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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】延焼防止システム
(51)【国際特許分類】
   A62C 2/08 20060101AFI20240422BHJP
   A62C 31/02 20060101ALI20240422BHJP
   A62C 2/00 20060101ALI20240422BHJP
   E04B 1/94 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
A62C2/08
A62C31/02
A62C2/00 A
E04B1/94 B
E04B1/94 L
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020008134
(22)【出願日】2020-01-22
(65)【公開番号】P2021115045
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000233826
【氏名又は名称】能美防災株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100188547
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴野 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 悠史
(72)【発明者】
【氏名】増田 有行
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-033864(JP,U)
【文献】特開2011-127295(JP,A)
【文献】特開2017-158971(JP,A)
【文献】特開2014-223104(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0151961(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62C 2/00-99/00
E04B 1/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接する建物の間の軒下に放出ヘッドが設けられ、
前記放出ヘッドは、前記建物の外壁面に向かって斜め上方に防火液を放出する焼防止システムであって、
前記建物の下部に延在して設けられ、壁面配管を構成する横配管と、前記横配管に接続される縦配管と、前記放出ヘッドを先端付近に設けた突出配管とを有し、
前記突出配管は、前記放出ヘッドが前記外壁面から離間した位置となるように前記外壁面の近傍から突出するように設けられ、
前記放出ヘッドは、前記建物の中程より下の高さから前記外壁面と前記軒下に向かって扇状に前記防火液を放出することを特徴とする延焼防止システム。
【請求項2】
上の段に設けられた前記放出ヘッドに加えて下の段にも前記外壁面から離間した位置に放出ヘッドが設置され、
前記下の段の放出ヘッドは、前記外壁面に向かって前記防火液を放出し、
前記突出配管の長さは、隣接する建物との間の間隔より短く、軒の長さより短いことを特徴とする請求項1に記載された延焼防止システム。
【請求項3】
隣接する建物の間の軒下に放出ヘッドが設けられ、
前記放出ヘッドから、前記建物の外壁面に向かって斜め上方に防火液を放出し、
前記放出ヘッドは、直角に曲がる継手を介して配管されており、
前記継手のネジの締め具合によって前記防火液の縦の放出方向を調整可能としたことを特徴とする延焼防止システム。
【請求項4】
前記放出ヘッドは、周囲から軸に垂直に入れた切り込みにより形成された放出溝を有し、先端を前記外壁面に向けるとともに、先端が下がるように設置したことを特徴とする請求項3に記載された延焼防止システム。
【請求項5】
前記放出ヘッドを先端付近に設けた突出配管を有し、
前記突出配管は、前記放出ヘッドが前記外壁面から離間した位置となるように前記外壁面の近傍から突出し、
前記放出ヘッドの近傍の前記継手により、前記放出ヘッドの方向を調節可能としたことを特徴とする請求項3または4に記載された延焼防止システム。
【請求項6】
前記防火液は水よりも高粘度であり、
前記外壁面は下見板張りであり、外壁板同士が重なっている部分に対しても、十分に前記防火液が付着するように放水が可能であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載された延焼防止システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物が密集して設けられた地域に設置して、防火液を建物に放出することにより延焼を防止するシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
都市部の旧来の住宅地区や伝統的な木造住宅地区等においては、木造の建物が密集して建てられ、隣接する建物の間隔が狭い地域(以下、「木密地域」という。)がある。木密地域では、火災が建物の狭い間隔を容易に超えてしまい、延焼により被害が拡大しやすい。また、木密地域は、消防車の進入が困難であるだけでなく、狭い間隔で設けられた壁面への放水は、建物の壁面に向けて放水しようとしても壁面の前の空間が狭く、放水口から壁面までの距離を確保できない。そのため、狭い間隔に向け、建物の壁面に沿った方向に放水せざるを得ず、消火や延焼防止の作業が困難である。このように木密地域の火災で消防車等による放水を効率的に行うことは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-344246号公報
【文献】特開2019-063199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、火災時に構造部材の表面に水膜を形成することによって、構造部材の耐火性能を向上させる装置が記載されている。この装置では、木質構造部材の表面部分の上部に水を供給して、表面部分を濡らしながら自由流下して表面部分を覆う水膜を形成する。しかしながら、表面に均一に水膜を形成することは難しく、水膜が薄い部分や水膜を形成できなかった部分から延焼が生じる。特に、外壁が後述する下見板張りである場合には、板の下端に水膜を形成する事ができず、延焼しやすい。また、特許文献2には木密地域にドレンチャヘッドを設け、放水を行う延焼防止システムが記載されている。しかし、主に屋根に対して放水するものであり、外壁面への放水を行うものではない。
【0005】
本発明は、建物が密集して設けられた地域で効率的に火災の延焼を防止する、延焼防止システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明は、隣接する建物の間の軒下に放出ヘッドが設けられ、前記放出ヘッドは、前記建物の外壁面に向かって斜め上方に防火液を放出することを特徴とする延焼防止システムである。
本発明は、建物の外壁面から近い軒下において、軒下に設けた放出ヘッドから斜め上方に防火液を放出することにより、防火液は外壁面に達して付着し易い効果を奏する。また、放出ヘッドが軒下に設けられるため、放出ヘッドから入った雨水による放出ヘッド等の内部からの劣化を抑制する効果を奏する。
【0007】
(2)また、本発明は、前記防火液は水よりも高粘度であり、前記外壁面は下見板張りであることを特徴とする(1)に記載された延焼防止システムである。
本発明では、防火液が高粘度であるため、外壁面等に付着し易い。また、伝統的な木造住宅等に用いられる下見板張りの外壁面は、板材が斜め下方に突出しているために延焼しやすい。本発明によれば、突出した板材の下方にも防火液が付着しやすいため、高い防火能力を発揮することができる。
【0008】
(3)また、本発明は、前記放出ヘッドは120°乃至160°の角度で扇状に前記防火液を放出し、前記外壁面に前記防火液が、縦幅1に対し横幅1.5~2.5の範囲で到達することを特徴とする(1)または(2)に記載された延焼防止システムである。
本発明によれば、斜め上方に向けて扇状に防火液を放出するため、外壁面を防火液で均一に覆うことができる。さらに、扇状が120°乃至160°の角度であるために外壁に到達しない真横への放出がなく、防火液を有効に用いることができる。
【0009】
(4)また、本発明は、前記放出ヘッドを縦方向に回転させる調整手段を設け、前記防火液の縦の放出方向を調整可能としたことを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載された延焼防止システムである。
本発明によれば、外壁面に対して放出ヘッドを最も効率的に防火液を放出できる方向に設置現場で調整することができる。
【0010】
(5)また、本発明は、前記防火液を前記放出ヘッドに供給する配管は横配管と縦配管を有し、異なる高さの位置に設けられた複数の前記放出ヘッドを備えたことを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載された延焼防止システムである。
本発明によれば、横配管によって狭い建物同士の間に効率的に防火液を供給することができる。また、縦配管を用いて異なる高さの位置に複数の放出ヘッドを備えることにより、2階建てや3階建ても含めて縦方向に広がる外壁面の全体に防火液を吹き付けることができる。
【0011】
(6)また、本発明は、前記放出ヘッドを先端付近に設けた突出配管を有し、前記突出配管は、前記放出ヘッドが前記外壁面から離間した位置となるように前記外壁面の近傍から突出していることを特徴とする(1)乃至(5)のいずれかに記載された延焼防止システムである。
本発明によれば、外壁面に設置した配管から突出配管を介して、外壁面から離間した位置の放出ヘッドから防火液を放出することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、防火液を着実に外壁面に付着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】密集した建物1同士の間に設けた延焼防止システム。
図2】斜め上方から見た、建物1の外壁面11aに設置した延焼防止システム。
図3】外壁面11aの水平断面の上方から見た、建物1の外壁面11aに設置した延焼防止システム。
図4】放出ヘッド2の断面図。
図5】外壁面11aの側方から見た、建物1の外壁面11aに設置した延焼防止システム。
図6】外壁面11aの外側から見た、建物1の外壁面11aに設置した延焼防止システム。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、密集した建物1同士の間に設けた延焼防止システムを示す。図1において、2軒の建物1は木造住宅であり、互いの外壁11を対向して狭い間隔で建てられている。屋根12からは軒13が延在しており、建物1の間では軒13の下に放出ヘッド2が位置している。本実施形態では、2つの建物1における外壁面11aの間隔αは100cmである。木密地域等のように建物1が密集した地域では、間隔αが50~150cmと狭く、一度火災が起きてしまうと他の建物1に延焼しやすい。なお、本願の図面において、建物1の床面積等は実際よりも小さく記載している。2件の建物1における向かい合う外壁11は、後述する下見板張りで形成されている。延焼防止システムは、配管3等により形成され、放出ヘッド2は上下2段に設置している。
【0015】
配管3は、外壁面11aに沿って外壁11に取り付けた壁面配管31と、外壁面11aの近傍から隣接する建物1の外壁11側に突出した突出配管32より形成され、防火液を放出ヘッド2に供給する。壁面配管31は、横配管311と縦配管312を備える。横配管311は、端部が防火液圧入装置4に接続されている。そして、建物1の布基礎14に沿って横方向に設置され、建物1の角を曲がって建物1の間の下部に延在する。
【0016】
図1において、点線は防火液の縦の放出方向を示す。放出ヘッド2から延びる2本の点線の間に防火液を放出する。本実施形態では放出ヘッド2を上下2段に配置しており、外壁面11aを覆うように防火液が放出される。また、防火液は軒13下まで達し、軒13からの延焼を防止する。本実施形態において、防火液はチキソトロピー性を有した高粘度状の物質であり、配管3へ押し出される際に生じる剪断応力により流動性が生じ、外壁面11a等に達して剪断応力が無くなると高粘度に戻る。そのため、外壁面11a等に付着して高い防火性を有する。
【0017】
図2は、斜め上方から見た、建物1の間で外壁面11aに設置した延焼防止システムである。点線の丸βで囲った部分には、外壁11の断面が示されている。外壁11は、側方に延在する複数の木製の外壁板11bを部分的に重ねて構成され、外壁板11bの上部が上の外壁板11bの下部に隠れる下見板張りである。下見板張りは、古い木造建築物や伝統的建築物などでよく使用される外壁構造である。
【0018】
配管3は、布基礎14の部分に設置された横配管311から分岐し、外壁面11aに沿って上方に向けて縦配管312が延在している。そして、縦配管312には異なる高さに2本の突出配管32がつながっている。突出配管32は外壁面11aから略垂直な方向に延在している。突出配管32の先端付近には放出ヘッド2が設けられており、突出配管32により放出ヘッド2は外壁面11aから離間した位置で、異なる高さの2箇所に設置される。
【0019】
図3は、外壁面11aの水平断面の上方から見た、建物1の外壁面11aに設置した延焼防止システムである。図1,2に示した上方の突出配管32等が記載されている。横配管311から、上方に向かって縦配管312が接続されている。図3において、縦配管312は第1継手35の影の位置にある。図2に示すように、縦配管312には、上部と下部の2箇所でエルボやティーズ等の継手と短い管により、突出配管32が接続している。図3に示すように、縦配管312からの配管3は、第1継手35により一度、外壁面11aに平行な側方へ向かい、第1短管33に接続する。さらに第2継手36により外壁面11aに略垂直に外壁面11aから離れる方向へ延在する突出配管32が接続する。そして、第3継手37により外壁面11aに平行で水平な方向へ向かい第2短管34に接続し、第4継手38によって外壁面11aの方向に向かった後に放出ヘッド2が取り付けられている。配管3の接続部は管とエルボ等に設けた外ネジと内ネジにより接合している。本実施形態ではこのようにして、放出ヘッド2のヘッド先端25が外壁面11aの方向を向いた状態で、放出ヘッド2が突出配管32の先端付近に設けられている。また、本実施形態において、外壁面11aから放出溝23までの距離は35cmである。一つの放出ヘッド2から放出される防火液による外壁面11aでの付着領域の面積や付着具合等からみて、外壁面11aから放出溝23までの距離は15~50cmであることが好ましい。ただし、放出ヘッド2は軒13の下方に設けられ、軒13の先端よりも外側には設けられない。そのため、放出口である放出溝23には雨水が入りにくく、放出ヘッド2等の劣化が抑制される。
【0020】
第3継手37、第2短管34、第4継手38はネジ止めされており、ネジの締め具合によって放出ヘッド2の縦の放出方向を調整することができる。第3継手37、第2短管34、第4継手38は、放出ヘッド2のヘッド先端25を第2短管34に対して上下方向である縦方向に回転させる調整手段となっている。放出ヘッド2のヘッド先端25を下方に押し下げると、上方を向いている放出溝23が外壁面11aの方向へ向き、縦の放出方向は斜め上方を向きつつ外壁面11aの下方へと移動する。
【0021】
図4は、放出ヘッド2の断面図である。図4(A)は放出ヘッド2の横断面図であり、(B)は縦断面図を示す。図4(A)でのb-b断面を(B)で示し、(B)でのヘッド先端25側から見たa-a断面を(A)で示す。図4(B)において、右側が防火液の流入口22であり、外側に外ネジ24が切られている。点線で示した放出ヘッド2の軸c-cに沿って中心軸孔21が設けられており、流入口22と放出口である放出溝23を接続している。左側の放出溝23からは防火液を軸c-cの延長線上から見た方向(又は、図4(A)の方向)で扇状に放出する。放出溝23は、放出ヘッド2の周囲から軸c-cに垂直に入れた切り込みであり、放出溝23の切り込みの深さにより、防火液を放出する扇状の角度が変化する。放出溝23が浅いと扇状の角度は狭く、放出溝23が深いと扇状の角度は広くなる。
【0022】
図5は、外壁面11aの側方から見た、建物1の外壁面11aに設置した延焼防止システムである。突出配管32は、外壁面11aの近傍から突出している。本実施形態では、外壁面11aに沿って設けられた縦配管312から、突出配管32が外壁面11aに略垂直に突出する。なお、地面に対しては、突出配管32はほぼ水平に設けられる。ここで突出配管32の長さとしては、隣接する建物1の間の間隔αより短く、建物1の軒13の長さより短い長さであって、かつ建物1の外壁11全体に対して延焼効果のある十分な厚みのある防火液を付着させることが可能な位置に放出ヘッド2を配置できるような長さが選ばれる。そして、図3に示した第3継手37、第2短管34、第4継手38により、放出ヘッド2は図5に示すように外壁面11aにヘッド先端25を向けて取り付けられる。図4(B),5で放出ヘッド2の左側に位置するヘッド先端25を、図5に示すようにやや下げて放出ヘッド2を、突出配管32に対して傾けている。そのため、放出溝23から防火液が外壁面11aに向けて、点線と矢印で縦の放出方向5に示すように斜め下方から放出される。放出ヘッド2の流入口22の方向から見て防火液は扇状に放出されるが、厚さが薄い幕状ではない。図5に点線で示すように防火液は所定の角度を有して上下方向に広がり、縦の放出方向5が扇の先端に向けて厚くなるように放出され、外壁面11aの上下方向の広い領域を防火液で覆うことができる。縦の放出方向5の角度は本実施形態では水平方向から約50~85°の範囲である。範囲の内角は35°程度であるが、範囲の内角が20~70°になるように放出溝23の形状等を設定する。本実施形態では、ヘッド先端25が下がっているため、放出ヘッド2の内部に雨水や埃等が入ったとしてもヘッド先端25付近で留まり、配管3の中へ侵入しにくい。
【0023】
外壁11は、側方に延在する複数の木製の外壁板11bを部分的に重積して構成され、外壁板11bの上部が上の外壁板11bの下部に隠れるように重なる下見板張りである。下見板張りは、下方へ流れる雨水が外壁板11bの上端に達しないため、外壁11の内部に雨水が入りにくくなっている。しかし、突出した外壁板11bの下端から燃えやすく、隣の建物1から延焼しやすい構造である。しかも、外壁板11bの下端は流下する防火液では覆うことが難しい。本発明では、外壁面11aに斜め下方から防火液が到達するため、下見板張りにおける外壁板11bの下端も防火液で覆われる。より詳しく説明すると、外壁板11b同士が重なっている部分に対しても、十分に防火液が付着するように放水が可能であり、仮に外壁板11bの重なり部分に隙間などがあっても、その隙間に防火液が入り込み隣接する建物1からの延焼を防止する。そして、防火液はチキソトロピー性を備えているため外壁面11aで流下しにくく、外壁板11bを所定の厚さ以上の厚さで覆うことができる。
【0024】
また、防火液は放出ヘッド2から勢いよく放出するため、一部がミスト状になって漂いながら外壁面11a等に付着する。そのため、縦の放出方向5から外れた軒13の下部にも防火液が付着して延焼を防止することができる。さらに、放出ヘッド2が軒13の先端よりも外壁11近くである軒下に設けられているため、軒13の下部に防火液が付着しやすい。また、放出溝23は上方を向いているため、上部からの雨水が入りやすいが、放出ヘッド2の放出溝23が軒13下に位置するため、雨水が放出ヘッド2の内部に入りにくいという利点がある。
【0025】
図6は、外壁面11aの外側から見た、建物1の外壁面11aに設置した延焼防止システムである。点線により扇状である防火液の放出範囲6を示し、太点線の内側は外壁面11a上の防火液の付着領域7を示す。防火液は放出ヘッド2から点線で示した放出範囲6の内側に扇状に放出される。図4(B)の軸c-c方向からみた放出範囲6の内角を放出角61で示す。図6における放出角61は約140°である。放出角61が180°に近くなると、両脇の防火液は放出ヘッド2から側方に放出されて外壁面11aに到達しない。そのため、防火液に無駄が生じる。一方、放出角61が狭すぎると、一つの放出ヘッド2により防火液で覆うことができる外壁面11aが狭くなる。放出角61が120~160°の放水パターンであることが好ましく、130~150°であることがさらに好ましい。また、外壁面11aに防火液が、縦幅1に対し横幅1.5~2.5の範囲で到達の付着領域7となる放水パターンであることが好ましい。図6において、上部の放出ヘッド2と下部の放出ヘッド2による付着領域7は一部重なっている。また、軒13の先端により隠れているが、上部の放出ヘッド2による付着領域7は外壁面11aの上方まで達し、軒13の下面にも付着している。
【0026】
火災が発生した際には、図1に示した防火液圧入装置4から防火液を送出する。そして、配管3を介して放出ヘッド2へ防火液を供給し、放出口である放出溝23から外壁面11aに向けて斜め上方に扇状に防火液を放出する。防火液は、縦幅1に対し横幅1.5~2.5の範囲で外壁面11aに達して図6の付着領域7のように付着する。本実施形態においては、外壁11は下見板張りであるが、外壁板11bの下端部分にも十分な厚さで付着する。さらに噴霧状の防火液は軒13の下部にも達して軒下の全体にも付着する。このようにして、建物1の外壁面11a等を防火液で覆うことにより、隣接した建物1からの延焼を防止したり、外壁11を消火したりすることができる。
【0027】
図6では、外壁面11aの下部は付着領域7となっていないが、付着した防火液の一部が流下して付着する。また、外壁11の下部は防火液で覆われなくても、隣家からの熱や炎による延焼は建物の低い場所からは生じにくく、十分な防火効果が得られる。なお、下部の放出ヘッド2の位置を布基礎14の下方にまで下げれば、外壁面11aの下部も付着領域7とすることができる。布基礎14は一般的にコンクリート製であり、防火液が付着しない状態で熱を受けても延焼しない。
【0028】
<変形例>
本実施形態では、放出ヘッド2の放出溝23は、図4(B)に示すように軸c-cに垂直であるが、軸c-cから周囲に向けてヘッド先端25の方向に傾けて放出溝23を設けてもよい。図4(B)では、放出溝23が下方より上方が左側となるように切り込みを傾ける。このようにすることで、放出ヘッド2から扇状の防火液が斜めに放出されるため、放出ヘッド2の先端を下げる必要が無い。図5に示すように放出ヘッド2の先端を下げると、放出溝23の側方に突出配管32が位置するため、扇状に放出された防火液の一部が突出配管32に当接する可能性がある。しかし、放出ヘッド2の先端を下げなかったり、下げる量を小さくしたりすれば、放出された防火液の一部が突出配管32に当接しにくくなる。
【0029】
本実施形態では、各建物1に防火液圧入装置4を設けているが、防火液圧入装置4を移動型とし、各建物1に設けた防火液注入口に接続して用いるようにしてもよい。このようにすることによって、防火液圧入装置4を各戸に設ける必要がなくなる。
【0030】
本実施形態では、縦配管312は一本であるが、外壁11の横幅に応じて縦配管312は複数本設置される。また、本実施形態では放出ヘッド2を上下2段に配置しているが、3段以上に配置することもできる。特に2階建て等の外壁面11aが高さを備えた建物1では、3段以上の配置が必要である。また、上下の段の高さが異なる場合には、横配管311を複数の高さに設け、別々に防火液圧入装置4を接続することによって、高さによる圧力低下を緩和してもよい。
【0031】
本実施形態では、縦配管312と突出配管32の間に2つの継手を用いているが、1つの継手にして縦配管312から直接的に突出配管32を外壁面11aの垂直方向に保持してもよい。なお、2つの継手を用いた本実施形態では、突出配管32の先端位置を上下に調整することができる。つまり突出配管32だけを下方向に回動して放出ヘッド2を回動させずに、放出ヘッド2から建物1の外壁面11aに向かって斜め上方に防火液を放出することも可能である。
【0032】
放出ヘッド2は、軒下を出ずに放出口が外壁面11aから離れた位置に保持できればどのように取り付けてもよい。そして、放出口の向きを調整可能とする調整手段を設けることが望ましい。放出口の向きは特に縦の放出方向5が調整可能であることが好ましい。図3において、第2短管34に対する第4継手38の取り付け方向を逆にして、ヘッド先端25が外壁面11aから離れる向きで放出ヘッド2を取り付ければ、放出した防火液が突出配管32等に当たる可能性が低くなる。また突出配管32に直接的に放出ヘッド2を取り付けて突出配管32の外壁面11aに対する角度を調整し、第2継手36等を調整手段として縦の放出方向5を調整しても良い。
【0033】
本実施形態では、突出配管32は外壁面11aに対して略垂直に延在しているが、外壁面11aから離れた位置に放出ヘッド2を維持できれば垂直でなくてもよい。しかし、実施形態のように突出配管32を外壁面11aに略垂直に延在することによって、短い突出配管32で離れた位置に放出ヘッド2を保持することができる。さらに、第1短管33等を回動可能とし、通常時は突出配管32を外壁面11aに沿った位置まで持ち上げておくようにすることもできる。この場合、放出ヘッド2の放出口から防火液が放出される反動で回動し、実施形態のように突出配管32が外壁面11aから突出した位置まで移動して停止する。本変形例では通常時には突出配管32が外壁面11aから突出していないため、邪魔にならず、美観を保つことができる。また、通常時に放出ヘッド2は軒下に設けられており、雨水等は入らない。放出時の放出ヘッド2は軒下から突出してもよい。
【0034】
さらに、隣接する建物1の間が非常に狭い場合には、突出配管32を設けないか、非常に短くし、取り付けた建物1に対向する建物1の外壁面11aに向かって斜め上方に防火液を放出するようにしてもよい。
実施形態では防火液にチキソトロピー性を有した物質を用いたが、他の高粘度状の物質を用いてもよい。また、水や高粘度でない薬剤でも一定の防火効果を奏する。また延焼防止システムとして実施形態を説明したが、火災消火を主目的とした消火装置または消火システムとして扱うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 建物、11 外壁、11a 外壁面、11b 外壁板、12 屋根、13 軒、14 布基礎、2 放出ヘッド、21 中心軸孔、22 流入口、23 放出溝、24 外ネジ、25 ヘッド先端、3 配管、31 壁面配管、311 横配管、312 縦配管、32 突出配管、33 第1短管、34 第2短管、35 第1継手、36 第2継手、37 第3継手、38 第4継手、4 防火液圧入装置、5 縦の放出方向、6 放出範囲、61 放出角、7 付着領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6