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特許7475817磁石構造体、磁石構造体の製造方法、及びモータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】磁石構造体、磁石構造体の製造方法、及びモータ
(51)【国際特許分類】
   H01F 7/02 20060101AFI20240422BHJP
   H02K 1/2706 20220101ALI20240422BHJP
   H02K 15/03 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
H01F7/02 E
H02K1/2706
H02K15/03 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019069958
(22)【出願日】2019-04-01
(65)【公開番号】P2020170745
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-12-15
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 信雄
(72)【発明者】
【氏名】人見 洋介
【合議体】
【審判長】岩間 直純
【審判官】山本 章裕
【審判官】小池 秀介
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-272033(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 7/02
H02K 1/27, 15/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の永久磁石部材と、
前記永久磁石部材を互いに接着する接着層と、
を備え、
前記接着層は、接着剤及び複数のギャップ材を含み、
前記ギャップ材は、絶縁性を有し、
前記接着層に接する前記永久磁石部材の表面Sは、複数の凸部を有し、
基準面は、前記表面Sの粗さ曲線の平均線を含む面であり、
Ryは、前記基準面に垂直な方向における、前記表面Sの最深部からの前記凸部の高さの最大値であり、
Rvは、前記基準面と前記最深部との距離であり、
Rpは、Ry-Rvであり、
W1は、前記基準面に垂直な方向における前記ギャップ材の幅であり、
W1は、2Rpより大きく、
Dは、前記永久磁石部材に含まれる磁性粒子の粒径であり、
W1は、(2Rp+D)よりも大きい、
磁石構造体。
【請求項2】
Dは、3.5μm以上15μm以下である、
請求項1に記載の磁石構造体。
【請求項3】
W2は、前記基準面に平行な方向における前記ギャップ材の幅であり、
前記接着層は、W1がW2よりも大きい前記ギャップ材を含む、
請求項1又は2に記載の磁石構造体。
【請求項4】
W1がW2よりも大きい前記ギャップ材の個数は、nであり、
前記ギャップ材の総数は、Nであり、
n/Nは、3%以上50%以下である、
請求項に記載の磁石構造体。
【請求項5】
複数の永久磁石部材と、
前記永久磁石部材を互いに接着する接着層と、
を備え、
前記接着層は、接着剤及び複数のギャップ材を含み、
前記ギャップ材は、絶縁性を有し、
前記接着層に接する前記永久磁石部材の表面Sは、複数の凸部を有し、
基準面は、前記表面Sの粗さ曲線の平均線を含む面であり、
Ryは、前記基準面に垂直な方向における、前記表面Sの最深部からの前記凸部の高さの最大値であり、
Rvは、前記基準面と前記最深部との距離であり、
Rpは、Ry-Rvであり、
W1は、前記基準面に垂直な方向における前記ギャップ材の幅であり、
W1は、2Rpより大きく、
W2は、前記基準面に平行な方向における前記ギャップ材の幅であり、
前記接着層は、W1がW2よりも大きい前記ギャップ材を含む、
磁石構造体。
【請求項6】
W1がW2よりも大きい前記ギャップ材の個数は、nであり、
前記ギャップ材の総数は、Nであり、
n/Nは、3%以上50%以下である、
請求項5に記載の磁石構造体。
【請求項7】
前記ギャップ材は、ガラスビーズである、
請求項1~のいずれか一項に記載の磁石構造体。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の磁石構造体を製造する方法であって、
未硬化の前記接着剤及び複数の前記ギャップ材を含む塗膜を、前記永久磁石部材の表面Sに形成する工程と、
一対の前記永久磁石部材で挟まれた前記塗膜を加圧することにより、前記ギャップ材を割る工程と、
割れた前記ギャップ材を含む前記塗膜を硬化することにより、前記接着層を形成する工程と、
を備える、
磁石構造体の製造方法。
【請求項9】
前記複数の前記ギャップ材の形状及び寸法が、均一ではなく、
前記複数の前記ギャップ材が、粒度分布を有している、
請求項8に記載の磁石構造体の製造方法。
【請求項10】
ロータと、ステータと、を備え、
前記ロータは、請求項1~のいずれか一項に記載の複数の磁石構造体を有する、
モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁石構造体、磁石構造体の製造方法、及びモータに関する。
【背景技術】
【0002】
希土類磁石等の永久磁石は、モータの部品として利用される。永久磁石を備えるモータは、例えば、ハイブリッド自動車、電気自動車、又はハードディスクドライブに搭載される。
【0003】
モータの回転に伴う磁界の変化により、永久磁石において渦電流が発生してしまう。渦電流に起因するジュール熱によって電力が浪費され、モータ効率が低下する。つまり、渦電流損が生じる。また、渦電流に起因するジュール熱によって、永久磁石が減磁される。これらの理由から、モータの性能を向上させるために、永久磁石における渦電流を抑制することが望ましい。下記特許文献1に記載の通り、永久磁石を複数の永久磁石部材に分割し、永久磁石部材同士を接着層で接着することにより、永久磁石部材間に流れる渦電流が抑制される。つまり、複数の永久磁石部材が互いに絶縁されることにより、永久磁石部材間に流れる渦電流の経路が断ち切られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006‐179830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マクロなスケール(例えば、mmのスケール)では、永久磁石部材の表面は平坦であるが、ミクロなスケール(例えば、μmのスケール)では、永久磁石部材の表面は平坦ではない。つまりミクロなスケールでは、多数の凸部が永久磁石部材の表面に形成されている。したがって、一対の永久磁石部材の間に位置する接着層が薄いほど、対面する各永久磁石部材の表面の凸部が互いに接触し易い。互いに接触した一対の凸部は、永久磁石部材間の導通経路として機能する。その結果、一対の凸部を介して渦電流が永久磁石部材間に流れてしまう。接着層が薄いほど、上記のメカニズムにより渦電流が永久磁石部材間に流れ易い。しかし、接着層自体は磁力を有していないため、モータの性能を向上させるためには、接着層をより薄くすることが望ましい。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、永久磁石部材間の導通を抑制する磁石構造体、磁石構造体の製造方法、及び磁石構造体を備えるモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係る磁石構造体は、複数の永久磁石部材と、永久磁石部材を互いに接着する接着層と、を備え、接着層は、接着剤及び複数のギャップ材を含み、ギャップ材は、絶縁性を有し、接着層に接する永久磁石部材の表面Sは、複数の凸部を有し、基準面は、表面Sの粗さ曲線の平均線を含む面であり、Ryは、基準面に垂直な方向における、表面Sの最深部からの凸部の高さの最大値であり、Rvは、基準面と最深部との距離であり、Rpは、Ry-Rvであり、W1は、基準面に垂直な方向におけるギャップ材の幅であり、W1は、2Rpより大きい。
【0008】
Dは、永久磁石部材に含まれる磁性粒子の粒径であり、W1は、(2Rp+D)よりも大きくてよい。
【0009】
W2は、基準面に平行な方向におけるギャップ材の幅であり、接着層は、W1がW2よりも大きいギャップ材を含んでよい。
【0010】
W1がW2よりも大きいギャップ材の個数は、nであり、ギャップ材の総数は、Nであり、n/Nは、3%以上50%以下であってよい。
【0011】
ギャップ材は、ガラスビーズであってよい。
【0012】
本発明の一側面に係る磁石構造体の製造方法は、上記の磁石構造体を製造する方法であって、未硬化の接着剤及び複数のギャップ材を含む塗膜を、永久磁石部材の表面Sに形成する工程と、一対の永久磁石部材で挟まれた塗膜を加圧することにより、ギャップ材を割る工程と、割れたギャップ材を含む塗膜を硬化することにより、接着層を形成する工程と、を備える。
【0013】
本発明の一側面に係るモータは、ロータと、ステータと、を備え、ロータは、複数の上記磁石構造体を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、永久磁石部材間の導通を抑制する磁石構造体、磁石構造体の製造方法、及び磁石構造体を備えるモータが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、磁石構造体の斜視図である。
図2図2は、図1に示される磁石構造体の分解図である。
図3図3は、永久磁石部材及び接着層の断面の模式図であり、この断面は、接着層に接する永久磁石部材の表面に垂直である。
図4図4中の(a)は、永久磁石部材及び接着層の断面図であり、この断面は、接着層に接する永久磁石部材の表面に垂直であり、図4中の(b)は、永久磁石部材及び接着層の他の断面図であり、この断面は、接着層に接する永久磁石部材の表面に垂直である。
図5図5中の(a)は、永久磁石部材及び接着層の断面の反射電子像であり、この断面は、接着層に接する永久磁石部材の表面に垂直であり、図5中の(b)は、永久磁石部材及び接着層の他の断面の反射電子像であり、この断面は、接着層に接する永久磁石部材の表面に垂直である。
図6図6中の(a)は、永久磁石部材及び接着層の断面の反射電子像であり、この断面は、接着層に接する永久磁石部材の表面に垂直であり、図6中の(b)は、永久磁石部材及び接着層の他の断面の反射電子像であり、この断面は、接着層に接する永久磁石部材の表面に垂直である。
図7図7は、磁石構造体を備えるモータの内部構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態が説明される。図面において、同等の構成要素には同等の符号が付される。本発明は下記実施形態に限定されるものではない。
【0017】
(磁石構造体)
図1及び2に示されるように、磁石構造体10は、複数の永久磁石部材2と、永久磁石部材2を互いに接着する接着層4と、を備える。接着層4は、接着剤及び複数のギャップ材を含む。各ギャップ材は、絶縁性を有している。各ギャップ材は粒子であってよい。各ギャップ材の形状は、例えば、球、柱、錐、又は多面体であってよい。
【0018】
図1及び図2に示されるように、磁石構造体10及び永久磁石部材2其々は、直方体であってよい。複数の永久磁石部材2其々の寸法及び形状は、同じであってよい。ただし、磁石構造体10及び永久磁石部材2其々の形状及び寸法は、限定されない。磁石構造体10は、形状及び寸法において異なる複数の永久磁石部材2を備えていてもよい。接着層4は、永久磁石部材2一つの表面Sの全体を覆っていてよい。接着層4は、永久磁石部材2の一つの表面Sにおける一部分のみを覆っていてもよい。接着層4は、永久磁石部材2の複数の表面を覆っていてもよい。永久磁石部材2の個数は限定されない。
【0019】
図1及び図2に示されるように、マクロなスケール(例えば、mmのスケール)では、各永久磁石部材2の表面Sは平坦である。一方、図3は、ミクロなスケール(例えば、μmのスケール)における永久磁石部材2及び接着層4其々の断面を示している。図3に示される断面は、マクロなスケールでは、接着層4に接する永久磁石部材2の表面Sに垂直である。図3に示されるように、ミクロなスケールでは、永久磁石部材2の表面Sは平坦ではない。ミクロなスケールでは、接着層4に接する永久磁石部材の表面Sは、複数の凸部7を有している。図3に示される表面Sの粗さ曲線rcは、永久磁石部材2の表面Sの凹凸形状を示している。対面する一対の永久磁石部材2の表面Sの間が、接着層4に相当する。つまり、一対の粗さ曲線rcの間が、接着層4に相当する。
【0020】
基準面mは、表面Sの粗さ曲線rcの平均線を含む面である。図3に示される二次元の断面においては、基準面mは、表面Sの粗さ曲線rcの平均線そのものである。粗さ曲線rcの平均線は、最小二乗法によって粗さ曲線rcから算出される直線であってよい。基準面mは平面であってよい。Ryは、基準面mに垂直な方向における、表面Sの最深部5からの凸部7の高さの最大値である。Rvは、基準面mと最深部5との距離である。Rpは、Ry-Rvである。W1は、基準面mに垂直な方向におけるギャップ材8の幅(最大幅)である。W2は、基準面mに平行な方向におけるギャップ材8の幅(最大幅)である。基準面mに垂直な方向は、マクロなスケールにおいて永久磁石部材2の表面Sに垂直な方向である。基準面mに平行な方向は、マクロなスケールにおいて永久磁石部材2の表面Sに平行な方向である。基準面mに平行な方向は、接着層4が延在する方向と言い換えられてよい。
【0021】
W1は、2Rpより大きい。仮にW1が2Rp以下である場合、対面する表面S其々に形成された凸部7が互いに接触し易い。互いに接触した一対の凸部7は、永久磁石部材2間の導通経路として機能する。その結果、一対の凸部7を介して渦電流が永久磁石部材2間に流れてしまう。しかし、W1が2Rpより大きいことにより、対面する表面S其々に形成された凸部7が互いに接触し難い。その結果、永久磁石部材2間の導通が抑制され、永久磁石部材2間に流れる渦電流が抑制される。同様の理由から、複数のギャップ材8のW1の平均値が、2Rpより大きくてよい。以上の通り、ギャップ材8は絶縁材及びスペーサーとしての機能を有している。
【0022】
Ryは、例えば、1μm以上70μm以下であってよい。Rvは、例えば、1μm以上20μm以下であってよい。Rpは、例えば、1μm以上50μm以下であってよい。W1は、例えば、5μm以上115μm以下、又は5μm以上100μm以下であってよい。接着層の厚みTの平均値は、例えば、10μm以上115μm以下、10μm以上100μm以下、又は10μm以上50μm以下であってよい。表面Sの粗さ曲線rc、粗さ曲線rcの平均線(基準面m)、Ry、Rv及びRpは、JIS B 0601‐2001又はISO 4287‐1997に基づく方法によって測定されてよい。これらの規格に基づく最大高さが、Ryに相当する。粗さ曲線rc、基準面m、Ry、Rv及びRpの測定の前提である基準長さLは、例えば、0.1mm以上10mm以下であってよい。基準長さLは、基準面mに平行な方向における粗さ曲線rcの長さと言い換えられてよい。粗さ曲線rc、その平均線(基準面m)、Ry、Rv及びRpは、接着層4で覆われる前の各永久磁石部材2の表面Sにおいて測定されてよい。粗さ曲線rc、その平均線(基準面m)、Ry、Rv及びRpは、図3に示されるような断面において測定されてもよい。Ry、Rv及びRpは、永久磁石部材の製造に用いる磁性粉末の粒径、永久磁石部材の製造条件、又は永久磁石部材の表面の加工によって制御されてよい。製造条件とは、例えば、磁性粉末の焼結工程の諸条件であってよい。表面の加工とは、例えば、研磨、エッチング又は洗浄であってよい。磁石構造体10を構成する全ての永久磁石部材2は、同一の製法によって製造されてよく、Ry、Rv及びRpは、全ての永久磁石部材2において共通していてよい。
【0023】
W1は、(2Rp+D)よりも大きくてよい。Dは、永久磁石部材2に含まれる磁性粒子3の粒径(長径)である。磁石構造体10の製造過程では、磁性粒子3が永久磁石部材2の表面Sから脱落して、接着層4中に混入する可能性がある。仮に永久磁石部材2の表面Sがメッキ膜又は樹脂膜によって覆われていたとしても、表面Sの洗浄(例えば超音波洗浄)に伴って、表面Sに形成されたピンホールから磁性粒子3が脱落し易い。表面Sの洗浄を繰り返したとしても、表面Sからの磁性粒子3の脱落を完全に防止することは困難であり、接着層4は磁性粒子3を含み得る。対面する表面S其々に形成された凸部7が互いに直接接触していなかったとしても、磁性粒子3が一対の凸部7の間に介在することにより、一対の永久磁石部材2が電気的に接続されてしまう。しかし、W1が(2Rp+D)よりも大きい場合、磁性粒子3が一対の凸部7の間に介在したとしても、磁性粒子3が一対の凸部7と接触し難い。したがって、W1が(2Rp+D)よりも大きいことにより、磁性粒子3を介した永久磁石部材2間の導通が抑制される。
【0024】
Dは、永久磁石部材2に含まれる複数の磁性粒子3の粒径の平均値であってよい。Dは、永久磁石部材2の断面から無作為に選出された複数の磁性粒子3の粒径の平均値であってよい。各磁性粒子3の粒径は、永久磁石部材2の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することによって、測定されてよい。Dは、例えば、3.5μm以上15μm以下であってよい。
【0025】
図4中の(a)に示されるように、接着層4は、W1がW2よりも大きいギャップ材8を含んでよい。W1がW2よりも大きいギャップ材8は、例えば、半球状のギャップ材であってよい。W1がW2よりも大きいギャップ材8は、扁平なギャップ材8と言い換えられてよい。接着層4に含まれる全てのギャップ材8のうち一部のギャップ材8が、扁平なギャップ材であってよい。ギャップ材8の含有に伴って接着層4中の接着剤6の割合は低下する。したがって、ギャップ材8の含有に伴って接着層4の機械的強度は低下する。例えば、接着層4が延在する方向Fにおいて、せん断力が接着層4に作用した場合、ギャップ材8及び接着剤6の界面を含む破断経路9に沿って、接着層4は破断し易い。破断経路9が長いほど、接着層4の機械的強度の低下が抑制される傾向がある。図4中の(a)及び図4中の(b)の対比から明らかなように、扁平なギャップ材8の周囲における破断経路9は屈曲し易く、扁平なギャップ材8の周囲における破断経路9は、球状のギャップ材8の周囲における破断経路9よりも長い。したがって、接着層4が球状のギャップ材8に加えて扁平なギャップ材8を含むことにより、接着層4の機械的強度の低下が抑制される。複数の扁平なギャップ材8を含む接着層4の反射電子像は、図5中の(b)、図6中の(a)及び図6中の(b)に示される。球状のギャップ材8を含む接着層4の反射電子像は、図5中の(a)に示される。各反射電子像は、SEMによって撮影された画像である。
【0026】
W1がW2よりも大きいギャップ材8の個数は、nである。ギャップ材8の総数は、Nである。n/Nは、3%以上50%以下であってよい。ギャップ材8は多数の粒子であるため、ギャップ材8の形状及び寸法は均一ではなく、ギャップ材8は所定の粒度分布を有している。後述の通り、複数のギャップ材8を含む塗膜を所定の圧力で加圧することにより、粒径が比較的大きいギャップ材8は、複数の扁平なギャップ材8へ分割され易い。その結果、磁石構造体10が完成した時点においては、n/Nが3%以上50%以下になり易い。W1が2Rpより大きいギャップ材8の個数が、n’と表される場合、n’/Nは、50%より大きく97%未満であってよい。n/N及びn’/Nが上記の範囲内である場合、永久磁石部材2間の導通が抑制され易く、ギャップ材8の含有に伴う接着層4の機械的強度の低下が抑制され易い。
【0027】
ギャップ材8は、ガラスビーズであってよい。ガラスビーズは絶縁性に優れており、高温(例えば180℃)においても変形し難い。またガラスビーズは、加圧によって割れ易く、複数の扁平なギャップ材8へ分割され易い。これらの理由から、ガラスビーズはギャップ材8に適している。ただし、ギャップ材8の組成は、限定されない。ギャップ材8は、例えば、セラミックビーズ、樹脂ビーズ又は金属ビーズであってもよい。樹脂ビーズの熱膨張係数は比較的高いため、樹脂ビーズの接着強度への影響は小さい。金属ビーズの表面全体は絶縁膜で覆われている。リン酸化成処理等の表面処理によって、金属ビーズの表面全体を絶縁膜で覆うことができる。接着層4は、組成が異なる複数種のギャップ材8を含んでよい。接着層4は、形状が異なる複数種のギャップ材8を含んでよい。接着層4におけるギャップ材8の含有量は、例えば、1質量%以上40質量%以下であってよい。
【0028】
接着剤6は、樹脂、硬化剤、硬化促進剤、希釈剤(有機溶剤)、着色剤、充填剤、カップリング剤、消泡剤、及び難燃剤等を含んでよい。樹脂の一部又は全部は、熱硬化性樹脂であってよい。接着層4に含まれる樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂(ユリア樹脂)、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、シリコン樹脂、シアノアクリレート樹脂、変性アクリル樹脂、及びジアリルフタレート樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。接着層4は、複数種の樹脂を含んでよい。硬化剤は、例えば、酸無水物系硬化剤、ジシアンジアミド(DICY)系硬化剤、又は芳香族アミン系硬化剤であってよい。硬化促進剤は、例えば、イミダゾール系硬化促進剤、又は三級アミン系硬化促進剤であってよい。希釈剤は、例えば、反応性希釈剤又は非反応性希釈剤であってよい。着色剤は、例えば、有機着色剤又は無機着色剤(白い酸化チタン等)であってよい。充填剤は、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、タルク、アルミナ、又は硫酸バリウムであってよい。充填剤がギャップ材8であってもよい。
【0029】
永久磁石部材2は、例えば、焼結磁石又は熱間加工磁石であってよい。永久磁石部材2は、希土類磁石、Al‐Ni‐Co合金磁石(アルニコ磁石)、又はFe‐Cr‐Co合金磁石であってよい。希土類磁石の主相は、例えば、NdFe14B、SmCo、SmCo17、SmFe17、SmFe、又はPrCoであってよい。
【0030】
本実施形態に係る磁石構造体10の製造方法は、未硬化の接着剤6及び複数のギャップ材8を含む塗膜を、永久磁石部材2の表面Sに形成する工程と、一対の永久磁石部材2で挟まれた塗膜を加圧することにより、少なくとも一部のギャップ材8を割る工程と、割れたギャップ材8を含む塗膜を硬化することにより、接着層4を形成する工程と、を備える。
【0031】
塗膜は、スラリーを永久磁石部材2の表面Sに塗布することよって、形成されてよい。スラリーは、未硬化の接着剤6、ギャップ材8及び有機溶剤の混合物であってよい。スラリーの塗布手段は、例えば、スクリーン印刷、アプリケーター、ドクターブレード、バーコーター又はダイコーターであってよい。塗膜を一対の永久磁石部材2で挟む前に、塗膜の乾燥により有機溶剤が除去されてよい。有機溶剤は、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ベンゼン、トルエン、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、シクロヘキサノン及びキシレンからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0032】
永久磁石部材2の表面Sに形成された塗膜の上に、別の永久磁石部材2が設置される。一対の永久磁石部材2で挟まれた塗膜を加圧することにより、塗膜中のギャップ材8が割られる。例えば、一つの球状のギャップ材8が、複数の扁平なギャップ材8に分割される。塗膜の加圧により、全てのギャップ材8のうちの一部のギャップ材8が割られてよい。塗膜に加える圧力は、ギャップ材8の粒径及び硬度に応じて調整されてよい。ギャップ材8塗膜に加える圧力は、例えば、3MPa以上8MPa以下であってよい。
【0033】
割れたギャップ材8を含む塗膜は、加熱によって硬化されてよい。硬化温度及び加熱時間は、塗膜に含まれる樹脂の組成、及び樹脂の厚み等に応じて適宜調整されてよい。例えば、塗膜がエポキシ樹脂を含む場合、硬化温度は約180℃であってよく、加熱時間は約1時間であってよい。
【0034】
以上の方法により、複数の永久磁石部材2が接着層4によって互いに接着され、磁石構造体10が完成する。
【0035】
(モータ)
図7に示されるように、本実施形態に係る磁石構造体10は、モータ100に用いられてよい。図7に示されるモータ100は、IPMモータ(Interior Permanent Magnet Motor)である。モータ100は、円筒状のロータ20(回転子)と、ロータ20を囲むようにロータ20の外側に配置されるステータ30(固定子)とを備えている。図7は、ロータ20の回転軸方向(Z軸方向)におけるモータ100の内部構造を示している。ロータ20は、円筒状のロータコア22と複数の磁石構造体10とを有する。ロータコア22の外周面に沿って、所定の間隔で複数の収容穴24が形成されており、磁石構造体10は各収容穴24に収容されている。つまり、各磁石構造体10が、ロータコア22の周面に沿って配置されている。磁石構造体10は、樹脂モールドによって、収容穴24内に固定される。樹脂モールドでは、高い圧力が磁石構造体10へ加えられる。接着層4が扁平なギャップ材8を含むことにより、樹脂モールドに伴う接着層4の破断が抑制され易い。
【0036】
ロータ20の円周方向に沿って隣り合う磁石構造体10は、N極とS極の位置が互いに逆になるように収容穴24に収容されている。つまり、円周方向に沿って隣り合う磁石構造体10は、ロータ20の径方向に沿って互いに逆の方向の磁力線を発生する。図7に示されるロータ20は6個の磁石構造体10を有しているが、ロータ20が有する磁石構造体10の数(極数)は限定されない。
【0037】
ステータ30は、ロータ20の外周面に沿って、所定の間隔で設けられた複数のコイル部32を有している。コイル部32と磁石構造体10とは互いに対面するように配置されている。ステータ30は、電磁気的作用によってロータ20にトルクを与え、ロータ20は円周方向に回転する。図7に示されるステータ30は8個のコイル部32を有しているが、ステータ30が有するコイル部32の数(スロット数)は限定されない。
【0038】
以上、本発明の好適な実施形態が説明されたが、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではない。
【0039】
モータは、SPMモータ(Surface Permanent Magnet Motor)である。モータは、IPMモータ及びSPMモータのような永久磁石式同期モータに限定されない。モータは、永久磁石式直流モータ、リニア同期モータ、ボイスコイルモータ、又は振動モータであってもよい。
【0040】
本実施形態に係る磁石構造体の用途は、モータに限定されない。磁石構造体は、発電機又はアクチュエーター等に適用されてもよい。磁石構造体は、ハイブリッド自動車、電気自動車、ハードディスクドライブ、磁気共鳴画像装置(MRI)、スマートフォン、デジタルカメラ、薄型TV、スキャナー、エアコン、ヒートポンプ、冷蔵庫、掃除機、洗濯乾燥機、エレベーター及び風力発電機等の様々な分野で利用されてよい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係る磁石構造体は、例えば、IPMモータに用いられる。
【符号の説明】
【0042】
2…永久磁石部材、3…磁性粒子、4…接着層、5…最深部、6…接着剤、7…凸部、8…ギャップ材、9…破断経路、10…磁石構造体、20…ロータ、22…ロータコア、24…収容穴、30…ステータ、32…コイル部、100…モータ、S…接着層に接する永久磁石部材の表面、rc…粗さ曲線、m…基準面、Ry…最深部からの凸部の高さの最大値、Rv…基準面と最深部との距離、Rp…Ry-Rv、W1…基準面に垂直な方向におけるギャップ材の幅、W2…基準面に平行な方向におけるギャップ材の幅、D…磁性粒子の粒径、F…接着層が延在する方向(せん断力の方向)。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7