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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】光ファイバ用工具
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/245 20060101AFI20240422BHJP
【FI】
G02B6/245
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019217959
(22)【出願日】2019-12-02
(65)【公開番号】P2021089311
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000231936
【氏名又は名称】日本通信電材株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】清田 光政
(72)【発明者】
【氏名】熊 月
【審査官】堀部 修平
(56)【参考文献】
【文献】実用新案登録第2528497(JP,Y2)
【文献】特開2007-171419(JP,A)
【文献】国際公開第01/029589(WO,A1)
【文献】米国特許第04969703(US,A)
【文献】特開平09-113732(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110426786(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/245 - 6/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース部と、
前記ベース部から延びるアーム部と、
前記ベース部に設けられたベース刃部と、
前記アーム部に設けられ、前記ベース刃部に対向するアーム刃部と、
前記ベース部に設けられ、互いに対向する一対のガイド壁を含むガイド部と、を備え、
前記ガイド部は、前記一対のガイド壁の間にガラスファイバが被覆で覆われた光ファイバを通して、前記ベース刃部と前記アーム刃部との間へと前記光ファイバをガイド可能に形成され、
前記アーム部の少なくとも一部は弾性部材によって形成され、
前記ベース刃部と前記アーム刃部とで前記光ファイバを挟み込んだ状態で、前記光ファイバを引き抜くことで、前記被覆を除去することが可能であり、
前記ベース部における、前記アーム部が存在する側の面である第1面とは反対側の第2面に、
前記ベース部の短手方向において前記光ファイバの位置決めが可能な第1溝部と、
前記ベース部の長手方向において前記光ファイバが固定される光ファイバホルダの位置決めが可能な衝突壁と、を備える、光ファイバ用工具。
【請求項2】
少なくとも前記ベース刃部の近傍において、前記一対のガイド壁の間の底面は、前記ベース刃部側に近づくにつれ高くなるよう傾斜している、
請求項1に記載の光ファイバ用工具。
【請求項3】
前記一対のガイド壁における前記ベース刃部側の端部において、前記一対のガイド壁の間の距離は、250μm以上であり、かつ、前記ベース刃部および前記アーム刃部の長さよりも短い、
請求項1または請求項2に記載の光ファイバ用工具。
【請求項4】
さらに、前記ベース部および前記アーム部のうちの少なくとも一方に設けられた当接部材を備え、
前記当接部材は、前記アーム部の変位量が所定量を超えた場合に、前記当接部材と対向する所定の部材に当接する、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の光ファイバ用工具。
【請求項5】
さらに、前記ベース部から立設され、前記アーム部を介して対向する一対の保護壁を備え、
前記アーム部を前記一対の保護壁が対向する方向から前記保護壁に向けて投影した場合に、前記アーム部は、前記保護壁の存在する範囲内に位置する、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の光ファイバ用工具。
【請求項6】
前記ベース部における、前記アーム部が存在する側の面である第1面とは反対側の第2面に、
光コネクタを装着可能な装着部と、
前記装着部に前記光コネクタを装着した状態において、前記ベース部の短手方向における前記光ファイバの位置決めが可能な第2溝部と、を備える、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の光ファイバ用工具。
【請求項7】
前記ベース部における、前記アーム部が存在する側の面である第1面とは反対側の第2面に、
光コネクタを装着可能な装着部と、
前記装着部に前記光コネクタを装着した状態において、前記ベース部の短手方向における前記光ファイバの位置決めが可能な第2溝部と、を備え、
前記第1溝部と前記第2溝部とが、同一直線上に形成されている、
請求項1に記載の光ファイバ用工具。
【請求項8】
樹脂による一体成型品である、
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の光ファイバ用工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバ用工具に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバの被覆を除去する工具が知られている。例えば、特許文献1には、光ファイバ心線を挟み込む一対の挟持部と、挟持部の対向面にそれぞれ設けられる一対の樹脂製のファイバ当接部と、を具備し、ファイバ当接部で光ファイバ心線を挟み込んだ状態から、光ファイバ心線を引き抜くことで、光ファイバ心線の被覆を除去することが可能な光ファイバ被覆除去冶具が記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、ベース部と蓋部とを備え、光ファイバを介して蓋部とベース部とを重ね合わせて、光ファイバの被覆を除去する被覆除去具であって、ベース部に設けられたベース刃部と蓋部に設けられた蓋刃部とを有し、ベース部が光ファイバを狭持する第一のV溝を有し、蓋部が光ファイバを狭持する第二のV溝を有する被覆除去具が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-66864号公報
【文献】特開2018-28628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の被覆除去治具は、被覆除去の作業時における光ファイバの位置ずれを抑制するような工夫がなく、被覆を除去する際にファイバ当接部に対する光ファイバの位置がずれて、被覆の除去が不完全になったり、ガラスファイバを傷つけてしまったりする恐れがあった。
【0006】
一方、特許文献2に記載の被覆除去具は、光ファイバの位置ずれを抑制するV溝を有しているが、蓋部の開け閉めによって被覆を除去するものであるため、作業性という観点から改善の余地があった。
【0007】
本開示は、被覆除去の作業時における光ファイバの位置ずれを抑制でき、作業性を向上可能な、光ファイバ用工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る光ファイバ用工具は、
ベース部と、
前記ベース部から延びるアーム部と、
前記ベース部に設けられたベース刃部と、
前記アーム部に設けられ、前記ベース刃部に対向するアーム刃部と、
前記ベース部に設けられ、互いに対向する一対のガイド壁を含むガイド部と、を備え、
前記ガイド部は、前記一対のガイド壁の間にガラスファイバが被覆で覆われた光ファイバを通して、前記ベース刃部と前記アーム刃部との間へと前記光ファイバをガイド可能に形成され、
前記アーム部の少なくとも一部は弾性部材によって形成され、
前記ベース刃部と前記アーム刃部とで前記光ファイバを挟み込んだ状態で、前記光ファイバを引き抜くことで、前記被覆を除去することが可能である。
【発明の効果】
【0009】
上記開示の構成によれば、被覆除去の作業時における光ファイバの位置ずれを抑制でき、作業性を向上させることができる
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る光ファイバ用工具の第1面側を示す斜視図である。
図2図2は、図1に示す光ファイバ用工具の第1面側を示す平面図である。
図3図3は、図1に示す光ファイバ用工具の側面図である。
図4図4は、図2のA-A線で光ファイバ用工具を切断し、矢印方向から見た場合の断面図である。
図5図5は、図2のB-B線で光ファイバ用工具を切断し、矢印方向から見た場合の断面図である。
図6図6は、図2のC-C線で光ファイバ用工具を切断し、矢印方向から見た場合の断面図である。
図7図7は、図2のD-D線で光ファイバ用工具を切断し、矢印方向から見た場合の断面図である。
図8図8は、図1に示す光ファイバ用工具を光ファイバの被覆除去作業に使用する場合の使用例を示す図である。
図9図9は、図1に示す光ファイバ用工具の第2面側を示す斜視図である。
図10図10は、図9に示す光ファイバ用工具の第2面側の平面図である。
図11図11は、図9に示す光ファイバ用工具をガラスファイバの切断作業時に使用する場合の使用例を示す図である。
図12図12は、図9に示す光ファイバ用工具を、ガラスファイバを光コネクタへ挿入する作業に使用する場合の使用例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
本開示の一態様に係る光ファイバ用工具は、
ベース部と、
前記ベース部から延びるアーム部と、
前記ベース部に設けられたベース刃部と、
前記アーム部に設けられ、前記ベース刃部に対向するアーム刃部と、
前記ベース部に設けられ、互いに対向する一対のガイド壁を含むガイド部と、を備え、
前記ガイド部は、前記一対のガイド壁の間にガラスファイバが被覆で覆われた光ファイバを通して、前記ベース刃部と前記アーム刃部との間へと前記光ファイバをガイド可能に形成され、
前記アーム部の少なくとも一部は弾性部材によって形成され、
前記ベース刃部と前記アーム刃部とで前記光ファイバを挟み込んだ状態で、前記光ファイバを引き抜くことで、前記被覆を除去することが可能である。
この構成によれば、被覆除去の作業時における光ファイバの位置ずれを抑制でき、作業性を向上させることができる。
【0012】
前記光ファイバ用工具は、
少なくとも前記ベース刃部の近傍において、前記一対のガイド壁の間の底面は、前記ベース刃部側に近づくにつれ高くなるよう傾斜していることが好ましい。
この構成によれば、例えば、一対のガイド壁の間の底面が傾斜を有しているので、光ファイバをベース刃部とアーム刃部の間の領域(以下、「刃部領域」とも称する)へとスムーズに誘導することができる。また、傾斜にそって光ファイバを誘導する際に、ガイド壁があることによって、刃部領域から光ファイバが外れにくくすることができる。
【0013】
前記光ファイバ用工具は、
前記一対のガイド壁における前記ベース刃部側の端部において、前記一対のガイド壁の間の距離は、250μm以上であり、かつ、前記ベース刃部および前記アーム刃部の長さよりも短いことが好ましい。
この構成によれば、例えば、アーム刃部側の端部におけるガイド壁の間の長さが光ファイバの被覆外径に比して大きいため、刃部領域の中央付近だけでなく、刃部領域の他の部分へ光ファイバを誘導して、他の部分において被覆を除去することが容易となる。結果として、それぞれの刃部が局部的に劣化することを抑えて、耐久性を向上させることができる。また、要求する耐久性によっては、廉価な素材で刃部を形成することも可能になる。
【0014】
前記光ファイバ用工具は、
さらに、前記ベース部および前記アーム部のうちの少なくとも一方に設けられた当接部材を備え、
前記当接部材は、前記アーム部の変位量が所定量を超えた場合に、前記当接部材と対向する所定の部材に当接することが好ましい。
この構成によれば、例えば、被覆を除去する際に光ファイバに対して過剰な圧力がかかってしまうことを防止できる。結果として、光ファイバの断線が生じる可能性を低下させることができる。
【0015】
前記光ファイバ用工具は、
さらに、前記ベース部から立設され、前記アーム部を介して対向する一対の保護壁を備え、
前記アーム部を前記一対の保護壁が対向する方向から前記保護壁に向けて投影した場合に、前記アーム部は、前記保護壁の存在する範囲内に位置することが好ましい。
この構成によれば、例えば、光ファイバ用工具の保管時や運搬時などにおいて、刃部領域に余計なものを挟みこんでしまったり、アーム部に余計な力がかかって破損してしまったりすることを防止できる。
【0016】
前記光ファイバ用工具は、
前記ベース部における、前記アーム部が存在する側の面である第1面とは反対側の第2面に、
前記ベース部の短手方向において前記光ファイバの位置決めが可能な第1溝部と、
前記ベース部の長手方向において前記光ファイバの位置決めが可能な衝突壁と、を備えることが好ましい。
この構成によれば、例えば、被覆を除去するためだけの工具ではなく、光ファイバの被覆を除去した後のガラスファイバの切断作業において光ファイバの長さの管理をするための工具としても使用することができる。すなわち、一つの工具で2種類の作業が可能となるため、作業性をさらに向上させることができる。
【0017】
前記光ファイバ用工具は、
前記ベース部における、前記アーム部が存在する側の面である第1面とは反対側の第2面に、
光コネクタを装着可能な装着部と、
前記装着部に前記光コネクタを装着した状態において、前記ベース部の短手方向における前記光ファイバの位置決めが可能な第2溝部と、を備えることが好ましい。
この構成によれば、例えば、被覆を除去するためだけの工具ではなく、光ファイバの被覆を除去した後のガラスファイバを光コネクタ内へ挿入する作業をする際に光ファイバをガイドするための工具としても使用することができる。すなわち、一つの工具で2種類の作業が可能となるため、作業性をさらに向上させることができる。
【0018】
前記光ファイバ用工具は、
前記ベース部における、前記アーム部が存在する側の面である第1面とは反対側の第2面に、
光コネクタを装着可能な装着部と、
前記装着部に前記光コネクタを装着した状態において、前記ベース部の短手方向における前記光ファイバの位置決めが可能な第2溝部と、を備え、
前記第1溝部と前記第2溝部とが、同一直線状に形成されていることが好ましい。
この構成によれば、例えば、一つの工具で3種類の作業が可能となるため、作業性をさらに向上させることができる。また、第1溝部と第2溝部とが、同一直線状に形成されているので、製造が容易になり、工具の小型化も可能になる。また、第1溝部および第2溝部の少なくとも一方を、切断作業時と挿入作業時のそれぞれにおいて機能するようにすることもできる。
【0019】
前記光ファイバ用工具は、
樹脂による一体成型品であることが好ましい。
この構成によれば、例えば、作業時に複数の部品を組み合わせて工具を作成する等の必要がないので、作業性を向上させることができる。
【0020】
[本開示の実施形態の詳細]
(光ファイバ用工具)
以下、本開示に係る光ファイバ用工具の実施の形態の例を、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明では、異なる図面であっても同一又は相当の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0021】
なお、以下の説明では、「前方向」、「後方向」、「左方向」、「右方向」、「上方向」、及び「下方向」という語句を用いることがあるが、これらの方向は、説明の便宜上、設定された相対的な方向である。これらの方向は、図1に示す各方向を基準としており、他の各図においても示されている。また、以下の説明において、「前後方向」とは、「前方向」および「後方向」を含む方向である。「左右方向」とは、「左方向」および「右方向」を含む方向である。「上下方向」とは、「上方向」および「下方向」を含む方向である。また、本明細書において、「等しい」とは、厳密に等しい場合だけではなく、両者の差が十分に小さく、実質的に等しいと評価される場合をも含む。
【0022】
本実施形態に係る光ファイバ用工具は、光ファイバの被覆除去用工具としての機能と、光ファイバの切断作業の補助用工具としての機能と、光ファイバと光コネクタとの接続作業用工具としての機能と、を有している。被覆除去用工具としての機能は、例えば、光ファイバ用工具の第1面側に形成された構造によって実現されうる。また、切断作業の補助用工具としての機能と、挿入作業用工具としての機能は、例えば、光ファイバ用工具の第1面側とは反対側の面である第2面側に形成された構造によって実現されうる。
【0023】
(光ファイバ用工具の第1面側の構成)
まず、図1から図7を参照して、光ファイバ用工具の第1面側の構成について説明をする。図1は、本開示の一実施形態に係る光ファイバ用工具1の第1面10側を示す斜視図である。図2は、図1に示す光ファイバ用工具1の第1面10側を示す平面図である。図3は、図1に示す光ファイバ用工具1の側面図である。図4は、図2のA-A線で光ファイバ用工具1を切断し、切断した光ファイバ用工具1をA-A線に示した矢印方向から見た場合の断面図である。図5は、図2のB-B線で光ファイバ用工具1を切断し、切断した光ファイバ用工具1をB-B線に示した矢印方向から見た場合の断面図である。図6は、図2のC-C線で光ファイバ用工具を切断し、切断した光ファイバ用工具1をC-C線に示した矢印方向から見た場合の断面図である。図7は、図2のD-D線で光ファイバ用工具を切断し、切断した光ファイバ用工具1をD-D線に示した矢印方向から見た場合の断面図である。
【0024】
図1から図7に示すように、光ファイバ用工具1の第1面10側には、ベース部11と、アーム部12と、ベース刃部13と、アーム刃部14と、ガイド部17と、一対の保護壁18と、ホルダ用第1スペース21と、第1リブ22aと、第2リブ22bと、が設けられている。光ファイバ用工具1は、例えば、樹脂による一体成型品であることが好ましい。
【0025】
ベース部11は、第1面10側において、アーム部12やガイド壁15a及び15bなどの各種構造を支持する基台である。ベース部11の形状は、特に限定されないが、本実施形態の例では、前後方向に長い矩形状の外形を有している。
【0026】
図4に示すように、アーム部12は、ベース部11から上方向に向けて延び、さらに前方向に向かって延びるように設けられている。また、図2に示すように、アーム部12は、上方向側から見た場合に、U字状に形成されている。言い換えると、アーム部12は、ベース部11から延びた2本の腕が、前方向側で接続された構造である。アーム部12の材料としては、特に制限はされないが、アーム部12の少なくとも一部は、弾性変形が可能な材料によって形成されている。
【0027】
図6に示すように、ベース刃部13は、ベース部11に設けられている。アーム刃部14は、アーム部12に設けられている。ベース刃部13及びアーム刃部14は、左右方向に沿って設けられており、具体的には、図2のC-C線上に設けられている。
【0028】
ベース刃部13の刃は上方向を向いており、アーム刃部14の刃は下方向を向いており、互いの刃が対向している。ベース刃部13とアーム刃部14の間の刃部領域に、ガラスファイバが被覆で覆われた光ファイバ(以下、単に「光ファイバ」とも称する)を通し、アーム部12に上方向側から力を加えることで、アーム部12が弾性変形してベース部11に接近し、ベース刃部13とアーム刃部14とで光ファイバを挟み込んだ状態となる。その状態から、光ファイバを後方向へ引き抜くことで、被覆を除去することが可能である。なお、アーム部12に力を加えることを止めると、アーム部12は元の位置に戻る。ベース刃部13とアーム刃部14の間の距離は、アーム部12が弾性変形可能な範囲内で光ファイバを必要十分な量だけ挟み込んだ状態が実現するのであれば特に制限はされない。ベース刃部13とアーム刃部14の間の距離は、被覆除去の対象となる光ファイバの径に応じて、適宜決定することができる。
【0029】
ベース刃部13の左右方向における両端は、ベース刃部13の中央部分よりも、上方向側に僅かに突出している。このような構成によって、ベース刃部13及びアーム刃部14それぞれの中央部分が僅かな隙間を残して、接触しないようにすることができる。これにより被覆除去する際に、被覆部に内包されているガラスファイバ部分に刃が直接接触することを避けることができる。この隙間の間隔、即ちベース刃部13の左右方向における両端部の上方向側への突出量は、被覆除去の対象となる光ファイバの径に応じて、適宜決定することができる。なお、ベース刃部13の代わりに、アーム刃部14の左右方向における両端を突出させてもよい。ベース刃部13及びアーム刃部14の材料としては、特に制限されず、金属製であっても樹脂製であってもよい。
【0030】
また、図7に示すように、ベース部11には、2つの第1リブ(当接部材)22aが設けられており、アーム部12には、2つの第2リブ(当接部材)22bが設けられている。第1リブ22aおよび第2リブ22bは、ベース刃部13及びアーム刃部14の前方向側において、図2のD-D線と直交するようにして、前後方向に沿って設けられている。各第1リブ22aと各第2リブ22bとは、互いに対向している。
【0031】
ベース刃部13とアーム刃部14とで光ファイバを挟み込む際に、アーム部12の下方向側への変位量が所定量を超えた場合、対向する第1リブ22aと第2リブ22bが当接することで、下方向側への変位量を制限する。なお、変位量の制限は、第1リブ22aと第2リブ22bのどちらか一方のみで実現させてもよい。すなわち、第1リブ22aを設けず、アーム部12の下方向側への変位量が所定量を超えた場合に、第2リブ22bと所定の部材(例えば、ベース部11)とが当接するようにしてもよい。また、第2リブ22bを設けず、アーム部12の下方向側への変位量が所定量を超えた場合に、第1リブ22aと所定の部材(例えば、アーム部12)とが当接するようにしてもよい。
【0032】
ガイド部17は、ベース刃部13及びアーム刃部14の近傍かつ後方向側に形成されている。ガイド部17は、互いに対向する一対のガイド壁15a,15bと、ガイド壁15a及び15bの間に形成された斜面16と、を有している。ガイド部17は、ガイド壁15aとガイド壁15bの間に光ファイバを通して、ベース刃部13とアーム刃部14との間の刃部領域へと光ファイバをガイド可能なように形成されている。
【0033】
ガイド壁15a及び15bは、アーム部12の2本の腕の間に位置する。ガイド壁15a及び15bは、前後方向に沿って、ベース部11から立設されている。また、少なくともベース刃部13の近傍において、ガイド壁15aとガイド壁15bとの間の距離は、ベース刃部13側に近づくにつれ狭くなっていることが好ましい。
【0034】
また、図6に示すように、ガイド壁15a及び15bのベース刃部13側の端部における、ガイド壁15aとガイド壁15bとの間の距離d1は、ベース刃部13及びアーム刃部14の長さd2よりも短くなっている。距離d1の長さとしては、特に制限はされないが、例えば、250μm以上であることが好ましく、500μm以上であることがより好ましい。
【0035】
ガイド壁15aの高さとしては、特に制限はされないが、例えば、ガイド壁15aの前方向側の端部の高さが、アーム刃部14の下方向側の端部の高さよりも高くなっていることが好ましい。ガイド壁15bの高さについても、ガイド壁15aと同様である。このような構成により、光ファイバを刃部領域へと誘導し易くなる。なお、本明細書において、「高さ」とは、上下方向における位置のことをいう。
【0036】
斜面16は、少なくともベース刃部13の近傍において、ベース刃部13側に近づくにつれ高くなるよう傾斜している。斜面16の後方向側の端部の高さは、例えば、ベース刃部13の上方向側の端部の高さよりも低い。斜面16の高さは、例えば、後方向側から前方向側に向かうにつれて、ベース刃部13の上方向側の端部の高さに近づいていくことが好ましい。
【0037】
一対の保護壁18は、アーム部12を介して互いに対向するように、ベース部11から立設されている。具体的には、各保護壁18は、ベース部11の左方向側の外縁および右方向側の外縁のうち、少なくともアーム部12と対応する位置に設けられている。
【0038】
図4及び図5から分かるように、前後方向における同じ位置で比較した場合、保護壁18の高さは、アーム部12の高さよりも高くなっている。言い換えると、アーム部12を一対の保護壁18が対向する方向(左右方向)から各保護壁18に向けて投影した場合に、アーム部12は、各保護壁18の存在する範囲内に位置する。
【0039】
ホルダ用第1スペース21は、ガイド部17の近傍かつ後方向側に形成されている。ホルダ用第1スペース21は、互いに対向する一対のホルダ用第1ガイド壁19a,19bと、第1衝突壁20と、を有している。ホルダ用第1スペース21は、後述の光ファイバホルダ32(図8参照)をガイドするためのスペースである。
【0040】
ホルダ用第1ガイド壁19a及び19bは、前後方向に沿って、ベース部11から立設されている。第1衝突壁20は、左右方向に沿って、ベース部11から立設されている。また、第1衝突壁20は、ホルダ用第1ガイド壁19a及び19bの前方向側の端部近傍に設けられている。ホルダ用第1スペース21は、ホルダ用第1ガイド壁19a及び19bと、第1衝突壁20とによって、三方を囲まれたスペースである。ホルダ用第1スペース21の形状や大きさは、光ファイバホルダ32の形状や大きさに応じて、適宜決定することができる。
【0041】
(被覆除去用工具としての使用例)
次に、光ファイバの被覆除去作業時における、光ファイバ用工具1の使用方法を説明する。図8は、図1に示す光ファイバ用工具1を光ファイバ33の被覆除去作業に使用する場合の使用例を示す図である。
【0042】
図8において、光ファイバケーブル31は、例えば、テンションメンバ(図示せず)と光ファイバ33とがシースで覆われたケーブルである。光ファイバホルダ32は、例えば、光ファイバケーブル31を挿入可能な貫通孔(図示せず)を備えており、当該貫通孔に光ファイバケーブル31を挿入した状態で固定可能なものである。光ファイバ33は、光ファイバケーブル31から引き出されたものである。光ファイバ33は、例えば、石英ガラス等により形成されたガラスファイバを、紫外線硬化樹脂等で被覆して形成されたものである。
【0043】
被覆除去作業時において、まず、光ファイバケーブル31の先端から光ファイバ33を引き出し、光ファイバ33が光ファイバホルダ32から突き出るようにして、光ファイバケーブル31を光ファイバホルダ32に固定する。次に、光ファイバホルダ32を、ホルダ用第1ガイド壁19a及び19bの間に位置させ、ホルダ用第1スペース21の底面に当接させながら、後方向側から前方向側へと移動させ、第1衝突壁20に衝突させる。この一連の作業の際、光ファイバ33は、ガイド壁15a及び15bの間を斜面16に沿って移動し、ベース刃部13とアーム刃部14の間の刃部領域へと導かれる。この状態において、アーム部12に上方向側から力を加えて、ベース刃部13とアーム刃部14によって光ファイバ33を挟み込み、さらに後方向側へと引き抜くことで、被覆を除去することが可能である。
【0044】
なお、ホルダ用第1ガイド壁19a及び19bの間の距離を、光ファイバホルダ32を左右方向に多少は動かせる程度の長さにしておくことで、刃部領域の中央付近だけでなく、刃部領域の他の部分へも光ファイバ33を誘導し易くなる。
【0045】
また、光ファイバ用工具1は、光ファイバホルダ32を用いずに被覆除去作業をすることも可能である。その場合、単に、光ファイバケーブル31から引き出された光ファイバ33を、ガイド部17によって刃部領域へと導いてやればよい。また、光ファイバホルダ32を用いずに被覆除去作業をする場合、例えば、ホルダ用第1スペース21に代えて、光ファイバケーブル31の形状や幅に対応したスペースを設けてもよい。
【0046】
(光ファイバ用工具の第2面側の構成)
次に、図9および図10を参照して、光ファイバ用工具1の第2面側の構造について説明をする。図9は、図1に示す光ファイバ用工具1の第2面40側を示す斜視図である。図10は、図9に示す光ファイバ用工具1の第2面側の平面図である。なお、図3に示すように、第2面40は、第1面10の反対側の面である。
【0047】
図9および図10に示すように、光ファイバ用工具1の第2面40側には、ベース部11と、第1溝部41aと、第2溝部41bと、ホルダ用第2スペース44と、係止片45と、光コネクタ用スペース52と、ステップ53と、ホルダ用第3ガイド壁54a及び54bと、が設けられている。
【0048】
ベース部11は、第2面40側においても、各種構造を支持する基台である。第1溝部41a及び第2溝部41bは、ベース部11に形成された溝である。第1溝部41aは、ベース部11の後方向側端から、当該側端の前方向側に位置するホルダ用第2スペースにかけて形成されている。第1溝部41aの幅(左右方向の長さ)は、例えば、光ファイバケーブル31の幅と等しい又は僅かに大きい。第2溝部41bは、ベース部11の中央付近において、前後方向に延びるように形成されている。第2溝部41bの幅も、例えば、光ファイバケーブル31の幅と等しい又は僅かに大きい。
【0049】
第1溝部41a及び第2溝部41bは、同一直線状に形成されている。また、第1溝部41aの底面と、第2溝部41bの底面とは、上下方向における位置が等しい。第1溝部41a及び第2溝部41bのうちの少なくとも一方が、ガラスファイバの切断作業時またはガラスファイバと後述の光コネクタ34(図12参照)の接続作業時において、ベース部11の短手方向(左右方向)における光ファイバ33の位置決めに関与する。なお、例えば、ホルダ用第2スペース44を設けない場合、第1溝部41aと第2溝部41bとを接続し、一つの溝として形成してもよい。
【0050】
ホルダ用第2スペース44は、第1溝部41a及び第2溝部41bの間において、第1溝部41aと接続するように設けられている。ホルダ用第2スペース44は、互いに対向する一対のホルダ用第2ガイド壁42a及び42bと、第2衝突壁43と、を有している。ホルダ用第2スペース44は、ガラスファイバの切断作業時において、光ファイバホルダ32をガイドするためのスペースである。
【0051】
ホルダ用第2ガイド壁42a及び42bは、前後方向に沿って、ベース部11の底面から立設されている。第2衝突壁43は、左右方向に沿って、ベース部11の底面から立設されている。また、第2衝突壁43は、第1溝部41aと接続されており、第1溝部41aから第2衝突壁43を通過して、ホルダ用第2スペース44に至ることが可能である。ホルダ用第2スペース44は、ホルダ用第2ガイド壁42a及び42bと、第2衝突壁43とによって、三方を囲まれたスペースである。ホルダ用第2スペース44の形状や大きさは、光ファイバホルダ32の形状や大きさに応じて、適宜決定することができる。
【0052】
係止片45は、ホルダ用第2スペース44に光ファイバホルダ32を配置した状態において、光ファイバホルダ32の所定の部位と係合し、光ファイバホルダ32を係止することが可能である。
【0053】
光コネクタ用スペース52は、ベース部11の前方向側の端部に設けられている。光コネクタ用スペース52は、ベース部11から立設された装着部51a,51b,51c,及び51dによって形成されたスペースであり、光コネクタ34を装着可能なスペースである。装着部51a,51b,51c,及び51dの構造は、特に制限されず、装着する光コネクタの形状に応じて、適宜決定すればよい。
【0054】
ステップ53は、第2溝部41bの上方向側の両端部から、左右方向へと広がるように設けられた平坦な部位である。また、ステップ53の左方向側および右方向側の端部には、ホルダ用第3ガイド壁54a及び54bがそれぞれ設けられている。ステップ53、並びにホルダ用第3ガイド壁54a及び54bは、ガラスファイバと光コネクタとの接続作業時において、光ファイバホルダ32をガイドするためのレールとして機能する。
【0055】
第3ガイド壁54a及び54bの間の距離は、後方向側よりも前方向側の方が短くなっている。前方向側において、第3ガイド壁54a及び54bの間の距離は、例えば、光ファイバホルダ32の幅と等しい。
【0056】
(切断作業時に使用する工具としての使用例)
次に、ガラスファイバの切断作業時における、光ファイバ用工具1の使用方法を説明する。図11は、図9に示す光ファイバ用工具1をガラスファイバの切断作業時に使用する場合の使用例を示す図である。図11において、例えば、光ファイバ33の後方向側は、被覆が除去されたガラスファイバである。
【0057】
切断作業時において、まず、ホルダ用第2スペース44の上方向側から、光ファイバホルダ32をホルダ用第2スペース44へと押し込む。この状態において、光ファイバホルダ32は、ホルダ用第2ガイド壁42a及び42bに当接し、短手方向の位置決めがなされる。また、光ファイバケーブル31が第2溝部42aに嵌ることでも、短手方向の位置決めがなされる。
【0058】
また、光ファイバホルダ32をホルダ用第2スペース44へと押し込んだ状態において、光ファイバホルダ32は、第2衝突壁43に当接し、長手方向(前後方向)の位置決めがなされる。なお、この状態において、光ファイバホルダ32は、係止片45によっても係止されている。
【0059】
上記のように、短手方向および長手方向で光ファイバの位置決めをした状態で、第1溝部41aにガイドされて光ファイバ用工具1の外部へと突き出たガラスファイバを、所定の切断具を用いて切断することで、ガラスファイバを適切な長さに調整することが容易になる。
【0060】
(挿入作業時に使用する工具としての使用例)
次に、ガラスファイバを光コネクタへ挿入する作業時における、光ファイバ用工具1の使用方法を説明する。図12は、図9に示す光ファイバ用工具1を、ガラスファイバを光コネクタ34へ挿入する作業に使用する場合の使用例を示す図である。図12において、例えば、光ファイバ33の前方向側は、被覆が除去され、所定の長さに切断されたガラスファイバである。
【0061】
挿入作業時において、まず、光コネクタ用スペース52に光コネクタ34を装着する。次に、光ファイバホルダ32をステップ53の後方向側端部に当接させ、かつ、光ファイバケーブル31を第1溝部41aに嵌め込んで、短手方向における位置決めをする。続いて、この状態から、ステップ53、並びにホルダ用第3ガイド壁54a及び54bに沿って、光ファイバホルダ32を前方向側に移動させる。前方向側におけるホルダ用第3ガイド壁54a及び54bの間の距離は、光ファイバ用ホルダ32と等しいため、上記のように光ファイバホルダ32を前方向側に移動させていくことで、短手方向においてさらに厳密な位置決めができる。結果として、光コネクタ34の適切な位置に、ガラスファイバを挿入することが容易になる。
【0062】
以上、本開示を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。また、上記説明した構成部材の数、位置、形状等は上記実施の形態に限定されず、本開示を実施する上で好適な数、位置、形状等に変更することができる。
【符号の説明】
【0063】
1:光ファイバ用工具
10:第1面
11:ベース部
12:アーム部
13:ベース刃部
14:アーム刃部
15a,15b:ガイド壁
16:斜面
17:ガイド部
18:保護壁
19a,19b:ホルダ用第1ガイド壁
20:第1衝突壁
21:ホルダ用第1スペース
22a:第1リブ
22b:第2リブ
31:光ファイバケーブル
32:光ファイバホルダ
33:光ファイバ
34:光コネクタ
40:第2面
41a:第1溝部
41b:第2溝部
42a,42b:ホルダ用第2ガイド壁
43:第2衝突壁
44:ホルダ用第2スペース
45:係止片
51a,51b,51c,51d:装着部
52:光コネクタ用スペース
53:ステップ
54a,54b:ホルダ用第3ガイド壁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12