(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】ディフェンシン発現促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/07 20060101AFI20240422BHJP
A61K 31/715 20060101ALI20240422BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240422BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240422BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240422BHJP
A61K 8/9728 20170101ALI20240422BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20240422BHJP
A61Q 17/00 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
A61K36/07
A61K31/715
A61P43/00 111
A61P17/00 101
A61P31/04
A61K8/9728
A61K8/73
A61Q17/00
(21)【出願番号】P 2020011294
(22)【出願日】2020-01-28
【審査請求日】2022-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000231497
【氏名又は名称】日本精化株式会社
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 香凜
(72)【発明者】
【氏名】仁木 洋子
(72)【発明者】
【氏名】大橋 幸浩
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-140336(JP,A)
【文献】特開2005-306814(JP,A)
【文献】GAO, Qipin et al.,Characterisation of acidic heteroglycans from Tremella fuciformisBerk with cytokine stimulating activity,Carbohydrate Research,1996年,Volume 288,Pages 135-142
【文献】富田哲治, 長瀬隆英,生体防御機構としてのディフェンシン,日本老年医学会雑誌,2001年,38巻 4号,p. 440-443
【文献】石井 (堤)裕子 等,殺菌ペプチドβ-defensinの発現制御,炎症・再生,21 巻 3号,2001年,p. 219-226
【文献】板東,美香,上皮細胞における抗菌ペプチドの発現調節機構の解明,四国歯学会雑誌,2011年,23 (2),p. 97-102
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
A61Q
A23L33/
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シロキクラゲ多糖体を含有
し、表皮細胞に作用させることを特徴とする、ヒトβ-ディフェンシン-2(hBD-2)又はヒトβ-ディフェンシン-3(hBD-3)発現促進剤。
【請求項2】
請求項
1に記載のディフェンシン発現促進剤を含有する、皮膚または生体内の抗菌作用を向上させるための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
シロキクラゲ子実体の抽出物を有効成分として含有するディフェンシン発現促進剤、並びに、該促進剤を含有する皮膚又は生体内の抗菌作用を向上させるための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
生物が生来有している免疫メカニズムの一つとして、生体内で様々な抗菌物質(抗菌ペプチド)が産生されることが知られている。抗菌ペプチドは、細菌、真菌、ウィルスを含む各種の微生物に対して強い抗菌力を発揮し、局所での感染防御や常在菌の恒常性維持などの役割を担っている。したがって、生体内で抗菌ペプチドの発現を促進することができれば、微生物の侵入に対する免疫力の向上や感染症等の疾患に対する治療などにつながると考えられる。
【0003】
抗菌ペプチドの中でも、ディフェンシンは最も多くの研究が報告されている抗菌ペプチドの1種である。ヒトにおいては、主に好中球等の貪食細胞に存在するα-ディフェンシンと、主に皮膚を含む上皮細胞に存在するβ-ディフェンシンが代表的なものとして知られている。ヒトβ-ディフェンシン(hBD)としては、現在、hBD-1~4の4種類が主要なものとして知られている。このうちhBD-2及びhBD-3は、皮膚、口腔粘膜、肺、気管などにおいて特に強く発現し、細菌感染や炎症刺激によって発現が誘導される誘導型の抗菌ペプチドであることが報告されており、各種の感染症や炎症と密接な関係があると考えられている。皮膚においては、アトピー性皮膚炎の発症や重症化との関係性が示唆されているほか、ニキビの予防又は治療に有効であることが報告されている(非特許文献1)。
【0004】
β-ディフェンシンの産生促進剤としては、有機酸、酵酵母由来のマンナン含有成分、ヨーグルト、甘酒の抽出物、焼酎もろみ、糠味噌濃縮物、AhR活性化剤等が既に報告されている(特許文献1~4)。一方、シロキクラゲは担子菌類、異担子菌亜綱、シロキクラゲ目に属するキノコの1種であり、その子実体は白木耳と呼ばれ強壮食品として珍重されてきた。シロキクラゲ子実体の抽出物の生理活性としては、コラーゲン生成促進作用、NMF産生促進作用、セラミド合成促進作用、ヒアルロン酸産生促進作用などが既に知られているが(特許文献5~8)、ディフェンシンの発現を促進する作用については知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2005/027893号公報
【文献】特開2006-241023号公報
【文献】特開2005-270117号公報
【文献】特開2016-150930号公報
【文献】特開2006-131558号公報
【文献】特開2006-124350号公報
【文献】特開2006-111560号公報
【文献】特開2019-099530号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】フレグランスジャーナル2006年10月号、p.99~104
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、皮膚又は生体内において優れたディフェンシン発現促進作用を有するディフェンシン発現促進剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、シロキクラゲ子実体の抽出物に優れたディフェンシン発現促進作用を見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0009】
本発明で使用されるシロキクラゲ子実体の抽出物は、皮膚又は生体内において優れたディフェンシン発現促進作用を有し、ディフェンシン発現促進剤として利用できる。ディフェンシンは細菌、真菌、ウィルスを含む各種の微生物に対して強い抗菌力を発揮する抗菌ペプチドであるから、本発明のディフェンシン発現促進剤は、皮膚又は生体内における抗菌作用を向上させる目的で使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明はシロキクラゲ子実体の抽出物を有効成分として含有するディフェンシン発現促進剤、並びに、該促進剤剤を含有する皮膚又は生体内の抗菌作用を向上させるための組成物に関する。
【0011】
本発明のディフェンシン発現促進剤は、シロキクラゲ子実体の抽出物を含有することを特徴とする。本発明で使用されるシロキクラゲ子実体の抽出物としては、シロキクラゲ子実体を水、或いは、水とエタノール、イソプロピルアルコール、グリセリン、1,3-ブチレングリコール及びプロピレングリコール等の水溶性溶媒との混合物で抽出したものを使用することができる。このような方法で抽出された組成物には、主に水溶性多糖類が含有され、本発明ではこのような水溶性多糖類を好ましく使用することができる。シロキクラゲ子実体より抽出される水溶性多糖類(シロキクラゲ多糖体)は、抽出に用いる溶媒の種類、抽出温度、抽出時間等によって、平均分子量の異なったものが得られるが、本発明には、平均分子量が1万から500万のものを好ましく用いることができ、平均分子量が4万から220万のものがより好ましい。本発明でいう平均分子量とは、水を溶媒とし既知分子量のポリエチレンオキサイドを標準物質として測定した架橋ビニルポリマーを使用したゲルパーミエーションクロマトグラム(GPC)における重量平均分子量である。
【0012】
本発明で使用されるシロキクラゲ実子体の抽出物としては、市販品を使用することができる。例えばシロキクラゲ多糖体として日本精化(株)よりTremoist-TP(粉末状)、Tremoist-SL(1wt%水溶液)が発売されている。
【0013】
本発明で使用されるシロキクラゲ実子体の抽出物は、優れたディフェンシン発現促進作用を有することから、ディフェンシン発現促進剤として利用できる。ディフェンシンは細菌、真菌、ウィルスを含む各種微生物に対して強い抗菌力を発揮する抗菌ペプチドであるから、本発明のディフェンシン発現促進剤は、皮膚又は生体内における抗菌作用を向上させる目的で使用できる。すなわち、本発明のディフェンシン発現促進剤は、微生物の侵入に対する免疫力の向上、常在菌の恒常性維持、感染症等の疾患に対する治療などに利用できる。特に皮膚においては、ニキビやアトピー性皮膚炎の予防又は治療に好ましく使用でき、健常な皮膚を維持する目的でも使用できる。
【0014】
本発明のディフェンシン発現促進剤は、ディフェンシンの中でも、主に皮膚を含む上皮細胞に存在するヒトβ-ディフェンシンの発現促進に有効であり、特にヒトβ-ディフェンシン-2(hBD-2)及びヒトβ-ディフェンシン-3(hBD-3)の発現促進に有効である。
【0015】
本発明のディフェンシン発現促進剤は、有効成分そのものからなるものであってもよいし、有効成分に加えて、生理学的に許容される各種の基剤、担体又は添加物や他の薬効成分を含有するものであってもよい。使用できる基剤、担体、添加剤としては、後述する各種の剤型を得るために通常用いられるものであれば特に制限はなく、賦形剤、着色剤、増粘剤、結合剤、崩壊剤、分散剤、安定化剤、ゲル化剤、酸化防止剤、界面活性剤、保存剤、保湿剤、pH調整剤等の公知のものを適宜選択して使用すればよい。
【0016】
本発明のディフェンシン発現促進剤の投与方法としては、経口、注射、外用等が挙げられる。また、本発明のディフェンシン発現促進剤は、目的とする投与方法に合わせて種々の剤型で使用することができる。具体的には、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤、懸濁剤等の経口内用剤;点滴剤、注射剤等の非経口内用剤;外皮用剤、貼付剤、点眼剤、点鼻剤、口腔剤、坐剤等の外用剤が挙げられる。また、経口投与であれば一般食品や健康食品に配合して使用することもできるし、外用投与であれば化粧品などに配合して使用することもできる。
【0017】
本発明のディフェンシン発現促進剤の投与量としては、本発明の効果が得られる量であればよく、特に制限はないが、製剤の剤型、適用部位、年齢、性別などに応じて適宜調整するとよい。具体的には、成人1人1日当たり0.01~5gとすることができる。この投与量は1回で投与されてもよいが、通常、数回に分けて投与するとよい。
【実施例】
【0018】
以下の実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらに何ら限定されるものではない。
【0019】
<ディフェンシン発現促進>
シロキクラゲ多糖体(Tremoist-TP、日本精化製)を0.1重量%の濃度で添加した培地(カルシウム濃度1.8mMに調整)にて、正常ヒト表皮角化細胞を24時間培養した後、細胞中のhBD-2及びhBD-3の遺伝子発現をリアルタイムPCR法により測定した。コントロールとしてシロキクラゲ多糖体が無添加の培地で培養した細胞における遺伝子発現量を同様に測定した。結果はコントロールの発現量を100%とした相対値として表1に示した。
【0020】
【0021】
表1の結果より、シロキクラゲ多糖体は、無添加に比較してディフェンシン遺伝子発現量が有意に増加しており、優れたディフェンシン発現促進作用を有することが分かった。