(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】熱輸送装置、及び電子機器
(51)【国際特許分類】
F25B 21/00 20060101AFI20240422BHJP
H01L 23/467 20060101ALI20240422BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
F25B21/00 A
H01L23/46 C
H05K7/20 M
(21)【出願番号】P 2019215795
(22)【出願日】2019-11-28
【審査請求日】2022-08-25
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】青谷 貴治
(72)【発明者】
【氏名】政田 陽平
【審査官】関口 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-070455(JP,A)
【文献】特開2014-134335(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 21/00
H01L 23/467
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粒子及び溶媒を含有する組成物が流れる流路、前記組成物に磁場を印加する磁場印加部、並びに前記組成物の一部を加熱する発熱源の配置部を持つ断熱部を有し、
前記発熱源と前記磁場印加部との間に前記断熱部が配置され、
前記発熱源と前記流路との間に前記断熱部が配置されていない領域と、断熱部が配置されている領域があり、
前記発熱源と前記流路の接する領域が、前記断熱部が配置されていない領域であることを特徴とする熱輸送装置。
【請求項2】
前記断熱部が、断熱材を含む請求項1に記載の熱輸送装置。
【請求項3】
前記断熱材の熱伝導率が、1.0W/mK未満である請求項
2に記載の熱輸送装置。
【請求項4】
前記断熱材が、セメント、プラスチック、ゴム、無機質繊維材、及び木質繊維材からなる群より選択される少なくとも1種である請求項
2又は
3に記載の熱輸送装置。
【請求項5】
前記断熱材が、プラスチック、ゴム、及び無機質繊維材からなる群より選択される少なくとも1種である請求項
4に記載の熱輸送装置。
【請求項6】
前記磁場印加部の磁極の向きが、前記流路の配置方向に沿っている請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の熱輸送装置。
【請求項7】
前記流路の一部を冷却する冷却部を有する請求項1乃至
6のいずれか1項に記載の熱輸送装置。
【請求項8】
請求項1乃至
7のいずれか1項に記載の熱輸送装置、及び発熱源を有することを特徴とする電子機器。
【請求項9】
前記発熱源が、半導体素子、光源、又は太陽光である請求項
8に記載の電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱輸送装置、及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器の冷却には、ヒートパイプなどの熱輸送装置が用いられている。一般に、ヒートパイプとは、媒体を含むパイプの一部を加熱することで生じる媒体の相変化を利用して熱を輸送する熱輸送装置のことである。しかし、電子機器の小型化に伴い、発熱密度(発熱量を表面積で除した値)が高くなるため、従来の熱輸送装置を用いても、電子機器の処理速度の低下や発熱による故障が生じてしまう。そのため、電子機器の大きさに合わせて小型で、かつ、熱輸送するための高い駆動力を有する熱輸送装置が求められている。
【0003】
特許文献1には、磁性流体が封入された循環流路、循環流路に配された磁場印加部及び放熱部、放熱の対象となる熱源、磁場印加部近傍に熱源の熱を伝える熱伝導部、並びに熱伝導部と磁場印加部の間に設けられた断熱部を備えた磁性流体熱機関が記載されている。具体的には、磁性流体熱機関は、熱源と磁場印加部との間に熱伝導部と循環流路を設けた構成をとっている(特許文献1の
図3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らの検討の結果、特許文献1に記載の磁性流体熱機関は、熱源と磁場印加部との間に熱伝導部と循環流路を設けた構成をとっているため、装置の小型化がいまだ不十分であることが判明した。
【0006】
したがって、本発明の目的は、装置の小型化のため、熱源と磁場印加部を近くに配置する場合に、熱による磁場印加部の減磁を抑制することが可能な熱輸送装置を提供することにある。また、本発明の別の目的は、熱による磁場印加部の減磁を抑制することが可能な電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、磁性粒子及び溶媒を含有する組成物が流れる流路、前記組成物に磁場を印加する磁場印加部、並びに前記組成物の一部を加熱する発熱源の配置部を持つ断熱部を有し、
前記発熱源と前記磁場印加部との間に前記断熱部が配置され、
前記発熱源と前記流路との間に前記断熱部が配置されていない領域と、断熱部が配置されている領域があり、
前記発熱源と前記流路の接する領域が、前記断熱部が配置されていない領域であることを特徴とする熱輸送装置に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、装置の小型化のため、熱源と磁場印加部を近くに配置する場合に、磁場印加部の熱による減磁を抑制することが可能な熱輸送装置、及び電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】組成物による熱輸送の原理を説明する図である。
【
図2】本発明の熱輸送装置の概略を示す模式図である。
【
図3】
図2の熱輸送装置の磁場印加部を詳細に示す模式図である。
【
図4】本発明における断熱部の効果について説明する図である。
【
図5】組成物にかかる引力を測定する方法を説明する図である。
【
図6】本発明の熱輸送装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に述べる。各種の物性値は、特に断りのない限り、温度25℃における値である。
【0012】
本発明の熱輸送装置は、磁性粒子及び溶媒を含有する組成物が流れる流路、組成物に磁場を印加する磁場印加部、並びに組成物の一部を加熱する発熱源の配置部を持つ断熱部を有する。そして、発熱源と磁場印加部との間に断熱部が配置されている。このような熱輸送装置を用いることで、発熱源と磁場印加部を近くに配置する場合でも、発熱源に配置された断熱部により、熱による磁場印加部の減磁を抑制することが可能となる。
【0013】
図1は、組成物による熱輸送の原理を説明する図である。以下、組成物による熱輸送の原理を詳細に説明する。熱輸送装置の一例としては、組成物1が流れる流路10、及び組成物1に磁場を印加する磁場印加部3、及び組成物1の一部を加熱する発熱源2を有する(
図1(a)参照)。ここで、
図1において、流路中で組成物が流れる方向を矢印Xで示している。
【0014】
図1(a)において、組成物1に磁場印加部3により磁場Hが印加されると、組成物1は、磁化Mを有する流体としてふるまう。ここで、磁場Hが印加された組成物には、磁化Mと磁場勾配▽Hに比例する磁気体積力F(M・▽H)が働く。加熱前では、磁場印加部3の中心(点線部分)を境界として、組成物に働く磁気体積力F1とF2がつりあっていて、組成物が流れない(
図1(b)参照)。しかし、加熱中では、磁場印加部の中心を境界として右側、すなわち、発熱源2により加熱された組成物に働く磁気体積力F2は、加熱による磁性粒子の磁化Mの低下により、小さくなる。これにより、加熱中では、磁気体積力F1>磁気体積力F2となり、組成物がX方向に流れることとなる。
【0015】
<熱輸送装置>
図2は、本発明の熱輸送装置の概略を示す模式図である。
図2において、流路10中で組成物1が流れる方向を矢印Xで示している。熱輸送装置は、磁性粒子及び溶媒を含有する組成物1が流れる流路10、組成物1に磁場を印加する磁場印加部3、組成物1の一部を加熱する発熱源2、及び発熱源2の配置部を持つ断熱部を有する。
【0016】
以下、流路10、発熱源2、磁場印加部3、及び断熱部4について、
図3を用いて詳細に説明する。
図3は、
図2の熱輸送装置の磁場印加部を詳細に示す模式図である。
図3(a)は、
図2の熱輸送装置の磁場印加部の周辺を拡大した図であり、
図3(b)は、発熱源2側から磁場印加部3を見た図であり、
図3(c)は、流路10内で組成物1が流れる方向から磁場印加部3を見た図である。
【0017】
[流路10]
流路10には、銅管、アルミ管、テフロン(登録商標)チューブ、シリコンチューブ、ゴムチューブなどが用いられる。装置内の場所によって、流路の材質を使い分けることが好ましい。流路内で加熱される部分や冷却される部分など熱の入出力を行う箇所においては、銅管やアルミ管などの熱伝導性に優れた流路を用いることで、効率的に熱の入出力を行うことが可能となる。その他の箇所においては、自由に配管でき、かつ、流抵抗を下げて流量を多くすることができるテフロンチューブを用いることが好ましい。
【0018】
流路10の断面の内径の直径は、1mm以上20mm以下であることが好ましく、2mm以上10mm以下であることがさらに好ましい。ここで、流路の断面の内径の直径は、等価直径のことである。等価直径dは、4×(流路の断面積)×(濡れ縁の長さ)の式から算出できる。内径の直径が1mm未満であると、流路内の流抵抗が大きくなり、効率的な熱輸送に必要な流量が得られにくい場合がある。内径の直径が20mmを超えると、流路内で乱流が発生しやすく、流路内で熱が効率よく伝わりにくくなる場合がある。また、内径の直径が20mmを超えると、熱輸送装置が大型化してしまう。
【0019】
[発熱源2]
発熱源2の一部は、
図3(a)に示すように、流路10を介して磁場印加部3の反対側に配置されていることが好ましい。
【0020】
[磁場印加部3]
磁場印加部3は、磁場強度の極大点が1個になるように配置されている。磁場印加部3に含まれる磁石として、永久磁石や電磁石などが挙げられる。永久磁石としては、フェライト磁石、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石などが挙げられる。特に、高磁場を発生させることができるネオジム磁石や、耐熱性の高いサマリウムコバルト磁石を用いることが好ましい。
【0021】
磁場印加部の磁極の向きは、流路の配置方向に沿っていることが好ましい。ここで、「磁石の磁極の向きが流路の配置方向に沿うこと」とは、磁石の磁極の向きと流路の配置方向との交差角が±10°以下であることを示している。
【0022】
[断熱部4]
断熱部4は、発熱源2の配置部を持ち、発熱源2と磁場印加部3が接しないように、発熱源2と磁場印加部3との間に配置されている。
図4は、発熱部と磁場印加部との間の断熱部の有無による熱輸送効率の差を説明する図である。
【0023】
図4(a)は、発熱源2と磁場印加部3との間に断熱部4を配置しない場合の磁気体積力の関係を示し、
図4(b)は、発熱源2と磁場印加部3との間に断熱部4を配置する場合の磁気体積力の関係を示している。
【0024】
発熱源2と磁場印加部3との間に断熱部4を配置しない場合、加熱前では、磁場印加部3の中心(点線部分)を境界として、組成物に働く磁気体積力F1aとF2aがつりあっていて、組成物が流れない(
図4(a)参照)。しかし、加熱中では、磁場印加部の中心を境界として右側、すなわち、発熱源2により加熱された組成物に働く磁気体積力F2aは、加熱による磁性粒子の磁化Mの低下により、小さくなる。これにより、加熱中では、磁気体積力F1a’>磁気体積力F2a’となり、組成物1がX方向に流れる(
図4(a)参照)。
【0025】
また、発熱源2の熱により、磁場印加部の中心を境界として左側、すなわち、N極側の磁石の減磁が生じる。これにより、加熱前の磁気体積力F1aよりも加熱中の磁気体積力F1a’の方が小さくなっていることが分かる。
【0026】
発熱源2と磁場印加部3との間に断熱部4を配置する場合、加熱前では、磁場印加部3の中心(点線部分)を境界として、組成物に働く磁気体積力F1bとF2bがつりあっていて、組成物が流れない(
図4(b)参照)。しかし、加熱中では、磁場印加部の中心を境界として右側、すなわち、発熱源2により加熱された組成物に働く磁気体積力F2bは、加熱による磁性粒子の磁化Mの低下により、小さくなる。これにより、加熱中では、磁気体積力F1b’>磁気体積力F2b’となり、組成物1がX方向に流れる(
図4(b)参照)。
【0027】
また、発熱源2の熱と磁場印加部3との間に断熱部4を配置することで、発熱源の熱による、磁場印加部の中心を境界として左側、すなわち、N極側の磁石の減磁が生じにくい。そのため、加熱前の磁気体積力F1bと加熱中の磁気体積力F1b’は、変化しにくく、F1b’-F2b’>F1a’-F1b’の関係が成り立つ。これにより、発熱源2と磁場印加部3との間に断熱部4を配置しない場合と比べて、発熱源2と磁場印加部3との間に断熱部4を配置する場合は、X方向に流れる組成物の量が多くなると考えられ、組成物による熱輸送を効率的に行うことが可能となる。
【0028】
また、発熱源と流路との間に断熱部が配置されていない領域と、断熱部が配置されている領域があることが好ましい。なかでも、発熱源と流路の接する領域は、断熱部が配置されていない領域であることが好ましい。これにより、流路10内の組成物1の一部を加熱して、流路10内で組成物1の温度勾配を形成することができる。
【0029】
断熱部は、断熱材を含むことが好ましい。断熱材は、熱伝導率が1.0W/mK未満の材料であることが好ましい。断熱材としては、具体的に、セメント、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂が一例として挙げられるプラスチック、シリコンゴムなどのゴム、グラスウールなどの無機質繊維材、セルロースナノファイバーなどの木質繊維材が挙げられる。
【0030】
[組成物10]
組成物は、磁性粒子、及び溶媒を含有する。組成物は、さらに、磁性粒子を分散させるための分散剤を含有することが好ましい。分散剤は、ポリカルボン酸系であることが好ましく、ポリアクリル酸又はその塩であることがさらに好ましい。ポリカルボン酸系の分散剤は、カルボキシル基による静電反発と、樹脂を用いることによる立体障害により、磁性粒子を安定に分散させることが可能となる。溶媒としては、水、ケロシン、アルキルナフタレンなどの炭化水素系オイル、パーフルオロポリエーテルなどのフッ素系オイルを用いることができる。なかでも、溶媒は、熱容量や熱伝導率の大きさから、水であることが好ましい。
【0031】
〔磁性粒子〕
磁性粒子としては、超常磁性を示す粒子を用いることができる。ここで、超常磁性とは、磁性体固有のキュリー温度を超えると磁化が低下する、すなわち、温度の上昇とともに磁化が低下する性質を持つ強磁性体のナノメートルサイズの粒子に現れる性質である。
【0032】
超常磁性を示す粒子は、磁場をかけると粒子の磁化が磁場方向に揃い、磁場をかけないと熱エネルギーによって磁化が粒子内で固定されずランダムに回転して、粒子全体として磁化がゼロになる。そのため、磁性粒子として超常磁性を示す粒子を含む組成物を用いることで、組成物に磁石を近づける、すなわち、組成物に磁場をかけると、磁化が生じた粒子が磁石に引き寄せられる。一方、組成物から磁石を遠ざける、すなわち、組成物に磁場をかけないと、粒子に磁化が生じにくくなり、粒子が磁石に引き寄せられにくくなる。このように、超常磁性を示す粒子を含む組成物は、磁力により制御可能なものである。
【0033】
超常磁性を示す粒子としては、フェライト粒子などが挙げられる。ここで、フェライトとは、MIIO・Fe2O3の型の2価金属の塩のことである。MIIとしては、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mg、Cd、Caなどが挙げられる。フェライト粒子としては、マグネタイト(FeO・Fe2O3)粒子、マンガン亜鉛フェライト((MnO)x・(ZnO)1-x・Fe2O3))粒子、マンガンカルシウム亜鉛フェライト((MnO)x・(CaO)y・(ZnO)z・Fe2O3)粒子を用いることが好ましい。ここで、x+y+z=1である。
【0034】
なかでも、フェライト粒子は、磁化の高さの観点から、マンガン亜鉛フェライトを用いることが好ましい。特に、下記式(1)で表されるマンガン亜鉛フェライト粒子は、0℃以上100℃以下の温度域での、温度上昇に伴う磁化の減少が大きく、強い温度依存性(感温性)を示す。これにより、熱を輸送するための高い駆動力が得られ、効率的に熱輸送できる。
(MnO)x・(ZnO)y・(Fe2O3)z・・・式(1)
ここで、式(1)中、x、y、及びzは、0.15≦x≦0.40、0.10≦y≦0.25、0.48≦z≦0.60、x+y+z=1を満たす。
【0035】
上記式(1)に、さらに、SrO、NiO、MgO、及びCaOからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を0.01以上0.10以下の割合で加えたものを用いてもよい。これらの化合物の添加により、磁化が向上し、熱を輸送するための駆動力が得られ、より効率的に熱輸送できる。また、磁性粒子は、Zn、Mn、Fe、Ni、Sr、Mg、及びCaからなる群より選択される少なくとも2種以上の元素を含むことが好ましい。さらに、磁性粒子は、Zn、Mn、及びFeからなる群より選択される少なくとも2種以上の元素を含むことが好ましい。
【0036】
磁性粒子の粒径は、3nm以上100nm以下であることが好ましい。磁性粒子の含有量は、組成物全質量を基準として、20.0質量部以上50.0質量部以下であることが好ましく、30.0質量部以上50.0質量部以下であることがさらに好ましい。
【0037】
〔25℃、及び90℃における磁石が組成物を引き付ける引力の関係〕
25℃における磁石が組成物を引き付ける引力F25と、90℃における磁石が組成物を引き付ける引力F90との関係は、F25-F90≧10g重(gF)を満たすことが好ましい。
【0038】
ここで、
図5を用いて、組成物にかかる引力を測定する方法を説明する。1.0mLの組成物1と、窒素、アルゴンなどの不活性ガスをサンプル管12(断面積が5cm
2)に入れて密封し、そのサンプル管12に錘18を設置する。錘18は、湯浴17内でサンプル管12に働く浮力の影響を小さくするために用いる。また、サンプル管12をセラミック板16に固定し、そのセラミック板16にサンプル管12内の組成物1の温度を調整することが可能な湯浴17を設置する。湯浴17内の温度は、温度計や熱電対などを用いて測定できる。さらに、一方の面に永久磁石15が固定された発泡スチロール14を電子天秤13に乗せ、永久磁石15とサンプル管12の底面との距離が8mmとなるように、セラミック板16を設置する。ここで、永久磁石15としては、0.4Tの表面磁束密度を有する直径30mmの円形の磁石を用いる。また、発泡スチロール14は、電子天秤13への永久磁石15の影響を小さくするために用いる。
【0039】
25℃における磁石が組成物を引き付ける引力F25を測定する場合、湯浴内の温度を25℃に設定し、湯浴内で組成物を封入したサンプル管を5分間静置して、組成物の温度を25℃とする。静置した後に、電子天秤の目盛りを読み取る。次に、湯浴内の温度を25℃に設定し、湯浴内で組成物が封入されていない空のサンプル管を5分間静置して、電子天秤の目盛りを読み取る。組成物を封入したサンプル管を用いた場合の目盛りと、空のサンプル管を用いた場合の目盛りとの差をF25とする。
【0040】
90℃における磁石が組成物を引き付ける引力F90を測定する場合も、湯浴内の温度を90℃に変更したこと以外は、F25と同様の方法で、F90を算出する。
【0041】
温度が上昇すると磁化が低下する性質を持つ磁性粒子を用いることで、25℃の組成物中の磁性粒子と90℃の組成物中の磁性粒子では、磁化に差が生じる。すなわち、90℃の組成物中の磁性粒子と比べて、25℃の組成物中の磁性粒子は、磁化が大きくなる。そのため、90℃の組成物と比べて、25℃の組成物は、磁石15により引き寄せられやすくなる。これにより、90℃の組成物を用いる場合に電子天秤で測定される値と比べて、25℃の組成物を用いる場合に電子天秤で測定される値は、大きくなる。すなわち、電子天秤で測定される値が大きいほど、磁石が組成物を引き付ける引力Fの値が大きいことを示している。特に、25℃の組成物を用いる場合に測定される値と、90℃の組成物を用いる場合に測定される値の差が10g重以上であると、25℃の組成物中の磁性粒子と90℃の組成物中の磁性粒子との磁化の差が大きくなる。これにより、熱を輸送するための高い駆動力が得られる。
【0042】
図2に示すように、熱輸送装置は、さらに、冷却部24、流量計25、及び温度センサ28を有することが好ましい。温度センサ28としては、2種の異なる金属導体で構成された熱電対を用いることが好ましい。また、発熱源2は、電圧・電流源27と接続しており、流量計25、及び温度センサ28は、表示装置29と接続していることが好ましい。さらに、流路10は、コネクタ26により連結されていることが好ましい。
【0043】
[冷却部24]
熱輸送装置は、冷却部を有することが好ましい。冷却部は、発熱源2から離れた位置において、流路10で受熱した熱を外部へ放出する構成とすることが好ましい。冷却手段としては、液体や気体の熱を放熱する装置であるラジエータ、表面からの自然冷却を可能とする冷却フィン、強制冷却を可能とする冷却ファン、熱移動を可能とするペルチェ素子などが挙げられる。なかでも、ラジエータや冷却フィンを介して、冷却ファンにより強制冷却をすることが好ましい。磁場印加部近くで加熱された組成物が冷却部に流入することで、組成物の温度が低下し、組成物中の磁性粒子の磁化が高い状態に戻る。この状態で発熱源2へ流れるため、効果的に組成物の温度勾配を形成することが可能となり、熱輸送が効率的に行われる。
【0044】
また、電子機器の有する発熱源を、熱輸送装置の駆動のために用いてもよい。すなわち、電子機器は、熱輸送装置、及び発熱源を有する。熱輸送装置は、磁性粒子及び溶媒を含有する組成物が流れる流路、組成物に磁場を印加する磁場印加部、並びに組成物の一部を加熱する発熱源の配置部を持つ断熱部を有し、発熱源と磁場印加部との間に断熱部が配置されている。発熱源は、半導体素子、光源、又は太陽光であることが好ましい。電子機器としては、太陽光パネルなどが挙げられる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例、及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
図6に記載の熱輸送装置を用い、熱輸送試験を行った。まずは、
図6の熱輸送装置の構成について説明する。
図6(a)に示すように、磁場印加部3は、流路10内で組成物が流れる方向に磁化容易軸を持ち、着磁方向が互いに反対である20mm×20mm×4mmの2個のネオジム磁石、及び厚さ10mmのヨーク(SS400、鉄鋼材)を含む。
【0047】
流路10は、内径5mmのシリコンチューブを用い、発熱源2は、
図6(b-1)に示すように、直流電源に接続されたセラミックヒータで構成され、加熱面は、25mm×25mm(高さ10mm)だった。直流電源より入力される電流量を調節することで、発熱源の発熱量を調節した。加熱面には、熱電対を設置し、加熱面の表面温度を測定し、入力電流量にフィードバックをかける構成とした。
【0048】
また、
図6(b-2)に示すように、発熱源2と接する断熱部4は、厚さ1.0mmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シート(熱伝導率が0.20W/mK)を断熱材として用いたものを使用した。発熱源2のうち、流路10が接する箇所は、PTFEシートを配置しないようにした。
図6(c)は、発熱源2側から磁場印加部3を見た図であり、磁場印加部3に流路10、及び断熱部4を配置させた発熱源2を設置した。
【0049】
組成物は、磁性粒子としてマンガン亜鉛フェライト、磁性粒子を分散させる分散剤としてポリアクリル酸ナトリウム、及び水を含有するものを用いた。組成物中の磁性粒子の含有量は、40質量%だった。
【0050】
試験の際の冷却ファンの回転数は、1000rpmであり、組成物が流れる流路の全長は、450mmだった。
図6に記載の熱輸送装置を用いて熱輸送量を測定した。評価結果は、表1に示す。熱輸送量(W)は、流路内に組成物を充填し、発熱源の温度が80℃で一定になるように電流を調整した際の電力量から、流路内に組成物を充填せずに、発熱源の温度が80℃で一定になるように電流を調整した際の電力量を引くことで算出される値である。ここで、電力量は、直流電源の電圧値を20Vに固定し、特定の温度になるように調整された電流値から、電圧量(20V)×調整された電流値の式より算出した。
【0051】
(実施例2及び3)
断熱材の種類を表1に記載の材料に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、熱輸送量を測定した。
【0052】
(実施例4)
組成物の種類をフェリコロイドTS-50K(イチネンケミカルズ製)に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、熱輸送量を測定した。フェリコロイドTS-50Kは、溶媒としてケロシンを用いている。
【0053】
(実施例5)
発熱源2であるセラミックヒータ(幅25mm×奥行25mm×高さ10mm)を配置できる配置部を備える断熱部を、
図7(a)に示すような構成に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、熱輸送量を測定した。
図7(b)は、断熱部4にセラミックヒータ2を配置させた図である。
【0054】
(比較例1)
断熱部を設置しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で、熱輸送量を測定した。
【0055】
(比較例2)
断熱材の種類を表1に記載の材料に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、熱輸送量を測定した。
【0056】
(比較例3)
断熱部を設置しなかったこと以外は、実施例4と同様の方法で、熱輸送量を測定した。
【0057】
【0058】
組成物の溶媒が水である実施例1~3及び5は、比較例1及び2と比べて、熱輸送量が大きいことを示しており、組成物の溶媒がケロシンである実施例4は、比較例3と比べて、熱輸送量が大きいことを示している。