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特許7475813情報処理システム、生産システム、物品の製造方法、情報処理方法、情報処理装置、プログラム、記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】情報処理システム、生産システム、物品の製造方法、情報処理方法、情報処理装置、プログラム、記録媒体
(51)【国際特許分類】
   H04W 48/18 20090101AFI20240422BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20240422BHJP
   H04W 88/06 20090101ALI20240422BHJP
   H04W 84/10 20090101ALI20240422BHJP
   H04W 92/08 20090101ALI20240422BHJP
   H04Q 9/00 20060101ALI20240422BHJP
   H04W 4/38 20180101ALN20240422BHJP
【FI】
H04W48/18
G05B23/02 T
H04W88/06
H04W84/10 110
H04W92/08 110
H04Q9/00 301Z
H04Q9/00 311H
G05B23/02 V
H04W4/38
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2019036967
(22)【出願日】2019-02-28
(65)【公開番号】P2020141340
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-02-22
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 権人
(72)【発明者】
【氏名】神原 義幸
【審査官】小林 正明
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-016768(JP,A)
【文献】特開2009-300401(JP,A)
【文献】特開2018-101369(JP,A)
【文献】国際公開第2017/026263(WO,A1)
【文献】特開2016-208349(JP,A)
【文献】特開2014-162249(JP,A)
【文献】特開2019-027897(JP,A)
【文献】特開2018-014619(JP,A)
【文献】特開2004-065803(JP,A)
【文献】特開2013-185507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24-7/26
H04W 4/00-99/00
G05B 23/02
H04Q 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定装置の状態に関するデータを取得する情報処理装置と、前記情報処理装置が配置された第1場所とは異なる第2場所に配置された管理装置と、端末装置と、を備え、
前記情報処理装置は、前記データと閾値との比較に関する第1情報を第1通信を用いて前記管理装置に送信し、前記データの内容に関する第2情報を前記第1通信とは異なる第2通信を用いて前記端末装置に送信
前記情報処理装置は、前記第1情報を取得する第1モードと、前記第2情報を送信する第2モードと、を実行し、
前記情報処理装置は、前記第1モードを実行中に前記端末装置と前記第2通信が確立された場合、前記第1モードを中断し前記第2モードを実行する、
ことを特徴とする情報処理システム。
【請求項2】
前記第2通信は前記第1通信よりも通信帯域が広い、
ことを特徴とする請求項1に記載の情報処理システム。
【請求項3】
前記第1通信はLPWA(Low Power Wide Area)通信であり、前記第2通信はNFC(Near Field Communication)通信である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の情報処理システム。
【請求項4】
前記管理装置は表示部を備え、受信した前記第1情報を前記表示部に表示する、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の情報処理システム。
【請求項5】
前記端末装置は、ユーザが有する端末装置である、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の情報処理システム。
【請求項6】
前記第1情報は前記閾値との比較に基づき前記所定装置に異常が発生しているか否かに関連する情報であり、前記第2情報は前記所定装置に設けられたセンサによる計測に関する情報である、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の情報処理システム。
【請求項7】
前記情報処理装置は、前記第2情報に、高速フーリエ変換、ウェーブレット変換、畳み込み処理、の少なくとも1つの処理を行う、
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の情報処理システム。
【請求項8】
前記情報処理装置は、前記第1モードまたは前記第2モードに移行可能な第3モードを実行する、
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の情報処理システム。
【請求項9】
前記第3モードは、前記第1モードおよび前記第2モードを実行していない場合に、消費電力を抑制したモードである、
ことを特徴とする請求項に記載の情報処理システム。
【請求項10】
前記第1モードは、前記第3モードにおいて所定タイミングとなれば実行される、
ことを特徴とする請求項に記載に情報処理システム。
【請求項11】
前記情報処理装置は、前記第2通信が切断された場合に、切断状態が所定時間継続するかを判定する第4モードを実行する、
ことを特徴とする請求項に記載の情報処理システム。
【請求項12】
前記第1モードは自律診断モードであり、前記第2モードはモニターモードであり、前記第3モードは待機モードであり、前記第4モードはモニター終了確認モードである、
ことを特徴とする請求項1に記載の情報処理システム。
【請求項13】
所定装置の状態に関するデータを取得する情報処理装置と、前記情報処理装置が配置された第1場所とは異なる第2場所に配置された管理装置と、端末装置と、を備え、
前記情報処理装置は、前記データと閾値との比較に関する第1情報を第1通信を用いて前記管理装置に送信し、前記データの内容に関する第2情報を前記第1通信とは異なる第2通信を用いて前記端末装置に送信し、
前記情報処理装置は、前記第1情報を取得する第1モードと、前記第2情報を送信する第2モードと、を実行し、
前記情報処理装置は、前記第1モードまたは前記第2モードに移行可能な第3モードを実行し、
前記情報処理装置は、前記第2通信が切断された場合に、切断状態が所定時間継続するかを判定する第4モードを実行し、
前記情報処理装置は、前記第2モードを実行中に、前記第2通信が切断された場合に、前記所定時間が経過しても前記第2通信が回復しない場合には、前記第3モードに移行する、
ことを特徴とする情報処理システム。
【請求項14】
前記情報処理装置は、前記第2モードにおいては、前記第1モードにおいて取得した前記データとは異なる周期および/またはサンプル数の前記データを前記第2情報として取得する、
ことを特徴とする請求項から1のいずれか1項に記載の情報処理システム。
【請求項15】
前記情報処理装置は、前記端末装置と前記第2通信が確立された場合、前記第2モードを実行する、
ことを特徴とする請求項から1のいずれか1項に記載の情報処理システム。
【請求項16】
前記情報処理装置は、前記第2モードを実行中に前記第2通信が切断された場合、送信中の前記第2情報を一時保存する、
ことを特徴とする請求項から1のいずれか1項に記載の情報処理システム。
【請求項17】
前記端末装置は、前記第2モードを実行中に、前記端末装置の表示部に前記第2情報を表示する、
ことを特徴とする請求項から1のいずれか1項に記載の情報処理システム。
【請求項18】
前記情報処理装置は、前記端末装置からワイヤレス給電を受けるための受電コイルを備える、
ことを特徴とする請求項1から17のいずれか1項に記載の情報処理システム。
【請求項19】
前記第1情報は前記第2情報よりも容量が小さい、
ことを特徴とする請求項1から18のいずれか1項に記載の情報処理システム。
【請求項20】
請求項1から19のいずれか1項に記載の情報処理システムと、前記所定装置と、を備えた生産システム。
【請求項21】
請求項2に記載の生産システムを用いて物品の製造を行うことを特徴とする物品の製造方法。
【請求項22】
所定装置の状態に関するデータを取得する情報処理装置が、
前記情報処理装置が配置された第1場所とは異なる第2場所に配置された管理装置に、前記データと閾値との比較に関する第1情報を第1通信を用いて送信し、
端末装置に、前記データの内容に関する第2情報を前記第1通信とは異なる第2通信を用いて送信
前記第1情報を取得する第1モードと、前記第2情報を送信する第2モードと、を実行し、
前記第1モードを実行中に前記端末装置と前記第2通信が確立された場合、前記第1モードを中断し前記第2モードを実行する、
ことを特徴とする情報処理方法。
【請求項23】
所定装置の状態に関するデータを取得する情報処理装置と、前記情報処理装置が配置された第1場所とは異なる第2場所に配置された管理装置と、端末装置と、を備える情報処理システムに用いられる情報処理装置であって、
前記データと閾値との比較に関する第1情報を第1通信を用いて前記管理装置に送信し、前記データの内容に関する第2情報を前記第1通信とは異なる第2通信を用いて前記端末装置に送信
前記第1情報を取得する第1モードと、前記第2情報を送信する第2モードと、を実行し、
前記第1モードを実行中に前記端末装置と前記第2通信が確立された場合、前記第1モードを中断し前記第2モードを実行する、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項24】
請求項2に記載の情報処理方法を前記情報処理装置が実行可能なプログラム。
【請求項25】
請求項24に記載のプログラムを格納した、コンピュータで読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば化学プラントや工場の製造ラインのように、各種の装置や設備を備えた施設において、センサを用いて装置や設備を診断する診断装置、および診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生産装置等の各種の装置や設備を備える施設においては、運転している際に装置に異常が発生したとしても、目的動作に直接的な支障が生じない限りは、管理者がすぐに異常を認識することは困難であった。目的動作に支障が生じて、管理者が異常を認識した段階では、不具合箇所の損耗や破損等が相当の程度まで進行しているため、装置の修復に要する費用や停止期間が大きなものとなってしまった。
【0003】
そこで、一定の周期で点検、補修、部品交換等をおこなう予防保全が行われるようになり、未発見のまま装置の異常が大幅に進行してしまう事態は避けられるようになった。しかし、定期的に点検、補修、部品交換等を実施すると、相当の工数を要するため装置の保守コストが増大するとともに、保守作業中は施設の稼動を停止せざるを得ないため、施設の稼働率が低下してしまう問題があった。
【0004】
このような問題に対して、近年では、センサ等を備えた診断装置を用いて運転中の装置や設備を監視し、部品の劣化等による異常発生の有無を診断し、必要に応じて部品の交換、修理等を行う予知保全が試みられている。予知保全は、定期的な検査を実施するのに必要な工数や過度の部品交換を節約しようとする試みであると言える。
【0005】
生産装置の分野ではないが、特許文献1には、風力発電装置において、センサを用いて機械装置の出力や回転速度が安定して得られているか否かを判定し、異常の有無を診断する装置が開示されている。この装置では、回転速度が安定して得られていないと判定した時は、データを削減して外部データ保存部に送信して保存し、回転速度が安定して得られていると判定した時は、データを削減せずに内部データ保存部に保存する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-219325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば生産システム等の診断に用いる診断装置は、生産システム等の構成要素である生産装置や設備のそれぞれに近接して設置されることが多い。さらに、一つの生産装置や設備に、複数の診断装置が設置される場合もある。そして、各診断装置に電源線や信号線を配線する煩雑な作業を省略するために、各診断装置に電池を装備し、外部とのデータ通信を無線通信で行う構成とする場合が多い。
このため、生産システム等の診断に用いる診断装置には、低消費電力で、かつ複数台が近接して設置されていても無線によるデータ通信に支障を起こさないことが求められる。
【0008】
特許文献1に開示された風力発電装置のデータ保存方法を生産システム等の診断に用いる診断装置に採用した場合には、異常が発生していない平常時のデータを削減せずに内部データ保存部に保存するため、診断装置内に大容量メモリを設ける必要が生じる。すると、診断装置のコストが上がるだけでなく、消費電力が増大するため電池による動作可能時間が短くなってしまう。また、特許文献1では、複数台の診断装置が近接して配置された場合における無線によるデータ通信方法については、検討されてはいない。
【0009】
そこで、生産システム等を診断する分野では、消費電力が抑制され、複数台が近接して配置されていてもデータ量の大きな診断情報を管理者に支障なく送信可能な診断装置が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第一の態様は、所定装置の状態に関するデータを取得する情報処理装置と、前記情報処理装置が配置された第1場所とは異なる第2場所に配置された管理装置と、端末装置と、を備え、前記情報処理装置は、前記データと閾値との比較に関する第1情報を第1通信を用いて前記管理装置に送信し、前記データの内容に関する第2情報を前記第1通信とは異なる第2通信を用いて前記端末装置に送信前記情報処理装置は、前記第1情報を取得する第1モードと、前記第2情報を送信する第2モードと、を実行し、前記情報処理装置は、前記第1モードを実行中に前記端末装置と前記第2通信が確立された場合、前記第1モードを中断し前記第2モードを実行する、ことを特徴とする情報処理システムである。
【0011】
また、本発明の第二の態様は、所定装置の状態に関するデータを取得する情報処理装置が、前記情報処理装置が配置された第1場所とは異なる第2場所に配置された管理装置に、前記データと閾値との比較に関する第1情報を第1通信を用いて送信し、端末装置に、前記データの内容に関する第2情報を前記第1通信とは異なる第2通信を用いて送信前記第1情報を取得する第1モードと、前記第2情報を送信する第2モードと、を実行し、前記第1モードを実行中に前記端末装置と前記第2通信が確立された場合、前記第1モードを中断し前記第2モードを実行する、ことを特徴とする情報処理方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、消費電力が抑制され、複数台が近接して配置されていてもデータ量の大きな診断情報を管理者に支障なく送信可能な診断装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態の診断装置を備えたシステム例の模式図。
図2】実施形態の診断装置の模式的なブロック図。
図3】実施形態の診断装置の状態遷移を示す図。
図4】実施形態の診断装置の動作フローチャート。
図5】実施例1の診断装置を備えたシステムの模式図。
図6】実施例2の診断装置を備えたシステムの模式図。
図7】実施例の診断装置の動作状態の変化を示すタイムチャート。
図8】実施例の診断装置と接続可能な携帯型端末の表示画面を例示する図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を参照して、本発明の実施形態である診断装置、診断システム、診断方法について説明する。尚、以下の実施形態及び実施例の説明において参照する図面においては、特に但し書きがない限り、同一の参照番号を付された部材等は、同一の機能を有するものとする。
【0015】
[実施形態]
図1は、実施形態の診断装置を用いて生産装置を診断する診断システムの構成例を模式的に示した図である。生産装置101には、生産装置101の診断に使用するセンサ102が配置され、センサ102には実施形態の診断装置103が接続されている。
【0016】
センサ102は、例えば振動センサ、加速度センサ、圧力センサ、光センサ、トルクセンサ、温度センサ等のように、計測した物理量をアナログあるいはデジタルの信号として出力可能なセンサである。生産装置101の種類や特性に応じて、診断するのに必要な物理量を計測するために適宜の種類のセンサ102が選択され、生産装置101の適所に配置されている。センサ102は、生産装置101に予め装備されたセンサでも良いし、診断装置103に付属するセンサでもよい。図1では診断装置103にセンサ102が1台接続されているが、この例に限られるわけではなく、診断に必要な種類と数のセンサを生産装置101の各所に配置して診断装置103に接続すればよい。
【0017】
また、図示の便宜のため、図1では生産装置101には診断装置103が1台のみ配置されているが、一つの生産装置に診断装置を複数台配置してもよい。センサ102は、動作に必要な電力の供給を生産装置101等の電源から受けてもよく、その場合にはセンサ102を常時動作させてもよい。また、センサ102が電力の供給を診断装置103から受ける場合には、診断装置103の電池の消費電力を節約するため、診断を実施する時のみセンサ102を動作させるのが好ましい。
【0018】
ところで、生産設備等を診断する診断装置が異常の発生を検知した場合には、まず異常の発生を検知したことを診断装置から管理者に通知する必要がある。通知を受けて異常の発生を認識した管理者は、異常の状態や原因に関する更に詳細な診断情報を入手しようとするであろう。詳細で精度の高い診断情報を常に提供可能にしておこうとすると、診断装置が取扱うデータ量が定常的に大きくなり、データ処理の負荷やメモリ使用量が増大して診断装置内の消費電力が大きくなる。また、詳細な診断情報を管理者に送信する際の情報量が増大するため、複数の診断装置が配置されたエリアでは、無線通信の通信帯域が圧迫されることになる。
【0019】
一方で、生産システムや製造プラント施設の場合には、遠隔地に分散して設置された風力発電設備等と異なり、管理センター等に居る管理者が当該生産装置や設備まで短時間で移動できる場合が多い。管理センターに居て生産装置等の異常の発生を認識した管理者は、管理センターにて詳細な診断情報を無線で受信するまで長時間待つよりも、当該生産装置を検認可能な現地に移動して、その場で詳細な診断情報を入手したいと考えるであろう。
【0020】
そこで、本実施形態の診断装置は、管理センター等に居る管理者に生産装置等の異常の発生を通知するとともに、管理者が当該生産装置の近傍に居る時にデータ量の大きな診断情報を支障なく送信可能で、しかも消費電力が抑制されている特徴を有する。
具体的には、実施形態の診断装置103は、第一の無線通信部としての長距離無線通信手段106と、第二の無線通信部としての近距離無線通信手段105を備えている。長距離無線通信手段106は、例えばLPWA(Low Power Wide Area)のように、通信帯域は比較的狭いが長い距離で通信可能な通信手段である。また、近距離無線通信手段105は、NFC(Near Field Communication)のように、長距離無線通信手段106と比べて通信帯域は広いが通信距離が短い通信手段である。
【0021】
診断装置103は、長距離無線通信手段106によりゲートウェイ107と通信可能な距離内に設置されている。言い換えれば、少なくとも1台以上のゲートウェイ107が、診断装置103の長距離無線通信手段106からの電波を受信可能な範囲内に設置されている。ゲートウェイ107と接続された外部のネットワーク108は、例えば工場内の専用ネットワークであっても、インターネットであってもよい。
【0022】
後述するように、診断装置103からは長距離無線通信手段106により情報量の小さい簡易診断情報が送信されるが、ゲートウェイ107で受信された簡易診断情報は、ネットワーク108に接続するデータベース109に蓄積される。データベース109に蓄積された簡易診断情報は、生産設備の管理者が、例えばネットワーク108に接続したコンピュータ110を用いて確認することができる。あるいは、コンピュータ110が簡易診断情報に自動的にアクセスして、生産装置101に異常が発生したと判断した場合は、音声やメール送信といった通知手段を用いてコンピュータ110が管理者にアラートを発信してもよい。
【0023】
診断装置103は、近距離無線通信手段105により通信可能な距離内に管理者が可搬型端末装置104を接近させた場合には、可搬型端末装置104との間で近距離無線通信を確立して交信をすることができる。後述するように、近距離無線通信手段105により通信が確立した可搬型端末装置104に対して、診断装置103からは情報量の大きな詳細な診断情報が送信可能である。
【0024】
可搬型端末装置104は、管理者が携帯可能な端末装置で、近距離無線通信手段、コンピュータ、メモリ、表示部、バッテリ等を備えている。異常が発生した生産設備等の現場において、詳細な診断情報を管理者が取得して、容易に内容を確認できるようにするため、可搬型端末装置104には十分な大きさの表示部とメモリを装備するのが望ましい。また、可搬型端末装置104から診断装置103への給電を可能にするため、可搬型端末装置104には十分な大きさのバッテリか、あるいは外部電源へのコネクタを設けておくのが望ましい。
【0025】
次に、図2に示すのは、診断装置103の模式的なブロック図である。診断装置103は、電源としての電池210を備える。電池210の代わりに、あるいは電池210と併用して、商用電源や生産装置内の電源から電力の供給を受けても良い。また、診断装置103は、長距離無線通信手段106と近距離無線通信手段105を備える。制御部200は、診断装置103の各部の動作を制御する制御回路であり、コンピュータかあるいはASICのようなハードウェアで構成することができる。タイマトリガ206は、自律診断を実行するタイミングを生成する機能ブロックで、時計211を参照して定時刻あるいは一定の時間間隔おきに自律診断を開始するトリガー信号を発生する。生産装置101の診断をタイマトリガ206を用いて適時に実行することにより、電池210の電力消費を抑制しながら予知保全を実施することが可能である。
【0026】
診断装置103には、生産装置101に1つ以上設置されたセンサ201が接続されている。診断装置103はAD変換器204を備えており、センサ201の出力信号がアナログ信号の場合には、AD変換器204によりデジタル信号に変換され、信号処理器205に入力される。信号処理器205は、診断するために必要なデジタル信号処理を行い、簡易的な測定の場合には評価対象値を出力する。後述するように、信号処理器205は、簡易的な測定をする場合の第一の信号処理と、詳細な測定をする場合の第二の信号処理とでは、異なった信号処理を行うものとする。尚、センサ201の出力信号がすでにデジタル化されている場合には、AD変換器204を経由させないで信号処理器205に直接入力し、同様のデジタル信号処理を行う。
【0027】
信号処理器205が出力する評価対象値は、比較器203に入力される。診断装置103のメモリには、生産装置101が正常か異常かを判定するために予め定められた閾値209が記憶されており、比較器203は入力された評価対象値と閾値209とを比較する。
比較器203の出力は、生産装置101に異常が有るか無いかを判定した結果であり、異常の有無にかかわらず判定結果は情報量の小さい簡易診断情報として長距離無線通信手段106からゲートウェイ107に送信される。詳細は後述するが、比較器203による判定結果が生産装置101に異常有りであった場合には、センサ201のサンプリング数を増やし、詳細な診断を行うのに必要な信号処理を信号処理器205が行う。この信号処理の結果は、情報量の大きな詳細診断情報として、内部記憶装置208に記憶される。内部記憶装置208に記憶された情報量の大きな詳細診断情報は、近距離無線通信手段105により通信可能な距離内に管理者が可搬型端末装置104を接近させて通信が確立した時には、近距離無線通信手段105により可搬型端末装置104に送信される。
【0028】
(診断装置の動作/診断方法)
以下、図3の状態遷移図と、図4の動作フローチャートを参照しながら、診断装置103の動作および診断方法について説明する。
図3は、診断装置103が実行する動作モードの遷移を説明するための状態遷移図である。診断装置103は、制御部200の制御により、少なくとも自律診断モードM1、待機モードM2、モニターモードM3、モニター終了確認モードM4を実行することが可能である。
【0029】
図4の工程S0において診断装置103が動作を開始すると、工程S1において、近距離無線通信手段105を介して可搬型端末装置104との間で通信の接続が確立しているかを確認する。近距離無線通信手段105は、通信帯域は広いが通信距離が短い通信手段である。
可搬型端末装置104との間で近距離無線通信の接続が確立している場合(図4の工程S1:YES)には、図3のモニターモードM3を実行する。モニターモードM3の動作内容については後述する。
【0030】
可搬型端末装置104との間で近距離無線通信の接続が確立していない場合(図4の工程S1:NO)には、工程S14において、図3のモニター終了確認モードM4を実行する。このモードは、本来は通信中なのに例えば管理者が可搬型端末装置104を不用意に動かす等により近距離無線通信の接続が一時的に中断してしまった状態なのか、管理者が通信を終了するために可搬型端末装置104を隔離させた状態なのかを確認する。言い換えれば、工程S14では、管理者がモニターモードM3を完了させるために近距離無線通信の接続を終了させたのか、モニターモードM3を継続したいのに近距離無線通信の接続が一時的に中断してしまったのかを判断する。
【0031】
具体的には、例えば接続が切断している期間を計測し、所定期間内に近距離無線通信の接続が回復した場合(図4の工程S14:NO)には、一時的な中断であったと判断する。所定期間以上が経過しても近距離無線通信の接続が回復しない場合(図4の工程S14:YES)には、管理者がモニターモードM3を完了させるために近距離無線通信を終了したのだと判断する。
診断装置103は、一時的な中断だと判断した場合にはモニターモードM3に戻り、近距離無線通信が終了していると判断した場合には待機モードM2に移行する。
【0032】
説明の便宜のため、まず待機モードM2における診断装置103の動作から説明する。待機モードM2では、制御部200は、待機モード中は使用しない部分への電力供給を抑制しながら、タイマトリガ206が自律診断を開始するトリガー信号を発生するのを待っている(工程S2のNO、工程S1のNO、工程S14のYESのループ)。MPU(不図示)のクロックを停止もしくはクロックを低周波数に変更したり、AD変換器204や信号処理器205等の待機モードでは使用しない部分への給電を遮断することで電池210の消費を抑制する。
【0033】
予め定めた診断間隔もしくは診断時間と一致すると、タイマトリガ206が自律診断を開始するトリガー信号を発生する(工程S2:YES)。トリガー信号の発生により、診断装置の状態は、図3の待機モードM2から自律診断モードM1に移行する。
自律診断モードM1に移行すると、制御部200は給電部を制御し、自律診断モードを実行するのに必要な回路であるAD変換器204や信号処理器205等に給電する。また、MPU(不図示)のクロックが停止していた場合には作動させ、すでに作動していた場合には周波数を上げ、自律診断モードを実行可能にする。
【0034】
そして、診断装置103は、工程S3の簡易的な測定を行う。診断装置103は、生産装置101が正常か異常かを診断するために、必要にして十分なサンプル数の計測信号をセンサ201から取得する。
センサ201から取得した計測信号は、AD変換器204でデジタル化された後に信号処理器205で演算処理され、実効値、平均値、最大値、最小値、等の簡易評価対象値(計測結果)が求められる。ここでの演算処理は、生産装置101が正常か異常かを診断するために必要にして十分な演算である。
【0035】
工程S4では、工程S3で求めた簡易評価対象値と、簡易評価対象値に対応して予め定められた閾値209とを、比較器203を用いて比較し、生産装置101に異常が有るか無いかを判定する。この判定結果と、任意に選択した簡易評価対象値を合わせて、ここでは簡易診断情報と呼ぶ。
判定結果が、異常無しであった場合(工程S4:NO)には、診断装置103は、工程S5Nを実行し、簡易診断情報を長距離無線通信手段106からゲートウェイ107に向けて送信する。その後、工程S1に戻る。
【0036】
判定結果が、異常有りであった場合(工程S4:YES)には、診断装置103は、工程S5Aを実行し、簡易診断情報を長距離無線通信手段106からゲートウェイ107に向けて送信する。
そして、工程S6において、詳細な測定を行う。診断装置103は、まず生産装置101の異常を詳細に診断するために必要にして十分なサンプル数および計測周期で、計測信号をセンサ201から取得する。工程S6の詳細な測定で取得する計測信号は、工程S3の簡易的な測定で取得する計測信号よりも、はるかに量が多い。
【0037】
センサ201から取得した計測信号は、AD変換器204でデジタル化された後に信号処理器205に入力され、高速フーリエ変換、ウェーブレット変換、畳み込み処理等の演算処理がされる。工程S6で信号処理器205が行う演算処理は、工程S3で行う演算処理に比べてはるかに量が多いが、演算クロックの周波数を上げる等の方法で高速に処理される。処理の結果は、生産装置101に発生している異常の場所、種類、程度等を特定するのに有用な情報であり、詳細診断情報と呼ぶ。工程S6で得られる詳細診断情報は、工程S3で求めた簡易診断情報に比べて、情報量がはるかに大きい。
工程S7において、詳細診断情報は内部記憶装置208に保存される。その後、工程S1に戻る。
【0038】
尚、図4のフローでは、自律診断モードM1の完了後に工程S1に戻り、NFC通信の接続が確立しているかを確認するようにしているが、別の制御方法も可能である。例えば、NFC通信の接続が確立したかを常時監視しておき、接続を検知した場合には割り込み処理を発生させて直ちに工程S1に飛び、モニターモードM3に移行するように制御してもよい。
【0039】
次に、モニターモードM3について説明する。モニターモードM3は、診断装置103に保存された詳細診断情報や、リアルタイムに計測して得られる詳細診断情報を、管理者が可搬型端末装置104を用いて取得するためのモードである。
工程S1において、近距離無線通信手段105を介して可搬型端末装置104との間で通信が確立していることが確認された場合(図4の工程S1:YES)には、図3のモニターモードM3に移行する。
モニターモードM3に移行すると、工程S8において、内部記憶装置208に詳細診断情報が保存されているか否かを確認する。
【0040】
診断情報が保存されていない場合(工程S8:NO)には、工程S11に進む。診断情報が保存されている場合(工程S8:YES)には、工程S9において、保存された診断情報を近距離無線通信手段105により可搬型端末装置104に送信し、工程S11に進む。管理者は、自律診断モードM1の工程S7で保存された詳細診断情報、あるいはこれとは別のタイミングで保存された詳細診断情報を可搬型端末装置104で受信し、生産装置101の異常についての詳細な情報を取得する。近距離無線通信手段105は長距離無線通信手段106よりも通信帯域が広いため、情報量が大きな詳細診断情報を短時間で送信可能で、しかも他の診断装置の通信手段との関係で混信や通信帯域の占有を生じることがない。
【0041】
そして、モニターモードM3の工程S11以降では、生産装置101の最新の状態をモニターし、詳細な診断情報を可搬型端末装置104に送信する。
工程S11では、最新の状態をモニターするのに適した測定項目と測定周期および/またはサンプル数を設定する。最新の状態をモニターする際には、工程S6の詳細な測定と同じ測定項目と測定周期を用いても良いし、別の測定項目と測定周期を用いてもよい。モニターモードM3における測定項目と測定周期は、予め診断装置103のプログラムに設定しておいても良いし、管理者が可搬型端末装置104から設定したり変更したりしても良い。
【0042】
そして、工程S12にて生産装置101のリアルタイムの状態をモニターする。すなわち、診断装置103は、まず生産装置101の最新状態を詳細に診断するために必要にして十分なサンプル数の計測信号を、センサ201から取得する。もちろん、工程S12の詳細な測定で取得する計測信号は、工程S3の簡易的な測定で取得する計測信号よりも、はるかに量が多い。センサ201から取得した計測信号は、AD変換器204でデジタル化された後に信号処理器205に入力され、第一の信号処理よりも演算量の大きな第三の信号処理として、高速フーリエ変換、ウェーブレット変換、畳み込み処理等の演算処理がされる。これにより、リアルタイムすなわち最新の詳細診断情報が得られる。
【0043】
次に、工程S13では、最新の詳細診断情報を近距離無線通信手段105により可搬型端末装置104に送信する。そして、工程S1に戻り、引き続きNFC通信の接続が確立しているかを確認する。ここで、もし接続が切断されていた場合(工程S1:NO)には、図3の状態図のモニター終了確認モードM4に移行する。
【0044】
すなわち、モニター終了確認モードM4に移行すると、工程S14において、可搬型端末装置104との間でNFC通信の切断状態が所定時間以上継続するかを調べる。管理者がモニター動作(生産装置の最新状態の詳細診断)を完了させるために近距離無線通信の接続を終了させたのか、モニター動作を継続したいのに近距離無線通信の接続が一時的に中断してしまったのかを判断する。所定期間以上が経過しても近距離無線通信の接続が回復しない場合(工程S14:YES)には、近距離無線通信による通信は終了していると判断し、上述した待機モードM2に移行する。
【0045】
尚、図4のフローでは、工程S13の完了後に工程S1に戻り、NFC通信の接続が確立しているかを確認するようにしているが、別の制御方法も可能である。例えば、モニターモードM3の実行中はNFC通信が確立しているかを常時監視しておき、通信の切断を検知した場合には、直ちに割り込み処理を発生させて工程S14に移行するように制御してもよい。
【0046】
所定期間内に近距離無線通信の接続が回復した場合(工程S14:NO)には、一時的な中断であったと判断し、モニターモードM3に復帰し、工程S15を実行する。
工程S15においては、NFC通信の接続が切断されていた期間内に行っていた計測による詳細診断結果のうち、可搬型端末装置104に未だ送信していない情報を内部記憶装置208に一旦保存する。
そして、工程S16にてリアルタイムの詳細測定を続けて行い、生産装置101の最新状態のモニタリングを継続する。
工程S17では、工程S15で保存した未送信の詳細診断結果と工程S16で取得した最新の詳細診断結果をまとめて可搬型端末装置104に送信する。
【0047】
以上の説明からわかるように、診断装置103は、通常は消費電力が抑制された待機モードM2の状態にあるが、タイマーにより適当なタイミングでトリガーがかかると、自律診断モードM1に移行する。自律診断モードM1においては、生産装置101の異常の有無の診断をエネルギー消費の少ない簡易な測定により行い、情報量の少ない簡易診断結果(異常の有無にかかる情報)を長距離無線通信手段106により送信する。そして、異常が発生した場合には、診断装置103は、自律的に詳細診断を実行し、情報量の大きな詳細診断結果を内部記憶装置208に保存しておく。
【0048】
送信された簡易診断結果により異常の発生を認識した管理者は、可搬型端末装置104を診断装置103に接近させて近距離無線通信手段105の接続を確立することにより、診断装置103をモニターモードM3に移行させることができる。モニターモードM3においては、管理者は情報量の大きな詳細診断情報を広帯域の近距離無線通信により取得でき、可搬型端末装置104の表示部で、詳細診断情報を容易に確認することができる。モニターモードM3では、自律診断モードM1で保存した詳細診断情報を送信するだけではなく、第一のモニター診断処理として、リアルタイムに詳細診断を実行して詳細診断結果を近距離無線通信で可搬型端末装置104に送信することができる。
【0049】
モニターモードM3を実行中に、近距離無線通信の接続が切断された場合には、モニター終了確認モードM4に移行し、管理者がモニター動作を完了させたのか、モニター動作を継続中に一時的に通信が中断してしまったのかを判断する。
【0050】
尚、生産装置101に異常が発生していない場合であっても、管理者が可搬型端末装置104を診断装置103に接近させて近距離無線通信の接続を行えば、診断装置103をモニターモードM3に移行させリアルタイムに詳細診断することができる。すなわち、第一の信号処理よりも演算量の大きな第四の信号処理を行い、第二のモニター診断処理を実行することができる。
【0051】
以上のように、実施形態によれば、消費電力が抑制され、複数台が近接して配置されていてもデータ量の大きな診断情報を管理者に支障なく送信可能な診断装置、および診断方法を実現することができる。
【実施例
【0052】
(実施例1)
以下、本発明の実施例1について、図面を参照して説明する。
ここでは、生産装置内に設置された2台のポンプの一方で異常が発生した場合を例に、診断装置が診断を行い、診断結果を送信する手順について説明する。
図5に、本発明の診断装置を適用した実施例1の生産システムの模式図を示す。生産設備1101にはポンプ125とポンプ126が設置されており、ぞれぞれのポンプを診断するために振動センサ123、振動センサ124が設置されている。各振動センサは診断装置121、診断装置122に接続され、それぞれのポンプを監視する。診断装置121、診断装置122は、各々の診断装置が備えるトリガー部であるタイマトリガ206が生成するトリガーにより1時間に1回、待機モードM2の待機状態から自律診断モードM1に遷移し、ポンプの簡易診断を行う。簡易診断では、加速度RMSの測定と診断を行う。
【0053】
ポンプ126の羽128は正常である場合について説明すると、運転中は定常的な正常振動のみが発生する。診断装置122は診断装置122内のタイマトリガ206によって待機モードM2の待機状態から自律診断モードM1に遷移し、診断を開始する。振動センサ124のアナログ出力信号を取込んで診断装置122内のAD変換器204でデジタル化し、診断装置122内の信号処理器205によって加速度RMS値を算出する。振動センサ124の計測結果に基づく加速度RMS値と、予め診断装置122内に記憶された閾値209を診断装置122内の比較器203が比較する判定処理を実行すると、この場合は正常と診断される。
【0054】
正常という簡易診断結果と加速度RMS値は、診断装置122内の920MHz帯特定小電力無線の長距離無線通信手段106によってゲートウェイ107に送信される。すなわち、判定結果送信処理を実行する。診断装置122内の920MHz帯特定小電力無線の長距離無線通信手段106の帯域は、例えば50kbps程度である。
【0055】
一方、ポンプ125については、羽127が破損して、運転中は異常振動が発生し始めているものとして説明する。診断装置121は、診断装置121内のタイマトリガ206によって待機モードM2の待機状態から自律診断モードM1に遷移し、簡易診断を開始する。振動センサ123のアナログ出力信号を診断装置121内のAD変換器204でデジタル化し、診断装置121内の信号処理器205によって加速度RMSの値を算出する。振動センサ123の計測結果に基づく加速度RMS値と、予め診断装置121内に記憶された閾値209を診断装置121内の比較器203が比較する判定処理を実行すると、この場合は異常と診断される。
【0056】
異常という簡易診断結果と加速度RMS値は、診断装置121内の920MHz帯特定小電力無線の長距離無線通信手段106によってゲートウェイ107に送信される。すなわち、判定結果送信処理を実行する。
【0057】
また、異常と診断した場合は、詳細診断をするために振動センサ123の出力信号をデジタル化し、診断装置121内の信号処理器205で演算量の大きなウェーブレット変換を行い、データを診断装置121内の内部記憶装置208に保存する。すなわち、詳細診断記憶処理を実行する。
【0058】
生産装置101の管理者129は、ゲートウェイ107とネットワーク108を介してデータベース109に蓄積された簡易診断結果をコンピュータ110で確認する。ポンプ125で異常が発生していることを確認した管理者129は、NFC(ISO/IEC 14443 Type A)の近距離無線通信手段105を備えた携帯型端末1104を携帯して、ポンプ125の設置された生産設備1101に向かう。近距離無線通信手段105のP2P転送による帯域は、例えば400kbps程度である。近距離無線通信手段105から通信経路のハンドオーバによってBluetooth(登録商標)やWi-Fiといった通信経路に切り替えてもよい。
【0059】
管理者129は、携帯型端末1104を異常が発生しているポンプ125の診断装置121に近接させ、近距離無線通信手段105との通信を確立させる。診断装置121は、携帯型端末1104との間で近距離無線通信手段による通信が確立すると、待機モードM2の待機状態からモニターモードM3に遷移する。診断装置121は、異常と診断した時に内部記憶装置208に保存したウェーブレット変換等の詳細診断情報を、携帯型端末1104に近距離無線通信手段105を用いて送信する。すなわち、詳細診断結果送信処理を実行する。詳細診断情報は、携帯型端末1104のアプリケーション(不図示)を用いて、携帯型端末の表示画面に表示される。
【0060】
ウェーブレット変換結果のような詳細診断情報は、加速度RMS値等の簡易診断情報に比べ、はるかに情報量が多い。長距離無線通信手段106で詳細診断情報を送信すると、帯域が限られるため、通信時間が長くかかる。また、通信時間が長いことで診断装置121の電池寿命が短くなるだけでなく、通信中は通信帯域を占有することになる。実施例の診断装置では、詳細な診断結果を近距離無線通信手段105によって送信することにより、長距離無線通信手段106の帯域を占有せずに送信することができる。
【0061】
尚、診断装置121にワイヤレス給電のための受電コイルを設けておき、近距離無線通信手段105による通信が確立している間は、携帯型端末1104から診断装置121がワイヤレス給電を受けてもよい。これにより、電力消費の大きなモニターモードM3を実行する間の診断装置121の電池210の消耗を抑制することができる。本実施例の診断装置および診断方法によれば、診断装置の電池寿命を長く維持し、かつ長距離無線通信の帯域が限られていても、短距離無線通信により情報量が大きな詳細な診断情報を支障なく送信することができる。
【0062】
(実施例2)
以下、本発明の実施例2について、図面を参照して説明する。ここでは、生産装置内のコンプレッサの圧力状態を診断するために、本発明の診断装置を設置して動作させる手順について説明する。
図6に、実施例2の診断装置を適用した生産システムの模式図を示す。生産装置101にコンプレッサ130が設置されている。診断装置の管理者133は、コンプレッサの圧力状態を測定できるようにするためにコンプレッサに圧力センサ131を設置し、圧力センサ131を診断装置103に接続する。
【0063】
圧力センサ131が正しく設置され、診断装置103と正しく配線されているか確認するため、管理者133は近距離無線通信手段を備える携帯型端末2104を、診断装置103の近距離無線通信手段105の通信可能範囲132内にまで移動させる。これにより、診断装置103は待機モードM2の待機状態からモニターモードM3に遷移し、モニタリング状態となる。診断装置103は、圧力センサのサンプリング周期を1msに変更してリアルタイム測定を行い、リアルタイム測定データを近距離無線通信手段105によって携帯型端末2104に送信する。リアルタイム測定データは携帯型端末2104のアプリケーション(不図示)を用いて表示画面に表示され、管理者133は、圧力センサ131の設置や配線が正しくなされているかを確認できる。
【0064】
また、管理者133は、携帯型端末2104上のアプリケーションを用いて診断装置103の各種設定を近距離無線通信手段105によって送信し、診断装置103に登録させる。診断装置103の設定内容とは、診断間隔や診断時間、簡易な診断項目、簡易な診断をおこなう閾値、診断が異常な場合の詳細な診断項目、接続するセンサの種類等である。
【0065】
実施例の診断装置は、低コスト、低消費電力を実現するために大画面の表示部を備えていないが近距離無線通信手段を備えているため、管理者はその場で携帯型端末2104を用いて測定データ等を確認することができる。これにより、長距離無線通信手段の通信帯域が限られている環境であっても、それとは関係なく容易に診断装置を導入して設置することができる。設定完了後は、実施形態で説明したように、診断装置103は制御部200の制御により、自律診断モードM1、待機モードM2、モニターモードM3、モニター終了確認モードM4を実行する。
【0066】
(実施例3)
以下、本発明の実施例3について、図面を参照して説明する。
ここでは、生産装置内に設置されたコンプレッサの圧力状態を診断装置がモニターモードM3でリアルタイムにモニターしている間に、近距離無線通信手段の接続が一時的に途絶えたとしても、連続したモニター結果を携帯型端末に送信可能なことを説明する。
【0067】
管理者133は、近距離無線通信手段105を備える携帯型端末2104を、診断装置103の近距離無線通信手段105の通信可能範囲132内に移動させ、通信を確立させる。これにより、診断装置103は、モニターモードM3のモニタリング状態に遷移し、圧力センサ131の信号のサンプリング周期を工程S11で1msに変更して工程S12でリアルタイム測定をおこなう。
【0068】
診断装置103は、リアルタイムの詳細測定データを近距離無線通信手段105によって携帯型端末2104に送信する。携帯型端末2104は、管理者133が手に持ちながら近距離無線通信手段105の通信可能範囲132に保持するため、意図せずに近距離無線通信手段105の通信可能範囲132から一時的に外れる場合がある。一時的に外れた場合でも、連続したモニター結果として、携帯型端末2104に表示する手順について説明する。
【0069】
図7は、実施例の診断装置103の時間経過に伴う動作状態の変化を示すタイムチャートである。4本のグラフの横軸は時間経過を示している。
診断装置103と携帯型端末2104の間で近距離無線通信手段105の電波強度が強い状態301では、両者間で近距離無線通信が確立している確立状態305となり、診断装置103はモニターモードM3に推移してモニタリング状態309となる。モニタリング状態309では、診断装置103は第一のモニター診断処理として、リアルタイム測定による詳細診断を行い、詳細診断にかかるデータを随時、近距離無線通信手段105によって携帯型端末2104に送信する。この場合は、内部記憶装置208にデータの一時保存は行われず、保存なし状態312となる。
【0070】
ここで、一時的に近距離無線通信手段105の通信可能範囲132から携帯型端末2104が外れて電波強度が弱い状態302が起きたとすると、近距離無線通信手段105の接続は一時的な切断状態306となる。診断装置103は、モニターモードM3の実行中はNFC通信が確立しているかを常時監視し、通信の切断を検知した場合には、直ちに割り込み処理を発生させてモニター終了確認モードM4に移行する。すなわち、一時的な切断状態306になっても、診断装置103はすぐに待機モードM2には遷移せず、モニター終了確認モードM4で通信が一時的に切断されたのか管理者がモニターを終了するため切断したのかを判断する。
【0071】
モニター終了確認モードM4を実施している期間310には、診断装置103はモニタリング状態309を予め定めた時間維持してリアルタイム測定を継続し、詳細診断データを記憶部である内部記憶装置208に保存する保存動作313を行う。
【0072】
所定時間内に電波強度が状態303のように再度強くなった場合には、診断装置103と携帯型端末2104の近距離無線通信が再び確立した状態307になる。この場合には、診断装置103は、内部記憶装置208に保存したデータとリアルタイムの測定データを携帯型端末2104に送信する。尚、リアルタイムの測定データについては、保存なし状態314となる。
【0073】
一方、図7のグラフの右側の状態304に示すように、所定期間以上にわたり電波強度が弱く通信が切断された状態308が継続した場合には、診断装置103は、モニターモードM3を管理者が終了させたものと判断する。この場合には、診断装置103はモニター終了確認モードM4の状態311から待機モードM2に遷移し、モニター終了確認モードM4の期間315に内部記憶装置208に一次保存されたデータは、送信されない。その後の待機モードM2の期間316では、データの保存は行われない。
【0074】
尚、携帯型端末2104が一時的に近距離無線通信手段105の通信可能範囲132から外れた際の診断装置103への給電のバックアップは、診断装置103の電池210が行ってもよい。あるいは、携帯型端末2104からのワイヤレス給電で電力を蓄積したキャパシタ等を用いてもよい。
【0075】
図8は、実施例の診断装置と短距離無線通信で接続可能な携帯型端末2104の表示部である表示画面の模式図である。管理者133は、近距離無線通信手段105を備える携帯型端末2104を、診断装置103の近距離無線通信手段105の通信可能範囲132に移動させる。診断装置103がモニターモードM3に遷移すると、携帯型端末2104の表示部に圧力センサ131の計測結果を信号処理したグラフ402がリアルタイムに表示される。
【0076】
近短距離無線通信の接続が確立している期間403と期間405の間に一時的な中断期間404が発生したとしても、通信が再確立すると、診断装置103は内部記憶装置208に保存したデータとリアルタイムの診断データを携帯型端末2104に送信する。これにより、近距離無線通信手段の通信が一時的に切断された場合でも、図8に示すように保存したデータ406を含む連続したグラフとして詳細診断結果が携帯型端末2104の画面上に表示可能となる。診断データのグラフが切れることなく表示されるため、管理者は診断対象の装置の状況を適切に把握することができる。
【0077】
[他の実施形態]
なお、本発明は、以上説明した実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で多くの変形が可能である。
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【符号の説明】
【0078】
101・・・生産装置/102・・・センサ/103・・・診断装置/104・・・可搬型端末装置/105・・・近距離無線通信手段/106・・・長距離無線通信手段/107・・・ゲートウェイ/108・・・ネットワーク/109・・・データベース/110・・・コンピュータ/200・・・制御部/201・・・センサ/203・・・比較器/204・・・AD変換器/205・・・信号処理器/206・・・タイマトリガ/208・・・内部記憶装置/209・・・閾値/210・・・電池
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8