対象物を把持するよう開閉可能に設けられた爪部材と、把持対象物を把持する際に把持対象物と接触するように爪部材に取り付けられたグリップ部材とを有するグリッパであって、前記グリップ部材は、JIS-K6253に準拠するデュロA硬度で30~80HDAの樹脂で形成された外皮部材と、外皮部材の内側に配置される発泡樹脂製の内包体を有し、把持対象物を把持した際に外皮部材内部の空気が外皮部材の外に抜ける通気口が設けられており、外皮部材は、把持対象物と接触するように設けられた平板状の把持壁と、把持壁に対し把持対象物と反対方向に、把持動作の開閉方向に沿って延在する側壁を有する中空形状に一体成型されており、把持対象物を把持していない状態で、内包体が、外皮部材の側壁に接触するように、外皮部材と一体化されている、グリッパである(第1発明)。
【0009】
第1発明において、好ましくは、内包体が、少なくとも、外皮部材の把持壁または外皮部材のうち前記把持壁に対向配置される壁部に、接着されている(第2発明)。さらに、第2発明において、好ましくは、外皮部材と内包体が、前記側壁では接着されていない(第3発明)。
【0010】
また、第1発明において、好ましくは、把持動作の開閉方向に沿って見て、少なくとも、把持対象物が把持壁に接触する領域を挟むように、前記側壁が対をなして設けられる(第4発明)。また、第1発明において、好ましくは、把持動作の開閉方向に沿って見て、少なくとも、把持対象物が把持壁に接触する領域に対し、前記側壁が爪部材の先端側に設けられる(第5発明)。また、第4発明もしくは第5発明において、好ましくは、側壁が平板状であり、外皮部材が中空箱状に形成される(第6発明)。また、第1発明において、好ましくは、把持動作の開閉方向に沿って見て、一部の側壁が、把持壁を間仕切りするように設けられている(第7発明)。また、第1発明もしくは第2発明において、好ましくは、内包体が、爪部材に対し横滑りしないように取り付けられている(第8発明)。
【発明の効果】
【0011】
本発明のグリッパ(第1発明)によれば、把持対象物を柔軟に把持しながら、かつ、保持力が高められるとの効果が得られる。さらに、第2発明や第8発明によれば、グリップ部材が横倒しに変形することがより確実に防止でき、より保持力が高められる。また、さらに、第3発明によれば、外皮部材の側壁が外側に向かって凸となるように変形することが促され、より効果的に、把持対象物を柔軟に把持しつつ、保持力を高めることができる。
【0012】
また、第4発明によれば、把持壁が把持対象物を包み込むように変形しながら、対をなす側壁が把持対象物を両側から挟み込むように変形するため、特に保持力が高められる。また、第5発明によれば、爪の先端側に位置する側壁が、把持対象物に向かって湾曲するように変形して把持対象物を支持するので、爪の先端側から把持対象物が抜け落ちにくくなり、特に保持力が高められる。また、第6発明によれば、側壁に囲まれるように把持対象物が支持されるので、特に保持力が高められる。また、さらに、第7発明によれば、把持対象物が把持壁に対し小さい場合であっても、保持力を高めやすい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のグリッパを取り付けた産業用ロボットの模式図である。
図2】本発明のグリッパの構成を示す図である。
図3】本発明第1実施形態のグリッパの爪部材とグリップ部材の構造を示す断面図である。
図4】本発明第1実施形態のグリッパにより把持対象物を把持した際の、グリップ部材の変形形態を示す断面図である。
図5】第2実施形態のグリッパの爪部材やグリップ部材の構造を示す断面図である。
図6】第3実施形態のグリッパの爪部材やグリップ部材の構造を示す断面図である。
図7】第4実施形態のグリッパの爪部材やグリップ部材の構造を示す断面図である。
図8】従来のグリッパにより把持対象物を把持した際の、クッション部材の変形形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下図面を参照しながら、産業用ロボットに取り付けられるグリッパを例として、発明の実施形態について説明する。なお、発明は以下に示す個別の実施形態に限定されるものではなく、その形態を変更して実施することもできる。例えば、本発明のグリッパは、産業用ロボットだけでなく、家庭内や病院等で用いられるロボットにも使用できる。
【0015】
図1は、本発明第1実施形態のグリッパ10を取り付けた産業用ロボットの模式図である。グリッパ10は、ロボットのアームAの先端部に取り付けられて使用される。ロボットのアームの具体的形式や形態は特に限定されない。アームAは多関節式であってもよいし、平行移動式のアームであってもよい。
【0016】
図2は、本発明のグリッパ10の構成を示す図である。本発明のグリッパは、開閉動作によって、把持対象物99(作業対象物とも記載する)を把持することができ、本発明のグリッパを備える産業用ロボットは把持対象物を把持して搬送することができる。
【0017】
グリッパ10は、駆動部19と爪基部18,18を有する。駆動部19に備えられた動力装置(例えばモータや圧力シリンダー等)と機構(例えば減速機構や、リンク、カム等)により爪基部18,18が開閉運動し、後述する爪部材11,11やグリップ部材12,12を開閉する。例えば、本実施形態では、電動モータとボールねじを組み合わせて、爪基部18,18が平行に開閉するよう、駆動部19が構成されている。なお、駆動部19や爪基部18の具体的構成や機構は、特に限定されず、爪部材やグリップ部材を平行に開閉させるものであってもよく、コンパス状に開閉させるものであってもよい。また、爪基部18,18は必須ではなく、駆動部19により後述する爪部材11,11が直接開閉駆動されてもよい。爪基部18,18があれば、グリッパ10において爪部材11やグリップ部材12を交換しやすくなって便利である。
【0018】
グリッパ10は、爪部材11,11とグリップ部材12,12とを有する。爪部材11は、グリッパ10が把持対象物99を把持するよう、開閉可能に設けられている。本実施形態では、爪部材11は爪基部18にネジ等によって取り付けられて、開閉可能とされている。グリップ部材12は、爪部材11に取り付けられており、爪部材とともに開閉動作する。また、グリップ部材12は、把持対象物99を把持する際に、把持対象物99と直接接触するように設けられる。
【0019】
グリッパ10の把持動作に伴い、爪部材11およびグリップ部材12が移動する方向を以下、「把持方向」という。図2において、把持方向は、図の左右方向である。
また、本実施形態では、爪部材11とグリップ部材12とが、それぞれ、対をなすように2つ設けられている。これにより、グリップ部材12,12の間に置かれた把持対象物が、爪部材11,11の間隔が狭まることにより、グリップ部材12,12の間に把持される。爪部材11とグリップ部材12の数は、2つに限定されず、1つ、もしくは3つ以上であってもよい。
【0020】
爪部材11やグリップ部材12の構成について、以下、より詳細に説明する。
図3は、第1実施形態のグリッパ10における爪部材11とグリップ部材12の構造を示す断面図である。図3の左上の図が、図2における左側の爪部材11とグリップ部材12に対応した視点での断面図となっている。図3の左上の図および、図3左下の図(X-X断面図)において、把持方向は図の左右方向となっており、図3右上の図(Y-Y断面図)において、把持方向は紙面奥行き方向となっている。
【0021】
爪部材11は、駆動部19により与えられる爪基部18の開閉運動が、グリップ部材12に良く伝わるように、金属やプラスチック等、グリップ部材12に比べ硬質な材料で形成されている。必須ではないが、グリッパ10による把持が行われる際に、爪部材11と把持対象物99の間にグリップ部材12が挟まれるようになって、爪部材11が、グリップ部材12を介して把持対象物99を押すように、爪部材11が構成されていることが好ましい。
【0022】
グリップ部材12は、外皮部材120と内包体130を有する。外皮部材120は、JIS-K6253に準拠するデュロA硬度で30~80HDAの樹脂で形成された、中空状の部材である。内包体130は、外皮部材120の内側に配置されている。内包体130は発泡樹脂製である。グリッパ10が把持対象物99を把持する際には、グリップ部材12が変形しながら、把持対象物99が把持される。
【0023】
外皮部材120を構成する樹脂は、シリコーンゴムやアクリロニトリルブタジエンゴムや、ウレタンゴム等のゴムや熱硬化性樹脂であってもよく、オレフィン系熱可塑性エラストマーやスチレン系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性エラストマーであってもよく、軟質塩化ビニル樹脂や酢酸ビニル樹脂(EVA樹脂)などの熱可塑性樹脂であってもよい。これら樹脂には、必要に応じ、各種添加剤やフィラー等が配合されていてもよい。
【0024】
内包体130を構成する発泡樹脂は、連続気泡構造を有する発泡樹脂であってもよく、独立気泡構造を有する発泡樹脂であってもよい。内包体130の柔軟性を高める観点からは、連続気泡構造を有する発泡樹脂により内包体130が構成されることが好ましい。
内包体130を構成する発泡樹脂の硬さは、JIS-K6254もしくはJIS-K6400-2に準拠して測定した25%圧縮時の荷重(加圧力)が5~200kPaとなる硬さであることが好ましい。なお、発泡樹脂がウレタンスポンジの場合には、JIS-K6400-2に準拠して測定し、発泡樹脂がエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)やクロロプレンゴム(CR)などのゴムスポンジの場合には、JIS-K6254に準拠して測定するものとする。
【0025】
連続気泡構造を有する発泡樹脂は、例えば、発泡ウレタン樹脂や、発泡させた後破泡させた発泡ゴム等であってもよい。発泡樹脂が連続気泡構造を有していることにより、グリップ部材12の柔軟な変形が促される。なお、連続気泡構造を有する発泡樹脂は、独立気泡構造の気泡を一部含んでいてもよい。
【0026】
内包体130が、独立気泡構造を有する発泡樹脂、例えば発泡エチレンプロピレンゴムや発泡シリコーンゴム、発泡ポリエチレン樹脂等によって構成される場合には、内包体130の変形が促されやすいように、ブロック状に形成された内包体130に穴や窓などの空隙部を設けることが好ましい。
【0027】
グリップ部材12は、中空状の外皮部材120に内包体130が包まれるように構成されるが、グリップ部材12には、把持対象物99を把持した際に外皮部材120内部の空気が外皮部材の外に抜ける通気口124が設けられている。通気口124が設けられることにより、把持対象物を把持する際のグリップ部材12の柔軟な変形が促される。
本実施形態においては、中空箱状に形成された外皮部材120の一側面が取り除かれたようになっており、その部分が通気口124となっている。通気口の具体的形態は他の形態であってもよい。例えば、後述する実施形態のように、通気口は爪部材に設けられていてもよく、爪部材とグリップ部材の接続部に設けられていてもよい。
【0028】
グリップ部材12の外皮部材120は、以下の形態を有する。外皮部材120は、平板状の把持壁121と、側壁122,123を有するような中空形状に一体成型されている。ここで、把持壁121とは、把持対象物と接触するように設けられた壁部のことである。また、把持壁121の外表面を、以後、把持面12Sと呼ぶ。
また、側壁122,123とは、把持動作の開閉方向(把持方向)に沿って延在する壁部のことであり、かつ、側壁122,123は、把持壁121に対し把持対象物99と反対方向に延在している。
【0029】
平板状の把持壁121は、完全な平板である必要はなく、後述する他の実施形態における把持壁のように、やや膨らんだりへこんだりした湾曲面や球面の把持壁であっても、平板状の把持壁に含まれる。
また、把持壁121が把持対象物99と接触する把持面12Sには、摩擦力や表面の粘着性を調節するために、突起、穴、凸条や凹溝、チェッカリング、ドットパターンや、梨地、シボなどの地模様が設けられていてもよい。あるいは、把持面12Sには、シリコーンゴムやEVA樹脂、不織布などの、把持壁とは異なる材料で構成される表面層が設けられていてもよい。
【0030】
把持方向に沿って延在する側壁122,123は、好ましくは、平板状もしくは円筒状に設けられる。側壁122,123の一方の側縁が、把持壁121に接続される側となり、側壁122,123の他方の側縁が、爪部材の側となる。必須ではないが、本実施形態においては、側壁122,123は平板状である。また、好ましくは、側壁122,123は外皮部材の外側に向かって凸となるように、やや湾曲するよう設けられる。
【0031】
好ましくは、本実施形態のように、把持動作の開閉方向(把持方向)に沿って見て(図3右上の図のように)、少なくとも、把持対象物99が把持壁121に接触する領域(Q)を挟むように、側壁123,123が対をなして設けられる。また、好ましくは、本実施形態のように、把持動作の開閉方向(把持方向)に沿って見て、少なくとも、把持対象物99が把持壁121に接触する領域Qに対し、側壁122が爪部材11の先端11tの側(爪基部18に取り付けられる側と反対側)に設けられる。また、好ましくは、本実施形態のように、側壁122,123が平板状であり、外皮部材120が中空箱状に形成される。
【0032】
グリッパ10において、把持対象物99を把持していない状態で、内包体130が、外皮部材120の側壁に接触するように、外皮部材120と一体化されている。本実施形態では、内包体130は、全ての側壁122,123と接触している。なお、内包体130が、一部の側壁(例えば側壁123,123)と接触し、他の側壁とは接触しないようにされていてもよい。
【0033】
内包体130と外皮部材120との一体化は、内包体130が外皮部材の中空部にはまり込むような嵌合による一体化でもよいが、一体化の手段は特に限定されない。好ましくは、内包体の一部と外皮部材の一部が、互いに、接着剤や粘着剤、粘着テープなどにより一体化される。両者がずれないように、凹凸形状を設けて互いに嵌合させてもよい。また、可能であれば、両者を溶着、あるいは、インサート成型や注型成形を利用して一体化してもよい。
【0034】
好ましくは、内包体130と外皮部材120との一体化は、内包体130が、少なくとも、外皮部材120の把持壁121または外皮部材120のうち前記把持壁121に対向配置される壁部126に、接着されるよう一体化される。
【0035】
また、好ましくは、内包体130と外皮部材120との一体化は、外皮部材120と内包体130が、前記側壁122,123とは接着されていない、すなわち、その部分では非接着の遊挿状態となるように、一体化される。
【0036】
グリップ部材12と爪部材11の一体化(取り付け)は、特に限定されない。本実施形態では、外皮部材120に、袋状の穴を設けた取り付け部125を設けておき、取り付け部の125の穴に爪部材11を挿入して、グリップ部材12と爪部材11の一体化が行われる。脱落防止等の必要に応じて、外皮部材120と爪部材11の間をねじ止めしたり、両者を接着剤や粘着剤、粘着テープなどで固定したりしてもよい。
【0037】
上記グリッパ10を構成するための部材等の製造方法について説明する。
駆動部19や爪基部18、爪部材11等については、従来公知の産業用ロボットの部材と同様に製造できる。
グリップ部材12の外皮部材120については、ゴム材料や熱可塑性エラストマー材料の射出成型や注型成形等により製造することができる。また、グリップ部材12の内包体130については、公知の発泡ウレタンスポンジをカットするなどして製造できる。得られた外皮部材の所定の箇所に接着剤を塗布して、内包体130を外皮部材120の内側に押し込んで両者を接着一体化すれば、上記グリップ部材12が得られる。
【0038】
上記第1実施形態のグリッパ10の作用効果について説明する。
上記グリッパ10によれば、把持対象物99を把持する際に、グリップ部材12が特定の形態に変形しながら把持対象物99を把持するので、把持対象物を柔軟に把持しながら、かつ、保持力が高められる。そして、把持対象物を柔軟に把持できれば、多様な形状の把持対象物を多様な姿勢で把持できるようになり、把持操作のロバスト性が高められる。
【0039】
ここで、把持対象物99を把持する際の保持力とは、把持方向に対し直交する方向(例えば図2における上下方向)に把持対象物を動かそうとする際に、それに抗しうる力の大きさのことである。保持力が小さいと、図1図2のようなグリッパの姿勢で把持対象物99を鉛直方向上方に持ち上げようとしても、把持対象物が落ちやすい。
【0040】
特許文献1にあるような従来のクッション材(例えばウレタンスポンジ)82,82を爪部材81,81の先端に備えるグリッパを図8に示すが、こうした従来技術では、クッション材82が柔軟であれば、把持方向と直交する方向にもクッション材82,82がたやすく変形してしまうため、把持対象物99が簡単に抜け落ちてしまう。すなわち、従来公知のクッション材では、クッション材の柔軟さとグリッパの保持力を共に向上させることはできなかった。
【0041】
上記第1実施形態のグリッパ10においては、爪部材11に取り付けられたグリップ部材12は、JIS-K6253に準拠するデュロA硬度で30~80HDAの樹脂で形成された外皮部材120と、外皮部材の内側に配置される発泡樹脂製の内包体130を有し、前記グリップ部材12には、把持対象物99を把持した際に外皮部材120内部の空気が外皮部材120の外に抜ける通気口124が設けられており、さらに、外皮部材120は、把持対象物と接触するように設けられた平板状の把持壁121と、把持壁121に対し把持対象物99と反対方向に、把持動作の開閉方向に沿って延在する側壁122,123を有する中空形状に一体成型されており、把持対象物99を把持していない状態で、内包体130が、外皮部材120の側壁122,123に接触するように、外皮部材120と一体化されている。そのため、このようなグリップ部材12の把持壁121が把持対象物99に押し付けられると、図4のようにグリップ部材12が変形することになる。
【0042】
図4は、グリップ部材12に把持対象物99が押し付けられた際の変形状態を示す断面図であり、図4左上の断面図が図3左上の断面図と対応し、図4左下の断面図が図3左下の断面図と対応している。
【0043】
上記第1実施形態のグリッパ10により、把持対象物99が把持されると、柔軟な樹脂材料で構成される外皮部材120の把持壁121のうち、把持対象物99と接触する部分が爪部材11に向かって押し込まれる。この時、内包体130は柔軟な発泡樹脂により構成され、さらに、グリップ部材12には、外皮部材120内部の空気を外に逃がす通気口124が設けられているため、内包体130や把持壁121は、把持対象物99の形状に追随して柔軟に変形できる。
【0044】
そして、外皮部材120の把持壁121が把持対象物99によって押し込まれるのと同期して、把持動作の開閉方向に沿って延在するよう設けられた側壁122,123が、外皮部材の外側に向けて凸形状となるように変形する。この変形は、一体成型された外皮部材120の性質によっても生じうるが、グリッパ10においては、把持対象物99を把持していない状態で、内包体130が、外皮部材120の側壁122,123に接触するようにされていることによって、側壁122,123の外側に向かう凸形状の変形が、より確実に生じる。すなわち、側壁122,123は、把持動作の開閉方向に沿った圧縮力を受けて、外皮部材の外側もしくは内側に座屈変形しようとするが、内包体130が側壁122,123に接触するようにされていることによって、外皮部材の側壁122,123が内側に向け凸となるように座屈してしまうことが未然防止されるからである。
【0045】
外皮部材120の把持壁121や側壁122,123に上記したような変形が生じると、凸形状に変形した側壁によって、把持壁121のさらなる変形が促され、把持壁121により、把持対象物99が包まれるように把持される。そして、外に向かう凸形状に変形した側壁122,123が、把持対象物99を周囲から押さえこむように支持する。かかる把持壁121や側壁122,123の変形は、あたかも、グリップ部材が当初からおわん型であったかのように、把持壁がくぼんだ部分に把持対象物99を固定する。グリッパ10では、グリップ部材12が柔軟に変形するので、多様な形状の把持対象物に対応して、把持対象物を固定できる。
【0046】
また、外皮部材120が、把持動作の開閉方向に沿って延在するよう設けられた側壁122,123を有していると、側壁の存在により、把持方向と直交し側壁に沿う方向には、把持壁121が移動しにくくなる。そのため、従来のグリッパのクッション部材において生じていたような、クッション部材が横倒しに変形してしまい、把持対象物を落としてしまう現象(図8参照)が生じにくくなる。
【0047】
かかる作用により、上記第1実施形態のグリッパ10は、把持対象物を柔軟に把持しながら、かつ、把持方向に直交する方向の保持力が高められる。
【0048】
保持力をより高める観点からは、内包体130が、少なくとも、外皮部材120の把持壁121または外皮部材のうち前記把持壁121に対向配置される壁部126に、接着されていることが好ましい。このようにされていると、内包体130と外皮部材20が、横ずれしてしまうことが未然に防止され、グリップ部材12が横倒しになるような変形がより生じにくくなるからである。
【0049】
また、保持力をより高める観点からは、さらに、外皮部材120と内包体130が、側壁122、123では接着されていないことが好ましい。側壁122,123の部分で、外皮部材120と内包体130が接着されていなければ、図4に示したように、側壁122,123が内包体130に拘束されず、側壁122,123と内包体130の間に隙間が生じうるので、側壁122,123がよりたやすく外側に向かって凸形状に変形することができるようになり、把持壁121によって把持対象物99を包み込むような外皮部材120の変形がより効果的に生ずるからである。かかる構成により、より効果的に、把持対象物を柔軟に把持しながら、かつ、保持力を高めることができる。
【0050】
また、保持力をより高める観点からは、さらに、把持動作の開閉方向に沿って見て、少なくとも、把持対象物99が把持壁121に接触する領域Qを挟むように、側壁123,123が対をなして設けられることが好ましい。このように側壁123,123が対をなして設けられると、把持壁121が把持対象物99を包み込むように変形しながら、対をなす側壁123,123が把持対象物99を両側から挟み込むように支持するようになるため、特に保持力が高められる。なお、上記実施形態では、対をなす側壁123,123は互いに略平行に設けられたが、後述する他の実施形態のように、対をなす側壁が、把持方向に沿って見て互いに傾いて設けられていてもよい。
【0051】
また、保持力をより高める観点からは、さらに、把持動作の開閉方向に沿って見て、少なくとも、把持対象物99が把持壁121に接触する領域Qに対し、側壁122が爪部材11の先端(11t)側に設けられることが好ましい。このようにされていると、爪の先端側に位置する側壁122が、湾曲するように変形した際に、側壁122が把持対象物99を押圧するように支持するので、爪部材11の先端側から把持対象物99が抜け落ちにくくなり、特に保持力が高められる。
【0052】
また、保持力をより高める観点からは、特に、本実施形態のように、側壁が平板状であり、外皮部材が中空箱状に形成されることが好ましい。このようにされていると、側壁に囲まれるように把持対象物が支持されるので、特に保持力が高められる。
【0053】
以上説明したように、上記実施形態のグリッパ10によれば、グリップ部材12として特定形状の外皮部材120と内包体130が組み合わされることにより、把持対象物99を把持した際に、グリップ部材12が特定の変形モードで柔軟に変形し、把持方向と直角方向の保持力が高められる。
【0054】
上記第1実施形態のグリッパ10にかかる発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の改変をして実施することができる。以下に発明の他の実施形態について説明するが、以下の説明においては、上記実施形態と異なる部分を中心に説明し、同様である部分については同じ番号を付して説明し、その詳細な説明を省略する。また、これら実施形態は、その一部を互いに組み合わせて、あるいは、その一部を置き換えて実施できる。
【0055】
図5には、第2実施形態のグリッパの爪部材21やグリップ部材22の構造を断面図で示す。図5の左側の図における左右方向が、把持方向である。
本実施形態では、グリップ部材22の外皮部材220の周縁部が爪部材21に接着されて、グリップ部材22と爪部材21とが一体化されている。そして、爪部材21に貫通穴(通気口)212が設けられていて、外皮部材220の内側の空間の空気が外部に排出できるようにされている。
【0056】
第2実施形態における外皮部材220は、円筒状の側壁222と、円盤状の把持壁221を有する。このように、側壁は円筒状であってもよい。また、把持壁221は、外側に向かって凸となるような膨出形状に形成されている。このように、把持壁221は凸面状であってもよい。
【0057】
第2実施形態における内包体230は、爪部材21と外皮部材220によって囲まれた空間を埋めるように、略円柱状に形成され、配置されており、把持対象物を把持していない状態で、外皮部材の側壁222と内包体230が接触している。
【0058】
また、第2実施形態における内包体230は、爪部材21に設けられた凹所211にはまり込むようにされていて、内包体230が、爪部材21に対し横滑りしないように取り付けられている。横滑りを防止するために、内包体230を爪部材21に接着剤や粘着剤などを利用して取り付けてもよい。
【0059】
第2実施形態の爪部材21とグリップ部材22を備えるグリッパは、第1実施形態のグリッパ10と同様に、把持対象物99を把持した際に、グリップ部材22が特定の変形モードで柔軟に変形し、把持方向と直角方向の保持力が高められる。また、本実施形態のように、内包体230が、爪部材21に対し横滑りしないように取り付けられている場合には、グリップ部材22が横倒しに変形することがより確実に抑制され、保持力が特に高められる。
【0060】
図6には、第3実施形態のグリッパの爪部材31やグリップ部材32の構造を断面図で示す。図6の左側の図における左右方向が、把持方向である。
本実施形態では、グリップ部材32の外皮部材320の周縁部が爪部材31に接着されて、グリップ部材32と爪部材31とが一体化されており、この点は第2実施形態と同様である。そして、外皮部材320の側壁325に貫通穴(通気口)326が設けられていて、外皮部材320の内側の空間の空気が外部に排出できるようにされている。また、内包体330が外皮部材320の側壁323,324,325に接触するよう配置される点は同様である。
【0061】
本実施形態のグリップ部材32は、略直方体状であるが、爪部材31の先端側が細くなるように絞られており、この細くなった部分でより小さな把持対象物を把持できるようにされている。すなわち、グリップ部材32は船型状である。
【0062】
第3実施形態の爪部材31とグリップ部材32を備えるグリッパは、上記第1/第2実施形態のグリッパと同様に、把持対象物99を把持した際に、グリップ部材32が特定の変形モードで柔軟に変形し、把持方向と直角方向の保持力が高められる。
【0063】
特に、本実施形態では、外皮部材320が船形に形成され、把持壁321に対し把持対象物が接触する領域Qを挟むように、複数の対をなすように、側壁324,324および側壁323,323が設けられており、把持対象物の大きさや形状、配置が変化した際にも、確実に保持力が高められる。
【0064】
図7には、第4実施形態のグリッパの爪部材41やグリップ部材42の構造を断面図で示す。図7の左側の図における左右方向が、把持方向である。
本実施形態では、グリップ部材42の外皮部材420の周縁部が爪部材41に接着されて、グリップ部材42と爪部材41とが一体化されており、この点は第2実施形態と同様である。そして、爪部材41に複数の貫通穴(通気口)414が設けられていて、外皮部材420の内側の空間の空気が外部に排出できるようにされている。また、内包体430が外皮部材420の側壁422,423,424に接触するよう配置される点は同様である。
【0065】
第4実施形態のグリップ部材42では、外皮部材の側壁の一部(424,424)が、把持動作の開閉方向に沿って見て、把持壁421を間仕切りするように設けられている。本実施形態では、2枚の側壁424,424により、把持壁421が川の字状に間仕切りされている。内包体430は間仕切りされたすべての空間を埋めるように配置されていてもよいが、内包体が配置されない空間があってもよい。
【0066】
また、第4実施形態における外皮部材420は略直方体状であり、矩形状の把持壁421を有する。把持壁421は、内側に向かって凸となるようなくぼみ形状に形成されている。このように、把持壁421は凹面状であってもよい。
【0067】
第4実施形態の爪部材41とグリップ部材42を備えるグリッパは、上記第1/第2実施形態のグリッパと同様に、把持対象物99を把持した際に、グリップ部材42が特定の変形モードで柔軟に変形し、把持方向と直角方向の保持力が高められる。特に、本実施形態のように、一部の側壁(424,424)が、把持動作の開閉方向に沿って見て、把持壁421を間仕切りするように設けられている場合には、グリップ部材42が横倒しに変形することがより確実に抑制され、保持力が特に高められる。
【0068】
上記実施形態の説明では、主に爪部材が硬質な部材である形態を中心に説明したが、把持の際に、爪部材と把持対象物の間に柔軟なグリップ部材を介して、把持する力を把持対象物に伝えられるものである限りにおいて、爪部材は特に限定されない。例えば、爪部材は金属製や硬質プラスチック製などの剛性の高い部材であってもよいが、爪部材はゴム製や軟質プラスチック製であってもよい。また、爪部材を中空として、内部に気体や液体を入れて爪部材の剛性を可変にしてもよい。また、爪部材は、可動部を有し、屈曲等の能動的な変形が可能となるように構成されたものであってもよい。
【0069】
グリッパにより把持されるべき把持対象物の形状や性質は、把持操作が可能なものであれば、特に限定されない。上記実施形態のグリッパは柔軟性に富んでいるため、直方体状や円筒、多角錘、多面体、球体、楕円体など、多彩な形状の把持対象物を、多様な姿勢で把持することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0070】
グリッパはロボットアームの先端に取り付けられて、例えば搬送作業に使用でき、産業上の利用価値が高い。
【符号の説明】
【0071】
A ロボットアーム
10 グリッパ
11 爪部材
12 グリップ部材
120 外皮部材
121 把持壁
122、123 側壁
124 通気口
130 内包体
99 把持対象物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8