(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】超音波接合方法及び超音波接合構造
(51)【国際特許分類】
B29C 65/08 20060101AFI20240422BHJP
【FI】
B29C65/08
(21)【出願番号】P 2020052700
(22)【出願日】2020-03-24
【審査請求日】2023-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】鯵坂 俊治
(72)【発明者】
【氏名】本多 一輝
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-010742(JP,A)
【文献】特開2000-179103(JP,A)
【文献】特開2008-000899(JP,A)
【文献】特開昭62-160224(JP,A)
【文献】特開平10-021666(JP,A)
【文献】特開2005-103939(JP,A)
【文献】特開2013-233729(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0126562(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00-65/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の部材と他方の部材との間の接合部を超音波接合する超音波接合方法であって、
前記一方の部材の前記接合部となる面に、リング状又は略リング状に突出されたエネルギーダイレクタ
と、前記エネルギーダイレクタを含む面を突出させた第1の段差凸部と、前記第1の段差凸部を含む面を突出させた第2の段差凸部とを設け、
前記他方の部材の前記接合部となる面に、前記第1の段差凸部と対向する面を凹ませた段差凹部を設け、
前記エネルギーダイレクタを介して前記一方の部材と前記他方の部材との間の接合部を突き合わせた状態とし、前記接合部に超音波振動を印加することによって、前記エネルギーダイレクタを前記他方の部材の前記接合部となる面に全周又は略全周に亘って溶着することを特徴とする超音波接合方法。
【請求項2】
一方の部材と他方の部材との間の接合部を超音波接合する超音波接合方法であって、
前記一方の部材の前記接合部となる面に、リング状又は略リング状に突出され
ると共に、互いに隣り合う一対のエネルギーダイレクタ
と、前記エネルギーダイレクタを含む面を突出させると共に、前記一対のエネルギーダイレクタの間で連続すると共に、前記一対のエネルギーダイレクタの間で括れた形状を有する第1の段差凸部とを設け、
前記他方の部材の前記接合部となる面に、前記第1の段差凸部と対向する面を凹ませた段差凹部を設け、
前記エネルギーダイレクタを介して前記一方の部材と前記他方の部材との間の接合部を突き合わせた状態とし、前記接合部に超音波振動を印加することによって、前記エネルギーダイレクタを前記他方の部材の前記接合部となる面に全周又は略全周に亘って溶着することを特徴とする超音波接合方法。
【請求項3】
前記エネルギーダイレクタの内側に臨む位置に、前記一方の部材と前記他方の部材との何れかを貫通する孔部を設けることを特徴とする請求項1
又は2に記載の超音波接合方法。
【請求項4】
前記孔部を前記一方の部材に設けることを特徴とする請求項
3に記載の超音波接合方法。
【請求項5】
前記一方の部材の前記接合部となる面に、互いに隣り合う一対の前記エネルギーダイレクタを設け、
前記一対のエネルギーダイレクタの間で連続すると共に、前記一対のエネルギーダイレクタの間で括れた形状を有する前記第1の段差凸部を設けることを特徴とする請求項
1、3、4の何れか一項に記載の超音波接合方法。
【請求項6】
一方の部材と他方の部材との間の接合部を超音波接合した超音波接合構造であって、
前記接合部は、前記一方の部材と前記他方の部材との互いに向かい合う面の間で全周又は略全周に亘って溶着されたリング状又は略リング状のエネルギーダイレクタを有
し、
前記一方の部材の前記接合部となる面には、前記エネルギーダイレクタを含む面を突出させた第1の段差凸部と、前記第1の段差凸部を含む面を突出させた第2の段差凸部とが設けられ、
前記他方の部材の前記接合部となる面には、前記第1の段差凸部と対向する面を凹ませた段差凹部が設けられていることを特徴とする超音波接合構造。
【請求項7】
一方の部材と他方の部材との間の接合部を超音波接合した超音波接合構造であって、
前記接合部は、前記一方の部材と前記他方の部材との互いに向かい合う面の間で全周又は略全周に亘って溶着されたリング状又は略リング状のエネルギーダイレクタを有
し、
前記一方の部材の前記接合部となる面には、互いに隣り合う一対の前記エネルギーダイレクタと、前記エネルギーダイレクタを含む面を突出させた第1の段差凸部が設けられ、
前記他方の部材の前記接合部となる面には、前記第1の段差凸部と対向する面を凹ませた段差凹部が設けられ、
前記第1の段差凸部は、前記一対のエネルギーダイレクタの間で連続すると共に、前記一対のエネルギーダイレクタの間で括れた形状を有することを特徴とする超音波接合構造。
【請求項8】
前記接合部は、前記エネルギーダイレクタの内側に臨む位置に、前記一方の部材と前記他方の部材との何れかを貫通した孔部を有することを特徴とする請求項
6又は7に記載の超音波接合構造。
【請求項9】
前記孔部が前記一方の部材に設けられていることを特徴とする請求項
8に記載の超音波接合構造。
【請求項10】
前記一方の部材の前記接合部となる面には、互いに隣り合う一対の前記エネルギーダイレクタが設けられ、
前記一対のエネルギーダイレクタの間で連続すると共に、前記一対のエネルギーダイレクタの間で括れた形状を有する前記第1の段差凸部が設けられていることを特徴とする請求項
6、8、9の何れか一項に記載の超音波接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波接合方法及び超音波接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、一方の部材と他方の部材との間の接合部を超音波接合する超音波接合方法がある(例えば、下記特許文献1を参照。)。超音波接合方法では、一方の部材の接合部となる面にエネルギーダイレクタ(以下、「ED」という。)と呼ばれる突起部を設け、このEDを介して一方の部材と他方の部材との間の接合部を突き合わせた状態とし、この接合部に超音波振動を印加する。これにより、超音波振動がEDに集中的に加わるため、短時間で溶融温度まで発熱したEDを他方の部材の接合部となる面に溶着することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した超音波接合方法を用いて接合された樹脂製品の中には、例えば灯体などの自動車部品がある。自動車部品は、高いG(重力加速度)が働く環境下で使用されるため、接合部に対してあらゆる方向から繰り返し応力が加わることになる。
【0005】
一方、接合部に加わる応力は、均一ではなく、EDの端部に集中することがほとんどである。このため、EDに均一に応力が加わる想定で接合部の設計を行うと、この接合部に加わる応力を実際よりも低く見積もってしまう可能性がある。その結果、接合部の保持性能が不十分である場合、使用中に接合部に不具合が生じる可能性が高くなってしまう。
【0006】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、保持性能に優れた超音波接合方法及び超音波接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
〔1〕 一方の部材と他方の部材との間の接合部を超音波接合する超音波接合方法であって、
前記一方の部材の前記接合部となる面に、リング状又は略リング状に突出されたエネルギーダイレクタと、前記エネルギーダイレクタを含む面を突出させた第1の段差凸部と、前記第1の段差凸部を含む面を突出させた第2の段差凸部とを設け、
前記他方の部材の前記接合部となる面に、前記第1の段差凸部と対向する面を凹ませた段差凹部を設け、
前記エネルギーダイレクタを介して前記一方の部材と前記他方の部材との間の接合部を突き合わせた状態とし、前記接合部に超音波振動を印加することによって、前記エネルギーダイレクタを前記他方の部材の前記接合部となる面に全周又は略全周に亘って溶着することを特徴とする超音波接合方法。
〔2〕 一方の部材と他方の部材との間の接合部を超音波接合する超音波接合方法であって、
前記一方の部材の前記接合部となる面に、リング状又は略リング状に突出されると共に、互いに隣り合う一対のエネルギーダイレクタと、前記エネルギーダイレクタを含む面を突出させると共に、前記一対のエネルギーダイレクタの間で連続すると共に、前記一対のエネルギーダイレクタの間で括れた形状を有する第1の段差凸部とを設け、
前記他方の部材の前記接合部となる面に、前記第1の段差凸部と対向する面を凹ませた段差凹部を設け、
前記エネルギーダイレクタを介して前記一方の部材と前記他方の部材との間の接合部を突き合わせた状態とし、前記接合部に超音波振動を印加することによって、前記エネルギーダイレクタを前記他方の部材の前記接合部となる面に全周又は略全周に亘って溶着することを特徴とする超音波接合方法。
〔3〕 前記エネルギーダイレクタの内側に臨む位置に、前記一方の部材と前記他方の部材との何れかを貫通する孔部を設けることを特徴とする前記〔1〕又は〔2〕に記載の超音波接合方法。
〔4〕 前記孔部を前記一方の部材に設けることを特徴とする前記〔3〕に記載の超音波接合方法。
〔5〕 前記一方の部材の前記接合部となる面に、互いに隣り合う一対の前記エネルギーダイレクタを設け、
前記一対のエネルギーダイレクタの間で連続すると共に、前記一対のエネルギーダイレクタの間で括れた形状を有する前記第1の段差凸部を設けることを特徴とする前記〔1〕、〔3〕、〔4〕の何れか一項に記載の超音波接合方法。
〔6〕 一方の部材と他方の部材との間の接合部を超音波接合した超音波接合構造であって、
前記接合部は、前記一方の部材と前記他方の部材との互いに向かい合う面の間で全周又は略全周に亘って溶着されたリング状又は略リング状のエネルギーダイレクタを有し、
前記一方の部材の前記接合部となる面には、前記エネルギーダイレクタを含む面を突出させた第1の段差凸部と、前記第1の段差凸部を含む面を突出させた第2の段差凸部とが設けられ、
前記他方の部材の前記接合部となる面には、前記第1の段差凸部と対向する面を凹ませた段差凹部が設けられていることを特徴とする超音波接合構造。
〔7〕 一方の部材と他方の部材との間の接合部を超音波接合した超音波接合構造であって、
前記接合部は、前記一方の部材と前記他方の部材との互いに向かい合う面の間で全周又は略全周に亘って溶着されたリング状又は略リング状のエネルギーダイレクタを有し、
前記一方の部材の前記接合部となる面には、互いに隣り合う一対の前記エネルギーダイレクタと、前記エネルギーダイレクタを含む面を突出させた第1の段差凸部が設けられ、
前記他方の部材の前記接合部となる面には、前記第1の段差凸部と対向する面を凹ませた段差凹部が設けられ、
前記第1の段差凸部は、前記一対のエネルギーダイレクタの間で連続すると共に、前記一対のエネルギーダイレクタの間で括れた形状を有することを特徴とする超音波接合構造。
〔8〕 前記接合部は、前記エネルギーダイレクタの内側に臨む位置に、前記一方の部材と前記他方の部材との何れかを貫通した孔部を有することを特徴とする前記〔6〕又は〔7〕に記載の超音波接合構造。
〔9〕 前記孔部が前記一方の部材に設けられていることを特徴とする前記〔8〕に記載の超音波接合構造。
〔10〕 前記一方の部材の前記接合部となる面には、互いに隣り合う一対の前記エネルギーダイレクタが設けられ、
前記一対のエネルギーダイレクタの間で連続すると共に、前記一対のエネルギーダイレクタの間で括れた形状を有する前記第1の段差凸部が設けられていることを特徴とする前記〔6〕、〔8〕、〔9〕の何れか一項に記載の超音波接合構造。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明によれば、保持性能に優れた超音波接合方法及び超音波接合構造を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る超音波接合方法を説明するための図であり、(A)は一方の部材を示す平面図、(B)は一方の部材を示す断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る超音波接合方法を説明するための図であり、(A)は他方の部材を示す平面図、(B)は他方の部材を示す断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る超音波接合方法を説明するための図であり、(A)は一方部材と他方の部材とを突き合わせる前の状態を示す側面図、(B)はその断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る超音波接合方法を説明するための図であり、(A)は一方部材と他方の部材とを突き合わせた状態を示す側面図、(B)はその断面図である。
【
図6】
図5に示す一方の部材の接合部を示す平面図である。
【
図7】
図5に示す一方の部材の接合部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面においては、各構成要素を見やすくするため、構成要素によって寸法の縮尺を異ならせて示すことがあり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0011】
(超音波接合方法)
先ず、本発明の一実施形態に係る超音波接合方法について、
図1~
図7を参照しながら説明する。
【0012】
なお、
図1は、本実施形態の超音波接合方法を説明するための図であり、(A)は一方の部材10を示す平面図、(B)は一方の部材10を示す断面図である。
図2は、本実施形態の超音波接合方法を説明するための図であり、(A)は他方の部材20を示す平面図、(B)は他方の部材20を示す断面図である。
図3は、本実施形態の超音波接合方法を説明するための図であり、(A)は一方部材10と他方の部材20とを突き合わせる前の状態を示す側面図、(B)はその断面図である。
図4は、本実施形態の超音波接合方法を説明するための図であり、(A)は一方部材10と他方の部材20とを突き合わせた状態を示す側面図、(B)はその断面図である。
図5は、一方の部材10の一具体例を示す平面図である。
図6は、
図5に示す一方の部材10の接合部30を示す平面図である。
図7は、
図5に示す一方の部材10の接合部30を示す斜視図である。
【0013】
本実施形態の超音波接合方法は、
図1(A),(B)に示す一方の部材10と、
図2(A),(B)に示す他方の部材20との間の接合部30を超音波接合する。なお、一方の部材10及び他方の部材20の材質については、例えば熱可塑性樹脂を挙げることができるが、超音波接合が適用可能なものでれば特に限定されるものではない。
【0014】
一方の部材10は、
図1(A),(B)に示すように、接合部30となる面(以下、「一方の接合面」という。)10aに、互いに隣り合う一対のエネルギーダイレクタ(以下、「ED」という。)11と、一対のED11を含む面(以下、「第1の段差面」という。)12aを突出させた第1の段差凸部12と、第1の段差凸部12を含む面(以下、「第2の段差面」という。)13aを突出させた第2の段差凸部13とを有している。
【0015】
ED11は、第1の段差面12aからリング状又は略リング状(本実施形態では平面視で円形状)に突出して設けられている。また、ED11は、その先端に向かって尖形となる形状を有している。
【0016】
また、一方の部材10は、ED11の内側に臨む孔部14を有している。孔部14は、一方の部材10を貫通して設けられている。なお、孔部14の形状については、特に限定されるものではない。本実施形態では、孔部14として、例えばED11の中心部を貫通する丸孔が設けられている。
【0017】
第1の段差凸部12は、平面視で矩形状の第1の段差面12aを有して、第2の段差面13から突出して設けられている。第1の段差面12aは、一対のED11の周囲を囲むように一対のED11の間で連続して設けられている。
【0018】
第2の段差凸部13は、平面視で矩形状の第2の段差面13aを有して、一方の接合面10aから突出して設けられている。第2の段差面13aは、第1の段差面12aの周囲を囲むように設けられている。
【0019】
他方の部材20は、
図2(A),(B)に示すように、接合部30となる面(以下、「他方の接合面」という。)20aに、第1の段差凸部12と対向する面(以下、「底面」という。)21aを凹ませた段差凹部21を有している。
【0020】
段差凹部21は、平面視で矩形状の底面21aを有して、他方の接合面20a側を第1の段差凸部12に対応して凹ませた形状を有している。
【0021】
一方の部材10と他方の部材20との間の接合部30を超音波接合する際は、
図3(A),(B)に示すように、一方の部材10の一方の接合面10aと、他方の部材20の他方の接合面20aとを互いに向かい合わせた状態とする。
【0022】
この状態から、
図4(A),(B)に示すように、一対のED11を介して一方の部材10と他方の部材20との間の接合部30を突き合わせた状態とする。
【0023】
このとき、段差凹部21aに第1の段差凸部12が係合された状態となっている。また、他方の接合面20aに第2の段差面13aが当接した状態となっている。さらに、一対のED11が段差凹部21の底面21aに当接した状態となっている。
【0024】
この状態から、一方の部材10の一方の接合面10aとは反対側の面に、超音波接合機のホーンHを押し当てながら、このホーンHを介して接合部30に超音波振動を印加する。これにより、超音波振動が一対のED11に集中的に加わるため、短時間で溶融温度まで発熱した一対のED11を他方の部材20の他方の接合面20aに全周に亘って溶着することができる。
【0025】
本実施形態の本実施形態の超音波接合方法では、上述したED11を他方の部材20の他方の接合面20aに全周に亘って溶着する際に、ED11の内側にある空気を孔部14を通じて脱気することが可能である。これにより、ED11の内側で空気が膨張し、接合部30に応力が加わることを防ぐことが可能である。
【0026】
(超音波接合構造)
次に、本実施形態の超音波接合方法を用いて接合された超音波接合構造について説明する。
【0027】
本実施形態の超音波接合構造は、上述した超音波接合方法を用いて接合された接合部30を備えている。接合部30では、一方の部材10と他方の部材20との互いに向かい合う接合面10a,20aの間が、上述したリング状(円形状)に突出されたED11を介して溶着されている。
【0028】
これにより、本実施形態の超音波接合構造では、接合部30において優れた保持性能を得ることが可能である。すなわち、上述したリング状(円形状)に突出されたED11を用いた接合部30では、あらゆる方向から加わる応力を分散させる能力に優れている。
【0029】
また、本実施形態の超音波接合構造では、上述した隣り合う一対のED11を設けることによって、接合部30における保持性能を更に高めることが可能である。特に、接合部30に加わる回転ねじれ方向の応力を剪断方向の応力に変化させることで、この接合部30における保持性能を高めることが可能である。
【0030】
次に、
図5~
図7に示す一方の部材100の一具体例について説明する。
なお、
図5は、一方の部材100の構成を示す平面図である。
図6は、一方の部材100の接合部30Aを示す平面図である。
図7は、一方の部材100の接合部30Aを示す斜視図である。また、以下の説明では、上記一方の部材10と同等の部位については、説明を省略すると共に、図面において同じ符号を付すものとする。
【0031】
本実施形態の一方の部材100は、自動車部品を構成する樹脂製品の一部であり、その周囲には、複数の接合部30Aが並んで設けられている。
【0032】
複数の接合部30Aは、第1の段差凸部12の形状が異なる以外は、上記接合部30と基本的に同じ構成を有している。すなわち、この接合部30Aでは、
図6及び
図7に示すように、一対のED11の間で第1の段差凸部12が平面視で括れた形状を有している。
【0033】
また、他方の部材20の段差凹部21は、第2の段差凸部13に対応して凹ませた形状とする。これにより、一方の部材100と他方の部材20との間の接合部30Aを突き合わせた際に、段差凹部21aに第2の段差凸部13が係合された状態となる。
【0034】
このとき、段差凹部21の底面21aと第2の段差凸部13の第2の段差面13aとの係合される面積を増やすことで、超音波接合時における接合部30Aでの一方の部材100と他方の部材20との位置ずれを抑制することが可能である。一方、ED11の周囲における第1の段差面12aの面積を小さくすることが可能である。
【0035】
なお、本発明は、上記実施形態のものに必ずしも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、一方の部材10,100に孔部14を設けた構成となっているが、ED11の内側に臨む位置に、他方の部材20を貫通する孔部を設けた構成とすることも可能である。
【0036】
これにより、上述したED11を他方の部材20の他方の接合面20aに全周に亘って溶着する際に、ED11の内側にある空気を他方の部材20側の孔部を通じて脱気することが可能である。これにより、ED11の内側で空気が膨張し、接合部30,30Aに応力が加わることを防ぐことが可能である。
【0037】
また、上記ED11については、上述した円形状に限らず、例えば楕円形状や長円形状などのリング状に突出された形状とした場合でも、保持部30,30Aにおいて優れた保持性能を得ることが可能である。
【0038】
また、ED11は、略リング状として、上述したリング状に突出された一部を切り欠く形状や、リング状に突出された一部の高さを低くした形状などであってもよい。
【0039】
接合部30,30Aでは、このような略リング状に突出されたED11によって、一方の部材10と他方の部材20との互いに向かい合う接合面10a,20aの間が全周に亘って溶着された場合、上述したリング状に突出されたED11を用いた場合と同様に、接合部30,30Aにおいて優れた保持性能を得ることが可能である。
【0040】
一方、略リング状に突出されたED11を用いた場合、溶着後のED11の一部が開放されることもある。この場合、ED11の全周のうち90%以上が閉じた状態であればよい。また、溶着後のED11における開放部分の幅が、1mm以下であればよい。
【0041】
これにより、一方の部材10と他方の部材20との互いに向かい合う接合面10a,20aの間が略全周に亘って溶着される場合でも、保持部30,30Aにおいて優れた保持性能を得ることが可能である。
【符号の説明】
【0042】
10…一方の部材 10a…一方の接合面 11…エネルギーダイレクタ(ED) 12…第1の段差凸部 12a…第1の段差面 13…第2の段差凸部 13a…第2の段差面 14…孔部 20…他方の部材 20a…他方の接合面 21…段差凹部 21a…底面 30,30A…接合部 100…一方の部材