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  • 特許-鋳巣測定装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】鋳巣測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/88 20060101AFI20240422BHJP
【FI】
G01N21/88 Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020056445
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021156703
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142365
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100146064
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 玲子
(72)【発明者】
【氏名】樫原 一男
(72)【発明者】
【氏名】前川 俊行
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/134232(WO,A1)
【文献】特開2018-179812(JP,A)
【文献】特開2018-036203(JP,A)
【文献】特開2012-229978(JP,A)
【文献】特開2008-185479(JP,A)
【文献】特開2004-264054(JP,A)
【文献】特開平03-095403(JP,A)
【文献】特開平03-095404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/84-G01N 21/958
G06T 1/00-G06T 7/90
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造品の表面の鋳巣を計測する鋳巣測定装置であって、
検査する鋳造品の表面の画像を取得する画像取得手段と、
前記画像からグレー化画像を取得するグレー化手段と、
前記グレー化手段で得られたグレー化画像をマスター画像のグレー化画像と比較して、差分の画像を抽出する差分画像抽出手段と、
前記差分画像を二値化した二値化画像を取得する二値化手段と、
前記二値化画像を再びグレー化および二値化前のカラー画像に戻す画像復帰手段と、
前記画像復帰手段で二値化画像から戻して得られたカラー画像において、前記マスター画像と前記カラー画像との色差であって異常ではない部分と前記鋳巣部との区別が可能である第1の色差を閾値として鋳巣部画像を抽出する鋳巣部画像抽出手段と、
前記画像復帰手段で二値化画像から戻して得られたカラー画像において抽出された前記鋳巣部画像において、前記マスター画像と前記カラー画像との色差であって鋳巣部の端部が区別できる第2の色差を閾値として鋳巣部の周縁の境界を決定して前記鋳巣部の径を測定する鋳巣部径測定手段とを有することを特徴とする鋳巣測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造品の表面の鋳巣を計測する鋳巣測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造品を鋳造する際、鋳型に溶融金属を注入する際の気泡の巻き込みや凝固時の収縮により、鋳造欠陥である鋳巣が表面に発生することがある。特に、自動車用シリンダヘッドにおいては、当接部分のリークを防止するために表面の鏡面仕上げが必要であり、表面品質においては精度が求められる。そのため、例えば、目視やルーペを用いたり、反射光を利用した測定(例えば、特許文献1参照)や、渦電流等を利用した測定(例えば、特許文献2参照)によって、鋳巣の有無を検査、評価することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-209726号公報
【文献】特開2006-200954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、目視の場合には、作業者によるはらつきが発生し、測定器についてはいずれも高価であり、また、測定ばらつきや検出が不要な切削面の加工キズの誤検出が発生することがある。さらに、自動車用シリンダヘッドの場合、部材のエリアによって欠陥の許容サイズが異なるので、鋳巣の位置に応じてわずかな大きさの差を一瞬で区別することは非常に難しい。そのため、検出精度および測定精度が高く安価な測定装置の提供が要望されている。
【0005】
本発明は、検出精度が高く、測定ばらつきが抑制され、部材のエリアによって許容サイズが異なる場合であっても、短時間で測定を行うとともに良否判断を行うことができる鋳巣測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の鋳巣測定装置は、鋳造品の表面の鋳巣を計測する鋳巣測定装置であって、検査する鋳造品の表面の画像を取得する画像取得手段と、前記画像からグレー化画像を取得するグレー化手段と、前記グレー化手段で得られたグレー化画像をマスター画像のグレー化画像と比較して、差分の画像を抽出する差分画像抽出手段と、前記差分画像を二値化した二値化画像を取得する二値化手段と、前記二値化画像を再びグレー化および二値化前のカラー画像に戻す画像復帰手段と、前記画像復帰手段で二値化画像から戻して得られたカラー画像において、前記マスター画像と前記カラー画像との色差であって異常ではない部分と前記鋳巣部との区別が可能である第1の色差を閾値として鋳巣部画像を抽出する鋳巣部画像抽出手段と、前記画像復帰手段で二値化画像から戻して得られたカラー画像において抽出された前記鋳巣部画像において、前記マスター画像と前記カラー画像との色差であって鋳巣部の端部が区別できる第2の色差を閾値として鋳巣部の周縁の境界を決定して前記鋳巣部の径を測定する鋳巣部径測定手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、検出精度が高く、測定ばらつきが抑制され、部材のエリアによって許容サイズが異なる場合であっても、短時間で測定を行うとともに良否判断を行うことができる鋳巣測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の実施形態の一例において測定対象である自動車用シリンダヘッド1の検査対象表面の正面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明の実施の形態を、詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の説明に限定および制限されない。
【0010】
鋳巣測定装置は、鋳造品の表面の鋳巣を計測する鋳巣測定装置である。ここで、「鋳造品」とは、溶融状態の金属を型に流し込んで凝固させることにより得られる部材を指す。鋳造品の原材料となる溶融金属は、鋳鉄やアルミニウム、銅等、一般的に鋳造に用いられるものを全て含む。また、「鋳巣」は、鋳型に溶融金属を注入する際の気泡の巻き込みや凝固時の収縮等の要因により発生する鋳造欠陥である。
【0011】
以下では、鋳造品の一例である自動車用シリンダヘッド表面の鋳巣を検査対象とする場合を例に挙げて説明する。図1に、自動車用シリンダヘッド1の検査対象表面の正面概略図を示す。本例の自動車用シリンダヘッド1は、前記検査対象表面が鏡面加工されており、表面には精度が求められる。表面精度は全体で同一である必要はなく、領域(ゾーン)によって許容される鋳巣の大きさが異なる。例えば、許容値が、ゾーンAでは0.3mm、ゾーンBでは0.5mm、ゾーンCでは0.8mmといった基準がある。このようにゾーンによって許容サイズは異なるが、上記のわずかな差を肉眼で一瞬で区別することは非常に難しい。また、人の目では個人差も発生する。そこで、個人差をなくし、ゾーンごとに異なる基準があっても短時間で良否を判断することを可能としたものが本発明である。
【0012】
本発明の鋳巣測定装置は、検査する鋳造品の表面の画像を取得する画像取得手段を有する。前記画像取得手段としては、カメラ等を用いることができる。画像取得手段は、前記ゾーンごとに撮影を行って鋳巣の検出、判定を行うこともできるが、本発明においては、ゾーン数の回数の撮影ではなく、1回の撮影で、ゾーンごとに検出/判定を行うことが好ましい。
【0013】
画像取得手段によって得られた画像を、グレー化手段によってグレー化画像を取得する。次いで、前記グレー化手段で得られたグレー化画像をマスター画像のグレー化画像と比較して、差分画像抽出手段によって、差分の画像を抽出する。金属面は反射が起こるため、撮影時にハレーションが起こることがあり判断が難しい。また、鋳巣の判定においては、測定の精度±0.05mm程度で短時間で判定したい。そのため、撮影した画像をグレー化処理を行い、処理後のグレー化画像を用いて、あらかじめ撮影しておいたマスター画像のグレー化画像と、グレー化画像同士での比較を行い、両者の差を検出する差分画像を得る。
【0014】
次いで、得られた差分画像を、二値化手段によって二値化(白黒化)して二値化画像を得る。二値化においては、差分部分を最大化して画像抽出ができるように、例えば、検査対象表面の色や反射率等に応じて、閾値を調整するとよい。
【0015】
二値化画像は、画像復帰手段によって、再びグレー化および二値化前のカラー画像に戻す。前記画像復帰手段で二値化画像から戻して得られた画像において、二値化画像で検出されている箇所について、あらかじめ定めた基準となる第1の色差を閾値として、鋳巣部画像を抽出する(鋳巣部画像抽出手段)。二値化した差分画像では、加工キズ、削り跡などの異常ではない部分も不具合として検出されてしまう。そのため、このステップによって、二値化状態で検出した不具合を色差で確定し、誤検出を除外する。具体的には、着色された状態で比較すると、切削面の加工キズ等は薄く見えるので、前記加工キズ等と鋳巣部との区別が可能である色差が閾値となるように第1の色差を設定することで、前記加工キズ等を正常範囲として除外することが可能である。
【0016】
次に、抽出された鋳巣部画像において、第2の色差を閾値として鋳巣部の周縁の境界を決定して鋳巣部の径を測定する(鋳巣部径測定手段)。鋳巣部画像抽出手段で得られた鋳巣部画像は、誤検出の除外を目的としたふるいをかけるための閾値である第1の色差を用いて抽出されているので、大きさ測定においては鋳巣部の周囲があいまいである場合がある。そこで、鋳巣部の端部が区別できる第2の色差を閾値として、画像処理を行い、鋳巣部の境界線を決定する。鋳巣部の径の測定は、CAD等の画像データにおいて、得られた境界線に囲まれる領域のドット数から換算して実際の大きさを出せばよい。
【0017】
上記において、ゾーンごとの判定は、各ゾーンの範囲と各ゾーンごとの鋳巣部径の許容値とを設定しておき、鋳巣部径測定手段で得られた鋳巣部の径が、その鋳巣部が属するゾーンにおいて許容値を超えているものがなければ「良」、許容値を超えているものがあれば「不良」と判定する。
【0018】
エンジンのシリンダーヘッドは、長辺450mm程度の大きさであるが、標準ではない(異常である)可能性がある箇所を検出し、検出された箇所の良否を判断するには、短時間で行うことが求められ、例えば1分程度での処理が必要となる場合がある。上述のプロセスを全てカラー状態の画像のままで判定をしようとすると、時間がかかるため、一旦二値化することで検出速度をアップできる。
【0019】
画像取得手段での撮像の際には、反射光による影響を抑えるため、間接照明のようにして、撮影面に直接光が当たらないようにして撮影することが好ましい。
【0020】
以上、自動車用シリンダヘッドを例示して本発明を説明したが、本発明は自動車用シリンダヘッド限定されず、どのような鋳造品にも適用可能である。本発明によると、部分ごとに異なる大きさの許容値を有する場合であっても、高い検出精度かつ短時間での良否の判定を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0021】
1 …自動車用シリンダヘッド
A、B、C …ゾーン
図1