(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 265/06 20060101AFI20240422BHJP
C08L 51/04 20060101ALI20240422BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
C08F265/06
C08L51/04
C08K5/09
(21)【出願番号】P 2020016527
(22)【出願日】2020-02-03
【審査請求日】2023-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】399034220
【氏名又は名称】日本エイアンドエル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】赤木 一斗
(72)【発明者】
【氏名】村田 匡輝
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-106204(JP,A)
【文献】特開平08-301947(JP,A)
【文献】特表2012-511060(JP,A)
【文献】特開2006-249201(JP,A)
【文献】特開2003-026890(JP,A)
【文献】特開2003-026742(JP,A)
【文献】特開昭63-268712(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 51/00-51/10
C08K 3/00-13/08
C08F 251/00-291/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル系ゴム状重合体に、芳香族ビニル系単量体を含むビニル系単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体と、芳香環を有する乳化剤とを含有する熱可塑性樹脂組成物であって、
前記芳香環を有する乳化剤はデヒドロアビエチン酸を含み、且つ
前記芳香環を有する乳化剤の含有量が、熱可塑性樹脂組成物全量を基準として、1400~7000ppmである熱可塑性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム強化熱可塑性樹脂は成形加工性、耐衝撃性、機械的強度等に優れ、工業用部品や家庭電気製品に数多く採用されている。これらの用途では、種々の薬品や洗剤等と接触する機会が多く、ゴム強化熱可塑性樹脂に耐薬品性を付与することが要求されている。
【0003】
例えば、特許文献1~3には、アクリル系ゴム状重合体に所定の単量体をグラフト重合させてなるゴム強化熱可塑性樹脂が耐薬品性に優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-173361号公報
【文献】特開平8-113689号公報
【文献】特開平9-316291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで近年、製品の品質向上等を目的として、耐薬品性がより向上したゴム強化熱可塑性樹脂が求められている。そこで、本発明は、耐薬品性、特に耐溶剤性が向上した、ゴム強化熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明者等は鋭意検討した結果、以下の[1]~[3]に記載の発明を見出すに至った。
[1] ゴム状重合体に、芳香族ビニル系単量体を含むビニル系単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体と、芳香環を有する乳化剤とを含有する熱可塑性樹脂組成物であって、芳香環を有する乳化剤の含有量が、熱可塑性樹脂組成物全量を基準として、1400~7000ppmである熱可塑性樹脂組成物。
[2] グラフト共重合体が、ゴム状重合体製造工程、グラフト重合工程、パウダー化工程及び造粒工程を経て得られるグラフト共重合体であり、
ゴム状重合体製造工程における芳香環を有する乳化剤の添加量と、グラフト重合工程、パウダー化工程及び造粒工程における芳香環を有する乳化剤の添加量との質量比が4~25:96~75である、[1]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[3] ゴム状重合体製造工程、グラフト重合工程、パウダー化工程及び造粒工程を備える熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、
グラフト重合工程においては、ゴム状重合体に、芳香族ビニル系単量体を含むビニル系単量体がグラフト重合され、
グラフト重合工程において得られるグラフト共重合体樹脂全量を100質量部とした場合に、ゴム状重合体製造工程、グラフト重合工程、パウダー化工程及び造粒工程において添加される芳香環を有する乳化剤の総量が2~15質量部であり、
ゴム状重合体製造工程における芳香環を有する乳化剤の添加量と、グラフト重合工程、パウダー化工程及び造粒工程における芳香環を有する乳化剤の添加量の質量比が4~25:96~75である、熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐溶剤性が向上した、ゴム強化熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物、及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0009】
[熱可塑性樹脂組成物]
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、ゴム状重合体に、ビニル系単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体と、芳香環を有する乳化剤とを含有する。
【0010】
芳香環を有する乳化剤としては、当業界において乳化剤であると認識されるもののうち、芳香環を有するものであれば特に限定されない。その具体例としては、ロジン酸又はその塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。ロジン酸又はその塩は、未精製のロジン酸であっても、不均化により精製された不均化ロジン酸であってもよいが、不均化ロジン酸であると好ましい。不均化ロジン酸は、主成分としてデヒドロアビエチン酸を含む。ロジン酸の塩としては、例えば、カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩が挙げられる。
【0011】
芳香環を有する乳化剤の含有量は、熱可塑性樹脂組成物全量を基準として、1400~7000ppmであり、1800~6000ppmであると好ましく、1800~4000ppmであるとより好ましい。これにより、耐溶剤性をより向上させることができる。
【0012】
熱可塑性樹脂組成物における芳香環を有する乳化剤の含有量は、例えば、後述する熱可塑性樹脂組成物の製造方法の各工程での芳香環を有する乳化剤の添加量を調整することにより上記所定の範囲とすることができる。また、パウダー化工程で洗浄を行う場合には洗浄の程度により、あるいは造粒工程で脱気をする場合には脱気の程度により、芳香環を有する乳化剤の含有量を調整することもできる。
【0013】
熱可塑性樹脂組成物中に含まれる芳香環を有する乳化剤の種類及びその量は、ガスクロマトグラフィー(GC)分析やキャピラリー電気泳動(CZE)分析等の公知の方法を適用することによって解析可能である。より具体的には、実施例に記載の方法で解析することができる。
【0014】
上記ゴム状重合体としては、例えば、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体などのブタジエン系ゴム状重合体;エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体などのエチレン-プロピレン系ゴム状重合体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸エステル系単量体を主成分とする(メタ)アクリル系ゴム状重合体;シリコーン系ゴム状重合体;ブタジエン系ゴム状重合体/(メタ)アクリル系ゴム状重合体の複合ゴム状重合体;シリコーン系ゴム状重合体/(メタ)アクリル系ゴム状重合体の複合ゴム状重合体、及び塩素化ポリエチレンゴムなどが挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
これらのゴム状重合体の中で、耐溶剤性をより向上させる観点から、(メタ)アクリル系ゴム状重合体が好ましく、アルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位を含む(メタ)アクリル系ゴム状重合体が好ましい。(メタ)アクリル系ゴム状重合体におけるアルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位の含有量は、耐溶剤性をより向上させる観点から、50質量%以上であると好ましく、60質量%以上であるとより好ましく、70質量%以上であると更に好ましい。(メタ)アクリル系ゴム状重合体におけるアルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位の含有量の上限は特に限定されないが、例えば95質量%以下とすることができる。
【0016】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等が挙げられる。
【0017】
(メタ)アクリル系ゴム状重合体は、架橋剤により架橋されたものであってもよい。架橋剤としては、例えば、ジビニルベンゼン、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、ジシクロペンタジエンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0018】
(メタ)アクリル系ゴム状重合体は、上記の単量体以外の単量体由来の構成単位、例えば共役ジエン系単量体、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体由来の構成単位を有していてもよい。
【0019】
共役ジエン系単量体としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、2-クロロ-1,3-ブタジエン、クロロプレン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン等が挙げられ、一種又は二種以上用いることができる。
【0020】
芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、パラメチルスチレン、ブロムスチレン等が挙げられ、一種又は二種以上用いることができる。
【0021】
シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フマロニトリル等が挙げられ、一種又は二種以上用いることができる。
【0022】
ゴム状重合体における共役ジエン系単量体、芳香族ビニル系単量体又はシアン化ビニル系単量体由来の構成単位の含有量は、それぞれ独立に、例えば30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下とすることができる。ゴム状重合体がこれらの構成単位を含む場合の含有量の下限は特に限定されないが、それぞれ独立に、例えば1質量%以上とすることができる。
【0023】
ゴム状重合体は、例えば、後述するゴム状重合体製造工程に記載の方法により製造することができる。
【0024】
グラフト重合に供するビニル系単量体は、芳香族ビニル系単量体を含む。当該ビニル系単量体は、更にシアン化ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸アルキルエステル等を含んでもよい。芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、上記と同様のものを好適に用いることができる。
【0025】
上記グラフト重合に用いられるシアン化ビニル系単量体の含有量は、ビニル系単量体全量を基準として、例えば10~40質量%、好ましくは15~35質量%、より好ましくは20~30質量%とすることができる。上記グラフト重合に用いられる芳香族ビニル系単量体の含有量は、ビニル系単量体全量を基準として、例えば40~90質量%、好ましくは45~85質量%、より好ましくは50~80質量%とすることができる。
【0026】
グラフト重合は、例えば、後述するグラフト重合工程に記載の方法に従って行うことができる。
【0027】
上記熱可塑性樹脂組成物は、グラフト共重合体に加えて、更に熱可塑性樹脂を含有していてもよい。熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、ポリメタクリル酸メチル、スチレン-無水マレイン酸共重合体、スチレン-マレイミド共重合体、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンオキサイド等が挙げられる。
【0028】
[熱可塑性樹脂組成物の製造方法]
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、ゴム状重合体製造工程、グラフト重合工程、パウダー化工程及び造粒工程を備える。
【0029】
本実施形態の製造方法において、グラフト重合工程において得られるグラフト共重合体樹脂全量を100質量部とした場合に、ゴム状重合体製造工程、グラフト重合工程、パウダー化工程及び造粒工程において添加される芳香環を有する乳化剤の総量は2~15質量部である。また、本実施形態の製造方法において、ゴム状重合体製造工程における芳香環を有する乳化剤の添加量と、グラフト重合工程、パウダー化工程及び造粒工程における芳香環を有する乳化剤の添加量の質量比は4~25:96~75である。
【0030】
以下、各工程について説明する。
【0031】
<ゴム状重合体製造工程>
ゴム状重合体製造工程においては、上述の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、共役ジエン系単量体、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体等のビニル系単量体、及び架橋剤を、従来公知の方法、例えば乳化重合で重合させることによりゴム状重合体を製造する。乳化重合の際には、重合開始剤、乳化剤、重合調整剤等を用いてもよい。
【0032】
上記重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性重合開始剤、クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、t-ブチルハイドロパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等の油溶性重合開始剤が挙げられる。
【0033】
上記乳化剤としては、例えば、カルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩等が挙げられる。好ましく用いられる乳化剤の具体例としては、オレイン酸カリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム、ロジン酸又はその塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等が挙げられ、芳香環を有する乳化剤であるロジン酸又はその塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いることが好ましい。
【0034】
上記重合調整剤としては、例えば、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン等が挙げられる。
【0035】
<グラフト重合工程>
グラフト重合工程においては、ゴム状重合体に芳香族ビニル系単量体を含むビニル系単量体がグラフト重合される。グラフト重合により、グラフト共重合体、及びビニル系単量体同士が重合したフリーレジンを含むグラフト共重合体樹脂が得られる。
【0036】
グラフト重合は、従来公知の方法、例えば乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法等の重合法を用いることができる。乳化重合法を用いた場合、上述のゴム状重合体に上述のビニル系単量体を、乳化剤の存在下でグラフト重合することによって、グラフト共重合体樹脂のラテックスを得ることができる。乳化剤としては、上記ゴム状重合体製造工程において例示した物と同様のものを用いることができる。
【0037】
<パウダー化工程>
パウダー化工程においては、グラフト共重合体樹脂を、従来公知の方法によりパウダー化する。パウダー化の方法としては、例えば凝固剤を用いた方法、スプレードライヤーやアトマイザーを用いた方法が挙げられる。
【0038】
凝固剤としては、例えば硫酸、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸アルミニウム等が挙げられる。このような凝固剤を用いて、グラフト共重合体樹脂のラテックスを凝固した後に、洗浄、脱水等の回収工程を経て、その後乾燥することにより、パウダー化することができる。
【0039】
スプレードライヤーやアトマイザーを用いると、グラフト共重合体樹脂のラテックスを直接噴霧・乾燥させて、パウダー化することもできる。
【0040】
なお、パウダー化工程において、上述の芳香環を有する乳化剤を添加してもよい。
【0041】
<造粒工程>
造粒工程においては、パウダー化されたグラフト共重合体樹脂を、従来公知の方法により、ペレット等の形状に成型する。造粒の際には、上述の熱可塑性樹脂、乳化剤を更に加えてもよく、必要に応じて可塑剤、滑剤、難燃剤、顔料、充填剤、繊維強化剤等を適宜配合してもよい。造粒の方法としては、例えば、バンバリーミキサー、ロールミル、二軸押出機等の公知の装置を用いた溶融混練が挙げられる。
【0042】
造粒された熱可塑性樹脂組成物は、射出成形、押出し成形、圧縮成形、射出圧縮成形、ブロー成形等により成形することもできる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。なお、実施例中にて示す%は質量に基づくものである。
【0044】
<架橋アクリル酸ブチルゴムラテックス(a-1)の製造>
窒素置換したガラスリアクターに、脱イオン水219重量部、スチレン10重量部、アクリル酸ブチル5.0重量部、メタクリル酸アリル0.035重量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.3重量部(固形分換算)、過硫酸カリウム0.15重量部を仕込み、65℃で1時間反応させた。
その後、アクリル酸ブチル85重量部、メタクリル酸アリル0.60重量部の混合液及び脱イオン水24重量部にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.7重量部(固形分換算)を溶解した乳化剤水溶液を3時間かけて連続的に添加した。滴下後、3.5時間保持して、架橋アクリル酸ブチルゴムラテックス(a-1)を得た。
【0045】
<架橋アクリル酸ブチルゴムラテックス(a-2)の製造>
窒素置換したガラスリアクターに、脱イオン水219重量部、スチレン10重量部、アクリル酸ブチル5.0重量部、メタクリル酸アリル0.035重量部、不均化ロジン酸カリウム(商品名:ロンヂスK-25、荒川化学(株))0.45重量部(固形分換算)、過硫酸カリウム0.15重量部を仕込み、65℃で1時間反応させた。
その後、アクリル酸ブチル85重量部、メタクリル酸アリル0.60重量部の混合液及び脱イオン水24重量部に不均化ロジン酸カリウム(商品名:ロンヂスK-25、荒川化学(株))1.05重量部(固形分換算)を溶解した乳化剤水溶液を3時間かけて連続的に添加した。滴下後、3.5時間保持して、架橋アクリル酸ブチルゴムラテックス(a-2)を得た。
【0046】
<グラフト共重合体樹脂ラテックス(A-1)の製造>
窒素置換したガラスリアクターに、架橋アクリル酸ブチルゴムラテックス(a-1)50重量部(固形分換算)を仕込み窒素置換を行った。窒素置換後、槽内を昇温し60℃に到達したところで、ブドウ糖0.40重量部、無水ピロリン酸ナトリウム0.025重量部及び硫酸第一鉄0.001重量部を脱イオン水9.0重量部に溶解した水溶液を添加した。65℃に到達後、アクリロニトリル13重量部、スチレン37重量部、tードデシルメルカプタン0.1重量部の混合液及び脱イオン水16重量部にオレイン酸カリウム1.0重量部及びt-ブチルハイドロパーオキサイド0.28重量部(固形分換算)を溶解した乳化剤水溶液を6時間かけて連続的に滴下した。滴下後、2時間保持してグラフト共重合体ラテックス(A-1)を得た。
【0047】
<グラフト共重合体樹脂ラテックス(A-2)の製造>
オレイン酸カリウム1.0重量部に代えて不均化ロジン酸カリウム(商品名:ロンヂスK-25、荒川化学(株))2.0重量部を用いた他はグラフト共重合体樹脂ラテックス(A-1)の製造と同様にして、グラフト共重合体樹脂ラテックス(A-2)を得た。
【0048】
<グラフト共重合体樹脂ラテックス(A-3)の製造>
オレイン酸カリウム1.0重量部に代えて不均化ロジン酸カリウム(商品名:ロンヂスK-25、荒川化学(株))3.5重量部を用いた他はグラフト共重合体樹脂ラテックス(A-1)の製造と同様にして、グラフト共重合体樹脂ラテックス(A-3)を得た。
【0049】
<グラフト共重合体樹脂ラテックス(A-4)の製造>
架橋アクリル酸ブチルゴムラテックス(a-1)50重量部に代えて架橋アクリル酸ブチルゴムラテックス(a-2)50重量部を用いた他はグラフト共重合体樹脂ラテックス(A-2)の製造と同様にして、グラフト共重合体樹脂ラテックス(A-4)を得た。
【0050】
<グラフト共重合体樹脂パウダー(B-1)の製造>
撹拌翼を備えた単槽式の凝固槽中に、脱イオン水を固形分換算で100重量部のグラフト共重合体を全量槽内添加完了した際にスラリー濃度が18%になるように仕込んだ。その後、硫酸マグネシウム4.0重量部を添加し85℃に昇温した。85℃到達後、グラフト共重合体樹脂ラテックス(A-1)100重量部、不均化ロジン酸カリウム(商品名:ロンヂスK-25、荒川化学(株))0.3重量部(固形分換算)を添加した。添加後、95℃まで昇温し1分間保持した後に水洗、脱水し、熱風乾燥器で90℃、14時間乾燥させてグラフト共重合体樹脂パウダー(B-1)を得た。
【0051】
<グラフト共重合体樹脂パウダー(B-2)~(B-6)の製造>
不均化ロジン酸カリウム(商品名:ロンヂスK-25、荒川化学(株))の添加量を表1に示すように変更した他はグラフト共重合体樹脂パウダー(B-1)の製造と同様にして、グラフト共重合体樹脂パウダー(B-2)~(B-6)を得た。
【0052】
<グラフト共重合体樹脂パウダー(B-7)~(B-9)の製造>
グラフト共重合体樹脂ラテックス(A-1)に代えて、表1に示すようにグラフト共重合体樹脂ラテックス(A-2)、(A-3)又は(A-4)100重量部(固形分換算)を用いた他はグラフト共重合体樹脂パウダー(B-1)の製造と同様にして、グラフト共重合体樹脂パウダー(B-7)~(B-9)を得た。
【0053】
<グラフト共重合体樹脂パウダー(B-10)~(B-12)の製造>
表1に示すように、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム又はアルケニルコハク酸ジカリウム3.5重量部を更に添加した他はグラフト共重合体樹脂パウダー(B-1)の製造と同様にして、グラフト共重合体樹脂パウダー(B-10)~(B-12)を得た。
【0054】
【0055】
<共重合体(C-1)の製造>
公知の塊状重合法により、スチレン64.5重量部、アクリロニトリル25.5重量部からなる共重合体(C-1)を得た。得られた共重合体(C-1)の還元粘度を測定した結果、還元粘度は0.62dl/gであった。還元粘度は、共重合体(C-1)をN,N-ジメチルホルムアミドに溶解し、0.4g/100mlの濃度の溶液とした後、キャノンフェンスケ型粘度管を用い30℃で測定した流下時間より求めた。
【0056】
[実施例1~10及び比較例1~4]
表2に示す添加量で、グラフト共重合体樹脂パウダー(B-1)~(B-12)、共重合体(C-1)及び任意の乳化剤(ロジン酸マグネシウム(商品名:パインクリスタルKM-1500、荒川化学(株))又はロジン酸カルシウム(商品名:パインクリスタルKR-50M、荒川化学(株))を混合した後、40mm二軸押出機を用いて240℃にて溶融混練してペレット化することで熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットより、250℃に設定した射出成形機にて種々の成形品を成形、又は、プレス機にて試験片を作製し、以下に示す方法で各測定及び評価を行った。その結果を表2に示す。
【0057】
[残留乳化剤量測定]
ガスクロマトグラフィー(GC)分析により、デヒドロアビエチン酸の定量を行い、キャピラリー電気泳動(CZE)分析を用いてドデシルベンゼンスルホン酸の定量を行い、その合計量を残留乳化剤量とした。各分析は、下記条件にて測定した。なお、デヒドロアビエチン酸は不均化ロジン酸(ロジン酸)の主成分である。
【0058】
GC分析
〈サンプル作製〉
熱可塑性樹脂組成物2.5gを精秤し、アセトン25mLに16時間放置し溶解させた。溶解後、メタノール/1N塩酸混合溶液(容量比100:1)に再沈殿させ、ろ過により分別した。ろ液を濃縮、乾燥させて濃縮乾固物を得た。この濃縮乾固物をメチルエステル化し、アセトン100mLで定容し、測定サンプルとした。
< ガスクロマトグラフ測定条件>
装置:Agilent社製ガスクロマトグラフGC-7890A
カラム名:UA-SIL10C
カラム温度:70℃から20℃/minで260℃まで
サンプル量:1.0μL
検出器:FID
Inj温度:230℃
Det温度:270℃
キャリアガス:ヘリウム,52.2mL/min
水素:40mL/min
Air:450mL/min
【0059】
CZE分析
〈サンプル作製〉
熱可塑性樹脂組成物2.0gをアセトンに溶解させた。溶解後、メタノール/1N塩酸混合溶液(100/1)に再沈殿させ、ろ過にて分別し、ろ液を濃縮、乾燥させ濃縮乾固物を得た。濃縮乾固物をサリチル酸(150ppm)10mLと脱イオン水90mLを入れて一晩静置した。その後、0.45μmと0.1μmフィルターでろ過してろ液を測定サンプルとした。
〈測定条件〉
装置:Agilent社製7100
バッファー名:ホウ酸バッファー
カラム温度:25℃
電圧:25V
電流:300μA
【0060】
[耐衝撃性]
各実施例及び比較例で得られたペレットを用いISO294に準拠して各種試験片を成形し、耐衝撃性を測定した。
耐衝撃性はISO179に準拠し、4mm厚みで、ノッチ付きシャルピー衝撃値(NC)(単位:kJ/m2)を測定した。
【0061】
[流動性]
各実施例及び比較例で得られたペレットを用い、ISO1133に準拠して、220℃,10kg荷重の条件でメルトボリュームフローレイト(MVR)(単位;cm3/10分)を測定した。
【0062】
[耐溶剤性評価]
各実施例及び比較例で得られたペレットを用い、プレス機にて縦10cm×横2cm×厚さ0.2cmの試験片を作製した。片持ち梁冶具を使用して試験片を固定した側に溶剤を塗布し、反対側に600g荷重をかけ3分間観察し、割れが確認されなかった場合を「○」、割れが確認された場合を「×」として評価した。なお、溶剤としては、ヘキサン/エタノール=1/1(重量比)を用いた。
【0063】
実施例中、架橋アクリル酸ブチルゴムラテックスの製造がゴム状重合体製造工程に、グラフト共重合体の製造がグラフト重合工程に、グラフト共重合体パウダーの製造がパウダー化工程に、ペレットの製造が造粒工程に、それぞれ相当する。
【0064】