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  • 特許-ウルツ鉱型硫化物ナノ粒子の合成方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】ウルツ鉱型硫化物ナノ粒子の合成方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 9/00 20060101AFI20240422BHJP
   C01G 9/08 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
C01G9/00 Z
C01G9/08
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019205643
(22)【出願日】2019-11-13
(65)【公開番号】P2021075441
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-09-12
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】風間 拓也
(72)【発明者】
【氏名】田村 渉
(72)【発明者】
【氏名】三宅 康之
(72)【発明者】
【氏名】森山 健治
(72)【発明者】
【氏名】村松 淳司
(72)【発明者】
【氏名】蟹江 澄志
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-070423(JP,A)
【文献】特開2018-069399(JP,A)
【文献】特開2010-144032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 9/00
C01G 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも亜鉛を含むII族元素材料である酢酸亜鉛(Zn(AC))、ステアリン酸亜鉛(ST-Zn)、アセチルアセトナート亜鉛(Zn(ACAC))、塩化亜鉛(ZnCl)から選択される少なくとも一つと硫黄材料とを溶媒中で熱分解してウルツ鉱型結晶構造の硫化物ナノ粒子を合成する方法であって、
前記亜鉛を含むII族元素材料と硫黄材料との割合S/Zn比は、0.6以上2以下であり、
反応系に、添加剤として、ポリオール系材料及びステアリン酸エチレングリコール系材料の少なくとも1種からなる第一の添加剤と、反応中に前記ナノ粒子の表面に配位し、粒子サイズを抑制する第二の添加剤としてトリオクチルホスフィン・スルフィドとを添加し、
不活性雰囲気かつ減圧下で100℃以下の温度かつ1時間以下の時間保持し、その後200℃より低い第一の温度で反応を行う第一のステップと、
不活性雰囲気下で前記第一の温度より高い200℃以上かつ溶媒の沸点以下である第二の温度で、1~2時間反応を継続し硫化物ナノ粒子を生成する第二のステップと、を含むことを特徴とする硫化物ナノ粒子の合成方法。
【請求項2】
請求項1に記載の硫化物ナノ粒子の合成方法であって、
前記第二のステップは、大気圧下で反応を継続し硫化物ナノ粒子を生成するステップを含むことを特徴とする硫化物ナノ粒子の合成方法。
【請求項3】
請求項1に記載の硫化物ナノ粒子の合成方法であって、
前記第一の添加剤が、エチレングリコールであることを特徴とする硫化物ナノ粒子の合成方法。
【請求項4】
請求項1に記載の硫化物ナノ粒子の合成方法であって、
硫化亜鉛の化学量論的割合で、前記II族元素材料と前記硫黄材料(前記添加剤に含まれる硫黄を除く)とを用い、ワイヤー形状のナノ粒子を生成することを特徴とする硫化物ナノ粒子の合成方法。
【請求項5】
請求項1に記載の硫化物ナノ粒子の合成方法であって、
前記II族元素材料に対する前記硫黄材料(前記添加剤に含まれる硫黄を除く)の割合が、II族元素硫化物の化学量論的割合以上であって、球状のナノ粒子を生成することを特徴とする硫化物ナノ粒子の合成方法。
【請求項6】
請求項1に記載の硫化物ナノ粒子の合成方法であって、
前記II族元素材料に対する前記硫黄材料(前記添加剤に含まれる硫黄を除く)の割合が、硫化亜鉛の化学量論的割合よりも少なく、硫化物における硫黄の一部が酸素に置換されたナノ粒子を製造することを特徴とする硫化物ナノ粒子の合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウルツ鉱型(WZ型)硫化物ナノ粒子とその合成方法に関し、特に10nm以下のWZ型硫化亜鉛ナノ粒子を高純度で製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
II-VI族化合物半導体材料である硫化亜鉛や、及び硫化亜鉛に酸素を添加したZnOSのナノ粒子は、可視から紫外にエネルギーギャップを持つため、蛍光体、EL(エレクトロルミネッセンス)材料、太陽電池、ガス・化学・生体センサ等のオプトエレクトロニクス材料として有望な材料である。
【0003】
一般に半導体ナノ粒子は、粒子サイズをボーア半径以下にすることで量子効果が発現し、エネルギーギャップを広げることができる。ZnSは、ボーア半径が2.5nmであり、粒子サイズを5nm以下にすることで、発光・受光材料として幅広い波長範囲を実現することができる。硫化亜鉛ナノ粒子の合成方法としては、化学合成による製造方法が確立されており、5nm以下の硫化亜鉛ナノ粒子の製造例が例えば特許文献1に報告されている。特許文献1に記載された技術では、合成時の添加剤として有機カルボン酸、有機窒素化合物或いは有機硫黄化合物等の界面活性剤を用いて、ナノ粒子表面に化学結合させることにより、粒子径をコントロールすることが開示されている。
【0004】
ところでZnSは、安定な結晶構造として閃亜鉛鉱型と呼ばれる立方晶系の構造結晶と、準安定な結晶構造としてウルツ鉱型の六方晶系の結晶構造とが知られている。立方晶系の硫化亜鉛は、対称性が高いため結晶内の欠陥などが伝播されやすく熱や湿度などによる劣化が激しいのに対し、ウルツ鉱型の硫化亜鉛は閃亜鉛鉱型に比べ対称性が低いため、欠陥の伝播などが抑制され高い信頼性を持つ光学材料として期待されている。
【0005】
ウルツ鉱型の硫化亜鉛は、閃亜鉛鉱型の硫化亜鉛を1020℃以上の温度で熱処理することで得られることが知られているが、従来のナノ粒子の合成方法(例えば特許文献1記載の合成方法)では、安定な結晶構造である閃亜鉛鉱型の硫化亜鉛が生成し、ウルツ鉱型の硫化亜鉛ナノ粒子を得ることはできない。
【0006】
一方、硫化亜鉛に酸素を混晶化したZnOS粒子は、酸素の添加量を変化させることで、幅広くエネルギーギャップを変化させることが期待されるが、ZnS粒子は非混和性が高いため添加元素を粒子内に均一に混合を添加することが困難である。具体的には、1000K以下の温度では、ZnSへの酸素の固溶限界は5%以下と予測されており、従来の合成方法で酸素の比率を高めた場合、ZnOの相とZnSの相に分離してしまい、均一で高い酸素組成を持つZnOSナノ粒子を得ることはできていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-233845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の第一の課題は、化学合成によってウルツ鉱型の硫化物ナノ粒子を合成すること、第二の課題は、均一で高い酸素組成を持つZnOSナノ粒子を合成することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意研究した結果、亜鉛材料及び硫黄材料との化学合成によって硫化亜鉛ナノ粒子を合成する際に、添加剤として2種類の添加剤を同時に用いることによって、ウルツ鉱型であって平均粒子径が10nm以下の硫化亜鉛ナノ粒子が得られること、さらに、亜鉛材料と硫黄材料との比率を調整することで、ウルツ鉱型の均一な結晶構造を持つZnOSナノ粒子が得られることを見出し、本発明に至ったものである。
【0010】
なお本明細書において、硫化物ナノ粒子は、II族元素の硫化物からなるナノ粒子とそれに他元素をドープした硫化物ナノ粒子とを含めていう。
【0011】
即ち、本発明の第一の態様は、少なくとも亜鉛を含むII族元素材料と硫黄材料とを溶媒中で熱分解してウルツ鉱型結晶構造の硫化物ナノ粒子を合成する方法であって、反応系に、添加剤として、ポリオール系材料及びステアリン酸エチレングリコール系材料の少なくとも1種からなる第一の添加剤と、反応中に前記ナノ粒子の表面に配位し、粒子サイズを抑制する第二の添加剤とを添加することを特徴とする。
【0012】
また本発明の第二の態様は、下記一般式で表されるウルツ鉱型結晶構造の硫化物ナノ粒子であって、
(Zn)(S1-x
(但し、x>0)
平均粒子径が10nm以下である硫化物ナノ粒子である。
【0013】
また下記一般式で表されるウルツ鉱型結晶構造の硫化物ナノ粒子であって、
Zn(S1-x
(但し、0.4>x≧0)
短径4nm以下、長径50nm以下、アスペクト比5以上25以下のワイヤー状の硫化物ナノ粒子である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、光学特性等の信頼性の高いウルツ鉱型の硫化物ナノ粒子を合成することができる。また本発明によれば、結晶中の硫黄を比較的高い比率で酸素に置換した硫化物ナノ粒子が提供される。これにより硫化亜鉛のエネルギーギャップのコントロールが可能となり、用途の幅を広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(A)は、実施例1の硫化亜鉛ナノ粒子のTEM像を示す図、(B)は比較例1の硫化亜鉛ナノ粒子のTEM像を示す図
図2】実施例1及び比較例1のXRDパターンを示す図
図3】(A)は、実施例2の硫化亜鉛ナノ粒子のTEM像を示す図、(B)は実施例3の硫化亜鉛ナノ粒子のTEM像を示す図
図4】実施例1、2、3及び参考例のXRDパターンを示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の硫化物ナノ粒子の合成方法について説明する。
本発明の硫化物ナノ粒子の合成方法は、II族元素(Mと記載する)材料及び硫黄材料との化学合成によって硫化物ナノ粒子(MS、MOS)を合成する際に、添加剤として2種類の添加剤を同時に用いる。
【0017】
II族元素(M)としては、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)が挙げられ、これらの錯体を用いることが好ましい。例えば、亜鉛材料としては、酢酸亜鉛(Zn(AC))、ステアリン酸亜鉛(ST-Zn)、アセチルアセトナート亜鉛(Zn(ACAC))、塩化亜鉛(ZnCl)など亜鉛錯体を用いることができ、特にアセチルアセトナート亜鉛が好ましい。カドミウムについても同様にジステアリン酸カドミウムやアセチルアセトナートカドミウム、塩化カドミウムなどの錯体を用いることができる。以下の説明では、II族元素がZnである場合を例に説明する。
【0018】
硫黄材料としては、ドデカンチオール、ヘキサデカンチオール等チオール系材料、1,1-ジメチルチオ尿素、1,3-ジメチルチオ尿素、1,1-ジエチルチオ尿素、1,3-ジエチルチオ尿素、1,1-ジブチルチオ尿素、1,3-ジブチルチオ尿素、チオアセトアミド、テトラメチルチオ尿素などのS含有有機化合物や、硫黄粉末を用いることができる。特に、1,1-ジブチルチオ尿素、或いは、1,3-ジブチルチオ尿素が好ましい。
【0019】
II族元素材料(亜鉛材料)と硫黄材料との割合は、硫化物ナノ粒子の化学量論的割合とすることができるが、S/Zn比を制御することで、同時にナノ粒子の形状をワイヤー状から球状に制御することができる。具体的にはS/Zn比が1のときに、短辺が2~4nm、長辺が5~50nm、アスペクト比5~25のワイヤー状粒子を製造することができ、S/Zn比が2のときに粒子径2~5nm、アスペクト比5以下の球状粒子を製造することができる。ワイヤー状の粒子は、長辺方向を揃えることで、その形状に依存して偏光性を持たせることができ、従来の球状粒子とは異なる光学用途に応用することができる。
【0020】
一方、S/Zn比を1未満、即ちSの量をZnより少なくすることで、Sの一部が酸素に入れ替わった硫化物ナノ粒子を得ることができる。具体的には、S/Zn比をy(但し、1>y)とすることで、不足したS分だけOが取り込まれる。この場合、S/Znが0.4以下になると、ZnSの相とZnOの相とが混在した硫化物ナノ粒子が生成するため、S/Zn比は0.4より多いことが好ましく、0.6以上であることがより好ましい。S/Znを0.6以上とすることで、サイズ10nm以下のナノ粒子を得ることができる。
【0021】
2種の添加剤の一つ、第一の添加剤としては、ヘキサデカンジオール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチルグリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコール、ステアリルグリコール等のポリオール系材料、及び、ステアリン酸エチレングリコール系材料の少なくとも1種を用いる。これらのうち、特にエチレングリコールが好ましい。第一の添加剤の量は、極めて少量でよく、溶媒に対し0.5容量%程度とする。また添加量が多いと、反応系に留まらず突沸などの原因になるため、好ましくは1容量%以下、より好ましくは0.8容量%以下とする。
【0022】
第二の添加剤としては、ZnS粒子のZnに配位する錯体であって嵩高いものが好ましく、例えば、トリオクチルホスフィン・スルフィド(以下、TOP:Sと記す)を用いることができる。TOP:Sは、トリオクチルホスフィンのリン原子(P)に硫黄(S)が配位結合によって結合した錯体であり、トリオクチルホスフィンと硫黄とから合成することができる。TOP:Sは硫黄を含む錯体であり、硫黄を含むナノ粒子の原料としては知られているが、本発明の反応においては、硫黄の供給源として機能するのではなく、第一の添加剤との併用によって、ウルツ型の結晶構造を維持しながら、粒子のサイズを抑制する機能を持つものと考えられる。
【0023】
第二の添加剤の量は、亜鉛原料に対しモル比で0.1~1.0、好ましくは0.2~0.8、より好ましくは約0.4~0.6とする。またトリオクチルホスフィンと硫黄で錯体を合成し、それを反応系に投入する場合、トリオクチルホスフィンを化学量論的な割合よりも多くすることが好ましい。これにより、余剰の硫黄が反応系に入り、意図しない酸素との置換が起こるのを防止できる。
【0024】
溶媒は、反応を比較的高温で行うため、沸点(b.p.)が反応温度より高い溶媒を用いる。具体的には、オレイルアミン(b.p.:350℃)やベンジルベンゾエート(b.p.:350℃)、1-オクタデセン(b.p.:179℃(15mmHg下))、オレイン酸(b.p.:360℃)、トリオクチルフォスフィンオキシド(b.p.:202℃(2mmHg下))、トリオクチルフォスフィン(b.p.:445℃)を用いることができる。特に高沸点のオレイルアミンが好適である。
【0025】
反応は、溶媒中(液相)で加熱して行う。この際、減圧下で比較的低い温度で反応させるステップ(第一のステップ)と不活性雰囲気下で比較的高い温度で反応させるステップ(第二のステップ)とを含む複数段階の反応を行い、段階ごとに反応時間や雰囲気などの条件を異ならせることが好ましい。
【0026】
第一のステップの反応温度は、200℃以下とすることが好ましい。200℃以下とすることにより、閃亜鉛鉱型の結晶が生成するのを抑制することができる。
【0027】
第一のステップは、例えば、まずN等の不活性雰囲気で100℃以下の温度(例えば70℃程度)で1時間以下の短時間保持したのち昇温し、減圧雰囲気下で200℃以下の温度(例えば130℃)で反応を進行させる。減圧雰囲気下の圧力は大気圧(約100kPa)の1/100以下とする。但し溶媒の突沸を防止するために15Pa以上とする。減圧雰囲気、200℃以下で行う反応の反応時間は、1~3時間程度とする。
【0028】
第二のステップは、不活性雰囲気下で第一ステップの反応温度より高い温度、200℃以上で且つ溶媒の沸点以下の温度(例えば250℃)で1~2時間保持する。第一のステップから第二のステップの昇温レートは、限定されるものではないが、例えば50℃/5minとする。第二のステップでは、第一のステップで生成した結晶の核を成長させる。第一のステップで六方晶系(WZ型)の結晶の核が生成していれば、その後、温度を上昇させても結晶系は保たれ、温度を上げることで残りの反応を速やかに進めることができる。第二のステップの後、さらに温度を上げて(ただし溶媒の沸点以下)、短時間保持してもよく、これにより速やかに反応を完了させることができる。
【0029】
反応終了後は、降温後、一般的な熱分解法によるナノ粒子の回収方法と同様の方法で、ナノ粒子を回収する。具体的には、降温後の反応液にヘキサン等の所定の溶媒を加えて拡散した後、貧溶媒を加えて粒子を凝集させて遠心分離する。この処理は、必要に応じて複数回繰り返してもよい。最後に粒子洗浄を行って、ナノ粒子の分散液を得る。
【0030】
本発明の硫化物ナノ粒子の製造方法によれば、反応系に2種類の添加剤を添加することにより、ナノ粒子の結晶系の制御と非混和性の緩和という複数の課題を一挙に解決することができ、これにより、従来の化学合成では生成することができなかったサイズ10nm以下のウルツ鉱型の硫化物ナノ粒子を提供することができる。また他元素の取り込みについては、硫化物の酸素濃度を40原子%程度まで高めることができる。
【0031】
本発明の硫化物ナノ粒子の製造方法により得られる代表的な硫化物ナノ粒子は、粒子サイズ10nm以下のウルツ鉱型結晶構造のZn(O1-x)(但し、0.4>x>0)ナノ粒子、及び、短径4nm以下、長径50nm以下、アスペクト比5以上25以下のワイヤー状のZn(O1-x)(但し、0.4>x≧0)ナノ粒子を含む。
【実施例
【0032】
以下、本発明の硫化物ナノ粒子の合成例を説明する。
【0033】
<実施例1>
溶媒としてオレイルアミン10mL、亜鉛材料としてZn(ACAC) 2.0mmol、硫黄材料として1,3-ジブチルチオ尿素 2.0mmolを用い、第一の添加剤としてエチレングリコール(EG) 1.0mmol、第二の添加剤としてTOP-S(TOP 1.2mmol及び硫黄 0.6mmol)を用いた。なお亜鉛材料と硫黄材料(TOP-Sを除く)のS/Zn比は1である。
【0034】
容器(100mL)に材料を充填後、窒素雰囲気下で70℃に30分保持したのち、昇温し減圧雰囲気下で130℃に2時間保持した。この時の圧力は、約100Pa(10Pa以上1000Pa以下)とした。その後、50℃/5分の昇温レートで昇温し、N雰囲気下で250℃に2時間保持した後、さらに昇温してN雰囲気下で300℃に保持して合成を行った。
【0035】
降温後の反応液にヘキサンを5ml加え撹拌した後に遠沈管に回収した。貧溶媒であるエタノールを加えて粒子を凝集させ、遠心分離機を用いて沈降させた。分離条件は12,000rpmで、60分とした。上澄み液を廃棄した後、ヘキサンを5mL加えて振とう機で30分撹拌して粒子を分散させた。もう一度エタノールを加え、同様の工程をもう1回繰り返して粒子洗浄を行い、ZnSナノ粒子の分散液を得た。
【0036】
<比較例1>
2種の添加剤を用いないこと以外は、実施例1と同様にして、硫化亜鉛ナノ粒子を合成した。
【0037】
実施例1及び比較例1で、それぞれ得られた粒子の透過型電子顕微鏡像(TEM像)を図1(A)、(B)に示す。図1(A)に示すように、粒子の形状はワイヤー状であり、短径が2~3nm、長径が20~50nmであることが確認された。一方、添加剤を用いない場合には、図1(B)に示すように、粒子サイズ4~5nmの球状の粒子が得られた。
【0038】
また実施例1及び比較例1で得られた粒子のXRD回折パターンを図2に示す。図2に示すように、比較例1の粒子は、立方晶系の(111)、(220)及び(311)の3つのピークが見られ、閃亜鉛鉱型の硫化亜鉛であることが確認された。一方、実施例1の粒子は、六方晶系の(100)(002)(101)(102)(110)(103)(112)の6つのピークが見られ、ウルツ鉱型のZnSであることが確認された。
【0039】
<実施例2、3及び参考例>
硫黄材料である1,3-ジブチルチオ尿素の使用量を、1.6mmol(実施例2)、1.2mmol(実施例3)、及び0.8mmol(参考例)に、それぞれ変えて、それ以外は、実施例1と同様にして、硫化亜鉛ナノ粒子を合成した。
【0040】
実施例2及び実施例3のTEM像を図3に、実施例2、3及び参考例のXRDを図4に示す。TEM像から、実施例2、3のいずれにおいても、球状のナノ粒子が確認され、粒子サイズはそれぞれ2~3nm(実施例2)、3~4nm(実施例3)であった。またXRDパターンから、実施例2、3のナノ粒子は均一なウルツ鉱型のZnOS粒子であることが確認された。さらにXRD分析の結果、実施例1を硫黄材料濃度100%としたとき、硫黄材料濃度80%である実施例2はZnO0.10.9が生成され、硫黄材料濃度60%である実施例3はZnO0.20.8が生成され、いずれも原料の使用量に応じてZnOS粒子の硫黄が酸素に置き換わった粒子であることが確認された。一方、参考例(硫黄材料濃度40%)では、ウルツ鉱型のZnOSはほとんど生成されず、図4のXRDパターンからわかるように、立方晶系であるZnSのピークと六方晶ZnOのピークが観察された。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、光学材料、磁気材料、電気材料或いは蛍光体等として適用可能な新規なナノ粒子が提供される。
図1
図2
図3
図4