(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】亜鉛含有ナノ粒子の合成方法
(51)【国際特許分類】
C01G 9/02 20060101AFI20240422BHJP
C01G 15/00 20060101ALI20240422BHJP
C01G 9/00 20060101ALI20240422BHJP
C01G 45/00 20060101ALI20240422BHJP
C01B 19/00 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
C01G9/02 B
C01G15/00 D
C01G15/00 B
C01G9/00 B
C01G45/00
C01G9/00 Z
C01B19/00 C
(21)【出願番号】P 2019205642
(22)【出願日】2019-11-13
【審査請求日】2022-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】風間 拓也
(72)【発明者】
【氏名】田村 渉
(72)【発明者】
【氏名】三宅 康之
(72)【発明者】
【氏名】森山 健治
(72)【発明者】
【氏名】村松 淳司
(72)【発明者】
【氏名】蟹江 澄志
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-070423(JP,A)
【文献】特開2018-069399(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101935876(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 9/02
C01G 15/00
C01G 9/00
C01G 45/00
C01B 17/20
C01B 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛を含む化合物である酢酸亜鉛(Zn(AC)
2)、ステアリン酸亜鉛(ST-Zn)、アセチルアセトナート亜鉛(Zn(ACAC)
2)から選択される少なくとも一つを溶媒中で熱分解してウルツ鉱型結晶構造の亜鉛含有ナノ粒子を合成する方法であって、
前記亜鉛を含む化合物を不活性雰囲気で100℃以下の温度で1時間以下の時間保持したのち昇温し、大気圧の1/100以下の減圧雰囲気下で200℃以下の温度で反応を進行させ、粒子結晶の核を生成する第一のステップと、
不活性雰囲気下で第一のステップの反応温度より高い200℃以上で且つ溶媒の沸点以下の温度で1~2時間保持し、亜鉛含有ナノ粒子を生成する第二のステップと、を含み、
反応系に、添加剤として、ポリオール系材料及びステアリン酸エチレングリコール系材料の少なくとも1種からなる第一の添加剤と、反応中に前記亜鉛含有ナノ粒子の表面に配位し、粒子サイズを抑制する第二の添加剤としてトリオクチルホスフィン・スルフィドを添加することを特徴とする亜鉛含有ナノ粒子の合成方法。
【請求項2】
請求項1記載の亜鉛含有ナノ粒子の合成方法であって、
前記第二のステップを大気圧下で行うことを特徴とする亜鉛含有ナノ粒子の合成方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の亜鉛含有ナノ粒子の合成方法であって、
前記反応系に、亜鉛を含む化合物及び亜鉛以外の元素Mを含む化合物を加えて反応を行い、酸化亜鉛の結晶格子における亜鉛及び/又は酸素の一部が元素Mで置換したMドープ酸化亜鉛ナノ粒子を合成することを特徴とする亜鉛含有ナノ粒子の合成方法。
【請求項4】
請求項3に記載の亜鉛含有ナノ粒子の合成方法であって、
元素Mは、S、Se、Ga、In、Cu、Fe、Ni、Co、Mn、Mgから選ばれる1種以上であることを特徴とする亜鉛含有ナノ粒子の合成方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の亜鉛含有ナノ粒子の合成方法であって、
前記第一の添加剤は、溶媒に対し2容量%以下添加されることを特徴とする亜鉛含有ナノ粒子の合成方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の亜鉛含有ナノ粒子の合成方法であって、
前記第二の添加剤は、前記亜鉛を含む化合物に対しモル比で0.3~1.0添加することを特徴とする亜鉛含有ナノ粒子の合成方法。
【請求項7】
請求項3に記載の亜鉛含有ナノ粒子の合成方法であって、
前記元素Mを含む化合物が、前記粒子結晶の核の周りに配位する配位系材料であることを特徴とする亜鉛含有ナノ粒子の合成方法。
【請求項8】
請求項7に記載の亜鉛含有ナノ粒子の合成方法であって、
前記配位系材料は、前記亜鉛を含む化合物よりも分解温度が高く、前記第一のステップの反応温度で分解しないことを特徴とする亜鉛含有ナノ粒子の合成方法。
【請求項9】
請求項7に記載の亜鉛含有ナノ粒子の合成方法であって、
前記配位系材料がステアリン酸塩であることを特徴とする亜鉛含有ナノ粒子の合成方法。
【請求項10】
請求項9に記載の亜鉛含有ナノ粒子の合成方法であって、
元素Mは、Mnであって、前記配位系材料がステアリン酸マンガンであることを特徴とする亜鉛含有ナノ粒子の合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウルツ鉱構造のナノ粒子とその製造方法に関し、特に亜鉛以外の元素の導入率を高めたナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛(ZnO)やその混晶組成のナノ粒子は、可視から紫外にエネルギーギャップを持つため、太陽電池やガス・化学・生体センサ等のオプトエレクトロニクス材料として有望な材料である。さらに、ZnOナノ粒子に元素を添加することで、光学特性だけでなく、電気的特性、磁気特性、触媒効果などを大きく変えることができ、様々な分野で応用が期待されている。
【0003】
亜鉛ナノ粒子などの金属ナノ粒子の製造方法としては、金属錯体等の金属材料を液相で熱分解して合成する方法(熱分解法、錯体熱分解法とも言われる)が一般的であり、熱分解法により一種以上の金属を含むナノ粒子の合成方法も提案されている(特許文献1)。
【0004】
しかし、ZnOナノ粒子は、非混和性が高いため添加元素を粒子結晶内に均一に混合することが困難である。すなわち、ZnO1-xSx結晶は、熱力学的な安定性からO及びSを均一に含む結晶とすることが非常に困難であることが理論的に示されおり、1000K以下の温度においては、ZnO結晶に対するSの固溶限界は2%以下、同様にZnSに対するOの固溶限界は2%以下、と予測されている。従って、一般的な熱分解法による合成では、均一で高いO組成或いはS組成を持つZnO1-xSxナノ粒子を製造することは困難であり、x=0.02以下のZnO1-xSxとx=0.98のZnO1-xSxの二つの相に分離される。
【0005】
特許文献1には、反応系に塩基を導入することにより、GaをドープしたZnOナノ粒子を合成する技術が開示されているが、Gaドープ量はたかだか2.4原子%である(段落050)。
また非特許文献1には、異なる結晶系であるMnO(ロックソルト型)とZnO(ウルツ鉱型)との三元化合物(MnxZn1-xO)では、Mnの割合(x)が0.6を越えると理論的にウルツ鉱型の構造を安定的に保てないことが報告されている。さらに、三元化合物の酸素の一部を硫黄に置換した四元系では、ロックソルト型結晶(MnO)と、ウルツ鉱型結晶(ZnO)及び閃亜鉛鉱型結晶(ZnS)との混晶が生成しやすくなるため、単一のウルツ鉱型結晶を製造することは困難である。
【0006】
一方、非特許文献2には、非混和性の高いナノ粒子の混和性が、その粒子サイズを小さくすることによって高められことが報告されている。非特許文献1では、LiFePO4等のナノ粒子の数学的モデルを用いて、異なる相間の混和ギャップが粒子サイズを小さくすることにより縮むことを理論的に示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】「Novel phaze diagram behavior and materials design in hetrostructural semiconductor alloys」、Hoder et al., Science Advances 2017:3:e1700270
【文献】「Size-Dependent Spinodal and Miscibility Gaps for Intercalation in Nanoparticles」,Damian Burch, Nano Lett.,2009,9(11),3795
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、現在、ナノ粒子の製造に広く用いられている熱分解法によりZnOナノ粒子を合成した場合、原料に用いる化合物の種類によってサイズに違いがあるものの、粒子サイズ(平均粒子径)は18nm~200nm程度であり、混和性を高められると考えられる10nm以下のナノ粒子を合成することはできない。
【0010】
本発明は、従来の亜鉛含有ナノ粒子よりもサイズの小さい、具体的には10nm以下のナノ粒子を合成する方法を提供すること、亜鉛含有ナノ粒子を基本として、基本元素以外の元素を比較的高い割合で含む亜鉛含有ナノ粒子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明者らは熱分解法を基本とする亜鉛含有ナノ粒子の合成の条件について鋭意研究し、特定の反応条件及び添加剤を用いることで、従来得ることができなかった10nm以下のナノ粒子を製造できること、また亜鉛及び酸素以外の元素の含有率が高く、均一性の高い亜鉛含有ナノ粒子を製造できることを見出し、本発明に至ったものである。
【0012】
さらに本発明者らは、亜鉛と置換される元素を含む三元系あるいは四元系の亜鉛含有ナノ粒子について、置換元素の材料として、酸化亜鉛の結晶核が生成する初期の段階で結晶粒子の周囲に配位する材料を用いることにより、ウルツ鉱型の結晶系を保ちながら、亜鉛以外の元素の含有率が高い亜鉛含有ナノ粒子を製造できることを見出したものである。
【0013】
すなわち本発明の亜鉛含有ナノ粒子の合成方法は、亜鉛を含む化合物を溶媒中で熱分解してウルツ鉱型結晶構造の亜鉛含有ナノ粒子を合成する方法であり、反応系に、添加剤として、ポリオール系材料及びステアリン酸エチレングリコール系材料の少なくとも1種からなる第一の添加剤と、反応中に前記亜鉛含有ナノ粒子の表面に配位し、粒子サイズを抑制する第二の添加剤とを添加する。反応は、亜鉛を含む化合物から粒子を形成する温度より低い第一の温度で反応を行い、粒子結晶の核を生成する第一のステップと、前記第一の温度より高い第二の温度で、反応を継続し亜鉛含有ナノ粒子を生成する第二のステップとを含む。第一のステップは減圧下で行い、第二のステップは大気圧下で行うことが好ましい。
【0014】
さらに本発明の亜鉛含有ナノ粒子の合成方法は、上述した合成方法であって、且つ、前記反応系に、亜鉛を含む化合物及び亜鉛以外の元素Mを含む化合物を加えて反応を行い、酸化亜鉛の結晶格子における亜鉛及び/又は酸素の一部が元素Mで置換したMドープ酸化亜鉛ナノ粒子を合成し、その際、前記元素Mを含む化合物として、前記粒子結晶の核の周りに配位する配位系材料を用いることを特徴とする。配位系材料の代表的なものとして、ステアリン酸塩が挙げられる。
【0015】
また本発明の亜鉛含有ナノ粒子は、下記一般式で表されるウルツ鉱型結晶構造の亜鉛含有化合物のナノ粒子であって、
(Zn1-xM1
x)(O1-yM2
y)
(但し、M1は、Ga、In、Cu、Fe、Ni、Co、Mn、Mgから選ばれる1種以上の元素、M2は、S、Seから選ばれる1種以上の元素を表し、x及びyは、それぞれx≧0、y≧0を満たす。但しx=y=0を除く。)
平均粒子径が30nm以下である。
【0016】
また本発明の亜鉛含有ナノ粒子は、下記一般式で表されるウルツ鉱型結晶構造の亜鉛含有化合物のナノ粒子であって、
(Zn1-xMnx)(O1-yM2
y)
(但し、M2は、S、Seから選ばれる1種以上の元素で、x及びyは、それぞれ0.9>x≧0.2、y≧0を満たす。)である。
【0017】
なお本発明において「亜鉛含有ナノ粒子」とは、亜鉛酸化物、亜鉛硫化物または亜鉛硫酸化物など、亜鉛と酸素及び硫黄の少なくとも一方とを含む亜鉛化合物のナノ粒子、及び、それに加えて亜鉛/酸素/硫黄以外の元素を含む亜鉛化合物のナノ粒子を意味する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、所定の添加剤を組み合わせて結晶成長条件を制御することにより、熱分解法を基本として、従来の熱分解法では得られなかった10nm以下の亜鉛含有ナノ粒子を提供することができる。また本発明によれば、亜鉛含有ナノ粒子のサイズを10nm以下の極めて小さいサイズにすることにより、非混和性の高い元素を安定して結晶構造内に取り込むことができ、新規な3元以上の亜鉛含有ナノ粒子を提供することができる。
【0019】
さらに本発明によれば、亜鉛以外の元素の材料として、亜鉛含有ナノ粒子の結晶核が生成する反応の第一ステップにおいて、結晶粒子の周りに配位する配位系材料を用いることにより、ウルツ鉱の結晶構造を保ちながら、高い割合で亜鉛以外の元素を取り込んだ新規な亜鉛含有粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】(a)~(d)は、実施例1及び比較例1~3の酸化亜鉛ナノ粒子のTEM像を示す図。
【
図2】実施例1及び比較例1~3の酸化亜鉛ナノ粒子のXRDパターンを示すグラフ。
【
図3】(a)~(c)は、実施例2~4のM
1元素含有酸化亜鉛ナノ粒子のTEM像を示す図。
【
図4】実施例5(実験例1及び実験例2~6)のMn含有酸化亜鉛ナノ粒子のTEM像を示す図。
【
図5】実施例5のMn含有酸化亜鉛ナノ粒子及び酸化亜鉛のXRDパターンを示すグラフ。
【
図6】実施例6のMn含有酸化亜鉛ナノ粒子のTEM像を示す図。
【
図7】実施例6のMn含有酸化亜鉛ナノ粒子及び酸化亜鉛のXRDパターンを示すグラフ。
【
図8】実施例5及び実施例6のMn含有酸化亜鉛ナノ粒子のRietveld解析結果のグラフを示す図。
【
図9】実施例7のS含有酸化亜鉛ナノ粒子のTEM像を示す図。
【
図10】実施例8のSe含有酸化亜鉛ナノ粒子のTEM像を示す図。
【
図11】(a)、(b)は、実施例9、10の4元亜鉛含有ナノ粒子のTEM像を示す図。
【
図12】実施例11のMnZnOSナノ粒子のTEM像を示す図。
【
図13】実施例11のMnZnOSナノ粒子のXRDパターンを示すグラフ。
【
図14】実施例11のMnZnOSナノ粒子のRietveld解析結果のグラフを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の亜鉛含有ナノ粒子の合成方法の実施形態を説明する。
酸化亜鉛(ZnO)を基本として、Zn及びO以外の元素を添加する場合を説明する。合成に用いる亜鉛材料としては、酢酸亜鉛(Zn(AC)2)、ステアリン酸亜鉛(ST-Zn)、アセチルアセトナート亜鉛(Zn(ACAC)2)など亜鉛錯体を用いることができる。なおZn及びO以外の元素の原料として、後述する配位系の材料を用いる場合には、亜鉛材料は、それよりも分解温度の低い配位系ではない材料であることが好ましい。具体的には、アセチルアセトナート亜鉛が好適である。このような配位系ではない材料を用いることにより、結晶生成過程でウルツ鉱型の結晶核が優先的に生成され、他の結晶系の酸化物の生成を抑制することができる。
【0022】
Zn及びO以外の元素としては、S、Se、Ga、In、Cu、Fe、Ni、Co、Mn、Mgから選ばれる1種以上の元素を用いることができる。これら元素のうち、VI族の元素S、Seは、ウルツ鉱型の酸化亜鉛結晶構造において、酸素(O)を置換する形で酸化亜鉛ナノ粒子に取り込まれる。そしてS、Seを導入することで酸化亜鉛のエネルギーギャップを紫外から可視領域に変化させることができる。それ以外の元素(M1)はZn置換する形で酸化亜鉛ナノ粒子に取り込まれる。Ga、In、Cuを酸化亜鉛に導入することにより、透明性などの光学的な特性を変化させることができる。またFe、Ni、Co、Mnを酸化亜鉛に導入することにより、磁気的な性質を変化させることができる。
【0023】
酸化亜鉛に添加する元素の原料化合物は、元素によって適宜選択することができるが、Ga、In、Cu、Fe、Ni、Coの場合、例えば、塩化物、ヨウ化物、臭化物、硝酸塩、酢酸塩、ステアリン酸塩、アセチルアセトナートなどの塩或いは錯体を用いることができる。また、Mnは、ステアリン酸塩、酢酸塩、アセチルアセトナート、或いはトリオクチルホスフィン(TOP)錯体などが好ましく、特に亜鉛材料よりも分解温度が高く、合成反応の初期において、酸化亜鉛粒子の周囲に配位する配位系の材料が好ましく、中でもステアリン酸マンガンが好適である。このような配位系の材料を用いることにより、ウルツ鉱型とは異なる結晶構造を持つ金属酸化物の生成を抑制しつつ、当該金属元素のドープ量(亜鉛含有粒子中の含有割合)を増加させることができる。
【0024】
酸素(O)の一部を置換するVI族の元素(M2)については、ドデカンチオール、ヘキサデカンチオール等チオール系材料、1,1-ジメチルチオ尿素、1,3-ジメチルチオ尿素、1,1-ジエチルチオ尿素、1,3-ジエチルチオ尿素、1,1-ジブチルチオ尿素、1,3-ジブチルチオ尿素などのS含有有機化合物、硫黄粉末、1,1-ジメチルセレノ尿素、1,3-ジメチルセレノ尿素、1,1-ジエチルセレノ尿素、1,3-ジエチルセレノ尿素などのSe含有有機化合物を用いることができる。
【0025】
これら元素は、例えば、II族及びVI族以外の元素と、VI族の元素を同時に用いてもよく、それにより(Zn、M1)(OS)或いは(Zn、M1)(OSe)のような4元系の亜鉛含有ナノ粒子を合成することができる。
【0026】
亜鉛原料に対する原料化合物の割合(モル比)は、目的とするナノ粒子におけるドープ元素(M1、M2)の割合(原子%)に対応する量とする。元素やその組み合わせによっても異なるが、具体的には亜鉛または酸素に対し、20原子%以下であることが好ましい。ドープ元素の割合が過剰な場合には、酸化亜鉛のウルツ鉱型の結晶構造とは異なる晶系の結晶構造のものが生成される可能性がある。なおドープ元素(M1)がMnの場合には、上述したように、原料として配位系の材料を用いることにより、亜鉛に対し20原子%以上添加してもウルツ鉱型の結晶構造を保つことができる。具体的には、酢酸塩、アセチルアセトナート、トリオクチルホスフィン(TOP)錯体を用いた場合には、40原子%程度まで、ステアリン酸マンガンを用いた場合には、理論的にウルツ鉱型結晶構造をとることができないとされる62原子%を越え、90原子%近くまで高めることができる。
【0027】
添加剤には、結晶構造を維持する機能を持つ第一の添加剤と、生成するナノ粒子の結晶の表面に配位することで、結晶粒子の成長を抑制するサイズ制御剤として機能する第二の添加剤(以下、サイズ制御剤という)と、を用いる。
【0028】
第一の添加剤としては、ヘキサデカンジオール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチルグリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコール、ステアリルグリコール等のポリオール系材料、及び、ステアリン酸エチレングリコール系材料の少なくとも1種を用いる。これらのうち、特にエチレングリコールが好ましい。第一の添加剤の量は、極めて少量でよく、溶媒に対し0.5容量%程度とする。また添加量が多いと、反応系に留まらず突沸などの原因になるため、好ましくは1容量%以下、より好ましくは0.8容量%以下とする。
【0029】
サイズ制御剤としては、ZnO粒子のZnに配位する錯体であって嵩高いものが好ましく、例えば、トリオクチルホスフィン・スルフィド(以下、TOP:Sと記す)を用いることができる。TOP:Sは、トリオクチルホスフィンのリン原子(P)に硫黄(S)が配位結合によって結合した錯体であり、トリオクチルホスフィンと硫黄とから合成することができる。TOP:Sは硫黄を含む錯体であり、硫黄を含むナノ粒子の原料としては知られているが、本発明の反応においては、硫黄の供給源として機能することなく、ZnO粒子の表面に配位し、サイズを抑制する機能を持つことが本発明者らによって確認された。
【0030】
サイズ制御剤の量は、亜鉛原料に対しモル比で0.1~1.0、好ましくは0.2~0.8、より好ましくは約0.4~0.6とする。またトリオクチルホスフィンと硫黄で錯体を合成し、それを反応系に投入する場合、トリオクチルホスフィンを化学量論的な割合よりも多くすることが好ましい。これにより、余剰の硫黄が反応系に入り、意図しない酸素との置換が起こるのを防止できる。
【0031】
溶媒は、反応を比較的高温で行うため、沸点(b.p.)が反応温度より高い溶媒を用いる。具体的には、オレイルアミン(b.p.:350℃)やベンジルベンゾエート(b.p.:350℃)、1-オクタデセン(b.p.:179℃(15mmHg下))、オレイン酸(b.p.:360℃)、トリオクチルフォスフィンオキシド(b.p.:202℃(2mmHg下))、トリオクチルフォスフィン(b.p.:445℃)を用いることができる。特に高沸点のオレイルアミンが好適である。
【0032】
反応は、溶媒中(液相)で加熱して行う。この際、減圧下で比較的低い温度で反応させるステップ(第一のステップ)と不活性雰囲気下で比較的高い温度で反応させるステップ(第二のステップ)とを含む複数段階の反応を行い、段階ごとに反応時間や雰囲気などの条件を異ならせることが好ましい。具体的には、第一のステップでは、まずN2等の不活性雰囲気で100℃以下の温度(例えば70℃程度)で1時間以下の短時間保持したのち昇温し、減圧雰囲気下で200℃以下の温度(例えば130℃)で反応を進行させる。減圧雰囲気下の圧力は大気圧(約100kPa)の1/100以下とする。但し溶媒の突沸を防止するために15Pa以上とする。このような条件で、1~3時間程度保持したのち昇温し、再び不活性雰囲気下で200℃以上、溶媒の沸点以下の温度(例えば250℃)で1~2時間保持する(第二のステップ)。第一のステップから第二のステップの昇温レートは、限定されるものではないが、例えば50℃/5minとする。第二のステップの後、さらに温度を上げて(ただし溶媒の沸点以下)、短時間保持し反応を完了させる。
【0033】
このように反応を複数段階に分けることで、結晶粒子の成長を抑制し、極めてサイズの小さい、例えば10nm以下の亜鉛含有ナノ粒子を得ることができる。これは次のような理由によるものと考えられる。まず、100℃以下の温度(例えば70℃程度)で1時間以下の短時間保持することにより、材料が溶解し、反応溶液が均一化する。次の、減圧雰囲気下で200℃以下の温度(例えば130℃程度)で1~3時間程度保持するステップ(第一のステップ)では、粒子結晶の核が形成されていると考えられる。その次の、不活性雰囲気下で200℃以上、溶媒の沸点以下の温度(例えば250℃)で1~2時間保持するステップ(第二のステップ)では、粒子結晶の核から粒子が成長すると考えられる。その後、更に温度を上げて(ただし、溶媒の沸点以下)、短時間保持するステップでは、結晶性を高めるとともに、粒子内に均一に元素を添加されていると考えられる。
【0034】
また添加元素がMnであって、Mn材料が亜鉛材料よりも分解温度が高い配位系の材料の場合、第一のステップでウルツ鉱型の酸化亜鉛粒子の結晶核が生成すると、配位系材料が粒子表面に配位しながら分解と結晶成長が進むと考えられる。その結果、ウルツ鉱型酸化亜鉛の結晶構造を引き継ぎながら結晶成長が進行し、結晶構造を維持しながらMnドープMnZnO或いはMnZnOSを合成することが可能となる。特に配位系の材料がステアリン酸マンガンの場合、同じ配位系の溶媒であるオレイルアミンと同様にアルキル鎖を持つ材料であるため、粒子形成過程においてお互いが阻害されることなくい、粒子表面に配位できる。そのため、自発的な核生成や粒子成長が抑制され、ロックソルト(RS)型MnOの生成を抑えることができる。
【0035】
反応終了後は、降温後、一般的な熱分解法によるナノ粒子の回収方法と同様の方法で、ナノ粒子を回収する。具体的には、降温後の反応液にヘキサン等の所定の溶媒を加えて拡散した後、貧溶媒を加えて粒子を凝集させて遠心分離する。この処理は、必要に応じて複数回繰り返してもよい。最後に粒子洗浄を行って、ナノ粒子の分散液を得る。
【0036】
本発明の亜鉛含有ナノ粒子の製造方法によれば、反応系に所定の添加剤を添加するとともに、これら添加剤を機能させるように反応条件を段階的に異ならせることで、従来では得ることができないサイズ、10nm以下ないし10nm未満の亜鉛含有ナノ粒子を得ることができる。また亜鉛含有ナノ粒子の結晶構造内に、非混和性の高い、他の元素を取り込むことができ、他元素の割合を高めた亜鉛含有ナノ粒子を製造することができる。具体的には、他元素の割合を20原子%まで高めることができる。
【0037】
また本発明の亜鉛含有ナノ粒子の製造方法によれば、ドープ元素の材料として配位系材料を用いることにより、ウルツ鉱の結晶構造を維持しながらドープ元素のドープ量を高めることができる。例えば、ドープ元素がMnである場合に、配位系材料を用いることにより、Znに対するMnの割合を80原子%以上に高めることができる。
【0038】
以上、本発明の亜鉛含有化合物のナノ粒子の製造方法を、亜鉛及び酸素/硫黄以外の元素M1、M2を加える場合について説明したが、本発明の製造方法は、これら元素M1、M2を加えない場合、即ち、ZnOナノ粒子を製造する場合にも適用することが可能であり、それによって従来の熱分解法では得ることができないサイズ、10nm以下の酸化亜鉛ナノ粒子を熱分解法により得ることができる。
【0039】
本発明の亜鉛含有ナノ粒子は、従来にはない極めてサイズの小さいナノ粒子であり、数10nmオーダーの粒子とは異なる挙動を示し、従来の用途における新たな特性の付与や新たな用途への適用(例えば、透明光源、ガンマーカなどの生体ラベル、光活性のあるドラッグデリバリーシステムなど)が期待できる。また本発明の亜鉛含有ナノ粒子は、Zn以外の元素の割合が高く、ZnOやZnSからなるナノ粒子とは異なるエネルギーギャップを持ち、異なる物性(電気的特性、磁気特性、光学特性など)を備える。従って、ZnOナノ粒子の適用範囲の拡大が期待される。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の亜鉛含有化合物のナノ粒子の製造方法の実施例を説明する。以下の実施例において、元素の割合について示す「%」は、特に限定しない限り「原子%」である。
【0041】
<実施例1>
溶媒としてオレイルアミン10mL、亜鉛材料としてZn(ACAC)2 2.0mmol、第一の添加剤としてエチレングリコール(EG) 1.0mmol、サイズ制御剤としてTOP 1.2mmol及び硫黄 0.6mmolを用いた。
【0042】
容器(100mL)に材料を充填後、窒素雰囲気下で70℃に30分保持したのち、昇温し減圧雰囲気下で130℃2時間保持した。この時の圧力は、約100Pa(10Pa以上1000Pa以下)とした。その後、50℃/5分の昇温レートで、N2雰囲気下で250℃に2時間保持して合成を行った。
【0043】
降温後の反応液にヘキサンを5ml加え撹拌した後に遠沈管に回収した。貧溶媒であるエタノールを加えて粒子を凝集させ、遠心分離機を用いて沈降させた。分離条件は12,000rpmで、60分とした。上澄み液を廃棄した後、ヘキサンを5mL加えて振とう機で30分撹拌して粒子を分散させた。もう一度エタノールを加え、同様の工程をもう1回繰り返して粒子洗浄を行い、ZnO分散液を得た。
【0044】
得られた粒子の透過型電子顕微鏡像(TEM像)を
図1に、XRD回折パターンを
図2に示す。粒子の粒子径は、TEM像から3~7nmであることが確認された。またXRDから、ZnOのピークが確認され、ピークの半値幅から算出した平均粒子径は5nmであった。
【0045】
<比較例1~3>
添加剤(EG及びTOP:S)を加えない以外は実施例1と同様の方法でZnO粒子を合成した(比較例1)。また添加剤としてTOP:Sのみを加えた場合(比較例2)及びEGのみを加えた場合(比較例3)についても実施例1と同様の方法でZnO粒子を合成した。結果を実施例1の結果と併せて、
図2及び
図3に示す。
【0046】
また実施例1及び比較例1~3のZnO粒子について、TEM像及びXRDから求めた粒子径の結果を表1に示す。
【0047】
【0048】
表1に示す結果からもわかるように、第一の添加剤(EG)及び/またはサイズ制御剤(TOP:S)を添加していない場合は10nm以上のZnO粒子が析出しているのに対し、第一の添加剤及びサイズ制御剤の両方を添加した場合は平均粒径5nmのZnO粒子が析出していた。また
図2のXRDからもわかるように、実施例1のZnOのピークは、比較例1~3のピークに比べブロードで且つ強度が小さくなっており、粒子サイズが大幅に小さくなっていることが確認された。このように2種類の添加剤を加えることで初めて10nm未満の小さなZnO粒子を得ることができた。
【0049】
粒子サイズが10nm以下のZnOナノ粒子ができたことで、その他元素を添加した際の非混和性を解消することができると予想されたので、次に、ZnOへの固溶度が低く、非混和性の高い元素を添加した実施例を行った。
【0050】
<実施例2>
溶媒としてオレイルアミン10mL、亜鉛材料としてZn(ACAC)2 2.0mmol、Ga材料としてGa(ACAC)3 0.1mmol(5%)または0.2mmol(10%)を用いた。また第一の添加剤としてエチレングリコール(EG) 1.0mmol、サイズ制御剤としてTOP 1.2mmol及び硫黄 0.6mmolを用いた。
容器に材料充填後、窒素雰囲気下で70℃に30分保持したのち、昇温し減圧雰囲気下で130℃2時間保持した。この時の圧力は、約100Pa(10Pa以上1000Pa以下)とした。その後、50℃/5分の昇温レートで、N2雰囲気下で250℃に2時間保持し、さらに昇温してN2雰囲気下で300℃に15分保持して合成を行った。
【0051】
降温後の反応液にヘキサンを5mL加え撹拌した後に遠沈管に回収した。貧溶媒であるエタノールを加えて粒子を凝集させ、遠心分離機を用いて沈降させた。分離条件は12,000rpmで、60分とした。上澄み液を廃棄した後、ヘキサンを5mL加えて振とう機で30分撹拌して粒子を分散させた。もう一度エタノールを加え、同様の工程をもう1回繰り返して粒子洗浄を行い、GaZnO粒子を得た。
【0052】
得られたナノ粒子のTEM像を
図3(a)に示す。
図3(a)において、上側はGaの添加量が5%の場合、下側は添加量が10%の場合である。これらTEM像から測定したナノ粒子の粒子径は、3~4nmであり、10nm以下であることが確認された。またナノ粒子のXRD及びXRF測定を行い、Gaが材料の混合比通りに均一に結晶構造内に取り込まれていることを確認した。
【0053】
<実施例3、4>
Gaの代わりに、InまたはCuの原料を添加して、実施例2と同様に(ZnIn)O及び(ZnCu)Oのナノ粒子を合成した。原料として、Inを添加する場合(実施例3)はIn(AC)3を、Cuを添加する場合(実施例4)はCuCl2を、使用した。添加量は、いずれも、0.1mmol(5%)又は0.2mmol(10%)とした。
【0054】
得られたZnInOナノ粒子及びZnCuO粒子のTEM像を、それぞれ
図3(b)、(c)に示す。これら図面においても上側はInまたはCuの添加量が5%の場合、下側は添加量が10%の場合である。これらTEM像から、粒子径が10nm以下であることが確認された。またXRD及びXRF測定結果から、In或いはCuが材料の混合比通りに結晶構造内に取り込まれていることを確認した。実施例3において、Inの材料としてIn(AC)
3の代わりに、InI
3を用いた場合にも同様の結果が得られた。
【0055】
実施例2~4により、ZnO粒子が直径10nm以下になるように成長条件を制御することによって、非混和性の高いGa、In、CuをZnOの結晶構造内に取り込むことができることが確認された。Ga、In、Cuは、いずれもZnOの電気的特性を変化させる元素であり、これら元素を導入したナノ粒子はZnOの応用範囲を広げることが期待される。
【0056】
<実施例5>
溶媒としてオレイルアミン10mL、亜鉛材料としてZn(ACAC)2、Mn材料としてステアリン酸マンガン(st-Mn)を表2に示す割合で用いた(表中、st-Mnの%は、ZnとMnの合計に対するMnの割合(モル%)を表す)。また第一の添加剤としてエチレングリコール(EG) 1.0mmol、サイズ制御剤としてTOP 1.2mmol及び硫黄 0.6mmolを用いた。
【0057】
【表2】
それ以外は、実施例2と同様の反応条件で合成を行い、(ZnMn)Oのナノ粒子を合成した。
【0058】
得られたZnMnO粒子のTEM像を
図4に、XRDパターンを
図5に示す。
図5において、Mn添加量0%はウルツ鉱型ZnOのXRDパターンである。Mnの添加量が90%である実験例5及び100%である実験例6のMnO粒子は、
図4に示すTEM像から、ロックソルト型の結晶構造に特徴的な四角形の粒子であることがわかり、またXRDパターンでもロックソルト(RS)のピーク(42度付近及び58.5度付近)が観察された。一方、Mn材料の添加割合が80%以下では、いずれもTEM像からウルツ鉱型の球状粒子であることが確認され、XRDパターンにもロックソルトのピークはなくウルツ鉱構造が保たれていることが確認された。TEMから測定した粒子径は、Mnの割合が多くなるにつれて大きくなる傾向が見られ、40%以下では5nm以下、60%では8~10nm、80%では7~30nmであった。
【0059】
またZnMnO粒子の組成を、XRD及びXRF測定により分析した結果、原料におけるMnの割合が20%、40%、60%、80%において、生成した粒子におけるMnの割合(Zn1-xMnxのx×100)は、それぞれ、18.4%、40.1%、61.0%、85.7%であり、原料の混合比通りに結晶構造内に取り込まれていることを確認した。
【0060】
<実施例6>
Mnの原料として、ステアリン酸マンガンの代わりに、Mn(ACAC)3、Mn(ACAC)2、Mn(AC)2、TOP:Mnをそれぞれ用いて、実施例5と同様に、Mn原料の割合を20%、40%、60%及び80%と異ならせて、ZnMnO粒子を合成した。但し、TOP:Mnについては、Mnの割合が20%、60%の2つの実験例で合成を行った。
【0061】
得られたZnMnO粒子のTEM像及びXRDパターンを、
図6及び
図7に示す。
図6において、TEM像の下側にTEM像から算出した粒径を示す。また
図7のXRDの下側に、参考としてウルツ鉱型ZnOのパターン(点線四角)を示すとともに、ロックソルト(RS)型のMnOのピークが生じる領域を四角で囲って示す。
【0062】
これらの結果から、Mn(ACAC)3、Mn(ACAC)2、Mn(AC)2を用いた場合にはMnの割合が40%まで、またTOP:Mnを用いた場合にはMnの割合が20%まで、安定して粒子径10nm以下のウルツ鉱型ZnMnO粒子が得られることが確認された。また、XRDパターンから、Mnの割合が異なるいずれの実験例でも、生成しているウルツ鉱型ZnMnO粒子には、原料の混合比とほぼ同じ割合でMnが取り込まれていることが確認された。ただし、Mnの割合が60%以上の場合には、MnOの安定な結晶系であるロックソルト型の粒子も生成し、添加量に対するウルツ鉱型粒子生成量が低下していた。
【0063】
Mnの添加量ごとのウルツ鉱型ナノ粒子の生成量を、XRDパターンのRietveld解析によって算出した結果を、ステアリン酸マンガンを用いた実施例5の結果とともに
図8に示す。
図8の結果から、ステアリン酸マンガンを用いた場合に、Mn割合を最も高くすることができ、且つ他の結晶系の混入がないZnMnO粒子を得られることがわかる。
【0064】
以上、実施例5、6では、第四周期の元素の代表例としてMnをドープした亜鉛含有ナノ粒子の製造例と、それに好適なMn材料の検討結果を示したが、これら実施例5、6の結果から、Znと同じ第四周期の元素Mnについても、ZnOの結晶構造内に取り込むことが十分可能であることが確認された。MnやFe、Co、Niなどの元素は、ZnOの磁気的な性質を変化させる元素であり、磁気的用途での適用範囲を広げることが期待される。
【0065】
<実施例7>
溶媒としてオレイルアミン10mL、亜鉛材料としてZn(ACAC)2 2.0mmol、硫黄Sの材料として1,3-ジブチルチオ尿素を0.2mmol(10%)用いた。また第一の添加剤としてエチレングリコール(EG) 1.0mmol、サイズ制御剤としてTOP 1.2mmol及び硫黄 0.6mmolを用いた。
【0066】
容器に材料充填後、窒素雰囲気下で70℃に30分保持したのち、昇温し減圧雰囲気下で130℃に2時間保持した。この時の圧力は、約100Pa(10Pa以上1000Pa以下)とした。その後、50℃/5分の昇温レートで、N2雰囲気下で250℃に2時間保持し、さらに昇温してN2雰囲気下で300℃に15分保持して合成を行った。
【0067】
降温後の反応液にヘキサンを5mL加え撹拌した後に遠沈管に回収した。貧溶媒であるエタノールを加えて粒子を凝集させ、遠心分離機を用いて沈降させた。分離条件は12,000rpmで、60分とした。上澄み液を廃棄した後、ヘキサンを5mL加えて振とう機で30分撹拌して粒子を分散させた。もう一度エタノールを加え、同様の工程をもう1回繰り返して粒子洗浄を行い、ZnOS粒子を得た。
【0068】
得られたZnOS粒子(S:10%)のTEM像を
図9に示す。これらTEM像から測定した粒子径は3~4nmであった。またXRD及びXRF測定結果から、Sが材料の混合比通りに結晶構造内に取り込まれていることを確認した。
【0069】
<実施例8>
硫黄S材料の代わりに、セレンSe材料を用いて、実施例6と同様の方法で、ZnOSe粒子を合成した。Se材料として、Se(C(NH)2)2を0.1mmol(5%)又は0.2mmol(10%)を用いた。
【0070】
得られたZnOSe粒子のTEM像を
図10に示す。
図10左側が添加量5%の場合、右側が10%の場合である。これらTEM像から粒子径が10nm以下であることが確認された。またXRD及びXRF測定結果から、Seが材料の混合比通りに結晶構造内に取り込まれていることを確認した。
【0071】
実施例7、8の結果から、粒子サイズが10nm以下となる成長条件で反応させることにより、ZnOの結晶構造内の酸素についてもII族の元素で置換された結晶粒子が合成できることが確認された。ZnOの酸素をS又はSeで置換することにより、エネルギーギャップを紫外域から可視領域に変化させることができ、半導体としての利用範囲を広げることができる。
【0072】
<実施例9>
溶媒としてオレイルアミン10mL、亜鉛材料としてZn(ACAC)2 2.0mmol、Ga材料としてGa(ACAC)3 0.1mmol(5%)、硫黄Sの材料として1,3-ジブチルチオ尿素 0.2mmol(10%)を用いた。また第一の添加剤としてエチレングリコール(EG) 1.0mmol、サイズ制御剤としてTOP 1.2mmol及び硫黄 0.6mmolを用いた。
【0073】
容器に材料充填後、窒素雰囲気下で70℃に30分保持したのち、昇温し減圧雰囲気下で130℃2時間保持した。この時の圧力は、約100Pa(10Pa以上1000Pa以下)とした。その後、50℃/5分の昇温レートで、N2雰囲気下で250℃に2時間保持し、さらに昇温してN2雰囲気下で300℃に15分保持して合成を行った。
【0074】
降温後の反応液にヘキサンを5mL加え撹拌した後に遠沈管に回収した。貧溶媒であるエタノールを加えて粒子を凝集させ、遠心分離機を用いて沈降させた。分離条件は12,000rpmで、60分とした。上澄み液を廃棄した後、ヘキサンを5mL加えて振とう機で30分撹拌して粒子を分散させた。もう一度エタノールを加え、同様の工程をもう1回繰り返して粒子洗浄を行い、GaZnOS粒子(4元系結晶粒子)を得た。
【0075】
得られたGaZnOS粒子(Ga:5%、S:10%)のTEM像を
図11(a)に示す。このTEM像から測定した粒子径は3~4nmであった。またXRD及びXRF測定結果から、Ga及びSが材料の混合比通りに結晶構造内に取り込まれていることを確認した。
【0076】
<実施例10>
Ga材料の代わりに、In材料としてInI
3を用いた以外は実施例9と同様に、InZnOS粒子(4元系結晶粒子)を得た。得られたInZnOS粒子(In:5%、S:10%)のTEM像を
図11(b)に示す。このTEM像から測定した粒子径は5~6nmであった。またXRD及びXRF測定結果から、In及びSが材料の混合比通りに結晶構造内に取り込まれていることを確認した。
【0077】
<実施例11>
亜鉛材料としてZn(ACAC)2を(2-x)mmol(但し、xは0.4、0.8、1.2、1.6のいずれか)を用い、Mn材料としてMn(ACAC)3、Mn(ACAC)2、Mn(AC)2、ステアリン酸マンガン(st-Mn)、及びTOP:Mnのいずれかをxmmol用いた以外は、実施例9と同様にして、MnZnOS粒子(4元系結晶粒子)を合成した。但し、TOP:Mnについては、Mnの割合がx=0.4(20%)、1.2(60%)の2つの実験例で合成を行った。
【0078】
得られたMnZnOS粒子のTEM像及びXRDパターンを、
図12及び
図13に示す。
図12において、TEM像の下側にTEM像から算出した粒径を示し、ウルツ鉱型の粒子が概ね単一相で得られたTEM像を四角で囲って示している。また
図13のXRDの下側に、参考としてウルツ鉱型ZnOのパターン(点線四角)を示すとともに、ロックソルト(RS)型のMnOのピークが生じる領域を四角で囲って示す。
【0079】
図12及び
図13に示す結果からわかるように、いずれのMn材料を用いても、Mnの割合を20%とした場合には、ロックソルトのXRDピークは観察されず、概ね単一相のウルツ鉱型の10nm未満のナノ粒子が得られた。特にMn材料としてステアリン酸マンガン(st-Mn)を用いた場合には、Mnの割合を60%にしても、他の結晶系の粒子の混入が全くなく、均一な結晶構造のウルツ鉱型ナノ粒子が生成していることが確認された。またXRF測定により算出したナノ粒子におけるMnの割合(Zn+Mnに対する%)は、Mnの添加量を60%としたときに60.9%であり、ほぼ材料の混合比通りに結晶構造内に取り込まれていることを確認した。
【0080】
さらに、XRDパターンのRietveld解析により算出したウルツ鉱型ナノ粒子(MnZnOS)の生成量を、各Mn材料について、Mnの割合毎に示すグラフを
図14に示す。
図14の結果からも、Mn原料として、ステアリン酸マンガンを用いたときに、ウルツ鉱型の結晶系を保ちながらMnのドープ量を60%以上まで高められることがわかる。
【0081】
実施例9~11の結果から、ZnOのZn及びOの一部がそれぞれ異なる元素で置き換わった4元系の結晶についても、2種類の添加剤を用いるとともに成長条件を制御することで、混合割合で結晶中にZn及びO以外の元素が導入された結晶粒子が得られること、また平均粒子径が10nm未満の極めてサイズの小さいナノ粒子が得られることが確認された。このような4元系の結晶は、上述した二元系或いは三元系のナノ粒子の用途に加え、導電材料や蛍光体としても適用することができる。
【0082】
また実施例5、6及び11の結果から、ドープ元素がMnの場合、原料化合物として配位系材料、特にステアリン酸マンガンを用いることで、均一なウルツ鉱型の結晶構造を保ちながら、Mnドープ量を大幅に増加することができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によれば、光学材料、磁気材料、電気材料或いは蛍光体等として適用可能な新規なナノ粒子が提供される。