(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20240422BHJP
B41J 2/16 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
B41J2/14 501
B41J2/16 503
(21)【出願番号】P 2020020590
(22)【出願日】2020-02-10
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】大▲高▼ 新平
【審査官】佐藤 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-040021(JP,A)
【文献】特開2018-202875(JP,A)
【文献】特開2015-096312(JP,A)
【文献】特開2018-176580(JP,A)
【文献】特開2008-021167(JP,A)
【文献】特開2017-121760(JP,A)
【文献】特開2002-187267(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/14
B41J 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と、
液体を吐出する吐出口を少なくとも備えて前記支持基板の第1の表面に接合された記録素子基板と、
前記第1の表面において前記記録素子基板を取り囲むように配置されて前記第1の表面に接合された板状のカバー部材と、
前記第1の表面において前記記録素子基板と前記カバー部材との隙間を充填するように設けられ
、ウレタン樹脂を含む封止用樹脂と、
を有する液体吐出ヘッドであって、
前記隙間に面する前記カバー部材の側面の少なくとも一
部が、前記封止用樹脂とは異なる固体物
によって被覆されており、
前記固体物は
フッ素樹脂、シリコーン樹脂、またはアルコキシシラン化合物のいずれかを含む、液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記カバー部材は樹脂成型品によって構成されている、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記カバー部材は接着剤を介して前記第1の表面に接合し、前記固体物は前記接着剤である、請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記固体物は、前記封止用樹脂とは異なる樹脂材料からなり、前記カバー部材における前記第1の表面に対向する表面には設けられていない、請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記第1の表面に向く面を有するように前記カバー部材において前記側面に段差が形成され、前記段差において前記第1の表面を向く面には前記固体物が設けられていない、請求項4に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記段差において前記第1の表面を向く面に前記封止用樹脂が接触している、請求項5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記固体物は、前記カバー部材の表面の内、前記支持基板とは反対側となる表面の少なくとも一部を覆う、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
支持基板と、液体を吐出する吐出口を少なくとも備えて前記支持基板の第1の表面に接合された記録素子基板と、前記第1の表面において前記記録素子基板を取り囲むように配置されて前記第1の表面に接合された板状のカバー部材と、を有する液体吐出ヘッドの製造方法において、
前記第1の表面において前記カバー部材の前記記録素子基板に対向する側面の少なくとも一部を固体物によって被覆する工程と、
前記記録素子基板と前記固体物によって被覆されている前記カバー部材との間に形成される隙間に、前記固体物とは異なる封止用樹脂を塗布する工程と、
を有し、
前記封止用樹脂は、液体状態において、前記固体物に対する70°以上の接触角を有する、液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項9】
前記カバー部材は樹脂成型品によって構成されている、請求項
8に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項10】
前記被覆する工程は、前記第1の表面に接着剤を塗布する工程と、前記接着剤に向けて前記カバー部材を押圧する工程と、を有し、
前記押圧する工程により、前記接着剤を介して前記カバー部材を前記第1の表面に接合するとともに前記側面において前記接着剤をせり上げさせ、前記固体物として、せり上げられた前記接着剤によって前記側面を被覆する、請求項
8または
9に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項11】
前記押圧する工程において、前記カバー部材における前記第1の表面とは反対側となる表面に対し、前記側面の位置から張り出す部分を含む圧着板を押し付ける、請求項
10に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項12】
前記押圧する工程において、前記圧着板と前記カバー部材との間に、前記接着剤の前記圧着板への付着を防ぐ付着防止フィルムを挟む、請求項
11に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項13】
前記固体物は、前記封止用樹脂とは異なる樹脂材料からなり、前記カバー部材における前記第1の表面に対向する面には設けられていない、請求項
8または
9に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項14】
前記固体物を前記カバー部材の全体に設ける工程と、
前記カバー部材における前記第1の表面に対向する面から前記固体物を除去する工程とを有し、
前記除去する工程ののち、前記カバー部材を前記第1の表面に接合し、前記塗布する工程を実施する、請求項
13に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項15】
前記除去する工程はプラズマ処理により前記固体物を除去する工程である、請求項
14に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項16】
前記第1の表面に向く面を有するように前記カバー部材において前記側面に段差が形成されており、前記プラズマ処理によって、前記段差において前記第1の表面を向く面から前記固体物を除去する、請求項
15に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項17】
前記塗布する工程において、前記封止用樹脂を前記第1の表面に向く面に接触させる、請求項
16に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体などに対して吐出口から液体を吐出する液体吐出ヘッドとその製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出ヘッドには、液体に吐出のためのエネルギーを付与する記録素子の上方に向けて液体を吐出するサイドシューター型のものがある。この種の液体吐出ヘッドでは、記録素子と吐出口とが形成された記録素子基板が支持基板上に接合され、支持基板から記録素子基板が突出する。記録素子基板が支持基板から突出していると、記録媒体を搬送しているときに搬送の不具合によって記録媒体が液体吐出ヘッドに接触したときや、液体吐出ヘッド自体が落下したときに、記録素子基板が破損するおそれがある。そこで特許文献1は、支持基板からの突出量が記録素子基板よりも大きいカバー部材を支持基板上において記録素子基板を取り囲むように配置した液体吐出ヘッドを開示している。この液体吐出ヘッドでは、カバー部材が記録素子基板よりも突出しているので、物体の接触による記録素子基板の破損のおそれが軽減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
記録素子基板の周囲にカバー部材を配置した液体吐出ヘッドでは、記録素子基板とカバー部材との隙間を封止するためにこの隙間に封止用の樹脂を塗布して硬化させるときに、この樹脂がカバー部材の表面に滲み出て硬化することがある。カバー部材の表面に付着して硬化した樹脂は、記録素子基板の表面のクリーニング時などに剥離して吐出口に侵入し、吐出不良の原因となるおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、記録素子基板の周囲にカバー部材を配置した液体吐出ヘッドであって、記録素子基板とカバー部材との間を封止する樹脂がカバー部材の表面に滲み出す恐れを抑制可能な液体吐出ヘッドとその製造方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の液体吐出ヘッドは、
支持基板と、
液体を吐出する吐出口を少なくとも備えて前記支持基板の第1の表面に接合された記録素子基板と、
前記第1の表面において前記記録素子基板を取り囲むように配置されて前記第1の表面に接合されたカバー部材と、
前記第1の表面において前記記録素子基板と前記カバー部材との隙間を充填するように設けられ、ウレタン樹脂を含む封止用樹脂と、
を有する液体吐出ヘッドであって、
前記隙間に面する前記カバー部材の側面の少なくとも一部が、前記封止用樹脂とは異なる固体物によって被覆されており、
前記固体物はフッ素樹脂、シリコーン樹脂、またはアルコキシシラン化合物のいずれかを含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、記録素子基板の周囲にカバー部材を配置した液体吐出ヘッドであって、記録素子基板とカバー部材との間を封止する樹脂がカバー部材の表面に滲み出す恐れを抑制可能な液体吐出ヘッドを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】カバー部材の支持基板への接合を説明する図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態の液体吐出ヘッドを説明する図である。
【
図4】接着剤の量に応じたカバー部材の接合状態を説明する図である。
【
図5】第2の実施形態の液体吐出ヘッドを説明する図である。
【
図6】第3の実施形態の液体吐出ヘッドを説明する図である。
【
図7】第4の実施形態の液体吐出ヘッドを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。本発明に基づく液体吐出ヘッドを説明する前に、
図1を用いて液体吐出ヘッドの一般的な構成について説明する。
図1(a)は液体吐出ヘッドの斜視図であり、
図1(b)は液体吐出ヘッドの平面図である。
【0010】
図1に示す液体吐出ヘッドは、例えばインクジェット記録装置などの液体吐出ヘッドに搭載されて用紙などの記録媒体に対してインクなどの液体を吐出するために用いられるものであり、サイドシューター型のものである。支持基板102の第1の表面に、1または複数の記録素子基板101が接着剤などによって接合している。
図1に示す例では3個の記録素子基板101が支持基板102の図示上面に接合されている。記録素子基板101は、少なくとも支持基板102と接合する部分がシリコン基板で構成されている。記録素子基板101では、シリコン基板の一方の表面に複数のエネルギー発生素子(不図示)が設けられ、エネルギー発生素子の形成領域を覆うように吐出口形成部材が配置している。吐出口形成部材では、エネルギー発生素子ごとにそのエネルギー発生素子に対面する位置に、液体が吐出する吐出口が貫通孔として形成されている。シリコン基板の一方の表面と吐出口形成部材とに挟まれた空間は、エネルギー発生素子の位置にまで液体を供給する流路となっている。さらにシリコン基板には、流路に対して液体を供給するために、シリコン基板の他方の表面から一方の表面に貫通する液体供給路(不図示)が形成されている。
図1(a)及び
図1(b)において記録素子基板101として示されている部分は、記録素子基板101に含まれる吐出口形成部材の表面を示している。
【0011】
液体吐出ヘッドを搭載した液体吐出装置の本体から記録素子基板101に対して電気信号を供給するために、電気配線を有する配線基板(不図示)も設けられ、配線基板も支持基板102の第1の表面に対して接着剤などにより接合している。記録素子基板101と配線基板との電気的接続には種々の方法を用いることができるが、フライングリードを用いた接続や、ワイヤーボンディングによる接続が一般的である。記録素子基板101と配線基板とを電気的に接続した後、その電気接続部であるリード部分もしくはワイヤー部分は、液体に触れないよう絶縁保護される。一般的な絶縁保護方法は、電気接続部の上方より硬化可能な液状の樹脂を塗布して硬化させ、硬化された樹脂内に電気接続部を埋包する方法である。ここで用いられる液状の樹脂としては、熱硬化性、UV(紫外線)硬化性または湿気硬化性のエポキシ樹脂やアクリル樹脂、シリコーン樹脂などの組成物が挙げられる。なお、配線基板と液体吐出装置の本体との電気的な接続には、コンタクトピンやコネクター等が一般に用いられる。
【0012】
記録素子基板101と配線基板とを支持基板102に接合するための接着剤としては、熱硬化型やUV硬化型の接着剤を用いることができ、特に、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤あるいはウレタン系接着剤などを用いることができる。支持基板102には、記録素子基板101に形成されている液体供給路に連通して記録素子基板101に液体を供給する液体供給口が形成されている。支持基板102の液体供給口から記録素子基板101に供給された液体は、記録素子基板101においてエネルギー発生素子の位置にまで供給される。そして、配線基板を介して供給された電気信号によってエネルギー発生素子が駆動されると、エネルギー発生素子の作用により液体が液滴となって吐出口から吐出して記録媒体上に着弾する。その結果、液体による記録媒体への記録が行われたことになる。記録素子基板101と配線基板とが電気的に接続し、支持基板102に対して記録素子基板101と配線基板とが接合していれば、液体吐出ヘッドとして一応は動作できる。
【0013】
ところで支持基板102の第1の表面に記録素子基板101が接合している状態では、支持基板102から記録素子基板101が突出しており、記録媒体の接触や液体吐出ヘッドの落下時に記録素子基板101が破損しやすくなる。そこで液体吐出ヘッドでは、支持基板102の第1の表面において、記録素子基板101を取り囲むようにカバー部材103が設けられている。支持基板102の第1の表面からの突出量は、カバー部材103の方が記録素子基板101よりも大きくなっている。より具体的には、カバー部材103は板状の部材であって、記録素子基板101に対応する形状の開口部がくりぬかれている。カバー部材103の方が記録素子基板101よりも支持基板102から突出しているので、記録素子基板101への物体の接触の可能性が低減され、記録素子基板101の損傷の可能性も低減される。製造コストが安くて済むという観点から、カバー部材103には樹脂成型品が広く用いられている。そしてカバー部材103は、接着剤105によって支持基板102の一方の表面に接合されている。ここで用いる接着剤105としては、熱硬化型あるいは常温硬化型の樹脂組成物からなるものを適宜選択して用いることができる。
【0014】
カバー部材103に形成される開口部は、記録素子基板101がカバー部材103と接触しないように、記録素子基板101の外形よりもやや大きな寸法を有するように形成されており、記録素子基板101とカバー部材103との間には隙間が存在する。この隙間は残しておいてもよいが、吐出口から吐出された液体の一部などがこの隙間に溜まるとそれが記録媒体上に落下して記録媒体を汚す恐れがあるので、可能な限り隙間を埋めることが好ましい。そこで記録素子基板101とカバー部材103との隙間に対し、硬化可能な樹脂を封止用樹脂104として塗布し、そののち封止用樹脂104を硬化させることにより、隙間が封止用樹脂104によって充填され封止されるようにする。
【0015】
支持基板102へのカバー部材103の接合と、記録素子基板101とカバー部材103との隙間への封止用樹脂の塗布とについて、
図2を用いて説明する。
図2は、
図1(b)におけるII-II線での模式断面図である。まず
図2(a)に示すように、記録素子基板101などが既に接合されている支持基板102の第1の表面に対し、カバー部材103の接合位置に合わせて接着剤105を塗布する。接着剤105としては、塗布したときの断面形状が
図2(a)に示すような形状となる物性を有するものが好ましい。次に、
図2(b)に示すように、支持基板102上の接着剤105を押し潰すように、接着剤105上に、カバー部材103の一方の表面が上になるようにカバー部材103を押し付け、接着剤105を硬化させる。カバー部材103の一方の表面とは、板状のカバー部材103の表面のうち、支持基板102とは反対側となる表面のことである。したがってカバー部材103の他方の表面は、支持基板102の第1の表面に対向する表面である。この例では、支持基板102とカバー部材103の他方の表面との隙間から接着剤105ははみ出していない。次に、
図2(c)に示すように、記録素子基板101とカバー部材103との間にある隙間にこの隙間を充填するように封止用樹脂104を塗布し、封止用樹脂104を硬化させる。封止用樹脂104としては、熱硬化型、UV硬化型、常温硬化型などの硬化可能などのような樹脂組成物を用いることができる。特に封止用樹脂104として、記録素子基板101の支持基板102に対する接合の貼り付け精度に悪影響がないことや吐出用の液体に対する耐薬品性の観点から適宜選択された樹脂組成物を使用することができる。
【0016】
記録素子基板101とカバー部材103との隙間に塗布される封止用樹脂104に関し、その塗布量によっては
図2(c)に示すようにカバー部材103や記録素子基板101のそれぞれ図示上面側の縁まで延びるメニスカスを形成することがある。記録素子基板101はシリコン基板で形成されているので、液状の封止用樹脂104が記録素子基板101の図示上面の表面にまで滲み出すことはない。これに対し、コスト等の観点から樹脂成型品であるカバー部材103を使用している場合、カバー部材103の側面に触れている封止用樹脂104は、樹脂成型品の表面に特有の細かな溝を伝わってカバー部材103の一方の表面まで滲み出すことがある。カバー部材103の一方の表面に滲み出た封止用樹脂104は、滲み出た先で硬化する。カバー部材103の一方の表面への封止用樹脂104の滲み出しは毛管現象によるものであるので、滲み出て硬化した封止用樹脂104は、微細な大きさであり、カバー部材103から剥離しやすい。液体吐出ヘッドでは、吐出用の液体が記録素子基板101の表面に残存するときに、クリーニング処理の一環として、表面に残存する液体をゴムワイパーで拭き取る拭き取り処理が行われる。このとき、拭き取り動作における助走距離を確保するためにカバー部材103の一方の表面から拭き取り動作を開始すると、カバー部材103の一方の表面に存在する硬化した封止用樹脂104が剥離し、ゴムワイパーとともに移動することがある。ゴムワイパーとともに移動した封止用樹脂104は吐出口を詰まらせ、その結果、液体吐出ヘッドからの液体の正常な吐出ができなくなり、記録媒体への記録を行えなくなるおそれが生ずる。
【0017】
そこで本発明に基づく液体吐出ヘッドは、板状のカバー部材103の側面のうち記録素子基板101とカバー部材103との隙間に面する側面の少なくとも一部が、封止用樹脂104以外の固体物で被覆されていることを特徴とする。記録素子基板101とカバー部材103との隙間に面する側面は、記録素子基板101とカバー部材103との隙間から見れば、この隙間部を構成する側壁の一部であり、カバー部材103に形成されている開口部の側壁の一部であるということができる。さらにこの側面は、隙間を介して記録素子基板101に対向している側面でもある。このように固体物によってカバー部材103の少なくとも一部の側面を被覆することで、記録素子基板101とカバー部材103との隙間に液状の封止用樹脂104を塗布した際に、封止用樹脂104のメニスカスの端部がカバー部材103にまで到達しなくなる。その結果、樹脂成型品であるカバー部材103に形成されている溝を伝わって封止用樹脂104がカバー部材103の一方の表面にまで滲み出ることも防止される。以下、本発明に基づく液体吐出ヘッドの各実施形態について説明する。
【0018】
[第1の実施形態]
図3は、本発明の第1の実施形態の液体吐出ヘッドを示す断面図である。
図3(a)は、
図1(b)のII-II線での断面に対応して本実施形態の液体吐出ヘッドの断面構成を示し、
図3(b)及び
図3(c)は、液体吐出ヘッドの製造工程を示している。この液体吐出ヘッドでは、
図1及び
図2に示した同様に、カバー部材103は接着剤105を介して支持基板102に接合している。しかしながら本実施形態では、
図2(c)に示したものに比べて接着剤105はカバー部材103の縁部よりはみ出しており、カバー部材103の側面のうち記録素子基板101とカバー部材103との隙間に面する側面の少なくとも一部を被覆している。接着剤105は、カバー部材103の側面の少なくとも一部を被覆する固体物として機能する。ただし接着剤105は、カバー部材103の一方の表面にまでは到達していない。記録素子基板101とカバー部材103との間にある隙間には封止用樹脂104が充填されるが、封止用樹脂104は、隙間のカバー部材103側の領域において、接着剤105には接しているがカバー部材103自体の側面には接していない。
【0019】
上述のようにカバー部材103の側面の少なくとも一部を接着剤により被覆するために、液体吐出ヘッドの製造工程において支持基板102における接着剤105の塗布位置は、カバー部材103の開口部に対応する位置にできるだけ近づける。接着剤105としては、後工程で塗布する液状の封止用樹脂104に対する濡れ性が悪いものを選択する。濡れ性を液体状態での封止用樹脂104の接触角で評価するとして、接着剤105に対する接触角が70°以上、好ましくは80°以上、より好ましくは90°以上であるように、封止用樹脂104と接着剤105との組み合わせを選択することが好ましい。このように接着剤105に対する濡れ性が悪い、すなわち接着剤105に撥かれるという性質は、樹脂材料がそれぞれ持つ表面自由エネルギーによるものである。そのため、接着剤105に対する液体状態での封止用樹脂104の濡れ性を事前に確認しておくことが好ましい。本実施形態では封止用樹脂104として、イソシアネート系化合物とフェノール系化合物を混合して得られる常温硬化型のウレタン樹脂を用いている。ウレタン樹脂である封止用樹脂104n濡れ性が悪い樹脂組成物としては、フルオロカーボンやジメチルシロキサン結合を有する化合物、すなわちフッ素樹脂やシリコーン樹脂が挙げられる。本実施形態では、接着剤105として、ジメチルシロキサン構造を有し常温で縮合反応による硬化が可能なシリコーン樹脂組成物を用いる。接着剤105にはある程度の粘度とチキソ比が必要である。接着剤105の粘度は、40~1000Pa・sが好ましく、50~300Pa・sがより好ましい。接着剤105のチキソ比は、1.0~3.0程度が好適である。液体吐出ヘッドの製造では、
図3(a)に示すように、ジメチルシロキサン構造を有するシリコーン樹脂からなる接着剤105をカバー部材103の開口部の縁部からせり出させ、カバー部材103の側面の少なくとも一部を接着剤105により被覆する。以下、本実施形態の液体吐出ヘッドを製造する際のこの具体的なプロセスについて説明する。
【0020】
まず、
図3(b)に示すように、
図2(a)の状態よりもカバー部材103の側面に近い位置において支持基板102の第1の表面に接着剤105を塗布する。次に、
図3(c)に示すように、カバー部材103を接着剤105の層の上に載せるようにして、カバー部材103の支持基板102に対する接着を行う。このとき、支持基板102における接着剤105の塗布位置がカバー部材103の側面に近い位置となっているので、接着剤105がカバー部材103の縁からカバー部材103の側面に沿ってせり上がる。その後、記録素子基板101とカバー部材103との隙間に封止用樹脂104を塗布する。封止用樹脂104はこの隙間を埋める必要があるので、液体状態におけるその粘度は低いことが望ましい。具体的には液体状態における封止用樹脂104の粘度は、10Pa・s以下が好ましく、5Pa・s以下がより好ましく、1Pa・sがさらに好ましい。封止用樹脂104のこのような粘度範囲は、液体状態での接着剤105の粘度に比べてかなり低いものである。
【0021】
カバー部材103の側面を接着剤105が被覆しており、接着剤105に対して液体状態の封止用樹脂104の濡れ性が悪いので、本実施形態では、
図2(c)に示したような封止用樹脂104のカバー部材103の開口部の縁までのせり上がりは生じない。液体状態での粘度が4Pa・sであるウレタン樹脂からなる封止用樹脂104を用いて液体吐出ヘッドを製造したところ、封止用樹脂104がカバー部材103自体の側面に触れることもカバー部材103の表面に滲み出ることもなかった。
【0022】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、第1の実施形態の応用例として、より大きなカバー部材103を有する液体吐出ヘッドに対して本発明を適用したものである。第1の実施形態においては、カバー部材103を支持基板102に接合するときに接合用の接着剤105がカバー部材103の開口部の側面にせり出すように、支持基板102に接着剤105を塗布している。しかしながらカバー部材103のサイズが大きくなるとその寸法公差も大きくなるので、カバー部材103の開口部における側面に接着剤105がせり出すように接着剤を塗布するときに塗布位置の制御が難しくなる。例えば長さが100mmであるカバー部材であれば寸法公差は0.3mmであるが、長さ1000mmのカバー部材ではその寸法公差は0.8mmとなり、長さが100mmの場合に比べて寸法公差は2倍以上となる。接着剤105の塗布位置の制御は、0.5mmでも部品がゆがんだり位置がずれたりしただけで困難になる。以下では、カバー部材103の長さが例えば1000mmであるものとして本実施形態の液体吐出ヘッドを説明する。
【0023】
ここでカバー部材103のゆがみや位置のずれによる影響について説明するが、最初に接着剤105の塗布量の違いによる影響を説明する。
図4は、支持基板102への接着剤105の塗布量の違いによるカバー部材103の側面への接着剤105のせり出しの違いを示す断面図である。
図4(a)は接着剤105の塗布量が少ない場合を示しており、カバー部材103の側面のほぼ全面が接着剤で覆われていない。この場合には、記録素子基板101とカバー部材103との隙間に封止用樹脂104を塗布した場合、封止用樹脂104がカバー部材103自体の側面に接することとなる。カバー部材103自体の側面に封止用樹脂104が接した場合、カバー部材103に一方の表面にまで封止用樹脂104の滲み出しが生じる恐れがある。一方、
図4(b)は、接着剤105の塗布量が多すぎる場合を示している。接着剤105の塗布量が多すぎる場合には、カバー部材103の側面への接着剤105のせり出し量が多すぎて、カバー部材103の一方の表面に接着剤105が乗り上げてしまう。カバー部材103の一方の表面に乗り上げた接着剤105は、封止用樹脂104と同様に、ゴムワイパーによってカバー部材103の一方の表面の拭き取りを行ったときに剥離し、吐出口の詰まりなどの原因となる。したがって、接着剤105の塗布量は、接着剤105がカバー部材103の側面の主要な部分を被覆するがカバー部材103の一方の表面に乗り上がることがないように管理する必要がある。
【0024】
図4は、接着剤105の塗布量の違いによる接着剤のせり上がりの形態の違いを説明しているが、接着剤105の塗布量は同じであってもカバー部材103の開口部の縁部と接着剤105の塗布位置との関係によって、
図4に示したものと同様の問題が生ずる。すなわち、塗布位置とカバー部材103の開口部の縁部との距離が大きすぎれば、
図4(a)に示したように、カバー部材103の側面での接着剤105の十分な被覆面積を確保できなくなる。塗布位置とカバー部材103の開口部の縁部とが近すぎる場合には、
図4(b)に示したように、カバー部材103の一方の表面上に接着剤が乗り上がる。
【0025】
本実施形態では、カバー部材103の側面が十分に接着剤105によって覆われるとともにカバー部材103の一方の表面への接着剤105の乗り上げを防ぐように、支持基板102へのカバー部材103の接合の際に圧着板106を使用する。
図5は第2の実施形態における液体吐出ヘッドの製造工程を示す断面図である。まず、通常であれば接着剤105がカバー部材103の第1の表面の上に乗り上がるような量の接着剤105を支持基板102の第1の表面に塗布する。接着剤105としては、第1の実施形態で用いたものと同様のものが使用される。そして支持基板102との接合のためにカバー部材103を接着剤105に向けて押し付けるときに、
図5(a)に示すように、カバー部材103の一方の表面に対して圧着板106を押し当て、圧着板106を介してカバー部材103が押圧されるようにする。圧着板106は、カバー部材103の開口部の縁部から開口部に向かってはみ出す形状を有している。すなわち圧着板106は、カバー部材103の側面の位置から張り出す部分を含んでいる。その結果、押圧されたことにより接着剤105の層がせり上がったとしても、圧着板106によって阻止されて、カバー部材103の一方の表面に接着剤105が回り込むことが防止される。圧着板106は、カバー部材103の一方の表面の全面を押圧するものであることが好ましく、このため弾性変形する材料で構成されることが好ましい。圧着板106を構成する材料は、一般的なゴム材料で十分である。
【0026】
本実施形態では、
図5(a)に示すように。押圧の過程において圧着板106に対して接着剤105が接触するが、接触した接着剤105が圧着板106の表面に付着することがある。この付着を防止するためには、付着防止フィルムとして圧着板106とカバー部材103の間に使い捨てのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)フィルムなどを挟めばよい。PTFEフィルムを挟むことによって、圧着板106への接着剤105の付着を防ぎながら、カバー部材103の側面における接着剤105の所望の被覆状態を得ることができる。接着剤105が硬化したら、圧着板106によるカバー部材103の押圧を停止する。
【0027】
以上のように支持基板102に対して接着剤105を介してカバー部材103を接合したのち、
図5(b)に示すように、第1の実施形態の場合と同様に記録素子基板101とカバー部材103との隙間に封止用樹脂104を塗布し硬化させる。その結果、カバー部材103の側面が接着剤105によって被覆されていることによりカバー部材103の一方の表面に封止用樹脂が滲み出ることがない液体吐出ヘッドを得ることができる。
【0028】
[第3の実施形態]
第1及び第2の実施形態では、記録素子基板101とカバー部材103との隙間に面するカバー部材103の側面に接着剤105をせり上げることにより、カバー部材103の側面に封止用樹脂104が接触することを防いでいた。封止用樹脂104の接触を防ぐためにカバー部材103の側面を被覆する固体物は、カバー部材103を支持基板102に接合するために設けられる接着剤105に限られるものではない。封止用樹脂104とは異なるとともにカバー部材103の接合に用いられる接着剤105でもない固体物によってカバー部材103の側面を被覆してもよい。第3の実施形態では、封止用樹脂104でもなく接着剤105でもない被覆用の樹脂材料を用いてカバー部材103の側面を被覆することによって、封止用樹脂104のせり上がりとカバー部材103の一方の表面への滲み出しを防止した例を説明する。
図6は、第3の実施形態の液体吐出ヘッドを示す図であり、
図6(a)は、カバー部材103を支持基板102に接合した後の液体吐出ヘッドの要部の断面構成を示している。図において符号Xはカバー部材103の一方の表面を示し、符号Yは、記録素子基板101とカバー部材103との隙間に面するカバー部材103の側面を示している。
【0029】
図示されるように、第3の実施形態の液体吐出ヘッドでは、カバー部材103の一方の表面Xと側面Yとに被覆用の樹脂材料107が塗布されている。樹脂材料107は、封止用樹脂104とも接着剤105とも異なるものであり、第1の実施形態の場合と同様に、この樹脂材料107に対する液体状態の封止用樹脂104の濡れ性がよくないような材料からなっている。本実施形態では封止用樹脂104としてウレタン樹脂を用いるが、ウレタン樹脂が低い濡れ性を示す材料としては、撥水性を有する樹脂があり、撥水性を有する樹脂を樹脂材料107に用いることができる。特に、撥水性を有する樹脂として、ジメチルシロキサン構造を有するアルコキシシラン化合物、パーフルオロ基を有するフッ素系化合物などが樹脂材料107として好適に用いられる。濡れ性を液体状態での封止用樹脂104の接触角で評価するとして、樹脂材料107に対する接触角が70°以上、好ましくは80°以上、より好ましくは90°以上であるように、封止用樹脂104と樹脂材料107との組み合わせを選択することが好ましい。樹脂材料107としてカバー部材103に対して高い密着性を有するものを使用することは当然のことである。本実施形態では、ジメチルシロキサン構造を有するアルコキシシラン化合物を含む樹脂組成物を被覆用の樹脂材料107として用い、その膜厚が0.1μm以下となるように樹脂材料107をカバー部材103に塗布する。さらに薄く樹脂材料107を塗布すれば、液体吐出ヘッドの完成後に樹脂材料107が剥離したときであっても、記録素子基板101に設けられる吐出口への影響を低減できる。記録素子基板101に設けられる吐出口の直径を10~20μmとするのが主流であり、このような大きさの吐出口に対して0.1μmの厚さの樹脂層が混入しても特に問題とはならない。本実施形態では、密着性の高い材料からなる樹脂材料107を用いることを前提とし、樹脂材料107が万が一剥がれたとしても吐出口への影響を最小限にする。目安としては、剥離片の大きさが吐出口の直径の1/100程度であれば、問題は生じない。被覆用の樹脂材料107の塗布方法としては、樹脂材料107を溶媒で希釈した液体にカバー部材103を浸漬する方法や、カバー部材103に対して直接描画する方法、スプレー塗布による方法がある。
【0030】
樹脂材料107の溶液にカバー部材103を浸漬することにより塗布を行う場合、塗布後のカバー部材103はその全体が撥水性を帯びる。その結果、接着剤105によってカバー部材103を支持基板102に接合することが、撥水性のために困難になる。そこで本実施形態では、カバー部材103に塗布した樹脂材料107を所望の領域だけ残し、その他の部位に塗布されている樹脂材料107の除去を行う。ここでいう所望の領域とは、後工程で塗布する封止用樹脂104が接触するおそれがある領域であり、具体的にはカバー部材103の側面Yのことである。側面Y以外の部位に塗布された樹脂材料107の除去方法としては、常圧プラズマなどを用いるプラズマ照射による方法、UV(紫外線)照射による方法などが挙げられる。本実施形態では常圧プラズマを用いて樹脂材料107を除去する。常圧プラズマによる方法は、プラズマ噴出口から高い直進性をもってプラズマを照射するので、照射部のみがプラズマ処理がされるという特徴を有する。照射部以外の領域はプラズマ処理されない。以下、常圧プラズマによる処理を説明する。
【0031】
板状のカバー部材103を樹脂材料107の溶液に浸漬して樹脂材料107の層をカバー部材103の全体に形成した後、
図6(b)に示すようにカバー部材103の他方の表面に常圧プラズマを照射すると、他方の表面の樹脂材料107が除去される。加えてカバー部材103の他方の表面は、プラズマ処理により、接着性が向上した状態となる。その後、第1の実施形態と同様に接着剤105によってカバー部材103を支持基板102に接合し、そののち封止用樹脂104を塗布することによって、
図6(a)に示すような断面構成を有する液体吐出ヘッドが形成される。記録素子基板101とカバー部材103との隙間に封止用樹脂104を塗布するときに、重力により封止用樹脂104はカバー部材103の側面Yに多少の接触はする。しかしながらカバー部材103の側面Yに被覆用の樹脂材料107の層が形成されているので、樹脂成型物であるカバー部材103に形成されている微細な溝をつたってカバー部材103の一方の表面Xに封止用樹脂104が滲み出すことは抑制される。
【0032】
本実施形態に基づく液体吐出ヘッドを製造した例を説明する。ジメチルシロキサン構造を有するアルコキシシラン化合物を溶媒に溶解させた液体にカバー部材103を浸漬することにより、樹脂材料107をカバー部材103の全体に塗布し、その後、上述のように常圧プラズマによる処理を行った。その結果、カバー部材103の一方の表面Xに封止用樹脂104が滲み出ることのない液体吐出ヘッドを作成することができた。
【0033】
[第4の実施形態]
第4の実施形態では、第3の実施形態の応用例として、カバー部材103の側面において段差が形成されている液体吐出ヘッドを説明する。
図7は第4の実施形態の液体吐出ヘッドを示す図である。
図7(a)に示すように、板状のカバー部材103の図示右側の側面には段差が形成されている。図において符号Dはカバー部材103の他方の表面であり、符号Bは、段差が形成されていることによってカバー部材103の他方の表面と平行なものとして現れた面を示している。符号Aは、カバー部材103の側面における、段差とカバー部材103の一方の表面との間の領域を示し、同様に符号Cは、段差とカバー部材103の他方の表面との間の領域を示している。段差が形成されていることにより、カバー部材103の他方の表面は一方の表面よりも狭くなっている。このように側面に段差が形成されているカバー部材103を、第3の実施形態と同様に被覆用の樹脂材料107を溶媒に溶解させた液体に浸漬することにより、カバー部材103の全体に樹脂材料107が塗布される。樹脂材料107としては、例えばジメチルシロキサン構造を有するアルコキシシラン化合物が用いられる。
図7(a)は、カバー部材103の全体に樹脂材料107が塗布された状態を示している。
【0034】
樹脂材料107を塗布した後、
図7(b)に示すように、カバー部材103の他方の表面Dに対して常圧プラズマを照射する。その結果、カバー部材103の他方の表面Dと段差部の小さな面Bにおいて樹脂材料107が除去される。段差における面Bは、プラズマ処理を受けることにより、より高い接着性を有する表面状態になる。次に
図7(c)に示すように、第1の実施形態と同様に支持基板102の第1の表面に接着剤105を塗布し、接着剤105を介してカバー部材103を支持基板102に接合する。さらに、記録素子基板101とカバー部材103との隙間に封止用樹脂104を塗布することによって、
図7(d)に示す断面構成を有する液体吐出ヘッドが得られる。本実施形態において封止用樹脂104及び接着剤105には、それぞれ、第1の実施形態において使用したものと同様のものを使用することができる。
【0035】
常圧プラズマによる処理を行ったことによって接着性が高められた面Bは、
図7(d)に示す状態において、支持基板102の側を向いている。これに対しカバー部材103の側面である領域A及び領域Cは、封止用樹脂104の濡れ性が悪い樹脂材料107によって被覆されている。図ではカバー部材103の側面において封止用樹脂104が接触するのは領域Aに限られているが、封止用樹脂104の量が多くなった場合、面Bにも封止用樹脂104が接触するようになる。封止用樹脂104が面Bに接触した場合、高い接着力で面Bに封止用樹脂104が接着することになるが、領域Cに対しては封止用樹脂104の濡れ性が悪いため、領域Cの部分を封止用樹脂104が這い上がることはない。したがって、この液体吐出ヘッドにおいても、封止用樹脂104がカバー部材103の一方の表面に滲み出ることはない。
【0036】
さらに、カバー部材103の側面部分の一部である面Bに対して封止用樹脂104が高い接着力で接着していると、封止用樹脂104がカバー部材103の側面から剥がれることを抑制することができる。封止用樹脂104がカバー部材103の側面から剥離すると、剥離後の隙間に記録液などの液体が溜まり、溜まった液体が記録媒体などに落下する場合がある。実施形態によれば、この液体の落下のおそれを払拭することができる。したがって、液体の落下のおそれを低減するために、隙間に液体状態の封止用樹脂104を塗布する際に、封止用樹脂104を面Bに接触させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0037】
101 記録素子基板
102 支持基板
103 カバー部材
104 封止用樹脂
105 接着剤