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特許7475917ダニ用忌避剤及びこれを用いるダニの忌避方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】ダニ用忌避剤及びこれを用いるダニの忌避方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 53/10 20060101AFI20240422BHJP
   A01P 17/00 20060101ALI20240422BHJP
   A01N 65/00 20090101ALI20240422BHJP
   A01N 27/00 20060101ALI20240422BHJP
   A01N 65/08 20090101ALI20240422BHJP
   A01N 35/04 20060101ALI20240422BHJP
   A01N 47/46 20060101ALI20240422BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
A01N53/10 210
A01P17/00
A01N65/00 A
A01N27/00
A01N65/08
A01N35/04
A01N47/46
A01N25/02
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020054554
(22)【出願日】2020-03-25
(65)【公開番号】P2021155342
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000102544
【氏名又は名称】エステー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸塚 茜
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 礼央
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-200315(JP,A)
【文献】特開2001-294505(JP,A)
【文献】特開2016-145176(JP,A)
【文献】特開2017-099296(JP,A)
【文献】特表2009-545577(JP,A)
【文献】特開平05-201821(JP,A)
【文献】特開2001-031508(JP,A)
【文献】特開平01-301607(JP,A)
【文献】特開2006-111559(JP,A)
【文献】特開平03-044305(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106922751(CN,A)
【文献】特開昭54-014516(JP,A)
【文献】特開平04-308510(JP,A)
【文献】特開2017-039677(JP,A)
【文献】国際公開第2017/003395(WO,A1)
【文献】生薬学雑誌,1989年,Vol. 42, No. 2,pp. 163-168
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N,A01P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)及び(B);
(A)天然ピレトリン
(B)(B-1)β-フェランドレン、(B-3)月桃オイル、(B-6)次の一般式(1)で表される芳香族ケトン化合物、
【化1】
(式中、R1は炭素数1~3のアルキル基を示す)、および
(B-7)アリルイソチオシアネート
よりなる群から選ばれる1種または2種以上
を有効成分として含有することを特徴とする室内塵性ダニ用忌避剤。
【請求項2】
成分(B)が(B-3)月桃オイルであって、(B-3)月桃オイルが月桃の葉より抽出されたオイルである請求項1に記載の室内塵性ダニ用忌避剤。
【請求項3】
成分(B)が(B-6)芳香族ケトン化合物であって、(B-6)芳香族ケトン化合物がアセトフェノンである請求項1に記載の室内塵性ダニ用忌避剤。
【請求項4】
請求項1~のいずれかの項記載の室内塵性ダニ用忌避剤を環境中に放出することを特徴とする室内塵性ダニの忌避方法。
【請求項5】
環境中への放出を、常温での自然蒸散により行う請求項記載の室内塵性ダニの忌避方法。
【請求項6】
環境中への放出を、加熱による蒸散、送風による蒸散または薫蒸による蒸散により強制的に行う請求項記載の室内塵性ダニの忌避方法。
【請求項7】
環境中への放出を、噴霧により行う請求項記載の室内塵性ダニの忌避方法。
【請求項8】
請求項1~のいずれかの項記載の室内塵性ダニ用忌避剤を繊維製品に適用することを特徴とする室内塵性ダニの忌避方法。
【請求項9】
請求項1~のいずれかの項記載の室内塵性ダニ用忌避剤をダニに接触させて作用させることを特徴とするダニの室内塵性忌避方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダニ用忌避剤及びダニの忌避方法に関し、さらに詳細には、例えばコナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニ、ケナガコナダニ等のクモ綱ダニ目の害虫に対するダニ用忌避剤及びダニの忌避方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ダニに対する忌避剤が種々提案されており、近年ではピレスロイド系化合物等がダニ忌避成分として広く使用されている。
【0003】
また、安全性の高い天然成分や食品成分が、忌避剤を含む抗ダニ剤として使用されることも公知である。例えば、スギ枝葉部を水蒸気蒸留して得られるスギ精油を含水極性有機溶媒で抽出した殺ダニ剤(特許文献1)や、ヒノキ、タイワンヒノキ、スギ、ヒバの枝葉または根幹から抽出した精油のうち少なくとも一種またはそれらの混合物を有効成分として含有とする衛生害虫用ダニ防除剤(特許文献2)が知られている。
【0004】
しかしながら、上記した成分はダニに対しての効果が弱く、十分な忌避効力が得られないという問題を有していた。したがって、より高いダニの忌避効果を備え、かつ一般家庭においても手軽に使用できる、高度の安全性を兼ね備えたダニ忌避剤が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平 6-239714号公報
【文献】特開平 1-193204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、天然物に含まれる成分を利用した、ダニに対して十分な忌避効力を有するとともに、人体に対して安全性が高く、一般家庭でも手軽に使用できる忌避剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を達成すべく天然物中の成分のダニに対する活性について、鋭意研究を重ねていたところ、天然ピレトリンと特定の天然由来成分を併用することによって、優れた忌避効果を示すことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、次の成分(A)及び(B);
(A)天然ピレトリン
(B)(B-1)フェランドレン、(B-2)バジルオイル、(B-3)月桃オイル、(B-4)クローブリーフオイル、(B-5)ブラックペッパーオイル、(B-6)次の一般式(1)で表される芳香族ケトン化合物、
【化1】
(式中、Rは炭素数1~3のアルキル基を示す)
(B―7)次の一般式(2)で表されるイソチオシアネート化合物、
【化2】
(式中、Rはフェニル基又は炭素数1~3の分岐していてもよいアルキル基若しくはアルキレン基を示す)、及び
(B-8)マツ科モミ属に属する植物の圧搾液、抽出物または蒸留物、よりなる群から選ばれる1種または2種以上
を有効成分として含有することを特徴とするダニ用忌避剤。
【0009】
また本発明は、上記ダニ用忌避剤を、環境中に放出する方法、繊維製品に適用する方法、またはダニに接触させて作用させる方法のいずれかの方法によるダニの忌避方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のダニ用忌避剤は、クモ綱ダニ目の害虫、例えば、コナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニ、ケナガコナダニ等のダニに対し、優れた忌避効果を有するとともに、天然物中の成分であるため、極めて安全性の高いものである。したがって、一般家庭においても手軽に使用することができ、ダニによる被害を効果的に予防・除去し得るものである。さらに、コナヒョウダニなどの屋内に生息するダニは、死骸でもアレルギーの原因になることから、死骸が残存しないように、忌避効果は高い一方で、死に至らしめないことが重要とされているところ、本発明のダニ用忌避剤は、優れた忌避効果を有する一方で、殺ダニ効果は低いため、優れたアレルゲン除去効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1で使用する試験装置の断面を模式的に示した図である。
図2】実施例1で使用する試験装置の平面を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のダニ用忌避剤(以下、「忌避剤」という)は、(A)成分と(B)成分を有効成分として含有するものである。
【0013】
本発明に用いられる(A)成分である天然ピレトリンはジョチュウギク(シロバナムシヨケギク)の花に含有される殺虫成分の総称で有効成分は、ピレトリンI、ピレトリンII、シネリンI、シネリンII、ジャスモリンI、ジャスモリンIIの6成分の混合物である。
除虫菊から常法に従って抽出されるものを用いることも可能であるし、それぞれの合成物を単独または混合して用いることも可能である。市販品として、住友天然ピレトリン(住友化学社製)が挙げられる。
【0014】
本発明に用いられる(B)成分には、以下の(B-1)~(B-8)成分が含まれる。
【0015】
本発明の(B-1)成分であるバジルオイルは、既に成分が公知となっているオイルであり、各成分の合成品を組み合わせたオイルを用いてもよいが、天然から抽出されたものを用いることもできる。
【0016】
バジルオイルの抽出方法として従来公知の方法を用いることができ、圧搾や水蒸気蒸留、常圧蒸留、減圧蒸留、溶媒抽出等の抽出方法を用いることができる。例えば、水蒸気蒸留法では、バジルの葉や生花を砕いてアルコールや温湯に数時間浸した後に水蒸気蒸留を行い、その留出油分を採取することによりバジルオイルを得ることができる。ダニ忌避効果等の観点から水蒸気蒸留が好ましい。このようなバジルの葉及び花の水蒸気蒸留物の市販品として、バジルオイル(HUILE ESSENTIELLE BASILIC GRAND VERT EGYPTE 100% pure et naturelle、Albert Vieille SAS社製)が挙げられる。
【0017】
本発明の(B-2)成分である月桃オイルは、既に成分が公知となっているオイルであり、各成分の合成品を組み合わせたオイルを用いてもよいが、天然から抽出されたものを用いることもできる。
【0018】
月桃オイルの抽出方法として従来公知の方法を用いることができ、圧搾や水蒸気蒸留、常圧蒸留、減圧蒸留、溶媒抽出等の抽出方法を用いることができる。ダニ忌避効果等の観点から水蒸気蒸留が好ましく、例えば、水蒸気蒸留法では、月桃の生花や葉を砕いてアルコールや温湯に数時間浸した後に水蒸気蒸留を行い、その留出油分を採取することにより月桃オイルを得ることができる。
【0019】
本発明の(B-3)成分であるクローブリーフオイルは、フトモモ科の植物であるクローブの葉から抽出されたものを用いることができる。
【0020】
クローブリーフオイルの抽出方法として従来公知の方法を用いることができ、圧搾や水蒸気蒸留、常圧蒸留、減圧蒸留、溶媒抽出等の抽出方法を用いることができる。ダニ忌避効果等の観点から水蒸気蒸留が好ましく、例えば、水蒸気蒸留法では、クローブの葉を砕いてアルコールや温湯に数時間浸した後に水蒸気蒸留を行い、その留出油分を採取することによりクローブリーフオイルを得ることができる。また、このような水蒸気蒸留物として、株式会社種村商会から販売されているAT065やAT173を用いても良い。
【0021】
本発明の(B-4)成分であるブラックペッパーオイルは、コショウ科コショウ属のつる性植物の実であるブラックペッパーを原料とする。ブラックペッパーは、完全に熟する前に採取されたグリーンペッパーの実を、長時間かけて乾燥させることで得ることができる。
【0022】
ブラックペッパーの実からブラックペッパーオイルを得る方法は従来公知の方法、例えば、圧搾法や溶剤抽出法、水蒸気蒸留法などを挙げることができるが、ダニ忌避効果等の観点から水蒸気蒸留が好ましい。
【0023】
水蒸気蒸留法からブラックペッパーオイルを得る一般的な方法としては、ブラックペッパーを水圧機で圧搾して温湯に数時間浸した後に水蒸気蒸留を行い、その留出油分を採取
することにより、ブラックペッパーオイルが得られる。
【0024】
本発明の(B-5)成分であるフェランドレンは、α-フェランドレンとβ-フェランドレンの2種類があり、いずれも本発明の忌避剤として用いることができるが、ダニ忌避効果等の観点からβ-フェランドレンが好ましい。β-フェランドレンは、下式で示される。
【化3】
【0025】
フェランドレンは公知の化合物であり、合成で、あるいは天然の植物等の精油から単離
することにより入手することができるものである。
【0026】
本発明の(B-6)成分である芳香族ケトン化合物は下記式(1)であらわされる。
【0027】
【化4】
(式中、Rは炭素数1~3のアルキル基を示す)
【0028】
上記式(1)の芳香族ケトンの具体例としては、アセトフェノン、プロピオフェノン、ブチロフェノン等を上げることができ、これらの1種若しくは2種以上を混合して用いることができる。
【0029】
これら式(1)の芳香族ケトン化合物は、既に公知の化合物であり、合成品を用いてもよいが、天然から抽出されたもの、もしくは式(1)の芳香族ケトン化合物を含有する天然抽出物を用いることもできる。
【0030】
これらのうち、下式、
【化5】
で表されるアセトフェノンがダニ忌避効果等の観点から好ましい。アセトフェノンは、イチゴや茶などの天然植物から抽出することにより得られる化合物であり、例えば、イチゴなどを圧搾した後水蒸気蒸留し、その留出油分を採取すること等により得られる。
【0031】
本発明の(B-7)成分であるイソチオシアネート化合物は下記式(2)であらわされる。
【化6】
(式中、Rはフェニル基又は炭素数1~3の分岐していてもよいアルキル基若しくはアルキレン基を示す)
【0032】
上記式(2)のイソチオシアネート化合物の具体例としては、メチルイソチオシアネート、アリルイソチオシアネート、フェニルイソチオシアネート、エチルイソチオシアネート、ビニルイソチオシアネート、プロピルイソチオシアネート、イソプロピルイソチオシアネート等を上げることができ、これらの1種若しくは2種以上を混合して用いることができる。
【0033】
これら式(2)のイソチオシアネート化合物は、既に公知の化合物であり、合成品を用いてもよいが、天然から抽出されたもの、もしくは上記式(2)のイソチオシアネート化合物を含有する天然抽出物を用いることもできる。
【0034】
これらのうち、下式、
【化7】
で表されるアリルイソチオシアネートがダニ忌避効果等の観点から好ましい。アリルイソチオシアネートは、ワサビやからしなどの天然植物から抽出することにより得られる化合物である。より具体的には、例えば、からしについて、水圧機で圧搾して脂肪油を除き、これを砕いて温湯に数時間浸した後水蒸気蒸留し、その留出油分を採取することにより得られる。
【0035】
本発明の忌避剤における上記(A)成分及び(B)成分の配合割合は特に限定されるものではないが、ダニ忌避効果等の観点から、(A)成分:(B)成分=1:1~1:100が好ましく、1:10~1:80がより好ましく、1:20~1:60が特に好ましい。
【0036】
本発明の忌避剤は、上記(A)成分及び(B)成分のみを有効成分として利用する形であっても、あるいは常法により、更に適当な任意成分を組合せ、製剤とし利用する形であってもよい。
【0037】
本発明の忌避剤は、後記するように、蒸散させる方法、ダニに接触させて作用させる方法等により使用され、それらの方法に適した量の有効成分を含有させればよいが、例えば、忌避剤中に(A)成分及び(B)成分を合計で0.1~99.99質量%(以下、単に「%」と表記する)となるように配合することが好ましく、1~99.9%となるように配合することがより好ましく、特に好ましくは10~90%である。
【0038】
本発明の忌避剤の剤型としては、特に限定はなく、液剤、ゲル剤、固形剤等の形態にすることができ、これに応じた任意成分を使用することができる。
【0039】
本発明の忌避剤の剤型の一つとして、液剤が挙げられ、この液剤を調製するために溶媒が使用される。使用される溶媒としては、特に限定されず、従来より公知の液状担体を用いることができるが、身体に対して安全性の高い物を使用することが好ましい。
【0040】
具体的な溶媒の例としては、脱イオン水、蒸留水等の水;ヘキサン、パラフィン、イソパラフィン等の炭化水素系化合物;メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール等のアルキルアルコール類;アリルアルコール等のアルケニルアルコール類;ベンジルアルコール等の芳香族環含有アルコール類;オイゲノール等のフェノール類;クロロホルム等のハロゲン化炭化水素化合物;ジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル系化合物;アセトン等のケトン系化合物;酢酸、オレイン酸等の脂肪酸系化合物;酢酸エステル、プロピオン酸エステル、安息香酸エステル等のエステル系化合物;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール系化合物;2-フェノキシエタノール、3-メチル-3-メトキシブタノール等のグリコールエーテル系化合物;ごま油、リノール油、サラダ油等の植物油等が挙げられる。これらは、その1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0041】
忌避剤中でのこれらの溶媒の使用量は、忌避剤全体に対して、0.1~99.99%となるように配合することが好ましく、1~99.9%となるように配合することが特に好ましい。更に好ましくは、10~90%である。
【0042】
また、この液剤の調製に当たっては、必要により界面活性剤を添加することもできる。使用できる界面活性剤としては、陽イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン系界面活性剤等の従来公知の界面活性剤が挙げられ、これらの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0043】
本発明の忌避剤の別の剤型としては、上記した液剤を適当な担体に含浸、担持させた、固形状又はシート状の固形剤を挙げることができる。担持させる担体としては特に限定されないが、例えば、木、紙、織布、不織布、シリカ、タルク、活性炭、シリカゲル、ゼオライト、セルロースビーズ、セラミック、ポリプロピレン等の樹脂製ペレット等を挙げることができる。
【0044】
更に本発明の他の忌避剤の剤型としては、前記した液剤をゲル化剤でゲル化させたゲル剤を挙げることができる。使用されるゲル化剤としては、従来公知のもの、例えば、カラギーナン、ジェランガム、寒天、ゼラチン、グアーガム、ペクチン、ローカストビーンガム、キサンタンガム、アルギン酸ソーダ、セルロース誘導体、ジベンジリデン-D-ソルビトール、ヒドロキシプロピル化多糖類、ステアリン酸イヌリン、アクリル酸ナトリウム等の高吸水性樹脂、オクチル酸アルミニウム等が挙げることができ、これらは1種又は2種以上を混合して使用することができる。
【0045】
上記のようにして得られる本発明の忌避剤の好ましい使用方法としては、本発明の忌避剤を環境中に放出させて使用する方法が挙げられる。
【0046】
環境中に放出させる方法の例としては、液剤、固形剤、ゲル剤等の本発明の忌避剤中から有効成分を、常温で自然に蒸散させる方法や、強制的に蒸散させる方法が挙げられる。強制的に蒸散させる方法としては、加熱による蒸散、送風による蒸散、薫蒸による蒸散等が挙げられる。また、環境中に放出させる方法として噴霧による方法等を使用しても良い。
【0047】
上記の強制的蒸散方法のうち、加熱による蒸散方法としては、例えば、実開平2-78077号公報等に開示されているような、薬液ボトル内に収納した忌避剤を吸い上げ芯で吸い上げ芯の上部等を加熱ヒーターで加熱することにより蒸散させるようにした加熱蒸散器や、実開平1-116072号公報等に開示されているようなマット状の含浸体に忌避剤を含浸し、このマットを加熱ヒーター上に載置することにより蒸散させるようにした加熱蒸散器等を用いて行う方法を挙げることができる。
【0048】
また、送風による蒸散は、例えば、特開平11―308955号公報等に開示されているような薬剤保持体と送風機を備え、その薬剤保持体に送風機により発生する気流を接触させることで、忌避剤を放出口から環境中に放出するファン式忌避装置等を用いて行うことができる。
【0049】
更に、燻蒸による蒸散は、例えば、実開昭54-148267号公報等に開示されているような、上部開口の容器に、アゾジカルボンアミド等のアゾ化合物、ニトロソ化合物、ヒドラジド化合物等の有機発泡剤と忌避剤を収納した収納室を形成させ、収納室の底部を加熱手段により加熱することで発泡剤が分解して発生する窒素ガス、炭酸ガス等により、忌避剤を蒸散させる燻蒸装置等を用いて行うことができる。
【0050】
更にまた、噴霧による散布は、噴霧器を用い、液剤をスプレーする方法や、適当な噴射剤を用いたエアゾールを使用して行うことができる。スプレー剤とする場合には、上記した液剤と、トリガースプレー、アトマイザー等の噴霧手段とを組み合わせればよい。またエアゾール剤とする場合には、上記した液剤と、LPG、イソペンタン等のエアゾール用担体と、エアゾール缶等のエアゾールの噴霧手段と組み合わせればよい。
【0051】
また、本発明の忌避剤の好ましい他の使用方法としては、本発明の忌避剤を、液体又は固体状態で、ダニに接触させて作用させる方法が挙げられる。この場合、設置された忌避剤に、ダニが接触することによって忌避効果を発揮させることができる。例えば、ふとん、枕、毛布などの寝具や、畳、絨毯、カーペット、ソファ、クッション、ぬいぐるみ、衣類などダニが生息する場所、対象物に直接塗布したり、ポンプスプレーやエアゾールなどのスプレイヤーを使用して噴霧すれば良い。
【0052】
本発明の忌避剤は、これを、物置、タンス、押入、クローゼット、衣装ケース、衣類収納袋、布団収納袋、居間、寝室等の室内、玄関等の空間に設置、適用することにより、有効成分が上記環境中に放出され、あるいは、ダニに接触することによって、ダニを効果的に忌避させることができる。また本発明の忌避剤を、ダニが生息している畳、絨毯、カーペット、床、布団、枕、ソファ、衣類等の繊維製品を含む対象物に直接噴霧、散布、塗布等して適用してもよい。
【0053】
なお本発明の忌避剤には他の従来公知のダニ防除成分を配合しても良く、これによりさらに優れた忌避効果を発揮することができる。
【0054】
これらの他のダニ防除成分としては、例えば、エンペントリン、トランスフルスリン、アレスリン、フェノトリン、プロフルトリン、メトフルトリン、エミネンス等のピレスロイド系化合物;ジクロルボス、ダイアジノン、フェニトロチオン、マラチオン等などの有機リン剤;N,N-ジエチル-m-トルアミド(DEET)、ジメチルフタレート、ジブチルフタレート、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、ジ-n-プロピルイソシンコメロネート、p-ジクロロベンゼン、ジ-n-ブチルサクシネート、カラン-3,4-ジオール、1-メチルプロピル2-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペリジンカルボキシラート、ミリスチン酸イソプロピル、チオシアノ酢酸イソボルニル、ジフェニル、ジフェニルメタン、ジベンジル、ベンジルフェニルエーテル、ベンジルフェニルエチルエーテル、ベンゾフェノン、ベンジルフェニルケトン、ジベンジルケトン、ベンザルアセトフェノン、β-フェニルエチルベンゾエイト、γ-フェニルプロピルベンゾエイト、フェニル酢酸フェニル、ベンジルフェニルアセテート、β-フェニルエチルフェニルアセテート、フェニルシンナメート、ベンジルシンナメート、β-フェニルエチルシンナメート、β-フェニルプロピルシンナメート、シンナミルシンナメート、ジフェニルカルビノール、フェニルベンジルカルビノール、ジベンジルカルビノール、n-アミルベンゾエート、イソアミルベンゾエート、ヘキシルベンゾエート、ヘプチルベンゾエート、オクチルベンゾエート、ノニルベンゾエート、シス-3-へキセニールベンゾエート、n-アミルサリシレート、iso-アミルサリシレート、ヘキシルサリシレート、シス-3-へキセニールサリシレート、ベンジルプロピオネート、ベンジル-n-ブチレート、ベンゾルーイソ-ブチレート、ベンジル-n-バレレート、ベンジルイソバレレート、ベンジルカプロエート、ベンジルヘプタノエート、ベンジルカプリレート、ペンジルダニレート、オイゲノール、メチルオイゲノール、イソオイゲノール等の化合物;α、β―ピネン、α、β―テルピンオール、リモネン、シトロネラール、リナロール、シトラール等のテルペン化合物;メントール、ベチバー油、パチョウリ油、等が挙げられ、これらの1種を単独で使用しても良く、2種類以上を組み合わせて使用すること
もできる。
【0055】
以上説明した本発明の忌避剤は、コナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニ、ケナガコナダニ、ヒゼンダニ、マダニ、イエダニ、ツメダニ、ミナミツメダニ等のダニ目の害虫に対して、相乗的な忌避効果を発揮し得る。これらの中でも、本発明に忌避剤は、高い忌避効果を有する一方で、殺ダニ効果は低く、死骸が適用場所に残存しないことから、アレルゲンとなるコナヒョウダニ、ヤケヒョウヒダニ、ケナガコナダニなどの屋内塵性ダニに対し好適に用いられる。さらに、上記(B-8)マツ科モミ属に属する植物の圧搾液、抽出物または蒸留物は、これらのダニに対して、殺虫、産卵阻害及び卵孵化抑制効果等をも示すため、これを組合せた忌避剤は、より優れたダニ防除効果を有する。
【実施例
【0056】
次に実施例等を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例等に何ら制約されるものではない。
【0057】
製 造 例 1
月桃オイルの製造:
原料として、月桃の葉を用い、以下のようにして月桃オイルを得た。すなわち、月桃の葉100gを5mm角程度の小片となる様に小さく刻み、約80℃の500mLの湯に2時間浸したのち、水蒸気蒸留装置の蒸留槽に投入し水蒸気蒸留を行った。その後、蒸留液より精油を分離し月桃オイルを得た。
【0058】
製 造 例 2
ブラックペッパーオイルの製造:
以下のようにしてブラックペッパーオイルを得た。すなわち、ブラックペッパーの実100gを市販のすり鉢とすり棒で十分にすり砕いたものを1Lのビーカーに入れ、約80℃の500mLの湯を入れ蓋をして2時間浸したのち、砕いた実ごと水蒸気蒸留装置の蒸留槽に投入し水蒸気蒸留を行った。その後、蒸留液より精油を分離しブラックペッパーオイルを得た。
【0059】
製 造 例 3
原料として、トドマツの葉を用い、圧砕式粉砕機(KYB製作所製)で粉砕したもの約50kgを、マイクロ波蒸留装置の蒸留槽に投入し、攪拌しながら蒸留槽内の圧力を、約20KPaの減圧条件下に保持し、(蒸気温度は約67℃)1時間マイクロ波照射して蒸留した後、油性画分を分離してトドマツ精油を得た。
【0060】
実 施 例 1
コナヒョウヒダニの忌避試験:
JIS L 1920「繊維製品の防ダニ性能試験方法」に準じて、ダニの飼育、密度の調整等を行い、図1及び2に示す装置で忌避試験を行った。
【0061】
すなわち、下記表1の処方で試料を作成した。この各試料を直径40mmの綿布に60mg塗布し、供試片を得た。図1及び2に示すとおり、当該供試片(23)を、直径45mm、高さ17mmの小ガラスシャーレ(22)にいれ、その中央に誘引用飼料(24)0.05gを置いた。直径90mm、高さ14mmの大プラスチックシャーレ(20)に生存コナヒョウヒダニ約10,000匹を含むダニ培地(21)(飼育培地用粉末飼料と乾燥酵母を質量比1:1で混合したもの)を均一に広げ、その中央部に上記小ガラスシャーレ(22)を置いた。これを湿度調整のため飽和食塩水(26)を入れたプラスチック製容器(25)に収容した。
【0062】
当該容器に蓋をして密封し、温度25℃±1℃の室内に設置した。設置から20時間放置した後、供試片及び誘引用培地の全生存ダニ数をカウントした。薬剤処理をしない綿布を用いたものをブランクとし、この試験を3回繰り返した。3回の試験の合計のカウント数を求め、下記の式により忌避率を求めた。また死亡率を下記式により求めた。結果を表1に併せて示す。
【0063】
忌避率(%)={(A1-A2)/A1}×100
死亡率(%)=(A3/A2)×100
A1:ブランクの綿布上及び誘因用培地のダニ数
A2:薬剤処理区の供試片上及び誘因用培地のダニ数
A3:薬剤処理区の供試片上及び誘因用培地の死亡ダニ数
【0064】
【表1】
【0065】
以上の結果より、本発明品はコナヒョウヒダニに対する高い忌避効果を有することが示された。一方、いずれも死亡率は低く、アレルゲン除去効果においても優れることが確認された。
【0066】
製 剤 例 1
ゲル状ダニ忌避剤:
イソパラフィン85gに、0.1%の天然ピレトリンと1%のバジルオイルを配合したエタノール溶液10gを混合し、これに更にオクチル酸アルミニウム5gを加え、60℃に加熱して攪拌した。これを縦35mm×横35mm×高さ75mmの容器に充填し、室温で3時間静置し、ゲル状のダニ忌避剤を得た。
【0067】
製 剤 例 2
常温揮散性ダニ忌避剤:
0.1%の天然ピレトリンと1%のフェランドレンを配合したエタノール溶液0.6gを30mm×40mmのパルプ製ろ紙に含浸させ、これを、9mm×22mmの通気孔を設けた、通気性を有するプラスチックケース(38mm×52mm×5mm)に収納して固型忌避剤を調製した。
【0068】
製 剤 例 3
エアゾール剤:
以下の処方を、市販の200mlエアゾール缶に充填することによって、エアゾール剤
を調製した。
有効成分:天然ピレトリン 0.4ml
:アセトフェノン 1.0ml
溶媒 :エタノール 38.6ml
噴射剤 :LPG 30.0ml
噴射剤 :イソペンタン 30.0ml
【0069】
製 剤 例 4
スプレー剤:
以下の処方を、市販の150ml容トリガー製容器に収納してスプレー剤を調製した。
有効成分:天然ピレトリン 0.1g
:トドマツ精油 1g
溶剤 :エタノール 10g
香料 0.05g
界面活性剤 0.1g
イオン交換水 88.75g
【0070】
製 剤 例 5
燻蒸剤:
0.1%の天然ピレトリンと1%のクローブリーフオイルを配合したエタノール溶液10g、アゾジカルボンアミド55g及びタルク35gを混練し、常法に従って造粒、乾燥して燻蒸剤を調製した。
【0071】
製 剤 例 6
加熱蒸散剤:
0.1%の天然ピレトリンと1%の月桃オイルを配合したエタノール溶液100mgを3cm×3cmのパルプ製マットに含浸させ加熱蒸散剤を得た。このものは、加熱ヒーターに接置させることにより有効成分を蒸散する。
【0072】
製 剤 例 7
粒状忌避剤:
パルプ製の粒状含浸体(平均粒径5mm)50gに、0.1%の天然ピレトリンと1%のアリルイソチオシアネートを配合したエタノール溶液50mLを含浸させ、通気性の不織布の袋に入れて粒状の忌避剤を得た。
【0073】
製 剤 例 8
常温揮散性ダニ忌避剤:
0.1%の天然ピレトリンと1%のフェランドレンを配合したエタノール溶液0.5g及びエンペントリン0.01gを9.6mm×110mmのパルプ製ろ紙に含浸させた。これを、88mm×100mmの通気孔を設けた、通気性を有するプラスチックケース(130mm×138mm×9.5mm)に収納して固形忌避剤を調製した。
【0074】
製 剤 例 9
徐放性ダニ忌避剤:
0.1%の天然ピレトリンと1%のトドマツ精油を配合したエタノール溶液3gを上面開口のプラスチック製容器(直径30mm、深さ10mm)に入れ、開口部を薬剤透過性フィルムで覆い、徐放性ダニ忌避剤を得た。
【0075】
使 用 例 1
製剤例2で得られた常温揮散性ダニ忌避剤2個を衣類とともにポリエチレン製の衣類収納袋(75cm×80cm×32cm)に入れたところ、約1か月間衣類にダニがつかなかった。
【0076】
使 用 例 2
製剤例8で得られた常温揮散性ダニ忌避剤2個を寝具とともにポリエチレン製の布団収納袋(150cm×100cm)に入れたところ、約6か月間寝具にダニがつかなかった。
【0077】
使 用 例 3
製剤例2で得られた常温揮散性ダニ忌避剤2個を衣類とともに75L(40cm×75cm×25cm)の衣装ケースに入れたところ、約3か月間衣類にダニがつかなかった。
【0078】
使 用 例 4
製剤例4で得られたスプレー剤のダニ忌避剤を衣類にまんべんなく噴霧したところ、約1週間衣類にダニがつかなかった。
【0079】
使 用 例 5
製剤例3で得られたエアゾール剤のダニ忌避剤をカーペットにまんべんなく噴霧したところ、約1か月間、カーペットにダニがつかなかった。
【0080】
使 用 例 6
製剤例9で得られた徐放性ダニ忌避剤を30リットルのポリプロピレン製食品用保存容器(355mm×472mm×253mm)に入れたところ、約1年間、保存容器内にダニの侵入はなかった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の忌避剤は、ダニ目の害虫に対して優れた忌避効果を有し、人体に対して安全であるため、一般家庭においても手軽に使用でき、有用性の高いものである。
【符号の説明】
【0082】
20 … … 大シャーレ
21 … … ダニ培地
22 … … 小シャーレ
23 … … 供試片
24 … … 誘引用飼料
25 … … プラスチック製容器
26 … … 飽和食塩水

図1
図2