(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】制御システムおよび空気調和装置
(51)【国際特許分類】
H02P 29/00 20160101AFI20240422BHJP
F24F 11/46 20180101ALI20240422BHJP
F24F 11/49 20180101ALI20240422BHJP
F24F 11/871 20180101ALI20240422BHJP
【FI】
H02P29/00
F24F11/46
F24F11/49
F24F11/871
(21)【出願番号】P 2020018546
(22)【出願日】2020-02-06
【審査請求日】2023-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】316011466
【氏名又は名称】日立ジョンソンコントロールズ空調株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】弁理士法人MIP
(72)【発明者】
【氏名】森川 智貴
(72)【発明者】
【氏名】田村 建司
(72)【発明者】
【氏名】小倉 洋寿
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-084248(JP,A)
【文献】特開2003-148788(JP,A)
【文献】特開2005-312570(JP,A)
【文献】特開2018-132266(JP,A)
【文献】特開2002-022243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/00
F24F 11/46
F24F 11/49
F24F 11/871
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
羽根車を有する回転機を駆動する電動機を制御するシステムであって、
前記電動機に供給する電流を検出する第1の検出部と、
前記電動機の回転速度を検出する第2の検出部と、
前記第1の検出部
により検出された前記電流から得られる回転速度と、前記第2の検出部
により検出された回転速度とから算出された、前記羽根車が外部から受ける負荷による回転速度に応じて、前記電動機の回転方向を切り替える制御部と
を含む、制御システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記羽根車が外部から受ける負荷に
よる回転速度に応じて、前記電動機の回転を正回転もしくは逆回転または停止のいずれかに切り替える、請求項1に記載の制御システム。
【請求項3】
前記制御部は、
前記羽根車が外部から受ける負荷による回転速度が第1の閾値を超える場合に、前記電動機の回転方向を切り替える、請求項1または2に記載の制御システム。
【請求項4】
前記制御部は、
前記羽根車が外部から受ける負荷による回転速度が、前記第1の閾値を超えた状態が所定の時間維持される場合に、前記電動機の回転方向を切り替える、請求項3に記載の制御システム。
【請求項5】
前記制御部は、
前記羽根車が外部から受ける負荷による回転速度が第2の閾値を下回る場合に、前記電動機の回転を停止させる、請求項1~4のいずれか1項に記載の制御システム。
【請求項6】
前記制御部は、
前記羽根車が外部から受ける負荷による回転速度が、前記第2の閾値を下回る状態が所定の時間維持される場合に、前記電動機の回転を停止させる、請求項5に記載の制御システム。
【請求項7】
請求項1~6
のいずれか1項に記載の制御システムと、前記制御システムにより制御される電動機と、前記電動機により駆動される羽根車を有する回転機とを含む、空気調和装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機を制御するシステムおよび空気調和装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気調和装置の室外機は、屋外に設置され、電動機(モータ)により動作するファンが、筐体の取込口から外気を取り込み、熱交換器において外気と冷媒との間で熱交換を行い、熱交換後の外気を排出口から排出する。このため、ファンは、通常の運転において一定の方向に回転する。
【0003】
ところが、空気調和装置の運転停止時に、風等の外乱によりファンが逆回転することがある。この逆回転した状態で、空気調和装置を起動させると、無理やり正回転で動かそうとするため、負荷がかかり、起動に失敗したり、起動に相当の時間がかかる等の問題が生じる。
【0004】
そこで、空気調和装置の起動前に、逆回転するファンの回転数を減少させ、またはファンモータの空転を停止させる制御を行い、負荷を低減させた上で、安全かつスムーズに起動させる技術が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5893127号公報
【文献】特開2018-204878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
外乱の1つである風は、空気調和装置の起動時に突然止むことは稀で、起動後も吹き続けることが多い。従来の制御では、起動時から正回転で回るファンに対して逆回転させようとする力が作用し続けるため、多くの電力を消費し、省エネルギー運転にはならないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、電動機を制御するシステムであって、
電動機に供給する電流を検出する第1の検出部と、
電動機の回転速度を検出する第2の検出部と、
第1の検出部および第2の検出部の検出結果に応じて、電動機の回転方向を切り替える制御部と
を含む、制御システムが提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、省エネルギー運転を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図4】停止時および運転時のファンの状態を例示した図。
【
図7】ファンの回転方向を切り替える条件について説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本制御システムは、電動機(モータ)を制御するシステムとして、モータにより動作する羽根車を有する回転機を備えた機器に実装される。以下、そのような機器として空気調和装置を一例として挙げ、回転機を、空気調和装置の室外機が備えるファンとして説明する。なお、回転機は、ファンに限定されるものではなく、回転機を備えた機器も、空気調和装置に限定されるものではない。
【0011】
図1は、空気調和装置の構成例を示した図である。空気調和装置は、1の空間内に設けられる室内機10と、その空間の外部に設置される室外機11とを含む。なお、空気調和装置は、1台の室内機10と1台の室外機11の構成に限定されるものではなく、複数台の室内機10と1台の室外機11の構成や、複数台の室内機10と複数台の室外機11の構成であってもよい。
【0012】
室内機10と室外機11は、2本の配管12、13により接続され、配管12、13内を冷媒が循環するように構成されている。冷媒は、R134a(CH2FCF3)、R404A、R410A等が使用される。室内機10は、室内の空気を吸い込み、循環する冷媒により室内の空気を冷却または暖め、冷却または暖めた空気を吹き出す。これを繰り返すことにより、室内を冷やし、または暖める。室外機11は、冷媒を室内機へ供給するとともに、室内機から回収し、加熱または冷却して、再び室内機10へ供給する。
【0013】
図2は、室外機11の構成例を示した図である。室外機11は、外気を吸い込み、吹き出すファン20と、吸い込んだ空気を温め、または冷却する熱交換器21と、室内機10と室外機11との間で冷媒を循環する圧縮機22と、室外機11を制御する制御基板23と、膨張弁24とを備えている。ファン20には、ファン20の羽根車を一定の方向に回転させるためのモータ25が接続されている。同じように、圧縮機22にもモータが接続されている。
【0014】
また、室外機11は、外気温を計測する温度センサ、圧縮機22に供給する電流を計測するセンサ、冷媒の流量を計測するセンサ、冷媒の圧力を計測するセンサ、四方弁、アキュムレータ等を備えている。
【0015】
室外機11は、室内機10と連携して動作し、室内機10の起動に伴って起動され、運転を開始する。室外機11は、圧縮機22の起動により運転を開始し、圧縮機22により室内機10との間で冷媒の循環を開始する。
【0016】
空気調和装置を冷房に使用する場合、圧縮機22が冷媒を圧縮し、吐出すると、高温、高圧の冷媒は、熱交換器21内に供給される。冷媒は、ファン20により吸い込まれた外気と熱交換され、冷却される。冷却後、冷媒は、膨張弁24により膨張され、温度が下がり、配管13を通して室外機11から室内機10へ送られる。
【0017】
室内機10は、ファンと、熱交換器と、制御基板とを備えており、熱交換器内に冷媒が供給され、ファンにより吸い込まれた室内の空気と熱交換される。空気は、冷媒により冷却され、室内へ吹き出される。
【0018】
冷媒は、配管13を通り、圧縮機22へ戻される。この動作を繰り返し、吹き出された冷たい空気で室内を設定温度になるように冷却していく。
【0019】
空気調和装置を暖房に使用する場合、冷房の場合と逆の動作となり、圧縮機22が冷媒を断熱圧縮し、高温、高圧の状態にして吐出すると、熱交換器21ではなく、配管13を通して室内機10へ送られる。室内機10では、熱交換器内に冷媒が供給され、ファンにより吸い込まれた室内の空気と熱交換される。空気は、冷媒により温められ、室内へ吹き出される。
【0020】
冷媒は、空気に熱を与えて冷却され、配管13を通して室外機11へ送られる。室外機11では、膨張弁24により凝縮した高圧の冷媒を膨張させる。これにより、冷媒は、低温、低圧の状態になる。その後、熱交換器21内に供給され、ファン20により吸い込まれた外気と熱交換された後、圧縮機22へ戻される。この動作を繰り返し、吹き出された温かい空気で室内を設定温度になるように暖めていく。
【0021】
図3は、室外機11が備える制御基板の構成例を示した図である。制御基板23は、コンバータ30と、コンデンサ31と、インバータ32と、抵抗器33と、コントローラとしての運転制御手段34とを含む。コンバータ30と、コンデンサ31と、インバータ32とは、インバータ装置を構成し、インバータ装置は、交流電源14から供給される電源を、異なる電圧や周波数に変換して出力する。
図3は、ファン20を制御する要素のみを例示するが、制御基板23は、圧縮機22を制御する要素も含むものである。
【0022】
コンバータ30は、ダイオードを含み、電圧を交流から直流へ変換する。コンデンサ31は、変換された直流電圧の充放電を繰り返し、電圧を平滑化する。インバータ32は、モータ25を駆動する駆動部として機能する。インバータ32は、パワートランジスタ等のスイッチング素子を含み、スイッチング素子のオン、オフの比率を変えて、幅が異なる電圧の矩形波(パルス)を形成し、それを合成して擬似的な正弦波として出力する。このようなパルスの幅を変えて出力する方式は、パルス幅変調(PWM)と呼ばれる。
【0023】
インバータ32から出力されたパルスはモータ25へ入力される。モータ25は、電気エネルギーを機械エネルギーに変換し、ファン20に動力を与え、ファン20を回転させる。
【0024】
モータ25としては、例えば回転磁界を三相交流により発生させる三相モータ等が用いられる。三相モータは、電源として三相交流を使用するモータであり、三相交流は、電流または電圧の位相を120°ずつずらした3つの単相交流を組み合わせたものである。三相モータの回転速度は、周波数にほぼ比例し、周波数を変えることで、回転速度を変化させることができる。ただし、周波数のみを下げていくと、モータの交流抵抗が下がり、電流が大量に流れ、モータが焼損してしまうことから、周波数と同時に電圧を変化させる必要がある。
【0025】
モータ25に供給される電流は、抵抗器33により検出される。抵抗器33は、シャント抵抗器であり、回路保護のために設けられている。
【0026】
運転制御手段34は、コンバータ30やインバータ32を制御することによりモータ25の駆動を制御する。運転制御手段34は、コンバータ30の制御において、出力すべき直流電圧を決定する。また、運転制御手段34は、インバータ32の制御において、インバータ32に供給される電流値を、抵抗器33を用いて定期的に検出し、モータ25の回転数を検出する。なお、電流値や回転数は、定期的ではなく、連続して検出することも可能である。
【0027】
ここで、
図4を参照して、停止時および運転時のファン20の状態について説明する。ファン20は、屋外が無風状態で、空気調和装置が運転停止している場合、
図4(a)に示すように負荷はかからず、回転せず、停止した状態である。屋外が無風状態において、空気調和装置の運転を開始すると、ファン20は、モータ25からの動力を受けて動作を開始し、
図4(b)に示すように一定の方向に回転する。このときの回転が正回転である。
【0028】
ファン20が正回転している場合、室外機11の前面側にあるファン20により背面から外気を取込み、熱交換器21により外気と冷媒との間で熱交換を行い、前面から吹き出し排出する。
【0029】
一般に、屋外は無風状態であることは少なく、風が吹いていることが多い。室外機11は、背面を住宅等の壁に近隣して設置されることから、室外機11の前面の方が風を受けやすい。
【0030】
ファン20は、屋外で風が吹いており、空気調和装置が運転停止している場合、
図4(c)に示すように一定以上の負荷がかかると回転する。このとき、ファン20は、背面からではなく、前面から風を受けると、羽根の構造上、運転時の正回転とは反対の方向へ逆回転する。ファン20は、前面から受ける風が強ければ強いほど、速い速度で逆回転する。
【0031】
このように逆回転している状態で、空気調和装置の運転を開始すると、逆方向へ負荷がかかっているため、モータ25からより大きい動力を受けなければ、ファン20を正回転させることができない。
【0032】
ところで、ファン20は、逆回転した場合であっても、送風方向は変わるが、熱交換器21へ送風し、外気と冷媒との間で熱交換させることができる。このことから、ファン20を逆回転した状態で空気調和装置を運転しても問題はなく、逆回転しているファン20を無理やり正回転で回すより逆回転で回す方が、負荷が小さいと考えられる。
【0033】
図4(d)は、屋外で風が吹いている場合に空気調和装置の運転を開始させた状態を示した図である。停止中と同方向である逆回転で運転し、室外機11の前面から風を受け、背面から排出している。このような負荷が小さい運転を行うことで、モータ25で発生させる動力が小さくて済むことから、モータ25に供給する電流を減少させることができ、消費電力を抑えることができる。
【0034】
ちなみに、消費電力は、直流電圧Vs×入力電流Is×力率により計算することができる。力率は、シャント抵抗器を用いて電流を検出する方式ではファン20および圧縮機22に供給する直流電流から算出される。ファン20に供給する電流を減少させることができれば、この直流電流を減少させることができ、これにより、力率の計算に使用される直流電圧も小さくなる。このことからも、消費電力を抑えることができることが分かる。
【0035】
このような運転を実現するためには、屋外で風が吹いており、室外機11の前面に風を受けていることを検出しなければならない。そのための構成を、
図5に例示する。
【0036】
図5は、運転制御手段34の構成例を示した図である。運転制御手段34は、電流検出部40と、回転数検出部41と、制御部42と、記憶部43とを含む。
【0037】
電流検出部40は、モータ25に供給する電流を検出する。モータ25に供給した電流は、抵抗器33を通して流れる。電流検出部40は、例えば電流計とされ、抵抗器33に対して並列に接続することで、電流を分流させ、抵抗器33の抵抗値と、電流計の内部抵抗値と、電流計により計測される電流値とから、抵抗器33を流れる電流値を測定する。なお、この方法は一例であるので、その他の方法により電流を検出してもよい。
【0038】
回転数検出部41は、センサ等により構成され、モータ25の回転数を検出する。無風状態であれば、回転数が電流値に依存することから、電流検出部40により検出された電流の電流値から求めることができる。しかしながら、追い風や向かい風を受ける場合、その強さに応じて回転数が変化することから、回転数検出部41により回転数を検出する。
【0039】
制御部42は、電流検出部40により検出された電流と、回転数検出部41により検出された回転数とに応じて、モータ25の回転方向を切り替える制御を行う。制御部42は、電流検出部40により検出された電流から、モータ25にその電流を供給することにより得られる回転数を求め、求めた回転数と回転数検出部41により検出された回転数とから風による回転数(風の影響により増減する回転数)を求め、その回転数に基づき、モータ25の回転方向を切り替える。
【0040】
屋外が無風状態のときを基準にした場合、所定の電流値の電流をモータ25に供給すると、モータ25は所定の回転数で回転する。したがって、電流値から得られる回転数と、検出される回転数とは同じ値となり、風による回転数は0となる。実際は、測定誤差が生じることから、風による回転数は0付近の値となる。
【0041】
ファン20の背面から風が吹き込む場合、追い風となり、正回転するファン20に対して正回転させようとする力が作用する。このため、ファン20の回転数を一定に制御した場合、検出される電流値が基準時より小さくなる。電流値から得られる回転数は、風の影響により減少し、検出される回転数より小さくなるため、風による回転数は負の値を示す。
【0042】
これに対し、ファン20の前面に風が吹き込む場合、向かい風となり、正回転するファン20に対して逆回転させようとする力が作用する。このため、ファン20の回転数を一定に制御した場合、検出される電流値が基準時より大きくなる。電流値から得られる回転数は、風の影響により増加し、検出される回転数より大きくなるため、風による回転数は正の値を示す。
【0043】
このことから、風による回転数が0であるか、負の値であるか、正の値であるかにより、追い風か、向かい風か、無風かを検出することができる。また、風による回転数の絶対値の大きさにより、負荷の大きさを検出することができる。風による回転数の絶対値の大きさが大きければ、風が強いことを示し、小さければ、風が弱いことを示す。
【0044】
なお、追い風、向かい風、無風の検出は、風による回転数により判断するほか、検出される電流値が基準時の電流値より大きいか、小さいか、同じかにより判断してもよい。
【0045】
制御部42は、このようにして追い風か、向かい風か、無風かを検出し、追い風や無風の場合、正回転とし、向かい風の場合、正回転から逆回転に切り替える。電流検出部40、回転数検出部41、制御部42は、一定の時間間隔で電流、回転数、風の向きを検出し、正回転しているときに向かい風を検出した場合、正回転から逆回転に切り替え、逆回転しているときに追い風や無風を検出した場合、逆回転から正回転に切り替える。
【0046】
制御部42は、インバータ32に対してモータ25を正回転または逆回転させる指令を出力することで、回転方向を切り替えることができる。
【0047】
風の向きは、時間により変化するが、短時間で急激に変化する場合がある。また、風は、急に吹き始めたり、急に止んだりする場合もある。ちなみに、室外機11の側面に真横から受ける風は、前面や背面から均等に風を受けることになり、無風状態として扱うことができる。やや前方から風を受けると、前面が多めに風を受けるため、向かい風が検出され、やや後方から風を受けると、背面が多めに風を受けるため、追い風が検出されることになる。すると、わずかな風の向きの変化で、頻繁に切り替えが発生してしまい、モータ25が温度上昇し、焼き付き、故障するおそれがある。
【0048】
そこで、風による回転数に対して閾値を設け、閾値を超えた場合に回転方向を切り替えることができる。風による回転数は、電流検出部40により検出される電流値に依存することから、閾値は、電流値に対して所定の値として設定することができる。各回転数に対する無風時の電流値を基準値とし、基準値に対して所定の値を加算した値を上限値とし、基準値に対して所定の値を減算した値を下限値とし、下限値から上限値までの範囲を通常動作範囲とすることができる。通常動作範囲で動作している間は切り替えが発生しないので、頻繁な切り替えを抑制することができる。
【0049】
記憶部43は、閾値を記憶する。制御部42は、記憶部43に記憶された閾値を参照し、電流検出部40により検出された電流と回転数検出部41により検出された回転数とに応じて、モータ25の回転方向を切り替えるようにインバータ32を制御する。
【0050】
ここで、
図6を参照して、モータ25の回転数とモータ25に供給する電流との関係について詳しく説明する。電流は、無風状態の場合、実線で示すような曲線を描く。この曲線は、モータ25に供給するモータ電流(Im電流)の電流曲線(Imカーブ)50で、回転数検出部41により検出されるモータ25の実際の回転数(実回転数)の二次関数として表される。すなわち、Im電流=Im基準×実回転数
2÷高域回転数
2と表される。高域回転数は、任意の高い回転数であり、Im基準は、高域回転数となる電流値である。
【0051】
モータ25の駆動域は、モータ25に電流を供給し、モータ25を駆動できる領域で、一点鎖線で示された2つのカーブ51、52で挟まれた領域となる。これら2つのカーブ51、52のさらに上側の領域または下側の領域(斜線で示される領域)は、モータ25への電流の供給を停止し、風のみでモータ25が回転する状態(フリーラン状態)を示す領域(ドライブ停止域)である。
【0052】
Imカーブ上の電流値は、各回転数に対する基準時の電流値である。基準時の電流値に対して所定の値を加算および減算した値は、Imカーブ50とフリーラン状態を示す上下のカーブ51、52のそれぞれの間の破線で示されるカーブ53、54上の値となる。通常動作範囲は、2つの破線で示されるカーブ53、54で囲まれた領域となる。
【0053】
通常動作範囲では、指定された回転数になるように電流を供給してモータ25を動作させる。
【0054】
ファン20の回転方向に対して追い風を受けている場合、追い風によってファン20の回転方向と同じ方向に回転させようとする力が作用する。モータ25は、指定された回転数になるように制御されるため、モータ25に供給する電流が減少する。追い風が強くなり、モータ25に供給する電流がさらに減少すると、通常動作範囲を超える。すなわち、カーブ54より下側の領域に入る。ここでは、この領域を追い風領域と呼ぶ。
【0055】
通常動作範囲を超えたとしても、すぐに通常動作範囲に戻ることもあり得ることから、一定の時間が経過しても通常動作範囲に戻らない場合に、以下のような制御を行う。通常動作範囲を超えた場合、指定された回転数になるように制御を行う領域外となるため、回転数を下げて動作させることが可能となる。回転数を下げるためには、モータ25に印加する電圧を下げる必要があり、電圧を下げることで、消費電力を低減させることができる。
【0056】
また、追い風が強すぎてカーブ52より下側のドライブ停止領域に入り、一定の時間が経過してもドライブ停止領域に入っている場合、モータ25を無理に駆動させず、電流の供給を停止して、追い風のみでファン20を回転させる。
【0057】
ファン20の回転方向に対して向かい風を受けている場合、向かい風によってファン20の回転方向とは逆方向に回転させようとする力が作用する。モータ25は、指定された回転数になるように制御されるため、モータ25に供給する電流が増加する。向かい風が強くなり、モータ25に供給する電流がさらに増加すると、通常動作範囲を超える。すなわち、カーブ53より上側の領域に入る。ここでは、この領域を向かい風領域と呼ぶ。
【0058】
通常動作範囲を超えたとしても、すぐに通常動作範囲に戻ることもあり得ることから、一定の時間が経過しても通常動作範囲に戻らない場合に、以下のような制御を行う。通常動作範囲を一定時間超えた場合、モータ25の回転方向を逆方向に切り替える。これにより、ファン20が逆回転し、ファン20は、追い風を受けている状態となる。
【0059】
すると、上記と同様に、回転数を下げて動作させることが可能となり、回転数を下げることで、消費電力を低減させることができる。
【0060】
また、向かい風が強すぎてカーブ51より上側のドライブ停止領域に入り、一定の時間が経過してもドライブ停止領域に入っている場合、通常動作範囲を一定時間超えた段階でモータ25の回転方向を切り替えるため、既に回転方向が切り替えられている。ファン20は、既に追い風を受けている状態になっており、モータ25を無理に駆動させず、電流の供給を停止して、追い風のみでファン20を回転させる。
【0061】
ファン20が追い風または向かい風を受けて回転すると、ファン20に接続され、ファン20に連動するモータ25は、発電機として機能し、発電を行う。モータ25は、電流の供給を受けて駆動している段階では、発電量より電源から供給される電力量のほうが大きいが、電源から供給される電力が停止すると、発電のみを行うようになる。
【0062】
モータ25で発電した電力は、上記特許文献2に記載のように、圧縮機22を動作させるためのモータのモータ電流や位置決め電流等として用いることができる。なお、これらは一例であるため、その他の用途に使用してもよい。位置決め電流は、モータ停止時に、モータの回転数や回転方向を検出し、モータが風によって回転(空転)しているか否かを調べるために、モータに少量供給する電流である。位置決め電流の詳細については、上記特許文献2を参照されたい。
【0063】
通常動作範囲内、追い風領域、向かい風領域では、検出された電流値から得られる回転数と検出された回転数とから、風の状態を判断することができる。
【0064】
しかしながら、ドライブ停止領域では、回転数検出部41により風のよる回転数を検出することはできるが、その回転数からは、風の状態、すなわち向かい風か、追い風かを判断することができない。モータ25は、風によって空転し、空転によって発電する。そこで、発電により得られた電流を位置決め電流として用い、モータ25の回転数や回転方向を検出することにより、その回転方向から風の状態を判断することができる。モータ25の回転数や回転方向の検出は、一定の時間間隔で行い、回転数が所定の回転数未満となった場合に向かい風領域もしくは追い風領域に入ったものとして、モータ25への電流の供給を開始することができる。
【0065】
風による回転数に対して設定される閾値は、回転数検出部41により検出される全ての回転数に対し、同じ値を設定してもよいし、回転数に応じて変えてもよい。閾値は、電流値に対して設定することができ、電流値は、
図6に示すように回転数の二乗に比例する。高い回転数では風による回転数が1変化するだけで電流値が大きく変わることから、閾値は回転数に応じて変えることが望ましい。
【0066】
また、
図6に示すように、電流値は回転数に依存することから、閾値は、回転数に対して設定することも可能である。閾値は、電流検出部40により検出される全ての電流値に対し、同じ値を設定してもよいし、電流値に応じて変えてもよい。この場合も、回転数に対して閾値を設定する場合と同様、閾値は電流値に応じて変えることが望ましい。
【0067】
以上のことをまとめると、制御部42は、記憶部43に記憶された閾値を参照し、電流検出部40により検出された電流と回転数検出部41により検出された回転数とに応じて、モータ25の回転方向を正回転、逆回転、停止のいずれかに切り替えるようにインバータ32を制御する。その際、制御部42は、電流検出部40により検出された電流が、一定の時間(所定の監視時間)、通常動作範囲外(
図6のカーブ54より下側)であった場合、電流検出部40により検出された電流から判断することができる回転方向と同じ方向にモータ25を回転させ、さらに所定の監視時間、閾値を超えた場合、モータ25への電流を停止するようにインバータ32を制御する。
【0068】
また、制御部42は、電流検出部40により検出された電流が、所定の監視時間、通常動作範囲外(
図6のカーブ53より上側)であった場合、電流検出部40により検出された電流から判断することができる回転方向と同じ方向にモータ25を回転させ、さらに所定の監視時間、閾値を超えた場合、モータ25の回転方向を逆方向へ切り替えるようにインバータ32を制御する。
【0069】
要するに、
図7に示すように、通常動作範囲では、通常のインバータ32に電流を供給し、モータ25を所定の回転数で回転させる制御を実行し、向かい風が強くなり、向かい風領域に入った場合に、モータ25の回転方向を切り替える。この切り替えにより、今まで向かい風領域での運転だったものが、追い風領域での運転に変わる。追い風領域での運転は、通常動作よりモータ25へ供給する電流が少なくて済むことから、消費電力を低減させることができる。
【0070】
以上に説明してきたように、空気調和装置の運転時のファン20につき、外部から受ける負荷に抗うことなく運転することで、ファン20の駆動にかかる負荷を小さくし、消費電力を低減するエコな運転を実現することができる。
【0071】
これまで本発明の制御システムおよび空気調和装置について上述した実施形態をもって詳細に説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態や、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0072】
10…室内機
11…室外機
12、13…配管
14…交流電源
20…ファン
21…熱交換器
22…圧縮機
23…制御基板
24…膨張弁
25…モータ
30…コンバータ
31…コンデンサ
32…インバータ
33…抵抗器
34…運転制御手段
40…電流検出部
41…回転数検出部
42…制御部
43…記憶部