(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】電動可変ピッチ式飛行体
(51)【国際特許分類】
B64C 27/59 20060101AFI20240422BHJP
B64C 11/32 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
B64C27/59
B64C11/32
(21)【出願番号】P 2020030331
(22)【出願日】2020-02-26
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】518354699
【氏名又は名称】BOYLE株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】518354703
【氏名又は名称】川西 真人
(73)【特許権者】
【識別番号】518354714
【氏名又は名称】松村 光徳
(74)【代理人】
【識別番号】100085224
【氏名又は名称】白井 重隆
(72)【発明者】
【氏名】大河原 孝
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表昭61-500114(JP,A)
【文献】国際公開第2019/040490(WO,A1)
【文献】特開2015-54372(JP,A)
【文献】特開昭60-134742(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1772570(KR,B1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0193835(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 11/30,27/00,
B64U 30/20,40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直離着陸が可能な飛行体の
羽根のピッチ角を変更する可変ピッチプロペラ機構において、
回転プロペラ機構部に
、ピッチ可変用モーターによって前記羽根のピッチ角を変更する機械式同期差動変速機を設け
、
該機械式同期差動変速機は、羽根回転用の電動モーターの出力軸側に設け、且つ、前記ピッチ可変用モーターを前記機械同期差動変速機の先端の静止部に設けたことを特徴とする可変ピッチプロペラ機構。
【請求項2】
前記機械式同期差動変速機は、
該機械式同期差動変速機の出力軸側に減速機を設けた
もので、
該減速機は、
内周側に噛合いの為の歯型があるサーキュラスプラインと、
該サーキュラスプラインの内側に弾性変形しながら噛合して回転するフレクスプラインと、
該フレクスプラインを前記サーキュラスプラインの内周側に押し付けて回動させるウエーブジェネレーターとを有し、前記サーキュラスプラインの歯数と前記フレクスプラインの歯数とは異なっていることを特徴とする請求項1に記載の可変ピッチプロペラ機構。
【請求項3】
可変ピッチ羽根及びピッチ可変機構を円筒形のダクトの内側に収納し
、
前記ピッチ可変用モーターを、前記ダクトの内側に設けた整流用ステーに取り付けたことを特徴とする請求項1または2に記載の可変ピッチプロペラ機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直に上昇下降を行う飛行体に関し、プロペラの羽根の角度を電動可変ピッチ式にし、飛行の安定性の向上を目的とした電動可変ピッチ式飛行体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無人航空機、いわゆるドローンの姿勢制御や自律飛行に用いられるセンサ類およびソフトウェアの改良が進み、無人航空機の性能や操作性が飛躍的に向上した。無人航空機の中でも、垂直離着陸機が可能なヘリコプターやマルチコプターは滑走路を必要としないという利点を有している。さらに、特に複数基のプロペラで飛行するマルチコプターは、ヘリコプターに比べローター構造が簡単であり、設計およびメンテナンスが容易であることから、広範な産業分野における種々のミッションへの応用が検討されている。
無人小形機の分野では広範囲に利用が進められているが、人間などが数人搭乗する大型の電動無人航空機の分野ではホバリングの時に飛行姿勢が不安定になる課題がある。この要因として推力はプロペラの回転数を変化させて行う為に横風などの外乱に対する時間応答性が低いことがあげられる。すなわち、ホバリング時の姿勢復元に時間遅れが生じ、飛行姿勢が不安定となる。これらの問題点を解決する為に多数のプロペラを取り付けて姿勢を安定させる方式も考案されているが、本来、2~3台程度の電動プロペラユニットで構成なされないとホバリング時に多くの電力を消費することになり航続距離などに影響を及ぼすことになる。この為、電動プロペラユニットの推力制御を回転数制御ではなく、プロペラのピッチを直接変化させて応答時間を短くし、飛行姿勢を安定させる技術が求められていた。
【0003】
ところで、マルチコプターに採用されている一般的な回転翼型機は、垂直軸を有する上昇用の回転翼を有しているため、優れたホバリング能力を有している。また、水平飛行する際、機体の進行方向側を前下がりとなるように傾けて前方への推力を得ている。すなわち、回転翼型機は、水平方向における推力を得るために、前後の回転翼の回転数を変えて機体を傾け、回転翼のピッチ角を変えている。このように、回転翼のピッチ角を変えることで、回転翼型機は水平飛行が可能となっている。既存の可変ピッチプロペラ装置としては、例えば特許文献1および2に記載の装置がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6592679号公報
【文献】特表2019-516619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑み、可変ピッチ機構を有するプロペラの先端部に機械式回転同期機構を有する同期差動変速機と固定部に設けたピッチ可変用モーターにより、ホバリング状態の機体の推力を羽根のピッチを可変することにより瞬時に制御し、機体を安定せしめ問題点の解決をはかるものである。また、機械的回転同期機構の為、羽根のピッチを可変する時以外はピッチ可変用モーターは停止している為に消費電力が少なくて済む利点がある。また、羽根の可変ピッチ機構は、回転主軸の先端部にピッチ可変機構を設けることにより回転主軸の内側に貫通孔を設ける必要が無く、電動モーター以外の内燃機関やカスタービンなどのエンジンの動力でも電動可変ピッチ機構が設けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下に示す通りである。
<1>垂直離着陸が可能な飛行体もしくはファンブレードを有する飛行体の可変ピッチプロペラ機構において、回転プロペラ機構部に機械式同期差動変速機を設けたことを特徴とする可変ピッチプロペラ機構。
<2>前記機械式同期差動変速機は、羽根回転用のモーターの出力軸側に設け、且つ、ピッチ可変用モーターを同期差動変速機の先端の静止部に設けたことを特徴とする、<1>に記載の可変ピッチプロペラ機構。
<3>請求項1の可変ピッチプロペラ機構において、可変ピッチ羽根及びピッチ可変機構を円筒形のダクトの内側に収納したことを特徴とする、<1>または<2>に記載の可変ピッチプロペラ機構。
<4>前記機械式同期差動変速機は、前記同期差動変速機の出力軸側にバックラッシュの少ない小型軽量の減速機を設けたことを特徴とする、<1>~<3>に記載の可変ピッチプロペラ機構。
<5>前記ピッチ可変用モーターをダクトの内側に設けた整流用ステーに取り付けたことを特徴とする、<2>~<4>に記載の可変ピッチプロペラ機構。
<6>前記<1>~<5>に記載の可変ピッチプロペラ機構において、プロペラを回転する動力は電動モーター、又は、ピストンエンジン又は、ジェットエンジン、又は、その他の内燃機関であることを特徴とする、可変ピッチプロペラ機構。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、下記(1)~(7)に代表される様々な効果が得られる。
(1)同期差動変速機を羽根回転用モーターの出力軸側に搭載することにより羽根のピッチ角度を素早く変化させることができる為、ホバリング状態時の横風等の外乱等に対して安定した姿勢制御が可能となる。
(2)同期差動変速機により、常に羽根回転用モーターと同期して回転する為に羽根ピッチのふらつきなどが無く、安定した推力が得られる。
(3)6~8枚程度の複数の羽根が取付可能になり、大きな推力が得られる。
(4)ピッチ可変用モーターは羽根のピッチ角を変えるときのみ動作し、それ以外では停止状態なので消費電力が極めて少ない。
(5)羽根は円筒形のダクト内に設けられている為、円周方向に生じる空気の流れを
抑制する為に同一トルクではダクト無しに比べてより大きな推力が得られる。
(6)羽根回転用モーターは、軸の中を中空にする必要が無い為に、電動モーターの他に内燃機関やガスタービンなどによる回転駆動が可能となり、安定したホバリングが可能となる。
(7)バックラッシュが少ない減速機を使用することにより精度の高い羽根ピッチ制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】本発明の第一実施形態としての同期差動変速機の断面図。
【
図3】本発明の同期差動変速機の遊星ギヤの動作説明図。
【
図4】本発明の同期差動変速機の遊星ギヤの動作説明図。
【
図5】本発明の第一実施形態としての減速機の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照にして説明する。
【0010】
図1に本発明の第一実施形態での構成図を示す。
図1において、ダクト4の内部には、羽根回転用モーター6がダクト4の内側に固定されたステー7bに強固に支持されている。回転用モーター6には、回転用モーター出力軸6aがあり、カップリング継手8を介してホルダー9が固定されている。
回転用モーター出力軸6aが回転する際には前記カップリング継手8を介してホルダー9が同時に回転する。
ホルダー9の内側には同期差動変速機1と、同期差動変速機1の出力軸11の回転数を減速し、回転トルクを増大する為の減速機3が設けられている。
減速機3の可変ピッチ用モーター出力軸10の先端には傘歯車が取り付けられており、傘歯車を介して羽根5に回転力が伝達される。同期差動変速機1の上部には固定軸16があり、ダクト4の内側に固定されたステー7aに接続金具を介して固定されている。
また、ステー7aには羽根のピッチを可変する為の可変ピッチ用モーター10が取り付けられている。羽根5は図面の上面から見て平面上に等間隔で2~8枚が配置されており、同期差動変速機1の入力軸7が動作した場合、各羽根は同一角度で変化する様に設けられている。
羽根5のピッチを変更する以外は可変ピッチ用モーター2に接続されている入力軸7は静止状態を保っている。
減速機3はバックラッシュが少ない構造となっており、羽根の角度に大きな誤差が生じないようになっている。
回転用モーター6は電動モーター又はピストンエンジンなどの内燃機関、又は、ガスタービン等の駆動装置のいずれの形式でも良い。航空機に採用されているターボジェットエンジンのファン部分をホウン方式による可変ピッチ機構にした場合、最大推力と巡行時の軽負荷における速度調整が容易となり燃料消費が低減される。
【0011】
本発明の第一実施形態としての同期差動変速機の構造を
図2に示す。
図2に於いてホルダー9の頂部一体的に固定された同期差動変速機1は、ケース15がホルダー9に固設されている。その頂壁に固定軸16が貫挿され、軸受16aによって上記ケース15が固定軸16に対して回転可能としてある。上記固定軸16には可変ピッチ用モーター2によって回動駆動される入力軸7が同心的に貫挿され、軸受19及び軸支持20により回動自在に支持されている。そして上記入力軸7の下部には第1の太陽歯車21が一体的に形成されており、この第1の太陽歯車21にはその第1の太陽歯車21を中心として公転する複数個の第1の遊星歯車22が嵌合されている。
一方、前記固定軸16の下端には、固定太陽歯車26が一体的に形成されており、この固定太陽歯車26の外周には、固定太陽歯車26に噛合して自転するとともに固定太陽歯車26を中心として公転する複数の第2の遊星歯車27が配置されている。また、前記ケース15の内面側には、固定太陽歯車26と同心状に配置された第1の内歯歯車31が固着されており、この内歯歯車31に上記複数の第2の遊星歯車27が噛合されている。
また、前記複数の第1の遊星歯車22には、第1の太陽歯車21と同心状に配置された第2の内歯歯車32が噛合されており、この大2の内歯歯車32が入力軸7と同一直線状に配置され、ケース15の底壁を貫通する出力軸11に連結されている。
【0012】
ところで、上記入力軸7には、第1の太陽歯車21と固定太陽歯車26の間においてスペーサー33が軸受34を介して軸支され、そのスペーサー33の外周部の上下両面にそれぞれ軸受35a、35bを介して前記第2の遊星歯車27及び第1の遊星歯車22が配設されている。上記第2の遊星歯車27の情報及び第1の遊星歯車22の下方には、それぞれ入力軸7と同心状のリング36、37が配設されており、リング36、スペーサー33、及びリング37に貫挿装着された支持軸38に第2の遊星歯車27及び第1の遊星歯車22が回動可能に軸支されている。そこで、第1の太陽歯車21と固定太陽歯車26の歯数をそれぞれZ1,Z1‘とし、2組の歯車の歯数比をZ1/Z2=Z1’/Z2‘=1/Rの様に等しくする。
しかして、ホルダー9がω0の速度で回転している場合には、固定太陽歯車26が固定状態であるので、第2の遊星歯車27が、ホルダー9とともに回転する第1の内歯歯車31によって駆動され、自転しながら公転軌跡40上をω1の速度で
図3に示す様に公転する。
一方、上記第2の遊星歯車27が公転すると、第1の太陽歯車21が停止している場合にはその回転力によって支軸38を介して第1の遊星歯車22が第1の太陽歯車21のまわりに自転しながらω1‘の速度で公転させられ、その第1の遊星歯車22の公転によって第2の内歯歯車32及び出力軸11がω0’速度で
図4に示す様に回転させられる。
【0013】
ところで、ホルダー9の回転速度即ち第1の内歯歯車31の回転速度ω0と第2の遊星歯車27の公転速度ω1との間には次の関係がある。
ω0=(1+Z1’/Z2‘)ω1
また、出力軸11即ち第2の内歯歯車32の回転速度ω0‘と第1の遊星歯車の公転速度ω1の間にも次の関係がある。
ω0‘=(1+Z1/Z2)ω1
一方、歯数には前述の様にZ1/Z2=Z1’/Z2‘=1/Rとしてあるのでω0=ω0’となり、出力軸11はホルダー9と一体のごとく同調回転することになる。
この為、図示はされていないが、出力軸11と接続された減速機3の入力軸と可変ピッチ用モーター出力軸10はホルダー9と同期を保った状態で回転することになり、可変ピッチ用モーター出力軸10が静止している状態では、前記可変ピッチ用モーター出力軸10はホルダー9と同期して回転する。この為、羽根5の端に設けられた傘歯車は静止状態を保持し、定められたピッチ角で保持される。同様に、可変ピッチ用モーター出力軸10が回動した場合は回動された回転偏差分が減速機3を介して羽根5のピッチ可変機構に伝えられ所定の角度分だけピッチ角が変化する。
【0014】
また、羽根ピッチを変化させるとき以外は可変ピッチモーター2の可変ピッチ用モーター出力軸10は停止した状態を保持すれば良い。この為、羽根ピッチが一定で回転用モーター6が回転している時は、可変ピッチ用モーター2は保持トルクのみ有れば良いので消費電力が極めて少ない状態となる。可変ピッチ用モーター2には通常のモーターの他に停止時の保持機能を有する超音波モーターやブレーキ付きモーターを採用すれば保持トルクを維持する為の電力消費が不要となる為に低消費電力化が図れる。
【0015】
図5に本発明の減速機の構成図を示す。
図5において、写真1は減速機の各構成部品を示す。
内歯歯車の様に内周側に噛合いの為の歯型がある。これをサーキュラスプライン40と呼ぶ。サーキュラスプライン40の内側に嵌合しながら回転する肉厚が薄く且つ弾性変形しながら回動する回転体をフレクスプライン41と称す。フレクスプライン41をサーキュラスプライン40の内周側に押し付けて回動させる回転体がウエーブジェネレーター42である。サーキュラスプライン40とフレクスプラインの歯数は異なっており、この歯数の違いによりウエーブジェネレーター42の回転数を大きく減速しながらサーキュラスプライン40を回動せしめる。噛合う歯の数が多く、且つ、ウエーブジェネレーター42により押し付けながら回動する為に極めてバックラッシュが少ない減速機となっており、ハーモニックドライブ(登録商標)減速機としてロボットなどの間接部分等に多用されている。
本発明では飛行体の可変ピッチ機構の減速機に使用される為の要件としては、小型軽量で且つ羽根5のピッチ角に誤差が生じないことが求められている。この為、本減速機を使用すれば小型軽量で大きな減速比が得られ、バックラッシュが少なくなり、羽根5のピッチ角を安定して制御可能にならしめる。
【符号の説明】
【0016】
1 同期差動変速機
2 可変ピッチ用モーター
3 減速機
4 ダクト
5 羽根
6 回転用モーター
6a 回転用モーター出力軸
7 入力軸
7a ステー
7b ステー
8 カップリング継手
9 ホルダー
10 可変ピッチ用モーター出力軸
11 出力軸
15 ケース
16 固定軸
16a 軸受
19 軸受
20 軸支持部
21 太陽歯車
22 遊星歯車
26 固定太陽歯車
27 遊星歯車
31 内歯歯車
32 内歯歯車
33 スペーサー
35a 軸受
35b 軸受
36 リング
37 リング
38 支持軸
40 サーキュラスプライン
41 フレクスプライン
42 ウエーブジェネレーター
写真1 ハーモニックドライブ(登録商標)減速機